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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J |
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管理番号 | 1385666 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-12-28 |
確定日 | 2021-12-02 |
事件の表示 | 特願2018−522448「ワイヤレス給電システム、ワイヤレス電力送電装置およびワイヤレス電力受電装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月14日国際公開、WO2017/213032〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2017年(平成29年)6月2日(優先権主張:2016年6月6日、日本)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は以下のとおりである。 令和 1年 9月20日付け:拒絶理由通知 令和 1年11月21日 :意見書、手続補正書の提出 令和 2年 3月 6日付け:拒絶理由通知(最後の拒絶理由通知) 令和 2年 5月11日 :意見書、手続補正書の提出 令和 2年 9月29日付け:令和2年5月11日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定 令和 2年12月28日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和 3年 6月11日付け:当審による拒絶理由の通知 令和 3年 8月16日 :意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1ないし10に係る発明は、令和3年8月16日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 送電コイルを含む送電共振回路と、当該送電共振回路に高周波電力を供給する送電回路と、を有する送電装置と、 受電コイルを含み、前記送電共振回路に対して電磁界結合し得る受電共振回路と、当該受電共振回路が受ける高周波電力を直流電力に変換する受電回路と、前記直流電力を消費する負荷回路とを有する受電装置と、を備え、 前記受電装置は、前記送電回路から前記負荷回路側をみた入力インピーダンスを変化させて前記送電共振回路と前記受電共振回路との電磁界結合による電磁界共鳴条件の成立/不成立の状態を切り替える共鳴変調回路と、前記共鳴変調回路を制御して、伝送信号を表現するための、一定期間ごとの前記入力インピーダンスを定める、伝送信号制御回路と、を有し、 前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近となり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近となる条件と、前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近とは異なり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近から離れる条件とを、を用いて、前記電磁界共鳴条件の成立/不成立の状態を切り替え、 前記送電装置は、前記電磁界共鳴条件の成立/不成立の状態に応じて変化する前記送電装置における電気的な変量の変化量を検出し、前記一定期間ごとの前記変化量が所定の閾値を超えるか否かに基づいて前記伝送信号を復調する復調回路と、を有する、ワイヤレス給電システム。」 第3 令和3年6月11日付けの拒絶理由の概要 令和3年6月11日付けで当審が通知した拒絶理由のうち、理由1(容易性)は次のとおりである。 本件出願の請求項1ないし12に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特開2014−30342号公報 引用文献2:特開2011−205867号公報 第4 引用文献の記載、引用発明 1 引用文献1について (1)引用文献1には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 「【0012】 図2に、ワイヤレス電力伝達システムの簡略化された概略図を示す。送信機104は、発振器122と、電力増幅器124と、フィルタおよび整合回路126とを含む。発振器は、調整信号123に応答して調整される所望の周波数で発生するように構成される。発振器信号は、制御信号125に応答する増幅量で電力増幅器124によって増幅できる。フィルタおよび整合回路126は、高調波または他の不要な周波数をフィルタ除去し、送信機104のインピーダンスを送信アンテナ114に整合させるために含めることができる。 【0013】 受信機は、図2に示すようにバッテリ136を充電するため、または受信機(図示せず)に結合されたデバイスに電力供給するために、整合回路132と、DC電力出力を発生するための整流器およびスイッチング回路とを含むことができる。整合回路132は、受信機108のインピーダンスを受信アンテナ118に整合させるために含めることができる。」 「【0014】 図3に示すように、例示的な実施形態において使用されるアンテナは、本明細書では「磁気」アンテナとも呼ぶ「ループ」アンテナ150として構成できる。ループアンテナは、空芯またはフェライトコアなどの物理コアを含むように構成できる。空芯ループアンテナは、コアの近傍に配置された外来物理デバイスに対してより耐性がある。さらに、空芯ループアンテナでは、コアエリア内に他の構成要素を配置することができる。さらに、空芯ループは、送信アンテナ114(図2)の結合モード領域がより強力である送信アンテナ114(図2)の平面内での受信アンテナ118(図2)の配置をより容易に可能にすることができる。 【0015】 上述のように、送信機104と受信機108との間のエネルギーの効率的な伝達は、送信機104と受信機108との間の整合されたまたはほぼ整合された共振中に行われる。しかしながら、送信機104と受信機108との間の共振が整合されていないときでも、エネルギーをより低い効率で伝達することができる。エネルギーの伝達は、送信アンテナからのエネルギーを自由空間に伝搬するのではなく、送信アンテナの近距離場からのエネルギーを、この近距離場が確立される近傍に常駐する受信アンテナに結合することによって行われる。 【0016】 ループまたは磁気アンテナの共振周波数はインダクタンスおよびキャパシタンスに基づく。ループアンテナにおけるインダクタンスは、一般に、単にループによって生成されるインダクタンスであり、キャパシタンスは、一般に、所望の共振周波数で共振構造を生成するためにループアンテナのインダクタンスに追加される。非限定的な例として、共振信号156を発生する共振回路を生成するために、キャパシタ152およびキャパシタ154をアンテナに追加することができる。したがって、直径がより大きいループアンテナでは、ループの直径またはインダクタンスが増加するにつれて、共振を誘起するために必要なキャパシタンスの大きさは減少する。さらに、ループまたは磁気アンテナの直径が増加するにつれて、近距離場の効率的なエネルギー伝達エリアは増加する。もちろん、他の共振回路も可能である。別の非限定的な例として、ループアンテナの2つの終端間にキャパシタを並列に配置することができる。さらに、当業者なら、送信アンテナの場合、共振信号156をループアンテナ150への入力とすることができることを認識されよう。」 「【0033】 図10は、本発明の例示的な実施形態による送信機の簡略ブロック図である。送信機200は、送信回路202と送信アンテナ204とを含む。一般に、送信回路202は、発振信号を供給することによって送信アンテナ204にRF電力を供給し、その結果、送信アンテナ204の周りに近距離場エネルギーが発生する。例として、送信機200は、13.56MHz ISMバンドにおいて動作することができる。 【0034】 例示的な送信回路202は、送信回路202のインピーダンス(たとえば、50オーム)を送信アンテナ204に整合させるための固定のインピーダンス整合回路206と、受信機108(図1)に結合されたデバイスの自己ジャミングを防ぐレベルまで高調波放出を低減するように構成された低域フィルタ(LPF)208とを含む。他の実施形態は、限定はしないが、他の周波数をパスしながら特定の周波数を減衰させるノッチフィルタを含む様々なフィルタトポロジを含むことができ、また、アンテナへの出力電力または電力増幅器によるDC電流ドローなど、測定可能な送信メトリクスに基づいて変化できる適応型インピーダンス整合を含むことができる。送信回路202は、発振器212によって判断されたRF信号を駆動するように構成された電力増幅器210をさらに含む。送信回路は、ディスクリートデバイスまたは回路からなるか、あるいは代わりに、一体型アセンブリからなることができる。送信アンテナ204からの例示的なRF電力出力は2.5ワットのオーダーである。 【0035】 送信回路202は、特定の受信機に対する送信位相(またはデューティサイクル)中に発振器212を使用可能にし、発振器の周波数を調整し、それらの取り付けられた受信機を通して隣接デバイスと対話するための通信プロトコルを実装するために出力電力レベルを調整するためのプロセッサ214をさらに含む。 【0036】 送信回路202は、送信アンテナ204によって発生された近距離場の近傍におけるアクティブ受信機の存在または不在を検出するための負荷感知回路216をさらに含むことができる。例として、負荷感知回路216は、送信アンテナ204によって発生された近距離場の近傍におけるアクティブ受信機の存在または不在によって影響を及ぼされる、電力増幅器210に流れる電流を監視する。電力増幅器210に対する負荷の変化の検出は、アクティブ受信機と通信するためのエネルギーを送信するために発振器212を使用可能にすべきかどうかを判断する際に使用するために、プロセッサ214によって監視される。 【0037】 送信アンテナ204は、抵抗損を低く保つように選択された厚さ、幅および金属タイプをもつアンテナストリップとして実装できる。従来の実装形態では、送信アンテナ204は、一般に、テーブル、マット、ランプまたは他のより可搬性が低い構成など、より大きい構造物との関連付けのために構成できる。したがって、送信アンテナ204は、一般に、実際的な寸法にするための「巻き」を必要としない。送信アンテナ204の例示的な実装形態は、「電気的に小形」(すなわち、波長の分数)とし、共振周波数を定義するためにキャパシタを使用することによって、より低い使用可能な周波数で共振するように同調させることができる。送信アンテナ204の直径が、または方形ループの場合は、辺の長さが、受信アンテナに対してより大きい(たとえば、0.50メートル)例示的な適用例では、送信アンテナ204は、妥当なキャパシタンスを得るために必ずしも多数の巻きを必要としない。」 「【0038】 図11は、本発明の一実施形態による受信機のブロック図である。受信機300は、受信回路302と受信アンテナ304とを含む。受信機300は、さらに、それに受信電力を与えるためにデバイス350に結合する。受信機300は、デバイス350の外部にあるものとして示されているが、デバイス350に一体化できることに留意されたい。一般に、エネルギーは、受信アンテナ304にワイヤレスに伝搬され、次いで、受信回路302を通してデバイス350に結合される。」 「【0040】 受信回路302は、受信アンテナ304に対するインピーダンス整合を行う。受信回路302は、受信したRFエネルギー源を、デバイス350が使用するための充電電力に変換するための電力変換回路306を含む。電力変換回路306は、RF−DC変換器308を含み、DC−DC変換器310をも含むことができる。RF−DC変換器308は、受信アンテナ304において受信されたRFエネルギー信号を非交流電力に整流し、DC−DC変換器310は、整流されたRFエネルギー信号を、デバイス350に適合するエネルギーポテンシャル(たとえば、電圧)に変換する。部分および完全整流器、調整器、ブリッジ、ダブラー、ならびに線形およびスイッチング変換器を含む、様々なRF−DC変換器が企図される。」 「【0044】 受信回路302は、本明細書で説明するスイッチング回路312の制御を含む、本明細書で説明する受信機300のプロセスを調整するためのプロセッサ316をさらに含む。受信機300のクローキングは、デバイス350に充電電力を供給する外部ワイヤード充電ソース(たとえば、ウォール/USB電力)の検出を含む他のイベントの発生時にも行われることがある。プロセッサ316は、受信機のクローキングを制御することに加えて、ビーコン状態を判断し、送信機から送信されたメッセージを抽出するためにビーコン回路314を監視することもできる。プロセッサ316はまた、パフォーマンスの改善ためにDC−DC変換器310を調整することができる。」 「【0057】 図13A〜図13Cでは、受信アンテナ304のDCインピーダンスは、スイッチS1Bを通して受信アンテナを接地に選択的に結合することによって変化させられる。対照的に、図14A〜図14Cの実施形態では、受信アンテナ304のACインピーダンスが変化するようにスイッチS1B、S2B、およびS3Bの状態を修正することによって、アンテナのインピーダンスを修正して逆方向リンクシグナリングを発生させることができる。図14A〜図14Cでは、受信アンテナ304の共振周波数は、キャパシタC2を用いて同調させることができる。したがって、スイッチS1Bを使用してキャパシタC1を通して受信アンテナ304を選択的に結合することによって受信アンテナ304のACインピーダンスを変更し、共振回路を、送信アンテナと最適に結合する範囲の外側にある異なる周波数に本質的に変更することができる。受信アンテナ304の共振周波数がほぼ送信アンテナの共振周波数であり、受信アンテナ304が送信アンテナの近距離場にある場合、受信機が放射界106からかなりの電力を引き出すことができる結合モードが生じる。 【0058】 図14Aでは、スイッチS1Bは閉じており、受信アンテナが送信アンテナの周波数で共振しないので、アンテナを離調し、送信アンテナ204による検出から受信アンテナ304を本質的に「クローキングする」「ACクローキング状態」を生成する。受信アンテナが結合モードにないので、スイッチS2BおよびS3Bの状態は、本議論には特に重要ではない。 【0059】 図14Bでは、スイッチS1Bは開いており、スイッチS2Bは閉じており、スイッチS3Bは開いており、受信アンテナ304の「同調ダミー負荷状態」を生成する。スイッチS1Bが開いているので、キャパシタC1は共振回路に寄与せず、キャパシタC2と組み合わせた受信アンテナ304は、送信アンテナの共振周波数と整合することができる共振周波数にある。開いたスイッチS3Bと閉じたスイッチS2Bとの組合せは、整流器に対する比較的高い電流ダミー負荷を生成し、受信アンテナ304を通して、送信アンテナによって感知できるより多くの電力を引き出す。さらに、受信アンテナが送信アンテナから電力を受信する状態にあるので、送信信号320を検出することができる。」 「【0061】 同調動作状態(図14C)とACクローキング状態(図14A)との間のスイッチングによって逆方向リンクシグナリングが達成できる。逆方向リンクシグナリングは、同調ダミー負荷状態(図14B)とACクローキング状態(図14A)との間のスイッチングによっても達成できる。受信機によって消費される電力の量に、送信機中の負荷感知回路によって検出できる差があるので、逆方向リンクシグナリングは、同調動作状態(図14C)と同調ダミー負荷状態(図14B)との間のスイッチングによっても達成できる。」 「【0065】 逆方向リンクシグナリングは、送信機中の負荷感知回路によって検出できる、受信デバイスによって引き出された電力の変調によって行われる。非限定的な例として、高電力状態を1と解釈し、低電力状態を0と解釈することができる。受信機が逆方向リンクシグナリングを実行することができるように、送信機がオンでなければならないことに留意されたい。さらに、受信機は、順方向リンクシグナリング中に逆方向リンクシグナリングを実行してはならない。さらに、2つの受信デバイスが同時に逆方向リンクシグナリングを実行しようと試みた場合、衝突が起こることがあり、それにより送信機が適切な逆方向リンク信号を復号することが、不可能でないとしても困難になる。 【0066】 本明細書で説明する例示的な実施形態では、シグナリングは、スタートビットと、データバイトと、パリティービットと、ストップビットとをもつUniversal Asynchronous Receive Transmit(UART)シリアル通信プロトコルと同様である。もちろん、どんなシリアル通信プロトコルも、本明細書で説明する本発明の例示的な実施形態を実施するのに好適である。限定としてではなく、説明を簡単にするために、各バイト送信を通信するための期間が約10mSであるものとして、メッセージングプロトコルについて説明する。」 「【0104】 [C1] 送信アンテナの近距離場内で低電力ビーコンモードにおいて結合モード領域を生成するために前記送信アンテナの共振周波数において電磁界を発生させることと、前記結合モード領域中で実質的に前記共振周波数の近くで動作する受信アンテナを用いて前記電磁界からの電力を消費することを備える、受信機応答で前記低電力ビーコンモードに応答することと、前記受信機応答の前に対する、受信機応答中に前記電磁界に供給される電力の差を検出することによって、前記低電力ビーコンモードへの前記受信機応答を検出することと、前記受信機応答に応答して高電力充電モードにおいて前記電磁界を発生させることとを備えるワイヤレス電力伝達の方法。」 「図2 」 「図14A、図14B 」 (2)引用文献1の記載から次のことがいえる。 ア.段落【0012】【0013】及び図2によれば、送信機と受信機を備えたワイヤレス電力伝達システムを読み取ることができる。 イ.段落【0033】【0034】によれば、送信機は、送信アンテナと、送信アンテナにRF電力を供給する電力増幅器を含む送信回路を含む。また、段落【0014】に「例示的な実施形態において使用されるアンテナは」、「『磁気』アンテナとも呼ぶ『ループ』アンテナ150として構成できる。」と記載されているから、上記送信アンテナは、磁気アンテナとも呼ぶループアンテナであると認められる。さらに、段落【0037】に「送信アンテナ204の例示的な実装形態は」、「共振周波数を定義するためにキャパシタを使用する」と記載されているから、送信機が、送信アンテナの共振周波数を定義するためのキャパシタを備えることがわかる。そして、段落【0104】によれば、送信アンテナは、送信アンテナの共振周波数において電磁界を発生させて結合モード領域を生成する。 ウ.段落【0038】【0040】によれば、受信機は、受信アンテナと、受信アンテナにおいて受信されたRFエネルギー信号を非交流電力に整流するRF−DC変換器と、受信電力を与えるデバイスを含む。また、段落【0014】に「例示的な実施形態において使用されるアンテナは」、「『磁気』アンテナとも呼ぶ『ループ』アンテナ150として構成できる。」と記載されているから、受信アンテナは、磁気アンテナとも呼ぶループアンテナであると認められる。さらに、段落【0057】に「受信アンテナ304の共振周波数は、キャパシタC2を用いて同調させることができる。」と記載され、段落【0059】に「キャパシタC2と組み合わせた受信アンテナ304は、送信アンテナの共振周波数と整合することができる共振周波数にある。」と記載されていることから、受信機が、受信アンテナの共振周波数を送信アンテナの共振周波数に同調させるためのキャパシタC2を備えることがわかる。そして、段落【0057】【0104】によれば、受信機は、結合モード領域中で送信アンテナの共振周波数で動作する受信アンテナを用いて電磁界からの電力を消費することができる。 エ.段落【0057】ないし【0059】及び図14A及び図14Bから、、受信機が、キャパシタC1とキャパシタC1を受信アンテナに選択的に結合するスイッチS1Bとを備え、スイッチS1Bを使用してキャパシタC1を選択的に受信アンテナに結合して受信アンテナのACインピーダンスを変更することにより、受信アンテナが送信アンテナの周波数で共振せず、送信アンテナによる検出から受信アンテナをクローキングするACクローキング状態と、受信アンテナの共振周波数が送信アンテナの共振周波数と整合することができ、送信アンテナによって感知できるより多くの電力を引き出すことができる同調ダミー負荷状態と、を切り替えることを読み取ることができる。 オ.段落【0061】によれば、ACクローキング状態と同調ダミー負荷状態との間のスイッチングによって逆方向シグナリングが達成できる。また、段落【0066】によれば、シグナリングにおいて各バイトを送信するための期間は約10mSである。 カ.段落【0044】によれば、受信機は、受信機のプロセスを調整するためのプロセッサを含むといえる。 キ.段落【0036】によれば、送信回路は負荷感知回路を含み、負荷感知回路は、アクティブ受信機の存在または不在によって影響を及ぼされる電力増幅器に流れる電流を監視するものである。また、段落【0065】によれば、負荷感知回路は、受信機によって引き出された電力の変調によって行われる逆方向シグナリングを検出でき、高電力状態を1と解釈し、低電力状態を0と解釈することができる。 (3)よって、上記アないしキによれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「送信機と受信機を備えたワイヤレス電力伝達システムであって、 送信機は、磁気アンテナとも呼ぶループアンテナである送信アンテナと、送信アンテナの共振周波数を定義するためのキャパシタと、送信アンテナにRF電力を供給する電力増幅器を含む送信回路と、を含み、送信アンテナの共振周波数において電磁界を発生させて結合モード領域を生成し、 受信機は、磁気アンテナとも呼ぶループアンテナである受信アンテナと、受信アンテナの共振周波数を送信アンテナの共振周波数に同調させるためのキャパシタC2と、受信アンテナにおいて受信されたRFエネルギー信号を非交流電力に整流するRF−DC変換器と、受信電力を与えるデバイスと、を含み、結合モード領域中で送信アンテナの共振周波数で動作する受信アンテナを用いて電磁界からの電力を消費することができ、 受信機は、キャパシタC1とキャパシタC1を受信アンテナに選択的に結合するスイッチS1Bと、受信機のプロセスを調整するプロセッサを備え、 スイッチS1Bを使用してキャパシタC1を選択的に受信アンテナに結合して受信アンテナのACインピーダンスを変更することにより、受信アンテナが送信アンテナの周波数で共振せず、送信アンテナによる検出から受信アンテナをクローキングするACクローキング状態と、受信アンテナの共振周波数が送信アンテナの共振周波数と整合することができ、送信アンテナによって感知できるより多くの電力を引き出すことができる同調ダミー負荷状態と、を切り替えることができ、 ACクローキング状態と同調ダミー負荷状態との間のスイッチングによって逆方向シグナリングを行い、シグナリングにおいて各バイトを送信するための期間は約10mSであり、 送信機の送信回路は、負荷感知回路を含み、 負荷感知回路は、アクティブ受信機の存在または不在によって影響を及ぼされる電力増幅器に流れる電流を監視して、受信機によって引き出された電力の変調によって行われる逆方向シグナリングを検出することができ、高電力状態を1と解釈し、低電力状態を0と解釈することができる、 ワイヤレス電力伝達システム。」 2 引用文献2について (1)引用文献2には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 「【0019】 また、1次側制御部14は、電圧検出回路13から受信した1次コイルの誘導起電力の変化を測定して、信号検出、異物検出などを行うようになっている。例えば、非接触受電装置20の信号制御回路23が非接触送電装置10に対して信号を送信するための負荷変調処理を実行すると、1次コイルL1の誘導起電力の波形が変化する。すなわち、非接触受電装置20が、データ「0」の信号を送信するため、負荷を小さくすると、1次コイルL1の誘導起電力の信号波形の振幅が小さくなり、データ「1」の信号を送信するため、負荷を大きくすると、信号波形の振幅が大きくなる。従って、誘導起電力のピーク電圧が閾値を超えたか否かにより、信号の種類を判別できるようになっている。なお、本実施形態の1次側制御部14は、非接触受電装置20からの無線通信信号を復調するとともに、復調された信号を解析して、同解析結果に基づいて送電部12の発振(周波数)を制御するようにもなっている。また、ROMには、各種閾値や、後に詳述する非接触受電装置20との間の無線通信信号の復調、同復調された信号の解析などに必要とされる各種のパラメータなどが予め保存されている。」 「【0046】 ・上記実施形態において、非接触受電装置20の信号制御回路23が負荷変調処理を実行した際、1次側制御部14は、ピーク電圧が閾値を超えたか否かにより信号を判定したが、変化量が一定値以上であるか否かにより信号を判定しても良い。」 (2)よって、引用文献2には、「データ『0』の信号とデータ『1』の信号の種別を、1次コイルの誘起電力のピーク電圧が閾値を超えたか否かにより判定することに代えて、変化量が一定値以上であるか否かにより判定してもよい」という技術事項(以下、「引用文献2記載の技術事項」という。)が記載されている。 第5 対比 1 本願発明1と引用発明を対比すると、次のことがいえる。 (1)引用発明の「送信アンテナ」は、「磁気アンテナとも呼ぶループアンテナ」であるから送電コイルといえる。よって、引用発明の「送信アンテナ」は、本願発明1の「送電コイル」に相当する。 また、引用発明の「送信アンテナ」と「送信アンテナの共振周波数を定義するためのキャパシタ」を併せた構成が共振回路を形成することは明らかである。よって、引用発明の「送信アンテナ」と「送信アンテナの共振周波数を定義するためのキャパシタ」を併せた構成により形成される共振回路は、本願発明1の「送電コイルを含む送電共振回路」に相当する。 さらに、「RF電力」は高周波電力のことであるから、引用発明の「送信アンテナにRF電力を供給する電力増幅器を含む送信回路」は、本願発明1の「当該送電共振回路に高周波電力を供給する送電回路」に相当する。 したがって、引用発明の「磁気アンテナとも呼ぶループアンテナである送信アンテナと、送信アンテナの共振周波数を定義するためのキャパシタと、送信アンテナにRF電力を供給する送信回路と、を含」む「送信機」は、本願発明1の「送電コイルを含む送電共振回路と、当該送電共振回路に高周波電力を供給する送電回路と、を有する送電装置」に相当する。 イ.引用発明の「受信アンテナ」は、「磁気アンテナとも呼ぶループアンテナ」であるから受電コイルといえる。よって、引用発明の「受信アンテナ」は、本願発明1の「受電コイル」に相当する。 また、引用発明の「受信アンテナ」と「受信アンテナの共振周波数を送信アンテナの共振周波数に同調させるためのキャパシタC2」を併せた構成が共振回路を形成することは明らかである。 ここで、引用発明の「受信アンテナ」は、「送信機」が「送信アンテナの共振周波数において電磁界を発生させて」「生成」した「結合モード領域」中で、「送信アンテナの共振周波数で動作する」ことにより「電磁界からの電力を消費することができ」るから、「送信アンテナ」と電磁界結合し得るといえる。また、この電磁界結合は、「受信アンテナ」が「送信アンテナの共振周波数で動作する」場合、すなわち、送信アンテナと受信アンテナの共振周波数が等しい場合になされるものであり、各アンテナの共振周波数が各アンテナを含む共振回路により定まることに鑑みれば、「受信アンテナ」と「キャパシタC2」を併せた構成により形成される共振回路は、「送信アンテナ」と「キャパシタ」を併せた構成により形成される共振回路と電磁界結合し得るといえる。 よって、引用発明の「磁気アンテナとも呼ぶループアンテナである受信アンテナ」と「受信アンテナの共振周波数を送信アンテナの共振周波数に同調させるためのキャパシタC2」を併せた構成により形成される共振回路は、本願発明1の「受電コイルを含み、前記送電共振回路に対して電磁界結合し得る受電共振回路」に相当する。 ウ.引用発明の「受信アンテナにおいて受信されたRFエネルギー信号を非交流電力に整流するRF−DC変換器を含む受信回路」は、本願発明1の「当該受電共振回路が受ける高周波電力を直流電力に変換する受電回路」に相当し、引用発明の「受信電力を与えるデバイス」は、本願発明1の「負荷回路」に相当する。 よって、上記イにおける検討も踏まえると、引用発明の「磁気アンテナとも呼ぶループアンテナである受信アンテナと、受信アンテナの共振周波数を送信アンテナの共振周波数に同調させるためのキャパシタC2と、受信アンテナにおいて受信されたRFエネルギー信号を非交流電力に整流するRF−DC変換器と、受信電力を与えるデバイスと、を含」む「受信機」は、本願発明1の「受電コイルを含み、前記送電共振回路に対して電磁界結合し得る受電共振回路と、当該受電共振回路が受ける高周波電力を直流電力に変換する受電回路と、前記直流電力を消費する負荷回路とを有する受電装置」に相当する。 エ.引用発明の「受信機」が備える「キャパシタC1」と「キャパシタC1を受信アンテナに選択的に結合するスイッチS1B」を含む回路は、「スイッチS1Bを使用してキャパシタC1を選択的に受信アンテナに結合して受信アンテナのACインピーダンスを変更する」ものである。ここで、「受信アンテナのACインピーダンスを変更する」場合に、送信機の送信回路から受信機側をみた入力インピーダンスが変化することは明らかである。 また、引用発明の「キャパシタC1」と「キャパシタC1を受信アンテナに選択的に結合するスイッチS1B」を含む回路は、「ACクローキング状態と同調ダミー負荷状態との間のスイッチングによって逆方向シグナリングを行」うものであり、この「逆方向シグナリング」は「受信機によって引き出された電力の変調によって行われる」ものであるから、変調回路ということができる。 よって、引用発明の「キャパシタC1」と「キャパシタC1を受信アンテナに選択的に結合するスイッチS1B」を含む回路は、本願発明1の「前記送電回路から前記負荷回路側をみた入力インピーダンスを変化させ」る「共鳴変調回路」に相当する。 ただし、共鳴変調回路について、本願発明1では「前記送電共振回路と前記受電共振回路との電磁界結合による電磁界共鳴条件の成立/不成立の状態を切り替える」ものであり、「前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近となり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近となる条件と、前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近とは異なり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近から離れる条件とを、を用いて、前記電磁界共鳴条件の成立/不成立の状態を切り替え」るのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点で相違する。 オ.引用発明の「プロセッサ」は、「受信機のプロセスを調整する」ものであるから、「受信機」による「ACクローキング状態と同調ダミー負荷状態との間のスイッチングによって逆方向シグナリングを行」う制御を行うと認められる。よって、引用発明の「プロセッサ」は、本願発明1の「前記共鳴変調回路を制御」する「伝送信号制御回路」に相当する。 また、引用発明の「逆方向シグナリング」は、受信機から送信機に伝送される信号であるから本願発明1の「伝送信号」に相当する。 そして、「ACクローキング状態と同調ダミー負荷状態との間のスイッチングによって」行われる「逆方向シグナリング」は、「高電力状態を1と解釈し、低電力状態を0と解釈することができる」信号であるから、「プロセッサ」は、逆方向シグナリングにより伝送する信号(「0」あるいは「1」)を表現するために、「ACクローキング状態」とするか「同調ダミー負荷状態」とするかを定めるものと認められる。また、引用発明は「シグナリングにおいて各バイトを送信するための期間は約10mS」と定められているから、上記の「ACクローキング状態」とするか「同調ダミー負荷状態」とするかを定めることは、一定期間毎に行われるものと認められる。 さらに、「ACクローキング状態」と「同調ダミー負荷状態」では、「受信アンテナのACインピーダンス」が異なるから、「ACクローキング状態」とするか「同調ダミー負荷状態」とするかを定めることは、入力インピーダンスを定めることを意味するといえる。 よって、引用発明の「プロセッサ」が「ACクローキング状態と同調ダミー負荷状態との間のスイッチングによって逆方向シグナリングを行」うことは、本願発明1の「伝送信号制御回路」が「前記共鳴変調回路を制御して、伝送信号を表現するための、一定期間ごとの前記入力インピーダンスを定める」ことに相当する。 カ.引用発明の「電力増幅器に流れる電流」は、「送信機」における電気的な変量といえるから、本願発明1の「前記送電装置における電気的な変量の変化量」とは、共に「前記送電装置における電気的な変量に関する情報」といえる点で共通する。 次に、引用発明の「負荷感知回路」は、「受信機によって引き出された電力の変調によって行われる逆方向シグナリングを検出することができ、高電力状態を1と解釈し、低電力状態を0と解釈することができる」から、伝送信号を復調する復調回路といえる。ここで、高電力状態であるか低電力状態であるかという判定は、通常、閾値との比較に基づいて行われるものである。さらに、引用発明では「シグナリングにおいて各バイトを送信するための期間は約10mS」と定められており、一定期間毎に信号が伝送されるから、上記「高電力状態を1と解釈し、低電力状態を0と解釈する」処理も一定期間毎に行われると認められる。 してみると、引用発明の「負荷感知回路」と本願発明1の「復調回路」は、「前記送電装置における電気的な『変量に関する情報』を検出し、前記一定期間ごとの前記『変量に関する情報』が所定の閾値を超えるか否かに基づいて前記伝送信号を復調する復調回路」の点で一致する。 ただし、復調回路における変量に関する情報が、本願発明1では「前記電磁界共鳴条件の成立/不成立の状態に応じて変化」する「変量の変化量」であるのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点で相違する。 したがって、上記アないしカによれば、本願発明1と引用発明とは、次の(一致点)及び(相違点)を有する。 「送電コイルを含む送電共振回路と、当該送電共振回路に高周波電力を供給する送電回路と、を有する送電装置と、 受電コイルを含み、前記送電共振回路に対して電磁界結合し得る受電共振回路と、当該受電共振回路が受ける高周波電力を直流電力に変換する受電回路と、前記直流電力を消費する負荷回路とを有する受電装置と、を備え、 前記受電装置は、前記送電回路から前記負荷回路側をみた入力インピーダンスを変化させる共鳴変調回路と、前記共鳴変調回路を制御して、伝送信号を表現するための、一定期間ごとの前記入力インピーダンスを定める、伝送信号制御回路と、を有し、 前記送電装置は、前記送電装置における電気的な『変量に関する情報』を検出し、前記一定期間ごとの前記『変量に関する情報』が所定の閾値を超えるか否かに基づいて前記伝送信号を復調する復調回路と、を有する、ワイヤレス給電システム。」 (相違点1) 共鳴変調回路について、本願発明1では「前記送電共振回路と前記受電共振回路との電磁界結合による電磁界共鳴条件の成立/不成立の状態を切り替える」ものであり、「前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近となり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近となる条件と、前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近とは異なり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近から離れる条件とを、を用いて、前記電磁界共鳴条件の成立/不成立の状態を切り替え」るのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点。 (相違点2) 復調回路における変量に関する情報が、本願発明1では「前記電磁界共鳴条件の成立/不成立の状態に応じて変化」する「変量の変化量」であるのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点。 第6 判断 上記相違点について検討する。 (1)相違点1について ア.引用発明の「キャパシタC1」と「キャパシタC1を受信アンテナに選択的に結合するスイッチS1B」を含む回路が「ACクローキング状態」と「同調ダミー負荷状態」を「切り替え」る処理と、本願発明1の「共鳴変調回路」が「前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近となり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近となる条件と、前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近とは異なり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近から離れる条件とを、を用いて、前記電磁界共鳴条件の成立/不成立の状態」を「切り替え」る処理について検討する。 本願明細書の段落【0041】【0042】には、受電共振回路29の共振周波数が、送電共振回路19の共振周波数f0と等しいf1であるときに「送電回路の動作周波数における入力インピーダンスの虚部がゼロ付近となり、入力インピーダンスの大きさが極小値付近となって、送電共振回路19と受電共振回路29とは電磁界結合して、電磁界共鳴条件が成立」することが記載されている。そうすると、本願発明1の「共鳴変調回路」が「前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近となり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近となる条件」「を用いて」「前記送電共振回路と前記受電共振回路との電磁界結合による電磁界共鳴条件の成立」「の状態を切り替え」る処理は、受電共振回路の共振周波数を送電共振回路の共振周波数と等しい周波数にすることをいうものと解釈できる。 また、本願明細書の同段落【0041】【0042】には、受電共振回路29の共振周波数が、送電共振回路19の共振周波数f0と異なるf2であるときに「送電回路の動作周波数における入力インピーダンスの虚部はゼロ付近とは大きく異なり、入力インピーダンスの大きさは極小値付近から大きく離れて、送電共振回路19と受電共振回路29とは共振結合せずに、電磁界共鳴条件は成立しない」ことが記載されている。そうすると、本願発明1の「共鳴変調回路」が「前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近とは異なり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近から離れる条件」「を用いて」「前記送電共振回路と前記受電共振回路との電磁界結合による電磁界共鳴条件の」「不成立の状態を切り替え」る処理は、受電共振回路の共振周波数を送電共振回路の共振周波数と異なる周波数にすることをいうものと解釈できる。 ここで、引用発明の「キャパシタC1」と「キャパシタC1を受信アンテナに選択的に結合するスイッチS1B」を含む回路は、「受信アンテナが送信アンテナの周波数で共振せず、送信アンテナによる検出から受信アンテナをクローキングするACクローキング状態」と「受信アンテナの共振周波数が送信アンテナの共振周波数と整合することができ、送信アンテナによって感知できるより多くの電力を引き出すことができる同調ダミー負荷状態」を切り替えるから、受信アンテナを含む共振回路の共振周波数が送信アンテナを含む共振回路の共振周波数と等しい状態と異なる状態とに切り替えるものである。 してみると.引用発明の「キャパシタC1」と「キャパシタC1を受信アンテナに選択的に結合するスイッチS1B」を含む回路が「ACクローキング状態」と「同調ダミー負荷状態」を「切り替え」る処理と、本願発明1の「共鳴変調回路」が「前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近となり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近となる条件と、前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近とは異なり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近から離れる条件とを、を用いて、前記電磁界共鳴条件の成立/不成立の状態」を「切り替え」る処理は、共に、受電共振回路の共振周波数を送電共振回路の共振周波数と等しい状態と等しくない状態との間で切り替えるものであり同一である。 イ. 次に、引用発明の「同調ダミー負荷状態」と「ACクローキング状態」が、本願発明1の「電磁界共鳴条件の成立の状態」と「電磁界共鳴条件の不成立の状態」といえるかについて検討する。 引用発明は、「送信機」が「送信アンテナの共振周波数において電磁界を発生させて結合モード領域を生成し」、「受信機」が「結合モード領域中で送信アンテナの共振周波数で動作する受信アンテナを用いて電磁界からの電力を消費する」ことによりエネルギーを伝達するものであり、「送信機104と受信機108との間のエネルギーの効率的な伝達は、送信機104と受信機108との間の整合されたまたはほぼ整合された共振中に行われる。(段落【0015】)」ことから、「受信アンテナの共振周波数が送信アンテナの共振周波数と整合することができ、送信アンテナによって感知できるより多くの電力を引き出すことができる同調ダミー負荷状態」において、送信機と受信機が共振するように構成されるものと認められる。 ここで、電源の動作周波数において、電源に接続される回路のインピーダンスの虚部がゼロとなり、インピーダンスの大きさが極小となるときに、共振が起こることは技術常識であるから、引用発明の「同調ダミー負荷状態」においても、送信回路の動作周波数における送信回路からデバイス側をみた入力インピーダンスの虚部はゼロ付近となり、入力インピーダンスの大きさは極小値付近であると解するのが自然である。よって、引用発明の「同調ダミー負荷状態」は、本願発明1の「前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近となり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近となる条件」「を用いて」「切り替え」られる「前記電磁界共鳴条件の成立」「の状態」に相当するといえる。 また、引用発明の「ACクローキング状態」は、「受信アンテナが送信アンテナの周波数で共振せず、送信アンテナによる検出から受信アンテナのクローキングする」状態であって、送信機と受信機が共振しない状態であるから、本願発明1の「前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近とは異なり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近から離れる条件」を満たす「前記電磁界共鳴条件の」「不成立の状態」に相当するといえる。 ウ.よって、上記ア及びイによれば、引用発明の「キャパシタC1」と「キャパシタC1を受信アンテナに選択的に結合するスイッチS1B」を含む回路が「ACクローキング状態」と「同調ダミー負荷状態」を切り替えることは、本願発明1の「共鳴変調回路」が「前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近となり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近となる条件と、前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近とは異なり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近から離れる条件とを、を用いて、前記電磁界共鳴条件の成立/不成立の状態を切り替え」ることに相当するといえるから、上記相違点1は実質的な相違点ではない。 エ.また、仮に、引用発明の「同調ダミー負荷状態」が、本願発明1の「前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近となり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近となる条件」を満たす状態ではないとしても、本願の出願時において「前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近となり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近となる条件を満たす状態で電力を伝送すること」は、例えば、国際公開2014/0157030号(段落[0108]ないし[0111])に記載されているとおり周知技術である。 よって、引用発明に上記周知技術を適用して、「同調ダミー負荷状態」を前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近となり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近となる条件を満たす状態とすることは当業者が容易になし得たことである。 また、このときに、「受信アンテナが送信アンテナの周波数で共振せず、送信アンテナによる検出から受信アンテナをクローキングするACクローキング状態」が、本願発明1の「前記送電回路の動作周波数における前記入力インピーダンスの虚部がゼロ付近とは異なり、前記入力インピーダンスの大きさが極小値付近から離れる条件」を満たす「電磁界共鳴条件の」「不成立の状態」となることは明らかである。 よって、引用発明及び周知技術に基づいて、上記相違点1に係る構成をなすことは、当業者が容易になし得たことである。 オ.よって、上記アないしエによれば、上記相違点1は実質的な相違ではないか、実質的な相違であるとしても引用発明と周知技術に基づいて当業者が容易になし得た程度のものである。 (2)相違点2について 引用文献2には、上記「第4」「2」「(2)」において説示したとおり、「データ『0』の信号とデータ『1』の信号の種別を、1次コイルの誘起電力のピーク電圧が閾値を超えたか否かにより判定することに代えて、変化量が一定値以上であるか否かにより判定してもよい」という技術(引用文献2記載の技術事項)が記載されている。 ここで、引用発明の「電力増幅器に流れる電流」と、引用文献2記載の技術事項における「1次コイルの誘起電力のピーク電圧」は、共に「0」「1」の信号種別を判定するための変量という点で共通する。してみると、引用発明において、引用文献2に記載の技術事項に基づいて、「電力増幅器に流れる電流」を検出することに代えて、電力増幅器に流れる電流の変化量を検出し、また、「電力増幅器に流れる電流」に基づいて「高電力状態を1と解釈し、低電力状態を0と解釈する」ことに代えて、電力増幅器に流れる電流の変化量に基づいて、変化量が一定値以上であるか否かにより「0」「1」の信号種別の解釈を行うよう構成して、上記相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。 よって、相違点2に係る構成は、引用発明及び引用文献2記載の技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものである。 (3)まとめ したがって、上記(1)及び(2)によれば、本願発明1は、引用発明と引用文献2記載の技術事項に基づいて、或いは、引用発明と引用文献2記載の技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものである。 第7 審判請求人の主張について 1 審判請求人は、令和3年8月16日提出の意見書において、上記相違点1とした構成について、以下のとおり主張している。 「本願発明のようなワイヤレス給電システムは、電力を送受電するため、送電コイルと受電コイルとを近接させます。この際、送電コイルと受電コイルとが近接することで、互いに比較的強い電磁界結合を生じており、互いに影響を及ぼし合うと考えられます。さらに、送電コイルと受電コイルとの距離は一定であるとは限りません。したがいまして、送電コイルと受電コイルとの電磁界結合の状態も一定であるとは限りません。このような場合、引用文献1に示すように、送信コイル(送電側)の共振周波数と受信コイル(受電側)の共振周波数を合わせる制御では、上述の電磁界結合の状態変化の影響を受け、送電装置から負荷回路側(受電装置側)をみた入力インピーダンスは、変化してしまいます。このため、引用文献1のように共振周波数を合わせる制御によって送電装置から負荷回路側(受電装置側)をみた入力インピーダンスを変化させることで電磁界共鳴状態の成立/不成立の状態の切り替えることは、容易ではなく、安定的ではありません。しかしながら、本願発明のように、送電回路の動作周波数において送電回路から負荷回路側をみた入力インピーダンスを変化させることによって、上述の送電側と受電側の電磁界結合の状態変化の影響を抑制しながら、電磁界共鳴状態の成立/不成立の状態の切り替えることができます。そして、送電回路の動作周波数において送電回路から負荷回路側をみた入力インピーダンスを変化させることは、引用文献1に全く記載されていません。また、引用文献1には、電磁界共鳴状態の成立/不成立を安定させることと送電回路の動作周波数との関係についても、全く開示示唆がありません。」 2 上記主張について検討する。 特許請求の範囲には、本願発明1の「電磁界共鳴状態の成立/不成立の状態を切り替える」ことが、送電コイルと受電コイルとの電磁界結合の状態が一定でない場合に、電磁界結合の状態変化の影響を抑制しながら安定的に切り替えを行うものであることについては何ら記載がない。 また、本願の明細書を参照しても、「電磁界共鳴状態の成立/不成立の状態を切り替える」ための制御としては「送信コイル(送電側)の共振周波数と受信コイル(受電側)の共振周波数を合わせる制御」しか記載されておらず、送電コイルと受電コイルとの電磁界結合の状態が一定でない場合に、電磁界結合の状態変化の影響を抑制しながら安定的に切り替えを行うことについては何ら記載がない。 そうすると、審判請求人の意見書における主張は、特許請求の範囲の記載及び明細書の記載に基づいてなされたものでないから、その前提において採用することができない。 第8 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2記載の技術事項に基づいて、或いは、引用文献1に記載された発明、引用文献2記載の技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2021-09-21 |
結審通知日 | 2021-09-28 |
審決日 | 2021-10-12 |
出願番号 | P2018-522448 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H02J)
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最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
山本 章裕 永井 啓司 |
発明の名称 | ワイヤレス給電システム、ワイヤレス電力送電装置およびワイヤレス電力受電装置 |
代理人 | 特許業務法人 楓国際特許事務所 |