• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C09K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C09K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1385670
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-07-03 
確定日 2022-05-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第5701205号発明「2,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロプロパン、2−クロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン、2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5701205号の請求項1ないし8に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5701205号(以下、「本件特許」という。)は、2009年(平成21年)5月7日(パリ条約による優先権主張 2008年(平成20年)5月7日、米国)を国際出願日とする出願に係るものであり、平成26年1月24日付けで拒絶理由が通知され、同年6月25日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年1月14日付けで特許査定がされ、平成27年2月27日に特許権の設定登録がされたものである。
その後の手続の経緯は次のとおりである。なお、令和3年9月1日付けの審決の予告に対して、被請求人からは応答がなかった。また、以下、書証は、その証拠番号により、甲第1号証を「甲1」、乙第1号証を「乙1」などともいう。
令和2年 7月 3日 無効審判請求(請求人)
同年11月24日 審判事件答弁書及び訂正請求書(被請求人)
同年12月15日付け 訂正拒絶理由通知
同年 同月22日付け 職権審理結果通知書
令和3年 2月 4日 意見書(請求人)
同年 同月25日 意見書(被請求人)
同年 4月 5日 上申書(請求人)
同年 同月20日付け 審理事項通知
同年 5月26日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
同年 5月26日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
同年 6月 9日 口頭審理
同年 9月 1日付け 審決の予告
同年11月25日 上申書(請求人)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
被請求人は、令和2年11月24日に提出された訂正請求書において、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜8について訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求めた。
その訂正の内容は、以下の訂正事項1及び2のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「HFO−1234yfと、」の記載を「68.8モルパーセント以上のHFO−1234yfと、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3ないし8も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を独立形式に改めるとともに、訂正前の請求項2が引用していた訂正前の請求項1の「HFO−1234yfと、」という記載を「82.5モルパーセント以上のHFO−1234yfと、」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3ないし8も同様に訂正する。)。

2 訂正の適否についての検討
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1の内容
訂正事項1は、訂正前の請求項1に「HFO−1234yfと、/ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の、HFO−1243zfおよびHFC−245cbと、/を含む、熱伝達組成物、冷媒、エアロゾル噴霧剤、または発泡剤に用いられる組成物。」(「/」は改行を表す。以下、同じ。)と記載されていたものを、「HFO−1234yf」の含有量について、下限を「68.8モルパーセント」と限定して、「68.8モルパーセント以上のHFO−1234yfと、/ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の、HFO−1243zfおよびHFC−245cbと、/を含む、熱伝達組成物、冷媒、エアロゾル噴霧剤、または発泡剤に用いられる組成物。」と訂正しようとするものである。

イ 訂正事項1の適否の検討
(ア)訂正事項1は、「HFO−1234yf」の含有量について、その下限を「68.8モルパーセント」と限定したものであるところ、事案に鑑み、まず、新規事項の有無について検討する。
(イ)本件願書に添付した明細書には次の記載が認められる。
a 「【技術分野】
【0001】
本開示内容は、熱伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよびポリウレタンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にある消火剤として有用な組成物の分野に関する。特に、本開示内容は、2,3,3,3,−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yfまたは1234yf)または2,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243dbまたは243db)、2−クロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xfまたは1233xf)または2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC−244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有用な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
新たな環境規制によって、冷蔵、空調およびヒートポンプ装置に用いる新たな組成物が必要とされてきた。低地球温暖化係数の化合物が特に着目されている。
【0003】
出願人は、1234yf等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在することを見出した。
【0004】
従って、本発明によれば、HFO−1234yfと、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HCFC−243db、HCFC−244db、HFC−245cb、HFC−245fa、HCFO−1233xf、HCFO−1233zd、HCFC−253fb、HCFC−234ab、HCFC−243fa、エチレン、HFC−23、CFC−13、HFC−143a、HFC−152a、HFO−1243zf、HFC−236fa、HCO−1130、HCO−1130a、HFO−1336、HCFC−133a、HCFC−254fb、HCFC−1131、HFC−1141、HCFO−1242zf、HCFO−1223xd、HCFC−233ab、HCFC−226baおよびHFC−227caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物とを含む組成物が提供される。組成物は、少なくとも1つの追加の化合物の約1重量パーセント未満を含有する。」
b 「【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】HFO−1234yfを243dbから製造する反応を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
HFO−1234yfには、いくつかある用途の中で特に、冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤としての用途が示唆されてきた。また、HFO−1234yfは、V.C.Papadimitriouらにより、Physical Chemistry Chemical Physics、2007、9巻、1−13頁に記録されているとおり、低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利である。このように、HFO−1234yfは、高GWP飽和HFC冷媒に替わる良い候補である。
【0011】
一実施形態において、本開示内容は、HFO−1234yfと、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HCFC−243db、HCFC−244db、HFC−245cb、HFC−245fa、HCFO−1233xf、HCFO−1233zd、HCFC−253fb、HCFC−234ab、HCFC−243fa、エチレン、HFC−23、CFC−13、HFC−143a、HFC−152a、HFC−236fa、HCO−1130、HCO−1130a、HFO−1336、HCFC−133a、HCFC−254fb、HCFC−1131、HFO−1141、HCFO−1242zf、HCFO−1223xd、HCFC−233ab、HCFC−226ba、HFC−227caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物とを含む組成物を提供する。
【0012】
一実施形態において、HFO−1234yfを含む組成物中の追加の化合物の合計量は、ゼロ重量パーセントを超え、1重量パーセント未満までの範囲である。」
c 「【0031】
一実施形態において、HFO−1234yfは、HCFC−243dbから単一工程で生成してよい。他の実施形態において、反応シーケンスは、段階的なやり方で実施してもよい。他の実施形態において、HCFO−1233xfは、HCFC−243dbから生成してから、HCFO−1233xfをHFO−1234yfに直接変換してもよい。さらに他の実施形態において、HCFC−244bbは、HCFC−243dbから生成してから、HCFC−244bbをHFO−1234yfに変換してもよい。
【0032】
HFO−1243zfのフルオロ塩素化
ある実施形態において、HFO−1243zfを用いて、フルオロ塩素化により、HCFC−243db、HCFO−1233xf、HCFC−244dbおよび/またはHFO−1234yfを作製してよい。HFO−1243zfは、E.I.DuPont de Nemours and Company(Wilmington,DE,USA)より市販されている。」
d 「【0063】
HCFC−243dbのフッ素化
ある実施形態において、HCFC−243dbを用いて、HCFC−HCFO−1233xf、HCFC−244dbおよび/またはHFO−1234yfをフッ素化により作製することができる。これらの反応を図1に示す。フッ素化反応は、液相または気相で行うことができる。本発明の液相実施形態について、HCFC−243dbとHFの反応は、バッチ、半バッチ、半連続または連続モードで操作される液相リアクタで実施してよい。バッチモードにおいては、出発HCFC−243dbおよびHFは、オートクレーブまたはその他好適な反応容器で混合して、所望の温度まで加熱される。」
e 「【0085】
HCFO−1233xfのフッ素化
ある実施形態において、HCFO−1233xfを用いて、HCFC−HCFC−244bbおよび/またはHFO−1234yfをフッ素化により作製してもよい。これらの反応を図1に示す。」
f 「【0092】
HCFC−244bbの脱塩化水素化 ある実施形態において、HCFC−244bbの脱塩化水素化を用いて、HFO−1234yfを作製する。」
g 「【0104】
実施例1〜6
HFO−1243zfのクロロフッ素化
上記したとおりに調製した98%クロム/2%コバルト触媒(21.4グラム、15mL、−12〜+20メッシュ(1.68〜0.84mm))を、流動床サンドバスで加熱した直径5/8”(1.58cm)のInconel(登録商標)(Special Metals Corp.(New Hartford,New York))ニッケル合金リアクタ管に入れた。触媒を、次のとおり、HFによる処理で予備フッ素化した。触媒を45℃〜175℃まで、約1.5時間にわたって、窒素フロー(50cc/分)で加熱した。HFをリアクタに、50cc/分の流量で、1.3時間にわたって、175℃の温度で入れた。リアクタ窒素フローを20cc/分まで減じ、HFフローを80cc/分まで増やし、このフローを0.3時間維持した。リアクタ温度を、400℃まで1時間にわたって徐々に上げた。この期間後、HFおよび窒素フローを停止し、リアクタを所望の操作温度とした。HF蒸気、HFO−1243zfおよびCl2のリアクタへのフローを開始した。リアクタ流出物の一部をオンラインGC/MSにより分析した。
【0105】
様々な操作温度ならびにHF、HFO−1243zfおよびCl2の示したモル比での98/2Cr/Co触媒でのHFO−1243zfのクロロフッ素化の結果を表2に示す。分析データは、GC面積%の単位で示されている。名目触媒床容積は15cc、接触時間(CT)は15秒であった。実施例1および2は、触媒なしで行った。
【0106】
【表2】

【0107】
【表3】

h 「【0108】
実施例7〜11
HCFC−243dbのフッ素化
上記したとおりに調製した98%クロム/2%コバルト触媒(21.4グラム、15mL、−12〜+20メッシュ(1.68〜0.84mm))を、流動床サンドバスで加熱した直径5/8”(1.58cm)のInconel(登録商標)ニッケル合金リアクタ管に入れた。触媒を、次のとおり、HFによる処理で予備フッ素化した。触媒を45℃〜175℃まで、約1.5時間にわたって、窒素フロー(50cc/分)で加熱した。HFをリアクタに、50cc/分の流量で、1.3時間にわたって、175℃の温度で入れた。リアクタ窒素フローを20cc/分まで減じ、HFフローを80cc/分まで増やし、このフローを0.3時間維持した。リアクタ温度を、400℃まで1時間にわたって徐々に上げた。この期間後、HFおよび窒素フローを停止し、リアクタを所望の操作温度とした。HF蒸気、HCFC−243db(CF3CHClCH2Cl)のリアクタへのフローを開始した。リアクタ流出物の一部をオンラインGC/MSにより分析した。
【0109】
様々な操作温度ならびにHFおよびHCFC−243dbの示したモル比での98/2Cr/Co触媒でのHCFC−243dbのフッ素化の結果を表3に示す。分析データは、GC面積%の単位で示されている。名目触媒床容積は15cc、接触時間(CT)は15秒であった。実施例7は、触媒なしで行った。
【0110】【表4】


i 「【0111】
実施例12
TaF5を存在させたHFC−243dbとHFの反応
210mLのHastelloy(登録商標)C管に、10.0グラム(0.0599モル)のHCFC−243dbおよび25.4グラム(0.040モル)の五フッ化タンタルを入れた。次に、管に、40.0グラム(2.0モル)のフッ化水素を入れた。管を150℃まで温め、149℃〜150℃に8時間、振とうしながら保持した。管を、室温まで冷やし、100mLの水で処理した。管の中身を出し、小有機相を集め、中和した。試料は、91.1%の未変換HCFC−243dbであり、変換生成物のGC−MS分析は次のとおりであった。
【0112】
【表5】


j 「【0113】
実施例13
HCFO−1233xfからHCFC−244bbへのフッ素化
20グラムの粘性SbF5の入った小PTFEバイアルの中身を、乾燥400mLのHastelloy(登録商標)振とう管に注いだ。漏れ試験のために、管を閉じ、窒素で加圧した。振とう管を−40℃未満までドライアイスで冷やし、徐々に放出してから排気した。75グラム(3.75−モル)の無水HF、次に、165グラム(1.26−モル)のHCFO−1233xfを振とう管へ凝縮した。振とう管をバリケードに入れ、振とうを開始した。
【0114】
振とう管を周囲温度(〜20−23℃)で攪拌し、圧力は21〜25psigであった。2時間後、振とうを止め、150mLの水を振とう管に用心しながら注いだ。管を一晩放置してから、中身を減圧してプラスチック容器に移す前に、氷浴で0〜5℃まで冷やした。容器を氷上に保った。
【0115】
容器の中身を、少し氷を入れたポリプロピレン分液漏斗に注いだ。下有機層の外観は、明るいコハク色であった。有機層を、〜50−mLの4モルの(pH7)ホスフェートバッファおよび氷(〜100−mL)の入ったCorning(Lowell,MA)よりPyrex(登録商標)(以降、「Pyrex(登録商標)」)という商標で販売されているガラスのメディアボトルに分離した。有機層を再び分離し、少量の無水硫酸マグネシウムの入った乾燥Pyrex(登録商標)メディアボトルに注いだ。粗収量は、164.3グラム(約120−mL、86%)であった。
【0116】
粗材料のGC/MSによれば、大半がHCFC−244bbであったことが示された。他の成分は、0.13%245cb、0.09%245eb、0.16%1233xfおよび合計12.2%のその他副生成物であった。」
k 「【0117】
実施例14
HCFC−244bbへのHCFO−1233xfのフッ素化
20グラムの粘性SbF5の入った小PTFEバイアルの中身を、乾燥400−mLのHastelloy(登録商標)振とう管に入れた。管を閉じ、漏れ試験のために窒素で加圧した。振とう管を、−40℃未満まで、ドライアイスで冷やし、徐々に放出してから排気した。53グラム(2.65−モル)の無水HFを振とう管に移してから、227グラム(1.74モル)のHCFO−1233xfを冷却した振とう管へ凝縮した。振とう管をバリケードに入れ、振とうを開始した。
【0118】
振とう管を周囲温度(約18〜21℃)で攪拌し、圧力は16〜20psigであった。2時間後、振とうを止め、100mLの水を振とう管に用心しながら注いだ。管を一晩放置してから、中身を減圧してプラスチック容器に移す前に、氷浴で0〜5℃まで冷やした。容器を氷上に保った。
【0119】
容器の中身を、少し氷を入れたポリプロピレン分液漏斗に注いだ。下有機層の外観は、明るいコハク色であった。有機層を、約50mLの4モルの(pH7)ホスフェートバッファおよび氷(約100mL)の入ったPyrex(登録商標)メディアボトルへ分離した。有機層を再び分離し、少量の無水硫酸マグネシウムの入った乾燥Pyrex(登録商標)メディアボトルに注いだ。粗収量は、238.8グラム(約170mL、91%)であった。
【0120】
粗材料のGC/MSによれば、大半がHCFC−244bbであったことが示された。他の成分は、0.11%HFC−245cb、0.10%HFC−245eb、0.26%HCFO−1233xfおよび合計9.7%のその他副生成物であった。」
l 「【0121】
実施例15
実施例15は、HCFC−244bb(2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン)のHFO−1234yf(2,3,3,3−テトラフルオロプロペン)への触媒なしでの変換を示すものである。
【0122】
加熱ゾーンが約12インチの空のInconel(登録商標)管(1/2インチOD)を、500℃〜626℃の温度まで加熱し、HFC−244bbを、0.52mL/時で、40℃に設定された気化器を通して、2.4sccm(4.0×10−8m3)のN2スイープを用いて供給した。リアクタ流出物を、オンラインGSMSで分析した。結果をモルパーセントで記録してある。
【0123】【表6】


m 「【0124】
実施例16
実施例16は、HCFC−244bb(2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン)のHFO−1234yf(2,3,3,3−テトラフルオロプロパン)への触媒なしでの変換を示すものである。
【0125】
加熱ゾーンが約12インチの空のInconel(登録商標)管(1/2インチOD)を、575℃まで加熱し、HFC−244bbを、0.35mL/時で、40℃に設定された気化器を通して、3.6sccm(6.0×10−8m3)のN2スイープを用いて供給した。リアクタを連続で合計19時間操作し、試料を周期的に採取して、分析し、HFC−244bbの%変換率およびHFO−1234yfへの選択性を求めた。リアクタ流出物を、オンラインGCMSを用いて分析した。以下の表6のデータは、与えられた条件での少なくとも2つのオンライン注入の平均であり、パーセンテージはモルパーセントである。
【0126】
【表7】

・・・
【0130】
【表8】


n 「図1



(ウ)訂正後の請求項1に係る発明は、組成物に、「68.8モルパーセント以上のHFO−1234yf」を含むとともに「ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の、HFO−1243zfおよびHFC−245cbとを含む」ものであって、さらに、当該組成物は、「熱伝達組成物、冷媒、エアロゾル噴霧剤、または発泡剤に用いられる」ものであることを発明特定事項としている。
そこで、本件願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、単に「本件明細書」ということもある。)において、「68.8モルパーセント以上のHFO−1234yf」を含む組成物に関する記載について検討すると、表5(【表6】)の温度(℃)が「574」、「603」及び「626」の欄には、「HFO−1234yf」の含有量(モルパーセント)が、それぞれ、「77.0」、「85.0」及び「82.5」のものが記載され、表6(【表7】)の時間が「3」の欄には、「HFO−1234yf」の含有量(モルパーセント)が「68.8」のものが記載されている。
しかしながら、これらは、リアクタからの流出物の成分をオンラインGCMSを用いて分析したものであって、表5(【表6】)はリアクタの温度を変更した際の流出物の成分を示すものであり、表6(【表7】)は、リアクタの温度を575℃として、周期的に採取された流出物の成分を示すものであるところ、いずれも、「HFO−1243zf」及び「HFC−245cb」の両者を同時に含むものではなく、「ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の、HFO−1243zfおよびHFC−245cbとを含む」ものではない。
そうすると、上記(イ)で摘記したその余の記載を勘案しても、リアクタの温度を変更し、リアクタからの流出物の採取する時間を変更したとしても、本件明細書には、「68.8モルパーセント以上のHFO−1234yf」を含むものであって、「ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の、HFO−1243zfおよびHFC−245cbとを含む」ものであり、さらに、「熱伝達組成物、冷媒、エアロゾル噴霧剤、または発泡剤に用いられる」組成物は記載されているとは認められない。
(エ)したがって、訂正事項1は、本件明細書の全てを総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであって、本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではないというべきであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2において、「82.5モルパーセント以上のHFO−1234yf」を含む点及び「熱伝達組成物、冷媒、エアロゾル噴霧剤、または発泡剤に用いられる組成物」である点を特定し、独立形式に改めた訂正後の請求項2に訂正しようとするものである。そして、訂正後の請求項2に係る発明は、「82.5モルパーセント以上のHFO−1234yf」を含む点、及び、「ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の、HFO−1243zfおよびHFC−245cb」を含む点を発明特定事項に有している。
イ しかしながら、上記(1)で述べたように、訂正後の請求項1に係る発明については本件明細書、特許請求の範囲又は図面には記載されているとは認められず、訂正後の請求項2に係る発明は、さらに、「HFO−1234yf」の含有割合が多いものであるから、訂正後の請求項2に係る発明についても、到底、本件明細書には記載されているとは認められない。
ウ そうすると、訂正後の請求項2に係る発明は、訂正後の請求項1に係る発明と同様に、本件明細書には記載されているとはいえず、訂正事項2は本件明細書の全てを総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであって、本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではないというべきであり、第134条の2第9項で準用する同法特許法第126条第5項の規定に適合しない。

(3)被請求人の主張について
ア 被請求人は、表2(表2A及び表2B)(【表2】、【表3】)は、1234yf、1243zf及び245cbを含む組成物を示し、表3(【表4】)、表5(【表6】)、表6(【表7】)及び表7(【表8】)は、1234yf及び1243zf又は245cbの量を変更する方法を示し、本件明細書は、1234yfと、1243zf及び245cbを含む追加の化合物を含み、追加の化合物の量が0より大きく1重量パーセント未満となっている組成物を明確に教示しており、1243zfは市販の製品であることからすると、本件の技術分野において、必要に応じて1243zfを追加して、明細書で規定されている組成を取得することは当然のことであり、日常業務である旨主張している。
しかしながら、1243zfが含まれない組成物に対し、1243zfをわざわざ追加する必要性があるとはいえず、請求人の上記主張には合理的な根拠があるとはいえない。

イ また、被請求人は、表6(【表7】)の「3時間」の操作では、0.1モルパーセントのHFC−245cbとHFO−1234yfを含む組成物が生成されていることが示されており、表5の「500℃」では、0.4モルパーセントのHFC−245cbとHFO−1234yfを含む組成物が生成されていることが示されており、さらに、上記表6(【表7】)において、4.2モルパーセントまでの値で存在する254ebは1243zfの前駆体であることから、少なくとも表5において244bbから1233xfが生成されたのと同程度で、254ebから1243zfが生成されて、ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の1243zfが存在すると結論付けることが合理的である旨主張している。
しかしながら、表5(【表6】)はInconel管を500℃〜626℃まで加熱した際のリアクタ流出物を分析したものであり、表6(【表7】)はInconel管を575℃に加熱して、操作時間による244bbの%変換率及び1234yfへの選択性を求めたものであり、表5(【表6】)と表6(【表7】)を合わせても表5(【表6】)において244bbから1233xfが生成された割合と254ebから1243zfが生成された割合とが同程度あることを理解できる内容を含んでいない。
また、表6(【表7】)に示された254ebは1243zfの前駆体であるとしても、表2、3では、1243zfが検出され、その量が明示されているのにもかかわらず、表6(【表7】)においては、1234zfの存在が示されていないことから、表6(【表7】)に示されたリアクタ流出物には、1243zfが検出可能であるのにもかかわらず、1243zfが検出されていないと考えるのが合理的であるといえる。
したがって、少なくとも表5(【表6】)において244bbから1233xfが生成されたのと同程度で、254ebから1243zfが生成されるものであるという主張に、合理的な根拠があるとはいえない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正事項1及び2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。
よって、本件訂正は認められない。

第3 本件発明
上記第2で示したように、令和2年11月24日に請求された請求項1〜8についての訂正は認められないから、本件特許の請求項1〜8に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される、それぞれ以下のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて、請求項1に係る発明を「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
HFO−1234yfと、
ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の、HFO−1243zfおよびHFC−245cbと、
を含む、熱伝達組成物、冷媒、エアロゾル噴霧剤、または発泡剤に用いられる組成物。
【請求項2】
HFO−1234ze、HCFC−243db、HCFC−244db、HFC−245fa、HCFO−1233xf、HCFO−1233zd、HCFC−253fb、HCFC−234ab、HCFC−243fa、エチレン、HFC−23、CFC−13、HFC−143a、HFC−152a、HFC−236fa、HCO−1130、HCO−1130a、HFO−1336、HCFC−133a、HCFC−254fb、HCFC−1131、HFO−1141、HCFO−1242zf、HCFO−1223xd、HCFC−233ab、HCFC−226baおよびHFC−227caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物をさらに含み、
HFO−1243zfおよびHFC−245cbと前記追加の化合物の合計量が1重量パーセント未満である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
冷媒としての請求項1または2に記載の組成物の使用。
【請求項4】
空調、冷凍庫、冷蔵庫、ヒートポンプ、水冷器、満液式蒸発冷却器、直接膨張冷却器、遠心分離冷却器、ウォークインクーラー、可動式冷蔵庫、可動式空調ユニットおよびこれらの組み合わせにおける冷媒としての請求項1または2に記載の組成物の使用。
【請求項5】
エアロゾル噴霧剤としての請求項1または2に記載の組成物の使用。
【請求項6】
発泡剤としての請求項1または2に記載の組成物の使用。
【請求項7】
熱を熱源からヒートシンクへ伝える組成物を含む請求項1または2に記載の組成物を用いる方法。
【請求項8】
液体から気体まで相転移し、戻る組成物を含むサイクルにおいて冷媒として請求項1または2に記載の組成物を用いる方法。」

第4 請求人の主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法等
1 無効理由の概要
請求人は、「特許第5701205号の特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」との審決を求め、その理由として、以下の理由1〜6を主張している。
(1)理由1(明確性要件):特許法第36条第6項第2号(同法第123条第1項第4号
本件発明の組成物に含まれる化合物については、HFO−1234yfを含むこと、及び、ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の、HFO−1243zfおよびHFC−245cbとを含むこと、しか特定されておらず、本件発明において、上記構成要件に明示された化合物以外については、いかなるものが含まれるのかが不明であり、本件発明に係る組成物を明確に特定することができない。
また、数値限定の下限値としての「ゼロ重量パーセントを超え」の点も明確でない。
よって、本件特許請求の範囲の記載は不明確である。

(2)理由2(実施可能要件):特許法第36条第4項第1号(同法第123条第1項第4号
本件明細書には、本件発明に係る「HFO−1234yfと、ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の、HFO−1243zfおよびHFC−245cbと、を含む・・・組成物」の製法について何ら具体的に記載されていない。また、実施例を見ても、本件発明に該当する組成物は記載されておらず、当該組成物の組成に近い組成物すら記載されていない。よって、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の組成物を当業者が作ることができるように記載されていないから、本件明細書の記載は、実施可能要件を満たさない。

(3)理由3(サポート要件):特許法第36条第6項第1号(同法第123条第1項第4号
本件明細書からは、組成物の発明としての発明の解決課題が明確に理解できない。解決課題が明確でなければ、本件発明によって、発明の課題が解決できることが理解できないことは明らかである。なお、仮に、本件発明に何らかの解決課題が存在するとしても、これを解決する手段である「HFO−1234yfと、ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の、HFO−1243zfおよびHFC−245cbと、を含む」の構成の技術的意義については、明細書に何ら説明がされていない。そうすると、当業者は、本件発明によって、本件発明の課題が解決できるとは認識しない。よって、本件特許請求の範囲の記載は、サポート要件を充足しない。

(4)理由4(新規事項):特許法第17条の2第3項(同法第123条第1項第1号
本件特許の請求項1は、平成26年6月25日付け手続補正書に係る補正に基づくものであるところ、本件発明における「ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の、HFO−1243zfおよびHFC−245cbと、を含む」との構成は、出願時の明細書には何ら記載されていなかった。よって、当該構成に係る補正は、新たな技術的事項を導入するから、新規事項の追加に該当する。

(5)理由5(新規性進歩性):特許法第29条第1項第3号及び同条第2項(同法第123条第1項第2号
本件発明1〜8は、甲8に記載された発明であるか、甲8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)理由6(新規性進歩性):特許法第29条第1項第3号及び同条第2項(同法第123条第1項第2号
本件発明1〜8は、甲12に記載された発明であるか、甲12に記載された発明及び甲12〜15の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 請求人が提出した証拠方法(標目、作成年月日、作成者順)
(審判請求書に添付されたもの)
甲1:意見書、平成26年6月25日、被請求人
甲2:特許・実用新案審査基準・第II部・第1章・第1節・3.1.1、2015年9月、特許庁
甲3:「Climate Change2007−The Physical Science Basis−」、2007年、The lntergovernmental Panel on Climate Change
甲4:「HFO−1234yf A Low GWP Refrigerant For MAC」、2008年4月、Honeywell及びDuPont
甲5:手続補正書、平成26年6月25日、被請求人
甲6:国際出願翻訳文として提出された特許請求の範囲、平成23年1月6日、被請求人
甲7:国際出願翻訳文として提出された明細書、2011年1月6日、被請求人
甲8:国際公開第2006/94303号、2006年9月8日、世界知的所有権機関(WIPO)
甲9:特表2008−531836号公報、2008年8月14日、特許庁
甲10:「伝熱JVol.49,No.208(表紙、36〜37頁)、2010年7月、日本伝熱学会
甲11:「カーエアコン[第2版]」(表紙、17〜21頁、奥付)、2003年1月15日、カーエアコン協会
甲12:特開平4−110388号公報、1992年4月10日、特許庁
甲13:英国特許出願公開第2439392号明細書、 2007年12月27日、英国特許庁
甲14:特表2007−535611号公報、2007年12月6日、特許庁
甲15:「フロンの環境化学と対策技術」(表紙、14〜23頁)、1991年4月25日、社団法人 日本化学会
甲16:BINRYIT用語辞書 ヒートシンク(https://www.sophia−it.com/content)、ウェブリオ株式会社
甲17:「図解エレクトロニクス用語辞典」(表紙、336−337頁、奥付)、1992年1月10日、エレクトロニクス用語研究会
(令和3年4月5日に提出された上申書に添付したもの)
甲18:東京地裁令和3年3月30日判決(令和元年(ワ)第30991号)、令和3年3月30日、東京地方裁判所
(口頭審理陳述要領書に添付されたもの)
甲19: 特許・実用新案審査ハンドブック附属書A「特許・実用新案審査基準」 事例集 、「7. 新規事項を追加する補正(特許法第17条の2第3項)に関する事例集」、1,2,67,68頁 平成27年(2015年)9月、特許庁
甲20:原告第5準備書面(令和元年(ワ)第30991号)、2020年10月26日、原告(被請求人)
甲21:被告準備書面(6)(令和元年(ワ)第30991号)、令和2年(2020年)8月6日、被告(請求人)
甲22:被告準備書面(7)(令和元年(ワ)第30991号)、令和2年(2020年)12月25日、被告
甲23:特許・実用新案審査基準第II部 表紙、目次の3頁、第2章第3節の1〜4頁、平成27年(2015年)9月、特許庁
甲24:「蒸留とは 蒸留の原理と蒸留装置」(https://www.kce.co.jp/tec−info/distillation/distillation−facility.html)、関西化学機械製作株式会社、
甲25:特開平6−145083号公報 写し 特許庁 1994年5月24日 アルコールと水との気液平衡図
甲26:Trans. Of the JSRAE, Vol.33, No.2 (2016) 105〜111頁 「HCFO−1233zd(E)とHCFO−1233xfの飽和蒸気圧力および飽和液体密度の測定」、2016年3月31日、田中勝之
甲27:安全データシート(CELEFIN 1233Z)、2020年4月6日、セントラル硝子株式会社
甲28:安全データシート、(オプテンTMYF)、2016年11月1日、三井・デュポン・フロロケミカル株式会社ケミカルス事業
甲29:東京地裁平成21年9月11日判決(平成20年(ワ)第25354号)、2009年9月11日、東京地方裁判所、
甲30:知財高裁平成23年12月22日判決(平成23年(行ケ)第10149号)、2011年12月22日、知的財産高等裁判所
甲31:知財高裁平成30年5月22日判決(平成29年(行ケ)第10146号) 2018年5月22日、知的財産高等裁判所

第5 被請求人の主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法等
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」との審決を求めている。

2 被請求人が提出した証拠方法等
(答弁書に添付されたもの)
乙1−1:特許第6583521号公報、2019年10月2日、特許庁
乙1−2:特許第6394333号公報、2018年9月26日、特許庁
乙2:拒絶理由通知、2014年1月24日、特許庁
乙3:新・注解特許法[第2版]【上巻】(138頁)、2017年10月5日、株式会社青林書院
乙4:特表2011−520017号公報、2011年7月14日、特許庁
(令和3年2月24日に提出された意見書に添付されたもの)
乙5:特許・実用新案審査基準第IV部第2章新規事項を追加する補正(特許法第17条の2第3項)、特許庁
(口頭審理陳述要領書に添付されたもの)
乙6:Fluorochemicals、表紙、3, 98, 244, 334頁 2003年、SynQuest Laboratories,INC.
乙7:J.Chem.Eng.Data 1997,42,160−168、1997年、Dana R. Defibaugh他

第6 当審の判断
1 事案に鑑み、無効理由4(新規事項)について、まず検討する。
特許法は、特許請求の範囲等の補正については、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件当初明細書等」ということもある。)に記載した事項の範囲内においてしなければならない旨規定(特許法第17条の2第3項)している。ここでいう「事項」とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ、上記「最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは当該補正は明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができる(知財高裁平成18年(行ケ)第10563号、平成20年5月30日言渡)、とされている。

2 本件は、平成26年6月25日提出の手続補正書(甲5)によって、その特許請求の範囲の請求項1が、「HFO−1234yfと、/ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の、HFO−1243zfおよびHFC−245cbと、/を含む、熱伝達組成物、冷媒、エアロゾル噴霧剤、または発泡剤に用いられる組成物。」(以下「本件補正発明1」という。)と補正されて特許査定されたものである。
そこで、以下で、本件補正発明1が、上記1で示した要件に適合するものであるか否かを検討することとする。

3 そして、本件願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1及び2には次の記載がある。また、本件当初明細書等のその余の部分は、前記第2の2イ(イ)で、本件明細書について摘記した事項と同じ記載がある。
「【請求項1】
HFO−1234yfと、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HCFC−243db、HCFC−244db、HFC−245cb、HFC−245fa、HCFO−1233xf、HCFO−1233zd、HCFC−253fb、HCFC−234ab、HCFC−243fa、エチレン、HFC−23、CFC−13、HFC−143a、HFC−152a、HFC−236fa、HCO−1130、HCO−1130a、HFO−1336、HCFC−133a、HCFC−254fb、HCFC−1131、HFO−1141、HCFO−1242zf、HCFO−1223xd、HCFC−233ab、HCFC−226baおよびHFC−227caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物とを含む組成物。
【請求項2】
約1重量パーセント未満の前記少なくとも1つの追加の化合物を含有する請求項1に記載の組成物。」

4 また、前記第2の2イ(イ)でも摘記しているとおり、本件当初明細書等の【0003】〜【0004】には、次の記載がある。
「【0003】
出願人は、1234yf等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在することを見出した。
【0004】
従って、本発明によれば、HFO−1234yfと、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HCFC−243db、HCFC−244db、HFC−245cb、HFC−245fa、HCFO−1233xf、HCFO−1233zd、HCFC−253fb、HCFC−234ab、HCFC−243fa、エチレン、HFC−23、CFC−13、HFC−143a、HFC−152a、HFO−1243zf、HFC−236fa、HCO−1130、HCO−1130a、HFO−1336、HCFC−133a、HCFC−254fb、HCFC−1131、HFC−1141、HCFO−1242zf、HCFO−1223xd、HCFC−233ab、HCFC−226baおよびHFC−227caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物とを含む組成物が提供される。組成物は、少なくとも1つの追加の化合物の約1重量パーセント未満を含有する。」

5 そして、上記3及び4に示した事項から、本件当初明細書等には、「HFO−1234yf」と、「HFO−1234ze、・・・およびHFC−227caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物」の「全ての組合せ」について、それを約1重量パーセント未満を含有する組成物について、形式的には記載されているといえるものの、実質的に記載されているとは認められない。

6 また、本件当初明細書等に、「HFO−1234yf」に対する「追加の化合物」として、多数列挙された化合物の中から、特に、HFO−1243zfとHFC−245cbという特定の組合せを選択することは何ら記載されていない。
ましてや、HFO−1243zfとHFC−245cbという特定の組合せが、「HFO−1234yf」を含む組成物においてゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満で含まれる組成物に関する具体例などの実質的な記載は何ら記載されていない。

7 そうすると、平成26年6月25日の手続補正書によって補正された請求項1に係る発明は、本件願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には記載されたものではなく、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
したがって、上記無効理由4には理由がある。

第7 本件訂正が認められるとした場合についての予備的判断
1 訂正事項1は、請求項1の「HFO−1234yf」の含有量について「68.8モルパーセント以上」と特定するものであって、本件の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1が、平成26年6月25日の手続補正書によって補正され、さらに、本件訂正によって「HFO−1234yf」の含有量について減縮されて訂正後の請求項1に係る発明となったものであり、本件訂正発明1が、本件補正発明1をさらに減縮したものではあるものの、依然として、「HFO−1234yf」と、「ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の、HFO−1243zfおよびHFC−245cb」とを含むという点で、本件訂正発明1は本件補正発明1と共通するから、仮に、本件訂正が認められるとしても、上記第6で検討した無効理由4は解消しないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
したがって、上記無効理由4には依然として理由があることになる。

第8 むすび
以上のとおり、本件発明に係る特許は、他の無効理由について検討するまでもなく、無効理由4によって、無効とすべきものである。
また、仮に、本件訂正が認められるとしても、訂正後の請求項1〜8に係る本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、無効理由4によって、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。

審判長 亀ヶ谷 明久
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-12-22 
結審通知日 2022-01-04 
審決日 2022-01-18 
出願番号 P2011-508656
審決分類 P 1 113・ 113- ZB (C09K)
P 1 113・ 121- ZB (C09K)
P 1 113・ 537- ZB (C09K)
P 1 113・ 536- ZB (C09K)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 蔵野 雅昭
川端 修
登録日 2015-02-27 
登録番号 5701205
発明の名称 2,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロプロパン、2−クロロ−1,1,1−トリフルオロプロペン、2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む組成物  
代理人 大野 聖二  
代理人 大月 雅博  
代理人 小林 浩  
代理人 辛川 力太  
代理人 黒田 薫  
代理人 大野 浩之  
代理人 片山 英二  
代理人 加藤 志麻子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ