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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1385691
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-20 
確定日 2021-12-02 
事件の表示 特願2018−522256「表示制御装置、表示装置、車載ディスプレイシステムおよび表示制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月14日国際公開、WO2017/212610〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)6月9日を国際出願日とする日本語特許出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
令和元年 6月14日付け:拒絶理由通知書(最初)
令和元年 8月22日 :意見書、手続補正書の提出
令和元年10月21日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和元年12月 9日 :意見書の提出
令和2年 3月12日付け:拒絶理由通知書(最初)
令和2年 5月21日 :意見書の提出
令和2年10月28日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年11月10日 :原査定の謄本の送達)
令和3年 1月20日 :審判請求書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1〜8に係る発明は、令和元年8月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1及び2の記載は、次のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

「【請求項1】
車両に搭乗した乗員を検知した情報を取得する検知情報取得部と、
前記検知情報取得部が取得した情報に基づいて前記乗員の視線を検出し、検出した前記乗員の視線が予め設定した範囲内に位置している場合に、前記乗員が前記車両の前方を注視していると判定する注視判定部と、
前記注視判定部の判定結果を参照し、前記乗員が前記車両の前方を注視していると判定された場合に、予め設定した領域に前記車両に搭載された車載ディスプレイの映像情報が映り込むのを抑制した表示条件で、前記映像情報の表示制御を行う表示制御部とを備えた表示制御装置。
【請求項2】
前記注視判定部における予め設定した範囲は、前記車両のフロントウィンドまたはサイドウィンドであることを特徴とする請求項1記載の表示制御装置。」


第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の国際出願日より前に発行された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができず、また、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。



引用文献1:特開2012−162126号公報


第4 引用文献に記載された発明
1 引用文献1に記載された事項
引用文献1には、以下の記載がある。下線は当審が付した(以下同様)。

「【0001】
この発明は車載表示装置の輝度制御装置、輝度制御プログラムおよび輝度制御方法に関し、特にたとえば、自動車に装備される、車載表示装置の輝度制御装置、輝度制御プログラムおよび輝度制御方法に関する。」

「【0019】
第4の発明では、輝度制御手段は、運転者が車載表示装置を注視していない状態であるとき(ステップS15で“NO”)、つまり運転者が前方(車外)を見ている場合には、車載表示装置の輝度を低下させる。
【0020】
第4の発明によれば、運転者が前方を見ている場合には、車載表示装置の輝度を低下されるので、その照明がフロントガラスに反射したり、グレアが発生したりするのを回避することができる。したがって、快適な運転環境を提供することができる。」

「【0035】
図1を参照して、この実施例の車載表示装置の輝度制御装置10は、コンピュータ12を含み、コンピュータ12には、第1カメラ14、第2カメラ16およびデータベース(DB)18が接続される。
【0036】
なお、この実施例では、分かり易く示すために、DB18を設けるようにしてあるが、DB18に代えて、コンピュータ12に内蔵されるHDDやROM(図示せず)またはコンピュータ12に装着されるSDカードなどのメモリカード(図示せず)を用いるようにしてもよい。
【0037】
コンピュータ12は、PCなどの汎用のコンピュータであり、CPU12aおよびRAM12bを含む。第1カメラ14は、赤外線カメラであり、運転者の視線方向を検出するために用いられる。また、第2カメラ16は、モノクロカメラであり、運転者が視認可能な範囲についての輝度分布を検出するために用いられる。したがって、第2カメラ16としては、第1カメラ14と比べて解像度(たとえば、30万画素)の比較的低いものを用いることができる。DB18には、後述する、注視位置の確率分布(図8参照)および各種のテーブルデータ(図9、図10参照)が記憶される。
【0038】
図2(A)および図2(B)は、図1に示した第1カメラ14および第2カメラ16の設置状況などを説明するための図解図である。図2(A)に示すように、或る自動車100には、車載表示装置20が設けられる。たとえば、車載表示装置20は、インストルメントパネル(インパネ)102の表示装置20a、カーナビゲーション・システム(カーナビ)の表示画面104aおよび操作パネル104bの表示装置20bおよび空調の操作パネル106の表示装置20cを含む。ただし、カーオーディオがカーナビとは別で設けられる場合には、その表示画面および操作パネルの表示装置も含まれる。
【0039】
図2(A)示すように、第1カメラ14は、インパネ102の左端の上側に設置される。ただし、運転の邪魔にならなければ、インパネ102の中央の上側に設置し、運転者の顔を正面から撮影可能に設置してもよい。また、図2(B)に示すように、第2カメラ16は、たとえば、運転席の上部であり助手席側に設置される。図示は省略するが、第2カメラ16は、助手席の上部であり、運転席側に設置されてもよい。
【0040】
このような車載表示装置20の輝度制御装置10では、従来、車外の明るさを検知するとともに、運転者の視線を検出し、運転者が車外を見て運転している場合には、車載表示装置20の輝度を低下させて、フロントガラスにインパネ102などの表示内容が映ってしまうのを防止する。そして、運転者が車載表示装置20を見たときには、当該車載表示装置20の輝度を高めて、表示内容を見易くしてある。
【0041】
しかし、車外の明るさは、単に明るいか暗いかを判断するだけであり、運転者が注視しているところの輝度(注視輝度)、および暗いところから明るいところを見る場合やその逆の場合の眼の適応速度については何ら考慮されていない。ただし、注視輝度とは、運転者が見ている(注視している)方向ないし位置(場所)の輝度を意味する。具体的には、運転者が車載表示装置10以外(車外を含む)を見ている場合には、その視線方向における輝度であり、運転者が車載表示装置20を見ている場合には、その照明についての輝度である。
【0042】
たとえば、車載表示装置20を含む車室内照明による運転時の視認性の妨害要因としては、車室内照明がフロントガラスに写り込む「反射」、周辺視野に中心視野よりも明るい領域が存在することにより中心視野の視認性が妨害される「グレア」、機器画面(この実施例では、表示装置20a、20b、20c)と車外など運転中に注視する異なる領域間の輝度の差異によって視認性が悪化する「順応」などが知られている。
【0043】
ここで、「順応」とは、眼の網膜が受ける輝度の変化に対応して視覚系の性質がなじむ過程(順応過程)、およびなじんだ状態(順応状態)をいう。ただし、この実施例においては、単に「順応」という場合には、主として「順応過程」を意味することとする。
【0044】
このうち、「反射」と「グレア」については、基本的に機器画面を見ていないときに同時に照射されている照明による妨害要因であるのに対して、「順応」による妨害は車外注視時と異なるタイミングで注視した領域と車外の輝度の差異の効果が残存することによるものである。「反射」および「グレア」については、基本的に機器画面を見ていないときに生じることから、たとえば視線情報を活用して運転者が車外を注視しているときには照明を切るなどの方法によって回避できる可能性が高い。実際に、視線と連動して非注視時の照明レベルを下げることで視認性の向上を目指したシステムが背景技術で示した特許文献2に開示されている。したがって、後述する実験の目的のひとつは、運転者の視線方向に着目し、運転者が注視していないときに照明、すなわち車載表示装置20の輝度レベルを落とすことで、暗視野(車外)に対する視認性が向上することを確認することにある。
【0045】
一方で、「順応」による妨害は、暗い車外から視線を移して明るい機器画面を注視したり、或いは逆に明るい機器画面から車外に視線を戻したりする際に生じる。そのため、車外に合わせて機器画面の輝度を調整することで妨害の程度が軽減されると考えられる。順応特性を考慮した車載ディスプレイの制御として、輝度と彩度を補正することによって晴天の積雪時のような高輝度視環境下においても視認し易い車載ディスプレイを実現する方式について検討されている例がある(坂口,樋口,中野,山本:“目の順応特性を考慮した車載ディスプレイの表示”,豊田中央研究所 R&D レビュー,33,2,pp.37-45(1998))。この方法では、人間の視覚の順応特性に基づいて、明るい車外に対して主観的明るさの変化が抑えられるようにディスプレイ輝度を補正することで視認性を向上させている。
【0046】
しかし、夜間運転時のように、車外が相対的に低輝度である場合には、暗い車外に合わせたレベルまで表示ディスプレイの輝度を低下させると機器自体の視認性が損なわれる可能性が高い。したがって、後述する実験では、視線に連動して表示ディスプレイの輝度を段階的に調整することで、運転者の視認性を確保しながら、運転者が車外に視線を戻した際に発生する「順応」による妨害を抑制する手法も視野に入れるようにした。また、複数の視線連動パターンについて、視認性との関連を被験者実験により検討した。」

「【0077】
まず、グレアおよび反射の影響を回避したり、運転者の眼の順応を考慮したりするためには、運転者がいずれの方向を見ているかを知る必要がある。つまり、運転者の視線方向(注視位置)を検出(追跡)する必要がある。この実施例では、第1カメラ14で運転者の顔画像を撮影し、その撮影された顔画像から当該運転者の視線を検出する。視線検出方法としては、本願出願人が先に出願し、既に出願公開されている技術(特開2008−102902号)を用いることができる。簡単に説明すると、運転者の顔画像から眼球の中心を推定するとともに虹彩中心を抽出し、推定した眼球中心と抽出した虹彩中心とを結ぶ3次元直線の方向を、運転者の視線方向として検出する。ただし、視線検出は、所定時間(たとえば、1フレーム=1/15秒)毎に実行される。
【0078】
なお、詳細な説明は省略するが、運転者の頭部の位置は予め計測されており、また、視線方向は、運転者が正面を見ている方向を基準方向とした場合において、当該基準方向を示すベクトルに対して縦方向(垂直方向)および横方向(水平方向)になす角度で表される。
【0079】
ただし、視線方向の検出方法は、上記の技術に限定される必要はなく、他の任意の公知技術を用いることができる。
【0080】
また、この実施例では、運転者の視線方向(注視位置)の輝度(注視輝度)の検出や移動後の視線が向けられる場所や位置(注視位置)の注視輝度を予測するために、第2カメラ16の撮影画像から輝度分布(以下、「環境輝度分布」という)を検出する。この実施例では、第2カメラ16は、運転者が運転中に視認可能な範囲(注視全範囲)を撮影可能に設定されている。詳細な説明は省略するが、たとえば、注視全範囲は、運転者がフロントガラスを通して見る車外およびインパネ102、カーナビの表示画面104aとその操作パネル104bおよび空調の操作パネル106を含むダッシュボードを含む範囲である。
【0081】
また、詳細な説明は省略するが、上述したように、運転者の頭部の位置は予め測定されており、また、視線方向に対応づけて注視全範囲における注視位置を特定できるように、視線方向と注視位置とを対応付けたテーブル(図示せず)が予めコンピュータ12やDB18に記憶されている。ただし、視線方向から特定される注視位置は、後述する複数の小領域Rijを含み、注視輝度は、複数の小領域Rijの輝度Tij(後述する)の平均値を算出することにより求められる。
【0082】
この実施例では、環境輝度分布を検出するために、注視全範囲はマトリックス状の小領域Rに分割され、各小領域Rの輝度が求められる。たとえば、図8に示すように、注視全範囲は、縦100×横100の小領域Rに分割される。ただし、各小領域Rを識別するための行番号を変数iで表し、列番号を変数jで表す。また、図8からも分かるように、左上の小領域Rijの変数iおよび変数jが1であり、右下の小領域Rijの変数iおよび変数jが100である。上述したように、この実施例では、第2カメラ16では、30万画素(640×480ピクセル)の撮影画像が得られるため、1つの小領域Rijの輝度は、7×5ピクセル分の輝度の平均値で算出される。ただし、隣接する小領域Rijの境界上のピクセルの輝度は、その両方の小領域Rijの輝度の算出に用いられる。
【0083】
さらに、注視全範囲について、注視位置の確率分布(重み)が設定されている。これは、運転者が運転中にどこ(注視位置)をどれくらい(時間長さ)見ているかの確率であり、注視全範囲の小領域Rij毎に、重み付けがなされている。詳細な説明は省略するが、注視位置の確率分布は、運転者が実際に運転している場合に、単位時間(たとえば、60秒)内にどこをどれくらい見ているかを検出することにより、求められる。図9に示すように、図8に示した小領域Rijに対応して、重みwijがそれぞれ割り当てられる。重みwijの総和は1であり、運転者が運転中に見る確率が高い小領域Rijほど、重みwijが大きい。
【0084】
したがって、上述したように、運転者が車外(前方)を見て運転している場合には、検出された視線方向から比較的低い注視輝度が検出される。したがって、車載表示装置20の輝度が低下される。つまり、「反射」や「グレア」による影響が回避される。ただし、運転者が車載表示装置20から車外に視線を向けた場合には、それまでに見ていた車載表示装置20の輝度に合わせて、車載表示装置20の輝度が制御された後に、その輝度が低下される。この実施例では、運転者が視線を変化させたときには、視線を変化させる直前の注視輝度vgを含む過去数秒間(この実施例では、5秒間)の注視輝度vgの時間平均(注視輝度時間平均)vg/に基づいて車載表示装置20の輝度が制御される。ただし、“/”は平均を意味し、表記の都合上、文字の横に表示してあるが、実際には、文字上に“−”が表示される(図11参照)。以下、同様である。
【0085】
同様に、運転者が車外から車載表示装置20に視線を向けると、それまでに見ていた車外などの輝度に合わせて、車載表示装置20の輝度を制御する。このとき、上述したように、注視輝度時間平均vg/に基づいて車載表示装置20の輝度が制御される。したがって、上述したように、運転者が暗い車外から車載表示装置20を見た(注視)した場合であっても、明暗の差が少ないため、運転者の眼の順応が比較的速い。このため、車載表示装置20の内容を見る時間を比較的短くすることができ、前方を見ていない時間を出来る限り少なくするのである。
【0086】
さらに、運転者が表示装置20を継続的に見ている場合には、注視位置の確率分布を用いることにより、その後、視線を移動させると予測される方向ないし位置(車外を含む)の輝度に、車載表示装置20の輝度を近付けるように制御することにより、視線を変化させた場合に、運転者の眼が比較的早く順応するようにしてある。
【0087】
具体的には、第2カメラ16で撮影画像から得られた環境輝度分布と、注視位置の確率分布とから注視全範囲について平均した輝度(分布平均輝度)vdを算出する。具体的には、分布平均輝度vdは、数1に従って算出される。ただし、小領域Rijの輝度をTijとする。また、上述したように、変数i,jは、それぞれ1から100までの整数である。
【0088】
[数1]

【0089】
このように算出された分布平均輝度vdに近付けるように、車載表示装置20の輝度を制御する。ただし、この実施例では、現フレームの直前(1つ前)のフレームを含む過去数秒間(この実施例では、5秒間)の分布平均輝度vdの平均値(以下、「分布輝度時間平均」という)vd/を用いるようにしてある。
【0090】
図10は図1に示したRAM12bのメモリマップ300の例を示す図解図である。図10に示すように、RAM12bは、プログラム記憶領域302およびデータ記憶領域304を含む。プログラム記憶領域302は、車載表示装置20の輝度制御プログラムを記憶し、輝度制御プログラムは、全体処理プログラム302a、視線検出プログラム302b、注視輝度検出プログラム302c、環境輝度分布検出プログラム302d、分布輝度算出プログラム302e、および輝度レベル制御プログラム302fなどによって構成される。
【0091】
全体処理プログラム302aは、この実施例の輝度制御処理のメインルーチンを実行するためのプログラムである。視線検出プログラム302bは、上述したように、第1カメラ14の撮影画像から視線方向を検出するためのプログラムである。注視輝度検出プログラム302cは、視線検出プログラム302に従って検出された視線方向から注視全範囲のうちの注視位置を特定し、特定した注視位置の注視輝度vgを検出するとともに、その時間平均である注視輝度時間平均vg/を算出するためのプログラムである。
【0092】
環境輝度分布検出プログラム302dは、第2カメラ16の撮影画像から、注視全範囲における小領域Rij毎の輝度Tijを算出し、環境輝度分布を求めるためのプログラムである。分布輝度算出プログラム302eは、環境輝度分布検出プログラム302で検出された環境輝度分布と、後述する確率分布データ304eが示す注視位置の確率分布とから、数1に従って分布平均輝度vdを算出するとともに、その時間平均である分布輝度時間平均vd/を算出するためのプログラムである。輝度レベル制御プログラム302fは、車載表示装置20のパネル輝度レベルLを制御するためのプログラムである。
【0093】
図示は省略するが、プログラム記憶領域302には、輝度制御処理に必要な他のプログラムも記憶される。
【0094】
データ記憶領域304には、顔画像データバッファ304a、環境輝度データバッファ304b、注視輝度データバッファ304cおよび分布平均輝度データバッファ304dに設けられる。また、データ記憶領域304には、確率分布データ304e、視線データ304f、注視輝度時間平均データ304g、分布輝度時間平均データ304h、テーブルデータ304iおよび輝度レベルデータ304jが記憶される。さらに、データ記憶領域304には、注視フラグ304kが設けられる。
【0095】
顔画像データバッファ304aは、第1カメラ14の撮影画像に対応する画像データを毎フレーム記憶するためのバッファである。この実施例では、画像データバッファ304aは、現フレームおよび数秒分(たとえば、5秒分)の画像データを記憶可能であり、記憶領域が一杯になると、現フレームの画像データが記憶されるときに、最も古い画像データが削除される。
【0096】
環境輝度データバッファ304bは、環境輝度検出プログラム302dに従って検出された環境輝度分布のデータ(環境輝度分布データ)を毎フレーム記憶するためのバッファである。この実施例では、環境輝度データバッファ304bは、現フレームを含む数秒分(たとえば、5秒分)の環境輝度分布データを記憶可能であり、記憶領域が一杯になると、現フレームの環境輝度分布データが記憶されるときに、最も古い環境輝度分布データが削除される。
【0097】
注視輝度データバッファ304cは、注視輝度検出プログラム302cに従って検出された注視輝度vgについてのデータ(注視輝度データ)を毎フレーム記憶するためのバッファである。この実施例では、注視輝度データバッファ304cは、現フレームおよび数秒分(たとえば、5秒)の注視輝度データを記憶可能であり、数秒分の注視輝度データが記憶された後では、現フレームの注視輝度データが記憶されるとき、最も古い注視輝度データが削除される。
【0098】
分布平均輝度データバッファ304dは、分布輝度算出プログラム302eに従って算出された分布平均輝度vdについてのデータ(分布平均輝度データ)を毎フレーム記憶するためのバッファである。この実施例では、分布平均輝度データバッファ304dは、現フレームを含む数秒分(たとえば、5秒)の分布平均輝度データを記憶可能であり、記憶領域が一杯になると、現フレームの分布平均輝度データが記憶されるとき、最も古い分布平均輝度データが削除される。
【0099】
確率分布データ304eは、図9に示したような注視位置の確率分布についてのデータである。上述したように、注視位置の確率分布すなわち重みwijは、予め運転者について計測された結果から各小領域Rijに割り当てられ、重みwijの総和が1である。視線データ304fは、視線検出プログラム302bに従って検出された視線方向についてのデータである。
【0100】
注視輝度時間平均データ304gは、注視輝度データバッファ304cに記憶された注視輝度データが示す注視輝度vgの現フレームの1つ手前のフレームを含む過去数秒分についての時間平均(注視輝度時間平均vg/)についてのデータである。分布輝度時間平均データ304hは、分布平均輝度データバッファ304dに記憶された分布平均輝度データが示す分布平均輝度vdの現フレームの1つ手前のフレームを含む過去数秒分についての時間平均(分布輝度時間平均vd/)についてのデータである。
【0101】
テーブルデータ304iは、図11および図12に示す各テーブル18a、18b、18c、18dについてのデータであり、DB18から読み出してRAM12bに記憶される。ここで、各テーブル18a−18dについて説明する。
【0102】
図11(A)に示すように、テーブル18aは、パネル輝度レベルLに対応する輝度(cd/m2)を示す。この実施例では、パネル輝度レベルLは5段階(1−5)で表され、各レベルLに対応する輝度の数値が記述される。この実施例では、一般的に用いられている車載表示装置20の最大輝度(400cd/m2)および最低輝度(25cd/m2)を超えない範囲で、5段階で輝度を変化させるように、テーブル18aは設定される。図11(A)に示すように、パネル輝度レベルLが1である場合には、輝度は25(cd/m2)である。また、パネル輝度レベルLが2である場合には、輝度は75(cd/m2)である。さらに、パネル輝度レベルLが3である場合には、輝度は150(cd/m2)である。さらにまた、パネル輝度レベルLが4である場合には、輝度は300(cd/m2)である。そして、パネル輝度レベルLが5である場合には、輝度は400(cd/m2)である。したがって、パネル輝度レベルLが決まると、車載表示装置20(表示装置20a、20b、20c)の輝度が決定される。
【0103】
図11(B)に示すように、テーブル18bは、分布輝度時間平均vd/(cd/m2)の範囲に対応して、パネル目標輝度レベルLdが記述される。この実施例では、テーブル18bは、運転者が車載表示装置20を注視している場合に参照され、パネル目標輝度レベルLdでパネル輝度レベルLが決定される。たとえば、分布輝度時間平均vd/(cd/m2)が100以上200未満である場合には、パネル目標輝度レベルLdは3に決定される。このとき、たとえば、現在のパネル輝度レベルLが1または2である場合には、パネル輝度レベルLが1上昇される。また、たとえば、現在のパネル輝度レベルLが4または5である場合には、パネル輝度レベルLが1下降される。したがって、予測される注視輝度に一致ないしほぼ一致するように、車載表示装置20(ここでは、着目する表示装置20a、20b、20c)の輝度が制御される。したがって、その後に、運転者が車外(前)に視線を戻した場合にも、注視輝度が大幅に変化することが無く、順応による妨害がほとんど残らない。
【0104】
図12(A)に示すように、テーブル18cは、注視輝度時間平均vg/(cd/m2)の範囲に対応して、パネル目標輝度レベルLTが記述される。この実施例では、テーブル18cは、装置注視モードがTRUEの場合に参照され、運転者が車載表示装置20を注視していない状態から注視した場合に、パネル目標輝度レベルLTでパネル輝度レベルLが決定される。ここで、装置注視モードは、運転者が車載表示装置20を注視している状態であるどうかを示す。したがって、装置注視モードがTRUEである場合には、運転者が車載表示装置20を注視している状態であることを示す。一方、装置注視モードがFALSEである場合には、運転者が車載表示装置20を注視していない状態であることを示す。ただし、装置注視モードは、表示装置20a、20b、20c毎に設定される。たとえば、注視輝度時間平均vg/(cd/m2)が100以上200未満である場合には、パネル目標輝度レベルLTは3に決定され、これがパネル輝度レベルLに設定される。したがって、図11(A)に示すように、車載表示装置20(ここでは、着目する表示装置20a、20b、20c)の輝度が150(cd/m2)に設定される。つまり、視線の変化の前後で明暗の差が少なくされる。他の場合についても同様である。
【0105】
この実施例では、運転者が車載表示装置20を注視していない状態から注視した場合には、テーブル18cを用いることにより、注視輝度時間平均vg/(cd/m2)に一致ないしほぼ一致させるように、車載表示装置20の輝度を設定するようにしてある。しかし、車載表示装置20の性能によっては、注視輝度時間平均vg/(cd/m2)に一致ないしほぼ一致させるように、輝度を追従させることができない場合もある。したがって、注視輝度時間平均vg/(cd/m2)の所定割合(たとえば、5〜7割)で車載表示装置20の輝度を設定するようにしてもよい。かかる場合にも、注視輝度に基づいて車載表示装置20の輝度を制御することができ、運転者の眼の順応を速くさせることができる。
【0106】
このように、図11(A)、(B)および図12(A)に示すように、テーブル18a−18cを設定し、これらを用いるので、運転者の眼の順応を考慮するとともに、現在の注視輝度および予測される注視輝度に応じて、車載表示装置20の輝度を設定することができる。つまり、注視輝度と運転者の眼の順応とに基づいて、車載表示装置20の輝度を制御することができる。
【0107】
また、図12(B)に示すように、テーブル18dは、テーブル18cと同様に、注視輝度時間平均vg/(cd/m2)の範囲に対応して、パネル目標輝度レベルLFが記述される。このテーブル18cは、装置注視モードがFALSEの場合に参照され、運転者が車載表示装置20を注視していない場合に、パネル目標輝度レベルLFでパネル輝度レベルLが決定される。たとえば、注視輝度時間平均vg/(cd/m2)が100以上200未満である場合には、パネル目標輝度レベルLFは2に決定され、これがパネル輝度レベルLに設定される。したがって、図11(A)に示すように、車載表示装置20(ここでは、すべての表示装置20a、20b、20c)の輝度が75(cd/m2)に設定される。つまり、図11(A)に示すテーブル18aに対応して図12(B)に示すようテーブル18dを設定し、運転者が車載表示装置20を注視していない場合には、このテーブル18dを用いて、注視輝度に応じて車載表示装置20の輝度が低下されるため、反射およびグレアを回避(抑制)することができる。
【0108】
図12(A)および図12(B)から分かるように、テーブル18dに示す注視輝度時間平均vg/(cd/m2)の数値および数値範囲は、テーブル18cに示す注視輝度時間平均vg/(cd/m2)の数値および数値範囲よりも大きく設定されている。このため、装置注視モードがFALSEの場合には、車載表示装置20の輝度が低下されるように制御されるのである。
【0109】
なお、テーブル18a−18dは、単なる一例であり、これに限定されるべきではない。採用される製品によって、適宜数値や数値範囲は可変的に設定される。場合によっては、表示装置20a、20b、20cのそれぞれに、個別のテーブル18a−18dのセットを用意する必要がある。ただし、テーブル18aとテーブル18bとの対応関係、テーブル18aとテーブル18cとの対応関係、テーブル18aとテーブル18dとの対応関係、およびテーブル18cとテーブル18dとの数値および数値範囲の大小関係は、維持される必要がある。また、パネル輝度レベルLやパネル目標輝度レベルLd、LT、LFは、2つ以上のレベルであれば、さらに多くのレベルで分割してもよい。
【0110】
図10に戻って、輝度レベルデータ304jは、輝度レベル制御プログラム302fに従って設定ないし更新されるパネル輝度レベルLを示すデータである。注視フラグ304kは、車載表示装置20を注視しているかどうかを判別するためのフラグである。この実施例では、3つの表示装置20a、20b、20cが設けられるため、注視フラグ304kは、3ビットのレジスタで構成される。
【0111】
たとえば、レジスタの最上位ビットが表示装置20aに割り当てられ、最下位ビットが表示装置20cに割り当てられ、真ん中のビットが表示装置20bに割り当てられる。表示装置20a、20b、20cが注視されている場合(装置注視モード=TRUE)には、対応するビットにデータ値「1」が設定される。一方、表示装置20a、20b、20cが注視されていない場合(装置注視モード=FALSE)には、対応するビットにデータ値「0」が設定される。したがって、表示装置20aが注視されている場合には、レジスタの値は“100”を示す。また、表示装置20bが注視されている場合には、レジスタの値は“010”を示す。さらに、表示装置20cが注視されている場合には、レジスタの値は“001”を示す。さらにまた、運転者が車外(前方)を見ており、表示装置20a−20cが注視されていない場合には、レジスタの値は“000”を示す。
【0112】
図示は省略するが、データ記憶領域304には、輝度制御処理に必要な他のデータが記憶されたり、輝度制御処理に必要な他のフラグやタイマ(カウンタ)が設けられたりする。
【0113】
図13−図15は、図1に示したCPU12aの輝度制御の全体処理を示すフロー図である。図13に示すように、CPU12aは、輝度制御処理を開始すると、ステップS1で、装置注視モードをFALSEに設定するとともに、パネル輝度レベルLに初期値(L=LINIT)を設定する。上述したように、装置注視モードは、表示装置20a、20b、20c毎に設定され、ステップS1では、すべての表示装置20a−20cに対して、装置注視モードがFALSEに設定される。つまり、ステップS1では、CPU12aは、注視フラグ304kをリセットし、レジスタの値が“000”に設定される。また、パネル輝度レベルLの初期値LINITは、この輝度制御装置10の設計者ないしプログラマ或いは運転者が設定した値であり、1−5のいずれかの値(たとえば、5)が設定される。
【0114】
続くステップS3では、環境輝度分布を計測する。つまり、CPU12aは、第2カメラ16からの撮影画像データから得られる画素毎の輝度を用いて小領域Rij毎の輝度Tijを算出することにより、環境輝度分布を求める。そして、CPU12aは、求めた環境輝度分布に対応する環境輝度分布データを環境輝度データバッファ304bに記憶する。図示は省略するが、第2カメラ16の撮影処理は、全体処理が開始されたときに、開始される。また、全体処理が開始されると、第1カメラ14の撮影処理も開始され、その撮影画像データは図示しないバッファ領域に毎フレーム記憶される。ただし、第1カメラ14の撮影画像データは現フレームおよび数秒分(たとえば、5秒分)記憶可能である。したがって、記憶領域が一杯になると、現フレームの撮影画像データを記憶するときに、最も古い撮影画像データが削除される。
【0115】
次のステップS5では、分布平均輝度vdを計算する。ここでは、ステップS3で計測した環境輝度分布(輝度Tij)と、確率分布データ304eが示す重みwijとから数1に従って分布平均輝度vdが算出され、対応する分布平均輝度データが分布平均輝度データバッファ304dに記憶される。そして、ステップS7で、分布輝度時間平均vd/を更新する。つまり、ステップS5で算出された現フレームの分布平均輝度vdを含む過去数秒分の分布平均輝度vdの平均値を算出し、算出された分布輝度時間平均vd/に対応する分布輝度時間平均データ304hをデータ記憶領域304に記憶(上書き)する。
【0116】
次に、ステップS9では、視線を検出する。つまり、CPU12aは、上述したように、第1カメラ14の撮影画像から運転者の視線方向を算出する。続いて、ステップS11では、注視輝度vgを計算する。ここでは、運転者の視線方向で決定される注視位置の注視輝度vgが、分布平均輝度データバッファ304dに記憶された現フレームの分布平均輝度データが示す分布平均輝度(輝度Tij)から算出される。そして、算出された注視輝度vgに対応する注視輝度データが注視輝度データバッファ304cに記憶される。
【0117】
さらに、ステップS13で、注視輝度時間平均vg/を更新する。ここでは、注視輝度データバッファ304cに記憶された現フレームの1つ手前のフレームの注視輝度vgを含む過去数秒分の注視輝度vgの平均値を算出し、算出された注視輝度時間平均vg/に対応する注視輝度時間平均データ304gをデータ記憶領域304に記憶(上書き)する。そして、ステップS15で、視線が対象装置を向いているかどうかを判断する。ここでは、CPU12aは、ステップS9で検出した視線方向に応じて、運転者が着目する表示装置(20a、20b、20c)を見ているかどうかを判断するのである。
【0118】
なお、ステップS15以降では、簡単のため、着目する表示装置(20a、20b、20c)の1つを対象装置とし、当該1つの対象装置についての処理のみを示している。したがって、実際には、ステップS15以降の処理は、各表示装置20a−20cについて実行されるのである。
【0119】
ステップS15で“YES”であれば、つまり視線が対象装置を向いている場合には、図14に示すステップS17に進む。一方、ステップS15で“NO”であれば、つまり視線が対象装置を向いていない場合には、図15に示すステップS35に進む。
【0120】
図14に示すステップS17では、当該対象装置についての装置注視モードがTRUEであるかどうかを判断する。ここでは、CPU12aは、注視フラグ304kを参照して、当該対象装置(表示装置20a、20b、20c)に割り当てられたビットのデータ値が「1」であるかどうかを判断する。後述するステップS35も同様である。ステップS17で“YES”であれば、つまり装置注視モードがTRUEであれば、対象装置を見ている状態が継続していると判断して、ステップS19で、分布輝度時間平均vd/からパネル目標輝度レベルLdを設定する。つまり、ステップS19では、CPU12aは、テーブルデータ304iに含まれるテーブル18bを参照して、ステップS7で算出した分布輝度時間平均データ304hが示す分布輝度時間平均vd/に対応するパネル目標輝度レベルLdを決定する。
【0121】
続いて、ステップS21では、パネル輝度レベルLがパネル目標輝度レベルLdよりも大きく、かつパネル輝度レベルLが1(最低値)よりも大きいかどうかを判断する。ステップS21で“YES”であれば、つまりパネル輝度レベルLがパネル目標輝度レベルLdよりも大きく、かつパネル輝度レベルLが1よりも大きければ、ステップS23で、パネル輝度レベルLを1減算して(L=L−1)、ステップS3に戻る。つまり、ステップS23では、パネル輝度レベルLがパネル目標輝度レベルLdに一致される、または近づけられる。このことは、後述するステップS27についても同様である。
【0122】
一方、ステップS21で“NO”であれば、つまりパネル輝度レベルLがパネル目標輝度レベルLd以下である、または、パネル輝度レベルLが1である、或いは、その両方である場合には、ステップS25で、パネル輝度レベルLがパネル目標輝度レベルLdよりも小さく、かつパネル輝度レベルLが5(最大値)よりも小さいかどうかを判断する。
【0123】
ステップS25で“NO”であれば、つまりパネル輝度レベルLがパネル目標輝度レベルLd以上、または、パネル輝度レベルLが5(最大値)である、或いは、その両方である場合には、そのままステップS3に戻る。つまり、かかる場合には、パネル輝度レベルLが最大値または最小値であり、増大または減少できないか、パネル輝度レベルLとパネル目標輝度レベルLdとが一致するため、パネル輝度レベルLを調整する必要がないのである。一方、ステップS25で“YES”であれば、つまりパネル輝度レベルLがパネル目標輝度レベルLdよりも小さく、かつパネル輝度レベルLが5よりも小さい場合には、ステップS27で、パネル輝度レベルLを1増加させて(L=L+1)、ステップS3に戻る。
【0124】
また、ステップS17で“NO”であれば、つまり当該対象装置についての注視モードがFALSEであれば、当該対象装置を注視していない状態から注視した状態に変化したと判断して、ステップS29で、当該対象装置についての装置注視モードをTRUEに設定する。つまり、ステップS29では、CPU12aは、注視フラグ304kにおいて、運転者が注視する表示装置20a、20b、20cに割り当てられたビットにデータ値「1」を設定し、他のビットにデータ値「0」を設定する。
【0125】
続くステップS31では、注視輝度時間平均vg/からパネル目標輝度レベルLTを決定する。ここでは、装置注視モードがTRUEであるため、CPU12aは、テーブルデータ304iに含まれるテーブル18cを参照して、パネル目標輝度レベルLTを決定する。そして、ステップS33では、パネル輝度レベルLにパネル目標輝度レベルLTを設定して(L=LT)、ステップS3に戻る。
【0126】
上述したように、視線が対象装置を向いていない場合には、ステップS15で“NO”となり、図15に示すステップS35で、装置注視モードがTRUEであるかどうかを判断する。ステップS35で“NO”であれば、つまり装置注視モードがFALSEであれば、対象装置を注視していない状態が継続していると判断して、そのままステップS39に進む。一方、ステップS35で“YES”であれば、つまり装置注視モードがTRUEであれば、対象装置を注視していた状態から当該対象装置を注視していない状態に変化したと判断して、ステップS37で、装置注視モードをFALSEに設定して、ステップS39に進む。
【0127】
ステップS39では、注視輝度時間平均vg/からパネル目標輝度レベルLFを決定する。ここでは、装置注視モードがFALSEであるため、CPU12aは、テーブルデータ304iに含まれるテーブル18dを参照して、パネル目標輝度レベルLFを決定する。そして、ステップS41で、パネル輝度レベルLにパネル目標輝度レベルLFを設定して、図13に示したステップS3に戻る。
【0128】
なお、図示は省略するが、ステップS23、S27、S33およびS41で、パネル輝度レベルLが設定されると、CPU12aは、図11に示すテーブル18aに基づいて、そのパネル輝度レベルLに対応する輝度(cd/m2)で発光するように、対象装置のコントローラないしドライバを駆動する。
【0129】
図16には、この実施例の輝度制御装置10を動作させた場合の例を示す。図16に示すように、区間Aおよび区間Cでは、注視対象は車載表示装置20(表示装置20a、20b、20c)以外である。区間Bでは、注視対象は表示装置20a、20b、20cのいずれかである。分布輝度時間平均vd/および注視輝度時間平均vg/は、図16に示すように、時間に従って変化したとものとする。上述したように、注視対象が変化するため、装置注視モードは、区間AではFALSEに設定され、区間Bに入ってからTRUEに設定(変化)され、その後、区間Cに入って再びFALSEに設定(変化)される。このような場合においては、パネル輝度レベルは、初期値LINIT(=5)から時間tに従って変化する。
【0130】
また、上述したように、装置注視モードがTRUEとFALSEとで、参照するテーブル(18c、18d)が異なる。したがって、装置注視モードがFALSEの場合には、図16の左側に示すように、注視輝度時間平均vg/に応じてパネル目標輝度レベルLFが決定される。一方、装置注視モードがTRUEの場合には、図16の右側に示すように、注視輝度時間平均vg/に応じてパネル目標輝度レベルLTが決定される。
【0131】
図16に示すように、区間Aおよび区間Cでは、上述したように、注視輝度時間平均vg/に応じて目標輝度レベルLFが決定され、パネル輝度レベルL(表示装置20a−20cの輝度)が設定(変化)される。したがって、反射やグレアの発生を抑制しながらも、急なパネル注視に備えて、注視輝度時間平均vg/が高い場合には、パネル輝度レベルLが上昇される。また、区間Bでは、装置注視モードになると、このとき、注視輝度時間平均vg/に応じてパネル目標輝度レベルLTが決定され、パネル輝度レベルLが設定される。したがって、まず見易い輝度に設定される。その後、当該装置以外(車外を含む)に視線を移動した後に、順応による妨害が残らないように、分布輝度時間平均vd/に応じてパネル目標輝度レベルLDが決定され、パネル輝度レベルLが段階的に設定(変化)される。
【0132】
ただし、図16に示す例では、区間Bにおいては、分布輝度時間平均vd/に応じて決定されるパネル目標輝度レベルLDは変化しない(LD=2)。このため、区間Bにおいては、パネル輝度レベルLは、装置注視モードがTRUEになったときに、パネル目標輝度レベルLTに応じて一旦上昇した後、パネル目標輝度レベルLDに近づくように低下され、その後、パネル目標輝度レベルLDに設定される。
【0133】
この実施例によれば、車載表示装置の発光による反射やグレアを回避するとともに、運転者の眼の順応を考慮して車載表示装置の輝度を制御するので、適切に明るさを調整できる。したがって、快適な運転環境を提供することができる。」

「【図1】



「【図2】



「【図10】



「【図11】



「【図12】



「【図13】



「【図14】



「【図15】



「【図16】



引用発明の認定
前記1において摘記した記載事項をまとめると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「車載表示装置の輝度制御装置10であって、輝度制御装置10は、第1カメラ14、第2カメラ16およびデータベース(DB)18が接続されたコンピュータ12を含み(【0035】)、
コンピュータ12は、CPU12aおよびRAM12bを含み、第1カメラ14は、運転者の視線方向を検出するために用いられ、第2カメラ16は、運転者が視認可能な範囲についての輝度分布を検出するために用いられ(【0037】)、
第1カメラ14は、運転者の顔画像を撮影し、その撮影された顔画像から当該運転者の視線を検出するものであり(【0077】)、

RAM12bは、プログラム記憶領域302およびデータ記憶領域304を含み、プログラム記憶領域302は、車載表示装置20の輝度制御プログラムを記憶し、輝度制御プログラムは、全体処理プログラム302a、視線検出プログラム302b、注視輝度検出プログラム302c、環境輝度分布検出プログラム302d、分布輝度算出プログラム302e、および輝度レベル制御プログラム302fなどによって構成され(【0090】)、
データ記憶領域304には、顔画像データバッファ304a、環境輝度データバッファ304b、注視輝度データバッファ304cおよび分布平均輝度データバッファ304dが設けられ、確率分布データ304e、視線データ304f、注視輝度時間平均データ304g、分布輝度時間平均データ304h、テーブルデータ304iおよび輝度レベルデータ304jが記憶され、さらに、注視フラグ304kが設けられ(【0094】)、
テーブルデータ304iは、DB18から読み出してRAM12bに記憶された各テーブル18a、18b、18c、18dについてのデータであり(【0101】)、
テーブル18aは、パネル輝度レベルLに対応する輝度(cd/m2)を示し、パネル輝度レベルLは5段階(1−5)で表され、各レベルLに対応する輝度の数値が記述されたものであって、パネル輝度レベルLが決まると、車載表示装置20(表示装置20a、20b、20c)の輝度が決定されるものであり(【0102】)、
テーブル18bは、分布輝度時間平均vd/(cd/m2)の範囲に対応して、パネル目標輝度レベルLdが記述されたものであって、運転者が車載表示装置20を注視している場合に参照され、パネル目標輝度レベルLdでパネル輝度レベルLが決定されるものであり(【0103】)、
テーブル18cは、注視輝度時間平均vg/(cd/m2)の範囲に対応して、パネル目標輝度レベルLTが記述されたものであって、装置注視モードがTRUEの場合に参照され、運転者が車載表示装置20を注視していない状態から注視した場合に、パネル目標輝度レベルLTでパネル輝度レベルLが決定されるものであり(【0104】)、
テーブル18dは、注視輝度時間平均vg/(cd/m2)の範囲に対応して、パネル目標輝度レベルLFが記述されたものであって、装置注視モードがFALSEの場合に参照され、運転者が車載表示装置20を注視していない場合に、パネル目標輝度レベルLFでパネル輝度レベルLが決定されるものであり、運転者が車載表示装置20を注視していない場合には、このテーブル18dを用いて、注視輝度に応じて車載表示装置20の輝度が低下されるため、反射およびグレアを回避(抑制)することができ(【0107】)、
ここで、反射とは、車載表示装置20を含む車室内照明による運転時の視認性の妨害要因であって、車室内照明がフロントガラスに写り込むことであり(【0042】)、
また、車載表示装置20の輝度を低下させると、フロントガラスにインパネ102などの表示内容が映ってしまうのを防止することができ(【0040】)、

CPU12aは、輝度制御処理を開始すると、ステップS1で、装置注視モードをFALSEに設定するとともに、パネル輝度レベルLに初期値(L=LINIT)を設定し(【0113】)、
ステップS3で、CPU12aは、第2カメラ16からの撮影画像データから得られる画素毎の輝度を用いて小領域Rij毎の輝度Tijを算出することにより、環境輝度分布を求め、求めた環境輝度分布に対応する環境輝度分布データを環境輝度データバッファ304bに記憶し(【0114】)、
ステップS5で、ステップS3で計測した環境輝度分布(輝度Tij)と、確率分布データ304eが示す重みwijとから分布平均輝度vdが算出され、対応する分布平均輝度データが分布平均輝度データバッファ304dに記憶され(【0115】)、
ステップS7で、ステップS5で算出された現フレームの分布平均輝度vdを含む過去数秒分の分布平均輝度vdの平均値を算出し、算出された分布輝度時間平均vd/に対応する分布輝度時間平均データ304hをデータ記憶領域304に記憶(上書き)し(【0115】)、
ステップS9で、CPU12aは、第1カメラ14の撮影画像から運転者の視線方向を算出し(【0116】)、
ステップS11で、運転者の視線方向で決定される注視位置の注視輝度vgが、分布平均輝度データバッファ304dに記憶された現フレームの分布平均輝度データが示す分布平均輝度(輝度Tij)から算出され、算出された注視輝度vgに対応する注視輝度データが注視輝度データバッファ304cに記憶され(【0116】)、
ステップS13で、注視輝度データバッファ304cに記憶された現フレームの1つ手前のフレームの注視輝度vgを含む過去数秒分の注視輝度vgの平均値を算出し、算出された注視輝度時間平均vg/に対応する注視輝度時間平均データ304gをデータ記憶領域304に記憶(上書き)し(【0117】)、
ステップS15で、CPU12aは、ステップS9で検出した視線方向に応じて、運転者が着目する表示装置を見ているかどうかを判断するものであり(【0117】)、

ステップS15で“YES”であれば、つまり視線が対象装置を向いている場合には、ステップS17に進み(【0119】)、
ステップS17で、当該対象装置についての装置注視モードがTRUEであるかどうかを判断し、“YES”であれば、対象装置を見ている状態が継続していると判断して、ステップS19で、CPU12aは、テーブルデータ304iに含まれるテーブル18bを参照して、ステップS7で算出した分布輝度時間平均データ304hが示す分布輝度時間平均vd/に対応するパネル目標輝度レベルLdを決定し(【0120】)、
ステップS21では、パネル輝度レベルLがパネル目標輝度レベルLdよりも大きく、かつパネル輝度レベルLが1(最低値)よりも大きいかどうかを判断し、“YES”であれば、ステップS23で、パネル輝度レベルLを1減算して(L=L−1)、ステップS3に戻り(【0121】)、
ステップS21で“NO”であれば、ステップS25で、パネル輝度レベルLがパネル目標輝度レベルLdよりも小さく、かつパネル輝度レベルLが5(最大値)よりも小さいかどうかを判断し(【0122】)、
ステップS25で“NO”であれば、そのままステップS3に戻り、ステップS25で“YES”であれば、ステップS27で、パネル輝度レベルLを1増加させて(L=L+1)、ステップS3に戻り(【0123】)、
ステップS17で“NO”であれば、当該対象装置を注視していない状態から注視した状態に変化したと判断して、ステップS29で、当該対象装置についての装置注視モードをTRUEに設定し(【0124】)、
ステップS31で、CPU12aは、テーブルデータ304iに含まれるテーブル18cを参照して、パネル目標輝度レベルLTを決定し、ステップS33で、パネル輝度レベルLにパネル目標輝度レベルLTを設定して(L=LT)、ステップS3に戻り(【0125】)、

ステップS15で“NO”であれば、つまり視線が対象装置を向いていない場合には、ステップS35に進み(【0119】)、
ここで、ステップS15で“NO”であるときは、運転者が前方(車外)を見ている場合であり(【0019】)、
ステップS35で、装置注視モードがTRUEであるかどうかを判断し、“NO”であれば、対象装置を注視していない状態が継続していると判断して、そのままステップS39に進み、ステップS35で“YES”であれば、対象装置を注視していた状態から当該対象装置を注視していない状態に変化したと判断して、ステップS37で、装置注視モードをFALSEに設定して、ステップS39に進み(【0126】)、
ステップS39で、CPU12aは、テーブルデータ304iに含まれるテーブル18dを参照して、パネル目標輝度レベルLFを決定し、ステップS41で、パネル輝度レベルLにパネル目標輝度レベルLFを設定して、ステップS3に戻り(【0127】)、
ステップS23、S27、S33およびS41で、パネル輝度レベルLが設定されると、CPU12aは、テーブル18aに基づいて、そのパネル輝度レベルLに対応する輝度(cd/m2)で発光するように、対象装置のコントローラないしドライバを駆動する(【0128】)、
車載表示装置の輝度制御装置10。」


第5 対比及び判断
1 対比
本願発明と引用発明を対比する。

(1) 引用発明の「車載表示装置の輝度制御装置10」は、「車載表示装置」の「輝度」を「制御」する「装置」であるから、本願発明の「表示制御装置」に相当する。
よって、本願発明と引用発明は、「表示制御装置」の発明である点で一致する。

(2) 引用発明の「第1カメラ14は、運転者の顔画像を撮影するものであ」るところ、引用発明の「運転者」、「撮影」した「顔画像」及び「第1カメラ14」は、それぞれ、本願発明の「車両に搭乗した乗員」、「検知した情報」及び「検知情報取得部」に相当する。
よって、本願発明と引用発明は、「車両に搭乗した乗員を検知した情報を取得する検知情報取得部」を備える点で一致する。

(3) 以下のア及びイより、本願発明と引用発明は、「前記検知情報取得部が取得した情報に基づいて前記乗員の視線を検出し、検出した前記乗員の視線が予め設定した範囲内に位置している場合に、前記乗員が前記車両の前方を注視していると判定する注視判定部」を備える点で一致する。

ア 引用発明は、「ステップS9で、CPU12aは、第1カメラ14の撮影画像から運転者の視線方向を算出」するものであるところ、引用発明の「第1カメラ14の撮影画像」、「運転者の視線方向」及び「算出」は、それぞれ、本願発明の「前記検知情報取得部が取得した情報」、「前記乗員の視線」及び「検出」に相当する。
よって、本願発明の「注視判定部」と引用発明の「CPU12a」は、「前記検知情報取得部が取得した情報に基づいて前記乗員の視線を検出」する点で共通する。

イ 引用発明は、「ステップS15で、CPU12aは、ステップS9で検出した視線方向に応じて、運転者が着目する表示装置を見ているかどうかを判断するものであ」り、「ステップS15で“NO”であるときは、運転者が前方(車外)を見ている場合であ」る。
すなわち、引用発明は、「ステップS15」において、「ステップS9で検出した視線方向」が車載表示装置の存在する範囲にあるか否かを判断し、結果が“NO”であれば、「運転者が前方(車外)を見ている」とするものである。
ここで、運転者が視認する範囲は、論理的に、車載表示装置の存在する範囲と車載表示装置の存在しない範囲に二分されるから、「ステップS15で“NO”であるとき」、すなわち「視線方向」が車載表示装置の存在する範囲にないと判断した場合は、運転者は車載表示装置の存在しない範囲を視認していることになる。
以上をまとめると、引用発明は、「ステップS15」において、「ステップS9で検出した視線方向」が車載表示装置の存在する範囲にあるか否かを判断し、当該「視線方向」が車載表示装置の存在する範囲にないと判断した場合、すなわち当該「視線方向」が車載表示装置の存在しない範囲にある場合、「運転者が前方(車外)を見ている」とするものであり、引用発明の「車載表示装置の存在しない範囲」及び「運転者が前方(車外)を見ているとする」ことは、それぞれ、本願発明の「予め設定した範囲」及び「前記乗員が前記車両の前方を注視していると判定する」ことに相当する。
よって、本願発明の「注視判定部」と引用発明の「CPU12a」は、「検出した前記乗員の視線が予め設定した範囲内に位置している場合に、前記乗員が前記車両の前方を注視していると判定する」点で共通する。

(4) 以下のア及びイより、本願発明と引用発明は、「前記注視判定部の判定結果を参照し、前記乗員が前記車両の前方を注視していると判定された場合に、予め設定した領域に前記車両に搭載された車載ディスプレイの映像情報が映り込むのを抑制した表示条件で、前記映像情報の表示制御を行う表示制御部」を備える点で一致する。

ア 引用発明は、「ステップS15で“NO”であれば、」「ステップS35に進み」、その後の「ステップS39で、CPU12aは、テーブルデータ304iに含まれるテーブル18dを参照して、パネル目標輝度レベルLFを決定し、ステップS41で、パネル輝度レベルLにパネル目標輝度レベルLFを設定し」、「S41で、パネル輝度レベルLが設定されると、CPU12aは、テーブル18aに基づいて、そのパネル輝度レベルLに対応する輝度(cd/m2)で発光するように、対象装置のコントローラないしドライバを駆動する」ものである。
そして、引用発明において、「テーブル18dは、」「パネル目標輝度レベルLFが記述されたものであって、」「このテーブル18dを用いて、注視輝度に応じて車載表示装置20の輝度が低下されるため、反射およびグレアを回避(抑制)することができ、」「ここで、反射とは、車載表示装置20を含む車室内照明による運転時の視認性の妨害要因であって、車室内照明がフロントガラスに写り込むことであ」り、「車載表示装置20の輝度を低下させると、フロントガラスにインパネ102などの表示内容が映ってしまうのを防止することができ」るものである。

イ 引用発明において「ステップS15で“NO”であ」る場合は、前記(3)イで説示したとおり、本願発明において「前記注視判定部の判定結果を参照し、前記乗員が前記車両の前方を注視していると判定された場合」に相当する。
また、引用発明における「フロントガラス」、「インパネ102などの表示内容」及び「映ってしまう」は、本願発明における「予め設定した領域」、「前記車両に搭載された車載ディスプレイの映像情報」及び「映り込む」に相当するから、引用発明において、「テーブル18dを用いて」「車載表示装置20の輝度が低下され」、「反射」を「回避(抑制)する」ことは、本願発明において、「予め設定した領域に前記車両に搭載された車載ディスプレイの映像情報が映り込むのを抑制した表示条件」とすることに相当する。
そして、引用発明において、「S41で、パネル輝度レベルLが設定されると、CPU12aは、テーブル18aに基づいて、そのパネル輝度レベルLに対応する輝度(cd/m2)で発光するように、対象装置のコントローラないしドライバを駆動する」ことは、本願発明において、「前記映像情報の表示制御を行う」ことに相当する。
よって、本願発明の「表示制御部」と引用発明の「CPU12a」は、「前記注視判定部の判定結果を参照し、前記乗員が前記車両の前方を注視していると判定された場合に、予め設定した領域に前記車両に搭載された車載ディスプレイの映像情報が映り込むのを抑制した表示条件で、前記映像情報の表示制御を行う」点で共通する。

2 判断
前記1の対比の結果をまとめると、引用発明は、本願発明の構成を全て含む。
よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。
また、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるともいえる。

3 請求人の主張について
(1) 主張の概要
請求人は審判請求書において、本願発明は、乗員が車両の前方を注視していると判定されたことに基づいて車載ディスプレイの映像情報の表示制御を行っているのに対して、引用文献1に記載された発明は、運転者が車載表示装置を注視しているかどうかの判断に基づいて車載表示装置の輝度制御を行っているから、本願発明は引用文献1に記載された発明でなく、本願発明は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものでない、という旨の主張をしている。

(2) 新規性に係る主張について
引用発明の認定
前記第4の2で認定したとおり、引用発明は、「ステップS15で、CPU12aは、ステップS9で検出した視線方向に応じて、運転者が着目する表示装置を見ているかどうかを判断するものであり」、「ステップS15で“NO”であれば、」「ステップS35に進み」、その後の「ステップS39で、CPU12aは、テーブルデータ304iに含まれるテーブル18dを参照して、パネル目標輝度レベルLFを決定し、ステップS41で、パネル輝度レベルLにパネル目標輝度レベルLFを設定し」、「S41で、パネル輝度レベルLが設定されると、CPU12aは、テーブル18aに基づいて、そのパネル輝度レベルLに対応する輝度(cd/m2)で発光するように、対象装置のコントローラないしドライバを駆動する」ものである。
つまり、引用発明は、運転者が車載表示装置を注視しているかどうかの判断に基づいて車載表示装置の輝度制御を行うものであり、このこと自体は請求人が主張するとおりである。

イ 本願発明の解釈
他方、本願発明の「注視判定部」及び「表示制御部」について、請求項1の記載は次のとおりである。
「前記検知情報取得部が取得した情報に基づいて前記乗員の視線を検出し、検出した前記乗員の視線が予め設定した範囲内に位置している場合に、前記乗員が前記車両の前方を注視していると判定する注視判定部と、
前記注視判定部の判定結果を参照し、前記乗員が前記車両の前方を注視していると判定された場合に、予め設定した領域に前記車両に搭載された車載ディスプレイの映像情報が映り込むのを抑制した表示条件で、前記映像情報の表示制御を行う表示制御部」

また、請求項2の記載は次のとおりである(前記第2を参照。)。
「前記注視判定部における予め設定した範囲は、前記車両のフロントウィンドまたはサイドウィンドであることを特徴とする請求項1記載の表示制御装置。」

さらに、本願発明の「注視判定部」について、本願明細書の【0022】の記載は次のとおりである。
「【0022】
注視判定部102は、検知情報取得部101から撮像画像を取得する(ステップST1)。注視判定部102は、ステップST1で取得した撮像画像の解析を行い、運転者の視線を検出する(ステップST2)。注視判定部102は、ステップST2で検出した運転者の視線が、予め設定した範囲内に位置しているか否か判定を行う(ステップST3)。ここで、予め設定した範囲とは、運転者が車両の前方を視認していると推定される範囲であり、例えばフロントウィンドおよびサイドウィンドが配置された範囲等である。この場合、ステップST3の判定では、注視判定部102は、運転者の視線がフロントウィンドまたはサイドウィンドの配置範囲内である場合に、運転者の視線が予め設定された範囲内に位置していると判定する。」

請求項1において「予め設定した範囲」を定義づける記載はなく、請求項1における「予め設定した範囲」と「予め設定した領域」は、異なる用語である以上、異なるものを示していると認められる。そして、本願明細書における「予め設定した範囲」の唯一の例は、「フロントウィンドおよびサイドウィンドが配置された範囲」であるが、特許請求の範囲において「予め設定した範囲」が「車両のフロントウィンドまたはサイドウィンド」であることが限定されているのは、請求項1ではなく請求項2である。
以上を総合的に考慮すると、請求項1における「予め設定した範囲」には、何ら限定がなく、任意に設定された範囲を含むと解釈すべきである。

ウ 本願発明と引用発明の同一性
前記イで示したとおり、請求項1における「予め設定した範囲」には、何ら限定がなく、任意に設定された範囲を含むと解釈すべきであるから、前記アで示したとおり、引用発明は、運転者が車載表示装置を注視しているかどうかの判断に基づいて車載表示装置の輝度制御を行うものであったとしても、本願発明と引用発明に構成上の差違はない。
すなわち、前記1(3)イで示したとおり、引用発明は、「ステップS15」において、「ステップS9で検出した視線方向」が車載表示装置の存在する範囲にあるか否かを判断し、当該「視線方向」が車載表示装置の存在しない範囲にあれば、「運転者が前方(車外)を見ている」とするものであり、引用発明の「車載表示装置の存在しない範囲」及び「運転者が前方(車外)を見ているとする」ことは、それぞれ、本願発明の「予め設定した範囲」及び「前記乗員が前記車両の前方を注視していると判定する」ことに相当する。
よって、本願発明は引用文献1に記載された発明でないとの請求人の主張は、採用することができない。

(3) 進歩性に係る主張について
ア 本願発明の解釈
審判請求書における請求人の主張は、全体にわたって、本願発明において乗員が車両の前方を注視していると判定することと、引用発明において運転者が車載表示装置を注視しているかどうか判断することが異なることを前提としたものとなっている。
前記(2)イで示したとおり、請求項1における「予め設定した範囲」には、何ら限定がなく、任意に設定された範囲を含むと解釈すべきであるから、この前提には誤りがある。
しかし、請求人は、「予め設定した範囲」とは、令和元年8月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項2(前記第2を参照。)で限定したように「車両のフロントウィンドまたはサイドウィンド」であることを前提とした主張をしているとも考えられるので、ここでは、念のため、「予め設定した範囲」が「車両のフロントウィンドまたはサイドウィンド」であると限定解釈できるとしたうえで、本願発明の進歩性を検討する。

イ 本願発明を限定解釈した場合の引用発明との相違点
「予め設定した範囲」が「車両のフロントウィンドまたはサイドウィンド」であると限定解釈した本願発明と、引用発明との相違点は、次のとおりである。

<相違点>
本願発明は、乗員の視線が車両のフロントウィンド又はサイドウィンドに位置している場合に、乗員が車両の前方を注視していると判定して映像情報の表示制御を行うものであるのに対して、引用発明は、運転者が車載表示装置を注視していない場合に、運転者が前方を見ていると判断して車載表示装置の輝度制御をするものである点。

ウ 相違点についての判断
運転者の顔を撮影した画像に基づいて、運転者の視線がフロントガラスに一致するか、車載表示装置に一致するか、サイドミラー等に一致するかを区別して認識し、フロントガラスに一致する場合は運転者が前方を見ていると判断することは、原査定において引用文献3として示された特開2006−3787号公報の【0054】、【0055】及び【図3】に記載されているように、周知技術である。
引用発明は、運転者が前方を見ている場合に車載表示装置の輝度を低下させるものであるから(引用文献1の【0019】を参照。)、「前方」の範囲を適宜の範囲に集約する動機を当業者は有していたというべきである。よって、引用発明に前記周知技術を適用して、前記相違点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

<特開2006−3787号公報の記載>
「【0054】
画像認識処理部14bは、室内カメラ17によって撮影された画像に対する画像認識処理をおこない、鑑賞者(例えば、運転手)の視線方向を認識する処理部であり、具体的には、鑑賞者(運転手)の頭部の画像を基準画像(図3参照)と比較し、鑑賞者(運転手)の視線が何処に向いているかを認識する。
【0055】
より詳細には、運転手の頭部の画像が図3に示す視線方向「1」と一致する場合には、フロントガラス越しに前方を見ていると認識され、視線方向「3」と一致する場合には、右方向(例えば、サイドミラーなど)を見ていると認識される。また、運転手の頭部の画像が視線方向「2」と一致する場合には、表示部12を見ていると認識され、表示部12に対する鑑賞者の視線が検出されることとなる。」

「【図3】



エ 本願発明を限定解釈した場合の進歩性
前記ウで示したとおり、本願発明において「予め設定した範囲」が「車両のフロントウィンドまたはサイドウィンド」であると限定解釈したとしても、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
よって、本願発明は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものでないとの請求人の主張は、採用することができない。

4 小括
以上検討のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。
また、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるともいえる。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができず、また、本願発明は、同法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-09-30 
結審通知日 2021-10-05 
審決日 2021-10-18 
出願番号 P2018-522256
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G09G)
P 1 8・ 121- Z (G09G)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 居島 一仁
特許庁審判官 岸 智史
濱本 禎広
発明の名称 表示制御装置、表示装置、車載ディスプレイシステムおよび表示制御方法  
代理人 特許業務法人山王内外特許事務所  

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