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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1385713
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-16 
確定日 2022-05-26 
事件の表示 特願2016−225166号「マルチ荷電粒子ビーム描画装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年5月24日出願公開、特開2018−82120号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年11月18日の出願であって、以降の手続は次のとおりである。
令和2年 1月15日付け:拒絶理由通知書
令和2年 3月23日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 6月19日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和2年 8月25日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年11月 2日付け:同年8月25日提出の手続補正書による補正の却下の決定、拒絶査定
令和3年 2月16日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和3年 9月30日付け:拒絶理由通知書(以下、同書で通知された拒絶理由を「当審拒絶理由」という。)
令和3年12月 3日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。)の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりのものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「複数の穴が形成され、前記複数の穴を荷電粒子ビームが通過することによりマルチビームを形成するアパーチャ部材と、
前記マルチビームのうち、それぞれ対応するビームのオンオフを切り替える複数のブランカが配置されたブランキングアパーチャアレイと、
描画対象の基板が載置され、XY方向に移動可能なステージと、
前記マルチビームの焦点位置を調整する対物レンズと、
前記マルチビームの非点収差を補正するコイルと、
前記ステージに設けられ、前記マルチビームのうち1本のビームのみ通過させ、他のビームを遮蔽する検査アパーチャと、
前記マルチビームを偏向し、前記マルチビームを前記検査アパーチャ上でXY方向にスキャンして前記検査アパーチャを通過するビームを順次切り替える偏向器と、
前記検査アパーチャを通過したビームのビーム電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器により検出された、前記マルチビームのスキャンに応じて変動するビーム電流に基づいて、前記マルチビームの所定領域内の複数のビームを含むビーム画像を作成し、前記ビーム画像の特徴量を算出し、前記特徴量に基づいて前記対物レンズ又は前記コイルを制御する制御部と、
を備え、
前記検査アパーチャは、前記マルチビームのうち1本のビームのみが通過する貫通孔が設けられ、他のビームが散乱される散乱層と、該貫通孔より径が大きい開口部が設けられた吸収層とを有し、該吸収層は、該吸収層に侵入したビームの少なくとも一部を吸収し、
前記描画対象の基板上での前記マルチビームのビームピッチをP、前記マルチビームの1本のビームのサイズをSとした場合、前記貫通孔の径φ1はS<φ1<P−Sであることを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム描画装置。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は、概略、次の理由を含むものである。
本件補正前の請求項1の「マルチ荷電粒子ビーム描画装置」における「ビーム電流」には、1本のビームにつき多数の数値が観念される量が想定されていると解されるところ、貫通孔として円形の部材を用いていることや、ビームの形状(楕円形状)を測定するものでもあることから、ナイフエッジによる方法が用いられているとは考え難く、当業者であっても、本願の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、このような「マルチ荷電粒子ビーム描画装置」における「ビーム電流」を検出できる「電流検出器」を実施できるとはいえないから、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断
当審は、以下のとおり、当業者といえども、本願発明の「前記検査アパーチャを通過したビームのビーム電流を検出する電流検出器」であって、「ビーム」が「荷電粒子ビーム」であるとともに、「検査アパーチャ」には「径φ1」の「貫通孔」が設けられており、「前記電流検出器により検出された、前記マルチビームのスキャンに応じて変動するビーム電流に基づいて、前記マルチビームの所定領域内の複数のビームを含むビーム画像を作成し、前記ビーム画像の特徴量を算出し、前記特徴量に基づいて前記対物レンズ又は前記コイルを制御する」ことが可能な程度に「ビーム電流を検出」できる「電流検出器」(以下、このような電流検出器を「本件電流検出器」という。)を、本願の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、実施することができないと判断する。

1 本願の本件補正後の明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)に記載された技術的事項
(1)本願明細書等には、本件電流検出器に関して、以下の記載がある(下線は当審が付した。)。
ア 「【0016】
図1は本発明の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。本実施形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の他の荷電粒子ビームでもよい。
【0017】
この描画装置は、描画対象の基板24に電子ビームを照射して所望のパターンを描画する描画部Wと、描画部Wの動作を制御する制御部Cとを備える。
【0018】
描画部Wは、電子ビーム鏡筒2及び描画室20を有している。電子ビーム鏡筒2内には、電子銃4、照明レンズ6、アパーチャ部材8、ブランキングアパーチャアレイ10、縮小レンズ12、制限アパーチャ部材14、対物レンズ16、偏向器17、及び非点補正コイル18が配置されている。
【0019】
描画室20内には、XYステージ22が配置される。XYステージ22上には、描画対象の基板24が載置されている。描画対象の基板24は、例えば、ウェーハや、ウェーハにエキシマレーザを光源としたステッパやスキャナ等の縮小投影型露光装置や極端紫外線露光装置(EUV)を用いてパターンを転写する露光用のマスクが含まれる。
【0020】
また、XYステージ22には、基板24が載置される位置とは異なる位置に、マルチビーム検査用アパーチャ40(以下、「検査アパーチャ40」と記載する)及び電流検出器50を有するマルチビーム用ビーム検査装置が配置されている。検査アパーチャ40は、調整機構(図示略)により高さが調整可能となっている。検査アパーチャ40は、基板24と同じ高さ位置に設置されることが好ましい。」

イ 「【0035】
検査アパーチャ40を作製する場合、例えば、PtやW等の阻止能の高い重金属の薄膜を準備し、FIB(集束イオンビーム)を用いたエッチングにより、下面側に開口部44を形成する。次に、FIBを用いたエッチングにより、開口部44の底部に、開口部44よりも径の小さい貫通孔42を形成する。重金属薄膜のうち、開口部44が形成された部分が吸収層43に相当し、貫通孔42が形成された部分が散乱層41に相当する。なお、加工の順番はこれに限らない。
【0036】
基板24上でのマルチビームのビームピッチをP、(1本の)ビームのサイズをSとした場合、貫通孔42の径φ1はS<φ1<P−Sとすることが好ましい。径φ1がビームサイズSより大きいと、1本の電子ビームが全て貫通孔42を通過(無散乱透過)することができ、S/N比を高くすることができる。径φ1はビームを見つけやすいよう、また、異物により穴が塞がらないようなるべく大きくすることが好ましい。
【0037】
一方、径φ1がP−Sより小さいと、マルチビームをスキャンした際に、隣り合う2本のビーム(の一部)が同時に貫通孔42を通過することがない。従って、貫通孔42は、マルチビームのうち、1本の電子ビームのみを通過させることができる。例えば、図6に示すように、電子ビームB1が貫通孔42を通過する際、電子ビームB1の隣の電子ビームB2は貫通孔42に重ならない。・・・
【0040】
貫通孔42及び開口部44を通過した電子ビーム(図3の電子ビームB、図6の電子ビームB1)は、電流検出器50に入射し、ビーム電流が検出される。電流検出器50には、例えばSSD(半導体検出器(solid-state detector))を用いることができる。電流検出器50による検出結果は制御計算機32に通知される。」

ウ 「【0041】
次に、図7に示すフローチャートを用いて、最適な焦点位置を求めて焦点合わせを行う方法を説明する。・・・
【0045】
測定領域のブランカによりビームオンとされた複数のビームを偏向器17でXY方向に偏向させて、検査アパーチャ40をスキャンし、貫通孔42を通過する電子ビームを順次切り替える(ステップS14)。電流検出器50がビーム電流を検出する。
【0046】
制御計算機32は、電流検出器50により検出されたビーム電流を輝度に変換し、偏向器17の偏向量に基づいてビーム画像を作成し、画像解析を行う(ステップS15)。例えば、図8(a)に示すようなビーム画像が作成される。これは検査領域を左下(1,1)、4×4アレイとした場合の画像の一例である。
【0047】
図8(b)は、測定領域の近傍に常時オン欠陥のビームが存在する場合の画像を示している。ビームアレイ認識部62が測定領域に対応するビームアレイ領域を認識し、領域外の欠陥は無視される。例えば、検査領域が4×4アレイであることは予め決まっているため、ビームアレイ認識部62は、4×4アレイのサイズの領域内に含まれるビーム数が最も多くなるようにビームアレイを認識する。
【0048】
そして、特徴量算出部63が、ビーム画像の特徴量を算出する。具体的には、輝度分散算出部64が、ビーム画像の特徴量として輝度分散を算出する。
【0049】
このような検査を、予め設定された範囲内の複数のレンズ値の全てについて行う(ステップS13〜S16)。レンズ値を変えてスキャンすることで、図9に示すようなレンズ値毎のビーム画像が得られる。図10は、レンズ値と輝度分散との関係の一例を示す。
【0050】
焦点位置が最適値に近い程、ビーム画像のコントラストが高くなり、輝度の分散が大きくなる。そのため、最適レンズ値検出部66は、輝度分散が最大となるレンズ値を最適レンズ値として検出する(ステップS17)。レンズ制御回路36は、描画処理時に最適レンズ値を対物レンズ16に設定する。
【0051】
最適レンズ値検出部66は、検査により得られた輝度分散を関数フィッティングし、求めた関数の極大値となるレンズ値を最適レンズ値として検出してもよい。
【0052】
このように、本実施形態によれば、測定領域内の複数のビームをスキャンし、貫通孔42を通過する電子ビームを順次切り替えることで、ビーム画像を短時間に作成することができる。対物レンズ16のレンズ値を振って複数の焦点位置におけるビーム画像を作成し、各ビーム画像の輝度分散から、最適なレンズ値を短時間かつ高精度に求めることができる。
【0053】
本実施形態では、マルチビーム全体像の回転をキャンセルする処理は不要であるため、レンズの連動無しで焦点合わせを簡便な操作で行うことができる。」

エ 「【0056】
次に、非点収差を調整する方法を図12に示すフローチャートを用いて説明する。
【0057】
まず、ブランキングアパーチャアレイ10における測定領域(ビームオンする領域)を決定する(ステップS21)。XYステージ22を移動し、測定領域のビームを照射可能な位置に検査アパーチャ40を配置する(ステップS22)。
【0058】
コイル制御回路38が、非点収差を補正する非点補正コイル18の励磁電流値(非点補正コイル値)を変更・設定する(ステップS23)。後述するように、非点補正コイル値は、予め設定された範囲内の複数の値が可変に設定されることになる。
【0059】
レンズ制御回路36が、対物レンズ16の励磁電流値(レンズ値)を変更・設定する(ステップS24)。後述するように、レンズ値は、予め設定された範囲内の複数の値が可変に設定されることになる。
【0060】
測定領域のブランカによりビームオンとされた複数のビームを偏向器17でXY方向に偏向させて、検査アパーチャ40をスキャンし、貫通孔42を通過する電子ビームを順次切り替える(ステップS25)。電流検出器50がビーム電流を検出する。
【0061】
制御計算機32は、電流検出器50により検出されたビーム電流を輝度に変換し、偏向器17の偏向量に基づいてビーム画像を作成し、画像解析を行う(ステップS26)。楕円フィッティング部65が、ビーム画像内の各ビームの輪郭を検出し、楕円フィッティングを行い、楕円形(略円形)のビーム形状を抽出する。そして、楕円フィッティング部65は、特徴量として、楕円の長径と短径との比率を算出する。
【0062】
このような検査を、予め設定された範囲内の複数のレンズ値の全てについて、非点補正コイル値を変えながら行う(ステップS23〜S28)。
【0063】
非点補正コイル値が最適値に近い程、ビーム形状は真円に近くなり、レンズ値(焦点位置)を変えても楕円の長径と短径との比率は小さくなる。すなわち、非点補正コイル値毎の楕円の長径と短径との比率の分散は、非点補正コイル値が最適値に近い程、小さくなる。そのため、最適コイル値検出部67は、楕円の長径と短径との比率の分散が最小となる非点補正コイル値を最適非点補正コイル値として検出する(ステップS29)。コイル制御回路38は、描画処理時に最適非点補正コイル値(最適励磁電流値)を非点補正コイル18に設定する。
【0064】
このように、本実施形態によれば、測定領域の複数のビームをスキャンし、貫通孔42を通過する電子ビームを順次切り替えることで、ビーム画像を短時間に作成することができる。非点補正コイル18の非点補正コイル値及び対物レンズ16のレンズ値を振って、非点補正コイル値及び焦点位置が異なる複数のビーム画像を作成する。各ビーム画像内の楕円形状の個別ビームの長径と短径との比率を算出し、非点補正コイル値毎の比率の分散から、最適な非点補正コイル値を短時間かつ高精度に求めることができる。
【0065】
楕円の長径と短径との比率の代わりに、ビーム画像内の複数の楕円(楕円アレイ)の配列ピッチを特徴量として求めてもよい。ビーム画像内では、複数の楕円が直交する二軸上に配置されている。非点補正コイル値が最適値に近い程、第1軸上での第1ピッチと、第2軸上での第2ピッチとが近い値となり、レンズ値(焦点位置)を変えても第1ピッチと第2ピッチとの比率は小さくなる。すなわち、非点補正コイル値が最適値に近い程、非点補正コイル値毎の第1ピッチと第2ピッチとの比率の分散は小さくなる。そのため、最適コイル値検出部67は、第1ピッチと第2ピッチとの比率の分散が最小となる非点補正コイル値を最適値として検出する。
【0066】
多数のビームで構成されるマルチビームでは、最適な非点補正コイル値が領域によって異なる場合がある。1つの測定領域についてのみ最適非点補正コイル値を検出し、この非点補正コイル値を設定した場合、ほぼ真円のビーム領域がある一方で、扁平率の大きい楕円のビーム領域が存在し、マルチビーム内でビーム形状の違いが大きくなることがある。
【0067】
そのため、複数の測定領域に対して最適非点補正コイル値を検出し、複数の最適非点補正コイル値の中央値(又は平均値)を設定することが好ましい。これにより、マルチビーム全体において、非点収差を補正することができる。」

オ(ア)図4、図5、図9、図10は次のとおりである。



(イ)図4及び図5によれば、貫通孔42の形状は、上面側からみて、円形であると認められる。

(ウ)図9より、ビーム画像における各ビームの断面は、輪郭が略円形ないし略楕円形であって、その輪郭の内部に輝度のむらがあることが見て取れる。

(2)上記(1)によれば、本願明細書等には、本件電流検出器について、次の技術的事項が記載されていると認められる。
ア 本件電流検出器は、電子ビームを用いたマルチ荷電粒子ビーム描画装置に用いられる。この装置での描画対象の基板には、ウェーハや、ウェーハにエキシマレーザを光源としたステッパやスキャナ等の縮小投影型露光装置や極端紫外線露光装置(EUV)を用いてパターンを転写する露光用のマスクが含まれる。(【0016】〜【0020】)

イ 本件電流検出器は、貫通孔42及び開口部44を通過した電子ビームが入射することにより、ビーム電流を検出する。この電子ビームは、複数のビームを偏向器17でXY方向に偏向させて、検査アパーチャ40をスキャンし、円形の貫通孔42を通過したものである。(【0040】・【0045】・【0060】・上記(1)オ(イ))。

ウ 本件電流検出器は、焦点合わせを行う際、ビーム画像の輝度分散が算出できるようなビーム電流を検出する。ここで、ビーム画像は、検出されたビーム電流を輝度に変換して、偏向器17の偏向量に基づいて作成されたものであり、輝度に変換されたビーム電流は、その断面の輪郭の内部に輝度のむらがある。ビーム画像の輝度分散は、輝度分散算出部64によって算出される。(【0046】・【0048】・上記(1)オ(ウ))

エ 本件電流検出器は、非点収差を調整する際、ビーム画像内の各ビームの輪郭を形成する楕円の長径と短径との比率を検出できるようなビーム電流を検出する。ここで、ビーム画像は上記ウと同様であり、輝度に変換されたビーム電流は、その輪郭が略円形ないし略楕円形である。楕円の長径と短径との比率は、楕円フィッティング部65によって算出される。(【0061】・上記(1)オ(ウ))

オ 本件電子検出器の構成について、検査アパーチャ40に形成された貫通孔42(その径φ1は、ビームピッチP、ビームのサイズをSとすると、S<φ1<P−Sが好ましい。)の先にSSD(半導体検出器(solid-state detector))を配置した構成が例示されているが、その余の具体例の記載はない。(【0035】・【0036】・【0040】)

2 判断
(1)ア 本件電流検出器は、上記1(2)アによれば、電子ビームを検出するものであって、その径にはμmよりも相当小さいオーダーのものも想定されていると解される。また、本件電流検出器は、同イによれば、複数のビームを偏向器17でXY方向に偏向させて、検査アパーチャ40をスキャンし、円形の貫通孔42を通過した電子ビームのビーム電流を検出するものであるところ、本願発明に「貫通孔の径φ1」及び「前記電流検出器により検出された、前記マルチビームのスキャンに応じて変動するビーム電流に基づいて」と特定されていることからみて、本件電流検出器は、円形の貫通孔を用いつつも、いわゆるナイフエッジ法に類似した原理によって、電子ビームの断面内のビーム電流分布を検出するものであると解される(なお、請求人も、令和3年12月3日提出の意見書において、本件電流検出器がナイフエッジを用いてビームの断面分布を計測する技術に類似する旨主張している。)。
他方で、本件電流検出器は、同ウ及びエによれば、検出されたビーム電流を輝度に変換すると、その断面の輪郭内部の輝度のむらが、それから算出される輝度分散により焦点合わせを行える程度に検出され得るとともに、その輪郭を形成する楕円の長径と短径との比率が、非点収差の調整を行える程度に検出され得るものであることが必要である。
このように、本件電流検出器は、μmよりも相当小さいオーダーの径を持ち得る1本の電子ビームに対して、その断面内の電流分布を、円形の貫通孔を用いつつも上記のナイフエッジ法に類似した原理によって、位置的にも強度的にも相当程度の精度で検出するものであるといえる。

イ しかしながら、一般に、ナイフエッジ法は、鋭利な端面の金属板をビームの経路に置き、ビームをナイフエッジに直角に偏向した場合の到達電流信号を測定するものであるから、電子ビームの径を測定可能であることは理解できるとしても、電子ビームの断面内の電流分布を直ちに測定できるものとはいえず、このことは、本件電流検出器のように貫通孔の形状が円形である場合には、さらに明らかである。加えて、本件電流検出器が取り扱うビームは、電子ビームが想定されている以上、2次電子やコンタミネーションによる誤差の影響も考えられるところであるし、また、当該ビームは、μmよりも相当小さいオーダーの径を持ち得ることに加えて、その径よりも相当程度小さい検出精度が要求されることから、ナイフエッジそれ自体を、散乱の影響を十分に防ぐように加工できるかといった問題もある。しかも、本件電流検出器は、電子ビームの断面内の電流分布を、単に検出できればよいというものではなく、位置的にも強度的にも相当程度の精度で検出することを要するものである。
このように、本件電流検出器を実現するためには、相当な困難があると考えられるにもかかわらず、本願明細書等には、本件電流検出器の構造について、上記1(2)オのとおり、検査アパーチャ40に形成された貫通孔42(その径φ1は、ビームピッチP、ビームのサイズをSとすると、S<φ1<P−Sが好ましい。)の先にSSD(半導体検出器(solid-state detector))を配置した構成が例示されているにとどまるし、電子ビームのスキャンについても、同イのとおり、XY方向に行うと記載されているにとどまる。そして、このような構成により、上記の困難を克服できるとする技術常識が存在するとも認められない。

ウ よって、本願明細書等の記載及び技術常識に基づいて、当業者が、本件電流検出器を作れたり使用できたりするとはいえない。

(2)これに対し、請求人は、令和3年12月3日提出の意見書において、概略、電流検出器によるビーム電流の検出値は、貫通孔を通過するビームの割合に応じて変化し、マルチビームをXY方向にスキャンし、検出したビーム電流を輝度に変換することで、マルチビームの所定領域内の複数のビームを含むビーム画像を作成でき、各ビームの輪郭を検出することも可能となると主張するが、上記(1)で判断したとおりである。

(3)したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-03-24 
結審通知日 2022-03-29 
審決日 2022-04-11 
出願番号 P2016-225166
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H01L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 吉野 三寛
松川 直樹
発明の名称 マルチ荷電粒子ビーム描画装置  
代理人 重野 剛  
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