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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02G
管理番号 1385729
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-01 
確定日 2022-07-13 
事件の表示 特願2018−121723「密封装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月31日出願公開、特開2019− 17237、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成30年6月27日(パリ条約による優先権主張2017年7月3日(以下、「優先日」という。)、中華人民共和国)の出願であって、令和元年6月24日付けで拒絶理由通知がされ、同年9月30日に意見書が提出され、令和2年2月21日付けで拒絶理由通知がされ、同年5月22日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年10月28日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対して令和3年3月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、同年5月21日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされ、同年8月18日に上申書が提出され、同年11月19日付けで当審より拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がなされ、令和4年5月17日に意見書が提出されたものである。


第2 原査定の概要

原査定の概要は次のとおりである。

進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1
・引用文献等 1−4

・請求項 2−8
・引用文献等 1−6

<引用文献等一覧>
1.特開2009−136107号公報
2.特開2006−320161号公報
3.特開2011−83127号公報
4.特開平9−147649号公報
5.特開平9−284954号公報
6.特開2001−145237号公報


第3 当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由通知の概要は次のとおりである。

進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1−7
・引用文献等 1、2

・請求項 8
・引用文献等 1−3

<引用文献等一覧>
1.特開2009−136107号公報
2.特開平8−212858号公報
3.特開2001−145237号公報


第4 本願発明

本願請求項1〜8に係る発明(以下、「本願発明1」〜「本願発明8」といい、これらをまとめて「本願発明」という。)は、令和3年3月1日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された、次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
車体にワイヤハーネスを取り付けるための密封装置であって、該密封装置が本体部(10)を含んでおり、該本体部(10)が、
前記車体の表面に適合された形態を有する第1の表面であって、該第1の表面からスリーブ(20)が延在する前記第1の表面と、
該第1の表面とは反対側にあり、第1のワイヤハーネスのための第1の導管(33)と、第2のワイヤハーネスのための第2の導管(35)とを備えた第2の表面と
を有しており、前記第1の導管(33)及び前記第2の導管(35)の両方が前記スリーブ(20)の内部空洞に連通していること、並びに前記スリーブ(20)が、第1の案内溝(21)及び第2の案内溝(22)を備えており、前記第1の導管(33)を通過するワイヤハーネスが前記第1の案内溝(21)内を通して車両へ入り、前記第2の導管(35)を通過するワイヤハーネスが前記第2の案内溝(22)内を通して車両へ入ることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
中間体(34)が前記第2の表面から延在していること、並びに前記第1の導管(33)及び前記第2の導管(35)が、前記中間体(34)に結合されているとともに、前記中間体(34)の内部空洞を介して前記スリーブ(20)の前記内部空洞に連通していることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記第1の導管(33)及び前記第2の導管(35)が逆方向に延在していることを特徴とする請求項2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記第1の導管(33)の内部空洞の直径が、前記第2の導管(35)の内部空洞の直径とは異なっていることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項5】
前記第1の表面が密封ガスケット(40)を備えており、該密封ガスケットによって、前記本体部と前記車体の間の密封が維持され、前記密封ガスケット(40)が、前記スリーブ(20)を包囲しているとともに、前記第1の表面に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項6】
前記本体部(10)を前記車体に固定して取り付けることを可能とする留め具(23、24)が前記スリーブ(20)の外側の周縁部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項7】
当該密封装置が一体的に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項8】
前記第1のワイヤハーネスと前記第1の導管(33)の間及び前記第2のワイヤハーネスと前記第2の導管(35)の間に密封材料が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。」


第5 引用例、引用発明等

1 引用例1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由において引用され、当審拒絶理由通知で引用された、本願の第一国出願前に既に公知である、特開2009−136107号公報(平成21年6月18日公開。以下、これを「引用例1」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)

A 「【0013】
以下、本発明の一実施形態にかかるグロメット(保護部材に相当する)1を図1ないし図3を参照して説明する。本発明の一実施形態にかかるグロメット1は、図2に示すように、車両としての自動車等の車体を構成するパネル6に設けられた孔6aに取り付けられ、内側に前記自動車内に配索されるワイヤハーネス7を通す。パネル6は、例えば、エンジンルームEと車室Rとを隔てる。孔6aは、パネル6を貫通し、平面形状が円形に形成されている。

…中略…

【0015】
グロメット1は、ゴム等の弾性材料からなる。グロメット1は、パネル6との間を水密に保ち、該パネル6との間から車室R内に水等の水分(液体)が侵入するのを防止して、車室R内に配索されるワイヤハーネス7に水等の水分(液体)が付着するのを防止する。グロメット1は、図1等に示すように、グロメット本体2と、筒状部3と、第二の筒状部4とを一体に備え、全体としてT字状に形成されている。なお、筒状部3は、特許請求の範囲に記載の筒状部に相当する。」

B 「【0019】
筒状部3は、図1等に示すように、筒部本体31と、スリット32と、カバー部33とを備えている。筒部本体31は、円筒状に形成され、その長手方向中央がグロメット本体2の小径側端部2aと連なっている。筒部本体31の内径は、ワイヤハーネス7の外径より大きい。筒部本体31とグロメット本体2とは、略T字状に配されて互いに直交するように連結され、内側同士が互いに連通している。グロメット本体2がパネル6に取り付けられると、筒部本体31即ち筒状部3は車室R内に配され、内側にワイヤハーネス7を通してグロメット本体2内に通されたワイヤハーネス7を車室R側に導出する。このとき、筒状部3はパネル6と平行に配されるので、ワイヤハーネス7をパネル6(即ち車室Rの内壁)に沿って省スペースに配索することができる。
【0020】
スリット32は、筒部本体31の長手方向に沿って延設され、筒部本体31の全長に亘って設けられている。スリット32は、筒部本体31のグロメット本体2との連結部の反対側に設けられている。スリット32の幅は、ワイヤハーネス7の外径よりも狭い。筒部本体31の外壁を弾性変形させてスリット32を押し広げて、筒部本体31内にワイヤハーネス7が通される。」

C 「

図1」

D 以上、記載事項A〜Cから、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「車両としての自動車等の車体を構成するパネル6に設けられた孔6aに取り付けられるグロメット1であって、内側に前記自動車内に配索されるワイヤハーネス7を通し、(【0013】)
グロメット1は、パネル6との間を水密に保ち、該パネル6との間から車室R内に水等の水分(液体)が侵入するのを防止し、グロメット本体2と、筒状部3と、第二の筒状部4とを一体に備え、全体としてT字状に形成され、(【0015】)
筒状部3は、筒部本体31と、スリット32と、カバー部33とを備え、筒部本体31は、円筒状に形成され、その長手方向中央がグロメット本体2の小径側端部2aと連なっていて、筒部本体31とグロメット本体2とは、略T字状に配されて互いに直交するように連結され、内側同士が互いに連通していて、グロメット本体2がパネル6に取り付けられると、筒部本体31即ち筒状部3は車室R内に配され、内側にワイヤハーネス7を通してグロメット本体2内に通されたワイヤハーネス7を車室R側に導出し、(【0019】)
スリット32は、筒部本体31の長手方向に沿って延設され、筒部本体31の全長に亘って設けられていて、筒部本体31のグロメット本体2との連結部の反対側に設けられ、スリット32の幅は、ワイヤハーネス7の外径よりも狭く、筒部本体31の外壁を弾性変形させてスリット32を押し広げて、筒部本体31内にワイヤハーネス7が通される、(【0020】)
グロメット1。」

2 引用例2に記載された事項
当審拒絶理由通知において引用された、本願の第一国出願前に既に公知である、特開平8−212858号公報(平成8年8月20日公開。以下、これを「引用例2」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。

A 「【0022】このグロメット30は、ゴム等の弾性材料あるいは軟質樹脂等で一体成形されたもので、肉厚のグロメット本体33と、グロメット本体33のワイヤーハーネス挿通方向一端側に延出形成された薄肉筒状のワイヤーハーネス嵌合部41と、グロメット本体33のワイヤーハーネス挿通方向他端側に延出形成されたテーパ状のパネル導入壁37と、パネル導入壁37の基部外周に形成されたパネル嵌合溝(パネル嵌合部)35と、パネル導入壁37の先端に延設された円筒状の引張片39とを備える。」

B 「【0024】また、円筒状の引張片39は、ワイヤーハーネスの径よりもかなり大きい内径に形成され、ワイヤーハーネスに非接触な状態で把持できるようになっている。そして、引張片39の周壁に、ワイヤーハーネスを先端側から挿入可能な切欠45が2つ対称に形成されることにより、円筒状の引張片39が2つに分割されている。切欠45は、入口がワイヤーハーネスの径より狭いスリット45aからなり、奥がワイヤーハーネスの径と同等以上の径のワイヤーハーネス収容部(電線収容部)45bからなり、ワイヤーハーネス収容部45bの周縁45cは、補強のため、肉厚となっている。また、引張片39の先端外周には、把持しやすいように環状凸部39aが設けられている。」

C 「【0034】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1の発明によれば、引張片を引っ張ることで、パネル導入壁をパネル貫通孔内へ引き入れることができるので、電線を直接引っ張らずに、グロメットをパネル貫通孔に簡単に嵌合させることができる。したがって、電線嵌合部が電線によって引っ張られて、その根元部が引っ張り側に移動する、というようなことがなくなり、電線嵌合部の位置の移動により、電線が屈曲しづらくなるということが解消される。このため、パネル付近のスペースに制限があっても、電線を無理なく曲げることができ、他の部材との干渉を避けながら安定して電線を保持することができる。」

D 「

図1」

E 「

図4」

3 引用例3に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用され、当審拒絶理由通知において引用された、本願の第一国出願前に既に公知である、特開2001−145237号公報(平成13年5月25日公開。以下、これを「引用例3」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。

A 「【0025】上記形状としたグロメット10は、図3に示すように、小径筒部11を拡げ治具(図示せず)を用いて拡げた状態でワイヤハーネスW/Hを貫通させ拡径筒部12の先端開口19より引き出し、小径筒部11の先端とワイヤハーネスW/Hとにテープ25を巻き付けている。この状態で、グロメット10内にはシール剤26を充填している。」

B 「


図3」

4 引用例4に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した、本願の第一国出願前に既に公知である、特開2006−320161号公報(平成18年11月24日公開。以下、これを「引用例4」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。

A 「【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3は、本発明の第一実施形態に係るグロメット10を示し、該グロメット10は、自動車のエンジンルームX側と車室Y側とを仕切る車体パネルPに設けた貫通孔Hに通すワイヤハーネス30に外装される。
【0019】
前記グロメット10は、図1に示すように、エンジンルームX側に配索されるワイヤハーネス30の幹線31の外周を密着させて挿通する1つの幹線用小径筒部12と、拡径筒部13と、開閉可能な一対の巻付片16、17を樹脂で連続一体に成形してなる。
【0020】
前記拡径筒部13は、前記幹線用小径筒部12の一端に連続して形成されると共に、他端側に、前記貫通孔Hの周縁に係止される大径筒状の車体係止部14を形成している。該車体係止部14の外周には、貫通孔Hの周縁に嵌合する環状溝15を凹設している。
【0021】
前記一対の巻付片16、17は、前記拡径筒部13の先端の大径側開口13aの周縁13bに連続して突設されている。該巻付片16、17は、図1および図2(A)(B)(C)に示すように、中央部の傾斜部16c、17cと、該傾斜部16c、17cより上方に突設された円弧部16a、17aと、該傾斜部16c、17cより下方に突設された円弧部16b、17bと、閉鎖時に互いにラップする所要幅の閉じ代部16d、17dよりなる。前記円弧部16a、17a、16b、17bは、前記拡径筒部13の軸線方向に対して直交方向の両側に延在するように突設されている。また、前記閉じ代部16d、17dは巻付片16、17それぞれの巻付け端部に形成され、前記傾斜部16c、17cと巻付け方向に連続する部分は平坦部16e、17eとし、前記円弧部16a、17a、16b、17bと巻付け方向に連続する部分は円弧状としている。
【0022】
前記構成のグロメット10を外装してワイヤハーネス30を前記貫通孔Hに挿通する作業は、まず、図2(A)に示すように前記巻付片16、17を開いた状態で、ワイヤハーネス30の幹線31をグロメット10の前記幹線用小径筒部12に挿通し、該幹線31をグロメット10の前記拡径部13の内部で上下方向に分岐する。
【0023】
次に、図2(B)(C)に示すように、巻付片16、17で前記分岐線31、32をくるむように、該巻付片16、17を閉鎖する。このとき、閉鎖された巻付片16、17の円弧部16a、17aにより上側の分岐線用小径筒部Aが形成され、円弧部16b、17bにより下側の分岐線用小径筒部Bが形成され、これら分岐線用小径筒部A、Bが前記分岐線32、33の外周にそれぞれ密着するように、前記閉じ代部16d、17dを所要寸法重ねてラップ部Dを形成する。
【0024】
次いで、幹線31と前記幹線用小径筒部12、分岐線32と前記分岐線用小径筒部A、分岐線33と分岐線用小径筒部Bに、それぞれ粘着テープTを巻きつけて端部をシールする。
最後に、車体パネルPの貫通孔Hに車室Y側からエンジンルームX側へとワイヤハーネス30を挿通し、グロメット10をエンジンルームX側から引っ張って、図3に示すように、前記車体係止部14の環状溝15を貫通孔Hの周縁に嵌合させて該グロメット10を貫通孔Hに係止する。」

B 「

図1」

C 「

図2」

D 「


図3」

5 引用例5に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した、本願の第一国出願前に既に公知である、特開2011−83127号公報(平成23年4月21日公開。以下、これを「引用例5」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。

A 「【0018】
以下、本発明のグロメットの実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図6に第一実施形態のグロメット1を示す。
グロメット1は図1に示すように、フロアパネルからなる車体パネルPの下面に沿って配索されるワイヤハーネスW/Hに取り付け、車体パネルPに穿設した貫通孔Hに下方から挿入して取り付けるものである。
【0019】
グロメット1はゴムまたはエラストマーで成形しており、ワイヤハーネスW/Hを構成する電線群Wを密着させて貫通させる小径筒部2と、該小径筒部2の一端に連続して拡径する拡径筒部3と、拡径筒部3の大径側開口の周縁に設けた環状の厚肉大径部4と、該厚肉大径部4と拡径筒部3との外周面に環状に設けた車体係止凹部5とを連続的に備えている。前記車体係止凹部5は、拡径筒部側の側面5aと、厚肉大径部側の側面5bと、両側面5aと5bに挟まれた底面5cを備えている。該車体係止凹部5に車体パネルPの貫通孔Hの周縁が挿入係止され、この状態で前記底面5cが貫通孔Hの内周面に圧接するシール面となる。」

B 「


図1」

C 「


図3」

6 引用例6に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した、本願の第一国出願前に既に公知である、特開平9−147649号公報(平成9年6月6日公開。以下、これを「引用例6」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。

A 「【0003】図13は従来のグロメットを示すものである。図13において、筒状に形成されたグロメット本体31の一端には、ワイヤハーネスを構成する電線束(図示せず)を挿通するための電線挿通部32が連設され、グロメット本体31の外周面には車両等の隔壁35のパネル孔36に嵌着される凹状の環状溝33が周設されている。図14に示す如くに、グロメット本体31の内周面31aには開口31bの全周縁から電線挿通部32の方向へ凹条部34が複数形成されている。凹条部34を形成してグロメット本体31の厚さを全体的に薄くすることにより、小さい押圧力でグロメット本体31を容易に撓ますことができる。」

B 「

図13」

C 「

図14」

7 引用例7に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した、本願の第一国出願前に既に公知である、特開平9−284954号公報(平成9年10月31日公開。以下、これを「引用例7」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。

A 「【0007】
【発明の実施の形態】次に本発明に係わる防水用グロメットの実施の形態(以下、「実施例」という)を添付図面に基づいて説明する。図1は防水用グロメットの分解斜視図を示すものであり、図2、図3、図4、図5はグロメットの一実施例の使用状態を示す縦断面図であり、図2は取り付け前を示し、図3は取り付け中を示し、図4は取り付け後(電線締め付け前)を、図5は電線締め付け後を示す。防水用グロメット1は、取付板4に設けた取付ネジ孔5に取り付けるためのネジ部3を設けた筒状のグロメット本体2と、該グロメット本体2の前記ネジ部3と反対側に設けられた雌ネジ部6に嵌り合う雄ネジ部7を設けたブッシュ締付体8と、前記グロメット本体2と締付体8との間に介装されるブッシュ9と、取付板4に接する面に設けたOリング状のシール材10とからなり、該シール材10のつぶししろ11と反対側の内側に内方に向けてリブ12を形成し、前記グロメット本体2に前記シール材10のリブ12と係合する凹部13を形成してシール材10をグロメット本体2に固定してなるものである。」

B 「

図2」

C 「

図3」

D 「

図4」


第6 対比・判断

1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「グロメット1」は、「パネル6との間を水密に保ち、該パネル6との間から車室R内に水等の水分(液体)が侵入するのを防止」するものであるから、本願発明1の「車体にワイヤハーネスを取り付けるための密封装置」に相当する。また、引用発明の「グロメット本体2」は、本願発明1の「本体部(10)」に対応するものといえるから、引用発明と本願発明1とは、“車体にワイヤハーネスを取り付けるための密封装置であって、該密封装置が本体部を含んで”いる点で一致する。

イ 引用発明の「パネル6」の「エンジンルームE」側の表面は、本願発明1の「車体の表面に適合された形態を有する第1の表面」といえる。
また、引用発明の「第二の筒状部4」は、本願発明1の「スリーブ(20)」に相当するから、引用発明と本願発明1とは、“本体部”が、“前記車体の表面に適合された形態を有する第1の表面であって、該第1の表面からスリーブが延在する前記第1の表面”を有している点で一致する。

ウ 引用発明の「筒状部3」は、「筒部本体31と、スリット32と、カバー部33とを備え、筒部本体31は、円筒状に形成され、その長手方向中央がグロメット本体2の小径側端部2aと連なっていて、筒部本体31とグロメット本体2とは、略T字状に配されて互いに直交するように連結され、内側同士が互いに連通していて、グロメット本体2がパネル6に取り付けられると、筒部本体31即ち筒状部3は車室R内に配され、内側にワイヤハーネス7を通してグロメット本体2内に通されたワイヤハーネス7を車室R側に導出」するものであるから、本願発明1の「ワイヤハーネスのための第2の導管(35)」に対応し、また、当該「筒状部3」は、上記イの認定を踏まえると、「エンジンルームE」側の表面の反対側、すなわち、本願発明1の「第1の表面とは反対側にあ」る「第2の表面」側にあるものといえるから、引用発明と本願発明1とは、下記の点(相違点1)で相違するものの、“本体部”が、“該第1の表面とは反対側にあり、ワイヤハーネスのための導管を備えた第2の表面”を有している点で一致する。

エ 引用発明の「筒状部3」は、「筒部本体31と、スリット32と、カバー部33とを備え、筒部本体31は、円筒状に形成され、その長手方向中央がグロメット本体2の小径側端部2aと連なってい」ることから、上記ウの認定を踏まえると、“前記導管が前記スリーブの内部空洞に連通して”いるといえる。
また、引用発明は、「グロメット本体2がパネル6に取り付けられると、筒部本体31即ち筒状部3は車室R内に配され、内側にワイヤハーネス7を通してグロメット本体2内に通されたワイヤハーネス7を車室R側に導出」するものであるから、“前記導管を通過するワイヤハーネスが車両へ入る”ものといえ、以上を総合すると、引用発明と本願発明1とは、下記の点(相違点2)で相違するものの、“前記導管が前記スリーブの内部空洞に連通しており、前記導管を通過するワイヤハーネスが車両へ入る”点で一致する。

オ 以上、ア〜エの検討から、引用発明と本願発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
車体にワイヤハーネスを取り付けるための密封装置であって、該密封装置が本体部を含んでおり、該本体部が、
前記車体の表面に適合された形態を有する第1の表面であって、該第1の表面からスリーブが延在する前記第1の表面と、
該第1の表面とは反対側にあり、ワイヤハーネスのための導管を備えた第2の表面とを有しており、前記導管が前記スリーブの内部空洞に連通しており、前記導管を通過するワイヤハーネスが車両へ入ることを特徴とする密封装置。

〈相違点1〉
本願発明1が、「第1のワイヤハーネスのための第1の導管(33)」を有し、「前記第1の導管(33)及び前記第2の導管(35)の両方が前記スリーブ(20)の内部空洞に連通している」のに対し、引用発明は、「筒部本体31とグロメット本体2とは、略T字状に配されて互いに直交するように連結され、内側同士が互いに連通していて、グロメット本体2がパネル6に取り付けられると、筒部本体31即ち筒状部3は車室R内に配され、内側にワイヤハーネス7を通してグロメット本体2内に通されたワイヤハーネス7を車室R側に導出」するものではあるが、「第1の導管(33)」及び「第2の導管(35)」を有するものではない点。

〈相違点2〉
本願発明1が、「前記スリーブ(20)が、第1の案内溝(21)及び第2の案内溝(22)を備えており、前記第1の導管(33)を通過するワイヤハーネスが前記第1の案内溝(21)内を通して車両へ入り、前記第2の導管(35)を通過するワイヤハーネスが前記第2の案内溝(22)内を通して車両へ入る」のに対し、引用発明の「グロメット1」は、「内側に前記自動車内に配索されるワイヤハーネス7を通」すものではあるが、「第1の案内溝(21)」及び「第2の案内溝(22)」を有するものではない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、先に相違点2について検討する。
本願発明は、車体にワイヤハーネスを取り付けるための密封装置に関するものであって(【0001】)、車両の生産中及び組み立て中には、通常、車体の内側と外側の間の電子的な接続又は電気的な接続を達成するために、ワイヤハーネスが車体を通過することが要求され、この目的のために、一般的には貫通孔が車体に設けられているとともに、密封装置が貫通孔に組み込まれており、したがってワイヤハーネスが密封装置を介して車体を通過し、密封装置の機能は、貫通孔の隙間を通して車両の外側の雨水が車両へ侵入することを回避するために貫通孔を密封することであり(【0002】)、従来技術では、適切な柔軟性を有するように、密封装置は一般的にEPDM材料で構成されていて、使用に際しては、密封装置は、電気ケーブルにおいて覆われており、例えば車体の金属薄板の貫通孔へスナップばめされ、スリーブの柔軟性により、密封は、車体の金属薄板との締まりばめを用いて達成されることが可能であり、従来技術における密封装置は、従来の車両では単にABS(アンチロックブレーキシステム)機能が設けられているだけであるとともに、車両のシャシについての十分な配置空間が存在するために、従来の車両において満足のいく技術的な効果を達成することができていたものの(【0003】)、快適性、経済性及び安全性についての継続的に高まる人々の要求に伴い、車両における電子製品のタイプも継続的に増大し、したがって異なる形状及び機能を有するワイヤハーネスを車体に取り付ける必要があり、例えば、近年では、伝動パーキングブレーキ(EPB)及びタイヤ空気圧監視システム(TPMS)が次第に一般的となってきて、従来技術における密封装置が用いられる場合には、車体の金属薄板に多数の貫通孔を設ける必要があり、これにより、車両シャシのレイアウトの困難性が増大するだけではなく、車体の不十分な密封のおそれも増大し、加えて、従来の密封装置においてソフトなEPDM材料を用いることで、スリーブが車体の金属薄板に締まりばめされており、したがって、車両の組み立て中に操作が困難であるとともに生産効率が満足のいかないものであることを背景とし(【0004】)、この目的のため、車両技術開発の条件に適合することができるとともに従来技術における上述の欠点を克服することが可能な密封装置を提供する必要があることを解決しようとする課題とするものである。(【0005】)
一方、引用発明は、「グロメット本体2と、筒状部3と、第二の筒状部4とを一体に備え、全体としてT字状に形成され」るものであって、上記第5 1の記載事項Cの図1をみても明らかなように、「第二の筒状部4」側が2方向に分かれるものではなく、また当該「第二の筒状部4」にさらに2つの案内溝を設けて、2つの方向へワイヤハーネスを分岐するよう構成する動機付けを欠くものであり、上記相違点2に係る構成は、上記第5に示した、引用例2〜7にも記載も示唆もされていない。
そして、上記相違点2に係る構成は、当該技術分野において、本願優先日前における周知な構成とまではいうことはできず、したがって、上記その余の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用例2〜7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2〜8について
本願発明2〜8は、請求項1を直接または間接的に引用するものであって、本願発明1の上記相違点2に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用例2〜7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 原査定についての判断

上記第6に示したとおり、本願発明1〜8は、上記第6 1(1)に示した、相違点2に係る構成を有するものであり、当該構成は、原査定における引用文献1〜6(それぞれ上記第5の引用例1、4〜7、3に対応)には記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないので、本願発明1〜8は、当業者であっても、原査定における引用文献1〜6に基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-06-29 
出願番号 P2018-121723
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02G)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山崎 慎一
須田 勝巳
発明の名称 密封装置  
代理人 中村 真介  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 石田 大成  
代理人 鈴木 友子  
代理人 江崎 光史  

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