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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1385759
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-30 
確定日 2022-06-16 
事件の表示 特願2017− 1710「冷却装置および冷却方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月19日出願公開、特開2018−112810〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成29年1月10日の出願であって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。

令和2年 7月27日付け:拒絶理由通知
令和2年10月 2日 :意見書・手続補正書 提出
令和3年 1月29日付け:拒絶査定
令和3年 3月30日 :審判請求書・手続補正書 提出
令和4年 1月19日付け:拒絶理由通知
令和4年 3月23日 :意見書・手続補正書 提出

第2 本願発明

令和4年3月23日提出の手続補正書によって補正(以下,「本件補正」という。)された特許請求の範囲の請求項1は,以下のとおりである。

「冷却対象が配置された内部空間を構成し,前記冷却対象と対向する面を有する管形状の筐体と,
前記内部空間に配置され,前記内部空間の空気を吸引して前記内部空間を流れる気流を生じさせることによって前記冷却対象を冷却するファンと,
前記筐体の面に配置され,前記冷却対象に向かって突出し,前記気流を前記冷却対象に向かう方向に変更する突起部と
を備え,
前記突起部は,前記冷却対象を基準として前記気流の上流側に配置された第1の突起物と,前記冷却対象を基準として前記気流の下流側に配置された第2の突起物とを有し,
前記冷却対象は,前記気流の上流側に位置する第1の端と,前記気流の下流側に位置する第2の端とを有し,
前記第1の突起物は,前記冷却対象の第1の端の付近に配置され,
前記第2の突起物は,前記冷却対象の第2の端の付近に配置され,
前記ファンは,前記第2の突起物よりも前記気流の下流側に配置されている
冷却装置。」

第3 拒絶の理由

令和4年1月19日付けで当審が通知した拒絶理由の理由1は,次のとおりのものである。

本願の特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に記載された周知技術ならびに引用文献3に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1:実願昭57−110504号(実開昭59−16195号)の
願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム
(昭和59年1月31日特許庁発行)
引用文献2:特開2013−131649号公報
引用文献3:特開2008−197136号公報(原査定の引用文献1)

第4 引用文献

1 引用文献1の記載及び引用発明

ア 引用文献1には,以下の記載がある(下線は,当審が付加した。以下同様。)。

(ア)「【考案の詳細な説明】
この考案は,冷却を必要とする電子部品を実装した電子機器の改良に関するものである。
従来の電子機器は第1図に示すように,まず回路基板(1)上に冷却を必要とする電子部品(2)を実装し,次にこの回路基板(1)を筐体(3)内に層状に配置し,ファン(4)により筺体(3)外の冷却空気を矢印に示すように取り入れ筐体(3)内部の発熱を排出ダクト(5)から外部へ放出するのが一般的であった。
しかしながら,このような構成においては各各の回路基板(1)の隙間を流れる冷却空気量予測が出来ない事に加え,冷却空気量の分配が出来ないために,冷却空気量が筐体(3)内部の最も熱クリティカルな部品により決定されてしまう。また,従来方式では冷却に際しての冷却空気流れが層流となっており,既知のようにこの層流の熱伝達率は乱流の熱伝達率より低く冷却効率が悪い。さらに,対面する基板間では放射や冷却空気を介しての熱伝達が起こり,相互の基板上素子の影響を受けてしまう。
すなわち従来の電子機器では,筐体(3)内部の電子部品(2)の冷却に際して冷却空気の分配が出来ず,また冷却空気流れが層流であるために必要以上の冷却空気を送り込まなければならないことに加え,各基板間で熱交換が起こるという問題があった。
この考案は,このような点を考慮してなされたものであり,従来と同様に,冷却空気を筐体(3)外部より導入し電子部品(2)を冷却する方式であるが,筐体(3)内部に冷却空気分配用機構や乱流発生機構を持ち,各基板(1)それぞれを独立した筐体(3)内部の空間部(a)に収納する事で,筐体(3)内部へ送り込む冷却空気量を必要最小限にととめ,各基板間で熱の交換が起こらないようにした冷却効率の高い電子機器を得ることを目的としたものである。
以下第2図,第3図を用いてこの考案の実施例を詳細に説明する。
第2図は,この考案による電子機器の実施例であり(1)は回路基板,(2)は回路基板(1)上の電子部品,(4)はファン,(5)は排出ダクト,(6)は採入ダクト,(7)はプレート,(8)はボルト,(3)は内部に採入ダクト(6),排出ダクト及び空間部aを有する筐体である。また前記採入ダクト(6)及び排出ダクト(5)は,流量分配用絞りを兼ねているため各々の空間部aと連結する流路形状を変化させている。さらに空間部a壁面には,回路基板取付け用溝(b)及び乱流発生用突起部cが設けてある。
以下第3図に示すこの電子機器の断面図によりさらに詳しく説明する。
まず,筐体(3)内部に,第2図及び第3図に示すような,壁面に突起部cを持ち乱流発生を可能とした所定数の空間部aを設け,さらにそれぞれの回路基板(1)上の電子部品(2)の発熱量より冷却空気の流量配分を考え,それに見合った形状の流量調整用の採入ダクト(6)及び排出ダクト(5)を設ける。
ここで,第3図において,ダクト形状について説明する。断面形状が円のダクトであり1回路基板(1b)が最も多くの流量を必要としているとすれば,この回路基板に通じる穴径を他より大きくする。この穴径は,必要流量と圧力損失の計算より求める。
また,この時採入ダクト(6)での静圧分布を考慮する必要がある。例えば,回路基板(1a)と(lc)に同じ流量を流すためには採入ダクト静圧が回路基板(1c)側が高いので,穴径は1回路基板(1a)に通じるものの方を回路基板(lc)に通じるものより大きくする必要がある。
次に,このようにして製作された筐体(3)内部の空間部(alK,第2図の矢印dが示す方向に,電子部品(2)を実装した回路基板(1)を挿入する。この時,回路基板(1)の保持は,筐体(3)に設けた回路基板取付け用棒(b)等によって行なう。
回路基板(1)の挿入後,挿入面をプレート(7)で覆いボルト(8)で筐体(3)に固定し,フィン(4)等によって採入ダクト(6)より採り入れた冷却空気を絞り部によって流量分配させながら突起部(c)で流れを乱流としながら電子部品(2)を冷却した後排出ダクト(5)より放出されるようにする。
したがって,電子部品(2)を実装した回路基板(1)には,それぞれの冷却に必要な空気量を分配出来,また冷却空気流れが乱流であるために熱伝達率を大きくする事が出来,さらに各基板間での熱交換が起こらない,冷却に必要な空気量を最小限にとどめた冷却効率が良く信頼性の高い電子機器を提供することができる。」(当審注「フィン(4)」は,「ファン(4)」の誤記と認められる。)

(イ)図2


(ウ)図3


上記図3によれば,乱流発生用突起部cは,冷却対象となる電子部品(2)を乗せた回路基板(1a,1b,1c)と対向する空間部a壁面に設けられていると認められる。

(エ)引用発明

上記(ア)〜(ウ)より,特に,下線部に着目すると,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「冷却を必要とする電子部品を実装した電子機器であって,
筐体(3)内部に冷却空気分配用機構や乱流発生機構を持ち,各基板(1)それぞれを独立した筐体(3)内部の空間部(a)に収納する事で,筐体(3)内部へ送り込む冷却空気量を必要最小限にととめ,各基板間で熱の交換が起こらないようにした冷却効率の高い電子機器であり,
電子機器は,回路基板,電子部品,ファン,排出ダクト,採入ダクト,プレート,ボルト,内部に採入ダクト,排出ダクト及び空間部aを有する筐体を備えており,
採入ダクト及び排出ダクトは,流量分配用絞りを兼ねているため各々の空間部aと連結する流路形状を変化させており,
空間部a壁面には,回路基板取付け用溝(b)及び乱流発生用突起部cが設けてあり,乱流発生用突起部cは,冷却対象となる電子部品(2)を乗せた回路基板(1a,1b,1c)と対向する空間部a壁面に設けられており,
ファンによって採入ダクトより採り入れた冷却空気を絞り部によって流量分配させながら突起部(c)で流れを乱流としながら電子部品を冷却した後排出ダクトより放出されるようにする
電子機器。」

2 引用文献2の記載及び周知技術

ア 引用文献2の記載

引用文献2には,以下の記載がある。

(ア)図6


(イ)「【0033】
図6は,放熱構造体100の図4のB−B矢視における断面図である。言い換えれば,図6は,X軸に直交し,図4のB−Bにより示される一点鎖線を含む平面で,放熱構造体100を切り取ったときの断面の一部を示す図である。なお,図6においては,理解を容易にするため,ネジ63とネジ受け65と放熱器70の端部72と放熱器70の端部73とを適宜破線で示している。
【0034】
空間201は,天板10とフロントパネル20とシャシ31と背面パネル41と放熱器70とにより囲まれる空間である。一方,空間202は,フロントパネル20とシャシ31とシャシ32と背面パネル42と通風穴33とにより囲まれる空間である。
【0035】
回路基板81は,ネジ63が,回路基板81に空けられた図示しないネジ穴を介して,シャシ31に設けられたネジ受け65に固定されることにより,シャシ31に固定される。また,放熱器70は,天板10の内側の面と接触もしくは近接し,シャシ31の中央部の内側の面と接触もしくは近接し,背面パネル41の内側の面と接触もしくは近接する。
【0036】
かかる構成によれば,放熱器70は,発熱部品92から発生した熱を,空間202から筐体150の外部に導くダクトの一部を構成することになる。このため,放熱器70は,内側の面の近傍に発生する気流を利用して,外側の面から吸収した熱を内側の面から効率的に放出することになる。
【0037】
回路基板82は,シャシ32の中央部分の内側の平面を覆うように形成される。回路基板82は,ネジ63が,回路基板82に空けられた図示しないネジ穴を介して,シャシ32に設けられたネジ受け65に固定されることにより,シャシ32に固定される。また,発熱部品92は,回路基板82に実装される。
【0038】
かかる構成によれば,ファン50の順方向の回転(筐体150の内部の空気を筐体150の外部に流す回転)により,空間202内の空気は,通風穴33,天板10と背面パネル41と放熱器70とにより構成されるダクト,通風穴43,の順に流れ,筐体150の外部に放出される。つまり,空間202内の空気は,矢印301および矢印302により示される方向に流れる。一方,発熱部品91から放熱器70に伝達された熱は,矢印303により示される方向に向かって放出される。
【0039】
以上説明したように,本実施形態に係る放熱構造体100によれば,発熱部品92から発生した熱が,ファン50の回転により生じた気流に乗って,筐体150の外部に放出されるとともに,発熱部品91から発生した熱が,この気流が通過する経路を囲むダクトの一部をなす放熱器70により筐体150の外部に放出される。このように放熱器70は,ダクト機能を備える。従って,1個のファン50で,互いに異なる空間に存在する複数個の発熱部品を同時に冷却することが可能である。つまり,本実施形態によれば,放熱器70を,発熱部品92が存在する空間202内の熱を筐体150の外部に導くダクトの一部として利用することにより,発熱部品92をファンによる風で冷却するとともに,空間201に存在する発熱部品91と接触する放熱器70を強制風冷して発熱部品91を冷却する構造を,簡易且つ小スペースで実現することができる。」

イ 引用文献2に開示された周知技術

上記ア(ア)および(イ)の記載の特に下線部に着目すると,引用文献2には,以下の周知技術が開示されているといえる。

「空間201は,天板10とフロントパネル20とシャシ31と背面パネル41と放熱器70とにより囲まれる空間であり,
空間202は,フロントパネル20とシャシ31とシャシ32と背面パネル42と通風穴33とにより囲まれる空間であって,
ファン50の順方向の回転(筐体150の内部の空気を筐体150の外部に流す回転)により,空間202内の空気は,筐体150の外部に放出され,
1個のファン50で,互いに異なる空間に存在する複数個の発熱部品を同時に冷却することが可能であること。」

3 引用文献3の記載及び技術的事項

ア 引用文献3の記載

引用文献3には,以下の記載がある。

(ア)図1


(イ)「【0040】
補助導風体5はシャーシ14aに対して後方へ離隔する位置を横線状の頂部としてシャーシ14aに対する距離が導風体4側で漸次短くなる略し字形をなし,基板15とシャーシ14aとの間の通気路を狭め,導風体4により基板15及びシャーシ14a間の通気路へ導風された空気を実装部品15aへ導風するように構成されている。」


イ 引用文献3に開示された技術的事項

上記ア(ア)および(イ)より,引用文献3には,冷却対象となる実装部品15aへ導風するために補助導風体5(突起部)を冷却対象となる実装部品15aの位置を基準として配置する技術的事項が開示されているといえる。

第5 当審の判断

1 対比

ア 本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)と,引用発明とを対比する。

(ア)引用発明は,「各基板(1)それぞれを独立した筐体(3)内部の空間部(a)に収納」し,「空間部a壁面には,回路基板取付け用溝(b)及び乱流発生用突起部cが設けてあり,乱流発生用突起部cは,冷却対象となる電子部品(2)を乗せた回路基板(1a,1b,1c)と対向する空間部a壁面に設けられ」た「冷却効率の高い電子機器であ」るとされている。

ここで,引用発明の「冷却対象となる電子部品(2)」,「各基板(1)それぞれを」「収納」した「独立した筐体(3)内部の空間部(a)」,「冷却対象となる電子部品(2)を乗せた回路基板(1a,1b,1c)と対向する空間部a壁面」,「冷却効率の高い電子機器」は,それぞれ,本願発明1の「冷却対象」,「冷却対象が配置された内部空間」,「冷却対象と対向する面」,「冷却装置」に相当する。

また,上記ア(イ)の図2および上記ア(ウ)の図3を参照すれば,「独立した筐体(3)内部の空間部(a)」は,略直方体の管形状であると認められる。

したがって,引用発明と,本願発明1とは,「冷却対象が配置された内部空間を構成し,前記冷却対象と対向する面を有する管形状の筐体」「を備え」た「冷却装置」である点で共通しているといえる。

(イ)引用発明において,「ファンによって採入ダクトより採り入れた冷却空気を絞り部によって流量分配させながら突起部(c)で流れを乱流としながら電子部品を冷却し」ており,「乱流発生用突起部cは,冷却対象となる電子部品(2)を乗せた回路基板(1a,1b,1c)と対向する空間部a壁面に設けられて」いるとされている。

ここで,引用発明の「ファン」は,外部の空気を「採入ダクト」を介して「採り入れ」て,「空間部a」に「流量分配させながら」「流れを乱流としながら電子部品を冷却し」ているから,引用発明の「ファン」も,本願発明1の「ファン」と同様に「空気を吸引して前記内部空間を流れる気流を生じさせることによって前記冷却対象を冷却」しているといえる。

したがって,本願発明1と引用発明とは,「空気を吸引して前記内部空間を流れる気流を生じさせることによって前記冷却対象を冷却するファン」「を備え」ている点で共通するといえる。

しかし,本願発明1の「ファン」は,「前記内部空間に配置され,前記内部空間の空気を吸引して」いるのに対し,引用発明の「ファン」は,内部空間に配置されておらず,内部空間の空気を吸引していない点で相違している。

(ウ)引用発明において,「乱流発生用突起部cは,冷却対象となる電子部品(2)を乗せた回路基板(1a,1b,1c)と対向する空間部a壁面に設けられており,」「突起部(c)で流れを乱流としながら電子部品を冷却し」ているとされている。

ここで,引用発明の「空間部a壁面に設け」られた「乱流発生用突起部c」(あるいは,単に「突起部(c)」)は,本願発明1の「前記筐体の面に配置され,前記冷却対象に向かって突出し」た「突起部」に対応する。

また,引用発明において,「突起部(c)で流れを乱流としながら電子部品を冷却」することは,すなわち,気流を乱流とすることで,気流を,冷却対象となる電子部品に向かう方向に変更しているといえるから,引用発明の「突起部(c)」も,本願発明1の「突起部」と同様に「前記筐体の面に配置され,前記冷却対象に向かって突出し,前記気流を前記冷却対象に向かう方向に変更」しているといえる。

したがって,本願発明1と引用発明とは,「前記筐体の面に配置され,前記冷却対象に向かって突出し,前記気流を前記冷却対象に向かう方向に変更する突起部」「を備え」ている点で共通するといえる。

2 一致点および相違点

本願発明1と,引用発明とは,以下(1)の点で一致し,以下(2)の点で相違する。

(1)一致点

「冷却対象が配置された内部空間を構成し,前記冷却対象と対向する面を有する管形状の筐体と,
空気を吸引して前記内部空間を流れる気流を生じさせることによって前記冷却対象を冷却するファンと,
前記筐体の面に配置され,前記冷却対象に向かって突出し,前記気流を前記冷却対象に向かう方向に変更する突起部と
を備えた
冷却装置。」

(2)相違点

ア <相違点1>

本願発明1の「ファン」は,「前記内部空間に配置され,前記内部空間の空気を吸引」するものであって,「前記第2の突起物よりも前記気流の下流側に配置されている」のに対し,引用発明の「ファン」は,内部空間に配置されておらず,内部空間の空気を吸引しておらず,第2の突起物よりも前記気流の下流側に配置されていない点。

イ <相違点2>

本願発明1では,「突起部」が,「前記冷却対象を基準として前記気流の上流側に配置された第1の突起物と,前記冷却対象を基準として前記気流の下流側に配置された第2の突起物とを有し,前記冷却対象は,前記気流の上流側に位置する第1の端と,前記気流の下流側に位置する第2の端とを有し,前記第1の突起物は,前記冷却対象の第1の端の付近に配置され,前記第2の突起物は,前記冷却対象の第2の端の付近に配置されている」のに対して,引用発明では,冷却対象を基準とした配置となっていない点。

3 相違点について

上記相違点について,判断する。

(1)<相違点1>について

コンピュータ等の電子機器を冷却する冷却ファンを備えた冷却装置の技術分野において,冷却ファンを筐体内部の空間内に設けることは,本願出願前に周知の技術に過ぎないから,コンピュータ等の電子機器筐体のコンパクト化という周知の課題を解決するため,筐体外部に冷却ファンを設ける構成に代えて,筐体内部に冷却ファンを設ける当該周知技術を採用することは,当業者にとって容易に想到し得たものである。

また,上記第4の2イで述べたように,「空間201は,天板10とフロントパネル20とシャシ31と背面パネル41と放熱器70とにより囲まれる空間であり,
空間202は,フロントパネル20とシャシ31とシャシ32と背面パネル42と通風穴33とにより囲まれる空間であって,
ファン50の順方向の回転(筐体150の内部の空気を筐体150の外部に流す回転)により,空間202内の空気は,筐体150の外部に放出され,
1個のファン50で,互いに異なる空間に存在する複数個の発熱部品を同時に冷却することが可能であること。」も,本願出願前に周知の技術に過ぎず,引用発明と当該周知技術は,複数の異なる空間を1個のファンで効率的に冷却するという共通の課題を有しているから,引用発明において,当該周知技術の複数の異なる空間を1個の排出ファンで冷却するという構成を採用することは,当業者にとって容易に想到し得たものである。

したがって,引用発明において,これら周知技術を採用して,排気ファンを空間内部に配置する構成を採用して,「ファン」を,「前記内部空間に配置され,前記内部空間の空気を吸引」するものであって,「前記第2の突起物よりも前記気流の下流側に配置」する本願発明1の<相違点1>に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。

(2)<相違点2>について

上記第4の3イで述べたように,引用文献3には,冷却対象となる実装部品15aへ導風するために補助導風体5(突起部)を冷却対象となる実装部品15aの位置を基準として配置する技術思想が開示されているといえる。

また,冷却対象に対して,導風する際に,冷却効果が高くなるように,突起部を配置する位置を定めることは,当業者の通常の創作能力の範囲内に過ぎないといえる。

したがって,引用発明において,引用文献3に記載の,突起部を冷却対象の位置を基準として,冷却効果が高くなるように,突起部を配置する位置を定める構成を採用し,「突起部」が,「前記冷却対象を基準として前記気流の上流側に配置された第1の突起物と,前記冷却対象を基準として前記気流の下流側に配置された第2の突起物とを有し,前記冷却対象は,前記気流の上流側に位置する第1の端と,前記気流の下流側に位置する第2の端とを有し,前記第1の突起物は,前記冷却対象の第1の端の付近に配置され,前記第2の突起物は,前記冷却対象の第2の端の付近に配置されている」本願発明1の<相違点2>に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。

(3)作用効果について

本願発明1の<相違点1>および<相違点2>に係る構成を採用することによる作用効果も,当業者が容易に想到しうる範囲内のものに過ぎない。

(4)請求人の主張について

ア 請求人は,令和4年3月23日提出の意見書において,上記2(2)イで述べた<相違点1>に係る構成について,概ね以下のように主張している。

新請求項1は,「前記ファンは,前記第2の突起物よりも前記気流の下流側に配置されている」という特徴を含んでいるのに対し,引用文献1にはこのような特徴は開示されていない。
引用文献1の発明に対して,上記の本願発明の特徴を適用することは阻害要因があり,引用文献1の装置は,冷却空気の分配のために,冷却空気分配機構として,排出ダクト5および取入ダクト6が設けられている。排出ダクト5および取入ダクト6の大きさを調整することで,ファン4から複数の空間部a各々に送り込まれる空気の量が調整されており,このような構成の引用文献1の発明において,本願発明のようにファン4を突起部cよりも下流側に配置することを想定すると,引用文献1の装置では,複数の空間部aそれぞれにファン4を配置しないと,冷却ができなくなってしまう。このようなファンの数を増加させる改変を当業者が行うことはコストの観点から自明ではない。
複数の空間部aそれぞれにファン4を配置すれば,空気の量の分配が不要となるので,引用文献1における冷却空気分配機構が不要な構成となってしまうから,このような改変は,冷却空気分配機構を用いて空気の量を分配するという引用文献1の発明の特徴を無視したものである。

イ 上記請求人の主張について検討する。

上記第4の2イで述べたように,引用文献2に開示された周知技術では,「ファン50の順方向の回転(筐体150の内部の空気を筐体150の外部に流す回転)により,」「1個のファン50で,互いに異なる空間に存在する複数個の発熱部品を同時に冷却することが可能である」から,「複数の空間部aそれぞれにファン4を配置」する必要があり,引用発明に周知技術を適用することに阻害事由のある旨の請求人の上記主張アは,採用できない。

第6 むすび

以上のとおり,本願発明は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に記載された周知技術ならびに引用文献3に記載された事項に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,本願は,その余の請求項について論及するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-04-05 
結審通知日 2022-04-12 
審決日 2022-04-26 
出願番号 P2017-001710
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 ▲高▼瀬 健太郎
野崎 大進
発明の名称 冷却装置および冷却方法  
代理人 松沼 泰史  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 森 隆一郎  
代理人 伊藤 英輔  

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