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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M
管理番号 1385775
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-04-07 
確定日 2022-05-26 
事件の表示 特願2016−247065「冷凍機油、及び冷凍機用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月28日出願公開、特開2018−100349〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年12月20日の出願であって、令和2年6月19日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年8月21日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年1月6日付けで拒絶査定がなされ(謄本送達は同月12日)、これに対して、同年4月7日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年11月26日に上申書が提出されたものである。

第2 令和3年4月7日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和3年4月7付け手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
特許法第17条の2第1項第4号に該当する手続補正である令和3年4月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、そのうち請求項1についての補正は以下のとおりである。

(1)本件補正前の請求項1(すなわち、令和2年8月21日付け手続補正書の請求項1)
「 【請求項1】
側鎖にメトキシ基を有する構成単位(a1)を、分子構造中の末端構成単位を除く構成単位の全量100モル%基準で30モル%以上含み、更に下記一般式(2)で表される構成単位(a2)を含むポリビニルエーテル系化合物(A)を含有し、更に酸化防止剤(B)、酸捕捉剤(C)及び極圧剤(D)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、冷凍機油。

(一般式(2)中、R5、R6及びR7は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上8以下の炭化水素基を示す。R8は、炭素数2以上10以下の2価の炭化水素基を示す。nは、0以上10以下の数を示す。R9は、炭素数2以上10以下の炭化水素基を示す。)」

(2)本件補正後の請求項1(すなわち、令和3年4月7日付け手続補正書の請求項1)
「 【請求項1】
側鎖にメトキシ基を有する構成単位(a1)を、分子構造中の末端構成単位を除く構成単位の全量100モル%基準で30モル%以上含み、更に下記一般式(2)で表される構成単位(a2)を含み、前記構成単位(a1)が、下記一般式(1−2)で表される構成単位(a1−2)であり、ポリビニルエーテル系化合物(A)中の構成単位(a1)と構成単位(a2)との含有量比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で55/45〜95/5であるポリビニルエーテル系化合物(A)を含有し、更に酸化防止剤(B)、酸捕捉剤(C)及び極圧剤(D)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、冷凍機油。


(一般式(2)中、R5、R6及びR7は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上8以下の炭化水素基を示す。R8は、炭素数2以上10以下の2価の炭化水素基を示す。nは、0以上10以下の数を示す。R9は、炭素数2以上10以下の炭化水素基を示す。)」(以下、「本件補正発明」ともいう。)

本件補正の前後の両請求項を対比すると、本件補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「側鎖にメトキシ基を有する構成単位(a1)」なる事項について、「前記構成単位(a1)が、下記一般式(1−2)で表される構成単位(a1−2)であり、ポリビニルエーテル系化合物(A)中の構成単位(a1)と構成単位(a2)との含有量比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で55/45〜95/5である

」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号にいう特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものといえる。
そこで、上記本件補正発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(すなわち、いわゆる独立特許要件を満たすか)について以下検討する。

2.独立特許要件の検討
(1)引用文献及びその記載事項
引用文献A:国際公開第2005/095557号(原査定の引用文献3)

A.引用文献A
原査定で引用された本願出願前に頒布された引用文献Aには、次の記載がある。
(1a)「請求の範囲
[1](A)炭素数1〜8の炭化水素化合物を主成分とする冷媒、(B)下記一般式(I)[化1]

(式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基又は炭素数2〜18のアシル基を示し、R1及びR2は同時に水素原子ではない。m及びnは、それぞれ1以上の整数であり、n/(m+n)は0.4を越える。)
で表されるポリアルキレングリコールエーテル類、及び/又は下記一般式(II)
[化2]

(式中、R3及びR4はそれぞれ水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基又は炭素数2〜18のアシル基を示す。R5は炭素数1〜4の炭化水素基、R6は炭素数2〜4の炭化水素基を示し、R6で示される炭化水素基の炭素数はR5で示される炭化水素基の炭素数よりも大きい。pは1以上の整数であり、qは0又1以上の整数である。)
で表されるポリビニルエーテル類からなる基油を含有し、かつ以下の要件を満足する冷凍機油組成物。
(イ)40℃、1.2MPaにおける(B)基油に対する(A)冷媒の溶解度が40質量%以下である
(ロ)90℃、2.3MPaにおける冷凍機油組成物の溶解粘度が0.1mm2/s以上である」
(1b)「[0018] 次に、一般式(II)において、R3及びR4はそれぞれ水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基又は炭素数2〜18のアシル基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。好ましくは、R3及びR4がともに水素原子である。
上記一般式(II)のR3及びR4における炭素数1〜18の炭化水素基又は炭素数2〜18のアシル基は、直鎖状,分岐鎖状,環状のいずれであってもよい。炭素数1〜18の炭化水素基又は炭素数2〜18のアシル基の具体例としては、R1及びR2で挙げたものと同様である。これらの炭化水素基又はアシル基の炭素数が18を超えると、冷媒である炭化水素との相溶性が著しくよくなり、炭化水素が任意の割合で完全に溶解するようになる。炭化水素基又はアシル基の中では、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
[0019] 次に、R5は炭素数1〜4の炭化水素基、R6は炭素数2〜4の炭化水素基を示し、R6で示される炭化水素基の炭素数は、R5で示される炭化水素基の炭素数よりも大きい。R5とR6の組合せは種々あり、例えばR5がメチル基の場合には、R6はエチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基であり、特にR5がメチル基、R6がエチル基の組合せが最も好ましい。
R5を側鎖にもつ繰り返し単位の数pと、R6を側鎖にもつ繰り返し単位の数qは、pが1以上の整数であり、qが0又は1以上の整数である。また、p/(p+q)は0.1以上であることが好ましい。
特に、R5がメチル基であり、R6が炭素数2〜4の炭化水素基であり、p/(p+q)が0.1以上であることが好ましい。この条件を満足することにより、炭化水素系冷媒との適度な相溶性が確保される。以上の観点から、R5がメチル基であり、R6が炭素数2〜4の炭化水素基の場合のp/(p+q)は0.5以上であることがさらに好ましい。なお、R5を側鎖にもつ繰り返し単位と、R6を側鎖にもつ繰り返し単位は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
本発明の冷凍機油組成物においては、基油として上記一般式(II)のポリビニルエーテルを1種単独で用いてもよいし、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、本発明の冷凍機油組成物の(B)基油として、上記一般式(I)のポリアルキレングリコールエーテルと、上記一般式(II)のポリビニルエーテルを混合して使用することもできる。」
(1c)「[0025] 本発明の冷凍機油組成物には、必要に応じ公知の各種の添加剤、トリクレジルホスフェート(TCP)などのリン酸エステルやトリスノニルフェニルホスファイトなどの亜リン酸エステルなどの極圧剤;フェノール系、アミン系の酸化防止剤;フェニルグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、エポキシ化大豆油などの安定剤;ベンゾトリアゾールやその誘導体などの銅不活性化剤;シリコーン油やフッ化シリコーン油などの消泡剤などを適宜配合することができる。さらに、耐荷重添加剤、塩素捕捉剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、油性剤、防錆剤、腐食防止剤、流動点降下剤等を所望に応じて添加することができる。これらの添加剤は、通常本発明の冷凍機油組成物中に、0.5〜10質量%の量で含有される。
[0026]・・・
[実施例]
[0027] 次に、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
(物性測定方法及び評価方法)
(1)動粘度
JIS K2283−1983に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて、温度40℃及び100℃の動粘度を測定した。
(2)密度
JIS K 2249に準じ測定した。
(3)重量平均分子量
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法により測定した。用いた装置はJASCO社製「CO−2055」、カラムとしてはJASCO社製「LF404」と「KF606M」を連結させたものを使用した。
(4)酸素原子含有量
元素分析により、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)の量を測定し、総重量より差し引いて算出した。
(5)冷媒溶解度
ガラス製耐圧容器に所定量の供試油及び冷媒を封入し、温度を室温から120℃付近まで昇温した。冷媒を溶解した供試油の体積及びその時の圧力から、計算により温度/圧力/溶解度曲線を作成した。この溶解度曲線から40℃、1.2MPaでの、供試油に対する冷媒の溶解度(質量%)を算出した。
(6)二層分離温度
耐圧ガラス容器に、供試油の量が3質量%となるように、供試油及び冷媒を採取した。次いで、恒温槽中で、相溶性について、室温から−50℃まで徐々に冷却し、相分離が始まる温度を、光学センサーを用いて測定した。また、室温から+50℃まで徐々に昇温し、同様に相分離が始まる温度を、光学センサーを用いて測定した。
(7)溶解粘度
所定量の供試油及び冷媒を入れた耐圧ガラス容器内にて、圧力2.3MPa、温度−90℃の条件下、粘度計を用いて測定した。
(8)潤滑性試験
冷媒10g及び供試油40gについて、密閉型ブロックオンリング試験機を用い、荷重100kgf、回転数100rpm、室温にて60分試験を行い、その摩耗幅を測定した。
・・・
[0031]製造例4(ポリビニルエーテル)
特開平6−128184号公報の実施例3に記載される方法に準拠して、以下のように製造した。
(1)触媒調製
(1−1)触媒調製例1
ラネーニッケル(川研ファインケミカル社製,商品名「M300T」)100g(含水状態)をフラスコに取り、無水エタノール100gを加えてよく混合した。その後、静置してラネーニッケルを沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去した。フラスコ内に残ったラネーニッケルに対し、上記の操作を5回行った。
(1−2)触媒調製例2
ゼオライト(東ソー社製,商品名「HSZ330HUA」)20gを100mlのナス型フラスコに入れ、150℃の油浴につけ、油回転式の真空ポンプで1時間減圧状態にした。室温まで冷却後、乾燥窒素で常圧にした。
[0032](2)原料の調製
滴下ロート、冷却管および攪拌機を取り付けた5リットルのガラスフラスコにトルエン1000g、アセトアルデヒドジエチルアセタール500gおよび三フッ化硼素ジエチルエーテル錯体5.0gを入れた。滴下ロートにエチルビニルエーテル2500gを入れ、2時間30分かけて滴下し、氷水浴で冷却しながら約25℃に保持した。滴下終了後5分間攪拌し、反応混合物を洗浄槽中に移し、5%水酸化ナトリウム水溶液1000mlで3回洗浄し、さらに水1000mlで3回洗浄した。ロータリーエバポレーターを用い、減圧下に溶媒および未反応の原料を除去し、生成物2833gを得た。生成物は、下記式(III)及び(IV)の構造を有し、分子数の比は(III):(IV)=5:5であり、nの平均値は5.6であった。
[0033][化5]

[0034][化6]

[0035](3)SUS−316L製の1リットルのオートクレーブに上記(2)で製造したオリゴマー200g、触媒調製例1で調製したラネーニッケル6.0g(エタノールの湿った状態で)および触媒調製例2で調製したゼオライト6.0gを入れた。オートクレーブ内に水素を導入して水素圧を981kPa(10kg/cm2)とし、約30秒間攪拌した後、脱圧した。再びオートクレーブ内に水素を導入して水素圧を981kPa(10kg/cm2)とし、約30秒間攪拌した後、脱圧した。この操作をさらに1回行った後、水素圧を2452kPa(25kg/cm2)とし、攪拌しながら30分で140℃に昇温し、同温度で2時間反応させた。昇温中および昇温後反応が起こり、水素圧の減少が認められた。なお、昇温に伴う圧力の増加、反応に伴う圧力の減少は適時減圧、加圧して水素圧を2452kPa(25kg/cm2)に調整して反応を行った。反応終了後、室温まで冷却した後減圧して常圧とした。ヘキサン100mlを加えた後30分静置し、触媒を沈降させ、反応液をデカンテーションにより除いた。ヘキサン溶液は反応液と合わせ、ろ紙を用いてろ過を行い、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下にヘキサン,水分等を除去した。収量は162gであった。原料アセタールは、式(V)で示されるエーテル化合物となり(Etはエチル基を示す)、その転化率は100%であった。なお、上記式(IV)のエチルビニルエーテルオリゴマーも、式(V)で示されるエーテル化合物となった。 すなわち、式(II)において、R3とR4が共に水素、R5がエチル基、pは平均値で20、qは0のポリビニルエーテル(以下「PVE」という)であった。
[0036][化7]

[0037]製造例5〜7(ポリビニルエーテル)
エチルビニルエーテルに代えて、エチルビニルエーテルとメチルビニルエーテルの混合物を、第2表に示す質量比で用いたこと以外は、製造例4と同様にしてPVEを製造した。各製造例におけるPVEの構造は、式(VI)に示されるものであり(Meはメチル基を示す)、p及びqについては第2表に示すとおりである。また、各PVEの物性を第2表に示す。
[0038][化8]

[0039][表2]

[0040]実施例1
基油として、製造例3で製造したポリアルキレングリコールエーテル(以下「PAG」という)と、炭化水素系冷媒(小池化学(株)製「CARE40」、プロパン97.8質量%、エタン0.5質量%、i−ブタン1.2質量%及びn−ブタン0.5質量%)を用いて、炭化水素冷媒の基油に対する溶解度及び二層分離温度を上記方法に従って測定した。また、該PAG50gと該炭化水素系冷媒100gを混合して、冷凍機油組成物を調製し、上記方法にて潤滑性の試験を実施した。結果を第3表に示す。
・・・
[0044]
実施例3〜5及び比較例3
第4表に示すように、基油として、製造例4〜7にて製造したPVEを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、炭化水素冷媒の基油に対する溶解度、二層分離温度及び潤滑性の試験を実施した。結果を第4表に示す。
[0045]
[表4]



(2)引用文献Aに記載された発明
上記引用文献Aの実施例3には、製造例5のPVEからなる基油と炭化水素系冷媒(小池化学(株)製「CARE40」、プロパン97.8質量%、エタン0.5質量%、i−ブタン1.2質量%及びn−ブタン0.5質量%)とを混合して得た冷凍機油組成物が記載されており、製造例6のPVEの構造は、式(VI)に示されるものであり、原料としてのメチルビニルエーテルとエチルビニルエーテルの比率が90:10であり、p/p+qは0.18である。

そうすると、引用文献Aには、「式(VI)に示される構造を有し、原料としてのメチルビニルエーテルとエチルビニルエーテルの比率が質量比で90:10であり、

p/p+qは0.18であるPVEからなる基油と炭化水素系冷媒(小池化学(株)製「CARE40」、プロパン97.8質量%、エタン0.5質量%、i−ブタン1.2質量%及びn−ブタン0.5質量%)とを混合して得た冷凍機油組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が、記載されている(摘記1c参照)。

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「PVE」は本件補正発明の「ポリビニルエーテル系化合物(A)」に相当する。
引用発明の「


は、本件補正発明の「側鎖にメトキシ基を有する構成単位(a1)」及び「前記構成単位(a1)が、下記一般式(1−2)で表される構成単位(a1−2)であり」及び「


」に相当する。
引用発明の「

」は、本件補正発明の「更に下記一般式(2)で表される構成単位(a2)を含み」及び「


(一般式(2)中、R5、R6及びR7は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上8以下の炭化水素基を示す。R8は、炭素数2以上10以下の2価の炭化水素基を示す。nは、0以上10以下の数を示す。R9は、炭素数2以上10以下の炭化水素基を示す。)」におおいて、R5、R6及びR7は水素原子、nは0の数、R9は炭素数2の炭化水素基である場合に相当する。
引用発明の「冷凍機油組成物」は本件補正発明の「冷凍機油」に相当する。
そうすると、本件補正発明と引用発明は「側鎖にメトキシ基を有する構成単位(a1)を含み、更に下記一般式(2)で表される構成単位(a2)を含み、前記構成単位(a1)が、下記一般式(1−2)で表される構成単位(a1−2)であるポリビニルエーテル系化合物(A)を含有する、冷凍機油。


(一般式(2)中、R5、R6及びR7は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上8以下の炭化水素基を示す。R8は、炭素数2以上10以下の2価の炭化水素基を示す。nは、0以上10以下の数を示す。R9は、炭素数2以上10以下の炭化水素基を示す。)」である点で一致し、下記の点で一応相違する。

<相違点1>
ポリビニルエーテル系化合物(A)が、本件補正発明は、側鎖にメトキシ基を有する構成単位(a1)を、分子構造中の末端構成単位を除く構成単位の全量100モル%基準で30モル%以上含み、ポリビニルエーテル系化合物(A)中の構成単位(a1)と構成単位(a2)との含有量比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で55/45〜95/5であるのに対し、引用発明は式(VI)に示される構造を有し、原料としてのメチルビニルエーテルとエチルビニルエーテルの比率が90:10であり、

p/p+qは0.18である点。

<相違点2>
冷凍機油が、本件補正発明は、更に酸化防止剤(B)、酸捕捉剤(C)及び極圧剤(D)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するのに対し、引用発明はそのような特定がない点。

(4)相違点の検討
<相違点1>について
引用発明におけるPVEは原料としてのメチルビニルエーテルとエチルビニルエーテルの比率が90:10であるから、pがqに比べてはるかに大きくなるのが自然であり、p/p+qが0.18というのは誤りであると解される。
また、引用文献Aには、p/(p+q)は0.5以上であることがさらに好ましいことが記載されており(摘記1b参照)、このことからも、引用発明のp/p+qが0.18というのは誤りであるといえる。
ここで、引用発明における「原料としてのメチルビニルエーテルとエチルビニルエーテルの比率が質量比で90:10」であることから、モル比を計算すると、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルがそれぞれ58及び72ダルトンであることから、モル比は(90/58):(10/72)となるが、これは88%:12%となる。
そうすると、引用発明のPVEは、本件補正発明の「分子構造中の末端構成単位を除く構成単位の全量100モル%基準で30モル%以上含み」及び「ポリビニルエーテル系化合物(A)中の構成単位(a1)と構成単位(a2)との含有量比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で50/50を超えるものとして、55/45〜95/5である」を充足するものである。したがって、相違点1は実質的な相違点とはならない。

<相違点2>について
引用文献Aには引用発明の冷凍機油組成物組成物には、極圧剤や酸化防止剤を適宜配合することができることが記載されている(摘記1c参照)。
そうすると、引用発明において更に酸化防止剤(B)、酸捕捉剤(C)及び極圧剤(D)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(5)本件補正発明の効果について
本願明細書の【表1】からみて、ポリビニルエーテル系化合物(A)中の構成単位(a1)と構成単位(a2)との含有量比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で60/40である実施例4のものが、冷媒との相溶性、40℃動粘度及び粘度指数(VI)においても優れた効果を奏しているかもしれないが、実施例4は、酸化防止剤(B)、酸捕捉剤(C)及び極圧剤(D)を含有するものではないから、その効果は、更に酸化防止剤(B)、酸捕捉剤(C)及び極圧剤(D)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有すると特定される本件特許発明1により奏されるものとはいえない。
また、【表2】、【表3】及び【0129】からみて、ポリビニルエーテル系化合物(A)中の構成単位(a1)と構成単位(a2)との含有量比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で60/40であるものが、更に酸化防止剤(B)、酸捕捉剤(C)及び極圧剤(D)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するものが、良好な冷媒との相溶性を示し、そのモル比が0/100ものと比較して、優れた耐摩耗性を示すといえるが、モル比がそれ以外のものについては冷媒との相溶性も耐摩耗性も不明であり、特に、モル比が本件補正発明の55/45〜95/5から外れたものとの比較もないことから、本件補正発明が、分子構造中の末端構成単位を除く構成単位の全量100モル%基準で30モル%以上含み、ポリビニルエーテル系化合物(A)中の構成単位(a1)と構成単位(a2)との含有量比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で55/45〜95/5であることにより、引用発明と比較して、優れた効果を奏するとはいえない。

(6)審判請求人の主張
ア 請求人は、令和3年4月7日付け審判請求書において、「確かに本願でも、発明の解決課題として冷媒との相溶性について挙げているが、本願では、低温から高温の幅広い温度範囲での冷媒との優れた相溶性を目指しており、前記のように相溶性を高すぎず低すぎず、適当な範囲とする引用文献3(当審注:引用文献A)に記載の発明とは、相溶性についていかなる効果を有するかの点で、大きく異なる。引用文献3では、必要に応じ公知の添加剤を添加することができる(引用文献Aの段落番号0025)とは記載されているものの、実際にこれらを使用した組成物に関してその効果を確認していない。これら添加剤は一般的に極性基をその構造中に有しており、炭化素系溶媒と冷凍機油組成物の相溶性に大きな影響を与えることが、当業者にとって自明である。また、引用文献2(当審注:国際公開第2016/190286号)の説明でも記載したと同様に、側鎖にメトキシエチル基を有する構造単位(a1)を含むポリビニルエーテル系化合物(A)の構造が異なっている。」と、主張している。
イ また、請求人は、令和3年11月26日付け上申書において「引用文献3の製造例4〜7では下記の比率で構造単位を含む化合物を使用しております。本願の(1−2)とは下記の枠で囲った部分により構造が異なります。

・・・
更に加えて、酸化防止剤(B)、酸捕捉剤(C)及び極圧剤(D)の添加剤から少なくとも1つを必須成分としております。引用文献3・・・には、ポリビニルエーテル系化合物(A)と添加剤のすべてを含むことについての記載がありません。」と主張する。
ウ 確かに、引用文献3は、冷媒との相溶性を高すぎず低すぎず、適当な範囲とするものであるが、引用文献3の冷媒は炭化水素系冷媒であり、引用発明は、炭化水素系冷媒である場合に限り、それとの相溶性が高すぎず低すぎず、適当な範囲であるといえるかもしれない。
一方、本件補正発明は、冷媒がR32の場合に、低温から高温の幅広い温度範囲での冷媒との優れた相溶性を示しているが、本件補正発明は冷媒がR32や炭化水素系冷媒に特定されるものではないから、そのようは効果の主張は請求項の記載に基づくものではない。
エ また、ポリビニルエーテル系化合物についてみれば、引用発明のPVEは、上記(4)<相違点1>についてで検討したとおり、本件補正発明のものと相違するものではないから、引用発明も、冷媒がR32の場合に、低温から高温の幅広い温度範囲での冷媒との優れた相溶性を示すといえる。
オ そして、添加剤については、必要に応じ公知の添加剤を添加することができる(引用文献3の段落番号0025)と記載されている以上、実際にこれらを使用した組成物に関してその効果を確認することは、当業者が容易になし得ることである。
カ また、ポリビニルエーテル系化合物(A)の構造については、上記(2)のとおり、引用発明のメチルビニルエーテルは、側鎖にメトキシエチル基を有するものではなく、MeOであるメトキシ基を有するものであり、本願の(1−2)とは下記の枠で囲った部分により構造が異なるという繰り返しの主張は、引用文献Aを正解しないものと解さざるを得ない。そうでないとすると、当審が引用文献Aの誤認することを期待した主張ということになる。
したがって、請求人の上記主張はいずれも採用できない。

(7)小括
したがって、本件補正発明は、引用文献Aに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願発明は、令和2年8月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は前記第2、1.(1)に示したとおりである。

2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、「令和2年6月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由2」であって、要するに、この出願の請求項1〜16に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

そして、該拒絶の理由において引用された刊行物は次のとおりである。

<引用文献等一覧>

引用文献3:国際公開2005/095557号

3 引用刊行物
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3は上記引用文献Aであって、引用文献Aの記載事項は、前記「第2 2(1)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記「第2 1(1)」で検討した本件補正発明の「側鎖にメトキシ基を有する構成単位(a1)」なる事項について、「前記構成単位(a1)が、下記一般式(1−2)で表される構成単位(a1−2)であり、ポリビニルエーテル系化合物(A)中の構成単位(a1)と構成単位(a2)との含有量比〔(a1)/(a2)〕が、モル比で55/45〜95/5である

」との限定がないものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記事項によって限定したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 2(7)」に記載したとおり、当該引用文献Aに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、当該引用文献A(引用文献3)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-03-15 
結審通知日 2022-03-22 
審決日 2022-04-05 
出願番号 P2016-247065
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10M)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 瀬下 浩一
木村 敏康
発明の名称 冷凍機油、及び冷凍機用組成物  
代理人 大谷 保  

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