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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12P
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1385796
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-04-26 
確定日 2022-05-12 
事件の表示 特願2017−527456「微生物油産生ラビリンチュラ類、微生物油、ならびにそれらの作成方法およびそれらの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月12日国際公開、WO2017/006918〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年7月4日(優先権主張 平成27年7月3日 日本)を国際出願日とする出願であって、令和2年6月26日付けの拒絶理由通知に対して、令和2年8月25日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年1月19日付けで拒絶査定がなされ、令和3年4月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。


第2 令和3年4月26日付け手続補正についての補正却下の決定
[結論]
令和3年4月26日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正
本件補正は、令和2年8月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に
(補正前)「【請求項1】
下記(b)〜(g)からなる群から選ばれる1以上を満たす、微生物油であって、微生物が、下記(A)または(B)の遺伝子改変されたラビリンチュラ類である、微生物油。
(b)DGLAが全脂肪酸組成のうち、2.5%以上であり、かつ遺伝子改変前に比較して遺伝子改変後のDGLAのGC面積比率が4倍以上である。
(c)ETAが全脂肪酸組成のうち、0.35%以上であり、かつ、遺伝子改変前に比較して遺伝子改変後のETAのGC面積比率が7倍以上である。
(d)EPAが全脂肪酸組成のうち、4%以上であり、かつ遺伝子改変前に比較して遺伝子改変後のEPAのGC面積比率が7倍以上である微生物油。
(f)DHAが全脂肪酸組成のうち、0.50%以下である。
(g)DHAとn-6DPAの合計が全脂肪酸組成のうち、0.7%以下である。

(A)PKS遺伝子、C20エロンゲース遺伝子、および/または脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を破壊または/および発現抑制することにより、脂肪酸組成が改変されたラビリンチュラ類。
(B)PKS遺伝子、C20エロンゲース遺伝子、および/または脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を破壊または/および発現抑制することに加えて、さらにC20エロンゲース遺伝子、および/または脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を導入することにより、脂肪酸組成が改変されたラビリンチュラ類。」とあったものを、

(補正後)「【請求項1】
下記(b)〜(g)からなる群から選ばれる1以上を満たす微生物油であって、微生物が、PUFA−PKS経路による高度不飽和脂肪酸(PUFA)の生産能が無いあるいは極めて微弱であるラビリンチュラ類が、下記(A)または(B)の遺伝子改変されたラビリンチュラ類である、微生物油。
ただし、微生物油が下記(b)〜(d)からなる群から選ばれる1以上を満たす場合、遺伝子改変されたラビリンチュラ類は下記(A)であり、微生物油が下記(f)または(g)を満たす場合、遺伝子改変されたラビリンチュラ類は下記(B)である。

(b)DGLAが全脂肪酸組成のうち、2.5%以上であり、かつ遺伝子改変前に比較して遺伝子改変後のDGLAのGC面積比率が4倍以上である。
(c)ETAが全脂肪酸組成のうち、0.35%以上であり、かつ、遺伝子改変前に比較して遺伝子改変後のETAのGC面積比率が7倍以上である。
(d)EPAが全脂肪酸組成のうち、4%以上であり、かつ遺伝子改変前に比較して遺伝子改変後のEPAのGC面積比率が7倍以上である。
(f)DHAが全脂肪酸組成のうち、0.50%以下である。
(g)DHAとn-6DPAの合計が全脂肪酸組成のうち、0.7%以下である。

(A)C20エロンゲース遺伝子を破壊または/および発現抑制することにより、脂肪酸組成が改変されたラビリンチュラ類。
(B)脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を破壊または/および発現抑制することにより、脂肪酸組成が改変されたラビリンチュラ類。」とする補正事項を含むものである。

2.目的要件について
上記補正事項によって、補正前の請求項1の記載における択一的記載の整理をすることにより、選択肢の一部が削除され、特許請求の範囲が減縮されている。そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は補正前の請求項1の限定的減縮を目的としているものに該当するといえる。
そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定を満たすものであるか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。

3.独立特許要件について
(1)引用文献の記載事項
拒絶査定で文献1として引用された、本願優先日前の公知文献である国際公開第2012/043826号には、次の記載がある。
ア 「[請求項14] ストラメノパイルの遺伝子を遺伝子工学的に破壊または/および発現抑制することを特徴とする、ストラメノパイルの脂肪酸組成の改変方法。
[請求項15] ストラメノパイルがラビリンチュラ類である、請求項14に記載のストラメノパイルの脂肪酸組成の改変方法。
[請求項16] ラビリンチュラ類がラビリンチュラ属(Labyrinthula)、アルトルニア属(Althornia)、アプラノキトリウム属(Aplanochytrium)、イァポノキトリウム属(Japonochytrium)、ラビリンチュロイデス属(Labyrinthuloides)、シゾキトリウム属(Schizochytrium)、アウランティオキトリウム属(Aurantiochytrium)、ヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)、ウルケニア属(Ulkenia)、オブロンギキトリウム属(Oblongichytrium)、ボトリオキトリウム属(Botryochytrium)、パリエティキトリウム属(Parietichytrium)、またはシクヨイドキトリウム属(Sicyoidochytrium)に属する微生物である、請求項15に記載のストラメノパイルの脂肪酸組成の改変方法。
[請求項17] 微生物がThraustochytriumaureum、Parietichytriumsarkarianum、Thraustochytriumroseum、Parietichytrium sp. または Schizochytrium sp.である、請求項16に記載のストラメノパイルの脂肪酸組成の改変方法。
[請求項18] 微生物がThraustochytriumaureum ATCC 34304、Parietichytriumsarkarianum SEK 364(FERM BP-11298)、Thraustochytriumroseum ATCC 28210、Parietichytrium sp. SEK358(FERM BP-11405)、Parietichytrium sp. SEK571(FERM BP-11406) またはSchizochytrium sp. TY12Ab(FERM ABP-11421)である、請求項17に記載のストラメノパイルの脂肪酸組成の改変方法。
[請求項19] ストラメノパイルの遺伝子が脂肪酸生合成関連遺伝子である、請求項14ないし18のいずれかに記載のストラメノパイルの脂肪酸組成の改変方法。
[請求項20] 脂肪酸生合成関連遺伝子がポリケチド合成酵素、脂肪酸鎖長伸長酵素、および/または脂肪酸不飽和化酵素に関連する遺伝子である、請求項19に記載のストラメノパイルの脂肪酸組成の改変方法。
[請求項21] 脂肪酸鎖長伸長酵素がC20エロンガーゼである、請求項20に記載のストラメノパイルの脂肪酸組成の改変方法。」(特許請求の範囲)

イ 「[0036][脂肪酸不飽和化酵素]
本発明の脂肪酸不飽和化酵素(デサチュラーゼ、desaturase)は脂肪酸不飽和化酵素としての機能を有するものであれば特に限定されない。脂肪酸不飽和化酵素遺伝子としては動物由来、植物由来等その由来は特に制限されないが、Δ4デサチュラーゼ遺伝子、Δ5デサチュラーゼ遺伝子、Δ6デサチュラーゼ遺伝子、Δ12デサチュラーゼ遺伝子、ω3デサチュラーゼ遺伝子等の脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を好適に例示することができ、これらは単独でまたは多重に用いることができる。」

ウ 「[0048] 産生した不飽和脂肪酸を回収するには、ストラメノパイルを培地で生育し、その培地から得た微生物細胞を処理し、細胞内脂質(高度不飽和脂肪酸を含む油脂含有物あるいは高度不飽和脂肪酸)を放出させ、 その放出された細胞内脂質を含む培地から脂質を回収する。すなわち、このようにして培養したストラメノパイルを遠心分離等回収し、細胞を破砕し定法に従い適当な有機溶媒を用いて細胞内の脂肪酸を抽出することにより、高度不飽和脂肪酸含有率の増加した油脂を得ることができる。」

エ 「実施例3
[0083] [ParietichytriumsarkarianumのC20エロンガーゼ遺伝子の破壊]
・・・・
[0095] [実施例3−9] C20エロンガーゼ破壊による脂肪酸組成の変化
・・・・
[0097] この結果、 Parietichytriumsarkarianum SEK364においてC20エロンガーゼをノックアウトすると、炭素鎖長22以上の脂肪酸が減少し、炭素鎖長20の脂肪酸が増加した。(図21)。図22に野生型株を100%ととした時の割合を示す。これらの結果、アラキドン酸が約10倍、EPAが約8倍に増加し、またDPAが約1/4、DHAが約1/5に減少した。」

オ 「実施例4
[0098] [ThraustochytriumaureumのPUFA PKS経路関連遺伝子: OrfAの破壊]」

カ 「実施例8
[0139] Thraustochytriumaureum ATCC 34304 OrfA破壊株におけるΔ4デサチュラーゼ遺伝子の破壊
・・・・
[実施例8−6] Thraustochytriumaureum OrfA破壊株におけるΔ4デサチュラーゼ遺伝子の破壊による脂肪酸組成の変化
実施例3−9記載の方法でThraustochytrium aureum ATCC 34304および遺伝子破壊株を培養、凍結乾燥後、脂肪酸をメチルエステル化し、GCを用いて解析した。GC解析にはガスクロマトグラフGC-2014(島津製作所社製)を使用し、カラム:HR-SS-10(30 m x 0.25 mm;信和化工社製)、カラム温度:150℃ →(5℃/min)→ 220℃(10 min)、キャリアガス:He(1.3 mL/min)の条件で行った。
脂肪酸組成の変化を図63に示す。また、図64に野生型株を100%ととした時の割合を示す。 この結果、Thraustochytriumaureum OrfA破壊株においてΔ4デサチュラーゼ遺伝子を破壊すると、C22: 5n-6(DPA) およびC22: 6n-3(DHA) がほとんど生合成されなくなり、C22: 4n-6(DTA) およびC22: 5n-3(DPA) が蓄積した。」

キ 「実施例9
[0145] Parietichytrium sp. SEK358株におけるC20エロンガーゼ遺伝子の破壊
・・・・
[0147] [実施例9−3] C20エロンガーゼ破壊による脂肪酸組成の変化
実施例3−9記載の方法でParietichytrium sp. SEK358株および遺伝子破壊株を培養、凍結乾燥後、脂肪酸をメチルエステル化し、GCを用いて解析した。GC解析にはガスクロマトグラフGC-2014(島津製作所社製)を使用し、カラム:HR-SS-10(30 m x 0.25 mm;信和化工社製)、カラム温度:150℃ →(5℃/min)→ 220℃(10 min)、キャリアガス:He(1.3 mL/min)の条件で行った。
脂肪酸組成の変化を図66に示す。また、図67に野生型株を100%ととした時の割合を示す。この結果、Parietichytrium sp. SEK358株においてC20エロンガーゼをノックアウトすると、炭素鎖長22以上の脂肪酸が減少し、炭素鎖長20の脂肪酸が増加した。具体的には、アラキドン酸が約7倍、EPAが約11倍に増加し、またDPAが約1/15、DHAが約1/8に減少した。」

ク 「実施例10
[0148] Parietichytrium sp. SEK571株におけるC20エロンガーゼ遺伝子の破壊
・・・・
[0150] C20エロンガーゼ破壊による脂肪酸組成の変化
実施例3−9記載の方法でParietichytrium sp. SEK571株および遺伝子破壊株を培養、凍結乾燥後、脂肪酸をメチルエステル化し、GCを用いて解析した。GC解析にはガスクロマトグラフGC-2014(島津製作所社製)を使用し、カラム:HR-SS-10(30 m x 0.25 mm;信和化工社製)、カラム温度:150℃ →(5℃/min)→ 220℃(10 min)、キャリアガス:He(1.3 mL/min)の条件で行った。
脂肪酸組成の変化を図69に示す。また、図70に野生型株を100%ととした時の割合を示す。この結果、Parietichytrium sp. SEK571株においてC20エロンガーゼをノックアウトすると、炭素鎖長22以上の脂肪酸が減少し、炭素鎖長20の脂肪酸が増加した。具体的には、アラキドン酸が約4倍、EPAが約8倍に増加し、またDPAが約1/12、DHAが約1/12に減少した。」

(2)引用発明
上記(1)のウより、アにいう脂肪酸組成とは、培養されたストラメノパイルの微生物細胞内で産生された脂質が有する脂肪酸組成であることが理解される。したがって、上記(1)のア、ウ、エ、キ、クより、文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「ラビリンチュラ類のC20エロンガーゼ遺伝子を遺伝子工学的に破壊または/および発現抑制した遺伝子改変ラビリンチュラ類が産生する、脂肪酸組成が改変された微生物油であって、
ラビリンチュラ類がParietichytriumsarkarianum SEK364株、Parietichytrium sp. SEK358株、または、Parietichytrium sp. SEK571株である、微生物株。」(引用発明1)

また、上記(1)のア〜ウ、オ、カより、文献1には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「ラビリンチュラ類のΔ4デサチュラーゼ遺伝子を遺伝子工学的に破壊または/および発現抑制した遺伝子改変ラビリンチュラ類が産生する、脂肪酸組成が改変された微生物油であって、
ラビリンチュラ類がThraustochytriumaureum OrfA破壊株である、微生物油。」(引用発明2)

(3)対比、判断
補正発明には、
(A)C20エロンゲース遺伝子を破壊または/および発現抑制することにより、脂肪酸組成が改変されたラビリンチュラ類。
(B)脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を破壊または/および発現抑制することにより、脂肪酸組成が改変されたラビリンチュラ類。
という、2とおりの遺伝子改変を有するラビリンチュラ類が特定されているから、これらの改変ラビリンチュラ類が有する遺伝子改変を(A)、(B)とし、それぞれの場合について検討する。

ア 補正発明の遺伝子改変が(A)の場合について
(A)の場合の補正発明と、引用発明1を対比すると、両者は、
「微生物油であって、微生物が、下記(A)の遺伝子改変されたラビリンチュラ類である、微生物油。
(A)C20エロンゲース遺伝子を破壊または/および発現抑制することにより、脂肪酸組成が改変されたラビリンチュラ類。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
ラビリンチュラ類について、補正発明には「PUFA−PKS経路による高度不飽和脂肪酸(PUFA)の生産能が無いあるいは極めて微弱であるラビリンチュラ類」と特定されているのに対して、引用発明1には特定されていない点。
(相違点2)
微生物油について、補正発明には、
「下記(b)〜(g)からなる群から選ばれる1以上を満たす
(b)DGLAが全脂肪酸組成のうち、2.5%以上であり、かつ遺伝子改変前に比較して遺伝子改変後のDGLAのGC面積比率が4倍以上である。
(c)ETAが全脂肪酸組成のうち、0.35%以上であり、かつ、遺伝子改変前に比較して遺伝子改変後のETAのGC面積比率が7倍以上である。
(d)EPAが全脂肪酸組成のうち、4%以上であり、かつ遺伝子改変前に比較して遺伝子改変後のEPAのGC面積比率が7倍以上である。
(f)DHAが全脂肪酸組成のうち、0.50%以下である。
(g)DHAとn-6DPAの合計が全脂肪酸組成のうち、0.7%以下である。」、
「ただし、微生物油が下記(b)〜(d)からなる群から選ばれる1以上を満たす場合、遺伝子改変されたラビリンチュラ類は下記(A)であり、微生物油が下記(f)または(g)を満たす場合、遺伝子改変されたラビリンチュラ類は下記(B)である」と特定されている、すなわち、遺伝子改変が(A)である場合、微生物油は(b)〜(d)の1以上を満足することが特定されているのに対して、引用発明1には特定されていない点。

(相違点1)について
本願明細書の段落【0028】の「内因性PUFA−PKS経路によるPUFAの生産能が無いあるいは極めて微弱であり、かつ内因性エロンガーゼ/デサチュラーゼ経路でPUFAを生産できるラビリンチュラ類であれば特に限定されないが、特に好ましくはParietichytrium属またはSchizochytrium属に属するラビリンチュラ類が例示される。その中でも特に好ましくはParietichytrium sp.SEK358(FERM BP−11405)、ParietichytriumsarkarianumSEK364(FERM BP−11298)、Parietichytrium sp.SEK571(FERM BP−11406)またはSchizochytriumaggregatum ATCC28209の菌株が挙げられる。」との記載から、引用発明1のParietichytriumsarkarianum SEK364株、Parietichytrium sp. SEK358株、及び、Parietichytrium sp. SEK571株は、いずれも補正発明にいう「PUFA−PKS経路による高度不飽和脂肪酸(PUFA)の生産能が無いあるいは極めて微弱である」ラビリンチュラ類に該当すると認められる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(相違点2)について
文献1の実施例3(上記(1)のエ)及び図22、実施例9(上記(1)のキ)及び図67、実施例10(上記(1)のク)及び図70の記載(但し、図は摘記せず)から、引用発明1の3つの株においてC20エロンガーゼ遺伝子を遺伝子工学的に破壊または/および発現抑制した遺伝子改変ラビリンチュラ類が産生する微生物油は、その脂肪酸組成が(b)〜(d)の1以上を満たすと認められる。
したがって、相違点2も実質的な相違点ではない。

よって、遺伝子改変が(A)の場合の補正発明は、引用発明1と同一であるから、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

イ 補正発明の遺伝子改変が(B)の場合について
(B)の場合の補正発明と、引用発明2を対比する。
引用発明2の「Δ4デサチュラーゼ遺伝子」は補正発明の「脂肪酸不飽和化酵素遺伝子」に該当するから、両者は、
「微生物油であって、微生物が、下記(B)の遺伝子改変されたラビリンチュラ類である、微生物油。
(B)脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を破壊または/および発現抑制することにより、脂肪酸組成が改変されたラビリンチュラ類。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
ラビリンチュラ類について、補正発明には「PUFA−PKS経路による高度不飽和脂肪酸(PUFA)の生産能が無いあるいは極めて微弱であるラビリンチュラ類」と特定されているのに対して、引用発明2には特定されていない点。
(相違点2)
微生物油について、補正発明には、
「下記(b)〜(g)からなる群から選ばれる1以上を満たす
(b)DGLAが全脂肪酸組成のうち、2.5%以上であり、かつ遺伝子改変前に比較して遺伝子改変後のDGLAのGC面積比率が4倍以上である。
(c)ETAが全脂肪酸組成のうち、0.35%以上であり、かつ、遺伝子改変前に比較して遺伝子改変後のETAのGC面積比率が7倍以上である。
(d)EPAが全脂肪酸組成のうち、4%以上であり、かつ遺伝子改変前に比較して遺伝子改変後のEPAのGC面積比率が7倍以上である。
(f)DHAが全脂肪酸組成のうち、0.50%以下である。
(g)DHAとn-6DPAの合計が全脂肪酸組成のうち、0.7%以下である。」、
「ただし、微生物油が下記(b)〜(d)からなる群から選ばれる1以上を満たす場合、遺伝子改変されたラビリンチュラ類は下記(A)であり、微生物油が下記(f)または(g)を満たす場合、遺伝子改変されたラビリンチュラ類は下記(B)である」と特定されている、すなわち、遺伝子改変が(B)である場合、微生物油は(f)または(g)を満足することが特定されているのに対して、引用発明2には特定されていない点。

(相違点1)について
上記(1)のオの記載より、OrfAの破壊とはPUFA PKS経路関連遺伝子の破壊であると理解されるところ、引用発明2のThraustochytriumaureum OrfA破壊株は、OrfAの破壊よりPUFA−PKS経路によるPUFAの生産能が無いと認められる。
そうすると、引用発明2のThraustochytriumaureum OrfA破壊株は、補正発明にいう「PUFA−PKS経路による高度不飽和脂肪酸(PUFA)の生産能が無いあるいは極めて微弱であるラビリンチュラ類」に該当すると認められる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(相違点2)について
文献1の実施例8(上記(1)のカ)の「Thraustochytrium aureum OrfA破壊株においてΔ4デサチュラーゼ遺伝子を破壊すると、C22: 5n-6(DPA) およびC22: 6n-3(DHA) がほとんど生合成されなくなり」の記載、及び図71(但し、図は摘記せず)から、引用発明2の株においてΔ4デサチュラーゼ遺伝子を遺伝子工学的に破壊または/および発現抑制した遺伝子改変ラビリンチュラ類が産生する微生物油は、その脂肪酸組成が(f)または(g)の1以上を満たすと認められる。
したがって、相違点2も実質的な相違点ではない。

よって、遺伝子改変が(B)の場合の補正発明は、引用発明2と同一であるから、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

4.上申書の補正案について
審判請求人は、令和4年1月28日付け上申書において補正案を示している。
そこで検討すると、この補正案に示された発明は、補正発明を上記3.(3)で述べた「補正発明の遺伝子改変が(B)の場合」に限定し、微生物をParietichytrium属またはSchizochytrium属に属するラビリンチュラ類に限定するものと認められる。
しかし、上記3.(2)に記載したように、文献1には「ラビリンチュラ類のΔ4デサチュラーゼ遺伝子を遺伝子工学的に破壊または/および発現抑制した遺伝子改変ラビリンチュラ類が産生する、脂肪酸組成が改変された微生物油」が記載されており、さらに、文献1にはラビリンチュラ類としてParietichytrium属またはSchizochytrium属に属するものが記載されている(請求項16など)から、補正案に示された発明は、文献1に記載された発明であるか、文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.小括
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について
1.本願に係る発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜20に係る発明は、令和2年8月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜20に記載の事項により特定される発明であると認める。

2.原査定の理由
令和3年1月19日付け拒絶査定は、この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、との理由を含むものである。

3.当審の判断
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1.に(補正前)として記載したものであり、本願発明は補正発明に特定される上記の構成からなる態様を包含していると認められる。
そうすると、本願発明は、補正発明と同様の理由から、引用発明1または引用発明2、すなわち、文献1に記載された発明と同一である。


第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-03-03 
結審通知日 2022-03-08 
審決日 2022-03-23 
出願番号 P2017-527456
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C12P)
P 1 8・ 575- Z (C12P)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 吉森 晃
中島 庸子
発明の名称 微生物油産生ラビリンチュラ類、微生物油、ならびにそれらの作成方法およびそれらの使用  
代理人 須藤 阿佐子  
代理人 須藤 晃伸  
代理人 須藤 晃伸  
代理人 須藤 晃伸  
代理人 須藤 阿佐子  
代理人 須藤 阿佐子  

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