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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1385802
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-04-28 
確定日 2022-05-19 
事件の表示 特願2017−564258「多層プリント配線板及び多層金属張積層板」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月 3日国際公開,WO2017/130945〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成29年1月24日(優先権主張 平成28年1月26日 日本国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年10月29日付け:拒絶理由通知
令和2年12月29日 :手続補正書,意見書
令和3年 1月26日付け:拒絶査定
令和3年 4月28日 :審判請求書,補正書
令和3年 9月27日 :上申書
令和3年11月24日付け:当審による拒絶理由通知
令和4年 1月31日 :手続補正書,意見書

第2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は,令和4年1月31日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものと認められるところ,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
多層プリント配線板であって,
前記多層プリント配線板は,複数の導体層と,複数の絶縁層とを有し,
前記多層プリント配線板は,前記複数の導体層及び前記複数の絶縁層を交互に積層して形成され,
前記複数の絶縁層のうちの少なくとも1つの絶縁層が,ポリオレフィン樹脂層を含み,
前記複数の絶縁層のうちの前記少なくとも1つの絶縁層を除く各絶縁層が,フッ素樹脂層を含み,
前記ポリオレフィン樹脂層が,成分(A)ポリオレフィン系エラストマーと,成分(B)熱硬化性樹脂とを含み,
前記ポリオレフィン樹脂層全体に占める前記成分(A)ポリオレフィン系エラストマーの割合が50〜95質量%であり,
前記成分(A)ポリオレフィン系エラストマーが,ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン共重合体,ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン共重合体,ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン共重合体,ポリスチレン−ポリイソプレンブロック共重合体,水添ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリブタジエンブロック共重合体,ポリスチレン−ポリ(ブタジエン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン共重合体,エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体,及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体からなる群より選択される1種又は2種以上である,
多層プリント配線板。」

第3 当審拒絶理由の概要
本願の請求項1に対して,引用文献4を主引用例として令和3年11月24日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は,次のとおりのものである。
本願の請求項1に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献4に記載された発明,並びに,引用文献3及び6に記載された周知の技術事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献4.特開2012−122046号公報
引用文献3.特開2014−165529号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6.特開2013−249334号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献4,引用発明
1 引用文献4には次の事項が記載されている。なお,下線は当審で付与した。
「【0012】
本発明は,このような実情に鑑みてなされたものであり,樹脂成分の相容性を十分に確保しつつ,高周波領域における良好な誘電特性を印刷配線板に付与することが可能な印刷配線板用樹脂フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために,本発明の印刷配線板用樹脂フィルムの製造方法は,(A)スチレンユニットを有する飽和型熱可塑性エラストマと,(B)エポキシ樹脂,シアネートエステル樹脂,ポリブタジエン樹脂及びマレイミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種以上の熱硬化性樹脂,並びに必要に応じて配合される熱硬化性樹脂の硬化剤及び硬化促進剤を含む熱硬化性樹脂成分とを含有し,(B)成分の含有量WBに対する(A)成分の含有量WAの質量比WA/WBが0.430〜5.000であり,かつ,ポリフェニレンエーテルの含有量が(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対して10質量部以下である樹脂組成物を,支持基材の片面に流延塗布し,加熱乾燥により樹脂組成物を半硬化又は硬化する工程を含む。」

「【0044】
[(A)成分]
(A)成分は,分子中にスチレンユニットを有する飽和型熱可塑性エラストマである。(A)成分は,分子中にスチレンユニットを有する飽和型熱可塑性エラストマであれば,特に限定されるものではなく,またスチレンブロックの含有比率も特に限定されるものではない。本実施形態において好適に用いられる(A)成分の具体例としては,スチレン−エチレン−ブチレン共重合体(SEBS)が挙げられ,スチレン−ブタジエン共重合体のブタジエンに由来する構造単位が有する不飽和二重結合への水素添加により得ることができる。すなわち,本実施形態における飽和型熱可塑性エラストマとは,芳香族炭化水素部分(スチレンブロック)以外の脂肪族炭化水素部分が飽和結合基からなるものをいう。」

「【0047】
ここで,化学変性飽和型熱可塑性エラストマとしては,無水マレイン酸で変性されたSEBS(旭化成ケミカルズ製,タフテックM1911,M1913,M1943等)が挙げられる。一方,非変性飽和型熱可塑性エラストマとしては,非変性のSEBS(旭化成ケミカルズ製,タフテックH1041,H1051,H1043,H1053,H1141等)などが挙げられる。」

「【0048】
[(B)成分]
次に,(B)成分について説明する。(B)成分の第1の態様は,エポキシ樹脂,シアネートエステル樹脂,ポリブタジエン樹脂,マレイミド化合物からなる群より選ばれる熱硬化性樹脂又は必要に応じて配合される熱硬化性樹脂の硬化剤(架橋剤)を含む熱硬化性樹脂成分である。(B)成分が第1の態様である場合,質量比WA/WBは,0.430〜5.000であり,かつ,ポリフェニレンエーテルの含有量が(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対して10質量部以下であることが必須である。この範囲内であれば,得られる樹脂フィルムは,良好なフィルム形成能や取り扱い性と高周波帯域での誘電特性を維持しつつ,耐熱性,耐湿性及び高接着性を備える。また,質量比WA/WBは,0.430〜1.500であることがより好ましく,0.430〜1.000であることが更に好ましい。このような熱硬化性樹脂成分であれば,特に限定されるものではないが,中でも誘電特性,耐湿性の観点から,ポリブタジエン樹脂を含むことがより好ましく,ポリブタジエン樹脂とマレイミド化合物を併用することが,誘電特性,耐湿性,耐熱性,熱膨張特性の観点から特に好ましい。」

「【0083】
本実施形態における樹脂組成物を調製する際,(A)成分,(B)成分及び必要に応じて併用される(B’)成分,(C)成分,架橋剤,難燃剤,無機充填剤及び各種添加剤の混合方法は,特に限定されないが,有機溶媒を加えて公知の方法で攪拌し,溶解,分散させた樹脂ワニスの形態で用いることが好ましい。この場合に用いられる溶媒としては,特に限定するものではないが,具体例としては,メタノール,エタノール,ブタノール等のアルコール類,エチルセロソルブ,ブチルセロソルブ,エチレングリコールモノメチルエーテル,カルビトール,ブチルカルビトール等のエーテル類,アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,シクロヘキサノン等のケトン類,トルエン,キシレン,メシチレン等の芳香族炭化水素類,メトキシエチルアセテート,エトキシエチルアセテート,ブトキシエチルアセテート,酢酸エチル等のエステル類,N,N−ジメチルホルムアミド,N,N−ジメチルアセトアミド,N−メチル−2−ピロリドン等の含窒素類などの溶媒が挙げられる。(A)成分の良溶媒であるトルエン,キシレン,メシチレン等の芳香族炭化水素類又は芳香族炭化水素類とアセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,シクロヘキサノン等のケトン類との混合溶媒がフィルムとした時の外観が良好となるため好ましい。また,これらは一種類を単独で用いてもよく,2種類以上を組み合わせて用いてもよい。」

「【0085】
[樹脂フィルム]
本実施形態では,上記のようにして得られた樹脂ワニスを用いて公知の方法により樹脂フィルムを製造することができる。例えば,上述の樹脂組成物又は樹脂ワニスを,金属箔や耐熱性フィルム(PET等)等の支持基材の片面にキスコーター,ロールコーター,コンマコーター等を用いて塗布した後,加熱乾燥炉中等で通常70〜250℃(溶媒を使用した場合は溶媒の揮発可能な温度以上),好ましくは70〜200℃の温度で1〜30分間,好ましくは3〜15分間乾燥することにより,半硬化(Bステージ化)の樹脂フィルム,更にこれを加熱炉で更に170〜250℃,好ましくは185〜230℃の温度で60〜150分間加熱させることによって硬化した樹脂フィルムが得られる。」

「【0108】
(調製例19)
調製例8において,(A)成分のタフテックH1053及びH1031の代わりに,タフテックH1051及びH1141に置き換えて,用いた材料を表1に示す配合量で配合したこと以外は調製例8と同様にして樹脂ワニスを調製した。」

「【0140】
【表1】



「【0143】
[半硬化(Bステージ)樹脂フィルムの作製]
調製例1〜33及び比較調製例1〜16で得られた樹脂ワニスを,コンマコータを用いて,支持基材として厚さ38μmのPETフィルム(G2−38,帝人製)上に塗工し(乾燥温度:130℃),膜厚50μmのPETフィルム付き樹脂フィルムを作製した。なお,調製例1〜33の樹脂ワニスを用いて作製した半硬化樹脂フィルムが実施例1〜33,比較調製例1〜16の樹脂ワニスを用いて作製した半硬化樹脂フィルムが比較例1〜16にそれぞれ相当する。」

「【0145】
回路パターンが形成させたガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板を内層回路基板とし,その両面に,PETフィルムを剥離した上記半硬化樹脂フィルムを1枚載せ,その上に厚さ12μmの電解銅箔(YGP−12,日本電解製)を配置し,その上に鏡板を載せ,200℃/3.0MPa/70分のプレス条件で加熱加圧成形して,4層配線板を作製した。この4層配線板の最外層の銅箔をエッチングし,回路埋め込み性(多層化成形性)を評価した。評価結果を表4〜6に示す。多層化成形性は目視により評価し,ボイド,カスレが多少なりともあるものを×,回路に均一に樹脂が充填されており均一なものを○とした。」

2 前記記載事項から次のことがいえる。
(1)段落【0143】によれば,「半硬化樹脂フィルム」は,「調製例」「で得られた樹脂ワニスを」「支持基材」「上に塗工し(乾燥温度:130℃)」「作製した」ものである。
そして,段落【0145】によれば,「回路パターンが形成させたガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板を内層回路基板とし,その両面に」「半硬化樹脂フィルム」を載せた「4層配線板」が記載されている。なお,段落【0145】の「回路パターンが形成させた」は,「回路パターンが形成された」の誤記と認められる。

(2)段落【0140】の【表1】を参照すると,「調製例」の「19」は,「(A)成分」の「飽和型熱可塑性エラストマ」として「H1051」を「35」及び「H1141」を「35」,「(B)成分」として「ポリブタジエン樹脂」を「16」,「マレイミド化合物」を「2」,及び「硬化促進剤」を「0.4」,並びに,「溶剤」として「トルエン(樹脂分調製時)」を「220」及び「メチルエチルケトン」を「30」含むものである。
ここで,段落【0048】によれば,「(A)成分及び(B)成分の合計」を「質量部」で表している。してみると,段落【0140】の【表1】に記載された各成分の数値も「質量部」を表すものと認められる。

(3)段落【0044】によれば,「(A)成分」の「飽和型熱可塑性エラストマ」の具体例としては,「スチレン−エチレン−ブチレン共重合体(SEBS)が挙げられ,スチレン−ブタジエン共重合体のブタジエンに由来する構造単位が有する不飽和二重結合への水素添加により得ることができる」ものである。そして段落【0047】によれば,「SEBS」として「H1051」及び「H1141」が挙げられるものである。
してみると,「(A)成分」の「飽和型熱可塑性エラストマ」としての「H1051」及び「H1141」は,「スチレン−エチレン−ブチレン共重合体」であって,「スチレン−ブタジエン共重合体のブタジエンに由来する構造単位が有する不飽和二重結合への水素添加により得ることができる」ものである。

(4)段落【0048】によれば,「ポリブタジエン樹脂」及び「マレイミド化合物」は「熱硬化性樹脂」である。

3 したがって,引用文献4には,調製例19に注目すると,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。
「樹脂ワニスを支持基材上に塗工し(乾燥温度:130℃),半硬化樹脂フィルムを作製し,
回路パターンが形成されたガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板を内層回路基板とし,その両面に前記半硬化樹脂フィルムを載せた4層配線板であって,
前記樹脂ワニスは,
(A)成分の飽和型熱可塑性エラストマとして,H1051を35質量部及びH1141を35質量部含み,
(B)成分として,ポリブタジエン樹脂を16質量部,マレイミド化合物を2質量部,及び硬化促進剤を0.4質量部含み,並びに,
溶剤として,トルエンを220質量部及びメチルエチルケトンを30質量部含み,
前記H1051及びH1141は,スチレン−エチレン−ブチレン共重合体であって,スチレン−ブタジエン共重合体のブタジエンに由来する構造単位が有する不飽和二重結合への水素添加により得ることができるものであり,
ポリブタジエン樹脂及びマレイミド化合物は熱硬化性樹脂である,
4層配線板。」

第5 対比・判断
1 本願発明と引用発明との対比
(1)本願発明の「導体層」は,本願明細書の段落【0062】によれば,「回路を構成する所定の導体パターンを設けて形成されている」ものである。
してみると,引用発明の「回路パターン」は,「本願発明の「導体層」に相当する。

(2)本願発明の「絶縁層」は,本願明細書の段落【0105】ないし【0110】及び【0130】によれば,「銅張積層板」である「高周波基板」における「ガラスクロス強化フッ素樹脂」を含むものである。
してみると,引用発明の「ガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板」における「ガラス布基材エポキシ樹脂」と,「半硬化樹脂フィルム」とは,「樹脂」が絶縁性であるという技術常識より,本願発明の「複数の絶縁層」に相当する。

(3)本願発明の「多層プリント配線板であって,前記多層プリント配線板は,複数の導体層と,複数の絶縁層とを有し,前記多層プリント配線板は,前記複数の導体層及び前記複数の絶縁層を交互に積層して形成され」ることは,本願明細書の段落【0086】によれば,「前記2つの絶縁層(2)と交互に積層された1つ又は複数の導体層(1)を有する」「多層プリント配線板」のうち「複数の導体層」を有するものを含む。
それに対して,引用発明の「回路パターンが形成されたガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板を内層回路基板とし,その両面に前記半硬化樹脂フィルムを載せた4層配線板」は,「内層回路基板」とした「ガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板」の両面に載せた2つの「半硬化樹脂フィルム」の間に,「ガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板」における「回路パターン」が積層されるから,2つの「半硬化樹脂フィルム」と交互に積層された1つの「回路パターン」を有するものといえる。
よって,前記(1)及び(2)の点を踏まえると,本願発明の「多層プリント配線板であって,前記多層プリント配線板は,複数の導体層と,複数の絶縁層とを有し,前記多層プリント配線板は,前記複数の導体層及び前記複数の絶縁層を交互に積層して形成され」ることと,引用発明の「回路パターンが形成されたガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板を内層回路基板とし,その両面に前記半硬化樹脂フィルムを載せた4層配線板」とは,「多層プリント配線板であって,前記多層プリント配線板は,」「導体層と,複数の絶縁層とを有し,前記多層プリント配線板は,前記」「導体層及び前記複数の絶縁層を交互に積層して形成され」る点で一致する。
但し,「導体層」について,本願発明は「複数の導体層」を有し,「複数の導体層」及び複数の絶縁層を交互に積層して形成されるのに対して,引用発明はそのような構成であることが特定されていない点で相違する。

(4)引用発明の「H1051」及び「H1141」は「飽和型熱可塑性エラストマ」且つ「スチレン−エチレン−ブチレン共重合体」であるところ,技術常識によれば「エチレン」及び「ブチレン」はオレフィンであるから,本願発明の「成分(A)ポリオレフィン系エラストマー」に相当する。
また,引用発明の「ポリブタジエン樹脂及びマレイミド化合物」は熱硬化性樹脂であるから,本願発明の「成分(B)熱硬化性樹脂」に相当する。
してみると,引用発明の「半硬化樹脂フィルム」は,本願発明の「成分(A)ポリオレフィン系エラストマー」及び「成分(B)熱硬化性樹脂」に相当するものを含むから,本願発明の「ポリオレフィン樹脂層」であって「前記ポリオレフィン樹脂層が,成分(A)ポリオレフィン系エラストマーと,成分(B)熱硬化性樹脂とを含」むことに相当する。

(5)前記(2)ないし(4)によれば,引用発明の「配線板」が「回路パターンが形成されたガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板を内層回路基板とし,その両面に前記半硬化樹脂フィルムを載せた」ことは,「ガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板」と「半硬化樹脂フィルム」とのうち「半硬化樹脂フィルム」が,本願発明の「ポリオレフィン樹脂層」に相当する構成を備えるから,本願発明の「前記複数の絶縁層のうちの少なくとも1つの絶縁層が,ポリオレフィン層を含」むことに相当する。
但し,「前記複数の絶縁層のうちの前記少なくとも1つの絶縁層を除く各絶縁層」について,本願発明は「フッ素樹脂層を含」むのに対して,引用発明は「ガラス布基材エポキシ樹脂」を備える点で相違する。

(6)引用文献4の段落【0085】によれば,「樹脂ワニス」を支持基材に塗布した後,「70〜250℃(溶媒を使用した場合は溶媒の揮発可能な温度以上)」で乾燥することにより,「半硬化(Bステージ化)の樹脂フィルム」が得られるものである。そして,「溶媒」及び「溶剤」は,同じものを指す技術用語である。
してみると,引用発明の「樹脂ワニスを支持基材上に塗工し(乾燥温度:130℃)」作製した「半硬化樹脂フィルム」は,「溶剤」の揮発可能な温度以上で乾燥しているといえるから,「樹脂ワニス」とほぼ同じ質量部の「(A)成分」及び「(B)成分」を含む一方で,「樹脂ワニス」のうちの「溶剤」はほぼ揮発しているものと認められる。
そうすると,引用発明の「前記樹脂ワニスは,(A)成分の飽和型熱可塑性エラストマとして,H1051を35質量部及びH1141を35質量部含み,(B)成分として,ポリブタジエン樹脂を16質量部,マレイミド化合物を2質量部,及び硬化促進剤を0.4質量部含み,並びに,溶剤として,トルエンを220質量部及びメチルエチルケトンを30質量部含」むことは,「半硬化樹脂フィルム」全体が88.4質量部(「H1051を35質量部」+「H1141を35質量部」+「ポリブタジエン樹脂を16質量部」+「マレイミド化合物を2質量部」+「硬化促進剤を0.4質量部」)であるのに対して,「飽和型熱可塑性エラストマ」が70質量部(「H1051を35質量部」+「H1141を35質量部」)を占めるから,「半硬化樹脂フィルム」全体に占める「飽和型熱可塑性エラストマ」の割合が70/88.4×100(質量%)=79.2質量%であるといえる。
このことは,本願発明の「前記ポリオレフィン樹脂層全体に占める前記成分(A)ポリオレフィン系エラストマーの割合が50〜95質量%であ」ることに含まれる。

(7)引用発明の「ブタジエンに由来する構造単位が有する不飽和二重結合への水素添加」をしたものは,技術常識を鑑みれば「エチレン−ブチレン」の構造単位になるから,本願発明の「(エチレン/ブチレン)ブロック」に相当する。
したがって,引用発明の「エラストマであるスチレン−エチレン−ブチレン共重合体であって,スチレン−ブタジエン共重合体のブタジエンに由来する構造単位が有する不飽和二重結合への水素添加により得ることができるもの」は,本願発明の「ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン共重合体」に相当する。
してみると,引用発明の「前記H1051及びH1141は,スチレン−エチレン−ブチレン共重合体であって,スチレン−ブタジエン共重合体のブタジエンに由来する構造単位が有する不飽和二重結合への水素添加により得ることができるものであ」ることは,本願発明の「前記成分(A)ポリオレフィン系エラストマーが,ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン共重合体,ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン共重合体,ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン共重合体,ポリスチレン−ポリイソプレンブロック共重合体,水添ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリブタジエンブロック共重合体,ポリスチレン−ポリ(ブタジエン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン共重合体,エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体,及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体からなる群より選択される1種又は2種以上である」ことに含まれる。

2 一致点・相違点
したがって,本願発明と引用発明とは,
「多層プリント配線板であって,
前記多層プリント配線板は,導体層と,複数の絶縁層とを有し,
前記多層プリント配線板は,前記導体層及び前記複数の絶縁層を交互に積層して形成され,
前記複数の絶縁層のうちの少なくとも1つの絶縁層が,ポリオレフィン樹脂層を含み,
前記ポリオレフィン樹脂層が,成分(A)ポリオレフィン系エラストマーと,成分(B)熱硬化性樹脂とを含み,
前記ポリオレフィン樹脂層全体に占める前記成分(A)ポリオレフィン系エラストマーの割合が50〜95質量%であり,
前記成分(A)ポリオレフィン系エラストマーが,ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン共重合体,ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン共重合体,ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン共重合体,ポリスチレン−ポリイソプレンブロック共重合体,水添ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリブタジエンブロック共重合体,ポリスチレン−ポリ(ブタジエン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン共重合体,エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体,及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体からなる群より選択される1種又は2種以上である,
多層プリント配線板。」で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
「導体層」について,本願発明は「複数の導体層」を有し,「複数の導体層」及び複数の絶縁層を交互に積層して形成されるのに対して,引用発明はそのような構成であることが特定されていない点で相違する。

(相違点2)
「前記複数の絶縁層のうちの前記少なくとも1つの絶縁層を除く各絶縁層」について,本願発明は「フッ素樹脂層を含」むのに対して,引用発明は「ガラス布基材エポキシ樹脂」を備える点。

相違点の判断
(1)相違点1について
多層プリント配線板の技術分野において,複数の導体層を有し,複数の導体層及び複数の絶縁層を交互に積層して形成する構成は,特開昭63−47134号公報(第1頁左下欄第17行ないし第2頁右下欄第18行及び第1図を参照。フッ素樹脂積層板の両面に内層回路となる回路が形成された内層材1と,外層回路となる外層材3とを,プリプレグ2を介して重ね合わせた点。)及び特開平1−110793号公報(第2頁左下欄第14行ないし第2頁右上欄第17行及び第2図を参照。ガラス繊維に弗素樹脂を含浸させた基材1の両面に所定のパターンの銅箔2を形成して中間層3を形成し,弗素樹脂のフィルム4を挟むようにして中間層3を多層構造に積層する点。)に記載されているように,周知の技術事項である。
ここで,引用発明において導体層を複数層に形成することを妨げる事項はない。
よって,引用発明の「回路パターン」に前記周知の技術事項を適用して当該相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことである。

(2)相違点2について
プリント配線板の技術分野において,誘電率が低く,損失が低いことから,絶縁層に「フッ素樹脂層」を用いることは,当審の拒絶理由通知にて引用した引用文献3(特開2014−165529号公報の段落【0004】ないし【0007】,【0028】,【0032】,【0045】及び図1を参照。第1誘電体層の材料としてテフロン(登録商標)を用いる点。)及び引用文献6(特開2013−249334号公報の段落【0060】,【0070】,及び図3を参照。基材フィルム42の材料としてフッ素樹脂を用いる点。)に記載されているように,周知の技術事項である。
また,多層プリント配線板の内層回路基板を構成する絶縁層の材料として,エポキシに比べて誘電率が低いフッ素樹脂層を採用することも,特開昭63−47134号公報(第1頁左下欄第17行ないし第2頁右下欄第18行及び第1図を参照。内層材1を構成する樹脂にフッ素樹脂を用いる点。)及び特開平1−110793号公報(第2頁左下欄第14行ないし第2頁右上欄第17行及び第2図を参照。ガラス繊維に弗素樹脂を含浸させた基材1を用いている点。)に記載されているように,周知の技術事項である。
ここで,引用発明と前記周知の技術事項とは,プリント配線板に係る点で共通の技術分野に属する。また,引用発明は,低伝送損失の印刷配線板を得るためには,比誘電率及び誘電正接などの誘電特性が低いことが必要であるところ(段落【0001】ないし【0006】を参照),高周波特性における良好な誘電特性を印刷配線板に付与することを目的とするものである(段落【0012】)。したがって,引用発明と前記周知の技術事項とは,誘電率を低くする点で共通の課題を解決しようとするものである。
なお,引用文献4の段落【0003】には「従来,低伝送損失の印刷配線板を得るため,比誘電率及び誘電正接が低いフッ素系樹脂が基板材料として使用されている。しかしながら,フッ素系樹脂はコストが高いだけでなく,溶融温度及び溶融粘度が高く,その流動性が比較的低いため,プレス成型を高温高圧条件下で行う必要があるという問題点がある。加えて,印刷配線板用途に使用するには,加工性,熱膨張特性,寸法安定性及び金属めっきとの接着性が不充分であるという問題点もある。また他の樹脂材料との接着や複合化が困難であり,用途が限定されている。更にフッ素系樹脂は基本的には熱可塑性樹脂であるために耐熱性の要求される用途や誘電特性の温度に対する安定性の要求される用途での使用は困難である。」と記載されている。しかしながら,当該記載は樹脂フィルムの樹脂組成物を特定するものであって(段落【0013】を参照),樹脂フィルムを配置する「コア基板」(引用発明の「内層回路基板」に相当)の絶縁層を構成する樹脂を特定するものではない(段落【0087】を参照)。したがって,段落【0003】の記載は,「コア基板」を構成する絶縁層に「フッ素系樹脂」を適用することを阻害するものではない。
よって,引用発明の「内層回路基板」の絶縁層を構成する「ガラス基材エポキシ樹脂」に代えて前記周知の技術事項を適用して当該相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことである。

第6 令和4年1月31日付け意見書における審判請求人の主張について
(1)審判請求人は,令和4年1月31日付け意見書において以下の主張をしている。
「本願発明1と引用発明4(引用文献4に記載された発明)とは,少なくとも以下の点で相違する。
〔相違点A4〕
『本願発明1では,前記複数の絶縁層のうちの少なくとも1つの絶縁層が,ポリオレフィン樹脂層を含み,前記複数の絶縁層のうちの前記少なくとも1つの絶縁層を除く各絶縁層が,フッ素樹脂層を含み,前記ポリオレフィン樹脂層が,成分(A)ポリオレフィン系エラストマーと,成分(B)熱硬化性樹脂とを含み,前記ポリオレフィン樹脂層全体に占める前記成分(A)ポリオレフィン系エラストマーの割合が50〜95質量%であるのに対して,引用発明4では,このような構成を採用していない点。』
この点,本願発明1の『フッ素樹脂層』に相当するものとして,引用文献3には『テフロン(登録商標)』(段落[0032])及び引用文献6には『フッ素樹脂』(段落[0070])がそれぞれ記載されている。
しかしながら,上述した相違点A1の場合と同様に,本願発明1は,出願時の技術水準から当業者が予測することができない有利な効果を有するので,相違点A4に係る構成は容易想到ではない。
すなわち,上記の有利な効果とは,絶縁層として,ポリオレフィン樹脂層及びフッ素樹脂層を使用する場合においては,ポリオレフィン樹脂組成物における成分(A)ポリオレフィン系エラストマーの割合が50質量%以上であれば,多層プリント配線板の耐熱性(特に吸湿後の半田耐熱性)を向上させることができる,というものであるが,このような効果は,引用文献4,3,6のいずれを参酌しても当業者には予測することができないものと思料する。」

(2)しかしながら,審判請求人が主張する「多層プリント配線板の耐熱性(特に吸湿後の半田耐熱性)を向上させることができる」ことは,本願明細書の段落【0039】によれば,本願発明の「前記ポリオレフィン樹脂層全体に占める成分(A)ポリオレフィン系エラストマーの割合が50〜95質量%」であることによって奏されるものであって,「前記複数の絶縁層のうちの前記少なくとも1つの絶縁層を除く各絶縁層が,フッ素樹脂層を含」むことによって奏されるものではない。
なお,引用発明は「前記ポリオレフィン樹脂層全体に占める前記成分(A)ポリオレフィン系エラストマーの割合が50〜95質量%」であることに相当する構成を備える。
よって,審判請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用文献4に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論の通り審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,特許庁長官を被告として,提起することができます。
 
審理終結日 2022-03-11 
結審通知日 2022-03-15 
審決日 2022-03-29 
出願番号 P2017-564258
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 棚田 一也
木下 直哉
発明の名称 多層プリント配線板及び多層金属張積層板  
代理人 特許業務法人北斗特許事務所  
代理人 特許業務法人北斗特許事務所  
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