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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60H
管理番号 1385849
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-28 
確定日 2022-05-27 
事件の表示 特願2019−517824「乗物用電気加熱装置」拒絶査定不服審判事件〔2018年 4月12日国際公開、WO2018/065548、令和 1年11月21日国内公表、特表2019−533600〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)10月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年10月5日、(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 1年 5月28日 :手続補正書の提出
令和 2年 6月30日付け:拒絶理由通知書
令和 2年12月 1日 :意見書及び誤訳訂正書の提出
令和 3年 1月27日付け:拒絶査定
令和 3年 5月28日 :審判請求書、同時に誤訳訂正書の提出

第2 令和3年5月28日に提出された誤訳訂正書による補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年5月28日に提出された誤訳訂正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「基板(10)と、
前記基板(10)上に形成された発熱導体層(12)と、
を備える自動車の電気加熱装置であって、
前記発熱導体層(12)は前記基板(10)上に配置された少なくとも一つの発熱導体トラック(14)を有し、
前記発熱導体トラック(14)は、絶縁ギャップ(16)によって互いに分離された複数のトラック部(15a〜15d)が形成されるように構成され、
前記発熱導体トラックは、前記発熱導体トラック(14)が曲げられる位置にあり、且つ、第1のトラック部(15a)と第2のトラック部(15b)との間に配置された少なくとも一つの曲げ部(17a)を有し、
前記第1のトラック部(15a)及び前記第2のトラック部(15b)は、前記曲げ部よりも小さな曲率に形成され、
前記第1のトラック部(15a)又は前記曲げ部(17c)内の前記発熱導体トラックは、一つ又は複数の分岐絶縁ギャップ(20)によって互いに分離された少なくとも二つの分岐トラック(21a、21b)に分岐し、
前記分岐トラック(21a、21b)は、前記第2のトラック部(15b)又は前記曲げ部(17a)内で再び合流し、
電流の方向が互いに反対である隣接するトラック部間の距離は、前記反転部(17a)の領域で局所的に拡げられるように形成されて、前記反転部(17a)が、取り囲まれた領域(22)を有し、
前記取り囲まれた領域(22)は、前記第2のトラック部(15b)に電気伝導して接続される、
自動車の電気加熱装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年12月1日に提出された誤訳訂正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「基板(10)と、
前記基板(10)上に形成された発熱導体層(12)と、
を備える自動車の電気加熱装置であって、
前記発熱導体層(12)は前記基板(10)上に配置された少なくとも一つの発熱導体トラック(14)を有し、
前記発熱導体トラック(14)は、絶縁ギャップ(16)によって互いに分離された複数のトラック部(15a〜15d)が形成されるように構成され、
前記発熱導体トラックは、前記発熱導体トラック(14)が曲げられる位置にあり、且つ、第1のトラック部(15a)と第2のトラック部(15b)との間に配置された少なくとも一つの曲げ部(17a)を有し、
前記第1のトラック部(15a)及び前記第2のトラック部(15b)は、前記曲げ部よりも小さな曲率に形成され、
前記第1のトラック部(15a)又は前記曲げ部(17c)内の前記発熱導体トラックは、一つ又は複数の分岐絶縁ギャップ(20)によって互いに分離された少なくとも二つの分岐トラック(21a、21b)に分岐し、
前記分岐トラック(21a、21b)は、前記第2のトラック部(15b)又は前記曲げ部(17a)内で再び合流する、
自動車の電気加熱装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「トラック部」に対して、「電流の方向が互いに反対である隣接するトラック部間の距離は、前記反転部(17a)の領域で局所的に拡げられるように形成されて、前記反転部(17a)が、取り囲まれた領域(22)を有し、前記取り囲まれた領域(22)は、前記第2のトラック部(15b)に電気伝導して接続される」という限定事項を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲の請求項1に関する本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
ただし、本件補正後の請求項1には「前記曲げ部(17c)」と記載されているが、本件補正後の請求項1における当該記載箇所より前にも、発明の詳細な説明にも、「曲げ部(17c)」は存在しないものの、「曲げ部(17a)」は存在するため、「前記曲げ部(17c)」は「前記曲げ部(17a)」を意味すると理解した。
また、本件補正後の請求項1には、2箇所において「前記反転部(17a)」と記載されているが、本件補正後の請求項1における、当該記載箇所のうち1箇所目より前には「反転部(17a)」は存在しない。そして、令和1年5月28日に提出された手続補正書による補正後の図3(及び図2)からは、電流の方向が互いに反対である隣接する第1のトラック部(15a)と第2のトラック部(15b)との間の距離が、発熱導体トラック(14)が反転する曲げ部(17a)の領域で局所的に拡げられるように形成されており、曲げ部(17a)が、取り囲まれた領域(22)を有する様子が看取できるため、2箇所の「前記反転部(17a)」は「前記曲げ部(17a)」ないし「前記曲げ部(17a)であり且つ前記発熱導体トラック(14)が反転する部分」を意味すると理解した。

(2)引用例の記載事項
ア 引用例1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、米国特許出願公開第2015/0163863号明細書(2015年6月11日出願公開。以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の記載がある(なお、日本語訳は当審が翻訳し、下線は理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)。

(ア)引用例1の記載

「[0010]It can be provided that the conductor track comprises precisely two deflections in the opposing direction. As a consequence, with regard to the current distribution, over the width of the conductor track, particularly critical deflections into the opposing direction can be avoided as far as possible which ensures a uniform current distribution and heat distribution on the conductor track.」
(当審訳:[0010]導体トラックは、対向する方向においてちょうど2つの偏向を有することができる。その結果、電流分布に関して、導体トラックの幅全体にわたって、反対方向への特に重大な偏向を可能な限り回避することができ、これにより、導体トラック上での均一な電流分布及び熱分布が保証される。)

「[0021]FIG. 1 illustrates a plan view of an electrical heating device 10 for a motor vehicle having a heating resistor that is embodied as a conductor track 12. The heating resistor 12 comprises a first connector 14 and a second connector 16 that are mutually connected by means of the conductor track 12. If a supply voltage is applied to the connectors 14 and 16, the heating resistor that is embodied by means of the conductor track 12 heats up. The conductor track 12 is arranged on an adhesive layer 18 that is arranged on a substrate 20. The adhesive layer 18 is almost entirely covered by means of the conductor track 12 while the substrate 20 is in turn almost entirely covered by the adhesive layer 18. As a consequence, almost the entire substrate is covered by the conductor track 12. This leads to a particularly good use of space and a uniform heat distribution. In this example, the substrate 20 is an aluminum substrate that is embodied as a heat exchanger. As a consequence, heat that is produced by means of the conductor track is dissipated by way of the substrate. The adhesive layer 18 is a layer of aluminum oxide. The conductor track 12 is routed in a spiral or coil-shaped manner having straight sections in a bifilar manner. In particular, conductor track sections that are supplied with a current in opposing directions in each case lie adjacent to one another at the deflection sections and the straight sections. The conductor track is produced by means of a laser method from a nickel-chrome layer that was applied to the adhesive layer 18 by means of a suitable method. In this embodiment, it is provided that the conductor track 12 is divided in the heating region along its length in each case into two part paths by means of a continuous, path-insulating region 22 and said part paths are supplied with current in a parallel manner. It is also feasible that one or more path-insulating regions 22 are only arranged in sections by way of example in the region of deflections or that more than two parallel routed part paths are embodied. In this case, multiple parallel insulating regions can be used. By way of example, the insulating regions can be embodied by means of forming a gap in the conductive material of the conductor track or by means of inserting insulating material in a gap of this type. Sections of the conductor track that have a current that is flowing in opposing directions are in each case electrically insulated with respect to one another by means of an insulating region 24. In FIG. 1, the insulating regions 22 and section-insulating regions 24 alternate in each case as seen from the exterior towards the interior. As is evident in FIG. 1, two deflecting regions 26, 28 are provided in the interior of the helical shape of the conductor track 12 in which the conductor track 12 is deflected in each case into the opposing direction. A wider insulating region 30, 32 is provided in each case in the region of this deflection. These insulating regions 30, 32 are embodied in this case in a drop-shaped manner and compel a current flow in the region of the deflections 26, 28 as far as possible by way of the entire width of the conductor track 12. It is also possible to make the conductor track narrower, in particular to reduce the width of the conductor track rather than widen the insulating region. In addition to the two deflections into the opposing direction, said deflections making it particularly easy to distribute the current in a uniform manner, the conductor track 12 only comprises right-angled deflections. It is fundamentally feasible also to provide a wider insulating region and/or to reduce the width of the conductor track 12 in regions of the right-angled deflections.
[0022]FIG. 2 illustrates an enlarged illustration of a lower region of the electrical heating system in FIG. 1. The deflecting region 26 is particularly evident in which the conductor track 12 is routed into the opposing direction. The drop-shaped form of the insulating region 32 is clearly illustrated in this example in the region of the deflection and said drop-shaped form of the insulating region leads to a uniform current flow around the deflection 26.」
(当審訳:[0021]図1は、導体トラック12として形成された発熱抵抗体を備えた自動車用の電気加熱装置10の平面図を示している。発熱抵抗体12は、導体トラック12によって相互に接続された第1のコネクタ14と第2コネクタ16とを備えている。コネクタ14、16に電源電圧が印加されると、導体トラック12によって形成された発熱抵抗体の温度が上昇する。導体トラック12は基板20上に配置された接着層18上に配置されている。基板20は順番に接着剤層18によってほぼ全体的に覆われながら、接着剤層18は導体トラック12によってほぼ全体的に覆われている。その結果、基板の概ね全体が導電トラック12によって覆われている。これは、空間の特に良好な使用と均一な熱分布をもたらす。この例では、基板20は、熱交換器として形成されたアルミニウム基板である。その結果、導体トラックによって生成された熱は基板を介して放熱される。接着剤層18は、酸化アルミニウムの層である。導体トラック12は、バイファイラ方法で直線部分を有する螺旋状又はコイル状に引き回されている。特に、反対方向に電流が供給されるいずれの導電性トラックも、偏向部分と直線部分とにおいて、互いに隣接して配置される。導体トラックは、適切な方法を用いて接着剤層18に被着されたニッケル・クロム層から、レーザによって製造される。本実施例では、導体トラック12は、加熱領域において、いずれもその長さ方向に沿って、連続的な経路絶縁領域22により2つの部分経路に分割され、前記部分経路は並列的に電流が供給される。1つ以上の経路絶縁領域22は、例えば偏向領域などの部分にのみ配置されていてもよく、2以上の平行に経路案内された部分経路が具体化されてもよい。この場合、複数の平行な絶縁領域を使用することができる。例えば、この絶縁領域は、導体トラックの導電性材料にギャップを形成することによって、又は、この種のギャップに絶縁体を挿入することにより具体化することができる。互いに反対方向に流れる電流を有する導体トラックのセクションは、絶縁領域24によって、いずれも、互いに対して電気的に絶縁されている。図1において、絶縁領域22及びセクション絶縁領域24はいずれも、外部から内部に向かって見られるように、交互に並んでいる。図1から明らかなように、2箇所の偏向領域26、28は、導体トラック12がいずれの場合にも反対方向に偏向させられる導体トラック12の螺旋形状の内側に設けられている。広い絶縁領域30、32は、いずれもこの偏向領域に設けられている。これらの絶縁領域30、32は、この場合、滴状に形成されていて、偏向領域26、28において、可能な限り、導体トラック12の全幅を介して電流を流す。導体トラックをより狭くすることも可能であり、特に、絶縁領域を広くするのではなく、導体トラックの幅を減少させることも可能である。導体トラック12は、非常に電流を均一に分布させやすくする、反対方向への2つの偏向に加えて、直角の偏向のみを含む。より広い絶縁領域を提供すること、及び/又は、直角の偏向領域において導体トラック12の幅を減少させることも基本的に可能である。
[0022]図2は、図1の電気加熱システムの下方領域の拡大図を示している。偏向領域26においては、導体トラック12が対向方向に経路案内されていることが特に明らかである。この例では、絶縁領域32の滴形状は、偏向領域に明確に示されており、絶縁領域の前記滴形状により、偏向26の周りに均一に電流が流れる。)













(イ)上記記載から、引用例1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a [0021]における「図1は、導体トラック12として形成された発熱抵抗体を備えた自動車用の電気加熱装置10の平面図を示している。」という記載、「コネクタ14、16に電源電圧が印加されると、導体トラック12によって形成された発熱抵抗体の温度が上昇する。」という記載、「導体トラック12は基板20上に配置された接着層18上に配置されている。基板20は順番に接着剤層18によってほぼ全体的に覆われながら、接着剤層18は導体トラック12によってほぼ全体的に覆われている。その結果、基板の概ね全体が導電トラック12によって覆われている。」という記載及びFig.3に示された、基板20と接着剤層18と導体トラック12とが積層されている態様から、「自動車用の電気加熱装置10が、基板20と、基板20上に配置された接着剤層18上に配置された、発熱するものである導体トラック12が成す層と、を備える」こと及び「導体トラック12が成す層は基板20上に配置された接着剤層18上に配置された導体トラック12を有する」ことがわかる。

b [0021]における「導体トラック12は、加熱領域において、いずれもその長さ方向に沿って、連続的な経路絶縁領域22により2つの部分経路に分割され」という記載、「この絶縁領域は、導体トラックの導電性材料にギャップを形成することによって」「具体化することができる。」という記載、「互いに反対方向に流れる電流を有する導体トラックのセクションは、絶縁領域24によって、いずれも、互いに対して電気的に絶縁されている」という記載、及び、Fig.1〜2から、「導体トラック12が、ギャップを形成することによって具体化された絶縁領域22、24によって互いに分離された複数のトラック部が形成されるように構成されている」ことがわかる。

c [0022]における「偏向領域26においては、導体トラック12が対向方向に経路案内されていることが特に明らかである。」という記載及びFig.1〜2に示された、導体トラック12が辿る経路の態様から、「導体トラック12が曲がるとともに対向方向に経路案内される(即ち方向が反転する)位置に偏向領域26、28が設けられる(つまり、偏向領域は導体トラック12を曲げて且つ反転させる領域である)」こと及び「偏向領域26、28が各々、自身よりコネクタ14に繋がる側にある直線状の導体トラック12と、自身よりコネクタ16に繋がる側にある直線状の導体トラック12との間に配置されている」ことがわかる。つまり、「導体トラック12は、導体トラック12が曲げられて反転させられる2箇所の位置それぞれにあり、且つ、当該位置よりコネクタ14に繋がる側の導体トラック12とコネクタ16に繋がる側の導体トラック12との間に配置された二つの、導体トラック12を曲げて且つ反転させる偏向領域26、28を有し、前記各位置において、コネクタ14に繋がる側の導体トラック12及びコネクタ16に繋がる側の導体トラック12は、直線部分である」といえる。

d [0021]における「互いに反対方向に流れる電流を有する導体トラックのセクションは、絶縁領域24によって、いずれも、互いに対して電気的に絶縁されている」という記載、「広い絶縁領域30、32は、いずれもこの偏向領域に設けられている。これらの絶縁領域30、32は、この場合、滴状に形成されていて」という記載並びにFig.1〜2に示された、偏向領域26、28における絶縁領域30、32の配置態様及び形状から、「互いに反対方向に流れる電流を有する隣接する導体トラック12間の、絶縁領域24の幅である距離は、偏向領域26、28で、広い絶縁領域30、32の滴形状により、局所的に拡げられるように形成される」ことがわかる。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「基板20と、
基板20上に配置された接着剤層18上に配置された、発熱するものである導体トラック12が成す層と、
を備える自動車用の電気加熱装置10であって、
導体トラック12が成す層は基板20上に配置された接着剤層18上に配置された導体トラック12を有し、
導体トラック12は、ギャップを形成することによって具体化された絶縁領域22、24によって互いに分離された複数のトラック部が形成されるように構成され、
導体トラック12は、導体トラック12が曲げられて反転させられる2箇所の位置それぞれにあり、且つ、当該位置よりコネクタ14に繋がる側の導体トラック12とコネクタ16に繋がる側の導体トラック12との間に配置された二つの、導体トラック12を曲げて且つ反転させる偏向領域26、28を有し、
前記各位置において、コネクタ14に繋がる側の導体トラック12及びコネクタ16に繋がる側の導体トラック12は、直線部分であり、
互いに反対方向に流れる電流を有する隣接する導体トラック12間の、絶縁領域24の幅である距離は、偏向領域26、28で、広い絶縁領域30、32の滴形状により、局所的に拡げられるように形成された、
自動車用の電気加熱装置10。」

イ 引用例2
同じく原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開2002−246155号公報(平成14年8月30日出願公開。以下「引用例2」という。)には、図面とともに次の記載がある。

(ア)引用例2の記載

「【0019】抵抗発熱体12のパターンは、同心円の一部を描くように形成された円弧からなる区画121、123と、その端部を繋ぐように形成された屈曲線からなる区画122、124とから構成されている。従って、区画121〜124は、いずれも抵抗発熱体12のパターンにおける曲線部分である。
【0020】区画121において、領域121aは、抵抗発熱体12の幅に対して、内周側の縁から70%以内の距離となる領域であり、その領域121a内に、切欠131が形成されている。同様に、区画122〜124において、領域122a〜124aは、それぞれ、抵抗発熱体12の幅に対して、内周側の縁から70%以内の距離となる領域である。そして、領域122a内に、切欠132が形成されており、領域123a内に、溝133が形成されており、領域124a内に、溝134が形成されている。
【0021】なお、切欠とは、抵抗発熱体の幅を局所的に狭くするために、抵抗発熱体の側面を含むように形成された一種の切れ込みをいう。または、溝または切欠は、抵抗発熱体の厚みが部分的に部分的に薄くなるように形成されていてもよく、溝または切欠の底部がセラミック基板の表面に届くように形成されていてもよい。
【0022】図1に示すように、本発明において、抵抗発熱体に形成される溝は、抵抗発熱体に電流が流れる方向と概ね平行であることが望ましく、また、抵抗発熱体に形成される切欠の主壁面は、抵抗発熱体に電流が流れる方向と概ね平行であることが望ましい。抵抗発熱体に断線が発生することを抑制することができるからである。なお、本発明において、切欠の主壁面とは、切欠が形成された部分の壁面であって、側面方向から観察可能な面をいうことにする。さらに、概ね平行であるとは、電流の流れる方向と切欠の主壁面とが、数学的に平行であることのみをいうものではなく、切欠の主壁面と電流の流れる方向とのなす角が鋭角であることを含むものとする。」

「【0155】
【発明の効果】本発明のセラミックヒータであれば、抵抗発熱体に溝または切欠が形成されることにより、抵抗発熱体の抵抗値が調整されているため、発熱量のばらつきが小さく、加熱面の温度が均一となる。また、抵抗発熱体パターンの曲線部分では、電流密度の高くなる抵抗発熱体の内周側に溝または切欠が形成されるため、効率よく抵抗発熱体をトリミングすることができ、電流密度が過度に高くなることがなく、その結果、抵抗発熱体に形成する溝または切欠の幅が広くならず、抵抗発熱体のトリミング時におけるレーザ光を照射する時間が短縮され、生産性の低下を抑えることができる。さらに、抵抗発熱体に形成された溝または切欠の幅が広くなることがないため、抵抗発熱体における溝または切欠が形成された箇所での電流通路の幅を広くとることができ、その結果、抵抗発熱体のトリミング時における断線を防ぐことができ、また、抵抗発熱体に過度に電流密度が高くなる部分がないため、セラミックヒータの発熱時や、昇温と降温とを繰り返すことによる断線を防ぐことができる。」





(イ)上記記載から、引用例2には、次の技術が記載されていると認められる。

「発熱量のばらつきを小さくし、加熱面の温度を均一にするために、屈曲線からなる区画124内の抵抗発熱体12に溝134を形成して、抵抗発熱体12を、溝134より内周側の電流通路と外周側の電流通路とに分岐させ、溝134より内周側の経路と外周側の経路とを区画124内で再び合流させる技術。」(以下「引用技術2A」という。)

「発熱量のばらつきを小さくし、加熱面の温度を均一にするために、反転する屈曲線からなり区画124に、屈曲する溝134に取り囲まれた、溝134より内周側の部分を備えさせ、当該部分を、区画123に電気伝導して接続する技術。」(以下「引用技術2B」という。)

ウ 引用例3
同じく原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、国際公開第2016/143063号(2016年9月15日国際公開。以下「引用例3」という。)には、図面とともに次の記載がある。

(ア)引用例3の記載

「[0016] 以上説明したように、本発明の面状発熱体によれば、抵抗発熱体の屈曲部にその抵抗発熱体の延在方向に沿って延在する少なくとも1つのスリットを設けることで、対象物の加熱時における抵抗発熱体の屈曲部における温度分布を均一にでき、また、温度分布の均一化のための均熱層を必要としないか、または均熱層を薄くできるため、昇温時および降温時における応答性を良好に維持することができる。また、本発明の半導体製造装置によれば、上記温度分布が均一な面状発熱体を備えているので、それを用いることで製品の歩留まりを良好にすることができる。」

「[0030] (3)スリットについて
本発明の実施形態の面状発熱体におけるスリットは、上述したように面状発熱体にパターン状に配置した抵抗発熱体の屈曲部に、その抵抗発熱体のパターンの延在方向に概ね沿って、少なくとも1つ設けられている。このスリットは、抵抗発熱体をその厚さ方向に貫通する深さのものである。」

「[0033] スリットの幅は、抵抗発熱体のパターンとパターンとの間隔である線間距離と同じかそれよりも狭いことが好ましい。抵抗発熱体のパターンとパターンとの間の部分は電位差が大きいので、その部分を絶縁するために線間距離を広く取る必要があるが、屈曲部に配置したスリット近傍の電位差はそれよりも小さいためである。スリットの長さ方向の配置は、抵抗発熱体の屈曲部の外縁または内縁に平行でもよいし、そうでなくてもよい。また、1本のスリットにおいて、スリットの幅を等幅で配置してもよいし、そうでなくてもよい。」

「[0039] 図5(c)に示す例では、直線パターンからなる抵抗発熱体31−9が180°折り返すパターンにおける屈曲部において、内側に長いスリット32−9−1(白抜き部分)を、外側に短い2本のスリット32−9−2、32−9−3(白抜き部分)を、それぞれ屈曲部の内縁に平行に配置している。図5(d)に示す例では、直線パターンからなる抵抗発熱体31−10が180°折り返すパターンにおける屈曲部において、内側に長いスリット32−10−1(白抜き部分)を、外側に短いスリット32−10−2(白抜き部分)を、それぞれ屈曲部の内縁に平行に配置している。図5(e)に示す例では、直線パターンからなる抵抗発熱体31−11が円弧状に180°折り返すパターンにおける屈曲部において、内側に長いスリット32−11−1(白抜き部分)を、外側に短いスリット32−11−2(白抜き部分)を、それぞれ配置している。」





(イ)上記記載から、引用例3には、次の技術が記載されていると認められる。

「屈曲部における温度分布を均一にするために、抵抗発熱体31−11の屈曲部ないし屈曲部の一方端に接続された直線パターンの部分において、内側に長いスリット32−11−1を、外側に短いスリット32−11−2を、それぞれ配置することで、抵抗発熱体31−11を3つの経路に分岐させ、3つの経路を、屈曲部の他方端に接続された直線パターンの部分ないし屈曲部で合流させる技術。」(以下「引用技術3A」という。)

「屈曲部における温度分布を均一にするために、抵抗発熱体31−11の反転する屈曲部に、屈曲するスリット32−11−1に取り囲まれた、スリット32−11−1より内周側の部分を備えさせ、当該部分を、屈曲部の他方端に接続された直線パターンの部分に電気伝導して接続する技術」(以下「引用技術3B」という。)

エ 引用例4
同じく原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開2015−41447号公報(平成27年3月2日出願公開。以下「引用例4」という。)には、図面とともに次の記載がある。

(ア)引用例4の記載

「【0033】
図1は、本発明のセラミックスヒーターのヒーターパターンの展開図を示すものであり、電力供給端子1と次の電力供給端子1との間において、折り返し部5のヒーターパターンを電流経路に沿って内周側の電流経路6と外周側の電流経路7の2つに分割した例である。ここで、このヒーターパターンの電流の流れを図2に基づいて説明する。図2は、電流経路に沿って分割された折り返し部を拡大した図であり、図2中の半楕円状の破線矢印は、発熱体を流れる電流を示すものである。発熱体を流れる電流は、内周側の電流経路6を流れる電流8と外周側の電流経路7を流れる電流9とにそれぞれ分割されるから、折り返し部の最も内側への電流集中が軽減され、局所発熱を軽減させることができる。」

「【図1】



(イ)上記記載から、引用例4には、次の技術が記載されていると認められる。

「折り返し部5の最も内側への電流集中を軽減し、局所発熱を軽減させるために、折り返し部5ないしその一方端に接続される部分のヒーターパターンを、内周側の電流経路6と外周側の電流経路7の2つに分割し、内周側の電流経路6と外周側の電流経路7を、折り返し部5の他方端に接続される部分で合流させる技術。」(以下「引用技術4A」という。)

「折り返し部5の最も内側への電流集中を軽減し、局所発熱を軽減させるために、反転する折り返し部5に、ヒーターパターンを内周側の電流経路6と外周側の電流経路7とに分割するU字状部分に取り囲まれた、内周側の電流経路6を備えさせ、内周側の電流経路6を、折り返し部5の他方側に接続される部分のヒーターパターンに電気伝導して接続する技術。」(以下「引用技術4B」という。)

オ 引用例5
同じく原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開平11−317284号公報(平成11年11月16日出願公開。以下「引用例5」という。)には、図面とともに次の記載がある。

(ア)引用例5の記載

「【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記のように発熱抵抗線状体を適用した温度制御装置では、上述した一体型のもの、あるいはゾーン分割型のものに関わらず、曲折部分において内方側の経路が外方側の経路に比べて短くなるため、この内方側により多くの電流が流れることになる。」

「【0010】
【課題を解決するための手段および作用効果】請求項1に記載の発明では、基台の表面に発熱抵抗線状体を適宜曲折させながら単一層状に敷設し、該発熱抵抗線状体に加熱電力を供給することにより、前記基台の表面に搭載した被温度制御対象物の温度制御を行う温度制御装置において、前記発熱抵抗線状体の曲折部分に欠損部を形成し、当該曲折部分の幅を減少させるようにしている。
【0011】この請求項1に記載の発明では、曲折部分の幅が狭くなることで、当該曲折部分に流れる電流の幅方向の偏りが低減し、発熱抵抗線状体の幅方向に沿った温度分布の発生を減少させることができるとともに、曲折部分の幅が狭くなることでその抵抗値が増大することになるため、当該曲折部分での発熱量の増大を図り、発熱抵抗線状体の延在方向に沿った温度分布の発生を減少させることができるようになる。
【0012】したがって、この請求項1に記載の発明によれば、発熱抵抗線状体の温度分布がその全域に亘って減少することになり、被温度制御対象物の温度制御をより均一に行うことができるようになる。」

「【0041】しかも、上述したスリット状開口40を形成することにより、第1および第2発熱抵抗線状体100,200の曲折部分において、その幅D1 ,D2 が内方側から外方側に向けて順次広くなるように分断しているため、つまり曲折部分の抵抗値を内方側がより高くなるように構成しているため、当該曲折部分に流れる電流がその内方側に集中する事態を防止することができるようになる。」

「【0050】また、上述した実施形態では、発熱抵抗線状体の曲折部分に形成する欠損部として、スリット状開口を例示しているが、本発明ではこれに限定されない。たとえば、図5に示すように、欠損部として発熱抵抗線状体100,200の側面から切欠41を形成するようにしても同様の作用効果を期待することができる。この場合、発熱抵抗線状体100,200に形成した切欠41は、上述したクラックの進行を阻止する機能を有していないが、その形状に起因して応力が集中する事態そのものを抑えること、つまりクラックの発生を抑えることができるため、第1実施形態と同様に、第1および第2発熱抵抗線状体100,200が断線してしまうという最悪の事態を阻止することができるようになり、その信頼性を向上させるという作用効果を期待することができる。
【0051】なお、発熱抵抗線状体の曲折部分にスリットを設ける場合に上述した実施形態では、当該曲折部分を2つに分断するものを例示しているが、図6および図7に示すように、発熱抵抗線状体100,200をスリット42,43によって3以上の複数に分断するようにしても構わない。この場合、図1に示した実施形態および図6に示した変形例のように、発熱抵抗線状体100,200の曲折部分において、その幅が内方側から外方側に向けて順次広くなるように分断し、曲折部分の抵抗値を内方側がより高くなるように構成すれば、当該曲折部分に流れる電流がその内方側に集中する事態を積極的に防止することができるようになるものの、図7に示すように、曲折部分の幅が互いに同一となるように分断することも可能である。
【0052】また、図8および図9に示すように、発熱抵抗線状体100,200にスリット状開口44,45と切欠46,47とを形成するようにすれば、上述した両者の効果を併せ持つ温度制御装置を提供することが可能となる。」

「【図7】



「【図8】



(イ)上記記載から、引用例5には、次の技術が記載されていると認められる。

「発熱抵抗線状体の温度分布をその全域に亘って減少させるために、曲折部分ないしその一方端に接続される部分内の発熱抵抗線状体を、スリット状開口44又はスリット43により、2又は3以上に分断し、曲折部分の他方端に接続される部分ないし曲折部分で合流させる技術。」(以下「引用技術5A」という。)

「発熱抵抗線状体の温度分布をその全域に亘って減少させるために、電流の方向が互いに反対である隣接する発熱抵抗線状体間の距離を、反転する曲折部分において切欠46により局所的に拡げ、反転する曲折部分に、スリット状開口44により取り囲まれた、スリット状開口44の内側の発熱抵抗線状体を備えさせ、当該発熱抵抗線状体を曲折部分の他方端に接続される部分の発熱抵抗線状体に接続する技術。」(以下「引用技術5B」という。)

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用例1の[0010]、[0021]によると、引用発明は、自動車用の電気加熱装置において、均一な電流分布及び熱分布を目的とした技術であるため、本件補正発明と、技術分野及び課題が共通する。

(イ)引用発明における「基板20」は、本件補正発明における「基板(10)」に相当する。

(ウ)引用発明における「発熱するものである導体トラック12が成す層」は、直接的ではないものの、接着剤層18を介在して間接的に基板20上に配置されているといえるため、引用発明における「基板20上に配置された接着剤層18上に配置された、発熱するものである導体トラック12が成す層」は、本件補正発明における「前記基板(10)上に形成された発熱導体層(12)」に相当する。同様に、引用発明における「導体トラック12が成す層は基板20上に配置された接着剤層18上に配置された導体トラック12を有」する態様は、本件補正発明における「前記発熱導体層(12)は前記基板(10)上に配置された少なくとも一つの発熱導体トラック(14)を有」する態様に相当する。

(エ)引用発明における「自動車用の電気加熱装置10」は、本件補正発明における「自動車の電気加熱装置」に、以下同様に、「ギャップを形成することによって具体化された絶縁領域22、24」は「絶縁ギャップ(16)」に、「複数のトラック部」は「複数のトラック部(15a〜15d)」に、それぞれ相当する。

(オ)引用発明における「導体トラック12が曲げられて反転させられる2箇所の位置それぞれにあり、且つ、当該位置よりコネクタ14に繋がる側の導体トラック12とコネクタ16に繋がる側の導体トラック12との間に配置された二つの、導体トラック12を曲げて且つ反転させる偏向領域26、28」は、本件補正発明における「前記発熱導体トラック(14)が曲げられる位置にあり、且つ、第1のトラック部(15a)と第2のトラック部(15b)との間に配置された少なくとも一つの曲げ部(17a)」の数が二つである場合に相当する。

(カ)引用発明において、「導体トラック12が曲げられて反転させられる」「位置よりコネクタ14に繋がる側の導体トラック12とコネクタ16に繋がる側の導体トラック12」は、直線部分であるから、その曲率が、「導体トラック12を曲げて且つ反転させる偏向領域26、28」の曲率よりも小さいことは、明らかである。よって、引用発明は、本件補正発明における「前記第1のトラック部(15a)及び前記第2のトラック部(15b)は、前記曲げ部よりも小さな曲率に形成され」るという態様を有する。

(キ)引用発明における「偏向領域26、28」は、「導体トラック12を曲げて且つ反転させる」ものであるから、引用発明における「互いに反対方向に流れる電流を有する隣接する導体トラック12間の、絶縁領域24の幅である距離は、偏向領域26、28で、広い絶縁領域30、32の滴形状により、局所的に拡げられるように形成された」態様は、本件補正発明における「電流の方向が互いに反対である隣接するトラック部間の距離は、前記反転部(17a)の領域で局所的に拡げられるように形成され」た態様に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「基板(10)と、
前記基板(10)上に形成された発熱導体層(12)と、
を備える自動車の電気加熱装置であって、
前記発熱導体層(12)は前記基板(10)上に配置された少なくとも一つの発熱導体トラック(14)を有し、
前記発熱導体トラック(14)は、絶縁ギャップ(16)によって互いに分離された複数のトラック部(15a〜15d)が形成されるように構成され、
前記発熱導体トラックは、前記発熱導体トラック(14)が曲げられる位置にあり、且つ、第1のトラック部(15a)と第2のトラック部(15b)との間に配置された少なくとも一つの曲げ部(17a)を有し、
前記第1のトラック部(15a)及び前記第2のトラック部(15b)は、前記曲げ部よりも小さな曲率に形成され、
電流の方向が互いに反対である隣接するトラック部間の距離は、前記反転部(17a)の領域で局所的に拡げられるように形成される、
自動車の電気加熱装置。」

[相違点1]
本件補正発明では、「前記第1のトラック部(15a)又は前記曲げ部(17c)内の前記発熱導体トラックは、一つ又は複数の分岐絶縁ギャップ(20)によって互いに分離された少なくとも二つの分岐トラック(21a、21b)に分岐し、前記分岐トラック(21a、21b)は、前記第2のトラック部(15b)又は前記曲げ部(17a)内で再び合流」するのに対し、引用発明では、そのような事項が特定されていない点。

[相違点2]
本件補正発明では、「前記反転部(17a)が、取り囲まれた領域(22)を有し、前記取り囲まれた領域(22)は、前記第2のトラック部(15b)に電気伝導して接続される」のに対し、引用発明では、そのような事項が特定されていない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
(ア)引用技術2Aにおいて、「溝134」は、「抵抗発熱体12を、」「内周側の電流通路と外周側の電流通路とに分岐させ」るものであるから、本件補正発明における「分岐絶縁ギャップ(20)」に相当する。
そして、上記(3)ア(ア)のとおり、引用発明は、均一な電流分布及び熱分布を目的とした技術であり、引用技術2Aは、「発熱量のばらつきを小さくし、加熱面の温度を均一にするため」の技術であるから、引用発明と引用技術2Aとは、熱分布を均一にするという点において、課題が共通している。
よって、引用発明に引用技術2Aを適用して、引用発明における「偏向領域26、28」に対して、引用技術2Aにおける「屈曲線からなる区画124内の抵抗発熱体12に溝134を形成」する態様と同様に、溝を形成し、「偏向領域26、28」において「導体トラック12」を分岐させるとともに再び合流させて、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)また、「熱分布を均一にするために、曲げ部ないしその一方端に接続された部分内の発熱パターンを、一つ又は複数の分岐絶縁ギャップにより少なくとも二つの経路に分岐させ、曲げ部の他方端に接続された部分ないし曲げ部内で合流させる技術」は、周知技術である(例えば、引用技術2A、引用技術3A、引用技術4A、引用技術5A等参照。以下「周知技術A」という。)。
そして、引用発明と周知技術Aとは、熱分布を均一にするという点において課題が共通しているから、引用発明に周知技術Aを適用して、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることも、当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)したがって、引用発明に、引用技術2A又は周知技術Aを適用して、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
(ア)引用例1の[0010]、[0022]によると、引用発明は、「絶縁領域30、32の滴形状」により、「均一な電流分布及び熱分布」という課題を解決するものである。そして、引用例5の【0041】、【0050】、【0052】によると、引用技術5Bは、「切欠46」(及び「スリット状開口44」)により「発熱抵抗線状体の温度分布をその全域に亘って減少させる」という課題を解決する技術である。
よって、引用発明と引用技術5Bとは、熱分布を均一にするという点において課題が共通するとともに、絶縁部の局所的な拡がりにより当該課題を解決する点においても共通しているから、引用発明に引用技術5Bを適用して、引用発明における「偏向領域26、28」に対して、引用技術5Bにおける「反転する曲折部分に、スリット状開口44により取り囲まれた、スリット状開口44の内側の発熱抵抗線状体を備えさせ、当該発熱抵抗線状体を曲折部分の他方端に接続される部分の発熱抵抗線状体に接続する」態様と同様に、スリット状開口及びスリット状開口により取り囲まれた部分を備えさせ、当該取り囲まれた部分を、「偏向領域26、28」のある「位置より」「コネクタ16に繋がる側の導体トラック12」に接続することにより相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)また、「反転する曲げ部に、分岐絶縁ギャップにより取り囲まれた発熱パターン部分を備えさせ、当該部分を、曲げ部の他方端に接続された発熱パターン部分に、電気伝導して接続させる技術」は、周知技術である(例えば、引用技術2B、引用技術3B、引用技術4B、引用技術5B等参照。以下「周知技術B」という。)。
そして、引用発明と周知技術Bとは、熱分布を均一にするという点において課題が共通しているから、引用発明に周知技術Bを適用して、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることも、当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)したがって、引用発明に、引用技術5B又は周知技術Bを適用して、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用技術2A又は周知技術A、及び、引用技術5B又は周知技術Bの奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明、引用技術2A又は周知技術A、及び、引用技術5B又は周知技術Bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

オ 請求人は審判請求書において、「曲げ部17aの領域内で内側のトラック部間の距離を局所的に拡げることによって、内側のトラック部の外側縁の電流路と、内側のトラック部の内側縁の電流路との流路長の差が過大にならないようにすることができ、その結果、曲げ部の内側に電流の流れが過大に集中することが一層防止される。分岐部を設けることとの相乗的な相互作用により、局所的な加熱を効果的に防止することができる。』(明細書段落0052)という顕著な効果を奏する。」(審判請求書第11ページ第8〜14行)と主張している。
しかしながら、上記ア(ア)、(イ)のとおり、引用技術2A及び周知技術Aは、分岐させることにより熱分布を均一にする技術であり、また、上記イ(ア)のとおり、引用発明及び引用技術5Bは、絶縁部の局所的な拡がりにより熱分布を均一にする技術であるところ、これら両技術を同時に採用したことにより、熱分布の均一性に関して、当業者が予測し得ないほどにまで顕著に相乗的な相互作用を奏すると認めるに足るだけの根拠は示されていない。
よって、請求人の上記主張を採用することができない。

また、請求人は審判請求書において、「引用文献1の段落0021及び0022並びに図1及び2に、導体トラック(conductor track)12が湾曲領域(deflecting regions)26、28において反対方向(opposing direction)に曲げられていて、湾曲領域26、28のそれぞれに拡大された絶縁領域(wider insulating region)30、32が設けられていることが記載されている。
即ち、湾曲領域26、28に設けられている拡大された絶縁領域30、32は、絶縁領域であるので、本願発明1の「第2のトラック部(15b)に電気伝導して接続される、取り囲まれた領域(22)」に相当し得ない。」(審判請求書第11ページ第17〜24行)と主張している。
確かに、引用発明における「絶縁領域30、32」は、絶縁領域であるので、本件補正発明における「前記第2のトラック部(15b)に電気伝導して接続される」「前記取り囲まれた領域(22)」に相当するものではない。
しかしながら、上記イ(ア)、(イ)のとおり、引用発明に引用技術5B又は周知技術Bを適用して偏向領域26、28の導体トラック12に引用技術5Bにおける「スリット状開口」ないし周知技術Bにおける「分岐絶縁ギャップ」を設ける際に、引用発明の「偏向領域26、28」のうち、引用技術5Bにおける「スリット状開口44により取り囲まれた、スリット状開口44の内側の発熱抵抗線状体」ないし周知技術Bにおける「分岐絶縁ギャップにより取り囲まれた発熱パターン部分」に相当する部分となる、スリット状開口ないし分岐絶縁ギャップに取り囲まれた部分(「偏向領域26、28」のうち、スリット状開口ないし分岐絶縁ギャップと、「絶縁領域30、32」と、の間の導体部分)が、本件補正発明における「取り囲まれた領域(22)」に相当する。
よって、請求人の上記主張は、結論を左右するものではない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年12月1日に提出された誤訳訂正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明及び引用例2〜5に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用例1:米国特許出願公開第2015/0163863号明細書
引用例2:特開2002−246155号公報
引用例3:国際公開第2016/143063号
引用例4:特開2015−41447号公報
引用例5:特開平11−317284号公報

3 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1ないし5及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「トラック部」に対する「電流の方向が互いに反対である隣接するトラック部間の距離は、前記反転部(17a)の領域で局所的に拡げられるように形成されて、前記反転部(17a)が、取り囲まれた領域(22)を有し、前記取り囲まれた領域(22)は、前記第2のトラック部(15b)に電気伝導して接続される」という限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明は、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項を有しないから、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は相違点1においてのみ相違する。
そして、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用例1に記載された発明である引用発明に、引用例2に記載された事項である引用技術2A、又は、例えば引用例2〜5に記載された事項等から把握される周知技術Aを適用して、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2〜5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 松下 聡
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-12-24 
結審通知日 2021-12-27 
審決日 2022-01-12 
出願番号 P2019-517824
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60H)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 林 茂樹
河内 誠
発明の名称 乗物用電気加熱装置  
代理人 松浦 憲三  

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