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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1385896
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-28 
確定日 2022-06-22 
事件の表示 特願2018−102237「統合された移送モジュールを有する試験カートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月 8日出願公開、特開2018−173414〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)3月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年3月16日 米国)を国際出願日として出願した特願2014−561469号の一部を、平成29年2月22日に新たに出願した特願2017−30787号の一部を、さらに平成30年5月29日に新たに出願したものであり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和元年 6月18日付け :拒絶理由通知書
令和元年12月20日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 5月11日付け :拒絶理由通知書
令和2年 8月14日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年 2月24日付け :拒絶査定
令和3年 6月28日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和3年6月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和3年6月28日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「 【請求項1】
試験カートリッジの2つ以上のチャンバ間で試料を移送する方法であって、前記試験カートリッジの前記2つ以上のチャンバは、第1のチャンバおよび第2のチャンバを備え、前記方法は、
移送モジュールを側方に平行移動させ、中心チャンバを有する前記移送モジュールの第1のポートを第1のチャンバのポートに整列させることと、
試料に印加される第1の圧力差を介して、前記試料を前記第1のチャンバから前記中心チャンバ内に引き込むことと、
前記移送モジュールを側方に平行移動させ、前記移送モジュールの第2のポートを第2のチャンバのポートに整列させることと、
前記試料に印加される第2の圧力差を介して、前記試料を前記中心チャンバから前記第2のチャンバ内に引き込むことと
を含み、前記第1の圧力差および前記第2の圧力差のうちの少なくとも1つは、外部アクチュエータによって印加され、前記第2のチャンバは、前記試料を処理するためのものである、方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年8月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「 【請求項1】
試験カートリッジの2つ以上のチャンバ間で試料を移送する方法であって、前記試験カートリッジの前記2つ以上のチャンバは、第1のチャンバおよび第2のチャンバを備え、前記方法は、
移送モジュールを側方に平行移動させ、中心チャンバを有する前記移送モジュールの第1のポートを第1のチャンバのポートに整列させることと、
試料に印加される第1の圧力差を介して、前記試料を前記第1のチャンバから前記中心チャンバ内に引き込むことと、
前記移送モジュールを側方に平行移動させ、前記移送モジュールの第2のポートを第2のチャンバのポートに整列させることと、
前記試料に印加される第2の圧力差を介して、前記試料を前記中心チャンバから前記第2のチャンバ内に引き込むことと
を含み、前記第1の圧力差および前記第2の圧力差のうちの少なくとも1つは、外部アクチュエータによって印加される、方法。」

2 本件補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第2のチャンバ」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項

ア 引用文献1

(ア)原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、米国特許出願公開第2004/0119070号明細書(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(原文に続けて当審訳を記載する。下線は当審において付与した。以下、同様。)。

(引1ア)
「[0025] According to another embodiment of the current invention, the integration and/or isolation of various functions in a microchip system are achieved using a two chips system. The system consists of two micro-fabricated chips, edge joined, in fluid communication with each other. One of the chips is moveable, by sliding action, relative to the other chip in order to redirect or seal the fluid paths. The two chips have polished edges that are spring biased towards each other in order to effect a low-pressure seal at the mating surfaces.

[0026] In an example of a two-chip approach (FIG. 4), a first chip (chip B, 430) contains a reaction chamber 432 and four small cleanout ports 436, 438, 442, 444. A second chip (chip C) contains two sample inlet ports 472, 474, a standard separation channel with a twin-tee/cross injector 462, a sample cleanup channel 466, a pressure relief channel 494, and two small cleanout ports 482, 484. In position 1, matrix is introduced into the anode port 464 of the second chip thereby filling the separation and injector regions. This would be followed by suction cleaning of the wells. Sample and reactants are added to the sample inlet port 472 or 474 of the second chip thereby filling the reaction chamber 432 of the first chip. The sample cleanup channel 466 is either surface modified, pre-filled with monolithic capture matrix, or filled with media such as capture beads (wall bound or magnetic) at this step. The first chip is then moved to position 2 whereby the reaction chamber 432 is connected to the pressure relief channel 494 on one end and sealed on the other. The second end of the pressure relief channel 494 is also sealed. Chemical/biological reactions are performed in the reaction chamber. Next, the first chip is moved to position 3 where the reaction chamber 432 is connected to the cleanup channel 466. The contents of the reaction chamber 432 are moved into the cleanup channel 466 where undesired products pass on through and out of the system. The desired reaction products are then released from the capture media and moved back into the reaction chamber 432. Lastly, the first chip is moved to position 4 for sample injection and separation.

[0027] Depending on the functions to be performed, liquids can be moved in a variety of ways including pressure, vacuum, capillary action, electrically, etc. Because connections between the chips are linear, multiple parallel structures may be micro-fabricated for increased system throughput with no additional parts count. This design does not preclude the use of glass or plastic materials, re-usable or disposable chips and in fact, one can modify the system application by changing only one of the interconnected chips. The pressure sealing requirements at the chip-to-chip interfaces are low, on the order of 5-10 psi for the viscous LPA matrix (since it is pumped in from the anode port) and even lower for low viscosity fluids like the sample.」

「[0025]本発明の別の実施形態によれば、マイクロチップシステムにおける様々な機能の統合および/または分離は、2チップシステムを用いて達成される。このシステムは、エッジが接合された2つのマイクロファブリケーションチップが、互いに流体連通することで構成されている。一方のチップは、流体経路の方向転換やシールを行うために、他方のチップに対してスライド動作で移動可能である。2つのチップには研磨されたエッジがあり、相手の表面で低圧シールを実現するために、お互いにスプリングバイアスがかけられている。

[0026]2チップアプローチの一例(図4)では、第1のチップ(チップB、430)は、反応チャンバ432と、4つの小さなクリーンアウトポート436、438、442、444とを含む。第2のチップ(チップC)は、2つのサンプル入口ポート472、474、ツインティー/クロスインジェクター462を備えた標準分離チャネル、サンプル洗浄チャネル466、圧力解放チャネル494、および2つの小さなクリーンアウトポート482、484を含む。位置1では、マトリックスが第2チップのアノードポート464に導入され、それによって分離領域およびインジェクタ領域が満たされる。これに続いて、ウェルの吸引洗浄が行われる。サンプルおよび反応物は、第2のチップのサンプル入口ポート472または474に加えられ、それによって第1のチップの反応チャンバ432を満たす。サンプル洗浄チャネル466は、このステップで、表面改質され、モノリシック捕捉マトリクスで予め充填され、または捕捉ビーズ(壁結合または磁気)などの媒体で充填される。次に、第1のチップは、位置2に移動され、それによって、反応チャンバ432は、一端で圧力解放チャネル494に接続され、他端で密封される。圧力解放チャネル494の第2の端部も密封される。反応チャンバでは、化学的/生物学的反応が行われる。次に、第1チップは、反応チャンバ432がサンプル洗浄チャネル466に接続される位置3に移動される。反応チャンバ432の内容物は、望ましくない生成物が通過してシステムの外に出るサンプル洗浄チャネル466に移動される。その後、所望の反応生成物が捕捉媒体から放出され、反応チャンバ432に戻される。最後に、第1チップは、サンプル注入および分離のために位置4に移動される。

[0027]実行する機能に応じて、圧力、真空、毛細管現象、電気など様々な方法で液体を動かすことができる。チップ間の接続は直線的であるため、複数の並列構造をマイクロファブリケーションすることで、部品点数を増やすことなくシステムのスループットを向上させることができる。この設計は、ガラスやプラスチックの素材、再利用可能なチップや使い捨てのチップの使用を妨げるものではなく、実際に、相互に接続されたチップの1つだけを変更することで、システムアプリケーションを変更することができる。チップとチップの間の圧力シール要件は低く、粘性のあるLPAマトリックス(陽極ポートからポンプで注入されるため)の場合は5〜10psi程度、サンプルのような低粘度の流体の場合はさらに低くなる。」

(引1イ)FIG.4


(イ)図4によれば、a.位置1(POSITION 1)は準備(PREPARATION)位置、位置2は反応(REACTION)位置、位置3は洗浄(CLEANUP)位置、位置4は分析(ANALYSIS)位置であること、b.位置1においてサンプル入口ポート472(SI)にサンプルを加えること、c.反応チャンバ432は、第1のチップ(チップB、430)の略中央に位置すること、d.位置1では、第2のチップ(チップC、460)のサンプル入口ポート472からのチャネル出口と、第1のチップの反応チャンバ432へのチャネル入口とを一致させること、e.位置3では、第1のチップの反応チャンバ432からのチャネル出口と、第2のチップのサンプル洗浄チャネル466へのチャネル入口とを一致させることが見て取れるので、これらのa.〜e.を含めて上記(ア)の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 2チップシステムを用いてマイクロチップシステムにおける機能を統合および/または分離する方法であって、
2チップシステムは、エッジが接合された2つのマイクロファブリケーションチップが、互いに流体連通することで構成され、一方のチップは、他方のチップに対してスライド動作で移動可能であり、
一方のチップの第1のチップ(チップB、430)は、その略中央に位置する反応チャンバ432を含み、他方のチップの第2のチップ(チップC、460)は、サンプル入口ポート472、ツインティー/クロスインジェクター462を備えた標準分離チャネル、サンプル洗浄チャネル466、圧力解放チャネル494を含み、
準備位置1では、第2のチップのサンプル入口ポート472からのチャネル出口と、第1のチップの反応チャンバ432へのチャネル入口とを一致させ、サンプルおよび反応物は、第2のチップのサンプル入口ポート472に加えられ、それによって第1のチップの反応チャンバ432を満たし、サンプル洗浄チャネル466は、このステップで、モノリシック捕捉マトリクスで予め充填され、または捕捉ビーズ(壁結合または磁気)などの媒体で充填され、
次に、第1のチップは、反応位置2に移動され、それによって、反応チャンバ432は、一端で圧力解放チャネル494に接続され、他端で密封され、反応チャンバでは、化学的/生物学的反応が行われ、
次に、第1チップは、反応チャンバ432がサンプル洗浄チャネル466に接続される洗浄位置3に移動され、洗浄位置3では、第1のチップの反応チャンバ432からのチャネル出口と、第2のチップのサンプル洗浄チャネル466へのチャネル入口とを一致させ、反応チャンバ432の内容物は、望ましくない生成物が通過してシステムの外に出るサンプル洗浄チャネル466に移動され、その後、所望の反応生成物が捕捉媒体から放出され、反応チャンバ432に戻され、
最後に、第1チップは、サンプル注入および分離のために分析位置4に移動され、
実行する機能に応じて、圧力、真空、毛細管現象、電気など様々な方法で液体を動かすことができ、チップ間の接続は直線的であるため、複数の並列構造をマイクロファブリケーションすることで、部品点数を増やすことなくシステムのスループットを向上させることができ、再利用可能なチップや使い捨てのチップが使用できる、方法。」

イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2007−500510号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。

(引2ア)
「【0171】
図13を参照すると、マイクロ流体素子400は、サンプルを前処理して装入するために操作しなければならない物体の数を減少させる。素子400は、マイクロ流体回路ネットワーク401、機械的真空発生器404及び緩衝液リザーバ406を有する。回路ネットワーク401を基板の層内に形成するのがよく、かかる回路ネットワークは、本明細書におけるどこか他の場所で説明したような種々のモジュール、チャンバ、チャネル及びコンポーネントを有する。
【0172】
緩衝液リザーバ406には代表的には、製造業者によりあらかじめ緩衝液が装入されているが、ユーザによりこれに緩衝液を装入してもよい。予備装入時、リザーバ406を密封して予備装入緩衝液の蒸発及び(又は)回路ネットワーク401内への緩衝液の漏れを阻止する。例えば、キャップ416が、緩衝液リザーバ406を密封する。使用にあたり、ユーザは、サンプルスワブの一部をリザーバ406内に入れる。例えば、ユーザは、リザーバ内のサンプルスワブの先端部を折ってもよい。キャップ416は、リザーバ406内に緩衝液及びスワブを密封するよう固定する。かくして、ユーザは、漏れを生じさせないで素子400全体を振蕩することができる。」

(引2イ)
「【0176】
素子400を次のように動作させることができる。ユーザは、サンプル物質、例えば細胞又は他の粒子を含むスワブを得る。例えばスワブを緩衝液リザーバ406内で攪拌することにより、スワブを緩衝液リザーバ406内に存在する緩衝液に接触させる。次に、キャップ416を固定する。プランジャ410を押し下げ、それによりチャンバ404の容積を拡張すると共にこのチャンバ内の圧力を減少させる。素子400を作動させるよう構成された器具内に素子400を配置したとき、ユーザにより、或いは素子400を作動させるよう構成された装置によりプランジャ410を作動させる。
【0177】
プランジャ410の作動の結果として生じる圧力の減少(部分真空)により、物質が緩衝液リザーバ406からマイクロ流体回路ネットワーク内へ更に吸い込まれる。例えば、サンプル/緩衝液から成る物質をベント407を越えてフィルタ405中へ引吸い込むのがよい。一実施形態では、回路ネットワーク401は、回路ネットワーク51,201について説明したような濃縮領域を有し、プランジャ410の作動により、サンプルは、この濃縮領域に吸い込まれ又はこれから吸い出される。」

(引2ウ)図13


上記の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献2には、次の技術事項1及び2が記載されていると認められる。

(技術事項1)
「 マイクロ流体素子400は、緩衝液リザーバ406を有し、使用にあたり、ユーザは、サンプルスワブの一部をリザーバ406内に入れること。」

(技術事項2)
「 素子400(マイクロ流体素子400)を作動させるよう構成された器具内に素子400を配置したとき、素子400を作動させるよう構成された装置によりプランジャ410を作動させ、プランジャ410の作動の結果として生じる圧力の減少(部分真空)により、サンプル/緩衝液から成る物質が緩衝液リザーバ406からマイクロ流体回路ネットワーク内へ吸い込まれること。」

ウ 引用文献3
本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2002−207031号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。

(引3ア)
「【0004】そこで、キャピラリーに代わって、分析の高速化、装置の小型化が期待できる形態として、D. J. Harrison et al./ Anal. Chem. 1993, 283, 361-366 に示されているように、2枚の基材を接合して形成されたマイクロチャンネル型チップ(マイクロチップという)が提案されている。そのマイクロチップの例を図6に示す。
・・・
【0006】このマイクロチップ51を用いて電気泳動を行なう場合には、分析に先立って、例えばシリンジを使った圧送により、いずれかのリザーバ、例えばアノードリザーバ57aから溝53,55内及びリザーバ57a,57c,57s,57w内に泳動媒体を充填する。次いで、リザーバ57a,57c,57s,57w内に充填された泳動媒体を除去し、短い方の溝(サンプル注入用流路)53の一方の端に対応するサンプルリザーバ57sにサンプルを注入し、他のリザーバ57a、57c,57wにバッファ液を注入する。」

(引3イ)図6


上記の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献3には、次の技術事項が記載されていると認められる。

(技術事項)
「 マイクロチップ51を用いて電気泳動を行なう場合には、サンプル注入用流路53の一方の端に対応するサンプルリザーバ57sにサンプルを注入すること。」

エ 引用文献4
本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2009−505095号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている。

(引4ア)
「【0029】
図1には、本発明による生物学的サンプルを自動処理するシステム10を概略的に示す。サンプルは、サンプルユニット20の内部に配置され、サンプルユニット20は、処理機器30の内部に配置され、これは、以降機器30とも呼ばれる。サンプルユニット20は、例えば、スロットまたは他の幾何学的特徴物により、および/または駆動機構により、処理機器30に導入され、あるいは処理機器30から取り出される。本発明では、処理機器30へのサンプルユニット20(以下、サンプルカートリッジ20とも称する)の導入または装填は、明確に手動で実施されることが好ましい。・・・
【0030】
図2には、本発明によるサンプルユニット20を概略的に示す。簡略化のため、サンプル識別手段は、図2には示されていない。サンプルユニット20は、特に液体または特に液体を含むサンプル21がサンプルユニット20に導入された後の状態で示されている。従って、サンプルユニット20には、サンプルチャンバ210が設けられている。サンプルチャンバ210に加えて、サンプルユニット20は、まとめて参照符号22で示されている、複数の微小流体素子を有する。そのような微小流体素子22の一例として、混合チャンバ221、複数のチャネル222または溝222、およびバルブ223が示されている。」

(引4イ)
「【0032】
図4には、本発明による処理機器30をより詳しく概略的に示す。処理機器30は、サンプルユニット20、試薬ユニット25、識別手段23、同定手段33、および作動手段32を有し、図4の例では、この作動手段32は、作動手段32の3つの異なる例、すなわち混合アクチュエータ321、輸送アクチュエータ322およびバルブアクチュエータ323を有するように示されている。混合アクチュエータ321は、例えば、機械的なアクチュエータであり、サンプルユニット20の構造に機械的な力を印加し、適当に配置された混合チャンバ内で、液体が相互に混合される。特に、サンプルユニット20は、処理機器30の混合アクチュエータ321と相互作用する混合棒を有する。混合アクチュエータ321は、偏心回転結合を提供する。従って、処理機器30は、回転モータ、好ましくは電気モータを有する。混合アクチュエータ321は、サンプルユニット20の構造に、または適切に配置された混合チャンバの内容物に直接、電磁力を印加する電磁アクチュエータの形態で提供されても良い。輸送アクチュエータ322は、例えば、サンプルユニット20内あるいは試薬ユニット25内で、プランジャ(図示されていない)を動かすことの可能な機械的な手段として提供され、適当に配置されたチャンバから、チャネルまたは溝を介して、サンプルユニット20または流体が必要な試薬ユニット25の内部の位置まで流体を輸送する。また輸送アクチュエータ322は、圧力印加手段により提供されても良く、この場合、例えば、膜のプランジャは、加圧流体により動かされる。バルブアクチュエータ323は、例えば、別の機械的なまたは電気的な素子として提供され、サンプルユニット20の内部に設置されたバルブの開閉のため、サンプルユニット20の構造に機械的な力を印加する。例えば、バルブアクチュエータ323は、サンプルユニットの一部であり、バルブを開にするあるレバーに、押し圧を加えることにより実施されても良い。」

(引4ウ)
「【0037】
図6には、サンプルユニットの一例の上面図を概略的に示す。この実施例では、PCR系の検定の場合の生物学的サンプルの処理について、詳細に説明する。例えば、サンプルは、人または非人間の血液サンプルであり、生物学的検定は、PCR系核酸検定である。本発明によるグラフィカルユーザインターフェースは、特に、サンプルユニット20内での被処理検定を定める(すなわち、溶解ステップ、洗浄ステップ、個々のPCR熱サイクルステップおよび検出サイクルの定義)。検定の定義の後、好ましくはグラフィカルユーザインターフェースを介して、検定が開始され、結果が自動的に、PCディスク、ネットワーク、別の適当な配置または装置に保管される。あるいは、本発明では、識別手段23が、検定を定義するために必要な情報を有し、あるいはそのような情報を指定することも可能である。この場合、グラフィカルユーザインターフェースは、例えば、検定の進行を制御するときのみ必要となる。
【0038】
サンプル21の処理が開始されると、サンプル21の液体は、サンプルチャンバ210に配置される。本発明のある好適実施例では、サンプル21の液体は、第1のチャンバC1に輸送される。サンプルチャンバ210と第1のチャンバC1の間には、第1のバルブV1が設けられることが好ましく、このバルブV1は、サンプル21の液体が第1のチャンバC1に輸送される際は、開となる。サンプル21の第1のチャンバC1への輸送の前、輸送中、または輸送後に、処理機器30または機器30は、溶解バッファを正確な量だけ血液サンプル21に添加する。これは、(サンプルユニット20または試薬ユニット25のいずれかに)溶解バッファが保管された第2のチャンバC2から、液体バッファがサンプルユニット20の内部に輸送され、あるいは試薬ユニット25からサンプルユニット20に向かって、溶解バッファがサンプル21と混合される場所、例えばサンプルチャンバ210もしくは第1のチャンバC1に、液体バッファが輸送されることを意味する。さらに溶解バッファがサンプル21と混合される場所は、混合チャンバ221とも呼ばれる。サンプルチャンバ210または第1のチャンバC1または別のチャンバ(図示されていない)は、混合チャンバ221として作用する。
・・・
【0040】
溶解処理が完了すると、機器30が適正な溶解処理チャンバ(例えば、混合チャンバ221/第1のチャンバC1)に、ある圧力を印加することにより、混合物は、溶解処理チャンバから離れて、一例として洗浄チャンバC3で示されている別の処理チャンバに向かって移動する。溶解処理チャンバ(混合チャンバ221または第1のチャンバC1)と洗浄チャンバC3の間には、第2のバルブV2があり、これは、バルブアクチュエータ323を用いて、機器30によりアクティブに開にされる。
【0041】
また機器は、その後、DNAまたは核酸の分離に必要な磁気ビーズ、および他の洗浄試薬を含む各種洗浄リザーバを空にしても良い。洗浄リザーバは、第4のチャンバC4および第5のチャンバC5とも呼ばれ、これは、サンプルユニット20の内部または試薬ユニット25の内部のいずれに設置しても良い。さらに別の実施例では、第4および第5のチャンバC4、C5は、サンプルユニット20の一部、および試薬ユニット25の一部に配置されても良い。第4および第5のチャンバC4、C5は、試薬および/または磁気ビーズおよび/または検定の実施に使用される他の種類のラベルを含むリザーバの一例に過ぎない。当然のことながら、一つの単一種類のラベルまたは試薬を含む一つのリザーバのみを、洗浄チャンバC3に放出することも可能であるが、本発明では、一つの単一のリザーバ(複数の試薬および/またはラベルを含む)から、または複数のリザーバ(それぞれ、複数の試薬および/またはラベルからの一つの粒子化合物を含む)から、洗浄チャンバC3内に、複数の試薬および/またはラベルを放出することが好ましい。」

(引4エ)図1


(引4オ)図2


(引4カ)図4


(引4キ)図6


上記の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献4には、次の技術事項1〜3が記載されていると認められる。

(技術事項1)
「 サンプルユニット20には、サンプルチャンバ210が設けられており、サンプル21の処理が開始されると、サンプル21の液体は、サンプルチャンバ210に配置されること。」

(技術事項2)
「 サンプルユニット20(サンプルカートリッジ20)は、処理機器30の内部に配置され、処理機器30は、サンプルユニット20、および作動手段32を有し、この作動手段32は、輸送アクチュエータ322を有し、輸送アクチュエータ322は、圧力印加手段により提供され、サンプルユニット20の内部の位置まで流体を輸送すること。」

(技術事項3)
「 サンプルユニットにおける生物学的サンプルの処理について、機器30が溶解処理チャンバ(例えば、混合チャンバ221/第1のチャンバC1)に、ある圧力を印加することにより、サンプル21と溶解バッファとの混合物は、溶解処理チャンバから離れて、洗浄チャンバC3で示されている別の処理チャンバに向かって移動すること。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア−1 引用発明の「2チップシステム」を「構成」する「2つのマイクロファブリケーションチップ」は、「再利用可能なチップや使い捨てのチップ」であることを踏まえると、引用発明の「2つのマイクロファブリケーションチップ」は、「準備位置1」での「準備」から「分析位置4」での「分析」までの各「機能」を「実行する」ために、「液体を動かす」駆動源や、「サンプル」を「分析」する分析装置などに対して交換可能な分析カートリッジであるといえる。
よって、引用発明の「2つのマイクロファブリケーションチップ」は、本件補正発明の「試験カートリッジ」に相当する。

ア−2 引用発明の「サンプル入口ポート472」及び「サンプル洗浄チャネル466」と、本件補正発明の「第1のチャンバ」及び「第2のチャンバ」とは、「第1の部位」及び「第2の部位」である点で共通する。

ア−小括 上記ア−1及びア−2を踏まえると、引用発明の「2つのマイクロファブリケーションチップ」の「サンプル入口ポート472」と「サンプル洗浄チャネル466」との間で「サンプル」を「移動」させる「方法」と、本件補正発明の「試験カートリッジの2つ以上のチャンバ間で試料を移送する方法であって、前記試験カートリッジの前記2つ以上のチャンバは、第1のチャンバおよび第2のチャンバを備え」ることとは、「試験カートリッジの2つ以上の部位間で試料を移送する方法であって、前記試験カートリッジの前記2つ以上の部位は、第1の部位および第2の部位を備え」る点で共通する。

イ−1 引用発明の「2つのマイクロファブリケーションチップ」の「第1のチップ(チップB、430)」は、「2つのマイクロファブリケーションチップ」の「第2のチップ(チップC、460)」と「流体連通すること」から、流体を移送するモジュールであるといえる。
よって、引用発明の「第1のチップ(チップB、430)」は、本件補正発明の「移送モジュール」に相当する。

イ−2 引用発明の「エッジが接合された2つのマイクロファブリケーションチップ」は、「チップ間の接続」が「直線的」であって、「第1のチップ(チップB、430)」は、「第2のチップ(チップC、460)」「に対してスライド動作で移動可能であ」るから、引用発明の「第1のチップ(チップB、430)」は、「第2のチップ(チップC、460)」に対して側方に平行移動させるものといえる。
よって、引用発明の「第1のチップ(チップB、430)」を「第2のチップ(チップC、460)」「に対してスライド動作で移動」させることは、本件補正発明の「移送モジュールを側方に平行移動させ」ることに相当する。

イ−3 引用発明の「第1のチップ(チップB、430)」「の略中央に位置する反応チャンバ432」は、本件補正発明の「中心チャンバ」に相当する。

イ−4 引用発明の「反応チャンバ432へのチャネル入口」は、本件補正発明の「移送モジュールの第1のポート」に相当する。また、引用発明の「サンプル入口ポート472からのチャネル出口」と、本件補正発明の「第1のチャンバのポート」とは、「第1の部位のポート」である点で共通する。

イ−小括 上記イ−1〜イ−4を踏まえると、引用発明の「第1のチップ(チップB、430)」を「第2のチップ(チップC、460)」「に対してスライド動作で移動」させ、「準備位置1では、第2のチップのサンプル入口ポート472からのチャネル出口と、第1のチップの反応チャンバ432へのチャネル入口とを一致させ」ることと、本件補正発明の「前記移送モジュールを側方に平行移動させ、中心チャンバを有する前記移送モジュールの第1のポートを第1のチャンバのポートに整列させること」とは、「前記移送モジュールを側方に平行移動させ、中心チャンバを有する前記移送モジュールの第1のポートを第1の部位のポートに整列させること」の点で共通する。

ウ 引用発明は、「実行する機能に応じて、圧力、真空、毛細管現象、電気など様々な方法で液体を動かすことができ」、いずれの方法であっても液体に力を印加して動かすことができるところ、引用発明の「準備位置1では」、「サンプルおよび反応物は、第2のチップのサンプル入口ポート472に加えられ、それによって第1のチップの反応チャンバ432を満た」すことと、本件補正発明の「試料に印加される第1の圧力差を介して、前記試料を前記第1のチャンバから前記中心チャンバ内に引き込むこと」とは、「試料に印加される第1の力を介して、前記試料を前記第1の部位から前記中心チャンバ内に引き込むこと」の点で共通する。

エ−1 引用発明の「反応チャンバ432からのチャネル出口」は、本件補正発明の「移送モジュールの第2のポート」に相当する。また、引用発明の「サンプル洗浄チャネル466へのチャネル入口」と、本件補正発明の「第2のチャンバのポート」とは、「第2の部位のポート」である点で共通する。

エ−小括 上記エ−1を踏まえると、引用発明の「第1のチップ(チップB、430)」を「第2のチップ(チップC、460)」「に対してスライド動作で移動」させ、「洗浄位置3では、第1のチップの反応チャンバ432からのチャネル出口と、第2のチップのサンプル洗浄チャネル466へのチャネル入口とを一致させ」ることと、本件補正発明の「前記移送モジュールを側方に平行移動させ、前記移送モジュールの第2のポートを第2のチャンバのポートに整列させること」とは、「前記移送モジュールを側方に平行移動させ、前記移送モジュールの第2のポートを第2の部位のポートに整列させること」の点で共通する。

オ 引用発明は、「実行する機能に応じて、圧力、真空、毛細管現象、電気など様々な方法で液体を動かすことができ」、いずれの方法であっても液体に力を印加して動かすことができるところ、引用発明の「洗浄位置3では」、「反応チャンバ432の内容物は」、「サンプル洗浄チャネル466に移動され」ることと、本件補正発明の「前記試料に印加される第2の圧力差を介して、前記試料を前記中心チャンバから前記第2のチャンバ内に引き込むこと」とは、「前記試料に印加される第2の力を介して、前記試料を前記中心チャンバから前記第2の部位内に引き込むこと」の点で共通する。

カ 引用発明の「サンプル洗浄チャネル466」は、「サンプル」を「洗浄」処理するためのものであることと、本件補正発明の「前記第2のチャンバは、前記試料を処理するためのものである」こととは、「前記第2の部位は、前記試料を処理するためのものである」ことの点で共通する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。

(一致点)
「試験カートリッジの2つ以上の部位間で試料を移送する方法であって、前記試験カートリッジの前記2つ以上の部位は、第1の部位および第2の部位を備え、
前記方法は、
前記移送モジュールを側方に平行移動させ、中心チャンバを有する前記移送モジュールの第1のポートを第1の部位のポートに整列させることと、
試料に印加される第1の力を介して、前記試料を前記第1の部位から前記中心チャンバ内に引き込むことと、
前記移送モジュールを側方に平行移動させ、前記移送モジュールの第2のポートを第2の部位のポートに整列させることと、
前記試料に印加される第2の力を介して、前記試料を前記中心チャンバから前記第2の部位内に引き込むことと
を含み、前記第2の部位は、前記試料を処理するためのものである、方法。」

(相違点1)
試験カートリッジの第1の部位と第2の部位が、本件補正発明では、それぞれ、「第1のチャンバ」と「第2のチャンバ」であるのに対し、引用発明では、それぞれ、「サンプル入口ポート472」と「サンプル洗浄チャネル466」である点。

(相違点2)
本件補正発明では、試料に印加される第1の力と第2の力が、それぞれ、「第1の圧力差」と「第2の圧力差」であり、「前記第1の圧力差および前記第2の圧力差のうちの少なくとも1つは、外部アクチュエータによって印加され」るのに対し、引用発明では、試料に印加される第1の力と第2の力が、「実行する機能に応じて」選択し得る「圧力、真空、毛細管現象、電気など様々な方法」であって、試料を動かすために、外部アクチュエータによって試料に圧力差を印加することについて特定されていない点。

(4)判断
上記各相違点について検討する。

ア 相違点1について
本願明細書には、段落【0100】に「第1のチャンバは、例えば、入力リザーバ622であってもよい一方、第2のチャンバは、貯蔵リザーバ630a−gのいずれかであってもよい。」と記載されていることを踏まえると、本件補正発明において特定される第1、第2のチャンバは、リザーバを含むことが理解できる。
一方、マイクロ流体デバイスにおいて、サンプルを注入するためのチャンバまたはリザーバや、サンプルの溶解、洗浄など様々な処理をするためのチャンバまたはリザーバを備えることは、本願の優先権主張日前における周知技術(サンプルを注入するためのチャンバまたはリザーバについては、引用文献2の技術事項1(上記(2)イ)、引用文献3の技術事項(上記(2)ウ)、引用文献4の技術事項1(上記(2)エ)、溶解、洗浄など様々な処理をするためのチャンバまたはリザーバについては、引用文献4の技術事項3(上記(2)エ)を参照。)である。
すると、上記周知技術を認識する当業者にとって、引用発明の「サンプル入口ポート472」と「サンプル洗浄チャネル466」について、それぞれ、チャンバまたはリザーバの形態を採用することは、適宜設計し得る程度のことにすぎない。
よって、上記周知技術に鑑み引用発明の「サンプル入口ポート472」と「サンプル洗浄チャネル466」を、それぞれ、「第1のチャンバ」と「第2のチャンバ」とする上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 相違点2について
マイクロ流体デバイスにおいて、外部アクチュエータによってサンプルに印加される圧力差を介して、サンプルを動かすことは、本願の優先権主張日前における周知技術(引用文献2の技術事項2(上記(2)イ)、引用文献4の技術事項2(上記(2)エ)を参照。)である。
すると、上記周知技術を認識する当業者にとって、「圧力」でサンプルを動かすことが選択肢として特定されている引用発明において、外部アクチュエータによってサンプルに印加される圧力差を介して、サンプルを動かすことは、適宜設計し得る程度のことにすぎない。
よって、上記周知技術に鑑み引用発明において、「サンプル」を「反応チャンバ432」に移動させるために、外部アクチュエータによって「サンプル」に第1の圧力差を印加し、「反応チャンバ432の内容物」を「サンプル洗浄チャネル466」に移動させるために、外部アクチュエータによって「反応チャンバ432の内容物」に第2の圧力差を印加することにより、上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(5)請求人の主張
請求人は、審判請求書の「3.2」欄において、「本願請求項に係る発明では、(1)試料は第1のチャンバ内から始まり、(2)移送モジュールに移動させられ、(3)移送モジュールが第2のチャンバと整列するように移動させられ、(4)試料が移送モジュールから第2のチャンバ内へと移動させられ、(5)処理(反応)が第2のチャンバ内で起こります。sample cleanup channel 466は、試料が処理されるところである第2のチャンバに対応付けることはできないので、拒絶査定のご見解は誤りと言わざるを得ません。審査官殿のご主張には反して、引用文献1は、reaction chamber 432を反応のためのものとして具体的に指定しているものです。なお、拒絶査定では、このreaction chamber 432を移送モジュールに対応付けられている点にご留意ください。引用文献1は、「The contents of the reaction chamber 432 are moved into the cleanup channel 466 where undesired products pass on through and out of the system(反応チャンバ432の内容物は、望ましくない生成物がシステムへと通りシステムから出るところであるクリーンアップチャネル466へと移動させられる)」(引用文献1の段落0026)というものに限定されるものです。すなわち、引用文献1では、反応は反応チャンバ432で生じるように指定されている一方で、試料クリーンアップチャネル466(望ましくない生成物がここに置かれるところ)においては生じさせないのです。従いまして、引用文献1には不足があり、引用文献1は、補正後の独立請求項1に係る特徴の全てを教示するものではありません。」と主張している。
しかしながら、引用発明の「サンプル洗浄チャネル466」は、上記(3)カで説示したとおり、「サンプル」を「洗浄」処理するものであるから、本件補正発明の「試料を処理するための」「第2のチャンバ」に対応付けられるところ、本件補正発明において、第2のチャンバが反応チャンバであることは特定されていない。
よって、請求人の上記主張は、本件補正発明の構成に基づくものでないから、採用できない。

(6)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
令和3年6月28日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし17に係る発明は、令和2年8月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:米国特許出願公開第2004/0119070号明細書
引用文献2:特表2007−500510号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)ア、イに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「第2のチャンバ」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 福島 浩司
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-01-21 
結審通知日 2022-01-24 
審決日 2022-02-07 
出願番号 P2018-102237
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
蔵田 真彦
発明の名称 統合された移送モジュールを有する試験カートリッジ  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 健策  
代理人 石川 大輔  

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