• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
管理番号 1385900
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-29 
確定日 2022-04-07 
事件の表示 特願2020−548841「平坦化膜形成用のネガ型感光性樹脂組成物、電子デバイスの製造方法および電子デバイス」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年10月 8日国際公開、WO2020/203648〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2020−548841号(以下「本件出願」という。)は、2020年(令和2年)3月26日(先の出願に基づく優先権主張 平成31年4月1日)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和2年 9月11日提出:手続補正書
令和2年11月 5日付け:拒絶理由通知書
令和3年 1月12日提出:手続補正書
令和3年 1月12日提出:意見書
令和3年 3月19日付け:拒絶査定
令和3年 6月29日提出:手続補正書
令和3年 6月29日提出:審判請求書
令和3年 8月27日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由」という。)
令和3年10月29日提出:手続補正書
令和3年10月29日提出:意見書

2 本願発明
本件出願の請求項1〜請求項10に係る発明は、令和3年10月29日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1〜請求項10に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のものである(以下「本願発明」という。)。

「 表面に段差を有する基板の前記表面に塗布された後、加熱乾燥させて感光性樹脂膜を形成するのに用いられる、平坦化膜形成用のネガ型感光性樹脂組成物であって、
分子内に3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂と、フェノキシ樹脂と、感光剤とを含み、
前記エポキシ樹脂100質量部に対する前記フェノキシ樹脂の量は20〜60質量部であり、
前記多官能エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、およびトリフェニルメタン型エポキシ樹脂からなる群より選択される1種以上であり、
前記感光剤は光酸発生剤であり、
以下の[平坦性評価手順]により算出される、[段差の高さあたりの硬化膜表面平坦性]が、0.3以上4.6以下である、平坦化膜形成用のネガ型感光性樹脂組成物。
[平坦性評価手順]
(1)基板として、高さ3〜4μm、幅100μmの、Cuにより形成された段差(凸状の部分)が、200μmピッチで設けられた、直径8インチのシリコンウェハを準備する。
(2)上記基板の段差がある面に、スピンコートにより前記ネガ型感光性樹脂組成物を塗布し、その後、大気中で100℃、6分乾燥させる。これにより基板上にネガ型感光性樹脂膜を形成する。後述するHB(凸状の段差が無い部分の硬化膜の厚み)が7.40〜7.73μmとなるように前記ネガ型感光性樹脂組成物の塗布厚みを調整する。
(3)上記(2)で形成された前記ネガ型感光性樹脂膜に対して、g線、i線、h線の混合光を用いて、800mJ/cm2の露光量で全面露光する。
(4)上記(3)の露光の後、窒素雰囲気下、170℃で120分の加熱処理により前記ネガ型感光性樹脂膜を硬化させる。
(5)上記で得られた硬化膜付きウェハを割り、その断面を拡大して撮影する。撮影された画像に基づき、
HA(凸状の段差の上にある硬化膜の厚みと、凸状の段差の高さとの合計)、
HB(凸状の段差が無い部分の硬化膜の厚み)、および、
HS(凸状の段差の高さ)
を求める。
[段差の高さあたりの硬化膜表面平坦性]
={|HA−HB|/HS}×100(単位:%)
により、平坦性を評価する。」

3 当審拒絶理由の概要
令和3年8月27日付け拒絶理由通知書において通知した、当合議体の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

●理由1(新規性)本件出願の請求項1、5〜9に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
●理由2(進歩性)本件出願の請求項1〜9に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献4:国際公開第2013/172432号
引用文献5:特開2007−133258号公報
引用文献6:特開2015−135522号公報
引用文献7:国際公開第2019/044817号


第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載
(1) 引用文献7の記載
当審拒絶理由で引用された、引用文献7(国際公開第2019/044817号)は、先の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献であるところ、そこには以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す(以下、同様である。)。

ア 「技術分野
[0001]
本発明は、ネガ型感光性樹脂組成物、半導体装置および電子機器に関する。
背景技術
[0002] 半導体素子には、保護膜、層間絶縁膜、平坦化膜等の用途で、樹脂材料からなる樹脂膜が用いられている。また、半導体素子の実装方式によっては、これらの樹脂膜の厚膜化が求められている。しかしながら、樹脂膜を厚膜化すると、半導体チップの反りが顕著になる。
[0003] 一方、樹脂膜に感光性および光透過性を付与することにより、樹脂膜にパターンを形成する技術が知られている。これにより、目的とするパターンを精度よく形成することができる。
[0004] そこで、感光性を有し、かつ厚膜化が可能な樹脂膜を製造可能な樹脂組成物の開発が進められている。
[0005] 例えば、特許文献1には、分子構造を最適化し、残留応力を低減させることにより、光透過性に優れ、かつ、半導体チップの反りを抑制し得る感光性樹脂組成物が開示されている。
[0006] また、感光性樹脂組成物は、感光性樹脂組成物で形成された樹脂膜中に配線を埋設して、配線を絶縁するための絶縁部を形成する目的でも使用される。
先行技術文献
特許文献
[0007] 特許文献1:特開2003−209104号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0008] 一方で、半導体素子の実装に用いられる樹脂膜には、半導体チップや配線に対する密着性が求められる。このため、係る樹脂膜には、無機材料および金属材料に対する密着性が重要とされる。
[0009] しかしながら、従来の樹脂膜では、無機材料および金属材料に対する密着性が低いため、実装後の信頼性を十分に高められないという問題があった。
[0010] 本発明の目的は、無機材料および金属材料に対する密着性が良好な樹脂膜を形成可能な感光性樹脂組成物、前記樹脂膜を備える半導体装置、ならびに、前記半導体装置を備える電子機器を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0011] このような目的は、下記(1)〜(11)の本発明により達成される。
(1)熱硬化性樹脂と、
光重合開始剤と、
官能基として酸無水物を含有するカップリング剤と、
を含むことを特徴とするネガ型感光性樹脂組成物。
[0012] (2)前記熱硬化性樹脂は、常温で固形状の成分を含む上記(1)に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
[0013] (3)前記熱硬化性樹脂は、多官能エポキシ樹脂を含む上記(1)または(2)に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
(4)前記多官能エポキシ樹脂の含有量は、前記感光性樹脂組成物の不揮発成分に対して40〜80質量%である上記(3)に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
[0014] (5)前記カップリング剤は、アルコキシシリル基を含む化合物である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のネガ型感光性樹脂組成物。
[0015] (6)前記酸無水物は、コハク酸無水物である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のネガ型感光性樹脂組成物。
[0016] (7)前記ネガ型感光性樹脂組成物は、さらに溶剤を含む上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のネガ型感光性樹脂組成物。
(8)前記ネガ型感光性樹脂組成物は、前記溶剤に溶解されてワニス状をなす上記(7)に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
[0017] (9)半導体チップと、
前記半導体チップ上に設けられている、上記(1)ないし(8)のいずれかに記載のネガ型感光性樹脂組成物の硬化物を含む樹脂膜と、
を備えることを特徴とする半導体装置。
[0018] (10)前記樹脂膜中に、前記半導体チップと電気的に接続される再配線層が埋設されている上記(9)に記載の半導体装置。
[0019] (11)上記(9)または(10)に記載の半導体装置を備えることを特徴とする電子機器。
発明の効果
[0020] 本発明によれば、無機材料および金属材料に対する密着性が良好な樹脂膜を形成可能なネガ型感光性樹脂組成物が得られる。
[0021] また、本発明によれば、前記樹脂膜を備える半導体装置が得られる。
また、本発明によれば、上記半導体装置を備える電子機器が得られる。」

イ 「発明を実施するための形態
[0023] 以下、本発明のネガ型感光性樹脂組成物、半導体装置および電子機器について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
[0024] まず、ネガ型感光性樹脂組成物および係るネガ型感光性樹脂組成物を含む感光性樹脂フィルムの説明に先立ち、これらが適用された本発明の半導体装置の第1実施形態について説明する。
[0025] <<第1実施形態>>
1.半導体装置
図1は、本発明の半導体装置の第1実施形態を示す縦断面図である。また、図2は、図1の鎖線で囲まれた領域の部分拡大図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
[0026] 図1に示す半導体装置1は、貫通電極基板2と、その上に実装された半導体パッケージ3と、を備えた、いわゆるパッケージオンパッケージ構造を有する。
[0027] このうち、貫通電極基板2は、有機絶縁層21(樹脂膜)と、有機絶縁層21の上面から下面を貫通する複数の貫通配線22と、有機絶縁層21の内部に埋め込まれた半導体チップ23と、有機絶縁層21の下面に設けられた下層配線層24と、有機絶縁層21の上面に設けられた上層配線層25と、下層配線層24の下面に設けられた半田バンプ26と、を備えている。本実施形態の半導体装置1では、有機絶縁層21が、半導体チップ23の表面上に少なくとも設けられ、後述する感光性樹脂組成物または感光性樹脂フィルムの硬化物を含む。
[0028] 一方、半導体パッケージ3は、パッケージ基板31と、パッケージ基板31上に実装された半導体チップ32と、半導体チップ32とパッケージ基板31とを電気的に接続するボンディングワイヤー33と、半導体チップ32やボンディングワイヤー33が埋め込まれた封止層34と、パッケージ基板31の下面に設けられた半田バンプ35と、を備えている。
[0029] そして、貫通電極基板2上に半導体パッケージ3が積層されている。これにより、半導体パッケージ3の半田バンプ35と、貫通電極基板2の上層配線層25と、が電気的に接続されている。
[0030] このような半導体装置1は、貫通配線22や半導体チップ23に対する有機絶縁層21の密着性が良好であるため、信頼性が高くなる。
[0031] また、貫通電極基板2においてコア層を含む有機基板のような厚い基板を用いる必要がないため、低背化を容易に図ることができる。このため、半導体装置1を内蔵する電子機器の小型化にも貢献することができる。
[0032] また、互いに異なる半導体チップを備えた貫通電極基板2と半導体パッケージ3とを積層しているため、単位面積当たりの実装密度を高めることができる。かかる観点においても、半導体装置1の小型化を図ることができる。
[0033] 以下、貫通電極基板2および半導体パッケージ3についてさらに詳述する。
図2に示す貫通電極基板2が備える下層配線層24および上層配線層25は、それぞれ絶縁層、配線層および貫通配線等を含んでいる。これにより、下層配線層24および上層配線層25は、内部や表面に配線を含むとともに、貫通配線を介して厚さ方向に貫通するように電気的接続が図られる。
[0034] このうち、下層配線層24に含まれる配線層は、半導体チップ23や半田バンプ26と接続されている。このため、下層配線層24は半導体チップ23の再配線層として機能するとともに、半田バンプ26は半導体チップ23の外部端子として機能する。
[0035] また、図2に示す貫通配線22は、有機絶縁層21を貫通するように設けられている。これにより、下層配線層24と上層配線層25との間を電気的に接続することができる。その結果、貫通電極基板2と半導体パッケージ3との積層が可能になり、半導体装置1の高機能化を図ることができる。
[0036] さらに、図2に示す上層配線層25に含まれる配線層は、貫通配線22や半田バンプ35と接続されている。このため、上層配線層25は、半導体チップ23と電気的に接続されることとなり、半導体チップ23の再配線層として機能するとともに、半導体チップ23とパッケージ基板31との間に介在するインターポーザーとしても機能する。その結果、再配線層の高密度化を図ることができる。
[0037] また、有機絶縁層21を貫通配線22が貫通していることで、有機絶縁層21を補強する効果が得られる。このため、下層配線層24や上層配線層25の機械的強度が低い場合でも、貫通電極基板2全体の機械的強度の低下を避けることができる。その結果、下層配線層24や上層配線層25のさらなる薄型化を図ることができ、半導体装置1のさらなる低背化を図ることができる。
[0038] さらには、有機絶縁層21は、半導体チップ23を覆うように設けられている。これにより、半導体チップ23を保護する効果が高められる。その結果、半導体装置1の信頼性を高めることができる。また、本実施形態に係るパッケージオンパッケージ構造のような実装方式にも容易に適用可能な半導体装置1が得られる。
[0039] 貫通配線22の直径W(図2参照)は、特に限定されないが、1〜100μm程度であるのが好ましく、2〜80μm程度であるのがより好ましい。これにより、有機絶縁層21の機械的特性を損なうことなく、貫通配線22の導電性を確保することができる。
[0040] 図2に示す半導体パッケージ3は、いかなる形態のパッケージであってもよい。例えば、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、BGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package)、QFN(Quad Flat Non−leaded Package)、SON(Small Outline Non−leaded Package)、LF−BGA(Lead Flame BGA)等の形態が挙げられる。
[0041] 半導体チップ32の形態は、特に限定されないが、一例として図1に示す半導体チップ32は、複数のチップが積層されて構成されている。このため、高密度化が図られている。なお、複数のチップは、平面方向に併設されていてもよく、厚さ方向に積層されつつ平面方向にも併設されていてもよい。
[0042] パッケージ基板31は、いかなる基板であってもよいが、例えば図示しない絶縁層、配線層および貫通配線等を含む基板とされる。このうち、貫通配線を介して半田バンプ35とボンディングワイヤー33とを電気的に接続することができる。
[0043] 封止層34は、例えば公知の封止樹脂材料で構成されている。このような封止層34を設けることにより、半導体チップ32やボンディングワイヤー33を外力や外部環境から保護することができる。
[0044] なお、貫通電極基板2が備える半導体チップ23と半導体パッケージ3が備える半導体チップ32は、互いに近接して配置されることになるため、相互通信の高速化や低損失化等のメリットを享受することができる。かかる観点から、例えば、半導体チップ23と半導体チップ32のうち、一方をCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)、AP(Application Processor)等の演算素子とし、他方をDRAM(Dynamic Random Access Memory)やフラッシュメモリー等の記憶素子等にすれば、同一装置内においてこれらの素子同士を近接して配置することができるので、高機能化と小型化とを両立した半導体装置1を実現することができる。
[0045] <有機絶縁層>
次に、有機絶縁層21について特に詳述する。
[0046] 本実施形態の有機絶縁層21は、後述する感光性樹脂組成物または感光性樹脂フィルムの硬化物を含む。
[0047] 本実施形態に係る感光性樹脂組成物の硬化物(感光性樹脂フィルムの硬化物も含む。以下同様。)は、そのガラス転移温度(Tg)が140℃以上であるのが好ましく、150℃以上であるのがより好ましく、160℃以上であるのがさらに好ましい。これにより、有機絶縁層21の耐熱性を高めることができるので、例えば高温環境下でも使用可能な半導体装置1を実現することができる。なお、感光性樹脂組成物の硬化物の上限値は、特に設定されなくてもよいが、一例として250℃以下とされる。
[0048] また、感光性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は、所定の試験片(幅4mm×長さ20mm×厚み0.005〜0.015mm)に対して、熱機械分析装置(TMA)を用いて、開始温度30℃、測定温度範囲30〜400℃、昇温速度5℃/minの条件下で測定を行った結果から算出される。
[0049] 本実施形態に係る感光性樹脂組成物の硬化物は、その線膨張係数(CTE)が5〜80ppm/℃であるのが好ましく、10〜70ppm/℃であるのがより好ましく、15〜60ppm/℃であるのがさらに好ましい。これにより、有機絶縁層21の線膨張係数を、例えばシリコン材料の線膨張係数に近づけることができる。このため、例えば半導体チップ23の反り等を生じさせ難い有機絶縁層21が得られる。その結果、信頼性の高い半導体装置1が得られる。
[0050] なお、感光性樹脂組成物の硬化物の線膨張係数は、所定の試験片(幅4mm×長さ20mm×厚み0.005〜0.015mm)に対して、熱機械分析装置(TMA)を用いて、開始温度30℃、測定温度範囲30〜400℃、昇温速度5℃/minの条件下で測定を行った結果から算出される。
[0051] 本実施形態に係る感光性樹脂組成物の硬化物は、5%熱重量減少温度Td5が300℃以上であるのが好ましく、320℃以上であるのがより好ましい。これにより、高温下でも熱分解等による重量減少が生じ難く、耐熱性に優れた硬化物が得られる。このため、高温環境下での耐久性に優れた有機絶縁層21が得られる。
[0052] なお、感光性樹脂組成物の硬化物の5%熱重量減少温度Td5は、5mgの硬化物に対して、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)を用いて測定された結果から算出される。
[0053] 本実施形態に係る感光性樹脂組成物の硬化物は、その伸び率が5〜50%であるのが好ましく、6〜45%であるのがより好ましく、7〜40%であるのがさらに好ましい。これにより、有機絶縁層21の伸び率が最適化されるため、例えば有機絶縁層21を貫通するように貫通配線22が設けられている場合であっても、有機絶縁層21と貫通配線22との界面に剥離等が生じるのを抑制することができる。また、有機絶縁層21自体においても、クラック等が発生するのを抑制することができる。
[0054] また、伸び率が前記下限値を下回ると、有機絶縁層21の厚さや形状等によっては、有機絶縁層21にクラック等が発生するおそれがある。一方、伸び率が前記上限値を上回ると、有機絶縁層21の厚さや形状等によっては、有機絶縁層21の機械的特性が低下するおそれがある。
[0055] なお、感光性樹脂組成物の硬化物の伸び率は、以下のようにして測定される。まず、所定の試験片(幅6.5mm×長さ20mm×厚み0.005〜0.015mm)に対して引張試験(引張速度:5mm/min)を、温度25℃、湿度55%の雰囲気中で実施する。引張試験は、株式会社オリエンテック製引張試験機(テンシロンRTA−100)を用いて行う。次いで、当該引張試験の結果から、引張伸び率を算出する。ここでは、上記引張試験を試験回数n=10で行い、測定値が大きい5回の平均値を求め、これを測定値とする。
[0056] 本実施形態に係る感光性樹脂組成物の硬化物は、引張強度が20MPa以上であるのが好ましく、30〜300MPaであるのがより好ましい。これにより、十分な機械的強度を有し、耐久性に優れた有機絶縁層21が得られる。
[0057] なお、感光性樹脂組成物の硬化物の引張強度は、前述した伸び率の測定と同じ方法で取得した引張試験の結果から求められる。
[0058] 本実施形態に係る感光性樹脂組成物の硬化物は、引張弾性率が0.5GPa以上であるのが好ましく、1〜5GPaであるのがより好ましい。これにより、十分な機械的強度を有し、耐久性に優れた有機絶縁層21が得られる。
[0059] なお、感光性樹脂組成物の硬化物の弾性率は、前述した伸び率の測定と同じ方法で取得した引張試験の結果から求められる。
[0060] また、上述したような硬化物としては、例えば以下のような条件で硬化させたものが用いられる。まず、感光性樹脂組成物を、シリコンウエハー基板上にスピンコーター等で塗布した後、ホットプレートにて120℃で5分間乾燥し、塗膜を得る。得られた塗膜を700mJ/cm2で全面露光し、70℃で5分間PEB(Post Exposure Bake)を行う。その後、200℃で90分間加熱して、硬化膜が得られる。」

ウ 「[0106] 2.半導体装置の製造方法
次に、図5に示す半導体装置1を製造する方法について説明する。
・・・中略・・・
[0110] 以下、各工程について順次説明する。なお、以下の製造方法は一例であり、これに限定されるものではない。
[0111] [1]チップ配置工程S1
まず、図8(a)に示すように、基板202と、基板202上に設けられた半導体チップ23および貫通配線221、222と、これらを埋め込むように設けられた有機絶縁層21と、を備えるチップ埋込構造体27を用意する。
[0112] 基板202の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、金属材料、ガラス材料、セラミック材料、半導体材料、有機材料等が挙げられる。また、基板202には、シリコンウエハーのような半導体ウエハー、ガラスウエハー等を用いるようにしてもよい。
[0113] 半導体チップ23は、基板202上に接着されている。本製造方法では、一例として、複数の半導体チップ23を互いに離間させつつ同一の基板202上に併設する。複数の半導体チップ23は、互いに同じ種類のものであってもよいし、互いに異なる種類のものであってもよい。また、ダイアタッチフィルムのような接着剤層(図示せず)を介して基板202と半導体チップ23との間を固定するようにしてもよい。
[0114] なお、必要に応じて、基板202と半導体チップ23との間にインターポーザー(図示せず)を設けるようにしてもよい。インターポーザーは、例えば半導体チップ23の再配線層として機能する。したがって、インターポーザーは、後述する半導体チップ23の電極と電気的に接続させるための図示しないパッドを備えていてもよい。これにより、半導体チップ23のパッド間隔や配列パターンを変換することができ、半導体装置1の設計自由度をより高めることができる。
[0115] このようなインターポーザーには、例えば、シリコン基板、セラミック基板、ガラス基板のような無機系基板、樹脂基板のような有機系基板等が用いられる。
[0116] 有機絶縁層21は、例えば後述する感光性樹脂組成物の成分として挙げたような熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を含む樹脂膜である。
[0117] 貫通配線221、222の構成材料としては、例えば銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金、金または金合金、銀または銀合金、ニッケルまたはニッケル合金等が挙げられる。
[0118] なお、上記とは異なる方法で作製したチップ埋込構造体27を用意するようにしてもよい。
[0119] [2]上層配線層形成工程S2
次に、有機絶縁層21上および半導体チップ23上に、上層配線層25を形成する。
[0120] [2−1]第1樹脂膜配置工程S20
まず、図8(b)に示すように、有機絶縁層21上および半導体チップ23上に感光性樹脂ワニス5を塗布する(配置する)。これにより、図8(c)に示すように、感光性樹脂ワニス5の液状被膜が得られる。感光性樹脂ワニス5は、後述する感光性樹脂組成物のワニスである。
[0121] 感光性樹脂ワニス5の塗布は、例えば、スピンコーター、バーコーター、スプレー装置、インクジェット装置等を用いて行われる。
[0122] 感光性樹脂ワニス5の粘度は、特に限定されないが、10〜700mPa・sであるのが好ましく、30〜400mPa・sであるのがより好ましい。感光性樹脂ワニス5の粘度が前記範囲内であることにより、より薄い感光性樹脂層2510(図8(d)参照)を形成することができる。その結果、上層配線層25をより薄くすることができ、半導体装置1の薄型化が容易になる。
[0123] なお、感光性樹脂ワニス5の粘度は、例えば、コーンプレート型粘度計(TV−25、東機産業製)を用い、回転速度50rpm、測定時間300秒の条件で測定された値とされる。
[0124] 次に、感光性樹脂ワニス5の液状被膜を乾燥させる。これにより、図8(d)に示す感光性樹脂層2510を得る。
[0125] 感光性樹脂ワニス5の乾燥条件は、特に限定されないが、例えば80〜150℃の温度で、1〜60分間加熱する条件が挙げられる。
[0126] なお、本工程では、感光性樹脂ワニス5を塗布するプロセスに代えて、感光性樹脂ワニス5をフィルム化してなる感光性樹脂フィルムを配置するプロセスを採用するようにしてもよい。
[0127] 感光性樹脂フィルムは、例えば感光性樹脂ワニス5を各種塗布装置によってキャリアーフィルム等の下地上に塗布し、その後、得られた塗膜を乾燥させることによって製造される。
[0128] その後、必要に応じて、感光性樹脂層2510に対して露光前加熱処理を施す。露光前加熱処理を施すことにより、感光性樹脂層2510に含まれる分子が安定化して、後述する第1露光工程S21における反応の安定化を図ることができ、その一方、後述するような加熱条件で加熱されることで、加熱による光酸発生剤への悪影響を最小限に留めることができる。」

エ 「[0168] <ネガ型感光性樹脂組成物>
次に、本実施形態に係るネガ型感光性樹脂組成物(以下、単に「感光性樹脂組成物」ともいう。)の各成分について説明する。なお、本発明の感光性樹脂組成物は、ワニス状の溶液でも、フィルム状であってもよい。
[0169] 本実施形態に係る感光性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、感光剤としての光重合開始剤と、官能基として酸無水物を含有するカップリング剤と、を含む。このような感光性樹脂組成物は、カップリング剤の作用により、半導体チップ23、貫通配線22、221、222および配線層253等の無機材料および金属材料に対する密着性が良好な有機絶縁層21の形成が可能になる。
[0170] (熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂は、例えば常温(25℃)において半硬化(固形)の熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。このような熱硬化性樹脂は、成形時に加熱、加圧されることによって溶融し、所望の形状に成形されつつ硬化に至る。これにより、熱硬化性樹脂の特性を活かした有機絶縁層21、251、252が得られる。
・・・中略・・・
[0174] また、熱硬化性樹脂は、特に、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、およびテトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂からなる群より選択される1種以上のエポキシ樹脂を含むことが好ましく、多官能エポキシ樹脂を含むことがより好ましく、多官能芳香族エポキシ樹脂を含むことがさらに好ましい。このような熱硬化性樹脂は剛直であるため、硬化性が良好で耐熱性が高く、熱膨張係数の比較的低い有機絶縁層21、251、252が得られる。
[0175] なお、熱硬化性樹脂は、前述したように常温で固形の樹脂を含むことが好ましく、常温で固形の樹脂と常温で液体の樹脂の双方を含んでいてもよい。このような熱硬化性樹脂を含む感光性樹脂組成物は、半導体チップ23等の良好な埋め込み性と、フィルム化されたときのタック(べたつき)の改善と、硬化物である有機絶縁層21、251、252の機械的強度と、を両立させることができる。その結果、ボイドの発生を抑えつつ、平坦化が図られた機械的強度の高い有機絶縁層21、251、252が得られる。
・・・中略・・・
[0187] (熱可塑性樹脂)
また、感光性樹脂組成物は、さらに熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。これにより、感光性樹脂組成物の成形性をより高めることができるとともに、感光性樹脂組成物の硬化物の可撓性をより高めることができる。その結果、熱応力等が発生しにくい有機絶縁層21、251、252が得られる。
[0188] 熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂(例えばナイロン等)、熱可塑性ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリカーボネート、ポリエステル系樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)、変性ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド等が挙げられる。また、感光性樹脂組成物では、これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、異なる重量平均分子量を有する2種類以上を併用してもよく、1種類または2種類以上と、それらのプレポリマーとを併用してもよい。
[0189] このうち、熱可塑性樹脂としては、フェノキシ樹脂が好ましく用いられる。フェノキシ樹脂は、ポリヒドロキシポリエーテルとも呼ばれ、エポキシ樹脂よりも分子量が大きい特徴を有する。このようなフェノキシ樹脂を含むことにより、感光性樹脂組成物の硬化物の可撓性が低下するのを抑制することができる。
・・・中略・・・
[0196] 熱可塑性樹脂の添加量は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂100質量部に対して10質量部以上90質量部以下であるのが好ましく、15質量部以上80質量部以下であるのがより好ましく、20質量部以上70質量部以下であるのがさらに好ましい。熱可塑性樹脂の添加量を前記範囲内に設定することにより、感光性樹脂組成物の硬化物について、機械的特性のバランスを高めることができる。
[0197] なお、熱可塑性樹脂の添加量が前記下限値を下回ると、感光性樹脂組成物に含まれる成分やその配合比によっては、感光性樹脂組成物の硬化物に十分な可撓性が付与されないおそれがある。一方、熱可塑性樹脂の添加量が前記上限値を上回ると、感光性樹脂組成物に含まれる成分やその配合比によっては、感光性樹脂組成物の硬化物の機械的強度が低下するおそれがある。
[0198] (感光剤)
感光剤としては、例えば光酸発生剤を用いることができる。光酸発生剤としては、紫外線等の活性光線の照射により酸を発生して、上述した硬化性樹脂の光重合開始剤として機能する光酸発生剤を含有する。
[0199] 光酸発生剤としては、例えばオニウム塩化合物が挙げられる。具体的には、ジアゾニウム塩、ジアリールヨードニウム塩等のヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩のようなスルホニウム塩、トリアリールビリリウム塩、ベンジルピリジニウムチオシアネート、ジアルキルフェナシルスルホニウム塩、ジアルキルヒドロキシフェニルホスホニウム塩のようなカチオン型光重合開始剤等が挙げられる。
[0200] なお、感光剤は、感光性組成物が金属に接するため、メチド塩型やボレート塩型のような、分解によるフッ化水素の発生がないものが好ましい。
特に、感光剤として、ボレートアニオンを対アニオンとするトリアリールスルホニウム塩を用いることが好ましい。係るトリアリールスルホニウム塩は、金属に対して低腐食性のボレートアニオンを対アニオンとして含有しているため、貫通配線22、221、222および配線層253等の金属材料が腐食するのをより長期間にわたって防止することができる。その結果、半導体装置1の信頼性をより高くすることができる。
[0201] 感光剤の添加量は、特に限定されないが、感光性樹脂組成物の固形分全体の0.3〜5質量%程度であるのが好ましく、0.5〜4.5質量%程度であるのがより好ましく、1〜4質量%程度であるのがさらに好ましい。感光剤の添加量を前記範囲内に設定することにより、感光性樹脂組成物を含む感光性樹脂層210、2510、2520のパターニング性を高めるとともに、感光性樹脂組成物の長期保管性を向上させることができる。
[0202] なお、感光剤は、感光性樹脂組成物にネガ型の感光性を付与するものであってもよいし、ポジ型の感光性を付与するものであってもよいが、高アスペクト比の開口部を高精度に形成可能な点等を考慮すれば、ネガ型であるのが好ましい。
・・・中略・・・
[0226] (溶剤)
感光性樹脂組成物は、溶剤を含んでいてもよい。この溶剤としては、感光性樹脂組成物の各構成成分を溶解可能なもので、かつ、各構成成分と反応しないものであれば特に制限なく用いることができる。
[0227]
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、プロピレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、プロピレンカーボネート、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。これらは単独で用いても複数組み合わせて用いてもよい。
[0228] <感光性樹脂ワニス>
感光性樹脂組成物は、ワニス状をなしていてもよい。
[0229] ワニス状の感光性樹脂組成物は、例えば原料と溶剤とを均一に混合することによって調製される。なお、溶剤は必要に応じて添加され、溶剤を用いることなくワニス化することも可能である。また、その後、フィルターによる濾過、脱泡等の処理に供されてもよい。
[0230] ワニス状の感光性樹脂組成物における固形分濃度は、特に限定されないが、20〜80質量%程度であるのが好ましい。このような固形分濃度を有するワニス状の感光性樹脂組成物は、粘度が最適化されるため、狭い隙間にも浸透しやすい良好な流動性を有し、かつ、膜切れを生じさせにくいものとなる。」

オ 「実施例
[0248] 次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.感光性樹脂組成物の作製
(実施例1)
まず、表1、2に示す原料をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解させ、溶液を調製した。
[0249] 次に、調製した溶液を、孔径0.2μmのポリプロピレンフィルターでろ過し、ネガ型の感光性樹脂組成物を得た。
[0250] (実施例2〜11)
原料を表1、2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして感光性樹脂組成物を得た。
[0251] (比較例1〜4)
原料を表1、2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして感光性樹脂組成物を得た。
[0252]
[表1]


[0253] 2.感光性樹脂組成物の評価
2.1 試験片の作製
まず、サイズが8インチ、厚さ725μmのシリコンウエハーを用意した。
[0254] 次に、ワニス状の感光性樹脂組成物を、シリコンウエハー上にスピンコーターで塗布した。これにより、厚さ10μmの液状被膜を得た。
[0255] 次に、ホットプレートにて液状被膜を120℃で5分間乾燥させ、塗膜を得た。
次に、得られた塗膜に対して、700mJ/cm2で全面露光した。
[0256] 次に、露光後の塗膜に対して、70℃で5分間のPEB(Post Exposure Bake)を行った。
次に、200℃で90分間加熱して、硬化膜を有する試験片を得た。
[0257] 2.2 密着試験
2.2.1 シリコン密着試験(常温)
次に、得られた試験片について、以下のようにしてJIS K 5600−5−6:1999に規定されたクロスカット法に準ずる密着試験を行った。
[0258] まず、工具を用いて感光性樹脂フィルムに切れ込みを入れた。この切れ込みは、1mm間隔で縦横に10本ずつ、感光性樹脂フィルムを貫通するように入れた。これにより、感光性樹脂フィルムから1mm角の正方形が全部100個形成された。
[0259] 次に、これらの100個の正方形に重ねるようにセロハン粘着テープを貼り付けた。そして、セロハン粘着テープを剥がし、100個の正方形のうち、いくつ剥がれるかを数えた。
数えた結果を、表2に示す。
[0260] 2.2.2 シリコン密着試験(高温)
得られた試験片を下記の条件で高温高湿下に置いた後、2.2.1と同様にして密着試験を行った。評価結果を表2に示す。
[0261] ・温度85℃
・相対湿度85%
・試験時間:24時間
[0262] 2.2.3 銅密着試験(常温)
2.1のシリコンウエハーを、Tiで下地処理したのち膜厚300nmの銅を蒸着したシリコンウエハーに変更した試験片を用いるようにした以外は、2.2.1と同様にして常温での密着試験を行った。評価結果を表2に示す。
[0263] 2.2.4 銅密着試験(高温)
2.1のシリコンウエハーを、Tiで下地処理したのち膜厚300nmの銅を蒸着したシリコンウエハーに変更した試験片を用いるようにした以外は、2.2.2と同様にして高温での密着試験を行った。評価結果を表2に示す。
[0264] 2.3 パターニング性評価
まず、2.1に示すようにしてワニス状の感光性樹脂組成物をシリコンウエハー上にスピンコーターで塗布した。これにより、厚さ10μmの液状被膜を得た。
[0265] 次に、ホットプレートにて液状被膜を120℃で5分間乾燥させ、塗膜を得た。
次に、ネガ型パターン用マスクを介し、塗膜に対してi線ステッパー(ニコン社製、NSR−4425i)を用いて露光処理を行った。その後、70℃で5分の露光後加熱処理を施した。
[0266] 次に、現像液として25℃のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)用いて、スプレー現像を行うことによって未露光部を溶解除去した後、イソプロピルアルコール(IPA)でリンスした。
[0267] 次に、パターニングすることができたか否かを目視にて確認し、以下の評価基準に照らしてパターニング性を評価した。
[0268] <パターニング性の評価基準>
○:未露光部が溶解することでパターンを得ることができた
×:全溶解または不溶によりパターンを得ることができなかった
評価結果を表2に示す。
[0269]
[表2]

[0270] 表2から明らかなように、各実施例で得られた感光性樹脂フィルムは、無機材料および金属材料に対して良好な密着性を示すことが明らかとなった。
産業上の利用可能性
[0271] 本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、光重合開始剤と、官能基として酸無水物を含有するカップリング剤とを含む。官能基として酸無水物を含有するカップリング剤を用いることにより、ネガ型感光性樹脂組成物で形成された樹脂膜は、無機材料や金属材料で形成された半導体チップや各種金属配線との密着性が良好となる。そのため、係るネガ型感光性樹脂組成物を用いた半導体装置の信頼性を高くすることができる。したがって、本発明は、産業上の利用可能性を有する。」

(2) 引用文献6の記載
当審拒絶理由で引用された、引用文献6(特開2015−135522号公報)は、先の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献であるところ、そこには以下の記載がある。

ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来のポジ型樹脂組成物とは組成が異なった新規のポジ型の感光性樹脂組成物、これを用いたドライフィルム、及びこれらの硬化物と、これらの硬化物を用いたプリント配線板を提供することにある。
・・・中略・・・
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0016】
[エポキシ樹脂]
本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、エポキシ樹脂として3級アミン構造を有するエポキシ樹脂を用いるか、または、複素環式化合物を含有する場合には、特にエポキシ樹脂の種類は限定されず、広く公知慣用のエポキシ樹脂を用いることができる。
【0017】
上記3級アミン構造を有するエポキシ樹脂としては、公知の3級アミン構造を有するエポキシ樹脂を使用することができる。具体的には、N,N−ジメチルアミノエチルグリシジルエーテル、N,N−ジメチルアミノトリルグリシジルエーテル、N,N−ジメチルアミノフェニルグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、1,3,5−トリグリシジルイソシアヌレート、N,N−ジグリシジルアニリン、4,4‘−メチレンビス[N,N−ジグリシジルアニリン、イソシアネート変性エポキシ樹脂等が挙げられる。市販品としては、N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリンであるjER630(三菱化学社製)、1,3,5−トリグリシジルイソシアヌレートであるアラルダイドPT810(BASF社製)やTEPIC(日産化学工業社製)、イソシアネート変性エポキシ樹脂としてXAC4151、AER4152(旭化成イーマテリアルズ社製)等が挙げられる。更に、上記3級アミン構造を有するエポキシ樹脂が、含窒素複素環式エポキシ樹脂、アニリン型エポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂であることが好ましい。上記3級アミン構造を有するエポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明において、上記3級アミン構造を有するエポキシ樹脂の3級アミン構造のアミンが、炭素数3〜10の直鎖又は分岐鎖のエポキシアルキル基を有することがより好ましく、特に、炭素数3〜6の直鎖又は分岐鎖のエポキシアルキル基を有することが好ましい。
【0019】
上記3級アミン構造を有するエポキシ樹脂の好ましい化合物の具体例として、下記の化合物が挙げられるが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。」

イ 「【0022】
上記複素環式化合物を含有する場合の、本発明のポジ型感光性樹脂組成物において、エポキシ樹脂としては、公知のいずれのものも用いることができ、前記3級アミン構造を有するエポキシ樹脂であってもよい。前記エポキシ樹脂の例として、三菱化学社製のjER828、jER834、jER1001、jER1004、DIC社製のエピクロン840、エピクロン850、エピクロン1050、エピクロン2055、東都化成社製のエポトートYD−011、YD−013、YD−127、YD−128、ダウケミカル社製のD.E.R.317、D.E.R.331、D.E.R.661、D.E.R.664、住友化学工業社製のスミ−エポキシESA−011、ESA−014、ELA−115、ELA−128、旭化成工業社製のA.E.R.330、A.E.R.331、A.E.R.661、A.E.R.664等(何れも商品名)のビスフェノールA型エポキシ樹脂;三菱化学社製のjERYL903、DIC社製のエピクロン152、エピクロン165、東都化成社製のエポトートYDB−400、YDB−500、ダウケミカル社製のD.E.R.542、住友化学工業社製のスミ−エポキシESB−400、ESB−700、ADEKA社製のA.E.R.711、A.E.R.714等(何れも商品名)のブロム化エポキシ樹脂;三菱化学社製のjER152、jER154、ダウケミカル社製のD.E.N.431、D.E.N.438、DIC社製のエピクロンN−730、エピクロンN−770、エピクロンN−865、東都化成社製のエポトートYDCN−701、YDCN−704、日本化薬社製のEPPN−201、EOCN−1025、EOCN−1020、EOCN−104S、RE−306、NC−3000、住友化学工業社製のスミ−エポキシESCN−195X、ESCN−220、旭化成工業社製のA.E.R.ECN−235、ECN−299等(何れも商品名)のノボラック型エポキシ樹脂;DIC社製のエピクロン830、三菱化学社製jER807、東都化成社製のエポトートYDF−170、YDF−175、YDF−2004等(何れも商品名)のビスフェノールF型エポキシ樹脂;東都化成社製のエポトートST−2004、ST−2007、ST−3000(商品名)等の水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂;三菱化学社製のjER604、東都化成社製のエポトートYH−434、住友化学工業社製のスミ−エポキシELM−120等(何れも商品名)のグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ヒダントイン型エポキシ樹脂;ダイセル化学工業社製のセロキサイド2021等(何れも商品名)の脂環式エポキシ樹脂;三菱化学社製のYL−933、ダウケミカル社製のT.E.N.、EPPN−501、EPPN−502等(何れも商品名)のトリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂;三菱化学社製のYL−6056、YX−4000、YL−6121(何れも商品名)等のビキシレノール型もしくはビフェノール型エポキシ樹脂又はそれらの混合物;日本化薬社製EBPS−200、ADEKA社製EPX−30、DIC社製のEXA−1514(商品名)等のビスフェノールS型エポキシ樹脂;三菱化学社製のjER157S(商品名)等のビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂;三菱化学社製のjERYL−931等(何れも商品名)のテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂;日産化学工業社製のTEPIC等(何れも商品名)の複素環式エポキシ樹脂;日本油脂社製ブレンマーDGT等のジグリシジルフタレート樹脂;東都化成社製ZX−1063等のテトラグリシジルキシレノイルエタン樹脂;新日鐵化学社製ESN−190、ESN−360、DIC社製HP−4032、EXA−4750、EXA−4700等のナフタレン基含有エポキシ樹脂;DIC社製HP−7200、HP−7200H等のジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂;日本油脂社製CP−50S、CP−50M等のグリシジルメタアクリレート共重合系エポキシ樹脂;さらにシクロヘキシルマレイミドとグリシジルメタアクリレートの共重合エポキシ樹脂;CTBN変性エポキシ樹脂(例えば東都化成社製のYR−102、YR−450等)等の多官能エポキシ樹脂が挙げられるが、これらに限られるものではない。中でも、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0023】
フェノール樹脂]
フェノール樹脂としては、公知のフェノール樹脂を使用することができる。例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、ビスフェノールF型ノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂などが挙げられる。中でも、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂が好ましく、特にフェノールノボラック樹脂が好ましい。このようなフェノール樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0024】
このフェノール樹脂の配合量は、固形分として、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは20〜150質量部、より好ましくは35〜130質量部、更に好ましくは50〜100質量部である。20質量部未満であると現像ができず目的とする解像性が得られない。一方、150質量部を超えると、耐アルカリ性が低下し目的とする解像性が得られない。
【0025】
[光カチオン重合開始剤]
光カチオン重合開始剤としては、公知のいずれのものも用いることができる。本発明において、光カチオン重合開始剤とは、活性エネルギー線の照射を受けてカチオンを発生する化合物であればよく、本発明の効果であるポジ型パターンの発現が得られる限り、実際に光カチオン重合開始剤として機能するか否かによって、限定されるものではない。光カチオン重合開始剤として、例えば、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボロエート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、2,4,6−トリフェニルチオピリリウムヘキサフルオロホスフェートや、市販品として、(株)ADEKA製オプトマ−SP−170やSP−152、サンアプロ社製CPI−100P、CPI−101A、CPI−200K、CPI−210S等のスルホニウム塩系光カチオン重合開始剤や、BASF社製イルガキュアー(登録商標)261等が挙げられる。中でも、SP−152、CPI−100P、CPI−200Kが好ましく、特に対アニオンとしてヘキサフルオロホスフェートを有するスルホニウム塩系光カチオン重合開始剤が好ましい。このような光カチオン重合開始剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0026】
この光カチオン重合開始剤の配合量は、固形分として、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜25質量部、より好ましくは5〜20質量部、更に好ましくは10〜20質量部である。1質量部未満であると未露光部に耐現像性が得られずパターンが得られない。一方、25質量部を超えると、露光部に耐現像性が発現し解像性が得られない。
・・・中略・・・
【0036】
前記現像方法としては、ディッピング法、シャワー法、スプレー法、ブラシ法等によることができ、現像液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、アンモニア、アミン類などのアルカリ水溶液が使用できる。また、有機溶剤による現像に際しては、アセトン、トルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤を用いることができる。」

ウ 「【実施例】
【0041】
以下、実施例、参考例及び比較例を示して、本発明について具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0042】
<樹脂組成物の調製>
下記表1に示す種々の成分と共に表1に示す割合(質量部)にて配合し、撹拌機にて予備混合した後、3本ロールミルで混練し、実施例1、6、7、参考例2〜5及び比較例1、2の樹脂組成物を調製した。
【0043】
<ドライフィルムの作製>
実施例1、6、7、参考例2〜5及び比較例1、2の樹脂組成物をそれぞれメチルエチルケトンにて希釈し、PETフィルム(38μm)上に塗布した。これを90℃で15分乾燥し、厚さ20μmの乾燥塗膜を形成し、さらにその上にカバーフィルムを貼り合わせて、ドライフィルムを作製した。
【0044】
<評価基板の作成>
銅ベタ(ラミネート銅箔)をメックエッチボンドCZ−8100B(メック社製)に30℃で浸漬させて、粗化処理(Ra値:1μm)を行った。上記で作製したドライフィルムからカバーフィルムを剥がし、前処理した銅箔基板に、ラミネートした(70℃、真空引き60秒、スラップダウン0.10MPa、8秒)。次いで、この基板にメタルハライドランプを搭載した露光装置を用いて、最適露光量でパターン露光を行った(レジスト上3J/cm2)。露光後、キャリアフィルムを剥がし、90℃×15分で加熱した。その後、5.0wt%の2−アミノエタノール水溶液で撹拌浸漬して現像し(35℃、3分)、パターンの形成された評価基板を得た。
【0045】
<ポジ型パターンの評価>
得られた評価基板について、実施例1、6、7、参考例2〜5および比較例1、2の樹脂組成物を用いたポジ型パターンの発現性を目視にて評価した。結果を下記表1に示す。
【0046】
【表1】

*1 フェノールノボラック樹脂(HF−1CA75(固形分:75wt%)、明和化成社製)
*2 クレゾールノボラック樹脂(MER−7959CA75(固形分:75wt%)、明和化成社製)
*3 スルホニウム塩系光カチオン重合開始剤(CPI−100P、サンアプロ社製)
*4 スルホニウム塩系光カチオン重合開始剤(アデカオプトマーSP−152、ADEKA社製)
*5 アニリン型エポキシ樹脂(N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン:JER630、ジャパンエポキシレジン社製)
*6 クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(EOCN−104SH70(固形分:70wt%)、日本化薬製)
*7 含窒素複素環式エポキシ樹脂(1,3,5−トリグリシジルイソシアヌレート:TEPIC−HP、日産化学工業社製)
*8 2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ、四国化成工業社製)
*9 2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(2PHZ、四国化成工業社製)
*10 フェノキシ樹脂(YX8000BH30(固形分:30wt%)、三菱化学社製)
*11 3元ブロック共重合体:ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリメチルメタクリレート(SBM−E41(固形分:30wt%)、アルケマ(株)製)
【0047】
実施例1、6、7に示す結果より、本実施形態の樹脂組成物がポジ型パターンを発現することを明らかとした。また、比較例1に示すように、3級アミン構造を有しないエポキシ樹脂を使用した場合には、ポジ型パターンは得られないが、実施例6、7の結果より、そのような3級アミン構造を有しないエポキシ樹脂を使用した場合でも、複素環式化合物を用いればポジ型パターンが得られることを明らかとした。比較例2に示すように、フェノール樹脂を含有しない場合は、ポジ型パターンが発現しないことを明らかとした。」

(3) 引用文献4の記載
当審拒絶理由で引用された、引用文献4(国際公開第2013/172432号)は、先の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献であるところ、そこには以下の記載がある。

ア 「[0064][高分子樹脂]
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、得られる硬化物の可撓性、指触乾燥性の向上を目的に慣用公知の高分子樹脂を配合することができる。高分子樹脂としてはセルロース系、ポリエステル系、フェノキシ樹脂系、ポリビニルアセタール系、ポリビニルブチラール系、ポリアミド系、ポリアミドイミド系バインダーポリマー、ブロック共重合体、エラストマー、ゴム粒子等が挙げられる。高分子樹脂は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
高分子樹脂を配合することにより、熱硬化性樹脂組成物の溶融粘度が上昇し、露光後加熱時において、スルーホール部分の樹脂の流動性を抑止することができる。その結果、スルーホール上に凹みのみられない平坦な基板を作製できる。」

イ 「[0081](その他の任意成分)
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じてさらに、メルカプト化合物、密着促進剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの成分を配合することができる。これらは、電子材料の分野において公知の物を使用することができる。
特に、本発明では、着色剤の含有量を増加させた場合においても、アンダーカットを抑制して、良好なビアホールとラインを形成できる。
また、上記の熱硬化性樹脂組成物には、微粉シリカ、ハイドロタルサイト、有機ベントナイト、モンモリロナイトなどの公知慣用の増粘剤、シリコーン系、フッ素系、高分子系などの消泡剤及び/又はレベリング剤、イミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系等のシランカップリング剤、防錆剤などのような公知慣用の添加剤類を配合することができる。
また、熱硬化性成分として、ブロックイソシアネート化合物、アミノ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、カルボジイミド樹脂、シクロカーボネート化合物、エピスルフィド樹脂などの公知慣用の熱硬化性樹脂等を配合してもよい。
さらに、アルカリ現像性樹脂としてフェノール樹脂を含有し、熱反応性化合物としてエポキシ樹脂を含有することで、Tgを高くでき、原料の軟化点に依存すること無くHAST耐性に優れた硬化物が得られる樹脂組成物とすることができる。また、光重合性モノマー(分子内にエチレン性不飽和基を含有し、カルボキシル基含有樹脂を主成分とする光硬化性樹脂組成物において、光硬化を促進するために配合される低分子化合物)を配合しない組成とした場合、タック性に優れる樹脂組成物とすることができる。
なお、従来の光硬化性樹脂組成物では、光硬化反応を室温下で起こす為、硬化時に樹脂組成物のTgが上昇する結果、硬化反応が停止してしまう場合があり、樹脂組成物のTgを低く設計する必要があった。それに対して本発明のアルカリ現像型の熱硬化性樹脂組成物は、硬化反応前のTgに制限はなく、高Tgとすることが期待できる。また、本発明のアルカリ現像型熱硬化性樹脂組成物は、酸素阻害を受けずに硬化することが期待できる。
[0082] 本発明の熱硬化性樹脂組成物は、プリント配線板のパターン層の形成に有用であり、中でもソルダーレジストや層間絶縁層の材料として有用である。」

ウ 「実施例
[0095] 以下、実施例、参考例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例、参考例および比較例によって制限されるものではない。
[0096]
(実施例1〜18,比較例1〜4)
<アルカリ現像型の熱硬化性樹脂組成物の調製>
下記表1〜3に記載の配合に従って、実施例/比較例に記載の材料をそれぞれ配合、攪拌機にて予備混合した後、3本ロールミルにて混練し、熱硬化性樹脂組成物を調製した。表中の値は、特に断りが無い限り、質量部である。
・・・中略・・・
[0109]

・・・中略・・・
[0111] 表1〜3における各成分は、次のとおりである。
(熱反応性化合物)
※828:Bis−A型液状エポキシ(当量190g/eq)、三菱化学社
※HP−7200 H60:ジシクロペンタジエン型エポキシ(当量265g/eq)、DIC社をシクロヘキサノンで溶解。固形分60%
※HF−1M H60:フェノールノボラック(水酸基当量105g/eq)、明和化成社をシクロヘキサノンで溶解。固形分60%(アルカリ現像性樹脂)
※HF−1M H60:フェノールノボラック(水酸基当量105g/eq)、明和化成社をシクロヘキサノンで溶解。固形分60%
※MEH−7851M H60:ビフェニル/フェノールノボラック(水酸基当量210g/eq)、明和化成社をシクロヘキサノンで溶解。固形分60%。
※ジョンクリル586 H60:スチレンアクリル酸共重合樹脂、Mw=3100、固形分酸価=108mgKOH/g、ジョンソンポリマー社をシクロヘキサノンで溶解。固形分60%
※ジョンクリル68 H60:スチレンアクリル酸共重合樹脂、Mw=10000、酸価195mgKOH/g、ジョンソンポリマー社
※R−2000PG:固形分65%(DIC社製)、エポキシアクリレート構造を有する(光塩基発生剤)
※Irg369:2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、BASFジャパン社
※OXE−02:エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(o−アセチルオキシム)、BASFジャパン社(高分子樹脂)
※MAM M52 H30:MMA/nBA/MMAトリブロック共重合物、アルケマ社をシクロヘキサノンで溶解。固形分30%
※PB3600:エポキシ化ポリブタジエンMn=5900、ダイセル化学社
※KS−10 H30:ポリビニルブチラール、積水化学社をシクロヘキサノンで溶解。固形分30%
※XER−91:粒子状架橋ゴム粒子(NBR,官能基カルボン酸)、JSR社
※パラロイドEXL2655:ブタジエン−アクリル樹脂のコアシェル粒子、ロームアンドハースジャパン
※YX8100 BH30:フェノキシ樹脂。三菱化学社。固形分30%(無機充填剤)
※SO−C2:球状シリカ D50=0.5μm、屈折率=1.45、アドマテックス社、比重:2.2g/cm3
※B−30:硫酸バリウム、D50=0.3μm、屈折率=1.64、堺化学社、比重:4.3g/cm3」

2 引用発明7を主引用例とした場合
(1) 引用発明7
引用文献7([0248]〜[0250]等参照。)に実施例9として記載される「感光性樹脂組成物」は、[表1]及び[表2]に記載されるエポキシ樹脂(固形)、フェノキシ樹脂及び感光剤とを含む。さらに、同文献の[表1]、[表2]等には、実施例9の感光性樹脂組成物が、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を成分とするEOCN−1020、ビスフェノールA/ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を成分とするYP−70及び感光剤であるトリアリールスルホニウム塩を成分とするCPI310Bを原料として含むことが記載されている。
また、同文献の[0002]、[0175]を参酌すると、そのような感光性樹脂組成物が「平坦化膜等の用途」に用いられることが理解でき、実施例9の「感光性樹脂組成物」も実質的に平坦化膜形成用の樹脂であるといえる。当該「感光性樹脂組成物」は、[0253]〜[0255]に記載されるようにシリコンウエハー上に膜を形成するために用いられる。
そうすると、引用文献7には、実施例9として、次の「感光性樹脂組成物」の発明(以下「引用発明7」という。)が記載されていると認められる。

「平坦化膜形成用のネガ型の感光性樹脂組成物であって、
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を成分とするEOCN−1020、ビスフェノールA/ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を成分とするYP−70及び感光剤であるトリアリールスルホニウム塩を成分とするCPI310Bを、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解させ、溶液を調製し、
次に、調製した溶液を、孔径0.2μmのポリプロピレンフィルターでろ過して得られる、ネガ型の感光性樹脂組成物であって、
サイズが8インチ、厚さ725μmのシリコンウエハーを用意し、
次に、ワニス状のネガ型の感光性樹脂組成物を、シリコンウエハー上にスピンコーターで塗布し、これにより、厚さ10μmの液状被膜を得て、
次に、ホットプレートにて液状被膜を120℃で5分間乾燥して膜を形成するために用いられる、
ネガ型の感光性樹脂組成物。」

(2) 対比
本願発明と引用発明7を対比すると、以下のとおりとなる。
ア エポキシ樹脂
引用発明7の「EOCN−1020」は、「クレゾールノボラック型エポキシ樹脂」を「成分」とするものであり、技術的にみて、分子内に3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂であることは明らかである(当合議体注:この点は本件出願の明細書の【0026】等の記載からも理解できる。)。
よって、引用発明7の「EOCN−1020」は、本願発明の「エポキシ樹脂」に相当し、「分子内に3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂を含む」という要件を満たす。引用発明7は、さらに、「前記多官能エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、およびトリフェニルメタン型エポキシ樹脂からなる群より選択される1種以上であ」るという要件を満たす。

イ フェノキシ樹脂
引用発明7は、「ビスフェノールA/ビスフェノールF型フェノキシ樹脂」を「成分」とする「YP−70」を含むものである。「ビスフェノールA/ビスフェノールF型フェノキシ樹脂」は、その文言が意味するとおり「フェノキシ樹脂」であるから、引用発明7の「YP−70」は、本願発明の「フェノキシ樹脂」に相当する。

ウ 感光剤
引用発明7は、「感光剤」として「トリアリールスルホニウム塩」を成分とする「CPI310B」を含むものであり、技術的にみて、「CPI310B」は光酸発生剤であるといえる(当合議体注:この点は本件出願の明細書の【0044】等の記載からも理解できる。)。
よって、当該「CPI310B」は、本願発明の「感光剤」に相当し、さらに、「前記感光剤は光酸発生剤であ」るという要件を満たす。

エ 平坦化膜形成用のネガ型感光性樹脂組成物
引用発明7の「平坦化膜形成用のネガ型の感光性樹脂組成物」は、その文言の意味するとおり、本願発明の「平坦化膜形成用のネガ型感光性樹脂組成物」に相当する。
また、上記ア〜ウより、引用発明7の「平坦化膜形成用のネガ型の感光性樹脂組成物」は、「分子内に3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂と、フェノキシ樹脂と、感光剤とを含み」という要件を満たす。

(3)一致点及び相違点
ア 一致点
上記(2)によれば、本願発明と引用発明7は、次の点で一致する。
「 平坦化膜形成用のネガ型感光性樹脂組成物であって、
分子内に3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂と、フェノキシ樹脂と、感光剤とを含み、
前記多官能エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、およびトリフェニルメタン型エポキシ樹脂からなる群より選択される1種以上であり、
前記感光剤は光酸発生剤である、
平坦化膜形成用のネガ型感光性樹脂組成物。」

イ 相違点
上記(2)によれば、本願発明と引用発明7は、次の点で相違又は一応相違する。

(相違点1)
「平坦化膜形成用のネガ型感光性樹脂組成物」が、本願発明では、「表面に段差を有する基板の前記表面に塗布された後、加熱乾燥させて感光性樹脂膜を形成するのに用いられる」ものであるのに対し、引用発明7では、そのように特定されていない点。

(相違点2)
「前記エポキシ樹脂100質量部に対する前記フェノキシ樹脂の量」が、本願発明では「20〜60質量部」であるのに対し、引用発明7では、そのように特定されていない点。

(相違点3)
本願発明は、「以下の[平坦性評価手順]により算出される、[段差の高さあたりの硬化膜表面平坦性]」が、「0.3以上4.6以下」であるのに対し、引用発明7では、そのように特定されていない点。
「[平坦性評価手順]
(1)基板として、高さ3〜4μm、幅100μmの、Cuにより形成された段差(凸状の部分)が、200μmピッチで設けられた、直径8インチのシリコンウェハを準備する。
(2)上記基板の段差がある面に、スピンコートにより前記ネガ型感光性樹脂組成物を塗布し、その後、大気中で100℃、6分乾燥させる。これにより基板上にネガ型感光性樹脂膜を形成する。後述するHB(凸状の段差が無い部分の硬化膜の厚み)が7.40〜7.73μmとなるように前記ネガ型感光性樹脂組成物の塗布厚みを調整する。
(3)上記(2)で形成された前記ネガ型感光性樹脂膜に対して、g線、i線、h線の混合光を用いて、800mJ/cm2の露光量で全面露光する。
(4)上記(3)の露光の後、窒素雰囲気下、170℃で120分の加熱処理により前記ネガ型感光性樹脂膜を硬化させる。
(5)上記で得られた硬化膜付きウェハを割り、その断面を拡大して撮影する。撮影された画像に基づき、
HA(凸状の段差の上にある硬化膜の厚みと、凸状の段差の高さとの合計)、
HB(凸状の段差が無い部分の硬化膜の厚み)、および、
HS(凸状の段差の高さ)を求める。
[段差の高さあたりの硬化膜表面平坦性]={|HA−HB|/HS}×100(単位:%)
により、平坦性を評価する。」

(4) 判断
ア 相違点1について
本願発明は「ネガ型感光性樹脂組成物」の発明であるところ、相違点1に係る構成は、単に、平坦化膜形成用の感光性樹脂組成物の通常の使用方法を特定するものであって、感光性樹脂組成物の構成(組成等)を何ら特定するものではないから、相違点1に係る構成は実質的な相違点であるとはいえない。
また、仮に相違点1に係る構成が「ネガ型感光性樹脂組成物」の構成を特徴付けるものであるとした場合について検討すると、基板であるシリコンウエハーは通常ミクロな段差を有するものであるから、引用発明7も「平坦化膜形成用」のネガ型感光性樹脂組成物であり「ホットプレートにて液状被膜を120℃で5分間乾燥して膜を形成するために用いられる」ものである以上、「表面に段差を有する基板の前記表面に塗布された後、加熱乾燥させて感光性樹脂膜を形成するのに用いられる」ために必要な構成は具備するものといえる。
そうすると、相違点1に係る構成はやはり実質的な相違点であるとはいえない。また、仮にそうでないとしても、表面に段差を有する基板において感光性樹脂膜を形成するのに用いるために必要となる設計的な調整を、引用発明7に施すことは当業者が適宜なし得たことである。

イ 相違点2について
フェノキシ樹脂(熱可塑性樹脂)の添加量に関しては、引用文献7の[0187]、[0189]及び[0196]に、エポキシ樹脂100質量部に対して「20質量部以上70質量部以下であるのがさらに好ましい」ことが記載されている。また、引用文献4の[0064]等には、感光性樹脂組成物において、フェノキシ樹脂系の高分子樹脂を配合することにより溶融粘度が上昇し、基板を平坦化ができることが記載されており、実施例([0109]、[0111]等参照。)として、エポキシ樹脂100質量部に対するフェノキシ樹脂の量が20〜60質量部の範囲にある感光性樹脂組成物が記載されている。
そして、引用発明7において、引用文献7の上記記載及び引用文献4の実施例におけるフェノキシ樹脂の添加量を参考にして、エポキシ樹脂100質量部に対するフェノキシ樹脂の量を最適化し、前記添加量が「20〜60質量部」の範囲にある感光性樹脂組成物を得ることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
本願発明は「ネガ型感光性樹脂組成物」の発明であるところ、相違点3に係る[段差の高さあたりの硬化膜表面平坦性]に関する特定事項は、特性等を用いて発明に係る組成物の組成を特定しようとするものといえる。ここで、下限値の「0.3」については、格別な技術的意義は認められず、当業者の設計的事項といえる。
また、上限値が示す高い平坦性という特性も、平坦化膜形成用の組成物における自明の課題を表現したものにすぎない。そして、そのような課題に対して、本件出願の明細書の【0020】、【0025】〜【0026】で示された解決手段(物としての構成)は、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を用いること、及び、フェノキシ樹脂を含むことであり、当該解決手段に基づきつつ、必要に応じて組成物の配合量等を高い平坦性を得る目的に沿って調整することで、上記の特性が得られているものと考えられる。
他方、引用発明7もクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を用いた平坦化膜形成用の組成物であり、さらに、上記イで検討したとおり、エポキシ樹脂100質量部に対してフェノキシ樹脂を20〜60質量部を含めることは当業者が容易になし得たことである。その上でさらに当業者であれば、高い平坦性を得るために組成物の配合量等を設計的に調整するところ、上記の特性(「[段差の高さあたりの硬化膜表面平坦性]」「4.6以下」)を得るために、さらに格別の構成や困難な調整が必要であったとは本件出願の明細書に徴しても認められないから、当業者における通常の調整の範囲で達成し得た特性といえる。

(5) 引用文献7に記載されるその他の実施例について
引用文献7の実施例10〜11も実施例9と同様の構成を含んでおり、これらを引用発明としても上記(3)〜(4)と同様の判断となる。

以上より、本願発明は、引用発明7及び引用文献4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 引用発明6を主引用例とした場合
(1) 引用発明6
引用文献6の【0042】には、表1に示す種々の成分を表1に示す割合(質量部)にて配合し、撹拌機にて予備混合した後、3本ロールミルで混練し、実施例6の樹脂組成物を調製することが記載されている。
そうすると、引用文献6には、実施例6として、次の「感光性樹脂組成物」の発明(以下「引用発明6」という。)が記載されていると認められる。

「 クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(固形分70wt%)であるEOCN−104SH70(27質量部)、フェノキシ樹脂であるYX8000BH30(固形分30wt%)(22質量部)及びスルホニウム塩系光カチオン重合開始剤であるアデカオプトマーSP−152を配合し、撹拌機にて予備混合した後、3本ロールミルで混練し、調製した、感光性樹脂組成物。」

(2) 対比
本願発明と引用発明6を対比すると、以下のとおりとなる。
ア エポキシ樹脂
引用発明6は、「クレゾールノボラック型エポキシ樹脂」である「EOCN−104SH70」を含むものである。
上記2(2)アの記載と同様に、「EOCN−104SH70」は、分子内に3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂であることは明らかである。
よって、引用発明6の「EOCN−104SH70」は、本願発明の「エポキシ樹脂」に相当し、「分子内に3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂を含む」という要件を満たす。引用発明6は、さらに、「前記多官能エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、およびトリフェニルメタン型エポキシ樹脂からなる群より選択される1種以上であ」るという要件を満たす。

イ フェノキシ樹脂
引用発明6に含まれる「YX8000BH30」は、固形分30wt%の「フェノキシ樹脂」であり、固形分70wt%の「エポキシ樹脂」である「EOCN−104SH70」「27質量部」に対して、「22質量部」含まれている。そうすると、「前記エポキシ樹脂100質量部に対する前記フェノキシ樹脂の量」は約34.9となる。
上記を総合すると、引用発明6の「YX8000BH30」は、本願発明の「フェノキシ樹脂」に相当し、「前記エポキシ樹脂100質量部に対する前記フェノキシ樹脂の量は20〜60質量部であ」るという要件を満たす。

ウ 感光剤
引用発明6は、「スルホニウム塩系光カチオン重合開始剤」である「アデカオプトマーSP−152」を含むものであり、技術的にみて、「アデカオプトマーSP−152」は感光材として用いられる光酸発生剤であるといえる(当合議体注:この点は本件出願の明細書の【0044】等の記載からも理解できる。)。
よって、当該「アデカオプトマーSP−152」は、本願発明の「感光剤」に相当し、さらに、「前記感光剤は光酸発生剤であ」るという要件を満たす。

エ 感光性樹脂組成物
引用発明6の「感光性樹脂組成物」は、その文言の意味するとおり、本願発明の「感光性樹脂組成物」に相当する。
また、上記ア〜ウより、引用発明6の「感光性樹脂組成物」は、「分子内に3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂と、フェノキシ樹脂と、感光剤とを含み」という要件を満たす。

(3)一致点及び相違点
ア 一致点
上記(2)によれば、本願発明と引用発明6は、次の点で一致する。
「 感光性樹脂組成物であって、
分子内に3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂と、フェノキシ樹脂と、感光剤とを含み、
前記エポキシ樹脂100質量部に対する前記フェノキシ樹脂の量は20〜60質量部であり、
前記多官能エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、およびトリフェニルメタン型エポキシ樹脂からなる群より選択される1種以上であり、
前記感光剤は光酸発生剤である、感光性樹脂組成物。」

イ 相違点
上記(2)によれば、本願発明と引用発明6は、次の点で相違又は一応相違する。

(相違点4)
「感光性樹脂組成物」が、本願発明は、「表面に段差を有する基板の前記表面に塗布された後、加熱乾燥させて感光性樹脂膜を形成するのに用いられる、平坦化膜形成用のネガ型」のものであるのに対し、引用発明6では、そのように特定されていない点。

(相違点5)
本願発明は、「以下の[平坦性評価手順]により算出される、[段差の高さあたりの硬化膜表面平坦性]」が、「0.3以上4.6以下」であるのに対し、引用発明6では、そのように特定されていない点。
「[平坦性評価手順]
(1)基板として、高さ3〜4μm、幅100μmの、Cuにより形成された段差(凸状の部分)が、200μmピッチで設けられた、直径8インチのシリコンウェハを準備する。
(2)上記基板の段差がある面に、スピンコートにより前記ネガ型感光性樹脂組成物を塗布し、その後、大気中で100℃、6分乾燥させる。これにより基板上にネガ型感光性樹脂膜を形成する。後述するHB(凸状の段差が無い部分の硬化膜の厚み)が7.40〜7.73μmとなるように前記ネガ型感光性樹脂組成物の塗布厚みを調整する。
(3)上記(2)で形成された前記ネガ型感光性樹脂膜に対して、g線、i線、h線の混合光を用いて、800mJ/cm2の露光量で全面露光する。
(4)上記(3)の露光の後、窒素雰囲気下、170℃で120分の加熱処理により前記ネガ型感光性樹脂膜を硬化させる。
(5)上記で得られた硬化膜付きウェハを割り、その断面を拡大して撮影する。撮影された画像に基づき、
HA(凸状の段差の上にある硬化膜の厚みと、凸状の段差の高さとの合計)、
HB(凸状の段差が無い部分の硬化膜の厚み)、および、
HS(凸状の段差の高さ)を求める。
[段差の高さあたりの硬化膜表面平坦性]={|HA−HB|/HS}×100(単位:%)
により、平坦性を評価する。」

(4) 判断
ア 相違点4について
上記2(4)アに記載した理由と同様に、「表面に段差を有する基板の前記表面に塗布された後、加熱乾燥させて感光性樹脂膜を形成するのに用いられる」という発明特定事項は感光性樹脂組成物の構成を何ら特定するものではない。又は、「表面に段差を有する基板の前記表面に塗布された後、加熱乾燥させて感光性樹脂膜を形成するのに用いられる」という発明特定事項は当業者が適宜なし得たことである。
ここで、引用文献6(【0047】等)には、実施例6の感光性樹脂組成物をポジ型として用いることが記載されているが、引用発明6の構成からみて、引用発明6はネガ型の感光性樹脂としても利用可能なものと認められる(当合議体注:例えば、特開2014−75575号公報の【0004】、【0045】等に記載されているように、用いる現像液の種類によってポジ型としてもネガ型としても利用可能な感光性樹脂が知られている。引用発明6が含有する樹脂材料及び感光材(スルホニウム塩系光カチオン重合開始剤)からみて、ネガ型用現像液を利用することでネガ型の感光性樹脂組成物として機能すると認められる。)。
そうすると、相違点4に係る構成は実質的な相違点ではない。
また、仮にそうでないとしても、相違点4に係る構成は周知技術等に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点5について
上記2(4)ウに記載したものと同様の理由から、相違点5に係る構成は実質的な相違点ではないか、仮にそうでないとしても、[段差の高さあたりの硬化膜表面平坦性]」が、「0.3以上4.6以下」となる平坦性を有するものとすることは当業者であれば容易に想到し得たことである。

以上より、本願発明は、引用発明6とは相違しない。
あるいは、本願発明は、引用発明6に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 発明の効果について
本願発明の効果として、本件出願の明細書の【0014】には、「本発明によれば、他の樹脂組成物と組み合わせて用いなくても、単独で平坦な樹脂膜を形成することが可能であり、側面が垂直形状または順テーパー形状である貫通孔を形成できる樹脂膜を提供することが可能な、平坦化膜形成用の感光性樹脂組成物が提供される。」と記載されている。
しかしながら、上記効果は引用文献6が奏する効果又は引用文献6若しくは引用文献7及び周知技術等から推考される発明が奏する効果である。また、上記効果は、引用文献1([0175]等参照。)、引用文献4([0064]等。)の記載等に基づいて当業者が予測可能なものである。

5 審判請求人の令和3年10月29日提出の意見書の主張について
(1)引用文献7を主引用例とした場合について
審判請求人は、上記意見書の「4.4 引用文献7について」において、
「本発明は当該相違点により、樹脂膜に側面が垂直形状または順テーパー形状である貫通孔を形成できるという当業者の予測を超えた効果を奏します。以下、この点について詳述します。
引用文献7には、感光性樹脂フィルムを用いて感光性樹脂層を形成する場合、基板上に配置された半導体チップを埋め込むことができると記載されています(0068段落)。感光性樹脂フィルムを用いた場合、感光性樹脂層の厚膜化が容易に図られると記載されています(0067段落)。
また、引用文献7には、ワニス状の感光性樹脂組成物を用いて感光性樹脂層を形成する態様も記載されており、ワニス状の感光性樹脂組成物を用いた場合、感光性樹脂層の平坦化が容易に図られると記載されています(0076段落)。さらに、ワニス状の感光性樹脂組成物の塗布および乾燥を繰り返し行うことにより半導体チップが完全に埋め込まれるように、十分な厚さを確保することができるとも記載されています(0077段落)。しかしながら、引用文献7のワニスを用いた方法では、引用文献7の出願当時に求められていたレベルの平坦性を実現できるものの、側面が垂直形状または順テーパー形状である貫通孔を形成できる樹脂膜を提供できるような高度な平坦性を実現するには以下の問題がありました。
・・・中略・・・ワニス状の感光性樹脂組成物を複数回塗布して厚膜にした場合、厚膜部表面の下方にくぼむ量はさらに大きくなることから、硬化後の感光性樹脂層210の表面の凹凸はさらに顕著となります。
このように、溶剤の乾燥速度の違いおよび硬化収縮の違いにより、硬化後の感光性樹脂層210の表面は凹凸面となり、側面が垂直形状または順テーパー形状である貫通孔を形成できる樹脂膜を提供できるような高度な平坦性を実現することができません。
以上のように、引用文献7において、ワニス状の感光性樹脂組成物を用いた場合、大きな段差を埋めるとともに高度な平坦性を実現することは困難であり、本願請求項1に記載の平坦性パラメータを満たさないものでした。
引用文献7は本件出願人の出願であり、ワニス状の感光性樹脂組成物を用いた場合におけるこのような知見から本発明を完成させたのです。そして、補正後の請求項1においては、本発明の高度な平坦性を明確にするため上記の平坦化パラメータを追加しています。
(3)本発明の効果について
・・・中略・・・
そして、このような組成の樹脂組成物を用い、かつ平坦性パラメータを満たすことにより、実施例に示されるように、側面が垂直形状または順テーパー形状である貫通孔を形成できる樹脂膜を提供することができるという当業者の予測を超えた効果を奏します。」と主張している(以下「主張1」という。)。

上記主張1について検討する。
本件出願の明細書の【0075】の記載を参酌すると、本願発明は、有機溶剤としての「PGMEA」を用いて、感光性樹脂組成物の粘度が約100mPa・sとなるように調整したものである。他方、引用文献7の[0122]を参照すると、エポキシ樹脂である「EOCN−1020」及びフェノキシ樹脂である「YP−70」等の材料を、感光性樹脂組成物の粘度が「30〜400mPa・s」となるような含有量で「PGMEA」に溶解させることが記載されており、このような粘度範囲の感光性樹脂組成物について、引用文献7では「ワニス状」と称していることが理解できる。すると、本願発明と引用発明7はともに、同じ有機溶剤を利用して同程度の粘度となるように調整される感光性樹脂組成物であることが理解できる。
審判請求人は、樹脂組成物が「ワニス状」であるか否かで本願発明と引用発明7が相違する旨主張しているが、「ワニス状」であるか否かで具体的に両者の何が相違し、「ワニス状の感光性樹脂組成物を用いた場合、大きな段差を埋めるとともに高度な平坦性を実現することは困難」と主張しているのか不明であるといえ、さらに、少なくとも粘度に関しては、本願発明は上記の粘度範囲とされる「ワニス状」のものを必ずしも排除しないものであるから、当該主張1は本願発明の備える構成に基づく主張とはいえない。
また、「平坦化パラメータ」に関して、上記2(4)ウに記載したとおり、引用発明7と引用文献4に記載された発明に基づきつつ、当業者における通常の調整の範囲で「[段差の高さあたりの硬化膜表面平坦性]」は、「4.6以下」を達成できたと認められる。さらに、本願発明の効果については、上記4に記載したとおりである。
したがって、上記主張1は、採用することができない。

(2)引用文献6を主引用例とした場合について
審判請求人は、上記意見書の「4.3 引用文献6について」において、
「 引用文献6に係る発明は、ポジ型感光性樹脂組成物に関するものです。当該文献の請求項1に記載のように、「ポジ型」の感光性樹脂組成物であることが必須の要件となっています。これに対し、本願の請求項1に係る発明は、「ネガ型」感光性樹脂組成物に関するものです。
引用文献6の課題は、0006段落に記載のように新規のポジ型の感光性樹脂組成物を提供することを前提とするものであり、当然のことながら同文献にはネジ型感光性樹脂組成物を用いた実験例は示されておらず、明細書全体を見ても、ネジ型感光性樹脂組成物にまで拡張できることは示唆されておりません。このように、引用文献6の具体的開示はポジ型感光性樹脂組成物にとどまるものです。
したがって、引用文献6に記載の発明において、「ポジ型」の感光性樹脂組成物を「ネジ型」に変更することは、同文献に記載された発明の特徴的部分を損なうものであり、引用文献6の教示に反することです。したがって、引用文献6において「ポジ型」感光性樹脂組成物を「ネジ型の感光性樹脂組成物とすることは、当業者は通常考えないことです。
このように、本発明に係る請求項1は、引用文献6に対して新規性および進歩性を有していると思料いたします。さらに、請求項1に従属または引用する請求項2〜10についても新規性および進歩性を有していると思料いたします。」と主張している(以下「主張2」という。)。
上記主張2について検討する。
上記3(4)アに記載したとおり、引用文献6に記載される発明は「ネガ型」の感光性樹脂組成物として利用できるものと認められる。
したがって、上記主張2は、採用することができない。


第3 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-01-28 
結審通知日 2022-02-01 
審決日 2022-02-21 
出願番号 P2020-548841
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (G03F)
P 1 8・ 121- WZ (G03F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 関根 洋之
下村 一石
発明の名称 平坦化膜形成用のネガ型感光性樹脂組成物、電子デバイスの製造方法および電子デバイス  
代理人 速水 進治  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ