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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1385904
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-30 
確定日 2022-06-27 
事件の表示 特願2016−227721「電子部品の製造方法及び電子部品」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月31日出願公開,特開2018− 85437〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年11月24日の出願であって,その後の手続の概要は以下のとおりである。
令和2年7月15日付け:拒絶理由通知
令和2年9月15日 :手続補正書,意見書
令和2年12月8日付け:拒絶理由通知
令和3年1月19日 :手続補正書,意見書
令和3年3月30日付け:拒絶査定
令和3年6月30日 :審判請求書,補正書

第2 令和3年6月30日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年6月30日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の概要
令和3年6月30日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲についてするものであって,請求項6に係る発明については,
本件補正前に
「【請求項6】
SiO2を主成分とするガラス系絶縁体材料からなる部品素体と,
前記部品素体の表面の一部を還元することにより形成された還元部と,
前記還元部上に形成されためっき電極と,を有し,
前記還元部では,SiO2の一部がSi2O3及び/又はSiOへ還元されている,電子部品。」
とあったところを(以下,「本願発明」という。),

「【請求項6】
SiO2を主成分とするガラス系絶縁体材料からなる部品素体と,
前記部品素体の表面の一部を還元することにより形成された還元部と,
前記還元部上に形成されためっき電極と,を有し,
前記還元部では,XPS分析における光電子強度のピーク位置がSi2O3とSiOとの間に現れるように,SiO2の一部がSi2O3及び/又はSiOへ還元されている,電子部品。」
とする補正を含むものである(以下,「本件補正発明」という)。なお,下線は補正箇所を示す。

2 補正の適否
(1)新規事項の有無,シフト補正の有無,補正の目的要件
前記「1」の補正により付加された「XPS分析における光電子強度のピーク位置がSi2O3とSiOとの間に現れるように,」との事項について,本願出願時の明細書の段落【0033】には「図6は,レーザ照射前と照射後のXPSによる分析結果を示す。」と記載されている。そして,本願出願時の図6を参照すると,「照射後」の光電子強度のピーク位置がSi2O3とSiOとの間に現れていることが見て取れる。よって,前記「1」の補正は,新規事項を追加するものではないから,特許法第17条の2第3項に違反するところはない。
また,前記「1」の補正は,特許法第17条の2第4項(シフト補正)に違反するところはない。
そして,前記「1」の補正は,本件補正前の請求項6に記載された発明を特定するために必要な事項である「SiO2の一部がSi2O3及び/又はSiOへ還元されている」ことについて,「XPS分析における光電子強度のピーク位置がSi2O3とSiOとの間に現れるように」との限定を付加するものであって,本件補正前の請求項6に記載された発明と本件補正後の請求項6に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

(2)独立特許要件について
以上のとおり,請求項6に係る補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,本件補正発明が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか,すなわち特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて,以下検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は,前記「1」に記載したとおりのものである。

イ 引用文献1,引用発明
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された特開平1−134988号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面と共に以下の事項が記載されている。なお,下線は当審で付与した。
a「2.特許請求の範囲
(1)ガラス又はガラス−セラミック基体の表面上に選択された遷移金属の所望の金属性パターンを製造する方法において,
(a)該選択された遷移金属の酸化物を含有し,熱的影響を受けた場合に該ガラスの表面に該選択された遷移金属を滲出することができる組成のガラス基体を設け,次いで,
(b)該ガラス基体の表面に,該選択された遷移金属に所望のパターンの形で,局在化した熱を該基体の表面に発現するように,強力で,焦点に集束されたエネルギー源を付与し,これにより該所望の金属パターンの形で該ガラス基体の表面に該選択された遷移金属の滲出を起こさせることを特徴とする方法。
(2)該遷移金属が銅,コバルト及び鉄から成る群より選ばれたものである請求項1記載の方法。
(3)該ガラスが硼珪酸塩又はアルミノ珪酸塩である請求項1記載の方法。
(4)ガラス組成物中の該選択された遷移金属の酸化物の量が1〜20重量%である請求項1記載の方法。
(5)該エネルギー源がレーザビームであり,ガラスが更にレーザビームの光学的エネルギーの吸収剤を含有する請求項1記載の方法。
(6)該エネルギー源がアルゴンレーザであり,該吸収剤が酸化鉄である請求項5記載の方法。
(7)酸化鉄の含量が1〜5%である請求項6記載の方法。
(8)該エネルギー源がCO2レーザであり,該吸収剤が光学エネルギーを吸収する珪酸ガラスである請求項5記載の方法。
(9)該遷移金属が酸素の存在下に滲出し,実質的に酸化されない状態で保持される請求項1記載の方法。
(10)表面上に滲出した遷移金属のパターンを有するガラス基体がガラスからガラス−セラミックに変換するように加熱される請求項1記載の方法。
(11)該ガラス基体の少なくとも,エネルギー源を加えることにより該遷移金属のパターンが形成される部分が該エネルギー源を加える前に有機炭素質物質で被覆されている請求項1記載の方法。
(12)該有機炭素質物質がテープ,プラスチックフィルム,接着剤及びトウモロコシ油から成る群より選ばれたものである請求項11記載の方法。
(13)該エネルギー源が有機炭素質物質を通して加えられる請求項1記載の方法。
(14)該滲出した金属が少なくとも一部に酸化物として存在し,該パターンが金属に対する酸化物を減ずるように減圧下で行なわれる請求項1記載の方法。
(15)該減圧雰囲気が水素を含有する請求項1記載の方法。
(16)該基体ガラスが硼珪酸塩であり,該局在化した加熱が真空中において行なわれる請求項1記載の方法。
(17)金属パターンを有する該基体がパターンに電気導電性を付与又は増大するために無電解メッキ又は電解メッキを施される請求項1記載の方法。
(18)該金属が銅である請求項17記載の方法。
(19)表面上に熱的に描かれたパターンの滲出性遷移金属を有するガラス又はガラス−セラミック基体から成ることを特徴とする製品化された物質。
(20)酸化物基準の重量%でSiO256〜64%;B2O318〜25%;Al2O33〜11%;CaO0〜2%;Li2O0〜2%;K2O0〜1%;Li2O+K2O+CaOの総量が1.5〜3%であり,及びCuO1〜20%;Fe2O30〜5%から実質的に成り,300℃において30〜35×10−7の熱膨張係数を有し,誘電率が100kHzにおいて5.0を超えず,誘電正接が100kHzにおいて0.003を超えないものであることを特徴とする低誘電率の銅−滲出性硼アルミノ珪酸ガラス類縁物。
(21)CuOの含量が10%を超えない請求項20記載のガラス類縁物。
(22)シリコン素子並びに酸化物基準の重量%でSiO256〜64%;B2O318〜25%;Al2O33〜11%;CaO0〜2%;Li2O0〜2%;K2O0〜1%;Li2O+K2O+CaOの総量が1.5〜3%であり,及びCuO1〜20%;Fe2O30〜5%から実質的に成り,300℃において30〜35×10−7の熱膨張係数を有し,誘電率が100kHzにおいて5.0を超えず,誘電正接が100kHzにおいて0.003を超えないものである低誘電率の銅−滲出性硼アルミノ珪酸ガラスから形成される素子用基体から成るものであることを特徴とする電子装置。」(第1頁左下欄第5行ないし第2頁左下欄第10行)

b「3.発明の詳細な説明
(産業上の利用分野)
本発明はその表面に遷移金属のパターンを有するガラス又はガラス−セラミック基体,及び基体から金属が熱的に滲出することによりそのようなパターンを形成する方法並びに銅滲出性硼アルミノ珪酸ガラスに関するものである。細い線から成るパターンは微小回路の分野,並びに精確なグリッド及び計測用目盛り等のような細い線を精確に配置することが要求される他の用途への応用が見出されている。
(従来の技術)
電子装置における最近の傾向は一般に,特に微小回路において,装置の大きさは減少又は小型化する傾向にあり,従って,基体表面は密度が高くなっている。このことは,より小さい表面にできるだけ多くの相互に連結するための導線を形成することが要求される。従って,均一な連続性を有し,且つ,精確で空間的に分離している極めて狭い相互連結がこの明らかな要求である。
又,集積回路のシリコンチップ用基体として機能し,且つ,熱処理により銅を滲出可能な熱膨張係数を有するガラスに対する要求がある。
ケイ素が300℃において約32×10−7の熱膨張係数を有することは公知である。従って,ケイ素と適合するガラスは約30〜35の係数を有していなければならない。更に,ガラスは,高周波回路の製造に使用されうる特別の性質を有していなければならない。それらの性質には,重要な周波数領域において測定した誘電率が5.0を超えず,誘電正接が0.003を超えないものであること等が挙げられる。最後に,ガラス基体上の選択された部分に接点,相互連結点等として機能する導電性の金属パターンを形成できることが望ましい。細い金属線が望ましく,幅が50ミクロン未満であることが好ましい。」(第2頁右下欄第1行ないし第3頁左上欄第16行)

c「(発明の好ましい態様)
本発明は,遷移金属がガラス基体の所定の位置上に,非常に精確に制御された方法で熱的に所定の位置に励起されることにより,選択的に滲出可能であるという知見に一部基づいている。従って,非常に精緻な金属線が,金属を熱的に滲出可能なガラスの表面上に描くことができる。金属はある場合には直接,即ち,金属として使用してもよい。又,それは全体的に或いは一部のみ酸化物として使用してもよい。その場合には,金属への還元をしなければならない。」(第4頁右上欄第9ないし19行)

d「更に,酸化物のパターンよりも金属パターンの開発は,むしろ簡単な手段によって保証されるであろうことが見出されている。このことは,熱的な書き込みに先立って,有機炭素質物質フィルムをガラス基体上に塗布するか,或いは少なくとも書き込まれるべき部分にすべきであることを含んでいる。如何なる形のフィルム及び塗料も使用することができる。従って,例えば,セロファンテープ,接着剤,トウモロコシ油,紙テープ及びプラスチックフィルム等が順次塗布される。
炭素質有機物の分解が,焦点に集められたエネルギーの供給により還元性環境を与えることは我々の信念である。このことは,酸素又は酸化物の形で滲出するか,又は酸化物を金属に還元する。」(第4頁右下欄第10行ないし第5頁左上欄第3行)

e「最後に,厚い金属線を通常の電気メッキにより最初の滲出線上に設けてもよい。最初の滲出線が導電性ではない場合,有機フィルムにおいて現像したように,必要に応じて無電解又は通常のメッキ(蒸着)工程の何れかにより導電性が増大される。この方法によるメッキは,一般に,本発明によって熱的に描かれたパターンによって与えられるような金属部位に好ましく行なわれる。」(第6頁左上欄第16行ないし第6頁右上欄第3行)

f「本発明の一つの実施態様において,銅滲出性リチウムアルミノ珪酸ガラスを使用した。ガラスの組成は酸化物基準で重量%で計算すると,以下のとおりである。
SiO2 ……… 52.6
Al2O3 ……… 28.0
Li2O ……… 1.8
CuO ……… 13.6
Fe2O3 ……… 4.0
ガラス溶融物から注形した平らなスラブを徐冷し,研摩し,そして艶出しした。艶出しした試料は,約75ミクロン(3ミル)の幅のアルゴンレーザビーム(514nm)に曝した。ビームは1ワットの出力を有しており,プレートを10cm/secの速度で走査した。
約75ミクロン(3ミル)の幅を有する輝いた銅線が,ガラスをレーザビームで照射したように,ガラス表面上に現像すべきものとして観測された。試料は,次いで,微小探針により線の幅の分析を行なった。それぞれの分析で観測された銅の量は,原子%で,ミクロンを用いたパターン幅に対して作表した。
先に記載したように,少量の鉄が銅と共に滲出する。もし必要ならば,このことはガラスからFe2O3を除去し,他のエネルギー源を使用することにより避けることができる。
図中の第1図は微小探針のデータをグラフに表わしたものである。銅の含有量は,縦軸に沿って原子%でプロットした。分析を行なった横方向の距離はミクロンを用いて横軸にプロットした。
表に描かれたものは二つの銅のピークを示しており,従って,実質的に,それぞれ15〜20ミクロン(0.6〜0.8ミル)の幅の二本の線であることが観察された。ビームの幅の75ミクロン(3ミル)を越える銅濃度の著しい変動は,突き当たったレーザビームの出力分布及び焦点に集中していないことを表わしている。この結果は,銅線の幅がガラスの特性ではなく,レーザの解像力に制約されることを示唆している。
微小探針による試料の解像力は約2ミクロン(0.08ミル)であるが,形成された銅線は深さが1ミクロン(0.04ミル)未満であることに注意したい。このため,測定部位はCuとOの両者が見出されるガラスの表面層である。最初の銅層においては,微小探針分析により垂直方向には酸素が検出されなかった。
図の第2図は,縦軸に酸素を原子%でプロットした以外は第1図と同様である。かくして,第1図とは反対のデータ及び表示になると考えられる。又,それは確認になると考えられる。
更に他の実施態様のために,同様のガラスが同一のアルゴンレーザを用いて,種々のレーザ書き込み条件で行なった。採用した種々の条件及び線を追跡した特性の結果を第1表に示す。ここで,Pはワットで示したレーザ出力,Rはcm/秒(cm/s)当たりのビームの移動距離,Eは出力/移動距離で表わしたジュール/センチメータ当たりの吸収エネルギー,Wは63倍の光学顕微鏡で測定したミクロン表示による線幅,fはガラス微小探針の銅に対する表面の銅の比,Cu/Oは微小探針分析により表わされた,同一の点における酸素量に対する最大銅量のモル比,をそれぞれ表わす。

最初の3本の線における移動距離とエネルギー値の変動は,出力水準が,ビームの移動をどのように遅くするかに関係なく,銅の滲出を生ぜしめるには不適当であったことを示している。残りのデータは出力と速度を変えた場合の効果を示している。」(第7頁左上欄第12行ないし第8頁右上欄第6行)

(イ)よって,前記記載事項から以下のことがいえる。
a 前記「(ア)c」によれば,「遷移金属がガラス基体の所定の位置上に」「熱的に」「励起されることにより」「滲出可能であ」り,「金属線」を「ガラスの表面上に描く」ものである。してみると,「ガラス基体」は,「ガラスの表面上に」,「熱的に」「励起されることにより」「滲出」した「遷移金属」の「金属線」を有するものといえるから,前記「(ア)a」の「(19)」に記載されたとおり,「表面上に熱的に描かれたパターンの滲出性遷移金属を有するガラス」「基体」が記載されている。
また,前記「(ア)f」によれば,「ガラスの表面上」に観測されるのは「銅線」である。してみると,「銅」は遷移金属であるから,前記「(ア)a」の「(19)」に記載されたとおり,「表面上に熱的に描かれたパターンの滲出性遷移金属」が記載されている。
以上の点より,引用文献1には「表面上に」「描かれた」「滲出性」の「銅線」を有する「ガラス」「基体」が記載されている。

b 前記「(ア)e」によれば,「金属線を通常の電気メッキにより」「滲出線上に設け」るものである。
ここで,「滲出線」とは,前記「a」の「滲出性」の「銅線」と認められる。
よって,引用文献1には,「銅線」上に設けた「金属線」であって,「金属線」が「電気メッキにより」設けられるものが記載されている。

c 前記「(ア)c」によれば,「ガラス」は「集積回路」の「基体」として機能するものである。
してみると,「集積回路」は,「ガラス」「基体」と,「ガラス」「基体」の「表面上に」「描かれた」「銅線」と(前記「a」を参照),「銅線」上に設けた「金属線」と(前記「b」を参照),を有するものといえる。

d 前記「(ア)f」によれば,「一つの実施態様」において,「ガラスの組成は酸化物基準で重量%で」,「SiO2」が「52.6」,「Al2O3」が「28.0」,「Li2O」が「1.8」,「CuO」が「13.6」,「Fe2O3」が「4.0」である。

e 前記「(ア)f」によれば,「銅線」は,「ガラス」を「レーザビームに曝した」ことにより「ガラス表面上に」観測されるものであるから,前記「a」を踏まえると,「ガラス基体」を「レーザビームに曝した」ことにより「描かれた」ものといえる。

f 前記「(ア)a」の「(11)」及び「(ア)d」によれば,「ガラス基体」が「エネルギー源を加える前に有機炭素質物質で被覆され」るものであって,「有機炭素質物質フィルムをガラス基体上に塗布する」ことによって為されるものである。
ここで,前記「(ア)a」の「(5)」に記載されたとおり,「エネルギー源」は「レーザビーム」であるから,「エネルギー源を加える」ことは,前記「e」の「レーザビームに曝した」ことと同じ意味と認められる。
以上の点より,引用文献1には,「ガラス基体」が「レーザビームに曝」す前に「有機炭素質物質で被覆され」ることが記載されている。

g 前記「(ア)d」によれば,「有機炭素質物質」は,「焦点に集められたエネルギーの供給により還元性環境を与え」,「酸化物を金属に還元する」ためのものである。
ここで,前記「(ア)a」の「(5)」に記載されたとおり,「エネルギー源」は「レーザビーム」であるから,「焦点に集められたエネルギーの供給」は,前記「e」の「レーザビーム」により為されるものと認められる。
以上の点より,引用文献1には,「有機炭素質物質」は「レーザビーム」により「還元性環境を与え,酸化物を金属に還元するものであ」るものが記載されている。

h 前記「(ア)f」によれば,「一つの実施態様」は,「アルゴンレーザビーム(514nm)」である。ここで技術常識を鑑みれば,「514nm」とは「アルゴンレーザビーム」の波長と認められる。

i そして,前記「(ア)f」によれば,「他の実施態様」は「一つの実施態様」と「同様のガラス」及び「同一のアルゴンレーザ」を用いて行なったものであるから,前記「d」のガラスの組成及び前記「h」の「レーザビーム」が「他の実施態様」において適用されるものである。

j 前記「(ア)f」によれば,「他の実施態様」は,「種々のレーザ書き込み条件で行な」い,「採用した種々の条件」を第1表に示」し,「Pはワットで示したレーザ出力」,「Rはcm/秒(cm/s)当たりのビームの移動距離」をそれぞれ表わすところ,第1表には「P(W)」が「1.00」,「R(cm/s)」が「5.00」であるものが記載されている。
なお,「Rはcm/秒(cm/s)当たりのビームの移動距離」は,「cm/s」が速度の単位であること,並びに,前記「(ア)f」の「Pはワットで示したレーザ出力」及び「ビームは1ワットの出力を有しており,プレートを10cm/secの速度で走査した。」との記載から,「Rはcm/秒(cm/s)で示したビームの移動速度」の誤記と認められる。

(ウ)したがって,引用文献1には,「他の実施態様」に着目すると,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ガラス基体と,
前記ガラス基体の表面上に描かれた滲出性の銅線と,
前記銅線上に設けた金属線と,
を有する集積回路であって,
前記ガラス基体の組成は酸化物基準で重量%で,SiO2が52.6,Al2O3が28.0,Li2Oが1.8,CuOが13.6,Fe2O3が4.0であり,
前記銅線は,レーザビームに曝す前に有機炭素質物質で被覆されたガラス基体をレーザビームに曝したことにより描かれたものであり,
前記有機炭素質物質は,レーザビームにより還元性環境を与え,酸化物を金属に還元するためのものであり,
前記レーザビームは,波長が514nmであり,ワットで示したレーザ出力が1.00であり,cm/sで示したビームの移動速度が5.00であり,
前記金属線は,電気メッキにより設けられる,
集積回路。」

ウ 対比・判断
(ア)本願発明と引用発明との対比
a 引用発明の「ガラス」は,「組成」全体で100重量%のうち「SiO2が52.6」と過半数を占めるとともに,「ガラス」である点より絶縁体であることは明らかであるから,本件補正発明の「SiO2を主成分とするガラス系絶縁体材料」に相当する。

b 引用発明の「ガラス基体」は,「集積回路」が有する「基体」であるから,本件補正発明の「部品素体」に相当する。

c 引用発明の「前記ガラス基体の表面上に描かれた滲出性の銅線」は,「有機炭素質物質は,レーザビームにより還元性環境を与え,酸化物を金属に還元するものであ」ることから,「ガラス基体」の酸化物である「CuO」が金属であるCu(銅)へ還元されているものと認められる。
よって,引用発明の「前記ガラス基体の表面上に描かれた滲出性の銅線」は,本件補正発明の「前記部品素体の表面の一部を還元することにより形成された還元部」に相当する。

d 本件補正発明の「電極」は,本願明細書の段落【0017】によれば,「配線電極」であってもよいものである。それに対して,引用発明の「金属線」は,「集積回路」が有するものであるから,配線といえる。したがって,両者は「配線」である点で共通する。
よって,引用発明の「前記銅線上に設けた金属線」であって「前記金属線は,電気メッキにより設けられる」ことは,本件補正発明の「前記還元部上に形成されためっき電極」することに相当する。

e 以上の点より,引用発明の「集積回路」は,本件補正発明の「部品素体」,「還元部」,及び「めっき電極」に相当する構成を有するから,本件補正発明の「電子部品」に相当する。
但し,「還元部」において,本件補正発明は「XPS分析における光電子強度のピーク位置がSi2O3とSiOとの間に現れるように,SiO2の一部がSi2O3及び/又はSiOへ還元されている」のに対して,引用発明は,前記「c」のとおり,CuOがCuへ還元されている点で相違する。

(イ)一致点・相違点
したがって,本件補正発明と引用発明とは,
「SiO2を主成分とするガラス系絶縁体材料からなる部品素体と,前記部品素体の表面の一部を還元することにより形成された還元部と,前記還元部上に形成されためっき電極と,を有する,電子部品」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
本件補正発明は「前記還元部では,XPS分析における光電子強度のピーク位置がSi2O3とSiOとの間に現れるように,SiO2の一部がSi2O3及び/又はSiOへ還元されている」のに対して,引用発明はCuOがCuへ還元されている点。

(ウ)相違点の検討
a 本件補正発明の「前記還元部では,XPS分析における光電子強度のピーク位置がSi2O3とSiOとの間に現れるように,SiO2の一部がSi2O3及び/又はSiOへ還元されている」ことは,令和3年6月30日の審判請求書によれば,本願明細書の段落【0033】及び図6を根拠としている。そこで段落【0033】を参照すると,「添加剤(Fe2O3)を塗布すると,添加剤がレーザを吸収してSiO2へ伝熱し,これによりSiO2の還元反応が促進されたと推測することができる。Fe2O3以外の添加剤(C,TiO2,Al2O3,ZnO,CuO)でも同様な効果を発揮できた。」と記載されている。
また,本願明細書の段落【0025】を参照すると,「シリカガラス系絶縁体材料(主成分はSiO2)で構成された部品素体10を準備し,部品素体10の底面10c上に添加剤40を全面に付与する。」と記載されている。そして,段落【0026】を参照すると,「添加剤40が付与された部品素体10の上方から,電極形成領域S1,S2にレーザ発生装置41によりレーザLを均一に照射する。」と記載されている。
また,本願明細書の段落【0013】を参照すると,「使用するレーザとしては,添加剤(還元剤)の吸収率が高く,ガラス系材料が還元できる温度以上に加熱できる出力を備えたレーザが好ましい。例えば,YVO4レーザ,YAGレーザなどを使用できる。波長の範囲としては,193nm〜10600nmの範囲が望ましい。出力の範囲は数W程度までの範囲がよい。」と記載されている。
また,本願明細書の段落【0030】を参照すると,「レーザはYVO4レーザ(波長1064nm)を使用し,表1に示す条件で照射した。」と記載されている。そして【表1】を参照すると,「加工速度」が「50mm/s」と記載されている。
つまり,相違点1に係る構成は,「主成分はSiO2」である「シリカガラス系絶縁体材料」で構成された「部品素体」の表面に「添加剤(Fe2O3)」又は「Fe2O3以外の添加剤(C,TiO2,Al2O3,ZnO,CuO)」を塗布し,「波長の範囲としては,193nm〜10600nm」であり,「出力の範囲は数W程度までの範囲」であり,「加工速度」は「50mm/s」であるレーザを照射することにより為し得たものである。

b これに対して,引用発明は,「ガラスの組成は,酸化物基準で重量%でSiO2が52.6」であり,「レーザビームに曝す前に有機炭素質物質で被覆されたガラス基体をレーザビームに曝した」ものであり,「レーザビームは,波長が514nmであり,ワットで示したレーザ出力が1.00であり,cm/sで示した移動速度が5.00である」ものである。

c してみると,両者は「主成分はSiO2」である「ガラス」の表面にC(炭素)を付与し,波長が514nmを含み,出力が1Wを含み,速度が50mm/s(5.00cm/s)を含むレーザを照射する点において共通する。
したがって,引用発明は,「ガラス基体の表面に焦点に集束されたエネルギー源を付与」する際に,「基体」の表面に付与した「炭素」がレーザを吸収して「基体」の「SiO2」へ伝熱して酸化物である「SiO2」が還元される程度が,本件補正発明と同程度と認められるから,前記相違点に係る構成を有している蓋然性が高い。
以上の点より,前記相違点は実質的な相違ではない。

エ 小括
以上のとおり,本件補正発明は,引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記「第2」のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし6に係る発明は,令和3年1月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されたものであるところ,請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記「第2」の[理由]の「1」において,本願発明として記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち,請求項6については以下のとおりのものである。
(1)(新規性)この出願の請求項6に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
(2)(進歩性)この出願の請求項6に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1.特開平1−134988号公報

3 引用文献1,引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1は,前記「第2」の[理由]の「2(2)イ」で挙げた引用文献1である。
そして,引用文献1に記載された事項は,前記「第2」の[理由]の「2(2)イ(ア)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記「第2」の[理由]の「2(2)」で検討した本件補正発明から,「XPS分析における光電子強度のピーク位置がSi2O3とSiOとの間に現れるように,」という限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記「第2」の[理由]の「2(2)
」で判断したとおり,引用文献1に記載された発明であるから,本願発明も引用文献1に記載された発明である。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項6に係る発明は,引用文献1に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,特許庁長官を被告として,提起することができます。
 
審理終結日 2022-04-15 
結審通知日 2022-04-19 
審決日 2022-05-12 
出願番号 P2016-227721
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01G)
P 1 8・ 575- Z (H01G)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 木下 直哉
山本 章裕
発明の名称 電子部品の製造方法及び電子部品  
代理人 筒井 秀隆  
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