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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H04L
管理番号 1385919
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-06 
確定日 2022-06-28 
事件の表示 特願2017− 23673「通信装置、通信方法及び通信プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月16日出願公開、特開2018−129776、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年2月10日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 元年 7月 1日 :手続補正書の提出
令和 2年 8月21日付け:拒絶理由通知書
令和 2年10月20日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 3月29日付け:拒絶査定
令和 3年 7月 6日 :拒絶査定不服審判の請求、手続補正書の提

令和 4年 2月 9日付け:令和3年7月6日に提出された手続補正書
に係る補正の却下の決定、拒絶理由(当審
拒絶理由)通知書
令和 4年 4月12日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和3年3月29日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。

1 理由A(進歩性
この出願の請求項1〜6に係る発明は、以下の引用文献Aに記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献A:特開2007−142764号公報

2 理由B(実施可能要件)、理由C(明確性
実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
請求項3に「前記割振部と前記応答部とにおいて、又は、前記応答部とそれ以外の前記応答部とにおいて、前記特定処理又は前記応答処理が割振られたか否かの通知と、割振られた識別子の通知と、処理負荷の通知と、休止、起動、追加若しくは削除の指示と、削除されたリソースを開放するための通知と、リソースを確保するための通知とのうちの少なくとも一つを入力又は出力するためのインタフェース」と記載されており、「・・・前記割振部と前記応答部とは、前記応答処理が割振られたか否かの通知が入力された場合に、割振られた識別子に対応付けられた前記応答部の削除されたリソースを開放するための通知に基づいて必要なリソースを開放し、前記リソースを確保するための通知に基づいて必要なリソースを確保する、・・・」が追加されたが、「割振られた識別子の通知」、「処理負荷の通知」が、「割振部と前記応答部」または「記応答部とそれ以外の前記応答部」において如何に用いられているか不明である。
また、「休止、起動、追加若しくは削除の指示と、」が、「割振部と前記応答部」または「記応答部とそれ以外の前記応答部」において如何に用いられているか不明である。

第3 当審拒絶理由の概要
当審が令和4年2月9日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。

1 理由1(明確性
この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
請求項1の「所定の条件を満たす場合」との記載が、「実行」の条件として技術的にどのようなことを限定しているのか不明である。
請求項1を引用する請求項2に記載されている「処理負荷」が、「所定の条件を満たす場合」に(将来的に)実行することになる「応答処理」の「負荷」であるのか、あるいは、上記時点において実行中の、「応答処理」とは異なる「処理」の「負荷」であるのか、いずれか不明である。
請求項1と同様の記載がある請求項5の記載も、同様に不明である。

2 理由2(サポート要件)
この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
請求項1に係る発明が、発明の解決しようとする何らかの課題を解決することができるとしても、どのような課題を、何故、解決することが可能であるのか、不明であるため、請求項1の記載に、発明の解決しようとする課題の解決手段が反映されていると認めることはできない。
したがって、請求項1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものとはいえず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
請求項5についても同様である。

3 理由3(新規性)、理由4(進歩性
新規性)この出願の請求項1,5,6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
進歩性)この出願の請求項1,4〜6に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2015−46676号公報
(当審注: 理由1,2に起因して、請求項2,3は、理由3,4の検討の対象としなかった。)

第4 本願発明
本願請求項1〜6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明6」という。)は、令和4年4月12日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定されるものであり、本願発明1,5は以下のとおりの発明である(下線は補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
複数の他通信装置との通信を実行する複数の応答部と割振部とを備える通信装置であって、
前記割振部は、新たな応答処理を、少なくとも一つの前記応答部に割振り、
前記応答処理が割振られた前記応答部は、所定の条件を満たす場合、前記応答処理を実行し、前記所定の条件を満たさない場合には、前記応答処理を引き受けないことを前記割振部に通知し、
前記所定の条件は、割振られた前記応答部において実行中の処理の負荷が所定値よりも低いという条件である、
通信装置。」

「【請求項5】
複数の他通信装置との通信を実行する複数の応答部と割振部とを備える通信装置が実行する通信方法であって、
前記割振部が、新たな応答処理を、少なくとも一つの前記応答部に割振るステップと、
前記応答処理が割振られた前記応答部が、所定の条件を満たす場合、前記応答処理を実行し、前記所定の条件を満たさない場合には、前記応答処理を引き受けないことを前記割振部に通知するステップと、
を含み、
前記所定の条件は、割振られた前記応答部において実行中の処理の負荷が所定値よりも低いという条件である、通信方法。」

なお、本願発明2〜4,6は、本願発明1を減縮した発明である。

第5 当審拒絶理由の理由1(明確性)及び理由2(サポート要件)について
令和4年4月12日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、「所定の条件」が、「割振られた前記応答部において実行中の処理の負荷が所定値よりも低い」こと、及び、「処理負荷」が、「割振られた前記応答部において実行中の処理の負荷」であることが記載されていることから、「所定の条件」及び「処理負荷」のそれぞれの内容が明確に記載されているといえる。
また、上記「所定の条件」を「満たさない場合には、前記応答処理を引き受けない」ことにより、発明の詳細な説明の段落【0007】に記載されている「応答処理等の演算能力が不足しないようにすること」及び段落【0024】に記載されている「処理負荷の平準化」の、少なくとも一方を可能とすべき課題が解決できるものと理解できる。
そして、これらのことは、請求項5についても同様である。
したがって、当審拒絶理由の理由1(明確性)及び理由2(サポート要件)(上記第3の1、同2)はいずれも解消した。

第6 引用文献の記載、引用発明
1 引用文献1(特開2015−46676号公報)
(1)当審拒絶理由にて引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。

「【0039】
本発明に係る光加入者システムは、複数のONU92と単一のOLT91とをPONトポロジで接続した構成を有する。OLT91が各ONU92の波長を決定し、各ONU92がOLT91から指示された波長を用いてOLT91と通信を行う。OLT91は、本発明に係る光通信装置として機能する。
【0040】
本発明に係る光通信装置は、動的波長帯域割当回路13が通信量測定部、スリープ波長決定部、波長切替部及び輻輳処理部と、を備える。本発明に係る動的波長割当方法は、動的波長帯域割当回路13が、通信量測定手順と、スリープ波長決定手順と、波長切替手順と、スリープ手順と、を順に実行する。スリープ波長決定手順又は波長切替手順と並行して、輻輳処理手順を実行してもよい。スリープ波長決定部、波長切替部及び輻輳処理部は、DWBA計算部132に備わる。通信量測定部は、OSU11又は多重分離部12に備わる。」

「【0058】
(実施形態2)
本発明の第2の実施形態は、上り又は下りトラフィック量をOSU11毎にモニタしており、空き帯域があればOSU11に割り当てられているONU92をすべて割り当て変更させ、移行元OSU11は電源を遮断またはスリープ状態へ移行する。
【0059】
次に本実施形態の動作を説明する。
図5及び図6に本発明の第2の実施形態におけるOSU11の増減設の動作を示す。本実施形態においては、OLT91は3台のOSU11を搭載し、OSU#1、#2、#3はλ1d、λ2d、λ3dの波長を用いることが可能で、それぞれの波長は下り40Gbit/sのTDM−PONである。ONU92は5台接続されており、省電力動作実施前のOSU11の割当は、OSU#1にONU#1、#2、OSU#2にONU#3、OSU#3にONU#4、#5が割り当てられているとする。この場合、使用波長数は3である。ONU#1、#2、#3、#4の下り利用帯域は10Gbit/s、ONU#5の下り利用帯域は20Gbit/sである。以上の状況を図5に示す。
【0060】
OLT91のDWBA計算部132または各OSU11は、各OSU11から多重分離部12へ転送される上り信号の利用帯域を、多重分離部12または各OSU11は各OSU11への下り信号の利用帯域を測定しており、動的波長帯域割当回路13がOSU増減設の判断を行う際に参照する。DWBA計算部132で測定する各利用帯域は、OSUが占有しているとみなす帯域であれば特に指定しない。例えば、動的波長帯域割当回路13が参照した時点での瞬時値でもよいし、それ以前の一定期間の平均値でもよいし、一定区間の最大値でもよい。
【0061】
次に、低消費電力のためのOSU減設手順について説明する。まず、動的波長帯域割当回路13は、指定されたタイミングで多重分離部12または各OSU11で測定している各OSU11の下りトラフィック量を読み出す。本実施形態においてはOSU#1が20Gbit/s、OSU#2が10Gbit/s、OSU#3が30Gbit/sとなる。また、各OSU11の最大収容可能帯域と利用帯域の差分である残帯域を求める。本実施形態では最大収容可能帯域をリンクレートと等しい40Gbit/sとし、残帯域は、OSU#1が20Gbit/s、OSU#2が40Gbit/s、OSU#3が10Gbit/sとなる。ただし、最大収容可能帯域は必ずしもリンクレートと等しい必要はない。輻輳を回避することを目的として、リンクレート以下の値とすることも可能である。
【0062】
次に、使用しているOSU11から電源を遮断、もしくはスリープ状態に移行させるOSUを11選定する。このとき、電源を遮断もしくはスリープ状態に移行させるOSU11の利用帯域が切替先のOSUの残帯域未満となるように切替先OSU11を選ぶ。以上の条件を満たすOSU11が存在しない場合は、移行の手順は実施しない。
【0063】
以上の条件を満たすOSU11がある場合、電源を遮断もしくはスリープ状態に移行させるOSU11に所属するすべてのONU92を切替先のOSU11へ移行させると定める。上記の条件を満たすのであれば、電源を遮断もしくはスリープ状態に移行させるOSU11および切替先OSU11の選定手順は本実施形態では特に指定しない。本実施形態においては、使用帯域が30Gbit/sのOSU#3をスリープ状態へ移行させると定め、ONU#4、#5を残帯域が30Gbit/sのOSU#2へ波長切替によって所属変更することとする。
【0064】
次に、動的波長帯域割当回路13は、電源を遮断もしくはスリープ状態に移行するOSU11に所属しているすべてのONU92の波長切替を実施する。波長切替を実施するONU92の順番は本出願では特に指定しない。電源を遮断もしくはスリープ状態に移行するOSU11に所属していたONU92がすべて波長切替によって変更された後に、当該OSU11の電源を遮断もしくはスリープ状態に移行させる。本実施形態においては、ONU#4、#5をOSU#2へ波長切替を実施し、OSU#3に所属するONU91をすべて移行させた後にOSU#3をスリープ状態にする。
【0065】
図6に省電力波長切替手順を実施した後の各OSU11の収容状況及び下り帯域の利用状況を示す。OSU#2にはONU#3、#4、#5が所属し、OSU#3はスリープ状態へ移行することになる。
【0066】
上記所属ONU92を波長切替する移行最中に、あるOSU11の上り又は下りのどちらかで輻輳が発生した場合は、OSU11の電源遮断またはスリープ状態への移行を中止する。また、前記波長割り当ての変更を中止した後、またはOSU11が電源を遮断もしくはスリープ状態に移行した後に、あるOSU11の上りまたは下りで輻輳が発生した場合は、電源を遮断もしくはスリープ状態に移行したOSU11を使用状態に回復させ、輻輳が発生したOSU11からONU92を波長切替えすることで負荷分散が可能になる。この時、再起動させるOSU11の選定方法は本実施形態では特に指定しない。一度電源遮断もしくはスリープ状態にしたOSU11を再起動するには時間がかかると想定されるが、非特許文献4に示されるような要求信号に応じて動的に帯域を割り当てる動的帯域割当計算による上り、多重分離部12による下り、それぞれの公平制御を有することで、輻輳時における割当帯域の公平性は保つことができる。
【0067】
本実施形態の説明においては、所属OSU変更の判断に下り割当波長およびトラフィックに着目して説明したが、上り割当波長およびトラフィックにおいても同様に行うことが可能である。ただし、上りにおけるOSU11毎の上りトラフィック量の算出は、DWBA計算部132において動的に帯域割当を計算した結果を各OSUごとに集約した上り割当帯域の合算値か、各OSU11から多重分離部12に出力されるポートにおける出力帯域を測定した値を用いる。」

「【図1】



「【図5】



「【図6】



(2)上記(1)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数のONU92と接続した構成を有し、各ONU92がOLT91から指示された波長を用いてOLT91と通信を行う、光通信装置として機能するOLT91であって、(【0039】)
動的波長帯域割当回路13を備え、(【0040】)
OLT91は3台のOSU11を搭載し、OSU#1、#2、#3はλ1d、λ2d、λ3dの下り波長を用いることが可能であり、ONU92は5台接続されており、省電力動作実施前のOSU11の割当は、OSU#1にONU#1、#2、OSU#2にONU#3、OSU#3にONU#4、#5が割り当てられており、(【0059】)
各OSU11の下りトラフィック量を読み出し、(【0061】)
使用しているOSU11から電源を遮断、もしくはスリープ状態に移行させるOSU11を選定し、このとき、電源を遮断もしくはスリープ状態に移行させるOSU11の利用帯域が切替先のOSUの残帯域未満となるように切替先OSU11を選び、(【0062】)
動的波長帯域割当回路13は、ONU#4、#5をOSU#2へ波長切替を実施し、OSU#3に所属するONU92をすべて移行させた後にOSU#3をスリープ状態にし、(【0064】)
省電力波長切替手順を実施した後、OSU#2にはONU#3、#4、#5が所属し、OSU#3はスリープ状態へ移行し、(【0065】)
上記所属ONU92を波長切替する移行最中に、あるOSU11の上り又は下りのどちらかで輻輳が発生した場合は、OSU11の電源遮断またはスリープ状態への移行を中止し、輻輳が発生したOSU11からONU92を波長切替えすることで負荷分散が可能になり、(【0066】)
所属OSU変更の判断に上り割当波長およびトラフィックにおいても同様に行うことが可能である、(【0067】)
OLT91。」

2 引用文献A
原査定の拒絶の理由にて引用された引用文献A(特開2007−142764号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【実施例1】
【0034】
図1は、本発明の一実施例におけるPONの概要を表わしたものである。本実施例のOLT(局側装置)201は、エンドユーザ宅にそれぞれ対応付けて配置された第1〜第NのONU(Optical Network Unit;宅内装置)2021〜202Nと、光分岐結合器203を介して接続されている。OLT201は、インターネット等の図示しない通信ネットワークと接続されており、第1〜第NのONU2021〜202Nは、図示しないパーソナルコンピュータ等の通信端末と接続されている。第1〜第NのONU2021〜202Nおよび光分岐結合器203の構成は、図10に示した第1〜第NのONU1021〜102Nおよび光分岐結合器103の構成と実質的に同一である。そこで、これらについての説明は省略する。OLT201は、図14に示した帯域割当制御部121の部分が本実施例独自のものとなっている。その他の部分は図10に示したOLT101と実質的に同一である。
【0035】図2は、本実施例の帯域割当制御部の構成を表わしたものである。帯域割当制御部221は、帯域の割当を行う割当部(Allocation Module)222と、第1〜第NのONU2021〜202Nとの間で出力要求(REPORT)2231〜223Nおよび信号送出許可(GATE)2241〜224Nの送受信を行うインタフェース部225から構成されている。帯域割当制御部221は、図示しないがCPU(Central Processing Unit)と、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)等の記憶媒体と、CPUが制御プログラムを実行するに際して各種のデータを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)等の作業用メモリによって構成されている。もちろん、その一部または全部をハードウェアによって置き換えたものであってもよい。
【0036】 インタフェース部225は、第1〜第NのONU2021〜202Nが送信しようとする信号をそれぞれ格納した前記したバッファメモリのキューの状態、すなわち待ち行列の長さを出力要求2231〜223Nとして受信する。そして、割当部222によって帯域の割当が行われたら、その結果を信号送出許可2241〜224Nとして第1〜第NのONU2021〜202Nに送信する。この点は、従来の図14に示したインタフェース部225と同様である。
【0037】
割当部222は、第1〜第Nのアロケーションモジュール2311〜231Nを備えている。このうち第1のアロケーションモジュール2311はインタフェース部225からキュー状態信号2261を入力するようになっている。キュー状態信号2261とは、出力要求2231を基にした第1のONU2021のバッファメモリのキューの状態、すなわち待ち行列の長さを表わした信号である。第1のアロケーションモジュール2311は割当完了信号2271をインタフェース部225に対して出力すると共に、第2のアロケーションモジュール2312に対してアロケーションの暫定的な結果を示すアロケーション結果信号2321を出力するようになっている。
【0038】
第2のアロケーションモジュール2312は、このアロケーション結果信号2321の供給を受けると共に、インタフェース部225からキュー状態信号2262の供給を受ける。そして、割当完了信号2272をインタフェース部225に対して出力すると共に、図示しない第3のアロケーションモジュール2313に対してアロケーションの暫定的な結果を示すアロケーション結果信号2322を出力するようになっている。以下、同様にして、第Nのアロケーションモジュール231Nは、図示しない前段の第N−1のアロケーション結果信号232N-1の供給を受けると共に、インタフェース部225からキュー状態信号226Nの供給を受ける。そして、割当完了信号227Nをインタフェース部225に対して出力すると共に、第1のアロケーションモジュール2311に対してアロケーションの暫定的な結果を示すアロケーション結果信号232Nを出力するようになっている。
【0039】
このように第1〜第Nのアロケーションモジュール2311〜231Nは、それぞれのアロケーション結果信号2321〜232Nが次の段となる第2〜第N、第1のアロケーションモジュール2311〜232N、2311に入力されるよう、リング状に接続されている。このようなリング状の接続によって、本実施例では帯域の割当制御を直列分散処理で行うようになっている。第1のアロケーションモジュール2311は、最終的に確定した帯域の割当(completed allocation)を割当完了信号2271としてインタフェース部225に供給することになる。インタフェース部225はこれを基にして信号送出許可2241を出力することになる。同様に、第2〜第Nのアロケーションモジュール2312〜231Nは、最終的に確定した帯域の割当を割当完了信号2272〜227Nとしてインタフェース部225に供給することになる。インタフェース部225はこれらを基にして信号送出許可2242〜224Nを出力することになる。」
「【図1】



「【図2】



第7 当審拒絶理由の理由3(新規性)及び理由4(進歩性)について
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

(ア)引用発明の「複数のONU92と接続した構成を有し、各ONU92がOLT91と通信を行う、光通信装置として機能するOLT91」において、「複数のONU92」は「OLT91」に対する他の通信装置であるといえるから、「ONU92」は、本願発明1の「他通信装置」に相当する。
また、「OLT91」は、本願発明1の「通信装置」に相当する。

(イ)引用発明は、「OLT91は、3台のOSU11を搭載し、OSU#1、#2、#3はλ1d、λ2d、λ3dの下り波長を用いることが可能であり、ONU92は5台接続されており、省電力動作実施前のOSU11の割当は、OSU#1にONU#1、#2、OSU#2にONU#3、OSU#3にONU#4、#5が割り当てられて」いるものである。
したがって、引用発明の「3台のOSU11」のそれぞれは、「5台」の「ONU92」のうちの「割り当てられ」た「ONU92」との間で、固有の「下り波長」を用いた通信を実行するといえる。

(ウ)引用発明の「OLT91」は、「動的波長帯域割当回路13を備え」るものであり、また、引用発明は、
「各OSU11の下りトラフィック量を読み出し、
使用しているOSU11から電源を遮断、もしくはスリープ状態に移行させるOSU11を選定し、このとき、電源を遮断もしくはスリープ状態に移行させるOSU11の利用帯域が切替先のOSUの残帯域未満となるように切替先OSU11を選び、
動的波長帯域割当回路13は、OSU#3に所属するONU92をすべて移行させた後にOSU#3をスリープ状態にし、
省電力波長切替手順を実施した後、OSU#2にはONU#3、#4、#5が所属し、OSU#3はスリープ状態へ移行し、
上記所属ONU92を波長切替する移行最中に、あるOSU11の上り又は下りのどちらかで輻輳が発生した場合は、OSU11の電源遮断またはスリープ状態への移行を中止し、輻輳が発生したOSU11からONU92を波長切替えすることで負荷分散が可能になり、
所属OSU変更の判断に上り割当波長およびトラフィックにおいても同様に行うことが可能である」
との構成を有するものである。
ここで、「動的波長帯域割当回路13」は、「OSU#3に所属するONU92をすべて移行させ」る等を行い、「OSU#2にはONU#3、#4、#5が所属」する状態とする「省電力波長切替」を行うものであるから、「3台のOSU11」のうちの、「切替先OSU11」を含む少なくとも一つ(例えば、「OSU#3」を除く「OSU11」)に、「移行」後に「ONU92」との間で行う上記(イ)の通信に係る処理を割振るということができ、本願発明1の「割振部」に相当する。
また、「省電力波長切替」は、「上り割当波長およびトラフィックにおいても同様に行うことが可能である」から、上記通信に係る処理は、「上り」信号についても行われるものであり、その点において、「OSU11」は、「ONU92」からの「上り」信号に対して応答する処理を行うということができ、本願発明1の「応答部」に相当し、また、当該「上り」信号に対して応答する処理は、本願発明1の「応答処理」に相当する。

(エ)上記(ア)〜(ウ)から、引用発明と、本願発明1の
「複数の他通信装置との通信を実行する複数の応答部と割振部とを備える通信装置であって、
前記割振部は、新たな応答処理を、少なくとも一つの前記応答部に割振」る
こととは、
「複数の他通信装置との通信を実行する複数の応答部と割振部とを備える通信装置であって、
前記割振部は、応答処理を、少なくとも一つの前記応答部に割振」る
という点で共通している。

(オ)上記(ウ)で述べた引用発明の構成において、「上記所属ONU92を波長切替する移行最中に、あるOSU11の上り又は下りのどちらかで輻輳が発生した場合は、OSU11の電源遮断またはスリープ状態への移行を中止」することは、換言すれば、「切替先OSU11」等が、「輻輳」が発生しないという条件を満たす場合に、「移行」後に上記(ウ)の「上り」信号に対して応答する処理を実行することであるといえる。
また、「輻輳」が発生しないという条件を満たさない場合は、「切替先OSU11」等は上記応答する処理を引き受けないといえる。
そして、「輻輳」は、「OSU11」において実行中の処理についてのものであることが明らかであるから、引用発明の上記条件と、本願発明の「割振られた前記応答部において実行中の処理の負荷が所定値よりも低いという条件である」、「所定の条件」とは、「割振られた前記応答部において実行中の処理に関する条件」である点で共通しているといえる。
これらの点について、上記(ウ)で更に検討した点も踏まえると、引用発明と、本願発明1の
「前記応答処理が割振られた前記応答部は、所定の条件を満たす場合、前記応答処理を実行し、前記所定の条件を満たさない場合には、前記応答処理を引き受けないことを前記割振部に通知し、
前記所定の条件は、割振られた前記応答部において実行中の処理の負荷が所定値よりも低いという条件である」
こととは、
「前記応答処理が割振られた前記応答部は、所定の条件を満たす場合、前記応答処理を実行し、前記所定の条件を満たさない場合には、前記応答処理を引き受けず、
前記所定の条件は、割振られた前記応答部において実行中の処理に関する条件である」
という点で共通している。

イ 上記ア(エ)、(オ)から、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「複数の他通信装置との通信を実行する複数の応答部と割振部とを備える通信装置であって、
前記割振部は、応答処理を、少なくとも一つの前記応答部に割振り、
前記応答処理が割振られた前記応答部は、所定の条件を満たす場合、前記応答処理を実行し、前記所定の条件を満たさない場合には、前記応答処理を引き受けず、
前記所定の条件は、割振られた前記応答部において実行中の処理に関する条件である、
通信装置。」

(相違点1)
本願発明1の「割振部」が「少なくとも一つの前記応答部に割振」る「応答処理」であって、「前記応答部」が「所定の条件を満たす場合」に「実行し」、「前記所定の条件を満たさない場合には」「引き受けない」「応答処理」は、「新たな応答処理」であるのに対して、引用発明の「動的波長帯域割当回路13」が行う、「OSU#3に所属するONU92をすべて移行させ」て「OSU#2にはONU#3、#4、#5が所属」する状態とする等の「省電力波長切替」の対象とする「OSU11」と「ONU92」との間の通信は、「新たな」ものではない点。

(相違点2)
本願発明1では、「前記応答部」が、「前記所定の条件を満たさない場合には、前記応答処理を引き受けない」ことについて、「前記割振部に通知」するのに対して、引用発明では、「OSU11」は、「上記所属ONU92を波長切替する移行最中に、あるOSU11の上り又は下りのどちらかで輻輳が発生した場合は、OSU11の電源遮断またはスリープ状態への移行を中止」するものの、その旨を「動的波長帯域割当回路13」に「通知」するものではない点。

(相違点3)
本願発明1の「満たさない場合」について「応答処理」を「引き受けない」とする、「割振られた前記応答部において実行中の処理」に関する「所定の条件」は、その「負荷が所定値よりも低い」というものであるのに対して、引用発明の「OSU11の電源遮断またはスリープ状態への移行を中止」する条件は「あるOSU11の上り又は下りのどちらかで輻輳が発生した」というものである点。

(2)新規性について
上記(1)イのとおり、本願発明1と引用発明とは相違点1〜3において相違しており、また、以下の(3)から明らかなように、当該相違点1〜3は実質的なものであるから、本願発明1は引用文献1に記載された発明ではない。

(3)進歩性について(相違点についての判断)
相違点1〜3は、いずれも、「応答部」が「実行する」又は「引き受けない」、「応答処理」に関するものであるから、まとめて検討する。
割振部が、既に何らかの処理を実行中の複数の処理主体に対して、通信に係る新たな処理を割り振る際に、個々の処理主体において、実行中の処理の負荷が所定値よりも低いという条件を満たさない場合に、当該処理主体が、当該新たな処理を引き受けず、かつ、その旨を割振部に通知することは、引用文献1には記載されておらず、本願の出願日前において周知技術であったとも認められない。
よって、本願発明1は、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2〜6について
本願発明5は、本願発明1に対応する方法の発明であって、本願発明1に対応する発明特定事項を含んでいる。また、本願発明2〜4,6は、本願発明1を減縮した発明である。
そうすると、本願発明5,6も、本願発明1と同様に引用文献1に記載された発明ではない。
また、本願発明2〜6も本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 小括
以上のとおりであるから、当審拒絶理由の理由3(進歩性)、理由4(進歩性)(上記第3の3)はいずれも解消した。

第8 原査定について
原査定の理由A(進歩性)について、令和4年4月12日提出の手続補正書による補正の結果、本願発明1〜6はいずれも相違点1〜3に係る技術的事項を有するものとなっているところ、当該技術的事項は、原査定における引用文献Aには記載されておらず、本願の出願日前における周知技術でもないので、本願発明1〜6は、当業者であっても、引用文献Aに基づいて容易に発明をすることができたものではない。なお、引用文献Aは、「第1〜第NのONU2021〜202N」及び「第1〜第Nのアロケーションモジュール2311〜231N」からなる構成について、本願発明1の「複数の他通信装置との通信を実行する複数の応答部」の「少なくとも一つ」に「新たな応答処理」を「割振」ることを開示するものとはいえない。
また、原査定の理由B(実施可能要件)及び理由C(明確性)について、請求項3に記載されている「前記割振部と前記応答部とにおいて、又は、前記応答部とそれ以外の前記応答部とにおいて、前記応答処理が割振られたか否かの通知と、割振られた識別子の通知と、処理負荷の通知と、休止、起動、追加若しくは削除の指示と、削除されたリソースを開放するための通知と、リソースを確保するための通知とのうちの少なくとも一つを入力又は出力するためのインタフェース」について、各「通知」又は「指示」の内容は明確であり、また、発明の詳細な説明(段落【0037】等)は、各「通知」又は「指示」の「少なくとも一つを入力又は出力するためのインタフェース」を当業者が実施し得る程度に記載されている。
したがって、原査定を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-06-10 
出願番号 P2017-023673
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04L)
P 1 8・ 575- WY (H04L)
P 1 8・ 537- WY (H04L)
P 1 8・ 113- WY (H04L)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 角田 慎治
特許庁審判官 林 毅
富澤 哲生
発明の名称 通信装置、通信方法及び通信プログラム  
代理人 特許業務法人 志賀国際特許事務所  

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