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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1385936 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-07-13 |
確定日 | 2022-03-10 |
事件の表示 | 特願2019−538862「半導体ウェーハの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月 7日国際公開,WO2019/043890〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2017年(平成29年)8月31日を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 令和 2年 2月 3日 :国内書面の提出 令和 2年12月11日付け:拒絶理由通知書 令和 3年 1月28日 :意見書,手続補正書の提出 令和 3年 4月20日付け:拒絶査定(原査定) 令和 3年 7月13日 :審判請求書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1−6に係る発明(以下,それぞれ順に「本願発明1」−「本願発明6」という。)は,令和3年1月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1−6に記載された事項により特定される発明であるところ,そのうち本願発明1は,以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 半導体ウェーハの製造方法であって, 砥粒を含む研磨剤を用いて行われる3段階以上の研磨工程を含む多段研磨工程を含み, 前記多段研磨工程において,該多段研磨工程の最終研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度と,最終研磨工程の1段階前に行われる1段階前研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度と,最終研磨工程の2段階前に行われる2段階前研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度とが,下記関係式1: (関係式1) 2段階前研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度>1段階前研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度>最終研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度 を満たし,且つ 1段階前研磨工程において使用される研磨剤に含まれる砥粒の動的光散乱法により求められる平均粒径は65nm以上であり且つ会合度は1.50超2.10以下である,半導体ウェーハの製造方法。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,概略,次のとおりのものである。 理由2(進歩性)この出願の請求項1−6に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2015−185674号公報 第4 引用文献の記載,引用発明 1 引用文献1に記載されている事項及び引用発明 (1)原査定における拒絶の理由に引用された特開2015−185674号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。 (当審注:下線は,当審で付与した。以下同様。) 「【請求項1】 シリコンウェーハの研磨方法であって, 前記研磨方法は, 砥粒Aを含む研磨スラリーAで研磨する一次研磨工程と, 砥粒Bを含む研磨スラリーBで研磨する中間研磨工程と, 砥粒Cを含む研磨スラリーCで研磨する仕上げ研磨工程と, をこの順に含む多段研磨プロセスを含み, 前記研磨スラリーA,BおよびCは,該研磨スラリーA,BおよびCにおける前記砥粒A,BおよびCの濃度をそれぞれMA(重量%),MB(重量%)およびMC(重量%)とし,該研磨スラリーA,BおよびC中に含まれる粒子の体積平均粒子径をそれぞれDA(nm),DB(nm)およびDC(nm)としたとき,以下の式: MA/DA3 > MB/DB3 > MC/DC3; を満たすように選択される,シリコンウェーハ研磨方法。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は研磨方法およびそれに使用するための研磨用組成物に関する。詳しくは,シリコンウェーハの研磨方法およびそれに用いられる研磨用組成物に関する。」 「【0005】 しかしこのような研磨方法では,ポリシング工程後のシリコンウェーハの品質向上に限界があった。すなわち,従来の研磨方法によると,一連の研磨プロセス全体での最適化が行われていないため,一部の工程で適切ではない研磨スラリーが選択されてしまう虞があった。具体的には,従来の研磨方法によると,各工程の研磨前(前段階に別のポリシング工程が存在する場合は,前段階の工程の完了後)の表面平滑性,研磨後に求められる表面品質,および選択される研磨スラリーの間でミスマッチが発生し,これによりシリコンウェーハの平滑性低下や欠陥発生が引き起こされることがあった。また,近年は,半導体配線の微細化に伴い,より表面平滑性の高い高品位なシリコンウェーハの実現が求められており,より精密な研磨方法の提供が期待されていた。 【0006】 本発明は,上記の事情に鑑みて創出されたものであり,高い表面平滑性を有し,かつ,欠陥発生が抑制された高品質なシリコンウェーハを実現するための研磨方法,およびその方法に用いられる研磨用組成物を提供することを目的とする。」 「【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明によると,シリコンウェーハの研磨方法が提供される。上記研磨方法は、砥粒Aを含む研磨スラリーAで研磨する一次研磨工程と、砥粒Bを含む研磨スラリーBで研磨する中間研磨工程と、砥粒Cを含む研磨スラリーCで研磨する仕上げ研磨工程と,をこの順に含む多段研磨プロセスを含む。ここで,上記研磨スラリーA,BおよびCは,該研磨スラリーA,BおよびCにおける上記砥粒A、BおよびCの濃度をそれぞれMA(重量%)、MB(重量%)およびMC(重量%)とし,該研磨スラリーA,BおよびC中に含まれる粒子の体積平均粒子径をそれぞれDA(nm),DB(nm)およびDC(nm)としたとき,以下の式:MA/DA3>MB/DB3>MC/DC3;を満たすように選択される。 かかる研磨方法によると,一次研磨工程,中間研磨工程および仕上げ研磨工程を含む一連の多段研磨プロセスにおいて,適切にシリコンウェーハの表面平滑性が向上し得る。これにより表面平滑性に優れ,かつ,欠陥数が低減した高品位なシリコンウェーハが実現され得る。 【0008】 ここで,研磨スラリー中に含まれる粒子とは,研磨スラリー中において粒子様の挙動を示す単位をいう。例えば,砥粒を含む研磨スラリー中において,砥粒は少なくともその一部が会合し,砥粒単体のサイズよりも大きな粒体として存在することがある。また,例えば,水中に砥粒および水溶性ポリマーを含む研磨スラリー中においては,水溶性ポリマーが研磨スラリー中の砥粒と吸着し,これにより砥粒が研磨スラリー中においてそれ自体のサイズよりも大きな粒体として存在することがある。このような粒体は,研磨スラリー中において粒子のように振る舞い,その挙動が研磨時のメカニカル作用に影響を及ぼし得る。本発明者は,このような研磨スラリーにおいて,砥粒自体のサイズとは異なる物性値として,上記粒体の存在を考慮した上での粒子のサイズに着目した。つまり,研磨スラリー中において粒子様の挙動を示す単位を粒子として捉え,そのサイズを研磨スラリー中に含まれる粒子のサイズとして考えた。本発明において上記粒子の体積平均粒子径を的確に把握し得る手法としては,動的光散乱法を採用した。」 「【0019】 ここに開示される技術は,シリコンウェーハの研磨(例えばラッピング工程を経たシリコンウェーハの研磨)に好ましく適用することができる。ここに開示される研磨方法は,シリコンウェーハの一次研磨工程(以下,「A工程」ともいう。)と,仕上げ研磨工程(以下,「C工程」ともいう。)とを含む。特に限定されないが,好ましくは,上記A工程はラッピング工程の完了後に配置される。上記研磨方法は,また,上記A工程と上記C工程の間に,1または2以上の研磨工程からなる中間研磨工程(以下,「B工程」ともいう。)を含む。上記中間研磨工程が2以上の研磨工程を含む場合,すなわち上記B工程がb1工程,b2工程,b3工程…により構成されている場合は,上記B工程に含まれる全ての工程が終了した後の後工程として上記C工程が配置される。ここに開示される技術において,上記B工程は,作業性およびコスト面の観点から1または2工程で構成されることが好ましい。より好ましくは,上記B工程は1工程である。 【0020】 ここに開示される研磨方法においてシリコンウェーハは,上記A工程においては砥粒Aを含む研磨スラリーAで研磨され,上記B工程においては砥粒Bを含む研磨スラリーBで研磨され,上記C工程においては砥粒Cを含む研磨スラリーCで研磨される。・・・(略)・・・」 「【0026】 ここで,本明細書において,研磨スラリーX(X=A,BまたはC。以下,同じ。)に用いられる砥粒Xの,一次粒子の平均粒子径をD1X(nm)とする。なお,ここに開示される技術において,砥粒Xの平均一次粒子径D1Xは,例えば,BET法により測定される比表面積S(m2/g)から平均一次粒子径D1X(nm)=2727/Sの式により算出することができる。砥粒の比表面積の測定は,例えば,マイクロメリテックス社製の表面積測定装置,商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。 ・・・(略)・・・ 【0028】 ここに開示される技術において,上記研磨スラリーBに用いられる砥粒Bの平均一次粒子径D1Bは,特に限定されない。好ましい一態様において,砥粒Bの平均一次粒子径D1Bは,5nm以上であり,より好ましくは10nm以上である。砥粒Bの平均一次粒子径D1Bの増大によって,より高い研磨速度が実現され得る。より高い研磨力を得る観点から,砥粒Bの平均一次粒子径D1Bは,15nm以上が好ましく,20nm以上がより好ましい。また,より平滑性の高い表面が得られやすいという観点から,砥粒Bの平均一次粒子径D1Bは,好ましくは100nm以下,より好ましくは60nm以下,さらに好ましくは50nm以下(例えば40nm以下)である。」 「【0035】 研磨スラリー中に含まれる粒子のサイズは,例えば,該研磨スラリーを測定サンプルに用いて動的光散乱法に基づく粒子径測定を行うことによって把握することができる。この粒子径測定は,例えば,日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いて行うことができる。以下,本明細書において,上述する動的光散乱法により測定された研磨スラリーX(X=A,BまたはC。以下,同じ。)中の粒子Xの体積平均粒子径をDX(nm)とする。なお,本明細書において上記DXは,単位をnmとしたときの平均粒子径の数値部分のことを指し,該DX自体は無単位量であるものとする。 【0036】 研磨スラリーX中に含まれる粒子の体積平均粒子径DX(nm)は,一般に砥粒Xの平均一次粒子径D1X(nm)と同等以上(DX/D1X≧1)であり,典型的にはD1X(nm)よりも大きい(DX/D1X>1)。特に限定するものではないが,研磨効果および研磨後の表面平滑性の観点から,上記DX/D1Xは,通常は1.2以上3.5以下の範囲にあることが適当であり,1.5以上3以下の範囲が好ましく,1.7以上2.5以下(例えば1.9以上2.5未満)の範囲がより好ましい。 ・・・(略)・・・ 【0038】 ここに開示される技術において,上記研磨スラリーB中に含まれる上記粒子の体積平均粒子径DB(nm)は,通常は20nm以上であることが適当であり,好ましくは30nm以上,より好ましくは40nm以上,さらに好ましくは70nm以上(例えば75nm以上,典型的には80nm以上)である。上記粒子の体積平均粒子径DBを上述する下限値以上とすると,一次研磨工程後のシリコンウェーハ表面に対して適切な研磨力を持ち得る。欠陥の低減および表面平滑性の向上の観点から,上記研磨スラリーBに含まれる上記粒子の体積平均粒子径DBは,250nm以下であることが適当であり,好ましくは200nm以下,さらに好ましくは150nm以下(例えば100nm以下)である。」 「【0040】 ここに開示される技術において,研磨スラリーにおける砥粒の濃度は,特に限定されない。本明細書において,研磨スラリーX(X=A,BまたはC。以下同じ。)における砥粒Xの濃度をMX(重量%)と表記するものとする。上記MX(重量%)は,例えば,研磨スラリーXを調製する際に配合する砥粒Xの量から算出することができる。なお本明細書において,上記MXは,研磨スラリーXにおける砥粒Xの濃度を重量%換算としたときの数値部分を指しており,該MX自体は無単位量であるものとする。 【0041】 ここに開示される技術において,研磨スラリーAにおける砥粒Aの濃度MA(重量%)は,特に制限されないが,典型的には0.05重量%以上であり,0.3重量%以上であることが好ましく,より好ましくは0.5重量%以上(例えば0.8重量%以上)である。砥粒Aの濃度MAの増大によって,より高い研磨速度が実現され得る。欠陥発生の抑制や表面平滑性の向上の観点から,通常は,上記濃度MAは20重量%以下が適当であり,好ましくは10重量%以下,より好ましくは8重量%以下,さらに好ましくは5重量%以下(例えば2重量%以下)である。 【0042】 ここに開示される技術において,研磨スラリーBにおける砥粒Bの濃度MB(重量%)は,特に限定されないが,典型的には0.01重量%以上であり,0.05重量%以上であることが好ましく,より好ましくは0.1重量%以上(例えば0.2重量%以上)である。砥粒Bの濃度MBの増大によって,より高い研磨速度が実現され得る。より欠陥発生を抑制し,優れた表面平滑性を実現する観点から,通常は,上記濃度MBは10重量%以下が適当であり,好ましくは7重量%以下,より好ましくは5重量%以下,さらに好ましくは1.0重量%以下(例えば0.5重量%以下)である。なお,B工程が2以上の工程(b1工程,b2工程など)を含む場合は,該B工程に含まれる全ての工程において,研磨スラリーにおける砥粒の濃度の好適な範囲は,上述する濃度MBの好適な範囲内に含まれ得る。 【0043】 ここに開示される技術において,研磨スラリーCにおける砥粒Cの濃度MC(重量%)は,典型的には0.001重量%以上であり,0.002重量%以上であることが好ましく,より好ましくは0.005重量%以上(例えば0.01重量%以上)である。砥粒Cの濃度MCの増大によって,より高い研磨速度が実現され得る。微小な欠陥発生を抑制し,より優れた表面平滑性を実現する観点から,通常は,上記濃度MCは10重量%以下が適当であり,好ましくは7重量%以下,より好ましくは5重量%以下,さらに好ましくは1.0重量%以下(例えば0.5重量%以下)である。」 「【0103】 <研磨スラリーの調製> まず,A工程,B工程,C工程の各研磨工程において使用される研磨スラリーA,BおよびCを以下の通りに調製した。 1)研磨スラリーAの調製 砥粒A,水溶性ポリマー,塩基性化合物および脱イオン水を混合して,研磨スラリーAの濃縮液である研磨用組成物を得た。この研磨用組成物(研磨スラリーAの濃縮液)を,脱イオン水で希釈して,A工程(一次研磨工程)において使用される研磨スラリーA(例1A〜例13A)を調製した。 例1Aおよび例3A〜例13Aに係る砥粒Aとしては,平均一次粒子径が44nmのコロイダルシリカを使用した。また,例2Aに係る砥粒Aとしては,平均一次粒子径が25nmのコロイダルシリカを使用した。上記平均一次粒子径は,マイクロメリテックス社製の表面積測定装置,商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて測定されたものである(以下の各例において同じ。)。砥粒Aの配合量は,上記研磨スラリーA中における砥粒Aの濃度が表1に示す量になるように調節した。 水溶性ポリマーとしては,Mwが4×104であるポリビニルピロリドン(PVP)を使用し,上記研磨スラリーAにおけるPVP含有量が3×10−4%となるように調節した。 塩基性化合物としては,水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を使用し,上記研磨スラリーAにおけるTMAH含有量が0.1%となるように調節した。 例1A〜例13Aの各例に係る研磨スラリーA中に含まれる粒子の体積平均粒子径DA(nm)を表1に示す。なお,上記粒子の体積平均粒子径は,動的光散乱式粒度分析計(日機装株式会社製,型式「UPA−UT151」)を用いて測定した(以下の各例において同じ。)。 ・・・(略)・・・ 【0105】 【表1】 ![]() 【0106】 2)研磨スラリーBの調製 砥粒B,水溶性ポリマー,塩基性化合物および脱イオン水を混合して,研磨スラリーBの濃縮液である研磨用組成物を得た。この研磨用組成物を,脱イオン水で希釈して,B工程(中間研磨工程)において使用される研磨スラリーB(例1B〜例13B)を調製した。 例1B,例3B〜例11Bおよび例13Bに係る砥粒Bとしては,平均一次粒子径が35nmのコロイダルシリカを使用した。また,例2Bおよび例12Bに係る砥粒Bとしては,平均一次粒子径が15nmのコロイダルシリカを使用した。砥粒Bの配合量は,上記研磨スラリーB中における砥粒Bの濃度MB(重量%)が表2に示す量になるように調節した。 水溶性ポリマーとしては,Mwが25×104であるヒドロキシエチルセルロース(HEC)を使用し,上記研磨スラリーBにおけるHEC含有量が0.01%となるように調節した。 塩基性化合物としては,アンモニア水(濃度29%)を使用し,上記研磨スラリーBにおけるアンモニア(NH3)含有量が0.02%となるように調節した。 例1B〜例13Bに係る研磨スラリーB中に含まれる粒子の体積平均粒子径DB(nm)を表2に示す。」 「【0108】 【表2】 ![]() 【0109】 3)研磨スラリーCの調製 砥粒C,水溶性ポリマー,界面活性剤,塩基性化合物および脱イオン水を混合して,研磨スラリーCの濃縮液である研磨用組成物を得た。この研磨用組成物を,脱イオン水で希釈して,C工程(仕上げ研磨工程)において使用される研磨スラリーC(例1C〜例13C)を調製した。 例1C,例3C〜例5C,例7C〜例9Cおよび例11C〜例13Cに係る砥粒Cとしては,平均一次粒子径が35nmのコロイダルシリカを使用した。例2Cおよび例10Cに係る砥粒Cとしては,平均一次粒子径が20nmのコロイダルシリカを使用した。例6Cに係る砥粒Cとしては,平均一次粒子径が100nmのコロイダルシリカを使用した。砥粒Cの配合量は,上記研磨スラリーCにおける砥粒Cの濃度MC(重量%)が表3に示す量になるように調節した。 水溶性ポリマーとしては,Mwが25×104であるヒドロキシエチルセルロース(HEC)を,上記研磨スラリーCにおけるHEC含有量が0.02%となるように使用した。界面活性剤としては,Mwが9×103である,エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とからなるPEO−PPO−PEO型トリブロック体(PEO−PPO−PEO)を使用し,上記研磨スラリーCにおけるPEO−PPO−PEO含有量が0.002%となるように調節した。なお,上記PEO−PPO−PEOにおけるEO成分とPO成分の比はEO:PO=80:20である。 塩基性化合物としては,アンモニア水(濃度29%)を使用し,上記研磨スラリーCにおけるアンモニア(NH3)含有量が0.02%となるように調節した。 例1C〜例13Cの各例に係る研磨スラリーC中に含まれる粒子の体積平均粒子径DC(nm)を表3に示す。」 「【0111】 【表3】 ![]() 【0112】 <研磨条件> シリコンウェーハの表面をA工程,B工程,C工程の順に,逐次的に多段研磨した。具体的には,シリコンウェーハを例1Aに係る研磨スラリーAで研磨したあと,当該研磨後のシリコンウェーハを例1Bに係る研磨スラリーBで研磨し,最後に,該研磨後シリコンウェーハを例1Cに係る研磨スラリーCで研磨した。この一連の研磨工程(A工程,B工程およびC工程)において逐次研磨されることにより得られたシリコンウェーハを例1に係るシリコンウェーハと称することとする。同様に,例2(〜例13)に係るシリコンウェーハは,上述する例1の研磨方法と同様に,例2A(〜例13A),例2B(〜例13B)および例2C(〜例13C)に係る研磨スラリーA,BおよびCをそれぞれ使用して多段研磨することにより得た。研磨対象物であるシリコンウェーハとしては,直径が300mm,伝導型がP型,結晶方位が<100>,抵抗率が0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満であるものを使用した。」 「【0118】 <微小パーティクル数評価> ウエハ検査装置(ケーエルエー・テンコール社製,商品名「Surfscan SP2」)を用いて,洗浄後の例1〜例13に係るシリコンウェーハ表面に存在する37nm以上のサイズの欠陥(パーティクル)の個数(LPD数)をカウントした。各例に係るシリコンウェーハについて,検出された欠陥の数を表4に示す。」 (2)上記記載から,当該引用文献1には,以下の技術的事項が記載されているものと認められる。 ア シリコンウェーハの表面を,例1Aに係る研磨スラリーAで研磨するA工程,例1Bに係る研磨スラリーBで研磨するB工程,例1Cに係る研磨スラリーCで研磨するC工程の順に,逐次的に多段研磨する(【請求項1】,【0020】,【0112】)。 イ 例1Aに係る研磨スラリーAにおける砥粒Aの濃度MAは1.0wt%であり,例1Bに係る研磨スラリーBにおける砥粒Bの濃度MBは0.30wt%であり,例1Cに係る研磨スラリーCにおける砥粒Cの濃度Mcは0.20wt%である(表1―表3)。 ウ 例1Bに係る研磨スラリーB中に含まれる粒子の体積平均粒子径DBは85nmであり(表2),研磨スラリーBにおける砥粒Bの平均一次粒子径は35nmである(【0106】)。 エ 研磨スラリーB中に含まれる粒子Bの体積平均粒子径DBは,動的光散乱法により測定された(【0008】,【0035】)。 オ 砥粒Xの平均一次粒子径は,BET法により測定される比表面積S(m2/g)から算出できる(【0026】)。 (3) 上記(1),(2)から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「シリコンウェーハ研磨方法であって, 例1Aの研磨スラリーA(砥粒Aの濃度MA:1.0[wt%])により研磨するA工程,例1Bの研磨スラリーB(砥粒Bの濃度MB:0.30[wt%],体積平均粒子径DB:85nm)により研磨するB工程,例1Cの研磨スラリーC(砥粒Cの濃度Mc:0.20[wt%])により研磨するC工程を順に行う多段研磨工程を含み,かつ 前記B工程の研磨スラリーB中に含まれる粒子Bの体積平均粒子径DBは,動的光散乱法により測定されたものであり, 研磨スラリーBにおける砥粒Bの平均一次粒子径は35nmであり,砥粒Bの平均一次粒子径は,BET法により測定される比表面積S(m2/g)から算出できる,シリコンウェーハ研磨方法。」 (4)上記(1)の段落【0020】,【0028】,【0036】,【0038】から,引用文献1には,以下の技術的事項が記載されていると認められる。 「研磨スラリーBにおける砥粒Bの平均一次粒子径D1Bは,20nm以上50nm以下(例えば40nm以下)がより好ましく, 研磨スラリーB中に含まれる粒子Bの体積平均粒子径DB(nm)は,さらに好ましくは,70nm以上(例えば75nm以上,典型的には80nm以上)150nm以下(例えば100nm以下)であり, 研磨効果および研磨後の表面平滑性の観点から,研磨スラリーB中に含まれる粒子Bの体積平均粒子径DB/研磨スラリーBにおける砥粒Bの平均一次粒子径D1Bは,1.7以上2.5以下(例えば1.9以上2.5未満)の範囲がより好ましい。」 第5 対比 1 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 (1)引用発明の「シリコンウェーハ研磨方法」は,シリコンウェーハの製造工程の一部である研磨工程における研磨方法を特定したものであるから,本願発明1と「半導体ウェーハの製造方法」である点で一致する。 (2)引用発明の「研磨スラリーA」ないし「研磨スラリーC」は,本願発明1の「研磨剤」に相当し,引用発明における「A工程」ないし「C工程」は,それぞれ,「砥粒A」を含む「研磨スラリーA」ないし「砥粒C」を含む「研磨スラリーC」を用いて行われるといえる。 したがって,引用発明における「例1A」の「A工程」,「例1B」の「B工程」,「例1C」の「C工程」を「順に行う多段研磨工程」は,本願発明1における「砥粒を含む研磨剤を用いて行われる3段階以上の研磨工程を含む多段研磨工程」に相当する。 (3)引用発明の「C工程」は,「多段研磨工程」の最後に行われる工程であるから,本願発明1の「最終研磨工程」に相当する。また,引用発明の「A工程」,「B工程」及び「C工程」は,上記「多段研磨工程」において,順に実施される工程であるから,引用発明の「C工程」の1段階前に実施される「B工程」は,本願発明1の「1段階前研磨工程」に相当し,引用発明の「C工程」の2段階前に実施される「A工程」は,本願発明1の「2段階前研磨工程」に相当する。 (4)引用発明において,「例1Aの研磨スラリーA(砥粒Aの濃度MA:1.0[wt%])により研磨するA工程,例1Bの研磨スラリーB(砥粒Bの濃度MB:0.30[wt%],体積平均粒子径DB:85nm)により研磨するB工程,例1Cの研磨スラリーC(砥粒Cの濃度Mc:0.20[wt%])により研磨するC工程を順に行う多段研磨工程を含」むものであるところ,「例1Aの研磨スラリーA(砥粒Aの濃度MA:1.0[wt%])」,「例1Bの研磨スラリーB(砥粒Bの濃度MB:0.30[wt%],体積平均粒子径DB:85nm)」」,「例1Cの研磨スラリーC(砥粒Cの濃度Mc:0.20[wt%])」は,それぞれ本願発明1の「2段階前研磨工程において使用される研磨剤」,「1段階前研磨工程において使用される研磨剤」,「最終研磨工程において使用される研磨剤」に対応する。 したがって,本願発明1と引用発明とは,「(関係式1)2段階前研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度>1段階前研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度>最終研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度を満た」している点で一致する。 (5)引用発明の「例1Bの研磨スラリーB(砥粒Bの濃度MB:0.30[wt%],体積平均粒子径DB:85nm)」について,「前記B工程の研磨スラリーBに含まれる粒子Bの体積平均粒子径DBは動的光散乱法により測定されたものであ」るところ、当該「体積平均粒子径DB」は,本願発明1の「1段階前研磨工程において使用される研磨剤に含まれる砥粒の動的光散乱法により求められる平均粒径」に相当するといえる。 したがって,本願発明1と引用発明とは,「1段階前研磨工程において使用される研磨剤に含まれる砥粒の動的光散乱法により求められる平均粒径は65nm以上」である点で一致する。 (6)本願発明1の「会合度」について,本願明細書の段落【0007】には,「本発明および本明細書において、研磨剤に含まれる砥粒の「会合度」とは、研磨剤に含まれる砥粒のBET(Brunauer−Emmett−−Teller)法により求められる平均粒径(以下、「BET粒径」と記載する。)と、動的光散乱(DLS;Dynamic Light Scattering)法により求められる砥粒の平均粒径(以下、「DLS粒径」と記載する)から、下記式により算出される値である。会合度=DLS粒径/BET粒径(審決注:以下,「会合度算出式」という。)」と記載されている。 ここで,引用発明において,「体積平均粒子径DB」は,「動的光散乱法により測定されたもの」であるから,本願発明1における「会合度」を算出する上記「会合度算出式」の「DLS粒径」に相当する。 また,引用発明において,「砥粒Bの平均一次粒子径」は,「BET法により測定される比表面積S(m2/g)から算出できる」ものであるから,本願発明1における「会合度」を算出する上記「会合度算出式」の「BET粒径」に相当する。 そうすると,引用発明における,砥粒Bの「体積平均粒子径DB:85nm」と「平均一次粒子径は35nm」を、上記「会合度算出式」に当てはめると,85nm/35nmとなるので,引用発明の砥粒Bの「会合度」は2.43と算出される。 2 以上をまとめると,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 <一致点> 「半導体ウェーハの製造方法であって, 砥粒を含む研磨剤を用いて行われる3段階以上の研磨工程を含む 多段研磨工程を含み, 前記多段研磨工程において,該多段研磨工程の最終研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度と,最終研磨工程の1段階前に行われる1段階前研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度と,最終研磨工程の2段階前に行われる2段階前研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度とが,下記関係式1: (関係式1) 2段階前研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度>1段階前研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度>最終研磨工程において使用される研磨剤の砥粒濃度 を満たし,且つ 1段階前研磨工程において使用される研磨剤に含まれる砥粒の動的光散乱法により求められる平均粒径は65nm以上である,半導体ウェーハの製造方法。」 <相違点> 「1段階前研磨工程において使用される研磨剤に含まれる砥粒」について,本願発明1は「会合度は1.50超2.10以下」であるのに対し,引用発明において,会合度は「2.43」であるといえるから、本願発明1のようなものではない点。 第6 判断 1 上記相違点について検討する。 (1)ア 引用文献1には,「研磨スラリーBにおける砥粒Bの平均一次粒子径D1Bは,20nm以上50nm以下(例えば40nm以下)がより好ましく,研磨スラリーB中に含まれる粒子Bの体積平均粒子径DB(nm)は,さらに好ましくは,70nm以上(例えば75nm以上,典型的には80nm以上)150nm以下(例えば100nm以下)であり,研磨効果および研磨後の表面平滑性の観点から,研磨スラリーBに含まれる粒子Bの体積平均粒子径DB/研磨スラリーBにおける砥粒Bの平均一次粒子径D1Bは,1.7以上2.5以下(例えば1.9以上2.5未満)の範囲がより好ましい。」との技術的事項が記載されているといえるところ,「研磨スラリーB中に含まれる粒子Bの体積平均粒子径DB/研磨スラリーBにおける砥粒Bの平均一次粒子径D1B」は,上記「第5 対比」の(6)において説示したとおり,上記「会合度算出式」の右辺に相当するものであるといえるから,引用文献1には,研磨スラリーBの会合度として、より好ましい範囲は,「1.7以上2.5以下(例えば1.9以上2.5未満)」であるとの構成が記載されているといえる。 イ したがって,引用発明において,研磨スラリーBとして,「砥粒Bの平均一次粒子径D1B」が,「20nm以上50nm以下(例えば40nm以下)」であり,動的光散乱法により測定された「粒子Bの体積平均粒子径DB」が,「70nm以上(例えば75nm以上,典型的には80nm以上)150nm以下(例えば100nm以下)」であり,かつ「研磨効果および研磨後の表面平滑性の観点」を考慮して,研磨スラリーBに含まれる粒子Bの体積平均粒子径DB/研磨スラリーBにおける砥粒Bの平均一次粒子径D1B」を,「1.7以上2.5以下(例えば1.9以上2.5未満)」として最適化することは,当業者が実施にあたり適宜なし得る設計的事項にすぎない。 そうすると,引用発明において,引用文献1記載の技術的事項に基づき,研磨スラリーBとして,例えば,「砥粒Bの平均一次粒子径D1B」を40nm,「粒子Bの体積平均粒子径DB」を80nmのものを選択して,「上記体積平均粒子径DB/上記平均一次粒子径D1B」,すなわち会合度2.0程度として,会合度を1.50超2.10以下とすることで,上記相違点に係る本願発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。 (2)請求人の主張について ア 請求人は,審判請求書の3(2)において,拒絶査定における「(ii)本願発明が奏する効果に関して,引用文献1に記載された発明において当業者が予測しうる範囲のものである」との認定に対して,「本願発明では,『1段階前研磨工程において,会合度が1.50超2.10以下の砥粒を使用すること』が,研磨加工起因欠陥の発生を抑制することに寄与します。この点は,本願明細書の表1に示されている実施例1〜13と比較例4,7との対比によって実証されています。表1に示されている通り,比較例4は1段階前研磨工程における会合度が本願発明で規定されている範囲外であり,比較例7も会合度が本願発明で規定されている範囲外です。」と主張している。 イ 以下,この主張について検討する。 まず,1段階前研磨工程における砥粒の会合度の数値範囲の下限値について,上記(1)アのとおり,引用文献1に記載の技術的事項において,「研磨スラリーBに含まれる粒子Bの体積平均粒子径DB/研磨スラリーBにおける砥粒Bの平均一次粒子径D1B」,すなわち会合度は,「1.7以上2.5以下(例えば1.9以上2.5未満)の範囲がより好ましい」ものであるから,会合度の数値範囲の下限値については,本願発明1と引用発明との間において,実質的な差異は認められない。 次に,会合度の数値範囲の上限値について,請求人が上限値を規定する効果の根拠として示す上記「比較例4」は,砥粒の会合度のみならず,DLS粒径についても,本願発明1において規定されている範囲を超えるものであるから,会合度とDLS粒径のどちらの要因によってLPD数が増加しているのかを特定し得るものでない。 したがって,上記「比較例4」は,当該上限を規定する効果を示す根拠となり得るものとはいえない。 よって,請求人の上記主張を採用することはできない。 ウ 以上のとおりであるから,本願発明1は,引用発明及び引用文献1に記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,本願は,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2022-01-04 |
結審通知日 | 2022-01-05 |
審決日 | 2022-01-24 |
出願番号 | P2019-538862 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
辻本 泰隆 |
特許庁審判官 |
▲吉▼澤 雅博 恩田 春香 |
発明の名称 | 半導体ウェーハの製造方法 |
代理人 | 特許業務法人特許事務所サイクス |