• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1385946
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-16 
確定日 2022-06-09 
事件の表示 特願2020−500221「電子機器、電子機器の制御方法、及び電子機器の制御プログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 4月 9日国際公開、WO2020/071243〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)9月26日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 平成30年10月5日)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和 2年 3月 9日付け:拒絶理由通知書
同年 5月 7日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 6月18日付け:拒絶理由通知書
同年 8月21日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 9月18日付け:拒絶理由通知書
同年11月20日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 1月 6日付け:拒絶理由通知書
同年 3月15日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 4月12日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 4月20日 :原査定の謄本の送達)
同年 7月16日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 令和3年7月16日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年7月16日にされた手続補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和3年7月16日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正するものであり、次の(1)に示した本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を、次の(2)に示した本件補正後の特許請求の範囲の請求項1のとおり補正することを含むものである。下線部は、補正箇所を示す。

(1) 本件補正前
「 【請求項1】
送信波を送信する複数の送信アンテナと、
前記送信波が反射された反射波を受信する複数の受信アンテナと、
前記送信波として送信される送信信号及び前記反射波として受信される受信信号に基づいて、前記送信波を反射する物体を検出する制御部と、
を備える電子機器であって、
前記制御部は、前記受信アンテナが前記反射波を受信する際の入射角の範囲に応じて、前記送信波を所定の周波数帯域において送信する帯域部分を決定し、前記入射角の範囲が所定の角度範囲以上になる場合、前記帯域部分の周波数が前記所定の周波数帯域において所定の周波数以下になるようにする、電子機器。」

(2) 本件補正後
「 【請求項1】
所定の周波数帯域において送信波を送信する複数の送信アンテナと、
前記送信波が反射された反射波を受信する複数の受信アンテナと、
前記送信波として送信される送信信号及び前記反射波として受信される受信信号に基づいて、前記送信波を反射する物体を検出する制御部と、
を備え、
前記所定の周波数帯域幅における最大周波数で送信波を送信した場合に、前記複数の受信アンテナで受信する受信波の位相差が180°を超える電子機器であって、
前記制御部は、前記受信アンテナが前記反射波を受信する際の入射角の範囲に応じて、前記送信波を前記所定の周波数帯域において送信する帯域部分を決定し、前記入射角の範囲が所定の角度範囲以上になる場合、前記帯域部分の周波数が前記所定の周波数帯域において所定の周波数以下になるようにする、電子機器。」

2 本件補正の適否
(1) 新規事項の追加について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項について、次のア及びイの点の限定をするものである。

ア 複数の送信アンテナによる「送信波」の送信を「所定の周波数帯域において」行うものに限定する点。
イ 電子機器を「前記所定の周波数帯域幅における最大周波数で送信波を送信した場合に、前記複数の受信アンテナで受信する受信波の位相差が180°を超える電子機器」に限定する点。

上記イの限定をする補正の根拠について、請求人は、令和3年7月16日付け審判請求書の[3.本願発明が特許されるべき理由]の「(2)補正の根拠」において、本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)の「段落【0088】における記載など」を基に補正したと主張している。
以下に段落【0088】と上記イの補正事項に関連する記載を含む【0089】〜【0091】の記載を示す。下線は当審において付した。

「【0088】
次に、図4に示す状況において、周波数が77GHzから81GHzまで帯域の最大の周波数である81GHzで送信された電波の反射波Rを、複数の受信アンテナ50から受信する場合について検討する。この場合、反射波の波長λ(=c/f=3.0×108[m/s]/81×109)は、3.7037[mm]となる。また、受信アンテナ50Aと受信アンテナ50Bとの間隔は、前述の状況と同じW=1.8987[mm]とする。この場合、図4に示す経路差D(=W)は、1.8987×sin(90°)となる。したがって、受信アンテナ50Aが受信する反射波Raと、受信アンテナ50Bが受信する反射波Rbとの位相差は、(1.8987[mm]/3.7037[mm])×360°×sin(90°)=184.55°となる。すなわち、送信波Tの周波数が81GHzの場合、受信アンテナ50Aが受信する反射波Ra(入射角90°)の位相は、受信アンテナ50Bが受信する反射波Rb(入射角90°)の位相よりも、184.55°だけ遅れる。このように、入射角θが大きくなる状況において、送信波Tの周波数が高くなると、複数の受信アンテナ50が受信する反射波Raの位相差が180°を超えることがある。
【0089】
しかしながら、複数の受信アンテナ50が受信する反射波Raの位相差が180°を超える場合、送信波Tを反射する物体の検出において不都合が生じることがある。例えば、上述のように反射波Raの位相が反射波Rbの位相よりも184.55°遅れる場合、反射波Raの位相が反射波Rbの位相よりも175.45°(=360°−184.55°)進んでいる場合と区別することが不可能になる。例えばレーダで物体を検出する場合に行う通常の処理のように、位相差を−180°から+180°までと規定する場合、上述の位相差は184.55°遅れているのではなく、175.45°進んでいると判定される。この場合、図4に示すように、受信アンテナ50は入射角θ=90°付近から(すなわち受信アンテナ50Bの右方から)反射波Rを受信しても、入射角θ=−90°付近から(すなわち受信アンテナ50Aの左方から)反射波Rを受信したと判定される。このように、複数の受信アンテナ50が受信する反射波Raの位相差が180°を超えると、送信波Tを反射する物体が精度良く検出されないおそれがある。
【0090】
一方、図3に示したように、受信アンテナ50が入射角θ=30°付近から反射波Rを受信しても、複数の受信アンテナ50が受信する反射波Rの位相差(92.28°程度)が180°を超えることはない。このため、入射角θが比較的大きくならない状況においては、前述のような不都合は生じない。ここで、入射角θが比較的大きいと判断する角度は、例えば80°以上の角度のような、90°付近よりも高くなる角度としてよい
【0091】
以上説明したように、入射角θが大きくなる状況において、送信波Tの周波数が高くなると、複数の受信アンテナ50が受信する反射波Raの位相差が180°を超えて不都合が生じることがある。したがって、一実施形態に係る電子機器1は、入射角θが大きくなる状況において、送信波Tの周波数が高くならないように制御する。」

上記段落【0088】〜【0091】の記載において、前記イで限定された「前記所定の周波数帯域幅における最大周波数で送信波を送信した場合に、前記複数の受信アンテナで受信する受信波の位相差が180°を超える電子機器」は、送信波Tを反射する物体の検出において不都合が生じる電子機器とされている。
また、「前記複数の受信アンテナで受信する受信波の位相差が180°を超える」のは、受信波の入射角θが大きくなる状況において、送信波Tの周波数を高く制御したときであるところ、前記段落【0091】においては、「一実施形態に係る電子機器1は、入射角θが大きくなる状況において、送信波Tの周波数が高くならないように制御する」と記載されており、当初明細書に開示された実施形態においては、電子機器が「前記所定の周波数帯域幅における最大周波数で送信波を送信した場合に、前記複数の受信アンテナで受信する受信波の位相差が180°を超え」ないように制御されていると認められる。
さらに、当初明細書の段落【0108】、【0121】、【0136】、【0145】、【0160】においても次に引用したように、受信波の入射角θが大きくなる状況においては、送信波Tの周波数を低く制御して、位相の進み/遅れの区別がつかなくなる不都合を回避することが記載されており、これらの段落の記載から、当初明細書に開示された実施形態のいずれにおいても、電子機器が、複数の受信アンテナで受信する受信波の位相差が180°を超えないように制御されていると認められる。

「【0108】
第1実施形態に係る電子機器1は、入射角θが所定の角度以上になる場合、送信波Tの周波数が高くならないように制御する。第1実施形態に係る電子機器1によれば、入射角θが大きくなる状況において、送信波Tの周波数が高くなることは回避される。このため、第1実施形態に係る電子機器1によれば、位相の進み/遅れの区別がつかなくなるという不都合は回避され、物体の検出精度を向上させることができる。」
「【0121】
第1実施形態に係る電子機器1によれば、入射角θが大きくなる状況において、送信波Tの周波数が低く制御される。このため、第1実施形態に係る電子機器1によれば、位相の進み/遅れの区別がつかなくなるという不都合は回避され、送信波Tを反射する物体が精度良く検出される。」
「【0136】
第2実施形態に係る電子機器1は、入射角θが第1角度以上になる場合、送信波Tの周波数が高くならないように制御する。第2実施形態に係る電子機器1によれば、入射角θが大きくなる状況において、送信波Tの周波数が高くなることは回避される。このため、第2実施形態に係る電子機器1によっても、位相の進み/遅れの区別がつかなくなるという不都合は回避され、物体の検出精度を向上させることができる。」
「【0145】
第2実施形態に係る電子機器1によっても、入射角θが大きくなる状況において、送信波Tの周波数が低く制御される。このため、第2実施形態に係る電子機器1によれば、位相の進み/遅れの区別がつかなくなるという不都合は回避され、送信波Tを反射する物体が精度良く検出される。また、第2実施形態に係る電子機器1によれば、図9に示したように、センサ5の検出用途及び/又は検出対象などに応じて、検出範囲を適応的に変化させることができる。」
「【0160】
第3実施形態に係る電子機器1によっても、物体の位置の角度が大きくなるにつれて、すなわち入射角θが大きくなる状況において、送信波Tの周波数が低く制御される。このため、第3実施形態に係る電子機器1によれば、位相の進み/遅れの区別がつかなくなるという不都合は回避され、送信波Tを反射する物体が精度良く検出される。また、第3実施形態に係る電子機器1によれば、図12に示したように、移動する物体200(物体200’)の位置に応じて、送信波Tを送信する周波数の帯域部分を動的に変化させることができる。」

そうすると、当初明細書において、実施形態として開示された電子機器1は、送信波Tの周波数を前記複数の受信アンテナで受信する受信波の位相差が180°を超えないように制御するものであって、前記イの限定事項を含む「前記所定の周波数帯域幅における最大周波数で送信波を送信した場合に、前記複数の受信アンテナで受信する受信波の位相差が180°を超える」ものではない。
また、そのほかの本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の内容を検討しても、前記イの限定事項の根拠となる記載も示唆もない。

してみると、前記イの限定をする補正を含む本件補正は、当初明細書等の記載を総合することによって導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。よって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。

(2) 独立特許要件について
仮に本件補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとして以下検討する。

ア 本件補正の目的
本件補正は、前記(1)に示したア及びイの限定をするものである。そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正のうち、請求項1についての補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

イ 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)の本件補正後の請求項1に記載した事項により特定されるとおりのものであって、「前記所定の周波数帯域幅における最大周波数で送信波を送信した場合に、前記複数の受信アンテナで受信する受信波の位相差が180°を超える電子機器」という発明特定事項を含むものである。

ウ サポート要件違反について
明細書の段落【0009】に「本開示の目的は、物体の検出精度を向上させる電子機器、電子機器の制御方法、及び電子機器の制御プログラムを提供することにある。」と記載されていることからみて、本件補正発明の解決しようとする課題は、物体の検出精度を向上することであると認められる。

この課題に対して、前記明細書の段落【0108】、【0121】、【0136】、【0145】、【0160】には、実施形態1〜3の電子機器において、「入射角θが大きくなる状況において、送信波Tの周波数が低く制御」されて、「位相の進み/遅れの区別がつかなくなるという不都合は回避」されて、「送信波Tを反射する物体が精度良く検出される」、すなわち、「前記複数の受信アンテナで受信する受信波の位相差が180°を超え」ないようにして、「位相の進み/遅れの区別がつかなくなるという不都合」を回避することで、課題を解決できるとしている。
そのため、「入射角θが大きくなる状況において、送信波Tの周波数が低く制御」されるようにして、「前記複数の受信アンテナで受信する受信波の位相差が180°を超え」ないようにすることが、前記課題に対する解決手段であると認められる。

そうすると、「前記複数の受信アンテナで受信する受信波の位相差が180°を超え」るとされている本件補正発明は、明細書に開示された課題を解決するための手段が反映されていない。
よって、「前記複数の受信アンテナで受信する受信波の位相差が180°を超える電子機器」である本件補正発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。

エ 当審における独立特許要件の判断のむすび
前記ア〜ウで検討したとおり、本件補正発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法36条6項1号の規定に該当し、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

(3) 本件補正についての当審における判断のむすび
前記(1)で検討したとおり、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
もしくは、前記(2)で検討したとおり、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。


第3 本件発明について
本件補正は、上記第2において説示したとおり却下されたので、本願の請求項1〜10に係る発明は、令和3年3月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定されるものであると認められる。そのうち、請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、前記1(1)の本件補正前の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。


第4 原査定における拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由のうち、本件発明についての拒絶の理由は、次のとおりである。

理由
本件発明は、本願の優先日前に発行された、次の引用文献3又は引用文献4に記載された事項に基づいて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献3:特開2005−121496号公報
引用文献4:特開2008−249399号公報

第5 引用文献等
1 引用発明
(1) 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3(特開2005−121496号公報)には、次の記載がある。なお、下線は、当審において付した。

「【0018】
[課題解決手段の好ましい態様]
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至6の構成に於いて、レーダー波は所謂ミリ波であるよう構成される(好ましい態様1)。」

「【0028】
図1は本発明による車輌の障害物検出レーダー装置の一つの実施例を示す概略構成図、図2は近距離・広視野用の第一のレーダー波により障害物が検出される第一の範囲及び遠距離・狭視野用の第二のレーダー波により障害物が検出される第二の範囲を示す説明図である。
【0029】
図1に於いて、10は障害物検出レーダー装置を全体的に示しており、レーダー装置10は高周波発信器12を含んでいる。高周波発信器12は図には示されていない周波数2倍器及び増幅器14を介して送信アンテナ16に接続されている。高周波発信器12は信号処理装置18の送信処理部18Aよりの制御信号によって制御され、FM変調幅が切り換えられることにより第一の高周波信号及び該第一の高周波信号よりも高周波の第二の高周波信号を択一的に発振し得るようになっている。
【0030】
かくして高周波発信器12は送信アンテナ16、送信処理部18A等と共働して送信アンテナ16より車輌20の前方へ近距離・広視野用の第一のレーダー波W1及び該第一のレーダー波よりも周波数が高い遠距離・狭視野用の第二のレーダー波W2を択一的に送信する送信装置22を構成している。
【0031】
図2に示されている如く、近距離・広視野用の第一のレーダー波W1は車輌20の前方の近距離且つ幅の広い第一の範囲24について障害物を検出するために使用され、遠距離・狭視野用の第二のレーダー波W2は車輌20の前方の遠距離且つ幅の狭い第二の範囲26について障害物を検出するために使用される。また第一の範囲24及び第二の範囲26はそれぞれ固有の領域25A及び25Bと共通の領域25Cとよりなり、互いに共働してレーダー装置10の障害物検出領域25を郭定している。
【0032】
また図1に於いて、30及び32はそれぞれチャンネルA及びBのアンテナを示しており、アンテナ30及び32は障害物により反射された第一のレーダー波W1を受信する第一のアンテナとして機能する。アンテナ30及び32はそれぞれRFミキサ34及び36、増幅器38及び40、ローパスフィルタ42及び44、A/D変換器46及び48を介して信号処理装置18の第一の受信処理部18Bに接続されている。RFミキサ34及び36にはアンテナ30及び32よりの受信信号及び送信装置22よりの第一のレーダー波W1の送信信号が入力され、RFミキサ34及び36はこれらの信号をミキシングした後第一の受信処理部18Bへ出力する。
【0033】
かくしてアンテナ30及び32はRFミキサ34及び36、第一の受信処理部18B等と共働して送信アンテナ16より送信され第一の範囲24に存在する障害物により反射された第一のレーダー波W1を受信する第一の受信装置50を構成している。尚アンテナ30及び32は車輌の横方向に距離D1互いに隔置されており、第一の受信処理部18Bは位相差モノパルス処理回路を含み、第一の受信装置50はモノパルスレーダー装置として機能する。
【0034】
また図1に於いて、52、54、56はそれぞれチャンネル1、2、3のアンテナを示しており、アンテナ52、54、56は障害物により反射された第二のレーダー波W2を受信する第二のアンテナとして機能する。アンテナ52、54、56はスイッチ回路58、増幅器60、RFミキサ62、増幅器64、ローパスフィルタ66、A/D変換器68を介して信号処理装置18の第二の受信処理部18Cに接続されている。スイッチ回路58は第二の受信処理部18Cよりの制御信号によって制御され、アンテナ52、54、56が受信した信号を択一的に増幅器60へ出力する。RFミキサ62にはアンテナ52、54、56により受信された信号及び送信装置22よりの第二のレーダー波W2の送信信号が入力され、RFミキサ60(当審注:「RFミキサ62」の誤記)はこれらの信号をミキシングした後第二の受信処理部18Cへ出力する。
【0035】
かくしてアンテナ52、54、56はスイッチ回路58、RFミキサ62、第二の受信処理部18C等と共働して送信アンテナ16より送信され第二の範囲26に存在する障害物により反射された第二のレーダー波W2を受信する第二の受信装置70を構成している。尚アンテナ52、54、56は車輌の横方向に距離D2の等距離互いに隔置されており、第二の受信処理部18Cはデジタルフィルタ、DBF処理回路、高分解能処理回路を含み、第二の受信装置64はDBF方式の電子スキャンレーダー装置として機能する。
【0036】
尚第一の受信装置50のアンテナ30及び32の間隔D1は第二の受信装置70のアンテナ52、54、56の間隔D2よりも小さい。また第一の受信装置50のアンテナ30及び32のビーム幅は第二の受信装置70のアンテナ52、54、56のビーム幅よりも大きい。
【0037】
またアンテナ52、54、56はそれぞれ車輌の横方向に互いに隔置された複数のアンテナよりなり、スイッチ回路58と同様のスイッチ回路を介してスイッチ回路58に接続されていてもよい。また図1に於いては、送信アンテナ16、第一のアンテナ30及び32、第二のアンテナ52、54、56は互いに他に対し車輌横方向に配列された状態にて図示されているが、例えば送信アンテナ16の上方又は下方に第一のアンテナ30及び32が配設され、送信アンテナ16の下方又は上方に第二のアンテナ52、54、56が配設されていてよい。
【0038】
信号処理装置18は認識処理部18Dを含み、認識処理部18Dには第一の受信処理部18Bよりの出力信号、第二の受信処理部18Cよりの出力信号、図には示されていない車速センサにより検出された車速Vを示す信号が入力される。認識処理回路18Dは上記各信号に基づき第一の範囲24若しくは第二の範囲26に障害物が検出されたか否かを判定し、障害物が検出されたときには障害物までの距離L1、L2、自車に対する障害物の相対速度Vr1、Vr2、車輌の前後方向に対する障害物の方向θ1、θ2を演算し、これらのデータに基づき障害物の存否及び障害物が第一の範囲24若しくは第二の範囲26に存在する確度を判定する。
【0039】
この場合図3に示されている如く、アンテナ30及び32により受信された第一のレーダー波W1の位相差に基づき障害物とアンテナ30及び32との間の距離の差ΔL1が演算され、下記の式1を満たす値として障害物の方向θ1が演算される。
ΔL1=D1sinθ1・・・(1)
【0040】
同様に、図3に示されている如く、アンテナ52、54、56により受信された第二のレーダー波W2の位相差に基づき障害物とアンテナ52、54、56との間の距離の差ΔL2が演算され、下記の式2を満たす値として障害物の方向θ2が演算される。尚θ2はアンテナ52、54により受信された第二のレーダー波W2の位相差に基づき演算される値とアンテナ54、56により受信された第二のレーダー波W2の位相差に基づき演算される値との平均値であってよい。
ΔL2=D2sinθ2・・・(2)」














(2) 図面から読み取れる事項の認定
明細書の段落【0029】における「図1に於いて、10は障害物検出レーダー装置を全体的に示しており、・・・」との記載からみて、引用文献3の図1は、レーダー装置10を全体的に示す図面であるところ、当該図1から、次の事項を読み取ることができる(以下「図面から読み取れる事項」という。)。

[図面から読み取れる事項]
「 レーダー装置10が、送信アンテナ16と高周波発信器12、増幅器14から構成される送信装置22と、アンテナ30及びアンテナ32と、RFミキサ34及びRFミキサ36と、アンテナ52、アンテナ54及びアンテナ56と、RFミキサ62と、送信処理部18A、第一の受信処理部18B、第2の受信処理部18C及び認識処理部18Dから構成される信号処理装置18を含むように構成されること。」

(3) 引用発明の認定
前記(1)及び(2)で摘記した記載をまとめると、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「 送信アンテナ16と高周波発信器12、増幅器14から構成される送信装置22と、アンテナ30及びアンテナ32と、RFミキサ34及びRFミキサ36と、アンテナ52、アンテナ54及びアンテナ56と、RFミキサ62と、送信処理部18A、第一の受信処理部18B、第2の受信処理部18C及び認識処理部18Dから構成される信号処理装置18を含むように構成されるレーダー装置10において、(【0029】、【図1】、(2)[図面から読み取れる事項])
送信装置22は、高周波発信器12、送信アンテナ16及び送信処理部18A等が共働して、送信アンテナ16より車輌20の前方へ近距離・広視野用の第一のレーダー波W1及び該第一のレーダー波よりも周波数が高い遠距離・狭視野用の第二のレーダー波W2を択一的に送信するように構成され、(【0030】)
レーダー波は所謂ミリ波であるよう構成され、(【0018】)
近距離・広視野用の第一のレーダー波W1は、車輌20の前方の近距離且つ幅の広い第一の範囲24について障害物を検出するために使用され、遠距離・狭視野用の第二のレーダー波W2は、車輌20の前方の遠距離且つ幅の狭い第二の範囲26について障害物を検出するために使用され、(【0031】)
高周波発信器12は、信号処理装置18の送信処理部18Aよりの制御信号によって制御され、FM変調幅が切り換えられることにより第一の高周波信号及び該第一の高周波信号よりも高周波の第二の高周波信号を択一的に発振し、(【0029】)
アンテナ30及びアンテナ32は、障害物により反射された第一のレーダー波W1を受信する第一のアンテナとして機能し(【0032】)
RFミキサ34及びRFミキサ36には、アンテナ30及びアンテナ32よりの受信信号及び送信装置22よりの第一のレーダー波W1の送信信号が入力され、RFミキサ34及びRFミキサ36は、これらの信号をミキシングした後第一の受信処理部18Bへ出力し、(【0032】)
アンテナ52、アンテナ54及びアンテナ56は、障害物により反射された第二のレーダー波W2を受信する第二のアンテナとして機能し、(【0034】)
RFミキサ62には、アンテナ52、アンテナ54及びアンテナ56により受信された信号及び送信装置22よりの第二のレーダー波W2の送信信号が入力され、RFミキサ62は、これらの信号をミキシングした後第二の受信処理部18Cへ出力し、(【0034】)
信号処理装置18は、認識処理部18Dを含み、認識処理部18Dには、第一の受信処理部18Bよりの出力信号、第二の受信処理部18Cよりの出力信号、車速センサにより検出された車速Vを示す信号が入力され、認識処理回路18Dは、上記各信号に基づき第一の範囲24若しくは第二の範囲26に障害物が検出されたか否かを判定し、障害物が検出されたときには障害物までの距離L1、L2、自車に対する障害物の相対速度Vr1、Vr2、車輌の前後方向に対する障害物の方向θ1、θ2を演算し、これらのデータに基づき障害物の存否及び障害物が第一の範囲24若しくは第二の範囲26に存在する確度を判定する、(【0038】)
レーダー装置10(【0029】、【図1】)」


第6 対比
1 対比分析
以下、本件発明と引用発明を対比する。
(1) 引用発明は、「レーダー装置10」の発明であるところ、レーダー装置は、電子機器であるから、本件発明と引用発明は、「電子機器」の発明である点で一致する。

(2) 引用発明における「第一のレーダー波W1」と「第2のレーダー波W2」は、本件発明における「送信波」に相当する。また、引用発明の「送信アンテナ16」は、前記「第一のレーダー波W1」と「第2のレーダー波W2」を送信するものであるから本件発明の「送信波を送信する送信アンテナ」に相当する。
よって、本件発明と引用発明は、電子機器が「送信波を送信する送信アンテナ」を備える点で共通する。

(3) 引用発明における「障害物により反射された第一のレーダー波W1」と「障害物により反射された第二のレーダー波W2」は、本件発明の「前記送信波が反射された反射波」に相当する。また、「障害物により反射された第一のレーダー波W1」を受信する「アンテナ30」及び「アンテナ32」と、「障害物により反射された第二のレーダー波W2」を受信する「アンテナ52」、「アンテナ54」、及び、「アンテナ56」は、それぞれ、本件発明の「送信波が反射された反射波を受信する」「受信アンテナ」に相当する。そして、引用発明は、前記「アンテナ30」、「アンテナ32」、「アンテナ52」、「アンテナ54」、及び「アンテナ56」を備えるから、本件発明の「受信アンテナ」に相当するアンテナを複数備えるものである。
よって、本件発明と引用発明は、電子機器が「前記送信波が反射された反射波を受信する複数の受信アンテナ」を備える点で一致する。

(4)ア 前記(2)を踏まえると、引用発明の「RFミキサ34及びRFミキサ36」に入力される「送信装置22からの第一のレーダー波W1の送信信号」と、「RFミキサ62」に入力される「送信装置22からの第二のレーダー波W2の送信信号」は、ともに本件発明の「前記送信波として送信される送信信号」に相当する。
イ また、前記(3)を踏まえると、引用発明の「RFミキサ34及びRFミキサ36」に入力される「アンテナ30及びアンテナ32からの受信信号」と、「RFミキサ62」に入力される「アンテナ54及びアンテナ56により受信された信号」は、障害物から反射された第一のレーダー波W1又は第二のレーダーはW2を受信したときの信号であるから、ともに本件発明の「反射波として受信される受信信号」に相当する。
ウ 引用発明の「障害物」は、「第一のレーダー波W1」、「第二のレーダー波W2」を反射するものであり、この反射された「第一のレーダー波W1」、「第二のレーダー波W2」は、「アンテナ30及びアンテナ32」、「アンテナ52、アンテナ54及びアンテナ56」により受信されるから、引用発明の「障害物」は、本件発明の「前記送信波を反射する物体」に相当する。
エ 引用発明の「信号処理装置18」は、本件発明の「制御部」に相当する。
引用発明においては、前記ア及びイで検討したとおり、RFミキサ34、RFミキサ36、RFミキサ62に、送信波として送信される送信信号と受信信号が入力され、「これらの信号をミキシングした」信号は、「信号処理装置18」が含む「第一の受信処理部18B」、「第二の受信処理部18C」に入力されている。
そして、「第一の受信処理部18Bからの出力信号」、「第二の受信処理部18Cからの出力信号」等に基づいて、「信号処理装置18」が含む「認識処理回路18D」が「障害物が検出されたか否か」を判定しているから、この「信号処理装置18」における「障害物が検出されたか否か」の「判定」は、送信波として送信される送信信号と受信信号に基づくものである。
エ 前記ア〜ウの対比結果をまとめると、本件発明と引用発明は、「前記送信波として送信される送信信号及び前記反射波として受信される受信信号に基づいて、前記送信波を反射する物体を検出する制御部」を備える点で一致する。

2 一致点及び相違点
前記1における対比分析の内容をまとめると、本件発明と引用発明は、次の一致点において一致し、次の相違点1及び2において相違する。
[一致点]
「 送信波を送信する送信アンテナと、
前記送信波が反射された反射波を受信する複数の受信アンテナと、
前記送信波として送信される送信信号及び前記反射波として受信される受信信号に基づいて、前記送信波を反射する物体を検出する制御部と、
を備える電子機器。」

[相違点1]
本件発明は、「送信波を送信する」「送信アンテナ」を複数備えるのに対して、引用発明においては、送信アンテナ16を複数備えることは記載されていない点。

[相違点2]
本件発明は、「制御部」により「前記受信アンテナが前記反射波を受信する際の入射角の範囲に応じて、前記送信波を所定の周波数帯域において送信する帯域部分を決定し、前記入射角の範囲が所定の角度範囲以上になる場合、前記帯域部分の周波数が前記所定の周波数帯域において所定の周波数以下になるように」しているのに対して、引用発明は、「近距離・広視野用の第一のレーダー波W1は、車輌20の前方の近距離且つ幅の広い第一の範囲24について障害物を検出するために使用され、遠距離・狭視野用の第二のレーダー波W2は、車輌20の前方の遠距離且つ幅の狭い第二の範囲26について障害物を検出するために使用され」るが、前記「第一の範囲24」、「第二の範囲26」において、レーダー波の入射角の範囲と送信波の周波数の関係が不明である点。


第7 判断
相違点の判断
以下、相違点1及び2について判断する。
(1) 相違点1について
レーダー装置の技術分野において、送信波を送信する送信アンテナを複数備えることは、例を挙げるまでもなく本願の優先日前に周知な事項であって、送信アンテナの具体的な数は、所望とする出力や走査を行うか等に応じて当業者が適宜決め得る設計事項にすぎないものである。
よって、引用発明において、送信アンテナを複数設けるようにして、前記相違点1に係る構成を得ることは、当業者が適宜なし得たことである。

(2) 相違点2について
ア 本件発明において、「前記受信アンテナが前記反射波を受信する際の入射角の範囲に応じて、前記送信波を所定の周波数帯域において送信する帯域部分を決定」している点に関して、明細書の【0030】、【0031】、【0111】〜【0115】には、次の記載がある。

「【0030】
検出範囲決定部14は、送信アンテナ40から送信する送信波T及び受信アンテナ50から受信する反射波Rによって物体を検出する範囲を決定する。一実施形態において、検出範囲決定部14は、距離推定部62及び角度推定部64の少なくとも一方による推定に基づいて、物体検出範囲を決定してもよい。検出範囲決定部14による物体検出範囲の決定については、さらに後述する。検出範囲決定部14は、決定した物体検出範囲を、周波数選定部16に通知してもよい。
【0031】
周波数選定部16は、送信アンテナ40から送信する送信波Tの周波数を決定する。一実施形態において、周波数選定部16は、例えば検出に使用可能な周波数帯域として用意された所定の周波数帯域において、送信波Tを送信する所定の帯域部分を選定する。また、一実施形態において、周波数選定部16は、検出範囲決定部14によって決定された検出範囲に基づいて、送信波Tを送信する所定の帯域部分を選定してもよい。このような、周波数選定部16による所定の帯域部分の選定については、さらに後述する。周波数選定部16は、選定した周波数を、周波数シンセサイザ24に通知してもよい。この場合、周波数シンセサイザ24は、周波数選定部16によって選定された所定の周波数帯の周波数まで、送信波Tの周波数を上昇させることができる。」

「【0111】
図8に示す動作が開始すると、制御部10の検出範囲決定部14は、送信波T及び反射波Rによって物体を検出する範囲を決定する(ステップS11)。ステップS11においては、検出範囲決定部14は、例えば図6に示したセンサ5cによる検出範囲を、検出範囲S1にするか検出範囲S2にするかを決定してもよい。
【0112】
ステップS11において、検出範囲決定部14は、例えばデフォルトで規定されている範囲を、検出範囲として決定してもよい。また、ステップS11において、検出範囲決定部14は、例えば以前のフレームの送信波Tによって検出された物体の位置に基づいて、検出範囲を決定してもよい。この場合、検出範囲決定部14は、距離推定部62、角度推定部64、及び相対速度推定部66の少なくともいずれかによる物体の検出結果に基づいて、検出範囲を決定してもよい。
【0113】
ステップS11において検出範囲が決定されたら、制御部10は、反射波Rの入射角θが所定の角度以上になるか否か判定する(ステップS12)。ステップS12において、所定の角度とは、上述のように、例えば80°とするなど、図3及び図4において説明した位相の進み/遅れの区別がつかなくなるような閾値に基づく角度を、適宜設定してよい。すなわち、ステップS12において、反射波Rの入射角θが所定の角度以上になると、図3及び図4において説明した位相の進み/遅れの区別がつかなくなるような角度を設定してよい。
【0114】
ステップS12において反射波Rの入射角θが所定の角度以上になると判定された場合、周波数選定部16は、所定の周波数帯域において、所定の周波数より低い第1帯域部分の周波数を選定する(ステップ13)。ここで、所定の周波数帯域とは、上述したように、検出に使用可能な周波数帯域(例えば77GHzから81GHzまで)としてよい。また、所定の周波数より低い第1帯域部分とは、例えば図7に示した帯域部分fr1としてよい。また、所定の周波数とは、例えば図5に示した中心周波数(79GHz)としてもよい。また、ステップ13において、制御部10は、選定された周波数を使用して、送信波Tを送信アンテナ40から送信する。
【0115】
一方、ステップS12において反射波Rの入射角θが所定の角度より小さくなると判定された場合、周波数選定部16は、所定の周波数帯域において、所定の周波数より高い第2帯域部分の周波数を選定する(ステップ14)。ここで、所定の周波数帯域とは、上述したように、検出に使用可能な周波数帯域(例えば77GHzから81GHzまで)としてよい。また、所定の周波数より高い第2帯域部分とは、例えば図7に示した帯域部分fr2としてよい。また、所定の周波数とは、例えば図5に示した中心周波数(79GHz)としてもよい。また、ステップ14においても、制御部10は、選定された周波数を使用して、送信波Tを送信アンテナ40から送信する。」

本願の明細書の【0030】、【0031】、【0111】〜【0115】の記載に照らすと、本件発明の「前記受信アンテナが前記反射波を受信する際の入射角の範囲に応じて、前記送信波を所定の周波数帯域において送信する帯域部分を決定」することは、電子機器において、「物体を検出する範囲」の決定に基づいて「送信波」の「所定の帯域部分を選定」するものを含むことは明らかである。

イ 引用発明においては、「第一のレーダー波W1」は、「車輌20の前方の近距離且つ幅の広い第一の範囲24」の障害物の検出、「第二のレーダー波W2」は、「車輌20の前方の遠距離且つ幅の狭い第二の範囲26」の障害物の検出に使用されるものである。
また、障害物により反射された「第一のレーダー波W1」、「第二のレーダー波W2」は、それぞれ「アンテナ30及びアンテナ32」よりなる「第一のアンテナ」、「アンテナ52、54及びアンテナ56」よりなる「第二のアンテナ」により受信されることを踏まえると、レーダー装置において障害物が検出されるときには、第一の範囲24又は第二の範囲26に存在する障害物により、第一のレーダー波W1又は第二のレーダー波W2が反射され、レーダー装置の第一のアンテナ又は第二のアンテナが反射された第一のレーダー波W1又は第二のレーダー波W2を受信していることは明らかである。
そうすると、引用発明の「車輌20の前方の近距離且つ幅の広い第一の範囲24」に対応する反射波の入射角の範囲と「車輌20の前方の遠距離且つ幅の狭い第二の範囲26」に対応する反射波の入射角の範囲は、本件発明の「前記受信アンテナが前記反射波を受信する際の入射角の範囲」に相当するといえる。

ウ 引用発明において、送信アンテナ16より前方へ近距離・広視野用の第一のレーダー波W1と該第一のレーダー波よりも周波数が高い遠距離・狭視野用の第二のレーダー波W2が、択一的に送信されているところ、近距離・広視野用と遠距離・狭視野用の2つのレーダー波のうちの一方が選択されて、送信されることから、「物体を検出する範囲」が近距離・広視野と遠距離・狭視野のいずれか一方の範囲に決定され、対応するレーダー波が送信されていることは、明らかである。
また、引用発明において、「近距離且つ幅の広い第一の範囲24」の障害物の検出を行う場合には、「第一のレーダー波W1」を使用し、「遠距離且つ幅の狭い第二の範囲26」の障害物の検出を行う場合には、「第二のレーダー波W2」を使用しており、「第一のレーダー波W1」の周波数は、「第二のレーダー波W2」の周波数より低く、異なるから、前記ア及びイの検討結果を踏まえると、引用発明においては、前記「第一の範囲24」又は前記「第二の範囲26」に対応する反射波の入射角の範囲、すなわち、「前記受信アンテナが前記反射波を受信する際の入射角の範囲」に応じて、送信波の「周波数」、すなわち、「帯域部分」が選定されているといえる。

エ また、引用発明の「近距離且つ幅の広い第一の範囲24」は、「遠距離且つ幅の狭い第二の範囲26」よりも障害物からの反射波の入射角の範囲が広く、「第二の範囲26」の反射波の入射角の角度範囲を包含するから、引用発明において、当該「第一の範囲24」の障害物を検出する場合は、本件発明における「前記入射角の範囲が所定の角度範囲以上になる場合」に相当する。
そして、引用発明においては、「近距離且つ幅の広い第一の範囲24」の障害物の検出を行う場合、すなわち、「前記入射角の範囲が所定の角度範囲以上になる場合」に「第二のレーダー波W2」の周波数よりも周波数が低い「第一のレーダー波」を使用しているところ、この「第一のレーダー波」の周波数と、「第二のレーダー波W2」の周波数は、本件発明において決定される「帯域部分」と、「所定の周波数」に対応するから、引用発明は、「前記入射角の範囲が所定の角度範囲以上になる場合、前記帯域部分の周波数が前記所定の周波数帯域において所定の周波数以下」となる構成を備えることになる。

オ そして、本件発明は、「所定の周波数帯域」における「所定」の記載が具体的な「周波数帯域」を特定しておらず、本件発明の「所定の周波数帯域」において決定される「帯域部分」が、幅又は範囲を有するものであることが規定されていないから、当該「帯域部分」には、単一周波数のものも含まれている。
そのため、引用発明の「第一のレーダー波W1」、「第二のレーダー波W2」の周波数と、本件発明の「所定の周波数帯域」における「帯域部分」の間に差異はないというべきである。
なお、仮に本件発明の「帯域部分」が幅又は範囲を有するものであったとしても、レーダーの送信波の周波数を所定の幅又は範囲を有するものとすることは、本願の優先日前における常套の手段であるから、「第一のレーダー波W1」の送信周波数を所定の幅又は範囲を有するものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。

カ 前記ア〜オの検討内容をまとめると、本件発明において、「前記受信アンテナが前記反射波を受信する際の入射角の範囲に応じて、前記送信波を所定の周波数帯域において送信する帯域部分を決定」し、「前記入射角の範囲が所定の角度範囲以上になる場合、前記帯域部分の周波数が前記所定の周波数帯域において所定の周波数以下」となる構成は、引用発明において、「車輌20の前方の近距離且つ幅の広い第一の範囲24」内の障害物の検出をするときに、「第一のレーダー波W1」と「該第一のレーダー波よりも周波数が高い第二のレーダー波W2」のなかから、「第一のレーダー波W1」を択一的に送信することから、引用発明においても備えられている構成であるといえる。

キ 上記ア〜カの検討結果を踏まえると、上記相違点2は、本件発明と引用発明の間の実質的な相違点ではない。

(3) 相違点判断のむすび
本件発明は、引用発明と周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明の奏する効果は、引用発明と周知の事項から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものは認められない。

2 請求人の主張について
(1) 請求人の主張の内容
請求人は、令和3年7月16日に提出した審判請求書において、以下の主張(以下「主張」という。)をしている。

[主張]
引用文献3に記載の技術は、パルス式のレーダーであり、本件発明とは構成が異なる。このような引用発明3との相違点に起因して、本件発明は、本件発明独自の特徴とする構成により、物体の検出精度を向上させることができるという、顕著な効果を有する。

(2) 請求人の主張についての判断
前記第2の1(1)に示した請求項1には、送信波や受信波がパルスであるか否かが特定されておらず、本件発明がパルス式であるか否かも特定されていない。
他方で、本件の明細書の段落【0070】における「 一方、信号生成部22が生成する信号は、FMCW方式の信号に限定されない。信号生成部22が生成する信号は、例えば、パルス方式、パルス圧縮方式(スペクトラム拡散方式)、又は周波CW(Continuous Wave)方式など、各種の方式の信号としてもよい。ミリ波方式のレーダによって距離などを測定する際、周波数変調連続波レーダ(以下、FMCWレーダ(Frequency Modulated Continuous Wave radar)と記す)が用いられることが多い。」の記載からみて、本件発明は、パルス式のレーダを含むものである。
よって、請求人の主張は、上記請求項1の記載に基づいた主張ではなく採用できない。


第8 むすび
以上検討のとおり、本件発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-03-31 
結審通知日 2022-04-05 
審決日 2022-04-18 
出願番号 P2020-500221
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01S)
P 1 8・ 561- Z (G01S)
P 1 8・ 121- Z (G01S)
P 1 8・ 537- Z (G01S)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 居島 一仁
特許庁審判官 中塚 直樹
清水 靖記
発明の名称 電子機器、電子機器の制御方法、及び電子機器の制御プログラム  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 光嗣  
代理人 坪内 伸  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ