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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M |
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管理番号 | 1386024 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-08-31 |
確定日 | 2022-06-16 |
事件の表示 | 特願2017−120495「電源装置および照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月17日出願公開、特開2019− 9834、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成29年6月20日の出願であって、令和2年12月7日付けで拒絶の理由が通知され、令和3年2月15日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年5月31日付けで拒絶査定(謄本送達日同年6月2日)がなされ、これに対して同年8月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、同年10月12日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和3年5月31日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ●理由1について ・請求項 1、5 ・引用文献等 1、2 ・請求項 2 ・引用文献等 1−3 <引用文献等一覧> 1.特開2011−155748号公報 2.特開2017−060383号公報(周知技術を示す文献) 3.特開2002−354783号公報(周知技術を示す文献) 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 本件補正によって、請求項1及び2に「前記第2スイッチング素子を有する起動回路が集積回路に集積され」という事項を追加する補正は、本件補正前の請求項1及び2に記載された「起動回路」につき限定的に減縮するものであって、本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、「前記第2スイッチング素子を有する起動回路が集積回路に集積され」という事項は、当初明細書の段落【0029】及び【0050】並びに図面の図1及び2等に記載されているから、当該補正は新規事項を追加するものではない。 そして、以下、第4〜第6に示すように、本件補正後の請求項1〜5に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。 第4 本願発明 本願請求項1〜5に係る発明(以下、「本願発明1」〜「本願発明5」といい、必要に応じて、これらをまとめて「本願発明」という。)は、令和3年8月31日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された、次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 第1スイッチング素子、およびこの第1スイッチング素子に直列に接続されるインダクタを有する降圧チョッパ回路と; 前記インダクタとグラウンドとの間に接続され、起動信号の入力時にオンする第2スイッチング素子を有する起動回路と; 前記起動回路への前記起動信号の非入力時に、前記第2スイッチング素子の短絡を監視する監視回路と; 前記監視回路による前記第2スイッチング素子の短絡の検出により前記第1スイッチング素子の動作を停止させる保護回路と; 前記降圧チョッパ回路の出力電圧を検出する検出回路と; を具備し、 前記第2スイッチング素子を有する起動回路が集積回路に集積され、前記監視回路は、前記起動回路への前記起動信号の非入力時で、かつ前記検出回路で検出される出力電圧が所定の閾値よりも低い場合、前記第2スイッチング素子の短絡を検出する ことを特徴とする電源装置。 【請求項2】 第1スイッチング素子、およびこの第1スイッチング素子に直列に接続されるインダクタを有する降圧チョッパ回路と; 前記インダクタとグラウンドとの間に接続され、起動信号の入力時にオンする第2スイッチング素子を有する起動回路と; 前記起動回路への前記起動信号の非入力時に、前記第2スイッチング素子の短絡を監視する監視回路と; 前記監視回路による前記第2スイッチング素子の短絡の検出により前記第1スイッチング素子の動作を停止させる保護回路と; 前記インダクタと前記第2スイッチング素子との接続点に接続され、前記降圧チョッパ回路の出力電圧を検出する検出回路と; を具備し、 前記第2スイッチング素子を有する起動回路が集積回路に集積され、前記監視回路は、前記起動回路への前記起動信号の非入力時に、前記検出回路で検出される出力電圧が第1閾値よりも高いか監視するとともにこの第1閾値よりも低い第2閾値よりも低いかを監視し、前記検出回路で検出される出力電圧が前記第2閾値よりも低い場合に前記第2スイッチング素子の短絡を検出する ことを特徴とする電源装置。 【請求項3】 前記保護回路は、前記インダクタと前記検出回路との接続点と前記第2スイッチング素子との間に接続され、温度上昇により抵抗値が増加する感温素子を有する ことを特徴とする請求項2記載の電源装置。 【請求項4】 第1スイッチング素子、およびこの第1スイッチング素子に直列に接続されるインダクタを有する降圧チョッパ回路と; 前記インダクタとグラウンドとの間に接続され、起動信号の入力時にオンする第2スイッチング素子を有する起動回路と; 前記インダクタと前記第2スイッチング素子との間に接続され、温度上昇により抵抗値が増加する感温素子を有する保護回路と; を具備することを特徴とする電源装置。 【請求項5】 光源と; 請求項1ないし4いずれか一記載の電源装置と; を具備することを特徴とする照明装置。」 第5 引用例及び引用発明 1 引用例1に記載された事項及び引用発明 ア 原査定の拒絶の理由において引用した、本願の出願前に既に公知である、特開2011−155748号公報(平成23年8月11日公開。以下、これを「引用例1」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。) A 「【0004】 この種の電源装置1では、直流電源たるダイオードブリッジDBの低電圧側の出力端と、第1スイッチング素子Q1の低電圧側の端子との間には、ダイオードD1及び出力回路が介在することになるので、制御回路2の駆動部2aが第1スイッチング素子Q1の駆動に用いる電源とするために、一端が第1スイッチング素子Q1の低電圧側の一端(すなわち第1スイッチング素子Q1とダイオードD1との間)に接続された駆動用コンデンサCsが設けられる。 【0005】 さらに、駆動用コンデンサCsの他端に接続されるとともにダイオードブリッジDBから抵抗Rcを介して電力を供給されて駆動用コンデンサを充電する充電用電源としての充電用コンデンサCcが設けられる。すなわち、ダイオードD1と出力回路とのループに電流が流れている期間には、第1スイッチング素子Q1の低電圧側の一端の電位はダイオードブリッジDBの低電圧側の出力端の電位に略一致するから、充電用コンデンサCsから充電用ダイオードDcを介して供給される電流により駆動用コンデンサCsが充電される。このとき、駆動用コンデンサCsを充電する電流は、インダクタL1を含むループに流れることになる。 【0006】 さらに、図14の例では、制御回路2は、電源が投入されてから所定の充電時間を計時するとともに充電時間の計時中は論理和回路OR1を介した出力により昇圧用スイッチング素子Qbをオン駆動するタイマ部2cを有する。すなわち、上記動作により昇圧用スイッチング素子Qbがオンされている期間には、駆動用コンデンサCsは、インダクタL1と昇圧用スイッチング素子Qbとを介して流れる電流により充電される。 【0007】 しかしながら、例えば電源がオンされた直後などで駆動用コンデンサCsが全く充電されていない状態から、上記のようにインダクタL1を通じた経路で駆動用コンデンサが充電される場合、インダクタL1の作用により、駆動用コンデンサCsが充分に充電されるまでに時間がかかったり、駆動用コンデンサCsの両端電圧の制御が困難となったりすることが考えられる。 【0008】 特許文献1においては、ダイオードD1の両端間の短絡をオンオフするスイッチ(図示せず)を設けるとともに、電源がオンされた後に制御回路2が第1スイッチング素子Q1のオンオフ駆動を開始する前に上記のスイッチをオンする技術も開示されている。すなわち、上記のスイッチを介した経路であってインダクタL1を介さない経路での充電が可能となるから、駆動用コンデンサCsの両端電圧を比較的に短時間で安定させることができる。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0009】 【特許文献1】特開2002−354783号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 しかしながら、上記のスイッチがオンされた直後に急激に電流が流れることで、駆動用コンデンサCsや駆動用コンデンサCsの充電経路を構成する充電用ダイオードDc等の回路部品に過大な電気的ストレスがかかってしまう可能性があった。 【0011】 本発明は、上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、駆動用コンデンサの充電開始時に急激に電流が流れることを防ぐことができる電源装置及び照明器具を提供することにある。 …(中略)… 【0029】 (実施形態1) 本実施形態は、図1に示すように、発光ダイオードアレイLEDを点灯させる直流電力を出力するものである。 【0030】 具体的に説明すると、本実施形態の電源装置1は、低電圧側の出力端がグランドに接続された直流電源Eと、直流電源Eの高電圧側の出力端にドレインが接続されたNチャネル型のMOSFETからなる第1スイッチング素子Q1と、第1スイッチング素子Q1のソースにカソードが接続されるとともにアノードがグランドに接続されたダイオードD1と、ダイオードD1と第1スイッチング素子Q1との接続点に一端が接続されたインダクタL1と、インダクタL1の他端に一端が接続されて他端がグランドに接続されたコンデンサC1と、第1スイッチング素子Q1のゲートに適宜の電圧を出力することで第1スイッチング素子Q1をオンオフ駆動する制御回路2とを備え、コンデンサC1の両端が出力端として発光ダイオードアレイLEDに接続されている。すなわち、第1スイッチング素子Q1と、ダイオードD1と、インダクタL1と、コンデンサC1とで、周知のバックコンバータが構成されている。また、インダクタL1とコンデンサC1とが請求項における出力回路を構成している。 【0031】 直流電源Eは、周知のローパスフィルタLPFを介して交流電源ACから入力された交流電力を全波整流するダイオードブリッジDBと、ダイオードブリッジDBの直流出力を所定電圧の直流出力に変換する周知のブーストコンバータとからなる。すなわち、ダイオードブリッジDBの出力端間には、インダクタL0とスイッチング素子Q0との直列回路が接続され、スイッチング素子Q0にはダイオードD0とコンデンサC0との直列回路が並列に接続されている。さらに、本実施形態は、直流電源Eのスイッチング素子Q0をオンオフ駆動する電源駆動回路E1を有する。電源駆動回路E1は、例えば直流電源Eの出力電圧を一定に保つようにスイッチング素子Q0のオンデューティを随時変更する。このような電源駆動回路E1は周知技術で実現可能であるので、詳細な図示並びに説明は省略する。 【0032】 また、本実施形態は、制御回路2にとって第1スイッチング素子Q1を駆動するための電源となる駆動用コンデンサCsを有する。駆動用コンデンサCsは、一端を第1スイッチング素子Q1のソースに接続されている。さらに、本実施形態は、駆動用コンデンサCsを充電する充電用電源としての充電用コンデンサCcを備える。充電用コンデンサCcは例えば電解コンデンサからなり、一端(低電圧側)がグランドに接続される一方、他端(高電圧側)は、駆動用コンデンサCsにおいて第1スイッチング素子Q1に接続されていない側の端子(すなわち高電圧側の端子)に対し、充電用ダイオードDcを介して接続されている。さらに、充電用コンデンサCcの上記他端(高電圧側)は、抵抗Rcを介してダイオードブリッジDBの高電圧側の直流出力端に接続されており、充電用コンデンサCcはダイオードブリッジDBの出力により随時充電される。なお、上記のように充電用コンデンサCcを抵抗Rcを介して直流電源Eに接続する代わりに、充電用コンデンサCcを充電する電流を例えばトランス(図示せず)を用いて生成する構成としてもよい。 【0033】 さらに、ダイオードD3の両端間には、抵抗Rdと、Nチャネル型のMOSFETからなるスイッチング素子Q2との直列回路が並列に接続されている。 【0034】 ここで、インダクタL1を電流が流れている期間には、駆動用コンデンサCsは、受電用コンデンサCcと、ダイオードDcと、駆動用コンデンサCsと、インダクタL1と、コンデンサC1と発光ダイオードアレイLEDとの並列回路とで構成されるループに流れる電流により充電される。 【0035】 また、第2スイッチング素子Q2がオンされている期間には、駆動用コンデンサCsは、充電用コンデンサCcと、ダイオードDcと、駆動用コンデンサCsと、抵抗Rdと第2スイッチング素子Q2との直列回路とで構成されるループに流れる電流により充電される。 【0036】 次に、制御回路2の動作を説明する。制御回路2は、PWM信号生成回路3からPWM信号Vpを入力され、入力されたPWM信号Vpに応じて動作する。 【0037】 まず、PWM信号Vpについて説明すると、PWM信号Vpは0〜1のオンデューティをとりオンデューティが0でも1でもないときにはHレベルとLレベルとの間で信号レベル(例えば電圧値)を周期的に切り替える矩形波である。さらに、PWM信号生成回路3は、HレベルとLレベルとのいずれかの信号レベルをとるリセット信号Vrsを入力されており、リセット信号VrsがHレベルである期間には上記のオンデューティを0として制御回路2に出力するPWM信号Vpの信号レベルをLレベルに固定する。リセット信号VrsがLレベルである期間中にPWM信号生成回路3が出力するPWM信号Vpのオンデューティについては、例えば予めPWM信号生成回路3に保持されたプログラムに従って決定されるものとしてもよいし、外部からの入力に応じて決定されるものとしてもよい。 【0038】 なお、リセット信号Vrsの信号レベルと動作との対応関係は上記に限られず、上記とは逆にリセット信号VrsがLレベルであるときにPWM信号VpがLレベルに固定されるようにしてもよい。また、リセット信号Vrsは外部から入力されるものであってもよいし、短絡や過電流やコンデンサC1の両端間に負荷が接続されていない無負荷状態などの異常を検出してリセット信号Vrsを出力する異常検出回路(図示せず)を電源装置1に設けてもよい。上記のような異常検出回路は周知技術で実現可能であるので、詳細な図示並びに説明は省略する。 【0039】 制御回路2は、PWM信号Vpのオンデューティ(すなわち、1周期の中でHレベルの時間が占める割合)が高いほど、出力電力を増加させる。 【0040】 具体的には、制御回路2は、図2及び図3に示すように、入力されたPWM信号Vpを所定の遅延時間tdだけ遅延させた遅延信号Vpdを出力する遅延回路21と、PWM信号Vpの周波数に対して充分に高い周波数の矩形波である駆動信号を生成する発振回路22と、遅延回路21が出力した遅延信号Vpdと発振回路22の出力との論理積をとる論理積回路ANDとを有する。そして、論理積回路ANDの出力がHレベルである期間には第1スイッチング素子Q1がオンされ、論理積回路ANDの出力がLレベルである期間には第1スイッチング素子Q1がオフされる。つまり、遅延信号VpdがHレベルである期間は、第1スイッチング素子Q1が駆動信号の周波数で周期的に繰り返しオンオフ駆動されるという動作(以下、「通常動作」と呼ぶ。)が行われる期間(以下、「オン期間」と呼ぶ。)とされている。さらに、遅延信号VpdがLレベルである期間は、第1スイッチング素子Q1がオフ状態に維持される期間(以下、「オフ期間」と呼ぶ。)とされている。上記のオン期間Tonとオフ期間Toffの合計に対してオン期間Tonが占める割合は、PWM信号Vpのオンデューティに一致する。 【0041】 さらに、制御回路2は、入力されたPWM信号Vpから遅延信号Vpdを減算するとともに負の部分をLレベルに揃えることで第2スイッチング素子Q2の駆動用の出力を生成する減算回路23を備える。すなわち、減算回路23の出力がHレベルである期間には第2スイッチング素子Q2がオンされ、減算回路23の出力がLレベルである期間には第2スイッチング素子Q2がオフされる。 【0042】 従って、図3に示すように、オン期間Ton毎に1回ずつ、オン期間Tonの開始直前に遅延時間tdにわたり第1スイッチング素子Q1がオフ状態に維持されたまま第2スイッチング素子Q2がオン状態とされることで駆動用コンデンサCsが充電されるという充電動作が行われることになる。 【0043】 また、電源がオンされて直流電源Eからの直流電力の出力が開始された時点から継続してPWM信号Vpのオンデューティが1である場合、図4に示すように、電源がオンされた直後の遅延時間tdにのみ第2スイッチング素子Q2がオンされるとともに第1スイッチング素子Q1がオフされた状態となり、その後は第2スイッチング素子Q2がオフ状態に維持されたまま第1スイッチングQ1が繰り返しオンオフ駆動される通常動作が継続されることになる。」 B 「【0067】 ここで、上記の各実施形態において、第2スイッチング素子Q2を制御回路2とともに1チップの集積回路に構成してもよく、さらに他の素子を集積化してもよい。制御回路2とともに集積化される素子としては、第2スイッチング素子Q2の他に、第2スイッチング素子Q2に直列に接続された抵抗Rdや、充電用コンデンサCcと駆動用コンデンサCsとの間に介在するダイオードDcなどが考えられ、技術的に可能であれば駆動用コンデンサCsを集積化してもよい。上記のように適宜の集積化を行うことで、部品点数を削減して小型化が可能となる。さらに、第2スイッチング素子Q2を集積化した場合には、制御回路2のみを集積回路で構成する場合に比べ、制御回路2を構成する集積回路において第2スイッチング素子Q2のゲートに接続されていた端子を削減することができる。この場合において、第2スイッチング素子Q2は、高耐圧プロセスと呼ばれる周知技術を用いて、DMOS(Double-Diffused MOSFET)構造として形成することができる。」 C 「 図1」 D 「 図4」 イ 上記記載事項Aの段落【0033】に記載された、「ダイオードD3の両端間には」とあるのは、上記記載事項Cの図1や、引用例1の記載全体からみて、「ダイオードD1の両端間には」の誤記と認められる。 ウ また、上記記載事項Cの図1の回路図から、“抵抗Rdと、スイッチング素子Q2との直列回路”が“インダクタL1とグラウンドとの間に接続され”ていることを読取ることができる。 エ 以上、ア〜ウより、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「第1スイッチング素子Q1と、ダイオードD1と、インダクタL1と、コンデンサC1と、第1スイッチング素子Q1をオンオフ駆動する制御回路2とを備えるバックコンバータを有する電源装置1であって、(【0030】) ダイオードD1の両端間には、抵抗Rdと、スイッチング素子Q2との直列回路が並列に接続されると共にインダクタL1とグラウンドとの間に接続され、(【0033】、図1) 第2スイッチング素子Q2がオンされている期間には、駆動用コンデンサCsは、充電用コンデンサCcと、ダイオードDcと、駆動用コンデンサCsと、抵抗Rdと第2スイッチング素子Q2との直列回路とで構成されるループに流れる電流により充電され、(【0035】) 短絡や過電流やコンデンサC1の両端間に負荷が接続されていない無負荷状態などの異常を検出してリセット信号Vrsを出力する異常検出回路を電源装置1に設けてもよく、(【0038】) 電源がオンされた直後の遅延時間tdにのみ第2スイッチング素子Q2がオンされるとともに第1スイッチング素子Q1がオフされた状態となり、(【0043】) 第2スイッチング素子Q2を制御回路2とともに1チップの集積回路に構成してもよく、さらに他の素子を集積化してもよい(【0067】) 電源装置1。」 2 引用例2に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した、本願の出願前に既に公知である、特開2017−60383号公報(平成29年3月23日公開。以下、これを「引用例2」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。 E 「【0120】 また、ロジック回路103は、異常保護信号SPに応じてスイッチ出力段のスイッチング動作を強制的に停止させる機能(=上側オン/オフ制御信号SHと下側オン/オフ制御信号SLを共にローレベルとする機能)も備えている。」 F 「【0136】 短絡保護回路116は、第2定電圧Vregの供給を受けて動作し、例えば帰還電圧Vfbを監視して短絡異常(例えば出力電圧Voutの出力端が接地端ないしはこれに準ずる低電位端に短絡した地絡状態)を検出する。」 G 「 図6」 3 引用例3に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した、本願の出願前に既に公知である、特開2002−354783号公報(平成14年12月6日。以下、これを「引用例3」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。 H 「【0029】ところで、本実施形態では、電源が投入されると出力信号を一定時間(所定時間)だけHレベルにするタイマ回路6を備え、スイッチング素子Q2を構成するMOSFETのゲートとPWM制御回路3との間に論理和回路OR1を挿入してある。タイマ回路6の出力信号は、PWM制御回路3および論理和回路OR1へ入力される。論理和回路OR1は、タイマ回路6の出力信号とPWM制御回路3の出力信号とが入力される。ここに、タイマ回路6は、コンデンサC10の端子電圧に基づいて電源投入を検出すると、出力信号をHレベルにし、所定時間が経過すると出力をLレベルにする。これに対して、スイッチング素子Q1,Q2をオンオフさせる信号を生成する信号発生手段としてのPWM制御回路3は、タイマ回路6の出力信号がHレベルの間はPWM信号を出力せず、タイマ回路6の出力信号がLレベルになるとPWM信号の出力を開始するように構成されている。要するに、タイマ回路6は、電源投入後に所定時間だけスイッチング素子Q2をオンさせるとともにPWM制御回路3の発振を開始させないように設けてある。」 I 「 図1」 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「第1スイッチング素子Q1」及び「インダクタL1」は、本願発明1の「第1スイッチング素子」及び「この第1スイッチング素子に直列に接続されるインダクタ」に相当する。 また、引用発明の「バックコンバータ」は、本願発明1の「降圧チョッパ回路」に相当し、引用発明の「電源装置1」は、本願発明1の「電源装置」に相当するものであるから、引用発明と本願発明1とは、“第1スイッチング素子、およびこの第1スイッチング素子に直列に接続されるインダクタを有する降圧チョッパ回路”を具備する“電源装置”である点で一致する。 イ 引用発明の「第2スイッチング素子Q2」は、「電源がオンされた直後の遅延時間tdにのみ…(中略)…オンされる」ものであり、「電源がオンされ」るときに入力される信号は、“起動信号”といい得るから、「抵抗Rdと、スイッチング素子Q2との直列回路」は、“第2スイッチング素子を有する起動回路”といい得る。 また、引用発明の「抵抗Rdと、スイッチング素子Q2との直列回路」は、「ダイオードD1の両端間」に「並列に接続され」ている「と共にインダクタL1とグラウンドとの間に接続され」るものであるから、上記アの認定も踏まえると、引用発明と本願発明1とは、“前記インダクタとグラウンドとの間に接続され、起動信号の入力時にオンする第2スイッチング素子を有する起動回路”を具備する点で一致する。 ウ 引用発明は、「第2スイッチング素子Q2を制御回路2とともに1チップの集積回路に構成してもよく、さらに他の素子を集積化してもよい」ものであるから、上記イの認定を踏まえると、引用発明と本願発明1とは、“前記第2スイッチング素子を有する起動回路が集積回路に集積される”点で一致する。 エ 以上、ア〜ウの検討から、引用発明と本願発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。 〈一致点〉 第1スイッチング素子、およびこの第1スイッチング素子に直列に接続されるインダクタを有する降圧チョッパ回路と; 前記インダクタとグラウンドとの間に接続され、起動信号の入力時にオンする第2スイッチング素子を有する起動回路と; を具備し、 前記第2スイッチング素子を有する起動回路が集積回路に集積される ことを特徴とする電源装置。 〈相違点1〉 本願発明1が、「前記起動回路への前記起動信号の非入力時に、前記第2スイッチング素子の短絡を監視する監視回路」と、「前記監視回路による前記第2スイッチング素子の短絡の検出により前記第1スイッチング素子の動作を停止させる保護回路」とを具備するのに対し、引用発明は、「起動信号の非入力時」の、「スイッチング素子Q2」の短絡を検出する回路や、「第1スイッチング素子Q1」の動作を停止させる回路が特定されていない点。 〈相違点2〉 本願発明1が、「前記降圧チョッパ回路の出力電圧を検出する検出回路」を具備し、「前記監視回路は、前記起動回路への前記起動信号の非入力時で、かつ前記検出回路で検出される出力電圧が所定の閾値よりも低い場合、前記第2スイッチング素子の短絡を検出する」のに対し、引用発明は、「短絡や過電流やコンデンサC1の両端間に負荷が接続されていない無負荷状態などの異常を検出してリセット信号Vrsを出力する異常検出回路」を有するものの、「バックコンバータ」の出力電圧を検出する回路が特定されておらず、「スイッチング素子Q2」の短絡を検出することも特定されていない点。 (2)相違点についての判断 本願発明は、従来、負荷の定電流制御のために降圧チョッパ回路を用いた電源装置があり、降圧チョッパ回路は、チョッピングのためのスイッチング素子として、電界効果トランジスタを使用するのが一般的であって、電界効果トランジスタは、制御端子であるゲート端子と出力端子であるソース端子との間の電位差により、入力端子であるドレイン端子とソース端子との間の導通をオンまたはオフするものであり(本願明細書段落【0002】)、この電界効果トランジスタをスイッチング素子として用いた降圧チョッパ回路では、スイッチング素子の駆動電源を供給する方法としてブートストラップ方式が広く適用されていて、降圧チョッパ回路の場合、スイッチング素子がオフであるときに回生電流を生じさせるために、スイッチング素子のソース端子とグランドとの間にダイオードが接続され、ダイオードは、ソース端子からグランドに流れる電流を阻止する向きに接続されるため、降圧チョッパ回路が動作していない状態では、スイッチング素子のソース端子は電位が不定となっており、スイッチング素子を起動させるためには、ソース端子の電位を基準とした一定値以上の電圧をゲート端子に供給する必要があるが、ソース端子の電位が不定であるとブートストラップ回路よりスイッチング素子の駆動電源が十分確保できず、起動が不安定となり、降圧チョッパ回路が安定に始動しない懸念があり(【0003】)、起動時にスイッチング素子のソース端子をグランドと短絡してソース端子の電位をグランド電位とすることで、スイッチング素子を安定に起動させる起動回路を備えた電源装置が従来知られていて(【0004】)、当該起動回路は、スイッチング素子のソース端子をグランドと短絡させるための第2スイッチング素子を備え、起動時に第2スイッチング素子をオンし、降圧チョッパ回路のスイッチング素子のソース端子をグランド電位とした状態で、降圧チョッパ回路を起動させ、起動後に第2スイッチング素子をオフするように構成しているところ(【0005】)、第2スイッチング素子の短絡故障が発生するおそれがあり、この第2スイッチング素子の短絡故障が発生すると、降圧チョッパ回路の起動後も、降圧チョッパ回路のスイッチング素子のソース端子とグランドとが導通し、電源装置の誤動作が生じるおそれがあることを背景としてなされたものである。(【0006】) そして、本願発明は、降圧チョッパ回路を起動する起動回路の第2スイッチング素子の短絡故障に対応できる電源装置および照明装置を提供することを解決しようとする課題とするものである。(【0008】) 一方、引用発明は、制御回路2の駆動部2aが第1スイッチング素子Q1の駆動に用いる電源とするために、一端が第1スイッチング素子Q1の低電圧側の一端(すなわち第1スイッチング素子Q1とダイオードD1との間)に接続された駆動用コンデンサCsが設けられ(引用例1の段落【0004】)、充電用コンデンサCsから充電用ダイオードDcを介して供給される電流により駆動用コンデンサCsが充電されるとき、駆動用コンデンサCsを充電する電流は、インダクタL1を含むループに流れることになり(【0005】)、電源がオンされた直後などで駆動用コンデンサCsが全く充電されていない状態から、上記のようにインダクタL1を通じた経路で駆動用コンデンサが充電される場合、インダクタL1の作用により、駆動用コンデンサCsが充分に充電されるまでに時間がかかったり、駆動用コンデンサCsの両端電圧の制御が困難となったりするため(【0007】)、ダイオードD1の両端間の短絡をオンオフするスイッチを設けるとともに、電源がオンされた後に制御回路2が第1スイッチング素子Q1のオンオフ駆動を開始する前に上記のスイッチをオンする技術が従来知られていて、これによれば、上記のスイッチを介した経路であってインダクタL1を介さない経路での充電が可能となるから、駆動用コンデンサCsの両端電圧を比較的に短時間で安定させることができたが(【0008】)、上記のスイッチがオンされた直後に急激に電流が流れることで、駆動用コンデンサCsや駆動用コンデンサCsの充電経路を構成する充電用ダイオードDc等の回路部品に過大な電気的ストレスがかかってしまう可能性があったため(【0010】)、駆動用コンデンサの充電開始時に急激に電流が流れることを防ぐことができる電源装置を提供することを目的とするものであって(【0011】)、そのために引用発明は、「第2スイッチング素子Q2がオンされている期間には、駆動用コンデンサCsは、充電用コンデンサCcと、ダイオードDcと、駆動用コンデンサCsと、抵抗Rdと第2スイッチング素子Q2との直列回路とで構成されるループに流れる電流により充電され」る構成を有するものである。 そうすると、引用発明は、「第2スイッチング素子Q2」の短絡を監視する監視回路を設けると共に、「第1スイッチング素子Q1」の動作を停止させる保護回路を設けることの動機付けとなるものを欠き、そのような監視回路及び保護回路を設けることは、引用例2及び3にも記載が無く、本願出願前に周知な構成ともいえないので、当業者といえども、引用発明において相違点1に係る構成を導き出すことは容易とはいえない。 したがって、上記その余の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明並びに引用例2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 2 本願発明2について 本願発明2も、上記相違点1に係る構成、すなわち本願発明1の「前記起動回路への前記起動信号の非入力時に、前記第2スイッチング素子の短絡を監視する監視回路」及び「前記監視回路による前記第2スイッチング素子の短絡の検出により前記第1スイッチング素子の動作を停止させる保護回路」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明並びに引用例2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3 本願発明3について 本願発明3は、本願発明2を引用するものであり、本願発明2と同じ理由により、当業者であっても、引用発明並びに引用例2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 4 本願発明4について 本願発明4は、少なくとも、「前記インダクタと前記第2スイッチング素子との間に接続され、温度上昇により抵抗値が増加する感温素子を有する保護回路」を有する点(以下、「相違点3」という。)で引用発明と異なり、当該相違点3は、引用例2及び3にも記載されておらず、また本願出願前に周知な構成ともいえないので、当業者であっても、引用発明並びに引用例2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 5 本願発明5について 本願発明5は、本願発明1〜4のいずれかを引用するものであり、上記1〜4に示したとおり、当業者であっても、引用発明並びに引用例2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第7 原査定について 本願発明1〜5は、上記第6に示したとおり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1〜3(上記第5の引用例1〜3)に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2022-05-31 |
出願番号 | P2017-120495 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H02M)
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最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
篠原 功一 |
特許庁審判官 |
山崎 慎一 新田 亮 |
発明の名称 | 電源装置および照明装置 |
代理人 | 河野 仁志 |