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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  A63F
管理番号 1386058
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-09-22 
確定日 2022-06-21 
事件の表示 特願2018−196024「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 4月23日出願公開、特開2020− 62216、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年10月17日の出願であって、令和2年8月20日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月21日付けで手続補正がされ、令和3年2月16日付けで拒絶理由通知がされ、同年4月16日付けで手続補正がされ、同年4月26日付けで最後の拒絶理由通知がされ、同年6月14日付けで手続補正がされ、同年6月30日付け(送達日:同年7月6日)で同年6月14日付けの補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年9月22日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 当審で審理対象とする特許請求の範囲、明細書又は図面
1.令和3年6月30日付け補正の却下の決定の適否について
(1)令和3年4月16日付け手続補正書の請求項1(以下「本件補正前の請求項1」という。)
本件補正前の請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
対応する当否判定結果の報知が完了していない当否判定情報を、保留情報として記憶する記憶手段と、
前記保留情報の存在を保留図柄として示す表示手段と、
を備え、
前記保留図柄は、対応する当否判定結果が当たりとなる蓋然性を示唆する第一示唆要素および第二示唆要素を含み、
前記保留図柄の表示態様として、
前記第一示唆要素が開示され前記第二示唆要素が開示されていない第一態様と、
前記第一示唆要素および前記第二示唆要素の両方が開示された第二態様と、
が設定されており、
前記保留図柄は、対応する当否判定結果を報知する報知演出が開始されていない変動前保留図柄と、前記報知演出が開始されている変動中保留図柄に区分けされ、
前記変動前保留図柄の全ては前記第一態様で表示され、
前記報知演出が終了することを契機として、前記変動前保留図柄のうち対応する当否判定結果の報知が最も早い対象保留図柄が、前記変動前保留図柄として表示された状態から前記変動中保留図柄として表示された状態に推移するに際し、当該対象保留図柄について前記第一態様から前記第二態様への変化が生じることを特徴とする遊技機。」

(2)令和3年6月14日付け手続補正書における補正(以下「本件補正」という。)
本件補正のうち特許請求の範囲における補正は、以下のア、イに挙げるとおりのものである。
ア 本件補正前の請求項1における「前記保留図柄は、対応する当否判定結果が当たりとなる蓋然性を示唆する第一示唆要素および第二示唆要素を含み、」とされた記載を、「前記保留図柄は、対応する当否判定結果が当たりとなる蓋然性を示唆する第一示唆要素および第二示唆要素を含みうるものであり、」とした補正(下線は当審で付した。以下同様。)。
イ 本件補正前の請求項1における「前記報知演出が終了することを契機として、前記変動前保留図柄のうち対応する当否判定結果の報知が最も早い対象保留図柄が、前記変動前保留図柄として表示された状態から前記変動中保留図柄として表示された状態に推移するに際し、当該対象保留図柄について前記第一態様から前記第二態様への変化が生じる」とされた記載を、「前記報知演出が終了することを契機として、前記変動前保留図柄のうち対応する当否判定結果の報知が最も早い対象保留図柄が、前記変動前保留図柄として表示された状態から前記変動中保留図柄として表示された状態に推移するに際し、当該対象保留図柄について前記第一示唆要素は開示されているものの前記第二示唆要素が開示されていない前記第一態様から前記第一示唆要素と前記第二示唆要素の両方が開示された前記第二態様への変化が生じる」とした補正。

(3)令和3年6月30日付け補正の却下の決定の理由(概要)
原審における令和3年6月30日付け補正の却下の決定の理由の概要は、補正目的について、「本件補正は、特許請求の範囲及び明細書についてするものであり、請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「保留図柄の表示態様」を限定するものである。・・・(中略)・・・したがって、本件補正は全体として、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認め得るものである」と判断を示した上で、続いて、独立特許要件について、「本件補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、独立して特許を受けることができるものではないから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない」と判断し、「同法第53条第1項の規定により却下すべき」と結論したものである。

(4)審判請求人の主張
審判請求人は、令和3年9月22日付けの拒絶査定不服審判の請求書において、
「しかし、<補正後発明>における「当該対象保留図柄について前記第一示唆要素は開示されているものの前記第二示唆要素が開示されていない前記第一態様から前記第一示唆要素と前記第二示唆要素の両方が開示された前記第二態様への変化が生じる」とした特定事項は、保留図柄の表示態様を限定するものには当たらない。
なぜなら、<補正前発明>の段階から、「前記第一示唆要素が開示され前記第二示唆要素が開示されていない第一態様と、前記第一示唆要素および前記第二示唆要素の両方が開示された第二態様と、」という特定事項を有しており、第一態様が「前記第一示唆要素が開示され前記第二示唆要素が開示されていない」ものであること、第二態様が「前記第一示唆要素および前記第二示唆要素の両方が開示された」ものであることは明確に特定されていたことは明らかであるからである。」(審判請求書第4ページ下から3行〜同第5ページ9行)と説明した上で、「審査にて令和3年6月14日付手続補正書でした請求項1についての補正が「限定的減縮」を目的としたものであるとした判断は誤りである。・・・(中略)・・・よって、令和3年6月30日付補正却下決定は当然に取り消されるべきものである。」(同第5ページ下から8行〜同第6ページ1行)
と主張している。

(5)補正の却下の決定の適否
補正の却下の決定の適否を判断するにあたり、まず、上記(2)アの補正について検討する。本件補正前の請求項1において、「保留図柄」は、「第一示唆要素および第二示唆要素」を「含み、」とされていたところ、同請求項1において、「前記保留図柄の表示態様」で設定された「第一態様」が、「前記第一示唆要素が開示され前記第二示唆要素が開示されていない第一態様」とされる他の記載との間で矛盾が生じないように、前記「含み、」を、「含みうるものであり、」と明確にしたことが、「限定的減縮」を目的とした補正であるとは認められない。そして、上記(2)アの補正は、上記の点を明確にした補正以外の補正を含むものではない。
続いて、上記(2)イの補正について検討する。「保留図柄の表示態様」のうち「第一態様」が「前記第一示唆要素が開示され前記第二示唆要素が開示されていない」ものであること、同じく「第二態様」が「前記第一示唆要素および前記第二示唆要素の両方が開示された」ものであることが、補正前の請求項1において特定されていたことは審判請求人の主張するとおりであり、これらを特定する記載を重ねることで「第一態様」と「第二態様」とをそれぞれ明確にした補正が、「限定的減縮」を目的としたものであるとは認められない。そして、上記(2)イの補正は、これらを特定する記載を重ねた上記の補正以外の補正を含むものではない。
そうすると、補正の却下の決定において、上記したように「本件補正は全体として、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認め得るものである」とした判断は誤りであるといわざるを得ない。

上記したように、補正の却下の決定において、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとした判断は誤りであるから、この判断を前提として独立特許要件についての判断がなされたこと、及び本件補正を却下すべきとした結論は誤りである。
よって、原審における令和3年6月30日付け補正の却下の決定は不適法であって、取り消されるべきものである。

2.当審が審理対象とする明細書、特許請求の範囲又は図面
以上のとおり、令和3年6月30日付け補正の却下の決定は不適法であって、取り消されるべきものであるから、当審は、令和3年6月14日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲又は図面を審理対象とする。

第3 原査定の概要
原査定(令和3年6月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明および引用文献2、3等に記載された周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2016−7327号公報
2.特開2018−79031号公報
3.特開2016−202654号公報

第4 本願発明
上記第2の2.で述べたとおり、令和3年6月14日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲又は図面を当審の審理対象とする。
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、同手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、符号AないしFは分説するため当審で付したものである。

「A 対応する当否判定結果の報知が完了していない当否判定情報を、保留情報として記憶する記憶手段と、
前記保留情報の存在を保留図柄として示す表示手段と、
を備え、
B 前記保留図柄は、対応する当否判定結果が当たりとなる蓋然性を示唆する第一示唆要素および第二示唆要素を含みうるものであり、
C 前記保留図柄の表示態様として、
前記第一示唆要素が開示され前記第二示唆要素が開示されていない第一態様と、
前記第一示唆要素および前記第二示唆要素の両方が開示された第二態様と、
が設定されており、
D 前記保留図柄は、対応する当否判定結果を報知する報知演出が開始されていない変動前保留図柄と、前記報知演出が開始されている変動中保留図柄に区分けされ、
E 前記変動前保留図柄の全ては前記第一態様で表示され、
F 前記報知演出が終了することを契機として、前記変動前保留図柄のうち対応する当否判定結果の報知が最も早い対象保留図柄が、前記変動前保留図柄として表示された状態から前記変動中保留図柄として表示された状態に推移するに際し、当該対象保留図柄について前記第一示唆要素は開示されているものの前記第二示唆要素が開示されていない前記第一態様から前記第一示唆要素と前記第二示唆要素の両方が開示された前記第二態様への変化が生じることを特徴とする遊技機。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0034】
・・・(中略)・・・。
図3に示すように、液晶表示ユニット24の下部分には、第1特別図柄用の保留数(すなわち、第1の始動情報記憶部61内の保留データ用エリアに記憶されている始動情報の数を表示するための第1の保留球数表示部(保留表示手段)101と、第2特別図柄用の保留数(すなわち、第2の始動情報記憶部62内の保留データ用エリアに記憶されている始動情報の数)を表示するための第2の保留球数表示部(保留表示手段)121とが設けられている。各保留数表示部101,121には、保留表示102が最大4個まで表示可能に設けられている。各保留表示102は、第1または第2特別図柄の変動動作に一対一対応で設けられており、たとえば円形をなしている。・・・(中略)・・・。
【0035】
パチンコ機1には、先読み保留変化予告が搭載されている。先読み保留変化予告では、第1または第2の始動情報記憶部61,62に記憶されている始動情報を図柄変動の開始前に先読み判定しておき、その判定結果に基づいて、その保留記憶に対応する保留表示102の保留表示態様(色)を、通常時(「白(デフォルト)」)と異なった態様(特別保留表示態様)で表示することにより、その保留記憶に対応する変動動作についての先読み信頼度を予告している。
具体的には、保留数表示部101,121に表示される保留表示102は、その表示色によって、先読み信頼度(大当り信頼度の他、保留表示102の保留表示態様の変化回数や大当り信頼度の高い態様への期待度等を含む。)が異なっている。・・・(中略)・・・この実施形態では、図4(c)に示すように、保留表示102の保留表示態様として、「白(デフォルト)」、「青」、「緑」および「赤」の4態様が表示されている。つまり、「白(デフォルト)」の態様が通常保留表示態様であり、「青」、「緑」および「赤」の態様が特別保留表示態様である。図4(c)に示すように、「白」から「青」、「緑」、「赤」へと向かうに従って、先読み信頼度が高くなるように設定されている。
【0036】
パチンコ機1には、当該変動保留変化予告(変動時表示)も搭載されている。具体的には、液晶表示ユニット24の下部分において左右方向の中央部には、現在変動中の第1または第2特別図柄(演出図柄)の変動動作に対応する始動情報を指し示す当該変動保留表示部(変動時表示手段)103が表示されている。当該変動保留変化予告では、当該変動保留表示部103に表示される保留表示(以下、「当該変動保留表示」という。変動時表示)104の保留表示態様(変動時表示態様)を、第1または第2特別図柄(演出図柄)の変動動作中に所定の保留表示態様に変化させることにより、現在変動している変動動作に対する大当り信頼度(当りの特別図柄(特定表示結果)が導出表示される信頼度)を表示している。」

(2)「【0038】
・・・(中略)・・・。この実施形態では、図4(d)に示すように、当該変動保留表示104の保留表示態様(変動時表示態様)として、「白(デフォルト)」、「白点滅」、「青」、「緑」、「赤」、「デンジャー」および「レインボー(虹色)」の7態様が表示されている。図4(d)に示すように、「白」から「白点滅」、「青」、「緑」、「赤」、「デンジャー」および「レインボー」へと向かうに従って大当り信頼度が高くなるように設定されている。」

(3)「【0042】
変動動作の消化が進み、図4(a)に示すように、前記の「緑」の保留表示102に対応する変動動作が変動開始される際には、この保留表示102に対応していた始動情報についての表示が、第1の保留数表示部101から当該変動保留表示部103にシフト移行し、当該変動保留表示部103において当該変動保留表示104として表示される。このとき、当該変動保留表示部103において表示される当該変動保留表示104の保留表示態様は、シフト移行前の「保留1」の保留表示102の保留表示態様と同じである。すなわち、保留表示102の保留表示態様(通常保留表示態様または特別保留表示態様)に対応する変動動作が変動開始される際には、その通常保留表示態様またはその特別保留表示態様が、当該変動保留表示104として継続して表示される。
【0043】
そして、図4(b)に示すように、演出図柄の変動動作の途中において、当該変動保留表示104の保留表示態様が、大当り信頼度が上昇するように変化(以下、このような変化を「ランクアップ」という。)する。図4(b)では、当該変動保留表示104の保留表示態様がそれまでの「緑」から「青」に変化している。」

(4)「【0052】
第1の始動情報記憶部61には、第1特別図柄始動口26への遊技球入球に対して実行される大当り抽選の結果が格納される。第1の始動情報記憶部61には、大当り判定用乱数(第1抽選の結果を示す情報)、特別図柄用乱数(確率変動遊技の実行の有無を決定するための情報)、および変動パターン用乱数(以上の各乱数をまとめて「始動情報」という。)が最大でたとえば5つまで記憶可能である。具体的には、第1の始動情報記憶部61には、始動情報を記憶するための記憶エリアが5つ設けられている。これらの記憶エリアを、それぞれ、第0エリア(エリア0)、第1エリア(エリア1)、第2エリア(エリア2)、第3エリア(エリア3)および第4エリア(エリア4)ということにする。
【0053】
第1の始動情報記憶部61の第0エリアは、実行対象となっている始動情報を記憶するための領域である。以下において、「実行データ用エリア」という場合がある。
第1の始動情報記憶部61の第1エリア〜第4エリアの4つの領域は、実行が保留されている始動情報を記憶するための領域である。この第1エリア〜第4エリアを総称する場合には、「保留データ用エリア」という場合がある。」

(5)「【0312】
また、第1〜第3実施形態に係る先読み保留変化予告において、前述の第1〜第3実施形態では、保留表示102の色を変化させることにより、保留表示102の保留表示態様を変化させるものについて説明したが、保留表示102の形状を変化させることにより、保留表示102の保留表示態様を変化させてもよい。図78に示すように、保留表示102の形状を、たとえば十字形態様102A、円形態様102Bまたは王冠態様102Cの間で変化させることにより、保留表示102の保留表示態様を変更できる。この場合、王冠態様102C、円形態様102Bおよび十字形態様102Aの順で先読み信頼度が高くなっている。
【0313】
また、図79に示すように、保留表示102の色の変化と形状との変化との双方をを組み合わせることにより、保留表示102の保留表示態様を変化させてもよい。・・・(中略)・・・。
【0314】
・・・(中略)・・・。
【0315】
・・・(中略)・・・。図81に示すように、当該変動保留表示104の形状を、たとえば十字形態様104A、円形態様104Bまたは王冠態様104Cの間で変化させることにより、当該変動保留表示104の保留表示態様を変更できる。この場合、王冠態様104C、円形態様104Bおよび十字形態様104Aの順で先読み信頼度が高くなっている。
【0316】
また、図82に示すように、当該変動保留表示104の色の変化と形状との変化との双方をを組み合わせることにより、当該変動保留表示104の保留表示態様を変化させてもよい。」

(6)上記(1)ないし(5)に摘記した事項を総合すると、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、aないしhの符号は、分説するため、当審で付与したものである。
「a 第1の始動情報記憶部61には、第1特別図柄始動口26への遊技球入球に対して実行される大当り抽選の結果が格納され、大当り判定用乱数等の始動情報を記憶するための記憶エリアが5つ設けられ(【0052】)、第1の始動情報記憶部61の第0エリアは、実行対象となっている始動情報を記憶するための領域であり、第1の始動情報記憶部61の第1エリア〜第4エリアの4つの領域は、実行が保留されている始動情報を記憶するための領域であり(【0053】)、
b 液晶表示ユニット24の下部分には、第1の始動情報記憶部61内の保留データ用エリアに記憶されている始動情報の数を表示するための第1の保留球数表示部101が設けられているものであり、各保留数表示部101には、保留表示102が最大4個まで表示可能に設けられていて、各保留表示102は円形をなしているものであり(【0034】)、
c パチンコ機1には先読み保留変化予告が搭載されていて、第1の始動情報記憶部61に記憶されている始動情報を図柄変動の開始前に先読み判定しておき、その判定結果に基づいて、その保留記憶に対応する保留表示102の保留表示態様である色を、通常時の「白」と異なった態様で表示することにより、その保留記憶に対応する変動動作についての先読み信頼度を予告しており(【0035】)、
d パチンコ機1には保留表示102の保留表示態様として、「白」、「青」、「緑」および「赤」の4態様が表示され、「白」から「青」、「緑」、「赤」へと向かうに従って、先読み信頼度(大当り信頼度を含む。)が高くなるように設定されており(【0035】)、また、保留表示102の形状を変化させることにより保留表示102の保留表示態様を変化させてもよいし(【0312】)、保留表示102の色の変化と形状との変化との双方を組み合わせることにより、保留表示102の保留表示態様を変化させてもよいものであり(【0313】)、
e パチンコ機1には変動保留変化予告が搭載されていて、液晶表示ユニット24の下部分において左右方向の中央部に現在変動中の第1特別図柄の変動動作に対応する始動情報を指し示す当該変動保留表示部103が表示され、当該変動保留表示部103に表示される当該変動保留表示104の保留表示態様を、演出図柄の変動動作中に所定の保留表示態様に変化させることにより、現在変動している変動動作に対する大当り信頼度を表示し(【0036】)、
f 当該変動保留表示104の保留表示態様として、「白」、「白点滅」、「青」、「緑」、「赤」、「デンジャー」および「レインボー」の7態様が表示されていて、「白」から「白点滅」、「青」、「緑」、「赤」、「デンジャー」および「レインボー」へと向かうに従って大当り信頼度が高くなるように設定されており(【0038】)、また、当該変動保留表示104の形状を変化させることにより、当該変動保留表示104の保留表示態様を変更できるようにしたり(【0315】)、当該変動保留表示104の色の変化と形状との変化との双方を組み合わせることにより、当該変動保留表示104の保留表示態様を変化させてもよいものであり(【0316】)、
g 変動動作の消化が進み、保留表示102に対応する変動動作が変動開始される際には、この保留表示102に対応していた始動情報についての表示が、第1の保留数表示部101から当該変動保留表示部103にシフト移行し、当該変動保留表示部103において当該変動保留表示104として表示され、このとき、当該変動保留表示部103において表示される当該変動保留表示104の保留表示態様は、シフト移行前の保留表示102の保留表示態様と同じであって、変動動作が変動開始される際には、その通常保留表示態様またはその特別保留表示態様が、当該変動保留表示104として継続して表示され(【0042】)、演出図柄の変動動作の途中において、当該変動保留表示104の保留表示態様が、大当り信頼度が上昇するように変化する(【0043】)、
h パチンコ機1。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0065】
また、画像表示装置5の表示領域には、アクティブ表示エリア(今回表示エリア、アクティブ保留表示エリア、消化時表示エリアなどとも称する)AHAが配置されている。アクティブ表示エリアには、開始条件の成立によって始動入賞記憶表示エリア5Hから保留表示が消去されることに基づいてアクティブ表示(消化時表示、今回表示などとも称する)が表示される。・・・(中略)・・・。なお、アクティブ表示エリアAHAに移動(シフト)する直前の保留表示の表示態様とアクティブ表示エリアAHAに移動(シフト)した直後のアクティブ表示の表示態様とは異なるものであってもよい。」

(2)「【0066】 本実施形態におけるパチンコ遊技機1では、アクティブ表示エリアAHAは、図1に示すように、第1始動入賞記憶表示エリア5HLと第2始動入賞記憶表示エリア5HRとの間に配置されているが、アクティブ表示エリアAHAは、画像表示装置5の表示領域の何れかの位置に配置されていればよい。」

(3)上記(1)ないし(2)に摘記した事項から、上記引用文献2には、「パチンコ遊技機1の画像表示装置5の表示領域に配置されたアクティブ表示エリアには、開始条件の成立によって始動入賞記憶表示エリア5Hから保留表示が消去されることに基づいてアクティブ表示が表示され、アクティブ表示エリアAHAに移動する直前の保留表示の表示態様とアクティブ表示エリアに移動した直後のアクティブ表示の表示態様とは異なるものとした点。」(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0232】
また、図16(f)では、保留表示エリア18cおいて、保留表示H1の表示態様が、図16(a)に示す通常の表示態様である白色の丸とは異なる、「変」の表示となる。この「変」の保留表示H1は、ターゲット保留THが変化することを示唆する態様である。そして、図16(g)に示すように、「変」の保留表示H1に対応する変動表示が開始されるときに、「変」の保留表示H1は、アクティブ保留エリアAHAにシフトされ、「変」の丸としてアクティブ保留AHされる。」

(2)上記(1)に摘記した事項から、上記引用文献3には、「保留表示エリア18cおいて、保留表示H1の表示態様が「変」の表示となり、「変」の保留表示H1に対応する変動表示が開始されるときに、「変」の保留表示H1は、アクティブ保留エリアAHAにシフトされ、「変」の丸としてアクティブ保留AHされる点。」(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されていると認められる。

第6 対比・判断

1.本願発明について
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア.引用発明における構成hの「パチンコ機1」は、本願発明の「遊技機」に相当する。

イ.本願発明の構成A、Dについて
引用発明における構成aの「始動情報記憶部61」は本願発明における「記憶手段」に相当し、引用発明の構成aにおいて、第1特別図柄始動口26への遊技球入球に対して実行される「大当り抽選」の「結果」は、本願発明における「当否判定結果」に相当する。そして、引用発明の構成aで、前記「大当り抽選」の「結果」(当否判定結果)としての大当り判定用乱数等の「始動情報」は、「第1の始動情報記憶部61」(記憶手段)に設けられた5つの記憶エリアに、実行対象となっている「始動情報」や、実行が保留されている「始動情報」として記憶するのであるから、当該「始動情報」は、本願発明の構成Aにおける「対応する当否判定結果の報知が完了していない当否判定情報」であり、且つ「保留情報」に相当するものである。
次に、引用発明における構成b等の「保留表示102」又は構成e等の「当該変動保留表示104」は、本願発明における「保留図柄」に相当し、引用発明における構成bの、「液晶表示ユニット24の下部分」にあり、当該「保留表示102」(保留図柄)が設けられる、「始動情報」(保留情報)の「数を表示するための第1の保留球数表示部101」、及び、引用発明における構成eの、「液晶表示ユニット24の下部分において左右方向の中央部」にあり、「当該変動保留表示104」(保留図柄)が設けられる、現在変動中の第1特別図柄の変動動作に対応する「始動情報」(保留情報)を指し示す「当該変動保留表示部103」は、いずれも、本願発明の構成Aにおける「保留情報の存在を保留図柄として示す表示手段」に相当する。
また、引用発明における上記の「保留表示102」(保留図柄)が、本願発明の構成Dにおける「対応する当否判定結果を報知する報知演出が開始されていない変動前保留図柄」に相当することは当業者にとって自明であり、同様に、引用発明における上記の「当該変動保留表示104」(保留図柄)についても、引用発明の構成gで「・・・当該変動保留表示104の保留表示態様は、・・・変動動作が変動開始される際には、その通常保留表示態様またはその特別保留表示態様が、当該変動保留表示104として継続して表示され、演出図柄の変動動作の途中において、当該変動保留表示104の保留表示態様が、大当り信頼度が上昇するように変化する」とされていることから、本願発明の構成Dにおける「報知演出が開始されている変動中保留図柄」に相当することは当業者にとって自明である。
そうすると、引用発明は、本願発明の構成Aである「対応する当否判定結果の報知が完了していない当否判定情報を、保留情報として記憶する記憶手段と、前記保留情報の存在を保留図柄として示す表示手段と、を備え、」に相当する構成を備えているとともに、本願発明の構成Dである「前記保留図柄は、対応する当否判定結果を報知する報知演出が開始されていない変動前保留図柄と、前記報知演出が開始されている変動中保留図柄に区分けされ、」に相当する構成を備えているといえる。

ウ.本願発明の構成Bについて
引用発明の構成cないしdにおいて、「保留表示102」(保留図柄、変動前保留表示)の「保留表示態様」である「色」は、「「白」、「青」、「緑」および「赤」の4態様が表示され、「白」から「青」、「緑」、「赤」へと向かうに従って、先読み信頼度(大当り信頼度を含む。)が高くなるように設定されてい」るから、本願発明の構成Bにおける「対応する当否判定結果が当たりとなる蓋然性を示唆する第一示唆要素」に対応し、同様に、引用発明における、構成e等における「当該変動保留表示104」(保留図柄、変動中保留表示)についても、構成fのように、「保留表示態様」としての7態様が表示され、「「白」から「白点滅」、「青」、「緑」、「赤」、「デンジャー」および「レインボー」へと向かうに従って大当り信頼度が高くなるように設定されて」いるから、本願発明の構成Bにおける「対応する当否判定結果が当たりとなる蓋然性を示唆する第一示唆要素」に対応する「色」が設定されたものであり、このことにより、引用発明は、本願発明の構成Bのうち、「前記保留図柄は、対応する当否判定結果が当たりとなる蓋然性を示唆する第一示唆要素」を「含」む構成を備えているといえる。
続いて、引用発明の構成fにおいて、「保留表示102」(保留図柄、変動前保留表示)の形状を変化させることにより保留表示態様を変化させてもよいとされており、また「当該変動保留表示104」(保留図柄、変動中保留表示)の形状を変化させることにより保留表示態様を変更できるとされていることから、引用発明は、本願発明の構成Bにおける「対応する当否判定結果が当たりとなる蓋然性を示唆する」「第二示唆要素」に対応する「形状」が設定されうるものであり、このことにより、引用発明は、本願発明の構成Bのうち「前記保留図柄は、対応する当否判定結果が当たりとなる蓋然性を示唆する」「第二示唆要素を含みうるものであり、」に相当する構成を備えているといえる。
そうすると、引用発明は、本願発明の構成Bにあたる「前記保留図柄は、対応する当否判定結果が当たりとなる蓋然性を示唆する第一示唆要素及び第二示唆要素を含みうるものであり、」に相当する構成を備えているといえる。

エ.本願発明の構成C、Eについて
上記ウで説示したように、引用発明は、「保留表示102」(保留図柄、変動前保留図柄)や「当該変動保留表示104」(保留図柄、変動中保留図柄)の「保留表示態様」である「色」が本願発明の「第一示唆要素」に対応し、また、それらの「形状」が本願発明の「第二示唆要素」に対応するものであるところ、引用発明が、その構成bにあるように、「各保留表示102」(保留図柄、変動前保留図柄)について「円形をなし」たままで、同じく構成cにあるように、「保留表示102の保留表示態様である色を、通常時の「白」と異なった態様で表示することにより、その保留記憶に対応する変動動作についての先読み信頼度を予告」する状態は、「色」(第一示唆要素)が開示され、「形状」(第二示唆要素)が開示されていない状態と言い換えられるから、引用発明は、本願発明の構成Cのうち、「前記保留図柄の表示態様として、前記第一示唆要素が開示され前記第二示唆要素が開示されていない第一態様」の設定が用意されたものであり、且つ、引用発明の構成bの如く、「保留表示102」(保留図柄、変動前保留図柄)で当該設定が選択されたときには、本願発明の構成Eの如く、「前記変動前保留図柄の全ては前記第一態様で表示され」ているということができる。
次に、引用発明は、構成eにあるように、「また、当該変動保留表示104の形状を変化させることにより、当該変動保留表示104の保留表示態様を変更できるようにしたり、当該変動保留表示104の色の変化と形状との変化との双方を組み合わせることにより、当該変動保留表示104の保留表示態様を変化させてもよい」ものであるところ、「色」(第一示唆要素)の変化と「形状」(第二示唆要素)の変化との「双方の組み合わせ」がされた状態は、「両方が開示された」状態と言い換えることができるから、引用発明は、本願発明の構成Cのうち「前記保留図柄の表示態様」として、「前記第一示唆要素および第二示唆要素の両方が開示された第二態様」の設定が用意されたものである。
そうすると、引用発明は、本願発明の構成Cにあたる「前記保留図柄の表示態様として、前記第一示唆要素が開示され前記第二示唆要素が開示されていない第一態様と、前記第一示唆要素および前記第二示唆要素の両方が開示された第二態様と、が設定されており、」に相当する構成、及び本願発明の構成Eにあたる「前記変動前保留図柄の全ては前記第一態様で表示され、」に相当する構成を備えているといえる。

オ.本願発明の構成Fについて
引用発明の「保留表示102」(保留図柄、変動前保留図柄)の表示、及び「当該変動保留表示104」(保留図柄、変動中保留図柄)の表示について、構成gで、「変動動作の消化が進み、保留表示102に対応する変動動作が変動開始される際には、この保留表示102に対応していた始動情報についての表示が、第1の保留数表示部101から当該変動保留表示部103にシフト移行し、当該変動保留表示部103において当該変動保留表示104として表示され」とされていることから、引用発明が、本願発明の構成Fのうち、「前記報知演出が終了することを契機として、前記変動前保留図柄のうち対応する当否判定結果の報知が最も早い対象保留図柄が、前記変動前保留図柄として表示された状態から前記変動中保留図柄として表示された状態に推移する」構成を備えていることは、当業者にとって自明である。

カ そうすると、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「A 対応する当否判定結果の報知が完了していない当否判定情報を、保留情報として記憶する記憶手段と、
前記保留情報の存在を保留図柄として示す表示手段と、
を備え、
B 前記保留図柄は、対応する当否判定結果が当たりとなる蓋然性を示唆する第一示唆要素および第二示唆要素を含みうるものであり、
C 前記保留図柄の表示態様として、
前記第一示唆要素が開示され前記第二示唆要素が開示されていない第一態様と、
前記第一示唆要素および前記第二示唆要素の両方が開示された第二態様と、
が設定されており、
D 前記保留図柄は、対応する当否判定結果を報知する報知演出が開始されていない変動前保留図柄と、前記報知演出が開始されている変動中保留図柄に区分けされ、
E 前記変動前保留図柄の全ては前記第一態様で表示され、
F’ 前記報知演出が終了することを契機として、前記変動前保留図柄のうち対応する当否判定結果の報知が最も早い対象保留図柄が、前記変動前保留図柄として表示された状態から前記変動中保留図柄として表示された状態に推移する、遊技機。」

(相違点)(構成F)
本願発明では、「対象保留図柄」が「第一態様」から「第二態様」へ変化し、かつ、その変化が生じるタイミングについては、変動前保留図柄として表示された状態から変動中保留図柄として表示された状態に「推移する際」であることを特定しているのに対し、引用発明では、「第一態様」から「第二態様」へ変化することについて明らかにされていない点。

(2)相違点についての判断
引用発明は、構成dで、「・・・保留表示102の保留表示態様として、「白」、「青」、「緑」および「赤」の4態様が表示され、・・・また、保留表示102の形状を変化させることにより保留表示102の保留表示態様を変化させてもよいし、保留表示102の色の変化と形状との変化との双方を組み合わせることにより、保留表示102の保留表示態様を変化させてもよいものであり」とされており、また、構成fで「当該変動保留表示104の保留表示態様として、「白」、「白点滅」、「青」、「緑」、「赤」、「デンジャー」および「レインボー」の7態様が表示されていて、・・・また、当該変動保留表示104の形状を変化させることにより、当該変動保留表示104の保留表示態様を変更できるようにしたり、当該変動保留表示104の色の変化と形状との変化との双方を組み合わせることにより、当該変動保留表示104の保留表示態様を変化させてもよいものである」としているように、「保留表示102」(保留図柄、変動前保留図柄)と「保留表示104」(変動中保留図柄)のいずれにおいても、保留表示態様の変化について、色の変化のみではなく、形状の変化や、色の変化と形状の変化との組み合わせとすることが想定されてはいるが、「保留表示102」(保留図柄、変動前保留図柄)を「色の変化」(第一態様)とした場合に、「保留表示104」(変動中保留図柄)については「色の変化と形状の変化との組み合わせ」(第二態様)とすることまで特定されてはいない。むしろ、構成gで「このとき、当該変動保留表示部103において表示される当該変動保留表示104の保留表示態様は、シフト移行前の保留表示102の保留表示態様と同じであって、変動動作が変動開始される際には、その通常保留表示態様またはその特別保留表示態様が、当該変動保留表示104として継続して表示され、演出図柄の変動動作の途中において、当該変動保留表示104の保留表示態様が、大当り信頼度が上昇するように変化する」とされるように、「保留表示102」(保留図柄、変動前保留図柄)を「色の変化」(第一態様)とした場合に、「保留表示104」(変動中保留図柄)も同じく「色の変化」(第一態様)とすることが示唆されるのみである。
上記相違点に係る本願発明の構成は、上記第5の2の引用文献2記載事項又は上記第5の3の引用文献3記載事項からも認められず、両文献に開示されるものではない。
そして、本願発明は、上記相違点に係る構成により、「保留図柄を用いた面白みのある信頼度示唆を行うことが可能な遊技機を提供する」(本願明細書の【0004】から摘記)という課題を解決したものであるといえる。

(3)小括
したがって、本願発明は、当業者であっても、引用発明及び周知技術(引用文献2記載事項、引用文献3記載事項)に基いて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
本願発明は、上記第6で検討したとおり、当業者であっても、原査定において引用された引用発明及び周知技術(引用文献2記載事項、引用文献3記載事項)に基いて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-06-07 
出願番号 P2018-196024
審決分類 P 1 8・ 121- WYA (A63F)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 瀬津 太朗
特許庁審判官 澤田 真治
小林 俊久
発明の名称 遊技機  
代理人 特許業務法人上野特許事務所  

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