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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 D04B |
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管理番号 | 1386084 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-07-17 |
確定日 | 2022-04-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6636258号発明「高視認性編物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6636258号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−9〕について訂正することを認める。 特許第6636258号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6636258号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜9に係る特許についての出願は、平成27年4月8日の出願であって、令和元年12月27日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月29日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和2年7月17日 :特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「申立人」という。)による本件特許の請求項1〜9に係る特許に対する特許異議の申立て 令和2年12月18日付け:取消理由通知書 令和3年2月18日 :特許権者による意見書の提出 令和3年3月29日付け :取消理由通知書(決定の予告) 令和3年5月31日 :特許権者による訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」といい、訂正そのものを「本件訂正」という。)及び意見書の提出 令和3年7月1日付け :訂正拒絶理由通知書 令和3年8月4日 :特許権者による意見書の提出 令和3年12月14日 :申立人による意見書の提出 第2 本件訂正 1 訂正の内容 本件訂正請求は、「特許第6636258号の特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜9について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「生地表側と生地裏側をつなぐタック組織を構成する糸がポリエステル繊維によって構成され、」と記載されているのを、「生地表側と生地裏側をつなぐ結節組織を構成する糸が、生地表側でニット組織のみ及び生地裏側でタック組織のみを形成しており、ポリエステル繊維によって構成され、」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項6に「生地の表組織のカバーファクターが1.0以上である」と記載されているのを、「生地の表組織のカバーファクターが1.2以上である」に訂正する。 2 一群の請求項 本件訂正前の請求項1〜9は、請求項2〜9が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、特許法120条の5第4項に規定される一群の請求項1〜9について請求されている。 そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはされてないから、本件訂正請求は、一群の請求項である訂正前の請求項1〜9に対応する訂正後の請求項〔1〜9〕を訂正単位とするものであり、訂正事項1〜2は、一体の訂正事項として取り扱われるものである。 3 訂正の適否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 本件訂正前は、「生地表側と生地裏側をつなぐ」「糸」について、「タック組織を構成する」ことのみが特定されていたため、裏組織から表組織へタックにより結節する組織を構成する糸及び表組織から裏組織へタックにより結節する組織を構成する糸のいずれもが包含されるものであったところ、訂正事項1により、「生地表側と生地裏側をつなぐ」「糸」が、「結節組織を構成する」ものであり、かつ「生地表側でニット組織のみ及び生地裏側でタック組織のみを形成して」いることが特定されたことにより、裏組織から表組織へタックにより結節する組織を構成する糸に限定されたから、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記アで述べたとおり、訂正事項1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載されていた発明特定事項を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)には、 「【0015】 本発明の編物は、表組織にはポリエステル繊維を配し、裏組織には主としてセルロース系繊維を配したダブル組織により構成されるが、裏組織に配されるセルロース系繊維が表側に極力現れないように表組織と裏組織とを接結させる組織とする。本発明の編物において、表組織と裏組織とを結節する組織を構成する糸は、組織によっては、表組織の一部を構成することにもなり、表側から見える可能性が高いため、耐光堅牢度に優れたポリエステル繊維を用いる。そして、この結節組織を構成するポリエステル繊維は、表組織を構成するポリエステル繊維と同様で、蛍光色彩に着色され、好ましくは蛍光黄色、蛍光橙色あるいは蛍光赤色のいずれかの色彩に着色される。」、 「【0016】 また、表組織と裏組織をつなぐ結節組織としては、裏組織から表組織へタックにより結節する組織を採用することが好ましい。なぜならば、前記とは逆に、表組織から裏組織へタックにより結節する組織を形成した場合、この結節部分によって表組織側に凹部を形成することになり、この凹み部分によって表組織に孔が開いたようになって、表組織の凹み部分に位置する裏組織部分が表側から観察される恐れがあり、裏組織に配されたセルロース繊維が表出することになるからである。このように表組織から裏組織へタックにより結節する組織を用いると、このタック組織と同一ループ部分(すなわち、タック組織に位置する裏組織のループ部分)は、表組織から見えやすいため、このタック組織に位置する裏組織のループを形成する糸は、耐光堅牢度に優れたポリエステル繊維を配することが好ましい。同様の理由で、表組織側から裏組織側の糸が見えにくい様にするために、表組織には針抜のない組織を採用することが好ましい。」、 という記載があり、また、実施例を説明する図2、3における使用糸Aは、シリンダー側(生地表側)でニット組織のみを形成し、ダイヤル側(生地裏側)でタック組織のみを形成している。 したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内である。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的について 訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に記載されていた「生地の表組織のカバーファクターが1.0以上である」という事項を「生地の表組織のカバーファクターが1.2以上である」とするもので、生地の表組織のカバーファクターをさらに限定するものであるから、訂正事項2は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 本件明細書等には、 「【0031】 実施例2 33インチ28ゲージの編機を用い、図2に示す組織図の内、使用糸A,使用糸Bに配する糸として、酸化チタン0.5重量%を含有したポリエチレンテレフタレートからなる仮撚加工糸(84dtex/36f)、使用糸Cに配する糸として、綿紡績糸(40番手単糸)を用い、図2に示す組織で編立を行い、ダブル組織編物生機を得た。この生機を精錬・リラックス処理後、テンターを用いて190℃で熱セットを行い、続いて液流染色機を用いて蛍光黄色の分散染料で染色加工を行った後、テンターを用いて160℃で熱セットを行い、高視認性編物を得た。各使用糸の編込長は図2に記載の通りであり、該編物の表組織のカバーファクターを算出したところ1.2であった。」、 という記載があるから、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内である。 4 まとめ 上記のとおり、本件訂正は、第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項並びに第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項[1〜9]についての訂正を認める。 第3 本件特許に係る発明 本件特許の請求項1〜9に記載された発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ダブル組織により構成される編物であり、 表組織は、ポリエステル繊維によってのみ構成され、 裏組織は、裏組織の構成繊維としてセルロース系繊維を含み、 表組織を構成するポリエステル繊維は、二酸化チタンの含有量が多くとも1質量%であり、かつ蛍光色彩に着色されてなり、 生地表側と生地裏側をつなぐ結節組織を構成する糸が、生地表側でニット組織のみ及び生地裏側でタック組織のみを形成しており、ポリエステル繊維によって構成され、かつ、前記ポリエステル繊維は表組織を構成するポリエステル繊維と同色の蛍光色彩に着色されてなることを特徴とする高視認性編物。 【請求項2】 表組織を構成するポリエステル繊維が、蛍光黄色、蛍光橙色あるいは蛍光赤色のいずれかの色彩に着色されてなることを特徴とする請求項1記載の高視認性編物。 【請求項3】 カーボンアーク灯およびキセノンランプを光源とする耐光堅牢度がいずれも4級もしくは4級以上であることを特徴とする請求項1または2記載の高視認性編物。 【請求項4】 生地表側から生地裏側へとつなぐタック組織を構成する糸と同一ループ部を形成する糸がポリエステル繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の高視認性編物。 【請求項5】 生地表側組織に針抜部分を有さないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の高視認性編物。 【請求項6】 生地の表組織のカバーファクターが1.2以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の高視認性編物。但し、カバーファクターは以下の式で算出されるものとする。 カバーファクターCf=√NT/Sl ここで、NT:繊度(tex),Sl:編目長(mm)とする。 編目長Sl=L/n ここでL:解編した糸の長さ,n:解編した編目数とする。 【請求項7】 編物が、分散染料のみによって蛍光黄色、蛍光橙色あるいは蛍光赤色のいずれかに染色加工されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の高視認性編物。 【請求項8】 編物の吸湿能力(RMA)および放湿能力(RMD)が共に0.3以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の高視認性編物。 【請求項9】 請求項1〜8のいずれか1項記載の高視認性編物により構成される高視認性衣服。」 第4 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1〜9に係る特許に対して、当審が令和3年3月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 本件特許の請求項1〜9に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1〜9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 引用文献1:特開2014−185413号公報(甲第1号証) 引用文献2:特開2014−214408号公報(甲第2号証) 第5 当審の判断 1 引用文献の記載事項、引用発明 以下、下線は、理解の便宜又は強調の為、当審が付した。 (1)引用文献1 引用文献1には、図面と共に、次の記載がある。 ア 「【請求項1】 表組織が経糸および緯糸ともにポリエステル繊維によって構成され、裏組織がセルロース系繊維を構成繊維として含んでなる重ね組織により構成される織物であり、 表組織を構成するポリエステル繊維は二酸化チタンの含有量が多くとも1質量%であり、 少なくとも表組織を構成するポリエステル繊維が、蛍光黄色、蛍光橙色あるいは蛍光赤色のいずれかの色彩に着色されてなることを特徴とする高視認性重ね織物。 ・・・ 【請求項3】 表組織のカバーファクターが22以上であることを特徴とする請求項1または2記載の高視認性重ね織物。 【請求項4】 カーボンアーク灯およびキセノンランプを光源とする耐光堅牢度がいずれも5級もしくは5級以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の高視認性重ね織物 ・・・ 【請求項7】 織物が、分散染料のみによって蛍光黄色、蛍光橙色あるいは蛍光赤色のいずれかに染色加工されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の高視認性重ね織物。 【請求項8】 織物の吸湿能力(RMA)および放湿能力(RMD)が共に0.3以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の高視認性重ね織物。 ・・・ 【請求項10】 請求項1〜9のいずれかに記載の高視認性重ね織物により構成される高視認性衣服。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、高視認性の織物に関するものである。 【背景技術】 【0002】 自動車や電車・列車等の車両や、航空機、船舶等、高速で移動する乗り物の近くでの作業に従事する者は、常に接触事故の危険を伴っている。その為、視覚で認識しやすいように、蛍光色や鮮明色の生地や再起反射素材を使用した視認性の高い安全作業服を着用する必要がある。例えばEU諸国においては、特定の業務に従事する者は、EN471規格に規定された高視認性安全作業服の着用が義務付けられている。この様な高視認性安全作業服については、日本においても必要性が高まっている。 【0003】 欧州におけるEN471規格を例にとると、高視認性安全作業服は、視覚的な認識効果に優れた特定の蛍光色に着色された生地と、光に対する再起反射性を有する素材をそれぞれ一定面積以上使用した衣類を着用する必要がある。これは、微細な違いはあるにせよ、米国規格協会の規定するANSI 107−1999規格等も同様の基準である。高視認性を付与した布帛に関する技術としては特許文献1が挙げられる。この技術によれば、ANSI 107−1999に適合する高視認性の色調に染色された布帛が開示されているが、屋外における太陽光が照射される環境下で長期に亘って使用した際の色調の退色については何ら言及したものではない。」 ウ 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 日本をはじめとするアジア諸国は、欧米と比較して太陽光の照射が強く、蛍光着色された生地の耐光堅牢度を維持するのが難しくなる。特に綿やレーヨン等、吸汗性・吸放湿性に優れたセルロース繊維は一般的にポリエステル等の合成繊維に比べて堅牢度の維持が難しい為、セルロース繊維を含む生地については太陽光による変色の懸念が高く、結果として吸汗性・吸放湿性に乏しいポリエステル等の合成繊維のみを素材として使用せざるを得ない状況であった。そこで、本発明は、視認性に優れた蛍光色が長期間着用しても維持されており、かつ吸汗性や吸放湿性にも優れた高視認性の織物を安定的に供給することを技術的な課題とするものである。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明は、表組織が経糸および緯糸ともにポリエステル繊維によって構成され、裏組織がセルロース系繊維を構成繊維として含んでなる重ね組織により構成される織物であり、 表組織を構成するポリエステル繊維は二酸化チタンの含有量が多くとも1質量%であり、 少なくとも表組織を構成するポリエステル繊維が、蛍光黄色、蛍光橙色あるいは蛍光赤色のいずれかの色彩に着色されてなることを特徴とする高視認性重ね織物を要旨とするものである。 【0007】 以下、本発明について説明する。 【0008】 本発明の織物は、表組織が、経糸および緯糸ともにポリエステル繊維により構成され、該ポリエステル繊維が、蛍光黄色、蛍光橙色あるいは蛍光赤色のいずれかの色彩に着色され、裏組織が、セルロース系繊維を構成繊維として含んでなる重ね組織により構成される。本発明の織物においては、表組織は、高視認性の機能を奏するために鮮明な蛍光色を発色し、一方、裏組織は、この織物を衣料とした際に吸汗性・吸放湿性の機能を果たし快適性を保持する。なお、裏組織を構成する繊維としてセルロース系繊維が含まれているが、裏組織を構成する繊維の10質量%以上がセルロース系繊維によって構成されていることが好ましく、より好ましくは35質量%である。」 エ 「【0014】 本発明の織物は、表組織にはポリエステル繊維を配し、裏組織には主としてセルロース系繊維を配した重ね組織により構成されるが、裏組織に配されるセルロース系繊維が表側に極力現れないように接結させる組織とする。セルロース系繊維は分散染料では染まらず、また、一般にセルロース系繊維に適用される蛍光染料は分散染料と比べて耐光堅牢度が低い。よって、セルロース系繊維にも蛍光色を発現させるために、セルロース系繊維が染まりやすい反応染料を使用すると、得られる織物は耐光堅牢度が低下する傾向となる。したがって、本発明においては、耐光堅牢度性を維持するためには、分散染料のみを用いた染色加工により特定の蛍光色に着色することが好ましい。また、本発明においては、セルロース系繊維は、分散染料では蛍光色に染まらないため蛍光色を発色しないが、裏組織を構成するセルロース系繊維が表側に極力現れず、かつ織物の表から観察した際にセルロール系繊維を視認しにくい組織を選択することにより、セルロース系繊維が蛍光色を発色しなくとも、本発明の目的とする高視認性を発現することが可能になる。 オ 「【0015】 本発明の織物は、表組織と裏組織とからなる重ね組織により構成される。重ね組織としては、経二重織、緯二重織、経緯二重織等が挙げられ、これらの重ね組織を用いることができる。なお、経緯二重織とは、表組織と裏組織のそれぞれ1枚ずつの合計2枚の織物で構成され、織糸で接結されてなる織物である。また、織組織としては、経二重綾織、緯二重綾織あるいは経緯二重平織(ダブルプレイン)の組織が、表側から見た際に裏側のセルロース系繊維が表側のポリエステル繊維に隠れて見えにくく、特に好ましい。 【0016】 表側から見た際に裏組織のセルロース系繊維が視認しにくくするには、表組織のカバーファクター(CF)が22以上であることが好ましい。ここで、カバーファクターとは、織物を構成する糸の太さと織物密度とによって定められる織物構造の粗密を表わす係数であり、下記式によって算出される。 カバーファクター(CF)=A+B ただし、A、Bは下記式により算出される数値である。 A={(織物の経糸の密度(本/インチ)÷√経糸の番手)+(織物の緯糸の密度(本/インチ)÷√緯糸の番手)}÷2 B={(織物の経糸の密度(本/インチ)÷√経糸の番手)+(織物の緯糸の密度(本/インチ)÷√緯糸の番手)}×(1÷一完全組織の数) ・・・ 【0018】 表組織のカバーファクターは、22以上であることが好ましく、より好ましくは23〜30である。カバーファクターが22未満であると、裏組織を構成するセルロース系繊維が表側より視認しやすくなり、視認性や耐光堅牢度の低下が懸念される。なお、カバーファクターが30を超えると、密度が高過ぎて製織が困難になり、重ね組織の織物が得にくい傾向となる。」 カ 「【発明の効果】 【0023】 本発明の高視認性重ね織物は、視認性に優れた蛍光色が長期間着用しても維持されており、かつ吸汗性や吸放湿性にも優れたものである。」 以上ア〜カからみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「表組織が経糸および緯糸ともにポリエステル繊維によって構成され、裏組織がセルロース系繊維を構成繊維として含んでなる重ね組織により構成され、重ね組織は、表組織と裏組織のそれぞれ1枚ずつの合計2枚の織物で構成され、裏組織に配されるセルロース系繊維が表側に極力現れないように織糸で接結されてなる織物であり、 表組織を構成するポリエステル繊維は二酸化チタンの含有量が多くとも1質量%であり、 少なくとも表組織を構成するポリエステル繊維が、蛍光黄色、蛍光橙色あるいは蛍光赤色のいずれかの色彩に着色されてなり、 カーボンアーク灯およびキセノンランプを光源とする耐光堅牢度がいずれも5級もしくは5級以上であり、 表側から見た際に裏組織のセルロース系繊維が視認しにくくするには、表組織の織物を構成する糸の太さと織物密度とによって定められる織物構造の粗密を表わす係数であるカバーファクター(CF)が22以上であることが好ましく、織物が、分散染料のみによって蛍光黄色、蛍光橙色あるいは蛍光赤色のいずれかに染色加工されており、 織物の吸湿能力(RMA)および放湿能力(RMD)が共に0.3以上である高視認性重ね織物。」 (2)引用文献2 引用文献2には、図面と共に、次の記載がある。 ア 「【請求項1】 表面層の編密度が2800〜8000個/6.45cm2であり、かつ、該表面層をなす編糸の平均繊度が30〜115デシテックスであるダブル丸編地であって、表面層側でタック編目、裏面層側でニット編目を形成しているリブ糸を有し、全体の厚みが0.5〜1.2mmの範囲であることを特徴とするダブル丸編地。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明の目的は、上述したような点に鑑み、滑らかな光沢で高級感のある外観と、破裂強度や摩耗強度の高さを両立させたダブル丸編地を提供することにある。 ・・・ 【発明の効果】 【0013】 本発明によれば、滑らかな光沢で高級感のある外観と、破裂強度や摩耗強度の高さが両立したダブル丸編地が実現される。そのため、激しい動作にも耐えられてデザイン性にも優れた各種衣料、特に運動時や作業時にアウターとして着用するトレーニングウエアに適したダブル丸編地を提供される。」 ウ 「【0023】 上記の要件を満たすことで高級感のある目面にすることはできるが、破裂や摩耗に対する強度については十分ではなく、それらに対する強度を高めるには、表面層側でタック編目を形成し、裏面層側でニット編目を形成するリブ糸を有し、かつ、ダブル丸編地の全体の厚みが0.5〜1.2mmの範囲であることが重要である。 ・・・ 【0026】 図2において、矢印Aで示した方が表面層側であり、矢印Bで示した方が裏面層側である。リブ糸Yは、表面層側ではニット編目cに引っ掛かった構造であるタック編目dを形成し、裏面層側では、ニット編目eを形成した構造を有している。そのため、表面層側と裏面層側とに空間fができ、厚みのある編地にすることができる。図2で、A1は表面層を構成する編糸を示し、B1は裏面層を構成する編糸を示している。 【0027】 厚みの出しやすさを考慮すると、表面層と裏面層を繋ぐリブ糸Yが、表面層側でタック編目を形成し裏面層側でニット編目を形成しているリブ糸のみであることが好ましい。また、本発明のダブル丸編地を表面層側から見た場合、図3に示すように表面層をなす編糸A1が形成しているニット編目cの間に、タック編目dを形成しているリブ糸Yが挟まれた構造となっている。 【0028】 本発明の一例である編地の編方図を示している図4においては、F1は表面層側でタック編目、裏面層側でニット編目を形成しているリブ糸であり、F2、F4、F7は表面層をなす編糸、F3、F5、F6、F8は裏面層をなす編糸である。」 エ 「【0044】 実施例1 40ゲージのダブル丸編機を用い、図4に示す編方図のF1にポリエステル33デシテックス、12フィラメントの仮撚加工糸を、F2、F4、F7にポリエステル56デシテックス、24フィラメントの仮撚加工糸を、F3、F5にポリエステル110デシテックス、48フィラメントの仮撚加工糸、F6、F8にポリエステル84デシテックス、36フィラメントの仮撚加工糸を給糸してダブル丸編地を編成した。ここで、F1がリブ糸、F2、F4、F7が表面層、F3、F5、F6、F8が裏面層を構成している。」 オ 「【産業上の利用可能性】 【0063】 本発明によれば、滑らかな光沢で高級感のある外観と、破裂強度や摩耗強度の高さを両立することができるため、激しい動作にも耐えられてデザイン性にも優れたダブル丸編地を提供するものであり、該ダブル丸編地は、各種衣料、中でもトレーニングウエアに好適に使用することができる。」 以上ア〜オの記載からみて、引用文献2には、次の技術的事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。 「表面層側でタック編目、裏面層側でニット編目を形成しているリブ糸を有するダブル丸編地。」 2 引用文献以外の他の証拠及びその記載事項 甲第3号証(特開2001−271250号公報)には、次の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】ポリマーの屈折率が1.30〜1.50であり、分散染料によって染色された脂肪族ポリエステル繊維を少なくとも一部に用いた繊維構造物であって、明度L*値が18以下、彩度C*値が10以下であることを特徴とする脂肪族ポリエステル繊維構造物。 ・・・ 【請求項6】繊維構造物が編物であり、下記式2で規定される編地カバーファクターF2が、2〜60であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の脂肪族ポリエステル繊維構造物。 F2={繊度(dtex)0.5}/{ループ長(cm)}・・・(式2)」 イ 「【0045】繊維構造物が編物である場合には、下記式2で規定される編地カバーファクターF2が、2〜60であることが望ましい。 【0046】 F2={繊度(dtex)0.5}/{ループ長(cm)}・・・(式2) カバーファクターF2が2以上の場合には、単位面積あたりの繊維の存在率が高く、優れた黒発色が得られる。また、60以下の場合には、風合いが硬くならず衣料用途に適したものとなる。カバーファクターF2は、より好ましくは5〜50、最も好ましくは10〜40である。」 3 本件発明1について 本件発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「重ね組織」は、本件発明1の「ダブル組織」に相当するから、引用発明の「重ね組織により構成され」る「織物」と、本件発明1の「ダブル組織により構成される編物」とは、「ダブル組織により構成される生地」の限りで一致する。 引用発明の「表組織」及び「裏組織」は、それぞれ本件発明1の「表組織」及び「裏組織」に相当するから、引用発明の「表組織が経糸および緯糸ともにポリエステル繊維によって構成され」ていることは、本件発明1の「表組織は、ポリエステル繊維によってのみ構成され」ていることに相当し、以下同様に、「裏組織がセルロース系繊維を構成繊維として含んでなる」ことは、「裏組織は、裏組織の構成繊維としてセルロース系繊維を含」むことに相当し、「表組織を構成するポリエステル繊維は二酸化チタンの含有量が多くとも1質量%であり、少なくとも表組織を構成するポリエステル繊維が、蛍光黄色、蛍光橙色あるいは蛍光赤色のいずれかの色彩に着色されてなること」は「表組織を構成するポリエステル繊維は、二酸化チタンの含有量が多くとも1質量%であり、かつ蛍光色彩に着色されてな」ることに相当する。 引用発明の「高視認性重ね織物」と、本件発明1の「高視認性編物」とは、「高視認性生地」の限りで一致する。 引用発明の「表組織と裏組織」を「接結」する「織糸」と、本件発明1の「生地表側でニット組織のみ及び生地裏側でタック組織のみを形成しており、ポリエステル繊維によって構成され、かつ、前記ポリエステル繊維は表組織を構成するポリエステル繊維と同色の蛍光色彩に着色されてなる」「生地表側と生地裏側をつなぐ結節組織を構成する糸」とは、「生地表側と生地裏側をつなぐ結節組織を構成する糸」の限りで一致する。 したがって、本件発明1と引用発明とは、次の一致点で一致し、次の相違点で相違する。 [一致点] 「ダブル組織により構成される生地であり、 表組織は、ポリエステル繊維によってのみ構成され、 裏組織は、裏組織の構成繊維としてセルロース系繊維を含み、 表組織を構成するポリエステル繊維は、二酸化チタンの含有量が多くとも1質量%であり、かつ蛍光色彩に着色されてなり、 生地表側と生地裏側をつなぐ結節組織を構成する糸を備えた、 高視認性生地。」 [相違点1] 「ダブル組織により構成される生地であ」る「高視認性生地」について、本件発明1は「ダブル組織により構成される編物であ」る「高視認性編物」であるのに対し、引用発明は「重ね組織により構成され」る「織物」である「高視認性重ね織物」である点。 [相違点2] 「生地表側と生地裏側をつなぐ結節組織を構成する糸」について、本件発明1は「生地表側でニット組織のみ及び生地裏側でタック組織のみを形成しており、ポリエステル繊維によって構成され、かつ、前記ポリエステル繊維は表組織を構成するポリエステル繊維と同色の蛍光色彩に着色されてなる」「生地表側と生地裏側をつなぐ結節組織を構成する糸」であるのに対し、引用発明は「表組織と裏組織」を「接結」する「織糸」である点。 上記相違点1及び2について検討する。 事案に鑑み最初に相違点2について検討する。 引用発明は、「視認性に優れた蛍光色が長期間着用しても維持されており、かつ吸汗性や吸放湿性にも優れた高視認性の織物を安定的に供給する」(【0005】)ことを発明が解決しようとする課題とし、「裏組織は、この織物を衣料とした際に吸汗性・吸放湿性の機能を果たし快適性を保持する」(【0008】)ものであり、「裏組織を構成するセルロース系繊維が表側に極力現れず、かつ織物の表から観察した際にセルロール系繊維を視認しにくい組織を選択することにより、セルロース系繊維が蛍光色を発色しなくとも、本発明の目的とする高視認性を発現することが可能になる」(【0014】)ものである。 一方で、引用文献2に記載された編地は、「滑らかな光沢で高級感のある外観と、破裂強度や摩耗強度の高さを両立させたダブル丸編地を提供する」(【0010】)という課題を解決するものである。 そうすると、引用発明の「表組織」及び「裏組織」の構成に、引用文献2記載事項を適用し、相違点1に係る本件発明1のように構成し、その結果「生地表側でニット組織のみ及び生地裏側でタック組織のみを形成し」たものとなったとしても、「生地表側と生地裏側をつなぐ結節組織を構成する糸」を、「ポリエステル繊維によって構成」し、「かつ、前記ポリエステル繊維は表組織を構成するポリエステル繊維と同色の蛍光色彩に着色されてなる」ものにはならない。 したがって、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて当業者が容易に想到し得たことではない。 よって、本件発明1は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて当業者が容易に発明し得たものではない。 4 本件発明2〜9について 本件発明2〜9は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものである。 そうすると、本件発明2〜9を引用発明と対比すると、両者の間には、少なくとも、本件発明1と引用発明を対比した際の上記相違点1及び2が存在することになり、そして、その相違点2についての判断は、既に述べたとおりである。 したがって、本件発明2〜9は、いずれも、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて当業者が容易に発明し得たものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ダブル組織により構成される編物であり、 表組織は、ポリエステル繊維によってのみ構成され、 裏組織は、裏組織の構成繊維としてセルロース系繊維を含み、 表組織を構成するポリエステル繊維は、二酸化チタンの含有量が多くとも1質量%であり、かつ蛍光色彩に着色されてなり、 生地表側と生地裏側をつなぐ結節組織を構成する糸が、生地表側でニット組織のみ及び生地裏側でタック組織のみを形成しており、ポリエステル繊維によって構成され、かつ、前記ポリエステル繊維は表組織を構成するポリエステル繊維と同色の蛍光色彩に着色されてなることを特徴とする高視認性編物。 【請求項2】 表組織を構成するポリエステル繊維が、蛍光黄色、蛍光橙色あるいは蛍光赤色のいずれかの色彩に着色されてなることを特徴とする請求項1記載の高視認性編物。 【請求項3】 カーボンアーク灯およびキセノンランプを光源とする耐光堅牢度がいずれも4級もしくは4級以上であることを特徴とする請求項1または2記載の高視認性編物。 【請求項4】 生地表側から生地裏側へとつなぐタック組織を構成する糸と同一ループ部を形成する糸がポリエステル繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の高視認性編物。 【請求項5】 生地表側組織に針抜部分を有さないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の高視認性編物。 【請求項6】 生地の表組織のカバーファクターが1.2以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の高視認性編物。但し、カバーファクターは以下の式で算出されるものとする。 カバーファクターCf=√NT/Sl ここで、NT:繊度(tex),Sl:編目長(mm)とする。 編目長Sl=L/n ここでL:解編した糸の長さ,n:解編した編目数とする。 【請求項7】 編物が、分散染料のみによって蛍光黄色、蛍光橙色あるいは蛍光赤色のいずれかに染色加工されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の高視認性編物。 【請求項8】 編物の吸湿能力(RMA)および放湿能力(RMD)が共に0.3以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の高視認性編物。 【請求項9】 請求項1〜8のいずれか1項記載の高視認性編物により構成される高視認性衣服。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-03-30 |
出願番号 | P2015-079347 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(D04B)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
藤原 直欣 |
特許庁審判官 |
平野 崇 石井 孝明 |
登録日 | 2019-12-27 |
登録番号 | 6636258 |
権利者 | ユニチカトレーディング株式会社 |
発明の名称 | 高視認性編物 |
代理人 | 田中 順也 |
代理人 | 迫田 恭子 |
代理人 | 迫田 恭子 |
代理人 | 田中 順也 |
代理人 | 水谷 馨也 |
代理人 | 水谷 馨也 |