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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B65D 審判 全部申し立て 2項進歩性 B65D |
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管理番号 | 1386090 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-10-26 |
確定日 | 2022-04-08 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6694845号発明「青果物の鮮度保持用の包装体、及び青果物の鮮度保持方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6694845号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜6][7、8]について訂正することを認める。 特許第6694845号の請求項1〜2、4〜8に係る特許を維持する。 特許第6694845号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6694845号の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成29年3月30日の出願であって、令和2年4月22日にその特許権の設定登録がされ、同年5月20日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和2年10月26日 :特許異議申立人森川真帆(以下、「申立人」という。)による請求項1〜8に係る特許に対する特許異議の申立て 令和3年1月26日付け:取消理由通知書 令和3年4月2日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求 令和3年5月24日付け:訂正拒絶理由通知書 令和3年6月24日 :特許権者による意見書の提出及び手続補正 令和3年9月30日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和3年12月3日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求(以下、この訂正請求を「本件訂正請求」といい、この訂正請求による訂正を「本件訂正」という。) 令和4年1月14日 :申立人による意見書の提出 なお、上記令和3年4月2日に特許権者がした訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正の適否 1.本件訂正の内容 本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において、「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が0.01体積%以上、1.04体積%以下である」との発明特定事項を、「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が0.01体積%以上、1.04体積%以下であり、包装体の封止直後の内部酸素濃度が、0体積%以上15体積%以下であり、」に訂正する。 (請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2、4〜6も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1において、「前記高分子フィルムの酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day以下であ」るとの発明特定事項を追加する。 (請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2、4〜6も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4において、「請求項1から3のいずれか一項に記載」とあるのを「請求項1又は2に記載」に訂正する。 (請求項4を直接的又は間接的に引用する請求項5〜6も同様に訂正する。) (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5において、「請求項1から4のいずれか一項に記載」とあるのを「請求項1から2、及び4のいずれか一項に記載」に訂正する。 (請求項5を引用する請求項6も同様に訂正する。) (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6において、「請求項1から5のいずれか一項に記載」とあるのを「請求項1から2、及び4から5のいずれか一項に記載」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7において、「酸素透過度が500cc/m2/atm/day以上2500cc/m2/atm/day」とあるのを「酸素透過度が500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day」に訂正する。 (請求項7を引用する請求項8も同様に訂正する。) (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項7において、「包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納して封止する工程、及び封止直後の該包装容器内の酸素濃度を、0体積%以上15体積%以下にする工程」とあるのを「包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納して封止する工程、封止直後の該包装容器内の酸素濃度を、0体積%以上15体積%以下にする工程、及び包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度を0.01体積%以上、1.04体積%以下とする工程」に訂正する。 (請求項7を引用する請求項8も同様に訂正する。) 2.一群の請求項について 訂正事項1〜6に係る訂正前の請求項1〜6について、請求項2〜6は、それぞれ直接的又は間接的に請求項1を引用しているものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は一群の請求項ごとに請求されたものであり、訂正前の請求項1〜6に対応する訂正後の請求項[1〜6]は、一群の請求項である。 また、訂正事項7〜8に係る訂正前の請求項7〜8について、請求項8は、請求項7を引用しているものであって、訂正事項7及び8によって記載が訂正される請求項7に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は一群の請求項ごとに請求されたものであり、訂正前の請求項7〜8に対応する訂正後の請求項[7〜8]は、一群の請求項である。 4.訂正の適否についての判断 (1)訂正事項1について a 訂正の目的について 訂正事項1は、訂正前の請求項1における「包装体」について「包装体の封止直後の内部酸素濃度が、0体積%以上15体積%以下」であることを直列的に付加して減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 b 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0062】の【表1】の「封入ガス組成」の欄に「酸素」が0〜15体積%である実施例が記載されているから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項を追加するものではない。 c 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項1は、訂正前の請求項1における「包装体」について、上記のような発明特定事項を直列的に付加するものであって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について a 訂正の目的について 訂正事項2は、訂正前の請求項1における「高分子フィルム」について「前記高分子フィルムの酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day以下」であることを直列的に付加して減縮するものであるとともに、訂正前の請求項3の「前記高分子フィルムの酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、500cc/m2/atm/day以上2500cc/m2/atm/day以下である」との数値範囲を狭くして付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 b 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項2は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項3に「前記高分子フィルムの酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、500cc/m2/atm/day以上2500cc/m2/atm/day以下である」ことか記載されているとともに、願書に添付した明細書の段落【0054】、【0055】、【0060】〜【0062】の実施例1〜実施例5において、高分子フィルムの酸素透過度を1000cc/m2/atm/day又は「2000cc/m2/atm/day」とした実施例が記載されているから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項を追加するものではない。 c 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項2は、訂正前の請求項1における「高分子フィルム」について、上記のような発明特定事項を直列的に付加するものであって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について a 訂正の目的について 訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 b 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、新規事項を追加するものではないことが明らかである。 c 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかである。 (4)訂正事項4〜6について a 訂正の目的について 訂正事項4〜6は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除したことに伴って、請求項3を選択的に引用していた請求項4〜6について、請求項3の引用を削除して整合させるものであるから、特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 b 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項4〜6は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除したことに伴って、請求項3を選択的に引用していた請求項4〜6について、請求項3の引用を削除して整合させるものであるから、新規事項を追加するものではないことが明らかである。 c 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除したことに伴って、請求項3を選択的に引用していた請求項4〜6について、請求項3の引用を削除して整合させるものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかである。 (5)訂正事項7について a 訂正の目的について 訂正事項7は、訂正前の請求項7における「高分子フィルム」の「酸素透過度」の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 b 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項7は、願書に添付した明細書の段落【0054】、【0055】、【0060】〜【0062】の実施例1〜実施例5において、高分子フィルムの酸素透過度を1000cc/m2/atm/day又は2000cc/m2/atm/dayとすることが記載されているから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項を追加するものではない。 c 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項7は、訂正前の請求項7における「高分子フィルム」の「酸素透過度」の数値範囲を狭くするものであって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)訂正事項8について a 訂正の目的について 訂正事項8は、訂正前の請求項7における「青果物の鮮度保持方法」において、「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度を0.01体積%以上、1.04体積%以下とする工程」を直列的に付加して減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 b 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項8は、願書に添付した明細書の段落【0019】に「・・・0.01体積%以上であることが好ましく、・・・」と記載され、また段落【0062】の【表1】の実施例1〜実施例5には、包装体の封止後10℃で72時間経過後の内部酸素濃度が1.04体積%以下であることが記載されており、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであるから、新規事項を追加するものではない。 c 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項8は、訂正前の請求項7における「青果物の鮮度保持方法」について、上記のような発明特定事項を直列的に付加するものであって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 4.本件訂正についてのまとめ 以上のとおりであるから、訂正事項1〜8は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号又は第3号に掲げられた事項を目的とするものであり、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜6][7、8]について訂正することを認める。 第3 本件訂正後の発明 本件訂正請求により訂正された請求項1〜請求項8に係る発明(以下、各々「本件発明1」〜「本件発明8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜請求項8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 【請求項1】 延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム、又は延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体である2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなる包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納してなり、包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が0.01体積%以上、1.04体積%以下であり、 包装体の封止直後の内部酸素濃度が、0体積%以上15体積%以下であり、 前記高分子フィルムの酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day以下である、包装体。 【請求項2】 前記包装容器内に更に窒素が封入されている、請求項1に記載の包装体。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記高分子フィルムの厚みが、15から45μmである、請求項1又は2に記載の包装体。 【請求項5】 前記高分子フィルムが、少なくとも1種の抗菌剤を含有し、又は少なくとも1種の抗菌剤が塗布されている、請求項1から2、及び4のいずれか一項に記載の包装体。 【請求項6】 更に吸湿剤、及び/又は抗菌剤を収納してなる、請求項1から2、及び4から5のいずれか一項に記載の包装体。 【請求項7】 20℃、90%RHにおける酸素透過度が500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day以下であり、延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム、又は延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体である2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなる包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納して封止する工程、封止直後の該包装容器内の酸素濃度を、0体積%以上15体積%以下にする工程、及び包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度を0.01体積%以上、1.04体積%以下とする工程を有する、青果物の鮮度保持方法。 【請求項8】 該包装容器内に窒素を封入する工程を更に有する、請求項7に記載の、青果物の鮮度保持方法。 第4 取消理由の概要 当審が令和3年9月30日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)(以下、単に「取消理由通知」という。)の概要は、次のとおりである。 理由1(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 理由2(進歩性) 本件特許の請求項1〜6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された以下の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 甲第1号証:特開2004−242504号公報 甲第2号証:特開2002−186420号公報 甲第3号証:特開昭55−120744号公報 甲第4号証:特開昭57−36967号公報 なお、甲第1号証〜甲第4号証の各々を「甲1」〜「甲4」、甲1〜甲4に記載された事項を、各々「甲1記載事項」〜「甲4記載事項」ともいう。 第5 当審の判断 1.理由1(サポート要件)について (1)課題を解決するための手段の反映について ア 発明の詳細な説明の段落【0005】には、「キャベツを含む青果物の褐変及び異臭、とりわけ褐変を、従来技術の限界を超えて長期間にわたり抑制できるなど、該青果物の鮮度保持機能に優れた包装体を提供すること」が、発明が解決しようとする課題として記載されている。 イ そして、当該課題を解決するため、発明の詳細な説明には、「本発明者は、鋭意検討の結果、包装後初期の包装体の内部酸素濃度を所定範囲に制御することが、キャベツを含む青果物の褐変及び異臭、とりわけ褐変を長期間にわたり抑制し、包装体の商品寿命を延長するために特に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。」(【0005】)と記載され、「本発明によれば、包装後初期の包装体内部の酸素濃度を所定範囲に制御することで、キャベツを含む青果物の褐変及び異臭、とりわけ褐変を長期間にわたり抑制し、包装体の商品寿命を延長することができる包装体、及び青果物の鮮度保持方法が提供される。」(【0008】)と記載されている。 さらに、発明の詳細な説明では、アに示した課題を解決できるものとして、初期酸素濃度が0〜15体積%、供給酸素量をコントロールする酸素透過度が1000〜15000cc/m2/atm/day、消費酸素量をコントロールするカットキャベツの量が150gを、220mm×240mm:内寸の面積1232cm2の包装袋に封入したものの場合に72時間経過後であっても褐変と臭気を抑制できると当業者が認識し得るものであり、さらに、酸素透過度が1000cc/m2/atm/day又は2000cc/m2/atm/dayの場合は、72時間以上が経過しても継続的に褐変を抑制できるものとして当業者が認識し得るものである。 ウ 以上の記載に照らせば、本件発明が特定している数値範囲は、いずれも、上記課題を解決するための範囲内のものであるから、本件発明1〜2、4〜6は、上記課題を解決するものであるといえ、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてないとはいえない。 (2)発明の詳細な説明に開示された内容の拡張ないし一般化について ア 包装体の封止後72時間経過後における内部酸素濃度と、72時間経過後におけるカットキャベツを含む青果物(以下、「青果物」という。)の褐変及び臭気の状況、特に褐変の状況は、以下の事項1〜3に応じて相違するものであって、これら事項1〜3の変動は相互に影響するものであるから、72時間経過後における褐変及び臭気、特に褐変を抑制し得る事項1〜3の具体的な態様は、一義的に決まるものではない。 <事項1>「青果物を収納し包装容器を封止した直後の包装容器内の酸素濃度」(以下、「初期酸素濃度」という。) <事項2>「包装容器壁を通じて供給される酸素量」(以下、「供給酸素量」という。) <事項3>「青果物の呼吸により消費される酸素量」(以下、「消費酸素量」という。) イ 一方、本件発明1〜2、4〜6は、初期酸素濃度として「包装体の封止直後の内部酸素濃度が、0体積%以上15体積%以下」であること、供給酸素量として「前記高分子フィルムの酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day以下」を特定するものであって、上記(1)で示したとおり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 ウ また、包装袋にカットキャベツを封入した場合における当該包装袋の内部酸素濃度は、上記イに記載した初期酸素濃度、供給酸素量及び消費酸素だけでなく、包装袋のサイズ(容積、内面積等)によっても変化し得ることものと認められるから、本件の発明の詳細な説明の段落【0054】の【表1】の実施例1〜5の記載から見て、<事項1>初期酸素濃度(0〜15体積%)及び<事項2>供給酸素量を意味する酸素透過度(1000cc/m2/atm/day又は2000cc/m2/atm/day)で封入した場合、「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が0.01体積%以上、1.04体積%以下」とすることができる「包装袋のサイズ」と「カットキャベツの量」の組み合わせを推定することが可能である。 してみると、発明の詳細な説明に記載された実施例1〜5から、上記<事項1>及び<事項2>並びに「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が0.01体積%以上、1.04体積%以下」であることから、<事項3>を「包装袋のサイズ」と「カットキャベツの量」の組み合わせの範囲で拡張、一般化することが可能である。 エ してみると、本件発明1〜2、4〜6は、上記<事項1>及び<事項2>に加えて、「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が0.01体積%以上、1.04体積%以下」であることを特定することで、上記<事項3>を「包装袋のサイズ」と「カットキャベツの量」の組み合わせとして拡張、一般化できる範囲で特定するものといえるから、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。 オ 本件発明7〜8についても、「20℃、90%RHにおける酸素透過度が500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day以下であり、・・・包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納して封止する工程」、「封止直後の該包装容器内の酸素濃度を、0体積%以上15体積%以下にする工程」、及び「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度を0.01体積%以上、1.04体積%以下とする工程」を備えるから、本件発明1〜2,4〜6と同様に、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。 (3)申立人の主張について 申立人は、令和4年1月14日提出の意見書において、「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が0.01体積%以上、1.04体積%以下」を<事項a>とし、「上記消費酸素量(事項3)に相当するもの、又は、上記消費酸素量(事項3)を推定させるものではない。」、「さらに、訂正発明では、『包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度の数値範囲は、包装体の封止後早期から72時間までにわたって、内部酸素濃度が数値範囲内である可能性が高い』(本件特許明細書の段落【0021】)という推定に基づいて、上記<事項a>が規定されているが、・・・実施例1〜5の内部酸素濃度の時間経緯からみて、上記推定は正しいものとはいえない。」から、訂正発明1〜2、4〜8は、発明の詳細な説明において、課題が解決できるものとして当業者が認識し得る範囲を超えて特許を請求するものである旨を主張する。 しかしながら、発明の詳細な説明の実施例1及び2は、カットキャベツを包装袋に封入した当初から内部酸素濃度が1.04体積%以下であり、実施例3〜5についても、72時間を経過する前に内部酸素濃度が1.04体積%以下であるから、発明の詳細な説明の記載に矛盾はなく、申立人の主張を採用することはできない。 (4)小括 よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明において、課題を解決できるものとして当業者が認識し得る範囲を超えて特許を請求するものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する。 2.理由2(進歩性)について 2−1.引用文献に記載された事項及び引用発明 (1)甲1について 甲1には、以下の事項が記載されている。 ア「【請求項1】 カットキャベツを厚さ20〜50μmの合成樹脂フィルムで包装した包装体において、包装体の酸素透過速度が120〜400cc/100g・day・atm、二酸化炭素透過速度が120〜600cc/100g・day・atm、包装体の有効表面積の水蒸気透過速度が50g/m2・day・atm(at40℃・90%RH)以下であることを特徴とするカットキャベツの包装体。 【請求項2】 カットキャベツを包装後48時間以内の包装体内の酸素濃度が0.03〜1.8%、二酸化炭素濃度が14〜22%である請求項1記載のカットキャベツの包装体。 【請求項3】 合成樹脂フィルムが、開孔面積7.9×10−11〜7.1×10−8m2の微細孔を1個以上または表面に貫通あるいは未貫通の傷、クラックを少なくとも1個以上有する請求項1又は2に記載のカットキャベツの包装体。 【請求項4】 合成樹脂フィルムの開口面積比率が1.6×10−6〜9.9×10−6%である請求項3に記載のカットキャベツの包装体。 【請求項5】 合成樹脂フィルムが、延伸ポリプロピレン、無延伸ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンとポリエチレンのラミネートフィルム、延伸ポリプロピレンと無延伸ポリプロピレンのラミネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンのラミネートフィルム、ポリアミドとポリエチレンのラミネートフィルムのいずれかである請求項1、2又は4に記載のカットキャベツの包装体。 ・・・ 【請求項8】 包装体の保管温度が0〜15℃である請求項1、2、4、5、6又は7に記載のカットキャベツの包装体。」 イ「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明はカットキャベツの鮮度を保持するする包装体に関するものである。」 ウ「【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、MA効果によってカットキャベツの褐変、腐敗などを防止でき、かつ嫌気による異臭も発生しない包装体を提供することである。」 エ「【0006】 【発明の実施の形態】 本発明の目的である、MA包装によってカットキャベツの褐変、腐敗を抑えつつ、嫌気による異臭の発生、劣化の促進を抑制するには、包装体の酸素透過速度が120〜400cc/100g・day・atm、二酸化炭素透過速度が120〜600cc/100g・day・atm、水蒸気透過量が50g/m2・day・atm(at40℃・90%RH)以下であれば良いことを見出した。包装体の酸素透過速度、二酸化炭素透過速度がこの範囲にあれば、異臭の発生が抑えられ、変色も少ない。また、包装体の水蒸気透過速度が50g/m2・day・atm(at40℃・90%RH)を超えるとカットキャベツに萎れが発生して商品性が失われる。 【0007】 包装体内の酸素濃度は0.03〜1.8%、二酸化炭素濃度は14〜22%であることが好ましい。酸素濃度が0.03%未満や二酸化炭素濃度が22%より高い場合では、嫌気による異臭が発生し食べることが出来なくなる可能性があり、逆に酸素濃度が1.8%より高く、二酸化炭素濃度が14%未満の場合は、キャベツが茶色に変色しやすくなり、見栄えが悪くなって商品性が低下する可能性がある。 【0008】 カットキャベツを包装するには、強度、価格の兼ね合いから厚さ20〜50μmの合成樹脂フィルムを用いれば良いが、さらに、好ましくは20〜40でμm(当審注:「でμm」は「μm」の誤記であると思われる。)である。 【0009】 包装体に用いる合成樹脂フィルムは、価格など実用性を考慮すると、例えば、延伸ポリプロピレン、無延伸ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンとポリエチレンのラミネートフィルム、延伸ポリプロピレンと無延伸ポリプロピレンのラミネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンのラミネートフィルム、ポリアミドとポリエチレンのラミネートフィルムのいずれかを用いることができる。これらに印刷や防曇加工が施してあっても何ら差し支えない。 【0010】 上記合成樹脂フィルムをそのまま用いると包装体の酸素及び二酸化炭素透過速度が不足する可能性がある。これを防ぐには、合成樹脂フィルムに開孔面積7.1×10−8m2以下の微細孔を1個以上または表面に貫通あるいは未貫通の傷、クラックを設ければよい。微細孔の開口面積が7.1×10−8m2〜7.9×10−11m2であるのは、孔が大きすぎると包装体の酸素と二酸化炭素の透過速度のばらつきが大きくなるためであり、異物の混入を避けるため極力小さいほうが好ましいが、逆に孔が小さすぎると加工が困難であるためである。・・・」 オ「【0012】 包装体内の初期酸素量は、150cc/100g以下であることが好ましい。150cc/100gを超えると、パック時にガス置換を行う場合を除き、包装体内が48時間以内に適正な酸素と二酸化炭素濃度条件にならない可能性があり、包装体内の酸素濃度が0.03〜1.8%、二酸化炭素濃度が14〜22%に達する前にキャベツの褐変など劣化が進行してしまう。包装体内の初期酸素量を150cc/100gとするには、パック時に二酸化炭素や窒素にてガス置換するか脱気するのが好ましい。二酸化炭素や窒素にてガス置換あるいは脱気するには、市販の真空包装機を用いればよく、二酸化炭素や窒素ガスを吹きつけながら密封して袋内のガスを置換するなど公知の方法を用いることが出来る。 【0013】 包装体の保管温度は0〜15℃が好ましく、更に好ましくは2〜13℃である。15℃を超えると、微生物の繁殖等が著しく、呼吸を抑制しても腐敗が発生し鮮度保持効果が得られない。逆に0℃未満ではキャベツが凍結して傷む可能性がある。 【0014】 更に好ましくは、合成樹脂フィルムに、抗菌効果を有する物質を含ませることによって、微生物の繁殖を軽減できる。抗菌効果を有する物質は、合成樹脂フィルムに予め混合しても良く、またはフィルム表面に塗布しても良い。 ・・・」 カ「【0016】 【実施例】 《実施例1》 厚さ25μmの二軸延伸ポリプロピレン(水蒸気透過速度5g/m2・24hr:JISZ0208)からなり、開孔面積約1.26×10−9m2の孔を6個有する(開口面積比9.42×10−6%)、内寸200×200mmの袋に千切りキャベツ(カット巾約2mm)約150gを入れて袋の開口部をヒートシールで密封した後12℃で保管した。この時キャベツ100gあたりの酸素透過速度と二酸化炭素透過速度、初期袋内酸素量、試験開始2日目(48hr)と4日目(96hr)の袋内酸素濃度と二酸化炭素濃度、4日目における千切りキャベツの品質評価結果(褐変、腐敗、異臭)、同じく4日目の包装袋内のエタノール濃度結果を表1および表2に表示した。なお、評価はn数=5であり、以下同様の個数で評価した。 《実施例2》 厚さ25μmの二軸延伸ポリプロピレン(水蒸気透過速度5g/m2・24hr:JISZ0208)からなり、開孔面積約1.26×10−9m2の孔を5個有する(開口面積比率7.85×10−6%)、サイズ200×200mmの袋にカットキャベツ(約3cm四方にカット)約170gを入れて袋の開口部をヒートシールで密封した後12℃で保管した。この時キャベツ100gあたりの酸素透過速度と二酸化炭素透過速度、初期袋内酸素量、試験開始2日目(48hr)と4日目(96hr)の袋内酸素濃度と二酸化炭素濃度、4日目における千切りキャベツの、品質評価結果(褐変、腐敗、異臭)、同じく4日目の包装袋内のエタノール濃度結果を表1および表2に表示した。 《実施例3》 フィルム表面に傷とクラックを設けた厚さ25μmの二軸延伸ポリプロピレン(水蒸気透過速度5g/m2・24hr:JISZ0208)からなり、サイズ200×200mmの袋にカットキャベツ(約3cm四方にカット)約170gを入れて袋の開口部をヒートシールで密封した後12℃で保管した。この時キャベツ100gあたりの酸素透過速度と二酸化炭素透過速度、初期袋内酸素量、試験開始2日目(48hr)と4日目(96hr)の袋内酸素濃度と二酸化炭素濃度、4日目における千切りキャベツの、品質評価結果(褐変、腐敗、異臭)、同じく4日目の包装袋内のエタノール濃度結果を表1および表2に表示した。 《実施例4》 厚さ25μmの二軸延伸ポリプロピレン(水蒸気透過速度5g/m2・24hr:JISZ0208)からなり、開孔面積約1.26×10−9m2の孔を4個有する(開口面積比3.35×10−6%)、内寸250×300mmの袋に千切りキャベツ(カット巾約2mm)約150gを入れて袋の開口部をヒートシールで密封した後12℃で保管した。この時キャベツ100gあたりの酸素透過速度と二酸化炭素透過速度、初期袋内酸素量、試験開始2日目(48hr)と4日目(96hr)の袋内酸素濃度と二酸化炭素濃度、4日目における千切りキャベツの、品質評価結果(褐変、腐敗、異臭)、同じく4日目の包装袋内のエタノール濃度結果を表1および表2に表示した。 《実施例5》 厚さ30μmの二軸延伸ポリプロピレン(水蒸気透過速度4g/m2・24hr:JISZ0208)からなり、開孔面積約3.14×10−8m2の孔を1個有する(開口面積比9.42×10−6%)、内寸200×260mmの袋に千切りキャベツ(カット巾約2mm)約350gを入れて袋の開口部をヒートシールで密封した後14℃で保管した。この時キャベツ100gあたりの酸素透過速度と二酸化炭素透過速度、初期袋内酸素量、試験開始2日目(48hr)と4日目(96hr)の袋内酸素濃度と二酸化炭素濃度、4日目における千切りキャベツの、品質評価結果(褐変、腐敗、異臭)、同じく4日目の包装袋内のエタノール濃度結果を表1および表2に表示した。 《実施例6》 厚さ40μmの二軸延伸ポリプロピレン(水蒸気透過速度3g/m2・24hr:JISZ0208)からなり、開孔面積約7.07×10−10m2の孔を5個有する(開口面積比4.42×10−6%)、内寸200×200mmの袋に千切りキャベツ(カット巾約2mm)約150gを入れて袋の開口部をヒートシールで密封した後5℃で保管した。この時キャベツ100gあたりの酸素透過速度と二酸化炭素透過速度、初期袋内酸素量、試験開始2日目(48hr)と4日目(96hr)の袋内酸素濃度と二酸化炭素濃度、4日目における千切りキャベツの、品質評価結果(褐変、腐敗、異臭)、同じく4日目の包装袋内のエタノール濃度結果を表1および表2に表示した。 《実施例7》 厚さ42μmのポリエチレンテレフタレート(12μm)と低密度ポリエテレン(30μm)のラミネートフィルム(水蒸気透過速度20g/m2・24hr:JISZ0208)からなり、開孔面積約1.26×10−9m2の孔を4個有する(開口面積比 6.30×10−6%)、内寸200×200mmの袋に千切りキャベツ(カット巾約2mm)約150gを入れて袋の開口部をヒートシールで密封した後12℃で保管した。この時キャベツ100gあたりの酸素透過速度と二酸化炭素透過速度、初期袋内酸素量、試験開始2日目(48hr)と4日目(96hr)の袋内酸素濃度と二酸化炭素濃度、4日目における千切りキャベツの、品質評価結果(褐変、腐敗、異臭)、同じく4日目の包装袋内のエタノール濃度結果を表1および表2に表示した。」 キ「【0018】 【表1】 【0019】 【表2】 」 上記摘記事項のうち、特に実施例2、実施例3、実施例5及び実施例7に着目すると、甲1には、以下の二つの発明が記載されている(以下、「引用発明A」、「引用発明B」という。)。 (引用発明A) 「二軸延伸ポリプロピレン、ポリエチレン等の、厚さ20〜40μmで、抗菌効果を有する物質を含む高分子フィルムで形成された袋内にカットキャベツ又は千切りキャベツを入れ、窒素でガス置換して初期袋内酸素量を35〜90cc/100gとした袋の開口部をヒートシールで密封後12〜14℃で保持した48時間経過後の袋内の酸素濃度が0.05〜0.9%、96時間経過後の袋内の酸素濃度が0.04〜0.5%であり、前記袋の酸素透過速度が140〜380cc/100g・day・atmであるカットキャベツ又は千切りキャベツを入れた袋。」 (引用発明B) 「酸素透過速度が140〜380cc/100g・day・atmであり、二軸延伸ポリプロピレン、ポリエチレン等の、厚さ20〜40μmの高分子フィルムで形成された袋内にカットキャベツ又は千切りキャベツを入れ、窒素でガス置換して初期袋内酸素量を35〜90cc/100gとした袋の開口部をヒートシールで密封する工程、密封後12〜14℃で保持した48時間経過後の袋内の酸素濃度が0.05〜0.9%、96時間経過後の袋内の酸素濃度が0.04〜0.5%であるカットキャベツ又は千切りキャベツの鮮度保持方法。」 (2)甲2について 甲2には、以下の事項が記載されている。 「【0011】本発明の鮮度維持方法は、殆どの青果物に適用できるが、例えば、サクランボ、ナシ、リンゴ、ミカン、カキ、ビワ、モモ、ブドウなどの果実類、トマト、キュリ、イチゴ、ピーマンなどの果采、シュンギク、ホウレンソウ、ニラ、レタス、キャベツなどの野菜類に好ましく適用される。・・・ 【0012】本発明で鮮度維持剤として用いるアルカリ性化合物としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物または弱酸塩などであり、この中で水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが使用しやすさ、安全性(食品添加物に指定)の点でより好ましい。 【0013】本発明で鮮度維持剤としてアルカリ性化合物とともに使用できる吸着剤としては、例えば、シリカ・アルミナ系吸着剤、炭素系吸着剤があげられる。シリカ・アルミナ系吸着剤とは、シリカおよび/または、アルミナ成分を含む吸着剤のことである。その例として、パーライト、ゼオライト、シリカアルミナゲル、シリカゲル、アルミナゲル、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム等があげられる。炭素系吸着剤とは、植物由来物を炭化、活性化したもの、石炭を活性化したものなどであり、その代表例として、活性炭をあげることができる。」 (3)甲3について 甲3には、以下の事項が記載されている。 「本発明において青果物とは各種の果実、野菜が含まれ、常温で発芽することによりその商品価値を低下するもので、これを具体的に例示すると、例えば里芋、かんしょ、ばれいしよ、セレベス、えびいも、やつがしら、ながいも、やまといも、らつきよう、エシヤレツト、ゆりね、ベコロス、マーリレツト、たまねぎおよびにんにく等の土物類があげられる。 アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等で例示されるアルカリ金属水酸化物、酸化カルシウム、酸化バリウム等で例示されるアルカリ土類金属酸化物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等で例示されるアルカリ土類金属水酸化物が好ましく、とくに、水酸化カルシウムが好ましい。・・・」(第2ページ左上欄第1行〜第16行) (4)甲4について 甲4には、以下の事項が記載されている。 「本発明は生野菜類及び加工品、蓄肉、魚肉加工品、大豆加工品、コーヒー等の嗜好品、粉末みそ汁、果汁、めん類等の凍結真空乾燥される食品に適用される。 脱酸素剤としては亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、亜ニチオン酸塩、シユウ酸塩、ビロガロ−ル、ロンガリツト、グルコース、銅アミン錯体、アスコルビン酸、ロンガリツト、グルコース、銅アミン錯体、アスコルビン酸、鉄粉、亜鉛末等の各種還元性物質を主剤とする任意の組成のものを用いる事ができる。脱酸素剤は通常、通気性包材に包装して用いられ、通気性包材としては有孔プラスチツクフイルムやマイクロポーラスフイルムをラミネートした包材が好ましい。脱酸素剤は吸着剤、アルカリ剤などと併用してもよい。」(第2ページ左上欄第3行〜第18行) 2−2.対比・判断 (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と、引用発明Aとを対比する。 引用発明Aの「二軸延伸ポリプロピレン、ポリエチレン等」の「高分子フィルム」は、本件発明1の「延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム」に相当する。 引用発明Aの「袋」は、本件発明1の「包装容器」に相当し、引用発明Aの「二軸延伸ポリプロピレン、ポリエチレン等」の「高分子フィルムで形成された袋」は、「延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム」で形成された「包装容器」の限りにおいて本件発明1の「延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム、又は延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体である2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなる包装容器」に一致する。 本件発明1の「カットキャベツを含む青果物」が「青果物の全部がキャベツで構成されている場合」(本件の特許明細書の段落【0013】)を含む概念であるから、引用発明Aの「カットキャベツ」は、本件発明1の「カットキャベツを含む青果物」に相当する。よって、引用発明Aの「袋内にカットキャベツ又は千切りキャベツを入れ」は、本件発明1の「包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納してなり」に相当する。 そして、引用発明Aの「カットキャベツ又は千切りキャベツを入れた袋」は、本件発明1の「包装体」に相当する。 してみると、本件発明1と引用発明Aとは、「延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルムで形成された包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納してなる、包装体。」で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 「延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム」で形成された「包装容器」について、本件発明1は、「延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム、又は延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体である2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなる包装容器」であるのに対して、引用発明Aは、「高分子フィルムで形成された」とする点。 (相違点2) 本件発明1は、「包装体の封止直後の内部酸素濃度が、0体積%以上15体積%以下であ」るのに対して、引用発明Aは、「窒素でガス置換して初期袋内酸素量を35〜90cc/100gとした」点。 (相違点3) 本件発明1は、「10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が0.01体積%以上1.04体積%以下である」のに対して、引用発明Aは、「12〜14℃で保持した48時間経過後の袋内の酸素濃度が0.05〜0.9%、96時間経過後の袋内の酸素濃度が0.04〜0.5%」である点。 (相違点4) 本件発明1は、「前記高分子フィルムの酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、500cc/m2/atm/day以上2500cc/m2/atm/day以下である」のに対して、引用発明Aは、袋の酸素透過速度が140〜380cc/100g・day・atmである点。 イ 判断 事案に鑑み、相違点4から検討する。 甲1の実施例7の酸素透過速度、袋の内寸及び千切りキャベツの量から計算すると、実施例7の袋の酸素透過度は、140cc/100g・day・atm×(1/(2×0.2m×0.2m))×(150g/100g)=2625cc/m2/atm/dayであり、本件発明1の「高分子フィルムの酸素透過度」の数値範囲内に含まれないものである。 そして、甲1の実施例7は、甲1に記載された実施例のうちで酸素透過速度が最も低いものであって、実施例7の高分子フィルムの酸素透過度を2625cc/m2/atm/dayより低い値にする動機付けはないから、引用発明Aの酸素透過度を、2625cc/m2/atm/day以下の数値範囲である「500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day以下」とすることは、当業者にとって容易になし得たことではない。 さらに、甲2〜甲4の記載を参酌しても、包装袋の酸素透過度を「500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day以下」とすることを動機づける記載はないし、示唆する記載もない。 よって、引用発明Aを、上記相違点4に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に為し得た事項であるとはいえない。 してみると、相違点1〜3について判断するまでもなく、本件発明1は、引用発明Aに基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2、本件発明4〜6について 本件発明2、本件発明4〜6も、本件発明1の「前記高分子フィルムの酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、500cc/m2/atm/day以上2500cc/m2/atm/day以下である」と同一の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明Aに基いて容易に発明できたものとはいえない。 (3)本件発明7について ア 対比 本件発明7と、引用発明Bとを対比する。 引用発明Bの「二軸延伸ポリプロピレン、ポリエチレン等」の「高分子フィルム」は、本件発明7の「延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム」に相当する。 引用発明Bの「袋」は、本件発明7の「包装容器」に相当し、引用発明Bの「二軸延伸ポリプロピレン、ポリエチレン等」の「高分子フィルムで形成された袋」は、「延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム」で形成された「包装容器」の限りにおいて本件発明7の「延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム、又は延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体である2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなる包装容器」に一致する。 本件発明7の「カットキャベツを含む青果物」が「青果物の全部がキャベツで構成されている場合」(本件の特許明細書の段落【0013】)を含む概念であるから、引用発明Bの「カットキャベツ」は、本件発明7の「カットキャベツを含む青果物」に相当する。 これより、引用発明Bの「袋内にカットキャベツ又は千切りキャベツを入れ」は、本件発明7の「包装容器内にカットキャベツ又は千切りキャベツを含む青果物を収納」に一致する。 そして、引用発明Bの「カットキャベツ又は千切りキャベツの鮮度保持方法」は、本件発明7の「青果物の鮮度保持方法」に相当する。 してみると、本件発明7と引用発明Bとは、「延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルムで形成された包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納する工程を有する、青果物の鮮度保持方法。」で一致し、次の点で相違する。 (相違点5) 高分子フィルムについて、本件発明7は、「20℃、90%RHにおける酸素透過度が500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day以下であ」るのに対して、引用発明Bは、「酸素透過速度が140〜380cc/100g・day・atm」である点。 (相違点6) 「延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム」で形成された「包装容器」について、本件発明7は、「延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム、又は延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体である2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなる包装容器」であるのに対して、引用発明Bは、「高分子フィルムで形成された」とする点。 (相違点7) 本件発明7は、「封止直後の該包装容器内の酸素濃度を、0体積%以上15体積%以下にする工程」を有するのに対して、引用発明Bは、「窒素でガス置換して初期袋内酸素量を35〜90cc/100gとし」てからヒートシールで密封する点。 (相違点8) 本件発明7は、「10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が0.01体積%以上1.04体積%以下である」のに対して、引用発明Bは、「12〜14℃で保持した48時間経過後の袋内の酸素濃度が0.05〜0.9%、96時間経過後の袋内の酸素濃度が0.04〜0.5%」である点。 イ 判断 上記相違点5について検討すると、甲1の実施例7の酸素透過速度、袋の内寸及び千切りキャベツの量から計算すると、実施例7の高分子フィルムの酸素透過度は、140cc/100g・day・atm×(1/(2×0.2m×0.2m))×(150g/100g)=2625cc/m2/atm/dayであり、本件発明7の高分子フィルムの「酸素透過度の数値範囲」内に含まれないものである。 そして、甲1の実施例7は、甲1に記載された実施例のうちで酸素透過速度が最も低いものであって、実施例7の袋の酸素透過度を2625cc/m2/atm/dayより低い値にする動機付けはないから、引用発明Bの酸素透過度を、2625cc/m2/atm/day以下の数値範囲である「500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day以下」とすることは、当業者にとって容易になし得たことではない。 さらに、甲2〜甲4の記載を参酌しても、包装袋の酸素透過度を「500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day以下」とすることを動機づける記載はないし、示唆する記載もない。 よって、引用発明Bを、上記相違点5に係る本件発明7の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に為し得た事項であるとはいえない。 してみると、相違点6〜8について判断するまでもなく、本件発明7は、引用発明Bに基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明8について 本件発明8も、本件発明7の「20℃、90%RHにおける酸素透過度が500cc/m2/atm/day以上2500cc/m2/atm/day以下」と同一の構成を備えるものであるから、本件発明7と同じ理由により、当業者であっても、引用発明Bに基いて容易に発明できたものとはいえない。 (5)申立人の主張について 申立人は、令和4年1月14日提出の意見書において、高分子フィルムの20℃、90%RHにおける酸素透過度について、『そして、本件特許明細書の実施例1(段落【0054】)では、カットキャベツ150gを、内寸の面積が1232cm2の包装袋に収容していることから、カットキャベツ100g当たりの高分子フィルムの酸素透過度は、 <訂正発明>では、41[500cc×(1232/10000)×(100/150)]〜164[2000cc×(1232/10000)×(100/150)]cc/atm/day」、<甲1発明>では、「140〜380cc/atm/day」となり、両者は重複一致しているといえる。』と主張する。 しかしながら、申立人の主張は、「カットキャベツ100g当たりの酸素透過速度」を比較するものであって、甲1発明と、本件発明1〜2、4〜8の高分子フィルムの「酸素透過度」を比較するものではない。 そして、上記(1)及び(3)で説示したとおり、甲1の実施例7は、甲1に記載された実施例のうちで酸素透過速度が最も低いものであって、甲1の実施例7の高分子フィルムの酸素透過度を2625cc/m2/atm/dayより低い値にする動機付けはない以上、申立人の主張を採用することはできない。 (6)小括 よって、本件発明1〜2、4〜8は、引用発明A又は引用発明Bに基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1〜6の記載は、「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が0.01体積%以上、1.04体積%以下」との包装体が達成すべき物性・特性により包装体が規定されているだけ」と主張し、「課題を解決するために必要な<封入ガス組成>及び<青果物の収容量>が規定されていない」から、訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜6に係る発明が不明確である旨を主張する。 しかしながら、上記第5の1.(1)に示したとおり、本件発明1〜2、4〜6は、「包装体の封止直後の内部酸素濃度が、0体積%以上15体積%以下」であることを発明特定事項とするものであるから、<封入ガス組成>を規定するものである。 また、上記第5の1.(2)で示したとおり、本件発明1〜2、4〜6は、「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が0.01体積%以上、1.04体積%以下」である事項により、当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識し得る範囲で特定するものであり、且つ、カットキャベツを含む<青果物の収容量>を規定するものといえるから、本件発明1〜2、4〜6は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するものである。 したがって、申立人Aのかかる主張は、採用することができない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由並びに特許異議の申立ての理由によっては、請求項1〜2、4〜8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜2、4〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項3に係る特許は、上記のとおり、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなった。よって、本件発明3に係る特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム、又は延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体である2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなる包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納してなり、包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が0.01体積%以上、1.04体積%以下であり、 包装体の封止直後の内部酸素濃度が、0体積%以上15体積%以下であり、 前記高分子フイルムの酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day以下である、包装体。 【請求項2】 前記包装容器内に更に窒素が封入されている、請求項1に記載の包装体。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 前記高分子フィルムの厚みが、15から45μmである、請求項1又は2に記載の包装体。 【請求項5】 前記高分子フィルムが、少なくとも1種の抗菌剤を含有し、又は少なくとも1種の抗菌剤が塗布されている、請求項1から2、及び4のいずれか一項に記載の包装体。 【請求項6】 更に吸湿剤、及び/又は抗菌剤を収納してなる、請求項1から2、及び4から5のいずれか一項に記載の包装体。 【請求項7】 20℃、90%RHにおける酸素透過度が500cc/m2/atm/day以上2000cc/m2/atm/day以下であり、延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム、又は延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体である2枚の高分子フィルムを互いに重ね合わせた状態、または1枚の該高分子フィルムを折り重ねた状態で融着してなる包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納して封止する工程、封止直後の該包装容器内の酸素濃度を、0体積%以上15体積%以下にする工程、及び包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度を0.01体積%以上、1.04体積%以下とする工程を有する、青果物の鮮度保持方法。 【請求項8】 該包装容器内に窒素を封入する工程を更に有する、請求項7に記載の、青果物の鮮度保持方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-03-31 |
出願番号 | P2017-069115 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B65D)
P 1 651・ 537- YAA (B65D) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
藤原 直欣 |
特許庁審判官 |
間中 耕治 久保 克彦 |
登録日 | 2020-04-22 |
登録番号 | 6694845 |
権利者 | 三井化学株式会社 三井化学東セロ株式会社 |
発明の名称 | 青果物の鮮度保持用の包装体、及び青果物の鮮度保持方法 |
代理人 | 特許業務法人浅村特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人浅村特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人浅村特許事務所 |