• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1386097
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-08 
確定日 2022-04-18 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6711015号発明「樹脂組成物、水性塗工液、保護層及び感熱記録媒体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6711015号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−8〕、9、10、11について訂正することを認める。 特許第6711015号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
1 特許異議申立の経緯
特許第6711015号(請求項の数8。以下、「本件特許」という。)は、平成28年2月26日の特許出願(特願2016−35158号)に係るものであって、令和2年6月1日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年6月17日である。)。
その後、令和2年12月8日に、本件特許の請求項1〜8に係る特許に対して、特許異議申立人である星光PMC株式会社(以下、「申立人A」という。)により、特許異議の申立てがされ、また、令和2年12月15日に、本件特許の請求項1〜8に係る特許に対して、特許異議申立人である山内憲之(以下、「申立人B」という。)により、特許異議の申立てがされた。
手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年12月 8日 特許異議申立書(申立人A)
同年 同月15日 特許異議申立書(申立人B)
令和3年 3月19日付け 取消理由通知書
同年 5月24日 意見書(特許権者)
同年 8月19日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年10月22日 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年10月28日付け 通知書(申立人A及びB宛て)
同年11月15日 上申書(申立人A)
同年11月17日 上申書(申立人B)
同年11月18日付け 通知書(申立人A及びB宛て)
同年12月 3日 意見書(申立人A)
同年12月22日 意見書(申立人B)

2 証拠方法
(1)申立人Aが提出した証拠方法は、以下のとおりである。
ア 特許異議申立書に添付した証拠
・甲第1号証 特許第4155235号
・甲第2号証 特許第3955083号
・甲第3号証 星光PMC株式会社 鈴木幸恵、「実験証明書」、令和2年11月11日作成
・甲第4号証 特開2015−13470号公報
・甲第5号証 特開2004−163784号公報

イ 令和3年12月3日に提出した意見書に添付した証拠
・参考資料1 特開平6−1842号公報
(以下、「甲第1号証」〜「甲第5号証」を「甲1A」〜「甲5A」といい、「参考資料1」を「参1」という。)

(2)申立人Bが提出した証拠方法は、以下のとおりである。
・甲第1号証 特開2015−13470号公報
・甲第2号証 特開2008−18619号公報
・甲第3号証 特開2008−229925号公報
・甲第4号証 特開2007−176001号公報
・甲第5号証 特開2009−45777号公報
・甲第6号証 星光PMC株式会社 吉谷孝治、「実験成績証明書」、令和2年11月12日作成
・甲第7号証 星光PMC株式会社製品カタログ、「湿潤紙力剤 WS4020」
・甲第8号証 星光PMC株式会社製品カタログ、「湿潤紙力剤 WS4020」
・甲第9号証 星光PMC株式会社 吉谷孝治、「実験成績証明書」、令和2年11月12日作成
・甲第10号証 星光PMC株式会社製品カタログ、「湿潤紙力剤 WS4030」
・甲第11号証 星光PMC株式会社製品カタログ、「湿潤紙力剤 WS4030」
(以下、「甲第1号証」〜「甲第11号証」を「甲1B」〜「甲11B」という。)

(3)特許権者が令和3年5月24日に提出した意見書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。
・乙第1号証 特開2012−80128号公報
・乙第2号証 特許第4780721号
・乙第3号証 特開2011−104184号公報
・乙第4号証 特開2010−167411号公報
(以下、「乙第1号証」〜「乙第4号証」を「乙1」〜「乙4」という。)

なお、甲4Aと甲1Bは、同じ文献である特開2015−13470号公報であるから、以下では甲4Aとも記載する。

第2 訂正の適否についての判断
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和3年10月22日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1〜11について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。また、本件設定登録時の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件明細書等」という。)。

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が「5〜30mPa・s」とあるのを、「10〜17.7mPa・s」に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項5に「請求項1〜4いずれか記載の樹脂組成物」とあるのを、「請求項2〜4いずれか記載の樹脂組成物」に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項6に「請求項1〜5いずれか記載の樹脂組成物」とあるのを、「請求項3〜5いずれか記載の樹脂組成物」に訂正する。

(4)訂正事項4
新たに請求項9を設け、以下を記載する。
「【請求項9】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・sであり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の含有量が、カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、0.5〜50重量部であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂中の下記一般式(1)で示される構造単位数nが平均で1.5以上であることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)」

(5)訂正事項5
新たに請求項10を設け、以下を記載する。
「【請求項10】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・s(但し、12mPa・s以下を除く)である樹脂組成物及び水を含有することを特徴とする水性塗工液。」

(6)訂正事項6
新たに請求項11を設け、以下を記載する。
「【請求項11】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・sであり、
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が、80〜90モル%(但し、85モル%以上を除く)である樹脂組成物及び水を含有することを特徴とする水性塗工液。」

(7)一群の請求項
訂正事項1〜6に係る訂正前の請求項1〜8について、請求項2〜8はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。

2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1におけるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度について、「5〜30mPa・s」とあるのを、「10〜17.7mPa・s」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
本件明細書等の【0024】には、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度は、特に好ましくは10〜25mPa・sであると記載され、また、同【0059】以降に記載されている実施例では、同【0061】に、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が17.7mPa・sであるものを使用することが記載されているから、訂正事項1による訂正は本件明細書等に記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

ウ 申立人Aの主張
申立人Aは、意見書において、23℃における10重量%水溶液粘度の上限と下限を異なる記載箇所から引用し限定する訂正は新規事項の追加の訂正である旨の主張をする(申立人Aの意見書第3頁第21〜30行)。
しかしながら、異なる記載箇所から引用し限定するという理由だけでは新規事項の追加の訂正とまではいえず、上記イで述べたように訂正事項1による訂正は本件明細書等に記載した事項の範囲内であることは明らかであり、新規事項の追加ではない。
よって、申立人Aの主張は採用できない。

(2)訂正事項2及び3について
ア 訂正の目的
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項5において、「請求項1〜4いずれか記載の樹脂組成物」とあるのを、「請求項2〜4いずれか記載の樹脂組成物」と訂正し、また、訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項6において、「請求項1〜5いずれか記載の樹脂組成物」とあるのを、「請求項3〜5いずれか記載の樹脂組成物」と訂正するものであり、これらの訂正は、いずれも引用する他の請求項を減縮する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項2及び3による訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内であること、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

(3)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4による訂正は、訂正事項2において、訂正前の請求項5が引用する訂正前の請求項1の記載を削除したことに伴い、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項5を訂正前の請求項1の記載を引用しないものとし、また、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を一般式(1)

で示される構造単位数nが平均で1.5以上であると限定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
本件明細書等の【0038】には、本発明で用いられるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂は、下記一般式(1)で示される構造単位数nが平均で1.5以上であることが好ましいこと、同【0040】には、一般式(1)が以下のとおり記載されているから、訂正事項4による訂正は本件明細書等に記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)

(4)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5による訂正は、訂正事項3において、訂正前の請求項6が引用する訂正前の請求項1の記載を削除したことに伴い、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項6を訂正前の請求項1の記載を引用しないものとし、また、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度を「5〜30mPa・s」から「10〜17.7mPa・s(但し、12mPa・s以下を除く)」と限定する訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
上記(1)イで述べたとおり、本件明細書等の【0024】には、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度は、特に好ましくは10〜25mPa・sであると記載され、また、同【0059】以降に記載されている実施例では、同【0061】に、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が17.7mPa・sであるものを使用することが記載されており、また、12mPa・s以下を除くことにより、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された全ての事項から導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、訂正事項5による訂正は本件明細書等に記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

(5)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6による訂正は、訂正事項3において、訂正前の請求項6が引用する訂正前の請求項2の記載を削除したことに伴い、訂正前の請求項2の記載を引用する訂正前の請求項6を訂正前の請求項2の記載を引用しないものとし、また、カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度を、「80〜90モル%」から「80〜90モル%(但し、85モル%以上を除く)」と限定する訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度を、「80〜90モル%」から「80〜90モル%(但し、85モル%以上を除く)」としたことにより、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された全ての事項から導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、訂正事項6による訂正は本件明細書等に記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

ウ 申立人Aの主張
申立人Aは、意見書において、ケン化度の上限と下限を異なる記載箇所から引用し限定する訂正は新規事項の追加の訂正である旨の主張をする(申立人Aの意見書第6頁第20〜31行)。
しかしながら、異なる記載箇所から引用し限定するという理由だけでは新規事項の追加の訂正とまではいえず、上記イで述べたように訂正事項6による訂正は本件明細書等に記載した事項の範囲内であることは明らかであり、新規事項の追加ではない。
よって、申立人Aの主張は採用できない。

(6)別の訂正単位とすることの求めについて
特許権者は、訂正事項4〜6のそれぞれに係る訂正後の請求項9〜11のそれぞれの訂正が認められる場合には、訂正後の請求項9〜11のそれぞれは請求項1〜8と別途訂正することも求めているところ、訂正事項4〜6に係る訂正後の請求項9〜11の訂正が認められたため、訂正後の請求項9〜11のそれぞれは、一群の請求項である請求項1〜8と別の訂正単位することを認める。

(7)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1〜6による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1及び4号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。

第3 特許請求の範囲の記載
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6711015号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜11に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1〜11に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」〜「本件発明11」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件の明細書を「本件明細書」という。)

「【請求項1】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・sであることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が、80〜90モル%であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂がマレイン酸変性ポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂がイタコン酸変性ポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の含有量が、カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、0.5〜50重量部であることを特徴とする請求項2〜4いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項3〜5いずれか記載の樹脂組成物及び水を含有することを特徴とする水性塗工液。
【請求項7】
請求項6記載の水性塗工液から形成されることを特徴とする保護層。
【請求項8】
請求項7記載の保護層を少なくとも1層有することを特徴とする感熱記録媒体。
【請求項9】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・sであり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の含有量が、カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、0.5〜50重量部であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂中の下記一般式(1)で示される構造単位数nが平均で1.5以上であることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
【請求項10】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・s(但し、12mPa・s以下を除く)である樹脂組成物及び水を含有することを特徴とする水性塗工液。
【請求項11】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・sであり、
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が、80〜90モル%(但し、85モル%以上を除く)である樹脂組成物及び水を含有することを特徴とする水性塗工液。」

第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由通知の概要
当審が令和3年8月19日付けの取消理由通知(決定の予告)及び令和3年3月19日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)取消理由1
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)取消理由2
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 特許異議申立理由の概要
(1)申立人Aの特許異議申立理由
ア 申立理由1A
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲1A、甲2A及び甲4Aに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

イ 申立理由2A
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1A、甲2A及び甲4Aに記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由3A
本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明は、下記の点で、当業者が本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜8に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

内容の概要は、「第5 2(2)ア(ア)」で示すとおりである。

エ 申立理由4A
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜8の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

内容の概要は、「第5 2(3)ア(ア)」で示すとおりである。

(2)申立人Bの特許異議申立理由
ア 申立理由1B
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲1B〜甲5Bに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

イ 申立理由2B
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1B〜甲5Bに記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由3B
本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明は、下記の点で、当業者が本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜8に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

内容の概要は、「第5 2(2)ア(イ)」で示すとおりである。

エ 申立理由4B
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜8の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

内容の概要は、「第5 2(3)ア(イ)」で示すとおりである。

オ 申立理由5B
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜8の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。
よって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

内容の概要は、「第5 2(4)ア」で示すとおりである。

第5 当審の判断
当審は、当審が通知した取消理由1及び2、申立人Aがした申立理由1A〜4A並びに申立人Bがした申立理由1B〜5Bによっては、いずれも、本件発明1〜11に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
なお、申立理由1A及び2Aのうち甲2A及び甲4Aを主引用例とする理由並びに申立理由1B及び2Bの理由は、取消理由1及び2と同じ文献を主引用例とする理由であるから併せて検討する。

1 取消理由について
(1)取消理由1及び2について
ア 甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明
(ア)甲2A
甲2Aの請求項1や段落【0004】、【0009】、【0011】、【0013】、【0015】、【0034】〜【0061】の実施例の記載、特に実施例のうち[参考例1]における保護層の塗液に着目すると、甲2Aには以下の発明が記載されていると認められる。
「水酸化アルミニウム50%分散液(マーティンスベルグ社製、アスペクト比:5、平均粒子径:3.5μm、吸油量:50ml/100g)9.0部
カルボキシ変性ポリビニルアルコール(クラレ社製商品名:KL118<重合度:約1700、鹸化度:95〜99モル%、酢酸ナトリウム:3%以下>)10%水溶液30部
ステアリン酸亜鉛(中京油脂社製商品名:ハイドリンZ−7−30、固形分30%)2.0部
ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC社製商品名:WS4020、固形分25%<カチオン化度:2.7、分子量:220万、4級アミン>)4.0部
変性ポリアミン系樹脂(住友化学社製商品名:スミレーズレジンSPI−102A、固形分45%)2.2部 を混合した保護層の塗液」(以下「甲2A発明1」という。)

また、甲2Aの[参考例2]には、「参考例1の保護層塗液に配合したカルボキシ変性ポリビニルアルコールを他のカルボキシ変性ポリビニルアルコール(クラレ社製商品名:KL318<重合度:約1700、鹸化度:85〜90モル%、酢酸ナトリウム:3%以下>)に変えた以外は参考例1と同様に感熱記録体を作製した。」と記載されている。そこで、甲2Aの[参考例2]における保護層の塗液に着目し、参考例1を書き下して記載すると、甲2Aには、以下の発明が記載されていると認められる。
「水酸化アルミニウム50%分散液(マーティンスベルグ社製、アスペクト比:5、平均粒子径:3.5μm、吸油量:50ml/100g)9.0部
カルボキシ変性ポリビニルアルコール(クラレ社製商品名:KL318<重合度:約1700、鹸化度:85〜90モル%、酢酸ナトリウム:3%以下>)10%水溶液30部
ステアリン酸亜鉛(中京油脂社製商品名:ハイドリンZ−7−30、固形分30%)2.0部
ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC社製商品名:WS4020、固形分25%<カチオン化度:2.7、分子量:220万、4級アミン>)4.0部
変性ポリアミン系樹脂(住友化学社製商品名:スミレーズレジンSPI−102A、固形分45%)2.2部 を混合した保護層の塗液」(以下「甲2A発明2」という。)

(イ)甲4A
甲4Aの請求項1や段落【0009】、【0068】、【0075】、【0098】〜【0100】、【0160】〜【0161】の記載、特に実施例6bの保護層用塗液に着目すると、甲4Aには以下の発明が記載されていると認められる。
「カオリン(商品名:UW−90、BASF社製)75部を水100部に分散して得られた分散液、カルボキシ変性ポリビニルアルコール(商品名:KL−118、重合度:約1700、鹸化度:95〜99モル%、クラレ社製)の10%水溶液450部、ステアリン酸亜鉛の30%水分散液10部、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(商品名:WS4020、固形分濃度:25%、星光PMC社製)60部、変性ポリアミン系樹脂(商品名:スミレーズレジンSPI−102A、固形分濃度:45%、住友化学社製)33部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩(商品名:SNウェットOT−70、サンノプコ社製)の10%水溶液10部からなる組成物を混合・攪拌して得られた保護層用塗液」(以下「甲4A発明」という。)

(ウ)甲2B
甲2Bの請求項1や段落【0005】、【0045】〜【0046】、【0048】、【0050】〜【0051】、【0053】、【0062】〜【0066】の記載、特に実施例1の保護層塗液に着目すると、甲2Bには以下の発明が記載されていると認められる。
「カルボキシ変性ポリビニルアルコール(KL118)10%溶液30部
ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(WS4020)4部
変性ポリアミン系樹脂(住友化学社製商品名:スミレーズレジンSPI−102A、固形分45%)2部
カオリン(イメリス社製、商品名:コンツア1500、アスペクト比:60、吸油量:45ml/100g、平均粒子径:2.5μm)50%分散液9部
ステアリン酸亜鉛(中京油脂社製、商品名:ハイドリンZ−7−30、固形分30%)5部を混合した保護層塗液」(以下「甲2B発明1」という。)

また、甲2Bの[実施例12]には、「実施例1のカルボキシ変性ポリビニルアルコール(KL118)を他のカルボキシ変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:KL318、重合度:約1700、ケン化度85〜90mol%)に変更した以外は、実施例1と同様に感熱記録体を得た。」と記載されている。そこで、甲2Bの[実施例12]の保護層塗液に着目し、実施例1を書き下して記載すると、甲2Bには、以下の発明が記載されていると認められる。
「カルボキシ変性ポリビニルアルコール((クラレ社製、商品名:KL318、重合度:約1700、ケン化度85〜90mol%))10%溶液30部
ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(WS4020)4部
変性ポリアミン系樹脂(住友化学社製商品名:スミレーズレジンSPI−102A、固形分45%)2部
カオリン(イメリス社製、商品名:コンツア1500、アスペクト比:60、吸油量:45ml/100g、平均粒子径:2.5μm)50%分散液9部
ステアリン酸亜鉛(中京油脂社製、商品名:ハイドリンZ−7−30、固形分30%)5部を混合した保護層塗液」(以下「甲2B発明2」という。)

(エ)甲3B
甲3Bの請求項1や段落【0005】、【0008】、【0011】、【0015】、【0031】〜【0033】の記載、特に実施例1の保護層塗料1に着目すると、甲3Bには以下の発明が記載されていると認められる。
「10%カルボキシ変性PVA溶液(クラレ社製、商品名:PVA−KL318)100部
25%ポリアミドエピクロロヒドリン液(星光PMC社製、商品名:WS4030、DCP含有量5000ppm未満)10部
45%変性ポリアミド樹脂溶液(住友化学社製、商品名:スミレッズレジンSPI106N)3部
20%珪酸分散液(水澤化学社製ミズカシルP527)50部
40%ステアリン酸亜鉛エマルジョン液(中京油脂社製、商品名:ハイドリンE−336)30部を攪拌混合した保護層塗料」(以下「甲3B発明」という。)

(オ)甲4B
甲4Bの請求項1や段落【0007】、【0010】、【0012】、【0013】、【0045】〜【0051】の記載、特に実施例1の保護層の塗液に着目すると、甲4Bには以下の発明が記載されていると認められる。
「水酸化アルミニウム(50%分散液)9.0部
カルボキシ変性ポリビニルアルコールA(重合度:600)10%水溶液30部
ステアリン酸亜鉛(中京油脂社製商品名:ハイドリンZ−7−30、固形分30%)2.0部
ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC社製商品名:WS4020、固形分25%、カチオン化度:2.7、分子量:220万、4級アミン)2.0部
変性ポリアミン系樹脂(住友化学社製商品名:スミレッズレジンSPI−102A、固形分25%)0.9部
を混合した保護層の塗液」(以下「甲4B発明」という。)

(カ)甲5B
甲5Bの請求項1や段落【0006】、【0010】、【0011】、【0013】、【0015】、【0020】、【0043】〜【0045】の記載、特に実施例1の保護層の塗液に着目すると、甲5Bには以下の発明が記載されていると認められる。
「水酸化アルミニウム(50%分散液)9.0部
カルボキシ変性ポリビニルアルコール(重合度:1700、鹸化度:88モル%)10%水溶液30部
ステアリン酸亜鉛(中京油脂社製、商品名:ハイドリンZ−7−30、固形分30%)2.0部
ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC社製、商品名:WS4020、固形分:25%、カチオン化度:2.7、分子量:220万、4級アミン)4.0部
変性ポリアミン系樹脂(住友化学社製、商品名:スミレーズレジンSPI−102A、固形分45%)2.2部
を混合した保護層の塗液」(以下「甲5B発明」という。)

(キ)甲5A
甲5Aには、以下の事項が記載されている。
(5Aa)「【0036】
比較例3
実施例1で用いた変性PVAに代えてKL−118(クラレ製;けん化度98.5モル%、重合度1700、1,2−グリコール結合含有量1.5モル%、マレイン酸変性1モル%)を使用し、・・・」

イ 参考文献の記載
当審は、技術常識が記載された文献として以下の参考文献1〜5を引用する。
(ア)参考文献1(国際公開第2010/044280号)
参考文献1には、以下の事項が記載されている。
(参1a)「[0098](実施例1)
ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン(熱硬化性ポリマー、製品名:WS4020、星光PMC株式会社製)」

(イ)参考文献2(特開2016−196117号公報)
参考文献2には、以下の事項が記載されている。
(参2a)「【0052】
[実施例1]
・・・ポリアミドポリアミン−エピクロロヒドリン樹脂(架橋性カチオン性ポリマー、商品名:「WS4020」、星光PMC社製)」

(ウ)参考文献3(特開2015−230141号公報)
参考文献3には、以下の事項が記載されている。
(参3a)「【0082】
(調製例1〜33)
・・・湿潤紙力剤であるエピクロロヒドリン変成ポリアミドポリアミン樹脂のWS4030(星光PMC株式会社製)・・・」

(エ)参考文献4(特開2015−178187号公報)
参考文献4には、以下の事項が記載されている。
(参4a)「【0041】
<下引き層塗布液−4>
ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン(星光PMC社製_WS4030)・・・」

(オ)参考文献5(特開2009−186659号公報)
参考文献5には、以下の事項が記載されている。
(参5a)「【0094】
・・・(株)クラレ製のカルボキシル基変性ポリビニルアルコール「クラレポバール KL318」(酢酸ビニルとイタコン酸ナトリウムのモル比98:2の共重合体のケン化物、ケン化度85〜90モル%、分子量約85,000)・・・」

ウ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 甲2A発明1及び2について
本件発明1と甲2A発明1及び2とを併せて検討する。
(a)対比
甲2A発明1及び2の「塗液」は、「カルボキシ変性ポリビニルアルコール」及び「ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂」という樹脂を含む塗液であるから樹脂組成物であるといえ、これは、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
甲2A発明1及び2の「ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂」として用いられている「星光PMC社製商品名:WS4020」は、参考文献1及び2によればポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂であるといえ(摘記(参1a)及び(参2a)を参照)、これは、本件発明1の「ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂」に相当することは明らかである。
そうすると、甲2A発明1及び2と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物。」

<相違点1(1)>
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が、本件発明1では「23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・sである」と特定されているのに対し、甲2A発明1及び2では23℃における10重量%水溶液粘度が明らかでない点

(b)判断
i まず、相違点1(1)の同一性について検討する。
本件発明1におけるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度の測定方法は、本件明細書の段落【0024】に、「本発明に用いられるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の粘度は、ブルックフィールド粘度計(DV3T 英弘精機社製)を用いて、23℃、回転数20rpmで測定されるものである。」と記載されている。
一方、甲3Aは実験証明書であり、ここには、星光PMC社製商品名:WS4020、固形分25%であるポリアミドエピクロロヒドリン樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度を、本件明細書に記載された測定方法と同じ測定方法で測定した結果が、3種類の異なるロット番号について、12、22、26mPa・sであることが記載され、また、甲6Bは実験成績証明書であり、ここにも、星光PMC社製商品名:WS4020、固形分濃度25%であるポリアミドエピクロロヒドリン樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度を、本件明細書に記載された測定方法と同じ測定方法で測定した結果が、12mPa・sであると記載されている。
ここで、甲7B及び甲8Bは、星光PMC株式会社の製品カタログであって「湿潤紙力剤 WS4020」の一般的性状が記載され、不揮発分は25.0±1.0%、粘度は25℃において50〜250mPa・sであることが記載されている。
このように、上記甲7B及び甲8Bによれば、上記WS4020は、商品としてあらかじめ定めた粘度範囲があるものといえ、上記した実験成績証明書である甲3Aによれば、同じWS4020でもロット番号によりその粘度は異なることがあり、実際、本件発明1の特定に含まれる12mPa・sの場合もあるし、一方、本件発明1の特定に含まれない22、26mPa・sの場合もあるといえる。
そうすると、甲2A発明1及び2において、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂として用いられているWS4020の上記水溶液粘度が、必ず10〜17.7mPa・sであることが証明されたとはいえないから、相違点1(1)は一致点であるとまではいえず、実質的な相違点であるといえる。

ii 次に、相違点1(1)の容易想到性について検討する。
(i)本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】によれば、耐水性及び耐ブロッキング性に優れた樹脂組成物を提供することを課題とし、同【0007】には、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂として低粘度であるものを用いることで、耐水性及び耐水ブロッキング性に優れる被膜を得られることを見出したことが記載され、本件発明1では、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度を10〜17.7mPa・sと特定する発明である。そして、同【0059】以降においては、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の上記粘度が31.2mPa・sである比較例1及び2、並びに42.4mPa・sである比較例3及び4に比べて、17.7mPa・sである実施例1〜6は、キャストフィルムの溶出率で示される耐水性評価及び耐水ブロッキング性が優れることが、具体的なデータと共に記載されている。

(ii)一方、甲2Aには、その段落【0004】に、十分な耐水性を有し、印字走行性(耐ヘッドカス性、耐スティック性)、感度に優れた感熱記録体を提供することを課題とすることが記載され、その請求項1に、支持体上に設けてある無色ないし淡色の電子供与性ロイコ染料および電子受容性顕色剤とを含有する感熱記録層上に、保護層を有する感熱記録体において、該保護層にカルボキシル基含有樹脂とエピクロロヒドリン系樹脂および変性ポリアミン/アミド系樹脂を含有し、且つ感熱記録層にカルボキシル基含有樹脂及び/又はエピクロロヒドリン系樹脂を含有する感熱記録体が記載され、同【0013】には、エピクロロヒドリン系樹脂の例示はされ、実施例においては、具体的に使用した商品名の記載はある。しかしながら、いずれにもエピクロロヒドリン系樹脂の粘度についての記載はない。ましてやエピクロロヒドリン系樹脂の粘度を特定の範囲とすることにより、耐水性及び耐水ブロッキング性に優れるとの記載もない。

そうすると、いくら当業者といえども、甲2Aの記載から甲2A発明1及び2において使用するポリアミド・ポリアミン系樹脂の粘度を本件発明1で特定される範囲とする動機付けがあるとはいえず、本件発明1は当業者が容易に想到できたものとはいえない。

b 甲4A発明について
(a)対比
甲4A発明の「塗液」は、「カルボキシ変性ポリビニルアルコール」及び「ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂」という樹脂を含む塗液であるから樹脂組成物であるといえ、これは、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
甲4A発明の「ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂」として用いられている「星光PMC社製」の「商品名:WS4020」は、上記a(a)で述べたとおりポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂であるといえ、これは、本件発明1の「ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂」に相当することは明らかである。
そうすると、甲4A発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物。」

<相違点1(2)>
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が、本件発明1では「23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・sである」と特定されているのに対し、甲4A発明では23℃における10重量%水溶液粘度が明らかでない点

(b)判断
まず、相違点1(2)の同一性について検討するが、相違点1(2)は相違点1(1)と同じであり、上記a(b)iで述べたとおり、相違点1(2)は一致点であるとまではいえず、実質的な相違点であるといえる。
次に、相違点1(2)の容易想到性について検討する。
本件発明1については上記a(b)ii(i)で述べたとおりである。
一方、甲4Aには、その段落【0009】に、記録濃度が高く、記録部の保存性に優れた感熱記録体を提供することを課題とすることが記載され、その請求項1に、概略、支持体上に、少なくともロイコ染料及び特定の化学構造を有する呈色剤を含有する感熱記録層、及び前記感熱記録層上にさらに保護層を有する感熱記録体であって、前記保護層中に、水溶性接着剤及び水分散性接着剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種の接着剤を含有し、かつ前記感熱記録層及び前記保護層の少なくとも一方に耐水化剤を含有する、
感熱記録体が記載され、同【0098】〜【0099】には、保護層に用いる耐水化剤としてポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂の例示はされ、実施例においては、具体的に使用した商品名の記載はある。しかしながら、いずれにもポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂の粘度についての記載はない。ましてやエピクロロヒドリン系樹脂の粘度を特定の範囲とすることにより、耐水性及び耐水ブロッキング性に優れるとの記載もない。

そうすると、いくら当業者といえども、甲4Aの記載から甲4A発明において使用するポリアミド・ポリアミン系樹脂の粘度を本件発明1で特定される範囲とする動機付けがあるとはいえず、本件発明1は当業者が容易に想到できたものとはいえない。

c 甲2B発明1及び2について
(a)対比
甲2B発明1及び2の「塗液」は、「カルボキシ変性ポリビニルアルコール」及び「ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂」という樹脂を含む塗液であるから樹脂組成物であるといえ、これは、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
甲2B発明1及び2の「ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂」として用いられている「WS4020」は、明細書の段落【0051】に「WS4020(星光PMC社製)」と記載されているから、星光PMC社製であるといえ、上記a(a)で述べたとおりポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂であるといえるところ、これは、本件発明1の「ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂」に相当することは明らかである。
そうすると、甲2B発明1及び2と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物。」

<相違点1(3)>
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が、本件発明1では「23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・sである」と特定されているのに対し、甲2B発明1及び2では23℃における10重量%水溶液粘度が明らかでない点

(b)判断
まず、相違点1(3)の同一性について検討するが、相違点1(3)は相違点1(1)と同じであり、上記a(b)iで述べたとおり、相違点1(3)は一致点であるとまではいえず、実質的な相違点であるといえる。
次に、相違点1(3)の容易想到性について検討する。
本件発明1については上記a(b)ii(i)で述べたとおりである。
一方、甲2Bには、その段落【0005】に、発色感度が高く、耐熱性、耐水性、耐可塑剤性等の保存性に優れ、かつ印字走行性が良好な感熱記録体を提供することを課題とすることが記載され、その請求項1に、概略、支持体上に、電子供与性ロイコ染料及び特定の化学構造を有する電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層並びに保護層を有する感熱記録体であって、保護層が、カルボキシル基含有樹脂とエピクロロヒドリン系樹脂及び変性ポリアミン/アミド系樹脂を含有する感熱記録体が記載され、同【0051】には、保護層に用いるエピクロロヒドリン系樹脂の例示はされ、実施例においては、具体的に使用した商品名の記載はある。しかしながら、いずれにもエピクロロヒドリン系樹脂の粘度についての記載はない。ましてやエピクロロヒドリン系樹脂の粘度を特定の範囲とすることにより、耐水性及び耐水ブロッキング性に優れるとの記載もない。

そうすると、いくら当業者といえども、甲2Bの記載から甲2B発明1及び2において使用するポリアミド・ポリアミン系樹脂の粘度を本件発明1で特定される範囲とする動機付けがあるとはいえず、本件発明1は当業者が容易に想到できたものとはいえない。

d 甲3B発明について
(a)対比
甲3B発明の「塗料」は、「カルボキシ変性PVA」及び「ポリアミドエピクロロヒドリン」という樹脂を含む塗料であるから樹脂組成物であるといえ、これは、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
甲3B発明の「25%ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂」として用いられている「星光PMC社製」の「商品名:WS4030」は、参考文献3及び4によればポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂であるといえ(摘記(参3a)及び(参4a)を参照)、これは、本件発明1の「ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂」に相当することは明らかである。
そうすると、甲3B発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物。」

<相違点1(4)>
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が、本件発明1では「23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.70mPa・sである」と特定されているのに対し、甲3B発明では23℃における10重量%水溶液粘度が明らかでない点

(b)判断
i まず、相違点1(4)の同一性について検討する。
甲6Bは実験成績証明書であり、ここには、星光PMC社製商品名:WS4030、固形分濃度25%であるポリアミドエピクロロヒドリン樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度を、本件明細書に記載された測定方法と同じ測定方法で測定した結果が、26mPa・sであると記載されている。
そうすると、相違点1(4)は、実質的な相違点である。

ii 次に、相違点1(4)の容易想到性について検討する。
本件発明1については上記a(b)ii(i)で述べたとおりである。
一方、甲3Bには、その段落【0005】に、耐水性、耐溶剤性に優れ、発色感度が良好な環境への影響の少ない感熱記録体を提供することを課題とすることが記載され、その請求項1に、概略、支持体上に、電子供与性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層と保護層を有する感熱記録体であって、保護層中に、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、1,3-ジクロロ−2−プロパノールの含有量が5000ppm未満のエピクロロヒドリン系樹脂及びポリアミン/アミド系樹脂を含有することを特徴とする感熱記録体が記載され、同【0013】には、保護層に用いるエピクロロヒドリン系樹脂としてポリアミドエピクロロヒドリン樹脂の例示はされ、実施例においては、具体的に使用した商品名の記載はある。しかしながら、いずれにもポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂の粘度についての記載はない。ましてやエピクロロヒドリン系樹脂の粘度を特定の範囲とすることにより、耐水性及び耐水ブロッキング性に優れるとの記載もない。

そうすると、いくら当業者といえども、甲3Bの記載から甲3B発明において使用するポリアミド・ポリアミン系樹脂の粘度を本件発明1で特定される範囲とする動機付けがあるとはいえず、本件発明1は当業者が容易に想到できたものとはいえない。

e 甲4B発明について
(a)対比
甲4B発明の「塗液」は、「カルボキシ変性ポリビニルアルコール」及び「ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂」という樹脂を含む塗液であるから樹脂組成物であるといえ、これは、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
甲4B発明の「ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂」として用いられている「星光PMC社製商品名:WS4020」は、上記a(a)で述べたとおりポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂であるといえ、これは、本件発明1の「ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂」に相当することは明らかである。
そうすると、甲4B発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物。」

<相違点1(5)>
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が、本件発明1では「23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.70mPa・sである」と特定されているのに対し、甲4B発明では23℃における10重量%水溶液粘度が明らかでない点

(b)判断
まず、相違点1(5)の同一性について検討するが、相違点1(5)は相違点1(1)と同じであり、上記a(b)iで述べたとおり、相違点1(5)は一致点であるとまではいえず、実質的な相違点であるといえる。
次に、相違点1(5)の容易想到性について検討する。
本件発明1については上記a(b)ii(i)で述べたとおりである。
一方、甲4Bには、その段落【0007】に、十分な耐水性を有し、印字走行性(ヘッドカス)、感度に優れた感熱記録体を、メラミン系樹脂を使用することなく提供することを課題とすることが記載され、その請求項1に、概略、支持体上に、電子供与性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層上に保護層を有する感熱記録体であって、保護層に重合度が300〜1200のカルボキシ変性ポリビニルアルコール樹脂とエピクロロヒドリン系樹脂および変性ポリアミン/アミド系樹脂を含有する感熱記録体が記載され、同【0015】には、保護層に使用されるエピクロロヒドリン系樹脂の具体例は例示され、実施例においては、具体的に使用した商品名の記載はある。しかしながら、いずれにもポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂の粘度についての記載はない。ましてやエピクロロヒドリン系樹脂の粘度を特定の範囲とすることにより、耐水性及び耐水ブロッキング性に優れるとの記載もない。

そうすると、いくら当業者といえども、甲4Bの記載から甲4B発明において使用するポリアミド・ポリアミン系樹脂の粘度を本件発明1で特定される範囲とする動機付けがあるとはいえず、本件発明1は当業者が容易に想到できたものとはいえない。

f 甲5B発明について
(a)対比
甲5B発明の「塗液」は、「カルボキシ変性ポリビニルアルコール」及び「ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂」という樹脂を含む塗液であるから樹脂組成物であるといえ、これは、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
甲5B発明の「ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂」として用いられている「星光PMC社製」の「商品名:WS4020」は、上記a(a)で述べたとおりポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂であるといえ、これは、本件発明1の「ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂」に相当することは明らかである。
そうすると、甲5B発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物。」

<相違点1(6)>
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が、本件発明1では「23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・sである」と特定されているのに対し、甲5B発明では23℃における10重量%水溶液粘度が明らかでない点

(b)判断
まず、相違点1(6)の同一性について検討するが、相違点1(6)は相違点1(1)と同じであり、上記a(b)iで述べたとおり、相違点1(6)は一致点であるとまではいえず、実質的な相違点であるといえる。
次に、相違点1(6)の容易想到性について検討する。
本件発明1については上記a(b)ii(i)で述べたとおりである。
一方、甲5Bには、その段落【0006】に、十分な耐水性を有し、印字走行性(ヘッドカス、スティック)、感度に優れた感熱記録体を提供することを課題とすることが記載され、その請求項1に、概略、支持体上に、電子供与性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層上に、鹸化度が95モル%以下であるカルボキシ変性ポリビニルアルコール、エピクロロヒドリン系樹脂および変性ポリアミン/アミド系樹脂を含有する保護層を順次積層してなる感熱記録体が記載され、同【0017】には、保護層に用いるエピクロロヒドリン系樹脂の例示はされ、実施例においては、具体的に使用した商品名の記載はある。しかしながら、いずれにもエピクロロヒドリン系樹脂の粘度についての記載はない。ましてやエピクロロヒドリン系樹脂の粘度を特定の範囲とすることにより、耐水性及び耐水ブロッキング性に優れるとの記載もない。

そうすると、いくら当業者といえども、甲5Bの記載から甲5B発明において使用するポリアミド・ポリアミン系樹脂の粘度を本件発明1で特定される範囲とする動機付けがあるとはいえず、本件発明1は当業者が容易に想到できたものとはいえない。

g 申立人A及びBの主張の検討
(a)申立人の主張
i 申立人Aは、意見書において、参1をみると、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂は固形分が高いと保存安定性に問題が生じやすいため固形分濃度を下げることは想定されること、また、比較例6〜8には、本件発明1で特定される粘度とほぼ同等の粘度となることが推認されること、さらに、本件発明1で特定される粘度はごくありふれた粘度範囲と考えられる旨の主張をする(申立人Aの意見書第3頁第3〜20行)。
ii 申立人Bは、実験成績証明書である甲6Bによれば、WS4020の粘度は12mPa・sであるから、相違点1(1)は一致点である旨の主張をする(申立人Bの意見書第2頁第31〜35行)。
iii 申立人Bは、甲4Aには、本件明細書に記載と同様の耐水性及び耐水ブロッキングの効果を有することが記載されているから、本件発明1と同じ粘度範囲内である蓋然性が高い旨の主張をする(申立人Bの意見書第3頁第8〜14行)。

(b)申立人の主張の検討
i 参1には、その【0004】に固形分が高く保存安定性にも優れ低分子有機ハロゲン化合物の含有量が少ない湿潤紙力増強剤用の陽イオン性熱硬化性樹脂水溶液を工業的に製造し得る製造方法を提供することを課題とすることが記載されているだけであり、実施例及び比較例をみても、本件発明1で特定される粘度の明示はなく、これにより耐水性及び耐ブロッキング性に優れることも記載がない。そして、本件発明1で特定される粘度はごくありふれた粘度範囲であることを示す記載はない。
ii WS4020の粘度については、上記a(b)iで述べたとおり、必ず本件発明1を満たすとまではいえない。
iii 本件発明1と同様に耐ブロッキング性の効果を示すことにより本件発明1と同じ粘度範囲とする技術常識はない。また、さらにいえば、甲4A発明は、変性ポリアミン系樹脂など本件発明では必須でない成分も含んでおり、それの耐水性・耐ブロッキング性への影響が否定できないことを踏まえると、耐ブロッキング性等の効果の共通性だけから直ちに樹脂組成物中の一成分であるポリアミドエピクロロヒドリン樹脂の粘度が本件発明1で特定される粘度と同等であるとまではいえない。
(c)小括
よって、申立人A及びBの主張はいずれも採用できない。

h まとめ
したがって、本件発明1は、甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明であるとはいえず、また、甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明から当業者が容易に想到できたものであるともいえない。

(イ)本件発明2〜8について
本件発明2〜8は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2〜8は、上記(ア)で示した理由と同じ理由により、甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明であるといえず、また、甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(ウ)本件発明9について
a 本件発明9と本件発明1との比較
ここでは、まず、本件発明9と本件発明1とを比較する。
本件発明9と本件発明1とを比較すると、両者は以下の点で相違する発明である。
(a)ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が、本件発明9が「5〜30mPa・s」であるのに対して、本件発明1は「10〜17.7mPa・s」である。
(b)カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対するポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の含有量が、本件発明9では「0.5〜50重量部」であるのに対して、本件発明1では特定されていない。
(c)本件発明9では、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂中の一般式(1)で示される構造単位数nが平均で1.5以上であること(一般式(1)の記載は省略する。)を特定しているのに対して、本件発明1では特定されていない。

b 上記(a)及び(b)に関する甲2A発明1〜甲5B発明について
(a)上記(a)に関しては、上記(ア)a(b)iで述べるように、星光PMC社製商品名:WS4020であるポリアミドエピクロロヒドリン樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度は、12、22、26mPa・sであるといえ、また、上記(ア)d(b)iで述べるように、星光PMC社製商品名:WS4030であるポリアミドエピクロロヒドリン樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度は、26mPa・sであり、本件発明9での特定を満足する。
(b)上記(b)に関しては、甲2A発明1〜甲5B発明も本件発明9での特定を満足する。

c 本件発明9と甲2A発明1〜甲5B発明との対比
上記a及びbで述べた事項と、上記(ア)a(a)〜f(a)で示した本件発明1と甲2A発明1〜甲5B発明との対比を参考にして、本件発明9と甲2A発明1〜甲5B発明をまとめて対比すると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違するということができる。

<一致点>
「カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・sであり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の含有量が、カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、0.5〜50重量部である樹脂組成物。」

<相違点2>
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が、本件発明9では「ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂中の下記一般式(1)で示される構造単位数nが平均で1.5以上であること(一般式(1)の記載は省略する。)」と特定されているのに対し、甲2A発明1〜甲5B発明では明らかでない点

d 判断
甲2A〜甲5Bには、星光PMC社製商品名がWS4020またはWS4030の化学構造式が、一般式(1)で示され、構造単位数nが平均で1.5以上であることは記載されていない。また、甲6B及び甲9Bには、上記WS4020及びWS4030が化学式で表される構造単位が記載されているが、これを証明する証拠は挙げられておらず、また、繰り返し単位数である「n」の値は明示されていない。
そうすると、相違点2は実質的な相違点であり、また、当業者が容易に想到できたものともいえない。

e 申立人A及びBの主張の検討
(a)申立人の主張
i 申立人Aは、ポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリン系樹脂の構造、使用量など一般的な範囲を限定したにすぎない旨を主張する(申立人Aの意見書第4頁第14〜20行)。
ii 申立人Bは、甲2A等には、耐水性及び耐水ブロッキングに優れる効果が記載されているから、「n」の値は平均で1.5以上である蓋然性が高いか、容易である旨の主張をする(申立人Bの意見書第13頁第2〜16行)。

(b)申立人の主張の検討
i 甲2A発明1〜甲5B発明において、星光PMC社製商品名がWS4020またはWS4030の化学構造式が、一般式(1)で示され、構造単位数nが平均で1.5以上であることが一般的であるとする証拠がないから、申立人Aの主張は採用できない。
ii 本件発明9と同様に耐ブロッキング性の効果を示すことにより、星光PMC社製商品名がWS4020またはWS4030の化学構造式が、一般式(1)で示され、構造単位数nが平均で1.5以上であるとする技術常識はない。

(c)小括
よって、申立人A及びBの主張はいずれも採用できない。

f まとめ
よって、本件発明9は、甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明であるとはいえず、また、甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明から当業者が容易に想到できたものであるともいえない。

(エ)本件発明10について
a 本件発明10と本件発明1との比較
ここでは、まず、本件発明10と本件発明1とを比較する。
本件発明10と本件発明1とを比較すると、両者は以下の点で相違する発明である。
(a)ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が、本件発明10が「10〜17.7mPa・s(但し、12mPa・s以下を除く)」であるのに対して、本件発明1は「10〜17.7mPa・s」であり、本件発明10は本件発明1よりさらに限定されている。
(b)本件発明10が「樹脂組成物及び水を含有することを特徴とする水性塗工液」であるのに対して、本件発明1は「樹脂組成物」である。

b 上記(b)に関する甲2A発明1〜甲5B発明について
(a)上記(b)に関しては、甲2A発明1〜甲5B発明も、水性の塗液又は塗料の発明であり、本件発明10での特定を満足する。

c 本件発明10と甲2A発明1〜甲5B発明との対比
上記a及びbで述べた事項と、上記(ア)a(a)〜f(a)で示した本件発明1と甲2A発明1〜甲5B発明との対比を参考にして、本件発明10と甲2A発明1〜甲5B発明をまとめて対比すると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違するということができる。

<一致点>
「カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、樹脂組成物及び水を含有することを特徴とする水性塗工液。」

<相違点3>
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が、本件発明10では「23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・s(但し、12mPa・s以下を除く)である」と特定されているのに対し、甲2A発明1〜甲5B発明では23℃における10重量%水溶液粘度が明らかでない点

d 判断
上記a(a)で述べたように、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度は、本件発明10が「10〜17.7mPa・s(但し、12mPa・s以下を除く)」であるのに対して、本件発明1は「10〜17.7mPa・s」であり、本件発明10は本件発明1よりさらに限定されている。
そうすると、上記(ア)a(b)〜f(b)で述べた理由と同じ理由により、本件発明10は、甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明であるとはいえず、また、甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明から当業者が容易に想到できたものであるともいえないことは明らかである。

e 申立人A及びBの主張の検討
(a)申立人の主張
i 申立人Aは、本件発明10で特定される粘度は一般的な範囲に限定したにすぎない旨の主張をする(申立人Aの意見書第5頁第10〜17行)。
ii 申立人Bは、物性等を考慮してその粘度を調整することは当業者が容易に想到できたものであり、効果も予測困難でない旨の主張をする(申立人Bの意見書第14頁第32〜16行)。

(b)申立人の主張の検討
i 本件発明10で特定される粘度がごくありふれた粘度範囲であるとする証拠はないから、申立人Aの主張は採用できない。
ii 甲2A発明1〜甲5B発明において、粘度範囲を本件発明10で特定される範囲とする動機付けがないことは、上記(ア)b(b)ii(ii)で述べたとおりであるから、申立人Bの主張は採用できない。

(c)小括
よって、申立人A及びBの主張はいずれも採用できない。

f まとめ
よって、本件発明10は、甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明であるとはいえず、また、甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明から当業者が容易に想到できたものであるともいえない。

(オ)本件発明11について
a 本件発明11と本件発明1との比較
ここでは、まず、本件発明11と本件発明1とを比較する。
本件発明11と本件発明1とを比較すると、両者は以下の点で相違する発明である。
(a)ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が、本件発明11が「5〜30mPa・s」であるのに対して、本件発明1は「10〜17.7mPa・s」である。
(b)カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が、本件発明11では「80〜90モル%(但し、85モル%以上を除く)」であるのに対して、本件発明1では特定されていない。
(c)本件発明11が「樹脂組成物及び水を含有することを特徴とする水性塗工液」であるのに対して、本件発明1は「樹脂組成物」である。

b 上記(a)及び(c)に関する甲2A発明1〜甲5B発明について
(a)上記(a)に関しては、上記(ウ)b(a)で述べたとおり、本件発明11での特定を満足する。
(b)上記(c)に関しては、上記(エ)b(a)で述べたとおり、本件発明11での特定を満足する。

c 本件発明11と甲2A発明1〜甲5B発明との対比
上記a及びbで述べた事項と、上記(ア)a(a)〜f(a)で示した本件発明1と甲2A発明1〜甲5B発明との対比を参考にして、本件発明11と甲2A発明1〜甲5B発明をまとめて対比すると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違するということができる。

<一致点>
「カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・sであり、樹脂組成物及び水を含有することを特徴とする水性塗工液。」

<相違点4>
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が、本件発明11では「80〜90モル%(但し、85モル%以上を除く)」であるのに対して、甲2A発明2、甲2B発明2、甲3B発明では、カルボキシ変性ポリビニルアルコールとしてクラレ社製の商品名:KL318を用いており、この樹脂の鹸化度は「85〜90モル%」であり、甲2A発明1、甲4A発明及び甲2B発明1では、カルボキシ変性ポリビニルアルコールとしてクラレ社製の商品名:KL118を用いており、この樹脂の鹸化度は「95〜99モル%」であり、又は、甲5B発明では、ケン化度が88モル%であり、又は、甲4B発明では、ケン化度は明らかでなく、いずれも、本件発明11で特定する「80〜90モル%(但し、85モル%以上を除く)」と一致しない点

d 判断
(a)上記(ア)a(b)ii(i)で述べたように、本件発明11は、耐水性及び耐ブロッキング性に優れた樹脂組成物を提供することを課題とし、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】には、カルボキシル基含有PVA樹脂のケン化度は、更に好ましくは80〜85モル%である旨の記載がされている。そして、同【0059】以降においては、カルボキシル基含有PVA樹脂のケン化度が88.4モル%である実施例5及び6が耐水ブロッキング性評価が「B」であるのに対して、同ケン化度が83.9モル%である実施例1及び2、81.4モル%である実施例3及び4は、耐水ブロッキング性評価が「A」であり優れることが具体的に記載されている。

(b)一方、カルボキシル基含有PVA樹脂のケン化度に関し、甲4Aの段落【0075】には、80モル%以上が好ましいこと、甲4Bの段落【0013】には、72mol%以上が望ましいこと、甲5Bの段落【0015】には、80%以上95%以下が好ましいことが記載されている。しかしながら、いずれにもケン化度を80〜90モル%(但し、85モル%以上を除く)とすることについての明示はなく、また、ケン化度を上記の範囲とすることにより、耐水ブロッキング性がより一層優れることについての記載はない。

そうすると、いくら当業者といえども、甲4A、甲4B及び甲5Bの記載からカルボキシル基含有PVA樹脂のケン化度を本件発明11で特定される範囲とする動機付けがあるとはいえず、本件発明11は当業者が容易に想到できたものとはいえない。

e 申立人A及びBの主張の検討
(a)申立人の主張
i 申立人Aは、本件明細書の実施例及び比較例をみても、カルボキシル基含有PVA樹脂のケン化度を80〜90モル%(但し、85モル%以上を除く)とすることにより顕著な効果が生じていると推認できないから当業者が容易に想到できた旨を主張する(申立人Aの意見書第5頁第33〜40行)。
ii 申立人Bは、甲4A、甲4B及び甲5Bの記載に基づいて、当該ケン化度を調整することは当業者が容易に想到できたものであり、また、効果も予測困難でない旨の主張をする(申立人Bの意見書第15頁第14〜36頁)。

(b)申立人の主張の検討
i 上記dで述べたように、甲4A、甲4B及び甲5Bの記載をみても相違点4は動機付けがあるとはいえないものである。そして、顕著な効果が推認できないからといって容易に想到できたものであるとはいえない。
ii 上記iで述べたとおり、相違点4は動機付けがあるとはいえず、また、効果についても、上記dで述べたように、予測を超える顕著な効果を奏するといえる。

(c)小括
よって、申立人A及びBの主張はいずれも採用できない。

f まとめ
よって、本件発明11は、甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明であるとはいえず、また、甲2A、甲4A、甲2B〜甲5Bに記載された発明から当業者が容易に想到できたものであるともいえない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、取消理由1及び2によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人がした申立理由について
以下では、申立理由3Aと申立理由3Bは、実施可能要件に関する理由であるから併せて検討する。また、申立理由4Aと申立理由4Bは、サポート要件に関する理由であるから併せて検討する。

(1)甲1Aを主引用例とする申立理由1A及び2Aについて
ア 甲1Aの記載事項及び甲1Aに記載された発明
甲1Aの請求項1や段落【0009】、【0025】〜【0027】の記載、特に実施例1の記録層保護コーティング材Dに着目すると、甲1Aには以下の発明が記載されていると認められる。
「(A)成分として株式会社クラレ製のカルボキシル基変性ポリビニルアルコールKL−118を100重量部、(B)成分としてエチレントリアミンとアジピン酸とを反応させて得られたポリアミドポリアミンにエピクロロヒドリンを反応させて得られた樹脂b(ポリアミドポリアミンエピハロヒドリン)を5重量部、(C)成分としてBASF社製のCatiofastSF(ポリエチレンイミン)を5重量部添加し、更にKL−118の固形分濃度が7%となるように水で希釈した記録層保護コーティング剤D」(以下「甲1A発明」という。)

イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 対比
甲1A発明の「記録層保護コーティング剤D」は、「カルボキシル基変性ポリビニルアルコールKL118」及び「ポリアミドポリアミンエピハロヒドリン」という樹脂を含むコーティング剤であるから樹脂組成物であるといえ、これは、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
そうすると、甲1A発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物。」

<相違点1(7)>
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が、本件発明1では「23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・sである」と特定されているのに対し、甲1A発明では23℃における10重量%水溶液粘度が明らかでない点

b 判断
甲1Aには、(B)成分としての樹脂bを製造するに際して、エチレントリアミンとアジピン酸とを反応させて得られたポリアミドポリアミンにエピクロロヒドリンを反応させ、反応液の粘度が360mPa・s(25℃)に到達した時点で水、硫酸およびギ酸を添加してポリアミドポリアミンエピハロヒドリンを得ているが、得られたポリアミドポリアミンエピハロヒドリンの23℃における10重量%水溶液粘度が明示されていない。また、この粘度を10〜17.7mPa・sの範囲になるように動機づける記載もない。
よって、本件発明1は甲1Aに記載された発明ではないし、また、甲1Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できた発明でもない。

(イ)本件発明2〜8について
本件発明2〜8は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2〜8は、上記(ア)で示した理由と同じ理由により、甲1Aに記載された発明であるといえず、また、甲1Aに記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(ウ)本件発明9〜11について
a 本件発明9〜11
本件発明9〜11は、いずれも、「カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物」を発明特定事項として含む発明であり、本件発明9及び11は、「ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・s」であることを発明特定事項として含み、また、本件発明10は、「ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・s(但し、12mPa・s以下を除く)」ことを発明特定事項として含むものである。

b 対比
上記aで述べた事項と、上記(ア)a(a)で示した本件発明1と甲1A発明との対比を参考にして、本件発明9〜11と甲1A発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違するということができる。

<相違点5>
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が、本件発明9及び11では「23℃における10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・sである」と特定され、本件発明10では「23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・s(但し、12mPa・s以下を除く)」と特定されているのに対し、甲1A発明では23℃における10重量%水溶液粘度が明らかでない点

c 判断
上記(ア)bで述べたように、甲1Aには、(B)成分としての樹脂b(ポリアミドポリアミンエピハロヒドリン)の23℃における10重量%水溶液粘度が明示されていない。また、この粘度を10〜17.7mPa・sの範囲になるように動機づける記載もない。さらにいえば、この粘度を5〜30mPa・sの範囲になるように動機づける記載もない。
よって、本件発明9〜11は甲1Aに記載された発明ではないし、また、甲1Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できた発明でもない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、甲1Aを主引用例とする申立理由1A及び2Aによっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

(2)申立理由3A及び申立理由3Bについて
ア 申立人の主張
(ア)申立人Aの主張
本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例で用いている23℃における10重量%水溶液粘度が17.7mPa・sのポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂をどのように合成したのか記載はなく、また、特許請求の範囲に記載される、23℃における10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・sのポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を製造するための具体的な記載がない。そうすると、本件の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載されたとはいえない、というものである(申立人Aの特許異議申立書第7頁第9〜30行)。また、令和3年12月3日に提出した意見書においても同旨の主張をする(申立人Aの意見書第3頁第31行〜第4頁第12行、同第4頁第21〜41行、同第5頁第25〜31行、第5頁第41行〜第6頁第19行)。

(イ)申立人Bの主張
本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例で用いている23℃における10重量%水溶液粘度が17.7mPa・sのポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂について、一般式(1)で示される構造単位数nが2.6であることしか記載されておらず、重量平均分子量や一般式(1)で表される構造単位の含有量については記載がない。このように、具体的な製造方法や構造的特徴が示されていないので、どのような構造の違いで粘度を特定の範囲に制御しているのか不明であり、当業者は実施例1〜6を追試できない。よって、本件の発明の詳細な説明には、本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない、というものである(申立人Bの特許異議申立書第53頁最下行から第54頁第25行)。また、令和3年12月22日に提出した意見書においても同旨の主張をする(申立人Bの意見書第16頁第1行〜第17頁第8行)。

イ 検討
(ア)実施可能要件の考え方
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
以下、この観点に立って、本願の実施可能要件の判断をする。

(イ)発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0025】には、「本発明で規定する粘度のポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を製造する方法は、ポリアミドポリアミンとエピハロヒドリン類との反応の際に、本発明で規定する粘度に到達した時点で反応を停止する方法等が挙げられる。」と記載された上で、同【0027】には、「本発明で用いられるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂は、ポリアルキレンポリアミン類とジカルボン酸類とを反応させて得られるポリアミドポリアミンに、エピハロヒドリン類を反応させることにより得ることができる。」と記載され、同【0028】〜【0032】には、ポリアルキレンポリアミン類とジカルボン酸類とを反応させて得られるポリアミドポリアミンの製造方法が具体的に記載されている。また、同【0033】には、「本発明で使用されるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂は、前記のポリアミドポリアミンにエピハロヒドリン類を反応させることにより得ることができる。」と記載され、同【0034】〜【0036】には、ポリアミドポリアミンにエピハロヒドリン類を反応させる方法が具体的に記載されている。
そして、同【0037】には「ポリアミドポリアミンとエピハロヒドリン類との反応は、得られるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が、固形分10重量%水溶液の23℃における粘度基準で、5〜30mPa・s、好ましくは8〜28mPa・s、特に好ましくは10〜25mPa・sの範囲内の粘度を有するまで反応を続けることにより、耐水性に優れた樹脂が得られるようになる。反応液の粘度がこの粘度範囲内となった後、反応液に水を加えて冷却するなどして反応を停止させ、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の水溶液を得ることができる。」と記載されている。また、本件発明9における一般式(1)で示される構造単位数nが平均で1.5以上であるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の製造方法については、同【0041】に、「一般式(1)の構造単位数nが平均で1.5以上のポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂は、ポリアミドポリアミンに対して、エピハロヒドリンを多く、具体的にはポリアミドポリアミンのアミノ基1モルに対して、0.01〜2モル程度配合し、反応させることで製造される。」と記載されている。

(ウ)判断
上記(イ)で示した発明の詳細な説明には、ポリアルキレンポリアミン類とジカルボン酸類とを反応させて得られるポリアミドポリアミンにエピハロヒドリン類を反応させることにより、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が製造できることが具体的に記載され、23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・s又は5〜30mPa・sのポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を製造するには、ポリアミドポリアミンとエピハロヒドリン類とを所定の粘度を有するまで反応を続けることにより、製造することができると理解することができるといえる。そうすると、出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要はなく本件発明で特定されるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を製造することができるといえる。

(エ)申立人A及びBの主張の検討
上記(ウ)で述べたとおり、本件発明の特定の粘度を有するポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂は、当業者が容易に実施できる程度に発明の詳細な説明に記載されているといえる。
一方、申立人A及びBとも、発明の詳細な説明の記載では、本件発明で特定される上記ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が製造できないことを具体的な反証を挙げて主張する訳でもない。
よって、申立人A及びBの主張は採用できない。

ウ 小括
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に本件発明の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものではないとはいえないから、申立理由3A及び3Bは理由がない。

(3)申立理由4A及び4Bについて
ア 申立人の主張
(ア)申立人Aの主張
本件明細書の発明の詳細な説明には、23℃における10重量%水溶液粘度が17.7mPa・sのポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を用いた実施例しか記載されておらず、発明の詳細な説明の他の記載をみても、23℃における10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・sのポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂まで一般化ないし拡張できない、というものである(申立人Aの特許異議申立書第7頁第31〜36行)。また、令和3年12月3日に提出した意見書においても同旨の主張をする(申立人Aの意見書第5頁第18〜25行)。

(イ)申立人Bの主張
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0011】には、粘度の低いポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を用いることにより、かかる樹脂の動きが活発となり、カルボキシル基含有PVA系樹脂分子鎖の隙間に入り込みやすく、緻密な架橋構造体を形成することが可能となり、本発明の効果が得られる旨の記載がされており、この記載に従えば、架橋反応の際に隙間に入り込みやすくなるためには、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂及びカルボキシル基含有PVA系樹脂の立体障害等の化学構造が影響することは技術常識である。
ここで、発明の詳細な説明の実施例では、一般式(1)で示される構造単位数nが2.6のポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂と、マレイン酸変性ポリビニルアルコールを用いた例が記載されているだけであり、あらゆる化学構造のポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂とカルボキシル基含有ポリビニルアルコールを含みうる本件発明1まで拡張ないし一般化できない、というものである(申立人Bの特許異議申立書第54頁第26行〜第56頁第9行)。また、令和3年12月22日に提出した意見書において、上記(ア)と同旨の主張をし、また、上記(イ)と同旨の主張をする(申立人Bの意見書第17頁第9行〜第18頁第19行)。

イ 検討
(ア)サポート要件の考え方
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点に立って検討する。

(イ)本件発明の課題
本件発明の課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】によれば、「耐水性及び耐ブロッキング性に優れる感熱記録媒体の保護層に有用な樹脂組成物を提供すること」と認められる。

(ウ)発明の詳細な説明の記載
上記課題に関連した本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみてみると、その段落【0007】には、「カルボキシル基含有PVA系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物において、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を水溶液とした際に低粘度であるものを用いることで、耐水性及び耐水ブロッキング性に優れる被膜を得られることを見出し、本発明を完成した。」と記載され、同【0011】には、「粘度の低いポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を用いることにより、かかる樹脂の動きが活発となり、カルボキシル基含有PVA系樹脂分子鎖の隙間に入り込みやすく、結果として緻密な架橋構造体を形成することが可能となり、本発明の効果が得られるものと推測される。」と記載され、同【0024】には、「本発明で用いられるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂は、10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・sであり、好ましくは8〜28mPa・s、特に好ましくは10〜25mPa・sである。かかる粘度が低すぎても高すぎても、本発明の効果が得られにくくなる傾向がある。」と記載されている。
そして、同【0059】以降の実施例においては、カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂と23℃における10重量%水溶液粘度が17.7mPa・sのポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物である実施例1〜6は、キャストフィルムの溶出率で示される耐水性評価及び耐水ブロッキング性が優れることが、具体的なデータと共に記載されている。

(エ)判断
上記(ウ)で示した発明の詳細な説明の段落【0007】には、カルボキシル基含有PVA系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物において、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を水溶液とした際に低粘度であるものを用いることで、耐水性及び耐水ブロッキング性に優れる被膜を得られることが記載され、同【0024】には、10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・sであること、この粘度が低すぎても高すぎても、本発明の効果が得られにくいことが記載されている。また、同【0011】には、粘度の低いポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を用いることで樹脂の動きが活発となり、カルボキシル基含有PVA系樹脂分子鎖の隙間に入り込みやすくなり緻密な架橋構造体を形成することが可能となり、本発明の効果が得られるという推測が記載され、この作用機序には一定の合理性があるといえる。そして、本件発明の具体例である実施例では、本件発明の課題である耐水性評価及び耐水ブロッキング性に優れることが、具体的なデータと共に記載されている。
発明の詳細な説明の上記記載によれば、本件発明が発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載がされていないとはいえない。

(オ)申立人A及びBの主張の検討
上記(エ)で述べたとおり、発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明の特定の粘度を有するポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を用いることにより、本件発明が発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載がされていないとはいえない。
一方、申立人Aは、発明の詳細な説明の記載では、本件発明で特定される上記ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂が発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていないことを具体的な反証を挙げて主張する訳でもない。
また、申立人Bの主張に関しては、上記(エ)で述べたとおり、粘度の低いポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を用いることで樹脂の動きが活発となり、カルボキシル基含有PVA系樹脂分子鎖の隙間に入り込みやすくなり緻密な架橋構造体を形成することが可能となり、本発明の効果が得られるという推測に合理性はあるといえ、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂及びカルボキシル基含有PVA系樹脂の化学構造を特定しなくても本件発明の課題を一定程度解決できると認識できるといえる。
よって、申立人A及びBの主張は採用できない。

ウ 小括
したがって、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるから、申立理由4A及び4Bは理由がない。

(4)申立理由5Bについて
ア 申立人Bの主張
本件訂正を踏まえて申立人Bの主張をみてみると、本件発明1は、「カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・sであることを特徴とする樹脂組成物。」であり、各種成分が混合されている樹脂組成物に対して、また、架橋反応して架橋構造体を形成している樹脂組成物に対して、その中の一成分であるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を単離してポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂のみの23℃における10重量%水溶液粘度をどのように測定すればよいのか不明である、というものである(申立人Bの特許異議申立書第56頁第10行〜第57頁第14行)。

イ 検討
(ア)明確性の考え方
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(イ)検討
本件発明1は、その請求項1に記載されたとおり、「カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・sであることを特徴とする樹脂組成物。」で特定される発明であり、23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・sであるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を樹脂組成物に配合した発明であると解することが自然であり、この解釈は、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0061】及び【0063】の記載である、23℃における10重量%水溶液粘度が17.7mPa・sであるポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリン樹脂をカルボキシル基含有PVA系樹脂に混合して水性塗工液を作製することと合致するものである。
そうすると、本件発明1は第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2〜8及び本件発明1と同様の特定がされている本件発明9〜11も、上記で述べた理由のとおり第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

(ウ)申立人Bの主張の検討
申立人Bの主張は、上記アで述べたとおり、概略、各種成分が混合されている樹脂組成物に対して、また、架橋反応して架橋構造体を形成している樹脂組成物に対して、その中の一成分であるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を単離して23℃における10重量%水溶液粘度をどのように測定すればよいのか不明である、というものである。この点に関しては、上記(イ)で述べたとおり、本件発明1では、23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・sであるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を樹脂組成物に配合した発明であると解することが自然であり、樹脂組成物中の一成分であるポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を単離してその粘度を測定するという申立人Bの主張は、請求項1の記載に基づかない主張であるから、申立人Bの主張は採用できない。

ウ 小括
したがって、本件発明1〜11は明確であるといえるから、申立理由5Bは理由がない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1A〜4A及び申立理由3B〜5Bによっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
特許第6711015号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜8〕、9、10、11について訂正することを認める。
当審が通知した取消理由及び特許異議申立人がした申立理由によっては、本件発明1〜11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・sであることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が、80〜90モル%であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂がマレイン酸変性ポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂がイタコン酸変性ポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の含有量が、カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、0.5〜50重量部であることを特徴とする請求項2〜4いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項3〜5いずれか記載の樹脂組成物及び水を含有することを特徴とする水性塗工液。
【請求項7】
請求項6記載の水性塗工液から形成されることを特徴とする保護層。
【請求項8】
請求項7記載の保護層を少なくとも1層有することを特徴とする感熱記録媒体。
【請求項9】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・sであり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の含有量が、カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、0.5〜50重量部であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂中の下記一般式(1)で示される構造単位数nが平均で1.5以上であることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
【請求項10】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が10〜17.7mPa・s(但し、12mPa・s以下を除く)である樹脂組成物及び水を含有することを特徴とする水性塗工液。
【請求項11】
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂を含有する樹脂組成物であり、
ポリアミドポリアミン・エピハロヒドリン系樹脂の23℃における10重量%水溶液粘度が5〜30mPa・sであり、
カルボキシル基含有ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が、80〜90モル%(但し、85モル%以上を除く)である樹脂組成物及び水を含有することを特徴とする水性塗工液。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-04-07 
出願番号 P2016-035158
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 佐藤 健史
土橋 敬介
登録日 2020-06-01 
登録番号 6711015
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 樹脂組成物、水性塗工液、保護層及び感熱記録媒体  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 蔦 康宏  
代理人 西藤 優子  
代理人 寺尾 茂泰  
代理人 西藤 征彦  
代理人 西藤 優子  
代理人 西藤 征彦  
代理人 寺尾 茂泰  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ