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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正 B32B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B32B |
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管理番号 | 1386104 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-02-17 |
確定日 | 2022-04-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6743605号発明「エンボス化粧シート及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6743605号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。 特許第6743605号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 特許第6743605号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6743605号(以下「本件特許」という)の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成28年9月12日の特許出願であって、令和2年4月13日付けで原審で拒絶の理由が通知され、同年5月20日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月24日に特許査定がされ(謄本の送達日:同年6月30日)、同年8月3日に特許権の設定登録がされ、同年8月19日に特許掲載公報が発行された。 本件の特許異議の申立ては、本件特許のすべての請求項に係る特許を対象としたものであって、その手続の経緯は、次のとおりである。 令和3年2月17日 :特許異議申立人下河あい(以下「申立人」という)による特許異議の申立て 同年9月10日付け :取消理由の通知 同年11月11日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年12月22日 :申立人による意見書の提出 第2 本件訂正の適否 1.訂正の内容 令和3年11月11日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6743605号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜4について訂正することを求める。」を請求の趣旨とするものであって、その訂正(以下「本件訂正」という)の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。 (1)訂正事項1 本件訂正前の請求項1に、 「熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層及び表面保護層がこの順に積層されており、且つ、少なくとも最表層にエンボスが形成されており、 前記透明熱可塑性樹脂層は、透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を含む第1の層と、前記第1の層の前記表面保護層側に配置され、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された透明ポリプロピレン樹脂を含む第2の層とを有し、 前記接着剤層は、2液硬化型のポリエステル系アンカーコート剤を含むことを特徴とするエンボス化粧シート。」 と記載されているのを、 「熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層及び表面保護層がこの順に積層されており、且つ、少なくとも最表層にエンボスが形成されており、 前記透明熱可塑性樹脂層は、透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を含む第1の層と、前記第1の層の前記表面保護層側に配置され、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された透明ポリプロピレン樹脂を含む第2の層とを有し、 前記接着剤層は、2液硬化型のポリエステル系アンカーコート剤を含み、 前記第1の層の厚さは、7μm〜8μmであり、 前記透明熱可塑性樹脂層の厚さは、70μm〜80μmであることを特徴とするエンボス化粧シート。」 に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項3,4の記載も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に 「前記表面保護層は、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された、熱硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂、またはこれらの樹脂の混合物を含んでなることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンボス化粧シート。」 と記載されているものを、 「前記表面保護層は、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された、熱硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂、またはこれらの樹脂の混合物を含んでなることを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。」 に訂正する。 請求項3の記載を引用する請求項4の記載も同様に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に 「請求項1から3のいずれか1項に記載のエンボス化粧シートの製造方法であって、 熱可塑性樹脂基材シート上に、印刷によって絵柄模様層を形成した後、その絵柄模様層上に、溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多層押出機から押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層を形成し、同時に前記透明熱可塑性樹脂層にエンボス加工を行った後、前記透明熱可塑性樹脂層上に表面保護層を形成することを特徴とするエンボス化粧シートの製造方法。」 と記載されているものを、 「請求項1又は3に記載のエンボス化粧シートの製造方法であって、 熱可塑性樹脂基材シート上に、印刷によって絵柄模様層を形成した後、その絵柄模様層上に、溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多層押出機から押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層を形成し、同時に前記透明熱可塑性樹脂層にエンボス加工を行った後、前記透明熱可塑性樹脂層上に表面保護層を形成することを特徴とするエンボス化粧シートの製造方法。」 に訂正する。 (5)ここで、本件訂正前の請求項1〜4について、請求項2〜4の記載は、請求項1の記載を直接的に引用しているものであって、請求項1の記載が訂正されるとそれに連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されている。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載された「第1の層」、「透明熱可塑性樹脂層」について、その厚さを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 訂正事項1により発明のカテゴリー、対象、目的が変更されるものではないから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という)に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1は、「前記第1の層の厚さは、7μm〜8μmであり」については、訂正前の請求項2に記載されていた事項であるし、また、「前記透明熱可塑性樹脂層の厚さは、70μm〜80μmである」については、段落【0048】の記載に基づくものであるから、いずれも、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、発明のカテゴリー、対象、目的が変更されるものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。 (3)訂正事項3、4について ア 訂正の目的 訂正事項3、4は、訂正事項2によって本件訂正前の請求項2が削除されることに伴い、それぞれ請求項3、請求項4を請求項2を引用しないものとするものである。 したがって、訂正事項3、4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項3、4は、発明のカテゴリー、対象、目的が変更されるものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。 そして、訂正事項3、4は、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。 (4)小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号が掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記のとおり本件訂正を認めることができるので、本件特許の請求項1、3、4に係る発明は、それぞれ訂正特許請求の範囲の請求項1、3、4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(これらの各発明を以下「本件発明1」のようにいう)。 「【請求項1】 熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層及び表面保護層がこの順に積層されており、且つ、少なくとも最表層にエンボスが形成されており、 前記透明熱可塑性樹脂層は、透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を含む第1の層と、前記第1の層の前記表面保護層側に配置され、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された透明ポリプロピレン樹脂を含む第2の層とを有し、 前記接着剤層は、2液硬化型のポリエステル系アンカーコート剤を含み、 前記第1の層の厚さは、7μm〜8μmであり、 前記透明熱可塑性樹脂層の厚さは、70μm〜80μmであることを特徴とするエンボス化粧シート。」 「【請求項3】 前記表面保護層は、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された、熱硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂、またはこれらの樹脂の混合物を含んでなることを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。 【請求項4】 請求項1又は3に記載のエンボス化粧シートの製造方法であって、 熱可塑性樹脂基材シート上に、印刷によって絵柄模様層を形成した後、その絵柄模様層上に、溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多層押出機から押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層を形成し、同時に前記透明熱可塑性樹脂層にエンボス加工を行った後、前記透明熱可塑性樹脂層上に表面保護層を形成することを特徴とするエンボス化粧シートの製造方法。」 第4 当審の判断 1.取消理由の概要 本件訂正前の本件特許に対して令和3年9月10日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 ・ (新規性) 請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 ・ (進歩性) 請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件特許出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 ・ 特開2004−322339号公報(本件特許異議申立書に添付された甲第1号証) ・ 特開2009−184167号公報(同甲第2号証) ・ 特開2015−140406号公報(同甲第3号証) ・ 特開2016−78458号公報(同甲第4号証) ・ 特開2016−8266号公報(同甲第5号証) ・ 特開2016−55639号公報(同甲第6号証) 2.甲第1号証及び甲第2号証 (1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明 ア.甲第1号証の記載事項 甲第1号証(以下、各甲第号証を「甲1」のようにいう。)には、以下の記載がある。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、木質系ボード類、無機質系ボード類、金属板等の表面に接着剤で貼り合わせて化粧板として用いる化粧シートに関する。」 ・「【0015】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は以上のような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、塩化ビニル樹脂以外の材料を用いて、適度な柔軟性、耐摩耗性、耐傷性、耐薬品性、後加工性に加えて、常温のみならず90℃以上の高温でも十分なラミネート強度を有し、更に耐候性に優れ且つその強度発現を温乾養生なしに短時間で発現する化粧シートを提供することにある。」 ・「【0026】 基材シート1に模様層2を施す方法としては、基材シート1の表面に施す方法と、基材シート1自体(基材シート1の層内)に施す方法とがあり、基材シート1の表面に施す方法としては前述した印刷方式や転写方式を用いることが出来、基材シート1自体に施す方法としては、高濃度の顔料を基材シート1の樹脂とは流動特性の異なる樹脂に溶融混練して予備分散せしめたマスターバッチペレット、あるいは木粉、ガラス粉末等を、基材シート1を製膜するための隠蔽性を付与した上記合成樹脂材料に添加して加熱溶融し、押出し、製膜して隠蔽性のある基材シート1自体にマスターバッチペレットや木粉、ガラス粉末等による模様を形成する方法もある。勿論、基材シート1自体を着色して隠蔽性を付与したり模様を形成したりするこれらの方法と前述した印刷方法、転写方法等とを併用することもできる。 【0027】 また、隠蔽性のある基材シート1の製造方法としてカレンダー法を用いる場合には、同様の手法、即ち基材シート1自体を着色して隠蔽性を付与したり模様を形成したりする方法、または前述した印刷方法、転写方法等、あるいはそれらを併用した手法で、基材シート1に対して隠蔽性の付与や模様の形成を行うことができる。 【0028】 本発明の上記請求項1、請求項2、請求項3に係る発明の化粧シートにおいて、隠蔽性のある基材シート1の表面上に、透明なポリプロピレン樹脂層5を積層する理由は、意匠性、模様層の保護および耐傷性、耐摩耗性、耐薬品性等を化粧シートに付与するためであり、又、模様層2及び透明なポリプロピレン樹脂層5自体の耐候劣化を防ぐ目的から、ポリプロピレン樹脂層5にベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等の紫外線吸収剤及びベンゾエート系、ヒンダードアミン系等の光安定剤を適宜添加しても良い。 【0029】 更に押し出し時又は使用環境での熱劣化対策としてヒンダードフェノール系、リン系等の熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤等の添加剤を用途に応じて添加しても良い。 【0030】 本発明の上記請求項1、請求項2、請求項3に係る化粧シートにおける隠蔽性のある基材シート1と透明なポリプロピレン樹脂層5との積層方法としては、基材シート1上にポリプロピレン樹脂をTダイから溶融押出すると同時に積層する押出ラミネート法、両方の樹脂をTダイから溶融押出する共押出法等がある。この中で押出ラミネート法が最も生産性が良いため好適に用いられる。 【0031】 ここで問題となるのが、基材シート1とポリプロピレン樹脂層5とのラミネート強度である。特に、図1に示す本発明の請求項1、請求項2、請求項3に係る発明の化粧シートにおいて充分なラミネート強度を得るためには、基材シート1(模様層2が付与されている)にアンカーコート層3を塗布し、該アンカーコート層3上に接着性樹脂層4とポリプロピレン樹脂層5とを共押出しにて積層する方法が有利であることが知られている。なお、更に該接着性樹脂層4となる押し出された樹脂に対してオゾンガスを吹き付けてラミネート強度を更に向上させる方法も公知である(前記特許文献3等)。 【0032】 接着性樹脂層4となる押し出された樹脂に対してオゾンガスを吹き付けるオゾン処理装置も一般的なものであれば良く、特に制約されるものではない。オゾン処理量としては、低濃度高流量型、高濃度低流量型があり一概には言えないが、あまり流量が多いと溶融樹脂の膜割れ、温度低下等の悪影響が考えられるため、オゾン処理条件としては、オゾン濃度20〜50g/Nm3、オゾン流量1〜10Nm3/hが良好である。 【0033】 しかし、マレイン酸変性ポリエチレン樹脂や、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体などの接着性樹脂層を共押し出ししてラミネートする場合は上記方法で十分な常温ラミネート強度を得ることが可能であるが、高温下での十分なラミネート強度を得ることはできない。 【0034】 この為、係る化粧シートにおける常温下および高温下でのラミネート強度を両立させるために接着性樹脂層4に用いる樹脂として、不飽和カルボン酸あるいはその無水物で変性したランダムポリプロピレン樹脂(例えば無水マレイン酸でグラフト重合したランダムポリプロピレン樹脂)を用いることにより解決できることを、本発明者らは既に見出した・・・」 ・「【0042】 凹陥模様5aを施す方法としては、通常の熱圧エンボス加工法でよく、何ら限定されるものではない。また、前記ポリプロピレン樹脂層5の積層方法としてTダイ押出法(接着性樹脂層4とポリプロピレン樹脂層5との2層共押出し製膜法)を用いる場合には、溶融押し出された樹脂を冷却固化させるチルロールの表面に凹陥模様5aを反転した凸状模様を設けておき、押し出された樹脂をチルロールとプレスロールとの間でエンボスして、ポリプロピレン樹脂層5の表面に凹陥模様5aを施す方法が一般的である。 【0043】 トップコート層6に使用する材料としては、アクリルポリオールからなる主剤成分とイソシアネート化合物からなる硬化剤成分とから構成されるイソシアネート硬化型樹脂が一般的であり、さらには耐候性を付与するために、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等の紫外線吸収剤や、ベンゾエート系、ヒンダードアミン系等の光安定剤を適宜添加しても良い。 【0044】 又、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ等の無機充填剤を添加することにより表面の艶調整及び表面の耐傷付き性が付与されるので適宜添加すると良い。トップコート層6の形成方法はグラビア法(グラビア印刷法、グラビア塗布法)が好適に用いられるが何ら限定されるものではない。」 ・「【0047】 <実施例1> 図1に示すように、基材シート1として、ランダムポリプロピレン樹脂に無機顔料を6重量%、フェノール系酸化防止剤を0.2重量%、ヒンダードアミン系光安定剤を0.3重量%、ブロッキング防止剤を0.2重量%添加した樹脂を、溶融押出したシートを用い、そのシート表面にコロナ処理を施した後、グラビア印刷法により絵柄用インキ(東洋インキ製造(株)製;ラミスター)を使用して木目模様を施し、模様層2を形成した。さらに該木目模様の模様層2上に、硬化塗膜の100%モジュラス値が15MPaとなる2液硬化型のウレタン系アンカーコート剤(主剤成分は重量平均分子量50000の高分子量ポリエステルポリオール、硬化剤成分はヘキサメチレンジイソシアネートのビューレット体を使用)をグラビア印刷法により塗工してアンカーコート層3を形成した。 【0048】 これとは別に、透明なポリプロピレン樹脂層5としてホモポリプロピレン樹脂にフェノール系酸化防止剤を0.2重量%、ヒンダードアミン系光安定剤を0.3重量%、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.5重量%、ブロッキング防止剤を0.2重量%添加した樹脂と、接着性樹脂層4として無水マレイン酸でグラフト重合した酸変性ランダムポリプロピレン樹脂(酸変性ランダムポリプロピレン1g中のカルボニル基含量は0.02ミリモル当量)とを、導管エンボスの施されたチルロールとプレスロールとの間に、前記基材シート1を介してTダイにより共押出を行い、さらに基材シート1とラミネートする直前に、前記接着性樹脂層4となる共押出した酸変性ランダムポリプロピレン樹脂面にオゾン処理装置によりオゾンガスを吹き付けて、ラミネートとエンボス付与とを同時に行うことにより、模様層2の施された基材シート1上のアンカーコート層3面に、接着性樹脂層4を介して、表面に凹陥模様5aがエンボスされたポリプロピレン樹脂層5をラミネートしたところ、何ら問題なくラミネート出来た。 【0049】 このラミネートされた積層体の凹陥模様5aが施された透明ポリプロピレン樹脂層5の最外表面に、ウレタン系トップコート剤を用いてトップコート層6を施し、さらに基材シート1裏面にウレタン系プライマーコート層7を施して、図1に示す本発明の化粧シートを得た。」 ・「【図1】 」 イ.甲1に記載された発明 甲1記載事項、特にその実施例1に着目すると、甲1には、以下の「化粧シート」という“物”自体に係る発明(以下「甲1物発明」という)が記載されている。 「ランダムポリプロピレン樹脂を含む基材シート1上に、模様層2、アンカーコート層3、無水マレイン酸でグラフト重合した酸変性ランダムポリプロピレン樹脂たる接着性樹脂層4、表面に凹陥模様5aがエンボスされた透明なポリプロピレン樹脂層5、トップコート層6がこの順に積層され、 前記アンカーコート層3は、2液硬化型のウレタン系アンカーコート剤(主剤成分は重量平均分子量50000の高分子量ポリエステルポリオールを使用し、硬化剤成分はヘキサメチレンジイソシアネートのビューレット体を使用)が用いられたものであり、 前記透明なポリプロピレン樹脂層5は、ホモポリプロピレン樹脂にフェノール系酸化防止剤を0.2重量%、ヒンダードアミン系光安定剤を0.3重量%、ベンソトリアゾール系紫外線吸収剤を0.5重量%添加したものである、化粧シート」 また、甲1には、化粧シートの製造方法として以下の発明(以下「甲1製造方法発明」という)も記載されている。 「甲1物発明に係る化粧シートの製造方法であって、 基材シート1上に、グラビア印刷法によって模様層2を形成した後、その模様層2上に、透明なポリプロピレン樹脂と接着性樹脂をTダイにより共押出して、透明なポリプロピレン樹脂5と接着性樹脂層4を形成し、同時にエンボス付与を行った後、前記透明なポリプロピレン樹脂5上にトップコート層6を形成する化粧シートの製造方法。」 (2)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明 ア.甲2の記載事項 甲2には、以下の記載がある。 ・「【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも2層の2軸延伸積層フィルムを基材シートとし、前記基材シート上に絵柄層を設けてなる化粧シートであって、前記基材シートの少なくとも1層が、ポリ乳酸系樹脂を主成分とすることを特徴とする化粧シート。 【請求項2】 前記絵柄層の上に、透明若しくは半透明な樹脂層が少なくとも積層されていることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。」 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、建築用内外装部材、建具、枠材、床材等の建築用資材、或いは家電製品等の表面材として用いられる化粧シートに関するもので、主に木質ボード、無機系ボード類、金属板等に貼り合わせて化粧板を作製する際に用いられる化粧シートに関する。」 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は上記のような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、環境負荷の小さいポリ乳酸系樹脂を用い、印刷適性が良好な化粧シート、特にその印刷適性が建築資材の表面材に要求されるインキ密着強度およびラミネート強度をも十分に満足し得るものであることを特徴とする化粧シートを提供することにある。」 ・「【0031】 絵柄層5を設ける方法としては、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、静電印刷、インキジェット印刷等がある。また、ベタ状の絵柄層を設ける場合は、コンマコーター、ナイフコーター、リップコーター等のコーティング法、或いは金属蒸着法やスパッタ法等を用いるとよい。」 ・「【0034】 樹脂層2の構成材料の一つとして用いられる樹脂材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール等の公知の熱可塑性樹脂を挙げることができるが、中でもポリオレフィン系樹脂は好適に用いることができる。また、ポリオレフィン系樹脂の中でもポリプロピレンも好ましく用いられる。より具体的には、単独重合体すなわちホモポリマー或いはエチレンやブテン等と共重合された二元、三元のランダムポリマー共重合体である。」 ・「【0037】 本発明における樹脂層2には耐候性を向上させる役割があり、紫外線吸収剤およびヒンダードアミン系光安定剤が適宜添加されている。紫外線吸収剤としてはトリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、金属酸化物からなる無機系紫外線吸収剤を単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。」 ・「【0050】 樹脂層2の形成には、公知の形成方法を用いることができる。例えば、押出しラミネート法や、後述する接着性樹脂層3の形成と同時に行われる多層共押出しラミネート法、基材シート6−1、6−2および絵柄層5が積層された混合フィルムの表面上に、押出し法や多層共押出し法などによりシート成形した樹脂層2を後述する接着層4を介してロールやプレス晩を用いて加熱圧着するドライラミネート法などが適用され得る。樹脂層2の厚みは、30〜200μmが好ましい。」 ・「【0052】 接着性樹脂層3は樹脂層2と後述する接着層4の接着強度が十分得られる場合は不要である。しかしながら、樹脂層2を構成する樹脂としてポリプロピレンのような非極性の樹脂を用いた場合には、樹脂層2と接着層4との間の接着強度が十分に得られないので、このような場合には、接着性樹脂層3を設けることが推奨される。この接着性樹脂層3は、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル系等の樹脂に酸変性を施したもので構成される。その厚みは接着性向上の観点から2μm以上が好ましいが、厚すぎても接着性樹脂層自体の柔軟性が表面硬度に影響を与えたり、凝集力や耐熱性の点から逆に接着強度を落としたりしかねないので、20μm程度を上限とすることが好ましい。また、この接着性樹脂層の形成方法としては、接着強度向上を考慮して、樹脂層2との共押出法によるラミネートが好ましい。 【0053】 一方、接着層4であるが、これは隣接する層、すなわち絵柄層5と、接着性樹脂層3または樹脂層2との接着強度を向上させるために設けられている層である。この接着層4の構成材料としては、十分な接着強度が得られるものであれば、公知の接着性材料を用いることができる。例えば、アクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、エポキシ系の接着材料が使用できるが、その中では塗膜凝集力の高い二液硬化型のポリウレタン系接着性材料が好適に使用できる。また、その塗工方法も接着性材料の塗液粘度等によって適宜選択できるが、一般的にはグラビア版によるドライコート法が、低塗布量管理の意味からも好ましい方法といえる。また、塗布量は接着強度、コスト等を考慮して適宜決定するとよいが、出来るだけ低塗布量が好ましい。 ・・・・・ 【0055】 上述したイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、メタジイソシアネート(MDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチルヘキサンジイソシアネート(HTDI)、メチルシクロヘキサノンジイソシアネート(HXDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)等が挙げられ、これらの中から適宜のものを選択して使用できるが、耐候性を考慮すると二重結合を持つタイプよりも直鎖状の構造を持つタイプ、特にヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)が好ましい。また、表面硬度をさらに向上させるために、紫外線や電子線等の活性エネルギー線で硬化する樹脂の使用も可能である。また、単独使用の他に熱硬化型と光硬化型のハイブリット硬化型との併用についても、表面硬度、硬化収縮、密着性等の点からも有効な場合もある。」 ・「【0065】 特に保護層1は最表面に位置するため、化粧シートの耐候性の付与に多大な影響を与える部分である。 ・・・・・ 【0066】 また、保護層の形成方法も保護層形成用材料の性状や粘度、塗布量等に合わせて選択すればよく、特別な塗工方法を採用する必要はない。具体的には、グラビアコート、マイクログラビアコート、コンマコート、リップコート等々の一般的な塗工方法より設ければよい。また意匠性向上のために凹凸のエンボス模様を施すことも構わない。また、保護層の膜厚としては1〜20μmであることが好ましい。 【0067】 エンボス模様を施す場合には、一旦各種方法で各層を積層した後から熱圧によりエンボスする方法、冷却ロールに凹凸模様を設け押出ラミネートと同時にエンボスする方法等がある。また、押し出し時に同時エンボスを施した透明樹脂層と基材シートを熱或いはドライラミネートで貼り合わせる方法等がある。さらにエンボス凹部にインキや樹脂を埋め込み、凹部中のインキや樹脂を転移させ、意匠性や耐候性を向上させるようにしてもよい。」 ・「【0070】 実施例1 まず、ポリ乳酸とポリエチレンテレフタラートを共押出し法により積層し2軸延伸した基材シート(ポリ乳酸層の厚み110μm、ポリエチレンテレフタラート層の厚み10μm)のポリエチレンテレフタラート層の表面に木目模様の絵柄層を設け、絵柄層付き基材シートを用意した。 【0071】 次に、樹脂層形成材料として、ホモタイプの押出成形用ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、トリアジン系紫外線吸収剤2−(2ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジンを0.25重量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノールを0.25重量部、ヒンダートアミン系光安定剤(ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}])を0.5重量部、フェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を0.5重量部添加した樹脂を用いた。 【0072】 続いて、前記工程で得られた絵柄層付き基材シートの上に、二液硬化型ウレタン樹脂系の接着剤からなる厚さが2μm程度の接着層を設け、接着性樹脂層形成用材料として、ポリプロピレン酸変性樹脂を、樹脂層形成用材料として上記樹脂組成物を用い、押出機により溶融押し出しを行い、接着性樹脂層と樹脂層を多層押出しラミネート法で形成した。このとき、形成された接着性樹脂層と樹脂層の厚みはそれぞれ10μm、80μmであった。 【0073】 上記工程で得られた多層シートの樹脂層の表面にコロナ放電処理を施し、トリアジン系紫外線吸収剤(2−〔4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル〕−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン)とヒンダードアミン系光安定剤(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケートとメチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケートの混合物)を含有する二液硬化型ウレタン系トップコート剤をドライコートして保護層を設け、本発明の実施例1に係る化粧シートを作製した。トリアジン系紫外線吸収剤およびヒンダードアミン系光安定剤は、保護層が100重量部に対し、それぞれ5重量部および5重量部となるように添加した。」 ・「 」 イ.甲2に記載された発明 甲2記載事項、特にその実施例1に着目し、合わせて段落【0065】〜【0067】の記載事項を考慮すると、甲2には、以下の「化粧シート」という“物”自体に係る発明(以下「甲2物発明」という)が記載されている。 「ポリ乳酸とポリエチレンテレフタラートを積層した基材シート、絵柄層、接着層、接着性樹脂層及び樹脂層、保護層がこの順に積層されており、 前記接着層は、二液硬化型ウレタン樹脂系の接着剤からなり、 前記接着性樹脂層は、ポリプロピレン酸変性樹脂が用いられ、 前記樹脂層は、ホモタイプの押出成形用ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、トリアジン系紫外線吸収剤2−(2ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジンを0.25重量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノールを0.25重量部、ヒンダートアミン系光安定剤(ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}])を0.5重量部、フェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を0.5重量部添加した樹脂が用いられ、 前記接着性樹脂層の厚みは、10μmであり、 前記樹脂層の厚みは、80μmである、化粧シート。」 また、甲2には、化粧シートの製造方法として以下の発明(以下「甲2製造方法発明」という)も記載されている。 「甲2物発明に係る化粧シートの製造方法であって、 基材シートのポリエチレンテレフタラート層上に、絵柄層を形成した後、その絵柄層上に、ポリプロピレン酸変性樹脂とホモタイプの押出成形用ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、トリアジン系紫外線吸収剤2−(2ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジンを0.25重量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノールを0.25重量部、ヒンダートアミン系光安定剤(ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}])を0.5重量部、フェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を0.5重量部添加した樹脂の複数層を押出機から溶融押し出しすることで、接着性樹脂層及び樹脂層を形成し、その後、前記樹脂層上に保護層を形成する化粧シートの製造方法。」 3.特許権者に通知した取消理由についての判断 (1)甲1を主たる証拠とした場合について ア.本件発明1 (ア)本件発明1と甲1物発明とを対比する。 甲1物発明の「ランダムポリプロピレン樹脂を含む基材シート1」、「模様層2」、「トップコート層6」は、それぞれ、本件発明1の「熱可塑性樹脂基材シート」、「絵柄模様層」、「表面保護層」に相当する。 本件発明1の「前記接着材層は、2液硬化型のポリエステル系アンカーコート剤」を含むものであるから、甲1物発明の「アンカーコート層3」は、本件発明1の「接着材層」に相当する。 甲1物発明の「無水マレイン酸でグラフト重合した酸変性ランダムポリプロピレン樹脂」は、本件発明1の「透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂」に相当し、甲1物発明の「接着剤樹脂層4」は、本件発明1の「第1の層」に相当する。 甲1物発明の「ホモポリプロピレン樹脂にフェノール系酸化防止剤を0.2重量%、ヒンダードアミン系光安定剤を0.3重量%、ベンソトリアゾール系紫外線吸収剤を0.5重量%添加した」「透明なポリプロピレン樹脂層5」は、本件発明1の「紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された透明ポリプロピレン樹脂を含む第2の層」に相当する。 甲1物発明の「接着剤樹脂層4」と「透明なポリプロピレン樹脂層5」を合わせたものは、本件発明1の「透明熱可塑性樹脂層」に相当する。 甲1物発明の「凹陥模様5a」は、甲1の【図1】の記載内容から明らかなように、化粧シートの“最表層”に位置すると把握できるから、本件発明1の「エンボス」に相当する。 甲1物発明の「化粧シート」は、本件発明1の「エンボス化粧シート」に相当する。 そうすると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層及び表面保護層がこの順に積層されており、且つ、少なくとも最表層にエンボスが形成されており、 前記透明熱可塑性樹脂層は、透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を含む第1の層と、前記第1の層の前記表面保護層側に配置され、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された透明ポリプロピレン樹脂を含む第2の層とを有する、エンボス化粧シート。 <相違点1−1> 「接着剤層」について、本件発明1では「2液硬化型のポリエステル系アンカーコート剤を含む」ものであるのに対し、甲1物発明は、「2液硬化型のウレタン系アンカーコート剤(主剤成分は重量平均分子量50000の高分子量ポリエステルポリオールを使用し、硬化剤成分はヘキサメチレンジイソシアネートのビューレット体を使用)」である点。 <相違点1−2> 本件発明1は「前記第1の層の厚さは、7μm〜8μmであり、前記透明熱可塑性樹脂層の厚さは、70μm〜80μmである」のに対し、甲1物発明では、第1層(接着剤樹脂層4)の厚さも、第1の層と第2の層(透明なポリプロピレン樹脂層5)を合わせた厚さも明らかでない点。 (イ)相違点について検討する。 事案に鑑み、相違点1−2から検討する。 まず、相違点1−2は、実質的なものであるから、この相違点1−2の存在により、本件発明1は、甲1物発明ではない。 次に、甲1物発明を開示する甲1において、「接着剤樹脂層4」、「透明なポリプロピレン樹脂層5」の厚さに関して説明する記載は存在せず、甲1物発明において、接着剤樹脂層4の厚さとして7μm〜8μmという特定の範囲に属するものを選び、なおかつ、接着剤樹脂層4と透明なポリプロピレン樹脂層5を合わせた厚さを70μm〜80μmという特定の範囲にすることの、動機付けはない。 これに対して、本件発明1は、相違点1−2に係る本件発明1の構成を備えたことによって、高い接着強度を得たものである。 そうすると、甲1物発明において相違点1−2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することが当業者にとって容易に想到し得たとすることはできいない。 したがって、相違点1−1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1物発明において当業者が容易に発明することができたものではない。 イ.本件発明3について 本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含んだ上にさらに「前記表面保護層は、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された、熱硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂、またはこれらの樹脂の混合物を含んでなる」という発明特定事項が付加されたものであるから、これと甲1物発明を対比すると、少なくとも、本件発明1と甲1物発明を対比した際の相違点1−1、1−2が存在することになり、その相違点1−2についての判断は、既に「ア.(イ)」に示したとおりである。 したがって、本件発明3も、甲1物発明ではなく、また、甲1物発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものでもない。 ウ.本件発明4について (ア)本件発明4と甲1製造方法発明とを対比する。 まず、本件発明1と甲1物発明とを対比した際と同様の相当関係が成り立つ。 次に、甲2製造方法発明の「グラビア印刷法によって」は、本件発明4の「印刷によって」に相当し、甲2製造方法発明の「透明なポリプロピレン樹脂と接着性樹脂をTダイにより共押出して、透明なポリプロピレン樹脂5と接着性樹脂層4を形成し、」は、本件発明4の「溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多層押出機から押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層を形成し、」に相当する。 さらに、甲2製造方法発明の「同時にエンボス付与を行った」は、本件発明4の「前記透明熱可塑性樹脂層にエンボス加工を行った」に相当する。 そうすると、両者の一致点は、次のとおりである。 <一致点> 熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層及び表面保護層がこの順に積層されており、且つ、少なくとも最表層にエンボスが形成されており、 前記透明熱可塑性樹脂層は、透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を含む第1の層と、前記第1の層の前記表面保護層側に配置され、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された透明ポリプロピレン樹脂を含む第2の層とを有する、エンボス化粧シートの製造方法であって、 熱可塑性樹脂基材シート上に、印刷によって絵柄模様層を形成した後、その絵柄模様層上に、溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多層押出機から押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層を形成し、同時に前記透明熱可塑性樹脂層にエンボス加工を行った後、前記透明熱可塑性樹脂層上に表面保護層を形成するエンボス化粧シートの製造方法。 また、両発明の相違点は、本件発明1と甲1物発明を対比した際の相違点1−1、1−2と同様である。 (イ)相違点1−2についての判断は、既に「ア.(イ)」で述べたとおりであるから、本件発明4は、甲1製造方法発明と同一ではなく、また、甲1製造方法発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもない。 (2)甲2を主たる証拠とした場合について ア.本件発明1について (ア)本件発明1と甲2物発明とを対比する。 甲2物発明の「ポリ乳酸とポリエチレンテレフタラートを積層した基材シート」、「絵柄層」、「接着層」、「接着性樹脂層及び樹脂層」、「保護層」は、それぞれ、本件発明1の「熱可塑性樹脂基材シート」、「絵柄模様層」、「接着剤層」、「透明熱可塑性樹脂層」、「表面保護層」に相当する。 甲2物発明の「化粧シート」と、本件発明1の「少なくとも最表層にエンボスが形成されて」いる「エンボス化粧シート」とは、「化粧シート」という限りで一致する。 甲2物発明の「接着性樹脂層」は、本件発明1の「第1の層」に相当する。 甲2物発明の「ホモタイプの押出成形用ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、トリアジン系紫外線吸収剤2−(2ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジンを0.25重量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノールを0.25重量部、ヒンダートアミン系光安定剤(ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}])を0.5重量部、フェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を0.5重量部添加した樹脂が用いられ」た「樹脂層」は、本件発明1の「紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された透明ポリプロピレン樹脂を含む」「第2の層」に相当する。 甲1物発明の「接着性樹脂層」、「樹脂層」それぞれの厚さは、10μm、80μmであるから、両者を合わせた厚さは、90μmである。 そうすると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点1> 熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層及び表面保護層がこの順に積層されており 前記透明熱可塑性樹脂層は、第1の層と、前記第1の層の前記表面保護層側に配置され、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された透明ポリプロピレン樹脂を含む第2の層とを有する化粧シート。 <相違点2−1> 本件発明1では「少なくとも最表層にエンボスが形成されて」いる「エンボス化粧シート」であるのに対し、甲2物発明は、「化粧シート」である点。 <相違点2−2> 「第1の層」について、本件発明1では「透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂」を含むとされているのに対して、甲2物発明では、「ポリプロピレン酸変性樹脂」が用いられている点。 <相違点2−3> 「接着剤層」について、本件発明1では「2液硬化型のポリエステル系アンカーコート剤」を含むとされているのに対して、甲2物発明では、「二液硬化型ウレタン樹脂系の接着剤」からなるとされる点。 <相違点2−4> 本件発明1では「前記第1の層の厚さは、7μm〜8μmであり、前記透明熱可塑性樹脂層の厚さは、70μm〜80μmである」のに対して、甲2物発明では、第1の層(接着性樹脂層)の厚さは、10μmであり、第1の層と第2の層(透明なポリプロピレン樹脂層5)を合わせた厚さは、90μmである点。 (イ)相違点について検討する。 事案に鑑み、相違点2−4を検討する。 甲2物発明における「接着性樹脂層」、「樹脂層」の厚みは、それぞれ「10μm」、「80μm」であるところ、甲2物発明を開示する甲2には、これらに関する一般的な説明として、「樹脂層2の厚みは、30〜200μmが好ましい。」(段落【0050】)、「この接着性樹脂層3は、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル系等の樹脂に酸変性を施したもので構成される。その厚みは接着性向上の観点から2μm以上が好ましいが、厚すぎても接着性樹脂層自体の柔軟性が表面硬度に影響を与えたり、凝集力や耐熱性の点から逆に接着強度を落としたりしかねないので、20μm程度を上限とすることが好ましい。」(段落【0052】との記載がある。 しかし、当該記載は、10μmとされた「接着性樹脂層」の厚みを7μm〜8μmの範囲のものに減少させ、かつ、「樹脂層」の厚みも減少させて、合わせて90μmある接着剤樹脂層と樹脂層の厚みを70μm〜80μmという特定の範囲のものに変更することを、動機付けるものであるとまではいえない。 これに対して、本件発明1は、相違点2−4に係る発明特定事項を備えたことによって、高い接着強度を得たものである。 そうすると、甲2物発明において、上記したような「接着性樹脂層」、「樹脂層」の厚みの変更が可能であるといっても、相違点2−4に係る本件発明1の発明特定事項を採用することが、当業者にとって容易に想到し得たとすることはできない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2物発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 イ.本件発明3について 本件発明3と甲2物発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は、本件発明1と甲2物発明とを対比した際の一致点1及び相違点2−1〜2−4に加えて次の相違点2−5である。 <相違点2−5> 本件発明3では「表面保護層は、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された、熱硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂、またはこれらの樹脂の混合物を含んでなる」とされている点。 相違点2−1〜2−5のうち、相違点2−4についての判断は、既に「ア.(イ)」に示したとおりであるから、それ以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明3も、甲2物発明に基いて当業者が容易に発明し得たものではない。 ウ.本件発明4について 本件発明4と甲2製造方法発明とを対比する。 まず、本件発明1と甲2物発明とを対比した際と同様の相当関係が成り立つ。 次に、甲2製造方法発明の「ポリプロピレン酸変性樹脂とホモタイプの押出成形用ポリプロピレン樹脂100重量部に対し、トリアジン系紫外線吸収剤2−(2ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジンを0.25重量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノールを0.25重量部、ヒンダートアミン系光安定剤(ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}])を0.5重量部、フェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を0.5重量部添加した樹脂の複数層を押出機から溶融押し出しする」は、本件発明4の「溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多層押出機から押し出して積層する」に相当する。 そうすると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点2> 熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層及び表面保護層がこの順に積層されており、 前記透明熱可塑性樹脂層は、第1の層と、前記第1の層の前記表面保護層側に配置され、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された透明ポリプロピレン樹脂を含む第2の層とを有する、 化粧シートの製造方法であって、 熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層を形成した後、その絵柄模様層上に、溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多層押出機から押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層を形成した後、前記透明熱可塑性樹脂層上に表面保護層を形成する化粧シートの製造方法。 また、両発明の相違点は、本件発明1と甲2物発明を対比した際の相違点2−1〜2−4に加えて次の相違点2−6及び2−7である。 <相違点2−6> 「絵柄模様層」の形成について、本件発明4では「印刷」によるとされているのに対して、甲2製造方法発明ではその手法が明らかでない点。 <相違点2−7> 本件発明4では接着性樹脂層及び樹脂層を形成する際に「同時に前記透明熱可塑性樹脂層にエンボス加工を行」うのに対し、甲2製造方法発明は、エンボス加工を行うか明らかではない点。 相違点2−1〜2−4、2−6、2−7のうち、相違点2−4についての判断は、既に「ア.(イ)」に示したとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲2製造方法発明ではなく、また、甲2製造方法発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件発明1、3、4は、いずれも、特許法第29条第1項第3号に規定された発明には該当しないし、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。 したがって、本件発明1、3、4に係る特許は、いずれも、特許法第113条第2号に該当しない。 4.取消理由の通知において採用しなかった特許異議申立理由について 以下では、本件明細書等の明細書、特許請求の範囲をそれぞれ「本件明細書」、「本件特許請求の範囲」という。 (1)明確性要件及び実施可能要件について 本件特許請求の範囲の請求項1には「2液硬化型のポリエステル系アンカーコート剤」なる事項が記載されており、かかる事項をポリエステルポリオールとポリイソシアネートを反応、硬化させてアンカーコートとして用いることを意図した剤と理解することができるから、その発明は明確であり、また、技術常識に基づき、その発明を当業者が実施し得るものである。 したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすし、本件明細書の記載も、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たすものであるから、本件発明1、3、4に係る特許は、同法第113条第4号に該当するものではない。 (2)サポート要件について ア.本件明細書には、次の記載がある。 ・ 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、塩化ビニル樹脂を使用したエンボス化粧シートと異なり、エンボス化粧シートに、柔軟性、エンボス適性、耐摩耗性、表面硬度、耐薬品性、及び耐汚染性等といった、様々な特性を持たせることが困難であった。 本発明は、上記のような点に着目したもので、様々な特性を持つことが可能なエンボス化粧シート及びその製造方法を提供することを目的としている。」 ・ 「【発明の効果】 【0006】 本発明の一態様によれば、透明熱可塑性樹脂層の層数、各層の材質、厚さ等を選択することで、様々な特性を持つことが可能なエンボス化粧シートを提供することができる。」 また、透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を含む第1の層と、透明ポリプロピレン樹脂を含む第2の層を採用した構成について、次の記載がある。 ・ 「【0020】 第1の樹脂及び第2の樹脂としては、例えば、マレイン酸に基づく酸基の作用による接着強度の高さ等を考慮すれば、第1の樹脂には、透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を用い、第2の樹脂には、透明ポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。」 ・ 「【0049】 ・・・・・実施例1のエンボス化粧シート1を得た。 このようにして得られたエンボス化粧シート1は、マレイン酸による酸基の作用で透明熱可塑性樹脂層5と接着剤層4(絵柄模様層3)との接着強度が高いものであった。」 イ.本件明細書の記載全体からは、段落【0006】に記載されるように、第1の層、第2の層の材質、厚さなどを変更することによって、得られる特性が変わることが理解できて、本件発明1は、段落【0020】、【0049】の記載からすると、“高い接着強度”という特性を持たせたものとみることができる。 ウ.請求項1に含まれる「2液硬化型のポリエステル系アンカーコート剤」なる事項については、既に「(1)」で述べたとおりである。 また、請求項1の「第1の層」における「透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂」は、当該層の主たる成分として理解できるところ、当該層における他の成分は、特に限定さることがなくても、“高い接着強度”という特性を持たせる上で特に支障がないようなものが採用されるものと理解される。 また、請求項1の「熱可塑性樹脂基材シート」、「表面保護層」についても、特にその材料が限定されなくても、“高い接着強度”という特性を持たせる上で特に支障がないような材料が採用されるものと理解される。 さらに、請求項1が「第1の層」と「第2の層」の硬さの関係や接着剤層の厚さの限定を伴わなくても、それらについては“高い接着強度”という特性を持たせる上で特に支障がないような構成が採用されるものと理解できる。 エ.そうすると、当業者にとって、本件発明1は、当該課題を解決することができると認識し得るといえる。 したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、本件発明1、3、4に係る特許は、同法第113条第4号に該当するものではない。 (3)新規事項の追加について 本件訂正により、請求項2が削除されるとともに、請求項1の記載は、次のものとなった。 「熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層及び表面保護層がこの順に積層されており、且つ、少なくとも最表層にエンボスが形成されており、 前記透明熱可塑性樹脂層は、透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を含む第1の層と、前記第1の層の前記表面保護層側に配置され、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された透明ポリプロピレン樹脂を含む第2の層とを有し、 前記接着剤層は、2液硬化型のポリエステル系アンカーコート剤を含み、 前記第1の層の厚さは、7μm〜8μmであり、 前記透明熱可塑性樹脂層の厚さは、70μm〜80μmであることを特徴とするエンボス化粧シート。」 本件特許の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件当初明細書等」という。)には、第1の層、透明熱可塑性樹脂層の厚さに関して、次のように記載されていた。 ・「【0047】 次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。 (実施例1) ・・・・・ 【0048】 続いて、この接着剤層4上に、溶融した透明熱可塑性樹脂として、透明マレイン酸変性ポリプロピレン(三井化学(株)製「AT2102」)を含んでなる第1の層51と、透明ポリプロピレン(プライムポリマー(株)製「E2000」)を含んでなる第2の層53とを多層押出機11から押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層5を形成した。第1の層51と第2の層53との膜厚比は、1:9とした。また、透明熱可塑性樹脂層5の厚さは、70〜80μmとした。」 そうすると、第1の層は透明熱可塑性樹脂層5の10分の1の厚さであり、本件訂正により訂正された請求項1における「前記第1の層の厚さは、7μm〜8μmであり、前記透明熱可塑性樹脂層の厚さは、70μm〜80μmである」という事項は、本件当初明細書等の段落【0048】の記載を踏まえたものということができて、本件訂正後の請求項1は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである。 本件訂正後の請求項3、4についても同様のことがいえる。 したがって、請求項1、3、4に係る特許は、第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第1号に該当するものではない。 第5 むすび 以上のとおり、請求項1、3、4に係る特許は、特許権者に通知した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。 また、請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、請求項2が本件訂正により削除されたことによりその対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層及び表面保護層がこの順に積層されており、且つ、少なくとも最表層にエンボスが形成されており、 前記透明熱可塑性樹脂層は、透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を含む第1の層と、前記第1の層の前記表面保護層側に配置され、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された透明ポリプロピレン樹脂を含む第2の層とを有し、 前記接着剤層は、2液硬化型のポリエステル系アンカーコート剤を含み、 前記第1の層の厚さは、7μm〜8μmであり、 前記透明熱可塑性樹脂層の厚さは、70μm〜80μmであることを特徴とするエンボス化粧シート。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 前記表面保護層は、紫外線吸収剤及び光安定剤の少なくともいずれかが添加された、熱硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂、またはこれらの樹脂の混合物を含んでなることを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。 【請求項4】 請求項1又は3に記載のエンボス化粧シートの製造方法であって、 熱可塑性樹脂基材シート上に、印刷によって絵柄模様層を形成した後、その絵柄模様層上に、溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多層押出機から押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層を形成し、同時に前記透明熱可塑性樹脂層にエンボス加工を行った後、前記透明熱可塑性樹脂層上に表面保護層を形成することを特徴とするエンボス化粧シートの製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-04-06 |
出願番号 | P2016-177870 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B32B)
P 1 651・ 561- YAA (B32B) P 1 651・ 537- YAA (B32B) P 1 651・ 536- YAA (B32B) P 1 651・ 113- YAA (B32B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
柳本 幸雄 久保 克彦 |
登録日 | 2020-08-03 |
登録番号 | 6743605 |
権利者 | 凸版印刷株式会社 |
発明の名称 | エンボス化粧シート及びその製造方法 |
代理人 | 宮坂 徹 |
代理人 | 宮坂 徹 |
代理人 | 廣瀬 一 |
代理人 | 田中 秀▲てつ▼ |
代理人 | 田中 秀▲てつ▼ |
代理人 | 廣瀬 一 |