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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D06M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D06M
審判 全部申し立て 特29条の2  D06M
管理番号 1386107
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-09 
確定日 2022-05-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6752331号発明「複合構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6752331号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4、25〜39〕、〔5〜19〕について訂正することを認める。 特許第6752331号の請求項1〜39に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6752331号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜24に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)3月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年3月14日、米国)を国際出願日とする特願2015−562306号の一部を、令和1年6月7日に新たな特許出願(以下「本件特許出願」という。)としたものであって、令和2年8月20日にその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報令和2年9月9日発行)、その後、その請求項1〜24に係る特許について、令和3年3月9日に特許異議申立人久門享(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年7月2日付けで取消理由が通知され、同年11月5日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、令和4年1月7日に申立人から意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項4〜19及び25〜39について訂正することを求めるものである(なお、下記の訂正事項において、訂正箇所に下線を付した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項4に「該構造体の最外層がS層である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているのを、請求項1を引用するものについて独立形式に改め、「M層」について、「1層又は複数の前記M層のそれぞれにおける無機粒子状充填剤の量が、各M層の全質量に対して5質量%未満であり」と限定して、
「互いに接着された少なくとも2つの不織布ポリマー層を含む複合構造体であって、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがスパンボンドされており(S)、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがメルトブローされており(M)、前記S層のうちの少なくとも1つが当該不織布層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み、各不織布ポリマー層がポリマー樹脂を含み、前記ポリマー樹脂がポリプロピレンを含み、前記無機粒子状充填剤が被覆されており、該複合構造体が、以下の物理特性および機械特性:
(i)400 mm〜1000 mmの範囲の静水頭;
(ii)400 l/m2s〜900 l/m2sの範囲の空気透過率;
(iii)95.0 N/5cm〜120.0 N/5cmの範囲のMD引張強度;
(iv)40.0 N/5cm〜60.0 N/5cmの範囲のCD引張強度;
(v)60%〜120%の範囲のMD伸長;および
(vi)60%〜120%の範囲のCD伸長
のうちの1つ以上を有し、
1層又は複数の前記M層のそれぞれにおける無機粒子状充填剤の量が、各M層の全質量に対して5質量%未満であり、かつ
該構造体の最外層がS層である、前記複合構造体。」に訂正する。

(2)訂正事項2−1
特許請求の範囲の請求項5に「前記S層のうちの少なくとも1つまたは両方が、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み」と記載されているのを、「前記S層の両方が、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み」に訂正し、特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているのを、「請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合構造体。」に訂正する。
(請求項5の記載を引用する請求項7〜19も同様に訂正する。)

(3)訂正事項2−2
ア 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているもののうち、請求項4の記載を引用するものについて新たに請求項25とする。
イ 訂正事項1のとおり請求項4を訂正する。

(4)訂正事項3−1
特許請求の範囲の請求項6に「最外S層のうちの少なくとも1つまたは両方が、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含む」と記載されているのを、「最外S層の両方が、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含む」に訂正し、特許請求の範囲の請求項6に「請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているのを、「請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合構造体。」に訂正する。
(請求項6の記載を引用する請求項7〜19も同様に訂正する。)

(5)訂正事項3−2
ア 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているもののうち、請求項4の記載を引用するものについて新たに請求項26とする。
イ 訂正事項1のとおり請求項4を訂正する。

(6)訂正事項4−1
特許請求の範囲の請求項7に「請求項2〜6に記載の複合構造体。」と記載されているのを、「請求項2、3、5および6のいずれか1項に記載の複合構造体。」に訂正する。(請求項7の記載を引用する請求項8〜16、18、19も同様に訂正する。)

(7)訂正事項4−2
ア 特許請求の範囲の請求項7に「請求項2〜6に記載の複合構造体。」と記載されているもののうち、請求項4の記載を直接的又は間接的に引用するものであって「各M層が無機粒子状充填剤を実質的に含有しない」ものについて新たに請求項27とする。
イ 訂正事項1のとおり請求項4を訂正する。

(8)訂正事項5−1
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているのを、「請求項1〜3および5〜7のいずれか1項に記載の複合構造体。」に訂正する。(請求項8の記載を引用する請求項9〜16、18、19も同様に訂正する。)

(9)訂正事項5−2
ア 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているもののうち、請求項4の記載を直接又は間接的に引用するものについて新たに請求項28とする。
イ 訂正事項1のとおり請求項4を訂正する。

(10)訂正事項6−1
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているのを、「請求項1〜3および5〜8のいずれか1項に記載の複合構造体。」に訂正する。(請求項9の記載を引用する請求項10〜16、18、19も同様に訂正する。)

(11)訂正事項6−2
ア 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているもののうち、請求項4の記載を直接又は間接的に引用するものについて新たに請求項29とする。
イ 訂正事項1のとおり請求項4を訂正する。

(12)訂正事項7−1
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1〜9のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているのを、「請求項1〜3および5〜9のいずれか1項に記載の複合構造体。」に訂正する。(請求項10の記載を引用する請求項11〜16、18、19も同様に訂正する。)

(13)訂正事項7−2
ア 特許請求の範囲の請求項10に「請求項1〜9のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているもののうち、請求項4の記載を直接又は間接的に引用するものについて新たに請求項30とする。
イ 訂正事項1のとおり請求項4を訂正する。

(14)訂正事項8−1
特許請求の範囲の請求項14に「請求項1〜13のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているのを、「請求項1〜3および5〜13のいずれか1項に記載の複合構造体。」に訂正する。(請求項14の記載を引用する請求項15、16、18、19も同様に訂正する。)

(15)訂正事項8−2
ア 特許請求の範囲の請求項14に「請求項1〜13のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているもののうち、請求項4の記載を直接又は間接的に引用するものについて新たに請求項34とする。
イ 訂正事項1のとおり請求項4を訂正する。

(16)訂正事項9−1
特許請求の範囲の請求項15に「請求項1〜14のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているのを、「請求項1〜3および5〜14のいずれか1項に記載の複合構造体。」に訂正する。(請求項15の記載を引用する請求項16、18、19も同様に訂正する。)

(17)訂正事項9−2
ア 特許請求の範囲の請求項15に「請求項1〜14のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているもののうち、請求項4の記載を直接又は間接的に引用するものについて新たに請求項35とする。
イ 訂正事項1のとおり請求項4を訂正する。

(18)訂正事項10−1
特許請求の範囲の請求項16に「請求項1〜15のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているのを、「請求項1〜3および5〜15のいずれか1項に記載の複合構造体。」に訂正する。(請求項16の記載を引用する請求項18、19も同様に訂正する。)

(19)訂正事項10−2
ア 特許請求の範囲の請求項16に「請求項1〜15のいずれか1項に記載の複合構造体。」と記載されているもののうち、請求項4の記載を直接又は間接的に引用するものについて新たに請求項36とする。
イ 訂正事項1のとおり請求項4を訂正する。

(20)訂正事項11−1
特許請求の範囲の請求項18に「請求項1〜17のいずれか1項に記載の複合構造体から形成されるか、もしくは請求項1〜17のいずれか1項に記載の複合構造体を含む、物品または製品。」と記載されているのを、「請求項1〜3および5〜17のいずれか1項に記載の複合構造体から形成されるか、もしくは請求項1〜3および5〜17のいずれか1項に記載の複合構造体を含む、物品または製品。」に訂正する。(請求項18の記載を引用する請求項19も同様に訂正する。)

(21)訂正事項11−2
ア 特許請求の範囲の請求項18に「請求項1〜17のいずれか1項に記載の複合構造体から形成されるか、もしくは請求項1〜17のいずれか1項に記載の複合構造体を含む、物品または製品。」と記載されているもののうち、請求項4の記載を直接的又は間接的に引用するものについて新たに請求項38とする。
イ 訂正事項1のとおり請求項4を訂正する。

(22)訂正事項12
ア 特許請求の範囲の請求項4の記載を引用する請求項5または請求項6を引用する請求項17について、新たに請求項37とする。
イ 訂正事項1のとおり請求項4を訂正する。

(23)訂正事項13
ア 特許請求の範囲の請求項4の記載を引用する請求項10を引用する請求項11〜13について、それぞれ新たに請求項31〜33とする。
イ 訂正事項1のとおり請求項4を訂正する。

(24)訂正事項14
ア 特許請求の範囲の請求項4の記載を引用する請求項18を引用する請求項19について、新たに請求項39とする。
イ 訂正事項1のとおり請求項4を訂正する。

(25)一群の請求項について
訂正前の請求項5〜19は、請求項4の記載を直接又は間接的に引用するものであり、請求項4の記載を引用しないものとなった訂正後の請求項5〜19、及び請求項4の記載を引用する請求項5〜19に新たに項番を付した訂正後の請求項25〜39は、いずれも、訂正事項1によって記載が訂正される請求項4に連動して訂正されるものであるから、訂正後の請求項4〜19及び25〜39は、一群の請求項を構成するものである。
特許権者は、訂正後の請求項4及び25〜39については、それらについての訂正が認められるのであれば、一群の請求項の他の請求項とは別途の訂正とすることも求めている。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項4に記載されていた「M層」について、「1層又は複数の前記M層のそれぞれにおける無機粒子状充填剤の量が、各M層の全質量に対して5質量%未満であり」と限定するとともに、訂正前の特許請求の範囲の請求項4が請求項1の記載を引用するものであったものを、請求項間の引用を解消して、請求項1の記載を引用しない独立形式の請求項に改めるものであることから、特許請求の範囲の減縮、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
訂正事項1は、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の段落【0033】の「M層またはM層のそれぞれは、無機粒子状充填剤を実質的に含んでいなくてもよい。代替的には、M層またはM層のそれぞれは、S層よりも少ない無機粒子状充填剤を含んでいてもよい。代替的には、M層またはM層のそれぞれは、各M層の全質量に対して約15質量%未満の無機粒子状材料、例えば、約10質量%未満の無機粒子状材料、または約5質量%未満の無機粒子状充填剤を含む。」との記載事項に照らせば、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものといえる。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2−1について
訂正事項2−1は、訂正前の請求項5の記載において「前記S層のうちの少なくとも1つまたは両方」であると択一的に記載されていたところ、その事項の一つを削除して「前記S層の両方」とするものであり、また、訂正前の請求項5の記載の「請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合構造体」を、請求項4の引用を削除して「請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合構造体」とするものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2−1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項2−2について
訂正事項2−2は、訂正前の請求項1〜4のいずれか1項を引用する請求項5のうち、請求項4を引用する請求項5を分けて新たに項番を付し、請求項4については訂正事項1で「M層」について限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項3−1について
訂正事項3−1は、訂正前の請求項6の記載において「最外S層のうちの少なくとも1つまたは両方」であると択一的に記載されていたところ、その事項の一つを削除して「最外S層の両方」とするものであり、また、訂正前の請求項6に記載の「請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合構造体」を、請求項4の引用を削除して「請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合構造体」とするものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3−1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項3−2について
訂正事項3−2は、訂正前の請求項1〜4のいずれか1項を引用する請求項6のうち、請求項4を引用する請求項6を分けて新たに項番を付し、請求項4については訂正事項1で「M層」について限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項4−1について
訂正事項4−1は、訂正前の請求項7に記載の「請求項2〜6に記載の複合構造体」を、請求項4の引用を削除して「請求項2、3、5および6のいずれか1項に記載の複合構造体」とするものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4−1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項4−2について
訂正事項4−2は、訂正前の請求項2〜6のいずれか1項を引用する請求項7のうち、請求項4を引用する請求項7を分けて新たに項番を付し、請求項4については訂正事項1で「M層」について限定し、さらに、請求項7において「前記M層のすべてが、それぞれ、各M層の全質量に対して15質量%未満の無機粒子状充填剤を含む」か、または「各M層が無機粒子状充填剤を実質的に含有しない」と択一的に記載されていたところ、その事項の一つを削除して「各M層が無機粒子状充填剤を実質的に含有しない」とするものであるから、明瞭でない記載の釈明、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項5−1について
訂正事項5−1は、訂正前の請求項8に記載の「請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合構造体」を、請求項4の引用を削除して「請求項1〜3および5〜7のいずれか1項に記載の複合構造体」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項5−1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)訂正事項5−2について
訂正事項5−2は、訂正前の請求項1〜7のいずれか1項を引用する請求項8のうち、請求項4を引用する請求項8を分けて新たに項番を付し、請求項4については訂正事項1で「M層」について限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(10)訂正事項6−1について
訂正事項6−1は、訂正前の請求項9に記載の「請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合構造体」を、請求項4の引用を削除して「請求項1〜3および5〜8のいずれか1項に記載の複合構造体」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項6−1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(11)訂正事項6−2について
訂正事項6−2は、訂正前の請求項1〜8のいずれか1項を引用する請求項9のうち、請求項4を引用する請求項9を分けて新たに項番を付し、請求項4については訂正事項1で「M層」について限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(12)訂正事項7−1について
訂正事項7−1は、訂正前の請求項10に記載の「請求項1〜9のいずれか1項に記載の複合構造体」を、請求項4の引用を削除して「請求項1〜3および5〜9のいずれか1項に記載の複合構造体」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項7−1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(13)訂正事項7−2について
訂正事項7−2は、訂正前の請求項1〜9のいずれか1項を引用する請求項10のうち、請求項4を引用する請求項10を分けて新たに項番を付し、請求項4については訂正事項1で「M層」について限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(14)訂正事項8−1について
訂正事項8−1は、訂正前の請求項14に記載の「請求項1〜13のいずれか1項に記載の複合構造体」を、請求項4の引用を削除して「請求項1〜3および5〜13のいずれか1項に記載の複合構造体」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項8−1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(15)訂正事項8−2について
訂正事項8−2は、訂正前の請求項1〜13のいずれか1項を引用する請求項14のうち、請求項4を引用する請求項14を分けて新たに項番を付し、請求項4については訂正事項1で「M層」について限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(16)訂正事項9−1について
訂正事項9−1は、訂正前の請求項15に記載の「請求項1〜14のいずれか1項に記載の複合構造体」を、請求項4の引用を削除して「請求項1〜3および5〜14のいずれか1項に記載の複合構造体」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項9−1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(17)訂正事項9−2について
訂正事項9−2は、訂正前の請求項1〜14のいずれか1項を引用する請求項15のうち、請求項4を引用する請求項15を分けて新たに項番を付し、請求項4については訂正事項1で「M層」について限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(18)訂正事項10−1について
訂正事項10−1は、訂正前の請求項16に記載の「請求項1〜15のいずれか1項に記載の複合構造体」を、請求項4の引用を削除して「請求項1〜3および5〜15のいずれか1項に記載の複合構造体」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項10−1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(19)訂正事項10−2について
訂正事項10−2は、訂正前の請求項1〜15のいずれか1項を引用する請求項16のうち、請求項4を引用する請求項16を分けて新たに項番を付し、請求項4については訂正事項1で「M層」について限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(20)訂正事項11−1について
訂正事項11−1は、訂正前の請求項18に記載の「請求項1〜17のいずれか1項に記載の複合構造体から形成されるか、もしくは請求項1〜17のいずれか1項に記載の複合構造体を含む、物品または製品」を、請求項4の引用を削除して「請求項1〜3および5〜17のいずれか1項に記載の複合構造体から形成されるか、もしくは請求項1〜3および5〜17のいずれか1項に記載の複合構造体を含む、物品または製品」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項11−1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(21)訂正事項11−2について
訂正事項11−2は、訂正前の請求項1〜17のいずれか1項を引用する請求項18のうち、請求項4を引用する請求項18を分けて新たに項番を付し、請求項4については訂正事項1で「M層」について限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(22)訂正事項12について
訂正事項12は、訂正前の請求項1〜4のいずれか1項を引用する請求項5および請求項6を引用する請求項17のうち、請求項4を引用する請求項5および請求項6を引用する請求項17を分けて新たに項番を付し、請求項4については訂正事項1で「M層」について限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(23)訂正事項13について
訂正事項13は、訂正前の請求項1〜9のいずれか1項を引用する請求項10を直接的又は間接的に引用する請求項11〜13のうち、請求項4を引用する請求項10を直接的又は間接的に引用する請求項11〜13を分けて新たに項番を付し、請求項4については訂正事項1で「M層」について限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(24)訂正事項14について
訂正事項14は、訂正前の請求項1〜17のいずれか1項を引用する請求項18のうち、請求項4を引用する請求項18を分けて新たに項番を付し、請求項4については訂正事項1で「M層」について限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.本件訂正請求についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げられた事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔4、25〜39〕、〔5〜19〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1〜39に係る発明(以下「本件発明1」等といい、また、本件発明1〜39を「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜39に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
互いに接着された少なくとも2つの不織布ポリマー層を含む複合構造体であって、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがスパンボンドされており(S)、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがメルトブローされており(M)、前記S層のうちの少なくとも1つが当該不織布層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み、各不織布ポリマー層がポリマー樹脂を含み、前記ポリマー樹脂がポリプロピレンを含み、前記無機粒子状充填剤が被覆されており、該複合構造体が、以下の物理特性および機械特性:
(i)400 mm〜1000 mmの範囲の静水頭;
(ii)400 l/m2s〜900 l/m2sの範囲の空気透過率;
(iii)95.0 N/5cm〜120.0 N/5cmの範囲のMD引張強度;
(iv)40.0 N/5cm〜60.0 N/5cmの範囲のCD引張強度;
(v)60%〜120%の範囲のMD伸長;および
(vi)60%〜120%の範囲のCD伸長
のうちの1つ以上を有する、前記複合構造体。
【請求項2】
互いに接着された少なくとも3つの不織布ポリマー層を含む、請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
1層又は複数のM層のそれぞれが、無機粒子状充填剤を含有していない、請求項1又は2に記載の複合構造体。
【請求項4】
互いに接着された少なくとも2つの不織布ポリマー層を含む複合構造体であって、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがスパンボンドされており(S)、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがメルトブローされており(M)、前記S層のうちの少なくとも1つが当該不織布層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み、各不織布ポリマー層がポリマー樹脂を含み、前記ポリマー樹脂がポリプロピレンを含み、前記無機粒子状充填剤が被覆されており、該複合構造体が、以下の物理特性および機械特性:
(i)400 mm〜1000 mmの範囲の静水頭;
(ii)400 l/m2s〜900 l/m2sの範囲の空気透過率;
(iii)95.0 N/5cm〜120.0 N/5cmの範囲のMD引張強度;
(iv)40.0 N/5cm〜60.0 N/5cmの範囲のCD引張強度;
(v)60%〜120%の範囲のMD伸長;および
(vi)60%〜120%の範囲のCD伸長
のうちの1つ以上を有し、
1層又は複数の前記M層のそれぞれにおける無機粒子状充填剤の量が、各M層の全質量に対して5質量%未満であり、かつ
該構造体の最外層がS層である、前記複合構造体。
【請求項5】
S−M−S層構造、またはS−M−M−S層構造、またはS−M−M−M−S層構造、またはS−M−M−M−M−S層構造を有し、前記S層の両方が、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み、前記M層のうちの1つ以上またはすべてが、無機粒子状充填剤を実質的に含有していなくてもよい、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項6】
S−S−M−S層構造、またはS−S−M−S−S層構造、またはS−S−M−M−S層構造、またはS−S−M−M−S−S層構造、またはS−S−M−M−M−S層構造、またはS−S−M−M−M−S−S層構造、またはS−S−M−M−M−M−S層構造、またはS−S−M−M−M−M−M−S−S層構造を有し、(i)最外S層の両方が、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含むか、または(ii)前記S層のすべてが、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み、(i)または(ii)において、前記M層のうちの1つ以上またはすべてが、無機粒子状充填剤を実質的に含有していなくてもよい、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項7】
前記M層のすべてが、それぞれ、各M層の全質量に対して15質量%未満の無機粒子状充填剤を含むか、または各M層が無機粒子状充填剤を実質的に含有しない、請求項2、3、5および6のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項8】
10〜100gsmの坪量を有する、請求項1〜3および5〜7のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項9】
以下の物理特性および機械特性:
(i)10.0未満のHSH(mm)/MD引張強度(N/5cm)の比;
(ii)17.0未満のHSH(mm)/CD引張強度(N/5cm)の比;
(iii)12.0未満のHSH(mm)/MD伸長(%)の比;および
(iv)12.0未満のHSH(mm)/CD伸長(%)の比
のうちの1つ以上を有する、請求項1〜3および5〜8のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項10】
前記無機粒子状材料が、アルカリ土類金属炭酸塩もしくは硫酸塩、加水カンダイトクレー、無水(か焼)カンダイトクレー、ウォラストナイト、ボーキサイト、タルク、マイカ、パーライトもしくは珪藻土、または水酸化マグネシウム、またはアルミニウム三水和物、またはこれらの組合せから選択される、請求項1〜3および5〜9のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項11】
前記無機粒子状材料が、アルカリ土類金属炭酸塩である、請求項10に記載の複合構造体。
【請求項12】
前記無機粒子状材料の炭酸塩が、0.1μm〜10μmのd50を有する炭酸カルシウムである、請求項11に記載の複合構造体。
【請求項13】
前記無機粒子状炭酸塩が15μm以下のトップカットを有する炭酸カルシウムである、請求項11または12に記載の複合構造体。
【請求項14】
前記無機粒子状材料が、1種以上の脂肪酸またはその塩もしくはエステルで被覆されている、請求項1〜3および5〜13のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項15】
前記ポリマー樹脂がポリプロピレンである、請求項1〜3および5〜14のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項16】
前記S層のうちの少なくとも1つが当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含む、請求項1〜3および5〜15のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項17】
前記最外S層のうちの少なくとも1つまたは両方が、当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含むか、または前記S層のすべてが、当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含む、請求項5または6に記載の複合構造体。
【請求項18】
請求項1〜3および5〜17のいずれか1項に記載の複合構造体から形成されるか、もしくは請求項1〜3および5〜17のいずれか1項に記載の複合構造体を含む、物品または製品。
【請求項19】
ヘルスケア、パーソナルケアまたは衛生用の物品または製品である、請求項18に記載の物品または製品。
【請求項20】
請求項1に記載の複合構造体を調製するための方法であって、少なくとも2つの不織布ポリマー層を互いに接着させることを含み、前記S層のうちの少なくとも1つが当該不織布層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含む、方法。
【請求項21】
スパンボンドされている少なくとも1つの不織布ポリマー層を調製するまたは得ること、およびメルトブローされている少なくとも1つの不織布ポリマー層を調製するまたは得ること、および前記少なくとも1つのスパンボンド層と前記少なくとも1つのメルトブロー層とを互いに接着させて前記複合構造体を形成することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記不織布層を互いに接着させることが、熱の適用下で該層をプレスすることを含み、接着中の最大温度が145.0℃〜148.0℃の間であってもよい、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
(i)前記複合構造体を物品もしくは製品に組み込みこと、または(ii)前記複合構造体から物品もしくは製品を形成することをさらに含み、前記物品または製品がヘルスケア、パーソナルケアまたは衛生用の物品または製品であってもよい、請求項20〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記S層のうちの少なくとも1つが当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含む、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
S−M−S層構造、またはS−M−M−S層構造、またはS−M−M−M−S層構造、またはS−M−M−M−M−S層構造を有し、前記S層の両方が、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み、前記M層のうちの1つ以上またはすべてが、無機粒子状充填剤を実質的に含有していなくてもよい、請求項4に記載の複合構造体。
【請求項26】
S−S−M−S層構造、またはS−S−M−S−S層構造、またはS−S−M−M−S層構造、またはS−S−M−M−S−S層構造、またはS−S−M−M−M−S層構造、またはS−S−M−M−M−S−S層構造、またはS−S−M−M−M−M−S層構造、またはS−S−M−M−M−M−M−S−S層構造を有し、(i)最外S層の両方が、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含むか、または(ii)前記S層のすべてが、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み、(i)または(ii)において、前記M層のうちの1つ以上またはすべてが、無機粒子状充填剤を実質的に含有していなくてもよい、請求項4に記載の複合構造体。
【請求項27】
各M層が無機粒子状充填剤を実質的に含有しない、請求項4、25および26のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項28】
10〜100gsmの坪量を有する、請求項4および25〜27のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項29】
以下の物理特性および機械特性:
(i)10.0未満のHSH(mm)/MD引張強度(N/5cm)の比;
(ii)17.0未満のHSH(mm)/CD引張強度(N/5cm)の比;
(iii)12.0未満のHSH(mm)/MD伸長(%)の比;および
(iv)12.0未満のHSH(mm)/CD伸長(%)の比
のうちの1つ以上を有する、請求項4および25〜28のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項30】
前記無機粒子状材料が、アルカリ土類金属炭酸塩もしくは硫酸塩、加水カンダイトクレー、無水(か焼)カンダイトクレー、ウォラストナイト、ボーキサイト、タルク、マイカ、パーライトもしくは珪藻土、または水酸化マグネシウム、またはアルミニウム三水和物、またはこれらの組合せから選択される、請求項4および25〜29のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項31】
前記無機粒子状材料が、アルカリ土類金属炭酸塩である、請求項30に記載の複合構造体。
【請求項32】
前記無機粒子状材料の炭酸塩が、0.1μm〜10μmのd50を有する炭酸カルシウムである、請求項31に記載の複合構造体。
【請求項33】
前記無機粒子状炭酸塩が15μm以下のトップカットを有する炭酸カルシウムである、請求項31または32に記載の複合構造体。
【請求項34】
前記無機粒子状材料が、1種以上の脂肪酸またはその塩もしくはエステルで被覆されている、請求項4および25〜33のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項35】
前記ポリマー樹脂がポリプロピレンである、請求項4および25〜34のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項36】
前記S層のうちの少なくとも1つが当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含む、請求項4および25〜35のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項37】
前記最外S層のうちの少なくとも1つまたは両方が、当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含むか、または前記S層のすべてが、当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含む、請求項25または26に記載の複合構造体。
【請求項38】
請求項4および25〜37のいずれか1項に記載の複合構造体から形成されるか、もしくは請求項4および25〜37のいずれか1項に記載の複合構造体を含む、物品または製品。
【請求項39】
ヘルスケア、パーソナルケアまたは衛生用の物品または製品である、請求項38に記載の物品または製品。」

第4 特許異議の申立てについて
1.特許権者に通知した取消理由
本件発明に対して、特許権者に通知した取消理由の要旨は以下のとおりである。
本件発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された以下の甲第1号証、甲第2号証及び甲第6号証に係る発明に基いて、本件特許出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:中国特許出願公開第101358410号明細書
甲第2号証:米国特許出願公開第2010/0184348号明細書
甲第6号証:特許第4245970号明細書
(以下、各甲号証を「甲1」等という。)

2.取消理由についての判断
(1)甲1、甲6の記載事項等
ア 甲1の記載事項等(なお、記載は申立人添付の翻訳文を参照した。)
(ア)「5.前記紡糸口金が3〜6個の箱で構成されてスパンボンド/メルトブロー/スパンボンド3層構造を形成し、前記スパンボンド層は、両側の合計が2層〜4層の構造であり、中央の前記メルトブロー層は、2層〜4層の構造である、請求項1に記載の製造方法。」(請求項5)
(イ)「上記の目的を達成するために、本発明のポリプロピレン多層不織布は、ポリプロピレンフィラメントから連続的に構成される第1のスパンボンド不織布ウェブ層および第2のスパンボンド不織布ウェブ層、並びに細菌の侵入防止および通気性を得るための、第1のスパンボンド不織布ウェブ層と第2のスパンボンド不織布ウェブ層との間に挟まれている一つ又は複数の疎水性微細多孔質層である第3のメルトブロー不織布ウェブ層を含み、第1および第2のスパンボンド不織布ウェブ層は、メルトインデックスMFRが20〜80g/10分であるポリプロピレンであり、第3のメルトブロー不織布ウェブ層は、メルトフローインデックスが800〜1300g/10分のポリプロピレンである。」(6頁10〜16行)
(ウ)「本発明の別の態様によれば、上記方法に従って製造された不織布は、医療チーム用の保護服、手術用布、患者用のカーテン、および手術器具などの医療機器用の滅菌布として使用される。」(8頁16〜18行)
(エ)「原料貯蔵タンク10内に貯蔵されたスパンボンドポリプロピレン樹脂は、第1および第2ウェブ層を製造するためのスパンボンドユニットAおよびBの部分のそれぞれの原料を測定する原料測定装置11、11′に移送され、一定量で押出機12、12′に供給される。かつ、着色されたマスターバッチは、他の原材料測定装置にも個別に供給され、押出機12、12′に一定量供給される。主原料と着色マスターバッチを押出機で溶融・混合し、多孔質紡糸口金で紡糸すると20〜30μmの細糸になる。紡糸されたポリマーは、ハニカム形状の焼入れ室14、14′から噴射される冷却空気によって冷却および固化され、上部空気とプラットフォームコンベヤーベルトの下部に吸い込まれた空気圧によって引き伸ばされ、連続的に移動するプラットフォームコンベヤーベルトに一定の重量に応じて積み重ねられる。第1および第2のウェブ層のそれぞれの坪量は、少なくとも約10g/m2、好ましくは10g/m2から30g/m2である。第1ウェブ層および第2ウェブ層の重量が10g/m2未満の場合、中央のメルトブロー層を防護できず、かつ強度が低いため、形態安定性が得られない。一方、第1ウェブ層および第2ウェブ層の重量がそれぞれ30g/m2を超えると、バクテリアやその他の汚染物をブロックする中央のメルトブロー層の総重量が重くなり、手触りが硬くなり、着用感が低下する。スパンボンド不織布ウェブ層の間にポリプロピレン超細繊維からなるメルトブローウェブ層を配置し、圧縮後に3層構造の多層不織布を形成する。外側のスパンボンド層は、不織布を保護し、適当な強度を提供する。中央のメルトブロー層は、バクテリアやその他の汚染物をブロックする。すなわち、別の原料貯蔵タンク(図示せず)に貯蔵されたメルトブローの主原料は、第3ウェブ層を製造するためのメルトブローユニットのC部分の原料を測定する原料測定装置11″に移送され、一定量で押出機12″に供給される。かつ、着色されたマスターバッチを他の原料測定装置にも移され、一定量で押出機12″に供給される。主原料とマスターバッチを押出機で溶融・混合し、多孔質紡糸口金で紡糸し、サイドノズルから排出される高速集中加熱ガス(通常はガス)に遭遇する。この高速加熱ガスは、ミクロポア紡糸を通ったポリマーを延伸させ、延伸したポリマーは、1〜5μmの超微細繊維のメルトブロー層を形成する。この第3のメルトブローウェブ層の坪量は少なくとも5g/m2である。5g/m2未満の場合、厚みが薄くなり、各種バクテリアや汚染物質を完全にブロックすることはできない。図1に示すように第1、第2、および第3のウェブ層を配置するために、図2に示す装置を使用して、スパンボンド/メルトブロー/メルトブローの多層構造複合材料を形成する。ウェブ層に機械的特性と形態安定性を与えるために、熱と圧力が組み合わされる。このとき、カレンダーの片面は接着率10〜30%のエンボスロールで、もう片面は表面が滑らかな直板である。この時のカレンダーの圧力は50〜100dyne/cm、温度は130〜170℃である。そのような形態の織物を製造する場合、各不織布層は互いに熱的に組み合わされて、単一の織物複合材料を形成する。一般に、熱接着は、不織布層を加熱されたカレンダーに通して、内側のメルトブロー層を選択的に溶融して、複合材料の不織布層を形成することである。メルトブロー層の溶融・溶合が不十分な場合、複合材料層間の結合力が弱くなる。さらに、熱結合条件が正しくない場合、熱結合領域が過熱され、内側のメルトブロー層の生物学的バリア特性を破壊する小さな穴が生成される可能性がある。そのため、実際に用いる熱結合条件は、層間結合力が維持される生物学的バリア特性となるよう、接着率、温度、圧力を決める。多層不織布の基本坪量は30〜80gsm、好ましくは40〜70gsmである。基本坪量が30gsm未満の場合、形状安定性と強度が低く、汚染源のブロック効果が低下する。80gsmを越えると、柔軟性とドレープが悪くなり、通気性が低下するだけでなく、経済効果も低下する。」(10頁15行〜12頁5行)
(オ)「また、不織布内部への浸透を容易にするために、浸透剤としてα−フェニル−ω−ヒドロキシポリエチレンオキシド化合物を使用し、固体分基準で、不織布の重量に対して、0.1〜2.0重量%で処理した。浸透剤が0.1重量%未満または2.0重量%を超えると、不織布がタンク液に浸透しにくくなり、多すぎると耐油性能が低下する。タンク液に浸した不織布は、パッド染色機の圧力により、ピックアップ速度を調整する必要があり、上記固形分が不織布に維持されるように、ピックアップ速度の適切な圧力を調整する。不織布を連続移動式熱風乾燥機で乾燥させて、耐油や帯電防止剤の効果を発揮させる場合、熱風乾燥機の温度範囲は130〜150℃である。温度が130℃未満の場合、乾燥が不十分で耐油性が発揮できない。温度が低すぎると生産性が低下する。一方、温度が150℃超の場合、ポリプロピレンの融点の160℃に近づくと、不織布ウェブは熱的に変化し、乾燥機内で溶融したり、表面が変化したりして、非常に硬くなる。このような場合、内側のメルトブロー層はバリアフィルムとしての機能を失い、手術着や生地(ドレープ)類の柔軟性を満足させることができず、着用感が悪い。」(18頁8〜20行)
(カ)「[評価手法]
(1)引張強度:Instronの測定装置を用いて、ASTM D1682−64法によって、クランプ距離は10cmとし、引張速度は500mm/minの条件下で、引張の幅5cm下で、間隔20cmの試験片を引張して、そして、最大荷重の計算を行う。
(2)引張伸長率:(1)の方法で測定された最大引張時の伸長。
(3)目付量(重量:g/m2):ASTM D3776−1985法に従って測定。
(4)内水圧(mmH2O):FTMS−191A−5514低水圧法(水圧60cmH2O)に従って測定。
(5)通気性(cm3/cm2・s):ASTM D737に従って測定。」(18頁24行〜19頁8行)
(キ)「実施例1
本発明の主なスパンボンド材料は、メルトフローインデックス(MFR)が35g/10分のポリプロピレンであり、青色を反映するために、3重量%の高濃度フタロシアニン青色染料のマスターバッチが添加された。主原料とマスターバッチを押出機で溶かして混合し、紡糸口金でフィラメントを形成した後、クーラーで冷却し、コンベヤーベルトの下部は、空気を吸い込んで伸ばすために使用され、第1のスパンボンドウェブ層および第2のスパンボンドウェブ層が、連続的に移動するプラットフォームコンベヤーベルト上にそれぞれ形成された。メルトフローインデックス(MFR)が1000g/10分のポリプロピレンをメルトブローさせ、スパンボンド層と同じように青いマスターバッチを使用した。主原料とマスターバッチを押出機で溶融混合し、多孔質紡糸口金を使用してポリマーを紡糸および延伸し、延伸されたポリマーは、1〜5μmの細い糸でメルトブローウェブ層に形成される。第3のメルトブローウェブ層は2層構造で、2層の坪量は8g/m2である。第1および第2のウェブ層は、少なくとも3層構造を有し、メルトブローウェブ層を含む総重量50g/m2のスパンボンド/メルトブロー/スパンボンド多層不織布ウェブを形成する。このように形成されたウェブは、158℃のエンボスロール、156℃の直板、および78dyne/cmの圧力のカレンダーの条件下で熱的に圧縮されて、形態安定性が与えられた。エンボスロールの接着率は11%だった。スパンボンド/メルトブロー/スパンボンド多層不織布に耐油性および帯電防止性を付与するために、パーフルオロアルキルエチルアクリレートコポリマー(固形分30%)撥油剤とp−トルエンスルホン酸ナトリウム塩(固形分20%)帯電防止剤をそれぞれ、40重量部、10重量部で、および10重量部のα−フェニル−ω−ヒドロキシポリエチレンオキシド化合物(固形分30%)を940重量部の水に混合し、タンク液の連続供給に浸漬し、固形分含有量の基準は、撥油剤1.2重量%、帯電防止剤0.2重量%のOPU(オイル率)だった。不織布は、135℃の連続移動式熱風乾燥機で36秒/m処理し、耐水性、耐油性、帯電防止性に優れた医療用ポリプロピレン不織物を製造した。上記の製造条件と加工条件を表2に、物性を表3に示す。」(20頁9行〜21頁5行)
(ク)「比較例4
実施例1の不織布の主原料の使用条件および製造条件と同じであり、撥油剤および帯電防止処理は行われていない。条件と物性は表2と表3に示す。
。」(21頁22〜24行)
(ケ)「

」(表3)
(コ)上記(ア)〜(ケ)の記載、特に実施例1についての記載から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「第1のスパンボンド不織布ウェブ層と第2のスパンボンド不織布ウェブ層との間に挟まれている第3のメルトブロー不織布ウェブ層を含み、第1のスパンボンド不織布ウェブ層、第2のスパンボンド不織布ウェブ層及び第3のメルトブロー不織布ウェブ層の樹脂はポリプロピレンであり、各不織布層は互いに熱的に組み合わされており、静水頭が540mmH2O、空気透過率が40cm3/cm2/s、MD引張強度が10Kg/5cm、CD引張強度が6Kg/5cm、MD伸長が54%、CD伸長が63%である、ポリプロピレン多層不織布。」
イ 甲6の記載事項等
(ア)「【請求項1】
MFRが20〜70で繊度が0.7〜1.5dtexのポリプロピレンスパンボンド不織布と繊径が1〜3μm、MFRが500以上1300未満であるポリプロピレンメルトブロー不織布とからなり、メルトブロー不織布層がポリプロピレンスパンボンド不織布層により挟み込まれた積層構造体であり、部分的熱圧着で一体化してなるメルトブロー不織布層の目付が1g/m2以上総目付の33%以下で、総目付が8g/m2以上であり、5%モジュラス指数が下記の式(1)に示す範囲を満足する耐水性に優れ、かつ柔らかさを併せ持った耐水性不織布。
5%モジュラス指数≧0.41 ・・・(1)
但し、5%モジュラス指数=5%モジュラス(N/3cm)/目付(g/m2)」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐水性能が要求され、また同時に柔らかさと強度等も要求される分野、例えば衛生材料の表面素材、特に使い捨ておむつのサイドギャザー等において有用なポリプロピレン不織布に関する。」
(ウ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、防水性に優れかつ柔らかさや引張強度も高い不織布を提供することを目的とする。」
(エ)「【0008】
MB不織布の繊径を細くするには、ホール当たり吐出量を少なくする必要があり生産性の低下に繋がる。また、ホットエアー量を増加させねばならず、フライ(糸切れ)の発生など紡糸が不安定となる。逆にMB不織布の繊径が太くなれば、繊維開孔径も増加し耐水性能の低下に繋がるため、MB不織布の繊径範囲としては1〜5μmであり、3μm以下が好ましい。総目付の範囲は8g/m2以上あれば良いが、10〜50g/m2の範囲がより好ましい。MB不織布層の目付は目付が1g/m2以上総目付の33%以下である。MB不織布層の割合を増やせば、MB不織布層自体の耐水性能は向上するが、SB不織布層の目付の低下から5%モジュラス値や強力値が低下するためMB不織布層の形態保持効果が低くなり好ましくない。また、MB不織布層の割合を低くすれば、耐水性能の向上があまり望めず生産性の低下にも繋がるため好ましくない。本発明は、以上のような積層体を構成することにより防水性に優れかつ柔らかさや引張強度も高い不織布を得ることに成功した。」
(オ)「【0009】
【発明の実施の形態】
以下、実施例を挙げて更に説明する。
尚、各特性の評価方法は下記の通りである。
(1)繊度(dtex:フィラメント10000 m長の重量をグラム数で表示)生産された不織布の両端10cmを除き、CD方向に5等分して1cm角の試験片をサンプリングし、顕微鏡で繊維の直径を各50点ずつ測定し、ポリプロピレンの繊維密度を0.91g/cm3 として、その平均値から繊度を算出した(小数点第2位を四捨五入)。測定には、キーエンス社製の高倍率マイクロスコープVH−8000を用いた。
【0010】
(2)MFR(メルトフローレート)
JIS−K−7210「熱可塑性プラスチックの流れ試験方法」の表1の条件14、試験温度230℃、試験荷重21.18Nに準じて測定を行いMFRを求めた。
(3)耐水圧(mb又は100Pa)
生産された不織布の両端10cmを除き、CD方向に5等分、MD方向に3等分して計15点に関して20cm角の試験片をサンプリングし、JIS−L−1092に準じて測定を実施し、その平均値から耐水圧を算出した。
【0011】
(4)毛羽性
生産された不織布の両端10cmを除き、CD方向に5等分してCD、MD方向に25mm×300mmの試験片を採取し、日本学術振興会型の堅牢度試験機を用いて、摩擦子の荷重が200g、摩擦子側には摩擦係数が適当と考えられるリンレイクロス−重梱包用No.314布粘着テープを使用し、50回動作させて以下の基準で毛羽性を等級付け、表裏の平均値により毛羽等級を決定した(小数点第2位で四捨五入)。
1.0級:試験片が破損するほど繊維が剥ぎ取られている。
2.0級:試験片が薄くなるほど甚だしく繊維が剥ぎ取られている。
2.5級:毛玉が大きくはっきり見られ、複数箇所で繊維が浮き上がり始めている。
3.0級:はっきりした毛玉が出来始め、又は小さな毛玉が複数見られる。
3.5級:一箇所に小さな毛玉が出来始める程度に毛羽立っている。4.0級:毛羽立ちがない。
【0012】
(5)5%モジュラス、5%モジュラス指数
生産された不織布の両端10cmを除き、CD方向に5等分、MD方向に3等分して計15点に関してCD、MD方向に3cm×20cmの試験片をサンプリングし、低速伸張試験型の引張試験機に把握長10cmで取付け、引張速度30cm/分で試験片が破断するまで荷重を加える。試験片の5%伸張時の強さの平均値をMD、CD方向で求めた(小数点第2位を四捨五入)。
また、5%モジュラス指数は次の式で求めることが出来る。
5%モジュラス指数=5%モジュラス[N/3cm]/総目付[g/m2]
【0013】
(6)引張強度
生産された不織布の両端10cmを除き、CD方向に5等分、MD方向に3等分して計15点に関してCD、MD方向に3cm×20cmの試験片をサンプリングし、低速伸張試験型の引張試験機に把握長10cmで取付け、引張速度30cm/分で試験片が破断するまで荷重を加える。試験片の最大荷重時の強さの平均値をMD、CD方向で求めた(小数点第2位を四捨五入)。
(7)表面特性
生産された不織布を用いて測定者5人に対し、柔らかさ、ぬめり感、ざらつき感の3項目に関して3段階でランク付け(数値大で良好)を実施し、それぞれの合計ポイントにて評価を実施した(ランク付けは、それぞれの同一目付に対して評価を実施)。
【0014】
【実施例1〜20、比較例1〜14】
MB不織布層の繊度を1.8μm、目付を1g/m2とし、SMS構造体の総目付が13g/m2におけるSB不織布層の繊度を0.9dtex(実施例1)、1.2dtex(実施例2)、1.5dtex(実施例3)、1.7dtex(比較例1)、2.8dtex(比較例2)、また総目付が17g/m2におけるSB不織布層の繊度を0.9dtex(実施例4)、1.2dtex(実施例5)、1.5dtex(実施例6)、1.7dtex(比較例3)、2.8dtex(比較例4)と変化させた。
同様にMB不織布層の目付を2g/m2とし、SMS構造体の総目付が10g/m2におけるSB不織布層の繊度を1.2dtex(実施例7)、また総目付が13g/m2におけるSB不織布層の繊度を0.9dtex(実施例8)、1.2dtex(実施例9)、1.5dtex(実施例10)、1.7dtex(比較例5)、2.8dtex(比較例6)、また総目付が17g/m2におけるSB不織布層の繊度を0.9dtex(実施例11)、1.2dtex(実施例12)、1.5dtex(実施例13)、1.7dtex(比較例7)、2.8dtex(比較例8)、また総目付が40g/m2におけるSB不織布層の繊度を0.9dtex(実施例14)、1.2dtex(実施例15)、1.7dtex(比較例9)、2.8dtex(比較例10)と変化させた。同様に、MB不織布層の目付を4g/m2とし、SMS構造体の総目付が17g/m2におけるSB不織布層の繊度を0.9dtex(実施例16)、1.2dtex(実施例17)、1.5dtex(実施例18)、1.7dtex(比較例11)、2.8dtex(比較例12)、また総目付が50g/m2におけるSB不織布層の繊度を0.9dtex(実施例19)、1.2dtex(実施例20)、1.7dtex(比較例13)、2.8dtex(比較例14)と変化させ、それぞれの毛羽等級が4.0級になるよう圧着温度を調整し採取した布により、強力値、耐水圧及び表面特性を評価した結果を表1、2、3に示す。」
(カ)「【0015】
【表1】


(キ)「【0016】
【表2】


(ク)「【0023】
【発明の効果】
本発明のポリプロピレン不織布は、従来の不織布(SMS)に比べ耐水性が良く、引張強度も大きくまた、柔らかさにも優れており、厚みも薄くなるといった諸特性をバランスよく確保しているため、使い捨てオムツの表面材料、特にサイドギャザーをはじめとして各種用途に好適にかつ経済的に使用でき、また軽量化できることで産廃の削減にもなり環境面においても有用である。」
(ケ)上記(ア)〜(ク)の記載、特に実施例14についての記載から、甲6には、次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認める。
「ポリプロピレンスパンボンド不織布とポリプロピレンメルトブロー不織布とからなり、メルトブロー不織布層がポリプロピレンスパンボンド不織布層により挟み込まれた積層構造体であり、部分的熱圧着で一体化してなり、引張強度が69.6N/3cmである、積層構造体。」

(2)甲1発明に基づく進歩性の判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「第1のスパンボンド不織布ウェブ層」、「第2のスパンボンド不織布ウェブ層」は、いずれも本件発明1の「不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがスパンボンドされており(S)」に相当し、同様に、甲1発明の「第3のメルトブロー不織布ウェブ層」、「各不織布層は互いに熱的に組み合わされて」いること、「ポリプロピレン多層不織布」、「静水頭が540mmH2O」、「空気透過率が40cm3/cm2/s(400l/m2s)」、「MD引張強度が10Kg/5cm(98.1N/5cm)」、「CD引張強度が6Kg/5cm(58.8N/5cm)」、「CD伸長が63%」は、それぞれ請求項1に係る発明の「不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがメルトブローされており(M)」、「互いに接着され」ていること、「各不織布ポリマー層がポリマー樹脂を含み、前記ポリマー樹脂がポリプロピレンを含」む「少なくとも2つの不織布ポリマー層を含む複合構造体」、「400mm〜1000mmの範囲の静水頭」、「400l/m2s〜900l/m2sの範囲の空気透過率」、「95.0N/5cm〜120.0N/5cmの範囲のMD引張強度」、「40.0N/5cm〜60.0N/5cmの範囲のCD引張強度」、「60%〜120%の範囲のCD伸長」に相当する。
そうすると、両発明は、
「互いに接着された少なくとも2つの不織布ポリマー層を含む複合構造体であって、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがスパンボンドされており(S)、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがメルトブローされており(M)、各不織布ポリマー層がポリマー樹脂を含み、前記ポリマー樹脂がポリプロピレンを含み、
(i)400 mm〜1000 mmの範囲の静水頭
(ii)400 l/m2s〜900 l/m2sの範囲の空気透過率
(iii)95.0 N/5cm〜120.0 N/5cmの範囲のMD引張強度
(iv)40.0 N/5cm〜60.0 N/5cmの範囲のCD引張強度
(vi)60%〜120%の範囲のCD伸長
のうちの1つ以上を有する、前記複合構造体。」
である点で一致し、次の点で相違する。
《相違点1》
本件発明1が「S層のうちの少なくとも1つが当該不織布層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み」、「前記無機粒子状充填剤が被覆されて」いるのに対し、甲1発明は、無機粒子状充填剤を備えない点。
(イ)相違点1について検討する。
甲2には、スパンボンド不織布に、被覆された無機充填剤、特に炭酸カルシウムを10質量%〜25質量%含有させることにより、衝撃特性が向上されることが記載されている(甲2の[0078]〜[0081])が、スパンボンド不織布の引張強度、伸長特性を向上させ得るとは記載されていない。
甲1発明に係るポリプロピレン積層不織布においても、不織布を構成するスパンボンド層の引張強度、伸長特性を向上させることは、当然に求められる課題といえるが、引張強度、伸長特性を向上させるために、甲2の上記記載事項を参酌して、甲1発明のスパンボンド層に10質量%〜25質量%の量で被覆された無機粒子状充填剤を含ませることが動機付けられるものではない。
さらに、他の提出された証拠を考慮しても、甲1発明のスパンボンド層に10質量%〜25質量%の量で被覆された無機粒子状充填剤を含ませることが容易に採用し得たということはできない。
したがって、甲1発明において相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえず、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではない。
イ 本件発明4について
本件発明4と甲1発明とを対比する。
本件発明4は、本件発明1の発明特定事項に「1層又は複数の前記M層のそれぞれにおける無機粒子状充填剤の量が、各M層の全質量に対して5質量%未満であり、かつ、該構造体の最外層がS層である」との発明特定事項を付加したものであり、本件発明4の発明特定事項と甲1発明の発明特定事項との間には、上記ア(ア)で述べたと同様の相当関係が成り立つ。
また、甲1発明の「M層」(第3のメルトブロー不織布ウェブ層)は、甲1の記載全体からして「無機粒子状充填剤」が実質的にないものと理解される。
さらに、甲1発明の「S層」(第1のスパンボンド不織布ウェブ層と第2のスパンボンド不織布ウェブ層)は、構造体の「最外層」である。
そうすると、本件発明4と甲1発明の相違点は、本件発明1と甲1発明とを対比した際の相違点1のみであり、その相違点1についての判断は、既に上記ア(イ)で述べたとおりである。
したがって、本件発明4も、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではない。
ウ 本件発明2、3、5〜39について
本件発明2、3、5〜24は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものであり、また、本件発明25〜39は、いずれも、本件発明4の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものである。
そうすると、本件発明2、3、5〜39を甲1発明と対比すると、両者の間には、少なくとも、本件発明1と甲1発明を対比した際の相違点1が存在することになり、そして、その相違点1についての判断は、既に述べたとおりである。
したがって、本件発明2、3、5〜39は、いずれも、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではない。

(3)甲6発明に基づく進歩性の判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明の「ポリプロピレンスパンボンド不織布」、「ポリプロピレンメルトブロー不織布」、ポリプロピレンスパンボンド不織布とポリプロピレンメルトブロー不織布とが「部分的熱圧着で一体化してな」る「積層構造体」は、それぞれ本件発明1の「不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがスパンボンドされており(S)」、「不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがメルトブローされており(M)」、「各不織布ポリマー層がポリマー樹脂を含み、前記ポリマー樹脂がポリプロピレンを含」む「互いに接着された少なくとも2つの不織布ポリマー層を含む複合構造体」に相当する。
また、甲6発明の「69.6N/3cm」は「116N/5cm」であり、請求項1に係る発明の「95.0N/5cm〜120.0N/5cmの範囲のMD引張強度」に相当する。
そうすると、両発明は、
「互いに接着された少なくとも2つの不織布ポリマー層を含む複合構造体であって、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがスパンボンドされており(S)、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがメルトブローされており(M)、各不織布ポリマー層がポリマー樹脂を含み、前記ポリマー樹脂がポリプロピレンを含み、
(iii)95.0 N/5cm〜120.0 N/5cmの範囲のMD引張強度を有する、前記複合構造体。」
である点で一致し、次の点で相違する。
《相違点2》
本件発明1が「S層のうちの少なくとも1つが当該不織布層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み」、「前記無機粒子状充填剤が被覆されて」いるのに対し、甲6発明は、無機粒子状充填剤を備えない点。
(イ)上記相違点2について検討する。
甲6発明に係る積層構造体においても、ポリプロピレンスパンボンド不織布の引張強度、伸長特性を向上させることは、当然に求められる課題といえる。
しかし、既に(2)ア(イ)で述べたように、甲2の上記記載事項は、スパンボンド層への10質量%〜25質量%の量の被覆された無機粒子状充填剤の添加による、引張強度、伸長特性の向上を示唆するものではないから、甲6発明において、あえて甲2記の上記載事項を適用してスパンボンド層に10質量%〜25質量%の量で被覆された無機粒子状充填剤を含ませることを当業者が容易に採用し得たとはいえない。
さらに、他の提出された証拠を考慮しても、甲6発明において、10質量%〜25質量%の量で被覆された無機粒子状充填剤を含ませることが容易に採用し得たということはできない。
したがって、甲6発明において相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえず、本件発明1は、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではない。
イ 本件発明4について
本件発明4と甲6発明を対比する。
本件発明4の発明特定事項と甲6発明の発明特定事項との間には、上記ア(ア)で述べたと同様の相当関係が成り立つ。
そして、甲6発明の「M層」(ポリプロピレンメルトブロー不織布)は、甲6の記載全体からして「無機粒子状充填剤」が実質的にないものと理解される。
また、甲6発明の「S層」(ポリプロピレンスパンボンド不織布)は、構造体の「最外層」である。
そうすると、本件発明4と甲6発明の相違点は、本件発明1と甲6発明とを対比した際の相違点2のみであり、その相違点2についての判断は、既に上記ア(イ)で述べたとおりである。
ウ 本件発明2、3、5〜39について
本件発明2、3、5〜24は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものであり、また、本件発明25〜39は、いずれも、本件発明4の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものである。
そうすると、本件発明2、3、5〜39を甲6発明と対比すると、両者の間には、少なくとも、本件発明1と甲6発明を対比した際の相違点2が存在することになり、そして、その相違点1についての判断は、既に述べたとおりである。
したがって、本件発明2、3、5〜39は、いずれも、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではない。

(4)以上のとおりであるから、本件発明1〜39は、いずれも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
したがって、本件発明1〜39に係る特許は、いずれも、特許法第113条第2号に該当しない。

3.取消理由として通知しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条の2に係る申立理由
ア 申立人は、本件発明は、甲第7号証(特表2015−524360号公報、以下「甲7」という。)を提出し、この甲7に係る外国語特許出願(PCT/US2013/050022(国際公開2014/011839号))に記載された発明と同一である旨主張する。
イ 甲7には、次の「甲7発明」が記載されていると認められる。
「スパンボンド繊維の層を含む不織布基材と、
前記不織布基材の側面に接合されているエラストマー材料と、
を備え、
前記スパンボンド繊維の複数が多成分繊維であり、
前記多成分繊維の各々は、
熱可塑性ポリマーと当該不織布基材の1重量%〜15重量%の割合で当該不織布基材中に存在する無機充填剤とを含む組成物から形成されたコアと、
熱可塑性ポリマーを含むシースと、
を含む、伸縮性積層体であって、
前記不織布基材は、坪量が17gsmのSSMMS不織布基材であって、メルトブロウン繊維にいかなる無機充填剤も含まない約3.0gsmのメルトブロウン層と、組成物の約11.5重量%の炭酸カルシウム又はその他の無機充填剤を含む組成物から形成された約14gsmのスパンボンド層とを含み、SSMMS中の炭酸カルシウム又は無機充填剤の全パーセンテージが約9.5%であり、メルトブロウン繊維及びスパンボンド繊維のいずれも熱可塑性ポリマーを含む、伸縮性基材。」
ウ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲7発明とを対比する。
甲7発明の「SSMMS不織布基材」は、本件発明1の「少なくとも2つの不織布ポリマー層」であって「前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがスパンボンドされており(S)、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがメルトブローされており(M)」との事項に相当する。
甲7発明の「炭酸カルシウム又はその他の無機充填剤」は、本件発明1の「無機粒子状充填剤」に相当し、甲7発明の「組成物の約11.5重量%の炭酸カルシウム又はその他の無機充填剤を含む組成物から形成された約14gsmのスパンボンド層とを含み」との態様は、本件発明1の「前記S層のうちの少なくとも1つが当該不織布層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み」との態様に含まれる。
甲7発明の「メルトブロウン繊維及びスパンボンド繊維のいずれも熱可塑性ポリマーを含」む「不織布基材と、前記不織布基材が当該エラストマー材料の側面に接合されているエラストマー材料と、を備え」る「伸縮性基材」と、本件発明1の「各不織布ポリマー層がポリマー樹脂を含み、前記ポリマー樹脂がポリプロピレンを含」む「互いに接着された少なくとも2つの不織布ポリマー層を含む複合構造体」とは、「ポリマー樹脂を含む不織布ポリマー層を含む積層体」という限りで一致する。
そうすると、両発明は、
「少なくとも2つの不織布ポリマー層を含み、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがスパンボンドされており(S)、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがメルトブローされており(M)、前記S層のうちの少なくとも1つが当該不織布層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含む、ポリマー樹脂を含む不織布ポリマー層を含む積層体。」
である点で一致し、次の点で相違する。
《相違点3》
ポリマー樹脂を含む不織布ポリマー層を含む積層体に関して、本件発明1が「各不織布ポリマー層がポリマー樹脂を含み、前記ポリマー樹脂がポリプロピレンを含」む「互いに接着された少なくとも2つの不織布ポリマー層を含む複合構造体」であるのに対し、甲7発明は「メルトブロウン繊維及びスパンボンド繊維のいずれも熱可塑性ポリマーを含」む「不織布基材と、前記不織布基材が当該エラストマー材料の側面に接合されているエラストマー材料と、を備え」る「伸縮性基材」である点。
《相違点4》
本件発明1の「複合構造体」が「(i)400mm〜1000mmの範囲の静水頭;(ii)400l/m2s〜900l/m2sの範囲の空気透過率;(iii)95.0 N/5cm〜120.0 N/5cmの範囲のMD引張強度;(iv)40.0N/5cm〜60.0N/5cmの範囲のCD引張強度;(v)60%〜120%の範囲のMD伸長;および(vi)60%〜120%の範囲のCD伸長」の物理特性および機械特性のうちの1つ以上を有するとされているのに対し、甲7発明の「伸縮性基材」について、そのように特定されていない点。
(イ)事案に鑑み、相違点4から検討する。
甲7発明の「伸縮性基材」は、不織布基材の側面にるエラストマー材料が接合されるものであり、甲7の【0026】に「用語「伸縮性の」は、偏倚力を加えたときに、完全破断又は破損を起こすことなく、その弛緩した初期長さの少なくとも150%の伸長長さまで延伸できる(すなわち、その初期長さよりも50%延伸し得る)材料を指す。このような伸縮性材料が、印加力を除去した際に、その伸長の少なくとも40%を回復する場合、その伸縮性材料は「エラストマー」とみなされる。例えば、100mmの初期長さを有する伸縮性材料は、少なくとも150mmまで延びる場合があり、力を除去した際に、少なくとも130mmの長さまで戻る(すなわち、40%の回復を示す)。」と記載されているが、「400mm〜1000mmの範囲の静水頭」、「空気透過率」、「MD引張強度」、「CD引張強度」、「MD伸長」、「CD伸長」の値は、いずれも不明であり、相違点4は実質的な相違点である。
(ウ)したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲7発明と同一といえるものではない。
エ 本件発明2〜39について
本件発明4は、既に述べたように、本件発明1に比して本件発明1の発明特定事項に「1層又は複数の前記M層のそれぞれにおける無機粒子状充填剤の量が、各M層の全質量に対して5質量%未満であり、かつ、該構造体の最外層がS層である」との発明特定事項を付加したものである。
そして、本件発明2、3、5〜24は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものであり、また、本件発明25〜39は、いずれも、本件発明4の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものである。
そうすると、本件発明2〜39を甲7発明と対比すると、両者の間には、少なくとも上記相違点4が存在することになり、そして、その相違点4についての判断は、既に述べたとおりである。
したがって、本件発明2〜39は、いずれも、甲7発明と同一ではない。
オ よって、申立人の特許法第29条の2に係る申立理由には理由がない。

(2)特許法第36条第6項第1号に係る申立理由
ア 申立人は、以下の(ア)〜(ウ)の理由を申立てている。
(ア)本件発明1は、スパンボンド(S)層及びメルトブロー(M)層の両方に充填剤を含む態様を含んでおり、課題を解決することができない。
(イ)本件発明1は、スパンボンド層の少なくともメルトブロー層との熱による接着を行わない箇所にのみ充填剤が配置される態様も含んでおり、課題を解決することができない。
(ウ)本件発明1は、スパンボンド層のうち無機粒子状充填剤を含まない層を有する態様を含んでおり、この態様では無機粒子状充填剤を含まないスパンボンド層とメルトブロー層との接着は従来と同様のメルトブロー分解温度以上で行う必要があり、課題を解決することができない。
イ 本件発明1の解決しようとする課題は、「バリア性能に悪影響を与えることなく不織布材料の強度を増加させること」(本件特許明細書等の段落【0003】)にあると理解できる。
そして、本件特許明細書等の「複合構造体、例えば、S層に無機粒子状充填剤を組み込むことによって、M層バリア性能に悪影響を与えることなく複合体の強度を増加させることが可能になることを見出した。これは、医療製品、例えば、ドレープまたはガウンの強度が医療従事者および患者の安全性に直接的に相関する医療/ヘルスケア用途において、とりわけ重要である。理論に拘束されることを望まないが、無機粒子状充填剤のバージンポリマー樹脂、例えば、ポリプロピレンよりも高い熱伝導率がより低い最適接着温度を可能にし、これにより、通常のM分解温度未満の温度で接着が生じるようになると思われる。」(同【0039】)、「各製品を、上記で記載された試験方法に従って、HSH、空気透過率、MD引張強度および伸長、ならびにCD引張強度および伸長について試験した。結果を図3〜5(54gsm製品について)および図6〜8(34gsm製品について)まとめる。データからわかるように、S層への充填剤の添加により、MDとCDの両方における引張強度が向上する。HSHの低下によって引張強度の増加は得られなくなると予測されていたので、これは驚くべき結果である。」(同【0058】)等の記載からみて、その課題は、スパンボンド(S)層への無機粒子状充填剤の含有により解決し得ると認識できるものである。
ウ そうすると、申立人が主張する上記ア(ア)〜(ウ)の主張は、いずれも採用することはできず、申立人の特許法第36条第6項第1号に係る申立理由には理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1〜39に係る特許は、特許権者に通知した取消理由及び特許異議申立理由によって、取消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜39に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接着された少なくとも2つの不織布ポリマー層を含む複合構造体であって、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがスパンボンドされており(S)、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがメルトブローされており(M)、前記S層のうちの少なくとも1つが当該不織布層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み、各不織布ポリマー層がポリマー樹脂を含み、前記ポリマー樹脂がポリプロピレンを含み、前記無機粒子状充填剤が被覆されており、該複合構造体が、以下の物理特性および機械特性:
(i)400mm〜1000mmの範囲の静水頭;
(ii)400 l/m2s〜900 l/m2sの範囲の空気透過率;
(iii)95.0N/5cm〜120.0N/5cmの範囲のMD引張強度;
(iv)40.0N/5cm〜60.0N/5cmの範囲のCD引張強度;
(v)60%〜120%の範囲のMD伸長;および
(vi)60%〜120%の範囲のCD伸長
のうちの1つ以上を有する、前記複合構造体。
【請求項2】
互いに接着された少なくとも3つの不織布ポリマー層を含む、請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
1層又は複数のM層のそれぞれが、無機粒子状充填剤を含有していない、請求項1又は2に記載の複合構造体。
【請求項4】
互いに接着された少なくとも2つの不織布ポリマー層を含む複合構造体であって、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがスパンボンドされており(S)、前記不織布ポリマー層のうちの少なくとも1つがメルトブローされており(M)、前記S層のうちの少なくとも1つが当該不織布層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み、各不織布ポリマー層がポリマー樹脂を含み、前記ポリマー樹脂がポリプロピレンを含み、前記無機粒子状充填剤が被覆されており、該複合構造体が、以下の物理特性および機械特性:
(i)400mm〜1000mmの範囲の静水頭;
(ii)400 l/m2s〜900 l/m2sの範囲の空気透過率;
(iii)95.0N/5cm〜120.0N/5cmの範囲のMD引張強度;
(iv)40.0N/5cm〜60.0N/5cmの範囲のCD引張強度;
(v)60%〜120%の範囲のMD伸長;および
(vi)60%〜120%の範囲のCD伸長
のうちの1つ以上を有し、
1層又は複数の前記M層のそれぞれにおける無機粒子状充填剤の量が、各M層の全質量に対して5質量%未満であり、かつ
該構造体の最外層がS層である、前記複合構造体。
【請求項5】
S−M−S層構造、またはS−M−M−S層構造、またはS−M−M−M−S層構造、またはS−M−M−M−M−S層構造を有し、前記S層の両方が、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み、前記M層のうちの1つ以上またはすべてが、無機粒子状充填剤を実質的に含有していなくてもよい、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項6】
S−S−M−S層構造、またはS−S−M−S−S層構造、またはS−S−M−M−S層構造、またはS−S−M−M−S−S層構造、またはS−S−M−M−M−S層構造、またはS−S−M−M−M−S−S層構造、またはS−S−M−M−M−M−S層構造、またはS−S−M−M−M−M−M−S−S層構造を有し、(i)最外S層の両方が、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含むか、または(ii)前記S層のすべてが、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み、(i)または(ii)において、前記M層のうちの1つ以上またはすべてが、無機粒子状充填剤を実質的に含有していなくてもよい、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項7】
前記M層のすべてが、それぞれ、各M層の全質量に対して15質量%未満の無機粒子状充填剤を含むか、または各M層が無機粒子状充填剤を実質的に含有しない、請求項2、3、5および6のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項8】
10〜100gsmの坪量を有する、請求項1〜3および5〜7のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項9】
以下の物理特性および機械特性:
(i)10.0未満のHSH(mm)/MD引張強度(N/5cm)の比;
(ii)17.0未満のHSH(mm)/CD引張強度(N/5cm)の比;
(iii)12.0未満のHSH(mm)/MD伸長(%)の比;および
(iv)12.0未満のHSH(mm)/CD伸長(%)の比
のうちの1つ以上を有する、請求項1〜3および5〜8のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項10】
前記無機粒子状材料が、アルカリ土類金属炭酸塩もしくは硫酸塩、加水カンダイトクレー、無水(か焼)カンダイトクレー、ウォラストナイト、ボーキサイト、タルク、マイカ、パーライトもしくは珪藻土、または水酸化マグネシウム、またはアルミニウム三水和物、またはこれらの組合せから選択される、請求項1〜3および5〜9のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項11】
前記無機粒子状材料が、アルカリ土類金属炭酸塩である、請求項10に記載の複合構造体。
【請求項12】
前記無機粒子状材料の炭酸塩が、0.1μm〜10μmのd50を有する炭酸カルシウムである、請求項11に記載の複合構造体。
【請求項13】
前記無機粒子状炭酸塩が15μm以下のトップカットを有する炭酸カルシウムである、請求項11または12に記載の複合構造体。
【請求項14】
前記無機粒子状材料が、1種以上の脂肪酸またはその塩もしくはエステルで被覆されている、請求項1〜3および5〜13のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項15】
前記ポリマー樹脂がポリプロピレンである、請求項1〜3および5〜14のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項16】
前記S層のうちの少なくとも1つが当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含む、請求項1〜3および5〜15のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項17】
前記最外S層のうちの少なくとも1つまたは両方が、当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含むか、または前記S層のすべてが、当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含む、請求項5または6に記載の複合構造体。
【請求項18】
請求項1〜3および5〜17のいずれか1項に記載の複合構造体から形成されるか、もしくは請求項1〜3および5〜17のいずれか1項に記載の複合構造体を含む、物品または製品。
【請求項19】
ヘルスケア、パーソナルケアまたは衛生用の物品または製品である、請求項18に記載の物品または製品。
【請求項20】
請求項1に記載の複合構造体を調製するための方法であって、少なくとも2つの不織布ポリマー層を互いに接着させることを含み、前記S層のうちの少なくとも1つが当該不織布層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含む、方法。
【請求項21】
スパンボンドされている少なくとも1つの不織布ポリマー層を調製するまたは得ること、およびメルトブローされている少なくとも1つの不織布ポリマー層を調製するまたは得ること、および前記少なくとも1つのスパンボンド層と前記少なくとも1つのメルトブロー層とを互いに接着させて前記複合構造体を形成することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記不織布層を互いに接着させることが、熱の適用下で該層をプレスすることを含み、接着中の最大温度が145.0℃〜148.0℃の間であってもよい、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
(i)前記複合構造体を物品もしくは製品に組み込みこと、または(ii)前記複合構造体から物品もしくは製品を形成することをさらに含み、前記物品または製品がヘルスケア、パーソナルケアまたは衛生用の物品または製品であってもよい、請求項20〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記S層のうちの少なくとも1つが当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含む、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
S−M−S層構造、またはS−M−M−S層構造、またはS−M−M−M−S層構造、またはS−M−M−M−M−S層構造を有し、前記S層の両方が、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み、前記M層のうちの1つ以上またはすべてが、無機粒子状充填剤を実質的に含有していなくてもよい、請求項4に記載の複合構造体。
【請求項26】
S−S−M−S層構造、またはS−S−M−S−S層構造、またはS−S−M−M−S層構造、またはS−S−M−M−S−S層構造、またはS−S−M−M−M−S層構造、またはS−S−M−M−M−S−S層構造、またはS−S−M−M−M−M−S層構造、またはS−S−M−M−M−M−M−S−S層構造を有し、(i)最外S層の両方が、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含むか、または(ii)前記S層のすべてが、当該層の10質量%〜25質量%の量で無機粒子状充填剤を含み、(i)または(ii)において、前記M層のうちの1つ以上またはすべてが、無機粒子状充填剤を実質的に含有していなくてもよい、請求項4に記載の複合構造体。
【請求項27】
各M層が無機粒子状充填剤を実質的に含有しない、請求項4、25および26のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項28】
10〜100gsmの坪量を有する、請求項4および25〜27のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項29】
以下の物理特性および機械特性:
(i)10.0未満のHSH(mm)/MD引張強度(N/5cm)の比;
(ii)17.0未満のHSH(mm)/CD引張強度(N/5cm)の比;
(iii)12.0未満のHSH(mm)/MD伸長(%)の比;および
(iv)12.0未満のHSH(mm)/CD伸長(%)の比
のうちの1つ以上を有する、請求項4および25〜28のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項30】
前記無機粒子状材料が、アルカリ土類金属炭酸塩もしくは硫酸塩、加水カンダイトクレー、無水(か焼)カンダイトクレー、ウォラストナイト、ボーキサイト、タルク、マイカ、パーライトもしくは珪藻土、または水酸化マグネシウム、またはアルミニウム三水和物、またはこれらの組合せから選択される、請求項4および25〜29のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項31】
前記無機粒子状材料が、アルカリ土類金属炭酸塩である、請求項30に記載の複合構造体。
【請求項32】
前記無機粒子状材料の炭酸塩が、0.1μm〜10μmのd50を有する炭酸カルシウムである、請求項31に記載の複合構造体。
【請求項33】
前記無機粒子状炭酸塩が15μm以下のトップカットを有する炭酸カルシウムである、請求項31または32に記載の複合構造体。
【請求項34】
前記無機粒子状材料が、1種以上の脂肪酸またはその塩もしくはエステルで被覆されている、請求項4および25〜33のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項35】
前記ポリマー樹脂がポリプロピレンである、請求項4および25〜34のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項36】
前記S層のうちの少なくとも1つが当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含む、請求項4および25〜35のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項37】
前記最外S層のうちの少なくとも1つまたは両方が、当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含むか、または前記S層のすべてが、当該層の10質量%〜18質量%の量で無機粒子状充填剤を含む、請求項25または26に記載の複合構造体。
【請求項38】
請求項4および25〜37のいずれか1項に記載の複合構造体から形成されるか、もしくは請求項4および25〜37のいずれか1項に記載の複合構造体を含む、物品または製品。
【請求項39】
ヘルスケア、パーソナルケアまたは衛生用の物品または製品である、請求項38に記載の物品または製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-04-26 
出願番号 P2019-106882
審決分類 P 1 651・ 16- YAA (D06M)
P 1 651・ 537- YAA (D06M)
P 1 651・ 121- YAA (D06M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 藤井 眞吾
井上 茂夫
登録日 2020-08-20 
登録番号 6752331
権利者 イメリーズ ミネラルズ リミテッド
発明の名称 複合構造体  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 山崎 一夫  
代理人 須田 洋之  
代理人 山崎 一夫  
代理人 服部 博信  
代理人 服部 博信  
代理人 志村 将  
代理人 市川 さつき  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 志村 将  
代理人 須田 洋之  
代理人 市川 さつき  

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