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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1386110
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-06 
確定日 2022-04-13 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6764913号発明「ロキソプロフェンを含有する医薬組成物<参>」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6764913号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。 特許第6764913号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
(1)特許第6764913号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願(特願2018−198865号)は、平成25年3月29日(優先権主張 平成24年3月29日 平成25年2月25日)を出願日とする特願2013−70954号の一部を、平成29年5月12日に新たな出願(特願2017−95262号)とし、更にその一部を平成30年10月23日に新たに出願したものであり、令和2年9月16日にその特許権の設定登録がされ、令和2年10月7日に特許掲載公報が発行された。
その後、請求項1〜4に係る特許について、令和3年4月6日に特許異議申立人井上憲介(以下「申立人A」という。)及び特許異議申立人ジュネスプロパティーズ株式会社(以下「申立人C」という。)により、また、同年4月7日に特許異議申立人安藤宏(以下「申立人B」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされた。
その後の主な手続は、以下のとおりである。

令和3年 8月 3日付け 取消理由通知書
同年12月 6日 訂正請求書及び意見書(特許権者)の提出
令和4年 2月 3日 意見書(申立人A、B及びC)の提出

(2)上記手続において提出された証拠方法は、以下のとおりである(以下、申立人Aが提出した甲第1号証を「甲A1」などという)。

甲A1:分析・試験報告書,株式会社住化分析センター愛媛ラボラトリー,2021年3月23日作成
甲A2(甲C14):高分子化学,1959,Vol.16,No.170,p.376-380
甲A3:医薬品添加物辞典,株式会社薬事日報社,2007,p.82-83,242-243,275
甲A4(甲C17):本件特許の原出願(特願2017−95262号)の審査過程で提出された意見書(平成30年4月9日受付)
甲A5:特開2011−173944号公報
甲B1:医薬品インタビューフォーム 経皮吸収型鎮痛・抗炎症剤 ロキソプロフェン(R)ゲル1%,製造販売元:第一三共会社,2010年10月改訂(第3版)
(当審注:(R)は○の中にRである。以下同様。)
甲B2:日薬理誌,1994,Vol.104,p.433-446
甲B3:OCTハンドブック2008-09 本編,株式会社学術情報流通センター,2008年7月18日,p.586-587
甲B4:OTC医薬品事典2010〜'11(一般用医薬品集 第12版),株式会社じほう,p.402-415
甲B5:製剤機械技術ハンドブック[第2版],株式会社地人書館,2010年10月30日,p.652-659
甲B6(乙10):新化粧品ハンドブック,日光ケミカルズ株式会社,日本サーファクタント工業株式会社,東色ピグメント株式会社,株式会社コスモステクニカルセンター,株式会社ニコダームリサーチ,平成18年10月30日,p.95-99
甲B7:実際調剤学,株式会社南山堂,1982年10月1日,p.291
甲B8:色材,1993,Vol.66,No.6,p.371-379
甲B9:特開平5−105628号公報
甲B10:臨床医薬,2006,Vol.22,No.3,p.179-186
甲B11:「世界のウェブアーカイブ|国立国会図書館インターネット資料収集保存事業」,[online],2011年8月25日,[2021年3月18日検索],「ゴーセノール」(日本合成化学)のウェブサイト,インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20110825105255/http://www.gohsenol.com/doc/spcl/spcl_01/spcl_08.shtml>
甲B12:特開2011−173944号公報
甲B13:試験報告書(試験番号NDR-0008494,NDR-0008499),株式会社ニコダームリサーチ,2021年3月29日作成
甲B14:最終報告書(試験番号210273),株式会社ケー・エー・シー バイオサイエンス事業部,2021年3月31日作成
甲C1:日本接着学会誌,2013,Vol.49,No.12,p.454-462
甲C2:日本ゴム協会誌,2006,Vol.79,No.2,p.67-72
甲C3:Journal of Drug Delivery,2012,Article ID 750891,10pages,doi:10.1155/2012/750891
甲C4:日本化学会誌,1974,No.6,p.1134-1137
甲C5:日本化学会誌,1984,No.4,p.616-623
甲C6:特開平7−81216号公報
甲C7:特開2004−83462号公報
甲C8:分析報告書 件名:薬品試験3 管理No.202102230031,JAPAN TESTING LABORATORIES株式会社,2021年3月31日作成
甲C9:分析報告書 件名:薬品試験1 管理No.202102230031,JAPAN TESTING LABORATORIES株式会社,2021年3月31日作成
甲C10:試験報告書 第21024891001-0101号,一般財団法人日本食品分析センター,2021年3月31日作成
甲C11:改訂 医薬品添加物ハンドブック,株式会社薬事日報社,2007年2月28日,p.891〜893
甲C12:「世界のウェブアーカイブ|国立国会図書館インターネット資料収集保存事業」,[online]、2011年12月24日,「ゴーセノール」(日本合成化学)のウェブサイト,インターネット<http://www.gohsenol.com/doc/spcl/spcl_01/spcl_08.shtml>
甲C13:分析報告書 件名:薬品試験2 管理No.202102230031,JAPAN TESTING LABORATORIES株式会社,2021年3月31日作成
甲C14(甲A2):高分子化学,1959,Vol.16,No.170,p.376-380
甲C15:油化学,1965,Vol.14,No.5,p.247-249
甲C16:油化学,1984,Vol.33,No.3,p.156-161
甲C17(甲A4):本件特許の原出願(特願2017−95262号)の審査過程で提出された意見書(平成30年4月9日受付)
<以上、申立人A〜Cが特許異議申立書とともに提出>

甲B15(甲C18):特開2001−199883号公報
甲B16:再公表特許WO2009/075324
甲B17:特開平11−199520号公報
甲C18(甲B15):特開2001−199883号公報
<以上、申立人B及びCが意見書とともに提出>

乙1:特開平1−294620号公報
乙2:特開平8−231393号公報
乙3:特開平8−268892号公報
乙4:特開2003−146904号公報
乙5:再公表特許WO2003/82334
乙6:特開2008−231041号公報
乙7:特開2011−201914号公報
乙8:特表2006−502185号公報
乙9:国際公開第2010/70705号
乙10(甲B6):新化粧品ハンドブック,平成18年10月30日,日光ケミカルズ株式会社,日本サーファクタント工業株式会社,東色ピグメント株式会社,株式会社コスモステクニカルセンター,株式会社ニコダームリサーチ,p.95-98
乙11:医薬品添加物事典2007,株式会社薬事日報社,2007年7月25日,p.275
乙12:実験成績証明書,2021年12月1日作成,興和株式会社 富士研究所製剤研究部セルフケアグループ 小林裕明
<以上、特許権者が意見書とともに提出>

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年12月6日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正しようとするものであって、その内容は、以下のとおりである(なお、訂正箇所には当審が下線を付した。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「半固形状又は液状の医薬組成物」と記載されているのを、「半固形状又は液状の含水医薬組成物」と訂正する。
請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2〜4も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「含水組成物である、」と記載されているのを、「ノナン酸バニリルアミド及びカプサイシンをいずれも含有しない組成物である、」と訂正する。

なお、訂正前の請求項1〜4は、請求項2〜4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1〜4について請求されている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の「本発明の医薬組成物は、半固形又は液状の組成物であるのが好ましく、含水組成物(…)であるのがより好ましい」(【0054】)との記載に基づいて、訂正前の請求項1における「半固形状又は液状の医薬組成物」を、「含水」であるものに限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2は、訂正前の請求項4における「含水組成物」を、「ノナン酸バニリルアミド及びカプサイシンをいずれも含有しない」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、本件明細書には、「本発明の医薬組成物には、医薬成分として、ロキソプロフェン又はその塩、テルペン類、及び相互作用抑制成分以外の薬物、例えば、…、温感成分、…等からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでいてもよい」(【0056】)、「温感成分としては、例えば、ノナン酸バニリルアミド、カプサイシン、トウガラシ等が挙げられる」(【0059】)と記載され、ノナン酸バニリルアミド及びカプサイシンは、いずれも必須の成分ではなく、両成分を含有しない製造例(【0075】製造例1、【0077】製造例3)が記載されている。
したがって、訂正事項1は、新規事項を追加するものではない。

(3)申立人の主張について
申立人Aは、本件明細書の【0056】及び【0056】、並びに、それ以外のいずれの箇所にも、訂正事項2による下記技術的事項は開示されていないから、訂正事項2は、新たな技術的事項の導入に当たり、訂正事項2は、認められない旨を主張する。
「次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)ロキソプロフェン又はその塩
(B)メントール
(C)プロピレングリコール
を含有し、クロタミトンを含まないものである、半固形状又は液状の含水医薬組成物(但し、貼付剤を除く)
が、ロキソプロフェン又はその塩とテルペン類との相互作用を抑制できるという作用・効果を奏する。」

しかしながら、上記(2)に説示したとおり、本件明細書には、ノナン酸バニリルアミド及びカプサイシンをいずれも含有しない製造例が記載されているのであるから、「ノナン酸バニリルアミド及びカプサイシンをいずれも含有しない」ものに限定する訂正事項2は、新たな技術的事項を導入するものではない。
また、申立人Aが指摘する上記技術的事項は、後記第4の2に説示した内容を踏まえれば、本件明細書に記載されていたものといえるから、この点においても新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、申立人Aの上記主張を採用しない。

(4)独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条第7項に規定する要件(独立特許要件)は課されない。

3 本件訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ー4〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の本件特許に係る発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1〜4に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」等という。)。

「【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)ロキソプロフェン又はその塩
(B)メントール
(C)プロピレングリコール
を含有し、クロタミトンを含まないものである、半固形状又は液状の含水医薬組成物(但し、貼付剤を除く)。
【請求項2】
剤形がリニメント剤、ローション剤、外用エアゾール剤、軟膏剤、クリーム剤又はゲル剤である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
剤形がローション剤である、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
ノナン酸バニリルアミド及びカプサイシンをいずれも含有しない組成物である、請求項1〜3のいずれか1項記載の医薬組成物。」

第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1〜4に係る特許に対して、当審が令和3年8月3日に特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。取消理由で引用された甲号証は、上記第1(2)で掲載したものである。

(取消理由1:サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の請求項1〜4の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(取消理由2:実施可能要件)本件特許は、請求項1〜4に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(取消理由3:進歩性)本件特許の請求項1〜4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲B9に記載された発明及び甲B10に記載された事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 取消理由1(サポート要件)について
(1)特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
ア 【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ロキソプロフェン又はその塩と、l−メントールなどを包含するテルペン類との間に、保存安定性に影響を与えるような相互作用が生じるか否かについては、知られていない。
そこで、本発明者らは、まず、ロキソプロフェン又はその塩と種々の成分の保存安定性について検討したところ、ロキソプロフェン又はその塩と、l−メントールなどを包含するテルペン類とを含有する組成物を調製すると、意外にも、これらの成分の間に相互作用が生じ、安定性に問題が生じ得ることを見出した。
【0006】
従って、本発明の課題は、ロキソプロフェン又はその塩と上記テルペン類との間の相互作用が抑制された医薬組成物を提供することである。

イ 【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、この問題を解決すべくさらに検討したところ、ロキソプロフェン又はその塩及びテルペン類に、さらに下記の(C−1)、(C−2)のうちいずれか:
【0008】
(C−1)クロルフェニラミン又はその塩などを包含する、下記一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
[式(1)中、Xは単結合又は酸素原子を示し、Yはメチン基又は窒素原子を示し、R1は水素原子、水酸基又はアルキル基を示し、R2は置換基を有してもよい環状アミノ基、又は置換基を有してもよいアミノアルキル基を示し、R3は水素原子又はハロゲン原子を示す。]
で表される化合物又はその塩
(C−2)多価アルコール
(なお、本明細書において、上記(C−1)及び(C−2)から選ばれる成分の1種以上を「相互作用抑制成分」と称することがある。)
を共存せしめることにより、相互作用を抑制することができることを見出し、本発明を完成した。

ウ 【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ロキソプロフェン又はその塩とテルペン類との相互作用を抑制できる。従って、保存安定性が優れた、ロキソプロフェン又はその塩、及びテルペン類を含有する医薬組成物を提供することができる。
また、複雑な工程を経ることなく、簡便かつ安価に、ロキソプロフェン又はその塩、及びテルペン類を含有する、相互作用が抑制された医薬組成物を提供することができる。

エ 【発明を実施するための形態】
【0017】
<成分(B)>
本発明において、「テルペン類」は特に限定されるものでなく、環式又は鎖式の、モノテルペンやセスキテルペン等が挙げられる。
斯様なテルペン類としては、具体的には例えば、イソボルネオール、…ボルネオール、ミルセン、メントール、メントン、ヨノール、ヨノン、リナロール、リモネン等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。…l−メントール、dl−カンフルが特に好ましい。

【0046】
<成分(C−2)>
本発明において、「多価アルコール」とは、同一分子内に水酸基を2個以上有するアルコールを意味し、具体的には例えば、プロピレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、マクロゴール等が挙げられる。多価アルコールとしては、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0047】
本発明の医薬組成物における多価アルコールの合計含有量は特に限定されず、相互作用の抑制の観点から適宜検討して決定すればよい。本発明においては、相互作用抑制作用の観点から、多価アルコールを医薬組成物全質量に対して5〜80質量%含有するのが好ましく、10〜70質量%含有するのがより好ましく、20〜60質量%含有するのが特に好ましい。
【0048】
本発明の医薬組成物に含まれるロキソプロフェン又はその塩、及び多価アルコールの含有比は特に限定されず、相互作用の抑制の観点から適宜検討して決定すればよいが、相互作用抑制作用の観点から、ロキソプロフェン又はその塩をロキソプロフェン無水物換算で1質量部に対し、多価アルコールを合計で0.1〜80質量部含有するものが好ましく、0.5〜70質量部含有するものがより好ましく、1〜60質量部含有するものが特に好ましい。
【0049】
本発明において、多価アルコールとしては、ポリビニルアルコールが好ましい。「ポリビニルアルコール」は、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られる重合物であり、公知の方法で製造することができ、また、市販品を用いることもできる。ポリビニルアルコールの原料となる酢酸ビニルの重合度は適宜調整することができ、また、けん化度も適宜調整することができる。

【0054】
また、別の観点から、本発明の医薬組成物は、半固形又は液状の組成物であるのが好ましく、含水組成物(より詳細には、組成物中に水を1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、特に好ましくは10〜80質量%含有する組成物)であるのがより好ましい。後記実施例に具体的に開示の通り、相互作用抑制成分が、溶液中におけるロキソプロフェン又はその塩とテルペン類との間の相互作用を抑制することが確認されている。

【0068】
本発明の医薬組成物は、NSAIDの一種であるロキソプロフェン又はその塩を含有することから、医療用医薬品やOTC医薬品として用いることができ、具体的には例えば、変形性関節症、筋肉痛及び外傷後の腫脹・疼痛から選ばれる疾患並びに症状の消炎・鎮痛等の効能又は効果を有し、鎮痛・抗炎症剤等として有用である。

オ 【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
[試験例1]ロキソプロフェンナトリウム水和物とl−メントールの相互作用の検討 その1
ブリトン−ロビンソン広域緩衝液(Buritton Robinson’s Buffer)(pH7.0)と無水エタノールを等量混合して得た混液に、表1記載の各成分を同表記載の濃度(w/w%)となるよう溶解せしめた後、希塩酸又は10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.0に調整して、各サンプル溶液を調製した。得られた各サンプル溶液は、それぞれ10mlずつ、ガラス瓶(10K規格瓶)に充填した。
相互作用の有無は、得られた各サンプル溶液の調製直後(調製の1時間後)の外観を目視により評価することで判定した。なお、外観が澄明であったものを○、不溶物の生成が認められたものを×とした。
結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1記載の試験結果から明らかな通り、ロキソプロフェンナトリウム水和物、l−メントールそれぞれ単独で含有するサンプル溶液(参考例1及び2)は澄明な外観を呈したにも拘わらず、ロキソプロフェンナトリウム水和物とl−メントールを共に含有するサンプル溶液(比較例1)では不溶物の生成が認められ、両成分の間に相互作用が確認された。
一方、ロキソプロフェンナトリウム水和物、l−メントールに、さらにクロルフェニラミンマレイン酸塩を含有する実施例1のサンプル溶液においては、参考例1、2と同様、澄明な外観を呈することが明らかとなった。なお、実施例1のサンプル溶液を25℃で1週間保存した後も、澄明な外観を維持していた。
以上の試験結果から、クロルフェニラミン又はその塩を包含する上記一般式(1)で表される化合物又はその塩が、ロキソプロフェン又はその塩とテルペン類との相互作用を抑制する作用を有することが明らかとなった。
【0072】
[試験例2]ロキソプロフェンナトリウム水和物とl−メントールの相互作用の検討 その2
マレイン酸クロルフェニラミンをポリビニルアルコール(部分けん化物:商品名 ゴーセノールEG−05(日本合成化学工業製))に変更したほかは試験例1と同様の方法により、相互作用を検討した。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表2記載の試験結果から明らかな通り、ポリビニルアルコールを含有する実施例2のサンプル溶液も、上記実施例1のサンプル溶液と同様、澄明な外観を呈することが明らかとなった。なお、実施例2のサンプル溶液を25℃で1週間保存した後も、澄明な外観を維持していた。
以上の試験結果から、多価アルコールは、ロキソプロフェン又はその塩とテルペン類との相互作用を抑制する作用を有することが明らかとなった。
【0075】
製造例1(ゲル剤)
常法により、100mg中に以下の成分を含有するゲル剤を製造した。
ロキソプロフェンナトリウム水和物 1.13mg
l−メントール 3mg
クロルフェニラミンマレイン酸塩 0.1mg
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 1mg
カルボキシビニルポリマー 1.2mg
1,3−ブチレングリコール 5mg
トリエタノールアミン 1.5mg
エタノール 20mg
精製水 全量100mg

【0077】
製造例3(ゲル剤)
常法により、100mg中に以下の成分を含有するゲル剤(ゲルクリーム剤)を製造した。
ロキソプロフェンナトリウム水和物 1.13mg
l−メントール 2mg
ポリビニルアルコール 0.2mg
サリチル酸グリコールエステル 2mg
カルボキシビニルポリマー 1mg
グリセリン 10mg
オクチルドデカノール 10mg
モノステアリン酸グリセリン 0.5mg
ステアリン酸ポリオキシル 0.5mg
ミリスチン酸イソプロピル 5mg
ラウロマクロゴール 1.5mg
トリエタノールアミン 1mg
精製水 全量100mg

(3)本件発明1〜4が解決しようとする課題
本件特許の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載によれば、本発明者らは、ロキソプロフェン又はその塩と、l−メントールなどを包含するテルペン類とを含有する組成物を調製すると、意外にも、これらの成分の間に相互作用が生じ、安定性に問題が生じ得ることを見出したことから、「ロキソプロフェン又はその塩とメントールとの間の相互作用が抑制された医薬組成物を提供すること」が、本件発明1〜4が解決しようとする課題(以下「発明の課題」という。)であり(【0006】)、その課題を解決する手段は、医薬組成物において、多価アルコールであるプロピレングリコールを共存させることであると解される(特許請求の範囲、【0007】〜【0010】、【0046】〜【0048】)。
そして、試験例1及び2においては、上記相互作用が抑制されたか否かを、サンプル溶液調製の1時間後の不溶物の生成の有無(×:不溶物の生成が認められたもの。○:外観が澄明であったもの。)で評価していることから(【0069】〜【0074】)、発明の課題における「相互作用が抑制された」とは、具体的には、不溶物の生成が生じないことであるといえる。

(4)発明の課題が解決できると認識できる範囲について
ア 発明の詳細な説明には、相互作用抑制のために「多価アルコール」を用いることが記載され、「『多価アルコール』とは、同一分子内に水酸基を2個以上有するアルコールを意味し、具体的には例えば、プロピレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、マクロゴール等が挙げられる。多価アルコールとしては、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、ジプロピレングリコール、ポリビニルアルコールが好ましい。」(【0046】)と記載されている。
そして、試験例2において、ブリトン−ロビンソン広域緩衝液と無水エタノールを等量混合して得た混液に、ロキソプロフェンナトリウム水和物とl−メントールを添加した「比較例1」のサンプル溶液は、1時間後には不溶物の生成があったところ、更にゴーセノールEG−05(日本合成化学工業製)であるポリビニルアルコール(部分ケン化物)を添加した「実施例2」のサンプル溶液においては、1時間後には不溶物は生成されず澄明な外観を呈したことが記載され、「なお、…25℃で1週間保存した後も、澄明な外観を維持していた」ことも記載されている(【0069】〜【0074】)。

イ 上記アのとおり、「多価アルコール」のうち、不溶物が生成しないことを確認しているのは、部分ケン化ポリビニルアルコールだけであるものの、プロピレングリコールと部分ケン化ポリビニルアルコールとは、ともに「多価アルコール」という一群の化合物に分類されるものであるから、プロピレングリコールを用いた場合にも、部分ケン化ポリビニルアルコールと同様に、ロキソプロフェン又はその塩とメントールとの間の相互作用を抑制できることを、当業者は理解できる。

ウ 他方、部分ケン化ポリビニルアルコールとプロピレングリコールとは、多価アルコールであるという点では共通するものの、その具体的な構造のみならず、溶解性、界面活性作用、不溶物の可溶化能等の点で相違するものであることは、本件特許の出願時には、当業者の技術常識となっていた(甲C11:892頁左欄3〜7行、甲C12:「ゴーセノール(R)EGの溶解パターン」の欄、甲C1:454頁左欄1〜4行、甲C2:69頁左欄末行〜右欄2行、甲C3:5頁Table3、甲C4:1134頁要約1〜2行、甲C5:618頁左欄下から2〜1行、Fig.2、甲C6:【0021】、甲C5:618頁左欄下から2〜1行、Fig.2、621頁右欄下から4行〜622行左欄1行、甲C6:【0021】、甲C16:157頁右欄下から6〜4行、Fig.1。)。
しかしながら、発明の詳細な説明には、多価アルコールによる、ロキソプロフェン又はその塩とメントールとの間の相互作用抑制は、多価アルコールの溶解性、界面活性作用又は不溶物の可溶化能が発揮されたことによるものであると記載されているわけではないこと、及び、部分ケン化ポリビニルアルコールとは構造が大きく異なる「クロルフェニラミンマレイン酸塩」を用いた場合(試験例1の実施例1)によっても相互作用が抑制されることが示されていることを考慮すると、部分ケン化ポリビニルアルコールとプロピレングリコールとが、構造が相違し、溶解性、界面活性作用又は不溶物の可溶化能の点でも相違することをもって、プロピレングリコールを用いた場合は、上記相互作用を抑制できないと当業者が理解したとはいえない。

エ なお、特許権者が、本件特許の原出願(特願2017−95262号)の審査経過における意見書(平成30年4月9日受付)において、多価アルコールのうち「グリセリン」を用いた場合は、サンプル溶液は調製から1時間後は澄明であるが、1日間保存すると不溶物が生成するという実験結果を示し(甲A4(甲C17))、本件特許の審査経過における意見書(令和2年3月25日受付)において、「プロピレングリコール」を用いた場合は、サンプル溶液は調製から1時間後だけでなく1週間保存後も澄明であり、不溶物は生成しなかったとの実験結果を示している。
上記(2)のとおり、発明の詳細な説明の試験例2においては、相互作用が抑制されたか否かを、サンプル溶液調製の1時間後の不溶物の生成の有無で評価しており、「グリセリン」又は「プロピレングリコール」を用いた場合は、サンプル溶液調製の1時間後の不溶物は生じなかったのであるから、発明の課題が解決できたものと理解することができる。

(5)したがって、本件発明1〜4は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、発明の詳細な説明の記載により、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。

(6)申立人の主張について
ア 申立人A〜Cは、ブリトン−ロビンソン広域緩衝液と無水エタノールとを等量混合して得た混液を用い、かつ、特に加熱して温度を上昇させたことについて記載されていない実施例2において、部分ケン化ポリビニルアルコールを添加しても澄明であるということは、以下の(i)〜(iii)の技術常識とは整合せず、当業者であれば試験例2の結果には疑義を抱くから、試験例2の結果から、当業者は、本件発明1〜4が発明の課題を解決できると認識できない旨を主張し、さらに、複数の第三者が、試験例2の再現実験を行ったところ、不溶物が生成してしまい、実施例2の「外観が澄明であった」という結果が再現できなかったこと(甲A1、甲B13、甲B14、甲C9、甲C10)を示している。

(i)部分けん化ポリビニルアルコールは、エタノールにはわずかにしか溶解せず、水には80〜90℃の高温で攪拌することによって溶解すること(甲A5、甲C11、甲C12)
(ii)エタノールはポリビニルアルコールの沈殿剤であり、アルコールの添加量が10重量%を超えると、ポリビニルアルコールの水に対する分散性が低下すること(甲A2(甲C14)、甲A5)
(iii)ポリビニルアルコールは、ブリトンーロビンソン広域緩衝液に含まれているホウ酸が存在するとゲル化すること(甲C11)

しかしながら、上記(i)のとおり、部分けん化ポリビニルアルコールは、水には80〜90℃の高温で攪拌することによって溶解することが技術常識なのであるから、発明の詳細な説明の試験例2において加熱することが記載されていなくても、加熱によって溶解を試みることは、当業者であれば当然行うことといえ、その際に、メントールやエタノール等がある程度揮発するとしても、その揮発量も考慮して組成を調整することは、当業者が通常行う事項の範囲内のことといえる。
そして、特許権者は、実験成績証明書(乙12)において、実施例2のサンプル溶液を65℃程度に加温し攪拌すると、10分後にサンプル溶液の成分は目視で完全に溶解し、25℃で1週間保存した後も不溶物の生成が認められなかったことを示している。
したがって、上記(i)〜(iii)の技術常識、及び、実施例2に加熱することが記載されていなかったことを考慮しても、当業者が実施例2を再現できないものと判断したとはいえないから、申立人A〜Cの上記主張は採用できない。

イ 申立人B及びCは、当業者が、ロキソプロフェンの塩とl−メントールとの併用により、「これらの成分の間に相互作用が生じ、安定性に問題が生じ得る」とは考えられない旨を主張し、申立人Cは、実施例2において用いられた「ブリトンーロビンソン広域緩衝液と無水エタノールを等量混合して得た混液」以外の溶媒(「精製水と無水エタノールを等量混合した混液」)を用いた場合には、ロキソプロフェンナトリウム水和物とl−メントールとを併用しても、そもそも不溶物は生成しないから(甲B13、甲B14、甲C9、甲C10)、溶媒が特定されていない本件発明1〜4は、課題を生じない範囲を包含しているから、課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えたものである旨を主張する。

しかしながら、溶媒の種類によって、ロキソプロフェンとl−メントールとを併用した場合における不溶物の有無が異なるとしても、本件発明1〜4は、プロパノールを存在させることによって、ロキソプロフェンとl−メントールとの相互作用が生じる場合には、その相互作用を抑制できると評価できるものであるから、本件発明1〜4は、当業者が課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えたものであるということはできないから、申立人B及びCの主張は採用できない。

ウ 申立人Cは、本件発明1の課題は、ロキソプロフェン又はその塩とメントールとの相互作用を抑制することであり、透明(澄明)な外観を呈させることではないところ、実施例2では、単に、部分けん化ポリビニルアルコールの界面活性作用によって不溶物が単に可溶化された状態になっているとも解すことができ、また、ロキソプロフェンとl−メントールを共存させて両者の相互作用により生じることが周知であるロキソプロフェンーl−メントールエステル(甲C7:【0009】【0024】)は溶媒によっては可溶化され、不溶物を生じず透明な外観を呈することもあることから(甲C8)、実施例2からは、ロキソプロフェンナトリウム水和物とl−メントールとの相互作用を抑制できているとまでは認識できない旨を主張する。

しかしながら、上記(2)に説示したとおり、発明の詳細な説明の記載によれば、発明の課題における「相互作用が抑制された」とは、具体的には、不溶物の生成が生じないことであると解されるから、あらゆる相互作用を抑制することが発明の課題であるとまでは理解できず、不溶物の生成が生じるような相互作用を抑制することが発明の課題であると理解するのが相当であるから、申立人Cの主張は採用できない。

(7)小括
以上によれば、当業者は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、発明の詳細な説明の記載により、本件発明1〜4は、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、取消理由1によって、本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由2(実施可能要件)について
(1)発明の詳細な説明の記載が、本願発明1〜4について実施可能要件を満たすというためには、本件特許の出願時の技術常識に照らし、発明の詳細な説明の記載により、本件発明1〜4が医薬組成物として使用できることを、当業者が理解できることが必要である。

(2)本件発明1〜4は、NSAIDの一種であるロキソプロフェン又はその塩を含有することから、鎮痛・抗炎症剤等の医薬組成物として有用である(【0006】)。
また、上記2において説示した内容を踏まえれば、本件発明1〜4は、ロキソプロフェン又はその塩とメントールとの相互作用を抑制でき、より保存安定性に優れる医薬組成物として使用できることを当業者は理解することができる。

(3)小括
以上によれば、当業者は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、発明の詳細な説明の記載により、本件発明1〜4を医薬組成物として使用できることを当業者が理解できるから、取消理由2により、本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。

4 取消理由3(進歩性)について
(1)甲B9発明
ア 甲B9には、以下のとおりの記載がある。
(ア)【請求項1】 インドメタシン、ケトプロフェン及びフルルビプロフェンから選ばれる少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤を0.1〜5.0重量%とカプサイシン及び/またはノニル酸バニリルアミドを0.001〜0.1重量%含有することを特徴とする外用消炎鎮痛剤。

(イ)【0005】
【発明が解決するための課題】本発明は、インドメタシン、ケトプロフェン及びフルルビプロフェンからえらばれる少なくとも1種の成分の血液、筋肉及び関節液中への移行を促進することにより、これらの薬物の効果を改善した外用消炎鎮痛剤を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、インドメタシン、ケトプロフェン及びフルルビプロフェンからえらばれる少なくとも1種の成分の血液、筋肉及び関節液中への移行を促進すべく鋭意探求した結果、インドメタシン、ケトプロフェン及びフルルビプロフェンからえらばれる少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤0.1〜5.0重量%に対してカプサイシン及び/またはノニル酸バニリルアミドを0.001〜0.1重量%配合することにより、上記目的が達成しうることを見いだした。

(ウ)【0015】
【表1】



【0016】
【表2】


イ 上記アの甲B9の記載事項(特に、表1の本発明品1〜3、表2の本発明4〜5)によれば、甲B9には、次の発明(以下「甲B9発明」という。)が記載されていると認められる。

「インドメタシン、ケトプロフェン又はフルルビプロフェンである非ステロイド性抗炎症剤を有効成分とする、以下の(1)又は(2)である外用消炎鎮痛剤。
(1)前記有効成分、l−メントール、ノニル酸バニリルアミド、アジピン酸ジイソプロピル、プロピレングリコール、ラウロマクグロール、精製水及びイソプロパノールからなる、液剤。
(2)前記有効成分、l−メントール、カプサイシン、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、エデト酸ナトリウム、トリエタノールアミン、精製水及びエタノールからなる、ゲル軟膏。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲B9発明とを対比する。
甲B9発明の「インドメタシン、ケトプロフェン又はフルルビプロフェンである非ステロイド性抗炎症剤」と本件発明1の「ロキソプロフェン又はその塩」とは、本件明細書【0002】の記載によれば、「非ステロイド性消炎鎮痛成分」である限りにおいて一致する。
甲B9発明の「l−メントール」、「ゲル軟膏」、「液剤」は、それぞれ本件発明1の「メントール」、「半固形状」、「液状」に相当し、また、甲B9発明は、本件発明1の「但し、貼付剤を除く」という発明特定事項を備えている。
甲B9発明の「外用消炎鎮痛剤」は、精製水を含み、かつ、クロタミトンを含まないから、本件発明1の「クロタミトンを含まないものである」「含水医薬組成物」に相当する。
本件発明1は、(A)〜(C)成分以外の成分の有無や種類を特定しないものであるから、甲B9発明が、ノニル酸バニリルアミド等の成分を含むことは、相違点とはならない。
そうすると、本件発明1と甲B9発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)非ステロイド性消炎鎮痛成分
(B)メントール
(C)プロピレングリコール
を含有し、クロタミトンを含まないものである、半固形状又は液状の含水医薬組成物(但し、貼付剤を除く)。」
<相違点>
非ステロイド性消炎鎮痛成分が、本件発明1においては、「ロキソプロフェン又はその塩」であるのに対し、甲B9発明においては、「インドメタシン、ケトプロフェン及びフルルビプロフェンである非ステロイド性抗炎症剤」である点。

イ 相違点について
(ア)本件発明1は、ロキソプロフェン又はその塩と、l−メントールなどを包含するテルペン類とを含有する組成物を調製すると、意外にも、これらの成分の間に相互作用が生じ、安定性に問題が生じ得ることを見出し、その相互作用を抑制するために、プロピレングリコールを含有させたものである。
(イ)他方、甲B9発明は、「インドメタシン、ケトプロフェン又はフルルビプロフェンである非ステロイド性抗炎症剤」を含むものであって、ロキソプロフェン又はその塩を含まないから、甲B9の記載に接した当業者は、ロキソプロフェン又はその塩とl−メントールとが相互作用すること、また、その相互作用をプロピレングリコールにより抑制できることを当業者が予測し得たとはいえない。
そうすると、ロキソプロフェンが、特に鎮痛作用が著しく強い抗炎症薬物で、インドメタシン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン等を含む既存の製剤と同程度もしくはそれ以上の効果を示すことが知られた薬剤である(甲B10:180頁左欄1〜20行、186頁左欄1行〜下から6行)ものの、当業者が、ロキソプロフェン又はその塩とメントールとの相互作用を抑制し保存安定性に優れたものとするために、イソプロピルアルコールとl−メントールを含む甲B9発明において、「インドメタシン、ケトプロフェン又はフルルビプロフェンである非ステロイド性抗炎症剤」に代えて、ロキソプロフェン又はその塩を採用することを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ 効果について
本件発明1は、プロピレングリコールにより、ロキソプロフェン又はその塩とメントールとの相互作用を抑制し保存安定性に優れたものとするという、甲B9や甲B10の記載から当業者が予測できない特有の効果を奏する。

エ したがって、本件発明1は、甲B9に記載された発明及び甲B10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1の発明特定事項を全て包含するものであるから、本件発明2〜4はと甲B9発明とは、少なくとも、上記(2)に説示した相違点において相違する。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2〜4も、甲B9に記載された発明及び甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)申立人の主張について
申立人Bは、甲B発明において、「インドメタシン、ケトプロフェン又はフルルビプロフェン」を「ロキソプロフェン又はその塩」に変更したとしても、ロキソプロフェンとメントールとのエステル化による不溶物の生成が想定されるとは、本件優先日当時の当業者は考えないし、本件明細書でも、「意外にも、これらの成分の間に相互作用が生じ、安定性に問題が生じることを見出した。」(【0005】)と認めているから、甲B9発明において、「インドメタシン、ケトプロフェン又はフルルビプロフェン」に代えて「ロキソプロフェン又はその塩」を採用して、本件発明1とすることは、当業者が容易に着想し得たことである旨を主張する。

しかしながら、上記(2)ウに説示したとおり、本件発明1は、甲B9及び甲B10の記載から当業者が予測できない特有の効果を奏し、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、申立人Bの主張を採用しない。

(5)小括
以上によれば、本件発明1〜4は、甲B9に記載された発明及び甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1〜4に係る特許は、取消理由3によって取り消すことはできない。

第5 取消理由として採用しなかった異議申立理由について
1 申立理由1(申立人Aが主張する理由:特許法第29条第1項柱書)について
(1)申立理由1の概要
本件明細書の試験例2の比較例1において、「ブリトン−ロビンソン広域緩衝液」の代わりに水を含む溶液を用いると、ポリビニルアルコールを加えなくてもロキソプロフェンナトリウム水和物とl−メントールとの相互作用による不溶物は生じなかったところ(甲A1)、本件発明1〜4は、「ブリトンーロビンソン広域緩衝液」を構成要件としていないし、「ブリトンーロビンソン広域緩衝液」が共存しない医薬組成物ではロキソプロフェンナトリウム水和物とl−メントールとの相互作用による不溶物が生じないのであり、これらの相互作用はプロピレングリコールと機能的又は作用的に関連しておらず、本件発明1〜4は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではなく、「発明」には該当しない。

(2)判断
本件発明1〜4は、NSAIDの一種であるロキソプロフェン又はその塩を含有し、変形性関節症等の疾患や症状の消炎・鎮痛に有効な医薬組成物として好適に利用できるものであるから(【0083】)、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であり、「発明」に該当する。
申立人Aの上記主張は、本件明細書に記載された発明の課題とその解決手段とが機能的又は作用的に関連していないことを主張するものであって、本件発明1〜4に係る医薬組成物自体が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではないことをいうものではない。

(3)小括
以上によれば、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件に違反してされたものではないから、申立理由1によって取り消すことはできない。

2 申立理由2(申立人Bが主張する理由:特許法第29条第2項)について
(1)申立理由2の概要
本件発明1〜4は、甲B1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)判断
ア 甲B1発明
(ア)甲B1は、「経皮吸収型鎮痛・抗炎症剤 ロキソニン(R)ゲル1%」の医薬品インタビューフォームであり、甲B1の製剤に関する項目(5頁)には、以下の記載がある。


そうすると、甲B1には、次の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されていると認められる。

「有効成分であるロキソプロフェンナトリウム水和物を1.13%含有する、ゲル状の軟膏剤。」

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲B1発明とを対比すると、一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「次の成分(A):
(A)ロキソプロフェン又はその塩
を含有し、クロタミトンを含まないものである、半固形状又は液状の医薬組成物(但し、貼付剤を除く)。」
<相違点>
本件発明1は、メントール及びプロピレングリコールを含み、かつ、水を含む(含水)ものであるのに対し、甲B1発明は、対応する事項が特定されていない点。

(イ)判断
a 相違点について
l−メントールは、軟膏も含め様々な外用剤において、他の有効成分と併用される汎用の皮膚刺激剤であり(甲B2〜甲B5)、プロピレングリコールも、種々の外用剤で用いられる汎用性の高い溶解剤あるいは溶解補助剤である(甲B5〜甲B8)。
しかながら、ロキソプロフェンナトリウム水和物を含有するゲル状の軟膏剤である甲B1発明において、汎用の皮膚刺激剤であるl−メントールを必要に応じて添加し、水を成分の一部として含む含水組成物とするとしても、、その際に、ロキソプロフェンナトリウム水和物とl−メントールとが相互作用して不溶物を生成する場合があることを認識し、その相互作用を抑制するために溶解剤あるいは溶解補助剤の中からプロピレングリコールを選択して用いることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

b 効果について
本件発明1は、プロピレングリコールにより、ロキソプロフェン又はその塩とメントールとの相互作用を抑制し保存安定性に優れたものとするという、甲B1の記載から当業者が予測できない特有の効果を奏する。

(ウ)したがって、本件発明1は、甲B1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1の発明特定事項を全て包含するものであるから、本件発明2〜4と甲B1発明とは、少なくとも上記イ(ア)に説示した相違点において相違する。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2〜4も、甲B1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 申立人の主張について
申立人Bは、仮に、ロキソプロフェンの塩とl−メントールとを併用すると、通常、「これらの成分の間に相互作用が生じ、安定性に問題が生じ得る」ものであり、プロピレングリコ−ルを添加したときに、はじめて安定性の問題が生じないのであれば、本件発明1〜4は、新たな知見に基づくものであり、進歩性を有するものであるとの主張も一応成立するといえるが、ブリトン−ロビンソン広域緩衝液を使用しないときには不溶物は生成せず、課題が存在しないので、新規な課題を解決するものではなく、本件発明1〜4は進歩性を有しない旨を主張する。

しかしながら、溶媒の種類によって、ロキソプロフェンの塩とl−メントールとを併用した場合における不溶物の有無が異なるとしても、本件発明1〜4は、プロパノールを存在させることにより、溶媒の種類によって相互作用が生じる場合には、ロキソプロフェン又はその塩とl−メントールとの相互作用が抑制でき不溶物が生じないと評価できるものであり、特有の効果を奏するから、本件発明1〜4は進歩性を有するものであり、申立人Bの主張は採用しない。

(3)小括
以上によれば、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由2によって取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、その他の請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)ロキソプロフェン又はその塩
(B)メントール
(C)プロピレングリコール
を含有し、クロタミトンを含まないものである、半固形状又は液状の含水医薬組成物(但し、貼付剤を除く)。
【請求項2】
剤形がリニメント剤、ローション剤、外用エアゾール剤、軟膏剤、クリーム剤又はゲル剤である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
剤形がローション剤である、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
ノナン酸バニリルアミド及びカプサイシンをいずれも含有しない組成物である、請求項1〜3のいずれか1項記載の医薬組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-04-01 
出願番号 P2018-198865
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 前田 佳与子
特許庁審判官 藤原 浩子
原田 隆興
登録日 2020-09-16 
登録番号 6764913
権利者 興和株式会社
発明の名称 ロキソプロフェンを含有する医薬組成物<参>  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
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