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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  E21D
審判 全部申し立て 2項進歩性  E21D
管理番号 1386112
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-23 
確定日 2022-04-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6784239号発明「切羽評価支援システム、切羽評価支援方法及び切羽評価支援プログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6784239号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5〕、6、7について訂正することを認める。 特許第6784239号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6784239号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成29年7月24日に出願され、令和2年10月27日にその特許権の設定登録がされ、同年11月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年4月23日に特許異議申立人 田中 みずほ(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年9月10日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年11月10日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)をし、本件訂正請求に対して、申立人は、同年12月23日(受付)に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所)。
(1)訂正事項1
願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載を
「坑内観察における切羽についてサイズが一定値の撮影画像を基準画素数で分割して生成した学習用分割画像を入力層に用い、前記切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により前記観察項目毎に生成した学習結果を記憶する学習結果記憶部と、
入力部と出力部とに接続された制御部とを備えた切羽評価支援システムであって、
前記制御部が、
前記入力部から取得した切羽の撮像画像から切羽部分を切り出して、評価対象の切羽画像を取得し、
前記切羽画像のサイズを前記一定値に調整して、前記切羽画像の評価領域を、前記基準画素数で分割し、
前記観察項目毎に、前記分割した評価対象分割画像に前記学習結果を適用して、前記評価対象分割画像の個別評価区分を取得し、
前記評価対象分割画像の個別評価区分に基づいて、前記観察項目毎に前記評価領域の評価区分を予測し、前記出力部に出力するとともに、
前記観察項目に割目間隔および割目状態の少なくとも一方を含むことを特徴とする切羽評価支援システム。」
に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2から5も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
願書に添付した特許請求の範囲の請求項6の記載を
「坑内観察における切羽についてサイズが一定値の撮影画像を基準画素数で分割して生成した学習用分割画像を入力層に用い、前記切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により前記観察項目毎に生成した学習結果を記憶する学習結果記憶部と、
入力部と出力部とに接続された制御部とを備えた切羽評価支援システムを用いて、切羽評価支援を行なう方法であって、
前記制御部が、
前記入力部から取得した切羽の撮像画像から切羽部分を切り出して、評価対象の切羽画像を取得し、
前記切羽画像のサイズを前記一定値に調整して、前記切羽画像の評価領域を、前記基準画素数で分割し、
前記観察項目毎に、前記分割した評価対象分割画像に前記学習結果を適用して、前記評価対象分割画像の個別評価区分を取得し、
前記評価対象分割画像の個別評価区分に基づいて、前記観察項目毎に前記評価領域の評価区分を予測し、前記出力部に出力するとともに、
前記観察項目に割目間隔および割目状態の少なくとも一方を含むことを特徴とする切羽評価支援方法。」
に訂正する。

(3)訂正事項3
願書に添付した特許請求の範囲の請求項7の記載を
「坑内観察における切羽についてサイズが一定値の撮影画像を基準画素数で分割して生成した学習用分割画像を入力層に用い、前記切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により前記観察項目毎に生成した学習結果を記憶する学習結果記憶部と、
入力部と出力部とに接続された制御部とを備えた切羽評価支援システムを用いて、切羽評価支援を行なうためのプログラムであって、
前記制御部を、
前記入力部から取得した切羽の撮像画像から切羽部分を切り出して、評価対象の切羽画像を取得し、
前記切羽画像のサイズを前記一定値に調整して、前記切羽画像の評価領域を、前記基準画素数で分割し、
前記観察項目毎に、前記分割した評価対象分割画像に前記学習結果を適用して、前記評価対象分割画像の個別評価区分を取得し、
前記評価対象分割画像の個別評価区分に基づいて、前記観察項目毎に前記評価領域の評価区分を予測し、前記出力部に出力する手段として機能させるとともに、
前記観察項目に割目間隔および割目状態の少なくとも一方を含むことを特徴とする切羽評価支援プログラム。」
に訂正する。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項2〜5は請求項1を直接又は間接的に請求項1を引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1〜5に対応する訂正後の請求項1〜5は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。訂正事項2、3は、それぞれ訂正前の独立請求項6、7についてするものである。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1〜5〕、6、7に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
以下、訂正事項1〜3について、訂正の適否について検討する。なお、本件においては、訂正前の全ての請求項について特許異議申立ての対象とされているので、全ての訂正事項について特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法126条7項の独立特許要件は課されない。
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前に「坑内観察における切羽の撮影画像」についてサイズに関する特定がなかったのを、「坑内観察における切羽についてサイズが一定値の撮影画像」と特定し、訂正前に「機械学習により生成した学習結果」について観察項目との関係が特定されていなかったのを、「機械学習により前記観察項目毎に生成した学習結果」と特定し、訂正前に「切羽の撮像画像から切羽部分を切り出して」「取得し」た「評価対象の切羽画像」についてサイズに関する特定がなかったのを、「前記切羽画像のサイズを前記一定値に調整して、」との特定を追加することで、上記「坑内観察における切羽の撮影画像」と同じサイズ(「一定値」)とすることを特定し、訂正前に「前記分割した評価対象分割画像に前記学習結果を適用」する際及び「前記評価領域の評価区分を予測」する際の観察項目との関係が特定されていなかったのを、「前記観察項目毎に、前記分割した評価対象分割画像に前記学習結果を適用」し、「前記観察項目毎に前記評価領域の評価区分を予測」するものであることを特定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 「坑内観察における切羽についてサイズが一定値の撮影画像」とする訂正は、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面と併せて「本件明細書等」という。)の段落【0027】の「次に、評価支援装置20の制御部21は、切羽画像サイズの統一処理を実行する(ステップS1−2)。具体的には、制御部21の画像加工部211は、取得した教師データ220の切羽画像のサイズが一定値になるように調整する。」との記載に基づくものといえる。
「前記切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により前記観察項目毎に生成した学習結果」とする訂正は、本件明細書の段落【0023】の「学習結果記憶部23には、観察項目(風化変質、割目間隔、割目状態)に応じた学習結果が記録される。」、段落【0032】の「次に、評価支援装置20の制御部21は、観察項目(風化変質、割目間隔、割目状態)毎に、以下の処理を繰り返す。ここでは、評価支援装置20の制御部21は、深層学習処理を実行する(ステップS1−7)。具体的には、・・・この分割画像に関連付けられた評価区分を出力層に用いて深層学習を行なうことにより、各観察項目についての学習結果を算出する。」との記載に基づくものといえる。
「前記切羽画像のサイズを前記一定値に調整して、」を追加する訂正は、本件明細書の段落【0027】の「次に、評価支援装置20の制御部21は、切羽画像サイズの統一処理を実行する(ステップS1−2)。具体的には、制御部21の画像加工部211は、取得した教師データ220の切羽画像のサイズが一定値になるように調整する。」、段落【0034】の「次に、評価支援装置20の制御部21は、ステップS1−2・・・と同様に、切羽画像サイズの統一処理(ステップS2−2)・・・を実行する。」との記載に基づくものといえる。
「前記観察項目毎に、前記分割した評価対象分割画像に前記学習結果を適用して、」とする訂正は、本件明細書の段落【0035】の「次に、評価支援装置20の制御部21は、観察項目毎に以下の処理を繰り返す。まず、評価支援装置20の制御部21は、観察項目の評価に用いる学習結果の特定処理を実行する(ステップS2−6)。具体的には、制御部21の予測部214は、学習結果記憶部23から、観察項目(風化変質、割目間隔、割目状態)に応じた学習結果を取得する。」、段落【0036】の「そして、3領域毎に、各領域に含まれる評価対象分割画像を順次、処理対象画像として特定し、以下の処理を繰り返す。・・・以上のようにして、処理対象領域に含まれるすべての分割画像についての評価区分を予測する。」との記載に基づくものといえる。
「前記観察項目毎に前記評価領域の評価区分を予測し、」とする訂正は、本件明細書の段落【0038】の「具体的には、制御部21の評価支援部213は、各領域について算出した評価区分に対して、予め定められた重み付けを行ない、各観察項目についての切羽評価点を算出する。」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1と同様の訂正をするものであるから、上記(1)で示したのと同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1と同様の訂正をするものであるから、上記(1)で示したのと同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5〕、6、7について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1〜7に係る発明(以下「本件発明1」などととい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
坑内観察における切羽についてサイズが一定値の撮影画像を基準画素数で分割して生成した学習用分割画像を入力層に用い、前記切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により前記観察項目毎に生成した学習結果を記憶する学習結果記憶部と、
入力部と出力部とに接続された制御部とを備えた切羽評価支援システムであって、
前記制御部が、
前記入力部から取得した切羽の撮像画像から切羽部分を切り出して、評価対象の切羽画像を取得し、
前記切羽画像のサイズを前記一定値に調整して、前記切羽画像の評価領域を、前記基準画素数で分割し、
前記観察項目毎に、前記分割した評価対象分割画像に前記学習結果を適用して、前記評価対象分割画像の個別評価区分を取得し、
前記評価対象分割画像の個別評価区分に基づいて、前記観察項目毎に前記評価領域の評価区分を予測し、前記出力部に出力するとともに、
前記観察項目に割目間隔および割目状態の少なくとも一方を含むことを特徴とする切羽評価支援システム。
【請求項2】
前記制御部が、
坑内観察における切羽の撮影画像を取得し、前記撮影画像を前記基準画素数で分割した学習用分割画像を生成し、
前記学習用分割画像を入力層に用い、前記切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により学習結果を生成し、前記学習結果記憶部に記録する請求項1に記載の切羽評価支援システム。
【請求項3】
前記観察項目に風化変質をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の切羽評価支援システム。
【請求項4】
前記評価領域には、切羽の天端、右肩部、左肩部の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の切羽評価支援システム。
【請求項5】
前記制御部が、評価対象の切羽画像の分割画像について予測した評価区分を、前記分割画像の配置に対応させて表示したヒートマップを生成し、前記出力部に出力することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の切羽評価支援システム。
【請求項6】
坑内観察における切羽についてサイズが一定値の撮影画像を基準画素数で分割して生成した学習用分割画像を入力層に用い、前記切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により前記観察項目毎に生成した学習結果を記憶する学習結果記憶部と、
入力部と出力部とに接続された制御部とを備えた切羽評価支援システムを用いて、切羽評価支援を行なう方法であって、
前記制御部が、
前記入力部から取得した切羽の撮像画像から切羽部分を切り出して、評価対象の切羽画像を取得し、
前記切羽画像のサイズを前記一定値に調整して、前記切羽画像の評価領域を、前記基準画素数で分割し、
前記観察項目毎に、前記分割した評価対象分割画像に前記学習結果を適用して、前記評価対象分割画像の個別評価区分を取得し、
前記評価対象分割画像の個別評価区分に基づいて、前記観察項目毎に前記評価領域の評価区分を予測し、前記出力部に出力するとともに、
前記観察項目に割目間隔および割目状態の少なくとも一方を含むことを特徴とする切羽評価支援方法。
【請求項7】
坑内観察における切羽についてサイズが一定値の撮影画像を基準画素数で分割して生成した学習用分割画像を入力層に用い、前記切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により前記観察項目毎に生成した学習結果を記憶する学習結果記憶部と、
入力部と出力部とに接続された制御部とを備えた切羽評価支援システムを用いて、切羽評価支援を行なうためのプログラムであって、
前記制御部を、
前記入力部から取得した切羽の撮像画像から切羽部分を切り出して、評価対象の切羽画像を取得し、
前記切羽画像のサイズを前記一定値に調整して、前記切羽画像の評価領域を、前記基準画素数で分割し、
前記観察項目毎に、前記分割した評価対象分割画像に前記学習結果を適用して、前記評価対象分割画像の個別評価区分を取得し、
前記評価対象分割画像の個別評価区分に基づいて、前記観察項目毎に前記評価領域の評価区分を予測し、前記出力部に出力する手段として機能させるとともに、
前記観察項目に割目間隔および割目状態の少なくとも一方を含むことを特徴とする切羽評価支援プログラム。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1〜7に係る特許に対して、当審が令和3年9月10日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

・理由1(実施可能要件違反)
本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
具体的には、本件訂正請求による訂正前の請求項1ないし7に係る発明において、機械学習による学習結果を適用して予測する観察項目は、風化変質、割目間隔、割目状態であるところ、例えば、227ピクセル×227ピクセルの分割画像及び各画素の色データ(RGB)という単一の基準画素数の分割画像データによって、割れ目の間隔や割れ目の状態、風化変質の状態など観察評価するべき範囲が異なると認められる複数の観察項目について識別して、切羽評価支援に役立てる程度に機械学習し得るのかについて十分に記載されているとは言い難いものと認められる。

2 当審の判断
(1)訂正後の本件発明1は、「坑内観察における切羽についてサイズが一定値の撮影画像を基準画素数で分割して生成した」「分割画像」を「学習用」「画像」として入力層に用い、「切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により前記観察項目毎に生成した学習結果」を用いて切羽評価を行うという構成を含んでいる。
「学習処理」については、本件明細書の段落【0026】以下に記載があり、取得した教師データの切羽画像のサイズが一定値になるように調整した切羽画像からパターン認識により「切羽部分」を切り出し、3領域分割処理により、天端画像、左肩部画像、右肩部画像を取得し、続いて、各画像をそれぞれ所定の基準画素数の領域に分割した学習用分割画像を生成し(段落【0027】〜【0030】)、各分割画像に対して、この分割画像を切り出した領域(天端、左肩部、右肩部)に基づいて、教師データに記録されている評価区分(風化変質、割目間隔、割目状態)を取得して、各分割画像に関連付けてメモリに仮記憶し、次に、観察項目毎に、メモリに仮記憶した分割画像を入力層として用い、この分割画像に関連付けられた評価区分を出力層に用いて深層学習を行なうことにより、各観察項目についての学習結果を算出し、観察項目毎に生成した学習結果を記録することが記載されている(段落【0031】、【0032】)。
そして、評価支援処理にあたっては、土木職員が工事現場で切羽面を撮影した撮影画像について、上記と同様に、切羽画像サイズの統一処理、切羽部分の切り出し処理、3領域分割処理、画像分割処理を実行することで、評価対象分割画像が生成され(段落【0033】〜【0035】)、3領域毎に、各領域に含まれる評価対象分割画像を順次、処理対象画像として、学習したCNNの入力層に設定し、出力層において個別評価区分を取得することで、処理対象領域に含まれるすべての分割画像についての評価区分を予測し(段落【0036】)、仮記憶された個別評価区分の代表値(例えば、平均値)を算出することを対象領域、観察項目について処理を繰り返し、評価支援部は、領域毎、観察項目毎に、土木職員によって入力された評価区分と深層学習により算出した評価区分とを比較した結果を算出し、出力部に表示することが記載されている(段落【0037】、【0038】)。
なお、段落【0032】には、深層学習においては、分割画像の227ピクセル×227ピクセル及び各画素の色データ(RGB)を用いること、段落【0040】には、サイズを統一することにより、学習時と予測時とで同じ画像状態で判定できることが記載されている。
以上のように、本件明細書には、観察項目(例えば、風化変質、割目間隔、割目状態)に応じて、観察項目毎に応じて生成された学習結果(予測モデル)を用いることが記載されており、これによりサイズが一定値の撮影画像を単一の基準画素数に分割した画像データであっても、各観察項目について、それぞれの学習結果を用いて切羽の状態を評価することができるものと認められる。
すなわち、CNN(Convolutional Neural Network)を用いることが、本件明細書の段落【0016】、【0017】に記載されているところ、機械学習に係る技術常識を踏まえれば、「風化変質」、「割目間隔」、「割目状態」については、所定サイズ(227ピクセル×227ピクセル)のRGBデータを有する画像に特徴量として表現されることは自明であり、各特徴量を有する分割画像を教師情報として畳み込み層、プーリング層を用いて特徴抽出を行い、分類器(SVM:Support Vector Machine)を用いて機械学習を行なうことにより、風化変質、割目間隔、割目状態を予測する予測モデルを生成することができることが理解できる。
以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記構成を備える本件発明1について、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載がされているといえる。
本件発明1と同様の構成を備える本件発明2ないし7についても同様である。

(2)申立人の主張について
ア.申立人は、意見書(令和3年12月23日(受付))において、本件発明1に「サイズが一定値の撮影画像」と規定されているが、切羽画像のサイズが一定値であることはトンネル径が同一であることを意味しないから、切羽の撮影画像から切羽に存在する割目間隔のサイズを得ることができない旨主張する(5頁20行〜7頁下から2行)。
しかし、例えば、評価対象の切羽画像に係るトンネルの径と同程度のトンネル径を有する切羽画像を教師データとして学習を重ねれば、切羽に存在する割目間隔のサイズと対応付けることができるものと理解できるから、本件明細書に、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載がされていないとはいえない。
この点、申立人は、物理的長さや解像度が一定でない評価対象画像を評価するには当業者において膨大な試行錯誤を要求するとも主張するが、評価対象の切羽画像に係るトンネルの径と同程度のトンネル径を有する切羽画像を教師データとして学習させること等の手段を採用すればよいところ、かかる手段を選択することに、過度な試行錯誤を要するとは認められない。
イ.申立人は、上記意見書において、分割画像には、切羽画像の天端、左肩部、右肩部に相当すれば、相当する領域全体の評価区分が割り当てられるところ、例えば、左肩部に相当する分割画像は、どれをとっても画像特徴が異なっているから、左肩領域を構成する分割画像全部について適用されれば、左肩領域を構成する分割画像のどの評価区分が分割画像にマッピングされるかは予測性がなく、有意義な評価区分が得られない旨主張する(7頁最終行〜13頁9行)。
しかし、上記(1)に検討したところによれば、当該分割画像に対応する位置に存するか否かにかかわりなく、特徴や類似性が学習できればよいから、申立人の主張は当たらない。
ウ.申立人は、上記意見書において、本件明細書には、「圧縮強度」、「風化変質」、「割目間隔・割目状態」、「走行傾斜」などの観察項目について、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載がされていないという旨主張する(13頁10行〜17頁2行)。
しかし、「風化変質」、「割目間隔」、「割目状態」について、各特徴量を有する分割画像を教師情報として機械学習を行なうことにより、予測モデルを生成することができることは、上記(1)に示したとおりである。また、「圧縮強度」、「走行傾斜」について機械学習を行うことは、必須の構成とされていない。
エ.なお、申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件明細書には、CNNを使用する機械学習のみが記載されており、SVM方式やランダムフォレスト方式の機械学習に対してどのように本件発明を実施するのかまったく記載がない旨主張する(36頁1〜23行)。
しかし、CNNを用いれば、本件発明が実施可能であることは、上記(1)に示したとおりであり、当業者は、この記載を踏まえて、どのような方式であれば実施可能であるのか理解できるから、実施できない方式をあえて使用しなければならないものでもない以上、実施できない方式を挙げることができることをもって本件発明が実施可能でないということはできない。

以上のとおりであるから、申立人の主張を踏まえても、上記(1)で示した判断は左右されない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 異議申立理由1(進歩性欠如)
本件発明1〜7は、甲第1号証〜甲第9号証、及び甲第12号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができた発明であり、特許法29条2項に違背して特許されたものであるから、特許法113条2号の規定により取り消されるべきである。
<証拠一覧>
甲第1号証:特開2017−117147号公報
甲第2号証:永田 毅「解説<機械学習特集>機械学習によるセグメンテ
ーション,画像分類,超解像」,医学物理,第36巻,第1
号,23−28頁(2016年)
甲第3号証:特開2016−142601号公報
甲第4号証:特開2016−65809号公報
甲第5号証:特開2017ー62776号公報
甲第6号証:特開平5−202694号公報
甲第7号証:トンネル施工管理要領 平成27年7月版(東日本高速道路
株式会社他2名編著,平成27年8月)
甲第8号証:畑浩二他3名「トンネル支保選定エキスパートシステムの構
築(その1)」,大林組技術研究所報,No.44,77−
82頁(1991年)
甲第9号証:辜彬他2名「ニューラルネットワークの分類精度に関する基
礎的検討とその切羽画像解析への応用」,資源と素材,Vo
l.114,No.3,155−162頁(1998年10
月20日)
甲第12号証:丸山健太他1名「切羽評価点に基づく補助工法選定システ
ムにおけるSVM入力値の再検討」,土木学会第67回年次
学術講演会,49,50頁(平成24年9月)

2 甲号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証(特開2017−117147号公報。以下「甲1」という。)には、以下の記載がある。
ア.「【0014】
本発明に係る構造物の施工管理方法では、構造物の施工や保守点検作業において監視確認すべき事項に関するデータに対して、機械学習を実施して結果予測を行い、結果予測に関するデータを作業者に提示することができる。したがって、作業者は、構造物の施工や保守点検に必要なデータを迅速かつ確実に確認することができる。
【0015】
また、結果予測に関するデータは、機械学習の結果であるため、作業員の勘や経験に頼る必要がなく、熟練した作業員は勿論のこと、経験が少ない作業員であっても、迅速かつ適切に構造物の施工管理を行うことができる。」
イ.「【0018】
<構造物の施工管理方法の概要>
本発明の実施形態に係る構造物の施工管理方法は、図1に示すように、構造物の施工や保守点検作業において監視確認すべき事項に関するデータを設定し、設定した監視確認データの入力を行い、入力した監視確認データを記憶する。そして機械学習の手法により監視確認データを分析して結果予測を行い、当該結果予測データを作業者に提示するようになっている。機械学習とは人工知能に関する技術であり、コンピュータを用いて、入力データを所定のアルゴリズムに従い処理し、人間が行う学習と同様の機能を持たせるようにしたものであり、アルゴリズムには種々の態様がある。本実施形態では、例えば、ディープラーニングにより各種のデータを処理して結果予測を行うが、他のアルゴリズムを用いてデータ処理及び結果予測を行ってもよい。
【0019】
ディープラーニングとは、ニューラルネットワークを多層構造化した機械学習の手法であり、特に画像認識の分野における実用化が進められている。本実施形態では、例えば、トンネルの施工管理を行う際に、切羽や壁面の状況、作業者の状況等を撮影した画像データについて、ディープラーニングの手法を用いてデータを処理することにより結果予測を行う。そして、結果予測に関するデータを切羽面や壁面等に投影したり、スピーカーから音声発生したりして、作業者に対して監視確認すべき事項を提示する。
【0020】
<施工管理装置>
まず初めに、本発明に係る構造物の施工管理方法に用いる施工管理装置について説明する。施工管理装置は、コンピュータ及びコンピュータにインストールされたアプリケーションプログラムと、コンピュータに付帯する機器により構成する。この施工管理装置10は、図2に示すように、基本的な構成要素として、監視確認データ入力手段11、監視確認データ記憶手段12、結果予測手段13、結果予測データ出力手段14を備えている。
・・・
【0022】
<監視確認データ入力手段>
監視確認データ入力手段11は、構造物の施工や保守点検作業において監視確認すべき事項に関して設定されたデータを入力するための機器及びプログラムからなる。この監視確認データ入力手段11は、コンピュータに接続されたキーボード、マウス、タッチパネル、スキャナー、カメラ等の入力デバイスと、データ入力を実施するためのプログラムとが連動して機能する手段である。
【0023】
本実施形態では、監視確認項目について映像データを使用するため、カメラで撮影した映像データが入力データの主要部分となり、この映像データに対して、撮影日時、撮影場所等のデータを関連付けて記憶する。例えば、トンネル切羽に関する監視確認データでは、坑口からの距離、データの取得時間(入力時間)等のデータが映像データに関連付けられる。なお、画像フォーマットはどのような形式であってもよく、例えば、JPEG、GIF、TIFF等の画像フォーマットや、MPEG、AVI等の動画フォーマットとすることができる。
【0024】
<監視確認データ記憶手段>
監視確認データ記憶手段12は、監視確認データ入力手段11の機能により入力された監視確認データを記憶するための手段であり、例えば、HDD等の大容量記憶装置により構成する。また、監視確認データ記憶手段12に、結果予測手段13における結果予測データを記憶しておき、ディープラーニング(機械学習)の学習データとして利用する。さらに、監視確認データは、検索を容易なものとするために、インデックスを付してデータベース化することが好ましい。具体的な監視確認データについては、後述する。
【0025】
<結果予測手段>
結果予測手段13は、ディープラーニング(機械学習)を行うための手段であり、コンピュータ及びこれにインストールされたディープラーニング(機械学習)のためのアプリケーションプログラムから構成する。ディープラーニング(機械学習)の概要は上述したとおりであり、公知の技術を用いてディープラーニング(機械学習)を実施することにより、結果予測を行う。
【0026】
<結果予測データ出力手段>
結果予測データ出力手段14は、結果予測手段13における結果予測データを、作業者が確認可能に提示するための手段である。本実施形態では、映像を投影するための投影装置20や、音声出力を行うためのアンプ及びスピーカー等が結果予測データ出力手段14として機能する。また、コンピュータに付帯したディスプレイ装置、プリンター等を結果予測データ出力手段14として機能させてもよい。
・・・
【0029】
<支保パターンの決定>
切羽や、トンネルの掘削状況を撮影した動画を用いて、ディープラーニング(機械学習)を実施する。監視確認項目は、地山の強度、風化変質、割れ目間隔、割れ目状態、割れ目の走向傾斜、湧水の有無及び湧水量、劣化状況等である。これらの監視確認項目についてディープラーニング(機械学習)を実施し、自動的に分類(点数付け)を行って結果予測データを導出する。そして、結果予測データに基づいて、支保パターンの決定を行う。なお、風化変質のように、照明等の条件で点数付けの態様が異なる場合には、点数付けの条件を付して機械学習させることが好ましい。また、種々の項目を総合し、全体として点数付けを行って機械学習させることが可能である。」

以上によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
【甲1発明】
構造物の施工や保守点検作業において監視確認すべき事項に関するデータを設定し、設定した監視確認データの入力を行い、入力した監視確認データを記憶し、そして機械学習の手法により監視確認データを分析して結果予測を行い、当該結果予測データを作業者に提示する構造物の施工管理方法に用いる施工管理装置であって、
施工管理装置10は、監視確認データ入力手段11、監視確認データ記憶手段12、結果予測手段13、結果予測データ出力手段14を備え、
結果予測手段13は、ディープラーニング(機械学習)を行うための手段であり、公知の技術を用いてディープラーニング(機械学習)を実施することにより、結果予測を行い、監視確認データ記憶手段12に結果予測データを記憶しておき、
監視確認データ入力手段11は、構造物の施工や保守点検作業において監視確認すべき事項に関して設定されたデータを入力するための機器及びプログラムからなり、
結果予測データ出力手段14は、結果予測手段13における結果予測データを、作業者が確認可能に提示するための手段であり、
切羽を撮影した動画を用いて、風化変質、割れ目間隔、割れ目状態等の監視確認項目についてディープラーニング(機械学習)を実施し、自動的に分類(点数付け)を行って結果予測データを導出する、
施工管理装置。

(2)甲第2号証
甲第2号証(永田 毅「解説<機械学習特集>機械学習によるセグメンテーション,画像分類,超解像」,医学物理,第36巻,第1号,23−28頁(2016年)。以下「甲2」という。)には、以下の記載がある。
ア.「5.2 超解像
低解像画像を超解像化するニーズは非常に高く,当社も精力的に研究を行っている.
ここでは顔画像の超解像について紹介する.図4はカップリング学習による36倍(縦横各6倍)の超解像結果である.
本事例では,日本人の成人女性175名分の顔データを学習している.その学習ステップについて説明する.まず175名の顔画像について,位置やサイズを正規化し,低解像と高解像のデータベースを作成する.低解像の175枚は,サイズがすべて同じで,顔のパーツが同じ位置にくるように正規化されている.高解像の175枚も同様である.次に,すべての画像を,10×10の格子状のパッチに分割する.低解像と高解像で対応するパッチは,顔を構成するジグソーパズルの同じパーツとなっている.このパッチ単位で,低解像と高解像の関係についてカップリング学習を行う.つまり10×10=100セットの予測モデルを求めるわけである.
人間の顔は,千差万別であるが,基本的な構造は共通である.さらにパッチ単位に細分化すれば類似度はさらに高まり予測精度が向上するわけである.本技術は監視カメラや医療画像の高画質化などに応用が期待されている.」(25頁右欄10行〜26頁左欄8行)
イ.「5.5 事例2 インフラ検査
インフラにおける外観検査のニーズは今後も増大すると考えられ,当社も勢力的に研究開発を行っている.
一例として路面検査の例を紹介する.図7に画像例を示す.左が正常画像,右が亀裂が入った異常画像である.図8は平滑化を行った後に,画素単位でSVMにより学習した結果を適用した例である.微妙な亀裂を精度よく検出していることが確認できる.
表2は3500データ(正常2700,異常800)での学習結果である.Deep Learningが効力を発揮するほどのデータ数が確保できなかったため,WAVELETヒストグラム+SVMが最も高い識別性能を示している.亀裂は一定のサイズ以上で異常と判定されるため,波長ごとにヒストグラムを求める手法が,SIFTよりも精度が高かったのではないかと考えている.」(26頁右欄下から5行〜27頁左欄10行)

(3)甲第3号証
甲第3号証(特開2016−142601号公報。以下「甲3」という。)には、以下の記載がある。
「【0030】
<施工品質評価処理>
図6は、施工品質評価処理の一例を示す処理フロー図である。なお、関数記憶部15には、施工不良の種別及び程度と対応付けてコンクリート構造物の画像を複数入力して各々の外観上の特徴を機械学習させた関数が予め記憶されているものとする。
【0031】
まず、評価装置1の撮像部11は、例えばユーザの操作を受け、評価対象となる脱型後のコンクリート構造物を撮像する(図8:S1)。本ステップでは、例えば図1及び図2に示したように、評価対象2の全体像を撮像する。
【0032】
次に、評価装置1の画像読出部13は、画像記憶部12から画像データを読み出す(S2)。・・・
【0033】
その後、評価装置1の画像解析部14は、読み出した画像データを解析し、コンクリート構造物の施工品質を評価する(S3)。本ステップでは、予め評価項目ごとに生成された関数を関数記憶部15から読み出し、S2で読み出した画像データを用いて「沈下ひび割れ」、「温度ひび割れ」、「気泡・あばた」、「豆板」、「流れ縞・施工縞」、「コールドジョイント」、「色むら」、「型枠目地違い・段差」、「表面剥離」等の有無を示す尤度を順にそれぞれ求める。これらの評価値は、本実施形態に係るコンクリート構造物の施工品質に関する情報の一例であり、S2で読み出した画像データを所定の関数に入力することで算出される。また、算出された尤度が所定の閾値を超える場合、撮像されたコンクリート構造物に該当する施工不良が生じていると判断する。
【0034】
その後、評価装置1の出力部16は、コンクリート構造物の施工品質に関する情報を出力する(S4)。具体的には、出力部16は、S3で求められた「沈下ひび割れ」、「温度ひび割れ」、「気泡・あばた」、「豆板」、「流れ縞・施工縞」、「コールドジョイント」、「色むら」、「型枠目地違い・段差」、「表面剥離」等のうち、検知された施工不良を表示する。また、本ステップでは、施工不良の有無に代えて又は施工不良の有無と併せて、尤度又はこれに応じた点数を出力するようにしてもよい。
・・・
【0037】
<変形例>
図6のS3においては、例えば画像データ中の色相等に基づいて画像データからコンクリート構造物が撮像されている部分を抽出し、抽出された箇所について施工品質の評価を行うようにしてもよい。また、図6のS3において、撮像されたコンクリート構造物を格子状の領域に分割し、各領域について施工不良の有無を検知するようにしてもよい。図7は、画像データを格子状の領域に分割する例を示す図である。図7の例では、画像データ全体を分割した例を示しているが、コンクリート構造物2aが撮像されている領域を抽出し、抽出された箇所についてさらに分割するようにしてもよい。このようにすれば、コンクリート構造物全体に対する施工不良のある部分のおおよその割合や、偏りもわかる。」

(4)甲第4号証
甲第4号証(特開2016−65809号公報。以下「甲4」という。)には、以下の記載がある。
「【0003】
また、鉄筋コンクリートの画像をメッシュに分割し、メッシュごとに科学的な劣化度の大きさを色分けして表示するという技術も提案されている(例えば、特許文献2)。この技術では、塩化物イオン濃度や炭酸カルシウム濃度といった劣化因子、及び鉄筋コンクリートのかぶりをメッシュごとに入力すると共に、鉄筋コンクリートの供用年数を入力し、入力された値を基に各メッシュの劣化度を求める。
・・・
【0024】
<機能構成>
図2は、本実施形態に係る点検支援装置1の一例を示す機能ブロック図である。点検支援装置1は、画像記憶部101と、画像読出部102と、構造物情報取得部103と、構造物DB104と、劣化要因取得部105と、劣化要因DB106と、画像解析部107と、特徴DB108と、損傷程度評価部109と、結果出力部110とを有する。
【0025】
画像記憶部101は、構造物2を撮像した画像データを記憶する。本実施形態では、撮像装置3によって生成された構造物2の画像データが、予め画像記憶部101に記憶されているものとする。・・・
【0026】
画像読出部102は、画像記憶部101から、処理対象の画像データを読み出す。・・・
・・・
【0031】
画像解析部107は、特徴DB108に予め記憶されている劣化要因ごとの劣化の特徴を示すモデルを用いて、画像読出部102が読み出した画像データを解析し、当該劣化要因による損傷の有無や程度を判定する。特徴DB108には、予め、劣化要因ごとの典型的な損傷の状態が表れた画像を複数入力して各々の特徴を機械学習させた関数や、劣化要因ごとの特徴を示すモデルが記憶されているものとする。なお、特徴を機械学習させた関数や特徴を示すモデルは、例えばニューラルネットワークを用いた教師付きの学習等、既存の技術を用いて生成することができ、本実施形態ではその生成手法は問わない。・・・」

(5)甲第5号証
甲第5号証(特開2017ー62776号公報。以下「甲5」という。)には、以下の記載がある。
「【0012】
・・・画像キャプチャデバイス112は、構造物(この場合にはトンネル覆工110)に沿ってトラバースし、この間に複数のカメラ114によって第1の画像セットがキャプチャされ、コンピュータ122へと伝達され、当該コンピュータ122によって受信される。第1の画像セットは、第1の期間中にキャプチャされ(それ故に当該第1の期間に関連付けられ)、初回におけるトンネル覆工110の状態の記録を表す。・・・
【0013】
続いて、画像キャプチャデバイス112は、第2の期間中に、構造物に沿って再度トラバースし、第2の画像セットが第2の期間と関連付けられるように、当該第2の期間中のトンネル覆工110の状態の記録を表す第2の画像セットをキャプチャする。第2の画像セットは、それから、コンピュータ122へと伝達され、当該コンピュータ122によって受信される。
・・・
【0032】
・・・
(実施例)
トンネル表面の多視点における変化の検出のためのシステムがここでは記述される。ロボット的な検査装置によって収集されたデータから、表面のパノラマを構築し、異なる時間インスタンスからの画像を位置合わせするために、SfMパイプラインが用いられる。位置合わせされた画像の間で、細いひび、水の進入および他の表面損傷などの変化を高い信頼度で検出することは、難しい問題・・・である。・・・
【0033】
ここに記述されるアプローチは、2チャンネルCNNを用いて変化を検出することである。ネットワークは、略位置合わせされた、異なる時間に撮られた画像パッチのペアを受理し、異常な変化を検出するために当該ペアを分類する。ネットワークをトレーニングするために、人工的に生成されたトレーニング例およびトンネル表面の同質性が利用され、手作業でラベリングする労力のほとんどが省かれる。方法は、数ヶ月に亘って本物のトンネルから収集されたフィールドデータについて評価され、既存のアプローチをしのぐことを実証する。
・・・
【0049】
(変化検出方法) 変化検出のために、モザイク化領域を64×64画素パッチへと分割し、それからパッチ毎に最近隣のカメラからの画像のみを投影することにより、第2のモザイクセットが生成される。そのようにすることで、2つの目標が達成される。第1に、各ブロック内でパッチはアーチファクトの合成を免れ、第2に、利用可能なオーバーラップ画像ペアの全てを独立に処理するために必要な計算コストを回避する。」

(6)甲第6号証
甲第6号証(特開平5−202694号公報。以下「甲6」という。)には、以下の記載がある。
「【0026】切羽面をインスタントカラーフィルムを装着したスチールカメラ、あるいはCCDビデオカメラ等の撮像装置を図3のように設置して撮影し、撮影した画像を画像処理装置に取り込む。図3において、符号1はカメラを示し、符号2は切羽面を示している。
【0027】画像処理装置において、画面補正処理、幾何変換処理、画像フィルター処理などの処理を行って、取り込んだ画像の画質を改善する。
【0028】そして、切羽面の画像に出現しているトンネル掘削に影響する大きな不連続面を抽出し、その座標データをコンピュータに入力して保存する。・・・
・・・
【0034】上記の不連続面の抽出と並行して、切羽面の地質の硬軟を判定するために、切羽面の画像から小さな亀裂を抽出して亀裂の密度を測定する。
【0035】この亀裂の抽出は、切羽面の画像を、輝度変換処理によって2値化し、2値化した画像について太さを持つ線状図形を幅方向に線幅が1になるまで細める細線化を行なって、太い線や一定の面積で表されていた亀裂を、その中心線のみで表して行なう。この画像を図示すると、図7のようになる。そして、切羽面を所定のブロックに分割し、それぞれのブロックについて亀裂の密度を測定する。図8は、周辺孔の部分を扇形に6分割した例を示している。亀裂密度は、亀裂が上記の細線化処理によって線状に表現されているため、線の長さの合計値としてコンピュータによって計算される。
【0036】上記のようにして測定した亀裂の密度を、切羽面のブロックごとにコンピュータに入力して、密度の平均値と標準偏差を求める。そして、平均値と標準偏差を加えた値よりも大きな値の密度を有するブロックについては、亀裂が多くて軟らかい部分であると判定して、そのブロックについてコンピュータに保存している穿孔パターンの穿孔間隔を広げるように、穿孔パターンを修正する。また、平均値から標準偏差を差し引いた値よりも小さな値の密度を有するブロックについては、亀裂が少くて硬い部分であると判定し、そのブロックについてコンピュータに保存している穿孔パターンの穿孔間隔を狭くするように穿孔パターンを修正する。このようにして修正した穿孔パターンのデータはコンピュータに入力保存される。」

(7)甲第7号証
甲第7号証(トンネル施工管理要領 平成27年7月版(東日本高速道路株式会社他2名編著,平成27年8月)。以下「甲7」という。)には、「切羽評価点法」に関し、以下の記載がある。
「2.概要
会社が保有している山岳工法での施工データを表−1に示す4つの岩石グループ(硬質塊状岩盤,中硬質軟質塊状岩盤,中硬質層状岩盤,軟質層状岩盤)に区分し,支保選定に関して影響度が強い4つの観察項目(圧縮強度,風化変質,割れ目の間隔,割れ目の状態)の評価区分に応じた切羽評価点を算出し,各支保パターンにおける切羽評価点の目安(範囲)と照らし合わせ支保選定時の指標とするものである。
3.切羽評価点の算出
(1) 観察項目毎の配点
観察項目ごとの評価区分値に対する配点を表−3に示す。
切羽評価点は,評価区分が全て「1」の場合に100点となり,各観察項目で最も地山不良側の評価区分が選ばれた場合に0点となる。
(2) 湧水調整点
「湧水量」と「劣化」それぞれの評価区分値の組合せにより,表−4から得られるマイナス調整点(湧水調整点)を付加する。ただし,湧水調整点は,表−5に示すとおり軟質岩系の岩石と層状岩盤系の岩石の場合に適用するものとする。
(3) 評価点の算出
切羽断面を天端と左・右の3つに分割し,それぞれ観察項目ごとの評価区分値に対応する配点を足し合わせ,湧水調整点を付加した点数を算出し,天端部を2倍とした加重平均値を切羽評価点とする。表−6に切羽評価点の算出例を示す。」(52頁7行〜53頁11行)

(8)甲第8号証
甲第8号証(畑浩二他3名「トンネル支保選定エキスパートシステムの構築(その1)」,大林組技術研究所報,No.44,77−82頁(株式会社大林組,1991年)。以下「甲8」という。)には、以下の記載がある。
「写真−1にハイバンドスチルビデオカメラで撮影した切羽状況を示す。・・・写真−1の撮影画像をマイクロコンピュータに入力し,画像処理を行ない割れ目等の情報を抽出する。観察者が割れ目情報等を追加した処理画像を図−5に示す。この図から,主要な割れ目群についてはなんとか抽出できているものの,細かなものについては不十分であると判断された。画像処理は,撮影両像の濃淡256階調からあるしきい値を境にして割れ目を抽出するようにしている。」(81頁左欄2〜17行)

(9)甲第9号証
甲第9号証(辜彬他2名「ニューラルネットワークの分類精度に関する基礎的検討とその切羽画像解析への応用」,資源と素材,Vol.114,No.3,155−162頁(一般社団法人資源・素材学会,1998年10月20日)。以下「甲9」という。)には、以下の記載がある。
「4.ニューラルネットワーク法を用いた切羽画像の分類
4・1 解析対象の画像
鉱山の切羽における地質情報は採鉱計画を策定する上で重要な要素の一つである。岩種や変質の程度などは岩盤の色調から推定できる場合もあるので,ここに画像処理法の適用が可能となるが,色調の微妙な相違までは分離できないことが知られている。そこで,本研究では浅熱水性鉱脈型の金鉱床を対象とし,乳白色の鉱脈の抽出,および鉱脈内の細分類に多層ニューラルネットワークの適用を試み,その有用性を評価した。
解析の対象とする切羽画像は,カラー写真をイメージスキャナでR(赤),G(緑),B(青)の3種類のティジタル画像に分解することによって作成した。・・・R,G,Bの各画像は0〜255の256階調の輝度レベル(濃淡)をもつ。・・・
鉱脈内の色調は変質の程度や鉱物の組み合わせの相違に対応し,本鉱山ではこれと品位とがおおむね関連することが知られている。すなわち,白色でその中に黒色の薄層を含む部分は高品位,変質が進んだ褐色部は中程度の品位,焦茶色部は変質の程度が高く低品位の部分にそれぞれ対応する。」(158<14>頁右欄1〜22行)
「図10 切羽B,C,D,E(図6)に対し,SOM(当審注:Self- Organized Mapping:自己組織化写像のこと)によって選定されたトレーニングサンプルとニューラルネットワーク法を用いた分類の結果。黒色,白色,ピンク,緑色はそれぞれ母岩,高品位部,中品位部,低品位部に対応する。」(160<16>頁右欄中央)

(10)甲第10号証
甲第10号証(全邦釘他1名「Random Forestによるコンクリート表面ひび割れの検出」,土木学会論文集F3(土木情報学),Vol.71,No.2,I_1−I_8(公益社団法人土木学会,2015年)。以下「甲10」という。)には、以下の記載がある。
「近年,橋梁やトンネルなどの損傷状態の把握を目的として近接目視点検が行われている.各種点検要領では様々な項目を点検するように定められているが,その中でもコンクリート構造物のひび割れは劣化の進行速度に大きな影響を与えるため,そのひび割れ幅や位置,長さを記録するように定められている.しかし点検に伴う膨大な作業量,コストが問題となっており,また,点検員によって判定がばらつくという主観性の問題もある.これらの解決のため,撮影画像からひび割れを自動検出するという研究が様々な機関において行われているが,現状ではこれらの手法が完成しているとは言い難い.そこで本研究では,画像解析にRandom Forestによる機械学習を組み合わせたひび割れ検出手法を構築した.また,実際の撮影画像を用いた実験の結果,高い精度であることを確認した.」(I_1頁抄録)

(11)甲第11号証
甲第11号証(広兼道幸他2名「コンクリート構造物のひび割れ形状に基づく損傷度分類への線形SVMの適用」,土木学会論文集A,Vol.64,No.4,739−749頁(公益社団法人土木学会,2008年11月)。以下「甲11」という。)には、以下の記載がある。
ア.「・・本研究では,構造物の健全性評価の自動化を目的として,ひび割れを有するコンクリート床版のデジタル画像から種々の特徴量を抽出し,パターン認識手法を用いて構造物の健全性評価を試みる.パターン認識手法として,近年注目されている教師なし学習法に代表されるパーセプトロン型のサポートベクトルマシンを適用し,またその識別精度の評価のために,教師あり学習法である学習ベクトル量子化も適用した.コンクリート床版のデジタル画像47枚を対象として,ひび割れによる構造物の損傷度を推定し,両手法の診断結果について比較・検討し,特徴量の選定・抽出および提案手法の有効性を示す.」(739頁抄録)
イ.「(4) 識別部
特徴抽出部で抽出した特徴量を用いて識別処理を行う.識別処理は未知入カパターンに対して複数のクラスのうち一つを対応させることによって行われる.識別部はあらかじめ収集された訓練サンプルの特徴を学習し,訓練サンプルを正しく識別できるような境界を定めることで設計される.識別部は特徴抽出部と同様,パターン認識の識別精度を左右する重要な仕組みであり,その設計は極めて重要である.本研究では,近年注目を集め,多くの分野において最も識別精度が高いと報告されているSVMを識別部に適用した.さらに,識別精度を検証するため,従来から様々な識別問題によく利用されているLVQによる識別結果との比較を実施した.」(741頁左欄下から6行〜右欄7行)

(12)甲第12号証
甲第12号証(丸山健太他1名「切羽評価点に基づく補助工法選定システムにおけるSVM入力値の再検討」,土木学会第67回年次学術講演会,49,50頁(公益社団法人土木学会,平成24年9月)。以下「甲12」という。)には、以下の記載がある。
ア.「3.SVM
3.1.SVMとは
SVMとは1960年代にVapnikらにより提案された2クラスのパターン認識手法である.SVMは訓練サンプルの中央を通る識別平面を学習により求めることで,高い汎化性能を有しているとされる.
3.2.システムの流れ
本システムは図−1に示すように,岩種および補助工法ごとにSVMによる学習を行った.
切羽評価点は表−1と図−2の組み合わせで計18項目ある.」(49頁右欄1〜11行)
イ.図1−1,図1−2、表−1,表−2


」(49頁右欄)

3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「撮影した動画」における画像は、本件発明1における「撮影画像」に相当し、甲1発明における当該画像は、これを教師データとして「ディープラーニング(機械学習)」がなされるから、本件発明1における「学習用」「画像」に相当し、甲1発明における「風化変質、割れ目間隔、割れ目状態等の監視確認項目」は、切羽を撮影した動画を用いたディープラーニング(機械学習)の項目であるから、本件発明1における「切羽の観察項目」に相当し、甲1発明におけるディープラーニング(機械学習)において、「自動的に分類(点数付け)」がなされるところ、当該「分類」は、本件発明1における「評価区分」に相当する。
ディープラーニング(機械学習)に関する技術常識に鑑みると、甲1発明における「結果予測手段13」は、ディープラーニング(機械学習)を行うための手段であるから、本件発明1における「入力層」(学習用画像が入力される)、「出力層」(評価区分が出力される)を有しており、甲1発明における「監視確認データ記憶手段12」は、「結果予測手段13」に基づく結果予測データを記憶するから、本件発明1における「学習結果記憶部」に相当する。
そして、甲1発明における「監視確認データ入力手段11」、「結果予測データ出力手段14」は、それぞれ、本件発明1における「入力部」、「出力部」に相当し、甲1発明における「施工管理装置10」は、本件発明1における「切羽評価支援システム」に相当し、明記はないが、甲1発明が、本件発明1における「制御部」に相当する構成を備えていることは明らかである。

以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
坑内観察における切羽の撮影画像を学習用画像として入力層に用い、前記切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により前記観察項目毎に生成した学習結果を記憶する学習結果記憶部と、
入力部と出力部とに接続された制御部とを備えた切羽評価支援システムであって、
前記制御部が、
前記入力部から取得した切羽の撮像画像から評価区分を予測し、前記出力部に出力するとともに、
前記観察項目に割目間隔および割目状態の少なくとも一方を含む切羽評価支援システム。
(相違点1)
切羽の観察項目についての機械学習で用いる学習用画像として、本件発明1では、サイズが一定値の撮影画像を基準画素数で分割して生成した学習用分割画像を用いており、
入力部から取得した切羽の撮像画像からの評価区分の予測に際しては、本件発明1では、切羽部分を切り出して、評価対象の切羽画像を取得し、前記切羽画像のサイズを前記一定値に調整して、前記切羽画像の評価領域を、前記基準画素数で分割し、前記観察項目毎に、前記分割した評価対象分割画像に前記学習結果を適用して、前記評価対象分割画像の個別評価区分を取得し、前記評価対象分割画像の個別評価区分に基づいて、前記観察項目毎に前記評価領域の評価区分を予測するのに対し、
甲1発明では、上記の点が特定されていない点。

イ.判断
上記相違点1について検討する。
申立人が申立書に添付して提出した甲2ないし甲12の記載(上記2.参照)によれば、甲2ないし甲12には、それぞれ以下の技術的事項が記載されていると認められる。
甲2には、日本人の成人女性の顔データの学習ステップにおいて、低解像及び高解像の175名の顔画像についてサイズが同じで、顔のパーツが同じ位置にくるように正規化したすべての画像を10×10の格子状のパッチに分割し、パッチ単位で低解像と高解像の関係についてカップリング学習を行うので予測精度が向上し、平滑化を行った後、画素単位でSVMにより学習した結果を適用し、微妙な亀裂を精度よく検出することが記載されている。
甲3には、画像データ中の色相に基づいて抽出したコンクリート構造物が撮像されている部分を格子状の領域に分割し、各領域について施工不良の有無を検知し、コンクリート構造物全体に対する施工不良のある部分のおおよその割合や偏りもわかるようにすることが記載されている。
甲4には、鉄筋コンクリートの画像をメッシュに分割し、メッシュごとに劣化度の大きさを色分けして表示し、画像解析部は、特徴DBに記憶されている劣化要因ごとの劣化の特徴を示すモデルを用いて画像読出部が読み出した画像データを解析して当該劣化要因による損傷の有無や程度を判定し、特徴を機械学習させた関数や特徴を示すモデルは、ニューラルネットワークを用いた教師付きの学習を用いて生成することが記載されている
甲5には、構造物に沿ってトラバースして取得した第1の期間中におけるトンネル覆工110の状態を表す画像セットと、同様に取得した第2の期間中のトンネル覆工110の状態を表す画像セットを、2チャンネルCNNを用いて、略位置合わせされた異なる時間に撮られた画像パッチのペアから異常な変化を検出するために当該ペアを分類し、変化検出のために、モザイク化領域を64×64画素パッチへと分割することが記載されている。
甲6には、切羽面の撮影画像を画像フィルター処理などを行って、トンネル掘削に影響する大きな不連続面を抽出するのと並行して、小さな亀裂を抽出して亀裂の密度を測定し、分割したそれぞれのブロックについて測定した亀裂の密度を切羽面のブロックごとにコンピュータに入力し、密度の平均値と標準偏差を求め、亀裂が多くて軟らかい部分、亀裂が少くて硬い部分であると判定することが記載されている。
甲7には、支保選定に影響のある4つの観察項目(圧縮強度,風化変質,割れ目の間隔,割れ目の状態)の評価区分に応じて切羽評価点を算出し、支保選定の指標とすること、切羽断面を天端と左・右の3つに分割し、観察項目ごとの評価区分値に対応する配点を足し合わせ切羽評価点とすることが記載されている。
甲8には、トンネル支保選定エキスパートシステムにおいて、切羽状況を示す撮影画像の濃淡256階調からしきい値を境に割れ目を抽出する画像処理を行うことが記載されている。
甲9には、鉱床の切羽画像を対象とし、乳白色の鉱脈の抽出、鉱脈内の細分類に多層ニューラルネットワークの適用を試みることが記載されている。
甲12には、切羽評価点に基づいて補助工法を選定するシステムにおいて、岩種及び補助工法ごとにサポートベクトルマシン(SVM)による学習を行い、補助工法の候補結果を示すことが記載されている。

しかし、甲2ないし甲9、及び甲12のいずれにも、切羽の観察項目についての機械学習で用いる学習用画像について、サイズが一定値の撮影画像を基準画素数で分割して生成したものを用いることが記載されていない。また、甲2ないし甲9、及び甲12のいずれにも、切羽画像の評価領域を上記機械学習で用いたのと同じサイズに調整したうえで同じ基準画素数で分割し、観察項目毎に当該評価対象分割画像に前記学習結果を適用することで個別評価区分を取得し、これに基づいて観察項目毎に評価領域の評価区分を予測することは記載されておらず、甲2ないし甲9、及び甲12の記載に基づいて導くことのできるものでもない。
そして、本件明細書の段落【0044】に「3領域分割処理を実行する 」こと「により、工事現場の切羽面の領域毎に観察項目を評価することができる」とともに段落【0045】に「分割画像の評価を統合して、各3領域の評価区分を決定することができる」との記載があるとおり、本件発明1は、相違点1に係る構成を採用したことで、局所的な評価区分を把握できるとともに、全体としての評価区分を把握することができる。
したがって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1ないし甲9、及び甲12に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明1は、甲1ないし甲9、及び甲12に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2〜5について
本件発明2ないし5は、いずれも本件発明1と同様の構成を有するから、甲1発明とは、上記相違点1と同様の相違点を有する。
そして、上記相違点1に係る構成は、上記(1)イ.で示したとおり、甲1ないし甲9、及び甲12に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明2ないし5は、甲1ないし甲9、及び甲12に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1の「切羽評価支援システム」を用いた「切羽評価支援方法」の発明であるところ、甲1には、甲1発明の「施工管理装置」を用いた施工管理方法の発明(以下「甲1方法発明」という。)も記載されているといえる。
そうすると、本件発明6と甲1方法発明とを対比すると、両者は、上記相違点1と同様の相違点を有する。
そして、上記相違点1に係る構成は、上記(1)イ.で示したとおり、甲1ないし甲9、及び甲12に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明6は、甲1ないし甲9、及び甲12に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明7について
本件発明7は、本件発明1の「切羽評価支援システム」を用いた「切羽評価支援方法」を実施する「切羽評価支援プログラム」の発明である。
甲1には、甲1発明の「施工管理装置」を用いた施工管理方法を実施するためのプログラムの発明(以下「甲1プログラム発明」という。)も記載されているといえる。
そうすると、本件発明7と甲1プログラム発明とを対比すると、両者は、上記相違点1と同様の相違点を有する。
そして、上記相違点1に係る構成は、上記(1)イ.で示したとおり、甲1ないし甲9、及び甲12に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明7は、甲1ないし甲9、及び甲12に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし7は、甲1ないし甲9、及び甲12に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
坑内観察における切羽についてサイズが一定値の撮影画像を基準画素数で分割して生成した学習用分割画像を入力層に用い、前記切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により前記観察項目毎に生成した学習結果を記憶する学習結果記憶部と、
入力部と出力部とに接続された制御部とを備えた切羽評価支援システムであって、
前記制御部が、
前記入力部から取得した切羽の撮像画像から切羽部分を切り出して、評価対象の切羽画像を取得し、
前記切羽画像のサイズを前記一定値に調整して、前記切羽画像の評価領域を、前記基準画素数で分割し、
前記観察項目毎に、前記分割した評価対象分割画像に前記学習結果を適用して、前記評価対象分割画像の個別評価区分を取得し、
前記評価対象分割画像の個別評価区分に基づいて、前記観察項目毎に前記評価領域の評価区分を予測し、前記出力部に出力するとともに、
前記観察項目に割目間隔および割目状態の少なくとも一方を含むことを特徴とする切羽評価支援システム。
【請求項2】
前記制御部が、
坑内観察における切羽の撮影画像を取得し、前記撮影画像を前記基準画素数で分割した学習用分割画像を生成し、
前記学習用分割画像を入力層に用い、前記切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により学習結果を生成し、前記学習結果記憶部に記録する請求項1に記載の切羽評価支援システム。
【請求項3】
前記観察項目に風化変質をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の切羽評価支援システム。
【請求項4】
前記評価領域には、切羽の天端、右肩部、左肩部の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の切羽評価支援システム。
【請求項5】
前記制御部が、評価対象の切羽画像の分割画像について予測した評価区分を、前記分割画像の配置に対応させて表示したヒートマップを生成し、前記出力部に出力することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の切羽評価支援システム。
【請求項6】
坑内観察における切羽についてサイズが一定値の撮影画像を基準画素数で分割して生成した学習用分割画像を入力層に用い、前記切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により前記観察項目毎に生成した学習結果を記憶する学習結果記憶部と、
入力部と出力部とに接続された制御部とを備えた切羽評価支援システムを用いて、切羽評価支援を行なう方法であって、
前記制御部が、
前記入力部から取得した切羽の撮像画像から切羽部分を切り出して、評価対象の切羽画像を取得し、
前記切羽画像のサイズを前記一定値に調整して、前記切羽画像の評価領域を、前記基準画素数で分割し、
前記観察項目毎に、前記分割した評価対象分割画像に前記学習結果を適用して、前記評価対象分割画像の個別評価区分を取得し、
前記評価対象分割画像の個別評価区分に基づいて、前記観察項目毎に前記評価領域の評価区分を予測し、前記出力部に出力するとともに、
前記観察項目に割目間隔および割目状態の少なくとも一方を含むことを特徴とする切羽評価支援方法。
【請求項7】
坑内観察における切羽についてサイズが一定値の撮影画像を基準画素数で分割して生成した学習用分割画像を入力層に用い、前記切羽の観察項目に対する評価区分を出力層に用いた機械学習により前記観察項目毎に生成した学習結果を記憶する学習結果記憶部と、
入力部と出力部とに接続された制御部とを備えた切羽評価支援システムを用いて、切羽評価支援を行なうためのプログラムであって、
前記制御部を、
前記入力部から取得した切羽の撮像画像から切羽部分を切り出して、評価対象の切羽画像を取得し、
前記切羽画像のサイズを前記一定値に調整して、前記切羽画像の評価領域を、前記基準画素数で分割し、
前記観察項目毎に、前記分割した評価対象分割画像に前記学習結果を適用して、前記評価対象分割画像の個別評価区分を取得し、
前記評価対象分割画像の個別評価区分に基づいて、前記観察項目毎に前記評価領域の評価区分を予測し、前記出力部に出力する手段として機能させるとともに、
前記観察項目に割目間隔および割目状態の少なくとも一方を含むことを特徴とする切羽評価支援プログラム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-03-31 
出願番号 P2017-142711
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (E21D)
P 1 651・ 121- YAA (E21D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 長井 真一
西田 秀彦
登録日 2020-10-27 
登録番号 6784239
権利者 株式会社大林組
発明の名称 切羽評価支援システム、切羽評価支援方法及び切羽評価支援プログラム  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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