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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C23C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C23C 審判 全部申し立て 発明同一 C23C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C23C |
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管理番号 | 1386113 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-04-27 |
確定日 | 2022-05-12 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6779557号発明「被膜形成用組成物、表面処理金属部材の製造方法、および金属‐樹脂複合体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6779557号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。 特許第6779557号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6779557号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜6に係る特許についての出願は、令和 2年 7月20日を出願日とする特願2020−123895号(以下、「本願」という。)であって、令和 2年10月16日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月 4日にその特許掲載公報が発行された。 その後、令和 3年 4月27日付けで、特許異議申立人 秋山朋毅(以下、「申立人秋山」という。)により、全ての請求項に係る本件特許に対して特許異議の申立てがなされ、同年 4月28日付けで、特許異議申立人 四国化成工業株式会社(以下、「申立人四国」という。)により、全ての請求項に係る本件特許に対して特許異議の申立てがなされ、同年 8月30日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年11月12日に特許権者から意見書と訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)が提出され、これに対して令和 4年 1月20日に申立人四国から意見書が提出されたものである。 第2 訂正請求について 1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容 (1)訂正請求の趣旨 本件訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜6について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を表す。 (2)本件訂正の内容 ア 訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、「第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤、銅イオン、およびハロゲン化物イオンを含む溶液」と記載されているのを、「第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤、銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項3〜6も同様に訂正する。 イ 訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に、「末端に−NH2基を有するシランカップリング剤、銅イオン、およびハロゲン化物イオンを含む溶液」と記載されているのを、「末端に−NH2基を有するシランカップリング剤、銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液」に訂正する。 請求項2の記載を引用する請求項3〜6も同様に訂正する。 ウ 訂正事項3 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に、「ハロゲン化物イオン濃度が0.3mM以上」と記載されているのを、「前記ハロゲン化物イオンの濃度が0.3mM以上」に訂正する。 請求項4の記載を引用する請求項5、6も同様に訂正する。 エ 訂正事項4 本件訂正前の本件特許明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0007】に、「所定のシランカップリング剤、金属イオンおよびハロゲン化物イオンおよびを含有する組成物」と記載されているのを、「所定のシランカップリング剤、金属イオンおよびハロゲン化物イオンを含有する組成物」に訂正する。 オ 訂正事項5 本件訂正前の本件特許明細書の段落【0024】に、「3−アミノプロピルジメトキシシメチルラン」と記載されているのを、「3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン」に訂正する。 カ 訂正事項6 本件訂正前の本件特許明細書の段落【0030】に、「、塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンから選択される1種以上」と記載されているのを、「、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンから選択される1種以上」に訂正し、「臭化物イオンが特に好ましい」との記載の直前の「塩化物イオンおよび臭化物イオンが好ましく、」との記載を削除する。 キ 訂正事項7 本件訂正前の本件特許明細書の段落【0031】に、「ハロゲン化物イオン源としては、塩酸、臭化水素酸等のハロゲン化水素酸;塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化銅、臭化銅、塩化亜鉛、塩化鉄、臭化錫等が挙げられる。ハロゲン化物イオン源は2種以上を併用してもよい。塩化銅、臭化銅等のハロゲン化銅は、」と記載されているのを、「ハロゲン化物イオン源としては、臭化水素酸等のハロゲン化水素酸;臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化銅、臭化錫等が挙げられる。ハロゲン化物イオン源は2種以上を併用してもよい。臭化銅等のハロゲン化銅は、」に訂正する。 ク 訂正事項8 本件訂正前の本件特許明細書の段落【0066】の【表1】における「実施例2」及び「実施例4」を、それぞれ「参考例2」及び「参考例4」に訂正する。 ケ 訂正事項9 本件訂正前の本件特許明細書の段落【0065】に、「実施例および比較例」と記載されているのを、「実施例、参考例および比較例」に訂正し、段落【0068】において、「溶液への浸漬処理後に」との記載の直前および「銅箔とビルドアップフィルム」との記載の直前の2箇所に「実施例1〜12では、」と記載されているのを、いずれも「実施例1,3,5〜12および参考例2,4では、」に訂正し、段落【0075】において「実施例1〜9のように」と記載されているのを、「実施例1,3,5〜9のように」に訂正する。 コ 訂正事項10 本件訂正前の本件特許明細書の段落【0067】の【表2】における「比較例8」を削除する。 サ 訂正事項11 本件訂正前の本件特許明細書の段落【0069】に、「銅イオンを含まない比較例3およびハロゲン化物イオンを含まない比較例8では」と記載されているのを、「銅イオンを含まない比較例3では」に訂正する。 2 本件訂正についての当審の判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1における発明特定事項である「ハロゲン化物イオン」を「臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上」に限定して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の追加の有無について 本件訂正前の本件特許明細書の段落【0030】には、「ハロゲン化物イオンは、金属表面への被膜形成を促進する成分であり、塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンから選択される1種以上が好ましい。」と記載されているから、訂正事項1は、本件訂正前の本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について 上記アのとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項2による訂正は、本件訂正前の請求項2における発明特定事項である「ハロゲン化物イオン」を「臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上」に限定して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の追加の有無について 本件訂正前の本件特許明細書の段落【0030】には、「ハロゲン化物イオンは、金属表面への被膜形成を促進する成分であり、塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンから選択される1種以上が好ましい。」と記載されているから、訂正事項2は、本件訂正前の本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について 上記アのとおり、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項3による訂正は、本件訂正前の請求項4における「ハロゲン化物イオン」が請求項1又は2に記載の「ハロゲン化物イオン」であること明確にするために「前記」を付加するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。 また、「ハロゲン化物イオン濃度」を「ハロゲン化物イオンの濃度」とする訂正も、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。 よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の追加の有無について 上記アのとおり、訂正事項3による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、本件訂正前の本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について 上記アのとおり、訂正事項3による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (4)訂正事項4について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項4による訂正は、本件訂正前の本件特許明細書の段落【0007】における不自然な日本語を正すものであるから、誤記の訂正を目的とする訂正である。 よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の追加の有無について 上記アのとおり、訂正事項4による訂正は、誤記の訂正を目的とするものであって、本願の願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について 上記アのとおり、訂正事項4による訂正は、誤記の訂正を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (5)訂正事項5について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項5による訂正は、本件訂正前の本件特許明細書の段落【0024】における不自然な化合物名を正すものであるから、誤記の訂正を目的とする訂正である。 よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の追加の有無について 上記アのとおり、訂正事項5による訂正は、誤記の訂正を目的とするものであって、本願の願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであるから、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について 上記アのとおり、訂正事項5による訂正は、誤記の訂正を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (6)訂正事項6、7について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項6、7による訂正は、訂正事項1、2による訂正によって、本件訂正後の請求項1、2における「ハロゲン化物イオン」が「臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上」に限定されたことに伴って、本件訂正前の本件特許明細書の段落【0030】に記載されていた塩化物イオンと段落【0031】に例示されていたハロゲン化イオン源から塩化物イオン源とを削除するものであるから、訂正事項6、7は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。 よって、訂正事項6、7は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の追加の有無について 上記アのとおり、訂正事項6、7による訂正は、本件訂正後の請求項1、2の記載との整合を図るための訂正であるから、訂正事項6、7は、本件訂正前の本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について 上記アのとおり、訂正事項6、7による訂正は、選択肢の一部を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (7)訂正事項8、9について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項8による訂正は、本件訂正前の本件特許明細書の段落【0066】の表1において、訂正事項1、2による訂正によって、実施例ではなくなった「実施例2」及び「実施例4」を「参考例2」及び「参考例4」とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。 訂正事項9による訂正は、訂正事項8によって訂正された記載との整合を図るために、本件訂正前の本件特許明細書の段落【0065】、【0068】、【0075】の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。 よって、訂正事項8、9は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の追加の有無について 上記アのとおり、訂正事項8、9による訂正は、単なる表現の変更に過ぎないから、訂正事項8、9は、本件訂正前の本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について 上記アのとおり、訂正事項8、9による訂正は、単なる表現の変更に過ぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (8)訂正事項10、11について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項10による訂正は、本件訂正前の本件特許明細書の段落【0067】の表2において、「比較例8」を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。 訂正事項11による訂正は、訂正事項10によって訂正された記載との整合を図るために、本件訂正前の本件特許明細書の段落【0069】の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。 よって、訂正事項10、11は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の追加の有無について 上記アのとおり、訂正事項10、11による訂正は、「比較例8」との記載を明細書から削除するものに過ぎないから、訂正事項10、11は、本件訂正前の本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について 上記アのとおり、訂正事項訂正事項10、11による訂正は、「比較例8」との記載を明細書から削除するものに過ぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (9)独立特許要件について 申立人秋山による特許異議の申立て及び申立人四国による特許異議の申立ては、共に、本件訂正前のすべての請求項に対してされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 (10)一群の請求項について 本件訂正前の請求項1〜6について、請求項3〜6はそれぞれ請求項1及び請求項2を直接または間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1及び訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1〜6は一群の請求項であって、本件訂正は、その一群の請求項について請求がされたものである。 (11)明細書又は図面の訂正と関係する請求項について 訂正事項4〜11に係る訂正は、本件特許明細書を訂正するものであるが、いずれも一群の請求項である訂正前の請求項1〜6に関係する訂正である。 そして、この訂正は、当該明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われているから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に適合するものである。 3 小括 以上のとおりであるから、令和 3年11月12日に特許権者によってなされた本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、請求項1〜6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明6」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を表す。 【請求項1】 銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤、銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液であり、 銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、 pHが2.8〜6.2である、 被膜形成用組成物。 【請求項2】 銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 末端に−NH2基を有するシランカップリング剤、銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液であり、 銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、 pHが2.8〜6.2である、 被膜形成用組成物。 【請求項3】 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で0.3以上である、請求項1または2に記載の被膜形成用組成物。 【請求項4】 前記ハロゲン化物イオンの濃度が0.3mM以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物。 【請求項5】 銅または銅合金の金属部材の表面に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物を接触させることにより、金属部材の表面に被膜が形成される、表面処理金属部材の製造方法。 【請求項6】 請求項5に記載の方法により銅または銅合金の金属部材の表面に被膜を形成後、前記被膜上に樹脂部材を接合する、金属‐樹脂複合体の製造方法。 第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要 1 申立人秋山による特許異議の申立ての理由の概要 申立人秋山は、本件特許に対する申立理由として下記(1)〜(4)を主張し、証拠方法として下記(5)の甲第1〜10号証を提示している。 (1)申立理由1(進歩性) 本件訂正前の本件発明1、3〜6は、甲第1〜6号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用) (2)申立理由2(進歩性) 本件訂正前の本件発明2〜6は、甲第2〜6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用) (3)申立理由3(進歩性) 本件訂正前の本件発明1〜6は、甲第7〜9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用) (4)申立理由4(拡大先願) 本件訂正前の本件発明1〜6は、本願の出願の日前の優先権主張を伴う日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた甲第10号証に係る日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者が上記日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本願の出願の時において、本願の出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用) (5)証拠方法 甲第1号証 特開2016−17221号公報 甲第2号証 国際公開第2018/186476号 甲第3号証 国際公開第2019/058773号 甲第4号証 特開平2−93079号公報 甲第5号証 特開平10−88104号公報 甲第6号証 特開2018−16865号公報 甲第7号証 特開2018−115306号公報 甲第8号証 特表2010−525175号公報 甲第9号証 特開平4−218686号公報 甲第10号証 特願2019−238922号 (国際公開第2021/045055号) なお、申立人秋山による上記甲第1〜10号証をそれぞれ甲A1〜甲A10ということがある。 2 申立人四国による特許異議の申立ての理由の概要 申立人四国は、本件特許に対する申立理由として下記(1)〜(5)を主張し、証拠方法として下記(6)の甲第1〜9号証を提示している。 (1)申立理由1(進歩性) 本件訂正前の本件発明1〜6は、甲第1号証(補助的に甲第2号証)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用) (2)申立理由2(サポート要件) 本件訂正前の本件発明1〜6は、本件特許明細書(以下、「本件特許明細書」という。)において、本件発明の課題を解決できないとされている比較例8を包含するものであるから、本件訂正前の本件発明1〜6は、本件特許明細書に開示された発明の範囲を超えているので、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(補助的に甲第3〜8号証)。(取消理由として採用) (3)申立理由3(実施可能要件) 本件訂正前の本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1〜6及び8〜10は、KBr等由来のハロゲン化物イオンとpH調整のために加えられた塩酸由来のハロゲン化物イオンとが含まれているため、KBr等由来のハロゲン化物イオン濃度が不明であり、本件訂正前の本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正前の本件発明1〜6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本件訂正前の本件発明1〜6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(補助的に甲第3〜5号証)。(取消理由として不採用) (4)申立理由4(サポート要件) 本件訂正前の本件特許明細書の発明の詳細な説明には、環をなさない第一級アミノ基又は環をなさない第二級アミノ基がSi原子に対して直鎖をなして結合されているシランカップリング剤のみが記載されているから、当該シランカップリング剤を含有しない被膜形成用組成物は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件訂正前の本件発明1、3〜6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(取消理由として採用) (5)申立理由5(サポート要件) 本件訂正前の本件特許明細書の発明の詳細な説明には、末端に環をなさない第一級アミノ基がSi原子に対して直鎖をなして結合されているシランカップリング剤のみが記載されているから、当該シランカップリング剤を含有しない被膜形成用組成物は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件訂正前の本件発明2〜6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(補助的に甲第9号証)。(取消理由として採用) (6)証拠方法 甲第1号証 特開2018−115306公報(申立人秋山の甲A7と同じ。) 甲第2号証 特開2002−321310公報 甲第3号証 「信越シリコーン シランカップリング剤」カタログ、信越化学工業株式会社、2011年11月 甲第4号証 玉虫文一編、「化学 −構造とエネルギー−」、株式会社岩波書店、1971年3月30日、第274〜275ページ 甲第5号証 齊藤隆夫監修、「化学事典」、株式会社旺文社、2010年3月2日、第21、414ページ 甲第6号証 「四国化成工業株式会社における本件明細書に記載の比較例8に関する再現実験報告書(実験成績証明書)」 甲第7号証 「株式会社日産アークにおける本件明細書に記載の比較例8に関する再現実験報告書(分析結果報告書)」 甲第8号証 「株式会社コベルコ科研における本件明細書に記載の比較例8に関する再現実験報告書(報告書)」 甲第9号証 社団法人日本化学会、第2版 標準化学用語辞典、丸善株式会社、平成17年(2005年)3月31日、第668ページ なお、申立人四国による上記甲第1〜9号証をそれぞれ甲S1〜甲S9ということがある。 3 令和 3年 8月30日付けで通知した取消理由の概要 (1)取消理由1(申立人四国の申立理由2を採用) 比較例8に記載された組成物には、1.0N塩酸に由来するハロゲン化物イオン(塩化物イオン)が含まれており、かつ、末端の第一級アミノ基及び第二級アミノ基を有するシランカップリング剤Eと4.0mMの銅イオンが含まれ、溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で4.5であり、pHが5.3であるため、当該組成物は、本件訂正前の本件発明1、2の発明特定事項をすべて満たす被膜形成用組成物であると認められる。 しかしながら、比較例8は、シランカップリング剤による被膜が形成されていないため、本件訂正前の本件発明の課題を解決し得るものではなく、本件訂正前の本件発明1、2は、課題を解決するための手段が反映されておらず、本件訂正前の本件発明1、2及びこれらを引用する本件訂正前の本件発明3〜6は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (2)取消理由2(申立人四国の申立理由4、5の一部を採用) 一般に、アミノ基を有するシランカップリング剤であっても、第1級アミノ基又は第2級アミノ基とSi原子とが直鎖をなして結合されている場合と、アミノ基とSi原子との間に環構造を有する場合とでは、それぞれの化合物が示す特性は大きく異なるものであるから、銅イオン、ハロゲン化物イオンとの組成物とした際の物理化学的性質、すなわち、金属表面への被膜形成性やさらに得られた被膜の金属表面や樹脂との接着性等における作用効果も大きく変化し得るものであるので、実施例に記載されるシランカップリング剤以外を用いた場合にも、本件訂正前の本件発明の課題を解決し得るのかが明らかとは言えない。 したがって、実施例の結果を本件発明の全てに対して拡張ないし一般化できると認めるに足る技術的根拠が存在しないので、本件訂正前の本件発明1〜6は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第5 本件特許明細書の記載事項 1 本件訂正後の本件特許明細書には以下の事項が記載されている。 なお、下線は当審が付与し、「・・・」は記載の省略を表すものであって、以下同様である。 (1)「【0003】 例えば、特許文献1では、電解銅箔の表面をスズめっきした後、シランカップリング剤溶液に浸漬し、その後、水洗および加熱乾燥を行うことにより、銅箔と樹脂との接着性を向上できることが開示されている。特許文献2および特許文献3では、特定のシラン化合物を含有する溶液を金属の表面に接触させて被膜を形成することにより、金属と樹脂との接着性を向上できることが開示されている。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 特許文献2,3に記載されているように、シラン化合物を含む組成物により被膜を形成する方法は、接着性向上のために別の金属層(例えば錫めっき層)を設ける必要がないため、金属と樹脂との接合工程を簡素化できるとの利点を有する。しかし、従来の組成物は、表面処理の効率や金属表面への膜付着性が低く、金属と樹脂との接着性が十分ではない場合がある。また、樹脂との接着性を十分に向上するためには、組成物(溶液)と金属との接触時間を長くしたり、金属の表面に溶液が付着した状態で溶媒を乾燥して被膜を形成する必要がある。 【0006】 上記に鑑み、本発明は、金属表面に樹脂との接着性に優れる被膜を簡便に形成可能な被膜形成用組成物の提供を目的とする。」 (2)「【0058】 [溶液の調製] 表1および表2に示す成分を所定の配合量(濃度)となるようにイオン交換水に溶解した後、表1および表2に示すpHとなるように、1.0N塩酸または1.0N水酸化ナトリウム水溶液を加えて、溶液を調製した。 【0059】 表1および表2におけるシランカップリング剤A〜Mは下記の通りである。 シランカップリング剤A:3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン シランカップリング剤B:3−アミノプロピルトリメトキシシラン シランカップリング剤C:3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメチルメトキシシラン シランカップリング剤D:3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン シランカップリング剤E:3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン シランカップリング剤F:トリメトキシ[3−(フェニルアミノ)プロピル]シラン シランカップリング剤G:3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン シランカップリング剤H:[3−(6−アミノヘキシルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン シランカップリング剤I:3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン シランカップリング剤J:3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン シランカップリング剤K:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン シランカップリング剤L:下記式で表されるベンゾトリアゾール系シランカップリング剤(N−(3−トリメトキシシリルプロピル)ベンゾトリアゾール―1−カルボキサミド) 【化4】・・・ シランカップリング剤M:下記式で表されるトリアゾール系シランカップリング剤(N−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−5−アミノ−3−[3−(トリエトキシシリル)プロピルチオ]−1H−1,2,4−トリアゾール−1−カルボキサミド) 【化5】・・・ 【0060】 シランカップリング剤A〜Kは市販品を用いた。シランカップリング剤Lは、特開2016−79130号公報の実施例1に基づいて合成した。シランカップリング剤Mは、特開2018−16865号公報の参考例4−1に基づいて合成した。」 (3)「【0065】 実施例、参考例および比較例の溶液の組成および評価結果を、表1および表2に示す。 【0066】 【表1】 ![]() 【0067】 【表2】 ![]() 【0068】 アミノ基を含むシランカップリング剤、銅イオンおよびハロゲン化物イオンを含む溶液で銅箔の処理を行った実施例1,3,5〜12および参考例2,4では、溶液への浸漬処理後に、銅箔の金属光沢を保っており、かつ赤外線吸収スペクトルでSi−O由来のピークが確認されたことから、シランカップリング剤による被膜が形成されたことが分かる。実施例1,3,5〜12および参考例2,4では、銅箔とビルドアップフィルムとの剥離強度が0.3N/mm以上であり、優れた接着性を示した。Si−Oピーク面積と剥離強度(接着力)には相関がみられ、Si−Oピーク面積が大きいほど接着力が高くなる傾向があることから、シランカップリング剤による被膜の形成が接着力向上に寄与していると考えられる。 【0069】 銅イオンを含まない比較例3では、被膜が形成されていなかった。実施例5のシランカップリング剤Eを、窒素原子を含まないシランカップリング剤Kに変更した比較例1では、被膜が形成されていなかった。窒素原子を含まないシランカップリング剤Jを用いた比較例2も同様であった。また、比較例2では、銅箔表面にスマットが析出しており、接着強度の著しい低下がみられた。 【0070】 一方、アミノ基を含むシランカップリング剤Eと、窒素原子を含まないシランカップリング剤Jを併用した実施例6では、スマットは生成しておらず、実施例5と同等の優れた接着強度を示した。これらの結果から、アミノ基を含むシランカップリング剤が、溶液中の銅イオンおよびハロゲン化物イオンと相互作用することにより、シランカップリング剤による被膜の形成が促進されたと考えられる。 【0071】 銅イオン濃度が高い比較例5および比較例9では、被膜が形成されておらず、銅のエッチングにより表面が粗化されていた。これらの比較例では、銅イオン濃度が高いために、シランカップリング剤による被膜の形成よりも、銅イオンによる銅の酸化(エッチング)作用が大きいために、被膜が形成されなかったと考えられる。 【0072】 Si/Cu比が大きく、シランカップリング剤に対する銅の量が少ない比較例4および比較例10では、被膜が形成されていなかった。なお、比較例10と銅イオン濃度が同一の実施例9では被膜が形成され樹脂との接着性が良好であった。これらの結果から、Si/Cu比が重要であり、比較例4および比較例10では、シランカップリング剤が過剰であったために、溶液中の銅イオンがシランカップリング剤により安定化され、銅イオンと銅箔表面との相互作用が小さい等の理由により、被膜形成促進効果が十分に発揮されず、浸漬のみでは被膜が形成されなかったと考えられる。 【0073】 実施例5と同一の配合でpHが低い比較例6では、被膜が形成されておらず、銅のエッチングにより表面が粗化されていた。低pH領域では、銅イオンによるエッチング作用が高いために、シランカップリング剤による被膜の形成よりも、銅イオンによるエッチング作用が大きいと考えられる。 【0074】 実施例5と同一の配合でpHが高い比較例7では、被膜が形成されていなかった。中性付近のpHでは、溶液中での銅イオンの安定性が低く、銅イオンによる被膜形成促進効果が不十分であったことが、被膜が形成されなかった要因の1つであると考えられる。 【0075】 以上の結果から、窒素原子を含むシランカップリング剤、銅イオンおよびハロゲン化物イオンを含み、Si/Cu比およびpHが所定範囲の溶液を用いて金属表面を処理することにより、短時間の浸漬のみでシランカップリング剤の被膜が形成され、金属と樹脂との接着性に優れる複合体を形成可能であることが分かる。シランカップリング剤は、窒素原子を含んでいればよく、実施例1,3,5〜9のように、汎用のシランカップリング剤を用いても、金属表面に、樹脂との接着性向上に寄与する被膜を容易に形成可能である。」 第6 甲号証の記載事項 1 甲A1の記載事項 (1)「【請求項1】 化学式(I)で示されるイミダゾールシラン化合物を成分とする金属の表面処理剤。 【化1】 ![]() (式中、R1〜R5は水素原子、炭素数1〜炭素数20のアルキル基またはフェニル基を表し、R6およびR7は水素原子または炭素数1〜炭素数3のアルキル基を表し、mは1〜3の整数を表し、nは0〜5の整数を表す。)」 (2)「【技術分野】 【0001】 本発明は、金属の表面処理剤に関する。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は、金属表面の耐熱性および耐湿性を高め、金属と樹脂との接着性を向上させることができる金属の表面処理剤を提供することを目的とする。」 (3)「【0027】 本発明の金属の表面処理剤は、前述のイミダゾールシラン化合物と、水を混合することにより調製されるが、水と有機溶剤の混合液と混合してもよい。 また、当該イミダゾールシラン化合物を水と混合した後、水を留去し、続いて、有機溶剤と混合して表面処理剤を調製してもよい。 当該イミダゾールシラン化合物は、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。」 (4)「【0032】 当該表面処理剤により処理される金属に特に制限はなく、例えば、銅、亜鉛、錫、アルミニウム、チタン、ニッケル、鉄、銀、金等の金属やそれらの合金を挙げることができるが、該表面処理剤は銅または銅合金の表面処理に好適である。 【実施例】 【0033】 以下、本発明を実施例および比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例に使用したイミダゾールシラン化合物の合成例を参考例1〜8に示す。また、これらの合成に使用した主な原料は以下のとおりである。 [主原料] ・1−(3−アミノプロピル)イミダゾール:東京化成工業社製 ・1−(2−アミノエチル)−2−メチルイミダゾール:「Organic Syntheses, Vol 27, 18(1947)」に記載の方法に準拠して合成した。 ・1−(3−アミノプロピル)−2−メチルイミダゾール:「特開2010−126464号公報」に記載の方法に準拠して合成した。 ・1−(3−アミノプロピル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール:同上 ・1−(3−アミノプロピル)−2−ウンデシルイミダゾール:同上 ・1−(2−アミノエチル)−2−フェニルイミダゾール:同上 ・1−(3−アミノプロピル)−2−フェニルイミダゾール:同上 ・1−[2−(メチルアミノ)エチル]−2−フェニルイミダゾール:「国際公開第2005/123066号パンフレット」に記載の方法に準拠して合成した。 ・3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン:モメンティブ社製 【0034】 [参考例1] <1−[3−(イミダゾール−1−イル)プロピル]−3−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]ウレア(「IMZS−1」と略記する)の合成> 1−(3−アミノプロピル)イミダゾール1.26g(10.0mmol)をトルエン20mlに溶解させ、40℃以下に保ちながら、3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン2.06g(10.0mmol)を滴下した。 次いで、反応液を室温にて1時間撹拌し、続いて、揮発分を留去して、淡黄色粘性液体として、化学式(I−1)で示される標題のイミダゾールシラン化合物3.31g(10.0mmol、収率:100%)を得た。 【0035】 【化4】 ![]() 」 (5)「【0072】 本発明の金属の表面処理剤は、金属の表面に耐熱性と耐湿性に優れた化成皮膜を形成させることが可能であり、また金属と樹脂との接着性を向上させることが可能であるため、プリント配線板や電子部品、金属箔(銅箔)、電線など、金属表面の酸化および腐食からの保護や、金属と樹脂との接着性が必要とされる様々な部材への利用が期待される。」 2 甲A2の記載事項 (1)「[請求項4] 下記化学式(IV)で示されるトリアゾールシラン化合物を含有する表面処理液。 [化5] ![]() (式中、X1およびX2は、同一または異なって、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基または炭素数1〜6のアルキルチオ基を表す。mは1〜12の整数を表す。nは0または1〜3の整数を表す。Rはメチル基またはエチル基を表す。但し、X1とX2が同時に水素原子である場合を除く。) (2)「技術分野 [0001] 本発明は、新規なトリアゾールシラン化合物、並びに該トリアゾールシラン化合物を用いた表面処理液、表面処理方法およびその利用に関するものである。 ・・・ 発明が解決しようとする課題 [0005] 本発明は、新規なトリアゾールシラン化合物及びその合成方法ならびに、新規なトリアゾールシラン化合物を成分とするシランカップリング剤を提供することを目的とする。 また、当該トリアゾールシラン化合物を用いた表面処理液、表面処理方法および異なる材料の接着方法を提供することを目的とする。」 (3)「[0042] (シランカップリング剤) 本発明のシランカップリング剤は、前記の化学式(IV)で示されるトリアゾールシラン化合物(以下、トリアゾールシラン化合物(IV)ということがある)を成分とする。」 (4)「[0045] 本発明に使用される基材としては、例えば、金属、無機材料、樹脂材料等から形成された粒状、針状、繊維状、織物状、板状、箔状、無定形等の基材を挙げることができる。 [0046] 前記の金属としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、錫、鉄、銀、金およびこれらの合金等が挙げられ、これらの金属からなる板や箔、めっき膜などを基材とすることができる。 前記合金の具体例としては、銅合金では、銅を含む合金であれば特に限定されず、例えば、Cu−Ag系、Cu−Te系、Cu−Mg系、Cu−Sn系、Cu−Si系、Cu−Mn系、Cu−Be−Co系、Cu−Ti系、Cu−Ni−Si系、Cu−Zn−Ni系、Cu−Cr系、Cu−Zr系、Cu−Fe系、Cu−Al系、Cu−Zn系、Cu−Co系等の合金が挙げられる。 また、その他の合金では、アルミニウム合金(Al−Si合金)、ニッケル合金(Ni−Cr合金)、鉄合金(Fe−Ni合金、ステンレス、鋼)等が挙げられる。 これらの金属の中では、銅および銅合金が好ましい。」 (5)「[0067] 同様に、表面処理液の安定性や化成皮膜の均一性を向上させるために、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン等のハロゲンイオンや銅イオン、鉄イオン、亜鉛イオンなどの金属イオンを生成する物質を用いることもできる。」 (6)「[0087] 本発明において、前記の金属、無機材料、樹脂材料からなる群から選択される2つの材料を本発明の表面処理液を用いて接着させることができる。本発明の表面処理液により形成される化成皮膜の層を介して2つの材料を接着することで、互いの親和性を向上させることができるため、材質の異なる材料同士であってもより強固に接着することができる。」 (7)「実施例 [0102] 以下、本発明を実施例(合成試験、評価試験)によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 なお、合成試験に使用した原料のトリアゾール化合物およびハロゲン化アルキルシラン化合物は、以下のとおりである。 [トリアゾール化合物] ・3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール:東京化成工業社製 ・3,5−ジメチル−1,2,4−トリアゾール:同上 ・3−フェニル−1,2,4−トリアゾール:「J.Org.Chem.,44巻,4160頁(1979年)」に記載された方法に準拠して合成した。 ・3−アミノ−5−メチルチオ−1,2,4−トリアゾール:東京化成工業社製 ・5−メチル−3−オクチル−1,2,4−トリアゾール:米国特許第5,098,920号明細書に記載された方法に準拠して合成した。 ・3−アミノ−1,2,4−トリアゾール:東京化成工業社製 [ハロゲン化アルキルシラン化合物] ・3−クロロプロピルトリメトキシシラン:信越化学工業社製 ・3−クロロプロピルトリエトキシシラン:東京化成工業社製 ・6−ブロモヘキシルトリエトキシシラン:「Tetrahedron,63巻,5076頁(2007年)」に記載された方法に準拠して合成した。」 (8)「[0104] シランカップリング剤の評価試験として採用した、銅と樹脂の接着性の試験方法を以下に示す。 [接着性試験] (1)試験片 電解銅箔(厚み:35μm)を試験片として使用した。 (2)試験片の処理 以下の工程a〜bに従って行った。 a.酸清浄/1分間(室温)、水洗、乾燥/1分間(100℃) b.実施例および比較例の表面処理液に浸漬/1分間(室温)、水洗、乾燥/1分間(100℃) (3)試験片と樹脂の接着 処理した試験片のS面(光沢面)に、ガラス布エポキシ樹脂含浸プリプレグ(FR−4グレード)を積層プレスし、試験片と樹脂を接着した。 (4)接着性の評価 「JIS C6481(1996)」に従って、幅10mmの試験片を作成し、プレッシャークッカー処理(121℃/湿度100%/100時間)した後、銅箔の引き剥がし強さ(kN/m)を測定した。 [0105] [実施例1] <3,5−ジアミノ−1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,2,4−トリアゾールの合成> 3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール15.0g(0.151mol)および脱水N,N−ジメチルホルムアミド100mLからなる懸濁液へ、室温にて28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液29.2g(0.151mol)を加えて均一溶液として30分間攪拌した後、3−クロロプロピルトリメトキシシラン30.1g(0.151mol)を加え、77〜80℃にて4時間攪拌した。 懸濁状の反応液を3℃まで冷却した後、不溶物を濾去し、濾液の溶媒を減圧留去して、褐色粘稠物35.7g(0.137mol、収率90.5%)を得た。 [0106] 得られた粘稠物の 1H−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。 1H-NMR (DMSO-d 6) δ:0.51(t, 2H), 1.62(m, 2H), 3.46(s, 9H), 3.58(t, 2H), 4.69(s, 2H), 5.11(s, 2H). この 1H−NMRスペクトルデータより、得られた粘稠物は、化学式(V)で示される標題のトリアゾールシラン化合物であるものと同定した。 [0107] [化9] ![]() ・・・ [0126] [実施例8] <3−アミノ−1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,2,4−トリアゾールの合成> 3−アミノ−1,2,4−トリアゾール20.4g(0.243mol)および脱水N,N−ジメチルホルムアミド100mLからなる溶液へ、室温にて28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液46.7g(0.242mol)を加えて30分間攪拌した後、3−クロロプロピルトリメトキシシラン48.3g(0.243mol)を加え、86〜90℃にて8時間攪拌した。 懸濁状の反応液を3℃まで冷却した後、不溶物を濾去し、濾液の溶媒を減圧留去して、黄褐色液体57.6g(0.234mol、収率96.4%)を得た。 [0127] 得られた液体の1H−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。 1H-NMR (DMSO-d6) δ:0.51(t, 2H), 1.73(m, 2H), 3.46(s, 9H), 3.86(t, 2H), 5.21(s, 2H), 7.91(s, 1H). この1H−NMRスペクトルデータより、得られた液体は、化学式(XII)で示される標題のトリアゾールシラン化合物であるものと同定した。 [0128] ![]() [0129] <銅の表面処理液の調製および接着性試験> [実施例9] シランカップリング剤成分として、実施例1において合成したトリアゾールシラン化合物を使用して銅の表面処理液を調製した。 即ち、当該トリアゾールシラン化合物10gにエチレングリコールモノブチルエーテル200gを加え、続いて水790gを加えて、室温にて2時間攪拌し、銅の表面処理液(以下、処理液Aと云う)を調製した。 この処理液Aについて、当該トリアゾールシラン化合物のトリメトキシシリル基が、トリヒドロキシシリル基に加水分解されていることを確認し、接着性試験を行った。 得られた試験結果は、表1に示したとおりであった。 [0130] [実施例10〜16] 実施例9と同様にして、実施例1において合成したトリアゾールシラン化合物の代わりに、実施例2〜8において合成したトリアゾールシラン化合物を使用して、銅の表面処理液(以下、各々処理液B、C、D、E、F、G、Hと云う)を調製した。 これらの処理液中のトリアゾールシラン化合物のトリメトキシシリル基またはトリエトキシシリル基が、トリヒドロキシシリル基に加水分解されていることを確認し、接着性試験を行った。 得られた試験結果は、表1に示したとおりであった。 ・・・ [0133] ![]() [0134] 表1に示した試験結果によると、1,2,4−トリアゾール環の3位および/または5位に置換基を有する、本発明のトリアゾールシラン化合物をシランカップリング剤成分として使用した銅の表面処理液は、銅と樹脂の接着力を高める優れた効果を発揮しているものと認められる。 特に、アミノ基またはフェニル基を有するトリアゾールシラン化合物の場合に、銅と樹脂の接着力を高める効果が顕著であり、中でも、2つのアミノ基を有するトリアゾールシラン化合物の場合には、前記の接着力が飛躍的に高められている。」 3 甲A3の記載事項 (1)「[請求項4] 下記化学式(IV)で示されるテトラゾールシラン化合物を含有する表面処理液。 [化5] ![]() (式(IV)中、Xは水素原子、炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アリール基、アラルキル基、炭素数1〜6のアルキルチオ基または置換基を有してもよいアミノ基を表す。nは1〜12の整数を表す。Rはメチル基またはエチル基を表す。mは0または1〜3の整数を表す。) (2)「技術分野 [0001] 本発明は、新規なテトラゾールシラン化合物、並びに該テトラゾールシラン化合物を用いた表面処理液、表面処理方法およびその利用に関するものである。」 (3)「発明の効果 [0025] 本発明のテトラゾールシラン化合物は、分子中にアルコキシシリルアルキル基と共に1,2,3,4−テトラゾール環を有する物質であり、これを成分とすることにより、テトラゾール化合物(アゾール化合物)の特徴である金属の防錆機能と、エポキシ樹脂やウレタン樹脂を硬化させる機能を併せ持つシランカップリング剤とすることが期待される。 また、本発明のテトラゾールシラン化合物を含有した表面処理液によれば、材質の異なる2つの材料、即ち、金属と無機材料、金属と樹脂材料および、無機材料と樹脂材料の接着性を高めることができる。」 (4)「[0048] (シランカップリング剤) 本発明のテトラゾールシラン化合物は、シランカップリング剤として好適である。 本発明のシランカップリング剤は、下記化学式(IV)で示されるテトラゾールシラン化合物(以下、テトラゾールシラン化合物(IV)ということがある。)を成分とする。」 (5)「[0054] 前記の基材としては、例えば、金属、無機材料、樹脂材料等から形成された粒状、針状、繊維状、織物状、板状、箔状、無定形等の基材を挙げることができる。 [0055] 前記の金属としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、錫、鉄、銀、金およびこれらの合金等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1つを使用することが好ましく、またこれらの金属からなる板や箔、めっき膜などを基材とすることができる。 前記合金の具体例としては、銅合金では、銅を含む合金であれば特に限定されず、例えば、Cu−Ag系、Cu−Te系、Cu−Mg系、Cu−Sn系、Cu−Si系、Cu−Mn系、Cu−Be−Co系、Cu−Ti系、Cu−Ni−Si系、Cu−Zn−Ni系、Cu−Cr系、Cu−Zr系、Cu−Fe系、Cu−Al系、Cu−Zn系、Cu−Co系等の合金が挙げられる。 また、その他の合金では、アルミニウム合金(Al−Si合金)、ニッケル合金(Ni−Cr合金)、鉄合金(Fe−Ni合金、ステンレス、鋼)等が挙げられる。 これらの金属の中では、銅および銅合金が好ましい。」 (6)「[0076] 同様に、表面処理液の安定性や化成皮膜の均一性を向上させるために、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン等のハロゲンイオンや銅イオン、鉄イオン、亜鉛イオンなどの金属イオンを生成する物質を用いることもできる。」 (7)「[0096] 本発明において、前記の金属、無機材料、樹脂材料等からなる群から選択される2つの材料を本発明の表面処理液を用いて接着させることができる。本発明の表面処理液により形成される化成皮膜の層を介して2つの材料を接着することで、互いの親和性を向上させることができるため、材質の異なる材料同士であってもより強固に接着することができる。」 (8)「実施例 [0114] 以下、本発明を実施例(合成試験、評価試験)および比較例(評価試験)によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 なお、合成試験に使用した原料のテトラゾール化合物およびハロゲン化アルキルシラン化合物は、以下のとおりである。 [0115] [テトラゾール化合物] ・1H−テトラゾール:東京化成工業社製 ・5−メチル−1H−テトラゾール:東洋紡社製 ・5−フェニル−1H−テトラゾール:同上 ・5−ベンジル−1H−テトラゾール:東京化成工業社製 ・5−メチルチオ−1H−テトラゾール:和光純薬工業社製 ・5−アミノ−1H−テトラゾール:東京化成工業社製 [0116] [ハロゲン化アルキルシラン化合物] ・3−クロロプロピルトリメトキシシラン:信越化学工業社製 ・3−クロロプロピルトリエトキシシラン:東京化成工業社製」 (9)「[0138] [実施例6] <5−アミノ−1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1H−テトラゾールおよび5−アミノ−2−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−2H−テトラゾールの合成> 5−アミノ−1H−テトラゾール23.0g(0.270mol)および脱水N,N−ジメチルホルムアミド200mLからなる溶液に、室温下、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液51.9g(0.270mol)を加えて30分間攪拌した。 続いて、3−クロロプロピルトリメトキシシラン53.7g(0.270mol)を加え、89〜92℃にて22時間攪拌した。 懸濁状の反応液を8℃に冷却し、不溶物を濾去した後、揮発分(溶媒他)を減圧留去して、濃縮物100gを得た。 この濃縮物を酢酸イソプロピル150mLで希釈(分散・溶解)して、飽和食塩水150mLで3回洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、揮発分(溶媒他)を減圧留去して、液状の濃縮物58.3gを得た。 この濃縮物をヘキサン100mLで2回洗浄し、減圧下、乾燥して放冷し、白色ロウ状固体54.7g(0.221mol、収率81.9%)を得た。 [0139] 得られた固体の 1H−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。 1H-NMR (DMSO-d6) δ:0.54(t, 2H, J=8Hz, -CH2-Si), 1.75(m, 0.8H, -CH2CH2-Si), 1.88(m, 1.2H, -CH2CH2-Si), 3.47(s, 9H, SiOCH3), 4.05(t, 0.8H, J=7Hz, NCH2-), 4.35(t, 1.2H, J=7Hz, NCH2-), 5.98(s, 1.2H, NH2), 6.66(s, 0.8H, NH2). [0140] これより、得られた固体は、化学式(Ia−6)で示される5−アミノ−1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1H−テトラゾールと、化学式(Ib−6)で示される5−アミノ−2−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−2H−テトラゾールを、各々40:60の割合(モル%)で含む混合物であるものと認められた。 [0141] [化18] ![]() ・・・ [0166] <銅の表面処理液の調製および接着性の評価> [実施例13] シランカップリング剤成分として、実施例1において合成したテトラゾールシラン化合物(混合物)を使用して銅の表面処理液を調製した。 即ち、この混合物のテトラゾールシラン化合物10gにエチレングリコールモノブチルエーテル200gを加え、続いて水790gを加えて、室温にて2時間攪拌し、銅の表面処理液(以下、処理液Aという。)を調製した。 この処理液Aについて、テトラゾールシラン化合物のトリメトキシシリル基が、トリヒドロキシシリル基に加水分解されていることを確認し、下記の接着性の評価試験(a)〜(c)およびハローイングの評価試験(d)、(e)を行った。 得られた試験結果は、表2に示したとおりであった。」 4 甲A4の記載事項 (1)「銅あるいは銅合金の表面を、2位長鎖アルキルイミダゾール化合物と銅イオンを含む処理液に接触させることを特徴とする銅及び銅合金の表面処理方法。」(特許請求の範囲(1)) (2)「産業上の利用分野 本発明は銅及び銅合金の表面処理方法に関するものであり、特にプリント配線板の回路部における防錆処理やエッチングレジスト膜の形成に好適な方法を提供するものである。」(第1ページ右下欄第1〜5行) (3)「課題を解決するための手段 本発明者等は、このような事情に鑑み、種々の試験を繰り返した結果、銅あるいは銅合金の表面に、2位長鎖アルキルイミダゾールの被膜を形成するに当り、2位長鎖アルキルイミダゾール化合物と銅イオンを含む処理液に接触させることにより、従来の方法に比べて低温且つ短時間の接触処理によって、充分な厚みの化成被膜が得られることを見い出し、本発明を完遂した。 本発明方法の実施においては、銅あるいは銅合金を2位長鎖アルキルイミダゾール化合物及び銅イオンを含む処理液と接触させるに当たり、処理液中に酸性物質、望ましくは有機酸系化合物を添加して、そのpHを3ないし6の範囲に調整すべきである。」(第2ページ左上欄第8行〜右上欄第1行) (4)「処理液中において銅イオンを生じる物質の代表的なものは、銅粉、塩化第一銅、塩化第二銅、水酸化銅、リン酸銅、酢酸銅、硫酸銅、硝酸銅、臭化銅等であり、これらのうち特に塩化第一銅が好適である。」(第2ページ右上欄第18行〜左下欄第2行) (5)「本発明方法において用いる処理液は、pHを3〜6の範囲、好ましくは4〜5の範囲になるように調整すべきである。長鎖アルキルイミダゾール化合物と銅イオンを含む処理液のpHが高過ぎると、長鎖アルキルイミダゾールと銅イオンの錯体が不溶化し、溶液中に析出する。逆にpHが低過ぎると長鎖アルキルイミダゾールが金属表面の銅イオンと錯体を造りにくいので、化成被膜の生成速度が極端に低下する。」(第2ページ右下欄第10〜18行) (6)「実施例1 2−ウンデシル−4−メチルイミダゾール10gを酢酸20mlに加えて均一に混合し、他方塩化第一銅0.4gを25%アンモニア水6mlに加えてよく攪拌し、両溶液を水1l中に夫々加え、よく攪拌して、pH4.40の透明な処理液を調製した。 次いで、銅張積層板の銅表面を湿式研磨材(商品名「スコッチブライト」住友3M社製)を用いて研磨し、1%塩酸水溶液に30秒間浸漬したのち、よく水洗し乾燥させて試験片とした。この試験片を前記処理液に、液温30℃で10秒間浸漬したのち、水洗し、乾燥したところ、その試験片の化成被膜は0.3μであった。この試験片を温度55℃、湿度95%の恒温恒湿槽中で500時間放置したが、銅表面に腐食は見られなかった。」(第3ページ左下欄第4〜18行) (7)「実施例2 2−ウンデシルイミダゾール10gをプロピオン酸20mlに加えて均一に混合し、他方塩化第一銅0.4g及びトリエタノールアミン1.2gを25%アンモニア水5mlに加えてよく撹拌し、再溶液を水1l中に夫々加え、よく攪拌して、pH4.45の透明な処理液を調製した。」(第3ページ右下欄第14〜20行) (8)「実施例3 2−ウンデシル−4−メチルイミダゾール10gと塩化第一銅2.0gを100mlのエタノール中でよく攪拌して、塩化第一銅を完全に溶解し、この溶液に酢酸7.7ml及び水300mlを夫々加え、よく攪拌し、pH4.35の透明な処理液を調製した。」(第4ページ左上欄第17行〜右上欄第2行) (9)「実施例5 2−ウンデシルイミダゾール8gと2−ヘプタデシルイミダゾール2gを酢酸22.2mlに加えて均一に混合し、他方塩化第二銅1.0gを25%アンモニア水12mlに加えてよく攪拌し、両溶液を水1l中に夫々加え、よく撹拌して、pH4.74の処理液を調製した。」(第4ページ右下欄第4〜10行) (10)「実施例6 2−ウンデシル−4−メチルイミダゾール7gと2−ヘプタデシル−4−メチルイミダゾール3gを蟻酸16.5mlに加えて均一に混合し、他方塩化第二銅0.55gを25%アンモニア水4.6mlに加えてよく攪拌し、両溶液を水1l中に夫々加え、よく撹拌して、pH4.74の処理液を調製した。」(第5ページ左上欄第8〜14行) 5 甲A5の記載事項 (1)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、リードフレームまたはタブ用の表面処理剤および表面処理方法に関するものである。」 (2)「【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、常温での変色防止効果に優れると同時に耐熱性にも優れ、さらに樹脂との接着力の大きいリードフレームまたはタブ用の表面処理剤および表面処理技術を提供することを目的とした。」 (3)「【0020】本発明に係る上記表面処理剤を使用するリードフレームまたはタブ用の銅または銅合金の処理は、基材となる銅または銅合金を上記の表面処理剤に浸漬するか、あるいは該表面処理剤溶液を銅または銅合金に散布またはスプレーすることによって行うことができる。この際の処理時間は1ms〜10min、好ましくは1〜60sである。この処理により、銀の剥離液を用いて選択的に銀の電解析出層を除去した表面であっても優れた変色防止効果を付与することができる。」 (4)「【0024】 【作用】本発明に係る「アゾール環またはアゾール環とベンゼン環の縮合環とアルコキシシリル基を1分子中に有するアゾールシラン化合物を主成分とし、さらに溶媒として水または有機溶剤を含有することを特徴とするリードフレームまたはタブ用表面処理剤」の溶液に銅または銅合金基材を浸漬、散布あるいはスプレー等により接触させることによって、銅または銅合金基材の表面に変色防止機能と接着性向上機能が付与される理由は次の通りである。 【0025】すなわち、本発明に係る表面処理剤の主成分であるアゾールシラン化合物は、アゾール環またはアゾール環とベンゼン環の縮合環とアルコキシシリル基を1分子中に有するものである。ここで、アゾール環またはアゾール環とベンゼン環の縮合環には銅または銅合金に対する変色防止・防錆作用がある。また、同時に、アゾール環またはアゾール環とベンゼン環の縮合環には、エポキシ樹脂に対する硬化促進作用があることも知られている。 ・・・ 【0027】そして、銅または銅合金の表面で、アゾールシラン化合物分子中のアゾール環またはアゾール環とベンゼン環の縮合環部分が銅と配位結合を生じ、一方アルコキシシリル基はシロキサン結合を生じる。その結果、銅または銅合金に対する変色防止作用、エポキシ樹脂に対する硬化促進作用、接着力向上作用、耐熱・耐湿性向上作用が同時にもたらされることになる。」 6 甲A6の記載事項 (1)「【技術分野】 【0001】 本発明は、トリアゾールシラン化合物を含有する表面処理剤、該表面処理剤を使用した銅箔、プリプレグ、銅張積層板、層間絶縁材、樹脂付銅箔およびプリント配線板に関する。 また、本発明は、樹脂またはその硬化前化合物とトリアゾールシラン化合物とを含有する樹脂組成物、該樹脂組成物を使用したソルダーレジストインク、プリプレグ、銅張積層板、層間絶縁材、樹脂付銅箔、プリント配線板および半導体封止材料に関する。」 (2)「【0037】 一般に、分子中にアルコキシシリル基を有する物質は、シランカップリング剤として作用することが知られている。例えば、銅と樹脂材料との接着を例に挙げると、本発明の実施において使用するトリアゾールシラン化合物は、分子中にトリアゾール環とアルコキシシリル基(−Si−OR)を有しており、トリアゾール環は、樹脂および銅と相互作用し、化学結合を形成する。また、アルコキシシリル基は加水分解を受けて、ヒドロキシシリル基(−Si−OH)に変換され、このヒドロキシシリル基は銅の表面に点在する酸化銅と化学結合する。従って、銅と表面処理剤を接触させることにより、銅の表面にはトリアゾール環やヒドロキシシリル基との結合により、化学式(I)で示されるトリアゾールシラン化合物に由来する化成皮膜が形成されて、この化成皮膜の表面に樹脂層を形成させた場合には、銅の表面に直に樹脂層を形成させる場合に比べて、銅と樹脂との接着性を高めることができる。」 7 甲A7の記載事項 (1)「【請求項1】 金属表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 一分子中にアミノ基および芳香環を有する芳香族化合物;2以上のカルボキシ基を有する多塩基酸;ならびに次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、過硫酸、過炭酸、過酸化水素、有機過酸化物およびこれらの塩からなる一種以上の酸化剤を含み、 pHが4〜10の溶液である、被膜形成用組成物。」 (2)「【技術分野】 【0001】 本発明は、金属部材の表面に樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物に関する。さらに、本発明は被膜形成用組成物を用いた表面処理金属部材の製造方法、および金属‐樹脂複合体の製造方法に関する。」 (3)「【0013】 [被膜形成用組成物] 本発明の被膜形成用組成物は、金属表面への被膜形成に用いられる。被膜形成用組成物は、一分子中にアミノ基および芳香環を有する芳香族化合物、多塩基酸、および酸化剤を含む、pH4〜10の溶液である。以下、本発明の被膜形成用組成物に含まれる各成分について説明する。 ・・・ 【0016】 アミノ基は、第一級、第二級および第三級いずれでもよく、複素環式でもよい。アミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、間接的に結合していてもよい。芳香族化合物は、一分子中に2以上のアミノ基を有していてもよい。含窒素芳香環は、複素環式のアミノ基と芳香環の両方に該当する。そのため、上記の芳香環が含窒素芳香環である場合は、芳香環と別にアミノ基を有していなくてもよい。芳香族化合物は、第二級アミノ基および/または第一級アミノ基を有するものが好ましく、第一級アミノ基を有するものが特に好ましい。金属と樹脂との接着性に優れる被膜を形成可能であることから、芳香族化合物は、含窒素芳香環を含み、かつ含窒素芳香環にアルキレン基やアルキレンアミノ基等を介して間接的に結合した第一級アミノ基を有する化合物が好ましい。」 (4)「【0039】 (芳香族化合物の含有量) 被膜形成用組成物中の芳香族化合物の含有量は特に限定されないが、金属表面への被膜形成性を高める観点から、0.01〜10重量%が好ましく、0.03〜7重量%がより好ましく、0.05〜5重量%がさらに好ましい。」 (5)「【0043】 <酸化剤> 酸化剤は、金属表面への被膜形成を促進する成分である。従来の被膜形成剤では、一般に、金属表面にシランカップリング剤等を含む溶液が付着した状態で、乾燥を行い、被膜を形成している。これに対して、本発明の被膜形成用組成物は酸化剤を含むため、金属表面への溶液の接触時に、酸化剤の作用により金属表面が酸化され、金属と上記の芳香族化合物との相互作用が高められるために、被膜の形成が促進される。 【0044】 酸化剤としては、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、過マンガン酸、過硫酸、過炭酸、過酸化水素、有機過酸化物およびこれらの塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。中でも、被膜形成の促進性に優れることから、酸化剤としては、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過硫酸塩、過炭酸塩および過酸化水素が好ましく、具体的には、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過炭酸ナトリウムおよび過酸化水素が好ましい。これらの中でも、水溶液中での安定性が高いことから、次亜塩素酸ナトリウムおよび亜塩素酸ナトリウムが特に好ましい。 【0045】 金属表面への被膜形成性を高め、被膜形成に要する時間を短縮する観点から、被膜形成用組成物中の酸化剤の含有量は、0.01重量%以上が好ましく、0.03重量%以上がより好ましく、0.05重量%以上がさらに好ましい。」 (6)「【0049】 <他の成分> 本発明の被膜形成用組成物には、上記以外の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、ハロゲン化物イオン、キレート剤、シランカップリング剤、pH調整剤、界面活性剤、安定化剤等が挙げられる。 【0050】 被膜形成用組成物が酸化剤に加えてハロゲン化物イオンを含む場合に、金属表面への被膜形成性が向上する傾向がある。ハロゲン化物イオンの具体例としては、塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンが挙げられる。酸化剤との併用による被膜形成促進性に優れることから、ハロゲン化物イオンの中でも塩化物イオンが特に好ましい。ハロゲン化物イオン源としては、塩酸、臭化水素酸等のハロゲン化水素酸;塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化銅、臭化銅、塩化亜鉛、塩化鉄、臭化錫等が挙げられる。ハロゲン化物イオン源は2種以上を併用してもよい。被膜形成性を促進する観点から、ハロゲン化物イオンの濃度は5〜600mMが好ましく、10〜400mMがより好ましく、20〜200mMがさらに好ましい。」 (7)「【0053】 本発明の被膜形成用組成物のpHは、4〜10である。pHが4以上であれば、酸化剤と酸の作用に起因する金属表面のエッチングが抑制され、被膜形成性を向上できる。また、pHが上記範囲内であれば、溶液中での酸化剤の劣化(分解等)が生じ難く、溶液を調製後長時間連続または繰り返し使用可能であるため、溶液の交換や濃度調整の頻度が少なく、生産性を向上できる。被膜形成用組成物のpHは5〜9がより好ましい。pH調整剤としては、各種の酸およびアルカリを特に制限なく用いることができる。」 (8)「【0055】 [金属部材表面への被膜の形成] 金属部材の表面に上記の被膜形成用組成物を接触させ、必要に応じて溶媒を乾燥除去することにより、図1に示すように、金属部材11の表面に被膜12が形成される。被膜12は、樹脂との接着性向上用被膜であり、金属部材の表面に被膜が設けられることにより、金属部材と樹脂との接着性が向上する。 【0056】 金属部材としては、半導体ウェハー、電子基板およびリードフレーム等の電子部品、装飾品、ならびに建材等に使用される銅箔(電解銅箔、圧延銅箔)の表面や、銅めっき膜(無電解銅めっき膜、電解銅めっき膜)の表面、あるいは線状、棒状、管状、板状等の種々の用途の銅材が例示できる。特に、本発明の被膜形成用組成物は、銅または銅合金の表面への被膜形成性に優れている。そのため、金属部材としては、銅箔、銅めっき膜、および銅材等が好ましい。」 (9)「【0064】 [金属‐樹脂複合体] 表面処理金属部材10の被膜12形成面上に、樹脂部材20を接合することにより、図2に示す金属‐樹脂複合体50が得られる。なお、図2では、板状の金属部材11の片面にのみ被膜12を介して樹脂部材(樹脂層)20が積層されているが、金属部材の両面に樹脂部材が接合されてもよい。」 (10)「【0074】 シランカップリング剤Bは、下記式で表されるN,N’ビス(2‐アミノエチル)‐6‐(3‐トリエトキシシリルプロピル)アミノ‐1,3,5‐トリアジン‐2,4‐ジアミンであり、WO2013/186941号の実施例1に従って合成した。 【0075】 【化8】 ![]() 」 (11)「【0090】 実施例および比較例の溶液の組成、および評価結果を表1に示す。 【0091】 【表1】 ![]() 」 (12)「【図1】 ![]() 」 (13)「【図2】 ![]() 」 8 甲A8の記載事項 (1)「【技術分野】 【0001】 本発明は、後工程において高分子材料に接着させるために、銅及び銅合金等の金属の表面を処理して粗化するのに有用な組成物に関する。」 (2)「【0018】 被処理金属表面は、銅、銅合金、ニッケル及び鉄等の様々な金属を含んでもよい。しかしながら、本発明の方法は、金属表面が銅又は銅合金を含む場合に最良の結果を得る。高分子材料は、プリプレグ材料、画像形成可能な(imageable)誘電体、光画像形成可能な(photoimageable)樹脂、ソルダーマスク、接着剤、又は高分子エッチレジスト等を含む様々な高分子材料である。」 (3)「【0021】 一実施形態においては、本発明は、金属表面に対する高分子材料の接着性を向上させる方法に関し、該方法は以下の工程を含む。 a)金属表面を以下i)〜iv)を含む組成物と接触させる工程、 i)第二銅イオン源を含む酸化剤、 ii)有機酸及び無機酸の少なくともいずれか1つ、 iii)ハロゲン化物イオン源、及び iv)ポリ(エチレンアミノプロピオニトリル)ポリマー、並びに b)その後、前記金属表面に高分子材料を結合する工程。 【0022】 第二銅イオン源化合物としては、例えば、有機酸の第二銅塩、塩化第二銅、臭化第二銅、水酸化第二銅、及びそれらの1つ以上の組み合わせ等が挙げられる。好適な実施形態において、第二銅イオン源は、塩化第二銅である。前記組成物中における第二銅イオン源化合物の濃度は、通常、金属銅の量に基づいて、約0.01重量%〜20重量%である。第二銅イオン源化合物の量が少な過ぎると、金属表面のエッチングが遅くなる。量が多過ぎると、第二銅イオン源化合物を溶液に溶解することが困難となり、処理後の銅表面に汚れが付着する。」 9 甲A9の記載事項 (1)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、銅表面の付着特性を改善して次に適用されるコーティングを銅表面に完全且つ容易に付着せしめることに関し、さらに詳細には、銅表面に付着する次に適用されるコーティングの付着を改善するために、プリント回路に用いられる銅ホイルラミネートの表面を処理する改善された清浄且つ付着促進組成物及び方法に関する。」 (2)「【0020】クリナー/付着促進剤は、水、アルカンスルホン酸(一般にメタン又はエタンの何れか)、銅用の酸化剤、及び特定の界面活性剤よりなる。アルカンスルホン酸は、組成物の約5〜約60重量%、好ましくは約15〜約40重量%で用いられる。酸化剤は、組成物の約0.1〜約50重量%、好ましくは約1〜約15重量%そして最も好ましくは約5〜約10重量%に及び、もちろんすべて用いられる酸化剤のタイプに依存する。酸化剤は、硝酸第二鉄、過酸化物、塩化第二鉄及び塩化銅を含み、硝酸第二鉄が好ましい。界面活性剤は、組成物の約0.001〜約10重量%、好ましくは約0.01〜約3重量%に及ぶ。界面活性剤は、単独又は組合わせで、好ましくは非イオン性及びアニオン性界面活性剤を含む。非イオン性界面活性剤の例は、制限なく、3〜30モル好ましくは3.5モルのエチレンオキシドのエトキシレート化(ethoxylated) ノニル−及びオクチルフェノール、及びRohm & Haas から商標名TritonDF−16で入手できるような修飾ポリエトキシレート化直鎖アルコール;アルキルポリオキシアルキレンエーテル例えばMazer ChemicalからのMazawet DH;及びエチレンオキシド及びプロピレンオキシドのブロック共重合体例えばBASFからのPluronic 31RIを含む。アニオン性界面活性剤は、制限なく、スルホネート化アリール及びアルキル炭化水素例えばDesoto Inc. からのPetro BA;サルフェート化アリール及びアルキル炭化水素例えばAlcolac Inc.からのSipon BOS;及びホスフェートエステル例えばRohm & Haas からのTriton H−66を含む。」 10 甲A10の記載事項 (1)「技術分野 [0001] 本発明は金属(特に銅)の表面処理液およびその濃縮液、金属の表面処理液セットおよび表面処理方法ならびにプリント配線板の製造方法に関する。」 (2)「[0007] 本発明は、造膜性がより十分に高い、金属の表面処理液を提供することを目的とする。 [0008] 本発明において、「造膜性」は化成皮膜の造膜速度に関する性能のことである。」 (3)「[0018] [金属の表面処理液] 本発明に係る金属の表面処理液は、アゾールシランカップリング剤を含み、以下のイオンをさらに含む水溶液である: (A)1分子中、1つ〜3つの酸性基を有する有機酸イオン(本明細書中、「有機酸イオン(A)」ということがある); (B)無機酸(または鉱酸)イオン(本明細書中、「無機酸イオン(B)」ということがある); (C)アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオン(本明細書中、「アルカリイオン(C)」ということがある);および (D)銅イオン(本明細書中、「銅イオン(D)」ということがある)。 [0019] 本発明の表面処理液は、アゾールシランカップリング剤および上記(A)〜(D)のイオンを含むことにより、十分に高い造膜性を示す。その現象の詳細は明らかではなく、特定の理論に拘束されるわけではないが、以下のメカニズムに基づくものと考えられる。詳しくは、本発明の表面処理液は、上記(A)〜(C)のイオンの存在下で、化成皮膜を形成するアゾールシランカップリング剤および化成皮膜形成の補助的役割をする銅イオン(D)を含むことにより、以下の促進が達成される: (1)有機酸イオン(A)によるアゾールシランカップリング剤の溶解が促進される;および (2)アゾールシランカップリング剤による化成皮膜が形成される際に、無機酸イオン(B)およびアルカリイオン(C)による塩析効果により、化成皮膜の形成が促進される。 これらの結果、本発明の表面処理液を用いて金属(例えば銅)表面を処理(例えば浸漬処理)すると、化成皮膜の形成が相乗的に促進されて造膜性がより十分に高くなり、十分に厚い化成皮膜がより迅速に得られるようになる。化成皮膜の膜厚が厚くなると、金属表面においてアゾールシランカップリング剤の量が増えることで、化成皮膜が金属表面を均一かつ連続的に覆うようになる。これにより、化成皮膜の上にさらに樹脂層を形成した場合、化成皮膜において樹脂層と結合できる反応点が増えるため、金属表面と樹脂層との間でより強い密着性を得る効果が得られる。しかも、化成皮膜が厚くなることで、その後の工程で熱が付与される際に酸素の透過を抑える効果が高くなり、金属表面の酸化をより十分に抑制するため、耐熱性および耐酸化性を高くする効果も得られる。」 (4)「[0100] 第3成分としての無機酸イオン(B) 本発明の表面処理液は、(B)無機酸イオン(本明細書中、無機酸イオン(B)ということがある)を含む。無機酸イオン(B)は、アルカリイオン(C)とともに、液中の総イオン数を増やすことで、表面処理時において、塩析効果により、アゾールシランカップリング剤による化成皮膜の生成を促進する作用を有する。 [0101] 無機酸イオン(B)としては、例えば、硫酸イオン(SO42−)、硝酸イオン(NO3−)、リン酸イオン(PO43−)、塩化物イオン(Cl−)等が挙げられる。塩析効果に基づく造膜性のさらなる向上および環境負荷の低減の観点から、硫酸イオンが好ましい。無機酸イオン(A)は炭素原子と結合しておらず、詳しくは表面処理液(または水)中において、単独で遊離している。 [0102] 無機酸イオン(B)は、表面処理液(例えば、水)中で無機酸イオン(B)を提供し得る化合物(または添加剤)(本明細書中、無機酸化合物(b)ということがある)の形態で、表面処理液に添加および使用される。無機酸化合物(b)は無機酸イオン(B)の供給源である。 [0103] 無機酸化合物(b)は、無機酸ならびにその金属塩化合物およびアンモニウム塩化合物であり、例えば、硫酸、硝酸、リン酸、および塩酸等の無機酸;当該無機酸の銅、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、チタン、ニッケル、錫、鉄、銀、金等の金属(それらの水和物を含む)による金属塩化合物;および当該無機酸のアンモニウム塩化合物が挙げられる。無機酸の金属塩化合物は無機酸化合物(b)の溶解性の観点から、ナトリウム塩、カリウム塩およびアンモニウム塩からなる群から選択される1種以上であることが好ましく、ナトリウム塩およびカリウム塩からなる群から選択される1種以上であることがより好ましく、ナトリウム塩であることがさらに好ましい。 [0104] 無機酸のアルカリ金属塩(例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化ナトリウム、および塩化カリウム)は、後述のアルカリ金属イオン(C1)の供給源としても有用である。 無機酸のアンモニウム塩は、後述のアンモニウムイオン(C2)の供給源としても有用である。 無機酸の銅塩(例えば硫酸銅、硝酸銅、リン酸銅、および塩化銅)は、後述の銅イオン(D)の供給源としても有用である。 ・・・ [0113] アルカリ金属化合物(c1)として、例えば、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等など水溶性のものが挙げられる。 ・・・ [0116] アルカリ金属化合物(c1)およびアンモニウム化合物(c2)は、造膜性のさらなる向上、経済性の向上および表面処理液の濁り防止の観点から、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、アンモニア、硫酸アンモニウムが好ましく、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウムがより好ましい。 ・・・ [0123] 銅化合物(d)として、例えば、硫酸銅(およびその水和物(特に五水和物))、ギ酸銅(およびその水和物(特に四水和物))、硝酸銅、塩化銅、酢酸銅、水酸化銅、酸化銅、硫化銅、炭酸銅、臭化銅、リン酸銅、安息香酸銅が挙げられる。銅化合物(d)の溶解性の観点から硫酸銅、ギ酸銅、硝酸銅、酢酸銅であることが好ましい。 有機酸の銅塩(例えばギ酸銅および酢酸銅)は、前記の有機酸イオン(A)の供給源としても有用である。 無機酸の銅塩(例えば硫酸銅および硝酸銅)は、前記の無機酸イオン(B)の供給源としても有用である。」 (5)「実施例 [0187] 以下、本発明を実施例および比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 [0188] [使用材料] ・アゾールシランカップリング剤: 以下のアゾールシランカップリング剤AS−1〜AS−8を用いた。 [0189] [表1] ![]() 」 (6)「[0205] [実施例1〜45および比較例1〜17] (表面処理液の作成方法) イオン交換水を入れたビーカーに、アゾールシランカップリング剤、およびアルカリを除く添加剤成分をそれぞれ、表2A〜表12Aに示すように、所定量投入し、均一になるまで撹拌した。その後、アルカリを投入して均一になるまで撹拌することで所定のpHとなるように調整し、表面処理液を得た。 表面処理液中のケイ素の原子濃度、有機酸イオン濃度、無機酸イオン濃度、アルカリ金属イオンおよびアンモニウムイオンの合計濃度、銅イオン濃度、およびpHは表2B〜表12Bに記載の通りであった。 表面処理液に濁りがある場合、表面処理液を珪藻土でろ過して、透明な表面処理液を得た。ろ過および1日の放置後、透明性を有する表面処理液には「A」と、放置後に濁りが生成する表面処理液には「B」と評価した。」 (7)「[0210] [表3A] ![]() [0211] [表3B] ![]() 」 (8)「[0218] [表7A] ![]() [0219] [表7B] ![]() 」 11 甲S1の記載事項 上記7の甲A7の記載事項に摘記したとおり。 12 甲S2の記載事項 (1)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、プリント配線板等の銅または銅合金(以下、単に銅という)と樹脂との積層体の製造に有用な、銅と樹脂との接着性を向上させる方法に関する。」 (2)「【0011】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、銅表面をアゾール化合物および有機酸を含有する水溶液と接触させると、銅表面にアゾール化合物の厚い被膜が形成され、これによって樹脂との接着性が著しく向上することを見出した。即ち、本発明は、下記構成により達成される。」 (3)「【0022】本発明の方法に用いられる水溶液には、前記の如く、アゾール化合物の被膜が形成されうる限り、種々の添加剤を配合してもよい。例えばアゾール化合物を溶解させやすくするためのアルコールなどの水溶性溶剤、形成される被膜の均一性を向上させるためのポリエーテル、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体(プルロニックタイプ)、アミノ系ポリエーテルなどの非イオン系界面活性剤、アゾール化合物の被膜の形成性を向上させる酢酸亜鉛、水酸化亜鉛、ギ酸亜鉛、塩化銅、ギ酸銅、酢酸銅、酢酸鉛、酢酸ニッケル、硫化ニッケル等の金属化合物などを配合してもよい。」 13 甲S3の記載事項 (1)シランカップリング剤の一般特性1 「 ![]() 」(第4ページ) (2)シランカップリング剤の一般特性2 「 ![]() 」(第5ページ) なお、(1)の表と(2)の表は横方向に連続しており、KBM−603に関するデータを追加の枠線で囲っている。 (3)シランカップリング剤の水に対する溶解性 「 ![]() 」(第18ページ) 14 甲S4の記載事項 (1)弱電解質の電離平衡 「 ![]() 」(第275ページ) 15 甲S5の記載事項 (1)化学用語の意味(アミン) 「 ![]() 」(第21ページ) (2)化学用語の意味(硫酸銅(II)) 「 ![]() 」(第414ページ) 16 甲S6の記載事項 (1)再現実験結果1 「 ![]() 」(第5ページの表6:各実験水準の測定結果 左) (2)再現実験結果2 「 ![]() 」(第5ページの表6:各実験水準の測定結果 中) (3)再現実験結果3 「 ![]() 」(第5ページの表6:各実験水準の測定結果 右) 17 甲S7の記載事項 (1)再現実験結果 「 ![]() 」(第5ページ 表5 測定結果) 18 甲S8の記載事項 (1)再現実験結果 「 ![]() 」(第4ページ 表3.調整溶液の分析結果) 19 甲S9の記載事項 「 ![]() 」(第668ページ) 第7 当審の判断 以下に述べるように、特許異議申立書の申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。 1 取消理由1、申立人四国の申立理由2(サポート要件) (1)取消理由1の概要は、「比較例8に記載された組成物には、1.0N塩酸に由来するハロゲン化物イオン(塩化物イオン)が含まれており、かつ、末端の第一級アミノ基及び第二級アミノ基を有するシランカップリング剤Eと4.0mMの銅イオンが含まれ、溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で4.5であり、pHが5.3であるため、当該組成物は、本件訂正前の本件発明1、2の発明特定事項をすべて満たす被膜形成用組成物であると認められる。 しかしながら、比較例8は、シランカップリング剤による被膜が形成されていないため、本件訂正前の本件発明の課題を解決し得るものではなく、本件訂正前の本件発明1、2は、課題を解決するための手段が反映されておらず、本件訂正前の本件発明1、2及びこれらを引用する本件訂正前の本件発明3〜6は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない」というものである。 (2)取消理由1について検討する。 ア 上記第3のとおり、本件発明1、2は、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む被膜形成用組成物に係る発明であるから、本件訂正前の表2に記載されていた比較例8は、本件発明1、2の発明特定事項のすべてを満たす被膜形成用組成物ではない。 イ よって、取消理由1は解消した。 (3)以上によれば、本件発明1、2について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。また、本件発明3〜6についても同様である。 (4)小括 したがって、取消理由1、申立人四国の申立理由2によっては、本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。 2 取消理由2、申立人四国の申立理由4、5(サポート要件) (1)取消理由2の概要は、「一般に、アミノ基を有するシランカップリング剤であっても、第1級アミノ基又は第2級アミノ基とSi原子とが直鎖をなして結合されている場合と、アミノ基とSi原子との間に環構造を有する場合とでは、それぞれの化合物が示す特性は大きく異なるものであるから、銅イオン、ハロゲン化物イオンとの組成物とした際の物理化学的性質、すなわち、金属表面への被膜形成性やさらに得られた被膜の金属表面や樹脂との接着性等における作用効果も大きく変化し得るものであるので、実施例に記載されるシランカップリング剤以外を用いた場合にも、本件訂正前の本件発明の課題を解決し得るのかが明らかとは言えない。 したがって、実施例の結果を本件訂正前の本件発明の全てに対して拡張ないし一般化できると認めるに足る技術的根拠が存在しないので、本件訂正前の本件発明1〜6は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない」というものである。 (2)取消理由2について検討する。 ア 特許権者は令和 3年11月12日提出の意見書に添付して、以下の乙第1号証及び乙第2号証を提出した。 乙第1号証 国際公開第2018/186476号(甲A2と同じ) 乙第2号証 メック株式会社における実験成績証明書 (ア)乙第1号証の記載事項 上記第6の2の甲A2の記載事項に摘記したとおり。 (イ)乙第2号証の記載事項 a 「4.実験の目的 シランカップリング剤として、第1級アミノ基又は第2級アミノ基とSi原子とが直鎖をなして結合しておらず、アミノ基とSi原子との間に環構造を有するシランカップリング剤である下記の化学式を有する化合物(3−アミノ−1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,2,4−トリアゾール)を用いた場合に、特許第6779557号の発明の詳細な説明に記載された「金属表面に樹脂との接着性に優れる被膜を衛便に形成可能」との課題を解決し得ることを示す。 ![]() 」 b 「5.実験内容 5−1.シランカップリング剤の合成 実験の実施日:令和3年10月5日 国際公開第2018/186476号の実施例8(段落[0126])の記載に従い、下記の手順により、3−アミノ−1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,2,4−トリアゾール (分子量246.34、以下「シランカップリング剤X」と記載)を合成した。 3−アミノ−1,2,4−トリアゾール8.4g(0.100mol)および脱水N,N−ジメチルホルムアミド40mLからなる溶液へ、室温にて28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液19.3g(0.100mol)を加えて30分間撹拌した後、3−クロロプロピルトリメトキシシラン19.9g(0.100mol)を加え、90℃にて8時間撹拌した。懸濁状の反応液を3℃まで冷却した後、不溶物を濾去し、濾液の溶媒を減圧留去して黄褐色液体23.2g(収率94.2%)を得た。 5−2.組成物の調製、被膜形成性および樹脂接着性の評価 実験の実施日:令和3年10月8日〜19日 シランカップリング剤X、硫酸銅五水和物および臭化カリウムを、以下の表Aに示す濃度となるようにイオン交換水に溶解した後、 1.0N塩酸を加えて、溶液のpHを5.5に調整し、追加実施例A、追加比較例Bおよび追加比較例Cの溶液を調製した。 これらの溶液を用い、特許第6779557号の明細書【0057】【0061】〜【0064】の記載に従い、電解銅箔(三井金属鉱業社製 3EC−III)への被膜形成性(Si−Oピーク面積および外観)、樹脂接着性(ビルドアップフィルム(味の素ファインテック製「ABF」)の剥離強度)の評価を実施した。」 c 「6.実験結果 追加実施例A、追加比較例Bおよび追加比較例Cの溶液の組成ならびに評価結果を表Aに示す。 <表A> ![]() 表Aに示すように、臭化物イオンを含まない追加比較例Bおよび銅イオンを含まない追加比較例Cでは、溶液に60秒浸漬後のテストピースの赤外線吸収スペクトルにおいて、Si−Oピークが確認されなかったのに対して、シランカップリング剤X、臭化物イオンおよび銅イオンを含む追加実施例Aの溶液に浸漬後のテストピースでは、Si−Oピークが確認されたことから、被膜形成材としてのシランカップリング剤Xは、臭化物イオンおよび銅イオンを含む溶液(被膜形成用組成物)とすることにより、被膜形成性が向上しているといえる。 また、追加実施例Aの溶液に浸漬後のテストピースは、追加比較例Bの溶液に浸漬後のテストピースおよび追加比較例Cの溶液に浸漬後のテストピースに比べて、ビルドアップフィルムとの剥離強度が大きく、シランカップリング剤Xによる被膜が形成されたことにより、接着力が向上したと認められる。 これらの結果から、第1級アミノ基又は第2級アミノ基とSi原子とが直鎖をなして結合しておらず、アミノ基とSi原子との間に環構造を有するシランカップリング剤Xは、臭化物イオンおよび銅イオンを含む溶液(被膜形成用組成物)とすることにより、金属表面に樹脂との接着性に優れる被膜を簡便に形成可能であるといえる。」 イ 特許権者は上記意見書において以下のとおり主張する。 (ア)「シランカップリング剤のアルコキシシリル基は、それ自体が加水分解・縮合して被膜を形成する作用を有しており、アミノ基の窒素原子による銅(当審注:「樹脂」の誤記と認める。)表面への付着とアルコキシシリル基の加水分解縮合の両方の作用を発揮する上で、アミノ基とアルコキシシリル基(のSi原子)は、同一分子内に存在する必要があるといえるものの、同一の鎖上に存在すべき理由が存在するとは認められない。」(第7ページ) (イ)「本件訂正発明は、樹脂との接着性向上に寄与するシランカップリング剤による「被膜の形成性を促進する」との作用効果を奏する(当該課題を解決する)ものであって、シランカップリング剤による被膜そのものの物理化学的性質を変化させることにより、樹脂との接着性を向上しようとするものではない。」(第8ページ) (ウ)「シランカップリング剤として、乙第1号証の実施例8の化合物(3−アミノ−1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,2,4−トリアゾール、「シランカップリング剤X」)を用いた場合に、銅イオンおよびハロゲン化物イオンの存在下で被膜の形成が促進され、樹脂との接着性に優れる被膜が形成されることは、乙第2号証(実験成績証明書)により、具体的な実験例を以て示されている。」(第10ページ) ウ 申立人四国は令和 4年 1月20日提出の意見書に添付して、以下の甲第10号証を提出した。 甲第10号証 四国化成工業株式会社における実験成績証明書 (以下、「甲S10」という。) (ア)甲S10の記載事項 a 「1.実験の目的 被請求人から提出された乙第2号証(実験成績証明書)に対して再現実験を行い、乙第2号証の「6.実験結果」の再現性を確認する。」 b 「3.実験内容 3−1.シランカップリング剤の合成 国際公開第2018/186476号の実施例8(段落[0126])の記載に従い、下記の手順により、3−アミノ−1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,2,4−トリアゾール (分子量246.34、以下「シランカップリング剤X」と記載)を合成した。 3−アミノ−1,2,4−トリアゾール22.5g(0.268mol)および脱水N,N−ジメチルホルムアミド110mLからなる溶液へ、室温にて28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液51.6g(0.267mol)を加えて30分間撹拌した後、3−クロロプロピルトリメトキシシラン53.4g(0.269mol)を加え、86〜90℃にて8時間撹拌した。 懸濁状の反応液を3℃まで冷却した後、不溶物を濾去し、濾液の溶媒を減圧留去して、黄褐色液体58.7g(0.238mol、収率89.0%)を得た。 得られた液体の1H−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。 1H-NMR (DMSO-d6) δ:0.51(t, 2H), 1.73(m, 2H), 3.46(s, 9H), 3.86(t, 2H), 5.21(s, 2H), 7.91(s, 1H). この1H−NMRスペクトルデータより、得られた液体は、下記化学式で示される3−アミノ−1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,2,4−トリアゾールと同定した。 ![]() 3−2.組成物の調整および被膜形成性の評価 被請求人から提出された乙第2号証の「5−2.組成物の調整、被膜形成性および樹脂接着性の評価」に記載の手順を元に、以下の手順にて組成物の調整及び被膜形成性の評価を行った。 <組成物の調整> シランカップリング剤X、硫酸銅五水和物(富士フイルム和光純薬工業製、試薬特級)および臭化カリウム(富士フイルム和光純薬工業製、試薬1級)を以下の表1の実験例A〜Cに示す濃度となるようにイオン交換水(富士フイルム和光純薬工業製、精製水)に溶解し、マグネチックスターラーで30分以上撹拌した後、溶液のpH(以下、「pH調整前の溶液のpH」とする)を測定した。pH調整前の溶液のpHが5.5よりも大きい値となった場合には、1.0N塩酸(東京化成工業製)を加えて、溶波のpHを5.5に調整した。このようにして、実験例A〜Cの溶液を調整した。なお、実験例Aは乙第2号証の追加実施例Aに、実験例Bは追加比較例Bに、実験例Cは追加比較例Cに対応している。溶液の調整には以下の装置を用いた。 電子天秤:VIBRA社製ALE223H pH計:東亜ディーケーケー社製pH METER HM−30R (pH:4,7,9,10の標準液で校正した後、20℃±1℃で溶液のpHを測定した) マグネチックスターラー:アズワン社製CHPS−170DF(回転数:500rpm) 撹拌子:アズワン社製 C8×30 <被膜形成性の評価> 上記の手順により調整した溶液を用い、特許第6779557号の明細書【0057】【0061】〜【0063】の記載に従い、電解銅箔(三井金属鉱業製、3EC−III、厚み35μm)への被膜形成性(Si−Oピーク面積および外観)の評価を実施した。Si−Oピーク面積の評価のための赤外線吸収スペクトルの測定は以下のFT−IR分析装置および測定条件にて行った。 FT−IR分析装置:Perkin Elmer社製 Spectrum One 測定条件:反射吸収法(RAS法)により、検出器:DTGS、アクセサリー:RAS、分解能:4cm−1、積算回数:16回、入射角:80°の条件で測定した。」 c 「4.実験結果 実験例A〜Cの溶液の組成および評価結果を表1に示す。 <表1:溶液の組成および評価結果> ![]() 表1に示すように、実験例Aおよび実験例Bでは各成分をイオン交換水に溶解した溶液のpH(pH調整前の溶液のpH)が5.5よりも低い値となったため乙第2号証の「5−2.組成物の調整、被膜形成性および樹脂接着性の評価」に記載されている「1.0N塩酸を加えて、溶液のpHを5.5に調整」することは不可能であった。なお、確認のため、実験例Aおよび実験例BのpH調整前の溶液に1.0N塩酸を加えたが、pHは表1記載のpH調整前の溶液のpHからさらに低下し、「1.0N塩酸を加えて、溶液のpH5.5に調整」することはやはり不可能であった。そのため、実験例Aおよび実験例Bでは被膜形成性の評価は実施できなかった。 また、実験例Aおよび実験例BのpH調整前の溶液には沈殿が発生していた。実施例CのpH調整前の溶液には沈殿が発生しなかったことから、実験例Aおよび実験例Bで共通する成分であるシランカップリング剤XとCuSO4・5H2Oが溶液中で反応し沈殿が発生したと考えられる。沈殿の生成により溶液中のシランカップリング剤X(塩基性)が消費されたことで、pH調整前の溶液のpHが5.5よりも低い酸性の値になったと推測される。 なお、実験例Aおよび実験例Bの溶液の調整時における各成分の添加順序を変更したり、各成分を予めイオン交換水に溶解した溶液同士を混合したりしたが、pH調整前の溶液のpHや沈殿の発生有無には表1の結果と違いは見られなかった。 銅イオンを含まない実験例Cでは、pH調整後の溶液(25℃)に60秒浸漬後のテストピースの赤外線吸収スペクトル(図1および図2)において、1110cm−1付近にSi−Oに由来するピークが確認され、Si−Oのピーク面積は0.31であった。このことから、実験例Cにおいてテストピース上にシランカップジング剤Xに由来する被膜が形成されていると認められる。」 d 「これらの結果から、被請求人から提出された乙第2号証(実験成績証明書)の「6.実験結果」と本実験結果との比較において、実験例A(乙第2号証の追加実施例Aに相当)および実験例B(同追加比較例Bに相当)では溶液のpHおよび調整の可否に関して再現性が得られず、実験例C(同追加比較例Cに相当)ではSi−Oピークの有無に関して再現性が得られないことが確認された。」 エ 申立人四国は上記意見書において以下のとおり主張する。 (ア)申立人四国の再現実験の結果、「乙第2号証の結果の再現性が得られないことが確認された。」(第5ページ) オ 両者の主張について (ア)特許権者の上記主張によれば、アミノ基とSi原子との間に環構造を有するシランカップリング剤であっても、本件発明の課題は解決し得るものと認められる。 (イ)一方、申立人四国の甲S10による再現実験は、特許権者の実験と比較して、シランカップリング剤Xの合成時における原料の量と撹拌温度が以下のように異なっている。 3−アミノ−1,2,4−トリアゾールの量 特許権者 8.4g(0.100mol) 申立人四国 22.5g(0.268mol) 脱水N,N−ジメチルホルムアミドの量 特許権者 40ml 申立人四国 110ml(40mlの2.75倍) 28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液の量 特許権者 19.3g(0.100mol) 申立人四国 51.6g(0.267mol) 3−クロロプロピルトリメトキシシランの量 特許権者 19.9g(0.100mol) 申立人四国 53.4g(0.269mol) 撹拌温度 特許権者 90℃ 申立人四国 86〜90℃ (ウ)特許権者の実験は成功している一方で、申立人四国の実験では同様の結果が得られておらず、これら実験結果の差が実験条件の差により生じたのか、もしくは、明示的な記載のない実験条件により生じたのかは不明であるところ、申立人四国の再現実験結果に基づいて、直ちに特許権者の実験結果が間違いであり採用できないとまではいうことはできない。 (3)以上によれば、本件発明1〜6について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。 (4)小括 したがって、取消理由2、申立人四国の申立理由4、5によっては、本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立人秋山の申立理由1(進歩性) (1)甲A1に記載された発明 ア 甲A1には、「化学式(I)で示されるイミダゾールシラン化合物を成分とする金属の表面処理剤。 【化1】 ![]() (式中、R1〜R5は水素原子、炭素数1〜炭素数20のアルキル基またはフェニル基を表し、R6およびR7は水素原子または炭素数1〜炭素数3のアルキル基を表し、mは1〜3の整数を表し、nは0〜5の整数を表す。)」に関する発明が記載されている(上記第6の1(1))。 イ また、上記アの表面処理剤は、「金属と樹脂との接着性を向上させることができる金属の表面処理剤」であり、「該表面処理剤は銅または銅合金の表面処理に好適」なもので、「金属の表面に耐熱性と耐湿性に優れた化成皮膜を形成させることが可能であり、また金属と樹脂との接着性を向上させることが可能であ」る(上記第6の1(2)の段落【0005】、(4)の段落【0032】、(5)の段落【0072】)。そして、上記アの表面処理剤は、上記化学式(I)で示されるイミダゾールシラン化合物と水とを混合することにより調整される(上記第6の1(3)の段落【0027】)。 ウ さらに、上記アの表面処理剤の具体例として、以下の化学式(I−1)で示される、「1−[3−(イミダゾール−1−イル)プロピル]−3−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]ウレア」が記載されている(上記第6の1(4)の段落【0034】)。 ![]() エ そうすると、甲A1には、以下の発明(以下、「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲A1発明> 銅または銅合金の表面処理に好適な、樹脂との接着性を向上させることができる化成被膜を形成するための金属の表面処理剤であって、下記化学式(I−1)で示される化合物と水とを含有する、金属の表面処理剤。 ![]() (2)甲A2に記載された発明 ア 甲A2には、「下記化学式(IV)で示されるトリアゾールシラン化合物を含有する表面処理液。 [化5] ![]() (式中、X1およびX2は、同一または異なって、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基または炭素数1〜6のアルキルチオ基を表す。mは1〜12の整数を表す。nは0または1〜3の整数を表す。Rはメチル基またはエチル基を表す。但し、X1とX2が同時に水素原子である場合を除く。) 」に関する発明が記載されている(上記第6の2(1))。 イ また、上記アのトリアゾールシラン化合物を含有する表面処理液により形成される化成皮膜の層を介して、金属、無機材料、樹脂材料からなる群から選択される2つの材料を接着することで、互いの親和性を向上させることができるため、材質の異なる材料同士であってもより強固に接着することができ、前記の金属としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、錫、鉄、銀、金およびこれらの合金等が挙げられる。そして、上記アの表面処理液は、上記化学式(IV)で示されるトリアゾールシラン化合物と水とを混合することにより調整される(上記第6の2(4)の段落[0046]、(6)の[0087]、(8)の段落[0129])。 ウ さらに、「表面処理液の安定性や化成皮膜の均一性を向上させるために、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン等のハロゲンイオンや銅イオン、鉄イオン、亜鉛イオンなどの金属イオンを生成する物質を用いることもできる」ことも記載されている(上記第6の2(5))。 エ また、上記アのトリアゾールシラン化合物の具体例として、以下の化学式(V)で示される、3,5−ジアミノ−1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1,2,4−トリアゾール」が記載されている(上記第6の2(8)の実施例1)。 ![]() オ そうすると、甲A2には、以下の発明(以下、「甲A2発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲A2発明> 銅または銅合金の表面に、樹脂材料との接着用化成皮膜を形成するための表面処理液であって、下記化学式(V)で示される化合物、銅イオン、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン等のハロゲンイオン、水とを含有する、表面処理液。 ![]() (3)甲A3に記載された発明 ア 甲A3には、「下記化学式(IV)で示されるテトラゾールシラン化合物を含有する表面処理液。 [化5] ![]() (式(IV)中、Xは水素原子、炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、アリール基、アラルキル基、炭素数1〜6のアルキルチオ基または置換基を有してもよいアミノ基を表す。nは1〜12の整数を表す。Rはメチル基またはエチル基を表す。mは0または1〜3の整数を表す。)」に関する発明が記載されている(上記第6の3(1))。 イ また、上記アのテトラゾールシラン化合物を含有する表面処理液により形成される化成皮膜の層を介して、金属、無機材料、樹脂材料からなる群から選択される2つの材料を接着することで、互いの親和性を向上させることができるため、材質の異なる材料同士であってもより強固に接着することができ、前記の金属としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、錫、鉄、銀、金およびこれらの合金等が挙げられる。そして、上記アの表面処理液は、上記化学式(IV)で示されるテトラゾールシラン化合物と水とを混合することにより調整される(上記第6の3(5)の段落[0055]、(7)の[0096]、(9)の段落[0166])。 ウ さらに、「表面処理液の安定性や化成皮膜の均一性を向上させるために、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン等のハロゲンイオンや銅イオン、鉄イオン、亜鉛イオンなどの金属イオンを生成する物質を用いることもできる」ことも記載されている(上記第6の3(6))。 エ また、上記アのテトラゾールシラン化合物の具体例として、以下の化学式(Ia−6)で示される5−アミノ−1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−1H−テトラゾールと、化学式(Ib−6)で示される5−アミノ−2−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−2H−テトラゾールを、各々40:60の割合(モル%)で含む混合物」が記載されている(上記第6の2(9)の実施例6)。 ![]() オ そうすると、甲A3には、以下の発明(以下、「甲A3発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲A3発明> 銅または銅合金の表面に、樹脂材料との接着用化成皮膜を形成するための表面処理液であって、下記化学式(Ia−6)及び化学式(Ib−6)で示される化合物、銅イオン、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン等のハロゲンイオン、水とを含有する、表面処理液。 ![]() (4)本件発明1について ア 本件発明1と甲A1発明の対比・判断 (ア)対比 a 甲A1発明の「銅または銅合金の表面処理に好適な、樹脂との接着性を向上させることができる化成被膜を形成するための金属の表面処理剤」は、本件発明1の「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物」に相当する。 b 甲A1発明の「化学式(I−1)で示される化合物」は、第2級アミノ基を有するシランカップリング剤であるから、本件発明1の「第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤」に相当する。 c 甲A1発明の表面処理剤が、「化学式(I−1)で示される化合物と水とを含有する」ことは、表面処理剤が「溶液」であることを意味する。 d そうすると、本件発明1と甲A1発明とは、以下の一致点1−1において一致するとともに、以下の相違点A1−1で相違する。 <一致点1−1> 「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤を含む溶液である、 被膜形成用組成物。」である点。 <相違点A1−1> 本件発明1では、被膜形成用組成物が、「銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含」み、 「銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、 pHが2.8〜6.2である」のに対し、甲A1発明では、表面処理剤が上記特定を有するのか不明である点。 (イ)判断 a 甲A4〜甲A6に記載された事項 (a)甲A4には、「銅あるいは銅合金の表面を、2位長鎖アルキルイミダゾール化合物と銅イオンを含む処理液に接触させることを特徴とする銅及び銅合金の表面処理方法。」に関する事項が記載されている(特許請求の範囲(1))。 (b)また、「銅あるいは銅合金の表面に、2位長鎖アルキルイミダゾールの被膜を形成するに当り、2位長鎖アルキルイミダゾール化合物と銅イオンを含む処理液に接触させることにより、従来の方法に比べて低温且つ短時間の接触処理によって、充分な厚みの化成被膜が得られる」ことも記載されている(第2ページ左上欄第9〜14行)。 (c)上記(a)の「銅イオン」を生じる物質の代表的なものは、「銅粉、塩化第一銅、塩化第二銅、水酸化銅、リン酸銅、酢酸銅、硫酸銅、硝酸銅、臭化銅等であり、これらのうち特に塩化第一銅が好適である」ことも記載されている(第2ページ右上欄第18行〜左下欄第2行)。 (d)甲A5、甲A6には、アゾール系化合物に関する技術常識として、甲A5には、銅または銅合金と樹脂との接着力向上作用を生じさせるアゾールシラン化合物(アゾール系化合物の一種)を含有する表面処理剤において、当該表面処理剤を銅に接触させることによりアゾールシラン化合物の分子中のアゾール環が銅と配位結合する点が記載されており(上記第6の5(4))、甲A6には、トリアゾールシラン化合物(アゾール系化合物の一種)を含有する表面処理剤において、当該表面処理剤を銅に接触させることにより、トリアゾールシラン化合物の分子中に含まれるトリアゾール環が樹脂および銅と相互作用して化学結合を形成し、銅の表面にトリアゾールシラン化合物に由来する化成皮膜が形成され、当該化成皮膜により銅と樹脂との接着性が高まる点が記載されている(上記第6の6(2))。 b 相違点A1−1について (a)甲A1発明は、銅または銅合金の表面処理に好適な、樹脂との接着性を向上させることができる化成被膜を形成するために、イミダゾールシラン化合物を含有する表面処理剤に関するものであるから、上記a(b)の記載に基づき、低温且つ短時間の接触処理によって、充分な厚みの化成被膜を得るために、甲A1発明の表面処理剤に銅イオンを添加することは、当業者が容易になし得ることである。 (b)しかしながら、甲A4の実施例では、銅イオンが生じる物質として、塩化第一銅又は塩化第二銅を用いた処理液が記載されているため、塩化物イオンを含む場合の銅イオン濃度等の算出は可能であるが、甲A4の2位長鎖アルキルイミダゾール化合物を、甲A1発明の化合物に置換した上で、銅イオンが生じる物質として臭化銅を選択した際に、最適な銅イオン濃度等が上記相違点A1−1の条件を満たすものとなるかは不明である。 (c)よって、甲A1発明に、甲A4に記載される事項を適用しても、相違点A1−1に係る本件発明1の発明特定事項には想到し得ない。 (d)また、上記a(d)のとおり、甲A5及び甲A6には、アゾール系化合物に関する技術常識が記載されるに過ぎず、銅イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンの含有や、銅イオン濃度については記載されていないから、甲A1発明に、甲A5及び甲A6に記載される事項を適用しても、相違点A1−1に係る本件発明1の発明特定事項には想到し得ない。 c したがって、甲A1発明において、「銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオン」を加えた上で、「銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、pHが2.8〜6.2」とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 イ 本件発明1と甲A2発明の対比・判断 (ア)対比 a 甲A2発明の「銅または銅合金の表面に、樹脂材料との接着用化成皮膜を形成するための表面処理液」は、本件発明1の「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物」に相当する。 b 甲A2発明の「化学式(V)で示される化合物」は、第1級アミノ基を有するシランカップリング剤であるから、本件発明1の「第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤」に相当する。 c 甲A2発明の「銅イオン、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン等のハロゲンイオン」を含有することは、本件発明1の「銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む」に相当する。 d 甲A2発明の表面処理剤が、「上記化学式(V)で示される化合物と水とを含有する」ことは、表面処理剤が「溶液」であることを意味する。 e そうすると、本件発明1と甲A2発明とは、以下の一致点1−2において一致するとともに、以下の相違点A2−1で相違する。 <一致点1−2> 「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤、銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液である、 被膜形成用組成物。」である点。 <相違点A2−1> 本件発明1では、被膜形成用組成物の、「銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、 pHが2.8〜6.2である」のに対し、甲A2発明では、表面処理液が上記特定を有するのか不明である点。 (イ)判断 a 甲A4の実施例では、銅イオンが生じる物質として、塩化第一銅又は塩化第二銅を用いた処理液が記載されているため、塩化物イオンを含む場合の銅イオン濃度等の算出は可能であるが、銅イオンが生じる物質として臭化銅を選択した際に、最適な銅イオン濃度等が上記相違点A2−1の条件を満たすものとなるかは不明である。 b よって、甲A2発明に、甲A4に記載される事項を適用しても 、相違点A2−1に係る本件発明1の発明特定事項には想到し得ない。 c また、甲A5及び甲A6には、アゾール系化合物に関する技術常識が記載されるに過ぎないから、甲A2発明に、甲A5及び甲A6に記載される事項を適用しても、相違点A2−1に係る本件発明1の発明特定事項には想到し得ない。 d したがって、甲A2発明において、「銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、pHが2.8〜6.2」とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 ウ 本件発明1と甲A3発明の対比・判断 (ア)対比 a 甲A3発明の「銅または銅合金の表面に、樹脂材料との接着用化成皮膜を形成するための表面処理液」は、本件発明1の「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物」に相当する。 b 甲A3発明の「化学式(Ia−6)及び化学式(Ib−6)で示される化合物」は、第1級アミノ基を有するシランカップリング剤であるから、本件発明1の「第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤」に相当する。 c 甲A3発明の「銅イオン、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン等のハロゲンイオン」を含有することは、本件発明1の「銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む」に相当する。 d 甲A3発明の表面処理剤が、「化学式(Ia−6)及び化学式(Ib−6)で示される化合物と水とを含有する」ことは、表面処理剤が「溶液」であることを意味する。 e そうすると、本件発明1と甲A3発明とは、以下の一致点1−3において一致するとともに、以下の相違点A3−1で相違する。 <一致点1−3> 「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤、銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液である、 被膜形成用組成物。」である点。 <相違点A3−1> 本件発明1では、被膜形成用組成物の、「銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、 pHが2.8〜6.2である」のに対し、甲A3発明では、表面処理液が上記特定を有するのか不明である点。 (イ)判断 a 相違点A3−1についての判断は、上記イ(イ)の相違点A2−1についての判断と同様である。 b したがって、甲A3発明において、「銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、pHが2.8〜6.2」とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 エ 小括 したがって、本件発明1は、甲A1〜甲A3に記載された発明及び甲A4〜甲A6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)本件発明3〜6について 本件発明3〜6は、本件発明1の記載を引用するものであるが、上記(4)で述べたとおり、本件発明1が、甲A1〜甲A3に記載された発明及び甲A4〜甲A6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3〜6についても同様に、甲A1〜甲A3に記載された発明及び甲A4〜甲A6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 4 申立人秋山の申立理由2(進歩性) (1)甲A2、甲A3に記載された発明 甲A2発明、甲A3発明を再掲すると以下のとおりである。 <甲A2発明> 銅または銅合金の表面に、樹脂材料との接着用化成皮膜を形成するための表面処理液であって、下記化学式(V)で示される化合物、銅イオン、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン等のハロゲンイオン、水とを含有する、表面処理液。 ![]() <甲A3発明> 銅または銅合金の表面に、樹脂材料との接着用化成皮膜を形成するための表面処理液であって、下記化学式(Ia−6)及び化学式(Ib−6)で示される化合物、銅イオン、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン等のハロゲンイオン、水とを含有する、表面処理液。 ![]() (2)本件発明2について ア 本件発明2と甲A2発明の対比・判断 (ア)対比 a 甲A2発明の「化学式(V)で示される化合物」は、末端に−NH2基を有するシランカップリング剤であるから、本件発明2の「末端に−NH2基を有するシランカップリング剤」に相当する。 b 上記3(4)イ(ア)a、c、dの対比を踏まえると、本件発明2と甲A2発明とは、以下の一致点2−2において一致するとともに、以下の相違点A2−2で相違する。 <一致点2−2> 「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 末端に−NH2基を有するシランカップリング剤、銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液である、 被膜形成用組成物。」である点。 <相違点A2−2> 本件発明2では、被膜形成用組成物の、「銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、 pHが2.8〜6.2である」のに対し、甲A2発明では、表面処理液が上記特定を有するのか不明である点。 (イ)判断 a 相違点A2−2についての判断は、上記3(4)イ(イ)の相違点A2−1についての判断と同様である。 b したがって、甲A2発明において、「銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、pHが2.8〜6.2」とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 イ 本件発明2と甲A3発明の対比・判断 (ア)対比 a 甲A3発明の「化学式(Ia−6)及び化学式(Ib−6)で示される化合物」は、末端に−NH2基を有するシランカップリング剤であるから、本件発明1の「末端に−NH2基を有するシランカップリング剤」に相当する。 b 上記3(4)ウ(ア)a、c、dの対比を踏まえると、本件発明2と甲A3発明とは、以下の一致点2−3において一致するとともに、以下の相違点A3−2で相違する。 <一致点2−3> 「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 末端に−NH2基を有するシランカップリング剤、銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液である、 被膜形成用組成物。」である点。 <相違点A3−2> 本件発明2では、被膜形成用組成物の、「銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、 pHが2.8〜6.2である」のに対し、甲A3発明では、表面処理液が上記特定を有するのか不明である点。 (イ)判断 a 相違点A3−2についての判断は、上記3(4)イ(イ)の相違点A2−1についての判断と同様である。 b したがって、甲A3発明において、「銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、pHが2.8〜6.2」とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 ウ 小括 したがって、本件発明2は、甲A2、甲A3に記載された発明及び甲A4〜甲A6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明3〜6について 本件発明3〜6は、本件発明2の記載を引用するものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明2が、甲A2、甲A3に記載された発明及び甲A4〜甲A6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3〜6についても同様に、甲A2、甲A3に記載された発明及び甲A4〜甲A6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)申立人秋山の申立理由2のまとめ したがって申立人秋山の申立理由2によっては、本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。 5 申立人秋山の申立理由3(進歩性)、申立人四国の申立理由1(進歩性) (1)甲A7に記載された発明 ア 甲A7には、「金属表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 一分子中にアミノ基および芳香環を有する芳香族化合物;2以上のカルボキシ基を有する多塩基酸;ならびに次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、過硫酸、過炭酸、過酸化水素、有機過酸化物およびこれらの塩からなる一種以上の酸化剤を含み、 pHが4〜10の溶液である、被膜形成用組成物。」に関する発明が記載されている(上記第6の7(1))。 イ また、上記アの被膜が形成される金属に関し、「銅または銅合金の表面への被膜形成性に優れている」ことも記載されている(上記第6の7(8)の段落【0056】)。 ウ さらに、一分子中にアミノ基および芳香環を有する芳香族化合物として、下記式で表されるシランカップリング剤B(N,N’ビス(2‐アミノエチル)‐6‐(3‐トリエトキシシリルプロピル)アミノ‐1,3,5‐トリアジン‐2,4‐ジアミン)が例示されている。 ![]() エ 上記シランカップリング剤Bを含む実施例5、7に注目すると、甲A7には、以下の2つの発明(以下、それぞれ「甲A7発明5」、「甲A7発明7」という。)が記載されていると認められる。 <甲A7発明5> 銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 下記式で表されるシランカップリング剤B:0.4wt%、 マレイン酸:0.15wt%、 NaClO2:0.2wt%、を含む溶液であり、 pHが6.0である、 被膜形成用組成物。 ![]() <甲A7発明7> 銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 下記式で表されるシランカップリング剤B:0.3wt%、 マロン酸:0.2wt%、 過硫酸アンモニウム:0.8wt%、 塩化ナトリウム:0.2wt%、を含む溶液であり、 pHが6.0である、 被膜形成用組成物。 ![]() (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲A7発明5の対比・判断 (ア)対比 a 甲A7発明5の「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物」は、本件発明1の「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物」に相当する。 b 甲A7発明5の「シランカップリング剤B」は、第1級アミノ基及び第2級アミノ基を有するシランカップリング剤であるから、本件発明1の「第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤」に相当する。 c そうすると、本件発明1と甲A7発明5とは、以下の一致点1−4において一致するとともに、以下の相違点A7−1で相違する。 <一致点1−4> 「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤を含む溶液であり、 pHが2.8〜6.2である、 被膜形成用組成物。」である点。 <相違点A7−1> 本件発明1では、被膜形成用組成物が、「銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液であり、 銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であ」るのに対し、甲A7発明5では、被膜形成用組成物が上記特定を有するのか不明である点。 (イ)判断 a 甲A8、甲A9に記載された事項 (a)甲A8には、「後工程において高分子材料に接着させるために、銅及び銅合金等の金属の表面を処理して粗化するのに有用な組成物」に関する事項が記載されている(上記第6の8(1))。 (b)また、上記(a)の組成物として、以下i)〜iv)を含む組成物が記載されている(上記第6の8(3)の段落【0021】)。 i)第二銅イオン源を含む酸化剤、 ii)有機酸及び無機酸の少なくともいずれか1つ、 iii)ハロゲン化物イオン源、及び iv)ポリ(エチレンアミノプロピオニトリル)ポリマー、 (c)さらに、(b)の第二銅イオン源として、「有機酸の第二銅塩、塩化第二銅、臭化第二銅、水酸化第二銅、及びそれらの1つ以上の組み合わせ等が挙げられる。好適な実施形態において、第二銅イオン源は、塩化第二銅である。」との記載もある(上記第6の8(3)の段落【0022】)。 (d)甲A9には、「銅表面の付着特性を改善して次に適用されるコーティングを銅表面に完全且つ容易に付着せしめることに関し、さらに詳細には、銅表面に付着する次に適用されるコーティングの付着を改善するために、プリント回路に用いられる銅ホイルラミネートの表面を処理する改善された清浄且つ付着促進組成物及び方法」に関する事項が記載されている(上記第6の9(1))。 (e)また、上記(d)の付着促進組成物には、酸化剤に関し、「酸化剤は、組成物の約0.1〜約50重量%、好ましくは約1〜約15重量%そして最も好ましくは約5〜約10重量%に及び、もちろんすべて用いられる酸化剤のタイプに依存する。酸化剤は、硝酸第二鉄、過酸化物、塩化第二鉄及び塩化銅を含み、硝酸第二鉄が好ましい。」との記載もある(上記第6の9(2))。 b 相違点A7−1について (a)甲A7には、酸化剤に関し「酸化剤としては、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、過マンガン酸、過硫酸、過炭酸、過酸化水素、有機過酸化物およびこれらの塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。中でも、被膜形成の促進性に優れることから、酸化剤としては、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過硫酸塩、過炭酸塩および過酸化水素が好ましく、具体的には、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過炭酸ナトリウムおよび過酸化水素が好ましい。これらの中でも、水溶液中での安定性が高いことから、次亜塩素酸ナトリウムおよび亜塩素酸ナトリウムが特に好ましい。」との記載がある(上記第6の8(5)の段落【0044】)。 (b)甲A7発明5では、酸化剤として、「NaClO2」が含まれているが、上記(a)のとおり、「NaClO2」は、甲A7において特に好ましいとされている亜塩素酸ナトリウムであるから、甲A7に接した当業者が、「NaClO2」に換えて他の酸化剤を選択するとはいえない。 (c)仮に選択するとしても、当業者であれば、甲A8で好適とされている「塩化第二銅」や甲A9で好ましいとされている「硝酸第二鉄」を選択するといえる。仮に、甲A8で他の化合物と列記される「臭化第二銅」を選択した場合であっても、酸化剤として適正な量の「臭化第二銅」を添加した際に、銅イオン濃度等が上記相違点A7−1の条件を満たすものとなるかは不明である。 (d)以上のとおりであるから、甲A7発明5に、甲A8、甲A9に記載される事項を適用しても、相違点A7−1に係る本件発明1の発明特定事項には想到し得ない。 (e)したがって、甲A7発明5において、「銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオン」を加えた上で、「銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下」とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 イ 本件発明1と甲A7発明7の対比・判断 (ア)対比 a 甲A7発明7の「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物」は、本件発明1の「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物」に相当する。 b 甲A7発明7の「シランカップリング剤B」は、第1級アミノ基及び第2級アミノ基を有するシランカップリング剤であるから、本件発明1の「第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤」に相当する。 c そうすると、本件発明1と甲A7発明7とは、以下の一致点1−5において一致するとともに、以下の相違点A7−2で相違する。 <一致点1−5> 「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤を含む溶液であり、 pHが2.8〜6.2である、 被膜形成用組成物。」である点。 <相違点A7−2> 本件発明1では、被膜形成用組成物が、「銅イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液であり、 銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であ」るのに対し、甲A7発明7では、被膜形成用組成物が上記特定を有するのか不明である点。 (イ)判断 相違点A7−2について検討するにあたり、酸化剤を置換すると考えた場合の検討aとハロゲン化物イオン源を置換すると考えた場合の検討bの二通りの検討を行う。 a 相違点A7−2について(酸化剤の置換) (a)甲A7発明7では、酸化剤として、「過硫酸アンモニウム」が含まれているが、上記ア(イ)b(a)のとおり、甲A7では、次亜塩素酸ナトリウムおよび亜塩素酸ナトリウムが特に好ましいとされているから、甲A7に接した当業者が酸化剤を変更する場合、次亜塩素酸ナトリウム又は亜塩素酸ナトリウムを選択すると認められる。 (b)仮に他の酸化物を選択するとしても、当業者であれば、甲A8で好適とされている「塩化第二銅」や甲A9で好ましいとされている「硝酸第二鉄」を選択するといえる。仮に、甲A8で他の化合物と列記される「臭化第二銅」を選択した場合であっても、酸化剤として適正な量の「臭化第二銅」を添加した際に、銅イオン濃度等が上記相違点A7−2の条件を満たすものとなるかは不明である。 (c)以上のとおりであるから、甲A7発明7に、甲A8、甲A9に記載される事項を適用しても、相違点A7−2に係る本件発明1の発明特定事項には想到し得ない。 (d)したがって、甲A7発明7において、「銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオン」を加えた上で、「銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下」とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 b 相違点A7−2について(ハロゲン化物イオン源の置換) (a)甲A7には、ハロゲン化物イオン源として、塩化ナトリウムの他に、臭化銅が挙げられており、被膜形成性を促進する観点から、ハロゲン化物イオンの濃度は、5〜600mM程度、より好ましくは、20〜200mM程度とする点が記載されている(上記第6の7(6)の段落【0050】)。 そうすると、甲A7発明7において、ハロゲン化物イオン源である0.2wt%の塩化ナトリウムに代えて、臭化銅をハロゲン化物イオン源として用い、被膜形成用組成物中に銅イオンを含有させることは、当業者が容易になし得ることである。 (b)ここで、甲A7に記載の被膜形成用組成物に、銅イオンを含有させた組成物について、銅イオン濃度及び溶液中のCuの量に対するSiの量を検討する。 i シランカップリング剤Bの化学式は、C16H36N8O3Siであり、分子量は416.6となるから、被膜形成用組成物中のSiの濃度は、0.3[wt%]/100×1000[g/l]/416.6[g/mol]×1000=7.2mMとなる。 なお、被膜形成用組成物の密度は、水以外の含有成分は水に比べてごく微量であるから、1000g/lとした(以下同様)。 ii ハロゲン化物イオン源である0.2wt%の塩化ナトリウムに代えて、0.2wt%の臭化銅(I)又は0.2wt%の臭化銅(II)をハロゲン化物イオン源として用いた場合に、Cuの濃度は、それぞれ以下のように算出される。 なお、臭化銅(I)(CuBr)の分子量:143.5、臭化銅(II)(CuBr2)の分子量:223.4とした。 ・臭化銅(I)(CuBr)の場合 Cuの濃度=0.2[wt%]/100×1000[g/l]/143.5[g/mol]×1000=13.9mM ・臭化銅(II)(CuBr2)の場合 Cuの濃度=0.2[wt%]/100×1000[g/l]/223.4[g/mol]×1000=9.0mM これらは、「銅イオン濃度が、0.1〜60mM」を満たすものである。 iii 以上から、溶液中のCuの量に対するSiの量は、それぞれ以下のように算出される。 ・臭化銅(I)(CuBr)の場合 Si/Cu=7.2mM/13.9mM=0.52 ・臭化銅(II)(CuBr2)の場合 Si/Cu=7.2mM/9.0mM=0.80 これらは、「溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下」を満たすものである。 (c)次に、銅イオンを含有させたことによる効果について検討する。 本件特許明細書の実施例7と比較例3は、銅イオンの有無で異なる例であるが、これらのピール強度をみると、実施例7が0.46(N/mm)、比較例3が0.18(N/mm)であるから、銅イオンを加えることにより、ピール強度が約2.6倍に増加している。 この効果は格別顕著なものであって、当業者が予測し得ないものである。 ウ 小括 したがって、本件発明1は、甲A7に記載された発明及び甲A8、甲A9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明2について ア 本件発明2と甲A7発明5の対比・判断 (ア)対比 a 甲A7発明5のシランカップリング剤Bは、「末端に−NH2基を有するシランカップリング剤」であるから、本件発明2の「末端に−NH2基を有するシランカップリング剤」に相当する。 b 上記(2)ア(ア)aの対比を踏まえると、本件発明2と甲A7発明5とは、以下の一致点2−4において一致するとともに、以下の相違点A7−3で相違する。 <一致点2−4> 「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 末端に−NH2基を有するシランカップリング剤を含む溶液であり、 pHが2.8〜6.2である、 被膜形成用組成物。」である点。 <相違点A7−3> 本件発明2では、被膜形成用組成物が、「銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液であり、 銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であ」るのに対し、甲A7発明5では、被膜形成用組成物が上記特定を有するのか不明である点。 (イ)判断 a 相違点A7−3についての判断は、上記(2)ア(イ)bの相違点A7−1についての判断と同様である。 b したがって、甲A7発明5において、「銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオン」を加えた上で、「銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下」とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 イ 本件発明2と甲A7発明7の対比・判断 (ア)対比 a 甲A7発明7のシランカップリング剤Bは、「末端に−NH2基を有するシランカップリング剤」であるから、本件発明2の「末端に−NH2基を有するシランカップリング剤」に相当する。 b 上記(2)イ(ア)aの対比を踏まえると、本件発明2と甲A7発明7とは、以下の一致点2−5において一致するとともに、以下の相違点A7−4で相違する。 <一致点2−5> 「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 末端に−NH2基を有するシランカップリング剤を含む溶液であり、 pHが2.8〜6.2である、 被膜形成用組成物。」である点。 <相違点A7−4> 本件発明2では、被膜形成用組成物が、「銅イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液であり、 銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であ」るのに対し、甲A7発明7では、被膜形成用組成物が上記特定を有するのか不明である点。 (イ)判断 a 相違点A7−4についての判断は、上記(2)イ(イ)の相違点A7−2についての判断と同様である。 b したがって、甲A7発明7において、「銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含み、銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下」とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 ウ 小括 したがって、本件発明2は、甲A7に記載された発明及び甲A8、甲A9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明3〜6について 本件発明3〜6は、本件発明1、2の記載を引用するものであるが、上記(2)、(3)で述べたとおり、本件発明1、2が、甲A7に記載された発明及び甲A8、甲A9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3〜6についても同様に、甲A7に記載された発明及び甲A8、甲A9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)申立人四国の申立理由1(進歩性)の他の主張について ア 申立人四国は、特許異議申立書の第32〜38ページにおいて、甲A7発明7のシランカップリング剤Bに代えて、シランカップリング剤Cを使用することは、当業者が容易になし得ることである旨の主張をしている。 イ しかしながら、甲A7に接した当業者がシランカップリング剤Cを使用する場合、効果の実証されている実施例8、9を選択するのが自然であるから、実施例7のシランカップリング剤Bをシランカップリング剤Cに変更した上で、さらに塩化ナトリウムを臭化銅に置換することは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 ウ したがって、申立人四国の上記主張は採用できない。 (6)申立人秋山の申立理由3、申立人四国の申立理由1のまとめ したがって申立人秋山の申立理由3、申立人四国の申立理由1によっては、本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。 6 申立人秋山の申立理由4(拡大先願) (1)甲A10に記載された発明 ア 甲A10には、「金属(特に銅)の表面処理液およびその濃縮液、金属の表面処理液セットおよび表面処理方法ならびにプリント配線板の製造方法」に関する発明が記載されている(上記第6の10(1))。 イ また、甲A10には、上記アの表面処理液が、「アゾールシランカップリング剤を含み、以下のイオンをさらに含む水溶液である: (A)1分子中、1つ〜3つの酸性基を有する有機酸イオン(本明細書中、「有機酸イオン(A)」ということがある); (B)無機酸(または鉱酸)イオン(本明細書中、「無機酸イオン(B)」ということがある); (C)アルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオン(本明細書中、「アルカリイオン(C)」ということがある);および (D)銅イオン(本明細書中、「銅イオン(D)」ということがある)。」ことも記載されている(上記第6の10(3)の段落[0018]) ウ また、上記アの「表面処理液を用いて金属(例えば銅)表面を処理(例えば浸漬処理)すると、化成皮膜の形成が相乗的に促進されて造膜性がより十分に高くなり、十分に厚い化成皮膜がより迅速に得られるようになる。化成皮膜の膜厚が厚くなると、金属表面においてアゾールシランカップリング剤の量が増えることで、化成皮膜が金属表面を均一かつ連続的に覆うようになる。これにより、化成皮膜の上にさらに樹脂層を形成した場合、化成皮膜において樹脂層と結合できる反応点が増えるため、金属表面と樹脂層との間でより強い密着性を得る効果が得られる。」ものである(上記第6の10(3)の段落[0019]) エ 上記アのアゾールシランカップリング剤として、下記の化合物AS−1(3,5−ジアミノ−1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−1,2,4−トリアゾール)を用いた実施例6に注目すると、甲A10には、以下の発明(以下、「甲A10発明」という。)が記載されていると認められる。 ![]() AS−1 <甲A10発明> 銅の表面に、樹脂層との間でより強い密着性を得る化成皮膜の形成が促進される表面処理液であって、 シランカップリング剤AS−1 0.80重量%、 76%ギ酸 6.58重量%、 Na2SO4 3.10重量%、 48%NaOH 7.11重量%、 ギ酸銅四水和物 0.036重量%を含む水溶液であり、 ケイ素原子 0.074重量%(0.026mol/kg)、 有機酸イオン 4.90重量%(1.09mol/kg)、 無機酸イオン 2.10重量%(0.22mol/kg)、 アルカリ金属イオンおよびアンモニウムイオン 2.97重量%(1.29mol/kg)、 Cuイオン 0.010重量%(0.0016mol/kg)を含み、 pH 4.5である、 表面処理液。 ![]() AS−1 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲A10発明の対比・判断 (ア)対比 a 甲A10発明の「銅の表面に、樹脂層との間でより強い密着性を得る化成皮膜の形成が促進される表面処理液」は、本件発明1の「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物」に相当する。 b 甲A10発明の「シランカップリング剤AS−1」は、第1級アミノ基を有するシランカップリング剤であるから、本件発明1の「第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤」に相当する。 c また、甲A10発明の、銅イオン濃度は、被膜形成用組成物の密度を、1000g/lとすると、1.6mMとなり、Cuの量に対するSiの量は、モル比で16.25となる。 d そうすると、本件発明1と甲A10発明とは、以下の一致点1−6において一致するとともに、以下の相違点A10−1で相違する。 <一致点1−6> 「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤、銅イオンを含む溶液であり、 銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、 pHが2.8〜6.2である、 被膜形成用組成物。」である点。 <相違点A10−1> 本件発明1では、被膜形成用組成物が、「臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含」むのに対し、甲A10発明では、表面処理液が上記特定を有するのか不明である点。 (イ)判断 a 甲A10には、アルカリ金属化合物(c1)として、臭化ナトリウム及び臭化カリウムが例示され、銅化合物(d)として、臭化銅が例示されている(上記第6の10(4)の段落[0113]、[0123])。 b しかしながら、甲A10の段落[0116]には、「アルカリ金属化合物(c1)およびアンモニウム化合物(c2)は、造膜性のさらなる向上、経済性の向上および表面処理液の濁り防止の観点から、硫酸ナトリウム・・・が好ましく、硫酸ナトリウム・・・がより好ましい。」と記載され、段落[0123]には、「銅化合物(d)の溶解性の観点から・・・ギ酸銅・・・であることが好ましい。」と記載されているから、甲A10には、甲A10発明のNa2SO4及びギ酸銅四水和物を、臭化ナトリウム、臭化カリウム及び臭化銅に置換することが記載されているとはいえない。 c よって、相違点A10−1は実質的な相違点である。 d そして、相違点A10−1が、課題解決のための具体化手段における微差であると認められる事情はないから、本件発明1と甲A10発明とは実質同一であるとはいえない。 b したがって、本件発明1と甲A10に記載された発明と同一であるとはいえない。 (3)本件発明2について ア 本件発明2と甲A10発明の対比・判断 (ア)対比 a 甲10A発明の「シランカップリング剤AS−1」は、「末端に−NH2基を有するシランカップリング剤」であるから、本件発明2の「末端に−NH2基を有するシランカップリング剤」に相当する。 b 上記(2)ア(ア)aの対比を踏まえると、本件発明2と甲A10発明とは、以下の一致点2−6において一致するとともに、以下の相違点A10−2で相違する。 <一致点2−6> 「銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 末端に−NH2基を有するシランカップリング剤、銅イオンを含む溶液であり、 pHが2.8〜6.2である、 被膜形成用組成物。」である点。 <相違点A10−2> 本件発明2では、被膜形成用組成物が、「臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含み、 銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であ」るのに対し、甲A10発明では、表面処理液が上記特定を有するのか不明である点。 (イ)判断 a 相違点A10−2についての判断は、上記(2)ア(イ)aの相違点A10−1についての判断と同様である。 b したがって、本件発明2と甲A10に記載された発明と同一であるとはいえない。 (4)本件発明3〜6について 本件発明3〜6は、本件発明1、2の記載を引用するものであるが、上記(2)、(3)で述べたとおり、本件発明1、2が、甲A10に記載された発明と同一であるとはいえない以上、本件発明3〜6についても同様に、甲A10に記載された発明と同一であるとはいえない。 (5)申立人秋山の申立理由4のまとめ したがって申立人秋山の申立理由4によっては、本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。 7 申立人四国の申立理由3(実施可能要件) (1)申立人四国は、特許異議申立書の第45〜46ページの(アー1)において、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1〜6及び8〜10は、KBr等由来のハロゲン化物イオンとpH調整のために加えられた塩酸由来のハロゲン化物イオンとが含まれているため、KBr等由来のハロゲン化物イオン濃度が不明であり、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2及びこれらを引用する本件発明3〜6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない旨の主張をしている。 (2)しかしながら、ハロゲン化物イオン濃度が塩酸によって変化するとしても、本件発明は、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンが含まれることのみを特定する発明であるから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2及びこれらを引用する本件発明3〜6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。 (3)申立人四国の申立理由3のまとめ したがって申立人四国の申立理由3によっては、本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。 第8 まとめ 以上のとおりであるから、特許異議申立書の申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】被膜形成用組成物、表面処理金属部材の製造方法、および金属‐樹脂複合体の製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、金属部材の表面に樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物に関する。さらに、本発明は被膜形成用組成物を用いた表面処理金属部材の製造方法、および金属‐樹脂複合体の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 プリント配線板の製造工程においては、金属層や金属配線の表面に、エッチングレジスト、めっきレジスト、ソルダーレジスト、プリプレグ等の樹脂材料が接合される。プリント配線板の製造工程および製造後の製品においては、金属と樹脂との間に高い接着性が求められる。金属と樹脂との接着性を高めるために、金属の表面に樹脂との接着性を向上するための被膜(接着層)を形成する方法が知られている。 【0003】 例えば、特許文献1では、電解銅箔の表面をスズめっきした後、シランカップリング剤溶液に浸漬し、その後、水洗および加熱乾燥を行うことにより、銅箔と樹脂との接着性を向上できることが開示されている。特許文献2および特許文献3では、特定のシラン化合物を含有する溶液を金属の表面に接触させて被膜を形成することにより、金属と樹脂との接着性を向上できることが開示されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2009−263790号公報 【特許文献2】特開2015−214743号公報 【特許文献3】WO2013/186941号パンフレット 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 特許文献2,3に記載されているように、シラン化合物を含む組成物により被膜を形成する方法は、接着性向上のために別の金属層(例えば錫めっき層)を設ける必要がないため、金属と樹脂との接合工程を簡素化できるとの利点を有する。しかし、従来の組成物は、表面処理の効率や金属表面への膜付着性が低く、金属と樹脂との接着性が十分ではない場合がある。また、樹脂との接着性を十分に向上するためには、組成物(溶液)と金属との接触時間を長くしたり、金属の表面に溶液が付着した状態で溶媒を乾燥して被膜を形成する必要がある。 【0006】 上記に鑑み、本発明は、金属表面に樹脂との接着性に優れる被膜を簡便に形成可能な被膜形成用組成物の提供を目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者らが検討の結果、所定のシランカップリング剤、金属イオンおよびハロゲン化物イオンを含有する組成物が、金属表面への被膜形成性に優れ、かつ金属樹脂間の接着性を向上できることを見出し、本発明に至った。 【0008】 本発明の被膜形成用組成物は、窒素原子を含むシランカップリング剤、金属イオン、およびハロゲン化物イオンを含む溶液である。金属イオンは銅イオンが好ましく、溶液中の銅イオン濃度は0.1〜60mMが好ましい。溶液中のCuの量に対するSiの量は、モル比で30以下が好ましい。溶液のpHは2.8〜6.2が好ましい。 【0009】 金属部材の表面に上記被膜形成用組成物を接触させることにより、金属部材の表面に被膜が形成される。被膜が形成された表面処理金属部材は、樹脂との接着性に優れる。金属部材としては、銅または銅合金材料が挙げられる。 【発明の効果】 【0010】 本発明の被膜形成用組成物を用いて銅や銅合金等の金属部材表面に被膜を形成することにより、金属部材と樹脂との接着性を向上できる。上記被膜を介して金属部材と樹脂とを接合することにより、金属部材と樹脂部材との界面での接着性に優れる、金属‐樹脂複合体が得られる。 【図面の簡単な説明】 【0011】 【図1】表面処理金属部材の一形態を表す模式的断面図である。 【図2】金属‐樹脂複合体の一形態を表す模式的断面図である。 【発明を実施するための形態】 【0012】 [被膜形成用組成物] 本発明の被膜形成用組成物は、金属表面への被膜形成に用いられる。被膜形成用組成物は、シランカップリング剤、金属イオン、およびハロゲン化物イオンを含む、pH2.8〜6.2の溶液である。以下、被膜形成用組成物に含まれる各成分について説明する。 【0013】 <シランカップリング剤> シランカップリング剤は、被膜の主成分となる材料であり、下記一般式(I)で表される化合物である。 【0014】 【化1】 【0015】 一般式(I)において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、アルコキシ基またはアルキル基であり、R1〜R3のうち少なくとも1つはアルコキシ基または水酸基である。被膜形成性の観点からは、R1、R2およびR3の全てがアルコキシ基であることが好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。なお、アルコキシ基は、加水分解反応によって水酸基となっていてもよい。 【0016】 一般式(I)におけるnは1〜50の整数であり、好ましくは1〜10である。汎用のシランカップリング剤の多くは、n=3である。 【0017】 一般式(I)におけるXは、窒素原子を含む有機基であり、アミノ基を有するものが好ましい。アミノ基は、第一級アミノ基、第二級アミノ基および第三級アミノ基のいずれでもよいが、第一級アミノ基または第二級アミノ基が好ましい。 【0018】 アミノ基は複素環式のアミノ基でもよい。窒素原子を含む複素環における窒素原子は、第二級アミノ基または第三級アミノ基を構成している。窒素原子を含む複素環は芳香環であることが好ましい。含窒素芳香環としては、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、フラザン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、テトラジン、ペンタジン、アゼピン、ジアゼピン、トリアゼピン等の単環や、インドール、イソインドール、チエノインドール、インダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、ベンゾトリアゾール等の縮合二環;カルバゾール、アクリジン、β‐カルボリン、アクリドン、ペリミジン、フェナジン、フェナントリジン、フェノチアジン、フェノキサジン、フェナントロリン等の縮合三環;キンドリン、キニンドリン等の縮合四環;アクリンドリン等の縮合五環、等が挙げられる。含窒素芳香環を含むシランカップリング剤は、芳香環外にさらにアミノ基を有していてもよい。 【0019】 Xは、アミノ基とアミノ基以外の窒素含有官能基の両方を含んでいてもよい。Xは、末端に−NH2を有するものが好ましい。Xは、さらに、カルボニル、カルボキシ基、メルカプト基、エポキシ基、シリル基、シラノール基、アルコキシシリル基等の、窒素原子を含まない官能基を有していてもよい。 【0020】 窒素原子を含むシランカップリング剤の一例として、下記の一般式(II)で表される化合物が挙げられる。 【0021】 【化2】 【0022】 一般式(II)におけるR1〜R3およびnは、一般式(I)と同様である。R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子または任意の有機基であり、R4とR5が結合して環構造を形成してもよい。R4およびR5がアルキル基またはアミノアルキル基である場合、アルキル基の炭素数は6以下が好ましく、4以下がより好ましい。 【0023】 R4およびR5は、好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アミノアルキル基、またはアミノアルキルアミノアルキル基であり、R4とR5が結合して含窒素芳香環を形成していてもよい。中でも、R4が水素原子であり、R5がアルキル基、アリール基、アミノ基、アミノアルキル基またはアミノアルキルアミノアルキル基である形態、およびR4とR5が結合して含窒素芳香環を形成している形態が好ましい。R4が水素原子である場合、R5は、水素原子、アミノアルキル基またはアミノアルキルアミノアルキル基であることが好ましい。シランカップリング剤が末端に第一級アミノ基(−NH2)を有する場合に、被膜形成性が高められ、樹脂との接着性が向上する傾向がある。 【0024】 一般式(II)において、R4が水素原子であり、R5が水素原子、アミノアルキル基またはアミノアルキルアミノアルキル基であるシランカップリング剤の具体例としては、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルメチルジエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、[3−(6−アミノヘキシルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン等が挙げられる。 【0025】 窒素原子を含むシランカップリング剤は、下記の一般式(III)で表される化合物のように、1分子中に2個のSi原子を有していてもよい。 【0026】 【化3】 【0027】 一般式(III)におけるR1〜R3、R5およびnは、一般式(II)と同様である。R6〜R8はR1〜R3と同様であり、mはnと同様である。一般式(III)で表されるシランカップリング剤の具体例としては、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アミンビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アミンが挙げられる。 【0028】 シランカップリング剤として市販品を用いてもよい。後述のように、本発明の組成物は、シランカップリング剤に加えて、ハロゲン化物イオンおよび金属イオンを含むことにより、優れた被膜形成性を有する。そのため、窒素原子を含むシランカップリング剤であれば特に制限なく使用可能であり、特殊な構造のシランカップリング剤を用いることなく、汎用のシランカップリング剤により、樹脂との接着性に優れる被膜を簡便に形成できる。 【0029】 被膜形成用組成物中のシランカップリング剤の濃度は特に限定されないが、金属表面への被膜形成性と溶液の安定性とを両立する観点から、0.05〜15重量%が好ましく、0.1〜10重量%がより好ましく、0.2〜5重量%がさらに好ましい。シランカップリング剤の濃度が過度に小さいと、被膜形成速度が低下する傾向がある。一方、シランカップリング剤の濃度を上記範囲より高めても、被膜形成速度の顕著な上昇はみられず、シランカップリング剤の縮合等により溶液の安定性が低下する場合がある。被膜形成用組成物中の溶液中のシランカップリング剤に由来するSi原子の濃度は、0.5〜1000mMが好ましく、1〜500mMがより好ましく、3〜300mMまたは5〜200mMであってもよい。 【0030】 <ハロゲン化物イオン> ハロゲン化物イオンは、金属表面への被膜形成を促進する成分であり、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンから選択される1種以上が好ましい。ハロゲン化物イオンの中でも、被膜形成性、被膜の均一性および樹脂との接着性の観点から、臭化物イオンが特に好ましい。被膜形成用組成物中には2種以上のハロゲン化物イオンが含まれていてもよい。 【0031】 ハロゲン化物イオン源としては、臭化水素酸等のハロゲン化水素酸;臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化銅、臭化錫等が挙げられる。ハロゲン化物イオン源は2種以上を併用してもよい。臭化銅等のハロゲン化銅は、水溶液中で銅イオンとハロゲン化物イオンを生成するため、ハロゲン化物イオン源と銅イオン源の両方の作用を有するものとして使用できる。 【0032】 被膜形成用組成物中のハロゲン化物イオンの濃度は特に限定されず、例えば、0.1〜2000mMであり、0.5〜1500mM、1〜1000mMまたは3〜500mMであってもよい。 【0033】 <金属イオン> 金属イオンは、上記のハロゲン化物イオンとともに、金属表面への被膜形成を促進する成分である。金属イオンとしては、銅イオンが挙げられる。銅イオンは、第一銅イオンおよび第二銅イオンのいずれでもよい。銅イオン源としては、塩化銅、臭化銅等のハロゲン化銅;硫酸銅、硝酸銅等の無機酸塩;ギ酸銅、酢酸銅等の有機酸塩;水酸化銅;酸化銅等が挙げられる。前述のように、ハロゲン化銅は、ハロゲン化物イオン源と銅イオン源の両方の作用を有する。 【0034】 被膜形成に要する時間を短縮する観点から、被膜形成用組成物中の銅イオン濃度は0.1mM以上が好ましく、0.3mM以上がより好ましく、0.5mM以上、0.8mM以上または1mM以上であってもよい。一方、第二銅イオン濃度が高い場合は、被膜形成促進作用よりも、酸化による銅のエッチングの促進作用が大きくなるため、被膜の形成が阻害される。そのため、被膜形成用組成物中の銅イオン濃度は、60mM以下が好ましく、50mM以下がより好ましく、40mM以下、30mM以下または20mM以下であってもよい。 【0035】 被膜の形成を促進するためには、溶液中の銅イオン濃度が上記範囲であることに加えて、シランカップリング剤濃度と銅イオン濃度の比を調整することが重要である。シランカップリング剤由来のSiの量とCuの量とのモル比Si/Cuは30以下が好ましい。Si/Cuが30を超えると、シランカップリング剤に対する銅イオンの量が不足するため、被膜形成作用が不十分となる。Si/Cuは、25以下が好ましく、20以下がより好ましく、17以下または15以下であってもよい。一方、Si/Cuが過度に小さい場合は、被膜形成速度が低下したり、銅イオンによるエッチングの影響が大きくなる傾向がある。そのため、Si/Cuは、0.3以上が好ましく、0.5以上または1以上であってもよい。 【0036】 <溶媒> 上記の各成分を溶媒に溶解することにより、被膜形成用組成物が調製される。溶媒は、上記各成分を溶解可能であれば特に限定されず、水、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素等を用いることができる。水としては、イオン性物質や不純物を除去した水が好ましく、例えばイオン交換水、純水、超純水等が好ましく用いられる。 【0037】 <他の成分> 本発明の被膜形成用組成物には、上記以外の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、錯化剤、界面活性剤、安定化剤、窒素原子を含まないシランカップリング剤、pH調整剤等が挙げられる。窒素原子を含まないシランカップリング剤と銅イオンおよびハロゲン化物イオンとを含む溶液で金属表面を処理した場合は、表面にスマットが形成され、シランカップリング剤による被膜が形成され難い。一方、窒素原子を含むシランカップリング剤と窒素原子を含まないシランカップリング剤とを併用した場合は、窒素原子を含むシランカップリング剤のみを用いる場合と同様に、金属表面に短時間で被膜が形成される。 【0038】 錯化剤としては、キレート剤として作用するものが好ましい。例えば、銅のキレート剤としては、アミノ酸、多塩基酸、ヒドロキシ酸が挙げられる。キレート剤を含むことにより溶液中で金属イオンの安定性が向上し、沈殿が抑制されるため、被膜形成促進効果の向上が期待できる。 【0039】 pH調整剤としては、各種の酸およびアルカリを特に制限なく用いることができる。被膜形成用組成物のpHは、2.8〜6.2が好ましく、3.0〜6.0がより好ましい。pHが2.8以上であれば、金属表面のエッチングが抑制され、被膜形成性を向上できるとともに、金属の溶解量が少ないため溶液の安定性が向上する。また、pHが6.2以下であれば、溶液中での銅イオンの安定性が高いため、銅イオンによる被膜形成促進効果が高められる傾向がある。弱酸性のpH領域ではシランカップリング剤の縮合が抑制されることも被膜形成性向上に寄与している可能性が考えられる。 【0040】 金属の酸化によるエッチングを防止するために、被膜形成用組成物は、銅イオン等の金属イオン濃度が上記範囲内であるとともに、被膜形成対象の金属に対する酸化剤を実質的に含有しないことが好ましい。金属の酸化剤としては、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、過マンガン酸、過硫酸、過炭酸、過酸化水素、有機過酸化物およびこれらの塩が挙げられる。被膜形成用組成物中のこれらの酸化剤の含有量は、0.5重量%以下が好ましく、0.1重量%以下がより好ましく、0.05重量%以下がさらに好ましい。被膜形成用組成物が金属の酸化剤を実質的に含まないことにより、金属の溶出を低減し、溶液の安定性を向上できる。 【0041】 [金属部材表面への被膜の形成] 金属部材の表面に上記の被膜形成用組成物を接触させ、必要に応じて溶媒を乾燥除去することにより、図1に示すように、金属部材11の表面に被膜12が形成される。被膜12は、樹脂との接着性向上用被膜であり、金属部材の表面に被膜が設けられることにより、金属部材と樹脂との接着性が向上する。 【0042】 金属部材としては、半導体ウェハー、電子基板およびリードフレーム等の電子部品、装飾品、ならびに建材等に使用される銅箔(電解銅箔、圧延銅箔)の表面や、銅めっき膜(無電解銅めっき膜、電解銅めっき膜)の表面、あるいは線状、棒状、管状、板状等の種々の用途の銅材が例示できる。特に、本発明の被膜形成用組成物は、銅または銅合金の表面への被膜形成性に優れている。そのため、金属部材としては、銅箔、銅めっき膜、および銅材等が好ましい。金属部材の表面は平滑でもよく、粗化されていてもよい。粗化された金属部材の表面に被膜を形成することにより、金属部材と樹脂との密着性をさらに向上できる。 【0043】 上記の通り、本発明の被膜形成用組成物を用いることにより、金属のエッチングを抑制しながらシランカップリング剤の被膜を形成できる。そのため、プリント配線板の銅配線等の細線への適用も可能である。 【0044】 金属部材表面への被膜の形成は、例えば以下のような条件で行われる。 まず、酸等により、金属部材の表面を洗浄する。次に、上記の被膜形成用組成物に金属表面を浸漬し、2秒〜5分間程度浸漬処理をする。この際の溶液の温度は、10〜50℃程度が好ましく、より好ましくは15〜35℃程度である。浸漬処理では、必要に応じて搖動を行ってもよい。その後、乾燥または洗浄等により、金属表面に付着した溶液を除去することにより、金属部材11の表面に被膜12を有する表面処理金属部材10が得られる。 【0045】 前述のように、従来の被膜形成用組成物では、金属部材の浸潰処理後、金属部材の表面に溶液が付着した状態で乾燥し、溶液を濃縮・乾固させて被膜を形成する必要がある。これに対して、本発明の被膜形成用組成物は、溶液への浸漬中(空気に接触していない状態)においても金属表面に被膜が形成される。そのため、溶液への浸漬後、金属表面に溶液が付着した状態で風乾等を実施せずに、金属表面に付着した溶液を洗浄除去する場合でも、樹脂との接着性に優れる被膜を金属表面にむらなく形成できる。金属表面に溶液が付着した状態で空気中での乾燥を実施する場合でも、短時間の乾燥処理で、樹脂との接着性に優れる被膜を金属表面に形成できる。そのため、金属表面への被膜形成に要する時間を短縮できるとともに、被膜形成の工程を簡略化できる。 【0046】 窒素原子を含むシランカップリング剤に加えてハロゲン化物イオンおよび金属イオンを含むことにより被膜形成性が向上する理由は定かではないが、1つの推定要因として、銅イオンとハロゲン化物イオンとが金属表面に作用する際に、窒素原子を含むシランカップリング剤が取り込まれ、金属表面に吸着することが、金属表面への被膜形成に寄与していることが考えられる。本実施形態では、溶液中に銅イオンおよびハロゲン化物イオンを含むため、含窒素芳香族以外の窒素原子であっても、銅イオンおよびハロゲン化物イオンとともに金属表面に作用して、被膜が形成されると考えられる。 【0047】 金属表面に溶液が付着した被膜形成用組成物の洗浄には、水または水溶液を用いればよい。特に、薄酸またはアルカリ水溶液により洗浄を行った場合に、被膜のムラが低減し、樹脂との接着性が向上する傾向がある。薄酸としては例えば0.1〜6重量%程度の硫酸または塩酸が好ましく、アルカリとしては、0.1〜5重量%程度のNaOH水溶液またはKOH水溶液が好ましい。 【0048】 本発明の被膜形成用組成物を用いることにより、浸漬やスプレー等により金属部材の表面に被膜形成用組成物を接触させた後、金属部材の表面に付着した溶液を除去するまでの時間(浸漬の場合は溶液から金属部材を取り出してから洗浄を行うまでの時間;スプレーの場合はスプレー終了後に洗浄を行うまでの時間)が2分以内でも、樹脂との接着性に優れる被膜を金属表面に形成できる。生産効率向上の観点から、金属部材の表面に被膜形成用組成物を接触させた後、金属部材の表面に付着した溶液の除去(洗浄)を実施するまでの時間は、1.5分以内または1分以内であってもよい。 【0049】 上記の様に、本発明の被膜形成用組成物は、溶液中での被膜形成性に優れ、かつ金属表面への吸着性が高いため、浸漬処理のみでも金属表面に被膜を形成可能であり、浸漬後に乾燥を行わずに金属表面を洗浄して溶液を除去しても、金属表面への被膜形成状態が維持される。また、金属と他の材料との複合部材に対して被膜形成用組成物を適用した場合、金属表面に選択的に被膜を形成できる。 【0050】 なお、図1では、板状の金属部材11の片面にのみ被膜12が形成されているが、金属部材の両面に被膜が形成されてもよい。被膜は樹脂との接合面の全体に形成されることが好ましい。金属部材表面への被膜の形成方法は、浸漬法に限定されず、スプレー法やバーコート法等の適宜の塗布方法を選択できる。 【0051】 [金属‐樹脂複合体] 表面処理金属部材10の被膜12形成面上に、樹脂部材20を接合することにより、図2に示す金属‐樹脂複合体50が得られる。なお、図2では、板状の金属部材11の片面にのみ被膜12を介して樹脂部材(樹脂層)20が積層されているが、金属部材の両面に樹脂部材が接合されてもよい。 【0052】 被膜上に樹脂部材を形成する前に、被膜表面の濡れ性向上や、保管環境に応じた処理を実施してもよい。また、被膜上に樹脂部材を形成する前に、加熱等の処理を実施してもよい。上記の組成物により形成された被膜は、加熱による劣化が少ないため、樹脂部材の形成前や、樹脂部材形成時に加熱を行う場合でも、金属と樹脂間の高い接着性を発揮できる。 【0053】 表面処理金属部材10と樹脂部材20との接合方法としては、積層プレス、ラミネート、塗布、射出成形、トランスファーモールド成形等の方法を採用できる。樹脂層を形成後に、加熱や活性光線の照射により樹脂の硬化を行ってもよい。 【0054】 上記樹脂部材を構成する樹脂は、特に限定されず、アクリロニトリル/スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリプロピレン、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、シアネートエステル等の熱硬化性樹脂、あるいは紫外線硬化性エポキシ樹脂、紫外線硬化性アクリル樹脂等の紫外線硬化性樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は官能基によって変性されていてもよく、ガラス繊維、アラミド繊維、その他の繊維等で強化されていてもよい。 【0055】 本発明の被膜形成用組成物を用いて金属表面に形成された被膜は、金属と樹脂との接着性に優れるため、他の層を介することなく、金属部材表面に設けられた被膜12上に直接樹脂部材20を接合できる。すなわち、本発明の被膜形成用組成物を用いることにより、他の処理を行わずとも、金属部材表面に被膜を形成し、その上に直接樹脂部材を接合するのみで、高い接着性を有する金属‐樹脂複合体が得られる。 【実施例】 【0056】 以下に、本発明の実施例を比較例と併せて説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。 【0057】 [試験用銅箔の準備] 電解銅箔(三井金属鉱業社製 3EC−III、厚み35μm)を100mm×100mmに裁断し、常温の6.25重量%硫酸水溶液に20秒間浸漬揺動して除錆処理を行った後、水洗・乾燥したものを試験用銅箔(テストピース)として使用した。 【0058】 [溶液の調製] 表1および表2に示す成分を所定の配合量(濃度)となるようにイオン交換水に溶解した後、表1および表2に示すpHとなるように、1.0N塩酸または1.0N水酸化ナトリウム水溶液を加えて、溶液を調製した。 【0059】 表1および表2におけるシランカップリング剤A〜Mは下記の通りである。 シランカップリング剤A:3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン シランカップリング剤B:3−アミノプロピルトリメトキシシラン シランカップリング剤C:3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメチルメトキシシラン シランカップリング剤D:3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン シランカップリング剤E:3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン シランカップリング剤F:トリメトキシ[3−(フェニルアミノ)プロピル]シラン シランカップリング剤G:3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン シランカップリング剤H:[3−(6−アミノヘキシルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン シランカップリング剤I:3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン シランカップリング剤J:3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン シランカップリング剤K:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン シランカップリング剤L:下記式で表されるベンゾトリアゾール系シランカップリング剤(N−(3−トリメトキシシリルプロピル)ベンゾトリアゾール−1−カルボキサミド) 【化4】 シランカップリング剤M:下記式で表されるトリアゾール系シランカップリング剤(N−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−5−アミノ−3−[3−(トリエトキシシリル)プロピルチオ]−1H−1,2,4−トリアゾール−1−カルボキサミド) 【化5】 【0060】 シランカップリング剤A〜Kは市販品を用いた。シランカップリング剤Lは、特開2016−79130号公報の実施例1に基づいて合成した。シランカップリング剤Mは、特開2018−16865号公報の参考例4−1に基づいて合成した。 【0061】 [評価] 表1および表2の溶液(25℃)中に、テストピースを60秒間摺動浸漬した後、テストピースを溶液から取り出し、直後に水洗を行い、その後室温で乾燥を行った。テストピースの赤外線吸収スペクトルにおける1110cm−1付近のSi−Oのピーク面積、および外観の目視から、被膜形成性を評価した。 【0062】 <Si−Oピーク面積> 赤外線吸収スペクトルは、FT−IR分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック製「NICOLET380」を用い、反射吸収法(RAS法)により、検出器:DLaTGS/KBr、アクセサリー:RAS、分解能:8cm−1、積算回数:16回、入射角:75°の条件で測定した。波数を横軸、吸光度を縦軸とするIRスペクトルにおいて、波数1180cm−1の測定点と波数1070cm−1の測定点とを結ぶ直線をベースラインとして、このベースラインとスペクトルの曲線とで囲まれた領域の面積を、Si−Oのピーク面積とした。なお、比較例1〜10では、1110cm−1付近にピークが確認されなかったため、ピーク面積を0とした。 【0063】 <外観> 目視により、下記の基準で評価した。 A:銅箔の光沢を保持していたもの B:銅箔の表面が粗化されて光沢を失っていたもの C:銅箔の表面にスマットが析出して光沢を失っていたもの 【0064】 <樹脂接着性> 上記の被膜形成処理を行ったテストピースを、大気下で130℃60分間加熱して熱劣化させた後、テストピース上に、ビルドアップフィルム(味の素ファインテック製「ABF」を真空ラミネートし、推奨条件で加熱してフィルムを熱硬化させた。テストピースのフィルム積層面と反対側から、銅箔に、幅10mm×長さ60mmの切り込みを入れ、銅箔の先端をつかみ具で把持して、JIS C6481に準拠して50mm/分の剥離速度で60mmの長さにわたって90°剥離試験を行い、剥離強度を測定した。 【0065】 実施例、参考例および比較例の溶液の組成および評価結果を、表1および表2に示す。 【0066】 【表1】 【0067】 【表2】 【0068】 アミノ基を含むシランカップリング剤、銅イオンおよびハロゲン化物イオンを含む溶液で銅箔の処理を行った実施例1,3,5〜12および参考例2,4では、溶液への浸漬処理後に、銅箔の金属光沢を保っており、かつ赤外線吸収スペクトルでSi−O由来のピークが確認されたことから、シランカップリング剤による被膜が形成されたことが分かる。実施例1,3,5〜12および参考例2,4では、銅箔とビルドアップフィルムとの剥離強度が0.3N/mm以上であり、優れた接着性を示した。Si−Oピーク面積と剥離強度(接着力)には相関がみられ、Si−Oピーク面積が大きいほど接着力が高くなる傾向があることから、シランカップリング剤による被膜の形成が接着力向上に寄与していると考えられる。 【0069】 銅イオンを含まない比較例3では、被膜が形成されていなかった。実施例5のシランカップリング剤Eを、窒素原子を含まないシランカップリング剤Kに変更した比較例1では、被膜が形成されていなかった。窒素原子を含まないシランカップリング剤Jを用いた比較例2も同様であった。また、比較例2では、銅箔表面にスマットが析出しており、接着強度の著しい低下がみられた。 【0070】 一方、アミノ基を含むシランカップリング剤Eと、窒素原子を含まないシランカップリング剤Jを併用した実施例6では、スマットは生成しておらず、実施例5と同等の優れた接着強度を示した。これらの結果から、アミノ基を含むシランカップリング剤が、溶液中の銅イオンおよびハロゲン化物イオンと相互作用することにより、シランカップリング剤による被膜の形成が促進されたと考えられる。 【0071】 銅イオン濃度が高い比較例5および比較例9では、被膜が形成されておらず、銅のエッチングにより表面が粗化されていた。これらの比較例では、銅イオン濃度が高いために、シランカップリング剤による被膜の形成よりも、銅イオンによる銅の酸化(エッチング)作用が大きいために、被膜が形成されなかったと考えられる。 【0072】 Si/Cu比が大きく、シランカップリング剤に対する銅の量が少ない比較例4および比較例10では、被膜が形成されていなかった。なお、比較例10と銅イオン濃度が同一の実施例9では被膜が形成され樹脂との接着性が良好であった。これらの結果から、Si/Cu比が重要であり、比較例4および比較例10では、シランカップリング剤が過剰であったために、溶液中の銅イオンがシランカップリング剤により安定化され、銅イオンと銅箔表面との相互作用が小さい等の理由により、被膜形成促進効果が十分に発揮されず、浸漬のみでは被膜が形成されなかったと考えられる。 【0073】 実施例5と同一の配合でpHが低い比較例6では、被膜が形成されておらず、銅のエッチングにより表面が粗化されていた。低pH領域では、銅イオンによるエッチング作用が高いために、シランカップリング剤による被膜の形成よりも、銅イオンによるエッチング作用が大きいと考えられる。 【0074】 実施例5と同一の配合でpHが高い比較例7では、被膜が形成されていなかった。中性付近のpHでは、溶液中での銅イオンの安定性が低く、銅イオンによる被膜形成促進効果が不十分であったことが、被膜が形成されなかった要因の1つであると考えられる。 【0075】 以上の結果から、窒素原子を含むシランカップリング剤、銅イオンおよびハロゲン化物イオンを含み、Si/Cu比およびpHが所定範囲の溶液を用いて金属表面を処理することにより、短時間の浸漬のみでシランカップリング剤の被膜が形成され、金属と樹脂との接着性に優れる複合体を形成可能であることが分かる。シランカップリング剤は、窒素原子を含んでいればよく、実施例1,3,5〜9のように、汎用のシランカップリング剤を用いても、金属表面に、樹脂との接着性向上に寄与する被膜を容易に形成可能である。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 第一級アミノ基または第二級アミノ基を有するシランカップリング剤、銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液であり、 銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、 pHが2.8〜6.2である、 被膜形成用組成物。 【請求項2】 銅または銅合金の表面に、樹脂との接着性向上用被膜を形成するための被膜形成用組成物であって、 末端に−NH2基を有するシランカップリング剤、銅イオン、ならびに臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択される1種以上のハロゲン化物イオンを含む溶液であり、 銅イオン濃度が、0.1〜60mMであり、 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で30以下であり、 pHが2.8〜6.2である、 被膜形成用組成物。 【請求項3】 溶液中のCuの量に対するSiの量がモル比で0.3以上である、請求項1または2に記載の被膜形成用組成物。 【請求項4】 前記ハロゲン化物イオンの濃度が0.3mM以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物。 【請求項5】 銅または銅合金の金属部材の表面に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の被膜形成用組成物を接触させることにより、金属部材の表面に被膜が形成される、表面処理金属部材の製造方法。 【請求項6】 請求項5に記載の方法により銅または銅合金の金属部材の表面に被膜を形成後、前記被膜上に樹脂部材を接合する、金属‐樹脂複合体の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-04-28 |
出願番号 | P2020-123895 |
審決分類 |
P
1
651・
161-
YAA
(C23C)
P 1 651・ 121- YAA (C23C) P 1 651・ 536- YAA (C23C) P 1 651・ 537- YAA (C23C) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
平塚 政宏 佐藤 陽一 |
登録日 | 2020-10-16 |
登録番号 | 6779557 |
権利者 | メック株式会社 |
発明の名称 | 被膜形成用組成物、表面処理金属部材の製造方法、および金属‐樹脂複合体の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人はるか国際特許事務所 |
代理人 | 村石 桂一 |
代理人 | 新宅 将人 |
代理人 | 特許業務法人はるか国際特許事務所 |
代理人 | 新宅 将人 |
代理人 | 江間 晴彦 |