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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B05D 審判 全部申し立て 2項進歩性 B05D 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B05D 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B05D |
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管理番号 | 1386126 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-06-23 |
確定日 | 2022-04-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6805401号発明「複層塗膜形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6805401号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−7]について訂正することを認める。 特許第6805401号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6805401号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)7月9日(優先権主張 2019年(令和1年)11月22日)を国際出願日とする特許出願であって、令和2年12月7日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和3年6月23日に特許異議申立人 ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされ、同年9月10日付けで取消理由が通知され、同年11月15日に特許権者 関西ペイント株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年11月19日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、特許異議申立人から応答がなったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。) <訂正事項> 特許請求の範囲の請求項1の「前記第2着色塗膜の波長400nm以上700nm以下の光線透過率が、15%以上30%未満の範囲内であり、」との記載を、 「前記第2着色塗膜の波長400nm以上700nm以下の光線透過率が、15%以上30%未満の範囲内であり、 前記第2着色塗膜の膜厚が、硬化塗膜に基づいて5〜11μmであり、」に訂正し、 同じく、請求項1の「前記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|が0〜30の範囲内であることを特徴とする複層塗膜形成方法。」との記載を、 「前記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|が0〜30の範囲内であり、 前記複層塗膜の彩度C*が55以上であることを特徴とする複層塗膜形成方法。」に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし7も同様に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に記載の第2着色塗膜に関して、その膜厚を「硬化塗膜に基づいて5〜11μmであり」と特定するとともに、訂正前の請求項1に記載の複層塗膜に関して、「彩度C*が55以上である」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項に係る請求項1の訂正は、本件特許明細書の段落【0008】、【0061】、【0119】〜【0112】、【0125】、【0130】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし7に係る訂正についても同様である。 3 訂正の適否についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−7]について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」といい、これらを総称して「本件特許発明」という場合がある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 工程(1):光輝性顔料及び着色顔料を含有する第1着色塗料(X)を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、 工程(2):該第1着色塗膜上に、着色顔料を含有する第2着色塗料(Y)を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、 工程(3):該第2着色塗膜上に、クリヤ塗料(Z)を塗装してクリヤ塗膜を形成する工程、及び、 工程(4):前記工程(1)で形成された第1着色塗膜、前記工程(2)で形成された第2着色塗膜及び前記工程(3)で形成されたクリヤ塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる工程を含む複層塗膜形成方法であって、 前記第1着色塗膜の明度L*値が、30〜60の範囲内であり、 前記第2着色塗膜の波長400nm以上700nm以下の光線透過率が、15%以上30%未満の範囲内であり、 前記第2着色塗膜の膜厚が、硬化塗膜に基づいて5〜11μmであり、 前記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|が0〜30の範囲内であり、 前記複層塗膜の彩度C*が55以上であることを特徴とする複層塗膜形成方法。 【請求項2】 前記複層塗膜形成方法により得られる複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))が225〜315の範囲内である請求項1に記載の複層塗膜形成方法。 【請求項3】 前記第1着色塗料(X)中の着色顔料、及び前記第2着色塗料(Y)中の着色顔料が、フタロシアニン系顔料を含有する請求項1又は2に記載の複層塗膜形成方法。 【請求項4】 前記第1着色塗料(X)に含まれる光輝性顔料が、着色アルミニウム顔料を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。 【請求項5】 前記第2着色塗料(Y)が、着色顔料を0.1〜10%の範囲内の顔料質量濃度(PWC)で含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。 【請求項6】 前記第2着色塗料(Y)が、さらに光輝性顔料を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。 【請求項7】 前記第2着色塗料(Y)が、光輝性顔料を1.2〜5%の範囲内の顔料質量濃度(PWC)で含有する請求項6に記載の複層塗膜形成方法。」 第4 特許異議申立書に記載された申立ての理由の概要 令和3年6月23日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は以下のとおりである。 1 申立理由1(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件特許発明1〜7は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超える範囲を包含することから、「発明の詳細な説明に記載したもの」には当たらず、サポート要件を充足しない。実際に、本件特許発明1の構成要件を充足する複層塗膜の形成方法を実施したところ、発明の課題を解決している複層塗膜と、解決していない複層塗膜が混在していることを確認することができた。以上のことから、本件特許発明1には、発明の課題を解決するための要件が不足しており、本件特許発明1〜7がサポート要件を充足しないことが明らかである(甲第1号証(実験成績証明書))。 2 申立理由2(明確性) 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・甲第1号証により示された上記の結果より、本件特許発明1には発明特定事項が不足しており、発明を構成する全ての要件を記載していないことが明らかである。すなわち、本件特許発明1は発明の範囲が明確とは言えないことから、本件特許発明1〜7は明確性違反に該当する。 3 申立理由3(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・発明の詳細な説明には、本件特許発明1に記載の、第1着色塗膜の明度L*値、第2着色塗膜の光線透過率、および色相角度値hの差|h(X)−h(S)|についての数値範囲(特性値)は、複合塗膜の一部の値であるにもかかわらずその設定方法の記載がなく、「物を生産する方法の発明」についての本件特許発明1〜7は、「その方法により物を生産できる」ように記載されていないため、当業者が「その発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」には当たらず、実施可能要件を充足しない。 4 申立理由4(甲第2号証を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明及び甲第3ないし5号証に記載の技術事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ない7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 5 申立理由5(甲第6号証を主引用文献とする新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし3及び6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号該当し特許を受けることができないものであるか又は本件特許の請求項1ないし3及び6に係る発明は、甲第6号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 6 証拠方法 甲第1号証:実験成績証明書、令和3年5月10日、BASFジャパン株式会社従業員 酒井直也作成 甲第2号証:国際公開第2015/099150号 甲第3号証:特開2007−167720号公報 甲第4号証:特開2016−83631号公報 甲第5号証:特開2000−279877号公報 甲第6号証:データベース「COLOR EXPLORER ONLINE」https://www.rmpaint.com/jp/welcome-r-m(日本語フロントページ) 甲第7−1号証:「COLOR EXPLORER ONLINE」中の「ONYX HD」着色塗料の配合「1LE SUZUKI BLUE PEARL MET」https://colorexplorer.rmpaint.com/index.php?language=8 甲第7−2号証:「COLOR EXPLORER ONLINE」中の「ONYX HD」着色塗料の配合「YKY SUZUKI VIGOR BLUE MICA MET」https://colorexplorer.rmpaint.com/index.php?language=8 甲第7−3号証:「COLOR EXPLORER ONLINE」中の「ONYX HD」着色塗料の配合「E1 KAWASAKI CANDAYLIGHTNING BLUE M」https://colorexplorer.rmpaint.com/index.php?language=8 甲第7−4号証:「COLOR EXPLORER ONLINE」中の「ONYX HD」着色塗料の配合「HONDA B510P LONG BEACH BLUE PEARL」https://colorexplorer.rmpaint.com/index.php?language=8 甲第7−5号証:「COLOR EXPLORER ONLINE」中の「ONYX HD」着色塗料の配合「NISSAN B17 BLUE PEARL MET」https://colorexplorer.rmpaint.com/index.php?language=8 甲第8−1号証:「COLOR EXPLORER ONLINE」の「Technical Information」ONYX HD https://techinfo.rmpaint.com/en_UK/documents/pdf/tech_infos/ONYX_HD.pdf 甲第8−2号証:「COLOR EXPLORER ONLINE」中の「テクニカルインフォメーション」オニキス HD https://techinfo.rmpaint.com/ja_JP/documents/pdf/tech_infos/ONYX_HD.pdf 甲第9号証:「COLOR EXPLORER ONLINE」中の「テクニカルインフォメーション」EVERTOP C 1650 https://techinfo.rmpaint.com/ja_JP/documents/pdf/tech_infos/EVERTOP_C1650.pdf 甲第10−1号証:「COLOR EXPLORER ONLINE」中の「Chromatic Circle」(色相環)上の「ONYX HD」の各色彩を示す図 https://color-explorer.rmpaint.com/addinfo/index.php?language=8 甲第10−2号証:「COLOR EXPLORER ONLINE」中「ONYX HD」のアルミニウム顔料(光輝性顔料)の検索情報 https://color-explorer.rmpaint.com/addinfo/index.php?language=8 甲第10−3号証:「COLOR EXPLORER ONLINE」中「ONYX HD」に含まれる光干渉性顔料(光輝性顔料)の検索結果 https://color-explorer.rmpaint.com/addinfo/index.php?language=8 甲第10−4号証:「HB 444」についての「安全データシート」 https://msds.rmpaint.com/files/50412021_MSDS_JP_JA.PDF 甲第10−5号証:「HB 460」についての「安全データシート」 https://msds.rmpaint.com/files/50412021_MSDS_JP_JA.PDF 甲第10−6号証:「HB 471」についての「安全データシート」 https://msds.rmpaint.com/files/50412021_MSDS_JP_JA.PDF 甲第11号証:ONYX-HD 原色特徴表/クリスタルベース 原色特徴表 甲第12−1号証:BASFグループコーティングス事業部オートモーティブリフィニッシュ部のホームページの抜粋 https://www.rmpaint.com/jp/who-we-are#our%20history 甲第12−2号証:月刊「ボデーショップレポート」、2007年8月号、128ページ、平成19年8月1日発行、株式会社リペアテック 甲第12−3号証:エコマーク商品認定書 日環エコ第160514171号、2016年5月13日、公益財団法人日本環境協会 甲第12−4号証:エコマークのてびき、2021年5月、公益財団法人日本環境協会 甲第12−5号証:R−M オニキスHD 新原色「HB832 オーガニックレッド2 0.5L R2」発売案内、2016年5月、BASFジャパン株式会社 甲第12−6号証:R−M オニキスHD 新原色「HB994」発売案内、2015年9月、BASFジャパン株式会社 甲第12−7号証:「商品名変更のご案内」、2004年8月30日、日本油脂BASFコーテングス(株) 甲第13−1号証:BASFグループコーティングス事業部オートモーティブリフィニッシュ部ホームページ抜粋 https://www.rmpaint.com/jp/who-we-are#our%20history 甲第13−2号証:非営利団体「インターネットアーカイブ」によるウエブサイトからの抜粋頁 https://archive.org/?form=MY01SV&OCID=MY01SV 甲第13−3号証:非営利団体「インターネットアーカイブ」の記録情報 https://web.archive.org/web/20170625071630/https://www.rmpaint.com/jp/color-universe 甲第14号証:「COLOR EXPLORER ONLINE」抜粋ぺージに操作手順を記入した資料 https://www.rmpaint.com/jp/welcome-r-m 甲第15号証:BASFグループ、カラー研究部門従業員 エヴァ シュリンガーの宣誓書 2021年6月21日 甲第16号証:BASFグループ、デジタル関連部門従業員 クリストフエヴリングマンの宣誓書 2021年6月21日 また、甲第1号証の添付資料として以下の資料を提出している。 添付資料1:「ONYX-HD 原色特徴表/クリスタルベース 原色特徴表」、BASFジャパン株式会社コーティングス事業部オートモーティブリフィニッシュ部発行 添付資料2:「BASF 安全データシート」日付/改訂:04.03.2021 バージョン:58.0 製品:HB 444 0.5L ROYAL BLUE R2/HB 444 ロイヤルブルー 添付資料3:「BASF 安全データシート」日付/改訂:01.02.2021 バージョン:54.0 製品:HB 460 0.5L R2/HB 460 フタロブルー2 添付資料4:「BASF 安全データシート」日付/改訂:03.12.2020 バージョン:54.0 製品:HB 300 0,5L violet R2/HB 300 バイオレット 添付資料5:「BASF 安全データシート」日付/改訂:03.12.2020 バージョン:42.0 製品:HB 832 0,5L organic red 2 R2/HB 832 オーガニックレッド2 R2 添付資料6:「BASF 安全データシート」日付/改訂:01.02.2021 バージョン:60.0 製品:HB 471 0.5L greenish phth. blue R2/HB 471 フタロブルー3 添付資料7:「BASF 安全データシート」日付/改訂:03.12.2020 バージョン:41.0 製品:HB 259 0.5L black tint R2/HB 259 ブラックティント 添付資料8:「BASF 安全データシート」日付/改訂:11.02.2021 バージョン:55.0 製品:HB 999 0.5L tint white R2/HB 999 ティントホワイト 添付資料9:「BASF 安全データシート」日付/改訂:22.01.2021 バージョン:54.0 製品:HB 120 0.5L fine round aluminum R2/HB 120 ファインラウンドアルミ 添付資料10:「BASF 安全データシート」日付/改訂:03.12.2020 バージョン:51.0 製品:HB 130 1L fine aluminium R2/HB 130 ファインアルミ 添付資料11:「BASF 安全データシート」日付/改訂:01.02.2021 バージョン:57.0 製品: HB 150 0.5L med round aluminium R2/HB 150 ミディアムラウンドアルミ 添付資料12:「BASF 安全データシート」日付/改訂:04.03.2021 バージョン:49.0 製品: CB 47M 0.125L gentian blue pearl/CB 47M ギャラクシーブルー 添付資料13:「BASF 安全データシート」日付/改訂:22.01.2021 バージョン:55.0 製品:HB 994 1L marble white R2/HB 994 マーブルホワイト 添付資料14:「BASF 安全データシート」日付/改訂:03.12.2020 バージョン:44.0 製品:HB 46L 0.5L R2/HB 46L ブルーパール2 添付資料15:「BASF 安全データシート」日付/改訂:04.03.2021 バージョン:53.0 製品:HB 002 5L HYDROBASE ONYX R2/HB 002 ハイドロベース 添付資料16:「BASF 安全データシート」日付/改訂:25.02.2021 バージョン:39.0 製品: HB 100 0,5L mixing clear R2/HB 100 ミキシングクリヤー 添付資料17:「BASF 安全データシート」日付/改訂:22.01.2021 バージョン:53.0 製品: HB 090 0.5L pitch control/HB 090 ピッチコントロール 添付資料18:テクニカルインフォメーション オニキスHD 12/2017 添付資料19:テクニカルインフォメーション EVERTOP C1650 01/2019 なお、証拠の表記は、特許異議申立書に添付された証拠説明書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第5 取消理由通知書に記載した取消理由の概要 当審が令和3年9月10日付けで特許権者に通知した取消理由通知書に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。なお、取消理由1は申立理由1と同旨であり、取消理由2は申立理由4と同旨である。 取消理由1(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 取消理由2(甲第6号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、当該甲6に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第6 当審の判断 以下に述べるように、当審が令和3年9月10日付けで特許権者に通知した取消理由通知書に記載した取消理由1及び2には、理由がないと判断する。 1 取消理由1について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、次の記載がある(なお、下線については、当審において付与したものに加えて、当初からの記載されていたものもある。)。 ・「【0004】 ・・・しかしながら、この方法では、形成される塗膜の彩度は高いが、深み感が不十分だったり、色ムラ及び膜厚の変動による色変動を生じたりする場合があった。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明の目的は、上述の不具合を解消し、彩度が高く深み感に優れ、かつ色ムラ及び膜厚変動による色変動が抑制された複層塗膜を形成できる複層塗膜形成方法を提供することにある。 ・・・ 【発明の効果】 【0008】 本発明の複層塗膜形成方法によれば、彩度が高く深み感に優れ、かつ色ムラ及び膜厚変動による色変動が抑制された複層塗膜を形成することができる。」 ・「【0009】 工程(1) 本発明の方法によれば、まず、工程(1)として、第1着色塗料(X)が塗装され、第1着色塗膜が形成される。第1着色塗料(X)は、隠蔽力を付与し、形成される複層塗膜の色相を決定する塗料であって、光輝性顔料及び着色顔料を含有する。 【0010】 また、上記第1着色塗膜は、L*C*h表色系における明度L*が、30〜60の範囲内であることを特徴とする。 ・・・ 【0014】 上記第1着色塗膜の、L*C*h表色系における明度L*の上限は、60以下であれば特に限定されないが、例えば、50以下が好ましく、45以下がより好ましい。上記第1着色塗膜の、L*C*h表色系における明度L*の下限は、30以上であれば特に限定されないが、例えば、32以上が好ましく、35以上がより好ましい。上記第1着色塗膜の明度L*値の範囲は、32〜50の範囲内であることが好ましく、35〜45の範囲内であることがより好ましい。得られる複層塗膜の彩度及び深み感の向上並びに色ムラ及び膜厚変動による色変動の抑制等の観点から、上記第1着色塗膜の明度L*値が上記の範囲をとることが好ましい。 ・・・ 【0016】 上記第1着色塗料(X)に含有される光輝性顔料としては、例えば、アルミニウム顔料、蒸着金属フレーク顔料、光干渉性顔料等を挙げることができる。なかでも、得られる複層塗膜の深み感等の観点から、アルミニウム顔料を使用することが好ましい。また、該アルミニウム顔料は鱗片状であることが好ましい。これらの顔料は1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。 【0017】 上記アルミニウム顔料は、通常、アルミニウムをボールミル又はアトライターミル中で粉砕媒液の存在下、粉砕助剤を用いて粉砕、摩砕して製造される。粉砕助剤としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸等の高級脂肪酸のほか、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコールが使用される。粉砕媒液としては、例えば、ミネラルスピリット等の脂肪族系炭化水素が使用される。 ・・・ 【0025】 ここで着色顔料は、着色アルミニウム顔料の色相を決定するものであり、公知の有機顔料又は無機顔料の中から適宜選択して用いることができる。具体的には、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料等の有機顔料を使用することができる。なかでも、得られる複層塗膜の色相及び彩度の観点から、フタロシアニン系顔料を使用することが好ましい。 ・・・ 【0027】 着色アルミニウム顔料の大きさは、平均粒径が5〜30μmの範囲内のものを使用することが、得られる複層塗膜の膜厚変動による色変動の抑制及び色ムラの抑制の観点から好ましく、より好ましくは平均粒子径が7〜25μmの範囲内のもの、特に好ましくは8〜23μmの範囲内のものである。厚さは0.05〜5μmの範囲内のものを使用することが好ましい。 【0028】 第1着色塗料(X)が、上記着色アルミニウム顔料を含有する場合、該着色アルミニウム顔料の顔料質量濃度(PWC)は、特に限定されないが、好ましい実施形態において、得られる複層塗膜の膜厚変動による色変動の抑制及び色ムラの抑制の観点から、該第1着色塗料(X)中の固形分を基準として、0.1〜30%、好ましくは0.5〜20%、さらに好ましくは1〜10%である。 ・・・ 【0041】 前記第1着色塗料(X)に含有される着色顔料としては、例えば、酸化チタン顔料、酸化鉄顔料、チタンイエロー顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料、カーボンブラック顔料等が挙げられる。これらの着色顔料は、それぞれ単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、得られる複層塗膜の色相及び彩度の観点から、フタロシアニン系顔料を使用することが好ましい。 【0042】 上記第1着色塗料(X)に含有される着色顔料の顔料質量濃度(PWC)は、得られる複層塗膜の色相及び彩度の観点から、該第1着色塗料(X)中の固形分を基準として、1〜50%、好ましくは3〜40%、さらに好ましくは5〜20%である。 ・・・ 【0045】 第1着色塗料(X)は、静電塗装、エアスプレー、エアレススプレー等の方法により塗装することができる。第1着色塗膜の膜厚は、特に限定されないが、得られる複層塗膜の彩度及び深み感の向上並びに色ムラの抑制の観点から、硬化塗膜に基づいて1〜40μm程度が好ましく、より好ましくは3〜30μm、さらに好ましくは5〜20μm程度である。 【0046】 第1着色塗料(X)の固形分含有率は特に限定されないが、例えば、10〜65質量%、好ましくは15〜55質量%、さらに好ましくは20〜50質量%の範囲である。また、第1着色塗料(X)の粘度を、塗装に適した範囲、通常、B型粘度計を用いて20℃において回転数6rpmで測定したときの粘度が500〜5000mPa・sの範囲内となるように、水及び/又は有機溶剤を用いて、適宜、調整しておくことが好ましい。 【0047】 上記第1着色塗膜は、後記の第2着色塗料(Y)を塗装する前に、塗膜が実質的に硬化しない加熱条件で前記プレヒート、エアブロー等を行うことができる。プレヒートの温度は、40〜100℃が好ましく、50〜90℃がより好ましく、60〜80℃が更に好ましい。プレヒートの時間は、30秒間〜15分間が好ましく、1〜10分間がより好ましく、2〜5分間が更に好ましい。また、上記エアブローは、例えば、被塗物の塗装面に、常温又は25℃〜80℃の温度に加熱された空気を、30秒間〜15分間吹き付けることにより行うことができる。 【0048】 工程(2) 本発明の方法によれば、次に、工程(1)で形成された第1着色塗膜上に、第2着色塗料(Y)が塗装され、第2着色塗膜が形成される。第2着色塗料(Y)は、形成される複層塗膜の彩度を高めて、深み感を向上させる塗料であって、着色顔料を必須成分として含有するものである。 【0049】 また、上記第2着色塗膜の波長400nm以上700nm以下の光線透過率は、15%以上30%未満の範囲内である。該光線透過率が、15%以上であることにより、得られる複層塗膜の彩度に優れる。また、該光線透過率が、30%未満であることにより、得られる複層塗膜の深み感が優れる。なかでも、第2着色塗膜の波長400nm以上700nm以下の光線透過率は、得られる複層塗膜の彩度及び深み感の観点から、17〜29%であることが好ましく、20〜28%であることがさらに好ましい。 ・・・ 【0052】 上記第2着色塗料(Y)に含有される着色顔料としては、酸化チタン顔料、酸化鉄顔料、チタンイエロー等の複合酸化物顔料等の無機顔料;アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料等の有機顔料;カーボンブラック顔料等の中から任意のものを1種もしくはそれ以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、得られる複層塗膜の色相及び彩度の観点から、フタロシアニン系顔料を使用することが好ましい。 【0053】 上記第2着色塗料(Y)に含有される着色顔料の顔料質量濃度(PWC)は、特に限定されないが、好ましい実施形態において、得られる複層塗膜の彩度及び深み感の観点から、該第2着色塗料(Y)中の固形分を基準として、0.1〜10%、好ましくは1〜9%、さらに好ましくは3〜8%である。 ・・・ 【0061】 第2着色塗料(Y)は、静電塗装、エアスプレー、エアレススプレー等の方法により塗装することができ、得られる複層塗膜の彩度及び深み感の観点から、第2着色塗膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましい実施形態において、硬化塗膜に基づいて1〜30μm程度、より好ましくは3〜20μm程度、さらに好ましくは5〜15μm程度である。 【0062】 第2着色塗料(Y)の固形分含有率は特に限定されないが、好ましい実施形態において、10〜65質量%、好ましくは15〜55質量%、さらに好ましくは20〜50質量%の範囲内である。また、第2着色塗料(Y)の粘度を、塗装に適した範囲、通常、B型粘度計を用いて20℃において回転数6rpmで測定したときの粘度が500〜5000mPa・sの範囲内となるように、水及び/又は有機溶剤を用いて、適宜、調整しておくことが好ましい。 【0063】 上記第2着色塗膜は、後記のクリヤ塗料(Z)を塗装する前に、塗膜が実質的に硬化しない加熱条件で前記プレヒート、エアブロー等を行うことができる。プレヒートの温度は、40〜100℃が好ましく、50〜90℃がより好ましく、60〜80℃が更に好ましい。プレヒートの時間は、30秒間〜15分間が好ましく、1〜10分間がより好ましく、2〜5分間が更に好ましい。また、上記エアブローは、例えば、被塗物の塗装面に、常温又は25℃〜80℃の温度に加熱された空気を、30秒間〜15分間吹き付けることにより行うことができる。 【0064】 工程(3) 本発明の方法によれば、上記の如くして第2着色塗料(Y)を塗装して得られた第2着色塗膜上に、クリヤ塗料(Z)を塗装して、クリヤ塗膜を形成する。 【0065】 本発明の方法において使用するクリヤ塗料(Z)としては、それ自体既知のクリヤ塗料を制限なく使用することができる。具体的には例えば基体樹脂及び架橋剤からなる樹脂成分を必須成分とし、さらに必要に応じて、塗料用添加剤、水もしくは有機溶剤等の溶媒等を配合してなる無色もしくは有色の透明塗膜を形成する液状もしくは粉体状のクリヤ塗料を挙げることができる。 ・・・ 【0070】 クリヤ塗料(Z)は、静電塗装、エアスプレー、エアレススプレー等の方法により塗装することができ、クリヤ塗膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましい実施形態において、硬化塗膜に基づいて10〜60μm程度、より好ましくは15〜50μm程度、さらに好ましくは20〜40μm程度である。 【0071】 クリヤ塗料(Z)の固形分含有率は特に限定されないが、好ましい実施形態において、10〜65質量%、好ましくは15〜55質量%、 さらに好ましくは20〜50質量%の範囲内である。また、クリヤ塗料(Z)の粘度を、塗装に適した範囲、通常、フォードカップNo.4粘度計において、20℃で15〜60秒程度、特に20〜50秒程度の範囲内となるように、水及び/又は有機溶剤を用いて、適宜、調整しておくことが好ましい。 【0072】 工程(4) 本発明の方法によれば、前記工程(1)で形成された第1着色塗膜、前記工程(2)で形成された第2着色塗膜及び前記工程(3)で形成されたクリヤ塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる。 【0073】 なかでも、省エネルギー化等の観点から、上記第1着色塗膜、上記第2着色塗膜及びクリヤ塗膜は、同時に加熱することが好ましい。 【0074】 加熱は公知の手段により行うことができ、例えば、熱風炉、電気炉、赤外線誘導加熱炉等の乾燥炉を適用できる。加熱温度は好ましくは70〜150℃、より好ましくは80〜140℃の範囲内である。加熱時間は、特に制限されないが、好ましくは10〜40分間、より好ましくは20〜30分間の範囲内である。 ・・・ 【0080】 複層塗膜の形成 ・・・ 前記第1着色塗膜の明度L*値が、30〜60の範囲内であり、 前記第2着色塗膜の波長400nm以上700nm以下の光線透過率が、15%以上30%未満の範囲内であり、 前記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|が0〜30の範囲内であることにより、彩度が高く深み感に優れ、かつ色ムラ及び膜厚変動による色変動が抑制された複層塗膜を形成することが出来る。 【0081】 上記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|が、30以下であることにより、得られる複層塗膜の色ムラ及び膜厚変動による色変動を抑制することが出来る。 【0082】 上記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|の上限は、30以下であれば限定されないが、25以下が好ましく、20以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。また、上記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|の下限は、特に限定されないが、例えば、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.5以上等が挙げられる。また、上記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|の範囲は、0〜25の範囲内であることが好ましく、0〜20の範囲内であることがより好ましく、0〜15の範囲内であることがさらに好ましい。得られる複層塗膜の色ムラ及び膜厚変動による色変動の抑制の観点から、上記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|が上記値をとることが好ましい。 【0083】 また、上記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))は、225〜315の範囲内であることが好ましく、240〜310の範囲内であることがより好ましく、255〜305の範囲内であることがさらに好ましい。 【0084】 前記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))及び上記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))の調整は、複層塗膜の形成に使用される第1着色塗料(X)、第2着色塗料(Y)及びクリヤ塗料の各塗料に含有させる顔料の種類及び使用量を調節することにより(小規模の実験を行うことにより)行うことができる。」 ・「【実施例】 ・・・ 【0103】 第1着色塗膜の評価 上記で得られた第1着色塗料(X−1)〜(X−6)を用い、第1着色塗膜の明度L*値及び色相角度h値(h(X))を、「CR−400」(商品名、コニカミノルタ社製)を使用して評価した。第1着色塗膜は、前記[1]で製造した基材上に、第1着色塗料(X)(X−1)〜(X−6)のいずれかをミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブース温度20℃、湿度75%の条件で、硬化塗膜として8μmの膜厚となるように塗装し、室温にて3分間放置し、熱風循環式乾燥炉内にて140℃で30分間加熱することにより得た。評価結果を併せて表3に記す。 【0104】 【表3】 ・・・ 【0114】 第2着色塗料(Y−1)〜(Y−6)の製造 製造例27 製造例21で得た顔料分散ペースト(P−6)48.21部、製造例25で得た光輝性顔料分散液(R−6)16.1部、製造例19で得た水酸基含有アクリル樹脂エマルション(d)73.3部(固形分22部)、「ユーコートUX−8100」(商品名、ウレタンエマルション、三洋化成工業社製、固形分35%)60部(固形分21部)及び「サイメル325」(商品名、メラミン樹脂、日本サイテックインダストリーズ社製、固形分80%)37.5部(固形分30部)を均一に混合した。次いで、得られた混合物に、「UH−752」(商品名、ADEKA社製、増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を添加し、pH8.0、塗料固形分25%、B型粘度計を用いて20℃において回転数6rpmで測定したときの粘度が3000mPa・sの第2着色塗料(Y−1)を得た。 【0115】 製造例28〜32 配合組成を下記表5に示すものとする以外は、製造例27と同様にして、B型粘度計を用いて20℃において回転数6rpmで測定したときの粘度が3000mPa・sの各第2着色塗料(Y−2)〜(Y−6)を得た。 【0116】 第2着色塗膜の評価 上記で得られた第2着色塗料(Y−1)〜(Y−6)を用い、第2着色塗膜のフリーフィルムを「UV−2700」(商品名、島津製作所製)を使用して評価することにより、波長400nm以上700nm以下の光線透過率を得た。第2着色塗膜のフリーフィルムは、ポリプロピレン板上に、第2着色塗料(Y−1)〜(Y−6)のいずれかをミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブース温度20℃、湿度75%の条件で、硬化塗膜として10μmの膜厚となるように塗装し、室温にて3分間放置し、熱風循環式乾燥炉内にて140℃で30分間加熱した後、得られた塗膜を剥離することにより得た。評価結果を併せて表5に記す。 【0117】 【表5】 【0118】 [III]試験板の作成 試験板の作成 実施例1〜8及び比較例1〜4 (第1着色塗料(X)の塗装) 上記[1]で作製した基材上に、上記[2]で製造した第1着色塗料((X−1)〜(X−6)のいずれかをミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブース温度20℃、湿度75%の条件で、硬化塗膜として8μmの膜厚となるように塗装し、室温にて3分間放置し、未硬化の第1着色塗膜を得た。 【0119】 (第2着色塗料(Y)の塗装) 上記未硬化の第1着色塗膜上に、上記[2]で製造した第2着色塗料(Y−1)〜(Y−6)のいずれかをミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブース温度20℃、湿度75%の条件で、硬化塗膜として10μmの膜厚となるように塗装し、室温にて3分間放置し、80℃で3分間プレヒートを行い、未硬化の第2着色塗膜を得た。 【0120】 (クリヤ塗料(Z)の塗装) 上記未硬化の第2着色塗膜上に、クリヤ塗料(Z)(「マジクロンKINO−1210」、関西ペイント社製、商品名、アクリル樹脂系酸/エポキシ硬化溶剤型上塗クリヤ塗料)を、ミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブース温度20℃、湿度75%の条件で、硬化塗膜として35μmとなるように塗装し、室温にて7分間放置した後、熱風循環式乾燥炉内にて140℃で30分間加熱し、中塗り塗膜、第1着色塗膜、第2着色塗膜及びクリヤ塗膜からなる複層塗膜を同時に乾燥硬化せしめて試験板1を作製した。 【0121】 また、上記第2着色塗膜の硬化膜厚を、9μmに変更する以外は、試験板1の作成と同様にして、試験板2を得た。 【0122】 また、上記第2着色塗膜の硬化膜厚を、11μmに変更する以外は、試験板1の作成と同様にして、試験板3を得た。 【0123】 塗膜評価 上記のようにして得られた各試験板について、以下の方法で塗膜の外観を評価し、表6及び7にその結果を示した。 【0124】 色相角度h値(h(S)) 各試験板1について、「CR−400」(商品名、コニカミノルタ社製)を使用して色相角度h値を測定した。 【0125】 彩度C*値 各試験板1について、「CR−400」(商品名、コニカミノルタ社製)を使用してC*値を測定した。C*値が高いほど、彩度が高いことを示す。55以上を合格とした。 【0126】 深み感C*値/L*値 各試験板1について、「CR−400」(商品名、コニカミノルタ社製)を使用して彩度C*値及び明度L*値を測定し、C*値をL*値で除した値(C*値/L*値)により評価した。C*値/L*値が大きいほど、深み感が高いことを示す。1.8以上を合格とした。 【0127】 膜厚変動による色変動 各試験板2及び各試験板3のΔE*値を、「CR−400」(商品名、コニカミノルタ社製)を使用して評価した。ΔE*値は、下記式に従い、算出した。ΔE*値が小さいほど、膜厚変動による色変動が良好であることを示す。1.5以下を合格とした。 ΔE={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2 ΔL*:試験板2と試験板3とのL*値の差、 Δa*:試験板2と試験板3とのa*値の差、 Δb*:試験板2と試験板3とのb*値の差。 【0128】 色ムラ 各試験塗板について目視にて色ムラを評価した。S及びAを合格とした。 S:色ムラがほとんど認められず、極めて優れた塗膜外観を有していた。 A:色ムラがわずかに認められるが、優れた塗膜外観を有していた。 B:色ムラが認められ、塗膜外観がやや劣っていた。 C:色ムラが多く認められ、塗膜外観が劣っていた。 【0129】 色相差|h(X)−h(S)| 第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|を計算した。 【0130】 【表6】 【0131】 【表7】 」 (4)甲1の記載 甲1の実験成績証明書の内容は下記のとおりである。 「 」 (5)サポート要件についての判断 発明の詳細な説明の【0004】ないし【0006】の記載によると、本件特許発明1ないし7の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「彩度が高く深み感に優れ、かつ色ムラ及び膜厚変動による色変動が抑制された複層塗膜を形成できる複層塗膜形成方法を提供すること」である。 そして、段落【0014】には、上記第1着色塗膜の明度L*値の範囲を30〜60とすることに関し、「上記第1着色塗膜の、L*C*h表色系における明度L*の上限は、60以下であれば特に限定されないが、・・・上記第1着色塗膜の、L*C*h表色系における明度L*の下限は、30以上であれば特に限定されないが、・・・得られる複層塗膜の彩度及び深み感の向上並びに色ムラ及び膜厚変動による色変動の抑制等の観点から、上記第1着色塗膜の明度L*値が上記の範囲をとることが好ましい。」と記載され、段落【0049】には、第2着色塗膜の波長400nm以上700nm以下の光線透過率に関し、15%以上30%未満の範囲内であることで、「15%以上であることにより、得られる複層塗膜の彩度に優れる。また、該光線透過率が、30%未満であることにより、得られる複層塗膜の深み感が優れる。」と記載され、さらに、段落【0081】には、第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|に関し、「30以下であることにより、得られる複層塗膜の色ムラ及び膜厚変動による色変動を抑制することが出来る。」と記載され、段落【0080】には、「前記第1着色塗膜の明度L*値が、30〜60の範囲内であり、前記第2着色塗膜の波長400nm以上700nm以下の光線透過率が、15%以上30%未満の範囲内であり、前記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|が0〜30の範囲内であることにより、彩度が高く深み感に優れ、かつ色ムラ及び膜厚変動による色変動が抑制された複層塗膜を形成することが出来る。」と記載されている。 そして、具体的な実施例及び比較例の記載において、第1着色塗料及び第2着色塗料の条件が本件特許発明1の所定の範囲を満足し、差|h(X)−h(S)|が0〜30という範囲を満足している実施例1ないし8においては、複層塗膜の彩度C*、深み感C*/L*、膜厚変動による色変動ΔE*値、色むら全てが合格水準であるのに対し、第1着色塗料の明度L*値が、本件特許発明1の範囲外のものである比較例1及び2と第2着色塗料の波長400〜700の光線透過率が12%と35%で本件特許発明1の範囲外のものである比較例3及び4では、複層皮膜の評価のいずれかが悪いものとなっていることが確認されている。 ここで、上記甲1の実験成績証明書の内容を確認しても、本件特許発明1の発明特定事項を全て満足する条件で製造された複層塗膜は、発明の課題を解決するものとなっており、矛盾する結果は示されていない。 そうすると、当業者は、「前記第1着色塗膜の明度L*値が、30〜60の範囲内であり、前記第2着色塗膜の波長400nm以上700nm以下の光線透過率が、15%以上30%未満の範囲内であり、前記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|が0〜30の範囲内であり、前記複層塗膜の彩度C*が55以上である」複層塗膜形成方法は、発明の課題を解決できると理解する。 そして、本件特許発明1は、これらの事項を満たす複層塗膜形成方法であるから、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるし、請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし7についても、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 よって、本件特許発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 (6)取消理由1についてのまとめ 以上のことから、取消理由1には、理由がない。 2 取消理由2(甲6に基づく新規性・進歩性)について 甲6が優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったかどうかについて疑義があるが、その検討をするまでもなく、仮に利用可能となったものとしても、下記のとおり、甲6に基づく新規性・進歩性に係る取消理由2には理由がない。 (1)甲6に記載された事項 甲6であるデータベースには、おおむね次の事項が記載されている。なお、イ以降の画面は、職権により確認を行い掲載したものである。 ア「 」(https://www.rmpaint.com/jp/welcome-r-m の画面) イ「 」(https://www.rmpaint.com/jp/welcome-r-m の「COLOR UNIVERSE」のタブ画面) ウ「 」(https://www.rmpaint.com/jp/color-universe#color-explorer-online の画面であって、「COLOR EXOLORER ONLINE」を選択できる。) エ「 」(上記エの画面で「COLOREXOLORER ONLINE」を選択した後に表示される機密保持契約の同意画面。) オ「 」(上記エの機密保持契約に同意後に表示される検索画面) カ「 」(上記オの画面においてCodeのところに「YKY」を入力し、□ MOTOS MOTORCYCLES の□にレ点を入れ、Paint Lineとして「ONYX HD」を選択し、右下のVarantに 「T1」が表示された画面) キ「 」(上記カにおいての「T1」をクリックすることで、表示される画面) ク「 」(上記キの画面において、左下の2を選択した時に表示される画面) (2)甲7−2に記載された事項 「 」((上記(1)キの画面において、下方の表示される「Print」をクリックし、「Multiple quantities」をチェックし、Printをクリックすることにより表示される画面) (3)甲6及び甲7−2に記載された発明 甲6の(1)アないしクの記載、甲7−2の記載及び複合塗膜は別々に又は同時に加熱することにより硬化されるものであるとの当業者の技術常識を踏まえれば、当業者は、「MOTOS-MOTORCYCLES YKY T1 SUZUKI VIGOR BLUE MIKA MET」の塗装方法として、甲6及び甲7−2には下記の発明が記載されていると認める。 <甲6発明> 「下記の第1着色塗料を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、 HB002 124g、HB444 42.1g、HB120 17.7g、HB460 15.4g、HB300 0.8g 該第1着色塗膜上に、下記の第2着色塗料を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、 HB002 26.7g、HB100 154.2g、HB460 8.0g、CB47M 6.7g、HB300 4.4g 及び、 第1着色塗膜及び第2着色塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる工程を含む複層塗膜形成方法。」 (2)本件特許発明1について 本件特許発明1と甲6発明とを対比する。 甲6発明の「第1着色塗料を塗装して第1着色塗膜を形成する工程」は、本件特許発明1の「工程(1)」の部分に相当し、甲6発明の第1着色塗料の「HB120」は、甲10から、光輝性顔料成分に相当し、同じく、「HB444」、「HB460」、「HB300」は、着色顔料成分に相当するから、甲6発明の「第1着色塗料」は、本件特許発明1における「光輝性顔料及び着色顔料を含有する」を満たす。 甲6発明の「該第1着色塗膜上に、下記の第2着色塗料を塗装して第2着色塗膜を形成する工程」は、本件特許発明1の「工程(2)」の部分に相当し、また、甲6発明の「第2着色塗料」は、「HB460」、「HB300」を含有するから、本件特許発明1の「着色顔料を含有する」を満たす。 甲6発明の「第1着色塗膜及び第2着色塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる工程」は、本件特許発明1の「工程(4)」の部分に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲6発明とは、 「工程(1):光輝性顔料及び着色顔料を含有する第1着色塗料(X)を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、 工程(2):該第1着色塗膜上に、着色顔料を含有する第2着色塗料(Y)を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、 工程(4):前記工程(1)で形成された第1着色塗膜、前記工程(2)で形成された第2着色塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる工程を含む複層塗膜形成方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点6−1> 本件特許発明1は、第2工程の後に「工程(3):該第2着色塗膜上に、クリヤ塗料(Z)を塗装してクリヤ塗膜を形成する工程」有するとともに、工程(4)において、当該クリア塗膜についても「別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる工程を含む」と特定するのに対し、甲6発明は、この点を特定しない点 <相違点6−2> 第2塗膜に関し、本件特許発明1は、「第2着色塗膜の膜厚が、硬化塗膜に基づいて5〜11μmであり」と特定するのに対し、甲6発明は、この点を特定しない点 <相違点6−3> 複層塗膜に関し、本件特許発明1は、「前記第1着色塗膜の明度L*値が、30〜60の範囲内であり、前記第2着色塗膜の波長400nm以上700nm以下の光線透過率が、15%以上30%未満の範囲内であり、彩度C*が55以上」と特定するのに対し、甲6発明は、この点を特定しない点 <相違点6−4> 複層塗膜に関し、本件特許発明1は、「前記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|が0〜30の範囲内」と特定するのに対し、甲6発明は、この点を特定しない点 事案に鑑み、相違点6−4について検討する。 特許異議申立人が甲6発明を追試したと主張している実験成績証明書である甲1において追試した複層塗膜の第2着色塗膜の乾燥膜厚は9μmであるが(甲1の表1参照)、甲6には、甲6発明の製造方法に関しての第2着色塗膜の膜厚についての記載はない。そして、データーベース「COLOREXOLORER ONLINE 」中の「Technical Information」ONYN HD 英語版である甲8−1には、その2ページ目の表(下記の示す) の5段落目に、「ONYX HD」を塗装する際、ソリッドカラー塗装では膜厚(film thickness)を20〜25μmとし、メタリックまたはパール塗装では膜厚を12〜15μmとすることが記載されている。 そうすると、甲6発明は、「ONYX HD」を塗装するものであるから、上記甲8−1に記載の膜厚で塗装されていると考えるのが自然であり、その膜厚が9μmである甲1の実験成績証明書に記載された実験は、甲6発明を追試したものということはできない。 してみれば、甲6発明において、相違点6−4に係る事項がどのような値となるかは不明であって、相違点6−4は実質的な相違点であるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6発明、すなわち、甲6に記載された発明とはいえない。 そして、特許異議申立人の提示したいずれの証拠にも、「第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|」について記載されているものはない。 よって、甲6発明において、相違点6−4に係る「第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|」に着目し、その値を0〜30の範囲とする動機はなく、相違点6−4は、当業者が容易に想到し得たものということはできない。 以上のことから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6発明、すなわち、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件特許発明2ないし7について 本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記(2)のとおり、本件特許発明1は、甲6発明ではないし、また、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明2ないし7は、甲6発明、すなわち、甲6に記載された発明でないし、また、甲6発明、すなわち、甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)まとめ したがって、取消理由に記載した取消理由2には、理由がない。 第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載された申立ての理由について 取消理由において採用しなかった申立理由は、申立理由2(明確性)、申立理由3(実施可能要件)、申立理由4(甲2に基づく進歩性)であるので、以下、検討する。 1 申立理由2(明確性)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2)判断 請求項1ないし7の記載は、塗膜の形成方法及び塗膜の性状のいずれもが明確に特定されるものであって、発明の詳細な説明の記載とも整合している。 したがって、本件特許発明1ないし7は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (3)特許異議申立人の主張の検討 特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 2に記載のとおり、本件特許発明の記載では発明特定事項が不足している旨主張するが、発明特定事項が不足していることと、発明の明確性とは無関係であって、当該主張は失当であり採用できない。 (4)まとめ したがって、申立理由2(明確性)には、理由がない。 2 申立理由3(実施可能要件)について (1)判断基準 本件特許発明1ないし7はいずれも「複層塗膜形成方法」という物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明の実施とは、その方法の使用及び生産した物の使用等をする行為であるから、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用及びその方法により生産した物の使用等をすることができる程度の記載があることを要する。 (2)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、上記第6 1(3)の記載がある。 (3)実施可能要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明の段落【0009】ないし【0072】には、本件特許発明1に係る製造方法の工程(1)ないし工程(4)について、用いる材料の種類とその配合量や大きさ、塗装方法、硬化条件等が具体的に記載されている。 そして、同じく段落【0084】には、第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h|の調整方法が記載されている。 さらに、段落【0103】ないし【0137】において、本件特許発明の具体的な実施例として実施例1ないし8、比較例として、比較例1ないし4が記載されている。 そうすると、上記一般記載及び明度L*と光線透過率に関する当業者の技術常識並びに実施例1ないし8及び比較例1ないし4についての記載を踏まえれば、当業者は、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし7の製造方法に係る物を生産する方法の使用及びその方法により生産した物の使用等をすることができる程度の記載が発明の詳細な説明にあるといえ、本件特許発明1ないし7に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。 (4)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 3に記載の第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h|をどのように調整すればよいか記載がなく実施可能要件を満たさない旨主張する。 しかしながら、上記検討のとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (5)まとめ したがって、申立理由3(実施可能要件)には、理由がない。 3 申立理由4(甲2に基づく進歩性)について (1)甲2に記載された発明 甲2の特許請求の範囲の請求項1及び2、段落【0004】、【0006】、【0007】、【0010】、【0012】、【0036】、【0038】、【0099】、【0102】、【0103】、【0106】、【0123】、【0126】の記載から、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。 <甲2発明> 「塗膜上に、着色顔料及び光輝性顔料を含有する第1のベース塗料を塗装して第1ベース塗膜を形成する第1ベース塗料塗装工程と、 前記第1ベース塗料塗装工程を経た被塗物上に、着色顔料及び光輝性顔料を含有する第2ベース塗料を塗装して第2ベース塗膜を形成する第2ベース塗料塗装工程と、 前記第2ベース塗料塗装工程を経た被塗物上に、トップクリアー塗料を塗装するトップクリアアー塗料塗装工程と、 未硬化塗膜を加熱硬化させる加熱硬化工程と、を有する複層塗膜の形成方法。」 (2)本件特許発明1と甲2発明との対比・判断 本件特許発明1と甲2発明を対比すると、本件特許発明1と甲2発明とは、 「工程(1):光輝性顔料及び着色顔料を含有する第1着色塗料(X)を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、 工程(2):該第1着色塗膜上に、着色顔料を含有する第2着色塗料(Y)を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、 工程(3):該第2着色塗膜上に、クリア塗料(Z)を塗装してクリア塗膜を形成する工程、及び、 工程(4):前記工程(1)で形成された第1着色塗膜、前記工程(2)で形成された第2着色塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる工程を含む複層塗膜形成方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2−1> 第2塗膜に関し、本件特許発明1は、「第2着色塗膜の膜厚が、硬化塗膜に基づいて5〜11μmであり」と特定するのに対し、甲2発明は、この点を特定しない点 <相違点2−2> 複層塗膜に関し、本件特許発明1は、「前記第1着色塗膜の明度L*値が、30〜60の範囲内であり、前記第2着色塗膜の波長400nm以上700nm以下の光線透過率が、15%以上30%未満の範囲内であり、彩度C*が55以上」と特定するのに対し、甲2発明は、この点を特定しない点 <相違点2−3> 複層塗膜に関し、本件特許発明1は、「前記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|が0〜30の範囲内」と特定するのに対し、甲2発明は、この点を特定しない点 事案に鑑み、相違点2−3から検討する。 特許異議申立人の提示したいずれの証拠にも、「第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|」について記載されているものはなく、甲2発明が、相違点2−3に係る数値を満たすものになるとの証拠も提示されていない。 そうすると、甲2発明において、相違点2−3に係る「第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|」に着目し、その値を0〜30の範囲とする動機はなく、相違点2−3は、当業者が容易に想到し得たものということはできない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件特許発明2ないし7との対比について 本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記(2)のとおり、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、同様に、本件特許発明2ないし7についても、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4) まとめ したがって、申立理由4には理由がない。 第8 結語 上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、取消理由及び特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 工程(1):光輝性顔料及び着色顔料を含有する第1着色塗料(X)を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、 工程(2):該第1着色塗膜上に、着色顔料を含有する第2着色塗料(Y)を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、 工程(3):該第2着色塗膜上に、クリヤ塗料(Z)を塗装してクリヤ塗膜を形成する工程、及び、 工程(4):前記工程(1)で形成された第1着色塗膜、前記工程(2)で形成された第2着色塗膜及び前記工程(3)で形成されたクリヤ塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる工程を含む複層塗膜形成方法であって、 前記第1着色塗膜の明度L*値が、30〜60の範囲内であり、 前記第2着色塗膜の波長400nm以上700nm以下の光線透過率が、15%以上30%未満の範囲内であり、 前記第2着色塗膜の膜厚が、硬化塗膜に基づいて5〜11μmであり、 前記第1着色塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(X))と、前記複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))との差|h(X)−h(S)|が0〜30の範囲内であり、 前記複層塗膜の彩度C*が55以上であることを特徴とする複層塗膜形成方法。 【請求項2】 前記複層塗膜形成方法により得られる複層塗膜のL*C*h表色系色度図の色相角度h値(h(S))が225〜315の範囲内である請求項1に記載の複層塗膜形成方法。 【請求項3】 前記第1着色塗料(X)中の着色顔料、及び前記第2着色塗料(Y)中の着色顔料が、フタロシアニン系顔料を含有する請求項1又は2に記載の複層塗膜形成方法。 【請求項4】 前記第1着色塗料(X)に含まれる光輝性顔料が、着色アルミニウム顔料を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。 【請求項5】 前記第2着色塗料(Y)が、着色顔料を0.1〜10%の範囲内の顔料質量濃度(PWC)で含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。 【請求項6】 前記第2着色塗料(Y)が、さらに光輝性顔料を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。 【請求項7】 前記第2着色塗料(Y)が、光輝性顔料を1.2〜5%の範囲内の顔料質量濃度(PWC)で含有する請求項6に記載の複層塗膜形成方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-03-31 |
出願番号 | P2020-553675 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B05D)
P 1 651・ 113- YAA (B05D) P 1 651・ 536- YAA (B05D) P 1 651・ 121- YAA (B05D) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
細井 龍史 |
特許庁審判官 |
植前 充司 大島 祥吾 |
登録日 | 2020-12-07 |
登録番号 | 6805401 |
権利者 | 関西ペイント株式会社 |
発明の名称 | 複層塗膜形成方法 |
代理人 | 倉脇 明子 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
代理人 | 江藤 聡明 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |