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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08L |
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管理番号 | 1386132 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-07-09 |
確定日 | 2022-05-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6813969号発明「強化ポリアミド樹脂成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 結論 特許第6813969号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−9〕について訂正することを認める。 特許第6813969号の請求項3に係る特許に対する申立てを却下する。 特許第6813969号の請求項1〜2、4〜9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6813969号(請求項の数9。以下、「本件特許」という。)は、平成28年7月4日の出願(特願2016−132616号)に係るものであって、令和2年12月22日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和3年1月13日である。)。 その後、令和3年7月9日に、本件特許の請求項1〜9に係る特許に対して、特許異議申立人である岩崎勇(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 (1)特許異議申立以降の経緯 令和3年 7月 9日 特許異議申立書 同年10月14日付け 取消理由通知書 同年12月20日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年12月27日付け 通知書(申立人あて) 令和4年 2月 2日 意見書(申立人) (2)証拠方法 申立人が、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。 ・甲第1号証:特開2012−102189号公報 ・参考資料1:宮坂啓象ら編、「プラスチック事典」、朝倉書店、1992年3月1日発行、第502〜503頁 ・参考資料2:国際公開第2018/008611号 ・参考資料3:ダイキン工業株式会社の「添加剤 ポリフロン PTFE L-5F」の「TECHNICAL DATASHEET」、2020年12月発行 (3)令和3年12月20日付け意見書に添付された証拠方法 特許権者が、令和3年12月20日付け意見書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。 ・乙第1号証:福本修編、「ポリアミド樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、昭和63年1月30日初版第1刷発行、212〜216頁 第2 訂正の適否についての判断 令和3年12月20日にした訂正請求は、以下の訂正事項を含むものである。 (以下、当該訂正請求に係る訂正事項をまとめて「本件訂正」という。また、設定登録時の本件願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件特許明細書等」という。) 1 訂正の内容 (1)各訂正事項について 各訂正事項は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について当審で付与した。) ア 訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する。 イ 訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。」と記載されているのを、「請求項1、2、及び4のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。」に訂正する。 ウ 訂正事項3 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に「請求項3に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。」と記載されているのを、「請求項1又は2に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。」に訂正する。 エ 訂正事項4 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に「請求項1〜6のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。」と記載されているのを、「請求項1、2、4〜6のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。」に訂正する。 オ 訂正事項5 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に「請求項1〜7のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。」と記載されているのを、「請求項1、2、4〜7のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。」に訂正する。 カ 訂正事項6 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「請求項1〜8のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。」と記載されているのを、「請求項1、2、4〜8のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。」に訂正する。 キ 訂正事項7 訂正前の特許請求の範囲の請求項6に「フッ素樹脂紛体」と記載されているのを、「フッ素樹脂粉体」に訂正する。 ク 訂正事項8 訂正前の特許請求の範囲の請求項4に「フッ素樹脂紛体」と記載されているのを、「フッ素樹脂粉体」に訂正する。 (2)一群の請求項 本件訂正前の請求項5〜9はそれぞれ請求項3を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項3、5〜9は一群の請求項である。 また、本件訂正前の請求項5、7〜9はそれぞれ請求項4を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項8によって記載が訂正される請求項4に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項4〜5、7〜9は一群の請求項である。 よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。 2 判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無について 訂正事項1は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、新規事項の追加、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (2)訂正事項2〜6について ア 訂正の目的 訂正事項2〜6による訂正は、上記の訂正事項1による訂正前の請求項3の削除に合わせて、引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無について 訂正事項2〜6は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (3)訂正事項7〜8について ア 訂正の目的 訂正事項7〜8による訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項6及び請求項4の明らかな誤記である「フッ素樹脂紛体」を、「フッ素樹脂粉体」に訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とするものである。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無について 訂正事項7〜8による訂正は、明らかな誤記の訂正を目的とするものであるから、新規事項の追加、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、訂正事項1〜8による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。 第3 特許請求の範囲の記載 上記「第2 訂正の適否についての判断」のとおり、本件訂正は適法であるので、特許第6813969号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜9のとおりのものである(以下、請求項1〜9に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」〜「本件発明9」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件訂正後の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。下線は、訂正箇所について当審で付与した。)。 「【請求項1】 (A)ポリアミド樹脂100質量部に対して、(B)フッ素系樹脂1〜15質量部、および(C)繊維状充填剤30〜100質量部を含有する樹脂組成物からなる強化ポリアミド樹脂成形体であって、 前記樹脂組成物中に分散する前記(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径が0.8μm以下である強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項2】 前記(B)フッ素系樹脂がポリテトラフルオロエチレンである請求項1に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記(B)フッ素樹脂粉体の数平均分子量が600,000以下である請求項2に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項5】 前記分散する(B)フッ素系樹脂は、粒子径1.0μm以下の粒子の個数割合が70%以上である請求項1、2、及び4のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項6】 前記(B)フッ素樹脂粉体が未焼成である請求項1又は2に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項7】 前記(C)繊維状充填剤の数平均繊維径が5〜9μmである請求項1、2、4〜6のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項8】 前記(A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド610、またはポリアミド612を主成分とするポリアミド樹脂である請求項1、2、4〜7のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項9】 前記(A)ポリアミド樹脂の硫酸相対粘度が3.2〜4.5である請求項1、2、4〜8のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。」 第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要 1 取消理由通知の概要 当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)取消理由A(明確性) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜9の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1〜9に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 ア 本件訂正前の請求項1の「前記樹脂組成物中に分散する前記(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径が0.8μm以下」の「数平均粒子径」と、本件訂正前の請求項3の「前記(B)フッ素系樹脂は、数平均1次粒子径が0.1〜0.8μmである」の「数平均1次粒子径」は、ほぼ同様の値となっているが、どのような違いがあるのか明らかではない。 イ 本件訂正前の請求項3、請求項4、請求項6の「フッ素樹脂紛体」の「紛体」は、「粉体」の誤記であると認められる。 (2)取消理由B(新規性) 本件訂正前の請求項1〜5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。 よって、本件訂正前の請求項1〜5に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものに対してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (3)取消理由C(進歩性) 本件訂正前の請求項1〜9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件訂正前の請求項1〜9に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 2 特許異議申立理由の概要 申立人が特許異議申立書に記載した申立理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)申立理由1(実施可能要件又はサポート要件) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、3〜5、7〜9の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものではない。 また、本件訂正前の発明の詳細な説明の記載は、下記の点で、当業者が本件訂正前の請求項1、3〜5、7〜9に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件訂正前の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1、3〜5、7〜9に係る発明の特許は、同法第36条第6項又は第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 本件明細書の段落【0020】、【0022】、【0027】、【0077】〜【0081】、【0083】、【0085】及び【0089】〜【0107】の実施例及び比較例の記載からみて、本件発明の課題を解決するためには、「強化ポリアミド樹脂成形体」の製造において、未焼成のフッ素系樹脂の使用、ポリアミド樹脂を溶融させた後での下流側でのフッ素系樹脂の供給、及び押出機の吐出口における樹脂温度310℃以下、の3つの手段が必要であり、さらに、「フッ素系樹脂」がポリテトラフルオロエチレンであることの特定が必要であるといえるところ、本件発明1には、当該3つの手段及び「フッ素系樹脂」について特定されていないから、実施可能要件違反又はサポート要件違反である。 (2)申立理由2(新規性) 本件訂正前の請求項1〜5、7〜9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。 よって、本件訂正前の請求項1〜5、7〜9に係る発明の特許は、同法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由3(進歩性) 本件訂正前の請求項1〜9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件訂正前の請求項1〜9に係る発明の特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 第5 本件明細書及び各甲号証に記載された事項 1 本件明細書に記載された事項 本件明細書には、以下の事項が記載されている。 (本a)「【技術分野】 【0001】 本発明は、強化ポリアミド樹脂成形体に関し、詳しくは、優れた摺動特性と機械的性質に優れる強化ポリアミド樹脂成形体に関するものである。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、摺動特性と機械的性質に優れた強化ポリアミド樹脂成形体を提供することを目的とするものである。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ポリアミド樹脂中に、特定の分散状態でフッ素系樹脂を配合することにより、上記目的に適う強化ポリアミド樹脂成形体が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。 ・・・ 【発明の効果】 【0013】 本発明によれば、摩擦係数および摩耗量が少なく、限界PV値が高い、換言すれば良好な摺動特性を備え、機械的性質に優れる強化ポリアミド樹脂成形体が提供される。 従って、本発明の強化ポリアミド樹脂成形体は、ギア、カム軸受、ベアリングリテーナーまたはドアチェック用品等の広範な分野での摺動部材用の材料として、また、特には、自動車用のギア部品のような高度の信頼性が要求される部材等に好適に使用することができる。」 (本b)「【0015】 (A)ポリアミド樹脂 (A)ポリアミド樹脂としては、例えば、ラクタムの開環重合で得られるポリアミド、ω−アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド、ジアミン及びジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド、並びにこれらの共重合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。 また、ポリアミド樹脂(A)としては、上記ポリアミドの1種のみを単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。 【0016】 (A)ポリアミド樹脂の例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリアミド4(ポリα−ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610(ポリヘキサメチレンセバカミド)、ポリアミド612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリアミド2Me5T(ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタラミド(Meはメチル基、以下同様とする。))、及びポリアミドMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、ポリアミドPXD12(ポリパラキシリレンドデカミド)並びにこれらの少なくとも1種を構成成分として含む共重合ポリアミドからなる群より選ばれる1種以上のポリアミド樹脂等が挙げられる。」 (本c)「【0019】 (B)フッ素系樹脂 (B)フッ素系樹脂の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の他、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、及びポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等が挙げられ、摺動特性の観点からはポリテトラフルオロエチレンが好ましい。 【0020】 フッ素系樹脂粉体の数平均1次粒子径は0.8μm以下であることがより好ましい。また、フッ素系樹脂粉体の粒子形状は、1次粒子の凝集した2次粒子の形状を有することが好ましい。この形状のフッ素系樹脂粉体を用いて混練することによりフッ素系樹脂粉体の微分散が可能となる。 【0021】 (B)フッ素系樹脂は、(a)ポリアミド樹脂100質量部に対して1〜15質量部であり、より好ましくは2〜12質量部であり、さらに好ましくは3〜10質量部である。1質量部以上であることにより摺動特性が効果的に発揮され、15質量部以下であることにより摩耗性、機械特性が向上する。 【0022】 フッ素系樹脂粉体の製造方法は上記粒子形状になれば、いずれの製造方法を用いてもよいが、乳化重合法で重合され、凝析、洗浄、分離、及び乾燥して得られる粉体を使用することが好ましい。このとき粉体の焼成を行うと一次粒子が溶着する可能性があり、未焼成のフッ素系樹脂粉体を用いることがポリアミド樹脂組成物中に微分散するために好ましい。ここで焼成とは、フッ素系樹脂の融点以上に加熱し、結晶を融解させることをいう。 【0023】 フッ素系樹脂粉体の数平均1次粒子径は、摺動特性の改良効果の観点から0.1μm〜0.8μmであることが好ましく、0.12μm〜0.75μmであることがさらに好ましく、0.15μm〜0.6μmであることが最も好ましい。フッ素系樹脂粉体の数平均1次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により2次凝集粒子を10000倍で観察し、1次粒子の50個の粒子長径(粒子の最も長い部分の径)を測定して平均した値である。 【0024】 フッ素系樹脂粉体の2次粒子径は、解砕のし易さや凝集のし易さの度合いにより、また、測定方法や分散方法により影響を受けるため一概には言えないが、体積平均粒子径で2μm〜20μmの範囲にあることが粉体取扱い性の観点から好ましい。なお、体積平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定機を用いて測定し平均した値である。 ・・・ 【0026】 樹脂組成物中に分散する(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径は0.8μm以下である。0.1〜0.8μmの範囲が好ましく、0.2〜0.7μmであることがさらに好ましい。数平均粒子径が0.8μm以下であることにより摺動特性、機械特性が充分に発揮される。分散する(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径は、ポリアミド樹脂成形体を走査型電子顕微鏡(SEM)により5000倍で任意に10視野撮影し、観測できる粒子長径を計測してその分散粒径分布を得、得られた分散粒径分布の小粒子側からの50%累計値である。 ・・・ 【0029】 また、樹脂組成物中に分散する(B)フッ素系樹脂は、粒子径1.0μm以下の粒子の個数割合が70%以上であることが好ましく、75%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが最も好ましい。70%以上であることにより摺動特性、機械特性が充分に発揮される。 【0030】 樹脂組成物中に分散する(B)フッ素系樹脂の分散粒子径分布の個数累計95%における粒子径は3.0μm以下であることが好ましい。0.1〜3.0μmの範囲が好ましく、0.2〜2.8μmの範囲がさらに好ましい。個数累計95%における粒子径が3.0μm以下であることにより、摺動特性が充分に発揮される。 【0031】 樹脂組成物中に分散する(B)フッ素系樹脂の粒子径が0.8μm以上の粒子の中には、一部融解接着し、肥大化した粒子も存在する場合もあるが、フッ素樹脂粉体で観察される1次粒子の形状を保持したまま凝集した形状である粒子の割合が60%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。0.8μm以上の粒子が1次粒子の形状を保持したまま凝集した粒子形状であることにより、摺動特性充分に発揮される。0.8μm以上の粒子の形状は、ポリアミド樹脂成形体を走査型電子顕微鏡(SEM)により5000倍で任意に分散粒子を観察して行う。1次粒子が凝集した粒子であっても1つの粒子としてカウントする。」 (本d)「【0032】 (C)繊維状充填材 (C)繊維状充填材としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ワラストナイト、カーボンナノチューブ、が挙げられる。 これらの中でも、本発明のポリアミド樹脂成形体の強度を増大させる観点から、ガラス繊維が好ましい。 上述した(C)成分は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。 ・・・ 【0035】 (C)繊維状充填材の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、30〜100質量部の範囲である。繊維状充填材が30質量部より少ない場合は、得られる樹脂組成物の摺動特性が低下し、また、含有量が100質量部より多い場合は、樹脂組成物を溶融混練により製造する場合の押出性、成形加工性が悪くなり、機械的特性も低下する。好ましい含有量は40〜90質量部であり、さらに好ましくは40〜80質量部であり、特に好ましくは40〜70質量部である。」 (本e)「【0061】 (熱安定剤) ポリアミド樹脂組成物には熱安定剤が添加されることが好ましい。 熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール化合物等のフェノール系安定剤、ホスファイト系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、トリアジン系安定剤、及びイオウ系安定剤等が挙げられる。 【0062】 また、銅ハロゲン化物及び/または金属ハロゲン化物を含むことが好ましい。・・・ ・・・ 【0065】 (成形性改良剤) ポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、成形性改良剤を添加してもよい。 成形性改良剤としては、特に限定されないが、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、及び高級脂肪酸アミド等が挙げられる。 ・・・ 【0072】 (着色剤) ポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、着色剤を添加してもよい。・・・ 【0073】 (その他の樹脂) ポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、他の樹脂を添加してもよい。 このような樹脂としては、特に限定されるものではないが、後述する熱可塑性樹脂やゴム成分等が挙げられる。」 (本f)「【0076】 (強化ポリアミド樹脂成形体の製造方法) 本発明の強化ポリアミド樹脂成形体の製造方法は特に限定されるものではなく、(A)ポリアミド樹脂と(B)フッ素系樹脂と(C)繊維状充填材及び必要に応じて配合されるその他の成分を、任意の順序で混合、混練することによって製造した樹脂組成物を成形することで成形体を得ることができる。 【0077】 ポリアミド樹脂組成物は、単軸もしくは二軸押出機等の通常用いられる種々の押出機を用いて溶融混練する方法が好ましく、生産性、汎用性等の点から二軸押出機を用いる方法が特に好ましい。その際、溶融混練温度は、ポリアミド樹脂の種類にもよるが、押出機吐出口から吐出された溶融樹脂の温度がポリアミド樹脂の融点以上、フッ素系樹脂の融点以下となるように調整することが好ましい。溶融混練温度を上記範囲とすることにより、押出混練不良が生じ難く、フッ素系樹脂の微分散が可能となる。 【0078】 二軸押出機の場合、押出機スクリューには少なくとも三カ所以上のニーディングディスクを組み合わせたニーディングゾーンを有することが好ましい。ニーディングゾーンは、混練が効果的に行われるように、溶融樹脂の押出方向への進行を抑制しつつ高剪断を付与する領域のことである。溶融混練は、二軸押出機の最上流のフィード口よりポリアミド樹脂を供給し、ポリアミド樹脂は第一のニーディングゾーン(以後、溶融ゾーンと称する)で溶融し、溶融ゾーン以降に設けたサイドフィード口からフッ素系樹脂粉体および繊維状充填材を供給し、サイドフィード口以降に設けた第二のニーディングゾーン(以後、混練ゾーンと称する)により溶融したポリアミド樹脂中に非溶融のフッ素系樹脂および繊維状充填材を分散する方法が好ましい。 【0079】 フッ素系樹脂粉体をポリアミド樹脂とともに最上流部のフィード口から供給すると、ポリアミド樹脂の溶融する溶融ゾーンでの剪断発熱により設定温度より樹脂の温度は高温になるため、溶融ゾーンではフッ素系樹脂の融点以上の温度となり、フッ素系樹脂粉体が溶融し凝集するため、微分散が困難となる。 【0080】 フッ素系樹脂粉体をサイドフィード口より供給するに際し、サイドフィード口の位置はできるだけ下流側に設けることが好ましい。溶融ゾーン近傍では樹脂温度が高くフッ素系樹脂粉体が溶融し、凝集する可能性があるため避けた方が好ましい。 【0081】 ポリアミド樹脂及びフッ素系樹脂粉体とが溶融混練された後の押出機出口より吐出される組成物の樹脂温度は、ポリアミド樹脂の結晶化温度より高く、310℃以下となるように押出機の各条件(バレル温度、スクリュー回転数、吐出量等)を設定することが望ましい。吐出口の樹脂温度を310℃以下とすることにより、フッ素系樹脂の溶融、凝集が抑制されて、フッ素系樹脂を微分散することができる。 【0082】 上記樹脂温度は、例えば、押出機出口より吐出される溶融状態の樹脂に一般に市販されている熱電対式温度計の検知部を直接接触させて測定することが好ましい。 上記樹脂温度を達成するための押出機の温度設定は、溶融ゾーンまでと溶融ゾーン以降での設定温度は変えることが好ましい。溶融ゾーンまではポリアミド樹脂の融点の5℃〜45℃高い範囲の設定にすることが好ましく、より好ましくは7℃〜40℃高い範囲の設定、さらに好ましくは10℃〜30℃高い範囲の設定とすることが望ましい。 【0083】 溶融ゾーン以降の温度設定は、好ましくはポリアミド樹脂の結晶化温度より10℃高い温度から290℃の温度範囲に設定することが好ましく。より好ましくは15℃高い温度から285℃の温度範囲、さらに好ましくは20℃高い温度から280℃の温度範囲に設定することが望ましい。設定温度を結晶化温度より10℃高い温度とすることでポリアミド樹脂の固化が抑制され押出しを容易に行うことができる。また、設定温度を290℃以下とすることによりフッ素系樹脂を微分散化することができる。 【0084】 ポリアミド樹脂組成物を成形することにより、本発明のポリアミド樹脂成形体が得られる。 成形体を得る方法としては、特に限定されず、公知の成形方法を用いることができる。 例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、及び金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法が挙げられる。 【0085】 本発明のポリアミド樹脂成形体を成形する際の成形機の設定温度は、使用するポリアミド樹脂の融点より5℃高い温度から310℃の範囲で設定することが好ましく、より好ましくは10℃高い温度から300℃の範囲、さらに好ましくは15℃高い温度から295℃の範囲であることが望ましい。成形機の設定温度を310℃以下とすることにより、ポリアミド樹脂組成物の溶融時及び射出時におけるフッ素系樹脂の溶融、凝集を抑制することができ、成形体中のフッ素系樹脂の分散を充分なものとすることができる。」 (本g)「【実施例】 【0089】 以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた各成分は以下のものである。 【0090】 <(A)ポリアミド樹脂> 製造例1 A1:ポリアミド66 アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩15000g、並びに全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水15000gに溶解させ、原料モノマーの50質量%水溶液を得た。得られた水溶液を内容積40Lのオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を窒素で置換した。この水溶液を、110〜150℃の温度下で撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。その後、内部温度を220℃に昇温した。このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。そのまま内部温度が270℃になるまで、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。 その後、約1時間かけて圧力を大気圧まで減圧し、大気圧になった後、下部ノズルからストランド状に排出して、水冷、カッティングを行い、ペレットを得た。得られたペレットを窒素気流中、90℃で4時間乾燥した。このペレットの98%硫酸相対粘度は2.71、融点265℃、結晶化温度220℃であった。 【0091】 製造例2 A2:ポリアミド66 上記製造例1で得られたペレット10kgを円錐型リボン真空乾燥機(株式会社大川原製作所製、商品名リボコーンRM−10V)に入れ、充分に窒素置換を行った。 1L/分で窒素を流したまま、攪拌を行いながら、ペレット温度204℃で6時間の加熱を行った。 その後、窒素を流通したまま温度を下げていき、約50℃になったところでペレットのまま装置から取り出した。このペレットの98%硫酸相対粘度は4.1、融点262℃、結晶化温度215℃であった。 【0092】 製造例3 A3:ポリアミド6 宇部興産社製、商品名「UBEナイロン 1013B」、硫酸相対粘度 2.3 【0093】 <(B)フッ素系樹脂> ・B1:ポリテトラフルオロエチレン 三井・デュポンフロロケミカル社製、商品名「テフロン(登録商標)PTFE TLP 10F−1」、数平均一次粒子径 0.2μm、数平均分子量 300,000 ・B2:ポリテトラフルオロエチレン 喜多村社製、商品名「KTL−8N」、数平均一次粒子径4.5μm、数平均分子量 300,000、焼成品 【0094】 <(C)繊維状充填材> ・C1:チョップドガラス繊維 日東紡社製、商品名「CS−3DE−356S」、平均直径6.5μm ・C2:チョップドガラス繊維 日本電気硝子社製、商品名「ECS03T−275H」、平均直径10μm 【0095】 <銅化合物> (1)ヨウ化銅:ヨウ化銅(I)、和光純薬工業社製 <金属ハロゲン化合物> (1)ヨウ化カリウム:ヨウ化カリウム、和光純薬工業社製 【0096】 [成形方法] 実施例及び比較例で得られた組成物のペレットを、射出成形機PS−40E[日精樹脂株式会社製]を用いて、射出+保圧時間25秒、冷却時間15秒、金型温度を80℃、シリンダー温度=(ポリアミド樹脂の融点+30)℃に設定し、ISO 3167、多目的試験片A形の試験片を成形した。 また、上記成形条件にて、実施例及び比較例で得られた組成物のペレットを射出成形し、外径φ25.7mm×内径φ20mm×高さ17mmの中空円筒状試験片を作製し、摺動特性評価用試験片を得た。 【0097】 [測定方法] <硫酸相対粘度> ポリアミド樹脂の25℃における硫酸相対粘度ηrを、JIS−K6920に準じて測定した。具体的には、98%硫酸を用いて、1%の濃度の溶解液((ポリアミド1g)/(98%硫酸100mL)の割合)を作成し、得られた溶解液を用いて25℃の温度条件下で硫酸相対粘度ηrを測定した。 【0098】 <成形体中PTFEの数平均粒子径> [成形方法]の条件で成形した多目的試験片A形を液体窒素に投入し、充分に冷却したのち取出して全長中央部を折り曲げ破断した。破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて5000倍で任意に3視野撮影し、観測できる粒子長径を計測してその分散粒径分布を得、得られた分散粒径分布の小粒子側からの50%累計値を数平均粒子径とした。その際、1次粒子の凝集した2次粒子形状の粒子は1つの粒子としてカウントした。 【0099】 <成形体中PTFEの粒子径1μm以下の粒子の個数割合> [成形方法]の条件で成形した多目的試験片A形を液体窒素に投入し、充分に冷却したのち取出して全長中央部を折り曲げ破断した。破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて5000倍で任意に3視野撮影し、観測できる粒子長径を計測してその分散粒径分布を得、1.0μmまでの粒子の数をカウントし、全粒子数に対する個数割合を算出した。 【0100】 [評価方法] <摺動特性の評価> 摩擦・摩耗試験 相手材としてφ8mm、長さ22mm、表面粗度5μmに切削加工した構造用炭素鋼S45Cを用い、円筒を横向きに十字に配した後、〔成形方法〕で得られた摺動特性評価用試験片を上から接触させ、荷重を掛けて回転運動させることにより摩擦係数及び摩耗量を測定した。(試験条件:初期面圧8.6MPa、周速度0.056m/secで回転運動を与え、24時間連続運転) JIS K7218:1986に準拠し、試験機でトルクを測定して、摺動特性評価用試験片の平均半径と加圧力で割り、摩擦係数を求めた。 試験開始前の摺動特性評価用試験片の重量Amgを小数点第一位まで測定し、試験終了の24時間後の重量Bmgを同様に測定して、A−Bにより摩耗量を求めた。 【0101】 <機械的性質の評価> 上記の方法で得られたペレット形状成形体を、〔成形方法〕で得られたISO試験片を用い、ISO178規格に準拠して曲げ強度及び曲げ弾性率を、ISO528規格に準拠して引張強度及び引張伸度を測定した。 【0102】 [実施例1〜6、8、9、参考例、比較例1〜5] 下記表1または2に記した(C)繊維状充填材及び(B)フッ素系樹脂以外の各成分を、表1または2に記した割合で混合した後、得られた混合物を、二軸押出機(コペリオン社製「ZSK25」)の最上流供給口から供給し、これらを溶融し、下流側にある最上流部以外に2つ供えられた供給口の上流側の供給口から(C)繊維状充填材、下流側の供給口から(B)フッ素系樹脂を供給して、複数供えられた3mmφの押出機吐出口金から排出し、水冷後、ペレタイズすることで長さ約3mm、直径約3mmのペレット形状成形体を製造した。 溶融混練時の樹脂温度は、押出機吐出口から排出された樹脂の温度を横河メータ&インスツルメンツ製TX10温度計に同社製温度プローブ(熱電対)90023にて口金から約1mmの距離で吐出する樹脂温度計により測定した。 このときの押出機の温度設定は290℃、吐出量は20kg/hrとした。 得られたペレットを80℃で12時間乾燥した後、[成形方法]で得られた各種試験片を作製し、[評価方法]の方法で評価を行った。 【0103】 [比較例6] 下記表2に記した(C)繊維状充填材及び(B)フッ素系樹脂以外の各成分を、表2に記した割合で混合した後、得られた混合物を、二軸押出機(コペリオン社製「ZSK25」)の最上流供給口から供給し、これらが溶融した下流側である最上流部以外に2つ供えられた供給口の上流側の供給口(中央供給口)から(C)繊維状充填材と(B)フッ素系樹脂を供給して、複数供えられた3mmφの押出機吐出口金から排出し、水冷後、ペレタイズすることで長さ約3mm、直径約3mmのペレット形状成形体を製造した。 溶融混練時の樹脂温度は、押出機吐出口から排出された樹脂の温度を直径2mmφの熱電対センサーを備えたハンディタイプの樹脂温度計で測定した。 このときの押出機の温度設定は290℃、吐出量は20kg/hrとした。 得られたペレット形状成形体を80℃で12時間乾燥した後、[成形方法]で得られた各種試験片を作製し、[評価方法]の方法で評価を行った。 【0104】 [比較例7] 下記表2に記した(C)繊維状充填材及び(B)フッ素系樹脂以外の各成分を、表2に記した割合で混合した後、得られた混合物と(B)フッ素系樹脂を別々の供給装置で、二軸押出機(コペリオン社製「ZSK25」)の最上流供給口から供給し、これらが溶融した下流側である最上流部以外に2つ供えられた供給口の上流側の供給口から(C)繊維状充填材供給して、複数供えられた3mmφの押出機吐出口金から排出し、水冷後、ペレタ イズすることで長さ約3mm、直径約3mmのペレット形状成形体を製造した。 溶融混練時の樹脂温度は、押出機吐出口から排出された樹脂の温度を直径2mmφの熱電対センサーを備えたハンディタイプの樹脂温度計で測定した。 このときの押出機の温度設定は290℃、吐出量は20kg/hrとした。 得られたペレット形状成形体を80℃で12時間乾燥した後、[成形方法]で得られた各種試験片を作製し、[評価方法]の方法で評価を行った。 結果を表1及び2に示す。 【0105】 【表1】 【0106】 【表2】 【0107】 表1及び2の実施例の結果から明らかなように、本発明の強化ポリアミド樹脂成形体は、摺動特性(摩擦係数、摩耗量)と靱性及び耐衝撃性のバランスに優れていた。 一方、表1及び2の比較例の結果から明らかなように、本発明から外れた強化ポリアミド樹脂成形体は、摺動特性(摩擦係数、摩耗量)、靱性及び耐衝撃性のいずれかが劣る結果となった。」 2 甲第1号証及び各参考資料に記載された事項 (1)甲第1号証に記載された事項 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。 (甲1a)「【請求項1】 ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、シロキサン化合物(B)1〜30質量部、フッ素系樹脂(C)2〜60質量部を含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。 【請求項2】 ポリアミド樹脂(A)が、キシリレンジアミンとα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸との重縮合反応により得られるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項3】 シロキサン化合物(B)が、オルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項4】 フッ素系樹脂(C)が、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項5】 さらに、強化充填材(D)を、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、10〜250質量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項6】 熱可塑性樹脂に予めシロキサン化合物(B)を含有させた混合物を、ポリアミド樹脂(A)及びフッ素樹脂(C)に含有させてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項7】 請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。 【請求項8】 請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品を、ポリアミド樹脂を成形してなる成形品と摺動する部分を有する部材に用いることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の使用方法。」 (甲1b)「【技術分野】 【0001】 発明は、ポリアミド樹脂組成物ならびにその成形品および使用方法に関し、詳しくは、優れた摺動性と機械的性質を有し、しかも摺動特性の安定性に優れたポリアミド樹脂組成物ならびにその成形品および使用方法に関する。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明の目的は、以上のような状況から、優れた摺動性と機械的性質を有し、しかも摺動特性の安定性に優れたポリアミド樹脂材料を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ポリアミド樹脂に、特定量のシロキサン化合物および特定量のフッ素系樹脂を配合することにより、上記目的に適うポリアミド樹脂材料が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。 ・・・ 【発明の効果】 【0015】 本発明によれば、動摩擦係数が低く、動摩擦係数の変動が少なく、摺動性に優れ、かつ、その摺動特性の再現性にも優れたポリアミド樹脂組成物が提供される。 したがって、本発明のポリアミド樹脂組成物は、ギア、カム軸受、ベアリングリテーナーまたはドアチェック用品等の広範な分野での摺動部材用の材料として、また、特には、自動車用のアクセルペダルローターのような高度の信頼性が要求される部材等に好適に使用することができる。」 (甲1c)「【0017】 以下、本発明のポリアミド樹脂組成物に用いる各構成成分およびその成形品の製造方法について、詳細に説明する。 (1)ポリアミド樹脂(A) 本発明の樹脂組成物に使用されるポリアミド樹脂(A)は、ラクタムの開環重合、アミノカルボン酸の重縮合、ジアミンと二塩基酸の重縮合により得られる酸アミドを繰り返し単位とする高分子であり、具体的には、ポリアミド6、11、12、46、66、69、610、612、6I、6/66、6T/6I、6/6T、6/6I、66/6T、66/6I、66/6T/6I、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂(ポリアミドXD)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド等が挙げられる。なお、上記「I」はイソフタル酸由来成分、「T」はテレフタル酸由来成分を示す。 本発明に使用されるポリアミド樹脂(A)としては、これらのポリアミド樹脂の有する種々の特性と目的とする成形品の用途等を勘案して適切なポリアミド樹脂を選択することができる。」 (甲1d)「【0036】 (3)フッ素系樹脂(C) 本発明で用いられるフッ素系樹脂(C)とは、分子中にフッ素原子(F)を含有する合成高分子のことであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン/プロピレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ビニリデンフルオライド/エチレン共重合体などが挙げられる。 中でも、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/バーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライドが好ましく、特にポリテトラフルオロエチレンが好ましい。 【0037】 フッ素系樹脂(C)は、その平均粒径が5〜25μmであるものが好ましく、10〜20μmが更に好ましい。このような粒径のものを用いると、分散が容易でかつ凝集が起きにくく、特に耐摩耗特性が向上するという効果を高めることができる。 ・・・ 【0038】 フッ素系樹脂(C)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、2〜60質量部の範囲である。フッ素系樹脂が2質量部より少ない場合は、得られる樹脂組成物の摺動性の再現性が低下し、また、含有量が60質量部より多い場合は、樹脂組成物を溶融混練により製造する場合の押出性、成形加工性が悪くなり、機械的物性も低下する。好ましい含有量は5〜50質量部であり、さらに好ましくは5〜45質量部であり、特に好ましくは5〜35質量部である。」 (甲1e)「【0040】 (4)強化充填材(D) 本発明の樹脂組成物には、強化充填材(D)を配合することが好ましい。強化充填材(D)は、有機充填材でも無機充填材でも良く、例えば、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、カーボン繊維、シリカ、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、ステンレス繊維、アルミニウム、チタン、銅、真鍮、タルク、マイカ、カオリン、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等の無機繊維、金属繊維その他の無機充填材、さらには有機繊維(例えば、芳香族ポリアミド繊維、液晶性芳香族ポリエステル繊維など)が含まれる。 本発明において、好ましい強化充填材(D)としては、無機繊維(例えば、ガラス繊維など)が挙げられる。好ましい強化充填材のガラス繊維は、通常熱可塑性樹脂に使用されるものであれば特に限定されないが、Eガラス(無アルカリガラス)から作られるチョップドストランドが好ましい。該強化充填材(D)は単独で又は二種以上組み合わせても使用できる。 【0041】 強化充填材(D)が無機又は有機の繊維である場合、その平均繊維径は特に制限されず、例えば1〜100μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは3〜30μm、さらに好ましくは1〜20μm、最も好ましくは5〜15μm程度であり、また平均繊維長も、特に制限されないが、例えば、0.1〜20mm、好ましくは1〜10mm程度である。 【0042】 なお、強化充填材(D)は、ポリアミド樹脂(A)との界面密着性を向上させるために収束剤又は表面処理剤(例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物などの官能性化合物)で表面処理したものを用いるのが好ましい。強化充填材(D)は、前記収束剤又は表面処理剤により予め表面処理してもよく、又はポリアミド樹脂組成物の調製の際に収束剤又は表面処理剤を添加して表面処理してもよい。 強化充填材(D)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、10〜250質量部が好ましく、より好ましくは20〜200質量部、より好ましくは30〜160質量部、特に好ましくは40〜150質量部である。含有量が250質量部を超えると流動性が著しく低下したり、成形性や外観が損なわる場合があり、また配合量が少ないと、機械的物性が小さくなる場合があるので、あまり好ましくない。」 (甲1f)「【0044】 (6)ポリアミド樹脂組成物の製造方法 本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、ポリアミド樹脂(A)、シロキサン化合物(B)とフッ素系樹脂(C)および必要に応じて配合されるその他の成分を、任意の順序で混合、混練することによって製造することができる。なかでも、単軸もしくは二軸押出機等の通常用いられる種々の押出機を用いて溶融混練する方法が好ましく、生産性、汎用性等の点から二軸押出機を用いる方法が特に好ましい。 その際、溶融混練温度は、ポリアミド樹脂の種類にもよるが、通常ポリアミド樹脂の融点以上、例えば、200〜300℃で、滞留時間は10分以下に調整することが好ましく、スクリューには少なくとも一カ所以上の逆目スクリューエレメント及び/又はニーディングディスクを有し、該部分において一部滞留させながら溶融混練することが好ましい。溶融混練温度を上記範囲とすることにより、押出混練不良や樹脂の分解が生じ難い傾向となる。 ・・・ 【0046】 (7)成形品 本発明においては、溶融混練し、押出し後、ペレタイズした本発明のポリアミド樹脂組成物ペレットを各種の成形法で成形して成形品を製造することができる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、押出成形品、ブロー成形品あるいは射出成形品等にすることもできる。 本発明のポリアミド樹脂組成物は、各種成形品の成形材料として使用できる。成形品の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その用途に応じて任意に設定すればよい。適用できる成形方法は、熱可塑性樹脂の成形に適用できる方法をそのまま適用することが出来、射出成形法、押出成形法、中空成形法、回転成形法、圧縮成形法、差圧成形法、トランスファー成形法などが挙げられる。」 (甲1g)「【実施例】 【0048】 以下、実施例により本発明を具体的に説明する。 [使用材料] 以下の実施例および比較例で使用した各成分は以下のとおりである。 【0049】 <ポリアミド樹脂(A)> ・ポリメタキシリレンジアジパミド: 三菱ガス化学(株)製、商品名「MXナイロン#6000」 融点240℃、ガラス転移点85℃、数平均分子量15,000 相対粘度2.17(96%硫酸、樹脂濃度1g/100ml、25℃で測定) 末端アミノ基濃度39μ当量/g、末端カルボキシル基濃度84μ当量/g 以下、「MXD6」と略記する。 ・ポリアミド66: 融点265℃、ガラス転移点50℃、相対粘度3.0(96%硫酸、樹脂濃度1g/100ml、25℃で測定) 【0050】 <シロキサン化合物(B)> ・オルガノポリシロキサンマスターバッチ: 東レ・ダウコーニング社製、商品名「BY27−005」 ベース樹脂:ポリアミド66(含有量50質量%) ポリジメチルシロキサンの含有量50質量% なお表中、「シリコーン」と略記する。 なお、表1〜2においては、実質的に含まれるシロキサン化合物の量を記載した。また、上記ポリアミド66と、オルガノポリシロキサンマスターバッチのベース樹脂に用いられたポリアミド66の配合量を合わせて、「PA66」欄に記載した。 【0051】 <フッ素系樹脂(C)> ポリテトラフルオロエチレン: ダイキン工業社製、商品名「ルブロンL5F」 以下、「PTFE」と略記する 【0052】 <ガラス繊維> 日本電気硝子社製チョップドストランド、商品名「T−296GH」 以下、「GF」と略記する。 <タルク> 林化成社製、商品名「ミクロンホワイト5000A」 【0053】 [実施例1〜6及び比較例1〜8] 後記表1〜2に記したPTFE及びガラス繊維以外の各成分を、後記表1〜2に記した割合でドライブレンドした後、得られたドライブレンド物を、二軸押出機(東芝機械社製「TEM26SS」)の基部から投入し、PTFEは別フィードで基部へ投入し溶融した後、ガラス繊維をサイドフィードして、樹脂組成物ペレットを製造した。 押出機の温度設定は280℃、吐出量は30kg/hrとした。 得られたペレットを80℃で12時間乾燥した後、日精樹脂工業社製、射出成形機「NEX80」にて、シリンダー温度を275℃、金型温度130℃の設定で射出成形を行い、60×60×厚み3mmの大きさの試験片(試験片1)を作成し、下記の方法で評価を行った。 結果を表1〜2に示す。 【0054】 [評価方法] (1)摺動性 (1−1)動摩擦係数 オリエンテック(株)製、スラスト式摩擦摩耗試験機を使用して、上記で得られた試験 片1を自材とし、下記の方法で得られた試験片2を相手材として用いて、測定を行った。 相手材の試験片2は、ガラス繊維30質量%強化ポリアミド66(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名「ノバミッド3021G30」)を用い、日精樹脂工業社製、射出成形機「NS40」にて、シリンダー温度を275℃、金型温度130℃の設定で射出成形を行い、外形26mm、内径23mm、高さ15mmの円筒型スラスト試験片を成形することにより作製した。 測定条件は、温度23℃、湿度50%で、絶乾状態で保管した試験片を用い、面圧力3MPa、回転運動の平均内径の線速度30mm/秒、試験時間1,000分とし、動摩擦係数を測定した。結果を表1〜2に示す。 上記の方法で測定を5回行い、最も動摩擦係数が低いものについて、以下の基準で評価した。 ○:動摩擦係数が少なく、常に0.3以下である。 ×:動摩擦係数が大きく、0.3を超える。 また、初期(0分)から終期(1,000分)までの動摩擦係数の測定結果の例を、図1〜3に示す。図中、横軸は時間(分)、縦軸は動摩擦係数である。図1は、本発明の実施例に、図2および3は比較例に相当する結果である。 【0055】 (1−2)安定性 上記の方法で測定を5回行い、以下の基準で、測定の安定性を評価した。 ○:測定の再現性がよく、5回の測定全てが、図1に示すような、動摩擦係数が低く、その変動が小さく、安定した結果を示す。 ×:測定の再現性が悪く、5回の測定のうち少なくとも1回の測定において、図2または図3に示すような、動摩擦係数の変動が大きい結果を示す。 【0056】 (2)機械的物性 上記記載の方法で得られた実施例1の樹脂組成物ペレットを、80℃で12時間乾燥した後、射出成形機(ファナック社製「α−100iA」)を用い、シリンダー温度275℃、金型130℃の設定でISO試験片を成形した。得られた試験片を用い、ISO178規格に準拠して曲げ強度及び曲げ弾性率を、ISO179−1、179−2規格に準拠してノッチ付き及びノッチなしシャルピー衝撃値を測定した。結果を表1に示す。 【0057】 【表1】 【0058】 【表2】 」 (2)参考資料1に記載された事項 参考資料には、以下の事項が記載されている。 (参1a)「 」(第503頁) (3)参考資料2に記載された事項 参考資料2には、以下の事項が記載されている。 (参2a)「【0072】 ・・・ (B)−2(PTFE−2):ルブロンTM L−5F、ダイキン工業社製、数平均1次粒子径0.15μm、融点328℃」 (4)参考資料3に記載された事項 参考資料3には、以下の事項が記載されている。 (参3a)「 」(第1頁) (5)乙第1号証に記載された事項 乙第1号証には、以下の事項が記載されている。 (乙1a)「 」(第212頁〜第213頁) 第6 当審の判断 当審は、本件発明3に係る特許については特許異議申立を却下することとし、また、当審が通知した取消理由A〜C及び申立人がした申立理由1〜3によっては、いずれも、本件発明1〜2、4〜9に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 取消理由B及び取消理由Cと申立理由2及び申立理由3は、いずれも甲第1号証を主引用例とする新規性及び進歩性の理由であるから、以下「取消理由B(新規性)、取消理由C(進歩性)について」において、併せて検討する。 1 申立ての却下 上記「第2 訂正の適否についての判断」及び「第3 特許請求の範囲の記載」で示したとおり、請求項3は、本件訂正により削除されているので、請求項3についての申立てを却下する。 2 当審が通知した取消理由について (1)取消理由A(明確性)について 取消理由A−1及びA−2の概要は、「第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要」「1 取消理由通知の概要」「(1)取消理由A(明確性)」に記載したとおりであるが、以下のアに再掲する。 ア 取消理由A 取消理由A−1:本件訂正前の請求項1の「前記樹脂組成物中に分散する前記(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径が0.8μm以下」の「数平均粒子径」と、本件訂正前の請求項3の「前記(B)フッ素系樹脂は、数平均1次粒子径が0.1〜0.8μmである」の「数平均1次粒子径」は、ほぼ同様の値となっているが、どのような違いがあるのか明らかではない。 取消理由A−2:本件訂正前の請求項3、請求項4、請求項6の「フッ素樹脂紛体」の「紛体」は、「粉体」の誤記であると認められる。 イ 判断 (ア)取消理由A−1について 本件訂正により、請求項3が削除されたため、本件訂正前の請求項1の「前記樹脂組成物中に分散する前記(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径が0.8μm以下」の「数平均粒子径」と、本件訂正前の請求項3の「前記(B)フッ素系樹脂は、数平均1次粒子径が0.1〜0.8μmである」の「数平均1次粒子径」との関係において明確できないとの取消理由は解消された。 以下、取消理由B(新規性)、取消理由C(進歩性)での検討の前提として、本件訂正前の請求項1の「数平均粒子径」と本件訂正前の請求項3の「数平均1次粒子径」の意義、及び両者の関係を確認しておく。 上記本件訂正前の請求項1の「前記樹脂組成物中に分散する前記(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径が0.8μm以下」の「数平均粒子径」と、本件訂正前の請求項3の「前記(B)フッ素系樹脂は、数平均1次粒子径が0.1〜0.8μmである」の「数平均1次粒子径」について、令和3年12月20日付けの意見書において、特許権者は、以下の主張をしている。 「・・・請求項1の「(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径」は、・・・ポリアミド樹脂成形体中の(B)フッ素系樹脂の粒子は、1次粒子が凝集した粒子であっても1つの粒子としてカウントされる(本件明細書段落[0031])。つまり、ポリアミド樹脂成形体中の(B)フッ素系樹脂の粒子には、1次粒子も、1次粒子が凝集した2次粒子も含まれることが、本件明細書に記載されている。また、請求項3における「数平均1次粒子径が0.1〜0.8μmであるフッ素系樹脂粉体」は、ポリアミド樹脂成形体を形成するための原料であるフッ素系樹脂粉体を意味しており、・・・1次粒子の50個の粒子長径(粒子の最も長い部分の径)を測定して平均した値」である。 請求項1の「数平均粒子径」と請求項3の「数平均1次粒子径」がいずれも「0.8μm以下」であること、すなわち、ポリアミド樹脂成形体中の(B)フッ素系樹脂の粒子の数平均粒子径が、原料であるフッ素系樹脂粉体の1次粒子の数平均粒子径と同様に「0.8μm以下」であることは、ポリアミド樹脂成形体中の(B)フッ素系樹脂の粒子の多くが1次粒子であるか、2次粒子であっても粒子径の小さいものが多いことを意味する。つまり、ポリアミド樹脂成形体中の(B)フッ素系樹脂は、1次粒子が凝集した2次粒子であっても、粒子径0.8μm以下の大きさを保っているものが多い。」 当該主張を踏まえて、本件明細書の記載を確認すると、本件明細書の(本c)の段落【0020】の「フッ素系樹脂粉体の数平均1次粒子径は0.8μm以下であることがより好ましい。また、フッ素系樹脂粉体の粒子形状は、1次粒子の凝集した2次粒子の形状を有することが好ましい」との記載、段落【0023】の「フッ素系樹脂粉体の数平均1次粒子径は、摺動特性の改良効果の観点から0.1μm〜0.8μmであることが好ましく、・・・。フッ素系樹脂粉体の数平均1次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により2次凝集粒子を10000倍で観察し、1次粒子の50個の粒子長径(粒子の最も長い部分の径)を測定して平均した値である」との記載及び技術常識からみて、本件訂正前の請求項3の「前記(B)フッ素系樹脂は、数平均1次粒子径が0.1〜0.8μmである」の「数平均1次粒子径」は、凝集する前の「ポリアミド樹脂成形体を形成するための原料であるフッ素系樹脂粉体」の粒子径を「数平均」として算出したものであることを意味していることが理解できる。 また、段落【0026】の「樹脂組成物中に分散する(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径は0.8μm以下である。0.1〜0.8μmの範囲が好ましく、・・・フッ素系樹脂の数平均粒子径は、ポリアミド樹脂成形体を走査型電子顕微鏡(SEM)により5000倍で任意に10視野撮影し、観測できる粒子長径を計測してその分散粒径分布を得、得られた分散粒径分布の小粒子側からの50%累計値である」、段落【0031】の「樹脂組成物中に分散する(B)フッ素系樹脂の粒子径が0.8μm以上の粒子の中には、一部融解接着し、肥大化した粒子も存在する場合もあるが、フッ素樹脂粉体で観察される1次粒子の形状を保持したまま凝集した形状である粒子の割合が60%以上であることが好ましく、・・・。0.8μm以上の粒子が1次粒子の形状を保持したまま凝集した粒子形状であることにより、摺動特性充分に発揮される。0.8μm以上の粒子の形状は、ポリアミド樹脂成形体を走査型電子顕微鏡(SEM)により5000倍で任意に分散粒子を観察して行う。1次粒子が凝集した粒子であっても1つの粒子としてカウントする」との記載からみて、本件訂正前の請求項1の「前記樹脂組成物中に分散する前記(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径が0.8μm以下」の「数平均粒子径」は、「ポリアミド樹脂成形体を走査型電子顕微鏡(SEM)により5000倍で任意に分散粒子を観察して」測定されるものであって、「1次粒子が凝集した粒子であっても1つの粒子としてカウント」されるものであるから、「1次粒子」のままか、「凝集した粒子」であるかを問わず、「ポリアミド樹脂成形体」中の「(B)フッ素系樹脂」の粒子径をそのまま測定して「数平均」として算出したものであると理解できる。 そして、本件訂正前の請求項1の「前記樹脂組成物中に分散する前記(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径が0.8μm以下」の「数平均粒子径」と、本件訂正前の請求項3の「前記(B)フッ素系樹脂は、数平均1次粒子径が0.1〜0.8μmである」の「数平均1次粒子径」は、ほぼ同様の値となっているのは、「ポリアミド樹脂成形体中の(B)フッ素系樹脂の粒子の多くが1次粒子であるか、2次粒子であっても粒子径の小さいものが多いこと」を意味すると理解できるといえる。 (イ)取消理由A−2について 本件訂正の訂正事項7〜8により「フッ素樹脂紛体」は「フッ素樹脂粉体」と誤記が訂正されたので、取消理由A−2は解消された。 ウ 小括 以上のとおり、取消理由A−1、取消理由A−2は、本件訂正により解消されたといえるから、理由がない。 (2)取消理由B(新規性)、取消理由C(進歩性)について 取消理由B及び取消理由Cと申立理由2及び申立理由3は、いずれも甲第1号証を主引用例とする新規性及び進歩性の理由であるから、以下併せて検討する。 ア 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証の(甲1g)(特に、段落【0049】〜【0053】、【0057】の【表1】を参照。また、段落【0057】の【表1】の各成分の配合割合は、本件の特許請求の範囲及び本件明細書の(甲1d)の段落【0038】、(甲1e)の【0042】等の記載からみて「質量部」であると認められる。)の実施例3に着目すると、 「MDX6(ポリメタキシリレンジアジパミド:三菱ガス化学(株)製、商品名「MXナイロン#6000」) 89質量部 PA66(ポリアミド66) 11質量部 GF(ガラス繊維、日本電気硝子社製チョップドストランド、商品名「T−296GH」) 98質量部 タルク(林化成社製、商品名「ミクロンホワイト5000A」) 2.2質量部 シリコーン(オルガノポリシロキサンマスターバッチ:東レ・ダウコーニング社製、商品名「BY27−005」、ベース樹脂:ポリアミド66(含有量50質量%)、ポリジメチルシロキサンの含有量50質量%。表1〜2においては、実質的に含まれるシロキサン化合物の量を記載した。また、上記ポリアミド66と、オルガノポリシロキサンマスターバッチのベース樹脂に用いられたポリアミド66の配合量を合わせて、「PA66」欄に記載した。) 11質量部 PTFE(ポリテトラフルオロエチレン:ダイキン工業社製、商品名「ルブロンL5F」) 7質量部 のうち、PTFE及びガラス繊維以外の各成分を、上記の割合でドライブレンドした後、得られたドライブレンド物を、押出機の温度設定は280℃、吐出量は30kg/hrとして、二軸押出機(東芝機械社製「TEM26SS」)の基部から投入し、PTFEは別フィードで基部へ投入し溶融した後、ガラス繊維をサイドフィードして、樹脂組成物ペレットを製造し、 得られたペレットを80℃で12時間乾燥した後、射出成形機「NEX80」にて、シリンダー温度を275℃、金型温度130℃の設定で射出成形を行って作成した試験片」 の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「MDX6(ポリメタキシリレンジアジパミド:三菱ガス化学(株)製、商品名「MXナイロン#6000」)」及び「PA66(ポリアミド66)」は、本件発明1の「ポリアミド樹脂」に相当する。 甲1発明の「PTFE(ポリテトラフルオロエチレン:ダイキン工業社製、商品名「ルブロンL5F」)」は、本件発明1の「フッ素系樹脂」に相当する。 甲1発明の「PTFE(ポリテトラフルオロエチレン:ダイキン工業社製、商品名「ルブロンL5F」)」は、「MDX6(ポリメタキシリレンジアジパミド:三菱ガス化学(株)製、商品名「MXナイロン#6000」)」及び「PA66(ポリアミド66)」の合計量が100質量部(=89質量部+11質量部)に対して「7質量部」配合されているから、本件発明1と同様に、「(A)ポリアミド樹脂100質量部に対して、(B)フッ素系樹脂1〜15質量部」含有するといえる。(なお、「シリコーン(・オルガノポリシロキサンマスターバッチ:東レ・ダウコーニング社製、商品名「BY27−005」 、ベース樹脂:ポリアミド66(含有量50質量%)、ポリジメチルシロキサンの含有量50質量%)」中の「ポリアミド66」については、「上記ポリアミド66と、オルガノポリシロキサンマスターバッチのベース樹脂に用いられたポリアミド66の配合量を合わせて、「PA66」欄に記載した」とされているから、別途加算をしなかった。) 甲1発明の「GF(ガラス繊維、日本電気硝子社製チョップドストランド、商品名「T−296GH」)」は、本件明細書の(本d)の段落【0032】の記載からみて、本件発明1の「(C)繊維状充填剤」に相当するといえる。 また、甲1発明の「GF(ガラス繊維、日本電気硝子社製チョップドストランド、商品名「T−296GH」)」は、「MDX6(ポリメタキシリレンジアジパミド:三菱ガス化学(株)製、商品名「MXナイロン#6000」)」の合計量が100質量部(=89質量部+11質量部)に対して「98質量部」配合されているから、本件発明1と同様に、「(A)ポリアミド樹脂100質量部」に対して「(C)繊維状充填剤30〜100質量部」含有するといえる。 甲1発明の「MDX6(ポリメタキシリレンジアジパミド:三菱ガス化学(株)製、商品名「MXナイロン#6000」) 89質量部、PA66(ポリアミド66) 11質量部、GF(ガラス繊維、日本電気硝子社製チョップドストランド、商品名「T−296GH」) 98質量部、タルク(林化成社製、商品名「ミクロンホワイト5000A」) 2.2質量部、シリコーン(・オルガノポリシロキサンマスターバッチ:東レ・ダウコーニング社製、商品名「BY27−005」) 11質量部、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン:ダイキン工業社製、商品名「ルブロンL5F」) 7質量部のうち、PTFE及びガラス繊維以外の各成分を、上記の割合でドライブレンドした後、得られたドライブレンド物を、押出機の温度設定は280℃、吐出量は30kg/hrとして、二軸押出機(東芝機械社製「TEM26SS」)の基部から投入し、PTFEは別フィードで基部へ投入し溶融した後、ガラス繊維をサイドフィード」して得た「樹脂組成物ペレット」は、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。 甲1発明の「・・・射出成形を行って作成した試験片」は、「ポリアミド樹脂」を主成分とする「樹脂組成物」を成形したものであるから、本件発明1の「成形体」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「(A)ポリアミド樹脂100質量部に対して、(B)フッ素系樹脂1〜15質量部、および(C)繊維状充填剤30〜100質量部を含有する樹脂組成物からなる強化ポリアミド樹脂成形体」 で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:「樹脂組成物」中に分散する「(B)フッ素系樹脂」の「数平均粒子径」について、本件発明1では、「0.8μm以下」であるのに対し、甲1発明では、明らかでない点。 (イ)判断 相違点1について検討する。 甲第1号証には、甲1発明の「フッ素系樹脂」の「数平均粒子径」について記載されておらず、「平均粒子径0.8μm以下」であるとはいえない。 次に、本件明細書の「強化ポリアミド樹脂成形体」の製造に関する記載及び、甲第1号証の製造の記載からみて、甲1発明の「フッ素系樹脂」の「数平均粒子径」が「0.8μm以下」であると推認できるか検討する。 本件明細書の(本c)の段落【0023】及び【0026】、(本f)の段落【0077】〜【0081】の記載からみて、「樹脂組成物中に分散する(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径」を「0.8μm以下」のものとするためには、「フッ素系樹脂粉体」として「数平均1次粒子径」が「0.1μm〜0.8μm」のものを用い、「ポリアミド樹脂」及び「フッ素系樹脂粉体」との「溶融混練」について、「溶融混練された後の押出機出口より吐出される組成物の樹脂温度」を「ポリアミド樹脂の結晶化温度より高く、310℃以下となるように押出機の各条件(バレル温度、スクリュー回転数、吐出量等)を設定」するとともに、「フッ素系樹脂粉体」を「ポリアミド樹脂とともに最上流部のフィード口から供給する」のではなく、「溶融ゾーン以降に設けたサイドフィード口」から「フッ素系樹脂粉体」を供給する必要があるといえる。また、本件明細書の(本g)の比較例6、7には、「フッ素系樹脂粉体」を、「溶融ゾーン以降に設けたサイドフィード口」(最下流供給口)ではなく、「中央供給口」や「最上流供給口」で供給した場合には、「樹脂組成物中に分散する(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径」が「5μm」、「10μm」になったことも示されている。 一方、甲1発明の「PTFE(ポリテトラフルオロエチレン:ダイキン工業社製、商品名「ルブロンL5F」)」は、参考資料2の段落[0072]の記載からみて、「数平均一次粒子径」は0.15μmであり(参考資料3には、「ポリフロンL−5F」の乾式レーザー法により測定した「平均粒径」が「3〜7μm」であることが記載されているが、この「平均粒径」が「ルブロンL5F」の「数平均一次粒子径」であるかは明らかでないから、参考資料2の数値を採用した。)、甲1発明も、「押出機」の温度設定を「310℃以下」である「280℃」とするものである。 しかしながら、甲1発明において、「PTFEは別フィードで基部へ投入」されるものであり、上記の「溶融ゾーン以降に設けたサイドフィード口」から「フッ素系樹脂粉体」を供給するものではないから、甲1発明の「試験片」中の「フッ素系樹脂」の「数平均粒子径」が「0.8μm以下」であると推認することもできない。 そうすると、相違点1は、実質的な相違点であるといえる。 次に、甲第1号証の記載から、甲1発明の「試験片」中の「フッ素系樹脂」の「数平均粒子径」を「0.8μm以下」とすることの動機付けがあるか検討する。 甲第1号証には、「成形体」中の「(B)フッ素系樹脂」の分散に関する記載はなく、また、(甲1d)の段落【0037】には「フッ素系樹脂(C)は、その平均粒径が5〜25μmであるものが好ましく、10〜20μmが更に好ましい。このような粒径のものを用いると、分散が容易でかつ凝集が起きにくく、特に耐摩耗特性が向上するという効果を高めることができる」と記載されているから、甲1発明において、「フッ素系樹脂」の「数平均粒子径」を「0.8μm以下」とすることの動機付けがあるとはいえない。 また、他の参考資料等をみても、甲1発明において、「フッ素系樹脂」の「数平均粒子径」を「0.8μm以下」とすることの動機付ける記載があるとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1号証に記載された発明及び他の参考資料等に記載された技術的事項から容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明2、4〜9について 本件発明2、4〜9は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1号証に記載された発明及び他の参考資料等に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ まとめ 以上のとおり、取消理由B及びC、申立理由2及び申立理由3は、理由がない。 3 特許異議申立書に記載された申立理由について 申立理由2(新規性)、申立理由3(進歩性)は、上記「2 取消理由について」において検討されたので、以下、申立理由1について検討を行う。 申立理由1の概要は、「第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要」「2 特許異議申立理由の概要」「(1)申立理由1(実施可能要件またはサポート要件)」に記載したとおりであるが、以下の(1)に再掲する。 (1)申立理由1の概要 本件明細書の段落【0020】、【0022】、【0027】、【0077】〜【0081】、【0083】、【0085】及び【0089】〜【0107】の実施例及び比較例の記載からみて、本件発明の課題を解決するためには、「強化ポリアミド樹脂成形体」の製造において、未焼成のフッ素系樹脂の使用、下流側でのフッ素系樹脂の供給、及び押出機の吐出口における樹脂温度310℃以下、の3つの手段が必要であり、さらに、「フッ素系樹脂」の特定が必要であるといえるところ、本件発明1には、当該3つの手段及び「フッ素系樹脂」について特定されていないから、実施可能要件違反又はサポート要件違反である。 令和4年2月2日付け意見書においても、申立人は同様の主張をしている。 (2)判断 以下、まず、実施可能要件について検討し、その後、サポート要件、さらに、申立人の上記主張について検討する。 ア 実施可能要件について (ア)特許法第36条第4項第1号の考え方について 特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。 特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。 以下、この観点に立って検討する。 (イ)判断 本件明細書の(本b)及び段落【0015】〜【0018】には「(A)ポリアミド樹脂」の具体的な種類や好ましい特性について記載され、(本c)及び段落【0019】〜【0031】には「(B)フッ素系樹脂」の具体的な種類や配合量、粒子径について記載され、(本d)及び段落【0032】〜【0060】には「(C)繊維状充填材」の具体的な種類や処理等について記載され、(本f)には、申立人の主張する上記3つの手段を含む「強化ポリアミド樹脂成形体」の製造方法の具体的な方法や条件について記載されている。また、(本g)の実施例には、実施例1〜9として、本件発明1の発明特定事項を満たす「強化ポリアミド樹脂成形体」が具体的に示されている。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の「強化ポリアミド樹脂成形体」について、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度に記載されているから、本件訂正前の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しているといえる。 また、本件発明1を引用する本件発明4〜5、7〜9についても同様である。 イ サポート要件について (ア)特許法第36条第6項第1号の考え方について 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下、この観点に立って検討する。 (イ)本件発明の課題 本件発明の課題は、本件明細書の(本a)の段落【0007】の記載からみて、「摺動特性と機械的性質に優れた強化ポリアミド樹脂成形体を提供すること」であるといえる。 (ウ)判断 上記「ア 実施可能要件について」「(イ)判断」で述べたとおり、本件明細書の(本g)の実施例には、実施例1〜9として、本件発明1の発明特定事項を満たす「強化ポリアミド樹脂成形体」が具体的に示され、本件発明の上記課題の「摺動特性と機械的性質に優れた」ものになることが確認されている。さらに、比較例1〜2として、「(C)繊維状充填材」の配合量が本件発明1の発明特定事項を満たさない「ポリアミド樹脂成形体」、比較例2〜3、5〜7には「フッ素系樹脂」の「数平均粒子径」が本件発明1の発明特定事項を満たさない「ポリアミド樹脂成形体」、比較例4〜5には、「フッ素系樹脂」の配合量が本件発明1の発明特定事項を満たさない「ポリアミド樹脂成形体」が本件発明の上記課題を解決できなかったことも確認されている。 そうすると、当業者であれば、本件発明1の発明特定事項も含む発明特定事項を満たす「ポリアミド樹脂成形体」であれば、そうでない場合に比べて、「摺動特性と機械的性質に優れた」ものになることが理解できるから、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 また、本件発明1を引用する本件発明4〜5、7〜9についても同様である。 ウ 申立人の主張についての判断 上記(1)の申立人の主張する「下流側でのフッ素系樹脂の供給」及び「押出機の吐出口における樹脂温度310℃以下」の手段について、上述のとおり本件発明1の発明特定事項である「樹脂組成物中に分散する前記(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径が0.8μm以下である」「強化ポリアミド樹脂成形体」であれば本件発明の上記課題を解決できることは理解できるところ、当該手段は「樹脂組成物中に分散する前記(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径が0.8μm以下である」「強化ポリアミド樹脂成形体」を製造ための条件であるから、「強化ポリアミド樹脂成形体」そのものに係る発明である本件発明1において、改めて特定することは要しないといえる。 また、上記(1)の申立人の主張する「未焼成のフッ素系樹脂の使用」について、本件明細書の(本c)の段落【0022】には「フッ素系樹脂粉体の製造方法は上記粒子形状になれば、いずれの製造方法を用いてもよいが、乳化重合法で重合され、凝析、洗浄、分離、及び乾燥して得られる粉体を使用することが好ましい。このとき粉体の焼成を行うと一次粒子が溶着する可能性があり、未焼成のフッ素系樹脂粉体を用いることがポリアミド樹脂組成物中に微分散するために好ましい。ここで焼成とは、フッ素系樹脂の融点以上に加熱し、結晶を融解させることをいう」と記、「粉体の焼成を行うと一次粒子が溶着する可能性」があることが記載されているが、当該記載からは、「フッ素系樹脂粉体」が「ポリアミド樹脂組成物」中に微分散できる限りは、原料として「焼成」されたものであってもよいと理解できるから、この点についても申立人の主張を採用することはできない。 さらに、上記(1)の申立人の主張する「(B)フッ素系樹脂」の特定について、特許異議申立書の中で具体的には融点の低い「ETEF」を用いた場合は「ポリアミド樹脂組成物」中に「(B)フッ素系樹脂」を微分散することが困難になることを主張している。しかしながら、「(A)ポリアミド樹脂」として比較的融点が低いものを用いる場合等では、「ETEF」であっても用いることができることは当業者であれば理解できるから、この申立人の主張も採用することはできない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、申立人がした申立理由1によっても、本件発明1、4〜5、7〜9を取り消すことはできない。 第7 むすび 特許第6813969号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−9]について訂正することを認める。 本件発明3に係る特許に対する申立は、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下する。 当審が通知した取消理由および申立人がした申立理由によっては、本件発明1−2、4〜9に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに本件発明1−2、4〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)ポリアミド樹脂100質量部に対して、(B)フッ素系樹脂1〜15質量部、および(C)繊維状充填剤30〜100質量部を含有する樹脂組成物からなる強化ポリアミド樹脂成形体であって、 前記樹脂組成物中に分散する前記(B)フッ素系樹脂の数平均粒子径が0.8μm以下である強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項2】 前記(B)フッ素系樹脂がポリテトラフルオロエチレンである請求項1に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記(B)フッ素樹脂粉体の数平均分子量が600,000以下である請求項2に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項5】 前記分散する(B)フッ素系樹脂は、粒子径1.0μm以下の粒子の個数割合が70%以上である請求項1、2、及び4のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項6】 前記(B)フッ素樹脂粉体が未焼成である請求項1又は2に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項7】 前記(C)繊維状充填剤の数平均繊維径が5〜9μmである請求項1、2、4〜6のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項8】 前記(A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド610、またはポリアミド612を主成分とするポリアミド樹脂である請求項1、2、4〜7のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。 【請求項9】 前記(A)ポリアミド樹脂の硫酸相対粘度が3.2〜4.5である請求項1、2、4〜8のいずれか1項に記載の強化ポリアミド樹脂成形体。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-04-21 |
出願番号 | P2016-132616 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L) P 1 651・ 113- YAA (C08L) P 1 651・ 121- YAA (C08L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 杉江 渉 |
登録日 | 2020-12-22 |
登録番号 | 6813969 |
権利者 | 旭化成株式会社 |
発明の名称 | 強化ポリアミド樹脂成形体 |
代理人 | 飯田 雅人 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 田▲崎▼ 聡 |
代理人 | 宮本 龍 |
代理人 | 宮本 龍 |
代理人 | 飯田 雅人 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 田▲崎▼ 聡 |