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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07H
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07H
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07H
管理番号 1386136
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-30 
確定日 2022-04-08 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6827709号発明「2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコースの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6827709号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜10〕について訂正することを認める。 特許第6827709号の請求項1〜10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6827709号は、平成28年4月25日に出願され、令和3年1月22日に特許権の設定登録がなされ、同年2月10日にその特許公報が発行され、その後、請求項1〜10に係る特許に対して、令和3年7月30日に特許異議申立人 中嶋美奈子(以下「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。

令和3年11月12日付け:取消理由通知
令和4年 1月17日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
同年 1月27日付け:特許法第120条の5第5項に基づく通知
同年 3月 1日 :意見書の提出(申立人)

第2 訂正の可否
1 訂正の内容
令和4年1月17日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
なお、訂正前の請求項1〜10は一群の請求項である。
また、訂正事項5、6に係る訂正は、願書に添付した明細書を訂正するものであるが、いずれも一群の請求項である本件訂正前の請求項1〜10に対応する訂正後の請求項1〜10に関係する訂正である。そして、本件訂正は、本件特許明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われるものである。

訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1の
「1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース」を、
「1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース」と訂正する。

訂正事項2:特許請求の範囲の請求項1の
「前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記炭酸カリウムを6〜20μg、前記相間移動触媒を45〜150μg使用する」を、
「前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記炭酸カリウムを6〜20μg、前記相間移動触媒を45〜150μg使用し、
前記工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比は、炭酸カリウム/TATM=0.35〜0.6である」と訂正する。

訂正事項3:特許請求の範囲の請求項2の
「1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース」を、
「1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース」と訂正する。

訂正事項4:特許請求の範囲の請求項2の
「前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記炭酸カリウムを6〜20μg、前記相間移動触媒を45〜150μg使用する」を、
「前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記炭酸カリウムを6〜20μg、前記相間移動触媒を45〜150μg使用し、
前記工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比は、炭酸カリウム/TATM=0.35〜0.6である」と訂正する。

訂正事項5:明細書【0004】の
「1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース」を、
「1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース」と訂正する。

訂正事項6:明細書【0004】、【0017】、【0018】、【0024】、【0025】、【0026】、【0027】、【0028】、【0030】、【0031】、【0043】の
「相関移動触媒」を、
「相間移動触媒」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1及び3は、訂正前の請求項1及び2において、化合物として存在し得ない名称「1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース」につき、明細書【0011】の
「即ち、本発明によれば、
(a)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行する工程と、
(c)加水分解反応を実行して2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)を得る脱保護工程」
との工程からみて、係る名称は明らかに「1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース」の誤記であるから、その誤記を訂正するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
訂正事項5についても同様である。
また、いずれも新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(2)訂正事項2及び4は、訂正前の請求項1及び2において、明細書【0034】の
「工程(a−2)で使用される炭酸カリウムは、放射性フッ素化反応において塩基として働き、反応を促進させる。そこで、工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比は、炭酸カリウム/TATM=0.3〜0.6であることが好ましく、0.35〜0.6であることがより好ましい。」
との記載に基づき規定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)訂正事項6は、明細書【0004】、【0017】、【0018】、【0024】、【0025】、【0026】、【0027】、【0028】、【0030】、【0031】、【0043】において、存在し得ない文言である「相関移動触媒」に関し、明細書【0027】の
「相関移動触媒としては、クリプタンドやクラウンエーテルが挙げられるが、クリプタントが好ましく、4,7,13,16,21,24−ヘキサオキサ−1,10−ジアザビシクロー[8,8,8]−ヘキサコサン(商品名:クリプトフィックス222)がより好ましい。」
との記載から、係る文言は「相間移動触媒」の誤記であることが明らかであることから、その誤記を訂正するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。そして、これらの訂正は、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の各規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件訂正後の請求項1〜10に係る発明
本件訂正により訂正された訂正請求項1〜10に係る発明(以下、「本件訂正発明1」〜「本件訂正発明10」、まとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
(a)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行して、1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース(18F−TAFDG)を得る工程と、
(c)前記18F−TAFDGの加水分解反応を実行して2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)を得る脱保護工程と、
を含み、
前記工程(a)乃至前記工程(c)をこの順で実行し、
前記工程(a)の開始時において、600〜1000GBqの[18F]フッ化物イオンを使用し、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40μg以上使用し、
前記工程(a)が、炭酸カリウム及び相間移動触媒を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化することを含み、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記炭酸カリウムを6〜20μg、前記相間移動触媒を45〜150μg使用し、
前期工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比は、炭酸カリウム/TATM=0.35〜0.6である、18F−FDGの製造方法。
【請求項2】
(a)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行して、1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース(18F−TAFDG)を得る工程と、
(c)前記18F−TAFDGの酸加水分解反応を実行して2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)を得る脱保護工程と、
を含み、
前記工程(a)乃至前記工程(c)をこの順で実行し、
前記工程(a)の開始時において、300GBq以上の[18F]フッ化物イオンを使用し、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40μg以上使用し、
前記工程(a)が、炭酸カリウム及び相間移動触媒を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化することを含み、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記炭酸カリウムを6〜20μg、前記相間移動触媒を45〜150μg使用し、
前期工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比は、炭酸カリウム/TATM=0.35〜0.6である、18F−FDGの製造方法。
【請求項3】
前記工程(c)の前記酸加水分解反応は、塩酸存在下に実行されるものである、請求項2に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項4】
前記工程(c)の前記酸加水分解反応は、反応時間が6〜15分である、請求項2又は3に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)が、
(a−1)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水を陰イオン交換樹脂と接触させて、前記陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを吸着させる工程と、
(a−2)前記炭酸カリウムを含む水溶液を前記陰イオン交換樹脂に接触させて、前記[18F]フッ化物イオンの水溶液を溶出させる工程と、
(a−3)溶出した前記[18F]フッ化物イオンの水溶液を、前記相間移動触媒及び水溶性有機溶剤の存在下に加熱し、水及び前記水溶性有機溶剤を蒸発させる工程と、
を含む、請求項1乃至4いずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項6】
前記水溶性有機溶剤がアセトニトリルである、請求項5に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項7】
前記相間移動触媒がクリプタンドである、請求項1乃至6いずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項8】
工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40〜150μg使用する、請求項1乃至7いずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項9】
前記工程(b)における放射性フッ素化反応の反応時間が1.5〜7分である、請求項1乃至8いずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項10】
前記工程(b)の前記放射性フッ素化反応は、アセトニトリル中で前記TATMの[18F]フッ素化を行うものである、請求項1乃至9いずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。」

第4 取消理由の概要及びこれに対する当審の判断
1 取消理由の概要
請求項1〜10に係る特許に対して、当審が令和3年11月12日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は以下のとおりである。
「A (新規性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
B (進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
C (実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
D (明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。


引用例1:FASTlab Synthesizer FDG citrate Application Manual、
GE Healthcare社、2013年6月改訂版(甲第1号証)
及び抄訳文
引用例2:PET用放射性薬剤の製造および品質管理 −合成と臨床
使用へのてびき− 第4版、PET化学ワークショップ編、
平成23年改定版(甲第5号証)
引用例3:ポジトロン断層撮影[PET]技術マニュアル 第1版、
日本核医学技術学会編、山代印刷株式会社、2006年
2月1日(甲第6号証)
引用例4:特許第4342586号公報(甲第7号証)

第2 理由A、Bについて
(理由A)
・本件発明1、5〜10:引用例1
(理由B)
・本件発明2〜10:引用例1及び引用例2〜4

(3)本件発明1と引用発明1の対比及び判断
Kryptofix K222は本件発明1の「相間移動触媒」に相当する。「塩基性加水分解反応」は「加水分解反応」に包含される。
また、放射能の量「22〜740GBq」は本件発明1と重複し、これに対するTATM、炭酸カリウム、Kryptofix K222の使用量は、本件発明1と重複する範囲のうち600〜706GBqの場合、本件発明1の相当する数値範囲の規定を満たす。(具体的には、TATMが42.5〜50μg、炭酸カリウムが8.1〜9.5μg、Kryptofix K222が45〜53μgである。)
そうすると、本件発明1と引用発明1との間には相違点が存在せず、本件発明1は引用例1に記載された発明である。

ウ 本件発明5と引用発明2を対比する。
上記(3)で検討したことと同様、Kryptofix K222は本件発明5の「相間移動触媒」に相当する。「陰イオン交換カートリッジ」は、上記(1)ア及びイの記載から「四級アンモニウムカートリッジ」であり、そのようなイオン交換体は一般的に樹脂であることに鑑みると、「陰イオン交換樹脂」に相当する。アセトニトリルは「水溶性有機溶剤」である。
そうすると、本件発明5と引用発明2との間には相違点が存在せず、本件発明5は引用例1に記載された発明である。

(5)本件発明6〜10について
ア 上記(1)カにはアセトニトリルとKryptofix K222を溶離剤混合物として使用することが記載されている。Kryptofix K222はクリプタンドである。
したがって、本件発明6と引用発明2との間には相違点が存在せず、本件発明7と引用発明1あるいは2との間には相違点が存在せず、本件発明6及び7は共に引用例1に記載された発明である。

イ 引用発明2が引用する引用発明1は「工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン22〜740GBqあたり、…TATMを30mg使用」するものであるから、本件発明8が引用する本件発明1の[18F]フッ化物イオンの放射能の量と重複する範囲で対比すると、[18F]フッ化物イオン1GBqあたりでは40.5〜50μgとなり、本件発明8と重複する。
引用発明2が引用する引用発明1において[18F]フッ化物イオンを導入するための反応条件は「マンノーストリフレート30mgをアセトニトリル1.6ml中125℃で2分間。」(上記(1)ク)であるから、本件発明9の「1.5〜7分間」の条件を満たす。そして、本件発明10の「アセトニトリル中で前記TATMの[18F]フッ素化を行うものである」といえる。
したがって、本件発明8〜10のいずれも、引用発明1あるいは2との間には相違点が存在せず、本件発明8〜10はいずれも引用例1に記載された発明である。

(6)まとめ
よって、本件発明1、5〜10は引用例1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、係る発明についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

2 理由B

(3)本件発明2について

イ 上記相違点1について検討する。
18F−TAFDGの加水分解反応によるアセチル基の脱保護を酸性条件下あるいは塩基性条件下のいずれも選択可能であることは、引用例2(37頁7行〜43頁12行)、3(67頁中央「4−2 18FGD注射液の製造方法」〜68頁左欄5行)、4(【0018】)に記載されるとおり、本件出願前における周知技術である。引用発明1における「塩基性加水分解反応」を「酸加水分解反応」とすることは、上記周知技術を参照して当業者が適宜選択しうることと認められる。
したがって、本件発明2は引用例1に記載された発明から、あるいは引用例1に記載された発明及び引用例2〜4に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(4)本件発明3及び4について
引用例2〜4のいずれにも、塩酸存在下での酸加水分解反応が記載されている(引用例2:37頁7行〜39頁17行、引用例3:68頁2〜4行、引用例4:【0018】)。
また、反応時間として引用例2には「15分」との記載がある(38頁末行)。そして、反応時間を「6〜15分」程度とすることは、当業者が適宜設定しうることと認められる。
したがって、本件発明3及び4は、いずれも引用例1に記載された発明から、あるいは引用例1に記載された発明及び引用例2〜4に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(5)本件発明5〜10について
本件発明2〜4のいずれかを引用する本件発明5〜10についても、本件発明2〜4と同様の理由により、いずれも引用例1に記載された発明から、あるいは引用例1に記載された発明及び引用例2〜4に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(6)まとめ
よって、本件発明2〜10は引用例1に記載された発明から、あるいは引用例1に記載された発明及び引用例2〜4に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 理由C及びDについて
本件請求項1及び2には「1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース」と規定されており、また、本件発明の詳細な説明には同様の化合物名が記載されているが、このような名称で示される化合物は存在しない。
よって、本件発明1及び2、及びこれらのいずれかを引用する本件発明3〜10は、いずれも明確でない。
また、本件発明の詳細な説明は、本件発明1〜10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
(反応機構から考えて、正しくは「1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース」、あるいは(c)の規定に倣うと「1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース」となると解される。(D体のマンノース(マンノピラノース)誘導体の2位に対して選択的に求核置換反応を施しているので、得られるグルコース(グルコピラノース)誘導体はD体のままと解される。)正式な化合物の名称に訂正されたい。)

4 理由Cについて
本件実施例以外の本件発明の詳細な説明には「相関移動触媒」とあるが、このような技術用語は存在しない。
よって、本件発明の詳細な説明は、本件発明1〜10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
(本件特許請求の範囲及び本件実施例には「相間移動触媒」とあるが、これが正式な技術用語である。もし「相関移動触媒」との文言によって何らかの技術的特徴を示すのであれば、意見書において釈明されたい。)」

2 当審の判断(その1:理由A及びBについて)
(1)引用例1の記載事項(訳文で示す。)
ア 「改訂履歴
――――――――――――――――――――――――――――――――――
改訂 改訂日 変更理由
――――――――――――――――――――――――――――――――――
A 2011年4月 書類の発行
――――――――――――――――――――――――――――――――――
B 2011年10月 ピクチャーの更新
――――――――――――――――――――――――――――――――――
C 2011年11月 レポートレイアウトに基づく更新
――――――――――――――――――――――――――――――――――
D 2012年8月 N2圧を3−8バール(8−5章)から6−8バール
に修正
フロントページのピクチャーを更新
免責事項に言語を追加
MWS改訂との混同を避けるために、履歴改訂番号を
文字で変更
――――――――――――――――――――――――――――――――――
E 2013年6月 更新されたソフトウェアに対応したレポートの変更
マニュアルの表紙と裏表紙を修正
サービスマニュアルに代えてオペレータマニュアルヘ
参照を校正
――――――――――――――――――――――――――――――――――
注意:変更箇所は右端の直線で特定される。

用語集

EOS:… QMA:四級アンモニウムカートリッジ
…」(10頁)

イ 「2−3 カートリッジ
FDGクエン酸塩カセットに使用される4つのカートリッジはQMA…、tC18…、アルミナ…及びtC18 environmental…である。」(16頁1〜3行)

ウ 「FASTlab Synthesizerを用いた2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(FDG)の製造は、以下に説明する合成方法を用いて行われる。
全合成には約25分かかる。得られたFDG溶液は、透明で無色、わずかに酸性である。それは品質管理されている。
最終的なFDGクエン酸塩の量は、22、29、36及び38mlの4種類を選択できる。このシステムは、それぞれ「22ml」、「29ml」、「36ml」及び「38ml」の4つの工程制御名を選択できるよう提供される。29、36及び38mlの工程のみが、4.5mg/mlの範囲のNaCl濃度を提供する。22mlの工程は、FDG TRACERlab MX製剤に最も近いものである。」(18頁2〜9行)

エ 「3−1 フッ素化剤の調製
放射性核種は、[18O−水]への加速陽子の照射によってフッ化物イオンとして生成される。通常、照射される[18O]−水の量は0.3〜5mlの範囲である。照射時間は最大2時間である。照射するプロトンのエネルギーは8〜17MeVの範囲である。回収される18F放射能の量は、通常600〜20000mCi(22〜740GBq)である。この工程は、ターゲット上で実行される。合成機試験、カセット試験及び合成の予備工程は、ターゲット照射が進行している間に実行できる。」(18頁10〜17行)

オ 「3−2 予備工程(全ての工程に共通)
FDGクエン酸合成のためのプロセスの予備工程は、照射中に開始することができる。これらの最初の工程は、照射された[18O−水]を合成装置に移す前に行われる:スパイクに接して試薬バイアルを穿孔、試薬バイアルを加圧、tC18及びアルミナカートリッジを調整する。合成装置が照射水を受け取る準備ができると直ぐに、画面に表示されたウィンドウによってオペレーターに通知される。
工程時間:約4分。」(18頁28〜34行)

カ 「3−3 濃縮水回収及び溶出(全ての工程に共通)
照射後、照射された[18O]水をFASTlab Synthesizerに移す。合成が開始されると、照射された[18O−水]は、陰イオン交換カートリッジを通される。18F−フッ化物イオンはカートリッジに捕捉され、濃縮水は再使用のために回収される。濃縮水は、再使用する前に精製を要することに留意されたい。
次いで、18F−イオン、5.7mgの炭酸カリウム、31.8mgのKryptofix(登録商標)K222、123μlの水、及び477μlのアセトニトリル(溶離剤混合物)を含有する溶液0.6mlを使用して、カートリッジから標識反応容器に溶出する。
Kryptofix(登録商標)は、反応容器中のマンノーストリフレート前駆体に対して求核置換反応(標識反応)を実施するために以下の工程において必要であることに留意されたい。
工程時間:約4分。」(18頁35行〜19頁6行)

キ 「3−4 溶媒を蒸発させる(全ての工程に共通)
18F−放射能を含む溶離液を反応容器に移した後、乾燥が達成されるまで溶媒を蒸発させる。乾燥プロセスの間、アセトニトリル中の少量のマンノーストリフレート(80μl)を反応容器に添加する。蒸発は、窒素流下及び真空下で加熱しながら行う。
工程時間:約9分間。
蒸発条件:125℃、窒素を穏やかに流しながら真空下。」(19頁7〜13行)

ク 「3−5 前駆体の標識(全ての工程に共通)
マンノーストリフレート前駆体を乾燥残渣に添加する。求核置換反応は125℃(密閉反応容器)で起こり、前駆体のトリフルオロメタンスルホネート基が18F−イオンで置換され、2−18F−フルオロ−1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−D−グルコース(FTAGとも呼ばれる)をもたらす。標識反応は、FDG合成の最も重要な工程であり、マンノーストリフレート前駆体、溶離剤混合物、窒素、陰イオン交換カートリッジ又はカセット中の任意の微量の不純物が、標識収量の低下をもたらし得る。

マンノーストリフレート前駆体 2-[18F]-フルオロ-1,3,4,6-テトラ-
O-アセチル-D-グルコース
([18F]-FTAg)

工程時間:約2分。
標識条件:マンノーストリフレート30mgをアセトニトリル1.6ml中
125℃で2分間。」(19頁14〜22行)

ケ 「3−6 予備精製(全ての工程に共通)
反応混合物をシリンジ中で水3mlと混合し、反応容器に戻す。次いで、この溶液を3回に分けて水で希釈し、次いで、後に加水分解工程に使用される逆相カートリッジ(tC18 environmental)に通す。この操作は、反応容器内の残りの溶液を用いて2回目に行われる。2−18F−フルオロ−1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−D−グルコースはカートリッジ内に捕獲される。溶媒、未反応の18F−イオン及び不純物は、外部廃棄ボトルに洗い流される。
標識前駆体をtC18 environmentalのカートリッジに捕捉した後、中間生成物を予備精製する。捕捉された標識前駆体を含むカートリッジは、洗浄当たり6mlの水を使用して2回洗浄される。
工程時間:約3分。
FTAG捕捉条件:アセトニトリル溶液を水で希釈して、捕捉前に11%
未満の濃度を確実にする。水6mlで2回洗い流す。」(19頁23行〜20頁6行)

コ 「3−7 固体支持体上での加水分解
カートリッジ上に固定されたアセチル化化合物(FTAG)は、4つのアセチル保護基を除去することによってFDGに変換される。この脱保護は、塩基性加水分解にて実施される。加水分解は、22ml及び29mlの設定には1mlの、36及び38mlの設定には1.3mlの2規定NaOHを用いて、tC18 environmentalカートリッジ内で室温にて行われる。

2-[18F]-フルオロ-1,3,4,6-テトラ- 2-[18F]-フルオロ-2-デオキシ-
O-アセチル-D-グルコース D-グルコース
([18F]-FTAg) ([18F]-FDG)

工程時間:約3分。
一般的な加水分解条件:1.0ml、室温(22及び29ml設定)−
1.3ml、室温(36及び38ml設定)。」(20頁7〜15行)

サ 「3−8 精製、pH及び浸透圧調整
加水分解後、アルカリ性FDG溶液を4mlの水中に収集し、中和溶液と混合する(22及び29ml設定は3.2ml、36及び38ml設定は3.9mlのクエン酸緩衝液)。
注:標識中間体と異なり、FDGは逆相カートリッジ上に保持されない。
次いで、得られた中和FDG溶液を、部分的に加水分解された化合物及び非極性副生成物を保持するtC18カートリッジを通過し、次いで、未反応の18F−フッ化物イオンの最後の痕跡を保持するアルミナNカートリッジを通過し、最後にベントされた0.22μmフィルターを通過させることによって精製する。その後の滅菌手順を実施することを望む使用者は、第三者の特許権者からの許可が必要になる場合がある。
ラインに残った残留FDGを回収して係るFDGをカセットから排出するために、カセット、カートリッジ及びフィルターを7mlの水ですすぎ、次いで、適切な量の水を添加して、所望の最終体積に達する。
工程時間:約4分。
一般的な中和条件:3.2mlクエン酸緩衝液(22及び29ml設定)−
3.9mlクエン酸緩衝液(36及び38ml設定)」(20頁16〜末行)

シ 「3−9 プロセスに関する一般情報
・典型的な平均FDG収量(減衰補正):>80%
・洗浄手順後のカセット上の典型的な残留放射能(減衰補正):
開始時の放射能の1%未満。
・代表的な溶媒又はK222残渣:すべての薬局方限度を下回る
・典型的なpH範囲:全ての薬局方限界内
・プロセスの合計持続時間:30分(サイクロトロンからトレーサー移送
への18F放射能移送から)
・典型的な最終容量:
・「22ml」設定:22.0ml
・「29ml」設定:29.5ml
・「36ml」設定:35.7ml
・「38ml」設定:36.5ml」(21頁1〜末行)

(2)引用例1に記載された発明
ア 上記(1)アの「改訂履歴」からみて、引用例1は、本件出願前である2013年(平成25年)6月に電気通信回線を通じて公衆に利用可能であったものと認められる。

イ 引用例1には、
(a)上記(1)エ〜カからみて、[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程が、

(b)上記(1)カ〜ケからみて、18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行して、1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース(18F−TAFDG)を得る工程が、

(c)上記(1)コからみて、18F−TAFDGの塩基性加水分解反応を実行して2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)を得る脱保護工程が、

それぞれ記載されており、(a)ないし(c)がこの順で実行されることが記載されていると認められる。

ウ そして、引用例1には、
・上記(1)エからみて、(a)の開始時において「22〜740GBq」の[18F]フッ化物イオンを使用し、

・上記(1)クからみて、本件訂正発明の「TATM」と同一の化合物である「マンノーストリフレート」を[18F]フッ化物イオン「22〜740GBq」あたり30mg使用し、

・上記(1)カからみて、炭酸カリウム及びKryptofix K222を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化し、[18F]フッ化物イオン「22〜740GBq」あたり炭酸カリウムを5.7mg、Kryptofix K222を31.8mg使用する、

18F−FDGの製造方法が記載されていると認められる。

エ そうすると、引用例1には以下の引用発明1が記載されているものと認められる。
「(a)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行して、1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース(18F−TAFDG)を得る工程と、
(c)前記18F−TAFDGの塩基性加水分解反応を実行して2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)を得る脱保護工程と、
を含み、
前記工程(a)乃至前記工程(c)をこの順で実行し、
前記工程(a)の開始時において、22〜740GBqの[18F]フッ化物イオンを使用し、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン22〜740GBqあたり、前記TATMを30mg使用し、
前記工程(a)が、炭酸カリウム及びKryptofix K222を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化することを含み、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン22〜740GBqあたり、前記炭酸カリウムを5.7mg、前記Kryptofix K222を31.8mg使用し、
前記工程(b)で使用するTATM30mgに対して炭酸カリウムを5.7mg使用する、18F−FDGの製造方法。」

(3)本件訂正発明1と引用発明1の対比及び判断
ア Kryptofix K222は本件訂正発明1の「相間移動触媒」に相当する。「塩基性加水分解反応」は「加水分解反応」に包含される。
また、放射能の量「22〜740GBq」は本件訂正発明1と重複し、これに対するTATM、炭酸カリウム、Kryptofix K222の使用量は、本件訂正発明1と重複する範囲のうち600〜706GBqの場合、本件訂正発明1の相当する数値範囲の規定を満たす。(具体的には、TATMが42.5〜50μg、炭酸カリウムが8.1〜9.5μg、Kryptofix K222が45〜53μgである。)
そして、本件訂正発明1において、「工程(b)で使用するTATM30mg(決定注:すなわち62μmol)に対して炭酸カリウムを5.7mg(決定注:すなわち41μmol)使用する」ということは、工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比は、炭酸カリウム/TATM=41/62=0.66となる。

そうすると、本件訂正発明1と引用発明1とは、以下の点で一致する。
「(a)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行して、1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース(18F−TAFDG)を得る工程と、
(c)前記18F−TAFDGの加水分解反応を実行して2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)を得る脱保護工程と、
を含み、
前記工程(a)乃至前記工程(c)をこの順で実行し、
前記工程(a)の開始時において、600〜706GBqの[18F]フッ化物イオンを使用し、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40μg以上使用し、
前記工程(a)が、炭酸カリウム及び相間移動触媒を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化することを含み、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記炭酸カリウムを6〜20μg、前記相間移動触媒を45〜150μg使用する、18F−FDGの製造方法。」

そして、両者は以下の点で相違する。
相違点1:
「工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比」に関し、本件訂正発明1は「炭酸カリウム/TATM=0.35〜0.6」であるのに対し、引用発明1は「炭酸カリウム/TATM=0.66」である点。

イ 相違点1について検討する。
引用例1は、「FASTlab Synthesizerを用いた2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(FDG)の製造」(上記(1)ウ)の仕様を示すものであり、炭酸カリウム/TATMのモル比を操作しうることの開示はない。
このため、相違点1は実質的な相違点であり、本件訂正発明1は、引用発明1であるとはいえない。

(4)本件訂正発明2について
ア 引用例1の記載事項
上記(1)のとおりである。

イ 引用例1に記載された発明
引用発明1は上記(2)エのとおりである。

ウ 本件訂正発明2と引用発明1の対比
引用発明1の放射能の量「22〜740GBq」は本件訂正発明2と重複する。その余の点は、上記(3)に示したとおりである。そうすると、両者は以下の点で相違する。

相違点2:
(c)工程の18F−TAFDGの加水分解反応によるアセチル基の脱保護において、本件訂正発明2は「酸加水分解反応」であるのに対し、引用発明1は「塩基性加水分解反応」である点。
相違点3:
「工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比」に関し、本件訂正発明2は「炭酸カリウム/TATM=0.35〜0.6」であるのに対し、引用発明1は「炭酸カリウム/TATM=0.66」である点。

エ 判断
相違点3は、上記相違点1と一致する。そうすると、相違点3は実質的な相違点である。
また、他の引用例を参照しても、引用発明1における「工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比」を、「炭酸カリウム/TATM=0.35〜0.6」の範囲に調整することを想到しうる根拠を見いだすことができない。
加えて、本件訂正発明1の範囲外となった実施例3は実施例の中で最も収率の低いものである。そうすると、本件訂正発明の範囲内のものは、範囲外のものと比して、「収率よく製造できる」(【0009】)ものであり、顕著な効果を有するものと認められる。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、引用発明1及び引用例2〜4の記載事項から当業者が容易になしえたものとはいえない。

(5)本件訂正発明3〜10について
本件訂正発明3〜10は、本件訂正発明1又は2を更に限定するものである。したがって、本件訂正発明1が引用発明1であるとはいえず、また、本件訂正発明2が引用発明1及び引用例2〜4の記載事項から当業者が容易になしえたものとはいえないことに鑑みると、本件訂正発明5〜10も引用発明1であるとはいえず、また、本件訂正発明3〜10も引用発明1及び引用例2〜4の記載事項から当業者が容易になしえたものとはいえない。

(6)まとめ
よって、本件訂正発明1及び5〜10は、引用例1に記載された発明とはいえず、また、本件訂正発明2〜10は、引用例1に記載された発明及び引用例2〜4の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

3 当審の判断(その2:理由C及びDについて)
上記第2で示した訂正事項1、3、5、6により、令和3年11月12日付け取消理由通知で示した取消理由C及びDについては、いずれも解消した。

4 まとめ
以上のことから、当審が令和3年11月12日付け取消理由通知で示した取消理由には、理由がない。

第5 異議申立ての理由について
1 申立人の異議申立ての理由について
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
<証拠方法>(以下、甲第1〜7号証を「甲1」〜「甲7」という。)
甲1:FASTlab Synthesizer FDG citrate Application Manual、
GE Healthcare社、2013年6月改訂版 及び抄訳文
甲2:Applied Radiation and Isotopes,70 (2012) 922-930及び抄訳文
甲3:特表2014−508731号公報
甲4:特開平11−295494号公報
甲5:PET用放射性薬剤の製造および品質管理 −合成と臨床使用への
てびき− 第4版、PET化学ワークショップ編、平成23年改定版
甲6:ポジトロン断層撮影[PET]技術マニュアル 第1版、
日本核医学技術学会企画、山代印刷株式会社、2006年2月1日
甲7:特許第4342586号公報
(甲1は令和3年11月12日付け取消理由通知の引用例1、甲5は同引用例2、甲6は同引用例3、甲7は同引用例4である。)

<特許異議申立書における異議申立ての理由>
訂正前の本件請求項1〜10に係る発明(以下、「本件発明1〜10」という。)についての特許に対する異議申立ての理由は以下のとおりと解される。
申立理由1:
本件発明1、5〜10は甲1に記載された発明であり、係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
申立理由2−1:
本件発明1、5〜10は甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
申立理由2−2:
本件発明1は甲2に記載された発明及び甲2〜4の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり、係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
申立理由2−3−1:
本件発明2〜4は甲1に記載された発明及び甲1〜7の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり、係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
申立理由2−3−2:
本件発明2〜4は甲2に記載された発明及び甲1〜7の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり、係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

また、申立書における申立人の主張は曖昧であるが、以下の異議申立ての理由を主張するものとも解しうるので、これらについても検討する。
申立理由2−3−3:
本件発明1〜4は甲3に記載された発明及び甲1〜7の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり、係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
申立理由2−3−4:
本件発明1〜4は甲4に記載された発明及び甲1〜7の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり、係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 判断
(1)申立理由1、2−3−1について
申立理由1、2−3−1は、令和3年11月12日付け取消理由通知の取消理由A及びBと同旨である。
よって、第4 2で検討したとおりであるから、申立理由1、2−3−1には、いずれも理由がない。

(2)申立理由2−1について
本件訂正発明2、5〜10については、令和3年11月12日付け取消理由通知の取消理由Bと同旨である。
本件訂正発明1について検討する。
甲1に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)は、第4 2(2)で示した引用発明1である。
そして、甲1発明における「工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比」を、「炭酸カリウム/TATM=0.35〜0.6」の範囲に調整することを想到しうる根拠を見いだすことができない。
加えて、本件訂正発明1の範囲外となった実施例3は実施例の中で最も収率の低いものである。そうすると、本件訂正発明の範囲内のものは、範囲外のものと比して、「収率よく製造できる」(【0009】)ものであり、顕著な効果を有するものと認められる。
したがって、本件訂正発明1は、甲1発明から当業者が容易になしえたものとはいえない。
よって、申立理由2−1には、理由がない。

(3)申立理由2−2、2−3−2について
ア 甲2の記載事項
(ア)「我々は、2003年1月に、PETtraceサイクロトロン(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)を使用して、[18F]FDGのルーチン臨床用製造を始めた。最初、製造は我々の病院の内部需要対応のみだったが、他の施設でも多くのPETスキャナーが使用できるようになり、また我々の施設の需要も増加した結果、[18F]FDGの需要が大幅に増加した。我々は、2003年に2509例製造し、2010年には6330例に増加し、2003年には1ヶ月に2TBq未満だったが、2011年には数ヶ月で10TBqを超える量になった。」(922頁右欄1〜8行)

(イ)「2.4.3. [18F]FDG収量の評価
[18F]FDG収量は、サイクロトロンによる18F−の生成とは関係のない要因の影響を受ける可能性がある。TRACERlab MXFDGでは、ハードウェアキットと試薬キットの異なるバッチ間での収率の変動が観察されている。また、ターゲットラインとフィッティングからの不純物が原因である。したがって、縦断的に収量データを分析して、これらの交絡問題とは無関係に、高いビーム電流と大きな投入活動が生産収量に及ぼす影響を引き出した。すべてのデータについて、[18F]FDGの収率は次式を使用して算出した。

FDG(EOS)
FDG収率=―――――――――――×100 (1)
18FEST(EOB)

ここで、FDG収率は、[18F]FDGのパーセント収率である。FDG(EOS)は、合成の終点(EOS)で測定された[18F]FDG放射能である。18FEst(EOB)は、ビームパラメータから見積られた照射終点におけるインプット18F放射能であり、18Fの飽和収量は8399MBq/μA(227mCi/μA)と仮定している。この飽和収量は、サイクロトロンの受け入れ時に得られた飽和収量であり、インストール時から安定している。見積られたFDG収率は、GE Healthcare社の標準シークエンスで用いられている、FASTlabで25分、TRACERlab MXFDGで26分という合成時間(バイアルヘの移送時間を含む)に関して減衰補正されていない。」(924頁右欄下から3行〜925頁左欄19行)

(ウ)「デュアル80μAビーム運転で、合成モジュールに対するインプット放射能として900GBqを超える放射能の18F−が得られる。インプット放射能の増加と収率の関係を、TRACERlab MXFDGについては図6に、FASTlabについては図7にプロットした。インプット放射能の増加に伴う収率の低下はTRACERlab MXFDGで小さい。回帰ラインに基づき、その低下は100GBqあたり約0.9%である。FASTlabに関する収率の主な低下は、120分ビーム運転(約715GBqインプット放射能)と180分ビーム運転(約910GBqインプット放射能)の間で生じた。平均収率は120分ビーム運転で71.9±2.2%、180分ビーム運転で66.8±3.7%である。この5%の差は有意である(p<0.05)。」(927頁左欄5〜16行)

(エ)「

」(図7)

(オ)「結果として、一回の製造運転で500GBqを超える[18F]FDGが得られ、それは一回の製造運転での臨床需要に容易に適合し、職員が他の非[18F]FDGトレーサーの開発に専念することができる。」(928頁右欄下から8〜5行)

(カ)「最初に[18F]FDG合成用に2台のTRACERlab MXFDGモジュールが用意された。新しく取得したFASTlab FDGモジュールを用いた最初の製造運転は、2011年9月21日に実施した。その後の製造運転は、TRACERlab MXFDGモジュールとFASTlabモジュールで実施した。」(923頁左欄6〜10行)

(キ)「TRACERlab MXFDGモジュールからの[18F]FDG収量は、ハイビーム電流によって悪影響を受けなかった。[18F]FDGの生産能力も、合成収率の向上により向上した。FASTlabは、TRACERlab MXFDGで見られた約50%から55%の収率を、最大約120分の生産実行で70%以上に改善した。FASTlabモジュールでビーム時間を120分から180分に増やすことで観察された平均収率の72%から67%への低下は、特にTRACERlab MXFDGとは異なり、製造の最終段階での放射線分解によって説明できる。標準のリン酸カセットを備えたFASTlabは、合成の一部として放射線分解を低減することが示されているエタノールを使用していない(Jacobson et al.,2009;Fawdry,2007)。より長い照射時間で不純物のレベルが増加すると、収率の低下にも寄与する可能性がある。高濃度の[18F]FDGが生成された場合、有効期限にわたってRCPが仕様を満たすようにするには、安定剤の添加が必要だった。」(929頁左欄45〜61行)

イ 甲2に記載された発明
上記ア(エ)からFASTlabを用いた系において、350〜910GBqの[18F]フッ化物イオンを使用して、[18F]FDGを製造することが読み取れる。そうすると、上記ア(ウ)及び(エ)から、甲2には以下の甲2発明が記載されているものと認められる。
「350〜910GBqの[18F]フッ化物イオンを使用したFASTlabによる[18F]FDG(フルオロデオキシグルコース)の製造方法。」

ウ 本件訂正発明1と甲2発明の対比及び判断
(ア)甲2発明における「FASTlab」は甲1に記載されたものと認められる。そうすると、甲2発明の「[18F]フッ化物イオンを使用したFASTlabによる[18F]FDG(フルオロデオキシグルコース)の製造」は、本件訂正発明1と同様の原料を用い、(a)〜(c)の工程を実行したものということはできる。また、工程(a)の開始時において、[18F]フッ化物イオンの放射能の量は重複する。しかし、各原料をどの程度の存在量で係る製造方法が実施されているのかは、甲2の記載からは確認できない。

(イ)そうすると、両者は以下の点で相違する。
相違点4:本件訂正発明1は、
「前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40μg以上使用し、
前記工程(a)が、炭酸カリウム及び相間移動触媒を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化することを含み、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記炭酸カリウムを6〜20μg、前記相間移動触媒を45〜150μg使用する」ものであるのに対し、甲2発明は、これらのいずれもが明らかでない点。
相違点5:
「工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比」に関し、本件訂正発明1は「炭酸カリウム/TATM=0.35〜0.6」であるのに対し、甲2発明は明らかでない点。

(ウ)上記相違点について検討する。
相違点4に関し、申立人は「甲第2号証発行当時マニュアル化されたFASTlabを用いた18F−FDGの製造条件が甲第1号証記載の条件であったことは、甲第1号証の記載から明らかである。」(申立書18頁(イ−2))と主張する。
しかし、各原料の存在量まで甲1に記載されるとおりのものと解される根拠を見出すことができない。
更に申立人は「甲第4号証記載の工程(a−1)から工程(c)に、甲1(注:甲2の誤記と認める。)記載の発明で採用している715GBqの18Fフッ化物イオンを使用すれば」(申立書19頁(イ−3))との仮定を元に縷々主張する。
しかし、甲2発明に甲4記載の条件が適用されることの根拠を見出すことができない。
よって、これらの主張を採用することはできず、甲2発明において、相違点4に係る反応条件を本件訂正発明1のように設定することを想起することはできない。
相違点5についても同様である。

(エ)したがって、本件訂正発明1は、甲2に記載された発明及びその余の甲各号証の記載事項から当業者が容易になしえたものとはいえない。

エ 本件訂正発明2と甲2発明の対比及び判断
本件訂正発明2と甲2発明との間は、少なくとも上記ウ(イ)で示した相違点が存在する。
そして、上記ウ(ウ)で検討したとおりであるから、本件訂正発明2は、甲2に記載された発明及びその余の甲各号証の記載事項から当業者が容易になしえたものとはいえない。

オ 本件訂正発明3〜4について
本件訂正発明3〜4は、本件訂正発明1又は2を更に限定するものである。したがって、本件訂正発明1及び2のいずれも、甲2発明及びその余の甲各号証の記載事項から当業者が容易になしえたものとはいえないことに鑑みると、本件訂正発明3〜4も甲2発明及びその余の甲各号証の記載事項から当業者が容易になしえたものとはいえない。

カ まとめ
以上のことから、本件訂正発明1〜4は、甲2に記載された発明及びその余の甲各号証の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立理由2−2、2−3−2には、いずれも理由がない。

(4)申立理由2−3−3、2−3−4について
ア 甲3の記載事項
(ア)「【請求項1】
放射性フッ素化反応で使用される18Fの調製方法であって、
(i)18F水溶液をイオン交換カラムに捕捉するステップと、
(ii)18Fが表面に吸着されたイオン交換カラムに溶出溶液を流して18F溶出液を得るステップであって、但し溶出溶液がアセトニトリルを含まない場合は溶出溶液がカチオン性対イオンを適当な溶媒中に含むステップ、
を含む方法。
【請求項2】
アニオン交換カラムがアニオン交換カラムである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アニオン交換カラムが第4級メチルアンモニウム(QMA)カラムである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
カチオン性対イオンが、クリプタンドの金属錯体である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
クリプタンドの金属錯体の金属がカリウムである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
クリプタンドの金属錯体のクリプタンドがKryptofix 222(K222)である、請求項4又は請求項5のいずれか1項記載の方法。

【請求項13】
18F−標識陽電子放射断層撮影(PET)トレーサーを得るための放射性フッ素化反応であって、放射性フッ素化反応が、前駆体化合物と18Fとの反応を含み、前駆体化合物が、1つ以上の保護基を含んでいてもよく、18Fが、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法によって得られる、放射性フッ素化反応。
【請求項14】
18F−標識PETトレーサーが、2−デオキシ−2−[18F]フルオロ−D−グルコース、[18F]フルオロチミジン、[18F]フルオロニトロイミダゾール、6−[18F]フルオロDOPA、[18F]セトペロン、[18F]アルタンセリン、[18F]N−メチルスピペロン、6−[18F]フルオロドーパミン、(−)6−[18F]フルオロ−ノルエピネフリン、16α−[18F]フルオロエストラジオール、[18F]フレロキサシン、又は[18F]フルコナゾールである、請求項13記載の放射性フッ素化反応。
【請求項15】
18F−標識PETトレーサーが、2−デオキシ−2−[18F]フルオロ−D−グルコース、[18F]フルオロチミジン、又は[18F]フルオロニトロイミダゾールである、請求項14記載の放射性フッ素化反応。」

(イ)「【0040】
実施例2は、[18F]FACBC及び[18F]FDGの合成について、保存された従来技術の溶出液を用いたものと、新たに調製された従来技術の溶出液を用いたものについて記載する。

【0042】
実施例で用いた略語のリスト
ATR 減衰した全反射率
DTGS 重水素を含むトリグリシンスルフェート
[18F]FACBC
1−アミノ−3−[18F]フルオエオシクロブタン−1−カルボン酸
[18F]FDG 2−デオキシ−2−[18F]フルオロ−D−グルコース
FT−IR フーリエ変換赤外線
K222 Kryptofix 222
MeCN アセトニトリル
MeOH メタノール
QMA 第4級メチルアンモニウム
RCY 放射化学的収率
SPE 固相抽出
TLC 薄層クロマトグラフィー
UV 紫外線
【実施例】
【0043】
試薬及び溶媒はすべてMerck社から購入し、それ以上精製せずに使用した。[18F]FDG前駆体1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノースはABXから購入し…。Oasis HLB plusカートリッジ及びSep−Pakカートリッジ:QMA light Plus(K2CO3形態)、tC18 light、Alumina N lightはWaters社(米国マサチューセッツ州ミルフォード)から購入した。Capintec NaIイオンチャンバを、全ての放射能測定で使用した(モデルCRC15R)。放射性薄層クロマトグラフィー(放射−TLC)を、シリカゲルプレコート板(Merck 60F254)を使用してPackardインスタントイメージャで行った。

【0048】
実施例2:保存された従来技術の溶出液と新たに調製された従来技術の溶出液とによる[18F]FACBC及び[18F]FDGの合成
[18F]FACBC及び[18F]FDGの合成を、新たに調製された溶出液及び保存された溶出液の両方を用いて試験をして、アセトアミド及び酢酸アンモニウムの発生レベルがRCYに及ぼす影響を調査した。
【0049】
担体無添加[18F]フッ化物を、GE PETtrace 6サイクロトロン(Norwegian Cyclotron Centre(オスロ))での18O(p,n)18F核反応を介して生成した。デュアルビームの30μA電流を使用して、HAVAR箔を備えた2つの同等なAgターゲットに、16.5MeVのプロトンを使用して照射を行った。各ターゲットは、96%以上の[18O]水(Marchall Isotopes)を1.6ml含有していた。照射及びホットセルへの送達の後に、各ターゲットを[16O]水(Merck、GR分析用の水)1.6mlで洗浄し、[16O]水 3.2ml中に約2〜5Gbq得られた。
【0050】
全ての放射化学は、使い捨てカセットを備えた市販のGE FASTlab(商標)で行った。各カセットを、全てがポリプロピレンで作製された25個の3方活栓を備えた一体成型マニホールドの周りに構築した。簡単に言うと、カセットは、5mlの反応器(環状オレフィンコポリマー)、1つの1mlシリンジ及び2つの5mlシリンジ、5つのプレフィルドバイアルと接続するためのスパイク、1つのウォータバッグ(100ml)、並びに様々なSPEカートリッジン及びフィルタを含む。流体経路は、窒素パージ、真空、及び3つのシリンジで制御する。完全に自動化されたシステムを、サイクロトロンで生成された[18F]フッ化物を用いる一段階フッ素化のために設計する。FASTlabは、シリンジの移動、窒素パージ、真空、及び温度調節などの、段階的な時間依存性の一連の事象において、ソフトウェアパッケージによりプログラムされた。[18F]FDG及び[18F]FACBCの合成は、別々のカセットに合わせてカスタマイズしたが、両方の合成は、3つの一般的ステップ:(a)[18F]フッ素化、(b)保護基の加水分解、及び(c)SPE精製に従った。
【0051】
従来技術による[18F]FDGの合成
バイアルAは、79.5%(v/v)MeCN水溶液(825μl)中のK222(43.7mg、117μmol)、K2CO3(7.8mg、56.7μmol)を含んでいた。バイアルBは、1700ppmの水を含むMeCN 2.0ml中に前駆体(39mg、81.2μmol)を含んでいた。バイアルCは、MeCN(4.1ml)を含んでいた。バイアルDは、2M NaOH(4.1ml)を含んでいた。バイアルEは、2.3Mリン酸(4.1ml)を含んでいた。水性[18F]フッ化物(1ml、100〜200Mbq)を、QMA内に通して18O−H2O回収バイアル内へと移動させた。捕捉[18F]フッ化物を、バイアルA(450μl)から溶出液を使用して反応器内に溶出し、次いでアセトニトリル(80μl、バイアルC)を用いた共沸蒸留によって濃縮乾固した。バイアルBからの前駆体溶液約1.6ml(31.2mg;65μmol前駆体に相当)を反応器に添加し、125℃で2分間加熱した。反応混合物を水で希釈し、tC18カートリッジを通した。反応器を水で洗浄し、tC18カートリッジを通した。tC18カートリッジに固定された、標識された中間体を、最初に水で洗浄し、次いで2M NaOH(2.0ml)と共に2分間インキュベートした。粗製混合物を水(1.5ml)及び2.3Mリン酸(1.5ml)と混合し、HLB及びアルミナカートリッジ内に通してガラスで作製された生成物バイアル(30ml)内へと移動させた。次いで水(9ml)を、HLB及びアルミナカートリッジ内に送り出し、生成物バイアルへと移動させた。精製された[18F]FDGの配合物は、最終体積15mlを含んでいた。放射化学純度を、移動相としてMeCN:H2O(95:5)の混合物を使用する放射−TLCにより試験した。放射化学的収率(RCY)は、[18F]FDG中の放射能の値を、使用された全[18F18F]フッ化物活性(減衰補正)で除した値として表した。全合成時間が22分であった。」

イ 甲3に記載された発明
上記ア(イ)、及び、各成分の存在量から計算すると、甲3には以下の甲3発明が記載されていると認められる。
「(a)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行して、1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース(18F−TAFDG)を得る工程と、
(c)前記18F−TAFDGの加水分解反応を実行して2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)を得る脱保護工程と、
を含み、
前記工程(a)乃至前記工程(c)をこの順で実行し、
前記工程(a)の開始時において、100〜200MBqの[18F]フッ化物イオンを使用し、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを195〜390mg以上使用し、
前記工程(a)が、炭酸カリウム及び相間移動触媒を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化することを含み、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記炭酸カリウムを39〜78mg、前記相間移動触媒を218.5〜437mg使用し、
前記工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比は、炭酸カリウム/TATM=0.70である、18F−FDGの製造方法。」

ウ 甲4の記載事項
(ア)「【請求項1】 フッ素放射性同位元素標識有機化合物を製造するための標識用[F-18]-フッ化物イオンの製造方法において、[O-18]-濃縮水をプロトン照射して生成した[F-18]-フッ化物イオン含有[O-18]-濃縮水を強酸性陽イオン交換樹脂に接触させる不純物陽イオンを除去する工程と、次いで弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させて[F-18]-フッ化物イオンを吸着すると共に通過[O-18]-濃縮水を回収する工程と、弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着した[F-18]-フッ化物イオンを溶出捕集する工程とを備えたことを特徴とする[F-18]-フッ化物イオンの製造方法。」

(イ)「【0020】
【実施例】以下、本発明について、実施例によりさらに具体的に説明する。
(実施例1) [F-18]-フッ化物イオンの製造
[O-18]-濃縮水にプロトン照射を行って生成した[F-18]-フッ化物イオン含有[O-18]-濃縮水からの[F-18]-フッ化物イオンの製造を、[O-18]-濃縮水の量を変えて行った。まず、活性化させた強酸性陽イオン交換樹脂(Biorad社製AG50W X8,100〜200mesh)をプラスチック製のカラム管に充?し、陽イオン交換樹脂カラムを作製した。次に、活性化させた弱塩基性陰イオン交換樹脂(Bio-rad社製AG3 X4,100〜200mesh)をプラスチック製のカラム管に充?し、陰イオン交換樹脂カラムを作製した。その後、[O-18]-濃縮水にプロトン照射を行うことにより生成した[F-18]-フッ化物イオン含有[O-18]-濃縮水を先に作製しておいた陽イオン交換樹脂カラム、陰イオン交換樹脂カラムの順に接触させ、弱塩基性陰イオン交換樹脂に[F-18]-フッ化物イオンを吸着し、通過[O-18]-濃縮水を回収した。陽イオン交換樹脂カラムに接触させる前の[F-18]-フッ化物イオン含有[O-18]-濃縮水の放射能量と弱塩基性陰イオン交換樹脂上に吸着した[F-18]-フッ化物イオンの放射能量とから[F-18]-フッ化物イオンの捕集率を求めた。結果及び各実験の諸条件を表1に示す。
【0021】
【表1】


【0025】(実施例2) 回収した[O-18]-濃縮水の再利用による[F-18]-フッ化物イオンの製造
本発明による[F-18]-フッ化物イオンの製造工程において回収した[O-18]-濃縮水は、何ら精製を行うことなく[F-18]-フッ化物イオンの製造に再利用することが可能である。このことを、実際に[F-18]-2-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコースの製造を繰り返し行うことによって確認した。
【0026】前回の[F-18]-フッ化物イオンの製造で回収した[O-18]-濃縮水に何ら精製を施さずにプロトン照射を行い、[F-18]-フッ化物イオン含有[O-18]-濃縮水を生成させた。これを強酸性陽イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂の順に接触させ、[F-18]-フッ化物イオンは弱塩基性陰イオン交換樹脂上に吸着し、通過[O-18]-濃縮水は回収して両者を分離した。次に、弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着した[F-18]-フッ化物イオンを、炭酸カリウムを4.6mg含む水溶液(2ml)により溶出した。その後、相間移動触媒としてアミノポリエーテル(クリプトフィックス2.2.2,80mg)を加え、蒸散乾固することにより[F-18]-フッ化物イオンを活性化した。この残さに基質(1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-O-トリフルオロメタンスルフォニル-β-D-マンノピラノース,50mg)を1mlのアセトニトリルに溶解した溶液を加え、105℃で5分間、求核置換反応を行った。溶媒を蒸散留去した後、12mlのジエチルエーテルを加えて目的物を溶解させ、シリカゲルカラム(Waters社製、セップパックシリカ)で精製を行いつつ、次の反応容器に移送した。次いで、溶媒を蒸散留去し、4mlの0.7規定塩酸を加えて、130℃で15分間加水分解した。得られた生成物をイオン遅滞樹脂(Bio-rad社製、AG11A8)、アルミナカラム(Waters社製、セップパックアルミナN)、オクタデシルカラム(Waters社製、セップパックC18)の順に通過させて精製し、目的化合物である[F-18]-2-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコースを得た。」

エ 甲4に記載された発明
上記ウ(イ)、及び、各成分の存在量から計算すると、甲4には以下の甲4発明が記載されていると認められる。
「(a)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行して、1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース(18F−TAFDG)を得る工程と、
(c)前記18F−TAFDGの加水分解反応を実行して2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)を得る脱保護工程と、
を含み、
前記工程(a)乃至前記工程(c)をこの順で実行し、
前記工程(a)が、炭酸カリウム及び相間移動触媒を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化することを含み、
前記工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比は、炭酸カリウム/TATM=0.32である、18F−FDGの製造方法。」

オ 検討
(ア)少なくとも、本件訂正発明1と甲3発明とは、工程(a)の開始時において、本件訂正発明1が「600〜1000GBqの[18F]フッ化物イオンを使用」するのに対し、甲3発明は「100〜200MBqの[18F]フッ化物イオンを使用」することにおいて相違する。
また、甲4発明においては、工程(a)の開始時の[18F]フッ化物イオンの放射能量は明らかでない点で、本件訂正発明1と相違する。仮に【0021】【表1】で示されたものを用いたとしても、本件訂正発明1が「600〜1000GBqの[18F]フッ化物イオンを使用」するのに対し、甲4発明は「2.64〜162.9GBqの[18F]フッ化物イオンを使用」することにおいて相違する。
そして、甲3及び甲4のいずれにおいても、甲3発明及び甲4発明における[18F]フッ化物イオンの放射能量を調整すること、まして本件訂正発明1と同程度となし得ることについて、何ら記載も示唆もない。また、その余の甲各号証を参照しても、甲3発明及び甲4発明において、本件訂正発明1のような[18F]フッ化物イオンの放射能量を採用することを想起させるものは存在しない。
したがって、本件訂正発明1は、甲3発明又は甲4発明、及びその余の甲各号証の記載事項から当業者が容易になしえたものということはできない。

(イ)本件訂正発明2は、工程(a)の開始時において、「300GBq以上の[18F]フッ化物イオンを使用」するものであることに鑑みると、上記(ア)の検討と同様のことがいえる。
したがって、本件訂正発明2は、甲3発明又は甲4発明、及びその余の甲各号証の記載事項から当業者が容易になしえたものということはできない。

(ウ)本件訂正発明3〜4は、本件訂正発明1又は2を更に限定するものである。したがって、本件訂正発明1及び2のいずれも、甲3発明又は甲4発明、及びその余の甲各号証の記載事項から当業者が容易になしえたものとはいえないことに鑑みると、本件訂正発明3〜4も、甲3発明又は甲4発明、及びその余の甲各号証の記載事項から当業者が容易になしえたものとはいえない。

カ まとめ
以上のことから、本件訂正発明1〜4は、甲3又は甲4に記載された発明及びその余の甲各号証の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立理由2−3−3、2−3−4には、いずれも理由がない。

3 まとめ
したがって、申立人が主張する申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立ての理由によっては本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、本件請求項1〜10に係る発明の特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行して、1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース(18F−TAFDG)を得る工程と、
(c)前記18F−TAFDGの加水分解反応を実行して2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)を得る脱保護工程と、
を含み、
前記工程(a)乃至前記工程(c)をこの順で実行し、
前記工程(a)の開始時において、600〜1000GBqの[18F]フッ化物イオンを使用し、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40μg以上使用し、
前記工程(a)が、炭酸カリウム及び相間移動触媒を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化することを含み、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記炭酸カリウムを6〜20μg、前記相間移動触媒を45〜150μg使用し、
前記工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比は、炭酸カリウム/TATM=0.35〜0.6である、18F−FDGの製造方法。
【請求項2】
(a)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行して、1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース(18F−TAFDG)を得る工程と、
(c)前記18F−TAFDGの酸加水分解反応を実行して2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)を得る脱保護工程と、
を含み、
前記工程(a)乃至前記工程(c)をこの順で実行し、
前記工程(a)の開始時において、300GBq以上の[18F]フッ化物イオンを使用し、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40μg以上使用し、
前記工程(a)が、炭酸カリウム及び相間移動触媒を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化することを含み、
前記工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記炭酸カリウムを6〜20μg、前記相間移動触媒を45〜150μg使用し、
前記工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比は、炭酸カリウム/TATM=0.35〜0.6である、18F−FDGの製造方法。
【請求項3】
前記工程(c)の前記酸加水分解反応は、塩酸存在下に実行されるものである、請求項2に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項4】
前記工程(c)の前記酸加水分解反応は、反応時間が6〜15分である、請求項2又は3に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)が、
(a−1)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水を陰イオン交換樹脂と接触させて、前記陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを吸着させる工程と、
(a−2)前記炭酸カリウムを含む水溶液を前記陰イオン交換樹脂に接触させて、前記[18F]フッ化物イオンの水溶液を溶出させる工程と、
(a−3)溶出した前記[18F]フッ化物イオンの水溶液を、前記相間移動触媒及び水溶性有機溶剤の存在下に加熱し、水及び前記水溶性有機溶剤を蒸発させる工程と、
を含む、請求項1乃至4いずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項6】
前記水溶性有機溶剤がアセトニトリルである、請求項5に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項7】
前記相間移動触媒がクリプタンドである、請求項1乃至6いずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項8】
工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40〜150μg使用する、請求項1乃至7いずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項9】
前記工程(b)における放射性フッ素化反応の反応時間が1.5〜7分である、請求項1乃至8いずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
【請求項10】
前記工程(b)の前記放射性フッ素化反応は、アセトニトリル中で前記TATMの[18F]フッ素化を行うものである、請求項1乃至9いずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性フッ素標識有機化合物は、医療用画像診断法の一つである陽電子放出断層撮影(以下、「PET」という)において利用される。現在、主要な放射性フッ素標識有機化合物は、その前駆体と[18F]フッ化物イオンとの有機化学反応により製造される。
【0003】
放射性フッ素標識有機化合物として代表的な化合物である2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(以下、「18F−FDG」という)の製造方法としては種々の方法が報告されており、例えば、ハマハーにより提案された方法(以下、「ハマハー法」)がよく知られている。
【0004】
ハマハー法では、まず、18F、炭酸カリウム及び相間移動触媒を含む溶液を蒸発乾固させて18Fを活性化させる。次に、活性化された溶液に、標識前駆体化合物である1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(以下、「TATM」という)のアセトニトリル溶液を加えて加熱し、中間体である1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシグルコース(以下、「18F−TAFDG」という)を得る。続いて、18F−TAFDGを脱保護工程及び精製工程に付して18F−FDGを得る(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2007/063940号公報
【特許文献2】国際公開WO2007/066567号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hamacher K., Coenen H. H., Stocklin G., “Efficient Stereospecific Synthesis of No−carrier−added−2−[18F]fluoro−2−deoxy−D−glucose Using Aminopolyether Supported Nucleophilic Substitutionm,” J, Nucl. Med., 1986, 27, 2, p.235−238
【非特許文献2】K. Hamacher et al., “Computer−aided Synthesis (CAS) of No−carrier−added 2−[18F]Fluoro−2−deoxy−D−glucose: an Efficient Automated System for the Aminopolyether−supported Nucleophilic Fluorination” Applied Radiation and Isotopes, (Great Britain), Pergamon Press, 1990, 41, 1, p.49−55
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願人は、活性化させた[18F]フッ化物イオンを含む混合物に標識前駆体であるTATMを加える工程を、気密条件下で行ったり(特許文献1)、放射性フッ素標識反応において溶液中に一定量の水を含有させたり(特許文献2)することにより、安定して高い放射性フッ素化収率を達成し得ることを知得した。
【0008】
しかしながら、18F−FDGの生産量をより高めるべく、[18F]フッ化物イオンを大容量用いると、18F−FDGの収率が低下することが、本発明者らの知見により明らかとなった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、[18F]フッ化物イオンを大容量用いた場合であっても、18F−FDGを安定して収率よく製造できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記目的の下に鋭意研究した結果、[18F]フッ化物イオンを大容量用いた場合、標識前駆体の使用量を調整することにより、18F−FDGを収率よく製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、
(a)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行する工程と、
(c)加水分解反応を実行して2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)を得る脱保護工程と、
を含み、
工程(a)の開始時において、300GBq以上の[18F]フッ化物イオンを使用し、工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40μg以上使用する、18F−FDGの製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放射性フッ素化反応において、標識前駆体であるTATMの[18F]フッ化物イオン1GBqに対する使用量を一定量以上とすることとしたので、[18F]フッ化物イオンを大容量用いた場合であっても、18F−FDGを安定して収率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の製造方法の実施形態について説明するが、本発明は当該実施形態のみに限定されるものではない。
【0014】
本発明の製造方法は、少なくとも上記工程(a)〜(c)を行うことにより実施できる。以下、各工程について説明する。
【0015】
工程(a)
工程(a)は、[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程である。本発明では、工程(a)の開始時において、300GBq以上の[18F]フッ化物イオンを使用するが、好ましくは、500GBq以上、より好ましくは600〜1000GBq使用する。
【0016】
[18F]フッ化物イオンは公知の方法にて得ることができ、例えば、18O濃縮水をターゲットとしてプロトン照射を行うといった方法により、得ることができる。このとき、[18F]フッ化物イオンはターゲットとした18O濃縮水中に存在している。
【0017】
工程(a)は、得られた18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離できる方法であればどのような方法で行ってもよいが、[18F]フッ化物イオンの分離と併せて、炭酸カリウム及び相間移動触媒を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化することを含むことが好ましく、かかる好ましい方法としては、例えば、下記工程(a−1)〜(a−3)を含む方法が挙げられる。
【0018】
工程(a−1):[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水を陰イオン交換樹脂と接触させて、陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを吸着させる。
工程(a−2):炭酸カリウムを含む水溶液を前記陰イオン交換樹脂に接触させて、前記[18F]フッ化物イオンの水溶液を溶出させる。
工程(a−3):溶出した前記[18F]フッ化物イオンの水溶液を、相間移動触媒及び水溶性有機溶剤の存在下に加熱し、水及び水溶性有機溶剤を蒸発させる。
【0019】
ここで、本発明において、「工程(a)の開始時」とは、18O濃縮水のプロトン照射の終了時、すなわち、工程(a−1)の開始時であってもよいし、陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを吸着させた状態、すなわち工程(a−2)の開始時であってもよいし、陰イオン交換樹脂から[18F]フッ化物イオンを溶出した直後、すなわち、工程(a−3)の開始時であってもよい。
【0020】
以下、工程(a−1)〜(a−3)について説明する。
【0021】
工程(a−1)では、[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水を陰イオン交換樹脂と接触させて、陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを吸着させる。陰イオン交換樹脂としては、固相抽出カートリッジ型が好ましく、例えば、Waters社から販売されているSep−Pak(登録商標)製品のAccell Plus QMAを使用することができる。また、Bio−Rad社から販売されているAG1X8 (140−1431 Analytical grade, 50−100 mesh)を用いてもよい。したがって、工程(a−1)は、例えば、陰イオン交換樹脂が充填されたカートリッジに[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水を通過させることにより行うことができる。陰イオン交換樹脂は、使用前に炭酸イオン形に調製しておくことが好ましい。
【0022】
工程(a−2)では、炭酸カリウムを含む水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させて、[18F]フッ化物イオンの水溶液を溶出させる。工程(a−2)は、例えば、[18F]フッ化物イオンを吸着した陰イオン交換樹脂が充填されたカートリッジに炭酸カリウムを含む水溶液を通過させることで行うことができる。
【0023】
炭酸カリウムを含む水溶液は、[18F]フッ化物イオンの溶離液として使用されるが、このとき炭酸カリウムは、工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、4〜20μg使用することが好ましく、6〜20μg使用することがより好ましい。
【0024】
溶離液中の水は、炭酸カリウムを溶解でき、かつ、工程(a−3)の蒸発時間を最小限にできるものであれば制限されないが、例えば、0.1〜1mLとすることができる。なお、後述のように、この溶離液に、下記相間移動触媒及び/又は下記水溶性有機溶剤を予め混合しておいてもよい
【0025】
工程(a−3)では、溶出した[18F]フッ化物イオンの水溶液を、相間移動触媒及び水溶性有機溶剤の存在下に加熱し、水及び水溶性有機溶剤を蒸発させる。
【0026】
相間移動触媒は、水溶性有機溶剤に溶解して使用することが好ましく、これを工程(a−2)の溶離液に予め混合しておいてもよいし、工程(a−2)で得られた溶出液に混合させてもよい。
【0027】
相間移動触媒としては、クリプタンドやクラウンエーテルが挙げられるが、クリプタンドが好ましく、4,7,13,16,21,24−ヘキサオキサ−1,10−ジアザビシクロー[8,8,8]−ヘキサコサン(商品名:クリプトフィックス222)がより好ましい。
【0028】
相間移動触媒は、炭酸カリウムのカリウムイオンを捕捉するために使用されるため、工程(a−2)で使用する炭酸カリウムの量に対応して使用すればよいが、工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、30〜150μg使用することが好ましく、45〜150μg使用することがより好ましい。相間移動触媒の炭酸カリウムに対するモル比は、相間移動触媒/炭酸カリウム=1.5〜4とすることが好ましく、2〜3.5がより好ましい。
【0029】
水溶性有機溶剤としては、工程(a−2)で溶離液として使用した水と混合するものであれば特に限定されず、沸点が水に近く水と共沸するものが好ましく、沸点が水より低いものがより好ましい。好ましい水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、1,4−ジオキサン、アセトニトリルが挙げられ、アセトニトリルが特に好ましい。
【0030】
水溶性有機溶剤の量は、相間移動触媒を溶解でき、かつ、工程(a−3)の蒸発時間を最小限にできるものであれば制限されないが、例えば、0.5〜2.5mLとすることができる。
【0031】
工程(a−3)は、工程(a−2)で得られた溶出液を相間移動触媒及び水溶性有機溶剤の存在下、容器内で加熱し、水及び水溶性有機溶剤を蒸発させることにより行うことができる。加熱温度は、水及び水溶性有機溶剤が蒸発できる温度であれば制限されないが、例えば、70〜150℃とする。
【0032】
工程(b)
工程(b)は、18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行する工程である。
【0033】
本発明において、TATMは、工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、40μg以上使用するが、好ましくは、40〜150μg使用する。これにより、安定して、収率よく18F−FDGを製造することができる。
【0034】
工程(a−2)で使用される炭酸カリウムは、放射性フッ素化反応において塩基として働き、反応を促進させる。そこで、工程(b)で使用するTATMに対する炭酸カリウムのモル比は、炭酸カリウム/TATM=0.3〜0.6であることが好ましく、0.35〜0.6であることがより好ましい。
【0035】
TATMは、水溶性有機溶剤に溶解させて[18F]フッ化物イオンと反応させることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、工程(a−3)で例示したものを使用することができ、好ましくは工程(a−3)で使用したものと同じものを使用し、より好ましくはアセトニトリルを使用する。
【0036】
使用する水溶性有機溶剤の量は、TATMを溶解できるものであれば限定されないが、例えば、0.5〜2.5mLとすることができる。
【0037】
放射性フッ素化反応は、加熱して実行することが好ましく、加熱温度は、65〜125℃が好ましい。反応時間は、反応温度に応じて適宜設定されるが、好ましくは10秒〜15分、より好ましくは30秒〜10分、更に好ましくは、1.5〜7分である。
【0038】
工程(b)の放射性フッ素化反応は、工程(a−3)において水及び水溶性有機溶剤を蒸発した残渣に、TATMの水溶性有機溶剤溶液を加えることで、実行することが好ましい。このとき反応容器を気密状態にすることが好ましい。そして、放射性フッ素化反応の終了後、開放状態で水溶性有機溶剤を蒸発させ、工程(b)を終了することが好ましい。
【0039】
工程(c)
工程(c)は、加水分解反応を実行して2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)を得る脱保護工程である。
【0040】
加水分解反応は、酸加水分解反応であってもよいし、アルカリ加水分解反応であってもよいが、酸加水分解反応が好ましい。酸加水分解反応は、例えば、工程(b)で得られた放射性フッ素化反応の残渣に、酸性溶液を添加することで実行できる。アルカリ加水分解反応は、例えば、工程(b)で得られた放射性フッ素化反応の残渣に、アルカリ性溶液を添加することで実行できる。加水分解反応におけるアルカリまたは酸の添加量、反応温度、及び反応時間としては、公知のものを用いることができる(「PET用放射性薬剤の製造および品質管理−合成と臨床使用のてびき−(第4版)」、PET化学ワークショップ編参照)。
【0041】
酸加水分解反応は、100〜140℃に加熱して実行することが好ましい。また、酸性溶液として、塩酸を用いることが好ましい。この場合、0.5〜4mol/Lの塩酸を0.5〜4mL使用することが好ましく、反応時間は30秒〜20分が好ましく、6〜15分がより好ましい。
【0042】
工程(c)の終了後、必要に応じて精製工程に付し、適宜、安定剤などの添加剤を加え、滅菌フィルターに通液し、希釈、分注して製剤化してもよい。
【0043】
精製工程は、例えば、一連の精製カラム(陽イオン交換樹脂、イオン遅滞樹脂、オクタデシルシリル化シリカゲル及びアルミナ)に通液することで実行することができる。
上記実施形態は、以下の技術思想を包含する。
1.(a)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水から[18F]フッ化物イオンを分離する工程と、
(b)前記18O濃縮水から分離された[18F]フッ化物イオンを用いて1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(TATM)の放射性フッ素化反応を実行する工程と、
(c)加水分解反応を実行して2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)を得る脱保護工程と、
を含み、
工程(a)の開始時において、300GBq以上の[18F]フッ化物イオンを使用し、工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40μg以上使用する、18F−FDGの製造方法。
2.前記工程(a)が、炭酸カリウム及び相間移動触媒を用いて[18F]フッ化物イオンを活性化することを含み、
工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記炭酸カリウムを4〜20μg、前記相間移動触媒を30〜150μg使用する、上記1に記載の18F−FDGの製造方法。
3.前記工程(a)が、
(a−1)[18F]フッ化物イオンを含有する18O濃縮水を陰イオン交換樹脂と接触させて、前記陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを吸着させる工程と、
(a−2)前記炭酸カリウムを含む水溶液を前記陰イオン交換樹脂に接触させて、前記[18F]フッ化物イオンの水溶液を溶出させる工程と、
(a−3)溶出した前記[18F]フッ化物イオンの水溶液を、前記相間移動触媒及び水溶性有機溶剤の存在下に加熱し、水及び前記水溶性有機溶剤を蒸発させる工程と、
を含む、上記2に記載の18F−FDGの製造方法。
4.前記相間移動触媒がクリプタンドである、上記2又は3に記載の18F−FDGの製造方法。
5.前記水溶性有機溶剤がアセトニトリルである、上記2乃至4のいずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
6.前記工程(a)の開始時において、600〜1000GBqの[18F]フッ化物イオンを使用する、上記1乃至5のいずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
7.工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、前記TATMを40〜150μg使用する、上記1乃至6のいずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
8.前記工程(b)における放射性フッ素化反応の反応時間が1.5〜7分である、上記 1乃至7のいずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
9.前記工程(b)の前記放射性フッ素化反応は、アセトニトリル中で前記TATMの[18F]フッ素化を行うものである、上記1乃至8のいずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
10.前記工程(c)の前記加水分解反応は、酸加水分解反応である、上記1乃至9のいずれか一項に記載の18F−FDGの製造方法。
11.前記工程(c)の前記加水分解反応は、塩酸存在下に実行されるものである、上記10に記載の18F−FDGの製造方法。
12.前記工程(c)の前記加水分解反応は、反応時間が6〜15分である、上記11に記載の18F−FDGの製造方法。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの内容のみに限定されるものではない。
【0045】
実施例1〜5、比較例1
[工程(a)]
18O照射水をTR19サイクロトロン(商品名,Advanced Cyclotron Systems社製)でプロトン照射することで生成した[18F]フッ化物イオンを陰イオン交換樹脂カートリッジ(Sep−Pak Accel Plus Light QMA, Waters社製)に通液し、陰イオン交換樹脂に吸着捕集させることにより保持させた(工程(a−1))。表1に記載の量の炭酸カリウムを水で溶解した溶液(0.6mL)を前記カートリッジ通液し、[18F]フッ化カリウム溶出液を得た(工程(a−2))。表1に記載の量のクリプトフィックス222(商品名)をアセトニトリルで溶解した溶液(1.5mL)を[18F]フッ化カリウム溶出液に加え、濃縮乾固した(工程(a−3))。なお、工程(a−2)の開始時には、工程(a−1)の開始時から約1分30秒経過しており、工程(a−3)の開始時には、工程(a−1)の開始時から約2分経過していた。
【0046】
[工程(b)]
残渣に、表1に記載の量のTATMをアセトニトリルで溶解した溶液(1mL)を加えて、反応器内が84〜92℃になるように加熱して反応させた後、濃縮乾固した(工程(b))。
【0047】
[工程(c)]
残渣に1mol/L塩酸溶液(2.0mL)を加えて、還流下で反応させた後、一連の精製カラム(陽イオン交換樹脂,イオン遅滞樹脂,オクタデシルシリル化シリカゲル及びアルミナ)に通液し、更に、反応容器を注射用水(10mL)により洗浄し、同様に一連の精製カラムに通液した後、メンブランフィルターで粗ろ過して、18F−FDGを得た(工程(c))。
【0048】
得られた18F−FDGの合成収率は、下記式(1)に従って求めた。
18F−FDGの合成収率(%)=B/A×100 (1)
ただし、A及びBは以下の通り。
A:陰イオン交換カラムへの[18F]フッ化物イオンの吸着捕集(工程(a−1)の開始時の放射能量。
B:18F−FDGの精製終了後の放射能量。
ここで、放射能量は、陰イオン交換カラムへの[18F]フッ化物イオンの吸着捕集開始時を基準として、全体の放射能量の計算を行った。また、放射能量の測定には、CRC−712X(商品名、CAPINTEC社製)を用いて行った。
【0049】
結果を表1に示す。表1の結果から、工程(a)の開始時において、300GBq以上の[18F]フッ化物イオンを使用し、工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオン1GBqあたり、TATMを40μg以下使用した比較例1に比べ、TATMを40μg以上使用した実施例1〜5の場合、高い合成収率が得られ、さらには、炭酸カリウム及び相間移動触媒の使用量を高めた実施例1〜2及び4〜5では合成収率のばらつきも少なくなることがわかる。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例6〜11
工程(a)の開始時における[18F]フッ化物イオンの放射能量、TATM、炭酸カリウム及び相間移動触媒の使用量、工程(b)の反応時間、並びに、工程(c)の反応時間を表2に示す値に変更した以外、実施例1と同様に実験を行い、合成収率を求めた。
【0052】
結果を表2に示す。表2の結果から、放射性フッ素化反応の反応時間を1.5〜7分とし、加水分解反応の反応時間を6〜15分とすることで、18F−FDGが収率よく得られることが示された。
【0053】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、放射性医薬品として用いられる18F−FDGを効率良く大量生産するのに利用できる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-03-24 
出願番号 P2016-087358
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C07H)
P 1 651・ 113- YAA (C07H)
P 1 651・ 121- YAA (C07H)
P 1 651・ 537- YAA (C07H)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 関 美祝
大熊 幸治
登録日 2021-01-22 
登録番号 6827709
権利者 日本メジフィジックス株式会社
発明の名称 2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコースの製造方法  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  

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