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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A41D
審判 一部申し立て 2項進歩性  A41D
管理番号 1386142
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-20 
確定日 2022-04-14 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6837176号発明「マスク」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6837176号発明の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。 特許第6837176号の請求項1及び4に係る特許を維持する。 特許第6837176号の請求項2、5、6に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6837176号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜9に係る特許についての出願は、令和2年9月18日を出願日とする出願であって、令和3年2月10日に特許権の設定登録がされ、同年3年3月3日に特許掲載公報が発行され、同年8月20日に請求項1、2、4〜6に係る特許に対し、特許異議申立人である木村益子(以下、「申立人」という。)によって特許異議の申立てがされたものである。
その後、同年11月30日付けで当審から取消理由が通知され、令和4年2月1日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)がされたものである。
また、以下の第2及び第5で述べるとおり、本件訂正により、訂正後の請求項1に係る発明は、実質的に特許異議の申立てがされていない訂正前の請求項1を引用する請求項2を更に引用する請求項7に係る発明となったため、特許法第120条の5第5項ただし書の規定に基いて、当審から申立人に対し訂正請求があった旨の通知をするとともに相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えることはしなかった。

第2 本件訂正の適否について
1 本件訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は「特許第6837176号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜9について訂正することを求める。」というものである。

2 訂正事項
本件訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の
「人体の口を覆う本体部と、
前記本体部の状態を第1状態および第2状態との間において切り替え可能な切替構造と、を備え、
前記第1状態は、前記本体部のうちの前記口を覆う部分よりも下方の下方部分と前記人体とが離間可能であり、
前記第2状態は、前記下方部分が前記人体のうちの顔のうちの口より下方または首と接触して前記第1状態よりも前記口と前記本体部との間の空間と外部との空気の流通を抑制可能であり、
前記第1状態において、前記本体部の下端は、前記第2状態における下端よりも下方に位置可能に構成され、
前記第2状態において、前記本体部は、前記下方部分が顔の下縁から首に向かって曲がっている形状になるように構成される、
マスク。」を、
「人体の口を覆う本体部と、
前記本体部の状態を第1状態および第2状態との間において切り替え可能な切替構造と、を備え、
前記第1状態は、前記本体部のうちの前記口を覆う部分よりも下方の下方部分と前記人体とが離間可能であり、
前記第2状態は、前記下方部分が前記人体のうちの顔のうちの前記口より下方または首と接触して前記第1状態よりも前記口と前記本体部との間の空間と外部との空気の流通を抑制可能であり、
前記第1状態において、前記本体部の下端は、前記第2状態における下端よりも下方に位置可能に構成され、
前記第2状態において、前記本体部は、前記下方部分が顔の下縁から首に向かって曲がっている形状になるように構成され、
前記切替構造は、前記第2状態を維持可能に構成される保持構造を備え、
前記保持構造は、前記本体部の前記第2状態において、前記人体または前記人体に取り付けられる部材に取り付け可能な取付部を備える
マスク。」と訂正する。
(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項3、4も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項3の
「前記第2状態は、複数の第2状態を備え、
前記保持構造は、前記複数の第2状態において、前記第2状態を維持可能に構成される、
請求項2に記載のマスク。」を
「前記第2状態は、複数の第2状態を備え、
前記保持構造は、前記複数の第2状態において、前記第2状態を維持可能に構成される、
請求項1に記載のマスク。」に訂正する。
(請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
訂正前の請求項4の
「前記本体部は、第1部分、および、前記第1部分よりも上方または前記第1部分よりも幅方向の中心部から遠い第2部分を備え、
前記保持構造は、前記第1部分および前記第2部分の相対移動を規制することによって前記第2状態を維持する、
請求項2または3に記載のマスク。」を、
「前記本体部は、第1部分、および、前記第1部分よりも上方または前記第1部分よりも幅方向の中心部から遠い第2部分を備え、
前記保持構造は、前記第1部分および前記第2部分の相対移動を規制することによって前記第2状態を維持する、
請求項1または3に記載のマスク。」と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(10)一群の請求項
本件訂正前の請求項1〜9は、請求項2〜9が、本件訂正の対象である請求項1の記載を直接的または間接的に引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。

3 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「前記下方部分が前記人体の顔のうちの口より下方」を、「前記下方部分が前記人体の顔のうちの前記口より下方」として、「口」を「前記口」とする訂正(以下「訂正事項1−1」という。)、並びに、訂正前の請求項1に、「前記切替構造は、前記第2状態を維持可能に構成される保持構造を備え」との記載、及び「前記保持構造は、前記本体部の前記第2状態において、前記人体または前記人体に取り付けられる部材に取り付け可能な取付部を備える」との記載を加える訂正(以下「訂正事項1−2」という。)からなる。
ア 訂正事項1−1について
訂正事項1−1は、「口」の前に「前記」を追加することで、当該「口」が「人体の口」であることを明確にしたものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項1−1が、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
イ 訂正事項1−2について
訂正事項1−2は、訂正前の請求項1の「切替構造」について、「前記第2状態を維持可能に構成される保持構造を備え」と限定し、かつ、当該「保持構造」について、「前記本体部の前記第2状態において、前記人体または前記人体に取り付けられる部材に取り付け可能な取付部を備える」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
切替構造が「第2状態を維持可能に構成される保持構造を備え」、かつ、当該「保持構造」が「前記本体部の前記第2状態において、前記人体または前記人体に取り付けられる部材に取り付け可能な取付部を備える」ことに関しては、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の請求項2、7及び【0039】、【0046】に記載されているから、訂正事項1−2は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正前の請求項3は、直接的または間接的に、請求項1及び2を引用するものであったところ、上記訂正事項1−2により、請求項2に係る技術的事項が請求項1に組み込まれ、訂正事項2により、請求項2が削除されて請求項2を引用できなくなったことに伴い、請求項2の引用を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正前後で引用する技術的事項に変更はないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4に係る訂正前の請求項4は、直接的または間接的に、請求項1及び2を引用するもの、または請求項1〜3を引用するものが含まれていたところ、訂正事項1−2により、請求項2に係る技術的事項が請求項1に組み込まれ、訂正事項2により、請求項2が削除されて請求項2を引用できなくなったことに伴い、引用する請求項を変更するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正前後で引用する技術的事項に変更はないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。

(5)訂正事項5〜9について
訂正事項5〜9は、訂正前の請求項5〜9を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。

4 独立特許要件について
訂正前の請求項3について、本件特許異議の申立てはされていない。
そして、請求項3が引用する請求項1における訂正事項1−2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、訂正後の請求項3も訂正前の請求項3から実質的に減縮されており、訂正後の請求項3に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件が課されることになる。
そこで、独立特許要件について検討する。
訂正後の請求項3に係る発明は、後述の「第5 当審の判断」において詳述するとおり、当業者が容易に想到し得たとはいえないものである。
したがって、訂正後の請求項3に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

5 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項、第9項で準用する同法第126条第5〜7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項1、3及び4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」のようにいう。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、3〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
人体の口を覆う本体部と、
前記本体部の状態を第1状態および第2状態との間において切り替え可能な切替構造と、を備え、
前記第1状態は、前記本体部のうちの前記口を覆う部分よりも下方の下方部分と前記人体とが離間可能であり、
前記第2状態は、前記下方部分が前記人体のうちの顔のうちの前記口より下方または首と接触して前記第1状態よりも前記口と前記本体部との間の空間と外部との空気の流通を抑制可能であり、
前記第1状態において、前記本体部の下端は、前記第2状態における下端よりも下方に位置可能に構成され、
前記第2状態において、前記本体部は、前記下方部分が顔の下縁から首に向かって曲がっている形状になるように構成され、
前記切替構造は、前記第2状態を維持可能に構成される保持構造を備え、
前記保持構造は、前記本体部の前記第2状態において、前記人体または前記人体に取り付けられる部材に取り付け可能な取付部を備える
マスク。」
「【請求項3】
前記第2状態は、複数の第2状態を備え、
前記保持構造は、前記複数の第2状態において、前記第2状態を維持可能に構成される、
請求項1に記載のマスク。
【請求項4】
前記本体部は、第1部分、および、前記第1部分よりも上方または前記第1部分よりも幅方向の中心部から遠い第2部分を備え、
前記保持構造は、前記第1部分および前記第2部分の相対移動を規制することによって前記第2状態を維持する、
請求項1または3に記載のマスク。」

第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、2、4〜6に係る特許に対して、当審が令和3年11月30日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許の請求項1、2、4〜6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、そうでないとしても、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項第3号、あるいは同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。

甲第1号証(以下、「甲1」という。):「ながらマスクあす発売」の記事,福島民報,福島民報社,発行日:2020年8月12日、第8面

第5 当審の判断
1 甲1の記載、甲1発明
以下、下線は、理解の便宜又は強調のため、当審が付した。
ア「二本松市の富樫縫製は水着素材マスクの改良型として、外さなくても運動や飲食がしやすい「スポーツ・ながらマスク」を開発した。・・・
運動時や飲食しながらでも着けやすいマスクが欲しいとの要望に応えて作った。通常より二センチほど長く下部が開いているため、まくれば飲食できる。通気性に優れ、運動するときにも熱がこもりにくい。左右のボタンにフックを掛けると、通常のマスクの形状となる。裏地はポリエステルメッシュとなっている。」
イ「

下部が開いている「スポーツ・ながらマスク」

ウ「

左右のボタンにフックを掛けると通常のマスクになる

エ 上記イ、ウから、甲1に記載されたマスクは、人体の口を含め顔の下部を覆う部分を備えることが看取できる。
オ 上記アから、甲1に記載されたマスクは、通常より二センチほど長く下部が開いているため、通気性に優れ、運動する時にも熱がこもりにくいものである。また、上記イから、人体の顔から下に垂れ下がった部分を備えることが看取できる。
カ 上記ア、ウから、甲1に記載されたマスクは、左右にボタンとフックを備え、左右のボタンにフックを掛けると通常のマスクになる。また、上記ウより、人体の顔より下に垂れ下がったマスクの一部が折り畳まれてなることが看取できる。

上記摘記事項ア、写真イ、ウ及び認定事項エ〜カを総合すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「人体の口を含め顔の下部を覆う部分と、左右のボタンとフックとを備えたマスクであって、
このマスクは、通常より二センチほど長く下部が開いているため、通気性に優れ、運動する時にも熱がこもりにくく、人体の顔から下に垂れ下がった部分を備え、
左右のボタンにフックを掛けると、人体の顔より下に垂れ下がったマスクの一部が折り畳まれて、通常のマスクになる、マスク。」

2 甲1以外の他の証拠及びその記載
(1)甲第2号証(「マスクしてスポーツ 富樫縫製開発 会食も可能」の記事,福島民友,福島民友新聞社,発行日:2020年8月13日、第9面)
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
ア「水着素材を使った布製マスクの開発、製造を手掛ける富樫縫製(二本松市)は、マスクを着けながらでも会食やスポーツを楽しむことができる新商品を開発した。13日、二本松市の道の駅安達「智恵子の里」上下線、JR安達駅東口近くの同社S字の蔵で販売する。
新商品は「スポーツ&ながらマスク」。マスクは顔を包むような形状で、ながらマスクは通常より約2センチ布地を長くし、ハンカチで口を覆った時にように下部が垂れ下がっているのが特徴。布地を上げ下げして料理を食べられる。」
イ「ボタン付きとボタンなしの2タイプを用意。ボタンを掛けることで通常マスクのように顔を包み込める。」
ウ「17日からはインターネットでも販売する。」
エ「

布地を上げ下げして飲食できるながらマスク

(2)甲第3〜5号証について
甲第3、5号証は、その出力日が令和3年8月19日であり、甲第4号証は、その発行日が令和3年1月18日であって、本件特許の出願日である令和2年9月18日の後に公知となった文献であるから、特許法第29条第1項第3号及び第2項についての判断において、これらを参酌することはできない。
甲第3号証:“ポンパレモール スポーツ&ながらマスク 商品ページ”,[online],[令和3年8月19日に申立人が出力],インターネット<URL:http://store.ponparemail.com/ichiishop/goods/7719721/>
甲第4号証:意匠登録第1677084号
甲第5号証:“「セッパ」の検索結果”,[online],[令和3年8月19日に申立人が出力],インターネット<URL:http://search.rakuten.co.jp/search/mail/セッパ/>

3 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「人体の口を含め顔の下部を覆う部分」は、本件発明1の「人体の口を覆う本体部」に相当する。
甲1発明の「通常より二センチほど長く下部が開いているため、通気性に優れ、運動する時にも熱がこもりにくく、人体の顔から下に垂れ下がった部分を備え」たマスクは、本件発明1の「本体部のうちの口を覆う部分よりも下方の下方部分と人体とが離間可能」な「第1状態」のマスクに相当する。
甲1発明の「左右のボタンにフックを掛けると、人体の顔より下に垂れ下がったマスクの一部が折り畳まれて、通常のマスクになる」状態は、甲1発明のマスクの「下部が開いているため、通気性に優れ、運動する時にも熱がこもりにく」い状態と比べると、衛生用具としてのマスクの機能を鑑みれば、より口とマスクとの間の空間と外部との空気の流通を抑制可能な状態であるといえるから、甲1発明の「左右のボタンにフックを掛けると、人体の顔より下に垂れ下がったマスクの一部が折り畳まれて、通常のマスクになる」状態と本件発明1の「下方部分が前記人体のうちの顔のうちの口より下方または首と接触して前記第1状態よりも前記口と前記本体部との間の空間と外部との空気の流通を抑制可能であ」る「第2状態」とは、「第1状態よりも前記口と前記本体部との間の空間と外部との空気の流通を抑制可能な状態」という限りで一致する。
甲1発明の「左右のボタン」及び「フック」は、本件発明1の「第1状態および第2状態との間において切り替え可能な切替構造」に相当する。
甲1発明の「左右のボタン」及び「フック」は、掛かり合うことで通常のマスクの形状を維持することから、本件発明1の「保持構造」に相当する。
また、甲1発明は、左右のボタンにフックが掛かることで、通常より二センチ長く、人体の顔より下に垂れ下がったマスクの一部が折り畳まれて通常のマスクの形状へと切り替えていることから、本件発明1の「前記第1状態において、前記本体部の下端は、前記第2状態における下端よりも下方に位置可能に構成され」たものに相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「人体の口を覆う本体部と、
前記本体部の状態を第1状態および第2状態との間において切り替え可能な切替構造と、を備え、
前記第1状態は、前記本体部のうちの前記口を覆う部分よりも下方の下方部分と前記人体とが離間可能であり、
前記第2状態は、前記第1状態よりも前記口と前記本体部との間の空間と外部との空気の流通を抑制可能な状態であり、
前記第1状態において、前記本体部の下端は、前記第2状態における下端よりも下方に位置可能に構成され、
前記切替構造は、前記第2状態を維持可能に構成される保持構造を備えるマスク。」

<相違点1>
「第1状態よりも口と本体部との間の空間と外部との空気の流通を抑制可能な状態」について、本件発明1は、マスクの「前記下方部分が前記人体のうちの顔のうちの前記口より下方または首と接触」すること、及び、「前記第2状態において、前記本体部は、前記下方部分が顔の下縁から首に向かって曲がっている形状になるように構成」されるものであるのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1の「保持構造」は、「前記本体部の前記第2状態において、前記人体または前記人体に取り付けられる部材に取り付け可能な取付部を備える」のに対し、甲1発明は「左右のボタン」と「フック」が掛かり合うことで通常のマスクの形状を維持する点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
相違点2に係る本件発明1の構成は、上記第2 2(1)及び3(1)に示したとおり、訂正事項1−2により追加されたものであって、特許異議の申立てがされていない請求項7に係る技術的事項である。そして、甲1には「保持構造」に相当する「左右のボタン」と「フック」を、他の手段とすることの示唆はなく、「左右のボタン」と「フック」を相違点2に係る構成に変更する動機付けがない。
また、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲第2号証に記載も示唆もされておらず、本件特許の出願前に周知なものでもない。
そうすると、本件発明1は甲1発明ではないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

4 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件請求項1、4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件訂正により、請求項2、5、6に係る特許は削除されたため、請求項2、5、6に対して申立人がした特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の口を覆う本体部と、
前記本体部の状態を第1状態および第2状態との間において切り替え可能な切替構造と、を備え、
前記第1状態は、前記本体部のうちの前記口を覆う部分よりも下方の下方部分と前記人体とが離間可能であり、
前記第2状態は、前記下方部分が前記人体のうちの顔のうちの前記口より下方または首と接触して前記第1状態よりも前記口と前記本体部との間の空間と外部との空気の流通を抑制可能であり、
前記第1状態において、前記本体部の下端は、前記第2状態における下端よりも下方に位置可能に構成され、
前記第2状態において、前記本体部は、前記下方部分が顔の下縁から首に向かって曲がっている形状になるように構成され、
前記切替構造は、前記第2状態を維持可能に構成される保持構造を備え、
前記保持構造は、前記本体部の前記第2状態において、前記人体または前記人体に取り付けられる部材に取り付け可能な取付部を備える
マスク。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記第2状態は、複数の第2状態を備え、
前記保持構造は、前記複数の第2状態において、前記第2状態を維持可能に構成される、
請求項1に記載のマスク。
【請求項4】
前記本体部は、第1部分、および、前記第1部分よりも上方または前記第1部分よりも幅方向の中心部から遠い第2部分を備え、
前記保持構造は、前記第1部分および前記第2部分の相対移動を規制することによって前記第2状態を維持する、
請求項1または3に記載のマスク。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-03-31 
出願番号 P2020-157313
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (A41D)
P 1 652・ 121- YAA (A41D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 平野 崇
井上 茂夫
登録日 2021-02-10 
登録番号 6837176
権利者 株式会社シャルレ
発明の名称 マスク  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
代理人 竹下 和夫  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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