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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1386147
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-02 
確定日 2022-04-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6837779号発明「表面処理鋼線材及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6837779号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1〜3〕,〔4〜11〕について訂正することを認める。 特許第6837779号の請求項1〜3に係る特許についての本件特許異議の申立てを却下する。 特許第6837779号の請求項4〜11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6837779号(請求項の数7。以下,「本件特許」という。)は,平成28年8月24日(優先権主張:平成28年3月31日)を出願日とする特許出願(特願2016−163466号)に係るものであって,令和3年2月15日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和3年3月3日である。)。
その後,令和3年9月2日に,本件特許の請求項1〜7に係る特許に対して,特許異議申立人である山崎浩一郎(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。

令和3年 9月 2日提出 特許異議申立書
令和4年 1月 4日付け 取消理由通知書
同年 3月 3日提出 意見書,訂正請求書

なお,令和4年3月3日提出の訂正請求書による訂正の請求は,実質的に訂正前の請求項1〜3を削除するもの(同請求項の削除に伴い,訂正前の請求項1〜3のいずれかを引用する訂正前の請求項4及び5について,独立形式に改め,訂正後の請求項4,5,8及び9とするとともに,訂正前の請求項4又は5のいずれかを引用する訂正前の請求項6及び7について,引用関係を整理し,訂正後の請求項6,7,10及び11とするもの。後記第2参照)にすぎないため,申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるといえる(特許法120条の5第5項ただし書)から,申立人に意見書を提出する機会を与えなかった。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和4年3月3日提出の訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1〜11について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4−1
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1又は2に記載の表面処理鋼線材を製造する方法であって,
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程,及び
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程,を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。」
とあるうち,請求項1を引用するものについて,独立形式に改め,
「鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材であって,前記リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2であり,リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径が5μm以上70μm以下である表面処理鋼線材を製造する方法であって,
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程,及び
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程,を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。」
に訂正する。

(5)訂正事項4−2
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1又は2に記載の表面処理鋼線材を製造する方法であって,
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程,及び
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程,を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。」
とあるうち,請求項1を引用する請求項2を引用するものについて,独立形式に改め,
「鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材であって,前記リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2であり,リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径が5μm以上40μm以下である表面処理鋼線材を製造する方法であって,
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程,及び
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程,を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。」
と記載し,新たに請求項8とする。

(6)訂正事項5−1
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項3に記載の表面処理鋼線材を製造する方法であって,
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程,
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程,及び
リン酸被膜を形成した後の鋼線材に対して潤滑剤で被覆する潤滑処理工程と,を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。」
とあるうち,請求項1を引用する請求項3を引用するものについて,独立形式に改め,
「鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材であって,前記リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2であり,リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径が5μm以上70μm以下であって,前記リン酸亜鉛被膜上に,さらに潤滑被膜を有する表面処理鋼線材を製造する方法であって,
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程,
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程,及び
リン酸被膜を形成した後の鋼線材に対して潤滑剤で被覆する潤滑処理工程と,を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。」
に訂正する。

(7)訂正事項5−2
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項3に記載の表面処理鋼線材を製造する方法であって,
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程,
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程,及び
リン酸被膜を形成した後の鋼線材に対して潤滑剤で被覆する潤滑処理工程と,を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。」
とあるうち,請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用するものについて,独立形式に改め,
「鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材であって,前記リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2であり,リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径が5μm以上40μm以下であって,前記リン酸亜鉛被膜上に,さらに潤滑被膜を有する表面処理鋼線材を製造する方法であって,
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程,
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程,及び
リン酸被膜を形成した後の鋼線材に対して潤滑剤で被覆する潤滑処理工程と,を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。」
と記載し,新たに請求項9とする。

(8)訂正事項6−1
特許請求の範囲の請求項6に「前記デスケーリング工程,表面調整工程及び被膜処理工程を連続的に行う請求項4又は5に記載の表面処理鋼線材の製造方法。」とあるうち,訂正事項4−1,5−1に伴い,請求項4のうち請求項1を引用するもの(訂正後の請求項4)と,請求項5のうち請求項1を引用する請求項3を引用するもの(訂正後の請求項5)とを引用するものとする。

(9)訂正事項6−2
特許請求の範囲の請求項6に「前記デスケーリング工程,表面調整工程及び被膜処理工程を連続的に行う請求項4又は5に記載の表面処理鋼線材の製造方法。」とあるうち,請求項4のうち請求項1を引用する請求項2を引用するもの(訂正後の請求項8)と,請求項5のうち請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用するもの(訂正後の請求項9)とを引用するものについて,新たに請求項10とする。

(10)訂正事項7−1
特許請求の範囲の請求項7に「前記潤滑剤で被覆する潤滑処理工程を行った後,潤滑剤を乾燥する工程を含む請求項5又は6に記載の表面処理鋼線材の製造方法。」とあるうち,訂正事項5−1に伴い,請求項5のうち請求項1を引用する請求項3を引用するもの(訂正後の請求項5)を引用するものとする。

(11)訂正事項7−2
特許請求の範囲の請求項7に「前記潤滑剤で被覆する潤滑処理工程を行った後,潤滑剤を乾燥する工程を含む請求項5又は6に記載の表面処理鋼線材の製造方法。」とあるうち,請求項5のうち請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用するもの(訂正後の請求項9)を引用するものについて,新たに請求項11とする。

(12)一群の請求項について
訂正前の請求項1〜7について,請求項2〜7は,請求項1を直接又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1〜7は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1〜3について
訂正事項1〜3に係る訂正は,それぞれ,訂正前の請求項1〜3を削除するものであるから,いずれも,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「訂正前明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)訂正事項4−1,4−2,5−1,5−2について
訂正事項4−1に係る訂正は,訂正前の請求項4のうち,請求項1を引用するものについて,引用形式の記載から独立形式の記載に改めるものである。
訂正事項4−2に係る訂正は,訂正前の請求項4のうち,請求項1を引用する請求項2を引用するものについて,引用形式の記載から独立形式の記載に改め,新たに請求項8とするものである。
訂正事項5−1に係る訂正は,訂正前の請求項5のうち,請求項1を引用する請求項3を引用するものについて,引用形式の記載から独立形式の記載に改めるものである。
訂正事項5−2に係る訂正は,訂正前の請求項5のうち,請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用するものについて,引用形式の記載から独立形式の記載に改め,新たに請求項9とするものである。
これらの訂正は,いずれも,請求項の記載について,訂正前の引用形式の記載を独立形式の記載に改めるものであるから,「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。そして,これらの訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(3)訂正事項6−1,6−2,7−1,7−2について
訂正事項6−1に係る訂正は,上記の訂正事項4−1,5−1に合わせて,訂正前の請求項6のうち,請求項1を引用する請求項4(訂正後の請求項4)と,請求項1を引用する請求項3を引用する請求項5(訂正後の請求項5)を引用するものとするものである。
訂正事項6−2に係る訂正は,訂正前の請求項6のうち,請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4(訂正後の請求項8)と,請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項5(訂正後の請求項9)を引用するものについて,上記の訂正事項4−2,5−2に合わせて,訂正後の請求項8又は9を引用する形で,新たに請求項10とするものである。
訂正事項7−1に係る訂正は,上記の訂正事項5−1に合わせて,訂正前の請求項7のうち,請求項1を引用する請求項3を引用する請求項5(訂正後の請求項5)を引用するものとするものである。
訂正事項7−2に係る訂正は,訂正前の請求項7のうち,請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項5(訂正後の請求項9)を引用するものについて,上記の訂正事項5−2に合わせて,訂正後の請求項9を引用する形で,新たに請求項11とするものである。
これらの訂正は,いずれも,上記の訂正事項4−1,4−2,5−1,5−2による訂正に伴い,請求項間の引用関係を整理するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして,これらの訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(4)独立特許要件について
本件においては,訂正前の全ての請求項1〜7について特許異議の申立てがされているため,特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。

3 まとめ
上記2のとおり,各訂正事項に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号,3号又は4号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものである。
また,訂正後の請求項4,5,8及び9に係る訂正事項4−1,4−2,5−1及び5−2は,引用関係の解消を目的とするものであり,訂正後の請求項6,7,10及び11に係る訂正事項6−1,6−2,7−1及び7−2は,請求項間の引用関係を整理するものであり,上記2のとおり,これらの訂正はいずれも認められるものであるところ,特許権者は,訂正後の請求項4〜11についての訂正が認められる場合には,これらの請求項については,一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
したがって,結論のとおり,訂正後の請求項〔1〜3〕,〔4〜11〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1〜11に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材であって,前記リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2であり,リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径が5μm以上70μm以下である表面処理鋼線材を製造する方法であって,
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程,及び
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程,を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項5】
鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材であって,前記リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2であり,リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径が5μm以上70μm以下であって,前記リン酸亜鉛被膜上に,さらに潤滑被膜を有する表面処理鋼線材を製造する方法であって,
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程,
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程,及び
リン酸被膜を形成した後の鋼線材に対して潤滑剤で被覆する潤滑処理工程と,を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項6】
前記デスケーリング工程,表面調整工程及び被膜処理工程を連続的に行う請求項4又は5に記載の表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項7】
前記潤滑剤で被覆する潤滑処理工程を行った後,潤滑剤を乾燥する工程を含む請求項5に記載の表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項8】
鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材であって,前記リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2であり,リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径が5μm以上40μm以下である表面処理鋼線材を製造する方法であって,
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程,及び
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程,を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項9】
鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材であって,前記リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2であり,リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径が5μm以上40μm以下であって,前記リン酸亜鉛被膜上に,さらに潤滑被膜を有する表面処理鋼線材を製造する方法であって,
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程,
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程,及び
リン酸被膜を形成した後の鋼線材に対して潤滑剤で被覆する潤滑処理工程と,を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項10】
前記デスケーリング工程,表面調整工程及び被膜処理工程を連続的に行う請求項8又は9に記載の表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項11】
前記潤滑剤で被覆する潤滑処理工程を行った後,潤滑剤を乾燥する工程を含む請求項9に記載の表面処理鋼線材の製造方法。

第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件特許の本件訂正前の請求項1〜7に係る特許は,下記(1)〜(4)のとおり,特許法113条2号に該当する。証拠方法は,甲第1号証〜甲第3号証(以下,単に「甲1」等という。下記(5)を参照。)である。
(1)申立理由1−1(新規性
本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の本件訂正前の請求項1〜3に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(2)申立理由1−2(新規性
本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は,甲2に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の本件訂正前の請求項1〜3に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(3)申立理由2−1(進歩性
本件訂正前の請求項1〜7に係る発明は,甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の本件訂正前の請求項1〜7に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(4)申立理由2−2(進歩性
本件訂正前の請求項1〜7に係る発明は,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の本件訂正前の請求項1〜7に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(5)証拠方法
・甲1 特開2000−80497号公報
・甲2 特開2000−160394号公報
・甲3 特開2015−193900号公報

2 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由1(新規性
上記1(2)の申立理由1−2(新規性)と同旨。
(2)取消理由2(進歩性
本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の本件訂正前の請求項1〜3に係る特許は,同法113条2号に該当し,取り消すべきものである。

第5 当審の判断
本件特許の請求項1〜3が本件訂正により削除された結果,同請求項1〜3に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
また,以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項4〜11に係る特許を取り消すことはできない。

1 取消理由1(新規性),申立理由1−2(新規性),取消理由2(進歩性
上記のとおり,本件特許の請求項1〜3が本件訂正により削除された結果,同請求項1〜3に係る特許についての本件特許異議の申立ては却下すべきものであるから,本件訂正前の請求項1〜3に係る発明に対する,取消理由1(新規性),申立理由1−2(新規性),取消理由2(進歩性)については,判断を要しない。
なお,本件訂正前の請求項1〜3が削除された以上,取消理由1(新規性),取消理由2(進歩性)は,解消したともいえる。

2 申立理由1−1(新規性),申立理由2−1(進歩性)(うち,本件訂正前の請求項1〜3に係る発明に対するもの),申立理由2−2(進歩性)(うち,本件訂正前の請求項1〜3に係る発明に対するもの)
上記1と同様の理由により,本件訂正前の請求項1〜3に係る発明に対する,申立理由1−1(新規性),申立理由2−1(進歩性)(うち,本件訂正前の請求項1〜3に係る発明に対するもの),申立理由2−2(進歩性)(うち,本件訂正前の請求項1〜3に係る発明に対するもの)については,判断を要しない。

3 申立理由2−2(進歩性)(うち,本件発明4〜11に対するもの)
(1)甲2に記載された発明
甲2の記載(請求項1,4,【0023】,【0024】,【0028】,【0039】,【0041】,【0044】,【0045】,【0047】〜【0057】,表1)によれば,特に,請求項1,【0039】,【0044】の記載のほか,表1の実施例3,7,比較例5(【0047】〜【0051】)にそれぞれ着目すると,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。
なお,以下の甲2発明3〜5は,それぞれ,実施例3,7,比較例5に対応するものである。

「供試材に形成したりん酸塩皮膜を5%,75℃のクロム酸水溶液を用いて剥離し,剥離前と剥離後の供試材の重量差から算出した皮膜重量が6.5g/m2であり,走査型電子顕微鏡を用いて供試材に形成したりん酸塩皮膜を測定した結晶サイズが5〜10μmである,りん酸塩皮膜を形成した供試材を製造する方法であって,
JISS45Cの5.5mmφの焼鈍した線材である供試材について,ベンディングローラ式のスケールブレーカを通過させ,さらにワイヤブラシによりデスケールを行い,
その後,供試材をpH1.5に調整した塩酸水溶液中で,10A/dm2の電流密度で5秒間陽極電解酸洗し,
酸洗後に,後工程で形成するりん酸塩皮膜の結晶微細化のために慣用されている,プレパレンZ(コロイダルチタンとりん酸のアルカリ金属塩を含有する表面調整液,日本パーカライジング(株)製)の3%浴に供試材を通過させて,表面調整処理し,
その後,りん酸:12g/L,亜鉛:8g/L,硝酸:8g/Lで80℃のりん酸塩処理液A中で,10A/dm2の電流密度で10秒間陰極電解することによりりん酸塩皮膜を形成した後,
スプレー装置を用いて10秒間水洗し,その後150℃の熱風乾燥装置を用いて10秒間乾燥させる,りん酸塩皮膜を形成した供試材を製造する方法。」(以下,「甲2発明3」という。)

「供試材に形成したりん酸塩皮膜を5%,75℃のクロム酸水溶液を用いて剥離し,剥離前と剥離後の供試材の重量差から算出した皮膜重量が5.7g/m2であり,走査型電子顕微鏡を用いて供試材に形成したりん酸塩皮膜を測定した結晶サイズが10〜20μmである,りん酸塩皮膜を形成した供試材を製造する方法であって,
JISS45Cの5.5mmφの焼鈍した線材である供試材について,ベンディングローラ式のスケールブレーカを通過させ,さらにワイヤブラシによりデスケールを行い,
その後,供試材をpH1.5に調整した塩酸水溶液中で,10A/dm2の電流密度で5秒間陽極電解酸洗し,
酸洗後に,後工程で形成するりん酸塩皮膜の結晶微細化のために慣用されている,プレパレンZ(コロイダルチタンとりん酸のアルカリ金属塩を含有する表面調整液,日本パーカライジング(株)製)の3%浴に供試材を通過させて,表面調整処理し,
その後,りん酸:12g/L,亜鉛:8g/L,硝酸:8g/Lで80℃のりん酸塩処理液A中で,2A/dm2の電流密度で60秒間陰極電解することによりりん酸塩皮膜を形成した後,
スプレー装置を用いて10秒間水洗し,その後150℃の熱風乾燥装置を用いて10秒間乾燥させる,りん酸塩皮膜を形成した供試材を製造する方法。」(以下,「甲2発明4」という。)

「供試材に形成したりん酸塩皮膜を5%,75℃のクロム酸水溶液を用いて剥離し,剥離前と剥離後の供試材の重量差から算出した皮膜重量が5.4g/m2であり,走査型電子顕微鏡を用いて供試材に形成したりん酸塩皮膜を測定した結晶サイズが5〜10μmである,りん酸塩皮膜を形成した供試材を製造する方法であって,
JISS45Cの5.5mmφの焼鈍した線材である供試材について,ベンディングローラ式のスケールブレーカを通過させ,さらにワイヤブラシによりデスケールを行い,
その後,供試材を塩酸水溶液へ浸漬酸洗し,
酸洗後に,後工程で形成するりん酸塩皮膜の結晶微細化のために慣用されている,プレパレンZ(コロイダルチタンとりん酸のアルカリ金属塩を含有する表面調整液,日本パーカライジング(株)製)の3%浴に供試材を通過させて,表面調整処理し,
その後,りん酸:12g/L,亜鉛:8g/L,硝酸:8g/Lで80℃のりん酸塩処理液A中で,10A/dm2の電流密度で10秒間陰極電解することによりりん酸塩皮膜を形成した後,
スプレー装置を用いて10秒間水洗し,その後150℃の熱風乾燥装置を用いて10秒間乾燥させる,りん酸塩皮膜を形成した供試材を製造する方法。」(以下,「甲2発明5」という。)

(2)本件発明4について
ア 対比
本件発明4と甲2発明3〜5とを対比する。
(ア)甲2発明3〜5における「JISS45Cの5.5mmφの焼鈍した線材である供試材」は,JISS45Cが鋼であることが当業者にとって明らかであるから,本件発明4における「鋼線材」に相当する。
(イ)甲2発明3〜5においては,所定のデスケールを行った後,所定の条件で陽極電解酸洗又は浸漬酸洗し,さらに所定の条件で表面調整処理した供試材に対して,「りん酸:12g/L,亜鉛:8g/L,硝酸:8g/Lで80℃のりん酸塩処理液A中で」,所定の電流密度で所定の時間,「陰極電解することによりりん酸塩皮膜を形成し」ているが,りん酸と亜鉛を含むりん酸塩処理液Aを用いて,りん酸塩皮膜を形成していることから,技術常識に照らして,供試材の表面に形成されたりん酸塩皮膜は,りん酸亜鉛皮膜と解される。
そうすると,甲2発明3〜5において,供試材の表面にりん酸亜鉛皮膜が形成された供試材は,本件発明4における,「鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材」に相当するといえる。
(ウ)甲2発明3〜5において,「供試材に形成したりん酸塩皮膜を5%,75℃のクロム酸水溶液を用いて剥離し,剥離前と剥離後の供試材の重量差から算出した皮膜重量」が,それぞれ,「6.5g/m2」,「5.7g/m2」,「5.4g/m2」であることは,いずれも,本件発明4において,「リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2」であることに相当する。
(エ)甲2発明3,4における「陽極電解酸洗」と,甲2発明5における「浸漬酸洗」は,甲2の「金属材料をpHが1〜5の酸性液で直流陽極電解処理することで,金属材料表面が酸洗液中に迅速に溶解して表面の金属酸化物やコンタミネーション成分が除去されるとともに,金属材料表面が活性化される。」(【0028】)との記載及び技術常識を踏まえると,いずれも,一種のデスケールと解される。
そうすると,本件発明4における「前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程」と,甲2発明3,4における「供試材について,ベンディングローラ式のスケールブレーカを通過させ,さらにワイヤブラシによりデスケールを行い」,「その後,供試材をpH1.5に調整した塩酸水溶液中で,10A/dm2の電流密度で5秒間陽極電解酸洗し」,甲2発明5における「供試材について,ベンディングローラ式のスケールブレーカを通過させ,さらにワイヤブラシによりデスケールを行い」,「その後,供試材を塩酸水溶液へ浸漬酸洗し」とは,いずれも,「当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程」である限りで共通する。
(オ)本件発明4における「前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程」と,甲2発明3〜5における「酸洗後に,後工程で形成するりん酸塩皮膜の結晶微細化のために慣用されている,プレパレンZ(コロイダルチタンとりん酸のアルカリ金属塩を含有する表面調整液,日本パーカライジング(株)製)の3%浴に供試材を通過させて,表面調整処理し」とは,いずれも,「前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を表面調整剤によって処理する表面調整工程」である限りで共通する。
(カ)本件発明4における「前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程」と,甲2発明3,5における「その後,りん酸:12g/L,亜鉛:8g/L,硝酸:8g/Lで80℃のりん酸塩処理液A中で,10A/dm2の電流密度で10秒間陰極電解することによりりん酸塩皮膜を形成し」,甲2発明4における「その後,りん酸:12g/L,亜鉛:8g/L,硝酸:8g/Lで80℃のりん酸塩処理液A中で,2A/dm2の電流密度で60秒間陰極電解することによりりん酸塩皮膜を形成し」とは,いずれも,「前記表面調整工程を終えた前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程」である限りで共通する。
(キ)以上によれば,本件発明4と甲2発明3〜5とは,
「鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材であって,前記リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2である表面処理鋼線材を製造する方法であって,
当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を表面調整剤によって処理する表面調整工程,及び
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程,を含む表面処理鋼線材の製造方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明4では,「リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径」が「5μm以上70μm以下」であるのに対して,甲2発明3〜5では,「走査型電子顕微鏡を用いて供試材に形成したりん酸塩皮膜を測定した結晶サイズ」が,それぞれ,「5〜10μm」,「10〜20μm」,「5〜10μm」である点。
・相違点2
デスケーリング工程が,本件発明4では,「前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより」行われるのに対して,甲2発明3,4では,「供試材について,ベンディングローラ式のスケールブレーカを通過させ,さらにワイヤブラシによりデスケールを行い」,「その後,供試材をpH1.5に調整した塩酸水溶液中で,10A/dm2の電流密度で5秒間陽極電解酸洗」することにより行われ,甲2発明5では,「供試材について,ベンディングローラ式のスケールブレーカを通過させ,さらにワイヤブラシによりデスケールを行い」,「その後,供試材を塩酸水溶液へ浸漬酸洗」することにより行われる点。
・相違点3
被膜処理工程が,本件発明4では,「前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより」行われるのに対して,甲2発明3,5では,「りん酸:12g/L,亜鉛:8g/L,硝酸:8g/Lで80℃のりん酸塩処理液A中で,10A/dm2の電流密度で10秒間陰極電解することによりりん酸塩皮膜を形成」することにより行われ,甲2発明4では,「りん酸:12g/L,亜鉛:8g/L,硝酸:8g/Lで80℃のりん酸塩処理液A中で,2A/dm2の電流密度で60秒間陰極電解することによりりん酸塩皮膜を形成」することにより行われる点。
・相違点4
表面調整工程が,本件発明4では,「当該表面の反応性を高めるための」表面調整剤によって処理するものであるのに対して,甲2発明3〜5では,「後工程で形成するりん酸塩皮膜の結晶微細化のために慣用されている」,プレパレンZ(コロイダルチタンとりん酸のアルカリ金属塩を含有する表面調整液,日本パーカライジング(株)製)の3%浴に供試材を通過させて行うものである点。

イ 相違点2の検討
事案に鑑み,相違点2について検討する。
(ア)甲2には,鉄系金属材料表面にスラッジの発生量が少なく,密着性・耐食性に優れるりん酸塩皮膜を短時間で形成させる方法を提供することを目的として(【0023】),鋭意検討した結果,鉄系金属材料をpH1〜5の酸性液中で直流陽極電解処理し,次いでりん酸塩処理液中で直流陰極電解処理することで,スラッジの発生量が少なく,密着性・耐食性に優れるりん酸塩皮膜を短時間で形成できることを新たに見出したこと(【0024】,【0025】,請求項1)が記載されている。
(イ)ここで,甲2の実施例3,7にそれぞれ対応する甲2発明3,4では,「供試材について,ベンディングローラ式のスケールブレーカを通過させ,さらにワイヤブラシによりデスケールを行い」,「その後,供試材をpH1.5に調整した塩酸水溶液中で,10A/dm2の電流密度で5秒間陽極電解酸洗」することによりデスケールが行われているところ,当該「陽極電解酸洗」は,上記(ア)の「pH1〜5の酸性液中で直流陽極電解処理」に相当するものと解されるから,甲2の実施例3,7にそれぞれ対応する甲2発明3,4においては,上記「陽極電解酸洗」は,上記(ア)の目的を達成するために必要な処理であるといえる。
そして,甲2には,上記「陽極電解酸洗」によるデスケールに先立ち行われるデスケールについて,「ベンディングローラ,リバースベンディング等のスケールブレーカーを用い,あるいはショットブラスト,エヤブラスト等を行い,あるいは金属ワイヤーブラシ等を用いてスケールを除去する。」(【0041】)ことが記載されるのみであり,本件発明4のような,「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールについては,記載されていない。
以上のとおり,甲2発明3,4においては,上記「陽極電解酸洗」が上記(ア)の目的を達成するために必要な処理であること(すなわち,他の処理に変更した場合,上記(ア)の目的が達成できるかどうか不明であること),また,甲2には,「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールについて記載されていないことを踏まえると,甲2発明3,4において,「ベンディングローラ式のスケールブレーカ」,「ワイヤブラシ」,「陽極電解酸洗」による一連のデスケールに代えて,「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールを採用することは,甲2の記載から動機付けられるとはいえない。
(ウ)一方,甲3には,冷間加工に先立って鋼線材に連続してリン酸塩被膜を形成するに際して,被膜処理の前処理として,鋼線材に対してグリット状の研磨粒子を含むスラリーを噴射するデスケーリング工程を行う,鋼線材の連続表面処理方法(請求項1)が記載されている。
しかしながら,上記(イ)と同様に,甲2発明3,4においては,上記「陽極電解酸洗」が上記(ア)の目的を達成するために必要な処理であることを踏まえると,甲3に「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールについて記載されているとしても,甲2発明3,4において,「ベンディングローラ式のスケールブレーカ」,「ワイヤブラシ」,「陽極電解酸洗」による一連のデスケールに代えて,「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールを採用することは,甲3の記載から動機付けられるとはいえない。
(エ)また,甲2の比較例5に対応する甲2発明5では,「供試材について,ベンディングローラ式のスケールブレーカを通過させ,さらにワイヤブラシによりデスケールを行い」,「その後,供試材を塩酸水溶液へ浸漬酸洗」することによりデスケールが行われているところ,当該「浸漬酸洗」は,甲2の実施例3,7にそれぞれ対応する甲2発明3,4における「陽極電解酸洗」との比較のために採用された「従来慣用の酸洗」(【0044】)であると解されるから,そもそも,このような比較のための上記「浸漬酸洗」を,あえて他の処理に変更することは想定しがたい。
仮に,他の処理に変更できるとしても,甲2の上記(ア)の記載を前提とすれば,上記(ア)の目的を達成するために,上記「陽極電解酸洗」を採用することができるにとどまり,当該「陽極電解酸洗」とは異なる処理,例えば,甲3に記載される「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールを採用することが動機付けられるとはいえない。
そうすると,甲2発明5において,「ベンディングローラ式のスケールブレーカ」,「ワイヤブラシ」,「浸漬酸洗」による一連のデスケールに代えて,「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールを採用することは,甲2,3の記載から動機付けられるとはいえない。
(オ)以上によれば,甲2発明3〜5において,「ベンディングローラ式のスケールブレーカ」,「ワイヤブラシ」,「陽極電解酸洗」又は「浸漬酸洗」による一連のデスケールに代えて,「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールを採用することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ 小括
したがって,相違点1,3及び4について検討するまでもなく,本件発明4は,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明5,8及び9について
本件発明5,8及び9と甲2発明3〜5とを対比すると,上記(2)アと同様に,両者は,少なくとも,相違点2と同様の点で相違するところ,この相違点については,上記(2)イで述べたのと同様の理由により,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,本件発明5,8及び9は,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明6,7,10及び11について
本件発明6,7,10及び11は,本件発明4,5,8又は9を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2),(3)で述べたとおり,本件発明4,5,8及び9が,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明6,7,10及び11についても同様に,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり,本件発明4〜11は,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由2−2(進歩性)(うち,本件発明4〜11に対するもの)によっては,本件特許の請求項4〜11に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由2−1(進歩性)(うち,本件発明4〜11に対するもの)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1〜5,【0006】,【0016】〜【0020】,【0023】〜【0030】,【0045】〜【0059】,表1,図1)によれば,特に,【0016】,【0024】の記載のほか,表1の比較例1,3 (【0045】〜【0050】)にそれぞれ着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
なお,以下の甲1発明1,2は,それぞれ,比較例1,3に対応するものである。

「無水クロム酸5%水溶液を用いて75℃で15分加熱し,線材に形成したりん酸塩皮膜を剥離除去することにより測定したりん酸塩皮膜の重量が5.4g/m2である,りん酸塩皮膜を形成した線材を製造する方法であって,
直径が5.5mmのJIS−SWRH72Aの硬鋼線材を,予めメカニカルデスケーラにより90%以上のスケールを除去し,
濃度が25%の硫酸を電解液として用いて,温度90℃で,0.5A/dm2の電流密度で1秒間陰極電解酸洗し,
酸洗に連続して,りん酸塩皮膜の組織を更に緻密,微細化するために,線材をコロイダルチタンとりん酸のアルカリ金属塩の溶液(プレパレンZ:日本パーカライジング(株)製)である表面調整剤に接触させ,
パルボンド(登録商標)TD−805(日本パーカライジング(株)製のりん酸塩皮膜形成液)を全酸度を90ポイントに調整して電解液とし,線材を陰極にして,温度90℃で,0.5A/dm2の電流密度で20秒間直流電流を流すことにより,りん酸塩皮膜を形成する,りん酸塩皮膜を形成した線材を製造する方法。」(以下,「甲1発明1」という。)

「無水クロム酸5%水溶液を用いて75℃で15分加熱し,線材に形成したりん酸塩皮膜を剥離除去することにより測定したりん酸塩皮膜の重量が6.2g/m2である,りん酸塩皮膜を形成した線材を製造する方法であって,
直径が5.5mmのJIS−SWRH72Aの硬鋼線材を,予めメカニカルデスケーラにより90%以上のスケールを除去し,
濃度が25%の硫酸である電解液に電解しないで温度70℃で5秒間浸漬酸洗し,
酸洗に連続して,りん酸塩皮膜の組織を更に緻密,微細化するために,線材をコロイダルチタンとりん酸のアルカリ金属塩の溶液(プレパレンZ:日本パーカライジング(株)製)である表面調整剤に接触させ,
パルボンド(登録商標)TD−805(日本パーカライジング(株)製のりん酸塩皮膜形成液)を全酸度を90ポイントに調整して電解液とし,電流を流さないで,この電解液中に温度70℃で5秒間浸漬することにより,りん酸塩皮膜を形成する,りん酸塩皮膜を形成した線材を製造する方法。」(以下,「甲1発明2」という。)

(2)本件発明4について
ア 対比
本件発明4と甲1発明1,2とを対比する。
(ア)甲1発明1,2における「直径が5.5mmのJIS−SWRH72Aの硬鋼線材」である「線材」は,本件発明4における「鋼線材」に相当する。
(イ)本件発明4における,鋼線材の「表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材」と,甲1発明1,2における「りん酸塩皮膜を形成した線材」である「直径が5.5mmのJIS−SWRH72Aの硬鋼線材」(「りん酸塩皮膜」が「りん酸亜鉛皮膜」かどうか不明。以下同様。)とは,いずれも,「表面にリン酸塩被膜を有する表面処理鋼線材」である限りで共通する。
(ウ)本件発明4において,「リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2」であることと,甲1発明1,2において,「無水クロム酸5%水溶液を用いて75℃で15分加熱し,線材に形成したりん酸塩皮膜を剥離除去することにより測定したりん酸塩皮膜の重量」が,それぞれ,「5.4g/m2」,「6.2g/m2」であることは,いずれも,「リン酸塩被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2」である限りで共通する。
(エ)甲1発明1における「陰極電解酸洗」と,甲1発明2における「浸漬酸洗」は,甲1の「本発明では前工程が陰極電解酸洗であるが,陰極電解酸洗では鋼線材の表面にはスマットはなく,水素ガスによる物理的な洗浄と水素イオンによる化学的な洗浄をうける。」(【0030】)との記載及び技術常識を踏まえると,いずれも,一種のデスケールと解される。
そうすると,本件発明4における「前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより,当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程」と,甲1発明1における「直径が5.5mmのJIS−SWRH72Aの硬鋼線材を,予めメカニカルデスケーラにより90%以上のスケールを除去し」,「濃度が25%の硫酸を電解液として用いて,温度90℃で,0.5A/dm2の電流密度で1秒間陰極電解酸洗し」,甲1発明2における「直径が5.5mmのJIS−SWRH72Aの硬鋼線材を,予めメカニカルデスケーラにより90%以上のスケールを除去し」,「濃度が25%の硫酸である電解液に電解しないで温度70℃で5秒間浸漬酸洗し」とは,いずれも,「当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程」である限りで共通する。
(オ)本件発明4における「前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を,当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程」と,甲1発明1,2における「酸洗に連続して,りん酸塩皮膜の組織を更に緻密,微細化するために,線材をコロイダルチタンとりん酸のアルカリ金属塩の溶液(プレパレンZ:日本パーカライジング(株)製)である表面調整剤に接触させ」とは,いずれも,「前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を表面調整剤によって処理する表面調整工程」である限りで共通する。
(カ)本件発明4における「前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程」と,甲1発明1における「パルボンド(登録商標)TD−805(日本パーカライジング(株)製のりん酸塩皮膜形成液)を全酸度を90ポイントに調整して電解液とし,線材を陰極にして,温度90℃で,0.5A/dm2の電流密度で20秒間直流電流を流すことにより,りん酸塩皮膜を形成する」とは,いずれも,「前記表面調整工程を終えた前記鋼線材の表面にリン酸塩被膜を形成する被膜処理工程」である限りで共通する。
また,本件発明4における「前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程」と,甲1発明2における「パルボンド(登録商標)TD−805(日本パーカライジング(株)製のりん酸塩皮膜形成液)を全酸度を90ポイントに調整して電解液とし,電流を流さないで,この電解液中に温度70℃で5秒間浸漬することにより,りん酸塩皮膜を形成する」とは,いずれも,「前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸塩含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸塩被膜を形成する被膜処理工程」である限りで共通する。
(キ)以上によれば,本件発明4と甲1発明1とは,
「鋼線材の表面にリン酸塩被膜を有する表面処理鋼線材であって,前記リン酸塩被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2である表面処理鋼線材を製造する方法であって,
当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を表面調整剤によって処理する表面調整工程,及び
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材の表面にリン酸塩被膜を形成する被膜処理工程,を含む表面処理鋼線材の製造方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点5
本件発明4では,リン酸塩被膜が「リン酸亜鉛被膜」であり,「リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径」が「5μm以上70μm以下」であるのに対して,甲1発明1では,りん酸塩皮膜が「リン酸亜鉛被膜」であるかどうか不明であり,「リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径」が「5μm以上70μm以下」であるかどうかも不明である点。
(なお,甲1における,りん酸塩皮膜の「結晶サイズ(μm)」(【0050】,表1)については,「伸線前」のもの(本件発明4に相当)であるのか,「伸線後」のものであるのか,不明である。仮に,「伸線後」のものとすると,伸線によって上記「結晶サイズ(μm)」が変化しないかどうかは不明であるから,「伸線前」の上記「結晶サイズ(μm)」は不明である。以下同様。)
・相違点6
デスケーリング工程が,本件発明4では,「前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより」行われるのに対して,甲1発明1では,「直径が5.5mmのJIS−SWRH72Aの硬鋼線材を,予めメカニカルデスケーラにより90%以上のスケールを除去し」,「濃度が25%の硫酸を電解液として用いて,温度90℃で,0.5A/dm2の電流密度で1秒間陰極電解酸洗」することにより行われる点。
・相違点7
表面調整工程を終えた鋼線材の表面にリン酸塩被膜を形成する被膜処理工程が,本件発明4では,「前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する」ものであるのに対して,甲1発明1では,「パルボンド(登録商標)TD−805(日本パーカライジング(株)製のりん酸塩皮膜形成液)を全酸度を90ポイントに調整して電解液とし,線材を陰極にして,温度90℃で,0.5A/dm2の電流密度で20秒間直流電流を流すことにより,りん酸塩皮膜を形成する」ものである点。
・相違点8
表面調整工程が,本件発明4では,「当該表面の反応性を高めるための」表面調整剤によって処理するものであるのに対して,甲1発明1では,「りん酸塩皮膜の組織を更に緻密,微細化するために」,線材をコロイダルチタンとりん酸のアルカリ金属塩の溶液(プレパレンZ:日本パーカライジング(株)製)である表面調整剤に接触させるものである点。
(ク)また,本件発明4と甲1発明2とは,
「鋼線材の表面にリン酸塩被膜を有する表面処理鋼線材であって,前記リン酸塩被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2である表面処理鋼線材を製造する方法であって,
当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程,
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を表面調整剤によって処理する表面調整工程,及び
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸塩含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸塩被膜を形成する被膜処理工程,を含む表面処理鋼線材の製造方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点5’
本件発明4では,リン酸塩被膜が「リン酸亜鉛被膜」であり,「リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径」が「5μm以上70μm以下」であるのに対して,甲1発明2では,りん酸塩皮膜が「リン酸亜鉛被膜」であるかどうか不明であり,「リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径」が「5μm以上70μm以下」であるかどうかも不明である点。
・相違点6’
デスケーリング工程が,本件発明4では,「前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより」行われるのに対して,甲1発明2では,「直径が5.5mmのJIS−SWRH72Aの硬鋼線材を,予めメカニカルデスケーラにより90%以上のスケールを除去し」,「濃度が25%の硫酸である電解液に電解しないで温度70℃で5秒間浸漬酸洗」することにより行われる点。
・相違点8’
表面調整工程が,本件発明4では,「当該表面の反応性を高めるための」表面調整剤によって処理するものであるのに対して,甲1発明2では,「りん酸塩皮膜の組織を更に緻密,微細化するために」,線材をコロイダルチタンとりん酸のアルカリ金属塩の溶液(プレパレンZ:日本パーカライジング(株)製)である表面調整剤に接触させるものである点。

イ 相違点6,6’の検討
事案に鑑み,相違点6,6’について検討する。
(ア)甲1には,鋼線材に,潤滑下地としての性能が従来よりも優れたりん酸塩皮膜を,従来よりも迅速に,スラッジを全く発生させないで,形成する方法の提供を課題とすること(【0006】)が記載されている。
また,甲1には,従来の塩酸,硫酸等の酸洗では,線材の表面にスマットが多く生成されるが,陰極電解酸洗では,スマットが全く生成されず,短時間で線材表面が清浄化できることから(【0016】),りん酸塩皮膜を形成する工程の前に,必須の工程として,鋼線材を陰極にして電解を行なうこと(【0018】)が記載されている。
さらに,甲1には,りん酸塩皮膜を形成する工程の前に,鋼線材に陽極酸洗や通常の酸洗を施す従来の方法では,後のりん酸塩皮膜を形成する工程において,スラッジの発生量が多く,後工程で形成されたりん酸塩皮膜は,潤滑下地としての性能が不十分となるが(【0019】),鋼線材を陰極にして酸洗を行う陰極電解酸洗を行った鋼線材は,後のりん酸塩皮膜を形成する工程においてスラッジが発生せず,また,陰極電解酸洗を行うと,線材表面にスマットが全く発生しないので,りん酸塩皮膜の密着性が良くなり,潤滑下地としての性能が顕著に向上すること(【0020】)が記載されている。
甲1の上記記載によれば,甲1に記載された発明(請求項1〜5)においては,上記「陰極電解酸洗」は,上記の課題を解決するために必須の処理であるといえる。また,甲1には,上記「陰極電解酸洗」の条件の一つとして,電流密度を「1A/dm2〜100A/dm2」とすること(請求項4,【0022】)が記載されている。
(イ)ここで,甲1の比較例1に対応する甲1発明1では,「直径が5.5mmのJIS−SWRH72Aの硬鋼線材を,予めメカニカルデスケーラにより90%以上のスケールを除去し」,「濃度が25%の硫酸を電解液として用いて,温度90℃で,0.5A/dm2の電流密度で1秒間陰極電解酸洗」することによりデスケール行われているところ,当該「0.5A/dm2」の電流密度での「陰極電解酸洗」(電流密度が過小であるため,比較例とされている。【0055】)は,甲1に記載された発明(請求項1〜5)を具体的に実施した実施例1〜14における,「1A/dm2〜100A/dm2」の電流密度での「陰極電解酸洗」との比較のために採用されたものと解されるから,そもそも,このような比較のための上記「0.5A/dm2」の電流密度での「陰極電解酸洗」を,あえて他の処理に変更することは想定しがたい。
仮に,他の処理に変更できるとしても,甲1の上記(ア)の記載を前提とすれば,上記(ア)の課題を解決するために,上記「1A/dm2〜100A/dm2」の電流密度での「陰極電解酸洗」を採用することができるにとどまり,当該「1A/dm2〜100A/dm2」の電流密度での「陰極電解酸洗」とは異なる処理,例えば,甲3に記載される「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールを採用することが動機付けられるとはいえない。
また,甲1には,上記「陰極電解酸洗」によるデスケールの前処理として,ベンデング法,ショットブラスト法,エヤブラスト法等のメカニカルデスケーリングが施されること(請求項3,【0023】)が記載されるのみであり,本件発明4のような,「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールについては,記載されていない。
そうすると,甲1発明1において,「メカニカルデスケーラ」,「陰極電解酸洗」による一連のデスケールに代えて,「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールを採用することは,甲1,3の記載から動機付けられるとはいえない。
(ウ)また,甲1の比較例3に対応する甲1発明2では,「直径が5.5mmのJIS−SWRH72Aの硬鋼線材を,予めメカニカルデスケーラにより90%以上のスケールを除去し」,「濃度が25%の硫酸である電解液に電解しないで温度70℃で5秒間浸漬酸洗」することによりデスケールが行われているところ,当該「浸漬酸洗」は,甲1に記載された発明(請求項1〜5)を具体的に実施した実施例1〜14における「陰極電解酸洗」との比較のために採用されたものと解されるから,そもそも,このような比較のための上記「浸漬酸洗」を,あえて他の処理に変更することは想定しがたい。
仮に,他の処理に変更できるとしても,甲1の上記(ア)の記載を前提とすれば,上記(ア)の課題を解決するために,上記「陰極電解酸洗」を採用することができるにとどまり,当該「陰極電解酸洗」とは異なる処理,例えば,甲3に記載される「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールを採用することが動機付けられるとはいえない。
そうすると,甲1発明2において,「メカニカルデスケーラ」,「浸漬酸洗」による一連のデスケールに代えて,「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールを採用することは,甲1,3の記載から動機付けられるとはいえない。
(エ)以上によれば,甲1発明1,2において,「メカニカルデスケーラ」,「陰極電解酸洗」又は「浸漬酸洗」による一連のデスケールに代えて,「研磨粒子を含むスラリーを噴射する」ことによるデスケールを採用することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ 小括
したがって,相違点5,5’,7,8及び8’について検討するまでもなく,本件発明4は,甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明5,8及び9について
本件発明5,8及び9と甲1発明1,2とを対比すると,上記(2)アと同様に,両者は,少なくとも,相違点6,6’と同様の点で相違するところ,この相違点については,上記(2)イで述べたのと同様の理由により,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,本件発明5,8及び9は,甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明6,7,10及び11について
本件発明6,7,10及び11は,本件発明4,5,8又は9を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2),(3)で述べたとおり,本件発明4,5,8及び9が,甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明6,7,10及び11についても同様に,甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり,本件発明4〜11は,甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由2−1(進歩性)(うち,本件発明4〜11に対するもの)によっては,本件特許の請求項4〜11に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり,本件特許の請求項1〜3が本件訂正により削除された結果,同請求項1〜3に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
また,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項4〜11に係る特許を取り消すことはできない。
さらに,他に本件特許の請求項4〜11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材であって、前記リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2であり、リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径が5μm以上70μm以下である表面処理鋼線材を製造する方法であって、
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより、当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程、
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を、当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程、及び
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程、を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項5】
鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材であって、前記リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2であり、リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径が5μm以上70μm以下であって、前記リン酸亜鉛被膜上に、さらに潤滑被膜を有する表面処理鋼線材を製造する方法であって、
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより、当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程、
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を、当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程、
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程、及び
リン酸被膜を形成した後の鋼線材に対して潤滑剤で被覆する潤滑処理工程と、を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項6】
前記デスケーリング工程、表面調整工程及び被膜処理工程を連続的に行う請求項4又は5に記載の表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項7】
前記潤滑剤で被覆する潤滑処理工程を行った後、潤滑剤を乾燥する工程を含む請求項5に記載の表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項8】
鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材であって、前記リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2であり、リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径が5μm以上40μm以下である表面処理鋼線材を製造する方法であって、
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより、当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程、
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を、当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程、及び
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程、を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項9】
鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を有する表面処理鋼線材であって、前記リン酸亜鉛被膜の付着量が4.0〜7.0g/m2であり、リン酸亜鉛被膜中のリン酸亜鉛の平均結晶粒径が5μm以上40μm以下であって、前記リン酸亜鉛被膜上に、さらに潤滑被膜を有する表面処理鋼線材を製造する方法であって、
前記鋼線材の表面に対して研磨粒子を含むスラリーを噴射することにより、当該鋼線材の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程、
前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材の表面を、当該表面の反応性を高めるための表面調整剤によって処理する表面調整工程、
前記表面調整工程を終えた前記鋼線材をリン酸亜鉛含有溶液に浸漬することにより前記鋼線材の表面にリン酸亜鉛被膜を形成する被膜処理工程、及び
リン酸被膜を形成した後の鋼線材に対して潤滑剤で被覆する潤滑処理工程と、を含むことを特徴とする表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項10】
前記デスケーリング工程、表面調整工程及び被膜処理工程を連続的に行う請求項8又は9に記載の表面処理鋼線材の製造方法。
【請求項11】
前記潤滑剤で被覆する潤滑処理工程を行った後、潤滑剤を乾燥する工程を含む請求項9に記載の表面処理鋼線材の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-04-04 
出願番号 P2016-163466
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C23C)
P 1 651・ 121- YAA (C23C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 井上 猛
土屋 知久
登録日 2021-02-15 
登録番号 6837779
権利者 株式会社神戸製鋼所
発明の名称 表面処理鋼線材及びその製造方法  
代理人 宇佐美 綾  
代理人 小谷 悦司  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 宇佐美 綾  
代理人 小谷 悦司  
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