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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1386159
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-20 
確定日 2022-07-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6890724号発明「放射冷却装置及び放射冷却方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6890724号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6890724号の請求項1〜5に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2020−521623号)は、2020年(令和2年)3月9日(先の出願に基づく優先権主張 2019年(令和元年)9月13日 2019年(平成31年)3月27日)を国際出願日とする出願であって、令和3年5月27日にその特許権の設定の登録がされ、令和3年6月18日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議申立ての経緯は、以下のとおりである。
令和3年12月20日 :特許異議申立人 平山 一幸による請求項1〜5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年 3月 2日付け:取消理由通知書
令和4年 4月28日付け:意見書(特許権者)

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜請求項5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明5」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜請求項5に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。

「【請求項1】
放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが設けられた放射冷却装置であって、
前記赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整された樹脂材料層であり、
前記樹脂材料層が無機材料を含まず、前記樹脂材料層を形成する樹脂材料が、塩化ビニル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂であり、
前記樹脂材料層を形成する塩化ビニル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂の厚みが、100μm以下で10μm以上であり、
前記光反射層が、銀または銀合金で構成され、その厚みが50nm以上である、又は、銀または銀合金とアルミまたはアルミ合金の積層構造である放射冷却装置。
【請求項2】
前記光反射層は、波長0.4μmから0.5μmの反射率が90%以上、波長500nmより長波の反射率が96%以上である請求項1に記載の放射冷却装置。
【請求項3】
前記樹脂材料層の膜厚が、
波長0.4μmから0.5μmの光吸収率の波長平均が13%以下であり、波長0.5μmから波長0.8μmの光吸収率の波長平均が4%以下であり、波長0.8μmから波長1.5μmまでの光吸収率の波長平均が1%以内であり、1.5μmから2.5μmまでの光吸収率の波長平均が40%以下となる光吸収特性を備え、且つ、
8μmから14μmの輻射率の波長平均が40%以上となる熱輻射特性を備える状態の厚みに調整されている請求項1又は2に記載の放射冷却装置。
【請求項4】
前記樹脂材料層と前記光反射層とを備える状態においてフィルム状である請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射冷却装置を用いて、前記赤外光を前記樹脂材料層の前記光反射層と接する面とは反対側の前記放射面から放射する放射冷却方法であって 、
前記放射面を空に向け、当該放射面から前記赤外光を放射する放射冷却方法。」

第3 取消理由の概要
本件特許の請求項1〜請求項5に係る特許に対して、当合議体が令和4年3月2日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

●理由1(進歩性
本件特許の請求項1〜5に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条2項の規定に違反してされたものである。
(引用例一覧)
引用例1:特表2018−526599号公報(甲第1号証)
引用例2:中国特許出願公開第107883493号明細書(甲第2号証)
引用例3:稲田勝美,「農業用透明プラスチックフィルムの分光透過性」、生物環境調節,8巻,2号,1971年3月,111−118頁,[online],令和4年1月7日検索, インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/ecb1963/8/2/8_2_111/_pdf/-char/en>(甲第3号証)
引用例4:特開昭61−95301号公報(甲第4号証)
引用例5:C. G. Granqvist et. al., Radiative cooling to low temperatures: General considerations and application to selectively emitting SiO films, Journal of Applied Physics, Vol.52, No.6,June 1981,p.4205-4220, (Published Online:)14 August 1998, [online], 令和4年2月17日検索, インターネット<URL: https://aip.scitation.org/doi/pdf/10.1063/1.329270>
引用例6:Bin Zhao et. al., Radiative cooling: A review of fundamentals, materials, applications, and prospects, Applied Energy, Vol.236, 15 Feb 2019, p.489?513, (Available online )10 December 2018, [online], 令和4年2月17日検索, インターネット<URL: https://reader.elsevier.com/reader/sd/pii/S0306261918318373?token=FA42A3E08A938B32EC6E9B6B1525C0240236808548B431FEA42CFEF7DB7D006858131A3E0DD1DE6598142DC5E890038B&originRegion=us-east-1&originCreation=20220216102043>
引用例7:A. Aili et.al, Selection of polymers with functional groups for daytime radiative cooling, Materials Today Physics, Vol.10, August 2019, 100127, p.1-5(あるいは、A. Aili et.al, Selection of polymers with functional groups for daytime radiative cooling, Materials Today Physics, Vol.10, August 2019, 100127, p.1-5,(Available online) 17 July 2019, [online], 令和4年2月17日検索, インターネット<URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2542529319301075>)

第4 理由1(進歩性)についての当合議体の判断
1 優先権の主張の効果について
本件特許1のうち、「樹脂材料層を形成する樹脂材料」を「塩化ビニル樹脂」とする発明については、優先権主張の基礎とされた先の出願(以下「第二の出願」という。その前になされた出願(以下「第一の出願」という。)出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されているが、「樹脂材料層を形成する樹脂材料」を「塩化ビニリデン樹脂」とする発明については、当該第一の出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていない。
そうすると、本件特許発明1のうち、「前記樹脂材料層を形成する樹脂材料」を「塩化ビニリデン樹脂」とする発明については、第一の出願に基づく優先権の主張の効果は認められず、当該発明の新規性進歩性等の判断のための基準日は、第二の出願の出願日である2019年9月13日となる。本件特許発明2〜5についても同様である。

2 引用例1の記載
令和4年3月2日付けで特許権者に通知した取消理由で引用された引用例1(特表2018−526599号公報(甲第1号証))は、第一の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。以下、同じ。

(1) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射冷却用のシステムであって、
1または2以上のポリマーを有する上部層であって、熱スペクトルの少なくとも一部において、高い放射率を有し、電磁減衰係数が近似的にゼロであり、吸収率が近似的にゼロであり、太陽スペクトルの少なくとも一部において高い透過率を有する、上部層と、
前記上部層の下側に配置された反射層であって、1または2以上の金属を有し、前記太陽スペクトルの少なくとも一部において、高い反射率を有する、反射層と、
を有する、システム。
・・・略・・・
【請求項5】
前記上部層は、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(アクリル酸)、およびポリ(メチルメタクリレート)の1または2以上を有する、請求項1乃至4のいずれか一つに記載のシステム。
・・・略・・・
【請求項7】
当該システムは、昼間受動放射冷却に使用できる、請求項1乃至6のいずれか一つに記載のシステム。
【請求項8】
前記反射層は、
金属を含み、約0.8よりも大きな反射率を有し、前記太陽スペクトルの第1の波長範囲において第1の電磁浸透深さを有し、前記太陽スペクトルの第2の波長範囲において第2の電磁浸透深さを有する上部層であって、前記第2の電磁浸透深さは、前記第1の電磁浸透深さよりも大きく、前記第1および第2の波長範囲は異なる、上部層と、
金属を含み、前記第1の波長範囲において前記上部層よりも低い反射率を有し、前記第2の波長範囲において前記上部層よりも高い反射率を有する下部層と、
を有し、
前記上部層は、前記第1の浸透深さよりも近似的に大きく、または同等の厚さを有し、前記第2の浸透深さよりも小さな厚さを有する、請求項1乃至7のいずれか一つに記載のシステム。
【請求項9】
前記第1の波長範囲における前記反射層の反射率は、前記第1の波長範囲における前記下部層の反射率よりも大きく、前記第2の波長範囲における前記反射層の反射率は、前記第2の波長範囲における前記上部層の反射率よりも大きい、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記上部層は、銀を含み、および/または前記下部層は、アルミニウムを含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記上部層の厚さは、約5nmから約50nmである、請求項8に記載のシステム。
・・・略・・・
【請求項39】
さらに、基板を有する、請求項1乃至38のいずれか一つに記載のシステム。
・・・略・・・
【請求項41】
前記上部層は、約5μmから約500μmの厚さを有する、請求項1乃至40のいずれか一つに記載のシステム。
【請求項42】
放射冷却の方法であって、
1または2以上のポリマー、および必要に応じて、さらに1または2以上の種類のナノ粒子を有する、上部層を提供するステップであって、前記上部層は、熱スペクトルの少なくとも一部において高い放射率を有し、電磁減衰係数が近似的にゼロであり、吸収率が近似的にゼロであり、太陽スペクトルの少なくとも一部において、高い透過率を有する、ステップと、
前記上部層の下側に設置された、1または2以上の金属を含む反射層を提供するステップであって、前記反射層は、前記太陽スペクトルの少なくとも一部において、高い反射率を有する、ステップと、
を有する、方法。」

(2) 「【0003】
本発明は、放射冷却および加熱用のシステムならびに方法に関する。
【背景技術】
【0004】
表面は、電磁放射線を介して熱エネルギーを吸収し、放射することができる。表面の光学特性は、ある程度、表面の形状および材料に依存し得る。放射熱伝達の間、本体の温度は、表面に吸収された正味の電磁放射線に応じて上昇し、または下降する。例えば、表面が放射する以上の放射線を吸収すると、本体の温度は上昇する。一方、表面がより多くの放射線を放射すると、本体の温度は低下する。
【0005】
熱放射線は、受動放射冷却および加熱、すなわちエネルギーの入力を必要としない放射冷却および加熱に使用することができる。従って、受動放射冷却および加熱を使用して、本体の冷却または加熱に必要なエネルギー量を抑制することができる。放射冷却および加熱を用いて、例えば、商業ビル、居住ビルおよび車両に関するエネルギーコストを抑制することができる。
【0006】
受動放射冷却のある方法は、表面コーティングを使用する。この表面コーティングをビルに適用して、入射太陽放射線の反射率を高めたり、環境の赤外透過窓に対応する限られた空間範囲において、放射率を高めたりすることができる。他の技術では、複雑な多層化構造が利用され、これにより、昼間の放射冷却のため、太陽放射線が反射され、熱放射線が放射される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、放射冷却および加熱の技術向上がいまだ要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、放射冷却および加熱用のシステムならびに方法が提供される。一実施形態では、放射冷却用のシステムは、1または2以上のポリマーを有する上部層であって、該上部層は、熱スペクトルの少なくとも一部において、高い放射率を有し、電磁減衰係数が近似的にゼロであり、吸収率が近似的にゼロであり、太陽スペクトルの少なくとも一部において高い透過率を有する、上部層と、前記上部層の下側に配置された反射層であって、1または2以上の金属を有し、前記太陽スペクトルの少なくとも一部において、高い反射率を有する、反射層と、を有する。
【0009】
・・・略・・・前記1または2以上のポリマーは、質量比で設計され、前記質量比は、前記熱スペクトルの少なくとも一部において、前記上部層が均一で高い放射率を有するように選択されても良い。・・・略・・・前記上部層は、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(アクリル酸)、およびポリ(メチルメタクリレート)の1または2以上を有しても良い。
【0010】
・・・略・・・ある実施形態では、当該システムは、昼間受動放射冷却に使用し得る。
【0011】
ある実施形態では、前記反射層は、上部層を有し、該上部層は、金属を含み、約0.8よりも大きな反射率を有し、前記太陽スペクトルの第1の波長範囲において第1の電磁浸透深さを有し、前記太陽スペクトルの第2の波長範囲において第2の電磁浸透深さを有し、前記第2の電磁浸透深さは、前記第1の電磁浸透深さよりも大きい。前記反射層は、さらに、下部層を有し、該下部層は、金属を含み、前記第1の波長範囲において前記上部層よりも低い反射率を有し、前記第2の波長範囲において前記上部層よりも高い反射率を有する。第1の波長範囲は、第2の波長範囲と異なっても良い。前記上部層は、前記第1の浸透深さよりも近似的に大きく、または同等の厚さを有し、前記第2の浸透深さよりも小さな厚さを有しても良い。
【0012】
ある実施形態では、前記第1の波長範囲における前記反射層の反射率は、前記第1の波長範囲における前記下部層の反射率よりも大きく、前記第2の波長範囲における前記反射層の反射率は、前記第2の波長範囲における前記上部層の反射率よりも大きい。前記上部層は、銀を含み、および/または前記下部層は、アルミニウムを含んでも良い。前記上部層の厚さは、約5nmから約50nmであっても良い。
・・・略・・・
【0023】
本発明によるシステムは、さらに、基板を有しても良い。・・・略・・・ある実施形態では、前記上部層は、約5μmから約500μmの厚さを有する。
・・・略・・・
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による放射冷却用のシステムの、シミュレーションされた吸収スペクトルを示した図である。
【図2】本発明による放射冷却用のシステムの反射率および放射率(すなわち1−反射率)のスペクトルの例を示した図である。
【図3】本発明の一実施形態による放射冷却用のシステムの概略的な構成を示した図である。
【図4】本発明による放射冷却用のシステムの反射層に使用され得る各種金属のシミュレーションされた反射スペクトルを示した図である。
【図5】本発明による放射冷却用のシステムのポリマー層に使用される、2種類の異なるポリマー、およびこれらのポリマーの組み合わせの測定放射スペクトルを示した図である。
・・・略・・・
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明では、放射冷却および加熱用のシステムならびに方法が提供される。
【0030】
ある実施形態では、システムは、太陽スペクトルにおいて低い吸収率を有し、熱スペクトルにおいて高い放射率を有する。・・・略・・・
【0031】
従って、本発明によるシステムは、放射冷却および放射加熱の双方における、広い用途に使用することができる。システムの放射特性(例えば吸収率、放射率、反射率、および透過率)は、ある程度、システムの材料および形状に依存する。従って、材料および形状は、意図した用途における所望の放射プロファイルに基づいて選択され得る。
【0032】
本願において使用される、「太陽スペクトル」と言う用語は、紫外、可視、および近赤外のスペクトルを網羅する電磁放射線波長を表し、太陽の電磁放射線は、大気を通過して、地上表面に到達する。従って、太陽スペクトルは、約350nmから約2.5μmまでの波長を有する電磁放射線を含む。「太陽放射線」、「太陽波長」および「太陽光」という用語は、「太陽スペクトル」と相互互換可能に使用され得る。
【0033】
「熱スペクトル」と言う用語は、中間赤外スペクトルを網羅する電磁放射線波長の範囲を表す。地上表面温度に対して数百℃ またはそれ以下の対象物は、熱スペクトルにおける放射線を放射する。従って、熱スペクトルは、約2.5μ mから約30μmまでの波長を有する電磁放射線を含む。「熱放射線」という用語は、「熱スペクトル」と相互互換可能に使用され得る。
【0034】
本願に使用される「約」または「近似的に」という用語は、当業者によって定められる特定の値が、許容可能な誤差範囲内にあることを意味する。これは、部分的に、値の測定方法または算定方法に依存し、すなわち測定系の限界に依存する。例えば、「約」は、所与の値の最大20%、最大10%、最大5%、または最大1%の範囲を意味し得る。
【0035】
本願において、材料または構造に関して使用される「吸収率」または「吸収」という用語は、電磁放射線の形態におけるエネルギー吸収の効率である。完全な黒体の吸収体は、吸収率が1と定められる。吸収率は、波長の関数である。本願において、ある波長範囲内の材料または構造の特性を表す際に使用される「高吸収(率)」という用語は、材料または構造が、前記波長範囲において、約0.9よりも大きな吸収率を有することを意味する。
【0036】
本願において、材料または構造に関して使用される「放射率」または「放射(性)」と言う用語は、電磁放射線の形態におけるエネルギー放射の効率である。完全な黒体の放出体(エミッタ)は、放射率が1と定められ、完全な非放出体は、放射率がゼロと定められる。放射率は、波長の関数である。本願において、ある波長範囲内の材料または構造の特性を表す際に使用される「高放射(率)」という用語は、材料または構造が、前記波長範囲において、約0.9よりも大きな放射率を有することを意味する。本願において、ある波長範囲内の材料または構造の特性を表す際に使用される「均一放射」という用語は、前記波長範囲内の材料または構造の放射率が、最大でも前記範囲内の最大放射率の10%しか変化しないことを意味する。
【0037】
本願において、材料または構造に関して使用される「反射率」または「反射(性)」と言う用語は、表面で反射される任意の入射電磁放射線の割合である。完全な反射体は、反射率が1(および放射率はゼロ)と定められ、完全な吸収体は、反射率がゼロ(および放射率が1)と定められる。反射率は、波長の関数であるとともに、表面に対する反射角度の関数である。本願において、ある波長範囲内の材料または構造の特性を表す際に使用される「高反射(率)」という用語は、前記範囲において、材料または構造の反射率が約0.9よりも大きいことを意味する。本願において、ある波長範囲内での材料または構造の特性を表す際に使用される「均一反射」という用語は、前記範囲内での材料または構造の反射率が、前記範囲における最大反射率の最大10%しか変化しないことを意味する。
【0038】
本願において、材料または構造に関して使用される「透過(率)」と言う用語は、材料または構造を透過する任意の入射電磁放射線の割合である。不透明な材料または構造は、透過率がゼロと定められる。本願において、ある波長範囲内の材料または構造の特性を表す際に使用される「高透過(率)」という用語は、材料または構造が、前記波長範囲において、約0.9よりも大きな透過率を有することを意味する。
【0039】
熱放射線のキルヒホッフの法則により、吸収率は、放射率と等しい。また、任意の材料または構造において、放射率(ε)、透過率(τ)、および反射率(R)は、ε+τ+R=1の式で相関する。従って、材料が十分に不透明な場合、光は、無視できる量しかそこを透過せず(すなわちτは近似的にゼロ)、式は、ε+R=1と簡略化できる。
【0040】
本願において「大気透過窓」とも称される、大気の赤外透過性窓は、電磁スペクトル内の波長範囲であり、この範囲を超えて、大気は、地表からその厚さを介して外側空間まで移動する、80%以上の放射線を透過する。従って、大気透過窓は、約8μmから約13.5μmの波長を有する電磁放射線を含む。
【0041】
本願において、対象物または構造に関して使用される「受動放射冷却」と言う用語は、電磁放射線の固有放射による熱の損失を表す。この過程自身には、追加のエネルギーが必要となる。例えば、熱損失は、熱放射線の形態で生じ得る。「昼間受動放射冷却」と言う用語は、放射線の正味の損失による、太陽の下での対象物の正味の受動冷却を表す。昼間受動放射線冷却は、対象物が、高い太陽放射線反射および高い熱放射線放射を示す際に生じ得る。
【0042】
スペクトルの複素屈折率は、屈折率n(λ)および減衰係数κ(λ)に基づき、すなわちスペクトルの複素屈折率は、n(λ)+iκ(λ)である。屈折率は、波長(λ)のどれだけの光が、ある材料と別の材料の間の界面で反射されたかを定め、減衰係数は、どの程度強く、材料がその波長の光を吸収しまたは放射したかを定める。
・・・略・・・
【0044】
材料の「電磁浸透深さ」または「浸透深さ」は、電磁放射線の強度がeだけ低下する前に、電磁放射線が材料内を移動した距離である。浸透深さは、波長および材料特性の関数である。
【0045】
本願の一実施形態では、受動放射冷却用のシステムは、太陽スペクトルにおいて低い吸収率を有し、熱スペクトルにおいて高い放射率を有する。例えば、システムは、大気の赤外透過窓の少なくとも一部において高い放射率を有し、外側空間は、放射される放射線の熱シンクとして機能できる。これにより、地球の比較的温かい大気がバイパスできる。一例として、図1には、そのようなシステムの吸収スペクトルの例を示す。図1に示すように、システムは、太陽スペクトル、すなわち約350nmから約2.5μmにおいて、低い吸収を示す。
【0046】
システムは、太陽スペクトルにおける低い吸収と、熱スペクトルにおける高い放射に加えて、太陽スペクトルにおいて、高い反射を示しても良い。例えば、そのような高反射率は、システムの上部層、および/または下地の反射層から得られる。従って、システムは、熱放射線として、熱を効率的に逸散することができるとともに、任意の入射太陽光を反射することができる。そのようなシステムは、例えば、受動放射冷却に使用することができる。一例として、図2には、3つのそのようなシステムの反射スペクトルおよび放射スペクトルを示す。図2に示すように、システムは、太陽スペクトルにおいて比較的大きな反射率を有し、熱スペクトルにおいて、特に大気透過窓において、低い反射率(すなわち比較的高い放射率」)を有する。
【0047】
限定の目的ではなく一例として、図3には、本発明の非限定的な実施形態によるシステムの概略的な図を示す。図3に示すように、システム300は、積層構造の複数の層を含む。
【0048】
一実施形態では、システム300は、基板10を有しても良い。基板10が存在する場合、該基板10は、システムの基部を形成し、他の層のプラットフォームを提供する。システムの基板を除く他の層は、合わせて「コーティング」と称される。基板は、不活性材料であっても良い。
【0049】
ある実施形態では、基板は、対象物または構造そのものであっても良く、すなわちシステムの追加の層が、対象物または構造に、直接コーティングされ、放射冷却が提供されても良い。
・・・略・・・
【0052】
一実施形態として、さらに図3を参照すると、システム300は、基板10が存在する場合、該基板10に隣接する反射層20を有する。反射層は、入射電磁放射線を反射することができる。例えば、反射層は、システムを昼間受動放射冷却により適したものにできる。また、反射層は、基板からの熱伝達を容易できる。ある実施形態では、反射層は、太陽スペクトルの少なくとも一部において、放射線を反射する。従って、一実施形態では、反射層は、太陽スペクトルの少なくとも一部において、高い反射率を有する。
【0053】
例えば、これに限られるものではないが、反射層は、銀またはアルミニウムのような金属の、単一層を含んでも良い。ある実施形態では、反射層は、2または3以上の層を含み、各層は、1または2以上の金属を含んでも良い。例えば、ある波長で低い反射率を有する平滑な金属層は、異なる金属の薄膜を上部に層化することにより反射率が強化され、これらの波長において大きな反射率および小さな電磁浸透深さを有するようにできる。一実施形態では、薄膜の厚さは、その波長での電磁浸透深さと同等、またはより大きくなるようにでき、その波長において最小の入射放射線が、下地の金属層に到達する。
【0054】
従って、例えば、反射層は、上部層および下部層を含んでも良い。上部層は、太陽スペクトルの少なくとも一部における第1の波長範囲内で、約0.8よりも大きな反射率を有し、第1の電磁浸透深さを有する。例えば、上部層の第1の電磁浸透深さは、約10nmであっても良い。太陽スペクトルの少なくとも一部の第2の波長範囲では、上部層は、第2の電磁浸透深さを有し、これは、第1の電磁浸透深さよりも大きい。例えば、上部層の第2の電磁浸透深さは、約20nmであっても良い。下部層は、第1の波長範囲において、上部層よりも低い反射率を有し、第2の波長範囲において、上部層よりも高い反射率を有する。
【0055】
上部層の厚さは、近似的に、第1の波長範囲内での第1の電磁浸透深さよりも大きく、またはほぼ同等であり、近似的に、第2の波長範囲の第2の電磁浸透深さよりも小さい。従って、通常、第1の波長範囲における放射は、上部層とのみ相互作用する。また、概して、第1の波長範囲における反射層の反射率は、下部層の反射率よりも大きいが、第2の波長範囲における上部層の反射率よりも大きい。このように、第1の波長範囲における反射層の全体の反射率は、近似的に、その波長範囲における上部層の反射率と同じである。また、通常、第2の波長範囲における放射線は、上部層および下部層の両方により反射され、従って、第2の波長範囲における反射層の全体の反射率は、その範囲における下部層の反射率に近づく。
【0056】
このように、2層の反射層は、第1および第2の組み合わされた波長範囲にわたって、上部層または下部層のいずれか一方を独立で構成した場合に比べて、反射率を高めることができる。
・・・略・・・
【0057】
特定の実施形態では、2層の反射層は、銀を含む上部層と、アルミニウムを含む下部層とを有しても良い。上部層すなわち銀は、約5nmから約50nmの厚さを有し得る。下部層は、上部層よりも大きな厚さ、例えば約200nmよりも大きな厚さを有し得る。図4に示すように、この構成では、太陽スペクトルにおいて、銀およびアルミニウムを独立に使用した反射率よりも、2〜 3%(上部層の厚さに依存する)大きな反射率が観測されている。
【0058】
ある実施形態では、反射層は、約50nmから約800nmの全体厚さを有し得る。
・・・略・・・
【0060】
ある実施形態では、上部層40は、保護層と隣接して設置され、あるいは図3に示すように、反射層20に隣接して設置される。上部層40は、熱スペクトルにおいて、高い放射率を有することができる。これに加えてまたはこれとは別に、上部層40は、太陽スペクトルにおいて、高い透過率を有し、吸収が無視できる。上部層40は、約5μmから約500μmの厚さを有し得る。
【0061】
上部層40の材料は、システム300、作動温度および放射線源の所望の放射特性に基づいて選定される。従って、上部層40の材料は、システム300の使用目的に依存する。ある実施形態では、上部層40は、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(アクリル酸)、およびポリ(酢酸ビニル)の1または2以上を有しても良い。
【0062】
当業者には、各ポリマーが、構成原子間で各種化学結合を有することは明らかである。これらの各々は、電磁放射線、例えば熱スペクトルにおけるある波長を吸収し、放射する。各ポリマーは、その化学組成および原子配列に基づいて、異なる数、配置および体積密度の結合を有し、その結果、熱スペクトルにおいて特徴的な放射を示す。これらの化学結合の多くは、太陽スペクトルにおける波長を吸収せず、これに限られるものではないが、ポリ(フッ化ビニリデン)、およびポリ(メチルメタクリレート)を含むあるポリマーは、熱スペクトルにおいて大きな放射を示し、太陽スペクトルにおいて吸収が実質的にゼロとなる。従って、ポリマーは、所望の放射線特性に対して好適な化学的および物理的構造に、特定したり、これをカスタムで合成したりすることができる。あるいは、ある実施形態では、上部層は、2または3以上のポリマーの組み合わせを含む。あるポリマーの構成は、熱スペクトルにおいて、それらの特徴的な放射の組み合わせを示すが、残りは、太陽スペクトルの波長で、実質的に非吸収性および透過性である。例えば、これに限られるものではないが、図5には、この原理が示されている。図には、アルミニウム箔上の、ポリマー構成(「混合物」)、およびその成分のポリマーであるポリ(フッ化ビニリデン)およびポリ(酢酸ビニル)の放射率が示されている。混合物は、放射ピークを示し、その成分の1つまたは両方が同様のピークを示す。例えば、図5において、混合物は、約7.8μmで放射ピークを示すが、ポリ(酢酸ビニル)は約11.5μmにピークを示し、ポリ(フッ化ビニリデン)は、約7μmでピークを示し、両方が、一つのピークを有する。
【0063】
ある実施形態では、2または3以上のポリマーの組み合わせにおけるポリマーの各々は、ニアゼロの電磁減衰係数を有し、すなわち、太陽スペクトルにおいて高い透過性を示す。組み合わせは、同様に、ニアゼロの電磁減衰係数および高い透過率を有しても良い。また、ポリマーの各々は、熱スペクトルの少なくとも一部内で、高い電磁減衰係数を有し、すなわち放射ピークを有する。例えば、各ポリマーは、熱スペクトルの異なる部分において、高い電磁減衰係数を有する。
【0064】
電磁減衰係数が、材料の空間複素屈折率の成分であることは、当業者には明らかである。特に、空間複素屈折率は、屈折率n(λ)、および減衰係数κ(λ)に基づき、すなわち空間複素屈折率は、n(λ)+iκ(λ)である。屈折率は、ある材料と別の材料の間の界面で反射される波長(λ)の光の量を定め、減衰係数は、その波長で、材料が吸収または放射する光の強さを定める。本願において、材料と特定の波長範囲に関して使用される、「高電磁減衰係数」と言う用語は、材料が、その波長範囲において、異なる波長範囲におけるその電磁減衰係数に比べて高い電磁減衰係数を有することを意味する。
【0065】
また、熱スペクトルにおけるポリマー構造の放射率が、少なくとも3つの因子、すなわち、構成ポリマーの成分の空間複素屈折率、それらの相互の混和性、およびそれらの質量比に依存することは、当業者には明らかである。各ポリマーが、熱スペクトルの異なる位置において、高い電磁減衰係数を有する場合、上部層40の全体の放射率は、全ての構成ポリマー成分の放射率の組み合わせとなる。この場合、ポリマーの組み合わせは、熱スペクトルの複数の部分において、高い放射率を示すことができる。構造の光学均一性は、ポリマーの混和性に依存し、これは、理論的に予測し、または実験的に求めることができる。例えば、成分の混和性が高いと、構造の複素屈折率の空間均一性が高くなる。また、ポリマーの相対量(すなわち質量比)は、それらのピーク減衰係数の相対値に基づいて定めることができる。この方法では、任意の特定のポリマー種を過度に使用することなく、熱スペクトルにわたって、均一に高い放射率を得ることができる。例えば、ある波長で弱いが均一な放射を示す構成ポリマーは、他の波長でより強く吸収する別のものよりも、構造中に高い質量割合で含まれる。また、成分の混和性およびコーティングの機械的剛性は、それ自体、質量比に依存し、構造内の質量比の二次的決定因子となり得る。利用可能なポリマーの多様性のため、熱スペクトルにわたって均一な熱放射を示す構造が得られる。また、ポリマーの相対量は、熱スペクトルにおけるシステムの放射率を微調整するため選択されても良い。
【0066】
また、上部層40は、機械的および/ または化学的結合強度、金属表面に対する密着性、混和性、耐食性、および/または水の耐浸透性に基づいて選定された、1または2以上のポリマーを有する。その場合、上部層40内の1または2以上のポリマーは、反射層20の金属を腐食から保護するために使用され得る。
【0067】
薄い上部層、すなわち熱放射線波長に匹敵する厚さの上部層の場合、熱放射は、上部層の形状にも依存する。特定の実施形態では、上部層は、約5μmから約20μmの厚さを有する。上部層の厚さは、熱スペクトル内のある波長の放射線を取り込むように選定され、これにより、その波長での層の放射率が増加する。ポリマーと下地基板の厚さおよび複素空間屈折率に応じて、上部層はトラップし、これにより、熱スペクトルの特定の波長の光路長が長くなる。光路長が長くなると、上部層内で放射された光が層内で移動するため、より強度が大きくなり、システム全体の放射率が上昇する。上部層の寸法の調整により、全体の放射率を高めることができ、小さな厚さの上部層でも、コーティングにより高い放射が可能となる。
・・・略・・・
【0070】
ある実施形態では、上部層40は、物理的または化学的気相成膜法、フォトリソグラフィ、電子ビームリソグラフィ、湿式エッチング、反応性イオンエッチング法、3D印刷法、インプリント法、スプレー法、浸漬コーティング法、スピンコーティング法、またはアプリケータ、あるいは従来の他の任意の好適に技術を用いて、反射層20、基板10、または別の表面に、平滑に設置される。
【0071】
示された上部層は、熱スペクトルにおいて高い放射率を示し、太陽スペクトルにおける吸収率が実質的にゼロである。従って、窓および他のガラスパネル化ビルの外構、太陽パネルのような、下地基板に対して太陽光の高い透過性が要求される受動放射冷却機器、ならびにルーフタイムおよびラップトップの表面、および他の電子機器のような、基板色が保護されることが要求される用途に好適である。従って、システムとは別個に、例えば反射層なしで、上部層40が使用されることは、当業者には明らかである。しかしながら、高い太陽反射率を有する平滑な金属表面、例えば、図3、6のような反射層上に適用された場合、透過した太陽光は、金属により大部分が反射される。組み合わせ構造は、熱スペクトルにおける高い放射率と、太陽スペクトルにおける高い反射率とを兼ね備え(すなわち、いずれも約0.9超)、これは、昼間受動放射冷却に好適である。
【0072】
上部層40は、さらに、追加特徴物を有しても良い。図7に示すような実施形態では、上部層40は、任意で、ナノ粒子60を含んでも良い。「ナノ粒子」および「ナノ構造」という用語は、本願において相互互換可能に使用される。例えば、ナノ粒子60は、窒化ケイ素(SiNx)(例えばSi3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化ケイ素(SiO2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、および/ またはこれらの組み合わせを含んでも良い。ナノ粒子の使用により、熱放射線の範囲において放射率を高めることができる。この場合、ナノ粒子の使用により、熱スペクトルにおける上部層の放射率が高められ、ナノ粒子を使用しない形態に比べて、同様の特性を維持したまま、上部層を薄くすることができる。例えば、ナノ粒子を含む上部層は、約5μmから約10μmの厚さを有しても良い。
・・・略・・・
【0081】
従って、上部層40の形状、材料、および他の特徴は、反射率および放射率の微調整のため、システム100の所望の特性に応じて変化させても良い。従って、作動温度、放射線源、および黒体温度において、放射冷却システムの特性が改善される。
・・・略・・・
【0107】
本願に記載のシステムは、極めて薄いポリマー層に対して、所望の光学特性(例えば、必要な場合、太陽および熱スペクトルにわたる吸収、放射、反射)を得ることが可能なシステムの単なる一例に過ぎないことに留意する必要がある。例えば、500μm以上に上部層を厚くして、同様の光学特性を維持することも可能である。
【0108】
本願に記載の方法およびシステムは、ある既存の技術を超える利点を提供する。利点の一例には、放射加熱および冷却用の改善された技術が含まれ、これは、作動条件および放射線源に基づいて微調整が可能である。また、本願に記載のシステムおよび方法に使用される材料は、比較的安価であり、環境に優しい。また、システムを形成する製作技術は、ある他の技術に比べて、比較的単純であり、スケール化が可能である。ある実施形態では、本願に記載のシステムは、可撓性コーティングに基づき、ロールツーロール技術を用いて製作することができる。」

(3) 「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図7】



3 引用発明
(1) 上記各記載事項によれば、引用例1には、その特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項41に係る発明を、「本発明の一実施形態による放射冷却用のシステムの概略的な構成を示」す図3に示されるとおり具現化した、「放射冷却用のシステム300」に係る、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。ここで、引用例1の請求項1の「上部層」についての「熱スペクトルの少なくとも一部において、高い放射率を有し、電磁減衰係数が近似的にゼロであり、吸収率が近似的にゼロであり、太陽スペクトルの少なくとも一部において高い透過率を有する」との記載は、正しくは、「熱スペクトルの少なくとも一部において、高い放射率を有し」、「太陽スペクトルの少なくとも一部において」、「電磁減衰係数が近似的にゼロであり、吸収率が近似的にゼロであり」、「高い透過率を有する」であることは、明細書の記載及び技術常識からみて、明らかなことである。

「 放射冷却用のシステム300であって、
1または2以上のポリマーを有する上部層であって、熱スペクトルの少なくとも一部において、高い放射率を有し、太陽スペクトルの少なくとも一部において、電磁減衰係数が近似的にゼロであり、吸収率が近似的にゼロであり、高い透過率を有する、約5μmから約500μmの厚さを有する、上部層40と、
前記上部層の下側に配置された反射層であって、1または2以上の金属を有し、前記太陽スペクトルの少なくとも一部において、高い反射率を有する、反射層20と、
反射層20に隣接する基板10
を有する、システム300。」


4 本件特許発明1について
(1) 対比
ア 赤外放射層
(ア) 図3に示される構造からみて引用発明においては、「基板10」の上に、「反射層20」及び「上部層40」がこの順序で積層されていることは明らかである。

(イ) 引用発明の「上部層40」は、 図3に「熱放射ポリマーの形成」「40」との記載から、「熱放射ポリマー」により形成されており、「熱スペクトルにおいて、高い放射率を有」するものであって、引用発明にいう「熱スペクトル」とは、引用例1の【0033】に定義されるとおり、「中間赤外スペクトルを網羅する電磁放射線波長の範囲を表」わし、「約2.5μmから約30μmまでの波長を有する電磁放射線を含む」ものである。
そうすると、「上部層40」の光学的な特性からみて、引用発明の「上部層40」は、「赤外」光を放射するということができる。
また、上記(ア)の積層構造より、引用発明の「上部層40」は、「上部層40の「反射層20」が設けられた下側の面とは反対側の上側の面を放射面として、放射面から「赤外」光を放射しているということができる。
してみると、引用発明の「上部層40」は、本件特許発明1の「放射面から赤外光を反射する」とされる、「赤外放射層」に相当する。
また、引用発明の「上部層」は、「熱放射ポリマーから形成され」た「層」であるから、樹脂材料「層」であるといえる。
そうすると、引用発明の「上部層40」は、本件特許発明1の「樹脂材料層」に相当する。

イ 光反射層
(ア) 引用発明の「反射層20は、太陽スペクトルの少なくとも一部において、高い反射率を有」するものである。

(イ) 上記ア(ア)より、引用発明の「反射層20」は、「上部層40」における放射面の存在側とは反対側に位置することが理解できる。
そうすると、上記(ア)より、引用発明の「反射層20」は、本件特許発明1の、「当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる」とされる、「光反射層」に相当する。

ウ 放射冷却装置
上記アとイより、引用発明の「放射冷却用のシステム300」は、本件特許発明1の、「赤外線放射層と」、「光反射層とが設けられた」とされる、「放射冷却装置」に相当する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と、引用発明は、次の構成で一致する。
「 放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが設けられた放射冷却装置であって、
前記赤外放射層が、樹脂材料層である、放射冷却装置。」

イ 相違点
本件特許発明1と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1−1)
「樹脂材料層」が、本件特許発明1が、「吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整された」ものであり、「前記樹脂材料層を形成する樹脂材料が、塩化ビニル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂であり」、「前記樹脂材料層を形成する塩化ビニル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂の厚みが」「100μm以下で10μm以上であ」るのに対して、引用発明は、「熱スペクトルの少なくとも一部において、高い放射率を有し、太陽スペクトルの少なくとも一部において、電磁減衰係数が近似的にゼロであり、吸収率が近似的にゼロであり、高い透過率を有する、約5μmから約500μmの厚さを有する」ものである点。

(相違点1−2)
「光反射層」が、本件特許発明1は、「銀または銀合金で構成され、その厚みが50nm以上である、又は、銀または銀合金とアルミまたはアルミ合金の積層構造である」のに対して、引用発明は、そのような特定がなされていない点。

(相違点1−3)
「樹脂材料層」が、本件特許発明1では、無機材料を含まないものであるのに対し、引用発明においては、そのような特定はされていない点。

(3) 判断
ア 相違点1−1について
(ア) 本件特許発明1は、本件特許明細書の【0006】に示されるとおり、従来の放射冷却装置は、「無機材料によって構成される赤外放射層が柔軟性を備えていないため、放射冷却装置が柔軟性を備えないものとなる」結果、「既設の屋外設備における外壁等に後付けして、放射冷却性能を与えることが困難であった」という課題を解決するため、「厚みが100μm以下で10μm以上である塩化樹脂ビニル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂は、大気の窓領域において十分な熱輻射が得られるものである」(【0013】)ことから、上記相違点1−1に係る構成を備えるものとした点に技術的意義を有する発明である。
他方、引用発明は、引用例1の【0007】に示されるとおり、放射冷却技術の向上を解決しようとする課題とし、
【0071】には、熱スペクトルにおいて高い放射率を示し、太陽スペクトルにおける吸収率が実質的にゼロである上部層が、高い太陽反射率を有する反射層上に適用された場合、透過した太陽光は、金属により大部分が反射され、この組み合わせ構造は、熱スペクトルにおける高い放射率と、太陽スペクトルにおける高い反射率とを兼ね備え(すなわち、いずれも約0.9超)、昼間受動放射冷却に好適であることが記載され、
当該上部層の材料について、【0061】には、システム300、作動温度および放射線源の所望の放射特性に基づいて選定されること、上部層40は、ポリジメチルシロキサン、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸及びポリ酢酸ビニルの1または2以上を有しても良いことが記載され、【0062】には、化学結合の多くは、太陽スペクトルにおける波長を吸収せず、ポリ(フッ化ビニリデン)、およびポリ(メチルメタクリレート)を含むあるポリマーは、熱スペクトルにおいて大きな放射を示し、太陽スペクトルにおいて吸収が実質的にゼロとなることが記載されている。
そうすると、引用発明において、上部層の材料としては、熱スペクトルにおいて大きな放射を示し、太陽スペクトルにおいて吸収が実質的にゼロとなるものとして、具体的に例示された、ポリジメチルシロキサン、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸及びポリ酢酸ビニルから、まず選択することが自然であって、これらの中には、塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンは記載も示唆もされていない。

(イ) 放射冷却装置の赤外線放射材料に関し、引用例2(甲第2号証)の[0017]には、密閉型冷却機能を備えた赤外線放射冷却システムに関し、特定の領域で高反射、高赤外線放射を実現するために、赤外線放射材料として、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリ−4−メチルペンテン(TPX)などのポリマーや、酸化チタン(TiO2)、ZnO、BaSO4、MgO、LiF、ZrO2、シリカなどの無機物のマイクロビーズやフィルムを用いることができることが記載されている。また、引用例2の[0020]及び[0021]には、高光反射及び高赤外線放射システムの赤外線放射材料を、TiO2を含有したポリ塩化ビニル層とした実施例1、赤外線放射材料を、中空ガラスを含有したポリ塩化ビニル層とした実施例2が記載されている。

また、放射材料としてSiOフィルムを用いる放射冷却技術に係る引用例5の4215頁左欄下から18行〜右欄2行には、PVC、PVF、TPXが放射冷却にとって有用な材料であることが記載され、同頁右上の図17には、PVC(100μm)、PVF(12.5μm)及びTPX(340μm)それぞれの透過率特性が示されている。また、引用例5の同頁左欄下から11行〜8行には、PVCには、適度な赤外線選択性はあるものの、大気の窓の外側の広い範囲の透過率も低く、PVCフィルムの薄膜化によっては大きな改良が望めないことが記載されている。さらに、引用例5の4215頁右下のテーブル1には、PVC(50μm)、PVF(12.5μm)及びTPX(340μm)の冷却パラメータである赤外線選択性ηH(4214頁右欄(24)〜(26)参照。)がそれぞれ「1.2」、「1.6」及び「1.6」であることが示され、4215頁右欄8〜11行には、PVC、PVF及びTPXそれぞれのηHが、同頁左欄1行目及び左上の図16に記載のSiOフィルム(1μm)のηHと比較して劣っていることが記載されている。

さらに、放射冷却技術に係る引用例6の495頁左欄下から15行〜右欄21行には、高度に汎用なフィルムベースの放射冷却装置の放熱体の(大気窓領域において低い反射率及び透過率を有する)ポリマー材料候補として、PVC、PVF、TPX、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)があること、PVFフィルムを用いて、拡散した太陽光の下での太陽環境冷却を実現したこと、PDMSをコーティングした溶融シリカミラーにより、日中で8.2℃低い受動的放射冷却が実証されたことが記載され、同頁左下の図7には、PVC、PVF及びTPXそれぞれの透過率特性が示されている。

あるいは、第二の基礎出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された引用例7の2頁左欄下から15行〜右欄2行には、[A]昼間放射冷却に関し、C−Y基(Yは、F(フッ素)、Cl(塩素)及びBr(臭素)のようなハロゲン元素)は、大気透過窓(8〜13μm)を全てカバーする6.7〜16.7μmの範囲のフィンガープリント領域に、曲げ振動を原因とする強い吸収を有する(2頁の図1及び3頁のテーブル1等参照)こと、2頁右欄6行〜12行には、[B]フィンガープリント領域中の、所望の官能基、C−O、C−Cl、C−F及びC−Nが、昼間放射冷却の可能なポリマーの候補を特定するために使用されてよいこと、5頁右欄3行〜14行には、[C]背面を高い太陽光反射性層とすると、C−O、C−N、C−Cl及びC−Fの複数の官能基を持つ多くの放射(輻射)性ポリマーが放射冷却の能力を潜在的に有していることが記載され、3頁の図2(b)及び2頁右欄下から2行目〜3頁左欄1行には、[D]背面を銀とした50±5μm厚のポリフッ化ビニリデン(PVDF)の0.3μ〜2.5μmの太陽スペクトルと2.5〜25μmの赤外スペクトルに渡る吸収率/輻射率が示されている。

(ウ) 上記(イ)の記載からみて、PVCが放射冷却装置の赤外線放射材料として有用なポリマー材料であることは、第一の基礎出願の出願前に周知のことである。
しかしながら、引用例1、あるいは引用例5、6のいずれにも、PVCが、「熱スペクトルの少なくとも一部において、高い放射率を有し、太陽スペクトルの少なくとも一部において、電磁減衰係数が近似的にゼロであり、吸収率が近似的にゼロであり、高い透過率を有する」という特性を備えることについて、開示も示唆もされていないのであるから、引用発明の「上部層40」の材料として、引用例1に、好ましいものとして具体的に例示された材料に代えて、PVCを採用することが当業者に動機付けられたものとすることはできないい。
むしろ、引用例5の記載からは、PVCは、SiOあるいはPVFやTPXと比較して、赤外線選択性(ηH)が劣る材料として示されており、また、引用例6の記載からは、PVC等のポリマー材料は、寿命、機械的強度、耐久性に劣る材料として考えられていたことが窺える。そうすると、引用発明の放射冷却用のシステム300の放射冷却性能の向上や昼間受動放射冷却に着目する当業者であれば、引用発明の「上部層40」として、PVF等の引用例1に具体的に例示された材料を採用するのが自然であり、赤外線選択性(ηH)に劣るとされる、あるいは寿命、機械的強度、耐久性に劣るとされる、PVCに着目し、採用する動機付けはない。

また、引用例7には、上述のとおり、大気透過窓(8〜13μm)を全てカバーする6.7〜16.7μmの範囲のフィンガープリント領域に曲げ振動を原因とする強い吸収を有する化学結合C−Clを持つ放射(輻射)性ポリマーが昼間放射冷却の能力を潜在的に有していることは記載されているが、化学結合C−Clを有するポリマー材料は、塩化ビニリデンに限らず多数存在するところ、引用例7には、他に、化学結合C−Clを有する多数のポリマー材料の中から、塩化ビニリデンに着目し、これを選択する動機付けとなるような記載はない。

(エ) 引用例3(甲第3号証)には、「太陽放射をよく透過して7〜15μmの赤外線を透過しないフィルムが理想的とされる」(37頁左欄10〜11行)、農業用プラスチックフィルムの分光透過性として、38頁の図1及び図2に、テーブル1のサンプル番号1,2の厚み100μmのPVCの200〜1100nmの透過率(%)曲線及び1〜15μmの透過率(%)曲線が示されている。
しかしながら、引用例3は、農業用プラスチックフィルムとして求められる太陽放射範囲や7〜15μmの赤外線範囲の透過率(%)特性として、PVC(厚み0.1mm)の透過率特性を示すものであるところ、農業用プラスチックフィルムの技術分野と引用発明が属する技術分野が異なり、解決しようとする課題も引用発明とは異なるのであるから、熱スペクトルにおいて大きな放射を示し、太陽スペクトルにおいて吸収が実質的にゼロとなるものが望ましい材料として引用例1に例示された材料に代えて、わざわざ、農業用プラスチックフィルムを採用することは、当業者といえども容易に想到し得たものではない。
さらに、引用例4(甲第4号証)、令和4年3月2日付け取消理由通知書において、周知技術を例示する文献として挙げた特開2015−18770号公報及び特開2018−206818号公報のいずれにも、赤外線放射層として、塩化ビニル、あるいは塩化ビニリデンを用いることは記載も示唆もされていない。

(オ) 特許異議申立書における特許異議申立人の主張について
a 特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明1について、
(a) 甲第2号証には、[0017]において、「赤外線放射材料」が「塩化ビニル樹脂」で構成されていることが明示され、
(b) 甲第3号証には、本件特許発明1の構成G(「塩化ビニル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂の厚みが、100μm以下10μm以上」)の条件を満たす塩化ビニルの分光透過性が開示され、甲第2号証の赤外放射層に用いられる塩化ビニルについて、厚さが100μmの分光透過性が、赤外放射層として使用できることと、厚さが異なるポリエチレンやエチレン酢酸ビニルの分光特性から熱輻射特性を厚さにより調整し得ることが分かる、
(c) 甲第4号証には、本件特許発明1の構成Gの樹脂材料の厚みの条件「100μm以下10μm以上」を満たす厚さが開示されている、
(d) 甲第3号証について説明したように、赤外線放射層となり得る材料として、透明なプラスチック材料が広く適用できること、
そして、甲第4号証の厚さの記載からも、所望の分光透過特性は厚さを調整することで初期の特性が実現でき、樹脂の種類にはほぼ無関係であることは、技術常識である、
(e) 本件特許発明の請求項1の構成Gについては、本件特許明細書には、厚さが80μm及び300μmの僅か2点について放射冷却効果があるか否かの評価しかされておらず、本件特許発明では、構成Gの「塩化ビニル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂の厚みが、100μm以下で10μm以上」とするにも拘らず、80μmで放射冷却効果があるか否かしか測定されていない、
そして、塩化ビニル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂の冷却能力のエネルギーの密度(W/m2)については何も測定されていない、
従って、10〜79μm及び81〜100μmの実証がされていない以上、構成Gにより、臨界的に他の透明樹脂に対してどのような冷却効果が得られるかは不明である、
とすれば、構成Gは、本件特許発明の範囲を超えた何らの裏付けのない記載であり、不当な範囲を請求するものであるから、塩化ビニル樹脂層及び塩化ビニリデン樹脂層の厚さをGの構成とするために、甲第3号証及び甲第4号証を適用することは当業者が容易に想到し得たことに過ぎない、
(f) 赤外放射層に用いる樹脂として、甲第1号証の【0061】にはフッ化ビニリデンが、甲第2号証の[0017]には、塩化ビニルが開示され、
フッ化ビニリデンは、塩化ビニリデンの塩素をフッ素に置換した樹脂であり、両者の分子構造が類似するため、塩化ビニリデンがフッ化ビニリデンと同様の分光特性を有することは技術常識であるから、塩化ビニリデンは、フッ化ビニリデン(甲第1号証の図1及び図5の分光特性)と同様に、赤外放射層に用いることができる樹脂であることが容易に理解できることであるから、甲第1号証のフッ化ビニリデンと甲第2号証の塩化ビニルから、赤外放射層に用いる樹脂を、フッ化ビニリデンのフッ素を塩素に置換した塩化ビニリデンとすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである、
(g) 以上のことから、本件特許発明1は、甲第1号証に、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証を適宜組み合わせることで、当業者であれば容易に想到し得るたことにすぎない、
と主張する。

b しかしながら、既に述べたとおり、赤外線放射材料として例示される材料の中から、PVCを選択する動機付けとなるような記載、示唆は、甲第1号証及び甲第4号証のいずれにもなく、むしろ、赤外線選択性に劣ることが示されているのであるから、引用発明において、PVCを採用する動機付けはない。
そして、本件特許は、上記構成を採用することにより、従来技術からは予測し難い効果を奏するものである。

c よって、特許異議申立書における特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(カ) 小括
以上のとおりであるから、相違点1−2及び相違点1−3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明、引用例2〜6(あるいは引用例2〜7)に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 本件特許発明2〜4について
本件特許発明2〜4は、いずれも相違点1−1に係る、本件特許発明1の構成を具備する発明である。
したがって、本件特許発明1と同様の理由により、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2〜4は、引用例1に記載された発明、引用例2〜6(あるいは引用例2〜7)に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

6 本件特許発明5について
引用発明の「放射冷却用のシステム300」を用いる放射冷却方法の発明を、「引用方法発明」という。
本件特許発明5は、相違点1−1に係る本件特許発明1の構成を具備する発明であるところ、本件特許発明5と引用発明とを対比すると、両者は、引用方法発明の「放射冷却装置」の「樹脂材料層」に関し、相違点1−1と同じ相違点で少なくとも相違する。
そうすると、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明5は、引用例1に記載された発明、引用例2〜6(あるいは引用例2〜7)に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した理由及び特許異議申立書に記載した理由によっては、本件特許の請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件特許の請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-30 
出願番号 P2020-521623
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 松波 由美子
特許庁審判官 河原 正
関根 洋之
登録日 2021-05-27 
登録番号 6890724
権利者 大阪瓦斯株式会社
発明の名称 放射冷却装置及び放射冷却方法  
代理人 特許業務法人R&C  

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