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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1386171
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-01 
確定日 2022-06-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6914522号発明「ホットメルト接着剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6914522号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は平成29年8月10日にされたものであり、令和3年7月16日に特許権の設定登録がされ、同年8月4日に特許掲載公報が発行された。その後、令和4年2月1日に特許異議申立人 北岡 弘章(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明等
1 本件発明
本件特許発明は、特許請求の範囲に記載された次のとおりの発明(以下、請求項番号に従って「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。)である。
「【請求項1】
(A)共重合体成分、(B)ワックス成分及び(C)粘着付与樹脂成分を含むホットメルト接着剤であって、
前記(A)は、(A1)官能化エチレン−α−オレフィン共重合体及び(A2)エチレン−カルボン酸エステル共重合体を少なくとも有し、
前記(A)100質量%中に、前記(A1)を23〜95質量%、前記(A2)を5〜20質量%含み、
前記(A)100質量部に対して、前記(B)を10〜62質量部、及び前記(C)を118〜165質量部含み、
前記(C)の環球式軟化点は120℃以上であることを特徴とする、ホットメルト接着剤。
【請求項2】
前記(A)は、さらに(A3)エチレン−α−オレフィン共重合体を含む、請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項3】
前記(A1)は、無水マレイン酸官能化エチレン−α−オレフィン共重合体を含む、請求項1又は2に記載のホットメルト接着剤。
【請求項4】
前記(A)100質量部に対して、前記(B)を25〜50質量部含むことを特徴とする、請求項1〜3いずれか1項に記載のホットメルト接着剤。
【請求項5】
紙製包装資材用である、請求項1〜4の何れか1項に記載のホットメルト接着剤。」
2 本件特許明細書には次の記載がある。
(1)「【0014】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、糸曳き性の問題が改善された上で、塗布硬化前の熱安定性に優れ、さらには、塗布硬化後においても広い温度域において、特に高温域において接着性が低下しにくく、高いクリープ性を維持できるホットメルト接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、共重合体成分、ワックス成分、及び粘着付与樹脂成分の組成を所定の範囲内とすることで、上記課題を解決できることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。」
(2)「【0020】
(A1)官能化エチレン−α−オレフィン共重合体
本発明のホットメルト接着剤に使用される官能化エチレン−α−オレフィン共重合体は、エチレン−α−オレフィン共重合体に官能基をグラフト重合させることにより得ることができる。
・・・
【0023】
本発明のホットメルト接着剤における官能化エチレン−α−オレフィン共重合体の含有量は、(A)共重合体成分100質量%中に、23〜95質量%である。官能化エチレン−α−オレフィン共重合体の含有量が23質量%よりも少ないと、ホットメルト接着剤の塗布硬化後の耐熱接着性及び耐熱クリープ性が十分に得られない。一方、官能化エチレン−α−オレフィン共重合体の含有量が95質量%よりも多くなると、糸曳き性が低下するという問題がある。
【0024】
また、高温での接着性及び高温でのクリープ性を維持できるようにするために、官能化エチレン−α−オレフィン共重合体の含有量は、(A)共重合体成分100質量%中に、30〜95質量%とするのが好ましく、40〜95質量%とするのがより好ましく、50〜95質量%とすることがさらに好ましい。」
(3)「【0026】
(A2)エチレン−カルボン酸エステル共重合体
エチレン−カルボン酸エステル共重合体としては、例えばエチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸2エチルヘキシル、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体などを挙げることができる。これらの中でも、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体が好ましい。
【0027】
エチレン−カルボン酸エステル共重合体のメルトインデックス(Melt Index;以下、単にMIともいう。)は180g/10分以下が好ましく、100g/10分以下がより好ましい。エチレン−カルボン酸エステル共重合体のMIが上記範囲内であることにより、糸曳き性の問題がより解消されたホットメルト接着剤を提供できる。」
(4)「【0037】
(B)ワックス成分
ワックス成分としては、ホットメルト接着剤の製造に使用される公知のワックス成分を、広く使用することが可能である。具体的には、フィッシャートロプシュワックス、及びポリエチレンワックスなどの合成ワックス、パラフィンワックス、及びマイクロクリスタリンワックスなどの天然ワックスが挙げられる。ワックスは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。なかでも、フィッシャートロプシュワックスが好ましい。
【0038】
フィッシャートロプシュワックスを始めとして、上記例示したワックスは、エチレン−α−オレフィン共重合体との相溶性が良く、耐寒接着性低下を低減する事ができる。
【0039】
ワックスの融点は、100〜120℃が好ましい。融点が100℃以上のワックスを採用することにより、ホットメルト接着剤の塗布硬化後の、高温環境下での接着性を向上させることができる。一方、融点が120℃以下のワックスを採用することにより、溶融速度が早くなり塗工までの時間を短縮させるという効果を得ることができる。
【0040】
本発明のホットメルト接着剤における(B)ワックス成分の含有量は、(A)共重合体成分100質量部に対して、(B)ワックス成分が10〜62質量部である。ワックス成分が10質量部に満たない場合、接着剤の硬化速度が遅くなり塗工性が低下し、高速ラインに適さなくなる。一方、ワックス成分が62質量部よりも多くなると、硬化後のホットメルト接着剤の耐熱性が不十分となる。また、低温での接着性能を発現させために、(A)共重合体成分100質量部に対する(B)ワックス成分の含有量は、25〜50質量部とすることが好ましく、28〜45質量部とすることがより好ましい。」
(5)「【0043】
(C)粘着付与樹脂成分
(C)粘着付与樹脂の具体例としては、石油樹脂、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂、及びこれらの水素添加物等が挙げられる。これらの粘着付与樹脂は、1種単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0044】
中でも、石油樹脂及びその水素添加物が好ましく、石油樹脂の水素添加物が特に好ましい。石油樹脂としては、脂肪族系石油炭化水素樹脂、芳香族石油炭化水素樹脂、及び環状脂肪族系石油炭化水素などが挙げられる。石油樹脂及びその水素添加物は、エチレン−α−オレフィン共重合体との相溶性に優れ、これによりホットメルト接着剤の接着性及び加熱安定性を向上させる事ができる。
【0045】
本発明のホットメルト接着剤に含まれる(C)粘着付与樹脂成分の環球式軟化点は、120℃以上である。環球式軟化点がこれよりも低いと、ホットメルト接着剤を塗布硬化した後、高温環境下における接着性や耐クリープ性が不十分となる。一方、環球式軟化点の上限値は、塗工時の溶融速度が遅くならないようにするために、150℃以下とすることが好ましく、130℃以下とすることがより好ましい。
【0046】
粘着付与樹脂成分の含有量は、(A)共重合体成分100質量部に対して、118〜165質量部である。上記粘着付与樹脂成分の含有量は、125〜155質量部が好ましい。粘着付与樹脂成分が118質量部よりも少ないと、ホットメルト接着剤の耐熱性が低下してしまう。逆に165質量部よりも多いと、ホットメルト接着剤の耐寒性の低下や加熱安定性の低下をきたす。」
(6)「【0056】
(A1):官能化エチレン−α−オレフィン共重合体
・無水マレイン酸官能化エチレン−1−オクテン共重合体B:ダウケミカル社製 商品名「アフィニティ GA1000R」
(A2):エチレン−カルボン酸エステル共重合体
・エチレン−アクリル酸ブチル共重合体C1:アルケマ社製 商品名「ロトリル 35BA40」(アクリル酸ブチル含有量35重量%、MI=40g/10分)
(A3):エチレン−α−オレフィン共重合体
・エチレン−1−オクテン共重合体:ダウケミカル社製 商品名「アフィニティ GA1950」
(B):ワックス
・Shell MDS (M) Sdn Bhd社製 商品名「GTL SARAWAX SX−105」(融点=102℃)
(C):粘着付与樹脂
・脂肪族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の完全水添石油炭化水素樹脂C1:出光興産製 商品名「アイマーブP−125」(軟化点=125℃)
・脂肪族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の完全水添石油炭化水素樹脂C2:出光興産製 商品名「アイマーブP−100」(軟化点=100℃)
(D):酸化防止剤
・ヒンダートフェノール型:EVERSPRING CHEMICAL社製 商品名「EVERNOX−10」」
(7)「【0057】
(実施例1〜12、比較例1〜8)
上記した各成分を、後述する表1〜5に示した組成で、加熱装置を備えた攪拌混練機中に投入した後、180℃で1時間に亘って加熱しながら混練する事により、ホットメルト接着剤組成物を得た。各実施例及び比較例のホットメルト接着剤について、溶融粘度、塗布硬化後の各温度環境下における接着性、耐熱クリープ性、糸曳き性及び熱安定性を以下の手順に従い評価した。
(当審注:【0058】〜【0062】は摘記省略)
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
(各種評価試験結果)
表1〜5に示したように、各実施例のホットメルト接着剤は、糸曳き性の問題が改善された上で、塗布硬化前の熱安定性に優れ、さらには、塗布硬化後においても広い温度域において良好な接着性を示すことが確認された。」

第3 特許異議申立て理由の概要
1 記載要件違背について
本件特許に係る特許請求の範囲第1項から第5項の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさないものであり、同法第113条第4号に該当し、本件発明1〜5に係る特許は取り消されるべきものである。
進歩性欠如について
本件発明1〜5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、同法第113条第2号に該当し、本件発明1〜5に係る特許は取り消されるべきものである。
(1)甲1を主引用例とする理由
本件発明1〜5は、甲1に記載された発明及び甲1〜5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、同法第113条第2項に該当し、本件発明1〜5に係る特許は取り消されるべきものである。
(2)甲3を主引用例とする理由
本件発明1〜5は、甲3に記載された発明及び甲1〜5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、同法第113条第2項に該当し、本件発明1〜5に係る特許は取り消されるべきものである。
3 証拠の一覧
以下、申立人の提示した甲第1号証などを甲1という。
甲1:特開2015−105345号公報
甲2:特開2016−537486号公報
甲3:特開2007−51235号公報
甲4:特開2012−246375号公報
甲5:特開2016−11386号公報
甲6:異議2018−700579号の異議決定公報
甲7:特開2015−187188号公報
甲8:特開2017−179276号公報
甲9:特開2008−169298号公報
甲10:特開2017−214479号公報
甲11:荒川化学工業株式会社、水素化石油樹脂[アルコン]の製品情報のウェブページ[https://www.arakawachem.co.jp/jp/products/adhesive/08.html]
甲12:特開2008−132614号公報
甲13:YASUHARA CHEMICAL CO.,LTD.、水素化テルペン樹脂のウェブページ[https://www.yschem.co.jp/english/products/resin/hydrogenated_terpene.html]

第4 引用文献の記載事項
1 甲1には次の記載がある。
(1)「【請求項1】
(A)極性官能基で変性された重合体、
(B)ブチラール樹脂、
(C)オレフィン系重合体、および
(D)粘着付与樹脂
を含むホットメルト接着剤。
【請求項2】
(A)極性官能基で変性された重合体が、極性官能基で変性された共役ジエン系重合体および極性官能基で変性されたオレフィン系重合体から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項3】
前記極性官能基が、酸無水物基、マレイン酸基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、アルコキシシリル基、シラノール基、シリルエーテル基、ヒドロキシル基およびエポキシ基から選ばれる少なくとも1種の官能基である、請求項1または2に記載のホットメルト接着剤。
【請求項4】
(C)オレフィン系重合体が、エチレン系共重合体を含む請求項1〜3のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
【請求項5】
さらに、(E)ワックスを含んでいる、請求項1〜4のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のホットメルト接着剤が塗布されて製造された紙製品。」
(2)「【0012】
本発明は、糸曳きを低減でき、熱安定性に優れ、紙への接着性、特に、薬剤が表面にコーティングされたカートンにも優れた接着性を持つホットメルト接着剤を提供することを目的とする。」
(3)「【0077】
<(D)粘着付与樹脂>
本発明のホットメルト接着剤は、(D)粘着付与樹脂((D)成分)を含むことにより、粘着性を向上することができる。「粘着付与樹脂」は、ホットメルト接着剤に通常使用されるものであって、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができるものであれば、特に限定されることはない。
・・・
【0079】
粘着付与樹脂として、市販品を用いることができる。そのような市販品として、例えば、丸善石油化学社製のマルカクリヤーH(商品名)、安原化学社製のクリアロンK100(商品名)、荒川化学社製のアルコンM100(商品名)、出光石油化学社製のアイマーブS100(商品名)、アイマーブP100(商品名)、安原化学社製のクリアロンK4090(商品名)及びクリアロンK4100、エクソンモービル社製のECR5380(商品名)、ECR179EX(商品名)、ECR5400(商品名)、ECR5600(商品名)、イーストマンケミカル社製のリガライトR7100(商品名)、イーストタック H−100W(商品名)、エクソン社製のECR179X(商品名)、荒川化学社製のアルコンP100(商品名)、出光興産社製のI−marv S110(商品名)、I−marv Y135(商品名)、イーストタック社製のEasttack C100−R(商品名)、荒川化学社製のKR−85(商品名)、スーパーエステルA100(商品名)を例示することができる。これらの市販の粘着付与樹脂は、単独で又は組み合わせて使用することができる。」
(4)「【0080】
<(E)ワックス>
本発明のホットメルト接着剤は、(A)〜(D)成分に加え、(E)ワックスを含むことが好ましい。(E)ワックスを含むことによって、粘度が低下して作業性が向上し、オープンタイムが調整され、耐熱性も向上し、糸曳き性が低減されたホットメルト接着剤を得ることができる。
【0081】
尚、本明細書で「ワックス」とは、常温で固体、加熱すると液体となる有機物であって、一般的に「ワックス」とされているものをいい、ワックス状の性質を有するものであれば、本発明に係るホットメルト接着剤を得ることができる限り、特に制限されるものではない。ワックスの重量平均分子量は、一般に10000未満である。
【0082】
(E)ワックスは、ホットメルト接着剤に一般的に用いられるワックスであって、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができるものであれば極性官能基等で変性されたものでも差支えない。具体的には、フィッシャートロプシュワックス、ポリオレフィンワックス(ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス)等の合成ワックス系;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス;カスターワックスなどの天然ワックス;等を例示できる。
【0083】
本発明において、(E)ワックスとしては、フィッシャートロプシュワックスを含むことが好ましい。フィッシャートロプシュワックスとは、フィッシャートロプシュ法によって合成され、一般的にフィッシャートロプシュワックスとされているもの(酸変性体を含む)をいう。フィッシャートロプシュワックスは、成分分子が比較的幅広い炭素数分布を持つワックスから成分分子が狭い炭素数分布を持つようにワックスを分取したものである。代表的なフィッシャートロプシュワックスとして、サゾールH1(商品名)、サゾールH8(商品名)、サゾールH105(商品名)及びサゾールC80(商品名)を例示することができ、いずれもサゾールワックス社から市販されている。
【0084】
また、パラフィンワックスの市販品として、日本精蝋社製のParaffin Wax−150が挙げられる。
【0085】
(E)ワックスは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
本発明のホットメルト接着剤は、ワックスを含むことにより、糸曳き性および熱安定性、さらには高温領域の接着強度により優れる。ワックスの融点は50〜120℃であることが好ましい。ワックスの融点とは、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定された値のことをいう。具体的には、SIIナノテクノロジー社製のDSC6220(商品名)を用い、アルミ容器に試料を10mg秤量し、昇温速度10℃/minで測定して、融解ピークの頂点の温度を融点という。」
(5)「【0093】
本発明に係るホットメルト接着剤は、一般的に知られているホットメルト接着剤の製造方法を用いて、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分、必要に応じて(E)成分、(F)安定化剤や各種添加剤とを配合して製造することができる。例えば、上述の成分を所定量配合し、加熱溶融して製造することができる。目的とするホットメルト接着剤を得ることができる限り、各成分を加える順序、加熱方法等は、特に制限されるものではない。
【0094】
本発明の実施形態として、各成分の配合比率は以下が好ましい。
【0095】
本発明のホットメルト接着剤において、(A)成分は、(A)成分〜(E)成分の総重量100重量部に対し、1〜15重量部配合されることが好ましく、1〜10重量部配合されることがより好ましい。(B)成分は、(A)成分〜(E)成分の総重量100重量部に対し、10〜50重量部配合されることが好ましく、15〜40重量部配合されることがより好ましい。(C)成分は、(A)成分〜(E)成分の総重量100重量部に対し、5〜40重量部配合されることが好ましく、5〜30重量部配合されることがより好ましく、5〜20重量部配合されることが最も好ましい。(D)成分の配合比率は、(A)〜(E)成分の合計量を100重量部として、5〜70重量部であることが好ましく、10〜60重量部であることがより好ましく、15〜40重量部であるのが最も好ましい。
【0096】
(E)成分は、(A)成分〜(E)成分の総重量100重量部に対し、10〜50重量部配合されることが好ましく10〜40重量部配合されることがより好ましく、15〜30重量部配合されるのが最も好ましい。」
(6)「【0108】
ホットメルト接着剤に配合する成分を以下に示す。
<(A)極性官能基で変性された共重合体>
(A1)極性官能基で変性された共役ジエン系共重合体
(A1−1)アミノ基変性SEBS(JSR製の“ダイナロン8630P” 重量平均分子量100000)
(A1−2)アミノ基変性SEBC(JSR製の“ダイナロン4630P” 重量平均分子量200000)
(A2)極性官能基で変性されたオレフィン系重合体
(A2−1)エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合樹脂(住友化学社製の“ボンドファースト7M” 重量平均分子量140000)
(A2−2)エチレン/1−オクテンマレイン酸共重合体(ダウ・ケミカル社製の“AFFINITY GA1000R” 重量平均分子量30000)
(A2−3)エチレン/エチルアクリレートマレイン酸共重合体(アルケマ社製の“BONDAINE HX8210” 重量平均分子量80000)
【0109】
<(B)ブチラール樹脂>
(B1)ポリビニルブチラール樹脂(積水化学社製の“エスレックB BL−1” 数平均分子量19,000)
(B2)ポリビニルブチラール樹脂(積水化学社製の“エスレックB BM−1” 数平均分子量40,000)
(B3)ポリビニルブチラール樹脂(積水化学社製の“エスレックB BH−3” 数平均分子量110,000)
【0110】
<(C)オレフィン系重合体>
(C1)プロピレン/エチレン/1−ブテン共重合体(エボニックデグサ社製の“ベストプラスト703” 重量平均分子量34000)
(C2)エチレン/オクテン共重合体(ダウケミカル社製の“AFFINITY GA1950” 重量平均分子量30000)
(C3)エチレン/酢酸ビニル共重合体(東ソー社製の“ウルトラセン722” 重量平均分子量60000)
(C4)エチレン/メタクリル酸メチル重合体(住友化学社製の“アクリフトCM5022” 重量平均分子量35000)
(C5)ポリプロピレン(出光化学社製の“L−MODU S400” 重量平均分子量40000)
(C6)ポリエチレン(東ソー社製の“ペトロセン249”)
【0111】
<(D)粘着付与樹脂>
(D1)芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体(出光興産社製の“アイマーブP125”)
(D2)芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体(出光興産社製の“アイマーブS100”)
(D3)ロジンエステル(荒川化学社製の“スーパーエステルA100”)
【0112】
<(E)ワックス>
(E1)パラフィンワックス(日本精蝋社製の“Paraffin Wax150”)
(E2)マレイン酸変性フィッシャートロプシュワックス(Sasol社製の“サゾールH105”)
(E3)フィッシャートロプシュワックス(Sasol社製の“サゾールH1”)
【0113】
<(F)安定化剤>
(F1)酸化防止剤(アデカ社製の“AO−60”)
【0114】
これらの成分を表1〜表3に示す割合(重量部)で配合し、約160℃で約3時間かけて万能攪拌機を用いて溶融混合し、実施例1〜18、比較例1〜4のホットメルト接着剤を調製した。表1〜表3に示されるホットメルト接着剤の組成(配合)に関する数値は、全て重量部である。」
(7)「【0133】
【表2】


(8)「【0135】
表1〜3に示されるように、実施例1〜18のホットメルト接着剤は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分の4成分全てを含んでいるので、糸曳きが低減され、PETフィルムへの接着性だけではなく、カートンやダンボール等の紙基材への接着性にも優れている。さらに、実施例1,2,8,10〜12、15〜18のホットメルト接着剤は、各成分の相溶性が良いので熱安定性にも優れている。
・・・
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、ホットメルト接着剤、及びそのホットメルト接着剤が塗工された紙製品を提供できる。本発明に係る紙製品は、ダンボールやカートン等の厚紙から製造するものが特に有効である。」
2 甲2には次の記載がある。
(1)「【0002】
ホットメルト接着剤はパッケージング用途において使用され、その場合、これはしばしば、機能または美的目的のための広範囲のインク、コーティング、およびオーバープリントラッカーで被覆されている、低多孔度紙またはボール紙に接着することが要求される。その他の場合、これらは、ポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)フィルムなどの低表面エネルギー基材、ならびに高いレベルのリサイクル材料のために物理的特性、例えば剛性、密度、および化学組成が変動する箱または基材に接着するように使用される。これらの型の基材には、接着するのが困難である。その結果、接着剤は、これらの障害を克服するように調合されなければならない。結果として、接着剤調合者は、最も広い可能な適用窓を有する接着剤を開発するために、新しい材料および新規調合戦略を継続して評価している。接着剤の適用窓は、適用欠陥および/または製造変数を克服する接着剤の能力として規定される。本発明はホットメルト調合者が高温環境耐性および基材への接着に悪影響を及ぼさずに接着剤の適用窓のバランスをとることができる新規方法を詳述する。
【0003】
歴史的に、接着剤調合者は、ホットタックおよび/または冷温性能を維持しつつ150°F超の熱環境耐性を提供できる結晶、ポリオレフィン系接着剤またはEVA系接着剤を調合しようと奮闘してきた。150°F超での耐熱性を増加させるためには、典型的には、スチレンブロックコポリマ系ポリマが使用される。特にそれらは、完全水素化中間ブロック、例えばKraton G1657を有する。それらは、ポリオレフィン系ポリマとの十分な適合性を維持しながら接着剤の耐熱特性を増加させるために使用できる。別のアプローチは、耐寒性を維持しながら耐熱性を増加させるために、高レベルのポリマ(例えば、30%超)を使用することである。」
(2)「【0013】
本発明は、官能化メタロセン触媒ポリオレフィンエラストマを使用するホットメルト接着剤に関する。より特定的には、本発明の組成物は、ホットタック、接着、可撓性、および150°F超での耐熱性の増加を要求する適用のためのホットメルト接着剤における無水マレイン酸(MAH)官能基とグラフトされたメタロセン触媒ポリオレフィンエラストマの使用に基づく。」
(3)「【0019】
ポリオレフィンポリマは非常に広範囲の分子量、モノマ、密度、結晶化度レベル、および官能性を有して生成される。無水マレイン酸(MAH)とグラフトされたメタロセン触媒ポリオレフィンエラストマは、優秀な接着特性を提供し、最も重要なことには増加した熱環境耐性(150°F超、さらには160°F超)、増加した可撓性、および接着しにくい基材への優秀な接着を提供する。これらのMAHグラフトポリマは、ホットメルト接着剤調合物において第1ポリマとして使用でき、または第2ポリマとしてとして使用でき、バランスの取れた接着特質(優秀な接着、増加した可撓性、低粘度、および150°F超での耐熱性)を提供する。これらのメタロセンポリマの一例としては、Dow Chemical Company製のAffinity(登録商標)GA1000Rが挙げられる。このポリマは0.878グラム/c.cの密度、68℃のDSC融点およびDSCによる−58℃のガラス転移温度を有する。177℃でのブルックフィールド粘度は13,000センチポアズ(cP)であり、メルトインデックス(ASTM1238、190℃、2.16kg荷重)は約660グラム/10分である。」
(4)「【0051】
実施例
2つの試験を使用して、ホットメルト接着剤組成物試料の高温耐性を評価した。第1はマンドレル試験であり、第2は包装技術協会(IOPP)試験である。
・・・
【0055】
表1A、1Bおよび1Cにおける実施例は、無水マレイン酸とグラフトされた官能化ポリオレフィンエラストマを組み込んだ結果としての耐熱性能利点を示す。PA−1およびPA−2と名前が付けられた組成物は、ケースおよびカートンシーリング適用において使用される市販のホットメルト接着剤であり、Bostik,Incから入手可能であり、一方、比較試料1〜13は、非官能化メタロセン触媒ポリオレフィン(Affinity GA1900)のブレンドに基づく様々な調合物を示す。これらのいずれも、160°Fでの24時間のマンドレル試験に合格していない。比較試料13を発明試料1と比較すると、マレイン酸修飾ポリオレフィンポリマ(Affinity GA1000R)を含む発明試料1は、劇的に改善された高温特性を有する。比較試料14を発明試料2と、および比較試料15を発明試料3と比較しても同様である。粘度はマレイン酸修飾ポリマを添加しても著しくは変化しないことに注目することが重要である。驚いたことに、発明試料はずっと高い耐熱特性を有するにも関わらず環球式軟化点は増加しない。
・・・
【0057】
・・・
【表3】
表1C

【表4】

【表5】


3 甲3には次の記載がある。
(1)「【請求項1】
ベース樹脂と、このベース樹脂に非相溶な樹脂と、粘着性付与樹脂と、ワックスと、酸化防止剤とを含むホットメルト接着剤であって、
ベース樹脂が、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとが共重合した少なくとも1種のオレフィン系共重合体であり、
ベース樹脂に非相溶な樹脂が、酢酸ビニル含有率28〜45重量%、メルトフローレート(g/10分)が10〜200を満足するエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、
粘着性付与樹脂が、水添テルペン系樹脂、水添C5系樹脂、水添C9系樹脂、水添ロジン系樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とするホットメルト接着剤。
【請求項2】
ベース樹脂が、エチレンと、1−オクテンとの共重合体である請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項3】
ベース樹脂が20〜50重量%含まれる請求項1または請求項2に記載のホットメルト接着剤。
【請求項4】
ベース樹脂に非相溶な樹脂が0.5〜5重量%含まれる請求項1または請求項2に記載のホットメルト接着剤。
【請求項5】
粘着性付与樹脂が20〜50重量%含まれる請求項1または請求項2に記載のホットメルト接着剤。
【請求項6】
ワックスが10〜30重量%含まれる請求項1または請求項2に記載のホットメルト接着剤。
【請求項7】
酸化防止剤が0.1〜3重量%含まれる請求項1または請求項2に記載のホットメルト接着剤。」
(2)「【0002】
ホットメルト接着剤は、無溶剤であり、瞬間接着、高速接着が可能であるという接着工程および経済面での利点を備えているため、包装、製本、木工等の分野を主体として大量に使用されている。上記ホットメルト接着剤のベース樹脂(主成分)としては、接着性、柔軟性、加熱安定性、価格等のバランスに優れることから、エチレン−酢酸ビニル共重合体やエチレン−アクリル酸エチル共重合体などのエチレン系共重合体が汎用されている。また、一般的に、ホットメルト接着剤は、これらのベース樹脂に対して、粘接着性向上剤としての粘着性付与樹脂や機能改質剤としてのワックス等が添加されている。」
(3)「【0008】
本発明は、上記事情に鑑みて、糸曳きが少なく、熱安定性に優れているホットメルト接着剤を提供することを目的としている。
・・・
【0010】
本発明において、ベース樹脂は、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとが共重合した少なくとも1種のオレフィン系共重合体である。炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、たとえば、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられる。上記オレフィン系共重合体のなかでも、エチレンと炭素数6〜8のα−オレフィンとの共重合体が好ましく、エチレンと1−オクテンとの共重合体がより好ましい。これらのオレフィン系共重合体は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0011】
上記オレフィン系共重合体は、α−オレフィンの共重合割合が20〜40モル%のものが好ましい。また、上記オレフィン系共重合体は、メルトフローレート(g/10分)が5〜2500であることが好ましく、150〜2500であることがより好ましい。なお、オレフィン系共重合体のメルトフローレートは、JIS K7210に準拠して190℃、荷重21.18Nの条件下にて測定されたものをいう。
【0012】
上記エチレンと1−オクテンとの共重合体としては、たとえば、シングルサイトメタロセン触媒を用いて合成されたダウケミカル社製のものとして、商品名アフィニティEG8185(MFR=30)、商品名アフィニティEG8200(MFR=5)、商品名アフィニティGA1900(MFR=1000)、商品名アフィニティGA1950(MFR=500)、商品名アフィニティPT1409(MFR=6)等の市販のものが使用できる。これら市販のエチレンと1−オクテンとの共重合体は、1−オクテンの共重合割合が35〜37モル%である。
【0013】
ベース樹脂の配合割合は、特に限定されないが、20〜50重量%が好ましい。すなわち、ベース樹脂の配合割合が20重量%未満の場合、凝集力不足による接着物の耐熱性の低下や、柔軟性不足による耐寒接着性低下を招く虞があり、50重量%を超える場合、曳糸抑制効果の低下や、被着体への濡れ性低下による接着不良を招く虞がある。」
(4)「【0018】
粘着性付与樹脂としては、水添テルペン系樹脂、水添C5系樹脂、水添C9系樹脂、水添ロジン系樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種であれば、特に限定されないが、たとえば、ヤスハラケミカル社製商品名クリアロンP115(水添テルペン系樹脂)、イーストマンケミカル社製商品名イーストタックC115W(水添C5系樹脂)、荒川化学社製商品名アルコンP115(水添C9系樹脂)、荒川化学社製商品名KR−612(水添ロジン系樹脂)等市販のものが使用できる。
【0019】
粘着性付与樹脂の配合割合は、特に限定されないが、20〜50重量%が好ましい。すなわち、粘着性付与樹脂の配合割合が、20重量%未満の場合、溶融時の粘度が高くなって、塗布性が低下したり、曳糸抑制効果の低下や、被着体への濡れ性低下による接着不良を招く虞があり、50重量%を超える場合、硬くもろくなり接着不良を招く虞がある。」
(5)「【0020】
ワックスとしては、特に限定されないが、たとえば、フィッシャートロプシュワックスやポリエチレンワックスなどの合成系ワックスや、パラフィンワックス、精製パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの天然系ワックス等が挙げられ、なかでも、上記諸機能の付与効果に優れることから、融点が60〜120℃の範囲にあるワックスが好適に用いられる。これらのワックスは、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0021】
ワックスの配合割合は、特に限定されないが、10〜30重量%が好ましい。すなわち、ワックスの配合割合が10重量%未満の場合、粘度が高くなり、塗布性が低下したり、固化速度が遅くなるため、高速ラインに対応できなくなる虞があり、30重量%を超える場合、硬くもろくなり接着不良を招く虞がある。」
(6)「【0026】
本発明にかかるホットメルト接着剤は、以上のように、ベース樹脂と、このベース樹脂に非相溶な樹脂と、粘着性付与樹脂と、ワックスと、酸化防止剤とを含むホットメルト接着剤であって、ベース樹脂としてエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとが共重合した少なくとも1種のオレフィン系共重合体、ベース樹脂に非相溶な樹脂として酢酸ビニル含有率28〜45重量%、メルトフローレート(g/10分)が10〜200を満足するエチレン−酢酸ビニル共重合体、粘着性付与樹脂として水添テルペン系樹脂、水添C5系樹脂、水添C9系樹脂、水添ロジン系樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種を用いるようにしたので、糸曳きが少なく、熱安定性に優れている。
したがって、良好な塗布状態を長時間安定して維持することができ、生産性を向上させることができる。」
(7)「【0029】
(実施例1)
ベース樹脂としてのエチレンと1−オクテンとの共重合体(ダウケミカル社の商品名アフィニティGA1950(MFR=500))35重量部、ベース樹脂に非相溶な樹脂としてのエチレン−酢酸ビニル共重合体(三井デュポン社製商品名エバフレックスV5773(酢酸ビニル含有率33重量%,MFR=90))2重量部、粘着性付与樹脂としての水添テルペン系樹脂(ヤスハラケミカル社製商品名クリアロンP115)40重量部、ワックス(サゾール社製商品名サゾールワックスH1)22重量部、酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ社製商品名イルガノックス1010)1重量部を160℃に温度設定した万能攪拌混練機(ダルトン社製型式「25AM型」、攪拌具:フック)に順次投入し、完全に加熱溶融した後、回転数60rpmで1時間攪拌混練してホットメルト接着剤を得た。
【0030】
(実施例2)
粘着性付与樹脂として水添テルペン系樹脂(ヤスハラケミカル社製商品名クリアロンP115)に代えて、水添C5系樹脂(イーストマンケミカル社製商品名イーストタックC115W)を用いた以外は、実施例1と同様にしてホットメルト接着剤を得た。
【0031】
(実施例3)
粘着性付与樹脂として40重量部の水添テルペン系樹脂(ヤスハラケミカル社製商品名クリアロンP115)に代えて、44重量部の水添C9系樹脂(荒川化学社製商品名アルコンP115)を用いるとともに、ワックスの配合量を18重量部とした以外は、実施例1と同様にしてホットメルト接着剤を得た。
【0032】
(実施例4)
粘着性付与樹脂として40重量部の水添テルペン系樹脂(ヤスハラケミカル社製商品名クリアロンP115)に代えて、44重量部の水添ロジン系樹脂(荒川化学社製商品名KR−612)を用いるとともに、ワックスの配合量を18重量部とした以外は、実施例1と同様にしてホットメルト接着剤を得た。
【0033】
(実施例5)
ベース樹脂としてのエチレンと1−オクテンとの共重合体(ダウケミカル社の商品名アフィニティGA1950(MFR=500))30重量部、ベース樹脂に非相溶な樹脂としてのエチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー社製商品名ウルトラセン760(酢酸ビニル含有率42重量%,MFR=70))4重量部、粘着性付与樹脂としての水添テルペン系樹脂(ヤスハラケミカル社製商品名クリアロンP115)40重量部、ワックス(サゾール社製商品名サゾールワックスH1)25重量部、酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ社製商品名イルガノックス1010)1重量部を160℃に温度設定した万能攪拌混練機(ダルトン社製型式「25AM型」、攪拌具:フック)に順次投入し、完全に加熱溶融した後、回転数60rpmで1時間攪拌混練してホットメルト接着剤を得た。
【0034】
(実施例6)
粘着性付与樹脂として水添テルペン系樹脂(ヤスハラケミカル社製商品名クリアロンP115)に代えて、水添C5系樹脂(イーストマンケミカル社製商品名イーストタックC115W)を用いた以外は、実施例5と同様にしてホットメルト接着剤を得た。
【0035】
(実施例7)
ベース樹脂の配合割合を35重量部とするとともに、粘着性付与樹脂として40重量部の水添テルペン系樹脂(ヤスハラケミカル社製商品名クリアロンP115)に代えて、35重量部の水添C9系樹脂(荒川化学社製商品名アルコンP115)を用いた以外は、実施例5と同様にしてホットメルト接着剤を得た。
【0036】
(実施例8)
ベース樹脂の配合割合を25重量部とするとともに、粘着性付与樹脂として40重量部の水添テルペン系樹脂(ヤスハラケミカル社製商品名クリアロンP115)に代えて、45重量部の水添ロジン系樹脂(荒川化学社製商品名KR−612)を用いた以外は、実施例5と同様にしてホットメルト接着剤を得た。
【0037】
(比較例1)
ベース樹脂としてのエチレンと1−オクテンとの共重合体(ダウケミカル社の商品名アフィニティGA1950(MFR=500))37重量部、粘着性付与樹脂としての水添テルペン系樹脂(ヤスハラケミカル社製商品名クリアロンP115)40重量部、ワックス(サゾール社製商品名サゾールワックスH1)22重量部、酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ社製商品名イルガノックス1010)1重量部を160℃に温度設定した万能攪拌混練機(ダルトン社製型式「25AM型」、攪拌具:フック)に順次投入し、完全に加熱溶融した後、回転数60rpmで1時間攪拌混練してホットメルト接着剤を得た。
【0038】
(比較例2)
粘着性付与樹脂として水添テルペン系樹脂(ヤスハラケミカル社製商品名クリアロンP115)に代えて、水添ジシクロペンタジエン系樹脂(エクソンモービル社製商品名エスコレッツ5320HC)を用いた以外は、実施例1と同様にしてホットメルト接着剤を得た。
【0039】
(比較例3)
ベース樹脂に非相溶な樹脂としてエチレン−酢酸ビニル共重合体(三井デュポン社製商品名エバフレックスV5773(酢酸ビニル含有率33重量%,MFR=90))に代えて、エチレン−酢酸ビニル共重合体(日本ユニカー社製商品名NUC−3160(酢酸ビニル含有率20重量%,MFR=400))用いた以外は、実施例2と同様にしてホットメルト接着剤を得た。」
(8)「【0040】
上記実施例1〜8および比較例1〜3で得たホットメルト接着剤についてそれぞれ、曳糸性、熱安定性について評価し、その結果を表1に示した。
・・・
【0043】
また、表1中、非相溶樹脂Iはエチレン−酢酸ビニル共重合体(三井デュポン社製商品名エバフレックスV5773(酢酸ビニル含有率33重量%,MFR=90))、非相溶樹脂IIはエチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー社製商品名ウルトラセン760(酢酸ビニル含有率42重量%,MFR=70))、非相溶樹脂IIIはエチレン−酢酸ビニル共重合体(日本ユニカー社製商品名NUC−3160(酢酸ビニル含有率20重量%,MFR=400)),粘着性付与樹脂Vは水添テルペン系樹脂(ヤスハラケミカル社製商品名クリアロンP115)、粘着性付与樹脂IIは水添C5系樹脂(イーストマンケミカル社製商品名イーストタックC115W)、粘着性付与樹脂IIIは水添C9系樹脂(荒川化学社製商品名アルコンP115)、粘着性付与樹脂IVは水添ロジン系樹脂(荒川化学社製商品名KR−612)、粘着性付与樹脂Vは水添ジシクロペンタジエン系樹脂(エクソンモービル社製商品名エスコレッツ5320HC)をあらわしている。
【0044】
【表1】


4 甲4には次の記載がある。
(1)「【0008】
本発明の目的は、140℃よりも低温での塗布が可能であり、かつ耐熱性、接着性、および低温接着性に優れたホットメルト接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)ガラス転移温度が−35℃以下であるエチレン系共重合体20重量%を超え40重量%未満、(B)軟化点が120℃以上である粘着付与樹脂30〜50重量%、(C)融解開始温度が60℃以上であるワックス20〜40重量%(ただし、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量は100重量%となる量である)を主成分とする、ホットメルト接着剤組成物である。」
(2)「【0023】
(B)粘着付与樹脂の軟化点は、120℃以上であるが、好ましくは125〜180℃、さらに好ましくは130〜170℃である。120℃未満であるとホットメルトの耐熱性が低くなる場合がある。一方、180℃を超えると接着剤のオープンタイムが短くなり、接着性が低下する場合がある。
なお、(B)粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K5902およびJIS K2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定された値として定義される。
軟化点が120℃以上の(B)粘着付与樹脂は、種々の粘着付与樹脂の中から上記に基づいて軟化点を測定して選定すればよい。
【0024】
また、本発明の(B)粘着付与樹脂には、上記好ましい範囲内の粘着付与樹脂の単独または混合物以外に、凝集力や粘度などの物性を調整する目的で、好ましい範囲以外の粘着付与樹脂を混合しても良い。
【0025】
(B)粘着付与樹脂の配合量は、30〜50重量%である。好ましくは32〜45重量%である。30重量%未満では耐熱接着性が得難く、一方50重量%より多いと接着性が低下する場合がある。」
5 甲5には次の記載がある。
(1)「【請求項1】
(A)オレフィン系重合体、
(B)ブチラール樹脂、
(C)脂肪酸およびその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種、ならびに
(D)粘着付与樹脂
を含むホットメルト接着剤。
【請求項2】
(C)脂肪酸誘導体がヒマシ油および/または硬化ヒマシ油を含んでいる、請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項3】
(A)オレフィン系重合体が、エチレン系共重合体を含む請求項1または2に記載のホットメルト接着剤。
【請求項4】
さらに、(E)ワックスを含んでいる、請求項1〜3のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のホットメルト接着剤が塗布されて製造された紙製品。」
(2)「【0011】
本発明は、糸曳きを低減でき、熱安定性に優れ、紙への接着性、さらに、薬剤が表面にコーティングされたカートンにも優れた接着性を持つホットメルト接着剤を提供することを目的とする。
・・・
【0022】
本発明は、熱安定性および紙等への接着性が高く、糸曳きが少ないホットメルト接着剤を提供することができる。」
(3)「【0100】
<(A)オレフィン系重合体>
(A1)プロピレン/エチレン/1−ブテン共重合体(エボニックデグサ社製の“ベストプラスト703” 重量平均分子量34000)
(A2)エチレン/オクテン共重合体(ダウケミカル社製の“AFFINITY GA1950” 重量平均分子量30000)
(A3)エチレン/酢酸ビニル共重合体(東ソー社製の“ウルトラセン722” 重量平均分子量60000)
(A4)エチレン/メタクリル酸メチル重合体(住友化学社製の“アクリフトCM5022” 重量平均分子量35000)
(A5)ポリプロピレン(出光化学社製の“L−MODU S400” 重量平均分子量40000)
(A6)ポリエチレン(東ソー社製の“ペトロセン249”)
(A7)エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合樹脂(住友化学社製の“ボンドファースト7M” 重量平均分子量140000)
(A8)エチレン/1−オクテンマレイン酸共重合体(ダウ・ケミカル社製の“AFFINITY GA1000R” 重量平均分子量30000)
(A9)エチレン/エチルアクリレートマレイン酸共重合体(アルケマ社製の“BONDAINE HX8210” 重量平均分子量80000)
【0101】
<(B)ブチラール樹脂>
(B1)ポリビニルブチラール樹脂(積水化学社製の“エスレックB BL−1” 数平均分子量19,000)
(B2)ポリビニルブチラール樹脂(積水化学社製の“エスレックB BM−1” 数平均分子量40,000)
(B3)ポリビニルブチラール樹脂(積水化学社製の“エスレックB BH−3” 数平均分子量110,000)
【0102】
<(C)脂肪酸およびその誘導体>
(C1)水添ヒマシ硬化油(日油株式会社製の“カスターワックスA”)
(C2)精製ヒマシ油(伊藤製油株式会社製の“LAV”)
(C3)エポキシ化大豆油(日油株式会社製の“ニューサイザー510R”)
(C4)ステアリン酸(日油株式会社製の“ステアリン酸さくら”)
(C5)12−ヒドロキシステアリン酸(日油株式会社製の“ヒマシ硬化脂肪酸”)
(C6)オレイン酸(日油株式会社製の“NAA−34”)
【0103】
<(D)粘着付与樹脂>
(D1)芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体(出光興産社製の“アイマーブP100”)
(D2)芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体(出光興産社製の“アイマーブS100”)
【0104】
<(E)ワックス>
(E1)パラフィンワックス(日本精蝋社製の“Paraffin Wax150”)
(E2)マレイン酸変性フィッシャートロプシュワックス(Sasol社製の“サゾールH105”)
(E3)フィッシャートロプシュワックス(Sasol社製の“サゾールH1”)
(E4)フィッシャートロプシュワックス(Sasol社製の“サゾールC80”)
【0105】
<(F)安定化剤>
(F1)酸化防止剤(アデカ社製の“AO−60”)
【0106】
これらの成分を表1〜3に示す割合(重量部)で配合し、約160℃で約3時間かけて万能攪拌機を用いて溶融混合し、実施例1〜21、比較例1〜4のホットメルト接着剤を調製した。表1〜3に示されるホットメルト接着剤の組成(配合)に関する数値は、全て重量部である。」
(4)「【0124】
【表1】


6 甲7には次の記載がある。
「【0067】
(C)粘着付与剤
(C1)部分水素添加型石油樹脂(出光石油化学社製の「アイマーブS100」(商品名)、軟化点100℃、重量平均分子量1,200)」
7 甲8には次の記載がある。
『【0089】
・・・「スーパーエステルA−100」(軟化点100℃)』
8 甲9には次の記載がある。
「【0019】
・・・荒川化学社製アルコンP125(軟化点125℃)、出光興産製アイマーブY135(軟化点135℃)、荒川化学社製アルコンM135(軟化点135℃)、出光興産製アイマーブP140(軟化点140℃)、荒川化学社製アルコンP140(軟化点140℃)・・・」
9 甲10には次の記載がある。
「【0086】
(C)粘着付与樹脂
(C1)水添C5系樹脂(イーストマンケミカル製 商品名 イーストタックレジンH142R、重量平均分子量1030、軟化点142℃)」
10 甲11の製品一覧表には次の記載がある。
「品名 外観 ・・・ 軟化点(環球法)℃
P−115 無色透明ペレット 115±5」
11 甲12には次の記載がある。
「【0069】
・・・石油樹脂:エクソンモービル社製、商品名「エスコレッツ5320HC」、軟化点125℃」
12 甲13には当審訳にして次の記載がある。
「製品名 外観 軟化点(℃)
CLEAEON P115 粒状 115±5」

第5 記載要件についての当審の判断
1 サポート要件について
一般に「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。・・・」されているところ、〔知財高裁平成17年(行ケ)10042号平成17年11月11日判決言渡。〕このような観点に基づいて、本件請求項1〜5の記載のサポート要件の適否を以下に検討する。
2 本件への当てはめ
(1)本件発明1〜5の解決しようとする課題
前記第2、2(1)に摘記した本件特許明細書の段落0014の記載からみて、本件発明1〜5の解決しようとする課題は「糸曳き性の問題が改善された上で、塗布硬化前の熱安定性に優れ、さらには、塗布硬化後においても広い温度域において、特に高温域において接着性が低下しにくく、高いクリープ性を維持できるホットメルト接着剤を提供する」ことにあるといえる。
(2)そして、前記第2、2(1)に摘記した本件特許明細書の段落0015に記載されているように、その課題を解決するために、共重合体成分及び粘着付与樹脂の軟化点を特定し、かつ、共重合体成分、ワックス成分、及び粘着付与樹脂成分の組成を所定の範囲内とすることにより課題が解決できることを見いだし、本発明が完成されたものといえる。
(3)具体的には、本件請求項1に特定された各種の量比を満たす場合には、前記第2、2(7)に摘記したように、接着性、耐熱クリープ性、加熱安定性、糸曳き性のいずれにも優れた評価が得られる実施例が得られているのに対して、同量比のいずれかを満たさない場合には、いずれにも優れた評価が得られていない。
(4)そうすると、本件請求項1〜5に記載された発明は、明細書に記載された前記課題が解決できている各実施例から把握できる発明であるといえる。
(5)したがって、本件請求項1〜5の記載は、特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たすものである。
3 申立人の主張について
(1)ワックスについて
ア 申立人は、特許異議の申立書の第14〜16頁において、「ワックスの諸物性(融点、溶融粘度、他の成分との相溶性等)は、種類によって大きく異なるものであることは技術常識であるから、実際に実施例において唯一確認されている「フィッシャートロプシュワックス」以外のワックスを用いた場合でも、本件発明の効果を奏するか否かは不明である。」と主張する。
イ また、申立人は、「また、本件明細書の段落【0040】には、ワックスの含有量を特定範囲とすることで、その範囲外では、接着剤の硬化速度が遅くなり塗工性が低下し、高速ラインに適さなくなることや、硬化後のホットメルト接着剤の耐熱性が不十分となる旨が記載されているものの、「フィッシャートロプシュワックス」以外の様々なワックスの場合であっても、含有量さえ特定の範囲とすればよいとする根拠が明らかでない。」と主張している。
ウ しかしながら、申立人の主張は、単なる懸念を述べるに留まるものであって、ワックスの種類やその物性が、本件発明のホットメルト接着剤の糸曳き性や、塗布硬化前の熱安定性等に対してどの程度の影響を及ぼすかに関する具体的な予測、立証を含むものではない。
エ そうすると、本件発明の「ワックス成分」にはその課題を解決することができないものが含まれているとはいえないから、申立人の主張は採用できない。
オ なお、申立人の提示した甲6は、当審の判断を拘束するものではない。
(2)粘着付与樹脂成分について
ア 申立人は、特許異議の申立書の16〜17頁において、「粘着付与樹脂成分の諸特性(他の成分との相溶性等)は、種類によって大きく異なるものであることは技術常識であるから、実際に実施例において確認されている「脂肪族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の完全水添石油炭化水素樹脂」以外の粘着付与樹脂成分を用いた場合でも、本件発明の効果を奏するか否かは不明である。」と主張している。
イ また、申立人は、「甲3に示すホットメルト接着剤に関する熱安定性評価試験の一例によれば、その実施例1(甲3)と比較例2(甲3)とを対比すると両者の相違点は粘着付与樹脂成分のみであるところ、粘着付与樹脂成分として「水添テルペン系樹脂(軟化点115±5で、クリアロンP115)」を用いた実施例1では熱安定性評価が「〇」であるのに対し、粘着付与樹脂成分として「水添ジシクロペンタジェン系樹脂(軟化点125℃:、エスコレッツ5320HC)」を用いた比較例2では熱安定性評価が「×」である(なお、甲3の上記エスコレッツ532。HC」の軟化点については、甲12の段落【0069】を参照。同「クリアロンP115」の軟化点については、甲13を参照)。」と主張する。
ウ 前記アの主張については、前記(1)ウ〜オと同様に、申立人の主張は採用できない。
エ 前記イの主張に対して
前記第4、3(1)に摘記した甲3の請求項1に記載されているように、甲3に記載された発明は「粘着性付与樹脂が、水添テルペン系樹脂、水添C5系樹脂、水添C9系樹脂、水添ロジン系樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とするホットメルト接着剤。」という発明であって、粘着性付与樹脂を選択することにより、甲3に記載された発明の課題を解決しようとするものである。
本件発明とは課題を解決する手段が異なっているのだから、本件発明において粘着付与樹脂の種類が特定されていないことにより、サポート要件を満たさなくなるという根拠にはならない。

第6 進歩性についての当審の判断
1 甲1発明を主引用例とする判断
(1)甲1発明の認定
前記第4、1(6)に摘記した甲1の実施例11から、次の発明(以下「甲1発明」という。)が読み取れる。
「(A)極性官能基で変性された重合体として、
(A1−2)アミノ基変性SEBC(JSR製の“ダイナロン4630P”)を3重量部
(A2−2)エチレン/1−オクテンマレイン酸共重合体を5重量部ダウ・ケミカル社製の“AFFINITY GA1000R”)を5重量部
(B)ブチラール樹脂として、
(B1)ポリビニルブチラール樹脂(積水化学社製の“エスレックB BL−1”)を30重量部
(C)オレフィン系重合体として、
(C2)エチレン/オクテン共重合体(ダウケミカル社製の“AFFINITY GA1950”)を10重量部
(C4)エチレン/メタクリル酸メチル共重合体を2重量部
(D)粘着付与樹脂として、
(D1)芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体(出光興産社製の“アイマーブP125”)を10重量部
(D2)芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体(出光興産社製の“アイマーブS100”)を10重量部
(D3)ロジンエステル(荒川化学社製の“スーパーエステルA100”)を10重量部、
(E)ワックスとして
(E3)フィッシャートロプシュワックス(Sasol社製の“サゾールH1”)を20重量部
(F)安定化剤として
(F1)酸化防止剤(アデカ社製の“AO−60”)を0.9重量部
の割合で配合し、溶融混合したホットメルト接着剤。」
(2)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明における共重合体成分について
(ア)甲1発明における成分としては、成分(A1−2)、成分(A2−2)、成分(C2)及び成分(C4)が本件発明1における「(A)共重合体成分」に相当する。また、成分(B)ブチラール樹脂は、共重合体といえないので、本件特許の共重合体成分には相当しない。
(イ)甲1発明における成分(A2−2)エチレン/1−オクテンマレイン酸共重合体は、本件発明における「(A1)官能化エチレン−α−オレフィン共重合体」に相当する。
(ウ)甲1発明における成分(C4)エチレン/メタクリル酸メチル共重合体は、本件発明1における「(A2)エチレン−カルボン酸エステル共重合体」に相当する。
イ 甲1発明における成分「(E3)フィッシャートロプシュワックス」が、本件発明1における「(B)ワックス成分」に相当する。
ウ 甲1発明における成分(D)粘着付与樹脂、すなわち(D1)、(D2)、(D3)全てが、本件発明における「(C)粘着付与樹脂成分」に相当する。
エ 重量部について
(ア)甲1発明における共重合体成分の合計量は、3+5+10+2=20重量部となる。
(イ)甲1発明において、(A2−2)の前記(ア)の合計量に対する比率は、25重量%となり、(C4)については、10重量%となり、それぞれ、本件発明1の「23〜95質量%」、「10〜26質量%」を充足する。
(ウ)甲1発明において、(E3)成分の前記(ア)の合計量に対する比率は、100重量%となり、本件発明における「10〜62質量部」を充足しない。
(エ)甲1発明において、(D1)、(D2)、(D3)成分の合計量の前記(ア)の合計量に対する比率は、150重量%となり、本件発明における「118〜165質量部」を充足する。
エ 軟化点について
(ア)甲1発明の「(D1)芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体(出光興産社製の“アイマーブP125”」の軟化点は、前記第2、2(6)に摘記した本件特許明細書の段落【0056】の記載からみて、125℃であるといえる。また、125℃という軟化点は、前記第4、8に摘記した甲9の段落【0019】に記載された各アイマープに付けられた数字と、軟化点が一致していることからも認めることができる。
(イ)甲1発明の「(D2)芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体(出光興産社製の“アイマーブS100”)」の軟化点は、前記第4、6に摘記した甲7の記載から100℃である。
(ウ)甲1発明の「(D3)ロジンエステル(荒川化学社製の“スーパーエステルA100”)」は、前記第4、6に摘記した甲8の段落【0067】からみて、軟化点が100℃と認められる。
(エ)ただし、D1〜D3を混合したときの軟化点は明らかでない。
オ 一致点・相違点
以上から、本件発明1と甲1発明とは次の一致点及び相違点がある。
(ア)一致点
「 (A)共重合体成分、(B)ワックス成分及び(C)粘着付与樹脂成分を含むホットメルト接着剤であって、
前記(A)は、(A1)官能化エチレン−α−オレフィン共重合体及び(A2)エチレン−カルボン酸エステル共重合体を少なくとも有し、
前記(A)100質量%中に、前記(A1)を23〜95質量%、前記(A2)を5〜20質量%含み、
前記(A)100質量部に対して、前記(C)を118〜165質量部、含む、
ホットメルト接着剤。」である点。
(イ)相違点1−1
ワックス成分について、本件発明1においては、「前記(A)100質量部に対して、前記(B)を10〜62質量部」含むのに対して、甲1発明においては、共重合体成分100質量部に対して、ワックス成分が100質量部含まれる点。
(ウ)相違点1−2
粘着付与樹脂成分について、本件発明1においては、「環球式軟化点は120℃以上」と特定されるのに対して、甲1発明における軟化点は、前記エ(エ)に検討したように明らかでない点。
(3)相違点についての判断
ア 相違点1−1
(ア)前記第4,1(6)に摘記した甲1の段落【0096】には、ワックス成分の含有量の好ましい範囲が記載されているが、「(A)〜(E)成分の総重量」に対する範囲であるから、共重合体成分(A)100重量部に対してどの程度含有させるかの動機付けになる記載ではない。
(イ)前記第4、2(4)に摘記した甲2の段落【0057】の【表3】Inv.4には、無水マレイン酸エチレンオクテンポリマー(AFFINITY GA1000R)を5重量%、エチレンオクテンポリマー20重量%、ポリオレフィンワックス(Epolen C−10)を15重量%含有するホットメルト接着剤が開示されている。
この場合、共重合体成分100重量部に対して、ワックスが60質量%含まれることになるが、この甲2のInv.4における共重合体成分に対するワックスの量を、甲1発明に適用することに動機付けがあるということはできない。
(ウ)そして、他に甲1発明のワックス成分の量を減少させようとする動機付けがあると認めるに足りる証拠はない。
(エ)そして、前記第2、2(7)に摘記した本件特許明細書の段落【0063】【表1】における実施例1と同段落【0066】【表4】における比較例4、5とを対比すると、共重合体成分100重量部に対して、ワックスが、44重量部(実施例1)、66重量部(比較例4)、7重量部(比較例5)の違いにより、耐熱クリープ性及び加熱安定性に相違が生じることがわかる。
(オ)そうすると、本件発明1における共重合体成分100重量部に対するワックスの量の数値範囲には、臨界的意義があるといえ、効果の予測性がないということができる。
(カ)以上から、相違点1−2について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明及び甲1〜5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものということはできない。
イ 申立人の主張について
(ア)申立人は、甲1発明におけるワックスの量を半減することは当業者が容易になし得る主張する。
(イ)しかしながら、甲1発明に接した当業者がワックスの量を半分にしようとする動機付けがあるといえないことは前記のとおりであり、また、仮に動機付けがあったとしても、効果の予測性があるということができないから、申立人の主張は採用できない。
ウ 本件発明2〜5について
本件発明2〜5は、本件発明1を引用し、かつ、発明特定事項を追加したものであるから、本件発明1と同様に甲1発明及び甲1〜5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明ではない。
2 甲3発明を主引用例とする判断
(1)甲3発明の認定
前記第4、3(8)に摘記した甲3の段落【0031】に記載された実施例3に記載された次の発明(以下「甲3発明」という。)が把握できる。
「ベース樹脂としてエチレンと1−オクテンとの共重合体を35重量部
ベース樹脂に非相溶な樹脂としてのエチレン−酢酸ビニル共重合体(三井デュポン社製商品名エバフレックスV5773(酢酸ビニル含有率33重量%,MFR=90))を2重量部
粘着性付与樹脂として水添C9系樹脂(荒川化学社製商品名アルコンP115)を44重量部
ワックス(サゾール社製商品名サゾールワックスH1)を18重量部
酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ社製商品名イルガノックス1010)を1重量部
の割合で配合し、加熱溶融し、混練したホットメルト接着剤。」
(2)本件発明1と甲3発明との対比
ア 甲3発明の「エチレンと1−オクテンとの共重合体」及び「エチレン−酢酸ビニル共重合体」は、本件発明1における「(A)共重合体成分」に相当し、「エチレン−酢酸ビニル共重合体」における酢酸ビニルは、カルボン酸である酢酸のビニルエステルであるから、本件発明1における「(A2)エチレン−カルボン酸エステル共重合体」に相当する。
イ 甲3発明の「ワックス」、「粘着性付与樹脂」は、本件発明1における「(B)ワックス成分」、「(C)粘着付与樹脂成分」にそれぞれ相当する。
ウ 軟化点について
甲3発明の「粘着性付与樹脂として水添C9系樹脂(荒川化学社製商品名アルコンP115)」は、前記第4、10に摘記した甲11の記載から、その環球式軟化点は、115±5℃である。
エ 量比
(ア)甲3発明における「エチレンと1−オクテンの共重合体」及び「エチレン−酢酸ビニル共重合体」を合計すると、35+2=37重量部となる。
(イ)甲3発明における「ワックス」は、18重量部であるから、「エチレンと1−オクテン」及び「エチレン−酢酸ビニル共重合体」との合計を100重量部とすると、48.6重量部となり、本件発明1の「10〜62質量部」を充足する。
(ウ)甲3発明における「粘着性付与樹脂」は、44重量部であるから、「エチレンと1−オクテン」及び「エチレン−酢酸ビニル共重合体」との合計を100重量部とすると、118.9重量部となり、本件発明1の「118〜165質量部」を充足する。
(エ)甲3発明における「エチレン−酢酸ビニル共重合体」は、共重合体成分100質量%中5.4質量%存在することになるから、本件発明1の「前記(A)100質量%中に、・・・前記(A2)を5〜20質量%含み」を充足する。
オ 一致点・相違点
以上から、本件発明1と甲3発明とは次の一致点及び相違点がある。
(ア)一致点
「(A)共重合体成分、(B)ワックス成分及び(C)粘着付与樹脂成分を含むホットメルト接着剤であって、
前記(A)100質量部に対して、前記(B)を10〜62質量部、及び前記(C)を118〜165質量部含むホットメルト接着剤。」
(イ)相違点3−1
共重合体成分について、本件発明1においては、「 前記(A)は、(A1)官能化エチレン−α−オレフィン共重合体・・・を少なくとも有し、
前記(A)100質量%中に、前記(A1)を23〜95質量%・・・含」むのに対して、甲3発明においては、(A1)に対応するエチレン−α−オレフィン共重合体が官能化されておらず、したがって、(A)中の(A1)はゼロである点。
(ウ)相違点3−2
粘着付与樹脂の環球式軟化点について、本件発明1においては、「120℃以上」と特定されているのに対し、前記ウで検討したように、甲3発明においては、「115±5℃」である点。
(3)相違点についての判断
ア 相違点2−1について
(ア)前記第4、2(3)に摘記した甲2の段落【0019】には、本件発明1の「(A1)成分」であるに関して、「これらのメタロセンポリマの一例としては、Dow Chemical Company製のAffinity(登録商標)GA1000Rが挙げられる。」とされており、また、同(4)に摘記した甲2の段落【0055】には、このポリマーが耐熱性を向上させることが記載されている。
(イ)しかしながら、甲3発明における「ベース樹脂としてエチレンと1−オクテンとの共重合体」を、官能化エチレン−α−オレフィン共重合体に置き換え、その含有量を規定することには、当業者であっても、これを動機付けるような記載ないし示唆が必要であり、当業者が容易に想到しうることといえない。
(ウ)すなわち、甲3発明の「ベース樹脂としてエチレンと1−オクテンとの共重合体」は35重量部用いられているが、エチレンと1―オクテンとの共重合体と官能化エチレン−α−オレフィン共重合体とは性質が異なるからどの程度含有させるかの参考にはならない。
(エ)また、甲3発明においては、ベース樹脂は、エチレン−酢酸ビニル共重合体と非相溶でなければならないが、官能化することにより、非相溶性が保たれるかは明らかでないから、相違点3−1には阻害要因があるともいえる。
(オ)以上から、相違点3−2について検討するまでもなく、本件発明1が甲3発明及び甲1〜5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものということはできない。
イ 本件発明2〜5について
本件発明2〜5は、本件発明1を引用し、かつ、発明特定事項を追加したものであるから、本件発明1と同様に甲3発明及び甲1〜5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明ではない。
3 小括
以上のとおり、本件発明1〜5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ということはできない。

第7 むすび
したがって、本件発明1〜5に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-15 
出願番号 P2017-155763
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C09J)
P 1 651・ 121- Y (C09J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 瀬下 浩一
門前 浩一
登録日 2021-07-16 
登録番号 6914522
権利者 積水フーラー株式会社
発明の名称 ホットメルト接着剤  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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