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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1386173
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-08 
確定日 2022-06-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6920509号発明「金属調塗膜、それを有する成型体及び金属調塗膜の形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6920509号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6920509号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、令和2年4月28日の出願であって、令和3年7月28日にその特許権の設定登録がされ、令和3年8月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年2月8日に特許異議申立人藤下万実(以下「申立人」という。)により、本件特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
特許第6920509号の請求項1〜5に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材の表面上に設けられる金属調塗膜において、
金属フィラーの一つの粒子からなる及び/又は前記金属フィラーの複数の粒子が相互に少なくとも一部において重なり合ってなる複数の島部と、
第1樹脂成分を含有するトップコート層と、を備え、
前記金属フィラーの粒子は、鱗片状粒子であり、
前記島部は、前記基材の表面上又は前記基材の表面上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に散在しており、
前記トップコート層は、前記島部の表面上を覆うとともに、前記島部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っており、
前記金属フィラーは、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、少なくとも、0.01〜1μmの範囲にピークを有し、かつ、インジウムフィラー及びスズフィラーの中から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする金属調塗膜。
【請求項2】
前記金属調塗膜の表面の単位面積に占める前記島部の占める割合が25%以上100%未満であることを特徴とする請求項1に記載の金属調塗膜。
【請求項3】
前記基材が透明性を有し、
請求項1又は2に記載の金属調塗膜が、前記基材の裏側の面に設けられていることを特徴とする金属調塗膜を有する成型体。
【請求項4】
基材の表面上に設けられる金属調塗膜の形成方法において、
前記基材の表面上又は前記基材上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に、鱗片状の金属フィラーと溶剤とを含有し、かつ、樹脂成分を含有しない島部形成用塗料を塗布して島部を形成する工程と、
前記島部が形成された面上に、トップコート層形成用塗料を塗布して第1樹脂成分を含有するトップコート層を形成する工程と、を有し、
前記島部は、前記金属フィラーの一つの粒子からなる及び/又は前記金属フィラーの複数の粒子が相互に少なくとも一部において重なり合ってなり、かつ、前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上に散在しており、
前記トップコート層は、前記島部の表面上を覆うとともに、前記島部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っており、
前記金属フィラーは、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、少なくとも、0.01〜1μmの範囲にピークを有し、かつ、インジウムフィラー及びスズフィラーの中から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする金属調塗膜の形成方法。
【請求項5】
前記第2樹脂成分は、アクリルウレタン樹脂であり、
前記アンダーコート層は、平均分子量1000〜20000のアクリルポリオールと平均分子量1000〜6000のポリカーボネートジオールとを含む第一液と、ポリイソシアネートを含む第二液と、を有するアンダーコート層形成用塗料を塗布する工程によって形成されることを特徴とする請求項4に記載の金属調塗膜の形成方法。」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、以下に示す甲第1号証〜甲第9号証(以下「甲1」等という。)を提出し、本件発明1〜5に係る特許は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。

1 申立理由1(進歩性
本件発明1〜5は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項、又は甲2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

2 申立理由2(明確性
請求項5に記載された「平均分子量」は、重量平均分子量なのか、数平均分子量なのか、不明瞭である。また、「平均分子量」は測定方法と測定条件により値が異なるが、明細書には、平均分子量の測定方法が記載されていない。
したがって、請求項5に係る発明は不明確であり、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合しない。

[引用文献等一覧]
甲1:特開2012−30161号公報
甲2:特開2000−176365号公報
甲3:特開2017−136819号公報
甲4:“技術進化に迅速対応 透明導電性フィルム 用途開拓を推進”,日刊工業新聞,株式会社日刊工業新聞社,2011年(平成23年)1月28日,24ページ
甲5:“OIJC WEB掲載資料”,[online],2019年(平成31年)2月19日,尾池工業株式会社粉体材料SBU,インターネット

甲6:“リーフパウダー〇R(当審注:〇の中にアルファベットのRを代用。)のページ”,[online],2020年(令和2年)4月25日,尾池工業株式会社,インターネット

甲7:特開2021−175795号公報
甲8:特開2004−251868号公報
甲9:再公表特許WO2016/80423号

第4 当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1)引用文献の記載
ア 甲1
甲1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、強調のため当審が付した。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂成形品上に形成された艶消しベースコート層と、該艶消しベースコート層上に形成されたインジウム、スズ、またはこれらの合金からなる金属薄膜層と、該金属薄膜層上に形成されたクリアトップコート層とを備えた自動車用耐融雪剤性複合塗膜において、
前記艶消しベースコート層は、ベースコート用樹脂と、該ベースコート用樹脂100質量部に対して、艶消し剤粒子として2.5〜36.0質量部のアクリル架橋粒子および/または2.5〜28.0質量部のウレタン架橋粒子(ただし、アクリル架橋粒子とウレタン架橋粒子の合計を36.0質量部以下とする。)とを含有することを特徴とする自動車用耐融雪剤性複合塗膜。」
「【背景技術】
【0002】
自動車のラジエターグリル、バンパー等の自動車外装部品などに用いられる合成樹脂成形品には、意匠性を付与するために、表面に蒸着法やスパッタリング法によって金属薄膜層が形成される場合が多い。金属薄膜層を形成する際は、例えば図2に示すように、合成樹脂成形品21上にベースコート層22を設け、該ベースコート層22上に金属薄膜層23を形成し、さらに該金属薄膜層23上にトップコート層24を形成し、複合塗膜20とするのが一般的である。
近年、ラジエターグリル、バンパー等には、各種センサーの電波を透過できること(電波透過性)が求められている。そのため、金属薄膜層には、電波を透過しやすい不連続膜を形成できるインジウム、スズ、またはこれらの合金が使用される場合が多い。」
「【0013】
<艶消しベースコート層>
艶消しベースコート層12は、ベースコート用樹脂と、艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子および/またはウレタン架橋粒子とを含有する。
ベースコート用樹脂としては、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等の硬化性樹脂が好ましい。硬化性樹脂としては、例えばウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの中でもウレタン樹脂が好ましい。
これら硬化性樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
ウレタン樹脂としては、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、アルキッド樹脂などの主剤と、イソシアネート化合物などの硬化剤とを含む2液型のウレタン樹脂が好ましい。
主剤としては、例えば日立化成工業株式会社製のアクリルポリオール「ヒタロイド3469」;日立化成工業株式会社製のポリエステルポリオール「エスペル1692」;日立化成工業株式会社製のアルキッド樹脂「フタルキッド235−50」等が好適である。
一方、硬化剤としてはジフェニルメタンジイソシアネート化合物、トリレンジイソシアネート化合物、キシレンジイソシアネート化合物、ヘキサメチレンジイソシアネート化合物等が挙げられる。市販品としては、例えば住化バイエルウレタン株式会社製のヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体「デスモジュールN3300」;旭化成ケミカルズ株式会社製のヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体「デュラネート24A−100」等が好適である。」
「【0032】
<金属薄膜層>
金属薄膜層13はインジウム、スズ、またはこれらの合金からなる不連続膜である。
金属薄膜層13が不連続膜であることにより、複合塗膜10は、各種センサーの電波を透過できる。
また、金属薄膜層13が不連続膜であるため、後述するクリアトップコート層14は金属薄膜層13のみならず、艶消しベースコート層12とも接することになる。従って、複合塗膜10全体としての付着性は、金属薄膜層13とクリアトップコート層14との付着性、および艶消しベースコート層12とクリアトップコート層14との付着性の両方に依存する。よって、金属薄膜層13が不連続膜であることにより、複合塗膜10の付着性が向上する。
【0033】
金属薄膜層13は、蒸着法またはスパッタリング法により形成される。
金属薄膜層13の厚さは、5〜150nmが好ましく、30〜100nmがより好ましい。厚さが5nm以上であれば、金属外観が良好となる。一方、厚さが150nm以下であれば、白ボケが抑制され、良好な金属外観が得られる。
【0034】
<クリアトップコート層>
クリアトップコート層14は、トップコート用樹脂と必要に応じて添加剤とを含有する。
トップコート用樹脂としては、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等の硬化性樹脂が好ましい。硬化性樹脂としては、艶消しベースコート層の説明において先に例示した硬化性樹脂が挙げられる。」
「【0037】
<複合塗膜の製造方法>
本発明の複合塗膜10は、合成樹脂成形品11上に艶消しベースコート層12、金属薄膜層13、クリアトップコート層14を順次形成することで得られる。
合成樹脂成形品11としては、自動車のラジエターグリル、バンパー、ホイールキャップ、サイドモール等の自動車外装部品などが挙げられる。
また、合成樹脂成形品11の材料としては、自動車外装部品に用いられる樹脂であれば特に制限されないが、例えばポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ナイロン樹脂等が挙げられる。
【0038】
ここで、複合塗膜10の製造方法の一例について、具体的に説明する。
まず、合成樹脂成形品11上に艶消しベースコート層12を形成する。艶消しベースコート層12は、上述したベースコート用樹脂と、艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子および/またはウレタン架橋粒子と、必要に応じてその他添加剤とを混合してベースコート用塗料を調製し、該ベースコート用塗料を合成樹脂成形品11上に塗布し、乾燥することで形成できる。
ベースコート用塗料は、必要に応じて溶剤によって濃度を調整して用いてもよい。溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、ソルベントナフサ、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン系溶剤が挙げられる。これら溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。」
「【0040】
ついで、艶消しベースコート層12上に、蒸着法またはスパッタリング法により金属薄膜層13を形成する。
ついで、金属薄膜層13上にクリアトップコート層14を形成し、複合塗膜10を得る。クリアトップコート層14は、上述したトップコート用樹脂と、必要に応じて添加剤とを混合してトップコート用塗料を調製し、該トップコート用塗料を金属薄膜層13上に塗布し、乾燥することで形成できる。
トップコート用塗料は、必要に応じて溶剤によって濃度を調整して用いてもよい。溶剤としては、ベースコート用塗料の説明において先に例示した溶剤が挙げられる。
また、トップコート用塗料の塗布方法、および乾燥方法としては、ベースコート用塗料の塗布方法および乾燥方法と同様である。」
「【図1】



甲1の【0040】の記載及び【図1】を参照すると、クリアトップコート層は、金属薄膜層の表面を覆うとともに、金属薄膜層が存在しない部分では艶消しベースコート層の表面上を覆っていることが認められる。

上記記載及び図面並びに認定事項から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」、「甲1方法発明」という。)が記載されているものと認められる。
甲1発明
「合成樹脂成形品上に形成された艶消しベースコート層と、該艶消しベースコート層上に形成された金属薄膜層と、該金属薄膜層上に形成されたクリアトップコート層とを備えた自動車用耐融雪剤性複合塗膜において、
金属薄膜層は、インジウム、スズ、またはこれらの合金からなる不連続膜であり、
クリアトップコート層14は、トップコート用樹脂を含有し、
艶消しベースコート層12は、ベースコート用樹脂と、艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子またはウレタン架橋粒子を含有し、
クリアトップコート層は、金属薄膜層の表面を覆うとともに、金属薄膜層が存在しない部分では艶消しベースコート層の表面上を覆っている自動車用耐融雪剤性複合塗膜。」
甲1方法発明
「合成樹脂成形品上に艶消しベースコート層、金属薄膜層、クリアトップコート層を順次形成することで得られる自動車用耐融雪剤性複合塗膜の形成方法において、
艶消しベースコート層上に、蒸着法またはスパッタリング法により金属薄膜層を形成する工程と、
金属薄膜層上にクリアトップコート層を形成する工程と、を有し、
金属薄膜層は、インジウム、スズ、またはこれらの合金からなる不連続膜であり、
クリアトップコート層14は、トップコート用樹脂を含有し、
艶消しベースコート層12は、ベースコート用樹脂と、艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子またはウレタン架橋粒子を含有し、
クリアトップコート層は、金属薄膜層の表面を覆うとともに、金属薄膜層が存在しない部分では艶消しベースコート層の表面上を覆っている自動車用耐融雪剤性複合塗膜の形成方法。」

イ 甲2
甲2には、次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料を含むメタリック塗料を塗布することにより、プラスチック基材の上に金属調光沢塗膜を形成することを特徴とする金属調光沢塗膜の形成方法。
【請求項2】 プラスチック基材の上に、第一塗膜層を形成し、該第一塗膜層の上に蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料を含むメタリック塗料を塗布することにより第二塗膜層を形成し、該第二塗膜層の上に第三塗膜層を形成することを特徴とする請求項1に記載の金属調光沢塗膜の形成方法。
【請求項3】 前記第一塗膜層がクリヤ塗膜または着色塗膜から形成されており、前記第三塗膜層がクリヤ塗膜または濁りクリヤ塗膜から形成されている請求項2に記載の金属調光沢塗膜の形成方法。
【請求項4】 前記プラスチック基材が透明性を有する基材であり、前記第一塗膜層がクリヤ塗膜または濁りクリヤ塗膜から形成されており、前記第三塗膜層が着色塗膜から形成されている請求項2に記載の金属調光沢塗膜の形成方法。」
「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】自動車部品や電化製品等の部品においては、プラスチック材料からなる部品に高級感を与えるなどの目的で金属調光沢を付与するため、金属メッキや金属蒸着などの方法により、表面に金属薄膜を析出し付着させている。
【0003】しかしながら、金属メッキによる方法では、プラスチック表面に導電性を付与する必要があるため、無電解メッキ等を施しプラスチック基材の表面に導電層を形成するなどの必要がある。また、基材全体をメッキ浴に浸漬する必要があり、製造工程が複雑で、設備上種々の制限があった。また、金属を蒸着させる方法では、真空または減圧容器中に基材を設置する必要があり、大型の基材には適用できないという問題があった。また、製造工程上も、減圧にする必要があるなど実用化にあたり制限があった。
【0004】本発明の目的は、プラスチック基材の表面に対して簡易に金属調光沢を付与することができる方法を提供することにある。」
「【0012】以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
光輝性顔料
本発明で用いられる光輝性顔料は、蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料であれば特に限定されるものではない。このような光輝性顔料は、一般に基材フィルム上に金属膜を蒸着させ、基材フィルムを剥離した後、蒸着金属膜を粉砕して金属片とすることにより得られる。蒸着金属膜の厚み、すなわち粉砕して得られる金属片の厚みとしては、一般には100〜1000Å程度が好ましい。また、粉砕の程度としては、粒径が約5μm〜約100μm程度となるように粉砕されることが好ましい。
【0013】蒸着金属膜の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、真鍮、チタン、クロム、ニッケル、ニッケルクロム、ステンレス等の金属膜が挙げられる。
【0014】本発明において用いる光輝性顔料は、蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料であるので、非常に厚みが薄い金属片である。従って、面状に配向することにより、表面がフラットなメッキまたは金属表面のような光沢を有するメタリック塗膜層を形成することができる。従来のメタリック塗料に用いられているアルミニウムフレーク等の金属フレークは、金属粉や金属箔をボールミル等で粉砕して得られるものであるが、これらの金属フレークは比較的厚みが厚く、また表面に凹凸を有しているので、このような金属フレークを面状に配向しても、表面がフラットにならず、本発明のような金属調光沢を付与することはできない。」
「【0017】メタリック塗料
本発明のメタリック塗料は、上記のようにして得られる光輝性顔料、溶剤、さらには必要に応じて、バインダーとなる樹脂及び添加剤を添加して調製される。本発明のメタリック塗料において、光輝性顔料の顔料重量濃度(PWC)は40%以上が好ましく、さらに好ましくは50%以上である。また、必要に応じて、メタリック塗料は実質的に光輝性顔料と溶剤から構成してもよい。メタリック塗料におけるPWCを高くすることにより、光輝性顔料の面状の配向を促進することができ、より良好な金属調光沢を付与することができ易くなる。しかしながら、PWCが高くなりすぎると、積層塗膜における密着性、すなわち第一塗膜層及び第三塗膜層に対する密着性が低下する傾向にあるので、このような密着性を考慮する場合、PWCは30%以下であることが好ましい。しかしながら、後述するように、メタリック塗料中にシランカップリング剤を添加することにより、密着性を著しく向上させることができる。従って、シランカップリング剤をメタリック塗料中に添加する場合には、より高い濃度で光輝性顔料を含有させることができる。
【0018】本発明のメタリック塗料に含有させる溶剤は、光輝性顔料製造の際に用いた剥離剤やトップコート剤、あるいはメタリック塗料塗装の下地塗膜の種類などを考慮して選択されるものであるが、例えば、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第2ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート及び、ソルベッソ100及びソルベッソ150(商品名、エッソ社製、芳香族系炭化水素溶剤)等の炭化水素系溶剤を挙げることができる。また、光輝性顔料が金属粉ペーストのような市販品として入手される場合には、この金属粉ペースト中に含有されている溶剤が含まれてもよい。」
「【0022】第一塗膜層形成用塗料及び第三塗膜層形成用塗料のバインダー樹脂としては、上記メタリック塗料のバインダー樹脂として列挙した樹脂を用いることができ、好ましい具体例としては、ニトロセルロース変性アクリルラッカー、CAB(セルロースアセテートブチレート)変性アクリルラッカー、アクリルウレタン、ポリエステルウレタン、アミノ−アクリル系樹脂、アミノ−アルキド系樹脂、アミノ−ポリエステル系樹脂などを例示することができる。特に、後述するアクリル・ウレタン系樹脂が好ましく用いられる。」
「【0025】アクリル・ウレタン系樹脂
上述のように、本発明におけるメタリック塗料(第二塗膜層形成用塗料)、第一塗膜層形成用塗料、及び第三塗膜層形成用塗料中のバインダー樹脂としては、アクリル・ウレタン系樹脂を好ましく用いることができる。
【0026】アクリル・ウレタン系樹脂は、アクリル系ポリオールと、ブロックされているか、またはブロックされていないイソシアネート基を有する非黄変性ポリイソシアネート硬化剤を必須成分とする樹脂である。」
「【0050】プラスチック基材
本発明において金属調光沢塗膜は、プラスチック基材上に形成される。プラスチック基材上に金属調光沢塗膜を直接形成してもよいが、好ましくは第一塗膜層などの下地層を形成した上に金属調光沢塗膜を形成する。本発明に従う好ましい実施形態においては、さらに、金属調光沢塗膜である第二塗膜層の上に第三塗膜層が形成される。プラスチック基材には、予めプライマー層等が形成されていてもよく、本発明に従う好ましい実施形態においては、このようなプライマー層の上に第一塗膜層を形成してもよい。」
「【0057】メタリック塗料の調製
メタリック塗料として、アルミニウム蒸着膜を粉砕して得られるアルミニウム粉を含有したアルミニウム塗料を調製した。蒸着金属膜を粉砕して得られるアルミニウム粉としては、以下の市販のアルミニウム粉のペーストを用いた。
【0058】・商品名「メタルアーL−55350」…ECKART−WERKE社製、アルミニウム粉含有量10重量%
・商品名「メタシーンKM100」…東洋アルミニウム株式会社製、アルミニウム粉含有量10重量%
・商品名「VD−20」…昭和アルミパウダー株式会社製、アルミニウム粉含有量20重量%
比較として、アルミニウム粉末やアルミニウム箔をボールミル等で粉砕して得られる、一般のメタリック塗料に用いられるアルミニウムフレークを含有した以下のアルミニウムペーストを用いた。」
「【0065】第一塗膜層形成用塗料としては、以下の塗料を用いた。
・第一塗膜層形成用塗料A…市販の二液型アクリル・ウレタン系クリヤ塗料(アクリル系ポリオールの数平均分子量7000、水酸基価40、酸価6、ガラス転移温度(Tg)50℃。イソシアネート硬化剤:ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体。NCO/OH比=1/1)
・第一塗膜層形成用塗料B…市販の二液型アクリル・ウレタン系黒塗料(第一塗膜層形成用塗料Aにカーボンブラック「FW−200」(デグサカーボン社製)を2.0重量%添加し、5μm以下まで分散し、塗料化した黒色塗料。隠蔽膜厚15μm以下)
・第一塗膜層形成用塗料C…市販の二液型ポリオレフィン変性アクリル・ウレタン系クリヤ塗料(数平均分子量10000、水酸基価70、酸価3、ガラス転移温度(Tg)32℃のアクリル系ポリオール55重量%と、数平均分子量20000、水酸基価0、酸価6、ガラス転移温度(Tg)10℃のポリオレフィン系樹脂10重量%と、数平均分子量2200、水酸基価20、酸価7、ガラス転移温度(Tg)90℃のポリオレフィン変性アクリル系ポリオール樹脂35重量%とを用い、イソシアネート硬化剤として、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体を用いたクリヤ塗料。NCO/OH比=1/1)
・第一塗膜層形成用塗料D…市販の二液型アクリル・ウレタン系黒塗料(第一塗膜層形成用塗料Cにカーボンブラック「FW−200」(デグサカーボン社製)を2.0重量%添加し、5μm以下まで分散し、塗料化した黒色塗料。隠蔽膜厚15μm以下)
第一塗膜層の塗装後、表2及び表3に示す焼き付け条件で焼き付けた後、第二塗膜層を塗装した。また、第二塗膜層を塗装した後、表2及び表3に示す焼き付け条件で焼き付けた後、第三塗膜層を塗装した。なお、焼き付け条件において「無し(W/W)」と示されている実施例については、焼き付けることなくウェットオンウェットで第三塗膜層を塗装した。第三塗膜層形成用塗料としては、以下の塗料を用いた。」

上記記載から、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」、「甲2方法発明」という。)が記載されているものと認められる。
甲2発明
「プラスチック基材の上に、第一塗膜層を形成し、該第一塗膜層の上に蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料を含むメタリック塗料を塗布することにより第二塗膜層を形成し、該第二塗膜層の上に第三塗膜層を形成した金属調光沢塗膜であって、
第一塗膜層形成用塗料及び第三塗膜層形成用塗料にバインダー樹脂が用いられ、
高輝性顔料は、粒径が約5μm〜約100μm程度となるように粉砕された金属調光沢塗膜。」
甲2方法発明
「プラスチック基材の上に、第一塗膜層を形成し、該第一塗膜層の上に蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料、溶剤を含むメタリック塗料を塗布することにより第二塗膜層を形成し、該第二塗膜層の上に第三塗膜層を形成する金属調光沢塗膜の形成方法であって、
第一塗膜層形成用塗料及び第三塗膜層形成用塗料にバインダー樹脂が用いられ、
高輝性顔料は、粒径が約5μm〜約100μm程度となるように粉砕された金属調光沢塗膜。」

また、上記記載から、甲2には、次の事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されているものと認められる。
「蒸着金属膜を粒径が約5μm〜約100μm程度となるように粉砕して金属片とした光輝性顔料を含むメタリック塗料を塗布することにより第二塗膜層を形成すること。」

(2)本件発明1について
ア 甲1を主引例とする理由
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、引用発明の「合成樹脂成形品」は本件発明1の「基材」に相当し、以下同様に、「クリアトップコート層」は「トップコート層」に、「トップコート用樹脂」は「第1樹脂成分」に、「ベースコート用樹脂」は「第2樹脂成分」に、それぞれ相当する。
本件発明1の「金属調塗膜において、
金属フィラーの一つの粒子からなる及び/又は前記金属フィラーの複数の粒子が相互に少なくとも一部において重なり合ってなる複数の島部と、
第1樹脂成分を含有するトップコート層と、を備え、
前記金属フィラーの粒子は、鱗片状粒子であり、
前記島部は、前記基材の表面上又は前記基材の表面上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に散在しており、
前記トップコート層は、前記島部の表面上を覆うとともに、前記島部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っており、
前記金属フィラーは、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、少なくとも、0.01〜1μmの範囲にピークを有し、かつ、インジウムフィラー及びスズフィラーの中から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする金属調塗膜」と、
甲1発明の「艶消しベースコート層と、該艶消しベースコート層上に形成された金属薄膜層と、該金属薄膜層上に形成されたクリアトップコート層とを備えた自動車用耐融雪剤性複合塗膜において、
金属薄膜層は、インジウム、スズ、またはこれらの合金からなる不連続膜であり、
クリアトップコート層14は、トップコート用樹脂を含有し、
艶消しベースコート層12は、ベースコート用樹脂と、艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子またはウレタン架橋粒子を含有し、
クリアトップコート層は、金属薄膜層の表面を覆うとともに、金属薄膜層が存在しない部分では艶消しベースコート層の表面上を覆っている自動車用耐融雪剤性複合塗膜」とは、
「塗膜において、
金属の不連続部と、
第1樹脂成分を含有するトップコート層と、を備え、
前記不連続部は、前記基材の表面上又は前記基材の表面上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に散在しており、
前記トップコート層は、前記不連続部の表面上を覆うとともに、前記不連続部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っている塗膜」という限りで一致する

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点1]
「基材の表面上に設けられる塗膜において、
金属の不連続部と、
第1樹脂成分を含有するトップコート層と、を備え、
前記不連続部は、前記基材の表面上又は前記基材の表面上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に散在しており、
前記トップコート層は、前記不連続部の表面上を覆うとともに、前記不連続部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っている塗膜。」
[相違点1]
「塗膜において、
金属の不連続部と、
第1樹脂成分を含有するトップコート層と、を備え、
前記不連続部は、前記基材の表面上又は前記基材の表面上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に散在しており、
前記トップコート層は、前記不連続部の表面上を覆うとともに、前記不連続部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っている塗膜」であることに関して、
本件発明1は、「金属調塗膜において、
金属フィラーの一つの粒子からなる及び/又は前記金属フィラーの複数の粒子が相互に少なくとも一部において重なり合ってなる複数の島部と、
第1樹脂成分を含有するトップコート層と、を備え、
前記金属フィラーの粒子は、鱗片状粒子であり、
前記島部は、前記基材の表面上又は前記基材の表面上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に散在しており、
前記トップコート層は、前記島部の表面上を覆うとともに、前記島部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っており、
前記金属フィラーは、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、少なくとも、0.01〜1μmの範囲にピークを有し、かつ、インジウムフィラー及びスズフィラーの中から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする金属調塗膜」であるのに対し、
甲1発明は、「艶消しベースコート層と、該艶消しベースコート層上に形成された金属薄膜層と、該金属薄膜層上に形成されたクリアトップコート層とを備えた自動車用耐融雪剤性複合塗膜において、
金属薄膜層は、インジウム、スズ、またはこれらの合金からなる不連続膜であり、
クリアトップコート層14は、トップコート用樹脂を含有し、
艶消しベースコート層12は、ベースコート用樹脂と、艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子またはウレタン架橋粒子を含有し、
クリアトップコート層は、金属薄膜層の表面を覆うとともに、金属薄膜層が存在しない部分では艶消しベースコート層の表面上を覆っている自動車用耐融雪剤性複合塗膜」である点。

(イ)判断
相違点1について検討する。
本件発明1の上記相違点1に係る構成について、本件特許の発明の詳細な説明には次の記載がある。
「特許文献2の技術は、光輝材の形状が鱗片状である。しかし、この鱗片状の粒子は、平均粒径が20μm、平均厚さが0.5μmと比較的大きい。このため、塗膜の平滑性を確保することが難しく、平滑性が損なわれると金属光沢性が低下するおそれがあるという問題があった。」(【0005】)
「本実施形態に係る金属調塗膜では、金属フィラーは、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、少なくとも、0.01〜1.00μmの範囲にピーク(以降、第1ピークという。)を有することが好ましい。塗膜の平滑性が高まり、より高い金属光沢を発揮することができる。」(【0021】)
「本実施形態に係る金属調塗膜では、トップコート層は、島部の表面を覆うとともに、島部と島部との間に侵入している。これによって、島部と島部とが相互に間隔を開けた状態で保持され、この島部と島部との間隔がミリ波などの電波の通路となる。」(【0025】)
すなわち、相違点1に係る本件発明1の構成は、塗膜の平滑性を高め、より高い金属光沢を発揮するとともに、島部と島部との間隔がミリ波などの電波の通路となるようにするために選択されたものである。
一方、甲1発明は、「金属調で、かつ艶消し感を有すると共に、耐融雪剤性に優れた自動車用耐融雪剤性複合塗膜の提供」(甲1の【0008】)を課題とする発明であり、そのために「艶消しベースコート層12」が「ベースコート用樹脂と、艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子またはウレタン架橋粒子を含有」するようにしたものである。甲1発明から、本件発明1の相違点1に係る構成に至るためには、甲1発明の艶消しベースコート層12から艶消しのために加えられる艶消し剤粒子を含まないものとし、金属光沢と電波透過性のため粒度分布で0.01〜1μmの範囲にピークを有する金属フィラーを採用するように換える必要があり、そのように換える動機付けが甲1発明にはない。。
甲2記載事項は、光輝性顔料を、蒸着金属膜を粒径が約5μm〜約100μm程度となるように粉砕して金属片とすることにより得るものであるが、当該金属片は相違点1に係る鱗片状粒子ではなく、また、金属片を、間隔を開けた島部として配置するものではないため、相違点1に係る本件発明1の構成ではないだけではなく、「プラスチック基材の表面に対して簡易に金属調光沢を付与することができる方法を提供する」(甲2の【0004】)ためのものであり、「艶消し感」を課題とする甲1発明に適用する動機付けもない。
さらに、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲3〜9に記載されておらず、また出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲2を主引例とする理由
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、引用発明の「プラスチック基材」は本件発明1の「基材」に相当し、以下同様に、「第一塗装膜」は「アンダーコート層」に、「第三塗装膜」は「トップコート層」に、「金属調光沢塗膜」は「金属調塗膜」に、「バインダー樹脂」は「第1樹脂成分」及び「第2樹脂成分」に、それぞれ相当する。
甲2発明において、「該第一塗膜層の上に蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料を含むメタリック塗料を塗布することにより第二塗膜層を形成し、該第二塗膜層の上に第三塗膜層を形成し」、「高輝性顔料は、粒径が約5μm〜約100μm程度となるように粉砕された」ものであることと、本件発明1において、「金属フィラーの一つの粒子からなる及び/又は前記金属フィラーの複数の粒子が相互に少なくとも一部において重なり合ってなる複数の島部」を備え、「前記金属フィラーの粒子は、鱗片状粒子であり、前記島部は、前記基材の表面上又は前記基材の表面上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に散在しており、前記トップコート層は、前記島部の表面上を覆うとともに、前記島部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っており、前記金属フィラーは、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、少なくとも、0.01〜1μmの範囲にピークを有し、かつ、インジウムフィラー及びスズフィラーの中から選ばれる少なくとも一種である」こととは、「金属粒子からなる金属部」を備え、「前記金属部は、前記基材の表面上又は前記基材の表面上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に存在して」いる限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点2]
「基材の表面上に設けられる金属調塗膜において、
金属粒子からなる金属部と、
第1樹脂成分を含有するトップコート層と、を備え、
前記金属部は、前記基材の表面上又は前記基材の表面上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に存在しており、
前記トップコート層は、前記島部の表面上を覆っている金属調塗膜。」
[相違点2]
「金属粒子からなる金属部」を備え、「前記金属部は、前記基材の表面上又は前記基材の表面上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に存在して」いることに関して、
本件発明1は、「金属フィラーの一つの粒子からなる及び/又は前記金属フィラーの複数の粒子が相互に少なくとも一部において重なり合ってなる複数の島部」を備え、「前記金属フィラーの粒子は、鱗片状粒子であり、前記島部は、前記基材の表面上又は前記基材の表面上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に散在しており、前記トップコート層は、前記島部の表面上を覆うとともに、前記島部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っており、前記金属フィラーは、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、少なくとも、0.01〜1μmの範囲にピークを有し、かつ、インジウムフィラー及びスズフィラーの中から選ばれる少なくとも一種である」のに対して、
甲2発明は、「該第一塗膜層の上に蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料を含むメタリック塗料を塗布することにより第二塗膜層を形成し、該第二塗膜層の上に第三塗膜層を形成し」、「高輝性顔料は、粒径が約5μm〜約100μm程度となるように粉砕された」ものである点。

(イ)判断
相違点2について検討する。
相違点2に係る本件発明1の構成とすることにより、塗膜の平滑性が高まり、より高い金属光沢を発揮するとともに、島部と島部との間隔がミリ波などの電波の通路となるようにするものであるところ、そのようなことについて甲2には何ら記載されていないから、甲2発明において、粒径が約5μm〜約100μm程度とされるものを、相違点2に係る本件発明1の構成の「レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、少なくとも、0.01〜1μmの範囲にピークを有」するものに変更する動機付けがない。
さらに、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲1、3〜9に記載されておらず、また出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、甲2発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、当業者が甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、本件発明1について、上記(2)で検討したのと同じ理由により、当業者が甲1発明又は甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明4について
ア 甲1を主引例とする理由
(ア)対比
本件発明4と甲1方法発明とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点3]
「基材の表面上に設けられる塗膜の形成方法において、
金属の不連続部を形成する工程と、
前記金属の不連続部が形成された面上に、トップコート層形成用塗料を塗布して第1樹脂成分を含有するトップコート層を形成する工程と、を有し、
前記不連続部は、前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上に散在しており、
前記トップコート層は、前記不連続部の表面上を覆うとともに、前記不連続部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っている塗膜の形成方法。」
[相違点3]
「塗膜の形成方法において、
金属の不連続部を形成する工程と、
前記不連続部が形成された面上に、トップコート層形成用塗料を塗布して第1樹脂成分を含有するトップコート層を形成する工程と、を有し、
前記不連続部は、前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上に散在しており、
前記トップコート層は、前記不連続部の表面上を覆うとともに、前記不連続部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っている塗膜の形成方法」に関して、
本件発明4は、「金属調塗膜の形成方法において、
前記基材の表面上又は前記基材上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に、鱗片状の金属フィラーと溶剤とを含有し、かつ、樹脂成分を含有しない島部形成用塗料を塗布して島部を形成する工程と、
前記島部が形成された面上に、トップコート層形成用塗料を塗布して第1樹脂成分を含有するトップコート層を形成する工程と、を有し、
前記島部は、前記金属フィラーの一つの粒子からなる及び/又は前記金属フィラーの複数の粒子が相互に少なくとも一部において重なり合ってなり、かつ、前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上に散在しており、
前記トップコート層は、前記島部の表面上を覆うとともに、前記島部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っており、
前記金属フィラーは、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、少なくとも、0.01〜1μmの範囲にピークを有し、かつ、インジウムフィラー及びスズフィラーの中から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする金属調塗膜の形成方法」であるのに対して、
甲1方法発明は、「艶消しベースコート層、金属薄膜層、クリアトップコート層を順次形成することで得られる自動車用耐融雪剤性複合塗膜の形成方法において、
艶消しベースコート層上に、蒸着法またはスパッタリング法により金属薄膜層を形成する工程と、
金属薄膜層上にクリアトップコート層を形成する工程と、を有し、
金属薄膜層は、インジウム、スズ、またはこれらの合金からなる不連続膜であり、
クリアトップコート層14は、トップコート用樹脂を含有し、
艶消しベースコート層12は、ベースコート用樹脂と、艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子またはウレタン架橋粒子を含有し、
クリアトップコート層は、金属薄膜層の表面を覆うとともに、金属薄膜層が存在しない部分では艶消しベースコート層の表面上を覆っている自動車用耐融雪剤性複合塗膜の形成方法」である点。

(イ)判断
相違点3について検討するに、上記(2)ア(イ)において相違点1についてした検討と同様、甲1方法発明において、相違点3に係る本件発明4の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明4は、当業者が甲1方法発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲2を主引例とする理由
(ア)対比
本件発明4と甲2方法発明とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点4]
「基材の表面上に設けられる金属調塗膜の形成方法において、
前記基材の表面上又は前記基材上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に、金属粒子と溶剤とを含有する金属部形成用塗料を塗布して金属部を形成する工程と、
前記金属部が形成された面上に、トップコート層形成用塗料を塗布して第1樹脂成分を含有するトップコート層を形成する工程と、を有し、
前記金属部は、前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上に存在しており、
前記トップコート層は、前記金属部の表面上を覆っている金属調塗膜の形成方法。」
[相違点4]
「基材の表面上又は基材上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に、金属粒子と溶剤とを含有する金属部形成用塗料を塗布して金属部を形成する工程と、前記金属部が形成された面上に、トップコート層形成用塗料を塗布して第1樹脂成分を含有するトップコート層を形成する工程と、を有し、前記金属部は、前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上に存在しており、前記トップコート層は、前記金属部の表面上を覆っている」ことに関して、
本件発明4は、「前記基材の表面上又は前記基材上に設けられた第2樹脂成分を含有するアンダーコート層の表面上に、鱗片状の金属フィラーと溶剤とを含有し、かつ、樹脂成分を含有しない島部形成用塗料を塗布して島部を形成する工程と、前記島部が形成された面上に、トップコート層形成用塗料を塗布して第1樹脂成分を含有するトップコート層を形成する工程と、を有し、前記島部は、前記金属フィラーの一つの粒子からなる及び/又は前記金属フィラーの複数の粒子が相互に少なくとも一部において重なり合ってなり、かつ、前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上に散在しており、前記トップコート層は、前記島部の表面上を覆うとともに、前記島部が存在しない部分では前記基材の表面上又は前記アンダーコート層の表面上を覆っており、前記金属フィラーは、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、少なくとも、0.01〜1μmの範囲にピークを有し、かつ、インジウムフィラー及びスズフィラーの中から選ばれる少なくとも一種である」のに対して、
甲2方法発明は、「該第一塗膜層の上に蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料、溶剤を含むメタリック塗料を塗布することにより第二塗膜層を形成し、該第二塗膜層の上に第三塗膜層を形成し」、「高輝性顔料は、粒径が約5μm〜約100μm程度となるように粉砕された」ものである点。

(イ)判断
相違点4について検討するに、上記(2)イ(イ)において相違点2についてした検討と同様、甲2方法発明において、相違点4に係る本件発明4の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明4は、当業者が甲2方法発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明5について
本件発明5は、本件発明4の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、本件発明4について、上記(4)で検討したのと同じ理由により、当業者が甲1方法発明又は甲2方法発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 申立理由2(明確性)について
請求項5の「平均分子量1000〜20000のアクリルポリオール」及び「平均分子量1000〜6000のポリカーボネートジオール」の記載について、「アクリルポリオール」及び「ポリカーボネートジオール」は高分子材料であり、その分子量は単一ではなく、ある程度の散らばりがあることが技術常識である。そして、その散らばりには分布があり、「平均分子量」は、分子量の平均を取ったものであって、平均の取り方に特段の記載がない以上、「平均分子量」は、当該技術分野では「数平均分子量」を意味すると解するのが通常である。
この理解は、本件特許の発明の詳細な説明に、「平均分子量は、数平均分子量であり、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法によって求めることができる。」(【0028】)と記載され、また、甲2の【0061】、【0065】にアクリル系ポリオールの「数平均分子量」とあることと整合している。
したがって、本件発明5は明確である。

第4 むすび
以上のとおり、申立人の主張する特許異議申立理由によっては、請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-07 
出願番号 P2020-079352
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 柳本 幸雄
藤井 眞吾
登録日 2021-07-28 
登録番号 6920509
権利者 株式会社オリジン
発明の名称 金属調塗膜、それを有する成型体及び金属調塗膜の形成方法  
代理人 畑 雅明  
代理人 岡田 賢治  
代理人 田中 真理  
代理人 今下 勝博  

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