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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L |
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管理番号 | 1386174 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-02-09 |
確定日 | 2022-06-23 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6915975号発明「肉製品、肉製品の臭みの低減方法、及び肉製品の臭みの低減剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6915975号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6915975号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成28年9月30日の出願であって、令和3年7月19日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年8月11日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年2月9日に特許異議申立人 佐藤 武史(以下、「特許異議申立人」という。)より、特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし8)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などという場合があり、また、これらをまとめて「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 平均粒径100μm未満とされた小麦フスマの湿式加熱処理物を含有することを特徴とする肉製品。 【請求項2】 前記肉製品は、畜肉、鶏肉、魚肉、又はそれらの加工品からなる請求項1記載の肉製品。 【請求項3】 原料とされる肉の100質量部に対して、前記小麦フスマの湿式加熱処理物を1〜10質量部含有する、請求項1又は2記載の肉製品。 【請求項4】 肉製品又はその原料肉に対して、平均粒径100μm未満とされた小麦フスマの湿式加熱処理物を添加し、前記肉製品に前記小麦フスマの湿式加熱処理物を含有せしめることを特徴とする肉製品の臭みの低減方法。 【請求項5】 前記肉製品は、畜肉、鶏肉、魚肉、又はそれらの加工品からなる請求項4記載の肉製品の臭みの低減方法。 【請求項6】 原料とされる肉の100質量部に対して、前記小麦フスマの湿式加熱処理物を1〜10質量部添加する、請求項4又は5記載の肉製品の臭みの低減方法。 【請求項7】 肉製品又はその原料肉に対して、小麦フスマの湿式加熱処理物を添加し、加熱調理する、請求項4〜6のいずれか1項に記載の肉製品の臭みの低減方法。 【請求項8】 平均粒径100μm未満とされた小麦フスマの湿式加熱処理物を有効成分とすることを特徴とする肉製品の臭みの低減剤。」 第3 特許異議申立理由の概要 特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記1及び2)は、次のとおりである。 1 申立理由1(進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立理由2(サポート要件違反) 本件特許発明1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、申立理由2の具体的理由は次のとおりである。 (1) 「小麦フスマの湿式加熱処理物」について 本件特許発明1は、本件の請求項1に記載のとおり、平均粒径100μm未満とされた小麦フスマの湿式加熱処理物を用いることを特徴とする。 前記の「小麦フスマの湿式加熱処理物」の「湿式加熱処理」に関し、本件特許明細書の【0031】には、「加熱処理の方法に特に制限はなく、公知の方法を採用し得る」旨記載されている。また、甲第2ないし5号証には前述したとおり、小麦フスマの湿式加熱処理として種々の態様のものが記載されている。 このように、本件特許発明で採用可能な小麦フスマの湿式加熱処理方法は多数存在するにもかかわらず、本件特許明細書において実施例として具体的に記載されている湿式加熱処理方法は、調製例5、6で採用されているレトルト処理のみである。調製例5では、加熱処理を施さずに平均粒径27μmに粒度調整した小麦フスマに対してレトルト処理を施しており、調製例6では、焙煎後に平均粒径32μmに粒度調整した小麦フスマに対してレトルト処理を施している。また、調製例5、6のレトルト処理は、処理対象の小麦フスマに対して所定量の水を加えて混合した後、レトルトパウチ包装し、121℃で17分間加圧加熱処理するというものである(本件特許明細書の【0050】、【0051】)。 ここで、小麦フスマに加えられる水分の量、加熱温度や加熱時間等の湿式加熱処理方法の条件が異なれば、得られる小麦フスマの湿式加熱処理物どうしが異なり得ることは技術常識である。 したがって、調製例5、6で採用された小麦フスマのレトルト処理物以外の「小麦フスマの湿式加熱処理物」を包含する本件特許発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。 本件特許発明2〜8についても同様である。 (2) 「平均粒径100μm未満」について 「平均粒径100μm未満」に関し、本件特許明細書において実施例として具体的に記載されているのは、調製例5で採用されている小麦フスマの平均粒径27μmと、調製例6で採用されている小麦フスマの平均粒径32μmとの2種類のみである(本件特許明細書の【0050】、【0051】)。 ここで、湿式加熱処理対象である小麦フスマの大きさ(平均粒径)が異なれば、加熱処理条件が同じでも、得られる湿式加熱処理物が異なり得ることは技術常識であるから、例えば、平均粒径32μmを大きく上回る平均粒径100μm近傍の範囲を包含する本件特許発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。 本件特許発明2〜8についても同様である。 (3) 証拠方法 ・甲第1号証:特開昭55−61781号公報 ・甲第2号証:特開昭61−37059号公報 ・甲第3号証:特開昭62−79756号公報 ・甲第4号証:特開平11−103800号公報 ・甲第5号証:特開2013−243984号公報 第4 当審の判断 1 申立理由1(進歩性欠如)について (1) 主な証拠の記載事項等 ア 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、「焙煎した植物性繊維質による肉類脱臭法」に関し、次の記載がある。 「2 特許請求の範囲 1.穀類、穀類のぬか、大豆、おから、しょう油かす、茶がら、コーヒー出しがら等の植物性繊維質を主成分とするものを焙煎して微粒子としたものを羊肉および鯨肉等臭気の強い肉類に接触させることを特徴とする肉類の脱臭法。」(第1頁左下欄第4ないし9行) 「本発明は肉類を生(ナマ)の状態で処理し、処理後も生の状態であって、加工原料としては勿論、たとえば、マトンのようにその臭のために家庭用には余り消費されなかった生肉をステーキ、焼き肉、すきやき、味付け煮などとして事業所や家庭で調理前に何の処理をすることもなく利用できるまでに美事に脱臭して、美味な食肉とすることができる羊肉(マトン)、鯨肉などの肉類脱臭方法に関するものである。」(第1頁左下欄第11ないし19行) 「本発明を説明すると、穀類として米(玄米、5分づき米、7分づき米、精白米、ぬか、脱脂ぬか)、大麦(玄麦、精白押麦、市販むぎこがし)、小麦(小麦全粒、小麦粉)、粟(全粒、精白粒)、ひえ(全粒、精白粒)、きび(全粒、精白粒)、大豆(大豆粒、脱脂大豆、市販きな粉、おから)、乾燥しょう油かす、茶から、コーヒー出しがらなどを底の厚いフライパンまたはほうらく(焙烙)に入れ、絶えずかき混ぜながら火力を調節しつつ焦げて炭火することのないように焙煎を続け、被焙煎物が均一に狐色となり、やゝ焦げ臭が出始めるまで炒る。このように炒り上げた此等のものを脱臭材として使用する。 むぎこがし、きな粉は焙煎品であるが、もう一度軽く炒り直した。茶からは粉茶(コナチヤ)を、コーヒー出しがらには挽いた焙煎コーヒー豆をそれぞれ7〜10倍の熱湯を加えて抽出し、タンニン質やエキス分を除去した“出しがら”を乾燥してから焙煎する。 すなわち上記の脱臭材を例えば5〜15gとり、これに10〜20倍の水、全量に対して食塩2〜3%、生小麦粉5〜10%、サラダオイル5〜6%(適宜乳化剤0.3〜1%)となるように加えて煮沸して後、このものを約18,000rpmのホモブレンダで15分間処理して乳化したのち冷却して漬込み液とし、生肉約250gを0〜5℃で1〜3日間漬込みを行う。 この様にして漬込んだ肉は水洗した後、そのまゝ焼くとか小さく切って焼いたり、味付け煮とすればマトン臭は殆んど完全に除去されている。また漬込む代りに、多針注入器(injector)で肉にこの漬込み液を注入して0〜5℃で1〜3日間保存する。このものも漬込んだものと同様に、調理加工すれば殆んど完全に脱臭されている。しかしinjectorを使用する場合には脱臭材の割り合を漬込み液よりも約1.5〜2倍位濃くする方が好ましい。 通常、漬込み液中の脱臭材の量は3〜8%が適当なようであり、漬込み液量は肉魂の形状、大きさ、ロットの量によって異るが肉250g当り150g、肉1kg当り400〜600gが適当である。また肉に対する脱臭材の割り合は脱臭材の効果の強弱にもよるが、生肉100g当り脱臭材2〜4gでよい。」(第2頁右上欄第16行ないし同頁右下欄末行) 「実施例1 焙煎した米粒(玄米、5分搗き米、7分搗き米、白米)、小麦玄粒または犬麦玄粒などいづれでもよいが、例えば焙煎白米10gをとり、これに水100ml、生小麦粉(薄力粉)5g、白しょう油35ml、サラダ油15ml、乳化剤 例えばレシチンを添加して攪拌しながら約10分間煮沸して後、ホモブレンダ−を用いて18,000rpmで15分間処理した後充分冷却して漬込み液とし、包丁で軽く切り込みを入れた厚さ約10mmのマトン(または鯨肉)250gを浸漬して0〜5℃の冷蔵庫に1〜3日間漬込む。漬込みを終ったマトン(又は鯨肉)を軽く水洗して水を切り、ステーキ様に焼くかまたは小さく切って網焼き、または味付け煮とする。いづれの場合も殆んど完全にマトン臭(又は鯨肉臭)が除去されていた。 実施例2 生ぬか、脱脂ぬかを焙煎したものならびにきな粉、むぎこがし、いづれでもよいが、例えば焙煎脱脂ぬか12g、生小麦粉8g、水100ml白しょう油35ml、サラダ油15g、乳化剤(例えばレシチン)0.3〜1.0%を合して攪拌しながら15分間煮沸し、このものをホモブレンダーに移して18,000rpmで充分ブレンドした後冷却する。 この調製液を太い目の針の多針注射器で600gのマトン(まだは鯨肉)肉塊のできるだけ多くの箇所に注入し、0〜5℃の冷蔵庫で2〜3日保存後とり出して、ステーキ用、網焼き用、スキ焼用に適宜切り、調理する。いづれの場合も殆んど完全にマトン(鯨肉)臭は除去されていた。 実施例3 粉茶または焙煎コーヒー豆の挽いたものに約7〜10倍量の水を加えて約15分間煮沸してその液を捨てる。この操作を3回行って、タンニン質や熱湯可溶物を除去した所謂「だしがら」を乾燥して焙煎したもの、例えば焙煎茶がら10gに生小麦粉10g、水100ml、淡口しょう油35ml、サラダオイル15g、乳化剤0.3〜1.0%を加えて20分間攪拌しながら煮沸し、このものをホモブレンダーに移して、18,000rpmでブレンドし、冷却後漬込み液として、実施例1と同様にマトン(またはイルカ肉)、を漬込み以下同様に調理する。この場合もマトン(又はイルカ肉)はいづれも殆んど完全に脱臭されており、大変美味化していた。」(第3頁右上欄第13行ないし同頁右下欄末行) イ 甲第1号証に記載された発明 上記アの記載、特に特許請求の範囲の記載を中心にまとめると、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認める。 「穀類のぬかの植物性繊維質を主成分とするものを焙煎して微粒子としたものを接触させてなる羊肉および鯨肉等臭気の強い肉類。」(以下、「甲1肉類発明」という。) 「穀類のぬかの植物性繊維質を主成分とするものを焙煎して微粒子としたものを羊肉および鯨肉等臭気の強い肉類に接触させる肉類の脱臭法。」(以下、「甲1脱臭法発明」という。) 「穀類のぬかの植物性繊維質を主成分とするものを焙煎して微粒子であって、羊肉および鯨肉等臭気の強い肉類に接触させるものである、肉類の脱臭のための前記微粒子。」(以下、「甲1微粒子発明」という。) (2) 対比・判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1肉類発明とを対比する。 甲1肉発明の「穀類のぬか」は本件特許発明の「小麦フスマ」と「穀類」に関するものである限りにおいて相当し、甲1肉類発明の「肉類」は、本件特許発明1の「肉製品」に相当する。 甲1肉類発明の「焙煎」は加熱処理に他ならないから、甲1肉類発明の穀類のぬか等の植物性繊維質を主成分とするものを「焙煎」したものは、本件特許発明1の「湿式加熱処理物」のうち、「加熱処理物」であるとの限りにおいて相当する。 また、甲1肉類発明の「接触させ」とは、発明の詳細な説明や実施例に記載されるように、肉類に微粒子を「注入する」ことも含む概念であるから、本件特許発明1の肉製品に加熱処理物を「含有する」ものに相当するといえる。 してみると、両者は、 「穀類の加熱処理物を含有する肉製品」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 穀類の加熱処理物について、本件特許発明1は「小麦フスマの湿式加熱処理物」であるのに対して、甲1肉類発明においては「穀類のぬか等の植物性繊維質を主成分とするものを焙煎」した「微粒子」である点。 (相違点2) 穀類の加熱処理物について、本件特許発明1は「平均粒径が100μm未満」と特定されるのに対して、甲1肉類発明においては粒径が特定されていない点。 事案に鑑み、まず相違点2について検討する。 甲第2号証ないし甲第5号証には、小麦フスマを加熱したものを用いること、およびその粒径についての記載があるものの、いずれも食物繊維の強化や風味・食感の改善を目的とする発明を開示するものであり、肉製品(肉類)の臭みに着目するものではない(なお、甲第5号証では「臭い」についての言及があるが、「小麦ふすま」の臭いについてであり、肉製品(肉類)の臭いについてではない。)。 してみると、肉類の臭気を改善することを目的とする甲1肉類発明において、甲第2号証ないし甲第5号証に記載されているような小麦フスマを加熱したものの粒径を採用する動機付けがあるとはいえない。 そして、本件特許発明1は、本件特許の明細書の【0033】や試験例2に示されるように、平均粒径が100μm未満との条件を満たすことにより、大きな平均粒径のものに比して、肉の臭みを改善するとの格別の効果を奏するものである。 よって、甲1肉類発明において、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得たものであるということができない。 したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1肉類発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記アで検討のとおり、本件特許発明1は、甲1肉類発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2及び3についても同様に、甲1肉類発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件特許発明4について 本件特許発明4と甲1脱臭法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係から、少なくとも次の点で相違するものといえる。 (相違点3) 本件特許発明4の小麦フスマの湿式加熱処理物は「平均粒径が100μm未満」と特定されるのに対して、甲1脱臭法発明においては、微粒子の粒径が特定されていない点。 上記相違点3は、上記アにおける相違点2と同旨である。 すると、上記アの検討と同様に、本件特許発明4は甲1脱臭法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと判断される。 エ 本件特許発明5ないし7について 本件特許発明5ないし7はいずれも、請求項4の記載を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記ウで検討のとおり、本件特許発明4は、甲1脱臭法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明4の全ての特定事項を含む本件特許発明5ないし7についても同様に、甲1脱臭法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 本件特許発明8について 本件特許発明8と甲1微粒子発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係(なお、甲1微粒子発明の「微粒子」は脱臭のためのものであるから、本件特許発明8の「脱臭剤」に相当することは明らか)から、少なくとも次の点で相違するものといえる。 (相違点4) 本件特許発明8の小麦フスマの湿式加熱処理物は「平均粒径が100μm未満」と特定されるのに対して、甲1微粒子発明においては、微粒子の粒径が特定されていない点。 上記相違点4は、上記アにおける相違点2と同旨である。 すると、上記アの検討と同様に、本件特許発明8は甲1微粒子発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと判断される。 (3) 申立理由1のまとめ 上記(2)のとおりであるから、申立理由1は、その理由がない。 2 申立理由2(サポート要件違反)について (1) サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2) 本件特許の発明の詳細な説明の記載 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には次の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、小麦フスマを用いた、肉製品、肉製品の臭みの低減方法、及び肉製品の臭みの低減剤に関する。」 「【0008】 本発明の目的は、上記従来技術にかんがみ、小麦フスマを利用して肉製品の臭みを低減する技術を提供することにある。」 「【0025】 本発明においては、小麦フスマを使用する。小麦フスマは小麦粉の製粉工程で副産物として生じるので、そのような小麦フスマを比較的安価に入手することが可能である。また、小麦フスマの有効利用にもつながる。」 「【0031】 本発明に使用する小麦フスマは、加熱処理されているものである必要がある。その加熱処理の方法に特に制限はなく、乾式加熱処理や湿式加熱処理などの公知の方法を採用し得る。例えば、乾式加熱処理では、原料に加水を行わずに加熱を行う。乾式加熱処理に用いられる装置としては、回転釜、焙煎釜、パドルドライヤー、熱風乾燥機、棚式乾燥機などが挙げられる。また、回転釜等の加熱容器を用いる態様に限らず、例えば、回転ドラムにフスマを入れて、熱風を吹込みながら加熱する方法など、各種の態様を採用することができる。また、湿式加熱処理では、原料の水分含量が13〜16%程度となるように適宜加水し水分を調整した後、熱した密閉容器内で加熱したり、加熱蒸気が含まれる容器中で加熱したり、小麦フスマに加水したうえ、レトルト処理するなど、各種の態様を採用することができる。湿式加熱処理に用いられる装置としては、密閉式加熱装置、ボックス式蒸し器などが挙げられる。その加熱条件に特に制限はないが、乾式加熱処理として典型的な例を挙げると、回転釜等の加熱容器に入れて、撹拌しながら、最終品温が95〜140℃になるように、加熱時間がトータルで好ましくは30〜180分間になるように焙煎すること等によってなされ得る。また、湿式加熱処理として典型的な例を挙げると、小麦フスマ100質量部に対し300〜400質量部の水を加水したうえ、アルミパウチ包装した後、115〜125℃で10〜60分間レトルト処理を行うこと等によってなされ得る。加熱処理は複数の態様を組み合わせて行ってもよい。例えば、焙煎したものを更にレトルト処理に供してもよい。 【0032】 後述の実施例で示されるように、小麦フスマに加熱処理を施さずに肉製品に配合してもその肉製品の臭みを低減する作用効果に乏しいが、上記のように小麦フスマに加熱処理が施されていることによって、肉製品に配合したときに、その肉製品の臭みを低減する作用効果が奏されるようになる。なお、このような加熱処理によって、通常、小麦フスマ中に含まれる一般生菌数は10,000個/g以下となっており、食品添加用素材としての安全性も向上する。一般生菌数は、標準寒天培地を用いた段階希釈法によって測定することができる。 【0033】 本発明に使用する小麦フスマは、上記のような加熱処理が施されていると共に、所定粒度に調製されていることが好ましい。具体的には、平均粒径100μm未満であることが好ましく、平均粒径60μm未満であることがより好ましい。なお、本明細書において「平均粒径」とは、粒度分布における50%中位径を意味するものとする。粒度分布における中位径とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径(体積中位径)を意味する。この中位径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布計(例えば商品名「マイクロトラック」、日機装社製)で測定したメジアン径として測定し得る。 【0034】 後述の実施例で示されるように、平均粒径が上記範囲となるように粉砕することにより、肉製品に配合したときに、その肉製品の臭みを低減する作用効果がより顕著に奏されるようになる。また、小麦フスマ素材を配合したことによる食感のざらつきも防がれる。」 「【実施例】 【0041】 以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 【0042】 <調製例1> 小麦フスマ(日東富士製粉株式会社製;目開き800μmの篩をパスし、目開き425μmの篩をオンする画分から採取されたもの)を、回転釜に入れて、撹拌しながら、最終品温120℃となるように加熱し、合計60分間焙煎した後、気流式粉砕機によって粉砕した。この粉砕物を目開き200μmの篩にかけ、パスした部分を採取し、オンした部分を除去した。 【0043】 こうして得られた小麦フスマの焙煎処理物を、レーザー回折/散乱式粒度分布計(例えば商品名「マイクロトラック」、日機装社製)を用いて測定したところ、平均粒径(粒度分布における50%中位径)が32μmであった。 【0044】 <調製例2> 調製例1で使用した小麦フスマを、回転釜に入れて、撹拌しながら、最終品温120℃となるように加熱し、合計60分間焙煎した後、衝撃式粉砕機によって粉砕した。 【0045】 こうして得られた小麦フスマの焙煎処理物を、レーザー回折/散乱式粒度分布計(例えば商品名「マイクロトラック」、日機装社製)を用いて測定したところ、平均粒径(粒度分布における50%中位径)が287μmであった。 【0046】 <調製例3> 調製例1で使用した小麦フスマを、回転釜に入れて、撹拌しながら、最終品温120℃となるように加熱し、合計60分間焙煎した。 【0047】 こうして得られた小麦フスマの焙煎処理物を、粉砕処理を施さずに、以下の試験に用いた。 【0048】 <調製例4> 調製例1で使用した小麦フスマを、加熱処理を施さずに、気流式粉砕機で粉砕した。この粉砕物を目開き200μmの篩にかけ、パスした部分を採取し、オンした部分を除去した。 【0049】 こうして得られた小麦フスマの粉砕物を、レーザー回折/散乱式粒度分布計(例えば商品名「マイクロトラック」、日機装社製)を用いて測定したところ、平均粒径(粒度分布における50%中位径)が27μmであった。 【0050】 <調製例5> 調製例1で使用した小麦フスマを、加熱処理を施さずに、気流式粉砕機で粉砕して、調製例4と同様の小麦フスマの粉砕物を調製した。この小麦フスマの粉砕物1質量部に対して、水3質量部を加えて混合した後、レトルトパウチ包装し、121℃で17分間加圧加熱処理して、小麦フスマのレトルト処理物を得た。 【0051】 <調製例6> 調製例1で使用した小麦フスマを、回転釜に入れて、撹拌しながら、最終品温120℃となるように加熱し、合計60分間焙煎した後、気流式粉砕機によって粉砕して、調製例1と同様の小麦フスマの焙煎処理物を調製した。この小麦フスマの加熱処理物1質量部に対して、水3質量部を加えて混合した後、レトルトパウチ包装し、121℃で17分間加圧加熱処理して、小麦フスマのレトルト処理物を得た。 【0052】 [試験例1(ハンバーグの製造 その1)] 調製例1で得られた小麦フスマの焙煎処理物を使用して、その小麦フスマの焙煎処理物の配合量を肉100質量部に対して0.5質量部、1質量部、3質量部、5質量部、又は8質量部と変えてハンバーグを製造した。表1にはその配合を示す。具体的には、以下のようにしてハンバーグを製造した。 ・・・ 【0059】 [試験例2(ハンバーグの製造 その2)] 調製例1、2、乃至3で得られた小麦フスマの焙煎処理物を使用して、その小麦フスマの焙煎処理物を肉100質量部に対して3質量部配合してハンバーグを製造した。表3にはその配合を示す。配合以外のハンバーグの製造方法は、試験例1と同様にして行った。 ・・・ 【0063】 【表4】 【0064】 その結果、表4に示されるように、小麦フスマを焙煎し、粉砕した調製例1の小麦フスマの焙煎処理物をハンバーグに配合すると、試験例1で見られたように、添加しないコントロールと比べ、肉の臭みが顕著に低減した。また、小麦フスマ素材を配合したことによる食感のざらつきも感じられなかった。粒度がやや粗い調製例2の小麦フスマの焙煎処理物を用いた場合では、肉の臭みの低減効果は限定的となり、更にざらつきが感じられるようになった。原料の小麦フスマを粉砕処理することなく焙煎処理しただけの調製例3の小麦フスマの焙煎処理物を用いた場合では、肉の臭みの低減効果が乏しく、ざらつきも更に強く感じられるようになった。 【0065】 [試験例3(ハンバーグの製造 その3)] 調製例1で得られた小麦フスマの焙煎処理物、調製例4で得られた小麦フスマの粉砕物、又は調製例5乃至6で得られた小麦フスマのレトルト処理物を使用して、その小麦フスマ素材を肉100質量部に対して、焙煎処理物又は粉砕物の場合は3質量部、レトルト処理物の場合は8質量部配合してハンバーグを製造した。表5にはその配合を示す。配合以外のハンバーグの製造方法は、試験例1と同様にして行った。・・・ 【表6】 【0070】 その結果、表6に示されるように、小麦フスマを焙煎にかけ粉砕処理した調製例1の小麦フスマの焙煎処理物をハンバーグに配合すると、試験例1、2で見られたように、添加しないコントロールと比べ、肉の臭みが低減した。これに対し、加熱処理を施していない調製例4の小麦フスマの粉砕物を用いた場合では、その粒度は調製例1のものと同程度に粉砕されているにもかかわらず、肉の臭みの低減効果に乏しい結果となった。一方、加熱処理を焙煎のかわりにレトルト処理で行った調製例5の小麦フスマのレトルト処理物を用いた場合も、調製例1と同程度に、肉の臭みの低減効果が得られた。更に、加熱処理を焙煎及びレトルト処理の両方で行った調製例6の小麦フスマのレトルト処理物を用いた場合には、調製例1、5を用いた場合に比べ、より顕著に肉の臭みの低減効果が得られた。」 (3) サポート要件についての判断 本件特許発明の課題は、「小麦フスマを利用して肉製品の臭みを低減する技術を提供すること」(【0008】)であるといえる。 そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明に使用する小麦フスマは、加熱処理されているものである必要がある」(【0031】)こと、「小麦フスマに加熱処理が施されていることによって、肉製品に配合したときに、その肉製品の臭みを低減する作用効果が奏されるようになる」(【0032】)こと、「本発明に使用する小麦フスマは、上記のような加熱処理が施されていると共に、所定粒度に調製されていることが好ましい。具体的には、平均粒径100μm未満であることが・・・好ましい。・・・後述の実施例で示されるように、平均粒径が上記範囲となるように粉砕することにより、肉製品に配合したときに、その肉製品の臭みを低減する作用効果がより顕著に奏されるようになる」(【0033】及び【0034】)ことが記載され、試験例2の結果からも、小麦フスマ素材の平均粒径と肉の臭みの関係として、小麦フスマ素材の平均粒径が小さい方が肉製品の臭みを低減する作用効果が強いことが認識できる。 以上の記載をふまえると、当業者であれば、小麦フスマを「加熱処理」したものであって(決定注:乾式加熱処理か湿式加熱処理かは関係がない。)、「平均粒径が100μm未満」のものを用いることにより、「肉製品の臭みを低減する」、すなわち、本件特許発明の課題を解決すると認識できる。 そして、本件特許発明1、4、8はいずれも、小麦フスマを「湿式加熱処理」したものであって、「平均粒径が100μm未満」との特定事項を有するから、本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 請求項1あるいは4の記載を直接又は間接的に引用する本件特許発明2、3及び5ないし7についても同様である。 (4) 申立理由2についてのまとめ 上記のとおりであるから、申立理由2は、その理由がない。 第5 結語 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-06-13 |
出願番号 | P2016-192655 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
植前 充司 大島 祥吾 |
登録日 | 2021-07-19 |
登録番号 | 6915975 |
権利者 | 日東富士製粉株式会社 |
発明の名称 | 肉製品、肉製品の臭みの低減方法、及び肉製品の臭みの低減剤 |
代理人 | 特許業務法人創成国際特許事務所 |