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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
管理番号 1386180
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-18 
確定日 2022-06-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6922110号発明「粉砕・撹拌・混合・混練機部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6922110号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6922110号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、令和 3年 2月10日(優先権主張 令和 2年10月 9日)の出願であって、令和 3年 7月30日にその特許権の設定登録がなされ、同年 8月18日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和 4年 2月18日に、特許異議申立人 中野 和美(以下、「申立人」という。)により、請求項1〜4(全請求項)に係る本件特許に対して特許異議の申立てがなされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜4に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件発明」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。)。

【請求項1】
元素ごとの質量比が、
Ti:20〜45%
Mo:5〜35%
W:6〜30%
C:5〜15%
Co:10〜50%
CoとNi合計で25超〜50%
となるように、TiまたはTi化合物、MoまたはMo化合物、WまたはW化合物、CoまたはCo化合物、NiまたはNi化合物および炭素から任意に選択される粉末を原料とし、
それらを湿式または乾式にて混合し、混合粉を得るステップ、
混合粉を50〜300MPaの圧力でプレス成形してプレス体を得るステップ、
プレス体を600〜1000℃の真空またはガス雰囲気中で仮焼結した後、1300〜1700℃、真空、還元、不活性ガス、水素または窒素のいずれかの雰囲気下で焼結するステップを経て得られるサーメットから成る、粉砕・撹拌・混合・混練機部材であって、
TiCNを主成分とするコア相と、コア相の周囲を覆うように存在し、(Ti,Mo,W)(C,N)を主成分とするリム相と、金属相の3相を有し、
断面組織観察でのコア相とリム相から成る硬質相の平均粒径が3μm未満であり、
SEM観察により、WC相およびMo2C相を観察することができない、サーメットから成る、粉砕・撹拌・混合・混練機部材。
【請求項2】
原料中のNの質量比が、0を超えて5%以下である、請求項1に記載のサーメットからなる粉砕・撹拌・混合・混練機部材。
【請求項3】
原料中のCとNの質量比が、C:N=7:3〜10:0である請求項1または請求項2に記載のサーメットからなる粉砕・撹拌・混合・混練機部材。
【請求項4】
リム相が、相対的にMoとWが多い相と、相対的にTiが多い相の2相を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のサーメットからなる粉砕・撹拌・混合・混練機部材。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記(3)の甲第1号証〜甲第9号証を提出して、以下の申立理由1、2により、本件特許の請求項1〜4に係る特許が取り消されるべきものである旨主張している。
(1)申立理由1(進歩性
本件発明1〜4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第9号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(明確性
本件発明1〜4については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)証拠方法
甲第1号証:特開平8−246090号公報
甲第2号証:特開2016−135906号公報
甲第3号証:特開2010−31308号公報
甲第4号証:鈴木寿外2名、Ti(C,N)−Mo2C−Niサーメットの主として組織に及ぼすWC添加の影響、粉体および粉末冶金、社団法人粉体粉末冶金協会、1984年、第31巻、第7号、p.236〜240
甲第5号証:植木光生外3名、窒素添加TiC−Mo2C−Niサーメットの表面部における結合相量の減少、粉体および粉末冶金、社団法人粉体粉末冶金協会、1989年、第36巻、第3号、p.315−319
甲第6号証:社団法人粉体粉末冶金協会編、粉体粉末治金便覧、株式会社内田老鶴圃、2010年、p.291−295
甲第7号証:特開2003−80407号公報
甲第8号証:鈴木壽、超硬合金と焼結硬質材料 基礎と応用、丸善株式会社、1986年、p.22−27,314−331
甲第9号証:国際公開第2014/115663号

第4 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には以下の事項が記載されている。
「【0034】
まず、表1の実施例1に示す原料粉末を、エタノールを溶媒としてアトライター、またはボールミルにより粉砕混合した。得られたスラリーを真空中で乾燥させ、バインダーとなるパラフィンを混合したのちプレス成形によりプレス体を作製した。
このプレス体を大気圧水素雰囲気下800℃で仮焼結を行い、更に真空雰囲気にて1400℃にて本焼結を行うことにより、本発明の粉砕・撹拌・混合・混練機部材に用いるサーメットを得た。
実施例1により得られたサーメットは、前述のフルマンの式により算出した平均粒径が1.12μmであった。
実施例2以降の実施例及び比較例は、1300〜1500℃の範囲内で最も高い密度が得られる最低温度で焼結した。他の条件は実施例1と同条件である。
また、比較例6を除くすべての実施例および比較例において、コア相とリム相から成る硬質相の平均粒径は、1.5μm未満であった。
さらに、SEM観察によりサーメット断面組織の構成成分を観察したところ、すべての実施例において、Mo2C相およびWC相の存在は確認できなかった。また、すべての実施例においてリム相中に、相対的にMo成分とW成分とが多い相が存在した。
サーメット組織全体の元素組成比率は、原料組成との乖離が大きく、また原料組成と焼結後のサーメットの成分比率の決定係数が低く、正確に定量することができなかった。参考までに表3に実施例1のサーメットについて、EPMAおよびEDXによる定量分析結果を示すが、原料組成との乖離が確認できる。この理由として、各構成元素同士の固溶体形成による格子状態の変化が影響していることが考えられる。上記非特許文献1にあるように、過去の研究においてもサーメット材料の合金組成の定量化が困難なことが知られており、正確な定量は難しい。
このように本発明において、当該物をその構造または特性により直接特定することは不可能であるか、またはおよそ非実際的であり、本発明には、いわゆる「不可能・非実際的事情」が存在する。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
続いて作製したサーメットの機械特性の評価を、以下に示す測定方法により実施した。
*比重・・・アルキメデス法(規格:JIS Z 8807)
*硬さ・・・ビッカース硬さ試験(規格:JIS Z 2244)
*耐摩耗性・・・ラバーホイール試験(規格:ASTM G65)
*耐衝撃性・・・シャルピー衝撃試験(規格:JIS Z 2242)
*磁性・・・飽和磁化測定
【0039】
本発明の実施例および比較例におけるサーメットの特性を表4に示す。
【表4】

【0040】
全ての実施例において、比重は目標の9以下に抑えられており、耐摩耗性に関しても超硬合金(JIS分類:V40相当材)を上回り、優れた特性を示した。また耐衝撃性についても、従来のサーメットでは実現が難しかった6J/cm2以上を達成した。
【0041】
実施例2と実施例6は、実施例1と比較して特に高い耐摩耗性を示した。
実施例2では比較的Moの添加量が多く、さらにWを共添加させることで硬さが向上し、実施例1と金属量が同等であるにもかかわらず高い耐摩耗性を示した。
実施例6では、シャルピー衝撃値は10J/cm2に満たないものの、耐摩耗性が超硬合金(JIS分類:V40相当材)と比較して200%を超えた。これは金属量を必要最低限に抑えることで、非常に高い耐摩耗性が発現した例である。
【0042】
比較例1は、本発明よりもMoの添加量が多く、耐摩耗性については非常に高い値を示した。しかしながら、シャルピー衝撃値は低く、破壊の恐れがあるため、粉砕・撹拌・混合・混練機部材としては使用できない。
比較例2では、Wの添加量が過剰であるためにWC相を形成し、耐摩耗性が著しく低下した。
比較例3および比較例7では、金属相としてNiのみを使って作製した。この試料は、Mo、W、金属相量が範囲内であるにも関わらず、金属相がNiのみであることから、硬さ、耐摩耗性、磁性において低い値を示した。磁性の発現には、Coの添加が必須であるといえる。
比較例4のような、Mo、Wの添加量が少ない場合には、耐摩耗性は低い値を示した。
比較例5は、金属相量(CoとNiの合計)が24%と本発明の下限値よりも低い。主に工具用に用いられる一般的なサーメットと同様、耐摩耗性は高いが、破壊靭性や抗折力、シャルピー衝撃値は低い値となった。
比較例6は、実施例1と同じ原料を用い、十分に粉砕せずに作製した試料である。焼結後、コア相とリム相から成る硬質相の平均粒径は3μmを超えたため、硬さおよび耐衝撃性が低下した。
比較例8〜10は、金属相量は範囲内であるにもかかわらず、硬さ、耐摩耗性といった機械的特性の高いCo量が不十分であるために、耐摩耗性が低下した。磁性についても、超硬材料に比べて低い値を示した。」

第5 甲号証の記載事項
なお、「・・・」は記載の省略を表すものであって、以下同様である。
(1)甲第1号証の記載事項
「【請求項1】Co、またはCoとNiを主成分とする結合相:5〜30重量%、中心部が組成式:(Ti,M)CN(ただしMはTa,Nb,V,W,Mo,Cr、およびZrのうちの1種または2種以上)で表わされる複合金属炭窒化物相で構成された有芯硬質相を主体とする硬質相と不可避不純物:残り、からなる組成を有すると共に、前記有芯硬質相の主体を、中心部の(Ti,M)CN相が丸みをもった塊状形状を有しかつ前記中心部が1.4以下のアスペクト比を有する有芯硬質相で構成したことを特徴とする靱性のすぐれた炭窒化チタン系サーメット。
【請求項2】請求項1記載のものにおいて、中心部が(Ti,M)CN相で構成された有芯硬質相の90容量%以下を、中心部が炭窒化チタン相で構成された有芯硬質相で置換し、前記有芯硬質相の主体を、中心部の炭窒化チタン相が丸みをもった塊状形状を有しかつ前記中心部が1.4以下のアスペクト比を有する有芯硬質相としたことを特徴とする靱性のすぐれた炭窒化チタン系サーメット。」

「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、すぐれた靱性を有し、いずれも高靱性が要求される鋼の高速切削用切削工具や各種耐摩工具などとして用いた場合にすぐれた性能を発揮する炭窒化チタン系サーメットに関するものである。」

「【0006】この発明の炭窒化チタン系サーメットにおいて、結合相の割合を5〜30重量%としたのは、その割合が5重量%未満ではサーメットに所定の強度を確保することができず、一方その含有量が30重量%を越えると耐摩耗性が低下するようになるという理由からである。また、請求項2において、中心部が(Ti,M)CN相で構成された有芯硬質相を、中心部が炭窒化チタン相で構成された有芯硬質相で、置換する割合を90容量%以下したのは、その割合が90容量%を越えると耐欠損性が低下するようになるという理由からである。これは、中心部が(Ti,M)CN相で構成された有芯硬質相の方が、中心部が炭窒化チタン相で構成された有芯硬質相よりも、耐摩耗性には劣るが耐欠損性には優れるということによるものである。なお、アスペクト比:1.4は、実測結果にもとづいて定めた上限値であって、有芯硬質相における中心部が丸みをもった塊状形状のものは、前記中心部がすべて1.4以下のアスペクト比をもつということである。
【0007】
【実施例】つぎに、この発明の炭窒化チタン系サーメットを実施例により具体的に説明する。まず、平均粒径:0.5μmのTiO2粉末と同0.2μmのカーボンブラックの配合したもの、あるいはそれにさらに同0.5〜2.0μmのTa,Nb,V,W,Mo,Cr、およびZrの金属,酸化物、炭化物あるいは窒化物のうちの1種または2種以上を配合したもの、ボールミルで48時間乾式混合した後、1ton/cm2の圧力で粉末成形体とし、これにN2分圧:450TorrのN2雰囲気中、温度:1750℃に12時間保持の条件で還元炭窒化処理を施し、処理後軽い粉砕を加えることにより1.2μmの平均粒径を有するTiCN粉末(以下TiCN−A粉末という)あるいは(Ti,M)CN粉末(以下(Ti,M)CN−A粉末という)を製造した。また、一般に知られているTiH2粉末を出発原料とした方法あるいは溶融金属浴を用いる方法によるTiC,TiNを用意し、TiCとTiN、あるいはそれにさらにTa,Nb,V,W,Mo,Cr、およびZrの炭化物のうちの1種または2種以上を配合したものからも、1.2μmの平均粒径を有するTiCN粉末(以下TiCN−B粉末という)あるいは(Ti,M)CN粉末(以下(Ti,M)CN−B粉末という)を製造した。
【0008】この結果得られた(Ti,M)CN−A粉末、TiCN−A粉末、(Ti,M)CN−B粉末、TiCN−B粉末と、別途用意したいずれも0.5〜2.0μmの範囲内の所定の平均粒径を有するWC粉末、Mo2C粉末、TaC粉末、NbC粉末、VC粉末、Cr3C2粉末、およびZrCN粉末を原料粉末として用い、これら原料粉末を表1,2に示される配合組成に配合し、ボールミルにて72時間湿式混合し、乾燥した後、1.5ton/cm2の圧力で圧粉体にプレス成形し、ついでこの圧粉体を、常温から1100℃までの昇温過程を10−2TorrのN2雰囲気とし、1100℃から1420〜1500℃の範囲内の所定の焼結温度までの昇温過程、前記焼結温度に1時間保持の保持過程、および焼結温度保持終了から常温までの冷却過程を10TorrのN2雰囲気とした条件で焼結することにより、SNMG432の規格に則したスローアウェイチップ形状並びに破壊靱性値測定用試片形状をもった本発明炭窒化チタン系サーメット(以下、本発明サーメットという)1〜16および比較炭窒化チタン系サーメット(以下、比較サーメットという)1〜4をそれぞれ製造した。
【0009】ついで、この結果得られた本発明サーメット1〜16および比較サーメット1〜4について、走査型オージエ電子分光分析装置および走査型電子顕微鏡による組織写真を用いての画像解析にて、結合相の含有量、有芯硬質相の中心部の組成、並びに有芯硬質相の硬質相に占める割合、中心部のアスペクト比が1.4以下の丸みをもった塊状形状の有芯硬質相および中心部が角ばった多角形の有芯硬質相の有芯硬質相に占める割合をそれぞれ測定した。また、靱性を評価する目的で破壊靱性値を測定した。これらの測定結果を表3,4に示した。」

「【0011】
【表2】



「【0013】
【表4】



「【0016】
【発明の効果】表1〜4および図1,2に示される結果から、本発明サーメット1〜16は、硬質相の主体が有芯硬質相で構成され、かつ前記有芯硬質相の主体が、中心部がアスペクト比で1.4以下の丸みをもった塊状形状を有する有芯硬質相で構成されているので、いずれもすぐれた靱性を有し、かつ高靱性が要求される鋼の乾式高速断続切断でもすぐれた耐欠損性を示し、切刃に欠けやチッピングの発生なく、すぐれた切削性能を示すことが明らかであり、一方比較サーメット1〜4に見られるように、これらは有芯硬質相の主体が、中心部が角ばった多角形の有芯硬質相で構成されており、この結果上記の乾式高速断続切削では切刃に欠けやチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。上述のように、この発明の炭窒化チタン系サーメットは、きわめてすぐれた靱性を有し、かつ硬質相を構成する中心部がTiCN相からなる有芯硬質相によってすぐれた耐摩耗性も具備するので、高靱性と高耐摩耗性が要求される切削工具や各種耐摩工具などとして用いた場合にすぐれた性能を著しく長期に亘って発揮するのである。」

(2)甲第2号証の記載事項
「【請求項1】
Tiを含む硬質相が、Ni及びCoの少なくとも一方を含む結合相により結合されてなるサーメットであって、
このサーメットの任意の断面において硬質相が200個以上含まれる観察視野をとったとき、
この観察視野内に存在する硬質相のうち、全硬質相数に対して70%以上の硬質相の粒径が、前記全硬質相の平均粒径の±30%以内であるサーメット。
【請求項2】
前記全硬質相の平均粒径は、0.5μm以上5.0μm以下である請求項1に記載のサーメット。
【請求項3】
前記硬質相は、以下の第一硬質相と、第二硬質相と、第三硬質相と、を含有する請求項1又は請求項2に記載のサーメット。
第一硬質相:芯部と、前記芯部の周囲の全体を覆う周辺部と、を有する有芯構造の硬質相であり、前記芯部は、TiC、TiN、及びTiCNの少なくとも一つを主成分として構成され、前記周辺部は、W、Mo、Ta、Nb、及びCrの少なくとも一種と、Tiと、を含む複合化合物固溶体で構成される硬質相
第二硬質相:TiC、TiN、及びTiCNの少なくとも一つを主成分として構成される単相構造の硬質相
第三硬質相:前記複合化合物固溶体で構成される単相構造の硬質相」

「【0088】
〔サーメットの組成及び組織〕
得られた各試料のサーメットの断面をSEM(日本電子株式会社製 JSM−7000F)により調べた。代表して、試料No.1のサーメットのSEM写真(5000倍)を図1に示す。その結果、黒色の粒子(第一硬質相)、黒色の粒子の周囲の全体が灰色の領域に覆われている粒子(第二硬質相)、灰色の粒子(第三硬質相)が確認された。各粒子間には、結合相が存在することも確認された。」

「【図1】



(3)甲第3号証の記載事項
「【請求項1】
周期表4,5,6族金属から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素(C)及び窒素(N)の少なくとも1種の元素との化合物を含む硬質相が鉄族金属を主成分とする結合相により結合されてなるサーメットであって、
前記硬質相は、炭窒化チタン(TiCN)を主成分とする芯部と、この芯部の周囲に存在し、チタン複合化合物からなる周辺部とを有する有芯粒子を含んでおり、
前記チタン複合化合物は、チタン(Ti)と、タングステン(W)と、C及びNの少なくとも1種の元素とを含む固溶体であり、
前記周辺部において、前記芯部と周辺部との境界から200nm以内の領域を芯部近傍領域、前記境界から200nm超の領域を外側領域とするとき、前記芯部近傍領域に、前記外側領域におけるWの平均含有量(原子%)の1.6倍以上のWを含有するWリッチ相を有することを特徴とするサーメット。
【請求項2】
前記チタン複合化合物は、更に、周期表4,5,6族金属(但し、Ti及びWを除く)から選択される少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項1に記載のサーメット。
【請求項3】
前記Wリッチ相の幅Lは、5nm≦L≦50nmを満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のサーメット。
【請求項4】
前記サーメットは、モリブデン(Mo)を含んでおり、
前記外側領域におけるMoの平均含有量(原子%)をα、Wの平均含有量(原子%)をβとするとき、
MoとWとの含有比α/βは、0.5<(α/β)<1.5を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のサーメット。」

「【0030】
得られた各焼結体について、断面を透過型電子顕微鏡(10,000〜30,000倍)で観察した。図1は、観察像の模式図であり、(A)は全体図、(B)は有芯粒子を示し、図2は、試料No.4を30,000倍で観察した透過型電子顕微鏡写真を示す。図1,2に示すように、各試料は、硬質相を構成する化合物の粒子10a,10b,10cが結合相20により結合された組織を有している。特に、硬質相は、TiCNを主成分とする芯部11と、この芯部11の周囲に存在し、チタン複合化合物からなる周辺部12とを有する多層構造の有芯粒子10aを含む。図2に示す顕微鏡写真において、白っぽく見える背景部分が結合相20であり、背景中に分散した灰色又は黒っぽく(濃灰色に)見える粒子が硬質相粒子である。チタン複合化合物が灰色に見え、TiCNを主成分とする化合物が黒っぽく見える。灰色の粒子の中に黒っぽい粒子を具える多層構造の粒子が有芯粒子である。」

「【図2】



(4)甲第4号証の記載事項
「II 試料調製および実験方法
TiC0.7N0.3,TiC0.5N0.5(いずれもUSA製,1.5μm),Mo2C(2.5μm),WC(1.5μm),Ni(2.7μm)などの各粉末を原料粉末として用い,ボール・ミル,乾燥,成形の後,真空およびN2圧力(PN2)が0.1〜3kPaのN2気流中で(1673〜1723)K×3.6ksの焼結を行い,TiC0.7N0.3またはTiC0.5N0.5を基とし,(10〜14)vol%Mo2C−(0〜22)vol%WC−16.4vol%Niを含む合金(以下それぞれTiC0.7N0.3,TiC0.5N0.5合金と略す)を作った***.」(第236ページ左欄第19行〜右欄第3行)

「III 実験結果および考察
Photo.1にはWCを22vol%((Ti(C,N)+WC)中30vol%)まで添加したTiC0.7N0.3合金のSEM組織に及ぼす焼結雰囲気の影響を示す.焼結温度は1673Kとした.まずWC無添加合金の組織は,黒色のTi(C,N)粒子を灰色の周辺組織(SS,Ti(C,N)−Mo2C固溶体)1)が取り囲んでいる炭窒化物相と白色の結合相(γ相)とからなっており,PN2が大きくなるほど微粒化する.次にWC添加合金ではPN2が大となるほど,また添加WC量が多くなるほど組織中に白色に見える粒状相を生じる.そこでこの相をEPMA分析したところWが含まれており,他方白色相を生じた試料をX線回折するとWCが検出された.すなわち上記の白色相はWC相であることが分った.なおWC添加合金では焼結雰囲気によらずγ相が見えにくくなっているが,これは上記のSS中に添加WCが固溶する(原子番号の高いWが固溶)ことにより,SEM像における固溶体相のコントラストとγ相のそれとがほぼ同様になったためと考えられた.
そこでPhoto.2には,真空中およびN2中(PN2=2.7kPa)で焼結した22%WC添加の光顕組織例を示した.この場合はγ相が分かりやすくなるが,WC(PN2=2.7kPa)添加合金に生じるWC相は見えにくくなる.Photo.2によると炭窒化物粒度は,WC添加合金の場合も,無添加合金の場合と同様,真空焼結よりもN2中焼結の方が微粒となるが,焼結雰囲気によらず,WC添加合金の方がややSSが厚くなり,粗粒化の傾向にある(Photo.1参照,倍率は異なる).これは添加WCのほぼ全量または一部がSS中へ固溶するからとしてよい(後述).」(第237ページ左欄第1行〜右欄第2行)

「Photo.1



「Photo.2



(5)甲第5号証の記載事項
「II 試料および実験方法
本研究ではN添加をTiN添加によって行うことにし,市販のTiC,Mo2C,TiN,Ni粉末(粒度はいずれも1.2〜2.5μm)を用い,丸1TiC−10vol%Mo2C−(0〜40)vol%TiN−10vol%Ni試料および丸2TiN無添加のTiC−10vol%Mo2C−10vol%Ni混粉とTiN添加の混粉とを積層状に成形し,これを焼結・接着させた試料などを,普通の真空焼結(〜10−2torr)によって作った.合金炭素量は主として中炭素(MC)と低炭素(LC)の二通りとし,TiNはTiCと置換する形で添加した.焼結は1400℃で1hrまでの各時間行った.また焼結後試料表面を研削除去後,これを再焼結した試料も作った.」(第315ページ左欄第13行〜右欄第6行)
(当審注:丸数字の1を「丸1」、丸数字の2を「丸2」と表記した。)

「Photo.2



(6)甲第6号証の記載事項
「11・1・4 サーメット
(1)サーメットの歴史
・・・
1956年,Humenikら3−6)はTiC−Ni合金にMoを添加して炭化物と結合相の濡れ性を向上させ,合金特性を向上させた.本合金の切削工具性能は十分ではなかったが,その後,さらにTaC,ZrC,WCを添加する等して改良が加えられ,鋼の仕上げ切削等に用いられるようになった.1971年,Kiefferら7)がTiC−Mo2C−Ni合金にTiNを添加すると切削特性が向上することを報告したのを機に,国内外で窒素(N)入リサーメットの研究,開発が進められた.TiC基サーメットは,鋼切削において優れた耐摩耗性を示し,また,仕上げ面も美しいという特徴を有するが,これに窒素を添加することでさらに靱性が向上したため,切削加工での用途は飛躍的に広がった.また,1970年代にはPVD法による被覆超硬合金工具が開発されたが,その後サーメットエ具にも適用されて工具寿命は大幅に改善された.」(第291ページ第9〜28行)

「(2)サーメットの組織と性質
TiCと各種Ni基合金との接触角θを表11・1・4−1に示す.中でもNi−Mo合金とTiCの接触角は0°であるため,TiC−Ni合金にMoを添加すると濡れ性が改善され焼結性は向上する.さらに,硬質粒子の粒成長も抑制されるため機械的性質も改善される.サーメットの硬質相は,芯部(たとえばTiC等)とその周りの周辺組織部(たとえば(Ti,Mo)C等)の成分が異なる有芯構造を有しており,その形成機構は鈴木ら8)により検討されている.図11・1・4−1には典型的なサーメット組織例を示す.実用組成に近いTiC−TiN−TaC−WC−Mo2C−Ni−Co合金の焼結挙動についての研究も報告されている9).図11・1・4−2には真空焼結を行った際の各炭化物,窒化物の回折X線相対強度の変化を示す.温度が上昇するとともにTaC,WC,Mo2Cの強度は低下して液相出現温度付近である1300℃では消滅し,焼結温度である1400℃ではそれらの炭化物やTiNが固溶した周辺組織を有する炭窒化物相とTiN相のみとなる.図11・1・4−3には,有芯構造を有する炭窒化物粒子中の各元素のEPMA分析結果を示した.実際に市販されている切削工具用サーメットは,Ti(C,N)やTiC,TiNを主成分としてMoの他にW,Ta,Nb,Zr,V等,IVa・Va・VIa族元素を含む硬質相と,CoやNi等の結合金属からなる.これらの元素の添加により,室温および高温機械的性質が向上すること等が報告されている10,11).」(第291ページ第29行〜第292ページ第5行)

「図11・1・4−3



(7)甲第7号証の記載事項
「【請求項1】 Ni、又はNi及びCoを主体とする結合相と、金属成分がTiを主体として、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta及びWのうちの1種以上を含む炭窒化物相を主体とする硬質相とにより、組織が主に形成されるサーメットで要部が構成されてなり、そのサーメットは、
Ni、又はNi及びCoの合計含有量が4〜20重量%であり、
Tiの含有量が50〜60重量%であり、
V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta及びWの合計含有量が30〜40重量%であり、
Cの含有量が5〜10重量%であり、
Nの含有量が3〜8重量%であり、さらに、
前記炭窒化物相は、相中の金属成分の90重量%以上がTiである炭窒化Ti系相の粒子を含有し、かつ前記サーメットの断面組織を観察したときに、該組織中において、前記炭窒化Ti系相粒子のうち最大径Dmaxと最小径Dminとの比Dmax/Dminの値が1.5以上となる粒子の合計面積の、硬質相全面積に対する割合が50%以上であることを特徴とするサーメット工具。
【請求項2】 前記炭窒化物相は、相中の金属成分の90重量%以上がTiである炭窒化Ti系相からなる中心部分(I)と、その中心部分(I)の周囲に形成されて相中の金属成分の40〜60重量%がTiであり、同じく40〜60重量%がV、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta及びWの1種又は2種以上である第一炭窒化(Ti,M)系相からなる周囲部分(I)とを有する第一の二重構造粒子と、
相中の金属成分の90重量%以上がV、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta及びWの1種又は2種以上である炭窒化M系相からなる中心部分(II)と、その中心部分(II)の周囲に形成されて相中の金属成分の20〜30重量%がTiであり、同じく70〜80重量%がV、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta及びWの1種又は2種以上である第二炭窒化(Ti,M)系相からなる周囲部分(II)とを有する第二の二重構造粒子と、を主体とするものであり、
前記サーメットの断面組織を観察したときに、該組織中において、前記中心部分(I)のうち最大径Dmaxと最小径Dminとの比Dmax/Dminの値が1.5以上となるものの合計面積の、前記第一の二重構造粒子と前記第二の二重構造粒子との合計面積に対する割合が50%以上である請求項1記載のサーメット工具。」

「【0039】これら成形体を焼成炉に装入し、焼成炉内を100Torr以下の窒素雰囲気に保ちつつ、室温から800℃までは1〜3℃/分の平均温度勾配により、また、800℃から1000℃までを1〜3℃/分の平均温度勾配にて加熱し、該1000℃で脱ガスのため1時間保持した後、該1000℃を第二温度として、第一温度である1350℃(液相出現温度)まで同じ平均温度勾配にて昇温した。その後、炉内の窒素圧力を8〜12Torrとし、6〜8℃/分の昇温速度で昇温を続けて焼成温度(最高温度1500℃)にて1時間保持した後、およそ650Torrのアルゴン雰囲気において冷却することによりサーメット焼結体を製造した。」

(8)甲第8号証の記載事項
「超硬合金の圧粉体は, 1.2.4a(ii)に述べるように,600〜1000℃での予備焼結によって機械加工が可能となる.」(第22ページ第8〜9行)

「1.2.4 焼結
a.脱ワックスならびに予備焼結
・・・
(ii)予備焼結 プレス後に機械成形を行う場合,この機械成形に耐えうる強度を圧粉体に与えるために,600〜1000℃の温度範囲で圧粉体を水素または真空中で,高周波あるいは抵抗によって加熱を行う.」(第22ページ第15〜28行)

「図2.16



「図2.17



「図2.34



「ところで,TiC−Mo−Ni合金では,図2.16に示すように,炭化物相が特徴ある有芯構造(coring structure)を呈する.この図はSEM組織であり,芯部と周辺部(以下これを周辺組織6,24)surrounding structureと呼ぶ)とで色調差があることから,組成が異なっていることが分る.粗粒の炭化物粒子についてEPMA分析した結果を図2.1720)に示すが,これから芯部は純TiC,周辺組織はすでに述べている(Ti,Mo)C固溶体炭化物であることが明らかとなり,SEM組織とも対応する.さらに子細にこの図を見ると,周辺組織内でもTi,Mo量が変化している。これについては周辺組織形成機構との関連で次に述べる.」(第318ページ第11行〜第319ページ第4行)

「N添加サーメットをN2雰囲気中で焼結すると,脱窒が抑制され,さらに平衡解離圧より高い圧力下では逆に加窒され,甚だしい場合には遊離炭素を生じるようになる.図2.3438)に組織例を示すが,いずれの合金もN2圧力が高いほうが微粒化している.図2.30を参照すると,TiC0.7N0.3合金はN2圧力2.7kPa(約21Torr)ですでに加窒域に入っており,TiC0.5N0.5合金では2.7kPa(約21Torr)でほぼ平衡圧力,10kPa(約76Torr)では加窒域である.しかし,この程度の圧力下では遊離炭素は生じていない.ちなみに,遊離炭素を生じるN2圧力は,TiC0.7N0.3合金で約50kPa(約380Torr)以上とされている38).」(第329ページ第1〜8行)

(9)甲第9号証の記載事項
「[0031]
本発明に係る超硬合金は、次のような工程で製造される。まず、WC粉末とWCの粒子間を結合する結合金属粉末を混合した超硬合金原料粉末を作製する。次いで、超硬合金粉末材料に結着用のパラフィンワックスを添加して完成粉末とする。その後、この超硬合金完成粉末を圧縮成形して圧粉体とする。次いで、この圧粉体の脱脂を行う。圧粉体の脱脂は、圧粉体を水素雰囲気とされた炉内で約550〜700℃に加熱して行う。」

第6 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(進歩性
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、「Co、またはCoとNiを主成分とする結合相:5〜30重量%、中心部が組成式:(Ti,M)CN(ただしMはTa,Nb,V,W,Mo,Cr、およびZrのうちの1種または2種以上)で表わされる複合金属炭窒化物相で構成された有芯硬質相を主体とする硬質相と不可避不純物:残り、からなる組成を有すると共に、前記有芯硬質相の主体を、中心部の(Ti,M)CN相が丸みをもった塊状形状を有しかつ前記中心部が1.4以下のアスペクト比を有する有芯硬質相で構成したことを特徴とする靱性のすぐれた炭窒化チタン系サーメット」に関する発明が記載される(請求項1)。
イ また、甲第1号証には、上記アのサーメットの製造方法として、「原料粉末を表1,2に示される配合組成に配合し、ボールミルにて72時間湿式混合し、乾燥した後、1.5ton/cm2の圧力で圧粉体にプレス成形し、ついでこの圧粉体を、常温から1100℃までの昇温過程を10−2TorrのN2雰囲気とし、1100℃から1420〜1500℃の範囲内の所定の焼結温度までの昇温過程、前記焼結温度に1時間保持の保持過程、および焼結温度保持終了から常温までの冷却過程を10TorrのN2雰囲気とした条件で焼結することにより、SNMG432の規格に則したスローアウェイチップ形状並びに破壊靱性値測定用試片形状をもった本発明炭窒化チタン系サーメット(以下、本発明サーメットという)1〜16および比較炭窒化チタン系サーメット(以下、比較サーメットという)1〜4をそれぞれ製造した」ことも記載されている(段落【0008】)。
ウ ここで、上記イで参照する表2には、本発明切削工具14の配合組成として、重量%で、Co:15%、Ni:10%、WC:10%、Mo2C:5%、(Ti、Zr)(C,N):15%、TiCN:bal.であるものが記載されている。
なお、「bal.」は、Balanceの略で、残部を意味することは技術常識である。
エ また、表4には、製造された本発明切削工具14の組織が、結合相:27重量%、有芯構造の硬質相(有芯硬質相)が全硬質相に占める割合:94面積%(有芯硬質相に占める中心部がTi(C,N)である有芯硬質相の割合:84面積%、有芯硬質相に占める中心部が(Ti、M)(C,N)である有芯硬質相の割合:16面積%)、有芯構造でない硬質相が全硬質相に占める割合:6面積%であり、その破壊靭性値が26MPa・m1/2、切刃の逃げ面摩耗幅が0.14mmであることも記載されている。
オ 以上から、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1発明>
原料粉末を、重量%で、Co:15%、Ni:10%、WC:10%、Mo2C:5%、(Ti、Zr)(C,N):15%、残部:TiCNの配合組成に配合し、
ボールミルにて72時間湿式混合し、乾燥した後、
1.5ton/cm2の圧力で圧粉体にプレス成形し、
ついでこの圧粉体を、常温から1100℃までの昇温過程を10−2TorrのN2雰囲気とし、1100℃から1420〜1500℃の範囲内の所定の焼結温度までの昇温過程、前記焼結温度に1時間保持の保持過程、および焼結温度保持終了から常温までの冷却過程を10TorrのN2雰囲気とした条件で焼結することにより得られるスローアウェイチップ形状の炭窒化チタン系サーメットであって、
全硬質相に占める中心部がTi(C,N)である有芯硬質相の割合:79面積%、全硬質相に占める中心部が(Ti、M)(C,N)である有芯硬質相の割合:15面積%、全硬質相に占める有芯構造でない硬質相の割合:6面積%、Co、またはCoとNiを主成分とする結合相:27重量%を有し、
破壊靭性値が26MPa・m1/2、切刃の逃げ面摩耗幅が0.14mmである、
スローアウェイチップ形状の炭窒化チタン系サーメット。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比・判断
(ア)対比
a 甲1発明において、原料粉末にWCが10重量%配合されていることは、Wの原子量183.84、Cの原子量12.01から換算すると、原料粉末にWが9.39重量%、炭素が0.61重量%配合されていることであり、通常、重量%と質量%とは等しい値であるから、甲1発明において、原料粉末にWCが10重量%配合されていることは、本件発明1において、Wの質量比が6〜30%のWまたはW化合物粉末を原料とすること相当する。
なお、以下の対比・判断においても、重量%と質量%とが等しい値であるものとする。
b 甲1発明において、原料粉末にCoが15重量%配合されていることは、本件発明1において、Coの質量比が10〜50%のCoまたはCo化合物粉末を原料とすること相当する。
c 甲1発明の「ボールミルにて72時間湿式混合し、乾燥した後、」は、この工程の後に、混合粉が得られることが明らかであるから、本件発明1の「それらを湿式または乾式にて混合し、混合粉を得るステップ」に相当する。
d 甲1発明の(混合粉を)「1.5ton/cm2の圧力で圧粉体にプレス成形し、」は、「1.5ton/cm2」をSI単位に換算すると、「147MPa」となるから、本件発明1の「混合粉を50〜300MPaの圧力でプレス成形してプレス体を得るステップ、」に相当する。
e 甲1発明の、圧粉体を1420〜1500℃の範囲内の所定の焼結温度に1時間保持する保持過程を10TorrのN2雰囲気とした条件で焼結することは、本件発明1のプレス体を「1300〜1700℃、真空、還元、不活性ガス、水素または窒素のいずれかの雰囲気下で焼結するステップ」に相当する。
f 甲1発明の「全硬質相に占める中心部がTi(C,N)である有芯硬質相の割合:79面積%、全硬質相に占める中心部が(Ti、M)(C,N)である有芯硬質相の割合:15面積%、全硬質相に占める有芯構造でない硬質相の占める割合:6面積%、結合相:27重量%を有する」ことは、甲1発明の有芯硬質相における中心部が、本件発明1のコア相に相当し、甲1発明の有芯硬質相における中心部でない部分は、文言上、中心部の周囲を覆っていると考えられること、甲1発明における結合相は、Co、またはCoとNiを主成分しており、金属相に相当することから、本件発明1の、TiCNを主成分とするコア相と、コア相の周囲を覆うように存在するリム相と、金属相の3相を有することに相当する。
g 以上から、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点において一致するとともに、以下の相違点1〜8において相違する。

<一致点>
「元素ごとの質量比が、
W:6〜30%
Co:10〜50%
となるように、CoまたはCo化合物、WまたはW化合物から任意に選択される粉末を原料とし、
それらを湿式または乾式にて混合し、混合粉を得るステップ、
混合粉を50〜300MPaの圧力でプレス成形してプレス体を得るステップ、
プレス体を1300〜1700℃、真空、還元、不活性ガス、水素または窒素のいずれかの雰囲気下で焼結するステップを経て得られるサーメットであって、
TiCNを主成分とするコア相と、コア相の周囲を覆うように存在するリム相と、金属相の3相を有するサーメット」である点。

<相違点1>
本件発明1では、CoとNiの質量比が合計で25超〜50%となるように、CoまたはCo化合物、NiまたはNi化合物から任意に選択される粉末を原料としているのに対し、甲1発明では、Co粉末とNi粉末とを合計25重量%配合する点。

<相違点2>
本件発明1では、Moの質量比が5〜35%となるように、MoまたはMo化合物から任意に選択される粉末を原料としているのに対し、甲1発明では、Mo2C粉末を5重量%(Mo:4.71重量%)配合する点。
(Mo2C:5重量%は、Moの原子量95.95、Cの原子量12.01から、Mo:4.71重量%、C:0.29重量%と換算される。)

<相違点3>
本件発明1では、Tiの質量比が20〜45%、Cの質量比が5〜15%となるように、TiまたはTi化合物および炭素から任意に選択される粉末を原料としているのに対し、甲1発明では、原料粉末におけるTi及びCの重量比が不明である点。

<相違点4>
本件発明1では、「プレス体を600〜1000℃の真空またはガス雰囲気中で仮焼結」する工程を有するのに対し、甲1発明では、仮焼結工程を有するのか不明である点。

<相違点5>
本件発明1では、サーメットが「粉砕・撹拌・混合・混練機部材」であるのに対し、甲1発明では、「スローアウェイチップ形状」のサーメットである点。

<相違点6>
本件発明1では、リム相が「コア相の周囲を覆うように存在し、(Ti,Mo,W)(C,N)を主成分とする」のに対し、甲1発明では、有芯硬質相における中心部の周囲を覆っている相の成分が不明である点。

<相違点7>
本件発明1では、「断面組織観察でのコア相とリム相から成る硬質相の平均粒径が3μm未満」であるのに対し、甲1発明では、硬質相の平均粒径が不明である点。

<相違点8>
本件発明1では、「SEM観察により、WC相およびMo2C相を観察することができない」のに対し、甲1発明では、「SEM観察により、WC相およびMo2C相を観察すること」ができるか否かが不明である点。

(イ)判断
a 相違点1について
(a)甲第1号証において、Co、またはCoとNiを主成分とする結合相の含有量は、5〜30重量%と規定されている(【請求項1】)。また、その限定理由は、「その割合が5重量%未満ではサーメットに所定の強度を確保することができず、一方その含有量が30重量%を越えると耐摩耗性が低下するようになるという理由からである」(段落【0006】)。
(b)そして、甲1発明では、結合相の含有量は27重量%であり、その破壊靭性値が26MPa・m1/2、切刃の逃げ面摩耗幅は0.14mmとなっている。
(c)ここで、甲1発明は、甲第1号証における所望の特性を有するものであり、上記(a)のとおり、結合相の含有量が30重量%を超えて増加させると耐摩耗性が低下するおそれがあるから、甲1発明の結合相の含有量(27重量%)を増加させる動機があるとはいえない。
(d)なお、申立人が例示する、甲第6号証の図11・1・4−3のTiC−12%TiN−9%WC−6%TaC−5.5%Mo−16.5%Ni−33%Co合金は、NiとCoの和が49.5%であり、甲第1号証における結合相量の上限値である30重量%(請求項1参照)を超えていることから、適用することはできない(当審注:甲第6号証の「%」の基準が不明であるが、甲第6号証の金属量(%)≒甲第1号証の結合相量(重量%)と判断した。)。
(e)よって、相違点1は、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

b 相違点2について
(a)甲第1号証には、Mo2Cの配合量を規定する指針が記載されていないため、甲第1号証の記載から、甲1発明のMo2Cの配合量を5〜35重量%とすることが動機付けられるとはいえない。
(b)一方、申立人が主張するとおり、甲第1号証には、Mo2Cを10重量%配合する例が記載され、甲第5号証にも、Mo2Cを10vol%含有する例として、「丸1TiC−10vol%Mo2C−(0〜40)vol%TiN−10vol%Ni試料および丸2TiN無添加のTiC−10vol%Mo2C−10vol%Ni混粉とTiN添加の混粉とを積層状に成形し,これを焼結・接着させた試料などを,普通の真空焼結(〜10−2torr)によって作った.」ことが記載されている。
(c)しかしながら、甲1発明において、Mo2Cと如何なる化合物を置換し得るのか、例えば、WCや(Ti、Zr)(C,N)と置換しても、所望の特性を維持することができるのかは不明である。また、申立人が主張するとおり、Wの代わりにその一部をMoと置換することが通常行われていることであるとしても、上記(b)に従って、甲1発明におけるWCの5重量%をMo2Cに置換すると、WCの含有量が1/2の4.69重量%となり、本件発明1のW含有量を満たさなくなるから、WCとMo2Cとを、上記(b)のとおりに置換することはできない。
(d)よって、相違点2は、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

c 相違点3について
(a)甲1発明における原料粉末の配合組成を元素ごとの重量%に換算する。
(a1)WC:10%は、Wの原子量183.84、Cの原子量12.01から、W:9.39%、C:0.61%と換算される。
(a2)Mo2C:5%は、Moの原子量95.95、Cの原子量12.01から、Mo:4.71%、C:0.29%と換算される。
(a3)(Ti、Zr)(C,N):15%については、(Ti、M)CN−Aの製造方法をみると、以下のとおりである。
「平均粒径:0.5μmのTiO2粉末と同0.2μmのカーボンブラックの配合したもの、あるいはそれにさらに同0.5〜2.0μmのTa,Nb,V,W,Mo,Cr、およびZrの金属,酸化物、炭化物あるいは窒化物のうちの1種または2種以上を配合したもの、ボールミルで48時間乾式混合した後、1ton/cm2の圧力で粉末成形体とし、これにN2分圧:450TorrのN2雰囲気中、温度:1750℃に12時間保持の条件で還元炭窒化処理を施し、処理後軽い粉砕を加えることにより1.2μmの平均粒径を有するTiCN粉末(以下TiCN−A粉末という)あるいは(Ti,M)CN粉末(以下(Ti,M)CN−A粉末という)を製造した。」(段落【0007】)。
この製造方法においては、Ti、Zr、C及びNの重量比が不明であるから、TiC、TiN、ZrC及びZrNが最大量となる場合を仮定すると、Ti及びCの配合量が最大となるのは、TiCが最大量となる場合で、TiC:15%は、Tiの原子量59.88、Cの原子量12.01から、Ti:11.99%、C:3.01%と換算される。
Zrの配合量が最大となるのは、ZrCが最大量となる場合で、ZrC:15%は、Zrの原子量91.22、Cの原子量12.01から、Zr:13.25%と換算される。
Nの配合量が最大となるのは、TiNが最大量となる場合で、TiN:15%は、Tiの原子量59.88、Nの原子量14.01から、N:3.40%と換算される。
以上から、(Ti、Zr)(C,N):15%については、それぞれの元素の配合量が0の場合を除く、Ti:0超〜11.99%、Zr:0超〜13.25%、C:0超〜3.01%、N:0超〜3.40%と換算される。
(a4)TiCNの配合量は、他の成分の残部であるから45%となる。
TiCNは、上記(a3)のTiCN−A粉末であり、(Ti、M)CN−Aと同様に、Ti、C及びNの重量比が不明であるから、(Ti、M)CN−Aと同様に換算すると、Ti:34.81〜35.97%、C:0超〜9.03%、N:0超〜10.19%と換算される。
(a5)以上から、甲1発明における原料粉末の配合組成を元素ごとの重量%で表すと以下のとおりとなる。
Ti:34.81%超((a4)の最小値)
〜47.97%((a3)の最大値+(a4)の最大値))
Mo: 4.71%
W : 9.39%
C : 0.91%超((a1)+(a2)+(a3)の最小値+(a4)の最小値))
〜12.94%((a1)+(a2)+(a3)の最大値+(a4)の最大値))
Co+Ni:25%
Zr: 0%超((a3)の最小値)
〜13.25%((a3)の最大値)
N : 0%超((a3)の最小値+(a4)の最小値))
〜13.58%((a3)の最大値+(a4)の最大値))
(b)そうすると、甲1発明のTi配合量は、34.81重量%超〜47.97重量%、C配合量は、0.91重量%超〜12.94重量%となり、本件発明1のTi:20〜45質量%、C:5〜15質量%と相違するが、上記b(a)のMo2Cと同様に、甲第1号証には、Ti及びCの配合量を規定する指針が記載されていないため、甲第1号証の記載から、甲1発明のTiの配合量を20〜45重量%、Cの配合量をC:5〜15重量%とすることが動機付けられるとはいえない。
(c)よって、相違点3は、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

d 相違点4について
(a)甲1発明は、「圧粉体を、常温から1100℃までの昇温過程を10−2TorrのN2雰囲気とし、1100℃から1420〜1500℃の範囲内の所定の焼結温度までの昇温過程、前記焼結温度に1時間保持の保持過程、および焼結温度保持終了から常温までの冷却過程を10TorrのN2雰囲気とした条件で焼結する」工程を有している。
(b)上記(a)の工程の「圧粉体を、常温から1100℃までの昇温過程を10−2TorrのN2雰囲気」とする工程は、本件発明1の「プレス体を600〜1000℃の真空またはガス雰囲気中で仮焼結」する工程と処理条件が重複するものである。
(c)ここで、甲第8号証の「(ii)予備焼結 プレス後に機械成形を行う場合,この機械成形に耐えうる強度を圧粉体に与えるために,600〜1000℃の温度範囲で圧粉体を水素または真空中で,高周波あるいは抵抗によって加熱を行う.」(第22ページ第27〜29行)との記載によれば、甲1発明における、「圧粉体を、常温から1100℃までの昇温過程を10−2TorrのN2雰囲気」とする工程は、予備焼結(仮焼結)工程ということもできる。
(d)そうすると、「圧粉体を、常温から1100℃までの昇温過程を10−2TorrのN2雰囲気」とする工程は、本件発明1の「プレス体を600〜1000℃の真空またはガス雰囲気中で仮焼結」する工程に相当するといえる。
(e)よって、相違点4は、実質的な相違点であるとはいえない。

e 相違点5について
(a)甲1発明のスローアウェイチップ形状のサーメットは、「きわめてすぐれた靱性を有し、かつ硬質相を構成する中心部がTiCN相からなる有芯硬質相によってすぐれた耐摩耗性も具備するので、高靱性と高耐摩耗性が要求される切削工具や各種耐摩工具などとして用いた場合にすぐれた性能を著しく長期に亘って発揮するのである」(段落【0016】)。
(b)そして、表4で具体的に開示される耐摩耗性の評価指標は、切刃の逃げ面摩耗幅である。
(c)ここで、スローアウェイチップ(切削工具)における摩耗と「粉砕・撹拌・混合・混練機部材」における摩耗は、共にアブレシブ摩耗であるから、甲1発明のサーメットを「粉砕・撹拌・混合・混練機部材」に適用することは、当業者が容易になし得ることである。
(d)よって、相違点5は、当業者が容易になし得ることである。

f 相違点6について
(a)甲第6号証の「サーメットの硬質相は,芯部(たとえばTiC等)とその周りの周辺組織部(たとえば(Ti,Mo)C等)の成分が異なる有芯構造を有しており,その形成機構は鈴木ら8)により検討されている.図11・1・4−1には典型的なサーメット組織例を示す.実用組成に近いTiC−TiN−TaC−WC−Mo2C−Ni−Co合金の焼結挙動についての研究も報告されている9).・・・図11・1・4−3には,有芯構造を有する炭窒化物粒子中の各元素のEPMA分析結果を示した.」(第291ページ第32行〜第292ページ第2行)との記載によれば、甲1発明のサーメットにおいても、有芯硬質相における中心部の周囲を覆っている相には、主としてTi以外の成分が存在していると認められる。
(b)ここで、甲1発明のサーメットには、上記c(a)で検討したとおり、Mo:4.71重量%、W:9.39重量%及びZr:0%超〜13.25重量%が配合されており、Zrを含むものである。
(c)そうすると、甲1発明において、有芯硬質相における中心部の周囲を覆っている相(リム相)には、Zrが含まれていると認められるから、リム相が(Ti,Mo,W)(C,N)を主成分とするものとはいえない。また、甲1発明において、Zrを配合しない理由があるともいえない。
(d)よって、相違点6は、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

g 相違点7について
(a)甲第1号証には、有芯硬質相の平均粒径が記載されておらず、また、平均粒径を制御することも記載されていないため、甲第1号証の記載から、甲1発明の有芯硬質相(コア相とリム相から成る硬質相)の平均粒径が3μm未満とすることが動機付けられるとはいえない。
(b)申立人は、甲第2号証〜甲第5号証の顕微鏡写真を参照し、コア相とリム相から成る硬質相の平均粒径が3μm未満となることは技術常識である旨の主張をしているが、硬質相の平均粒径は、原料粉末の粒径や焼結温度の影響も受けるから、甲第2号証〜甲第5号証における硬質相の平均粒径が3μm未満であるからといって、甲1発明の有芯硬質相の平均粒径が3μm未満であるとはいえない。
(c)よって、相違点7は、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

h 相違点8について
(a)甲第1号証には、「SEM観察により、WC相およびMo2C相を観察することができない」ことが記載されておらず、また、WC相およびMo2C相を制御することも記載されていないため、甲第1号証の記載から、甲1発明のWC相およびMo2C相をSEM観察することができないようにすることが動機付けられるとはいえない。
(b)一方、甲第4号証のPhoto.1には、WCを22vol%((Ti(C,N)+WC)中30vol%)まで添加したTiC0.7N0.3合金のSEM組織に及ぼす焼結雰囲気の影響が示されており、写真中の白色相がWC相であると説明されている(第237ページ左欄第1行〜右欄第2行)。すなわち、(16%WC−2.7kPaN2)、(22%WC−0.67kPaN2)、(22%WC−2.7kPaN2)の3組織でWC相が観察されている。
(c)ここで、甲1発明は、WCを10%含み、10Torr(1.33kPa)のN2雰囲気で焼結されたサーメットであるから、WC相が観察されない(0%WC−0.67kPaN2)、(16%WC−0.67kPaN2)よりもN2分率が高い条件で焼結され、(0%WC−0.27kPaN2)よりも多くWCを含むものである。
(d)そうすると、甲第4号証の記載を参酌しても、甲1発明のサーメットが、「SEM観察により、WC相およびMo2C相を観察することができない」とまではいえない。
(e)よって、相違点8は、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

イ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第9号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2〜4について
本件発明2は、本件発明1の記載を引用するものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第9号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2〜4についても同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第9号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)申立理由1のまとめ
したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(明確性
(1)申立理由2の概要は、有芯硬質相を有するTiCN系サーメットのコア相、リム相及び金属相の組成をEPMAおよびEDXで測定することは一般的に行われており、本件発明1のように原料組成及び製造工程によりサーメットの構成を特定することのほうが不合理であるので、本件発明1において、当該物をその構造または特性により直接特定することは不可能であるか、またはおよそ非実際的であり、いわゆる「不可能・非実際的事情」は存在しない、というものである。つまり、本件発明1では、「不可能・非実際的事情」は存在しないにもかかわらず、原料組成及び製造工程によりサーメットの構成を特定しているので、本件発明1は明確ではない、と主張している。
(2)本件特許明細書の段落【0037】【表3】に記載されているように、原料粉末の組成比とEPMA及びEDXによる定量分析結果とには一定の相関があるから、本件発明の粉砕・撹拌・混合・混練機部材をEPMA又はEDXで分析することにより、原料粉末の元素ごとの質量比を特定することができると認められる。
(3)また、本件発明の粉砕・撹拌・混合・混練機部材は、その組織が、「TiCNを主成分とするコア相と、コア相の周囲を覆うように存在し、(Ti,Mo,W)(C,N)を主成分とするリム相と、金属相の3相を有し、断面組織観察でのコア相とリム相から成る硬質相の平均粒径が3μm未満であり、SEM観察により、WC相およびMo2C相を観察することができない」と明確に特定されている。
(4)そうすると、本件発明は、当該物をその構造又は特性により直接特定することができるから、いわゆる「不可能・非実際的事情」が存在するとはいえないという点では申立人の主張するとおりである。
(5)しかしながら、本件発明1は、原料組成及び製造工程のみならず、上記(3)のようにその組織についても特定されていることから、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまではいえない。
(6)よって、本件発明1〜4については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものである。
(7)小括
したがって、申立理由2によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。

第7 まとめ
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-17 
出願番号 P2021-020114
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C22C)
P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 平塚 政宏
佐藤 陽一
登録日 2021-07-30 
登録番号 6922110
権利者 日本タングステン株式会社
発明の名称 粉砕・撹拌・混合・混練機部材  
代理人 特許業務法人英和特許事務所  

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