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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08F
管理番号 1386184
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-25 
確定日 2022-06-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6933895号発明「樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6933895号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6933895号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成28年12月7日に出願した特願2016−237924であって、令和3年8月24日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年9月8日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年2月25日に特許異議申立人 岡本 正義(以下、「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立て(対象請求項:請求項1〜8)を行った。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート由来の単位を有する重合体ブロック(A)と、重合体ブロック(B)を有し、
ガラス転移温度を80℃以上と25℃以下に有し、
重量平均分子量が2万以上40万以下であり、
前記重合体ブロック(A)が単独重合体ブロック又は共重合体ブロックであり、
炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート由来の単位が、重合体ブロック(A)100質量部中に50質量部以上含まれ、
前記重合体ブロック(B)が、メタクリル酸エステル単位の単独重合体ブロック又は共重合体ブロックであるブロック共重合体、
及び、
前記ブロック共重合体以外の(メタ)アクリル系樹脂(D−1)を含む樹脂組成物であって、
前記ブロック共重合体の量が、前記(メタ)アクリル系樹脂(D−1)100質量部に対して、5質量部以上60質量部以下である樹脂組成物。
【請求項2】
前記ブロック共重合体が、ガラス転移温度を−40℃〜25℃に有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ブロック共重合体が、ガラス転移温度を−20℃〜25℃に有する請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ブロック共重合体を、温度240℃で絶対圧5kPa以下、1時間加熱した時のクロロホルム不溶性成分(大きさ3.0μm以上)が、前記ブロック共重合体中、1質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)を有する前記ブロック共重合体のブロック構造が、A−B型、B−A−B型、A−B−A型、A−B−A−B型、A−B−A−B−A型、又はB−A−B−A−B型である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物から形成される光学フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の光学フィルムと偏光子とを有する偏光板。
【請求項8】
請求項7に記載の偏光板を備える画像表示装置。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由
令和4年2月25日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は、次のとおりである。
1 申立理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(実施可能要件
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
4 証拠方法
・甲第1号証:「透明性を有する持続性帯電防止ポリカーボネート系材料の開発」内山達矢 成形加工 2014年 第26巻第8号 p.406
・甲第2号証:「ポリマーブレンド」箕浦有二 高分子 1957年 第6巻第7号 p.327-332
・甲第3号証:「透明ポリメタクリル酸メチル/ポリカーボネートブロック共重合体の合成と物性」黒田和宏等 平成24年度日本大学理工学部 学術講演会論文集 N-8 p.1173-1174
・甲第4号証:Yasuyuki Nakamura and Shigeru Yamago、 "Termination Mechanism in the Radical Polymerization of Methyl Methacrylate and Styrene Determined by the Reaction of Structurally Well-Defined Polymer End Radicals" 2015, Macromolecules, 48,18, p.6450-6456
・甲第5号証:特開2010−241961号公報
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
1 申立理由1(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細の記載は次のとおりである。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記ブロック重合体を樹脂の改良剤として用いる場合、又はブロック共重合体を樹脂成分として用いる場合、ブロック共重合体からゲル化物が異物として生じたり、樹脂フィルムのヘイズ値が上昇したりすることがあった。従って本発明の課題は、ゲル化物の発生が少ないブロック共重合体を提供すること、ヘイズ値の低いフィルムを製造するのに有用な樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の分子量を有するブロック共重合体のガラス転移温度を制御すると共に、該ブロック共重合体のソフトセグメントを特定のモノマー由来のものにすれば、ゲル化物の発生が抑制できること、及びこうしたブロック共重合体を含む樹脂組成物を用いれば、樹脂フィルムの可撓性を高めつつヘイズ値も下げられることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下の通りである。
[1] 炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート由来の単位を有する重合体ブロック(A)と、重合体ブロック(B)を有し、
ガラス転移温度を80℃以上と25℃以下に有し、
重量平均分子量が2万以上40万以下であるブロック共重合体。
[2] 前記重合体ブロック(A)が単独重合体ブロック又は共重合体ブロックであり、
炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート由来の単位が、この重合体ブロック(A)100質量部中に50質量部以上含まれる前記[1]に記載のブロック共重合体。
[3] ガラス転移温度を−40℃〜25℃に有する前記[1]又は[2]に記載のブロック共重合体。
[4] 前記重合体ブロック(B)が、メタクリル酸エステル単位の単独重合体ブロック又は共重合体ブロックである前記[1]〜[3]のいずれかに記載のブロック共重合体。
[5] 温度240℃で絶対圧5kPa以下、1時間加熱した時のクロロホルム不溶性成分(大きさ3.0μm以上)が、ブロック共重合体中、1質量%以下である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のブロック共重合体。
[6] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載のブロック共重合体を含む樹脂組成物。
[7] 前記[6]に記載の樹脂組成物から形成される光学フィルム。
[8] 前記[7]に記載の光学フィルムと偏光子とを有する偏光板。
[9] 前記[8]に記載の偏光板を備える画像表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明のブロック共重合体によれば、所定の分子量を有するブロック共重合体のガラス転移温度を制御すると共に、該ブロック共重合体のソフトセグメントを特定のモノマー由来のものにしているため、ゲル化物の発生が抑制できる。また本発明のブロック共重合体を含む樹脂組成物を用いれば、樹脂フィルムの可撓性を高めつつヘイズ値も下げる事が可能である。」
「【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)ブロック共重合体(C)
本発明のブロック共重合体(C)は、重量平均分子量(Mw)が2万以上、好ましくは5万以上、より好ましくは7万以上であり、40万以下、好ましくは38万以下、より好ましくは30万以下である。ブロック共重合体(C)の重量平均分子量(Mw)を適切な範囲にすることで、ゲル化物の発生を抑制でき、また樹脂フィルムのヘイズ値を下げることができる。
【0010】
ブロック共重合体(C)の数平均分子量(Mn)は、前記重量平均分子量を達成可能な限り、特に限定されないが、例えば、1万以上、好ましくは3万以上、より好ましくは5万以上であり、例えば、30万以下、好ましくは20万以下、より好ましくは15万以下である。ブロック共重合体(C)の数平均分子量(Mn)を制御することもまた、ゲル化物の発生の抑制や樹脂フィルムのヘイズ値を低下するのに有効である。
【0011】
またブロック共重合体(C)の分子量分布(Mw/Mn)もまた特に限定されないが、例えば、1.1以上、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.3以上であり、例えば、3以下、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下である。
【0012】
そして本発明では前記ブロック共重合体(C)が、低温側のガラス転移温度(25℃以下。以下「低Tg特性」という場合がある)と高温側のガラス転移温度(80℃以上。以下「高Tg特性」という場合がある)とを有する点に特徴がある。ブロック共重合体(C)が低Tg特性と高Tg特性とを有するため、該ブロック共重合体(C)を含む樹脂組成物の成形体の可撓性を確保することが可能である。
【0013】
低温側のガラス転移温度は、25℃以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは5℃以下であり、例えば、−40℃以上、好ましくは−30℃以上、より好ましくは−20℃以上である。また高温側のガラス転移温度は、80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上であり、例えば150℃以下、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下である。
【0014】
(1.1)重合体ブロック(A)
前記ブロック共重合体(C)は、少なくとも重合体ブロック(A)(以下、「ソフトセグメント(A)」と称する場合がある)と重合体ブロック(B)(以下、「ハードセグメント(B)」と称する場合がある)とを有しており、これらを有することによって前記低Tg特性と高Tg特性とを示すことが可能となる。
【0015】
ソフトセグメント(A)となる重合体ブロック(A)は、炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート(以下、「C1〜3アクリレート」と称する場合がある)由来の単位を有する。前記重量平均分子量を有しかつ前記低Tg特性を示すブロック共重合体(C)はゲル化物が発生しやすいにもかかわらず、重合体ブロック(A)を特定の炭素数のアルキルアクリレート単位で形成することによって、ゲル化物の発生を抑制することができる。
【0016】
C1〜3アクリレートとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピルなどが挙げられ、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルが好ましい。これらC1〜3アクリレートは単独で用いても、適宜組み合わせてもよいが、製造のし易さの観点から単独で用いるのが好ましい。
【0017】
重合体ブロック(A)は、C1〜3アクリレートの単独重合体ブロックであってもよいが、ブロック共重合体(C)が前記低Tg特性を示すことが可能な限り、共重合体ブロックであってもよく、この共重合体ブロックは、C1〜3アクリレートと共重合可能な単量体(以下、「共重合単量体A」と称する場合がある)由来の単位を有していてもよい。
【0018】
共重合単量体Aとしては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、不飽和カルボン酸、芳香族ビニル化合物、オレフィン、共役ジエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられ、好ましくはアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどが挙げられる。また芳香族環を有するアクリル酸エステル、芳香族環を有するメタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物などの芳香族性単量体も共重合単量体Aとして好ましい。芳香族性単量体を共重合させることで、屈折率を調整し、樹脂組成物との混合時における相溶性、透明性を改善することが出来る。前記芳香族性単量体としては、芳香族ビニル化合物が好ましい。
【0019】
共重合単量体Aとしてのアクリル酸エステルには、炭素数が4以上のアルキル基を有するアルキルアクリレート(例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシルなど)、環状脂肪族炭化水素基を有するアクリル酸エステル(アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニルなど)、ヒドロキシ基、エーテル結合、エポキシ基、アリル基などの官能基を有する脂肪族性アクリル酸エステル(アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリルなど)などの非芳香族性アクリル酸エステル;アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチルなどの芳香族環を有するアクリル酸エステルなどが含まれる。
【0020】
共重合単量体Aとしてのメタクリル酸エステルには、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリルなどの非芳香族性メタクリル酸エステル;メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチルなどの芳香族環を有するメタクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0021】
共重合単量体Aとしての芳香族ビニル化合物には、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレンなどのベンゼン環含有化合物;N−ビニルカルバゾール、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルチオフェンなどの芳香族性複素環を有する化合物などが挙げられる。
【0022】
重合体ブロック(A)を構成する全単位100質量部中のC1〜3アクリレートの量は、例えば、50質量部以上、好ましくは70質量部以上、より好ましくは90質量部以上であり、100質量部であってもよい。
【0023】
重合体ブロック(A)の重量平均分子量(Mw)は、機械的特性、光学特性と流動性の観点から、またゲル抑制の観点から、例えば、5000以上、好ましくは1万以上、より好ましくは2万以上であり、例えば、20万以下、好ましくは15万以下、より好ましくは10万以下である。また重合体ブロック(A)の数平均分子量(Mn)は、例えば、3000以上、好ましくは1万以上、より好ましくは1万5000以上であり、例えば、15万以下、好ましくは10万以下、より好ましくは8万以下である。重合体ブロック(A)の分子量分布(Mw/Mn)は特に限定されないが、例えば、1.05以上、好ましくは1.1以上であり、例えば、2.5以下、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下である。
【0024】
重合体ブロック(A)の屈折率は、例えば1.468以上、好ましくは1.470以上であり、より好ましくは1.480以上であり、例えば1.600以下、好ましくは1.580以下、より好ましくは1.550以下である。
【0025】
(1.2)重合体ブロック(B)
重合体ブロック(B)は、ブロック共重合体(C)が高Tg特性を示すために導入され、ブロック共重合体(C)においてハードセグメントを構成する。この重合体ブロック(B)は、所定のガラス転移温度を示す限り、構成単量体は特に限定されないが、通常、メタクリル酸エステル単位の単独重合体ブロック又は共重合体ブロックである。重合体ブロック(B)を構成する全単位100質量部中、メタクリル酸エステル単位の量は、例えば、30質量部以上、好ましくは50質量部以上であり、例えば、100質量部以下、好ましくは90質量部以下である。
【0026】
重合体ブロック(B)の単位の由来となるメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリルなどが挙げられる。好ましくはメタクリル酸アルキルエステルであり、特にメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピルなどの炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(以下、「C1〜3メタクリレート」と称する場合がある)を必ず含むのが好ましく、メタクリル酸メチルを必ず含むのが最も好ましい。C1〜3メタクリレートの量(好ましくはメタクリル酸メチルの量)は、メタクリル酸エステル100質量部中、例えば、50質量部以上、好ましくは70質量部以上、より好ましくは90質量部以上であり、100質量部であってもよい。
【0027】
重合体ブロック(B)において、前記メタクリル酸エステル(特にC1〜3メタクリレート)と共重合可能な単量体(以下、「共重合単量体B」と称する場合がある)としては、アクリル酸エステル、不飽和カルボン酸、芳香族ビニル化合物、オレフィン、共役ジエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられ、好ましくはアクリル酸エステル、芳香族性単量体(芳香族環を有するアクリル酸エステル、芳香族環を有するメタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物など。特に芳香族ビニル化合物)が挙げられる。
【0028】
共重合体単量体Bとして使用可能なアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリルなどが挙げられ、好ましくはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチルなどの炭素数が1〜3のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが挙げられる。共重合体単量体Bとして使用可能な芳香族ビニル化合物としては、共重合単量体Aとして例示したものと同様のものが使用できる。
【0029】
共重合体単量体Bとして使用可能な芳香族性単量体としては、共重合体単量体Aとして使用可能な芳香族性単量体と同様の化合物が例示できる。好ましい芳香族性単量体も共重合体単量体Aの場合と同様である。芳香族性単量体を用いることで、ブロック共重合体の複屈折を調整することができる。
【0030】
共重合体単量体B(好ましくはアクリル酸エステル、芳香族性単量体など)の量は、メタクリル酸エステル単位100質量部に対して、例えば、0質量部以上、好ましくは1質量部以上であり、例えば、30質量部以下、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0031】
さらに重合体ブロック(B)は、流動性の観点では環構造を主鎖に有する単位を実質的に含まなくてもよいが(例えば、5質量%以下。特に0質量%)、耐熱性の観点では環構造を主鎖に有する単位を実質的に含んでいてもよい(例えば、5質量%超)。環構造を主鎖に有する単位は、通常、前記メタクリル酸エステル単位(特にC1〜3メタクリレート単位)の共重合単位として、重合体ブロック(B)に導入される。環構造を主鎖に有する単位をブロック共重合体(C)に導入すると、該ブロック共重合体(C)自体の光学特性を良好にできる。また該ブロック共重合体(C)を、環構造を主鎖に有する樹脂に添加した場合に、樹脂との相溶性を向上できる。環構造を主鎖に有する単位の量は、メタクリル酸エステル単位100質量部に対して、例えば、0質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上であり、例えば、50質量部以下、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。
【0032】
主鎖の環構造としては、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、無水マレイン酸構造、N−置換マレイミド構造などが挙げられ、好ましくはラクトン環構造及びN−置換マレイミド構造が挙げられる。前記ラクトン環構造は、例えば、4員環から8員環のラクトン環構造が好ましく、環構造の安定性に優れることから5員環または6員環であることがより好ましく、6員環であることが最も好ましい。6員環であるラクトン環構造としては、例えば、特開2004−168882号公報に開示されている構造が挙げられ、ラクトン環構造の導入が容易であること、具体的には、前駆体(ラクトン環化前の重合体)の重合収率が高いこと、前駆体の環化縮合反応におけるラクトン環含有率を高めることができること、メタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体を前駆体にできること、などの理由から下記一般式(1)に示される構造が特に好ましい。
【0033】
【化1】

【0034】
上記一般式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1から20の有機残基であり、当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
一般式(1)における有機残基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1から20の飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基等)、エテニル基、プロペニル基などの炭素数2から20の不飽和脂肪族炭化水素基(アルケニル基等)、フェニル基、ナフチル基などの炭素数6から20の芳香族炭化水素基(アリール基等)のほか、これら飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基における水素原子の一つ以上が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種類の基により置換された基などが挙げられる。
【0035】
ラクトン環構造は、例えば、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸系モノマーAと、(メタ)アクリル酸系モノマーBとを重合(好ましくは共重合)して分子鎖にヒドロキシ基とエステル基またはカルボキシル基とを導入した後、これらヒドロキシ基とエステル基またはカルボキシル基との間で脱アルコールまたは脱水環化縮合を生じさせることにより形成できる。重合成分として、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸系モノマーAは必須であり、(メタ)アクリル酸系モノマーBは前記モノマーAを包含する。モノマーBはモノマーAと一致していてもよいし、一致しなくてもよい。モノマーBがモノマーAと一致する時には、モノマーAの単独重合となる。なお「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸を総称したものを意味し、「(メタ)アクリル酸系モノマー」や「(メタ)アクリル酸エステル」などの様に「(メタ)アクリル酸」が他の名称と結合した場合でも同様である。
【0036】
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸系モノマーAとしては、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル(例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチル)、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキル(例えば、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸エチル)等が挙げられ、好ましくは、ヒドロキシアリル部位を有するモノマーである2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸や2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルが挙げられる。特に好ましくは2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが例示できる。
【0037】
(メタ)アクリル酸系モノマーBとしては、ビニル基とエステル基またはカルボキシル基とを有するモノマーが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等、好ましくはメタクリル酸メチル)、(メタ)アクリル酸アリール(例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等)、2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキル(例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどの2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキル等)などが挙げられる。
【0038】
前記無水グルタル酸構造または前記グルタルイミド構造としては、例えば、下記一般式(2)に示される構造(下記一般式(2)において、X1が酸素原子である場合には無水グルタル酸構造となり、X1が窒素原子である場合にはグルタルイミド構造となる)が好ましく挙げられる。
【0039】
【化2】

【0040】
上記一般式(2)におけるR4、R5は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X1は酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子であるとき、R6は存在せず、X1が窒素原子のとき、R6は、水素原子、炭素数1から6の直鎖アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基)、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
【0041】
上記一般式(2)におけるX1が酸素原子である無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を分子内で脱アルコール環化縮合させることにより形成できる。上記一般式(2)におけるX1が窒素原子であるグルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化することにより形成できる。
【0042】
前記無水マレイン酸構造または前記N−置換マレイミド構造としては、例えば、下記一般式(3)に示される構造(下記一般式(3)において、X2が酸素原子である場合には無水マレイン酸構造となり、X2が窒素原子である場合にはN−置換マレイミド構造となる)が好ましく挙げられる。
【0043】
【化3】

【0044】
上記一般式(3)におけるR7、R8は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X2は酸素原子または窒素原子である。X2が酸素原子であるとき、R9は存在せず、X2が窒素原子のとき、R9は、水素原子、炭素数1から6の直鎖アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基)、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基またはフェニル基である。
【0045】
上記一般式(3)におけるX2が酸素原子である無水マレイン酸構造は、例えば、無水マレイン酸を重合に供することにより形成できる。上記一般式(3)におけるX2が窒素原子であるN−置換マレイミド構造は、例えば、フェニルマレイミドなどのN−置換マレイミドを重合に供することにより形成できる。
【0046】
前記環構造を主鎖に有する単位は、1種又は2種以上を適宜組み合わせることができる。好ましくは2種以上を組み合わせず、環構造を主鎖に有する単位を1種だけ重合体ブロック(B)に導入する。
【0047】
前記重合体ブロック(A)は1種又は2種以上あってもよく、前記重合体ブロック(B)も1種又は2種以上あってもよい。さらにブロック共重合体(C)は、これら重合体ブロック(A)及び(B)とは異なる重合体ブロック(X)を含んでいてもよく、この重合体ブロック(X)も1種又は2種以上であってもよい。重合体ブロック(X)を構成する単量体単位は、重合体ブロック(A)や(B)に使用可能な単量体単位から適宜選択できる。
【0048】
重合体ブロック(A)の量(ソフトセグメント量)は、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の合計100質量部中、例えば、5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上であり、例えば、90質量部以下、好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下である。また重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の合計は、ブロック共重合体(C)100質量部中、例えば、70質量部以上、好ましくは80質量部以上、より好ましくは90質量部以上であり、100質量部でもよい。
なお前記ソフトセグメント量は、1H−NMRの積分値に基づいて算出できる。
【0049】
ブロック共重合体(C)が重合体ブロック(A)(ソフトセグメントA)と重合体ブロック(B)(ハードセグメントB)とから構成される場合、ブロック構造は、A−B型、B−A−B型、A−B−A型、A−B−A−B型、A−B−A−B−A型、B−A−B−A−B型などが適宜採用でき、好ましくはA−B型、B−A−B型である。
【0050】
以上のようにして構成されるブロック共重合体(C)は、ゲル発生量が抑制されている。ブロック共重合体(C)を温度240℃、絶対圧5.0kPa以下の減圧下、1時間加熱処理した後のクロロホルム不溶性成分(大きさ3.0μm以上)量としてゲル発生量を特定した時、該ゲル発生量は、ブロック共重合体(C)中、例えば、1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.01〜0.3質量%程度にすることができる。
【0051】
(2)樹脂組成物
本発明には、前記ブロック共重合体(C)を含む樹脂組成物も含まれる。前記ブロック共重合体(C)を含む樹脂組成物から得られるフィルムは、耐屈折回数が良好であって可撓性に優れるだけでなく、ヘイズ値がが小さくて透明性にも優れる。
該樹脂組成物は、ブロック共重合体(C)自体を樹脂成分として含んでいてもよく、ブロック共重合体(C)以外の樹脂(D)を樹脂成分として含んでいてもよい。樹脂(D)を含む場合、ブロック共重合体(C)の量は、樹脂(D)100質量部に対して、例えば、5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上であり、例えば、60質量部以下、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。またブロック共重合体(C)のソフトセグメント(A)の量が、該樹脂組成物100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、例えば、30質量部以下、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下であってもよい。
【0052】
(2.1)樹脂(D)
樹脂(D)としては、(メタ)アクリル系樹脂(D1)が好ましい。(メタ)アクリル系樹脂(D1)としては、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を必須の構成単位として有するものが好ましく、(メタ)アクリル酸の誘導体に由来する構成単位を有していてもよい。
【0053】
前記(メタ)アクリル酸エステル(単位)は、(メタ)アクリル酸エステル(単位)及び(メタ)アクリル酸エステル誘導体(単位)のいずれであってもよく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルなどの(メタ)アクリル酸とヒドロキシ炭化水素とのエステル類((メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸アリール、(メタ)アクリル酸アラルキルなど)、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチルなどのエーテル結合導入誘導体;(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチルなどのハロゲン導入誘導体;及びヒドロキシ基導入誘導体が挙げられる。前記ヒドロキシ基導入誘導体には、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル類;2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル(例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなど)、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキル(例えば、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなど)の2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキルが含まれる。
【0054】
前記(メタ)アクリル酸(単位)は、(メタ)アクリル酸(単位)及び(メタ)アクリル酸誘導体(単位)のいずれであってもよく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸類;クロトン酸などのアルキル化(メタ)アクリル酸類;2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などのヒドロキシアルキル化(メタ)アクリル酸類などが挙げられる。これらの中でも特に、フィルムの耐熱性、および透明性の観点からは、メタクリル酸メチルが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル(単位)、(メタ)アクリル酸(単位)およびこれらの誘導体(単位)は、それぞれ1種のみ有していてもよいし2種以上有していてもよい。
【0055】
(メタ)アクリル系樹脂(D1)は、相溶性や光学特性改良の為、上述した(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、およびこれらの誘導体から選ばれる1種以上のモノマーを他のモノマーと共重合することによって導入される他の構成単位を有していてもよい。このような他のモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールなどの重合性二重結合を有する単量体が挙げられる。これら他のモノマー(構成単位)は1種のみを有していてもよいし2種以上有していてもよい。
【0056】
前記(メタ)アクリル系樹脂(D1)は、主鎖に環構造を有するものが好ましい。当該環構造としては、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、無水マレイン酸構造、N−置換マレイミド構造などが挙げられる。各環構造の好ましい例、具体例、及びそれらの導入方法は重合体ブロック(B)で説明した環構造と同様である。
【0057】
(メタ)アクリル系樹脂(D1)が主鎖にラクトン環構造を有する場合、当該樹脂(D1)におけるラクトン環構造の含有率は、特に限定はされないが、例えば5〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜80質量%、さらに好ましくは10〜70質量%、特に好ましくは15〜60質量%である。
【0058】
(メタ)アクリル系樹脂(D1)が主鎖に無水グルタル酸構造あるいはグルタルイミド構造を有する場合、当該樹脂(D1)における無水グルタル酸構造あるいはグルタルイミド構造の含有率は、特に限定はされないが、例えば5〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは20〜50質量%である。
【0059】
(メタ)アクリル系樹脂(D1)が主鎖に無水マレイン酸構造あるいはN−置換マレイミド構造を有する場合、当該樹脂における無水マレイン酸構造あるいはN−置換マレイミド構造の含有率は、特に限定はされないが、例えば5〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは15〜50質量%である。」
「【実施例】
【0084】
本発明を以下の実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお以下では特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示す。
【0085】
以下の実施例における各種物性の測定および評価は、以下の方法で行った。
<重量平均分子量>
ブロックポリマー及び重合体の重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
システム:東ソー株式会社製GPCシステム HLC−8220
測定側カラム構成
・ガードカラム:東ソー株式会社製、TSKguardcolumn SuperHZ−L
・分離カラム:東ソー株式会社製、TSKgel SuperHZM−M 2本直列接続
リファレンス側カラム構成
・リファレンスカラム:東ソー株式会社製、TSKgel SuperH−RC
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業株式会社製、特級)
展開溶媒の流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー株式会社製、PS−オリゴマーキット)
カラム温度:40℃
【0086】
<モノマー転化率の算出>
転化率は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、装置名:GC−2014)を用
いて残存モノマー量を測定することで求めた。
【0087】
<屈折率の測定>
ブロック共重合体の屈折率は、(株)アタゴ製アッベ屈折計DR−M2を用いて、干渉フィルター589(D)nm下で緩衝液に1−ブロモナフタレン溶液を用い測定した。
【0088】
<ガラス転移温度>
ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して始点法により求めた。40℃以上で観測されるTgは、具体的には、示差走査熱量計(株式会社リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを25℃から毎分10℃の昇温速度で200℃まで昇温を複数回繰り返すことで安定させたDSC曲線から得た。尚、リファレンスにはα−アルミナを用いた。
また、40℃未満で観測されるTgは、示差走査熱量計(NETZSCH社製、DSC3500A)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを−100℃から毎分20℃の昇温速度で100℃まで昇温を複数回繰り返すことで安定させたDSC曲線から得た。
【0089】
<ゲル発生量>
ブロック共重合体のゲル発生量は、以下の条件にて測定した。
ブロック共重合体3gを240℃、絶対圧5.0kPa以下で1時間減圧下加熱処理を行い、加熱後のブロック共重合体をクロロホルムに溶解させ、孔径3.0μmメンブレンフィルターでろ過を行い、80℃で12時間以上乾燥させた後、フィルター上のゲル量を測定した。ゲル発生量(%)は、溶解させた加熱後のブロック共重合体質量をW1、フィルター上のゲル質量をW2とした時、以下の計算により算出した。
ゲル発生量(%) = W2/W1×100
【0090】
<ソフトセグメント量>
1H−NMR、13C−NMRより、メタクリレート単量体由来の繰り返し単位、N−置換マレイミド単量体由来の繰り返し単位、芳香族ビニル単量体由来の繰り返し単位、およびアクリレート単量体由来の繰り返し単位を同定し、1H−NMRでの積分値から各単位の存在量を算出した。
測定機器:Varian社製 Unity Plus400、またはBRUKER製、AVANCEIII
測定溶媒:CDCl3、又はd−acetone
【0091】
<フィルムの作製>
ブロック共重合体あるいは樹脂組成物を、手動式加熱プレス機(井元製作所製、IMC−180C型)を用い溶融プレス成形し、100±10μmまたは160±10μmの未延伸フィルムを作製した。
【0092】
<フィルムの厚さ>
フィルムの厚さは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて測定した。以降に評価方法を示す物性を含め、フィルムの物性を測定、評価するためのサンプルは、フィルムの幅方向の中央部から取得した。
【0093】
<フィルムのヘイズ>
フィルムのヘイズは、日本電色工業社製NDH−1001DPを用いて石英セルに1,2,3,4−テトラヒドロナフタリン(テトラリン)を満たし、その中にフィルムを浸漬して測定し、100μmあたりの内部ヘイズ値として算出した。
【0094】
<耐折回数(MIT)>
フィルムの耐折回数は、JIS P8115に準拠して測定した。具体的には、長さ90mm、幅15mmの2種類の試験フィルムを23℃、50%RHの状態に1時間以上静置させてから使用し、MIT耐折疲労試験機(東洋精機製、DA型)を用いて、折り曲げ角度135°、折り曲げ速度175cpm、荷重200gの条件で試験を行い、5枚のサンプルのフィルムが破断するまでの回数の平均値をそれぞれ求めた。
【0095】
<製造例1> :重合体ブロック(A−1)(ソフトセグメント)の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、0.44質量部の2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、95.3質量部のアクリル酸エチル(AE)を仕込み、これに窒素を通じつつ、80℃まで昇温した。次いで、0.19質量部の臭化第一銅、0.23質量部のN,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、3.8質量部のアセトニトリルの混合液を加え、2時間30分反応を進行させた。さらに、0.03質量部の臭化第一銅、0.13質量部のトリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン、1.9質量部のアセトニトリルの混合液を加え、1時間30分反応を進行させた。
【0096】
反応溶液を活性アルミナでろ過し触媒残渣を除去した後、絶対圧5.0kPa以下、80℃で約1時間以上加熱して残存モノマーおよび溶媒を除去し、重合体ブロック(A−1)を得た。重合体ブロック(A−1)の数平均分子量Mnは5.4万、重量平均分子量Mwは6.5万、分子量分布Mw/Mnは1.2、40℃以下の領域におけるガラス転移温度は−17℃、屈折率は1.469であった。
【0097】
<実施例1> :B−A−B型ブロック共重合体(C−1)の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、製造例1で合成した重合体ブロック(A−1)15.1質量部、57.4質量部のメタクリル酸メチル(MMA)、3.0質量部のアクリル酸メチル(MA)、12.1質量部のメチルエチルケトンを仕込み、窒素を通じつつ80℃まで昇温させた。次いで、開始剤として0.18質量部のN,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミンと、0.12質量部の臭化第一銅と、12.1質量部のメチルエチルケトンの混合液を加え、2時間反応を進行させ、製造例1と同様に触媒残渣を除去した。得られた反応溶液を多量のメタノールに沈殿させ、ろ過、乾燥することによりブロック共重合体(C−1)を得た。ブロック共重合体(C−1)は、重合体ブロック(A−1)(ソフトセグメント)の両側に重合体ブロック(B−1)(ハードセグメント)が結合したB−A−B型のブロック共重合体である。ブロック共重合体(C−1)の数平均分子量Mnは8.3万、重量平均分子量Mwは15.9万、分子量分布Mw/Mnは1.9であり、40℃以上の領域におけるガラス転移温度は113℃であった。
【0098】
<実施例2> :B−A−B型ブロック共重合体(C−2)の合成
製造例1で合成した重合体ブロック(A−1)17.0質量部、10.2質量部のN−フェニルマレイミド(PMI)(株式会社日本触媒製)、57.7質量部のメタクリル酸メチル(MMA)、1.36質量部の臭化銅、0.27質量部のトリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン、13.6質量部のメチルエチルケトンを加え、窒素置換をした後、80℃で6時間半反応を進行させた。製造例1と同様にして触媒残渣を除去した後、得られた反応溶液を多量のヘキサンに沈殿させ、ろ過、乾燥することによりブロック共重合体(C−2)を得た。ブロック共重合体(C−2)は、重合体ブロック(A−1)(ソフトセグメント)の両側に重合体ブロック(B−2)(ハードセグメント)が結合したB−A−B型のブロック共重合体である。ブロック共重合体(C−2)の数平均分子量Mnは8.7万、重量平均分子量Mwは12.6万、分子量分布Mw/Mnは1.5であり、40℃以上の領域におけるガラス転移温度は127℃であった。
【0099】
<製造例2>:重合体ブロック(A−2)(ソフトセグメント)の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、0.63質量部の2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、65.8質量部のアクリル酸エチル(AE)、9.3質量部のスチレン(St)を仕込み、これに窒素を通じつつ、80℃まで昇温した。次いで、0.33質量部の臭化第一銅、0.16質量部のN,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、5質量部のアセトニトリルの混合液を加え、1.5時間反応を進行させた。さらに、0.16質量部のトリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミンを加え、4時間反応を進行させた。
製造例1と同様に触媒残渣を除去し、モノマーおよび溶媒を除去し、重合体ブロック(A−2)を得た。(A−2)のMnは3.3万、Mwは3.9万、Mw/Mn=1.2、40℃以下の領域におけるガラス転移温度は−1℃、屈折率は1.491であった。
【0100】
<実施例3> :B−A−B型ブロック共重合体(C−3)の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、製造例2で合成した重合体ブロック(A−2)15.2質量部、24.6質量部のメタクリル酸メチル(MMA)、5.4質量部のN−フェニルマレイミド(PMI)、21.0質量部のトルエンを仕込み、窒素を通じつつ80℃まで昇温させた。次いで、開始剤として0.06質量部のN,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミンと、0.30質量部の塩化第一銅と、2.1質量部のトルエンの混合液を加え、3時間反応を進行させ、製造例1と同様に触媒除去を行った。得られた反応溶液を多量のn−ヘキサンに沈殿させ、ろ過、乾燥することによりブロック共重合体(C−3)を得た。(C−3)のMnは6.3万、Mwは9.0万、Mw/Mn=1.4であり、40℃以上の領域におけるガラス転移温度は129℃であった。
【0101】
<製造例3> :重合体ブロック(A−3)(ソフトセグメント)の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、0.59質量部の臭化第一銅、1.1質量部の2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、19.5質量部のアクリル酸n−ブチル(BA)、78.1質量部のアクリル酸メチル(MA)を仕込み、これに窒素を通じつつ、80℃まで昇温した。次いで、0.68質量部のN,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミンを加え、7時間反応を進行させた。
【0102】
製造例1と同様にして触媒残渣を除去し、モノマーおよび溶媒を除去し、重合体ブロック(A−3)を得た。重合体ブロック(A−3)の数平均分子量Mnは2.9万、重量平均分子量Mwは3.3万、分子量分布Mw/Mnは1.1、ガラス転移温度は0℃、屈折率は1.471であった。
【0103】
<実施例4> :B−A−B型ブロック共重合体(C−4)の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、製造例3で合成した重合体ブロック(A−3)14.2質量部、67.6質量部のメタクリル酸メチル(MMA)、3.6質量部のアクリル酸メチル(MA)、14.2質量部のメチルエチルケトンを仕込み、窒素を通じつつ80℃まで昇温させた。次いで、開始剤として0.17質量部のN,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミンと、0.14質量部の臭化第一銅を加え、1.5時間反応を進行させ、製造例1と同様に触媒除去を行った。得られた反応溶液を多量のメタノールに沈殿させ、ろ過、乾燥することによりブロック共重合体(C−4)を得た。(C−4)のMnは7.4万、Mwは13.3万、Mw/Mn=1.8であり、40℃以上の領域におけるガラス転移温度は101℃であった。
【0104】
<製造例4> :重合体ブロック(A−4)(ソフトセグメント)の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、0.19質量部の臭化第一銅、0.45質量部の2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、95.3質量部のアクリル酸n−ブチル(BA)を仕込み、これに窒素を通じつつ、80℃まで昇温した。次いで、0.24質量部のN,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、3.8質量部のアセトニトリルを加え、2時間反応を進行させた。さらに、0.15質量部の臭化第一銅、0.42質量部のN,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、6.6質量部のアセトニトリルを加え、7時間反応を進行させた。
製造例1と同様に触媒残渣を除去し、モノマーおよび溶媒を除去し、重合体ブロック(A−4)を得た。(A−4)の数平均分子量Mnは5.7万、重量平均分子量Mwは6.6万、分子量分布Mw/Mn=1.2、ガラス転移温度は−49℃、屈折率は1.466であった。
【0105】
<比較例1> :B−A−B型ブロック共重合体(C−5)の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、製造例4で合成した重合体ブロック(A−4)15.1質量部、57.4質量部のメタクリル酸メチル(MMA)、3.0質量部のアクリル酸メチル(MA)、12.1質量部のメチルエチルケトンを仕込み、窒素を通じつつ80℃まで昇温させた。次いで、開始剤として0.18質量部のN,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミンと、0.12質量部の臭化第一銅と、12.1質量部のメチルエチルケトンの混合液を加え、2時間反応を進行させ、製造例1と同様に触媒残渣を除去した。得られた反応溶液を多量のメタノールに沈殿させ、ろ過、乾燥することによりブロック共重合体(C−5)を得た。ブロック共重合体(C−5)の数平均分子量Mnは8.4万、重量平均分子量Mwは16.0万、分子量分布Mw/Mnは1.9であり、40℃以上の領域におけるガラス転移温度は112℃であった。
【0106】
<製造例5> :重合体ブロック(A−5)(ソフトセグメント)の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、0.38質量部の2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、95.4質量部のアクリル酸イソブチル(IBA)を仕込み、これに窒素を通じつつ、80℃まで昇温した。次いで、0.19質量部の臭化第一銅、0.23質量部のN,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、3.8質量部のアセトニトリルの混合液を加え、1.5時間反応を進行させた。さらに、0.24質量部のトリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミンを加え、4時間反応を進行させた。
【0107】
製造例1と同様に触媒残渣を除去し、モノマーおよび溶媒を除去し、重合体ブロック(A−5)を得た。重合体ブロック(A−5)の数平均分子量Mnは6.5万、重量平均分子量Mwは7.9万、分子量分布Mw/Mnは1.2、40℃以下の領域におけるガラス転移温度は−24℃、屈折率は1.460であった。
【0108】
<比較例2> :B−A−B型ブロック共重合体(C−6)の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、製造例5で合成した重合体ブロック(A−5)15.1質量部、57.4質量部のメタクリル酸メチル(MMA)、3.0質量部のアクリル酸メチル(MA)、12.1質量部のメチルエチルケトンを仕込み、窒素を通じつつ80℃まで昇温させた。次いで、開始剤として0.24質量部のトリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミンと、0.06質量部の臭化第一銅と、12.1質量部のメチルエチルケトンの混合液を加え、1.5時間反応を進行させ、製造例1と同様にして触媒残渣を除去した。得られた反応溶液を多量のメタノールに沈殿させ、ろ過、乾燥することによりブロック共重合体(C−6)を得た。ブロック共重合体(C−6)の数平均分子量Mnは10.0万、重量平均分子量Mwは23.3万、分子量分布Mw/Mnは2.3であり、40℃以上の領域におけるガラス転移温度は116℃であった。
【0109】
<製造例6> :重合体ブロック(A−6)(ソフトセグメント)の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、0.17質量部の2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、95.8質量部のアクリル酸エチル(AE)を仕込み、これに窒素を通じつつ、80℃まで昇温した。次いで、0.07質量部の臭化第一銅、0.10質量部のトリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン、3.8質量部のアセトニトリルの混合液を加え、2時間反応を進行させた。
【0110】
反応溶液を活性アルミナでろ過し触媒残渣を除去した後、絶対圧5.0kPa以下、80℃で約1時間加熱して残存モノマーおよび溶媒を除去し、重合体ブロック(A−6)を得た。重合体ブロック(A−6)の数平均分子量Mnは13.8万、重量平均分子量Mwは20.2万、分子量分布Mw/Mnは1.5、40℃以下の領域におけるガラス転移温度は−17℃、屈折率は1.469であった。
【0111】
<比較例3> :B−A−B型ブロック共重合体(C−7)の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、製造例6で合成した重合体ブロック(A−6)6.0質量部、86.5質量部のメタクリル酸メチル(MMA)、4.2質量部のアクリル酸メチル(MA)、窒素を通じつつ80℃まで昇温させた。次いで、開始剤として0.12質量部のトリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミンと、0.07質量部の臭化第一銅と、3.0質量部のアセトニトリルの混合液を加え、1時間反応を進行させ、製造例1と同様に触媒残渣を除去した。得られた反応溶液を多量のメタノールに沈殿させ、ろ過、乾燥することによりブロック共重合体(C−7)を得た。ブロック共重合体(C−7)の数平均分子量Mnは22.3万、重量平均分子量Mwは49.1万、分子量分布Mw/Mnは2.2であり、40℃以上の領域におけるガラス転移温度は110℃であった。
【0112】
<製造例7> マレイミド環構造含有アクリル樹脂(D−1)の合成
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応装置に、81.4部のフェニルマレイミド(PMI)、340.1部のメタクリル酸メチル(MMA)、0.13部のn−ドデシルメルカプタン(DM)、ならびに重合溶媒として402部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ105℃まで昇温させた。t−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)570)0.154部を一括で加えると同時に、t−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)570)0.393部とトルエン26.0部からなる液、及びスチレン(St)18.5部を5時間かけて滴下した。滴下終了後、105℃〜110℃の温度を保持しながら2時間重合反応を行い、PMI、MMA、Stからなる共重合体を含むポリマー溶液を得た。尚、重合反応終了後のモノマー残存量より算出した反応率は、MMA95%、PMI98%、St95%であった。
【0113】
その後溶液及びモノマー類を絶対圧5.0kPa以下、240℃で溶媒を除去する事により、PMI、MMA、Stからなる共重合体(D−1)を得た。D−1の重量平均分子量Mwは24.8万、数平均分子量Mnは9.7万、ガラス転移温度は139℃であった。
【0114】
<実施例5〜8および比較例4〜6>
実施例1、4および比較例1〜3で得られたブロック共重合体(C−1、C−4、C−5、C−6、C−7)とPMMA(住友化学製:「スミペックス(登録商標)EX」)とを、混合後の樹脂組成物全体を100質量部とした時にソフトセグメント量が10質量部になるように溶液混合し、絶対圧5.0kPa以下、240℃で1時間乾燥させた(実施例5、8;比較例4〜6)。
また実施例2と3で得られたブロック共重合体(C−2、C−3)と製造例7で作製した樹脂(D−1)とをソフトセグメント量が10質量部になるように溶液混合し、絶対圧5.0kPa以下、240℃で1時間乾燥させた(実施例6、7)。
得られた樹脂からプレスフィルムを成形し、Hazeを測定した。またTg+18℃で2×2倍に延伸して厚さ40μmの延伸フィルムを作成し、MITを測定した。
以上の結果を下記表1〜3に示す。また各実施例及び比較例で得られたブロック共重合体のソフト成分量及びゲル発生量を調べ、その結果も表2に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】



(4)サポート要件の判断
ア 本件特許発明の課題
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】によると、本件特許発明1の解決しようとする課題(以下、「本件特許発明の課題」という。)は、「ヘイズ値の低いフィルムを製造するのに有用な樹脂組成物を提供すること」である。

イ 発明の詳細な説明の一般的な記載の検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明を見てみると、段落【0007】には、「本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の分子量を有するブロック共重合体のガラス転移温度を制御すると共に、該ブロック共重合体のソフトセグメントを特定のモノマー由来のものにすれば、ゲル化物の発生が抑制できること、及びこうしたブロック共重合体を含む樹脂組成物を用いれば、樹脂フィルムの可撓性を高めつつヘイズ値も下げられることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下の通りである。
[1] 炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート由来の単位を有する重合体ブロック(A)と、重合体ブロック(B)を有し、
ガラス転移温度を80℃以上と25℃以下に有し、
重量平均分子量が2万以上40万以下であるブロック共重合体。
[2] 前記重合体ブロック(A)が単独重合体ブロック又は共重合体ブロックであり、
炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート由来の単位が、この重合体ブロック(A)100質量部中に50質量部以上含まれる前記[1]に記載のブロック共重合体。
・・・
[6] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載のブロック共重合体を含む樹脂組成物。」と記載されている。
また、同段落【0009】には、「(1)ブロック共重合体(C)
本発明のブロック共重合体(C)は、重量平均分子量(Mw)が2万以上、好ましくは5万以上、より好ましくは7万以上であり、40万以下、好ましくは38万以下、より好ましくは30万以下である。ブロック共重合体(C)の重量平均分子量(Mw)を適切な範囲にすることで、ゲル化物の発生を抑制でき、また樹脂フィルムのヘイズ値を下げることができる。」、同段落【0015】には、「ソフトセグメント(A)となる重合体ブロック(A)は、炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート(以下、「C1〜3アクリレート」と称する場合がある)由来の単位を有する。前記重量平均分子量を有しかつ前記低Tg特性を示すブロック共重合体(C)はゲル化物が発生しやすいにもかかわらず、重合体ブロック(A)を特定の炭素数のアルキルアクリレート単位で形成することによって、ゲル化物の発生を抑制することができる。」ということが記載されている。

ウ 実施例の検討
ついで実施例について見てみると、実施例1である炭素数が2のエチル基を有するアクリル酸エチル(AE)100質量%の重合体ブロック(A−1)(ガラス転移温度は−1.7℃)の両側に、メタクリル酸メチル(MMA)95質量%、アクリル酸メチル(MA)5質量%をモノマーとする重合体ブロック(B−1)が結合したB−A−B型のブロック共重合体(C−1)(重量平均分子量Mw15.9万、ガラス転移温度(Tg)113℃)は、ゲル発生量が0.1重量%となっている。同様に、実施例2である上記重合体ブロック(A−1)の両側に、MMA85質量%、N−フェニルマレイミド(PMI)15質量%をモノマーとする重合体ブロック(B−2)が結合したB−A−B型のブロック共重合体(C−2)(Mw12.6万、40℃以上の領域におけるTg(以下、単に「Tg」という。)127℃)は、ゲル発生量が0.1重量%となっている。
また、実施例3である炭素数が2のエチル基を有するAE85質量%とスチレン(St)1.5質量%の重合体ブロック(A−2)の両側に、MMA82質量%、PMI18質量%をモノマーとする重合体ブロックが結合したB−A−B型のブロック共重合体(C−3)(Mw9.0万、Tg129℃)は、ゲル発生量が0.2重量%となっており、実施例4である炭素数が1のメチル基を有するアクリル酸メチル(MA)80質量%とのアクリル酸n−ブチル(BA)20質量%の重合体ブロック(A−3)の両側に、MMA95質量%、MA5質量%をモノマーとする重合体ブロックが結合したB−A−B型のブロック共重合体(C−4)(Mw13.3万、Tg101℃)は、ゲル発生量が0.1重量%となっている。
一方、比較例1である炭素数が4のn−ブチル基を有するアクリル酸n−ブチル(BA)100質量%の重合体ブロック(A−4)の両側にMMA95質量%、MA5質量%をモノマーとする重合体ブロックが結合したB−A−B型のブック共重合体(C−5)(Mw16.0万、Tg112℃)は、ゲル発生量が1.3重量%、比較例2である炭素数が4のイソブチル基をするアクリル酸イソブチル(IBA)100質量%の重合体ブロック(A−5)の両側にMMA95質量%、MA5質量%をモノマーとする重合体ブロックが結合したB−A−B型のブロック共重合体(C−6)(Mw23.3万、Tg116℃)は、ゲル発生量が1.6重量%と大きくなっている。
そして、ゲル発生量が0.1重量%とゲル化物の発生が少ない上記ブロック共重合体(C−1)、(C−4)とPMMA(住友化学製:「スミペックス(登録商標)EX」)とを混合後の樹脂組成物全体を100質量部とした時にソフトセグメント量が1.0質量部になるように溶液混合し、絶対圧5.0kPa以下、240℃で1時間乾燥させて得られた樹脂から成形したフィルムである実施例5、8のHazeは、いずれも0.2%とヘイズ値が低くなっているのに対し、ゲル発生量が各々1.3重量%、1.6重量%とゲル化物の発生が多い上記ブロック共重合体(C−5)、(C−6)とPMMA(住友化学製:「スミペックス(登録商標)EX」)とを前記と同様に混合し得られた樹脂から成形したフィルムである比較例4、5のHazeは、各々0.6%、0.7%とヘイズ値が高くなっている。
そうすると、樹脂組成物として、ゲル発生量が少ないブロック共重合体を使用することにより、ヘイズ値の低いフィルムが得られることが理解できる。
また、実施例1のブロック共重合体は、Mwが15.9万である。一方、比較例6は、実施例1と同様、AE100質量%の重合体ブロック(A−6)(ガラス転移温度は−1.7℃)の両側に、メタクリル酸メチル(MMA)95質量%、アクリル酸メチル(MA)5質量%をモノマーとする重合体ブロックが結合したB−A−B型のブロック共重合体(C−7)であるがMwは49.1万で、ブロック共重合体(C−7)はゲル発生量が0.6重量%と大きくなっている。そして、このブロック共重合体(C−7)とPMMA(住友化学製:「スミペックス(登録商標)EX」)とを前記と同様に混合して得られた樹脂から成形したフィルムである比較例6のHazeは1.35%となって、ヘイズ値が高くなっている。
そうすると、ブロック共重合体(C)の重量平均分子量(Mw)を適切な範囲にすることで、ゲル化物の発生を抑制でき、また樹脂フィルムのヘイズ値を下げることができることが理解できる。

エ まとめ
上記イによると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「所定の分子量を有するブロック共重合体のガラス転移温度を制御すると共に、該ブロック共重合体のソフトセグメントを特定のモノマー由来のものにすれば、ゲル化物の発生が抑制できること、及びこうしたブロック共重合体を含む樹脂組成物を用いれば、樹脂フィルムの可撓性を高めつつヘイズ値も下げられることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下の通りである。
[1] 炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート由来の単位を有する重合体ブロック(A)と、重合体ブロック(B)を有し、
ガラス転移温度を80℃以上と25℃以下に有し、
重量平均分子量が2万以上40万以下であるブロック共重合体。
[2] 前記重合体ブロック(A)が単独重合体ブロック又は共重合体ブロックであり、
炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート由来の単位が、この重合体ブロック(A)100質量部中に50質量部以上含まれる前記[1]に記載のブロック共重合体。
・・・
[6] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載のブロック共重合体を含む樹脂組成物。」であることが記載されており、そのことが上記ウで検討した実施例により具体的なデータと共に記載されている。
そうすると、当業者は、「炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート由来の単位を有する重合体ブロック(A)と、重合体ブロック(B)を有し、
ガラス転移温度を80℃以上と25℃以下に有し、
重量平均分子量が2万以上40万以下であり、
前記重合体ブロック(A)が単独重合体ブロック又は共重合体ブロックであり、
炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート由来の単位が、重合体ブロック(A)100質量部中に50質量部以上含まれ、
前記重合体ブロック(B)が、メタクリル酸エステル単位の単独重合体ブロック又は共重合体ブロックであるブロック共重合体」が、ゲル化物の発生が抑制できること、及びこうしたゲル化物の発生が少ない「ブロック共重合体」を含む樹脂組成物を用いれば、ヘイズ値の低いフィルムを得られること、すなわち本件特許発明の課題を解決できると認識するものである。
そして、本件特許発明1は、上記「ブロック共重合体」を含む樹脂組成物を発明特定事項として備えるものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できるものである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
また、本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし8についても同様である。
よって、本件特許発明1ないし8に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、以下の主張をしている。
・主張ア:特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明1の課題は「ヘイズ値の低いフィルムを製造するのに有用な樹脂組成物を提供すること」、と考えられる、としつつも、実施例5〜8、比較例4〜6の記載をみて、「本件特許発明1の樹脂組成物では、その樹脂組成物から作成されたフィルムの100μmあたりの内部ヘイズ値が0.5以下である、少なくとも0.6未満であることによって、本件特許発明1の課題が解決されたといえるはずである。」ということを前提として、本件特許発明1の課題を「内部へイズ値が少なくとも0.6未満であるようなヘイズ値の低いフィルムを製造するのに有用な樹脂組成物を提供すること」と認定して、以下の主張をしている。
本件特許発明1では、その樹脂組成物に含まれる(メタ)アクリル系樹脂(D−1)は、「前記ブロック共重合体以外の(メタ)アクリル系樹脂(D−1)」と規定しており、あらゆる樹脂が、(メタ)アクリル系樹脂(D−1)となるのではないかと推測される。
仮に、実施例で使用の4つのブロック共重合体(C−1)〜(C−4)に限って考えても、甲1から甲3で示される技術常識にしたがって考えると、この(C−1)〜(C−4)が、実施例で検討している以外のあらゆる(メタ)アクリル系樹脂(D−1)と組み合わせた場合に、「内部へイズ値が少なくとも0.6未満であるようなヘイズ値の低いフィルムを製造するのに有用な樹脂組成物を提供すること」が解決されているとはいえない。
さらに、実際に実施例を確認すると、特定の組成の重合体ブロック重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)を有するブロック共重合体(C)と特定の(メタ)アクリル樹脂(D−1)とを 組み合わせた場合に、内部へイズ値が少なくとも0.6未満であるようなヘイズ値の低いフィルムを製造できること、すなわち、本件発明の課題を解決できたことを示しているに過ぎない。
さらに、以下の点でも、本件特許発明1は問題である。上述したとおり、甲第2号証に記載されるように化学構造が近い、異種のポリメタクリレート同士、ポリメタクリレートとアクリレートであっても、非共溶性である組み合わせがある。したがって、(メタ)アクリル系樹脂(D−1)に含まれる(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量を限定したとしても、なおも、ブロック共重合体に含まれる重合体ブロック(A)、(B)と非共溶性の組み合わせが存在する。
この事実、および、本件明細書では、どのようなメカニズムによって、本件特許発明の樹脂組成物の内部へイズ値が0.6未満という高い透明性を達成されるかを説明する記載が一切ないこと、さらに上述した技術常識(微分散による透明性の達成、完全相溶化による透明性の達成、屈折率のおおよその一致による透明性の達成)から判断すると、当業者といえども、実施例以外の本件特許発明1.の樹脂組成物において、本件特許発明の課題である内部へイズ値が0.6未満と高い透明性の達成は困難である。
したがって、仮に(メタ)アクリル系樹脂(D−1)に含まれる(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量を限定したとしても、なおもサポート要件違反であることは明らかである。
・主張イ:ラジカル重合で重合体を製造した場合、一定の割合で、その停止反応は再結合、不均化の形で行われることが知られている。そして、甲4ではPMMAのリビングラジカル重合での末端構造の解析手法が明らかにされている。そして、甲4に示されるように、メタクリレート単独重合体であるPMMA重合体を停止させる場合、不均化反応で停止するものの割合が多いことは、対象出願の出願時に当業者によく知られた事実である。そして、この不均化反応がかなりの割合で起こると、必然的に、その重合体の末端には 外部オレフィンが生成してしまう重合体が多いこと(例えば、甲4の図2 (a) Disproportionation部分の化学式参照)も、当業者がよく知る事実であった。また、この外部オレフィンの存在により、重合体ブロック(B)は不安定となり、解重合が簡単におきること、さらに上述のラジカル重合法を含む、一般のラジカル重合法では、この解重合を抑制する観点から、メタクリル酸エステル(例えばMMA)を重合する場合には、アクリル酸エステルを共重合することは、対象出願の出願時に当業者にはよく知られた技術である(例えば、甲5:段落[0078]参照)。
これらのことからも、本件特許権者は、ブロック共重合体(ブロック共重合体(C))としては、重合体ブロック(B)がメタクリレートとアクリレートの組み合わせからなる共重合体しか検証しておらず、この特定の重合体ブロック(B)を含むブロック共重合体(C)と特定の(メタ)アクリル樹脂(D−1)によって、本件特許発明の特有の課題が達成されたことを検証したものでしかないと推測される。

そこで、上記主張について検討する。
ア 主張アについて
まず、特許異議申立人は、本件特許発明の課題を「内部へイズ値が少なくとも0.6未満であるようなヘイズ値の低いフィルムを製造するのに有用な樹脂組成物を提供すること」と認定している。しかしながら、上記(4)アで示したように、本件特許発明の課題は、「ヘイズ値の低いフィルムを製造するのに有用な樹脂組成物を提供すること」であって、「内部へイズ値が少なくとも0.6未満」という具体的な数値目標を克服することまでを求めるものではない。
よって、特許異議申立人が主張する本件特許発明の課題の認定については採用することができない。
このように特許異議申立人の主張は、「内部へイズ値が少なくとも0.6未満であるようなヘイズ値の低いフィルムを製造するのに有用な樹脂組成物を提供すること」という課題を前提とする主張であるから、そのまま採用できないが、念のため特許異議申立人の主張の基礎となる特許異議申立人の提出した証拠について見てみる。
甲1は、「透明性を有する持続性帯電防止ポリカーボネート系材料の開発」と題する製品・技術紹介であって、その本文中には、「樹脂ブレンドにおいて透明性を得る技術としては、主に以下の手法が挙げられる。可視光以下すなわちナノレベルまで微分散させる方法。完全に相容する透明樹脂同士をブレンドする方法。そして非相溶系ブレンドにおいても光屈折率をかなりのレベルまで合わせる方法などである。
我々はPC樹脂と完全に近い形で相容するポリエステルとのブレンドに着目し、そのブレンド比を市販の帯電防止材の光屈折率に合わせることにより、いわゆる後者二つの組合せで透明を維持したPC系樹脂の検討を行った。」(第1ページ左欄第15〜23行)と記載されている。
甲2には、「ポリマーの混合
2種のポリマーを混合するといってもその方法も多く、また混合したポリマーが相互に反応することも考えられ、単にポリマーをブレンドするといっても、その機構は複雑である。
2種以上のポリマーを混合するのであるから、相互のポリマーがよくまざることがのぞましい。第1表に桜田氏3)により行われたポリマーの共溶性の表を参考に示した。いろいろのポリマーがあるがお互いによくまざるというものは案外少ない。硝酸繊維素、クロマン樹脂、塩化ゴムはかなり優秀な共溶性をもっているが、大部分のポリマーは2相に分かれてしまう。しかしこれらの結果はポリマーの重合度などにより左右されるわけで上の表は大体の見当であるにすぎない。なおポリマーの共溶性についてはStrain4)の研究がある。
しかし実際にポリマーをブレンドするとき、ポリマー相互が真に溶解しなくても、ある程度親和力があると、機械的に混合することが認められている。 (…中略…)
それゆえ、ポリマーをブレンドしても、ポリマーが相互に溶解し、均一に溶け合っている場合と、単に小さい粒子として混合している場合と、ポリマー相互がある程度反応する場合とが考えられる。これらはポリマーの性質、混合の方法などによっても異なってくる。
※第1表を後で貼り付け
」(第22ページ右欄下から第1行〜第23ページ左欄第31行)と記載されている。
甲3には、「PMMA及びPCの透過率は波長600nmで80%以上の高い値を示した。それに対し、両者のブレンド複合体であるBlend(PMMA/PC=70/30[wt%])では透過率が著しく低下した。これは両者が互いに非相溶性であるためにマクロ相分離構造を形成し、ドメインサイズが可視光線の波長よりも大きくなったことによると考えられる。一方、PC-PMMAブロック共重合体の透過率(600nm)はPC-PMMA(lml):50%、(5ml):68%、(10ml):85%以上となり、 PMMA組成が高くなるにつれて透過率が向上した。このように共重合体の透過率は、ブレンド複合体と比較してどの組成においても高い値を示した。このことから、PC-PMMAブロック共重合体は、可視光波長以下のドメインサイズから成るミクロ相分離構造を形成していると考えられる。」(第1174ページ左欄第21〜36行)と記載されている。
しかしながら、甲1は、PC樹脂とポリエステルとのブレンドに関するものであり、甲3は、PMMA及びPCのブレンド複合体及び PC-PMMAブロック共重合体に関するもので、本件特許発明のように、「炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート由来の単位を有する重合体ブロック(A)と、重合体ブロック(B)を有するブロック共重合体と、(メタ)アクリル系樹脂(D−1)を含む樹脂組成物」に関するものではない。そして、甲2も、2種以上のポリマーを混合する場合に、ポリマーの種類により、共溶、非共溶の場合がある(例えば、ポリメタクリル酸n−プロピルが、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸n−ブチル、ポリメタクリル酸イソブチルと共溶性を示す一方、ポリメタクリル酸メチルとは非共溶である。)という一般的な事項が示されているだけで、本件特許発明のように、「炭素数が1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート由来の単位を有する重合体ブロック(A)と、重合体ブロック(B)を有するブロック共重合体と、(メタ)アクリル系樹脂(D−1)を含む樹脂組成物」の中で、ヘイズ値の低いフィルムが得られない具体例があることを示すものではない。
また、本件発明において課題が解決できることは、実施例の記載と発明の詳細な説明の段落【0007】に記載される、「所定の分子量を有するブロック共重合体のガラス転移温度を制御すると共に、該ブロック共重合体のソフトセグメントを特定のモノマー由来のものにすれば、ゲル化物の発生が抑制できること、及びこうしたブロック共重合体を含む樹脂組成物を用いれば、樹脂フィルムの可撓性を高めつつヘイズ値も下げられる」という作用機序により認識できるというものである。このことは、甲1ないし3に記載された透明性の樹脂ブレンドを得るための手法とは異なるものであり、甲1ないし3に記載された透明性のための手法を採用しないとしても、本件特許発明において課題が解決できると認識できることを阻む理由とはならない。
そして、上記(4)で示したように、本件特許発明の「ブロック共重合体」がゲル化物の発生を抑制できること、及びこうしたゲル化物の発生が少ない「ブロック共重合体」と前記ブロック共重合体以外の(メタ)アクリル系樹脂(D1)を含む樹脂組成物を用いれば、ヘイズ値の低いフィルムを得られること、すなわち本件特許発明の課題を解決できると認識するものであるところ、上記甲1ないし3の記載によって、本件特許発明の課題解決に係る作用機序が否定されるものではない。
よって、特許異議申立人の主張アは首肯することができない。

イ 主張イについて
確かに甲4及び甲5には、特許異議申立人が示す事項が記載されているが、甲4、甲5を参酌しても、ブロック共重合体を得るに際してリビングラジカル重合を用いること、リビングラジカル重合により不均化が生じること、及び、メタクリル酸メチルの重合体は熱分解によりほぼ定量的に解重合することとと、本件特許発明の課題に係るヘイズとの技術的関連性は何ら認められないため、特許異議申立人の主張イは失当で採用することができない。

(6)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由1によっては取り消すことはできない。

2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)判断基準
本件特許発明1ないし8は何れも物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記1(3)のとおりである。

(4)実施可能要件の判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】ないし【0050】には、樹脂組成物におけるブロック共重合体に関する事項が記載されており、同段落【0052】ないし【0063】には、樹脂組成物における(メタ)アクリル系樹脂(D−1)に関する事項が記載されている。そして、上記1(4)ウで示したように、実施例には、各種のブロック共重合体と(メタ)アクリル系樹脂(D−1)が製造され、それらを配合した樹脂組成物が、ヘイズ値の低いフィルムが得られることが示されている。
そうすると、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1に係る物を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
また、本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし8についても同様である。
よって、本件特許発明1ないし8に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。

(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の主張は、上記1(5)の主張と同旨である。
よって、上記1(5)で示したのと同様、特許異議申立人の上記主張は首肯することができない。

(6)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由2によっては、取り消すことはできない。

3 申立理由3(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記1(3)のとおりである。

(4)特許異議申立人の主張
本件明細書[0052]では、「(メタ)アクリル系樹脂(D−1)としては、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を必須の構成単位として有するものが好ましく」との記載がある。そのため、(メ夕)アクリル系樹脂(D−1)は、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を必須の構成単位として有するもの以外の樹脂が含まれることになる。技術常識を考慮しても、このような樹脂までも含む(メタ)アクリル系樹脂(D−1)とはいかなる樹脂を指すのか技術的に不明確である。

(5)明確性要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載される「(メタ)アクリル系樹脂(D−1)」が明確であるか検討する。
(メタ)アクリル系樹脂といえば、単量体として(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸を用いた樹脂であることは明らかであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0052】には、「(2.1)樹脂(D)
樹脂(D)としては、(メタ)アクリル系樹脂(D−1)が好ましい。(メタ)アクリル系樹脂(D−1)としては、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を必須の構成単位として有するものが好ましく、(メタ)アクリル酸の誘導体に由来する構成単位を有していてもよい。」と記載され、同段落【0056】には、「前記(メタ)アクリル系樹脂(D−1)は、主鎖に環構造を有するものが好ましい。」と記載され、同段落【0057】ないし【0059】には、当該環構造の含有率の上限が90質量%であることが記載されている。
これらの記載からすると、(メタ)アクリル系樹脂(D−1)としては、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を必須の構成単位として有するものであって、それらの割合は、他のモノマーである環構造等の割合から10質量%以上であることが読み取れるところ、これらの記載は、当業者の出願日における技術常識に特に反するものでもない。
そうすると、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載される「(メタ)アクリル系樹脂(D−1)」とは、いかなる樹脂を指すのか明確であるといえる。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8についても同様である。
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載及びこれを引用する請求項2ないし8の記載は不明確ではなく、かつ、本件特許明細書の記載も特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載と矛盾するものではないから、当業者の出願日における技術常識を基礎として、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

(6)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、申立理由3によっては、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。

第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-02 
出願番号 P2016-237924
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08F)
P 1 651・ 536- Y (C08F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 土橋 敬介
細井 龍史
登録日 2021-08-24 
登録番号 6933895
権利者 株式会社日本触媒
発明の名称 樹脂組成物  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  

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