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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H04R
管理番号 1386187
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-01 
確定日 2022-07-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6927942号発明「放送装置、放送システム、及びコンピュータプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6927942号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6927942号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜5に係る特許についての出願は、平成30年10月23日に出願された特願2018−199051号であって、令和3年8月10日にその特許権の設定登録がなされ、令和3年9月1日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許について、令和4年3月1日に特許異議申立人細江進により特許異議の申立てがなされたものである。


第2 本件発明
本件特許の請求項1〜5に係る特許発明(以下「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
なお、(1A)〜(5D)は当審で付与した。以下、各構成を、それぞれ「構成1A」〜「構成5D」という。

(本件発明1)【請求項1】
(1A)一以上のスピーカから音声を出力する放送装置であって、
(1B)第1音声信号に対応するコンテンツを識別する第1識別情報と、前記第1識別情報とは異なる第2識別情報とを前記第1音声信号に埋め込んだ第2音声信号を取得する音声取得部と、
(1C)前記第2音声信号を、前記スピーカから出力させる音声出力制御部と、
(1A)を含む放送装置と、
(1D)前記第2音声信号を収音する端末装置と通信可能に接続され、前記第1識別情報及び前記第2識別情報の組み合わせと前記端末装置において出力する案内情報とを関連付けた案内情報データを提供する管理装置と、
を備え、
(1E)前記第2識別情報は、前記スピーカの放送エリアを識別する識別情報であり、
(1F)前記案内情報データを参照して、前記端末装置において、前記放送エリアに応じた前記案内情報を出力させる、
(1G)放送システム。

(本件発明2)【請求項2】
(2A)前記第1音声信号には、前記第1識別情報が予め埋め込まれており、
(2B)前記放送装置は、当該第1音声信号に前記第2識別情報を埋め込む処理を実行して前記第2音声信号を生成する一以上の音声透かし処理部を備える、
(2C)請求項1に記載の放送システム。

(本件発明3)【請求項3】
(3A)前記端末装置を更に備え、
(3B)前記端末装置は、前記第2音声信号から前記第1識別情報と前記第2識別情報とを抽出する、
(3C)請求項1又は2に記載の放送システム。

(本件発明4)【請求項4】
(4A)前記管理装置は、
(4B)前記案内情報データを記憶し、
(4C)前記案内情報データを、前記端末装置からの要求に応じて前記端末装置に送信する、
(4D)請求項1から3のいずれかに記載の放送システム。

(本件発明5)【請求項5】
(5A)一以上のスピーカから収音した音声であって、前記音声のコンテンツを識別する第1識別情報と前記第1識別情報とは異なる第2識別情報であってスピーカの放送エリアを識別する第2識別情報とを含む音声から、前記第1識別情報と前記第2識別情報とを抽出し、
(5B)前記第1識別情報及び前記第2識別情報の組み合わせと端末装置において出力する案内情報とを関連付けた案内情報データを提供し、
(5C)前記案内情報データを参照して、前記端末装置において前記放送エリアに応じた前記案内情報を出力させる、
(5D)機能をコンピュータに実行させるためのプログラム。


第3 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人が申し立てた申立て理由(以下「申立理由」という。)は、以下のとおりである。

[申立理由]本件発明1〜5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1〜3号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜5は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証: 特開2017−107532号公報
甲第2号証: 特開2013−218066号公報
甲第3号証: 特開2016−014997号公報
(以下、甲第1号証〜甲第3号証を、それぞれ「甲1」〜「甲3」という。)


第4 当審の判断
1 甲各号証の記載及び甲各号証に記載された発明
(1)甲1(甲第1号証)
ア 甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。

【0032】
音声放送装置209は、車載装置201からの制御に応じて、音声情報を複数の車内スピーカ106a、106b、又は車外スピーカ211に出力する。

【0042】
バス105の車載装置201は、例えば、次のバス停が「□□一丁目」である場合、「○○バスにご乗車いただきありがとうございます、このバスは、××系統の△△行きです、次は、□□一丁目に停まります。」という音声情報を提供する。これにより、この音声情報を取得した情報端末は、取得した音声情報に含まれる電子透かし等を解析することにより、バス105の車両ID、路線ID、バス停ID等の情報を取得することができる。

【0091】
図9は、一実施形態に係る情報提供システムの機能構成図である。情報提供システム100は、ネットワーク104を介して通信可能な車載装置201、情報端末107、運行管理サーバ102、コンテンツ配信サーバ103を有する。(以下略)

【0092】
(車載装置の機能構成)
車載装置201は、通信制御部901、運行制御部902、運行情報表示部903、操作受付部904、音声情報記憶部905、及び音声情報提供部906等を有する。

【0097】
音声情報記憶部905は、バス105の車両IDが電子透かし等で埋め込まれた共通音声情報911、バス105の位置を識別するバス停IDが電子透かしとして埋め込まれた複数の個別音声情報912を予め記憶した記憶手段である。(以下略)

【0099】
図10(a)は、音声情報記憶部905に記憶された共通音声情報911の一例のイメージを示す。共通音声情報911には、例えば、「○○バスにご乗車いただきありがとうございます。」等の共通フレーズに、「BUS1001」等の車両IDが電子透かし等で埋め込まれた音声データが記憶されている。また、共通音声情報911には、例えば、「このバスは、××系統の△△行きです。」等の運行路線フレーズに、「RUTE0001」等の路線IDが電子透かし等で埋め込まれた音声データが記録されている。なお、「情報ID」は、各音声データを管理するための識別情報である。
【0100】
図10(b)は、音声情報記憶部905に記憶された個別音声情報912の一例のイメージを示す。個別音声情報912には、例えば、「次は、□□三丁目です。」等の運行フレーズに、「BSID11003」等のバス停IDが電子透かし等で埋め込まれた複数の音声データが、バス停ID毎に記憶されている。なお、「情報ID」は、各音声データを管理するための識別情報である。

【0103】
音声情報提供部906は、音声放送装置209を利用して、音声情報記憶部905に記憶された共通音声情報と、バス105の運行状況に対応する一の個別音声情報とを含む案内情報を、音声放送で提供する。例えば、バス105の次のバス停が「□□六丁目」である場合、音声情報提供部906は、図10の情報ID「1001」、「1002」の共通音声情報と、情報ID「2006」の個別音声情報とを含む案内情報を、音声放送で提供する。
【0104】
好ましくは、音声情報提供部906は、例えば、バス停IDに対応する付加情報を案内情報に含めて、音声放送で提供する。

【0109】
情報抽出部923は、音声取得部922が取得した音声に電子透かし等で埋め込まれている情報(例えば、車両ID、バス停ID、コンテンツID等)を抽出する手段であり、例えば、図8のCPU801で動作するプログラムによって実現される。
【0110】
要求情報送信部924は、情報抽出部923によって音声から抽出された識別情報(例えば、車両ID等)と、情報端末107の識別情報(以下、アプリIDと呼ぶ)とを含む要求情報を、通信制御部921を介して、運行管理サーバ102に送信する。要求情報送信部924は、例えば、図8のCPU801で動作するプログラムによって実現される。

【0119】
(運行管理サーバの機能構成)
運行管理サーバ102は、例えば、運行管理部941、通信制御部942、要求情報受信部943、運行情報提供部944、要求情報転送部945、降車情報受信部946、降車情報提供部947、及び運行情報記憶部948等を有する。

【0129】
要求情報受信部943は、バス105の車内等で提供される案内情報に含まれる識別情報を取得した情報端末107から、取得した識別情報と情報端末107のアプリIDとを含む要求情報を、通信制御部942を介して受信する。要求情報受信部943は、例えば、図6のCPU601で動作するプログラムによって実現される。
【0130】
運行情報提供部944は、要求情報受信部943が受信した要求情報に含まれる車両IDに基づいて、運行情報記憶部948に記憶した運行情報949の中から、車両IDに対応する運行情報を、通信制御部942を介して、情報端末107に提供する。

【図10】


イ 甲1発明
上記アで摘記した記載から、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
また、段落【0099】及び【0100】にそれぞれ記載されている「なお、「情報ID」は、各音声データを管理するための識別情報である。」との記載から、【図10】において(a)〜(b)で示される各表中の各情報IDで区別される各行のそれぞれが、「音声情報(共通フレーズ、運行路線フレーズ、運行フレーズ)に、対応する各ID(車両ID、路線ID、バス停ID)が埋め込まれた音声データ」を示していることが読み取れる。
なお、下記甲1発明を当審にて(1a)〜(1m)に分説した。以下、分説した構成を、それぞれ「構成1a」〜「構成1m」という。また、甲1における記載箇所を、( )内に示した。

(甲1発明)
(1a)情報提供システム100は、車載装置201を有し(【0091】)、
(1b)車載装置201は、音声情報記憶部905、及び音声情報提供部906を有し(【0092】)、
(1c)音声放送装置209は、音声情報を複数の車内スピーカ106a、106b、又は車外スピーカ211に出力し(【0032】)、
(1d)音声情報記憶部905に共通音声情報911が記憶され、共通音声情報911には、共通フレーズに、車両IDが電子透かし等で埋め込まれた音声データが記憶され、また、運行路線フレーズに、路線IDが電子透かし等で埋め込まれた音声データが記録され(【0099】)、
(1e)音声情報記憶部905に個別音声情報912が記憶され、個別音声情報912には、運行フレーズに、バス105の位置を識別するバス停IDが電子透かし等で埋め込まれた複数の音声データが、バス停ID毎に記憶され(【0097】、【0100】)、
(1f)音声データは、それぞれ、音声情報(共通フレーズ、運行路線フレーズ、運行フレーズ)に、対応する各ID(車両ID、路線ID、バス停ID)が埋め込まれているものであり(【図10】)、
(1g)車載装置201は、「○○バスにご乗車いただきありがとうございます、このバスは、××系統の△△行きです、次は、□□一丁目に停まります。」という音声情報を提供し、この音声情報を取得した情報端末は、バス105の車両ID、路線ID、バス停ID等の情報を取得し(【0042】)、
(1h)音声情報提供部906は、音声放送装置209を利用して、音声情報記憶部905に記憶された共通音声情報と、バス105の運行状況に対応する一の個別音声情報とを含む案内情報を、バス停IDに対応する付加情報を案内情報に含めて、音声放送で提供し(【0103】、【0104】)、
(1i)音声に電子透かし等で埋め込まれている情報は、車両ID及びバス停ID等であり(【0109】)、
(1j)音声から抽出された識別情報は、車両ID等であり(【0110】)、
(1k)運行管理サーバ102は、通信制御部942、要求情報受信部943、運行情報提供部944及び運行情報記憶部948等を有し(【0119】)、
(1l)バス105の車内等で提供される案内情報に含まれる識別情報を取得した情報端末107から、取得した識別情報と情報端末107のアプリIDとを含む要求情報を、通信制御部942を介して受信し(【0129】)、
(1m)運行情報提供部944は、要求情報受信部943が受信した要求情報に含まれる車両IDに基づいて、運行情報記憶部948に記憶した運行情報949の中から、車両IDに対応する運行情報を、通信制御部942を介して、情報端末107に提供する(【0130】)
(1a)情報提供システム100(【0091】)。

(2)甲2(甲第2号証)
ア 甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。

【0013】
本実施形態では、複数のカラオケ装置10のうちカラオケ装置10A,10B,10Cについて説明する。カラオケ装置10は、同一カラオケ店舗に設置されたカラオケ装置であり、それぞれ異なるカラオケルームに設置された楽曲演奏装置である。各カラオケルームは壁によって仕切られていて、カラオケ装置10A,10B,10Cは互いに重複しない放音エリアにカラオケ楽曲の楽音を放音する。端末装置20は、ここではスマートフォンであり、それぞれカラオケ店舗の利用者であるユーザに所有される。本実施形態では、複数の端末装置20のうち、カラオケ装置10Aを利用してカラオケルームAで歌唱するユーザに所有される端末装置20Aと、カラオケ装置10Bを利用してカラオケルームBで歌唱するユーザに所有される端末装置20Bと、カラオケ装置10Cを利用してカラオケルームCで歌唱するユーザに所有される端末装置20Cとについて説明する。サービスサーバ30は、カラオケ店舗の利用者であるユーザに対し、端末装置20経由でサービスを提供するサーバ装置である。サービスサーバ30は、サービスサーバ30からサービスの提供を受けるためのアプリケーションプログラムがインストールされた端末装置20を対象としてサービスを提供する。

【0017】
記憶部15は、例えばハードディスク装置を備え、カラオケ楽曲DB(Data Base)151と、楽曲属性情報DB152と、装置ID153とを記憶している。カラオケ楽曲DB151は、楽曲配信サーバ40から配信されてカラオケ装置10がダウンロードしたカラオケデータを蓄積するデータベースである。楽曲属性情報DB152は、楽曲配信サーバ40から配信されカラオケ装置10がダウンロードした楽曲属性情報を蓄積するデータベースである。装置ID153は、カラオケ装置10を識別する識別情報で、各カラオケ装置10に互いに重複しないように割り当てられている。本実施形態では、カラオケ装置10Aの装置ID153は「KID001」であり、カラオケ装置10Bの装置ID153は「KID002」であり、カラオケ装置10Cの装置ID153は「KID003」である。
【0018】
図3は、楽曲属性情報DB152のデータ構造を示す図である。
楽曲属性情報DB152は、「楽曲ID」、「楽曲名」、「歌手ID」、「ジャンルID」及び「発表年」を示すフィールドを有し、各フィールドに記述されたデータを関連付けた構造である。楽曲IDは、カラオケ楽曲を識別する識別情報である。楽曲IDは、ここではカラオケ演奏の予約に用いられる曲番号であるが、曲番号とは別に割り当てられた識別情報であってもよい。楽曲名はカラオケ楽曲の名称(タイトル)を示す文字列である。歌手IDは、カラオケ楽曲を歌う歌手を識別する識別情報であり、例えば個人又はグループ単位で歌手を識別する。ジャンルIDは、カラオケ楽曲が属する音楽のジャンルを識別する識別情報である。ジャンルIDは、例えばJポップや演歌、ロック等の予め決められたジャンルに従って割り当てられている。発表年は、カラオケ楽曲が発表された西暦年を示す数値である。
楽曲属性情報DB152において、例えば図3の第1行に対応するレコードは、楽曲IDが「MID001」のカラオケ楽曲の楽曲名が「AAA」であり、このカラオケ楽曲が歌手IDが「SID001」の歌手により歌われ、ジャンルIDが「Jポップ」のジャンルに属し、発表年が「2011」に発表されたことを示す。

【0025】
図8は、カラオケシステム1の機能的構成を示す機能ブロック図である。まず、カラオケ装置10の機能的構成を説明する。カラオケ装置10の制御部11は、プログラムを実行することにより、生成部111と、属性情報取得部112と、重畳部113と、放音制御部114とに相当する機能を実現する。
生成部111は、操作部12又はリモコン装置19の操作によりカラオケ演奏するカラオケ楽曲の選択操作が受け付けられると、選択されたカラオケ楽曲の演奏データをカラオケ楽曲DB151から取得する。生成部111は、カラオケ楽曲DB151から取得した演奏データに基づいて、カラオケ楽曲の楽音を示す音響信号を生成する。
属性情報取得部112は、生成部111により音響信号が生成されるカラオケ楽曲の属性を示す楽曲属性情報を楽曲属性情報DB152から取得する。ここにおいて、属性情報取得部112は、楽曲属性情報としてカラオケ楽曲の楽曲IDを取得する。
【0026】
重畳部113は、生成部111が生成したカラオケ楽曲の楽音を示す音響信号に対し、属性情報取得部112が取得した楽曲属性としての楽曲IDと、記憶部15から取得した装置ID153とを音響透かしにより重畳させる。ここにおいて、重畳部113は、楽曲IDと装置ID153とを時間的にずらして音響信号に重畳させる。重畳部113は、例えばM系列やGold系列などの拡散符号を用いたり、OFDM(Orthogonal Frequency -Division Multiplexing)変調を用いたりして、楽曲ID及び装置ID153の音響透かし情報を生成するとよい。重畳部113は、典型的には、音響透かし情報の重畳前の音響信号が持つ周波数成分よりも高い周波数帯域(例えば、18kHz以上)を用いて音響透かし情報を重畳させる。

【0028】
端末装置20の制御部21は、プログラムを実行することにより、音響信号取得部211と、抽出部212と、通信制御部213とに相当する機能を実現する。
音響信号取得部211は、マイクロホン24により収音された音を示す音響信号を取得する。
抽出部212は、音響信号取得部211が取得した音響信号から、音響透かしにより重畳させられた楽曲属性情報(ここでは、楽曲ID)と装置ID153とを抽出する。抽出部212は、例えばHPF(High Pass Filter)を備え、このHPFを用いたフィルタリング処理を施して、楽曲ID及び装置ID153に相当する信号を抽出する。抽出部212は、重畳部113における音響透かし情報の重畳方法に対応した方法で、楽曲ID及び装置ID153を抽出すればよい。
【0029】
通信制御部213は、抽出部212が抽出した楽曲属性情報と装置ID153とにより、サービスサーバ30宛てにサービス提供要求を送信する。具体的には、通信制御部213は、抽出部212が抽出した楽曲IDと、装置ID153と、記憶部26から取得した端末ID261とを含むサービス提供要求を生成し、生成したサービス提供要求を無線通信部23によりサービスサーバ30宛てに送信する。
次に、サービスサーバ30の機能的構成を説明する。
【0030】
サービスサーバ30の制御部31は、プログラムを実行することにより、要求取得部311と、関連付け部312と、応答処理部313とに相当する機能を実現する。
要求取得部311は、端末装置20により送信されたサービス提供要求を、通信部32による端末装置20との通信により取得する。
関連付け部312は、放音エリアが互いに異なる複数の端末装置20から要求取得部311により処理要求が取得された場合、取得された各処理要求に含まれる楽曲属性情報が示す属性同士が予め決められた関連付け条件を満たすときには、それら複数の端末装置20を関連付ける。ここにおいて、関連付け部312は、要求取得部311が取得したサービス提供要求と楽曲属性情報DB331とを参照して、関連付けDB332を更新することにより複数の端末装置20を関連付ける。本実施形態では、関連付け部312は、同じカラオケ楽曲が歌唱され同じ楽曲IDを含む処理要求が複数取得された場合に、それらが互いに異なる放音エリアの端末装置20から取得されたときには、それらの複数の端末装置20を関連付ける。
【0031】
応答処理部313は、関連付け部312により関連付けられた複数の端末装置20に対し、特定の応答処理を実行する。ここにおいて、応答処理部313は、関連付けられた端末装置20に対し、互いをテレビ電話により通信接続させるための応答処理を実行する。
次に、カラオケシステム1の動作を説明する。

イ 甲2技術
上記アで摘記した記載事項から、甲2には、次の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されていると認められる。
なお、(2a)〜(2j)は、説明のため当審で付与したものであり、以下、それぞれ「構成2a」〜「構成2j」と称する。また、甲2における記載箇所を、( )内に示した。

(甲2技術)
(2a)カラオケ装置10A,10B,10Cは互いに重複しない放音エリアにカラオケ楽曲の楽音を放音し(【0013】)、
(2b)装置ID153は、カラオケ装置10を識別する識別情報であり(【0017】)、
(2c)楽曲IDは、カラオケ楽曲を識別する識別情報であり(【0018】)、
(2d)カラオケ装置10の制御部11は、重畳部113に相当する機能を実現し(【0025】)、
(2e)重畳部113は、カラオケ楽曲の楽音を示す音響信号に対し、楽曲属性としての楽曲IDと、装置ID153とを音響透かしにより重畳させ(【0026】)、
(2f)端末装置20の制御部21は、抽出部212と、通信制御部213とに相当する機能を実現し、抽出部212は、取得した音響信号から、音響透かしにより重畳させられた楽曲IDと装置ID153とを抽出し(【0028】)、
(2g)通信制御部213は、抽出した楽曲IDと、装置ID153と、取得した端末ID261とをサービスサーバ30に送信し(【0029】)、
(2h)サービスサーバ30の制御部31は、関連付け部312と、応答処理部313とに相当する機能を実現し、関連付け部312は、同じカラオケ楽曲が歌唱され同じ楽曲IDを含む処理要求が複数取得された場合に、それらが互いに異なる放音エリアの端末装置20から取得されたときには、それらの複数の端末装置20を関連付け(【0030】)、
(2i)応答処理部313、関連付けられた端末装置20に対し、互いをテレビ電話により通信接続させるための応答処理を実行する(【0031】)
(2j)カラオケ装置10(【0013】)。

(3)甲3(甲第3号証)
ア 甲3の記載事項
甲3には、次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。

【0012】
<1.第1の実施の形態>
[情報提供システムの構成]
図1は、本発明の実施の形態における情報提供システムの構成例を示す図である。この情報提供システムは、通信端末100と、ビーコン装置200と、コンテンツサーバ300とを備える。ここでは、それぞれ1台について説明するが、それぞれ複数台備えるようにしてもよい。
【0013】
ビーコン装置200は、所定の期間毎に、間欠的にビーコン信号を無線送信するものである。このビーコン装置200は、物品などの設置対象自体またはその近傍に配置されて、その設置対象の近傍に存在することを通知するための、特定パターンのビーコン信号を発信する。
【0014】
通信端末100は、ユーザ(例えば顧客など)が携帯する端末である。この通信端末100としては、例えば、携帯端末やタブレット型パーソナルコンピュータなどが挙げられる。この通信端末100は、ビーコン装置200からビーコン信号を受信して、受信したビーコン信号に基づいて、コンテンツサーバ300上のコンテンツへのアクセスを要求する。コンテンツサーバ300からコンテンツの提供を受けると、通信端末100は、そのコンテンツを表示する。

【0016】
通信端末100は、処理部110と、記憶部120と、入力部130と、通知部140と、ビーコン信号受信部150と、サーバ通信部160とを備える。

【0020】
通知部140は、ユーザに対して情報の通知や、コンテンツの表示を行うためのものである。この通知部140としては、例えば、視覚に対して出力するものとしてタッチパネルの表示部が想定されるが、他にも聴覚に対して音声出力するものとしてスピーカなどを設けてもよい。

【0028】
通信端末100は、ネットワークアドレス情報の残りの一部である共通アドレス情報を記憶しており、ビーコン装置200から受信したビーコン識別子と自身が記憶する共通アドレス情報とを組み合わせることによりネットワークアドレス情報を生成する。通信端末100は、生成したネットワークアドレス情報を用いてコンテンツサーバ300にアクセス要求を行う。
【0029】
コンテンツサーバ300は、ネットワークアドレス情報により特定される領域にコンテンツを記憶している。このコンテンツサーバ300は、通信端末100から受信したネットワークアドレス情報を用いてコンテンツを読み出して、通信端末100に送信する。
【0030】
通信端末100は、コンテンツサーバ300から受信したコンテンツを表示する。その際、通信端末100において動作するウェブブラウザを用いて、ウェブページを閲覧することにより、コンテンツを表示することができる。
【0031】
コンテンツとしては、例えば、地図、広告などの情報を想定することができる。また、ウェブページは、地図閲覧サイトや、そのような地図閲覧サイトに転送するためのリダイレクトページや、地図を埋め込んで閲覧可能にしたウェブページであってもよい。また、コンテンツの他の例として、コンテンツサーバ300からストリーミング配信される映像を、映像表示アプリを使って表示させてもよいし、ストリーミング配信される音楽を音楽再生アプリを使って演奏してもよい。コンテンツの内容やコンテンツをユーザに提示するための具体的なアプリケーションプログラムについては、適宜公知のものを利用してもよい。

【0044】
このように、本発明の第1の実施の形態では、ビーコン装置200から送信されたビーコン識別子と通信端末100に記憶された共通アドレス情報とを組み合わせることによりネットワークアドレス情報を生成して、このネットワークアドレス情報を用いてコンテンツサーバ300にアクセスを行う。これにより、ビーコン装置200から送信されるビーコン信号にコンテンツ自体を含ませる必要がなく、ビーコン信号を簡便なものにすることができる。
【0045】
[変形例]
図7は、本発明の第1の実施の形態におけるネットワークアドレス情報の変形例を示す図である。この実施の形態において、ビーコン識別子201は、ビーコン装置200を識別するためのビーコン装置識別情報202と、コンテンツを識別するためのコンテンツ識別情報203との組み合わせによるものとすることができる。すなわち、同一のビーコン装置200において、異なるコンテンツ識別情報203を利用することにより、複数のコンテンツを使い分けることができる。

イ 甲3技術
上記アで摘記した記載事項から、甲3には、次の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されていると認められる。
なお、(3a)〜(3k)は、説明のため当審で付与したものであり、以下、それぞれ「構成3a」〜「構成3k」と称する。また、甲2における記載箇所を、( )内に示した。

(甲3技術)
(3a)ビーコン装置200は、ビーコン信号を無線送信し(【0013】)、
(3b)通信端末100は、ユーザが携帯する端末であり、ビーコン装置200からビーコン信号を受信して、受信したビーコン信号に基づいて、コンテンツサーバ300上のコンテンツへのアクセスを要求し、コンテンツサーバ300からコンテンツの提供を受けると、そのコンテンツを表示し(【0014】)、
(3c)通信端末100は、通知部140を備え(【0016】)、
(3d)通知部140は、ユーザに対して情報の通知や、コンテンツの表示を行うためのものであり、視覚に対して出力するものとしてタッチパネルの表示部が想定され、聴覚に対して音声出力するものとしてスピーカなどを設けてもよく(【0020】)、
(3e)通信端末100は、ビーコン装置200から受信したビーコン識別子と自身が記憶する共通アドレス情報とを組み合わせることによりネットワークアドレス情報を生成し(【0028】)、
(3f)コンテンツサーバ300は、通信端末100から受信したネットワークアドレス情報を用いてコンテンツを読み出して、通信端末100に送信し(【0029】)、
(3g)通信端末100は、コンテンツサーバ300から受信したコンテンツを、ウェブブラウザを用いて、ウェブページを閲覧することにより、表示し(【0030】)、
(3h)コンテンツは、地図、広告の情報を想定し(【0031】)、
(3i)ネットワークアドレス情報を用いてコンテンツサーバ300にアクセスを行うことで、ビーコン装置200から送信されるビーコン信号にコンテンツ自体を含ませる必要がなく(【0044】)、
(3j)ビーコン識別子201は、ビーコン装置200を識別するためのビーコン装置識別情報202と、コンテンツを識別するためのコンテンツ識別情報203との組み合わせによるものとすることができる(【0045】)
(3k)情報提供システム(【0012】)。

2 本件発明1
(1)対比
・構成1Aについて
甲1発明は、情報提供システム100が、車載装置201を有し(構成1a)、車載装置201が、音声情報提供部906を有し(構成1b)、音声情報提供部906が、音声放送装置209を利用して、音声放送で提供(構成1h)するものである。ここで、甲1発明は、「音声放送装置209は、音声情報を複数の車内スピーカ106a、106b、又は車外スピーカ211に出力」(構成1c)するものであるから、甲1発明の音声放送装置209は、本件発明1の構成1Aである「一以上のスピーカから音声を出力する放送装置」に相当する。

・構成1Bについて
甲1発明は、音声情報記憶部905に共通音声情報911が記憶され、共通音声情報911には、共通フレーズに、車両IDが電子透かし等で埋め込まれた音声データが記憶され、また、運行路線フレーズに、路線IDが電子透かし等で埋め込まれた音声データが記録され(構成1d)ており、音声情報記憶部905に個別音声情報912が記憶され、個別音声情報912には、運行フレーズに、バス停IDが電子透かし等で埋め込まれた複数の音声データが、バス停ID毎に記憶されている(構成1e)ものであり、音声データは、それぞれ音声情報(共通フレーズ、運行路線フレーズ、運行フレーズ)に、対応する各ID(車両ID、路線ID、バス停ID)が埋め込まれているものであり(構成1f)、音声に電子透かし等で埋め込まれている情報は、車両ID及びバス停IDであり(構成1i)、音声から抽出された識別情報は、車両IDである(構成1j)。
ここで、甲1発明の共通音声情報911及び個別音声情報912に記憶されている各「音声データ」が本件発明1の「第2音声信号」に相当し、甲1発明の音声情報(共通フレーズ、運行路線フレーズまたは運行フレーズ)が本件発明1の「第1音声信号」に相当し、甲1発明のID(車両ID、路線IDまたはバス停ID)が本件発明1の「第1識別情報」に相当するから、甲1発明の「音声データ」(本件発明1の「第2音声信号」)は、音声情報(共通フレーズ、運行路線フレーズまたは運行フレーズ)(本件発明1の「第1音声信号」)に、対応するID(車両ID、路線IDまたはバス停ID)(本件発明1の「第1識別情報」)が埋め込まれるものである(構成1f)。
そして、甲1発明は、車載装置201が「○○バスにご乗車いただきありがとうございます、このバスは、××系統の△△行きです、次は、□□一丁目に停まります。」という音声情報を提供し、これにより、この音声情報を取得した情報端末がバス105の車両ID、路線ID、バス停ID等の情報を取得するものであるから(構成1g)、甲1発明は、複数の音声情報(共通フレーズ、運行路線フレーズ及び運行フレーズ)を順次提供することにより、情報端末において、各音声情報に対応する各ID(車両ID、路線ID、バス停ID)が取得されるものである。
よって、甲1発明の「音声データ」は、本件発明1の構成1Bにおける「第1音声信号に対応するコンテンツを識別する第1識別情報を埋め込んだ前記第1音声信号に埋め込んだ第2音声信号」である点で共通する。
しかし、本件発明1の構成1Bの「第2音声信号」において「第1音声信号」に埋め込まれている情報は、「第1音声信号に対応するコンテンツを識別する第1識別情報と、前記第1識別情報とは異なる第2識別情報」であるから、本件発明1は、単一の「第1音声信号」に対して、「第1識別情報」と「第2識別情報」の両方を埋め込むものである。
一方で、甲1発明は、各「音声データ」において音声情報(共通フレーズ、運行路線フレーズまたは運行フレーズ)に埋め込まれている情報が、当該音声情報(共通フレーズ、運行路線フレーズまたは運行フレーズ)に対応するID(車両ID、路線IDまたはバス停ID)であり、当該音声情報(共通フレーズ、運行路線フレーズまたは運行フレーズ)に対して、異なる音声情報(共通フレーズ、運行路線フレーズまたは運行フレーズ)に対応するID(車両ID、路線IDまたはバス停ID)が追加されて埋め込まれているものではないから、甲1発明の音声データは、本件発明1の「前記第1識別情報とは異なる第2識別情報」、すなわち、「第1音声信号に対応するコンテンツを識別する第1識別情報とは異なる第2識別情報」に対応するIDが埋め込まれているものとはいえない。
したがって、本件発明1の「第2音声信号」は、第1音声信号に「第1識別信号とは異なる第2識別情報」が埋め込まれたものであるのに対し、甲1発明の「音声データ」は、当該音声データに対応する識別情報とは異なる識別情報が埋め込まれたものではない点で相違する。

ただし、甲1発明の音声情報提供部906は、音声放送装置209を利用して、音声情報記憶部905に記憶された共通音声情報911と、バス105の運行状況に対応する一の個別音声情報912とを含む案内情報を、音声放送で提供する(構成1h)ものであるから、甲1発明の音声放送装置209は、音声放送で提供する情報を取得する構成を備えるものといえる。
よって、甲1発明の音声放送装置209と、本件発明1の「放送装置」は、構成1Bにおける、「第2音声信号を取得する音声取得部」を備えるものである点で共通する。

・構成1Cについて
甲1発明の音声情報提供部906は、音声放送装置209を利用して、音声情報記憶部905に記憶された共通音声情報と、バス105の運行状況に対応する一の個別音声情報とを含む案内情報を、音声放送で提供する(構成1h)ものであるから、甲1発明における共通音声情報と個別音声情報を音声放送で提供する動作を制御する構成は、構成1Cの「前記第2音声信号を、前記スピーカから出力させる音声出力制御部」に相当する。

・構成1Dについて
甲1発明の運行管理サーバ102(構成1k)は、バス105の車内等で提供される案内情報に含まれる識別情報を取得した情報端末107から、取得した識別情報と情報端末107のアプリIDとを含む要求情報を受信し(構成1l)、受信した要求情報に含まれる車両IDに基づいて、記憶した運行情報949の中から、車両IDに対応する運行情報を、情報端末107に提供する(構成1m)ものであるから、甲1発明の運行管理サーバ102と、本件発明1の「管理装置」とは、構成1Dにおける「前記第2音声信号を収音する端末装置と通信可能に接続」される点、及び、「前記第1識別情報」「と前記端末装置において出力する案内情報とを関連付けた案内情報データを提供する」ものである点で共通する。
しかし、本件発明1の管理装置に提供される情報が、「前記第1識別情報及び前記第2識別情報の組み合わせと前記端末装置において出力する案内情報とを関連付けた案内情報データ」であるのに対し、甲1発明の運行管理サーバ102に提供される情報は、「記憶した運行情報949の中」の「車両IDに対応する運行情報」である点で相違する。

・構成1Eについて
上記「・構成1Bについて」で検討したとおり、引用発明は、本件発明1における構成1Bの「第2識別情報」に対応する情報が埋め込まれたものではないから、「第2識別情報」に対応する構成を備えないものである。
よって、本件発明1は、構成1Eのとおり、「前記第2識別情報は、前記スピーカの放送エリアを識別する識別情報」であるのに対し、甲1発明は、「第2識別情報」に相当する構成を備えていない点で相違する。

・構成1Fについて
甲1発明は、運行管理サーバ102に含まれる運行情報提供部944(構成1k)において、要求情報受信部943が受信した要求情報に含まれる車両IDに基づいて、運行情報記憶部948に記憶した運行情報949の中から、車両IDに対応する運行情報を、通信制御部942を介して、情報端末107に提供する(構成1m)動作を行う構成であるから、この構成は、本件発明1の「管理装置」における、構成1Fの「前記案内情報データを参照して、前記端末装置において、前記放送エリアに応じた前記案内情報を出力させる」動作を行う構成に相当する。

・構成1Gについて
甲1発明の情報提供システム100(構成1a)は、本件発明1の構成1Gである「放送システム」に相当する。

したがって、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致し、以下の各点で相違する。

[一致点]
(1A)一以上のスピーカから音声を出力する放送装置であって、
(1B’)第1音声信号に対応するコンテンツを識別する第1識別情報を、前記第1音声信号に埋め込んだ第2音声信号を取得する音声取得部と、
(1C)前記第2音声信号を、前記スピーカから出力させる音声出力制御部と、
(1A)を含む放送装置と、
(1D’)前記第2音声信号を収音する端末装置と通信可能に接続され、前記第1識別情報と前記端末装置において出力する案内情報とを関連付けた案内情報データを提供する案内情報データを提供する管理装置と、
(1F)前記案内情報データを参照して、前記端末装置において、前記放送エリアに応じた前記案内情報を出力させる、
(1G)放送システム。

[相違点]
・相違点1
本件発明1は、構成1Bの「第2音声信号」が、第1音声信号に「第1識別信号とは異なる第2識別情報」が埋め込まれたものであるのに対し、甲1発明の「音声データ」は、当該音声データに対応する識別情報とは異なる識別情報が埋め込まれたものではない点。

・相違点2
本件発明1は、構成1Dの「管理装置」によって「提供される情報」が、「前記第1識別情報及び前記第2識別情報の組み合わせと前記端末装置において出力する案内情報とを関連付けた案内情報データ」であるのに対し、甲1発明の「運行情報提供部944」に提供される情報は、「車両IDに基づいて、運行情報記憶部948に記憶した運行情報949の中から、車両IDに対応する運行情報」である点。

・相違点3
本件発明1は、構成1Eのとおり、「前記第2識別情報は、前記スピーカの放送エリアを識別する識別情報」であるのに対し、甲1発明は、「第2識別情報」に相当する構成を備えていない点で相違する。

(2)判断
上記相違点について検討する。
ここで、相違点1及び相違点2は、密接に関係するものであるから、まとめて検討することとし、まず、この相違点1及び相違点2について検討する。

ア 甲2技術について
上記1(2)イのとおり、甲2技術は、「複数のカラオケ装置は互いに重複しない放音エリアにカラオケ楽曲の楽音を放音し(構成2a)、装置IDは、カラオケ装置を識別する識別情報であり(構成2b)、楽曲IDは、カラオケ楽曲を識別する識別情報であり(構成2c)、カラオケ装置の制御部は、重畳部に相当する機能を実現し(構成2d)、重畳部は、カラオケ楽曲の楽音を示す音響信号に対し、楽曲属性としての楽曲IDと、装置IDとを音響透かしにより重畳させ(構成2e)、端末装置の制御部は、抽出部と、通信制御部とに相当する機能を実現し、抽出部は、取得した音響信号から、音響透かしにより重畳させられた楽曲IDと装置IDとを抽出し(構成2f)、通信制御部は、抽出した楽曲IDと、装置IDと、取得した端末IDとをサービスサーバに送信し(構成2g)、サービスサーバの制御部は、関連付け部と、応答処理部とに相当する機能を実現し、関連付け部は、同じカラオケ楽曲が歌唱され同じ楽曲IDを含む処理要求が複数取得された場合に、それらが互いに異なる放音エリアの端末装置から取得されたときには、それらの複数の端末装置を関連付け(構成2h)、応答処理部、関連付けられた端末装置に対し、互いをテレビ電話により通信接続させるための応答処理を実行する(構成2i)カラオケ装置10(構成2j)」である。
ここで、甲2技術の「音響信号を識別する楽曲ID」、「場所を識別する装置ID」、識別信号が重畳される前の「音響信号」、及び、識別信号が重畳された「音響信号」は、それぞれ、本件発明1の「第1識別情報」、「第2識別情報」、「第1音声信号」、及び、「第2音声信号」に相当する。
そして、甲2技術は、サービスサーバにおいて、同じ楽曲ID(本件発明1の「第1識別情報」に相当)を含む処理要求が、互いに異なる放音エリア(本件発明1の「第2識別情報」が示す情報に相当)の複数の端末装置から取得された場合に、各端末装置に対し、互いをテレビ電話により通信接続させるための応答処理を実行するものである。
そうすると、甲2技術は、複数の端末装置から送信された「第1識別情報」が一致した複数の端末装置に、特定のサービスを提供する旨の通知を行うものであるから、本件発明1のように、「第1識別情報及び第2識別情報の組み合わせ」に対応した「案内情報」を「端末装置において出力する」ものではなく、上記相違点2に係る、本件発明1の構成1Dの「第1識別情報及び第2識別情報の組み合わせと端末装置において出力する案内情報とを関連付けた案内情報データ」を提供するものに相当しない。

イ 甲3技術について
上記1(3)イのとおり、甲3技術は、「ビーコン装置は、ビーコン信号を無線送信し(構成3a)、通信端末は、ユーザが携帯する端末であり、ビーコン装置からビーコン信号を受信して、受信したビーコン信号に基づいて、コンテンツサーバ上のコンテンツへのアクセスを要求し、コンテンツサーバからコンテンツの提供を受けると、そのコンテンツを表示し(構成3b)、通信端末は、通知部を備え(構成3c)、通知部は、ユーザに対して情報の通知や、コンテンツの表示を行うため、聴覚に対して音声出力するものとしてスピーカなどを設けてもよく(構成3d)、通信端末は、ビーコン装置から受信したビーコン識別子と自身が記憶する共通アドレス情報とを組み合わせることによりネットワークアドレス情報を生成し(構成3e)、コンテンツサーバは、通信端末から受信したネットワークアドレス情報を用いてコンテンツを読み出して、通信端末に送信し(構成3f)、通信端末は、コンテンツサーバから受信したコンテンツを、ウェブブラウザを用いて、ウェブページを閲覧することにより、表示し(構成3g)、コンテンツは、地図、広告の情報が想定され(構成3h)、ネットワークアドレス情報を用いてコンテンツサーバにアクセスすることで、ビーコン装置から送信されるビーコン信号にコンテンツ自体を含ませる必要がなく(構成3i)、ビーコン識別子は、ビーコン装置を識別するためのビーコン装置識別情報と、コンテンツを識別するためのコンテンツ識別情報との組み合わせによるものとすることができる(構成3j)情報提供システム(構成3k)」である。
ここで、甲3技術の「コンテンツ識別情報」、「ビーコン識別子」、「コンテンツ」、「通信端末」、及び、「コンテンツサーバ」は、それぞれ、本件発明1の「第1識別情報」、「第2識別情報」、「案内情報」、「端末装置」、及び、「管理装置」に対応する。
一方で、甲3技術は、構成3c〜構成3dのとおり、「通信端末」が、「通知部」を備え、「通知部」が、「ユーザに対して情報の通知や、コンテンツの表示を行うため」、「視覚に対して出力するものとしてタッチパネルの表示部が想定され、聴覚に対して音声出力するものとしてスピーカなどを設けてもよい」ものであることから、構成3c〜構成3dからなる構成は、通信端末からコンテンツに対応する音声を出力するのであって、構成3a、構成3kのとおり、ビーコン装置は、コンテンツ識別情報、ビーコン識別子を示すビーコン信号を無線送信するのみであり、ビーコン装置から出力される音声に種々の情報が重畳されていることを示すものではない。よって、甲3技術の構成3c〜構成3dは、上記相違点1に係る、本件発明1の構成1Bにおける「第1音声信号」及び「第2音声信号」に相当する構成ではない。
また、甲3技術は、構成3jのとおり、「ビーコン識別子」が、「ビーコン装置を識別するためのビーコン装置識別情報と、コンテンツを識別するためのコンテンツ識別情報との組み合わせによるものとすることができる」構成であるが、構成3eのとおり、「通信端末」が、「ビーコン識別子」と「共通アドレス情報を組み合わせ」て「ネットワークアドレス情報を生成」し、構成3fのとおり、コンテンツサーバは、「ネットワークアドレス情報を用いてコンテンツを読み出して、通信端末に送信する」という構成が特定されているのみであるから、甲3技術は、コンテンツサーバが、ビーコン装置を識別するためのビーコン装置識別情報と、コンテンツを識別するコンテンツ識別情報との組み合わせによるコンテンツを提供するものではない。よって、甲3技術の構成3jは、上記相違点2に係る、本件発明1の構成1Dの「前記第1識別情報及び前記第2識別情報の組み合わせと前記端末装置において出力する案内情報とを関連付けた案内情報データを提供する管理装置」に相当する構成ではない。

ウ 相違点について
上記ア〜イのとおり、甲2技術〜甲3技術は、上記相違点に係る構成を備えるものではない。そして、当業者が本件発明1は、甲1発明及び甲2技術〜甲3技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
よって、相違点3について検討するまでもなく、当業者が本件発明1は、甲1発明及び甲2技術〜甲3技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

エ 特許異議申立人の主張について
ここで、特許異議申立人は、特許異議申立書の3(5)の「エ 進歩性違反について」において主張した内容について検討する。

(ア)特許異議申立人は、特許異議申立書の3(5)エの「a 特許発明1の発明の進歩性違反について」において、「特許発明1と引用発明1とは上記の相違点を有しているが、2つの「識別情報」を同じ音声信号に埋め込むことは周知」であるから、「引用発明1の「第1識別情報」と「第2識別情報」を、甲第2号証に記載の上記周知技術を適用して、同じ音声信号に埋め込むことは当業者が容易に想到し得るものであり、特許発明1は、発明の進歩性要件に違反するものである」旨を主張している。

しかし、上記アのとおり、甲2技術は、音声信号に複数の識別情報を重畳することを開示しているものの、サービスサーバにおいて、同じ楽曲ID(本件発明1の「第1識別情報」に相当)を含む処理要求が、互いに異なる放音エリア(本件発明1の「第2識別情報」が示す情報に相当)の複数の端末装置から取得された場合に、各端末装置に対し、互いをテレビ電話により通信接続させるための応答処理を実行するものであるから、甲1発明において、このような動作をする(第1識別情報が一致する端末に応答処理を行う)目的がなく、甲1発明において、音声信号に複数の識別情報を重畳するという甲2技術を適用する動機がないものである。
よって、特許異議申立書の3(5)エのaにおける特許異議申立人の主張は、認められない。

(イ)本件特許異議申立人は、特許異議申立書の3(5)エの「b 特許権者の拒絶査定不服審判における上申書の内容について」において、甲1の段落【0061】を引用して、甲1には、「第1識別情報に相当する路線IDと第2識別情報に相当するバス停IDという二つのIDの組み合わせによって決められる案内情報を出力することは開示されている」(第21頁)として、構成1Dに相当する構成が開示されている旨を主張している。

しかし、甲1の段落【0060】には、「図5(a)は、情報端末107の表示画面の一例である。情報端末107のアプリは、予めバス105の複数の路線に含まれる複数のバス停の情報を含む路線情報を有しているものとする。また、情報端末107は、バス105で提供される音声情報を取得すると、取得した音声情報に含まれる車両ID、路線ID、バス停ID等を抽出するものとする。」と記載されており、続く段落【0061】には、「図5(a)の例では、情報端末107の表示画面501の左側には、バス105の音声情報から抽出された路線IDとバス停IDとに基づいて、複数のバス停の情報502が順番に表示されている。(後略)」と記載されている。
上記の記載によれば、情報端末107において、アプリにより、車両ID、路線ID、バス停ID等から個別に得られる案内情報を組み合わせて表示させているものと認められる。

一方で、本件発明1の構成1Dは、「前記第1識別情報及び前記第2識別情報の組み合わせと前記端末装置において出力する案内情報とを関連付けた案内情報データを提供する管理装置」であり、案内情報データを提供する主体が「管理装置」であるから、特許異議申立人が上記主張で甲1において開示されているとした構成は、上記相違点2に係る、本件発明1の構成1Dの「前記第1識別情報及び前記第2識別情報の組み合わせと前記端末装置において出力する案内情報とを関連付けた案内情報データを提供する管理装置」に相当するものではない。
また、相違点2に相当する構成は、甲1の他の箇所にも記載されていない。
よって、特許異議申立書の3(5)エのbにおける特許異議申立人の主張は、認められない。

オ まとめ
上記ア〜エのとおり、本件発明1は、甲1発明、及び、甲2技術〜甲3技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
また、甲2または甲3のいずれかを主引例として認定した場合も、同様に、相違点1及び相違点2に係る構成を備える発明について、甲1〜甲3に基づいて認定することができない。

(3)結論
上記(1)〜(2)で検討したとおり、本件発明1は、甲1〜甲3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件発明2〜4
本件の請求項2〜4は、請求項1を引用するものであるから、上記2で検討した本件発明1と同様に、本件発明2〜4は、甲1〜甲3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 本件発明5
本件発明5の構成5Bは「前記第1識別情報及び前記第2識別情報の組み合わせと端末装置において出力する案内情報とを関連付けた案内情報データを提供」するものであり、上記2(1)で検討した「相違点2」に対応する構成を含む構成である。そして、当該相違点2は、上記2(2)で検討したとおりである。
よって、本件発明5についても、甲1〜甲3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 総括
上記1〜4で検討したとおり、本件発明1〜5は、甲1〜甲3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件特許の請求項1〜5に係る特許は、上記申立理由によって取り消すことはできない。

第5 むすび
本件特許の請求項1〜5に係る特許は、申立理由によって取り消すことはできない。また、他に、本件特許の請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-30 
出願番号 P2018-199051
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H04R)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 渡辺 努
木方 庸輔
登録日 2021-08-10 
登録番号 6927942
権利者 TOA株式会社
発明の名称 放送装置、放送システム、及びコンピュータプログラム  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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