• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1386191
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-08 
確定日 2022-06-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6933285号発明「導電材分散体、バインダー樹脂含有導電材分散体、電極膜用スラリー、電極膜、及び、非水電解質二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6933285号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6933285号の請求項1〜9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和2年9月3日の出願であって、令和3年8月23日にその特許権の設定登録がなされ、同年9月8日にその特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、令和4年3月8日付けで特許異議申立人安藤宏(以下、「申立人」という。)により請求項1〜9(全請求項)に対してなされた特許異議申立事件である。

2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜9に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」〜「本件発明9」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
炭素繊維を含む導電材と、
分散剤と、
分散媒と、を含む非水電解質二次電池用導電性分散体であって、
前記分散剤がニトリル基含有構造単位及び脂肪族炭化水素構造単位を含有する共重合体Aを含み、
前記共重合体Aのムーニー粘度(ML1+4,100℃)が40〜70であり、
前記導電性分散体が、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの位相角が19°以上である非水電解質二次電池用導電材分散体。
【請求項2】
動的粘弾性測定による複素弾性率が20Pa未満である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用導電材分散体。
【請求項3】
導電材分散体中の炭素繊維濃度x(質量%)と、動的粘弾性測定による導電材分散体の複素弾性率y(Pa)とが、下記式(1)、式(2)、及び式(3)の関係を満足することを特徴とする、請求項2に記載の非水電解質二次電池用導電材分散体。
y<8x (1)
y<20 (2)
0.1≦x≦10 (3)
【請求項4】
前記共重合体Aの質量を基準として、前記ニトリル基含有構造単位の含有量が15質量%以上50質量%以下であり、前記脂肪族炭化水素構造単位の含有量が40質量%以上85質量%未満である、請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池用導電材分散体。
【請求項5】
さらに塩基を、前記共重合体Aに対して1質量%以上10質量%以下含む、請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池用導電材分散体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質二次電池用導電材分散体と、バインダー樹脂とを含むバインダー樹脂含有非水電解質二次電池用導電材分散体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質二次電池用導電材分散体、または請求項6記載のバインダー樹脂含有非水電解質二次電池用導電材分散体と、電極活物質とを含む電極膜用スラリー。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質二次電池用導電材分散体を用いて形成した膜、請求項6記載のバインダー樹脂含有非水電解質二次電池用導電材分散体を用いて形成した膜、及び請求項7記載の電極膜用スラリーを用いて形成した膜からなる群から選択される少なくとも1種を含む、電極膜。
【請求項9】
正極と、負極と、電解質とを具備してなる非水電解質二次電池であって、請求項8記載の電極膜を正極または負極の少なくとも一方に用いた非水電解質二次電池。」

3 特許異議申立理由の概要
申立人は、次の甲第1号証〜甲第13号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲13」という。)を提出し、以下の(1)〜(6)の特許異議申立理由を主張している。

(証拠方法)
甲1:特表2018−534731号公報
甲2:特表2018−533175号公報
甲3:国際公開第2018/123624号
甲4:特表2018−522803号公報
甲5:「化学辞典(普及版)」普及版第14刷,森北出版株式会社,1998年6月10日発行,「ムーニー粘度」の項
甲6:特表2006−503127号公報
甲7:Arlanxeo社ホームページ
(https://www.arlanxeo.com/en/products/finder?q=%3anameasc%3aproductFamilyCategory%3ahnbr)
甲8:特開2008−50376号公報
甲9:Werner Bauer, Dorit N[oe]tzel,“Rheological properties and stability of NMP based cathode slurries for lithium ion batteries”Ceramics International,2014,Vol.40,p.4591-4598(当審注:[oe]は、特殊文字のウムラウトeを代替した。)
甲10:後藤友影他「セラミックス薄膜焼成用スラリーのレオロジーコントロール」日本レオロジー学会誌,2001年,29巻,No.4,205頁〜210頁
甲11:中井昇「水性塗料の仕上がり性に関与する特性について」塗料の研究,2009年10月,No.151,p.17−22
甲12:特開2014−49380号公報
甲13:特開2014−181140号公報

(1)本件特許の請求項1、4、6〜9に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であるため、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである(特許異議申立書(以下、「申立書」という。)第28頁第1行〜第29頁第4行)。

(2)本件特許の請求項1〜3、6〜9に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であるため、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである(申立書第29頁第5行〜第30頁第14行)。

(3)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の発明又は技術事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるため、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである(申立書第30頁第15行〜第32頁第12行)。
・請求項1、4、6〜9:甲3に記載された発明、及び、甲8に記載された事項
・請求項2、3:甲3に記載された発明、並びに、甲8及び甲12に記載された事項
・請求項5:甲3に記載された発明、並びに、甲8及び甲13に記載された事項

(4)本件特許の請求項1〜4、6〜9に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明であるため、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである(申立書第32頁第13行〜第34頁第6行の一部)。

(5)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の発明または技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである(申立書第32頁第13行〜第34頁第6行の一部)。
・請求項1〜4、6〜9:甲4に記載された発明
・請求項5:甲4に記載された発明、及び、甲13に記載された事項

(6)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の発明または技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである(申立書第34頁第7行〜第35頁第3行)。
・請求項1、4、6〜9:甲4に記載された発明、及び、甲8に記載された事項
・請求項2、3:甲4に記載された発明、並びに、甲8及び甲12に記載された事項
・請求項5:甲4に記載された発明、並びに、甲8及び甲13に記載された事項

4 各甲号証の記載
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、各甲号証に記載された発明の認定に関連する箇所には、当審で下線を付した。以下、同じ。
「【0002】
本発明は、高ローディング電極の製造時に崩壊およびクラックが発生することなく均一な厚さの電極活物質層の形成が可能であり、結果、電池の性能特性を改善することができる導電材分散液およびこれを用いて製造したリチウム二次電池に関する。」
「【0160】
[実施例2‐1、実施例2‐2、比較例2‐1〜比較例2‐3:導電材分散液の製造]
組成物の全重量に対して、下記表2に記載のカーボンナノチューブ5重量%、分散剤1.0重量%および分散媒94重量%を含む組成物を均質混合装置(VMA LC55、Impeller/3,000rpm)を用いて60分間混合した。結果の混合物に対して、ネッチビーズミル(NETZSCH Mini‐cer、ビーズのサイズ:1mm/3,000rpm)を用いて下記表2に記載の時間の間に循環して行い、束型カーボンナノチューブを含む実施例2‐1、実施例2‐2、比較例2‐1〜比較例2‐3の導電材分散液を取得した。
【0161】
【表2】


【0162】
[実験例2‐1]
実施例2‐1、実施例2‐2、比較例2‐1〜比較例2‐3の導電材分散液に対して、位相角を測定した。
【0163】
詳細には、位相角を測定するために、動弾性剪断レオメータ(DSR;Dynamic Shear Rheometer)を使用して常温で1%の応力を加えながら1Hzの周波数で周波数掃引をして測定した。その結果を下記表3および図1に示した。図1のx軸は位相角であり、y軸は複素弾性率である。
【0164】
【表3】




(2)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「【0002】
本発明は、優れた分散性および低い粉体抵抗特性を有することで、高出力用電極の製造に有用な導電材分散液、前記導電材分散液の製造方法および前記導電材分散液を用いて製造した二次電池に関する。」
「【0134】
これにより、本発明の他の実施形態によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよびこれを含む電池パックが提供される。」
「【0140】
[実施例1:導電材分散液の製造]
N‐メチルピロリドン(NMP)溶媒97.6重量部に束型CNT(平均束直径=15nm)2重量部および部分水素化したアクリロニトリルブタジエン系ゴム(α,β‐アクリロニトリル由来構造の繰り返し単位の含有量:54重量%、水素化したブタジエン由来構造の繰り返し単位の含有量:9重量%、重量平均分子量:260,000g/mol、多分散指数(PDI)=2.9)0.4重量部を添加し、均質混合装置(VMA LC55、Impeller/3000rpm)を用いて1時間混合した。結果の混合物に対して、ネッチビーズミル(NETZSCH Mini‐cer、ビーズの平均直径:1mm、3000rpmの速度)を用いて90分間ミリングを行い、カーボンナノチューブ分散液を取得した。」
「【0145】
[比較例4:導電材分散液の製造]
前記実施例1で束型CNTの代りに絡み合い型のCNT(FT9110、Cnano社製、平均束直径=15nm)を使用する以外は、前記実施例1と同じ方法で実施してカーボンナノチューブ分散液を製造した。」
「【0154】
[実験例2]
前記実施例1〜2および比較例1〜4で製造したそれぞれの導電材分散液に対して、複素弾性率および粘度などの流動物性を測定した。
【0155】
複素弾性率および粘度を測定するために、粘度測定装備としてレオメータ(RHEOMETER)(モデル名:ARシリーズ、製造社:TA INSTRUMENTS)の円形回転板間の距離を一定に設定した後、当該間隔に満たされる体積に相当する導電材分散液をそれぞれ取り込み、剪断速度を1/s単位で10-3から103の範囲まで設定し、回転板を回すために生じる力を測定し、複素弾性率を測定した。また、剪断速度が1/6.3sである時の剪断粘性率を測定した。その結果を下記表2および図1、図2に示した。
【0156】
【表2】




(3)甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「[0001]本発明は、非水系二次電池負極用スラリー組成物及びその製造方法、非水系二次電池用負極、並びに非水系二次電池に関するものである。」
「[0008]そこで、本発明は、粘度の経時的安定性や耐沈降性等の高い、スラリー安定性に富む非水系二次電池負極用スラリー組成物であり、非水系二次電池の製造に用いた場合に、得られる非水系二次電池の電池特性を十分に向上させ得る非水系二次電池負極用スラリー組成物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
更に、本発明は、非水系二次電池の電池特性を十分に向上させ得る非水系二次電池用負極及び出力特性及びサイクル特性等の電池特性に優れる非水系二次電池を提供することを目的とする。」
「[0049]・・・(略)・・・共重合体のムーニー粘度は、例えば、共重合体の組成、構造(例えば、直鎖率)、分子量、ゲル含有率、共重合体の調製条件(例えば、連鎖移動剤の使用量、重合温度、重合終了時の転化率)などを変更することにより調整することができる。」
「[0085](実施例1)
<共重合体の調製>
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、乳化剤としてのアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル35部、連鎖移動剤としてのt−ドデシルメルカプタン0.25部をこの順で入れ、内部を窒素置換した後、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3−ブタジエン65部を圧入し、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム0.25部を添加して、反応温度40℃で重合反応させた。そして、アクリロニトリルと1,3−ブタジエンとの共重合体を得た。なお、重合転化率は85%であった。
得られた共重合体に対してイオン交換水を添加し、全固形分濃度を12質量%に調整した溶液を得た。得られた溶液400mL(全固形分48g)を、容積1Lの撹拌機付きオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して溶液中の溶存酸素を除去した後、水素化反応用触媒としての酢酸パラジウム75mgを、パラジウム(Pd)に対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応(第一段階の水素化反応)を行った。
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に、水素化反応用触媒としての酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水60mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応(第二段階の水素化反応)を行った。得られた共重合体のヨウ素価を上記方法により測定したところ、共重合体100mg当たり10mg未満であった。また、得られた共重合体の組成及びムーニー粘度を測定した。結果を表1に示す。
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて固形分濃度が40%となるまで濃縮して、共重合体の水分散液を得た。
<非水系二次電池負極用スラリー組成物の調製>
得られた共重合体の水分散液100部に有機溶媒としてのN−メチルピロリドン(NMP)320部を加え、減圧下で水を蒸発させて、アルキレン構造単位(1,3−ブタジエン水素化物単位)及びニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)を含有する共重合体を含む組成物を得た。
そして、導電材としてアセチレンブラック(BET比表面積:69m2/g)3.0部とカーボンナノチューブを1.0部、共重合体を含む組成物を固形分換算で4.0部と、溶媒としてのN−メチルピロリドン(NMP)とを、ディスパーミキサーを用いて混合し混合物を得た。この混合物に対して、負極活物質としてLi4Ti5O12を92.0部加え、プラネタリーミキサーを用いて混合した。
得られた混合物に対して更にNMPを添加し、B型粘度計(回転速度:60rpm)で測定した粘度が4000mPa・sとなるように調整して、負極用スラリー組成物を得た。そして、得られた負極用スラリー組成物を用いて粘度安定性、耐沈降性、及び固形分濃度の評価を行った。結果を表1に示す。」
「[0090](実施例6〜7)
共重合体の調製時に、t−ドデシルメルカプタンの量をそれぞれ表1に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にして、共重合体、負極用スラリー組成物、正極、負極及び二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。」
「[0097]
[表1]





(4)甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
「【0010】
[数学式1]
RDB(重量%)=BD重量/(BD重量+HBD重量)×100
前記数学式1において、BDは共役ジエン由来の構造単位を、HBDは水素化された共役ジエン由来の構造単位をそれぞれ意味する。」
「【0038】
一例によれば、前記部分水素化ニトリルゴムは、下記化学式1の単位・・・(略)・・・を含む。
【0039】
【化1】



「【0082】
実施例1〜9および比較例1〜7
N‐メチルピロリドン(NMP)溶媒に、単位体の直径が10〜15nmであり、BETが240〜250m2/gであるバンドル型カーボンナノチューブおよび下記表1の部分水素化ニトリルゴムを、下記表2のような含量で混合してカーボンナノチューブ分散液を製造した。表1の重量%は、部分水素化ニトリルゴム100重量%を基準としたものであり、表2の重量%は、カーボンナノチューブ分散液100重量%を基準としたものである。この際、ビーズミル(beads mill)を用いた。製造された分散液の分散粒径および粘度を測定し、下記表2に示した。」
「【0085】
電極スラリー(固形分100重量部)を製造するために、上記で製造されたカーボンナノチューブ分散液を、3成分系正極活物質98.4重量部、およびPVdF系バインダー1重量部と混合した。この際、カーボンナノチューブおよび部分水素化ニトリルゴムは、それぞれ0.5重量部および0.1重量部で存在した。次いで、アルミニウム集電体上に前記電極スラリーを塗布した後、ロールプレスで圧延して正極極板(合剤密度3.3g/cc)を製造した。」
「【0087】
上記で製造した分散液を適用した正極および負極を用いてモノセルを製造した。具体的に、前記負極極板と正極極板との間にポリエチレンセパレータを介在させ、これを電池ケースに入れた後、電解液を注入して電池を組み立てた。この際、電解液としては、1.0MのLiPF6が溶解されたエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネート(体積比1:2:1)の混合溶液を使用した。」
「【0090】
【表1】


【0091】
【表2】


【0092】
【表3】


【0093】
前記表3において、分散効率は、分散液の粒径分布D50が6μmまで達するのに必要なビーズミルのエネルギーを示した値であり、値が小さいほど、分散効率が高いことを意味する。」

(5)甲5の記載
甲5には、次の記載がある。


」(「ムーニー粘度」の項)

(6)甲6の記載
甲6には、次の記載がある。
「【実施例1】
【0040】
例1〜4
二塩化ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウム(Grubb複合反応触媒)、1−ヘキセン及びモノクロロベンゼン(MCB)を、それぞれAlta、Aldrich Chemicals、及びPPGから購入し、そのまま使用した。
複合反応は、高圧パイロット反応器中、下記条件下で行った。
セメント濃度 6重量%
コオレフィン エチレン
コオレフィン濃度 500psi
撹拌機速度 600rpm
触媒荷重 第1表参照
溶剤 モノクロロベンゼン
ペルブナン アクリロニトリル含有量が34モル%で、ム
ーニー粘度がML(1+4)@100℃で3
0MUの統計的ブタジエン−アクリロニトリ
ル共重合体
【0041】
重合体9kgをモノクロロベンゼン141kgに溶解した。反応器を所望の温度に加熱し、これにGrubb触媒含有モノクロロベンゼン溶液2Lを加えた。反応器をエチレンで500psiに加圧した。反応中、温度は一定に維持した。温度制御器及び熱センサーに接続した冷却コイルを用いて温度を調整した。6%セメントについての溶液粘度測定値を用いて、反応の進行をモニターした。
【0042】
複合反応と同じ反応器中、下記条件下で水素化反応を行った。
セメントの固体濃度 12%
H2(ゲージ)圧 1200psi
撹拌機速度 600rpm
反応器温度 138℃
触媒荷重(Wilkinson) 第1表参照
トリフェニルホスフィン 1phr
溶剤 モノクロロベンゼン
【0043】
複合反応のセメントを十分な撹拌下に100psiのH2で3回脱気した。反応器の温度を130℃に上げ、Wilkinson触媒及びトリフェニルホスフィンを含有するモノクロロベンゼン溶液2Lを反応器に加えた。温度を138℃に上げ、反応中、一定に維持した。水素化反応は、IR分光学を用いて残存二重結合(RDB)水準を種々の間隔で測定することによりモニターした。
ルテニウム複分解触媒は、重合体の水素化に代用できた。
【0044】
【表1】




(7)甲8の記載
甲8には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
微細な繊維状セルロースである水分散性セルロースと少なくとも1種の多糖類を含有し、安定性は保ちつつ、液切れ性が良く、糊状感やべたつきの少ない粘性を付与できる増粘安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より食品や化粧品等の製品を増粘させるための増粘安定剤として、ガラクトマンナン、ペクチン等の多糖類が使用されている。これらの多糖類だけを使用して、安定性や粘性を付与しようとすると、液切れ性が悪くなり、食品や医薬品等においては糊状感により食感が損なわれ、化粧品等においてはべたつきにより触感が悪化するために、商品価値が損なわれる。」
「【0018】
本発明の増粘安定剤の構成成分として使用される水分散性セルロースまたは水分散性乾燥組成物は、0.5質量%濃度の水分散液において、歪み10%、周波数10rad/sの条件で測定される損失正接(tanδ)が1未満であり、好ましくは0.6未満である。0.6未満であるとそれらの性能はさらに秀でたものとなる。損失正接が1以上であると、後述する構造粘性指標が小さくなってしまう。
本発明の増粘安定剤の構成成分として使用される水分散性セルロースまたは水分散性乾燥組成物の損失正接を1未満にするためには、植物細胞壁由来のミクロフィブリルを短く切断することなく取り出す必要がある。しかしながら現在の技術では全く「短繊維化」させることなく、「微細化」だけを行うことはできない。(ここで言う「短繊維化」とは繊維を短く切断すること、あるいは短くなった繊維の状態を意味する。また「微細化」とは引き裂く等の作用を与えて繊維を細くすること、あるいは細くなった繊維の状態を意味する。)つまり損失正接を1未満にするためには、セルロース繊維の「短繊維化」を最低限に抑えつつ「微細化」を進行させることが重要である。そのための好ましい方法を以下に示すが、これらの方法に何ら限定されるものではない。」
「【0025】
本発明の構造粘性形成作用は、「回転数3rpmにおける粘度(η3)」と「回転数100rpmにおける粘度(η100)」から算出される構造粘性指標(TI値)によって表される。安定性はη3に依存する傾向があるので、η3が同程度の粘度を示すように調整した水分散液(または液状組成物)同士で、構造粘性指標(TI値)を比較する。ここで言うTI値とは、「TI=η3/η100」で表され、TI値が大きいほど、液切れ性が良く、糊状感やべたつきが少ないということを表している。以下に示す構造粘性指標が「TIα>TIβ」となる時に、構造粘性形成作用を持つと判定する。」

5 引用発明
(1)甲1に記載された発明
上記4の(1)の摘記中、甲1の表2には、比較例2−1及び比較例2−3の導電性分散液において、分散剤は、部分水素化したニトリルブタジエン系ゴム(水素化した1,3−ブタジエン由来構造単位の含有量:63重量%、アクリロニトリル由来構造単位含有量:37重量%、分子量260,000g/mol)であり、分散媒は、N−メチルピロリドンであることが示されている。
また、甲1の表3には、位相角が、比較例2−1は23.1°、比較例2−3は24.8°であることが示されている。
そうすると、比較例2−1または比較例2−3の導電性分散液に注目すると、上記4の(1)(特に、【0002】、【0160】、【0163】、表1〜表3参照。)によれば、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「組成物の全重量に対して、束型カーボンナノチューブ5重量%、分散剤1.0重量%および分散媒94重量%を含む組成物を混合しネッチビーズミルを用いて循環して取得した、導電材分散液であって、
分散剤は、部分水素化したニトリルブタジエン系ゴム(水素化した1,3−ブタジエン由来構造単位の含有量:63重量%、アクリロニトリル由来構造単位含有量:37重量%、分子量260,000g/mol)であり、
分散媒は、N−メチルピロリドンであり、
動弾性剪断レオメータを使用して常温で1%の応力を加えながら1Hzの周波数で周波数掃引をして測定された位相角が、23.1°または24.8°である、リチウムイオン二次電池用導電材分散液。」

(2)甲2に記載された発明
上記4の(2)の摘記中、比較例4のカーボンナノチューブ分散剤に注目すると、上記4の(2)(特に、【0002】、【0134】、【0140】、【0145】、表2参照。)によれば、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「N‐メチルピロリドン(NMP)溶媒97.6重量部に絡み合い型のCNT(FT9110、Cnano社製、平均束直径=15nm)2重量部および部分水素化したアクリロニトリルブタジエン系ゴム(α,β‐アクリロニトリル由来構造の繰り返し単位の含有量:54重量%、水素化したブタジエン由来構造の繰り返し単位の含有量:9重量%、重量平均分子量:260,000g/mol、多分散指数(PDI)=2.9)0.4重量部を添加し、混合して、ネッチビーズミルを用いてミリングを行い、取得した、リチウムイオン二次電池用カーボンナノチューブ分散液。」

(3)甲3に記載された発明
上記4の(3)の摘記中、甲3の表1には、実施例6の共重合体のムーニー粘度(ML1+4,100℃)が70であることが示されている。
そうすると、実施例6の混合物に注目すると、上記4の(3)(特に、[0001]、[0085]、[0090]、表1参照。)によれば、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「重合転化率85%のアクリロニトリルと1,3−ブタジエンとの共重合体を得て、
得られた共重合体に対してイオン交換水を添加した後、撹拌機付きオートクレーブに投入し、第一段階の水素化反応、次いで、第二段階の水素化反応を行い、共重合体の水分散液を得て、
得られた共重合体の水分散液100部に有機溶媒としてのN−メチルピロリドン(NMP)320部を加え、減圧下で水を蒸発させて、アルキレン構造単位(1,3−ブタジエン水素化物単位)及びニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)を含有する共重合体を含む組成物を得た後、
導電材としてアセチレンブラック(BET比表面積:69m2/g)3.0部とカーボンナノチューブを1.0部、共重合体を含む組成物を固形分換算で4.0部と、溶媒としてのN−メチルピロリドン(NMP)とを混合して得た非水系二次電池用混合物であって、
前記共重合体のムーニー粘度(ML1+4,100℃)が70である、非水系二次電池用混合物。」

(4)甲4に記載された発明
上記4の(4)の摘記中、表1に記載された「HBD」、「BD」は、【0010】の記載より、水素化された共役ジエン由来の構造単位、及び、共役ジエン由来の構造単位を意味し、「AN」は、表1の「(化学式1)」の記載、【0039】の化学式1、及び、技術常識からみて、アクリロニトリル由来の構造単位を意味している。
また、甲4の表1には、実施例5の部分水素化ニトリルゴムは、水素化された共役ジエン由来の構造単位65.3%、共役ジエン由来の構造単位0.7%、アクリロニトリル由来の構造単位34.0%を含み、重量平均分子量(Mw)が220,000g/molであることが示されている。
そうすると、甲4の実施例5のカーボンナノチューブ分散液に注目すると、上記4の(4)(特に、【0010】、【0038】、【0039】、【0082】、【0087】、表1、表2参照。)によれば、甲4には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「N‐メチルピロリドン(NMP)溶媒に、単位体の直径が10〜15nmであり、BETが240〜250m2/gであるバンドル型カーボンナノチューブおよび部分水素化ニトリルゴムを混合して製造した、カーボンナノチューブ分散液であって、
上記部分水素化ニトリルゴムは、水素化された共役ジエン由来の構造単位65.3%、共役ジエン由来の構造単位0.7%、アクリロニトリル由来の構造単位34.0%を含み、重量平均分子量(Mw)が220,000g/molであり、
モノセルの電解液としては、1.0MのLiPF6が溶解されたエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネート(体積比1:2:1)の混合溶液を使用した、モノセル用カーボンナノチューブ分散液。」

6 対比・判断
(1)分子量(Mw)とムーニー粘度との関係について
ア 申立人は、特許異議申立書(第27頁第1行〜最終行)において、甲6の表1に示される分子量(Mw)とムーニー粘度との関係は以下の図のようになり、本件発明におけるムーニー粘度40〜70に対応する分子量(Mw)は、約200,000〜300,000である旨を主張している。





イ そこで、以下、上記アの主張について検討する。

ウ 甲5には、「素練りなどゴムの加工条件を規定する量として可塑度を用いることが多い。可塑度はASTMによって決められた回転式粘度計の一種であるムーニー粘度計で測定されている。ムーニー粘度の値はゴムの分子量と一定の関係があり、しかも配合ゴムのムーニー粘度はスコーチ速度および加硫ゴムの強度とに密接な関係がある」と記載されている。

エ しかしながら、上記ウによれば、ムーニー粘度の値とゴムの分子量とは「一定の関係」があるとのことであるが、比例関係等であるとまではいっていない。

オ また、甲3には次のとおり記載されており、ムーニー粘度は「構造(例えば、直鎖率)」等、分子量とは直接関係のない要因でも変化するものと認められる。
「共重合体のムーニー粘度は、例えば、共重合体の組成、構造(例えば、直鎖率)、分子量、ゲル含有率、共重合体の調製条件(例えば、連鎖移動剤の使用量、重合温度、重合終了時の転化率)などを変更することにより調整することができる。」([0049])

カ さらに、上記アのとおり、申立人は、本件発明におけるムーニー粘度40〜70に対応する分子量(Mw)は、約200,000〜300,000であると主張しているが、本件明細書に記載された実施例では、共重合体1は、重量平均分子量(Mw)が150,000であって、ムーニー粘度は50であるし、共重合体2は、重量平均分子量(Mw)が180,000であって、ムーニー粘度は42であって、申立人が主張する範囲から外れている。

キ そうすると、上記ウの記載や上記エ〜カの検討より、ムーニー粘度の値は共重合体の分子量と一定の関係があるとはいえるものの、上記オのように、他の条件にも影響されるものであって、申立人が主張するように、本件発明におけるムーニー粘度40〜70に対応する分子量(Mw)は、約200,000〜300,000であるとまではいえない。
すなわち、共重合体の分子量(Mw)が約200,000〜300,000であるからといって、直ちにムーニー粘度が40〜70であるとまではいえない。

(2)甲1を主たる引例とした場合(上記3の(1))
(2)−1 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「束型カーボンナノチューブ」、「リチウムイオン二次電池用導電材分散液」は、本件発明1の「炭素繊維を含む導電材」、「非水電解質二次電池用導電材分散体」に相当する。

イ 甲1発明の「分散剤は、部分水素化したニトリルブタジエン系ゴム(水素化した1,3−ブタジエン由来構造単位の含有量:63重量%、アクリロニトリル由来構造単位含有量:37重量%、分子量260,000g/mol)であ」る事項は、本件発明1の「分散剤がニトリル基含有構造単位及び脂肪族炭化水素構造単位を含有する共重合体Aを含」む事項に相当する。

ウ 甲1発明の「動弾性剪断レオメータを使用して常温で1%の応力を加えながら1Hzの周波数で周波数掃引をして測定された位相角が、23.1°または24.8°である」事項は、本件発明1の「導電性分散体が、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの位相角が19°以上である」事項に相当する。

エ 上記ア〜ウより、本件発明1と甲1発明とは、
「炭素繊維を含む導電材と、
分散剤と、
分散媒と、を含む非水電解質二次電池用導電性分散体であって、
前記分散剤がニトリル基含有構造単位及び脂肪族炭化水素構造単位を含有する共重合体Aを含み、
前記導電性分散体が、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの位相角が19°以上である非水電解質二次電池用導電材分散体。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1は、「共重合体Aのムーニー粘度(ML1+4,100℃)が40〜70であ」るのに対し、甲1発明は、「部分水素化したニトリルブタジエン系ゴム」の分子量が260,000g/molであって、ムーニー粘度がどの程度であるかが不明である点。

(2)−2 相違点についての判断
ア 甲1発明の「部分水素化したニトリルブタジエン系ゴム」の分子量は、260,000g/molである。

イ そして、上記(1)で検討したように、ムーニー粘度の値は共重合体の分子量と一定の関係があるとはいえるものの、他の条件にも影響されるものであって、甲1発明の「部分水素化したニトリルブタジエン系ゴム」の分子量が約200,000〜300,000の範囲内の260,000(g/mol)であるからといって、そのムーニー粘度が40〜70の範囲内であるとまではいえない。

ウ そうすると、甲1発明の「部分水素化したニトリルブタジエン系ゴム」のムーニー粘度は、不明であると言わざるを得ない。

エ したがって、相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。

オ また、念のため、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことであるか否かについて、以下検討する。

カ 甲1発明は「カーボンナノチューブの分散性を向上させる」(【0008】)ものであるから、甲1発明の「リチウムイオン二次電池用導電材分散液」において、分散性をさらに向上させる動機があるといえる。

キ しかしながら、甲1発明の「リチウムイオン二次電池用導電材分散液」において、分散性をさらに向上させる手段として、さらに別の分散剤を加える、分散剤の量を調整する等、様々な手段が考えられ得るところ、甲1には、分散剤のムーニー粘度について何ら言及されていないから、甲1発明において、分散剤のムーニー粘度(ML1+4,100℃)を40〜70とする動機がない。

ク したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ケ よって、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

コ また、本件発明2〜9は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、甲1発明に対して、少なくとも相違点1と同様の相違点で相違する。

サ そうすると、上記ア〜ケで検討した理由と同様の理由により、本件発明2〜9は、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)甲2を主たる引例とした場合(上記3の(2))
(3)−1 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
ア 甲2発明の「絡み合い型のCNT(FT9110、Cnano社製、平均束直径=15nm)」、「N‐メチルピロリドン(NMP)溶媒」、「リチウムイオン二次電池用カーボンナノチューブ分散液」は、それぞれ、本件発明1の「炭素繊維を含む導電材」、「分散媒」、「非水電解質二次電池用導電材分散体」に相当する。

イ 甲2発明の「部分水素化したアクリロニトリルブタジエン系ゴム(α,β‐アクリロニトリル由来構造の繰り返し単位の含有量:54重量%、水素化したブタジエン由来構造の繰り返し単位の含有量:9重量%、重量平均分子量:260,000g/mol、多分散指数(PDI)=2.9)」「を添加」する事項は、本件発明1の「分散剤」「を含」み、「前記分散剤がニトリル基含有構造単位及び脂肪族炭化水素構造単位を含有する共重合体Aを含」む事項に相当する。

ウ 上記ア、イより、本件発明1と甲2発明とは、
「炭素繊維を含む導電材と、
分散剤と、
分散媒と、を含む非水電解質二次電池用導電性分散体であって、
前記分散剤がニトリル基含有構造単位及び脂肪族炭化水素構造単位を含有する共重合体Aを含む非水電解質二次電池用導電材分散体。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点2)
本件発明1は、「共重合体Aのムーニー粘度(ML1+4,100℃)が40〜70であ」るのに対し、甲2発明は、「部分水素化したアクリロニトリルブタジエン系ゴム」の分子量が260,000g/molであって、ムーニー粘度がどの程度であるかが不明である点。

(相違点3)
本件発明1は、「導電性分散体が、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの位相角が19°以上である」のに対し、甲2発明は、「カーボンナノチューブ分散液」の動的粘弾性測定による周波数1Hzでの位相角が不明である点。

(3)−2 相違点についての判断
まず、相違点2について検討する。
ア 甲2発明の「部分水素化したアクリロニトリルブタジエン系ゴム」の分子量は、260,000g/molである。

イ そして、上記(1)で検討したように、ムーニー粘度の値は共重合体の分子量と一定の関係があるとはいえるものの、他の条件にも影響されるものであって、甲2発明の「部分水素化したアクリロニトリルブタジエン系ゴム」の分子量が約200,000〜300,000の範囲内の260,000(g/mol)であるからといって、そのムーニー粘度が40〜70であるとまではいえない。

ウ そうすると、甲2発明の「部分水素化したアクリロニトリルブタジエン系ゴム」のムーニー粘度は、不明であると言わざるを得ない。

エ したがって、相違点2は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲2発明であるとはいえない。

オ また、念のため、甲2発明において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことであるか否かについて、以下検討する。

カ 甲2発明は「カーボンナノチューブの分散性を向上させる」(【0008】)ものであるから、甲2発明の「リチウムイオン二次電池用カーボンナノチューブ分散液」において、分散性をさらに向上させる動機があるといえる。

キ しかしながら、甲2発明の「リチウムイオン二次電池用カーボンナノチューブ分散液」において、分散性をさらに向上させる手段として、さらに別の分散剤を加える、分散剤の量を調整する等、様々な手段が考えられ得るところ、甲2には、「部分水素化したアクリロニトリルブタジエン系ゴム」のムーニー粘度について何ら言及されていないから、甲2発明において、「部分水素化したアクリロニトリルブタジエン系ゴム」のムーニー粘度(ML1+4,100℃)を40〜70とする動機がない。

ク したがって、甲2発明において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ケ よって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではないし、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

コ また、本件発明2〜9は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、甲2発明に対して、少なくとも相違点2と同様の相違点で相違する。

サ そうすると、上記ア〜ケで検討した理由と同様の理由により、本件発明2〜9は、甲2発明ではないし、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)甲3を主たる引例とした場合(上記3の(3))
(4)−1 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
ア 甲3発明の「導電材としてアセチレンブラック(BET比表面積:69m2/g)3.0部とカーボンナノチューブを1.0部」、「溶媒としてのN−メチルピロリドン(NMP)」、「非水系二次電池用混合物」は、本件発明1の「炭素繊維を含む導電材」、「分散媒」、「非水電解質二次電池用導電材分散体」に相当する。

イ 甲3発明の「アルキレン構造単位(1,3−ブタジエン水素化物単位)及びニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)を含有する共重合体を含む組成物」「を混合」する事項は、本件発明1の「分散剤」「を含」み、「前記分散剤がニトリル基含有構造単位及び脂肪族炭化水素構造単位を含有する共重合体Aを含」む事項に相当する。

ウ 甲3発明の「前記共重合体のムーニー粘度(ML1+4,100℃)が70である」事項は、本件発明1の「共重合体Aのムーニー粘度(ML1+4,100℃)が40〜70であ」る事項に相当する。

エ 上記ア〜ウより、本件発明1と甲3発明とは、
「炭素繊維を含む導電材と、
分散剤と、
分散媒と、を含む非水電解質二次電池用導電性分散体であって、
前記分散剤がニトリル基含有構造単位及び脂肪族炭化水素構造単位を含有する共重合体Aを含み、
前記共重合体Aのムーニー粘度(ML1+4,100℃)が40〜70である非水電解質二次電池用導電材分散体。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点4)
本件発明1は、「導電性分散体が、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの位相角が19°以上である」のに対し、甲3発明は、「非水系二次電池用混合物」の動的粘弾性測定による周波数1Hzでの位相角が不明である点。

(4)−2 判断
ア 甲8(【0018】)には、水分散性セルロースまたは水分散性乾燥組成物が、0.5質量%濃度の水分散液において、歪み10%、周波数10rad/s(すなわち、約1.59Hz)の条件で測定される損失正接(tanδ)が0.6未満である、すなわち、δ=約30.96°未満とすることが記載されている。

イ しかしながら、甲8は、「食品や化粧品等の製品を増粘させるための増粘安定剤」(【0002】)に関するものであって、甲3発明の「非水系二次電池用混合物」とは、技術分野が異なる。

ウ また、上記アの損失正接(tanδ)の特定は、「構造粘性指標」(【0018】)が小さくならないように、すなわち、「液切れ性が良く、糊状感やべたつきが少な」(【0025】)くなるように行うものであって、甲3発明の「非水系二次電池用混合物」に液切れ性、糊状感、べたつきが問題となることはないし、甲3発明の課題も、「粘度の経時的安定性や耐沈降性等の高い、スラリー安定性に富む」([0008])ことであって、液切れ性、糊状感、べたつきと大きく異なるから、上記アの損失正接(tanδ)を特定する動機がない。

エ そうすると、甲3発明において、相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

オ よって、本件発明1は、甲3発明、及び、甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ また、本件発明2〜9は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、甲3発明に対して、少なくとも相違点4と同様の相違点で相違する。

キ そうすると、甲12、甲13に記載された事項を考慮したとしても、上記ア〜オで検討した理由と同様の理由により、本件発明2〜9は、甲3発明、並びに、甲8、甲12及び甲13に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)甲4を主たる引例とした場合(上記3の(4)〜(6))
(5)−1 対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
ア 甲4発明の「バンドル型カーボンナノチューブ」、「部分水素化ニトリルゴム」、「N‐メチルピロリドン(NMP)溶媒」は、本件発明1の「炭素繊維を含む導電材」、「分散剤」、「分散媒」にそれぞれ相当する。

イ 甲4発明の「モノセルの電解液としては、1.0MのLiPF6が溶解されたエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネート(体積比1:2:1)の混合溶液を使用した、モノセル用カーボンナノチューブ分散液」は、本件発明1の「非水電解質二次電池用導電材分散体」に相当する。

ウ 甲4発明の「部分水素化ニトリルゴムは、水素化された共役ジエン由来の構造単位65.3%、共役ジエン由来の構造単位0.7%、アクリロニトリル由来の構造単位34.0%を含」む事項は,本件発明1の「分散剤がニトリル基含有構造単位及び脂肪族炭化水素構造単位を含有する共重合体Aを含」む事項に相当する。

エ 上記ア〜ウより、本件発明1と甲4発明とは、
「炭素繊維を含む導電材と、
分散剤と、
分散媒と、を含む非水電解質二次電池用導電性分散体であって、
前記分散剤がニトリル基含有構造単位及び脂肪族炭化水素構造単位を含有する共重合体Aを含む非水電解質二次電池用導電材分散体。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点5)
本件発明1は、「共重合体Aのムーニー粘度(ML1+4,100℃)が40〜70であ」るのに対し、甲4発明は、「部分水素化ニトリルゴム」の重量平均分子量(Mw)が220,000g/molであって、ムーニー粘度がどの程度であるかが不明である点。

(相違点6)
本件発明1は、「導電性分散体が、動的粘弾性測定による周波数1Hzでの位相角が19°以上である」のに対し、甲4発明は、「カーボンナノチューブ分散液」の動的粘弾性測定による周波数1Hzでの位相角が不明である点。

(5)−2 判断
まず、相違点5について検討する。
ア 甲4発明の「部分水素化ニトリルゴム」の重量平均分子量(Mw)は、220,000g/molである。

イ そして、上記(1)で検討したように、ムーニー粘度の値は共重合体の分子量と一定の関係があるとはいえるものの、他の条件にも影響されるものであって、甲4発明の「部分水素化ニトリルゴム」の分子量が約200,000〜300,000の範囲内の220,000(g/mol)であるからといって、そのムーニー粘度が40〜70であるとまではいえない。

ウ そうすると、甲4発明の「部分水素化ニトリルゴム」のムーニー粘度は、不明であると言わざるを得ない。

エ したがって、相違点5は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲4発明であるとはいえない。

オ 次に、甲4発明において、相違点5に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことであるか否かについて、以下検討する。

カ 甲4発明は「カーボンナノチューブが分散媒に均一に分散」(【0008】)させるものであるから、甲4発明の「モノセル用カーボンナノチューブ分散液」において、分散性をさらに向上させる動機があるといえる。

キ しかしながら、甲4発明の「モノセル用カーボンナノチューブ分散液」において、分散性をさらに向上させる手段として、さらに別の分散剤を加える、分散剤の量を調整する等、様々な手段が考えられ得るところ、甲4には、「部分水素化ニトリルゴム」のムーニー粘度について何ら言及されていないから、甲4発明において、「部分水素化ニトリルゴム」のムーニー粘度(ML1+4,100℃)を40〜70とする動機がない。
また、甲8に記載された事項を考慮しても、同様である。

ク したがって、甲4発明において、相違点5に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ケ よって、相違点6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明ではないし、甲4発明及び甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

コ また、本件発明2〜9は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、甲4発明に対して、少なくとも相違点5と同様の相違点で相違する。

サ そうすると、甲12、甲13に記載された事項を考慮したとしても、上記ア〜ケで検討した理由と同様の理由により、本件発明2〜9は、甲4発明ではないし、甲4発明、並びに、甲8、甲12及び甲13に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

7 むすび
以上のとおり、本件の請求項1〜9に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-06-13 
出願番号 P2020-148208
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 太田 一平
土屋 知久
登録日 2021-08-23 
登録番号 6933285
権利者 東洋インキSCホールディングス株式会社
発明の名称 導電材分散体、バインダー樹脂含有導電材分散体、電極膜用スラリー、電極膜、及び、非水電解質二次電池  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ