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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1386197
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-17 
確定日 2022-07-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6937958号発明「うま味増強用組成物、調味料又はエキス、うま味増強用組成物の製造方法、調味料又はエキスの製造方法、及び食品のうま味増強方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6937958号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6937958号(請求項の数は11。以下、「本件特許」という。)は、2020年(令和2年)9月14日(優先権主張 令和1年9月30日)を国際出願日とする特許出願(特願2021−500486号)に係るものであって、令和3年9月2日にその特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行され、その後、令和4年3月17日に特許異議申立人 森田悠介(以下、「申立人」という。)から本件特許の請求項1〜11に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明11」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
カロテノイド分解物を有効成分とする、うま味増強用組成物であって、前記カロテノイド分解物はβ−カロテン及びアスタキサンチンからなる群から選ばれた1種又は2種の加熱処理分解物である、前記うま味増強用組成物。
【請求項2】
前記うま味増強用組成物は、前記カロテノイド分解物を、分解前の状態のカロテノイド量に換算して1×10-6質量ppm以上100000質量ppm以下含有する、請求項1記載のうま味増強用組成物。
【請求項3】
食用油脂組成物の形態である、請求項1又は2記載のうま味増強用組成物。
【請求項4】
食用油脂にカロテノイドを添加する工程と、前記食用油脂中の前記カロテノイドを加熱分解する工程を含む、うま味増強用組成物の製造方法であって、前記カロテノイドがβ−カロテン及びアスタキサンチンからなる群から選ばれた1種又は2種である、前記うま味増強用組成物の製造方法。
【請求項5】
前記カロテノイドの加熱分解は、50℃以上220℃以下で0.1時間以上240時間以下加熱処理することにより行う、請求項4記載のうま味増強用組成物の製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理は、酸素を供給して行う、請求項5記載のうま味増強用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記食用油脂に前記カロテノイドを1質量ppm以上100000質量ppm以下添加する、請求項4乃至6のいずれか一項に記載のうま味増強用組成物の製造方法。
【請求項8】
前記食用油脂中で前記カロテノイドを分解する工程を経た後に、更に、新たな食用油脂と混合する工程を含む、請求項4乃至7のいずれか一項に記載のうま味増強用組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項4乃至8のいずれか一項に記載の製造方法で得られたうま味増強用組成物と、うま味成分とを混合する工程を含む、調味料又はエキスの製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のうま味増強用組成物を食品に付与する、食品のうま味増強方法。
【請求項11】
前記食品中に、前記カロテノイド分解物を、分解前の状態のカロテノイド量に換算して1×10-8質量ppm以上100質量ppm以下含有せしめる、請求項10記載の食品のうま味増強方法。

第3 申立人の主張に係る申立理由の概要
申立人は、甲第1〜16号証を提出し、本件特許は、以下の申立理由1〜4により、取り消されるべきものである旨主張している。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性
本件発明1〜11は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1〜11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性
本件発明1〜11は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1〜11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(甲第13号証に基づく進歩性
本件発明1〜11は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第13号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1〜11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

4 申立理由4(サポート要件)
本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1〜11の記載は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるため、本件発明1〜11に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

5 証拠方法
甲第1号証:特許第6507466号公報
甲第2号証:国際公開第2017/25804号
甲第3号証:日本農芸化学会誌,1982年,第56卷,第10号,p.917−921の写し及びウェブページ「日本農芸化学会誌」
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/nogeikagaku1924/56/10/contents/-char/ja
(出力日2022年3月15日)
甲第4号証:特開昭56−18542号公報
甲第5号証:特開平6−93285号公報
甲第6号証:特開平8−99872号公報
甲第7号証:特開2017−93456号公報
甲第8号証:科学・技術研究,2018年,第7卷,第2号,p.93−100の写し及びウェブページ「科学・技術研究」
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/sst/7/2/_contents/-char/ja(出力日2022年3月15日)
甲第9号証:日本調理科学会誌 第47卷 第2号 2014年 p.114〜116,及び表紙と奥付の写し
甲第10号証:特開昭56−58450号公報
甲第11号証:特開昭60−256344号公報
甲第12号証:油化学,1980年,第29卷,第2号,p.97−101の写し及びウェブページ「油化学」
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jos1956/29/2/_contents/- char/ja
(出力日2022年3月15日)
甲第13号証:日本食品科学工学会,2009年,56卷,第11号,p.579−584,及び表紙と奥付の写し
甲第14号証:2018年日本調理科学会大会研究発表要旨集 セッションID 2A−6の写し及びウェブページ「日本調理科学会大会研究発表要旨集」
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/ajscs/30/0/_contents/-char/ja
(出力日2022年3月15日)
甲第15号証:Chemical Engineering Technology,2012年,Vol.35,No.6,p.1045−1050の写し及び訳文,及びウェブページ「Chemical Engineering Technology」
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ceat.201200052
(出力日2022年3月15日)
甲第16号証:オリザ油化株式会社カタログ「アスタキサンチン」

表記については、おおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」ないし「甲16」という。

第4 当審の判断
当審は、以下述べるように、上記申立理由にはいずれも理由がないと判断する。
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)主な証拠に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。
・「【請求項1】
ジヒドロアクチニジオライドを有効成分とする食品の呈味改善剤であって、前記呈味改善が、うま味、甘味、酸味及びあつみのうちの1種又は2種以上の増強であり、前記ジヒドロアクチニジオライドが、単離されたもの又は合成品である、呈味改善剤。」
・「【請求項6】
最終食品中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が100重量ppt〜100重量ppmとなるように、ジヒドロアクチニジオライドを食品に添加する工程を含む、食品の呈味改善方法であって、前記呈味改善が、うま味、甘味、酸味及びあつみのうちの1種又は2種以上の増強である、方法。」
・「【0018】
本発明に用いられるジヒドロアクチニジオライドは、天然物やその加工品から単離・精製したものであってもよいし、合成品であってもよい。ジヒドロアクチニジオライドは、溶媒抽出、各種クロマトグラフィーなどの公知の技術を用いて天然物やその加工品から単離・精製できる。またジヒドロアクチニジオライドは、例えば、Yao Sらの方法(J Org Chem. 1998 Jan 9;63(1):118-121.)などの公知の方法を使用して合成することができる。ジヒドロアクチニジオライドは、市販品であってもよく、例えばWaterstone Technology社などから入手可能である。」
・「【0021】
本発明では、ジヒドロアクチニジオライドをそのまま呈味改善剤として用いてもよく、或いはジヒドロアクチニジオライド以外の材料と合わせて呈味改善剤を構成してもよい。ジヒドロアクチニジオライド以外の材料が用いられる場合、呈味改善剤に含まれるジヒドロアクチニジオライドの濃度は、特に限定されないが、例えば10重量ppb〜99重量%、好ましくは100重量ppb〜10重量%、より好ましくは1重量ppm〜1重量%、さらに好ましくは5重量ppm〜0.5重量%である。ジヒドロアクチニジオライド以外の材料としては、例えば賦形剤、調味剤、固結防止剤、消泡剤、崩壊剤、潤沢剤、結合剤、等張化剤、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤、凝固剤、pH調整剤等の食品に使用可能な添加剤が挙げられる。尚、矯味剤は、本発明における呈味改善効果を妨げない限り、当分野で通常使用されるものであってよい。」
・「【0029】
ジヒドロアクチニジオライドは、上述したように、食品の呈味を改善し得る量で食品に添加すればよく、最終食品中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が、通常100重量ppt〜100重量ppm、好ましくは10重量ppb〜240重量ppb、より好ましくは30重量ppb〜120重量ppbとなるように、食品に添加すればよい。
例えば、そのまま喫食され得る最終食品にジヒドロアクチニジオライドを直接添加する場合には、最終食品中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が100重量ppt〜100重量ppm、好ましくは10重量ppb〜240重量ppb、より好ましくは30重量ppb〜120重量ppbとなるように当該最終食品に添加することで、呈味改善効果を効果的に得ることができる。最終食品中の濃度が100重量pptより低い濃度の場合は、充分な呈味改善効果が得られない傾向があり、100重量ppmより高い濃度の場合は、苦味などの好ましくない呈味が感じられる傾向がある。
また、喫食時に適宜希釈される調味料又は食品素材(例えば、家畜家禽肉由来の飲食品素材(エキス、肉、骨等)、濃縮タイプのめんつゆ等)にジヒドロアクチニジオライドを添加しておき、これを適宜希釈して最終食品を調製することにより、最終食品の呈味を改善することもできる。当該調味料又は食品素材へのジヒドロアクチニジオライドの添加量は、最終食品中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が上記範囲になるように、その希釈率に応じて増やすことができる。例えば、喫食時に100倍希釈される調味料の場合には、当該調味料中のジヒドロアクチニジオライドの濃度が、10重量ppb〜1重量%、好ましくは1重量ppm〜24重量ppm、より好ましくは3重量ppm〜12重量ppmとなるように添加することで、最終食品の呈味改善効果を効率的に得ることができる。
また、ジヒドロアクチニジオライドの食品への添加は、食品の製造前の原料中、食品の製造中、食品の完成後、食品の喫食直前、食品の喫食中等、いかなる時点で行ってもよい。」
・「【0033】
実施例1.スープへの添加効果
和風スープは、味の素株式会社製「ほんだし(登録商標)」を水溶液濃度で0.67重量%になるように調製した。洋風スープは、味の素株式会社製「KKコンソメ」を水溶液濃度で1.77重量%になるように調製した。中華スープは、味の素株式会社製「丸鶏がらスープ」を水溶液濃度で1.67重量%になるように調製した。ポタージュスープは、味の素株式会社製「クノール カップスープポタージュ」を9.8重量%になるように調製した。
ジヒドロアクチニジオライド(Waterstone Technology社製)10mgを1mlのエタノールに溶解し、超純水にて希釈を行い、1000ppm溶液を調製した。
更に、上記1000ppm溶液を超純水で100倍希釈し10ppm溶液を調製した。10ppm溶液0.1μlをスープ100gに添加して良く撹拌し、10重量ppt試料を調製した。10ppm溶液1μlを用いて、同様な操作を行い、100重量ppt試料を調製した。
1000ppm溶液0.1μlをスープ100gに添加して良く撹拌し、1重量ppb試料を調製した。同様な操作を行い、順次、10、30、60、120、240重量ppb試料を調製した。
100重量ppm試料と1000重量ppm試料は、ジヒドロアクチニジオライド10mg、または100mgを計量し、それぞれスープ100gに添加して良く撹拌して調製した。
上記溶液0.1μlをスープ100gに添加して良く撹拌し、1重量ppb試料を調製した。同様にして、10、30、60、120及び240重量ppb試料を調製した。
【0034】
官能評価は、専門のパネラー3名で行い、評価基準は、
− :好ましくない効果有り
± :効果なし
+ :好ましい効果有り
++:とても好ましい効果有り
とした。
【0035】
結果を下記表1、2、3及び4に示す。いずれのスープにおいても100重量ppt〜100重量ppmの濃度で呈味を改善(特に増強)する効果が認められた。
【0036】
【表1】



イ 甲1に記載された発明
アの摘記事項、特に請求項1、請求項6、【0018】について整理すると、甲1には以下の発明(以下、「甲1物発明」、「甲1製法発明」、「甲1方法発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1物発明>
ジヒドロアクチニジオライドを有効成分とする呈味改善剤。

<甲1製法発明>
ジヒドロアクチニジオライドを、天然物やその加工品から単離・精製するか、又は合成によって得る、呈味改善剤の製造方法。

<甲1方法発明>
ジヒドロアクチニジオライドを食品に添加する食品の呈味改善方法。

ウ 甲3に記載された事項
甲3には以下の記載がある。
・「3. β−カロチンの水中加熱分解 市販のβ−カロチン500mgに90℃の蒸留水2lを加え,ロータリーエバポレーターでゆるやかに減圧しながら水分がなくなるまで加熱した.加熱条件は標準的な緑茶製造工程の場合,蒸熱(100℃/30〜40秒)→粗揉(90〜100℃/35〜40分)→揉捻(室温/5〜8分)→中揉(70℃/30〜35分)→精揉(側溝150〜170℃/30〜35分)→乾燥(60〜70℃/20分)であり,120〜140分で茶葉中の水分を約80%から6%程度まで加熱乾燥させて行く工程であるので,それに類似した条件として,浴温をそれぞれ90℃,120℃,150℃に設定した.いずれの温度の場合も,突沸を防ぎ,ほぼ同じ状態で留出液が得られるよう吸引圧を調製したため90分で蒸発が完了した.留出液を氷-食塩で冷却捕集し,食塩飽和後エーテル抽出を行い,β−カロチン水中加熱分解物を調製した.」(918頁左欄第1〜15行)
・「結果および考察
β−カロチンを水の存在する条件下で加熱して得られた分解濃縮物の収量はそれぞれ110mg/90℃,180mg/120℃,390mg/150℃であった.いずれも緑茶を飲んだときに感じられる甘く重い花様の香りを有しており,これらの香りは緑茶香気に不可欠なものであると考えられた.加熱温度の異なる3種の分解物の香りを官能的に比較すると,温度の最も高い150℃のものは過熱によると思われるフェノール臭があり,花様の香りが弱いが,重厚な緑茶香気高沸点成分の特徴を有していた.120℃の分解物は甘い香気,花様の佳香,緑茶に欠かせない青苦い香りを有していた.また,加熱温度の最も低い90℃の分解物は重厚さには少し欠けるが,スミレやキンモクセイ様の上品な花の香りが強かった.
3種の分解物のガスクロマトグラムをFig.1に示した.キャピラリーカラムにより40余りのピークに分離されたが,加熱温度の違いによりガスクロマトグラムのパターンにかなりの差が認められた.各ピークの面積比および同定物質をTable Iに示した.
ピーク2,4,10,11,15,18,23,27,30,33,39,42などピーク総面積の80%にあたるピークは,いずれもヨノン核を有する化合物でありβ-カロチンの分解産物であると考えられた.また,これにより,緑茶製造工程に近い加熱条件ではヨノン核自身は安定であり,酸素の結合したヨノン酸化物が生成されることがわかる.これらのβ−カロチン分解物のうち2,6,6-trimethyl-2-hydroxy-cyclohexanone(1,9),β-ionone(10), 5,6-epoxy-β-ionone(1,9),2,6,6-trimethyl-cyclohexanone(9),2,6,6-trimethyl-cyclohex-2-enone(9)は著者らにより,また,dihydroactinidiolideは福島ら(11)により,β-cyclo-citralは山口ら(12)により緑茶よりすでに見出されている.
加熱温度による生成香気成分の量的比較を行うため,主要な香気物質を取り出しTable IIに示した.いずれの温度でもβ-iononeの酸化最終産物と考えられているdihydroactinidiolideが多く含まれるが,含有比は温度の上昇とともに徐々に増加している.」(918頁左欄第25行〜右欄第20行)

(2)本件発明1と甲1物発明の対比・判断
本件発明1と甲1物発明とを対比する。
甲1の実施例1では、ジヒドロアクチニジオライドが添加されたスープにおいて、うま味増強効果が認められているから、甲1物発明の「呈味改善剤」は、本件発明1の「うま味増強用組成物」に相当する。
してみると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。

・一致点
「うま味増強用組成物。」

・相違点1−1
「うま味増強用組成物」の有効成分について、本件発明1が「カロテノイド分解物」であって「前記カロテノイド分解物はβ−カロテン及びアスタキサンチンからなる群から選ばれた1種又は2種の加熱処理分解物」と特定するのに対し、甲1物発明は「ジヒドロアクチニジオライド」である点

相違点1−1について検討する。
甲3の記載に鑑みれば、β−カロテンを加熱分解するとジヒドロアクチニジオライドが得られることから、甲1物発明の「ジヒドロアクチニジオライド」は、β−カロテンを加熱処理分解した際に得られる成分である限りにおいて、本件発明1の有効成分の一部と一致する。
しかしながら、甲1物発明において、β−カロテンを加熱処理分解した際に得られる成分のうちジヒドロアクチニジオライド以外の成分を添加する動機がないから、相違点1−1に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得るものであったとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明4と甲1製法発明との対比・判断
本件発明4と甲1製法発明とを対比すると、上記(2)における対比と同様であるから、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。

・一致点
「うま味増強用組成物の製造方法。」

・相違点1−2
本件発明4が「食用油脂にカロテノイドを添加する工程と、前記食用油脂中の前記カロテノイドを加熱分解する工程を含」んでおり、「前記カロテノイドがβ−カロテン及びアスタキサンチンからなる群から選ばれた1種又は2種である」のに対し、甲1製法発明は「ジヒドロアクチニジオライドを、天然物やその加工品から単離・精製するか、又は合成によって得る」ものである点

相違点1−2について検討する。
甲3の記載に鑑みれば、β−カロテンを加熱分解するとジヒドロアクチニジオライドが得られることから、甲1製法発明の「ジヒドロアクチニジオライド」は、β−カロテンを加熱処理分解すると得られる成分である限りにおいて、本件発明4で得られる有効成分の一部と一致する。
しかしながら、甲1には、食用油脂にβ−カロテンを添加し加熱することについて記載も示唆もされていないし、他の証拠にもそのような技術事項は開示されていないから、相違点1−2に係る本件発明4の構成は当業者が容易に想到し得るものであったとはいえない。
よって、本件発明4は、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明10と甲1方法発明との対比・判断
本件発明10と甲1方法発明とを対比すると、上記(2)における対比と同様であるから、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。

・一致点
「うま味増強用組成物を食品に付与する、食品のうま味増強方法。」

・相違点1−3
「うま味増強用組成物」について、本件発明10が「請求項1乃至4のいずれか一項に記載のうま味増強用組成物」と特定するのに対し、甲1方法発明は「ジヒドロアクチニジオライド」である点

相違点1−3について検討すると、当該相違点は相違点1−1と実質的に同じものであり、その判断は上記(2)に示したとおりであるから、相違点1−3についても同様に判断される。
よって、本件発明10は、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明2〜3、5〜9、11について
上記第2のとおり、本件発明2〜3は請求項1を、本件発明5〜9は請求項4を、本件発明11は請求項10を、それぞれ直接又は間接的に引用するものであるから、それぞれ本件発明1、4、10の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)〜(4)のとおり、本件発明1、4、10が甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明2〜3、5〜9、11も、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(6)小括
以上のとおりであるから、申立理由1には理由がない。

2 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2に記載された発明
甲2に記載された事項、特に請求項2、請求項11、【0021】、実施例18の記載を整理すると、甲2には以下の発明(以下、「甲2物発明」、「甲2製法発明」、「甲2方法発明」という。)が記載されていると認められる。なお、甲2は外国語文献であるので、対応する日本語公表特許公報である特表2018−523473号公報の記載を参照した。

<甲2物発明>
ジヒドロアクチニジオリドを含む風味修飾組成物。

<甲2製法発明>
ジヒドロアクチニジオリドを溶媒に溶かす風味修飾組成物の製造方法であって、前記溶媒が植物油である、製造方法。

<甲2方法発明>
食品における甘味、塩味、うま味、渋み、唾液分泌および苦味の知覚を改善する方法であって、ジヒドロアクチニジオリドを含む風味修飾組成物を食品に添加する方法。

(2)本件発明1と甲2物発明との対比・判断
本件発明1と甲2物発明とを対比すると、甲2の図1にはジヒドロアクチニジオリドによって「マギー(登録商標)」のうま味が増加した点が記載されているから、甲2物発明の「風味修飾組成物」は、本件発明1の「うま味増強用組成物」に相当する。
してみると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。

・一致点
「うま味増強用組成物」

・相違点2−1
「うま味増強用組成物」の有効成分について、本件発明1が「カロテノイド分解物」であって「前記カロテノイド分解物はβ−カロテン及びアスタキサンチンからなる群から選ばれた1種又は2種の加熱処理分解物」と特定するのに対し、甲2物発明は「ジヒドロアクチニジオリド」である点

これらの一致点及び相違点2−1は上記1(2)における対比と同じである。してみると、上記1(2)検討と同様に判断されるから、本件発明1は甲2物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明4と甲2製法発明との対比・判断
上記(2)を踏まえて本件発明4と甲2製法発明とを対比すると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。

・一致点
「食用油脂」に所定の物質を「添加する工程」を含む「うま味増強用組成物の製造方法」

・相違点2―2
所定の物質について、本件発明4が「カロテノイド」であって、「前記カロテノイドがβ−カロテン及びアスタキサンチンからなる群から選ばれた1種又は2種である」のに対し、甲2製法発明は「ジヒドロアクチニジオリド」である点

・相違点2−3
所定の物質を添加された食用油脂について、本件発明4が「食用油脂中の」所定の物質を「加熱分解する工程」を有しているのに対し、甲2製法発明はそのような特定を有しない点

相違点2−2について検討する。
甲3の記載に鑑みれば、β−カロテンを加熱分解するとジヒドロアクチニジオライドが得られることから、甲2製法発明の「ジヒドロアクチニジオリド」は、β−カロテンを加熱処理分解すると得られる成分である限りにおいて、本件発明4で得られる有効成分の一部と一致する。
しかしながら、甲2には、食用油脂にβ−カロテンを添加し加熱することについて記載も示唆もされていないし、他の証拠にもそのような技術事項は開示されていないから、相違点2−2に係る本件発明4の構成は当業者が容易に想到し得るものであったとはいえない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲2製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明10と甲2方法発明との対比・判断
上記(2)の対比を踏まえると、甲2方法発明は、実質的に甲1方法発明と同じである。してみると、上記1(4)の検討と同様に判断されるから、本件発明1は甲2方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明2〜3、5〜9、11について
上記第2のとおり、本件発明2〜3は請求項1を、本件発明5〜9は請求項4を、本件発明11は請求項10を、それぞれ直接又は間接的に引用するものであるから、それぞれ本件発明1、4、10の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)〜(4)のとおり、本件発明1、4、10が甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明2〜3、5〜9、11も、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(6)小括
以上のとおりであるから、申立理由2には理由がない。

3 申立理由3(甲13に基づく進歩性)について
(1)甲13に記載された発明
甲13に記載された事項、特に580頁左欄第2行〜右欄第17行、582頁左欄第4行〜583頁左欄第3行の記載を整理すると、甲13には以下の発明(以下、「甲13物発明」、「甲13製法発明」、「甲13方法発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲13物発明>
アスタキサンチン5%オイル製剤からなるパンの甘味増強剤。

<甲13製法発明>
パン生地にアスタキサンチン5%オイル製剤を添加する工程と、前記パン生地を焼き上げる工程とを含む、甘味増強剤の製造方法。

<甲13方法発明>
アスタキサンチン5%オイル製剤をパンに付与する、パンの甘味増強方法。

(2)本件発明1と甲13物発明との対比・判断
本件発明1と甲13物発明とを対比すると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。

・一致点
「味増強用組成物。」

・相違点13−1
「味増強用組成物」の有効成分について、本件発明1が「カロテノイド分解物」であって「前記カロテノイド分解物はβ−カロテン及びアスタキサンチンからなる群から選ばれた1種又は2種の加熱処理分解物」と特定するのに対し、甲13物発明は「アスタキサンチン」である点

・相違点13−2
「増強」される味について、本件発明1が「うま味」であるのに対し、甲13物発明は「甘味」である点

事案に鑑み、まず相違点13−2について検討する。
本件特許の明細書【0002】にも「食品の味覚の基本となる五原味(基本味)は、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味である。」と記載されているように、うま味と甘味は別の味覚であることは技術常識であるところ、甲13にはアスタキサンチンをうま味増強のために用いることについて記載も示唆もされていないから、相違点13−2は実質的な相違点である。
そして、甲13物発明において、アスタキサンチンをうま味増強のために用いる動機がないから、相違点13−2に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得るものであったとはいえない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲13物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明4と甲13製法発明との対比・判断
本件発明4と甲13製法発明とを対比すると、甲13製法発明の「アスタキサンチン5%オイル製剤」は食用油脂にアスタキサンチンを添加する工程を経て得られたものと考えられるから、甲13製法発明は「食用油脂にカロテノイドを添加する工程」を有しており、「前記カロテノイド」が「アスタキサンチン」であることに相当する。
また、甲13製法発明における「前記パン生地を焼き上げる工程」において、アスタキサンチンが加熱されていることは明らかである。
してみると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。

・一致点
「食用油脂にカロテノイドを添加する工程と、前記食用油脂中の前記カロテノイドを加熱する工程を含む、味増強用組成物の製造方法であって、前記カロテノイドがβ−カロテン及びアスタキサンチンからなる群から選ばれた1種又は2種である、前記味増強用組成物の製造方法」

・相違点13−3
「前記カロテノイドを加熱する工程」について、本件発明4がカロテノイドを「加熱分解する」と特定するのに対し、甲13製法発明はそのような特定を有しない点

・相違点13−4
製造する対象物について、本件発明4が「うま味増強用組成物」と特定するのに対し、甲13製法発明は「甘味増強用組成物」である点

事案に鑑み、まず相違点13−4について検討すると、当該相違点は実質的に上記相違点13−2と同じものである。してみると、上記(2)での検討と同様に判断されるから、相違点13−4に係る本件発明4の構成は当業者が容易に想到し得るものであったとはいえない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲13製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明10と甲13方法発明との対比・判断
本件発明10と甲13方法発明とを対比すると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。

・一致点
「味増強用組成物を食品に付与する、食品の味増強方法。」

・相違点13−5
「味増強用組成物」について、本件発明10が「請求項1乃至4のいずれか一項に記載の」味増強用組成物と特定するのに対し、甲13方法発明は「アスタキサンチン5%オイル製剤」である点

・相違点13−6
「味増強」される味について、本件発明10が「うま味」と特定するのに対し、甲13方法発明が「甘味」である点

相違点13−6について検討すると、当該相違点は相違点13−2と実質的に同じものであり、その判断は上記(2)に示したとおりであるから、相違点13−6についても同様に判断される。
よって、本件発明10は、甲13方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明2〜3、5〜9、11について
上記第2のとおり、本件発明2〜3は請求項1を、本件発明5〜9は請求項4を、本件発明11は請求項10を、それぞれ直接又は間接的に引用するものであるから、それぞれ本件発明1、4、10の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)〜(4)のとおり、本件発明1、4、10が甲13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明2〜3、5〜9、11も、甲13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(6)小括
以上のとおりであるから、申立理由3には理由がない。

4 申立理由4(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
・「【0005】
しかしながら、消費者の嗜好や食品等事業者からのニーズの多様化に鑑みれば、従来とは由来の異なる新たな素材の提供が望まれていた。
【0006】
よって、本発明の目的は、うま味を増強する効果に優れた食用素材を提供することにある。」
・「【0031】
本発明においては、上記カロテノイド分解物、ないしそれを含有する油脂組成物を、うま味増強用に用いる。すなわち、うま味増強用組成物の有効成分として用いる。」
・「【0055】
〔油脂組成物の調製〕
表3に示す配合で、各種の油脂組成物を調製した。具体的には、カロテノイド(β−カロテン又はアスタキサンチン)を所定含有量(質量ppm)となるようベース油に添加し、合計240gになるようにして、これを撹拌しながら表3に示される各加熱処理条件で加熱処理して、実施例1〜6の油脂組成物を得た。実施例2以外は空気(200mL/分)の供給を行いながら処理した。なお、加熱処理を行わない比較例1として、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)にβ−カロテンを53質量ppmの含有量となるよう添加して、緩く撹拌することにより混合し、それ以外の加熱等の処理を行わないで油脂組成物を調製した。また、実施例5においてベース油とした菜種油にβ−カロテンを添加しないものを比較例2とした。
【0056】
表3には、カロテノイドの種類、ベース油の種類(そのヨウ素価)、加熱処理前組成物中のカロテノイド含有量の定量測定値(カロテノイド含有量)、及び加熱処理条件、加熱処理後組成物中のカロテノイド含有量の定量測定値(カロテノイド残存量)、をそれぞれ示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示すように、加熱処理により添加したカロテノイド(β−カロテン又はアスタキサンチン)の含有量が減少し、本調製条件においては、各実施例1〜6に添加したカロテノイド(β−カロテン又はアスタキサンチン)は、すべて分解していた。
【0059】
[試験例1](グルタミン酸ナトリウム その1)
グルタミン酸ナトリウム1gを499gの水に溶解して、グルタミン酸ナトリウムを0.2質量%含有するうま味水溶液Aを調製した。
【0060】
上記うま味水溶液Aを使用し、比較例1、実施例1〜6、比較例2の油脂組成物について、うま味の官能評価を行った。具体的には、表4の上段の配合割合となるように、適宜菜種油で希釈したうえ、上記うま味水溶液Aに添加し、そのサンプルを2mL、口に含んだときのうま味の強さを、以下の基準により比較例1との相対評価で点数付けして、その中央値及び平均値を求めた。官能評価は3名の専門パネルで行った。なお、以下の基準の「6」は、0.4質量%のグルタミン酸ナトリウム水溶液のうま味に相当する。
【0061】
(基準)
6 かなり強い
5 相当強い
4 強い
3 比較的強い
2 やや強い
1 わずかに強い
0 同等
−1 わずかに弱い
−2 やや弱い
−3 比較的弱い
−4 弱い
−5 相当弱い
−6 かなり弱い
【0062】
官能評価の結果を表4の下段にまとめて示す。
【0063】
【表4】

【0064】
その結果、β−カロテンをベース油に添加し、加熱等の処理を行わずに調製した油脂組成物(比較例1)を使用した調製例1−1に比べて、カロテノイド(β−カロテン又はアスタキサンチン)をベース油に添加したうえ、一定程度の加熱処理を施して調製した油脂組成物(実施例1〜6)を使用した調製例1−2〜1−7では、うま味水溶液のうま味を増強する効果が得られた。一方、ベース油である菜種油のみ加熱処理を施して調製した油脂組成物(比較例2)を使用した調製例1−8では、うま味水溶液のうま味を増強する効果は、ほとんど得られなかった。
【0065】
以上により、ベース油に添加したカロテノイドは加熱処理により分解し、そのカロテノイドの分解物には、うま味水溶液のうま味を増強する作用効果があることが明らかとなった。」

(3)判断
本件発明の課題は、「うま味を増強する効果に優れた食用素材を提供すること」(本件特許の明細書【0006】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明においては、上記カロテノイド分解物、ないしそれを含有する油脂組成物を、うま味増強用に用いる。すなわち、うま味増強用組成物の有効成分として用いる。」(同【0031】)ことが記載され、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、β−カロテン及びアスタキサンチンの加熱処理分解物を各種うま味成分に適用した実施例も記載されている。
これらの記載に接した当業者であれば、「うま味増強用組成物」において、「カロテノイド分解物を有効成分と」して含み、「前記カロテノイドがβ−カロテン及びアスタキサンチンからなる群から選ばれた1種又は2種の加熱処理分解物」であることにより、本件発明の課題を解決するものと認識する。
そして、本件発明1〜3、10〜11はいずれも、これら本件発明の課題を解決すると認識できる特定事項を全て有するものであるから、本件発明1〜3、10〜11は、本件発明の課題を解決するものといえる。
また、本件発明4〜9は、「カロテノイドを加熱分解する工程を含」み、「前記カロテノイドがβ−カロテン及びアスタキサンチンからなる群から選ばれた1種又は2種である」「うま味増強用組成物の製造方法」という発明特定事項を有しているから、本件発明の課題を解決すると認識できる特定事項を全て有するうま味増強用組成物の製造方法ないし調味料又はエキスの製造方法であることは明らかである。
なお、特許異議申立書において申立人は、以下のア〜エについて主張するが、いずれも失当である。

ア 申立人は、うま味増強用組成物中におけるカロテノイド分解物の含有量について、本件発明の課題を解決し得る含有量があることが明らかであるが、本件特許の実施例では限られた狭い範囲でしか検証されていないから、本件発明1〜11の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない旨、主張している。
しかしながら、上述のとおり、β−カロテン及びアスタキサンチンからなる群から選ばれた1種又は2種の加熱処理分解物を有効成分として含むうま味増強用組成物であれば、当該成分を含まないものに比してうま味が増強されると当業者は認識するのであって、申立人の主張するような実施例における含有量の検証範囲はサポート要件とは関係がない。

イ 申立人は、食品中におけるカロテノイド分解物の含有量について、本件発明の課題を解決し得る含有量があることが明らかであるが、本件特許の実施例では限られた狭い範囲でしか検証されていないから、本件発明9〜11の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない旨、主張している。
しかしながら、上述のとおり、β−カロテン及びアスタキサンチンからなる群から選ばれた1種又は2種の加熱処理分解物を有効成分として含むうま味増強用組成物が添加された食品であれば、当該成分を含まないものに比してうま味が増強されると当業者は認識するのであって、申立人の主張するような実施例における含有量の検証範囲はサポート要件とは関係がない。

ウ 申立人は、甲15にはアスタキサンチンの分解速度には溶存酸素が影響することが記載されているところ、本件発明4、5、7〜9には、アスタキサンチンの加熱処理において、酸素を供給して行うことが特定されていないから課題を解決できない旨、主張している。
しかしながら、本件発明4は「前記カロテノイドを加熱分解する工程」を有しているから、酸素供給の有無にかかわらず、カロテノイドが加熱分解されないようなものは含まれていない。

エ 申立人は、甲16には100℃1時間の加熱ではアスタキサンチンは分解されないことが記載されているところ、本件発明4〜9はアスタキサンチンが分解されない温度範囲を含んでいるし、β−カロテンに関しても本件特許の実施例では限られた狭い範囲でしか検証されていないから、本件発明4〜9の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない旨、主張している。
しかしながら、本件発明4は「前記カロテノイドを加熱分解する工程」を有しているから、加熱温度・加熱時間の特定の有無にかかわらず、β−カロテン又はアスタキサンチンが加熱分解されないようなものは含まれていない。

(4)小括
したがって、申立理由4には理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては、請求項1〜11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-06-24 
出願番号 P2021-500486
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 奥田 雄介
加藤 友也
登録日 2021-09-02 
登録番号 6937958
権利者 株式会社J−オイルミルズ
発明の名称 うま味増強用組成物、調味料又はエキス、うま味増強用組成物の製造方法、調味料又はエキスの製造方法、及び食品のうま味増強方法  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  

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