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審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 C23C |
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管理番号 | 1386209 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-04-12 |
確定日 | 2022-07-11 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6950051号発明「無電解Ni−Pめっき用触媒液、および該触媒液を用いた無電解Ni−Pめっき皮膜の形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6950051号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6950051号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜5に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、令和 2年 7月22日の出願であって、令和 3年 9月27日にその特許権の設定登録がなされ、同年10月13日に特許掲載公報が発行された。 その後、令和 4年 4月12日に、特許異議申立人 冨永 道治(以下、「申立人」という。)により、請求項1〜5(全請求項)に係る本件特許に対して特許異議の申立てがなされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1〜5に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明5」といい、これらをまとめて「本件発明」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。)。 【請求項1】 絶縁基板上に設けられたCu導電層に触媒の付与に用いる触媒液であって、 前記触媒液は、 コバルトイオンと; ジアルキルアミンボランと; 錯化剤と; タングステンイオンと; を含み、 前記コバルトイオンの濃度は、0.01g/L以上、5g/L以下; 前記ジアルキルアミンボランの濃度は、0.1g/L以上、2g/L未満; 前記錯化剤はクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、トリエタノールアミン、およびEDTAよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上; 前記触媒液中の前記タングステンイオンの濃度(W換算)は、0.005g/L以上、10g/L以下; である無電解Ni−Pめっき用触媒液。 【請求項2】 Cu基材を、請求項1に記載の触媒液と接触させる触媒化処理工程と、 前記触媒化処理されたCu基材を、無電解Ni−Pめっき浴と接触させる無電解めっき 処理工程とを含む無電解Ni−Pめっき皮膜の形成方法。 【請求項3】 前記無電解Ni−Pめっき浴はヨウ素イオンを含むものである請求項2に記載の無電解Ni−Pめっき皮膜の形成方法。 【請求項4】 前記触媒化処理されたCu基材表面には、Co−B−Wの触媒核が付与されている請求項2または3に記載の無電解Ni−Pめっき皮膜の形成方法。 【請求項5】 前記触媒化処理されたCu基材の単位面積当たりのコバルトの析出量は0.2×10−3mg/cm2以上、25×10−3mg/cm2以下である請求項4に記載の無電解Ni−Pめっき皮膜の形成方法。 第3 特許異議の申立ての理由の概要 申立人は、証拠方法として、下記(2)の甲第1号証〜甲第6号証を提出して、以下の申立理由により、本件特許の請求項1〜5に係る特許が取り消されるべきものである旨主張している。 (1)申立理由(拡大先願) 本件発明1〜5は、本願の出願の日前の特許出願であって、本願出願後に特許掲載公報の発行がされた甲第1号証(補助的に甲第2〜6号証)に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者がその出願の日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本願の出願の時にその出願人と上記特許出願の出願人とが同一でもないから、同発明に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)証拠方法 甲第1号証:特許第6841462号公報 甲第2号証:田代雄彦、無電解ニッケルめっき、表面技術、社団法人表面技術協会、1999年、第50巻、第2号、p.140〜145 甲第3号証:黒坂成吾、外1名、無電解ニッケルめっき皮膜の特性、表面技術、一般社団法人表面技術協会、2014年、第65巻、第3号、p.118〜122(p.118のみを抜粋) 甲第4号証:特許第5297171号公報 甲第5号証:特開平5−156458号公報 甲第6号証:特表2017−516920号公報 第4 本件特許明細書の記載事項 本件特許明細書には以下の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は無電解Ni−Pめっき用触媒液、および該触媒液を用いた無電解Ni−Pめっき皮膜の形成方法に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は上記事情に鑑みなされた発明であって、その目的はPdに代替する触媒金属を付与できる触媒液を提供することである。具体的には無電解Ni−Pめっき皮膜とCu基材との優れた密着性を付与できる触媒液を提供することである。 また本発明の他の目的は本発明の触媒液を用いてCu基材上に無電解Ni−Pめっき皮膜を形成する方法を提供することである。」 「【発明を実施するための形態】 【0010】 本発明者らはCu基材上に密着性に優れた無電解Ni−Pめっき皮膜を形成できる触媒液について鋭意研究を重ねた。その結果、触媒成分としてニッケルイオン、および/またはコバルトイオンと;還元剤としてジアルキルアミンボランと;錯化剤と、を含む触媒液を用いれば上記課題を解決できることを突き止めた。更に安定剤成分としてタングステンイオンを含めると効果をより一層向上できることを見出した。 本発明の触媒液を用いてCu基材に触媒化処理を施すと、Cu基材表面にNi−B、Ni−B−W、Co−B、Co−B−Wよりなる群から選ばれる少なくとも1種の触媒核を付与できる。Cu基材との密着性にも優れた無電解Ni−Pめっき皮膜を形成できる。 【0011】 また本発明の無電解めっき方法は、本発明の触媒液を用いてCu基材表面に触媒核を付与する触媒化処理をした後、無電解Ni−Pめっき処理を施してCu基材に無電解Ni−Pめっき皮膜を形成するものである。 以下、本発明の触媒液について説明する。」 第5 甲号証の記載事項 なお、「・・・」は記載の省略を表すものであって、以下同様である。 1 甲第1号証の記載事項 「【請求項1】 コバルト化合物及び還元剤を含有する、 無電解パラジウムめっき、無電解ニッケルめっき、及び無電解金めっきからなる群より選択される少なくとも1種の無電解めっき(但し、触媒金属として銀を使用する無電解めっきを除く)に用いるための触媒付与液。 【請求項2】 前記還元剤がアミン化合物を含む、請求項1に記載の触媒付与液。 【請求項3】 前記アミン化合物が、アミンボラン、ヒドラジン、及びヒドラジン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載の触媒付与液。 【請求項4】 錯化剤を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の触媒付与液。 【請求項5】 前記錯化剤がカルボン酸を含む、請求項4に記載の触媒付与液。 【請求項6】 前記カルボン酸がヒドロキシカルボン酸又はジカルボン酸を含む、請求項5に記載の触媒付与液。 【請求項7】 前記還元剤が、ホウ素含有化合物及びリン含有化合物からなる群より選択される少なくと も1種を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の触媒付与液。 【請求項8】 さらに、金属塩を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載の触媒付与液。 【請求項9】 コバルト含有量が金属100質量%に対して50質量%以上である、請求項1〜8のいずれかに記載の触媒付与液。 【請求項10】 前記還元剤が、ホウ素含有化合物及びリン含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、且つ 前記無電解めっきが、銅及び/又は銅合金が表面に露出している材料に対する無電解めっきである、 請求項1〜9のいずれかに記載の触媒付与液。 【請求項11】 (1)無電解めっき対象材料と、請求項1〜10のいずれかに記載の触媒付与液とを接触させる工程を含む、触媒核を含む無電解めっき対象材料を製造する方法。 【請求項12】 (1)無電解めっき対象材料と、請求項1〜10のいずれかに記載の触媒付与液とを接触させる工程、及び (2)工程(1)後に、無電解めっき処理する工程 を含む、無電解めっき皮膜を含む材料を製造する方法。 【請求項13】 金属が表面に露出している材料、前記金属上の触媒核1(但し、触媒金属として銀を含有する触媒核を除く)、及び前記触媒核1上の皮膜2を含み、且つ 前記触媒核1がコバルトを含有し、 前記皮膜2が無電解パラジウムめっき皮膜、無電解ニッケルめっき皮膜、及び無電解金めっき皮膜からなる群より選択される少なくとも1種の無電解めっき皮膜である、材料。」 「【0001】 本発明は、無電解めっき用触媒付与液等に関する。 【背景技術】 【0002】 プリント配線板、半導体パッケージ、電子部品等のエレクトロニクス関連分野において、製造時における最終工程の一つに、導体回路、端子部分等に無電解ニッケルめっきを施し、更に無電解金めっきを行う処理がある。この方法で形成される無電解ニッケル/金めっき皮膜は、銅回路表面の酸化を防止して良好なはんだ接続性能を発揮させることや、半導体パッケージとその上に実装される電子部品とのワイヤーボンディング性を向上させることなどを目的として用いられている。無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、置換金めっき皮膜を形成する場合には、下地のニッケルめっき皮膜の状態によっては、ニッケルが局所的に溶解して、ニッケルの腐食、いわゆるブラックパッドが発生することや、熱処理による下地金属拡散によってAu表面が汚染されることなどの問題点がある。この様な問題点を解決する手段として、無電解ニッケルめっきと金めっきの間に、バリア皮膜として無電解パラジウムめっきを行う、無電解ニッケル/パラジウム/金めっき処理が増加している。更に、プリント配線板の高密度化に伴う銅配線の微細化に対応するために、最も膜厚の高い無電解ニッケルめっき皮膜を省略した無電解パラジウム/金めっき処理が開発されている(下記特許文献1参照)。」 「【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、コバルト化合物及び還元剤を含有する、無電解めっき用触媒付与液、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。」 「【0026】 本発明の触媒付与液中のコバルト濃度は、例えば0.05g/L以上である。該コバルト濃度は、本発明の効果の観点から、好ましくは0.05〜50g/L、より好ましくは0.1〜30g/L、さらに好ましくは0.2〜20g/L、よりさらに好ましくは0.4〜15g/L、とりわけ好ましくは0.6〜10g/L、特に好ましくは0.7〜6g/Lである。」 「【0035】 ボラン錯体を構成するアミンの具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メトキシエチルアミン、ジシクロへキシルアミン、t−ブチルアミン、アミノピリジン、エチレンジアミン、モルホリン、ピリジン、ピペリジン、イミダゾール等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、メトキシエチルアミン、ジシクロへキシルアミン等が挙げられ、より好ましくはジメチルアミン等が挙げられる。 【0036】 アミンボランの好適に具体例としては、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン等が挙げられる。」 「【0043】 本発明の触媒付与液中の還元剤の濃度は、例えば0.05g/L以上である。該濃度は、本発明の効果の観点から、好ましくは0.05〜100g/L、より好ましくは0.2〜50g/L、さらに好ましくは0.5〜30g/Lである。還元剤がアミン化合物を含む場合、本発明の触媒付与液中の該アミン化合物の濃度は、本発明の効果の観点から、好ましくは0.05〜25g/L、より好ましくは0.1〜20g/L、さらに好ましくは0.2〜15g/L、よりさらに好ましくは0.4〜10g/L、とりわけ好ましくは0.6〜8g/Lである。還元剤がリン含有化合物を含む場合、本発明の触媒付与液中の該リン含有化合物の濃度は、本発明の効果の観点から、好ましくは1〜200g/L、より好ましくは5〜150g/L、さらに好ましくは10〜100g/L、よりさらに好ましくは20〜80g/Lである。 【0044】 本発明の触媒付与液は、本発明の効果の観点から、さらに錯化剤を含有することが好ましい。 【0045】 錯化剤としては、特に制限されず、無電解めっき(特に還元めっき)で使用され得る錯化剤を使用することができる。錯化剤としては、例えば、酢酸、蟻酸等のモノカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等; マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマール酸等のジカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等; リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、クエン酸、酒石酸等のヒドロキシカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等; エチレンジアミンジ酢酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等; エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸等のアミノポリカルボン酸やそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等; ピロリン酸等のホスホン酸類やそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等; グリシン、グルタミン酸等のアミノ酸類等が挙げられる。 【0046】 錯化剤は、本発明の効果の観点から、カルボン酸を含むことが好ましい。この場合、カルボン酸は、本発明の効果の観点から、ヒドロキシカルボン酸やジカルボン酸を含むことがより好ましい。ヒドロキシカルボン酸やジカルボン酸の中でも、さらに好ましくはリンゴ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、アジピン酸、コハク酸、マロン酸、グルコン酸等が挙げられ、よりさらに好ましくはリンゴ酸、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。」 「【0049】 本発明の触媒付与液は、本発明の効果の観点から、さらに金属塩を含有することが好ましい。 【0050】 金属塩としては、特に制限されないが、例えばコバルト以外の遷移金属元素を含む塩が挙げられる。遷移金属元素としては、例えば金、パラジウム、ニッケル、タングステン、モリブデン、レニウム等の金属元素が挙げられる。金属塩として、より具体的には、例えば硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸パラジウム、塩化パラジウム、タングステン酸ナトリウム、モリブデン酸2ナトリウム、シアン化金カリウム、亜硫酸金ナトリウム、過レニウム酸アンモニウム等が挙げられる。 ・・・ 【0052】 本発明の触媒付与液が金属塩を含有する場合、当該金属塩に含まれる金属の、本発明の触媒付与液中の濃度は、例えば0.005g/L以上である。該濃度は、本発明の効果の観点から、好ましくは0.005〜5g/L、より好ましくは0.01〜3g/L、さらに好ましくは0.02〜2g/L、よりさらに好ましくは0.03〜1g/Lである。該濃度は、本発明の触媒付与液中のコバルト濃度の、例えば0.8/1 以下、好ましくは0.6/1 以下であり、或いは0.5/1 以下、0.3/1 以下、0.2/1 以下、0.15/1 以下である。」 「【0060】 無電解めっき対象材料は、金属が表面に露出している材料である限り、特に制限されない。例えば、素材として、ガラス繊維強化エポキシ、ポリイミド、PET等のプラスチック類、ガラス、セラミック、金属酸化物、金属、紙、合成又は天然繊維などの材質を1種で又は組み合わせてなるものであり、その形状としては、板、フィルム、布状、繊維状、チューブ等のいずれであってもよい。表面に露出している金属としては、例えば、銅、銅合金、銀、銀合金、金、金合金、白金、白金合金、モリブデン、タングステン等が挙げられる。これらの内で、銅合金、銀合金、金合金及び白金合金としては、それぞれ、例えば、銅、銀、金又は白金を50重量%以上含む合金に対して適用できる。無電解めっき対象材料として、具体的には、例えばプリント配線板、半導体パッケージ、電子部品、セラミック基板等が挙げられる。これらの材料において、表面に露出している金属は、配線を構成し得る。」 「【0065】 本発明の方法1により、無電解めっき対象材料の表面金属上にコバルトを含む触媒核が形成される。触媒核は、本発明の無電解めっき液中の成分に応じた組成を有する。例えば、本発明の触媒付与液中の還元剤がホウ素含有化合物及び/又はリン含有化合物を含む場合、触媒核は、Co、並びにB及び/又はPを含む。また、本発明の触媒付与液が金属元素含有化合物を含む場合、触媒核は、Co、及び当該金属を含む。」 「【0070】 該触媒核を含む無電解めっき対象材料を無電解めっき処理することにより、めっき析出性、選択析出性、バリア特性、接合性等がより優れた無電解めっき皮膜を形成することができる。触媒核は表面活性化の目的であるので、その厚みは、例えば0.05μm以下、0.005〜0.05μmであることができる。 【0071】 3.無電解めっき方法 本発明は、その一態様において、(1)無電解めっき対象材料と、本発明の触媒付与液とを接触させる工程、及び(2)工程(1)後に、無電解めっき処理する工程を含む、無電解めっき皮膜を含む材料を製造する方法、或いは、無電解めっき対象材料を無電解めっきする方法(本明細書において、「本発明の方法2」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。 【0072】 工程(1)については、上記「2.触媒付与方法」の通りである。 【0073】 無電解めっき処理は、工程(1)で得られた触媒核を含む無電解めっき対象材料を、無電解めっき液と接触させることにより行うことができる。 【0074】 無電解めっき液としては特に限定はなく、自己触媒性の無電解めっき液を用いることができる。例えば、無電解パラジウムめっき液、無電解パラジウム合金めっき液、無電解銅めっき液、無電解銅合金めっき液、無電解銀めっき液、無電解銀合金めっき液、無電解ニッケルめっき液、無電解ニッケル合金めっき液、無電解金めっき液、無電解金合金めっき液等を用いることができる。これらの無電解めっき液の具体的な組成については、特に限定はなく、還元剤成分を含む公知の組成の自己触媒性の無電解めっき液を用いればよい。めっき条件についても、使用するめっき液の種類に応じて、通常のめっき条件に従えばよい。 【0075】 本発明の方法2の工程(2)では、無電解めっき液として、無電解パラジウムめっき液、無電解パラジウム合金めっき液、無電解ニッケルめっき液、無電解ニッケル合金めっき液等、無電解金めっき液、無電解金合金めっき液を使用することが好ましい。工程(2)で無電解パラジウムめっき液又は無電解パラジウム合金めっき液を使用した場合は、さらに無電解金めっき又は無電解金合金めっきを行うことが好ましい。また、工程(2)で無電解ニッケルめっき液又は無電解ニッケル合金めっき液を使用した場合は、さらに無電解パラジウムめっき又は無電解パラジウム合金めっきを行うことが好ましく、これに続いてさらに無電解金めっき又は無電解金合金めっきを行うことがより好ましい。また工程(2)で無電解ニッケルめっき液又は無電解ニッケル合金めっき液を使用した場合は、これに続いてさらに無電解金めっき又は無電解金合金めっきを行うことも可能である。また工程(2)で無電解金めっき液、無電解金合金めっき液のみを行うことも可能である。 【0076】 本発明の方法2により、めっき析出性、選択析出性、バリア特性、接合性等がより優れた無電解めっき皮膜を形成することができる。本発明の方法2により、このような無電解めっき皮膜を供える材料、具体的には、金属が表面に露出している材料、前記金属上の触媒核1、及び前記触媒核1上の皮膜2を含み、且つ前記触媒核1がコバルトを含有し、前記皮膜2が無電解めっき皮膜である、材料、を得ることができる。 【実施例】 【0077】 以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。 【0078】 (1)触媒付与液の調製 以下に示す組成からなる無電解めっき用触媒付与液を調製した。溶媒としては水を使用した。 【0079】 (1−1)実施例1〜8:Co含有 ・・・ 【0082】 (実施例4)Co−W−B 硫酸コバルト・7水和物 5g/L(コバルトとして1g/L) タングステン酸ナトリウム・2水和物 1g/L(タングステンとして0.55g/L) クエン酸 50g/L ジメチルアミンボラン 1.0g/L pH 7.5、浴温 70℃。」 「【0094】 (2)評価試験 以下の評価試験では、無電解めっき対象材料を前処理(酸性脱脂、ソフトエッチング)後に、上記した触媒付与液により金属表面上に触媒核を形成し、次いで無電解パラジウムめっき、無電解金めっきの順に処理した。各処理の詳細は、特に断りのない限り以下の通りである。各工程間に流水水洗1分処理を実施した。 【0095】 (a)酸性脱脂 硫酸および界面活性剤を含有する酸性脱脂液(商標名:ICPクリーンS−135K)に、40℃で5分間浸漬した。 【0096】 (b)ソフトエッチング 過硫酸ナトリウム100g/L と98%硫酸10 ml/Lを含有する水溶液中に、室温で1分間浸漬した。 【0097】 (c)触媒付与処理 実施例1〜8及び比較例1〜5については、触媒核の厚みが0.01μmとなるよう、触媒付与液中に1〜5分間浸漬した。比較例6および7については1分間浸漬とした。 【0098】 (d)無電解パラジウムめっき 無電解パラジウムめっき液(商標名:トップパラスPD、奥野製薬工業(製))中に、65℃で5分間浸漬して、膜厚約0.1μmのめっき皮膜を得た。 【0099】 (e)無電解金めっき 無電解金めっき(商標名:トップパラスAU、奥野製薬工業(製))中に、80℃で10分間浸漬した。膜厚約0.05μmのめっき皮膜を得た。 【0100】 (2−1)触媒核の組成測定 無電解めっき対象材料として銅張エポキシ基板を使用し、酸性脱脂、ソフトエッチング、触媒付与処理を実施した後、エネルギー分散型X線分析装置(EDX,HORIBA製EMAX X−act)による測定、もしくは高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(日立ハイテクサイエンス製PS3500DDII)を使用した溶解法により組成を同定した。 【0101】 (2−2)めっき析出性の評価 無電解めっき対象材料として、樹脂基材上に、オーバーレジストタイプの微小銅パッド(直径0.2mm、パッド数30個)を有するBGA(Ball Grid Array)樹脂基板を用いた。無電解めっき対象材料を、酸性脱脂、ソフトエッチング、触媒付与処理、無電解パラジウムめっき、無電解金めっきの順に処理した。各パッドにおけるめっき析出の有無をマイクロスコープ(KEYENCE製VHX−1000)により判定し、以下の評価基準に従って評価した。」 「【0112】 (3)結果 結果を表1に示す。 【0113】 【表1】 」 2 甲第2号証の記載事項 「現在,工業的に実用化され,普及している無電解ニッケルめっきはNi−P合金が圧倒的に多く,Ni−B合金については特殊な用途に限定され7),ヒドラジンを使用した浴は,浴安定性が非常に悪いためほとんど実用化されていない。したがって,単に無電解ニッケルめっきというと,一般的には無電解Ni−Pめっきのことを指す。」(第141ページ右欄第2〜8行) 3 甲第3号証の記載事項 「無電解ニッケルめっきは,還元剤の種類により,Ni−P(次亜リン酸塩)めっき,Ni−B(ホウ素化合物)めっき,純ニッケル(ヒドラジン)めっきに大きく分類されるが,一般には無電解ニッケルといえば無電解Ni−Pめっきをさすことが多い。」(第118ページ左欄第19〜22行) 4 甲第4号証の記載事項 「【請求項1】 少なくとも鉄イオン源及びヨウ素イオン源を含有する無電解ニッケルめっき浴。 【請求項2】 酸化剤として、ヨウ素酸イオン源又は臭素酸イオン源をさらに含有する請求項1記載の無電解ニッケルめっき浴。 【請求項3】 上記ヨウ素酸イオン源は、ヨウ素酸カリウム及びヨウ素酸ナトリウムのうち少なくとも1種であり、上記臭素酸イオン源は、臭素酸カリウム及び臭素酸ナトリウムのうち少なくとも1種である請求項2記載の無電解ニッケルめっき浴。 【請求項4】 上記鉄イオン源は、硫酸鉄、塩化鉄、硫化鉄、硝酸鉄及び酸化鉄のうち少なくとも1種である請求項1又は2に記載の無電解ニッケルめっき浴。 【請求項5】 上記ヨウ素イオン源は、ヨウ化カリウム、ヨウ化鉄、ヨウ化ニッケル、ヨウ化リチウム及びヨウ化ナトリウムのうち少なくとも1種である請求項1又は2に記載の無電解ニッケルめっき浴。 【請求項6】 水溶性ニッケル塩と還元剤と錯化剤とをさらに含有する請求項1記載の無電解ニッケルめっき浴。 【請求項7】 少なくとも鉄イオン源及びヨウ素イオン源からなる無電解ニッケルめっき浴用安定剤。 【請求項8】 少なくとも鉄イオン源及びヨウ素イオン源を含有する無電解ニッケルめっき浴に被めっき物を浸漬し、上記被めっき物の表面に無電解ニッケルめっき被膜を形成する無電解ニッケルめっき方法。 【請求項9】 酸化剤として、ヨウ素酸イオン源又は臭素酸イオン源をさらに上記無電解ニッケルめっき浴に含有させる請求項8記載の無電解ニッケルめっき方法。 【請求項10】 少なくとも鉄イオン源及びヨウ素イオン源を無電解ニッケルめっき浴に添加することで、上記無電解ニッケルめっき浴を保存する無電解ニッケルめっき浴の管理方法。 【請求項11】 酸化剤として、ヨウ素酸イオン源又は臭素酸イオン源をさらに上記無電解ニッケルめっき浴に添加する請求項10記載の無電解ニッケルめっき浴の管理方法。 【請求項12】 少なくともヨウ素イオン源を含有する無電解ニッケルめっき浴に鉄系被めっき物を浸漬し、上記鉄系被めっき物の表面に無電解ニッケルめっき被膜を形成する無電解ニッケルめっき方法。」 「【0018】 ヨウ素イオンは、上述したように鉄イオンに対して酸化剤として穏やかに作用するため、その適正濃度範囲が広い。例えば、ヨウ素イオン源の濃度は、10〜4000mg/L程度とするのが好ましい。ヨウ素イオン源をこのような濃度とすることで、めっき浴を安定にすることができ、ニッケルめっき皮膜の析出速度の低下を防止することができる。特に、本実施の形態に係るめっき浴では、ヨウ素イオン源の濃度を500〜2000mg/Lとするのがより好ましく、これにより、めっき浴の状態をより安定にすることができ、ニッケルめっき皮膜の析出速度の低下をより効果的に防止することができる。」 5 甲第5号証の記載事項 「【請求項1】 ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケル6水和物、ニッケルイオンの錯化剤としてオキシカルボン酸、ジカルボン酸、モノカルボン酸のうち少なくとも2種類以上のカルボン酸、ニッケルイオンの還元剤として次亜リン酸塩を含み、アンモニア水又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウムでpHを4〜7に調整した無電解ニッケル−リンめっき液であって、ヨウ素化合物を0.5〜100ppm含むことを特徴とする無電解ニッケル−リンめっき液。」 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】電子部品等、銅層上に選択的に無電解ニッケルめっきを行った場合、従来の技術では、しばしば銅とニッケル間の十分な密着が得られないことがあった。本発明は、無電解ニッケルめっき液中にヨウ素化合物を一定濃度添加することにより銅とニッケル間の密着不良を皆無にしたものである。無電解ニッケル液中にヨウ素化合物を含有しているものは、特公昭53−3326に開示されているヨウ素化合物を添加した液、特公昭56−43108に開示されているヨード置換有機化合物を添加した液があるが、これらは液安定性を得るために添加されたもので、銅とニッケル間の密着性向上には着眼されていなかった。本発明は、銅とニッケル間の密着性を向上されるのにヨウ素化合物が有効であり、その有効濃度範囲を見い出したものであり、本発明の無電解ニッケルめっき液により下地の銅層との密着の優れたニッケル皮膜が得られる。」 6 甲第6号証の記載事項 「【請求項1】 a)ニッケルイオン源と; b)次亜リン酸塩を含む還元剤と; c)以下、 i)1種以上のジカルボン酸;及び ii)1種以上のα−ヒドロキシカルボン酸;を含むキレート系と; を含み、無電解ニッケルめっき液の寿命に亘り、約12%のリン含有量を維持するニッケル析出物を生成することを特徴とする無電解ニッケルめっき液。 ・・・ 【請求項7】 安定化剤を含み、前記安定化剤が、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸アンモニウム、及びこれらの1以上の組合せからなる群から選択されるヨウ素化合物である請求項1に記載の無電解ニッケルめっき液。」 第6 当審の判断 以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。 1 申立理由(拡大先願)について (1)甲第1号証に記載された発明 ア 甲第1号証には、「コバルト化合物及び還元剤を含有する、無電解パラジウムめっき、無電解ニッケルめっき、及び無電解金めっきからなる群より選択される少なくとも1種の無電解めっき(但し、触媒金属として銀を使用する無電解めっきを除く)に用いるための触媒付与液。」に関する発明が記載されている(請求項1)。 イ また、甲第1号証の特許請求の範囲には、上記アの発明について、還元剤がアミンボランであること(請求項3)、錯化剤、金属塩を含有すること(請求項4、8)、無電解めっきが、銅及び/又は銅合金が表面に露出している材料に対する無電解めっきであること(請求項10)も記載されている。 ウ さらに、上記ア、イの発明の具体例として、以下の触媒付与液が記載されている(段落【0082】実施例4)。 硫酸コバルト・7水和物 5g/L(コバルトとして1g/L) タングステン酸ナトリウム・2水和物 1g/L(タングステンとして0.55g/L) クエン酸 50g/L ジメチルアミンボラン 1.0g/L エ ここで、上記ウの触媒付与液は、樹脂基材上に、オーバーレジストタイプの微小銅パッド(直径0.2mm、パッド数30個)を有するBGA(Ball Grid Array)樹脂基板に適用することで、金属(銅)表面上に触媒核を形成するものであり、金属(銅)表面上に触媒核が形成した樹脂基板は、その後、無電解パラジウムめっき、無電解金めっきの順で無電解めっきが施されるものである(段落【0094】、【0101】)。 オ 以上から、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲1発明> BGA樹脂基板上のオーバーレジストタイプの微小銅パッドの表面に触媒核を形成するための触媒付与液であって、 前記触媒付与液は、 硫酸コバルト・7水和物 5g/L(コバルトとして1g/L) ジメチルアミンボラン 1.0g/L クエン酸 50g/L タングステン酸ナトリウム・2水和物 1g/L(タングステンとして0.55g/L) を含む、無電解パラジウムめっき用触媒付与液。 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明との対比・判断 (ア)対比 a 甲1発明の「基板」、「オーバーレジストタイプの微小銅パッド」、「ジメチルアミンボラン」及び「触媒付与液」は、それぞれ、本件発明1の「基板」、「Cu導電層」、「ジアルキルアミンボラン」及び「触媒液」に相当する。 b 本件発明1において、「触媒の付与」とは、本件特許明細書の段落【0010】の「本発明の触媒液を用いてCu基材に触媒化処理を施すと、Cu基材表面にNi−B、Ni−B−W、Co−B、Co−B−Wよりなる群から選ばれる少なくとも1種の触媒核を付与できる。」との記載からみて、Cu基材表面に触媒核を付与することといえるから、甲1発明の「触媒核を形成するため」は、本件発明1の「触媒の付与に用いる」に相当する。 c 甲1発明の触媒付与液は、溶媒が水であり(段落【0078】)、触媒付与液に含まれる「硫酸コバルト・7水和物」は、水に溶解しイオン状態で存在していると認められるから、甲1発明の「硫酸コバルト・7水和物」は、本件発明1の「コバルトイオン」に相当する。 d ここで、甲1発明における「硫酸コバルト・7水和物」の含有量は、コバルトの含有量としてみると1g/Lであるから、本件発明1の「コバルトイオンの濃度は、0.01g/L以上、5g/L以下」を満たすものである。 e 甲1発明のジメチルアミンボランの含有量は、1.0g/Lであるから、本件発明1の「ジアルキルアミンボランの濃度は、0.1g/L以上、2g/L未満」を満たすものである。 f 甲1発明の「クエン酸」は、本件発明1において列記される錯化剤の一つであるから、甲1発明の「クエン酸」は、本件発明1の「錯化剤」に相当すると共に「錯化剤はクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、トリエタノールアミン、およびEDTAよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上」にも相当する。 g 甲1発明の「タングステン酸ナトリウム・2水和物」は、上記cの「硫酸コバルト・7水和物」と同様に水に溶解しイオン状態で存在していると認められるから、甲1発明の「タングステン酸ナトリウム・2水和物」は、本件発明1の「タングステンイオン」に相当する。 h ここで、甲1発明における「タングステン酸ナトリウム・2水和物」の含有量は、タングステンの含有量としてみると0.005g/Lであるから、本件発明1の「タングステンイオンの濃度(W換算)は、0.005g/L以上、10g/L以下」を満たすものである。 i 甲1発明の触媒付与液は、「無電解パラジウムめっき」に用いられるから、本件発明1の「無電解めっき用」に相当する。 j 以上から、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点において一致するとともに、以下の相違点1、2において相違する。 <一致点> 「基板上に設けられたCu導電層に触媒の付与に用いる触媒液であって、 前記触媒液は、 コバルトイオンと; ジアルキルアミンボランと; 錯化剤と; タングステンイオンと; を含み、 前記コバルトイオンの濃度は、0.01g/L以上、5g/L以下; 前記ジアルキルアミンボランの濃度は、0.1g/L以上、2g/L未満; 前記錯化剤はクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、トリエタノールアミン、およびEDTAよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上; 前記触媒液中の前記タングステンイオンの濃度(W換算)は、0.005g/L以上、10g/L以下; である無電解めっき用触媒液。」である点。 <相違点1> 本件発明1では、基板が絶縁基板であるのに対し、甲1発明では、「BGA樹脂基板」が絶縁基板であるのか不明である点。 <相違点2> 本件発明1では、「無電解めっき」が「無電解Ni−Pめっき」であるのに対し、甲1発明では、「無電解めっき」が「無電解パラジウムめっき」である点。 (イ)判断 a 相違点1について (a)甲第1号証には、段落【0060】に「無電解めっき対象材料は、金属が表面に露出している材料である限り、特に制限されない。例えば、素材として、ガラス繊維強化エポキシ、ポリイミド、PET等のプラスチック類、ガラス、セラミック、金属酸化物、金属、紙、合成又は天然繊維などの材質を1種で又は組み合わせてなるもの」との記載がある。 (b)ここに例示される材料の中で、樹脂基板に該当するのは「エポキシ」、「ポリイミド」及び「PET」であるが、これらはすべて絶縁性が高い材料であるから、甲1発明における「BGA樹脂基板」は、絶縁基板であるといえる。 (c)よって、相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。 b 相違点2について 「無電解Ni−Pめっき」と「無電解パラジウムめっき」とは異なる無電解めっきであり、相違点2が実質的な相違点であることは明らかであるから、本件発明1と甲1発明とが実質同一といえるかについて検討する。 (a)甲第1号証の請求項1には、触媒付与液が対象とする無電解めっきについて、「無電解パラジウムめっき、無電解ニッケルめっき、及び無電解金めっきからなる群より選択される少なくとも1種の無電解めっき」と記載され、無電解ニッケルめっきが、無電解パラジウムめっきと並列に記載されている。 (b)一方、甲第1号証には、(1)無電解パラジウム(合金)めっき液を使用した場合には、さらに無電解金(合金)めっきを行うことが好ましいこと、(2)無電解ニッケル(合金)めっき液を使用した場合は、さらに無電解パラジウム(合金)めっきを行うことが好ましく、これに続いてさらに無電解金(合金)めっきを行うことがより好ましいこと、(3)無電解ニッケル(合金)めっき液を使用した場合は、これに続いてさらに無電解金(合金)めっきを行うことも可能であること、も記載されている(段落【0075】)。 (c)加えて、甲第1号証における背景技術は、無電解ニッケルめっき皮膜における問題点を解決する手段として、無電解ニッケルめっきと金めっきの間に、バリア皮膜として無電解パラジウムめっきを行う技術や、プリント配線板の高密度化に伴う銅配線の微細化に対応するために、最も膜厚の高い無電解ニッケルめっき皮膜を省略した無電解パラジウム/金めっき処理を行う技術である(段落【0002】)。 (d)そうすると、エレクトロニクス関連分野において「無電解パラジウムめっき」と「無電解ニッケルめっき」とは、異なる意図で用いられるめっきであり、技術的意味が異なるから、それぞれが、置換可能であるとはいえない。 (e)したがって、本件発明1と甲1発明とは実質同一であるとはいえない。 (f)念のため、「無電解パラジウムめっき」と「無電解ニッケルめっき」とが置換可能である場合について検討する。 (g)申立人は、甲第2号証及び甲第3号証を提示して、「無電解ニッケルめっきとは通常は無電解Ni−Pめっきのことを指すことは技術常識である」と主張する(特許異議申立書の第22ページ)。 (h)ここで、申立人が提出した甲第2号証及び甲第3号証の記載は以下のとおりである、 「現在,工業的に実用化され,普及している無電解ニッケルめっきはNi−P合金が圧倒的に多く,Ni−B合金については特殊な用途に限定され7),ヒドラジンを使用した浴は,浴安定性が非常に悪いためほとんど実用化されていない。したがって,単に無電解ニッケルめっきというと,一般的には無電解Ni−Pめっきのことを指す。」(甲第2号証 第141ページ右欄第2〜8行) 「無電解ニッケルめっきは,還元剤の種類により,Ni−P(次亜リン酸塩)めっき,Ni−B(ホウ素化合物)めっき,純ニッケル(ヒドラジン)めっきに大きく分類されるが,一般には無電解ニッケルといえば無電解Ni−Pめっきをさすことが多い。」(甲第3号証 第118ページ左欄第19〜22行) (i)上記(h)のとおり、無電解ニッケルめっきは、Ni−Pめっき、Ni−Bめっき、純ニッケルめっきの3種類に大きく分類されるから、「無電解ニッケルめっき」であれば、必ず「無電解Ni−Pめっき」を指すとまではいえない。すなわち、甲第1号証に記載される「無電解ニッケルめっき」が無電解Ni−Bめっき又は無電解純ニッケルめっきでないとまではいえない。 (j)そうすると、「無電解パラジウムめっき」と「無電解ニッケルめっき」とが置換可能であったとしても、本件発明1と甲1発明とは実質同一であるとはいえない。 イ 小括 したがって、本件発明1は、甲第1号証(補助的に甲第2号証及び甲第3号証)に記載された発明と同一であるとはいえない。 (3)本件発明2〜5について 本件発明2は、本件発明1の記載を引用するものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明(補助的に甲第2号証及び甲第3号証)と同一であるとはいえない以上、本件発明2〜5についても同様に、甲第1号証(補助的に甲第2号証〜甲第6号証)に記載された発明と同一であるとはいえない。 (4)申立理由(拡大先願)のまとめ したがって、申立理由(拡大先願)によっては、本件特許の請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。 第7 まとめ 以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-07-01 |
出願番号 | P2020-125459 |
審決分類 |
P
1
651・
161-
Y
(C23C)
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最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
平塚 政宏 |
特許庁審判官 |
佐藤 陽一 市川 篤 |
登録日 | 2021-09-27 |
登録番号 | 6950051 |
権利者 | 上村工業株式会社 |
発明の名称 | 無電解Ni−Pめっき用触媒液、および該触媒液を用いた無電解Ni−Pめっき皮膜の形成方法 |
代理人 | 特許業務法人アスフィ国際特許事務所 |