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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1386448
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-24 
確定日 2022-07-27 
事件の表示 特願2017−557055「音声メディア・ストリーミング・デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成29年3月16日国際公開、WO2017/044427、平成30年8月2日国内公表、特表2018−521532〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)9月6日(パリ条約による優先権主張 2015年9月8日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年8月23日付け拒絶理由通知に対して同年12月4日に手続補正がなされ、平成31年1月10日付け拒絶理由通知に対して同年4月18日に手続補正がなされたが、令和元年9月11日付けで、平成31年4月18日の手続補正についての補正の却下の決定がなされ、同日に拒絶査定がなされた。これに対し、令和2年1月24日に拒絶査定不服審判の請求が請求されるとともに手続補正がなされ、令和3年3月25日付け当審拒絶理由通知に対して同年8月24日に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、以下のとおりである。なお、当審にて構成(A)〜(E)に分説した。

「【請求項1】
(A)音声コンテンツをストリーミングするように形成された携帯型の音声ストリーミング・デバイスであって、
(B)上部エンクロージャ及び下部エンクロージャを有したハウジングを備え、前記下部エンクロージャは前記上部エンクロージャから分離しているハウジング構造体であり、前記上部エンクロージャは前記下部エンクロージャと結合されており、前記下部エンクロージャは側壁を有し、前記側壁は音声コードに接続するための音声ジャックに通じる開口を有し、前記側壁はUSB電力コードに接続するためのUSBコネクタを有し、
(A)前記携帯型の音声ストリーミング・デバイスは、
(C)前記ハウジングの内部に配置されたプリント回路基板をさらに備え、前記プリント回路基板は、前記携帯型の音声ストリーミング・デバイスに無線で接続されている外部のコンピューティング・デバイスから無線でデジタル信号の音声コンテンツを受信するための、電子回路を備えたプリント回路基板を備え、
(D)前記電子回路は、前記音声コードがデジタル音声コードであるかアナログ音声コードであるかを判断するように構成された音声出力回路を含み、前記音声コードが前記デジタル音声コードであるとの判断に応答して、前記音声出力回路は、デジタルフォーマットに従って前記音声コンテンツの形式を整え、前記音声コードが前記アナログ音声コードであるとの判断に応答して、前記音声出力回路は、アナログフォーマットに従って前記音声コンテンツの形式を整えるように構成されており、
(E)前記電子回路はさらに、前記音声コードを通じて受信デバイスに設けられている外部のスピーカへ前記音声コンテンツを送信するように構成されている、
(A)携帯型の音声ストリーミング・デバイス。」


第3 拒絶の理由
令和3年3月25日付け拒絶理由通知書において当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)のうち、理由Bとして請求項1に対して通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。

この出願の請求項1〜18に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1: “audioengineW3 Premium Wireless Audio Adapter Setup Guide V01”、[online]、平成26年4月3日、[令和3年3月5日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20140403224457/http://audioenginefiles.com/Setup/W3_Set_up_Guide.pdf>

引用文献2: 特開平7―153239号公報


第4 引用文献
当審拒絶理由において引用した文献は、上記「第3」で示した引用文献1〜2のとおりである。

1 引用文献の記載
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。

ア 引用文献1には、米国の audioengine 社の製品「Audioengine W3 Premium Wireless Audio Adopter」の「Setup Guide」と記載されている。
すなわち、引用文献1は、無線音声アダプタである製品「オーディオエンジンW3」の取扱説明書と認められる。

イ 第1頁の上部丸枠囲み欄に記載の図(以下、「図A」という。)




ウ 第2頁の「Features」欄の左欄第4行
「・Super-compact size, no batteries required.」
[当審仮訳:超小型、電池不要。]

エ 第2頁「Functional Overview」欄の左欄第1〜10行
「The W3 set consists of 2 dongles, the Sender and Receiver. The W3 Sender consists to your computer (or any audio sources) and transmits stereo sound automatically to the W3 Receiver. The Receiver can be connected to any gear with an analog audio input, such as powered speakers, a boombox, stereo system, subwoofer, etc. You can mix-and-match different Senders and Receivers, broadcast to multiple W3 Receivers or "daisy-chain" multiple W3 sets, which is an inexpensive way to set up a wireless whole-house music system.」
[当審仮訳:W3セットは、送信器と受信器の2つのドングルで構成されます。W3送信器は、コンピュータ(または任意の音声ソース)に接続し、ステレオ音声をW3受信器に自動的に送信します。受信器は、パワードスピーカ、ブームボックス、ステレオシステム、サブウーファなど、アナログ音声入力を持つあらゆる機器に接続することができます。異なる送信器と受信器を組み合わせること、複数のW3受信器に放送すること、または、複数のW3セットを「数珠繋ぎ」することができるので、安価に無線による家全体の音楽システムを構築することができます。]

オ 第2頁の「Functional Overview」欄の左欄下部に記載の図(以下、「図B」という。)




カ 第2頁「Functional Overview」欄の右欄下から4行目
「(1) USB connector (audio for sender, power only for Receiver)
(2) Power/Pair indicator
(3) Pair Button
(4) Audio Jack (input for sender, output for Receiver)」
(なお、図面等において、丸の中に1〜4と書かれている記号を、本審決では「(1)」〜「(4)」と記載する。以下、同様。)
[当審仮訳:(1) USBコネクタ(送信器では音声、受信器では電力のみ)
(2) 電源/ペア 表示器
(3) ペアボタン
(4) 音声ジャック(送信器では入力、受信器では出力)]

キ 第3頁の「Configurations」欄の左欄上部に記載の図(以下、「図C」という。)




ク 第3頁「Configurations」の図Cの下、第3〜10行
「1) Connect the W3 Sender to your computer's USB port.
2) For PC wait for the USB audio connection to be detected. For Mac OS, open System Preferences/Sound, select Output, then select "Audioengine W3".
3) Connect the W3 Receiver to the included power adapter and plug the adapter into an AC power outlet.
4) Connect the include audio cable from the W3 Receiver to the powered speaker audio input.」
[当審仮訳:1)W3送信器をあなたのコンピュータのUSBポートに接続する。
2)PCであれば、USB音声接続が検知されるまで待つ。MacOSであれば、システムの設定/音声を開き、出力を選択し、「オーディオエンジンW3」を選択する。
3)W3受信器を付属の電力アダプタに接続し、AC電力コンセントにアダプタを差し込む。
4)W3受信器から、アンプ内臓スピーカの音声入力へ、付属の音声ケーブルを接続する。]

(2)引用文献2の記載
引用文献2には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0026】また、本体側面には各種入出力端子が設けられる。…59は出力端子であり、光ケーブルによるデジタル音声信号の出力端子及びアナログ音声信号のライン出力端子として兼用されている。」

イ 「【0034】出力デジタル信号は、D/A変換器15によってアナログ信号とされ、スイッチ16を介して出力端子59又はヘッドホン出力端子57に供給される。またはアナログ化されずに直接出力端子59に供給される。つまり、…出力端子59に音声コード(例えばピンプラグコード)が接続されている時は、アナログ化された音声信号がその音声コードにより他の機器に供給される。また、出力端子59に音声用光ケーブルが接続されている時は、デジタルデータとして他の機器に音声信号が供給されることになる。」

2 引用文献1に記載の発明と引用文献2に記載の技術
(1)引用文献1に記載の発明(引用発明)
ア 上記1(1)アに示したとおり、引用文献1には、「W3」は、「無線音声アダプタ」と記載されている。
上記1(1)の図Aから、W3セットは、送信器と受信器から構成されることが読み取れる。
また、上記1(1)エに示したとおり、引用文献1には、「W3」は、「送信器と受信器の2つのドングルで構成され」、「送信器は、ステレオ音声を受信器に送信する」ものであり、「複数のW3受信器に放送する」ものであると記載されている。
そして、上記1(1)ウに示したとおり、引用文献1には、「W3」が「超小型」であると記載されている。
したがって、引用文献1の「無線音声アダプタ」において、「送信器は、ステレオ音声を受信器に」「放送する」ものである。また、引用文献1の「無線音声アダプタ」を構成する送信器と受信器は、「超小型」である。

イ 上記1(1)カに示したとおり、引用文献1には、「(1) USBコネクタ(…受信器では電力のみ)」及び「(4) 音声ジャック」と記載されているから、
引用文献1の「無線音声アダプタ」は、音声信号のための「音声ジャック」を備えており、「電力」のための「USBコネクタ」を備えていることが記載されている。
また、上記1(1)の図Bから、USBコネクタと音声ジャックが受信器のハウジングに備えられる構成が読み取れる。
したがって、引用文献1の「受信器」は、「ハウジングを備え、ハウジングには、音声ジャックと、電力のためのUSBコネクタを備え」るものである。

ウ 上記1(1)エに示したとおり、引用文献1には、「W3送信器は、コンピュータ…に接続し、ステレオ音声をW3受信器に…送信します。」と記載されているから、
引用文献1の「無線音声アダプタ」は、「W3送信器」が「コンピュータ」「に接続し、ステレオ音声をW3受信器に」「送信」することが記載されている。
また、上記1(1)アに示したとおり、引用文献1には、「無線音声アダプタ」と記載されているから、
引用文献1の「無線音声アダプタ」は、送信器と受信器とが無線で音声信号を通信していることが記載されている。
したがって、引用文献1の「無線音声アダプタ」は、「送信器がコンピュータに接続され、受信器が送信器から無線で音声信号を受信する」構成を備えるものである。

エ 上記1(1)の図Cから、W3受信器とスピーカの音声入力端子とがケーブルによって接続されることが読み取れる。
また、上記1(1)クに示したとおり、引用文献1には、「W3受信器から、アンプ内臓スピーカの音声入力へ、付属の音声ケーブルを接続する」と記載されているから、
引用文献1の「無線音声アダプタ」は、「W3受信器」から「付属の音声ケーブル」によって「アンプ内臓スピーカの音声入力」へ「接続する」ものであり、
引用文献1の「アンプ内臓スピーカ」は、「W3受信器」の外部に設けられているものと認められる。
したがって、引用文献1の「無線音声アダプタ」は、「受信器が、音声ケーブルによって外部のスピーカの音声入力へ接続する」ものである。

オ 上記ア〜エから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「送信器がステレオ音声を受信器に放送するものであり、超小型の無線音声アダプタの受信器であって、
受信器が、ハウジングを備え、ハウジングには、音声信号のための音声ジャックと、電力のためのUSBコネクタを備え、
送信器が、コンピュータに接続され、受信器が送信器から無線で音声信号を受信し、
受信器が、音声ケーブルによって外部のスピーカの音声入力へ接続する、
無線音声アダプタの受信器。」

(2)引用文献2に記載の技術(引用文献2技術)
上記1(2)アには、「59は出力端子であり、…デジタル音声信号の出力端子及びアナログ音声信号のライン出力端子として兼用されている」と記載されているから、引用文献2には、以下の技術が記載されている。

・「デジタル音声信号の出力端子及びアナログ音声信号のライン出力端子として兼用されている出力端子」を備える技術

上記1(2)イには、「出力デジタル信号は、…出力端子59…に供給される。…出力端子59に音声コード(例えばピンプラグコード)が接続されている時は、アナログ化された音声信号がその音声コードにより他の機器に供給される。また、出力端子59に音声用光ケーブルが接続されている時は、デジタルデータとして他の機器に音声信号が供給される」と記載されているから、引用文献2には、以下の技術が記載されている。

・「出力端子に、音声コードが接続されている時は、アナログ化された音声信号がその音声コードにより他の機器に供給され、出力端子に音声用光ケーブルが接続されている時は、デジタルデータとして他の機器に音声信号が供給される」技術

したがって、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2技術」という。)が記載されている。

(引用文献2技術)
「デジタル音声信号の出力端子及びアナログ音声信号のライン出力端子として兼用されている出力端子に、音声コードが接続されている時は、アナログ化された音声信号がその音声コードにより他の機器に供給され、出力端子に音声用光ケーブルが接続されている時は、デジタルデータとして他の機器に音声信号が供給される技術」


第5 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「無線音声アダプタ」は、「送信器がステレオ音声を受信器に放送するものであり、超小型の無線音声アダプタ」である。
引用発明の「ステレオ音声」は、本願発明1の「音声コンテンツ」に相当する。そして、引用発明の「無線音声アダプタ」は、「送信器がステレオ音声を受信器に放送するもの」であるから、本願発明1に記載の「音声コンテンツをストリーミングする」ものと認められる。よって、引用発明の「無線音声アダプタの受信器」は、本願発明1の「音声コンテンツをストリーミングする」「音声ストリーミング・デバイス」に相当する。
また、引用発明の無線音声アダプタは、「超小型」であるから、その一構成である無線音声アダプタの受信器も「超小型」であると認められる。よって、引用発明の無線音声アダプタが「超小型」であることは、本願発明1の音声ストリーミング・デバイスが「携帯型」であることに相当する。
よって、引用発明の「無線音声アダプタ」の「受信器」は、本願発明1の構成Aである「音声コンテンツをストリーミングするように形成された携帯型の音声ストリーミング・デバイス」に相当する。

イ 引用発明は、「受信器が、ハウジングを備え、ハウジングには、音声信号のための音声ジャックと、電力のためのUSBコネクタを備え」る構成であるから、
引用発明のこれらの構成は、本願発明1の構成Bのうち「ハウジング」を備える点で共通している。
一方で、本願発明1は、構成Bの記載によれば、「ハウジング」の具体的な構造として、「上部エンクロージャ及び下部エンクロージャを有し」、「前記下部エンクロージャは前記上部エンクロージャから分離しているハウジング構造体であり、前記上部エンクロージャは前記下部エンクロージャと結合されており、前記下部エンクロージャは側壁を有し、前記側壁は音声コードに接続するための音声ジャックに通じる開口を有し、前記側壁はUSB電力コードに接続するためのUSBコネクタを有し」ているものであるが、
引用発明の受信器は、ハウジングの具体的な構成は特定されておらず、ハウジングに「音声ジャック」と「電力のためのUSBコネクタ」を備える点で相違する。

ウ 引用発明は、「送信器が、コンピュータに接続され、受信器が送信器から無線で音声信号を受信」するものであり、
引用発明の「コンピュータ」及び「音声信号」は、本願発明1の「コンピューティング・デバイス」及び「音声コンテンツ」に相当する。
よって、引用発明は、受信器に、無線で接続されている送信器に接続されているコンピュータから、無線で音声信号を受信するものであるから、
引用発明のこの構成は、本願発明1の構成Cのうち「前記携帯型の音声ストリーミング・デバイスに無線で接続されている外部のコンピューティング・デバイスから無線で音声コンテンツを受信する」とういう動作を行う構成を備えている点で共通している。
一方で、本願発明1は、「前記ハウジングの内部に配置されたプリント回路基板」をさらに備え、上記の動作を行うための、「電子回路を備えたプリント基板」を備えるのに対し、引用発明は、上記の動作を行う電子回路やプリント回路基板について記載されていない点で相違する。
また、送信器から受信器に無線で送られる音声信号について、本願発明1は、「デジタル」であるのに対し、引用発明には、デジタルかアナログかについて記載がない点で相違する。

エ 引用発明は、「受信器が、音声ケーブルによって外部のスピーカの音声入力へ接続する」ものであり、
引用発明の「音声ケーブル」及び「音声信号」は、本願発明1の「音声コード」及び「音声コンテンツ」に相当するから、
引用発明の受信器と、本願発明1の「携帯型の音声ストリーミング・デバイス」とは、「前記音声コードを通じて受信デバイスに設けられている外部のスピーカへ前記音声コンテンツを送信する」構成を備えている点で共通している。
一方で、これらの動作を行う構成が、本願発明1では「電子回路」であるのに対し、引用発明には、電子回路について記載がない点で相違する。

オ 上記ア〜エで検討したとおり、本願発明1と引用発明は、以下の一致点で一致し、相違点で相違する。

<一致点>
「(A)音声コンテンツをストリーミングするように形成された携帯型の音声ストリーミング・デバイスであって、
(B’)ハウジングを備え、
(C’)前記携帯型の音声ストリーミング・デバイスに無線で接続されている外部のコンピューティング・デバイスから無線で音声コンテンツを受信する構成を備え、
(E’)前記音声コードを通じて受信デバイスに設けられている外部のスピーカへ前記音声コンテンツを送信する構成を備える
(A)携帯型の音声ストリーミング・デバイス。」

<相違点>
相違点1: 本願発明1は、「ハウジング」が、「上部エンクロージャ及び下部エンクロージャを有し」、「前記下部エンクロージャは前記上部エンクロージャから分離しているハウジング構造体であり、前記上部エンクロージャは前記下部エンクロージャと結合されており、前記下部エンクロージャは側壁を有し、前記側壁は音声コードに接続するための音声ジャックに通じる開口を有し、前記側壁はUSB電力コードに接続するためのUSBコネクタを有し」ている構成を備えるものであるが、引用発明の受信器は、ハウジングの具体的な構成は特定されておらず、ハウジングに「音声ジャック」と「電力のためのUSBコネクタ」を備える構成である点。

相違点2: 本願発明1は、構成C及びEにおける各動作を「電子回路」が行い、当該電子回路が「前記ハウジングの内部に配置されたプリント回路基板」に備えられるのに対し、引用発明は、当該各動作を行う点については記載されているものの、具体的にどのような構成で実現するについて記載がない点。

相違点3: 本願発明1は、送信器から受信器に無線で送られる音声信号が、「デジタル」であるのに対し、引用発明には、デジタルかアナログかについて記載がない点。

相違点4: 本願発明1は、構成Dに記載されているとおり、「前記電子回路は、前記音声コードがデジタル音声コードであるかアナログ音声コードであるかを判断するように構成された音声出力回路を含み、前記音声コードが前記デジタル音声コードであるとの判断に応答して、前記音声出力回路は、デジタルフォーマットに従って前記音声コンテンツの形式を整え、前記音声コードが前記アナログ音声コードであるとの判断に応答して、前記音声出力回路は、アナログフォーマットに従って前記音声コンテンツの形式を整える」構成を備えるが、引用発明は、音声を出力する端子として「音声ジャック」を備えるものの、構成Dについて記載がない点。


第6 判断
上記相違点について判断する。

(1)相違点1について
電子機器において、ハウジングをどのように構成するかは、デバイスを具体的に設計する際に、当業者が適宜決定する事項であるから、
引用発明のハウジングが、音声コードに接続するための「音声ジャック」と、「電力のためのUSB端子」を備える構成について、
本願発明1の相違点1に係る構成のように、「ハウジング」が、「上部エンクロージャ及び下部エンクロージャ」を有し、「前記下部エンクロージャは前記上部エンクロージャから分離しているハウジング構造体であり、前記上部エンクロージャは前記下部エンクロージャと結合されており、前記下部エンクロージャは側壁を有し、前記側壁は音声コードに接続するための音声ジャックに通じる開口を有し、前記側壁はUSB電力コードに接続するためのUSBコネクタ」を有する構成とすることは、当業者が容易に為し得ることである。
したがって、引用発明を相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。


(2)相違点2について
電子機器において、その機能を実現する電子回路をプリント回路基板に備え、ハウジングに収めることは、一般的に行われている事項であるから、
引用発明において、本願発明1の構成C及びEにおける各動作を「電子回路」が行い、当該電子回路が「前記ハウジングの内部に配置されたプリント回路基板」に備えられる構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(3)相違点3について
無線で送受信する音声信号を、デジタル信号とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項であるから、
引用発明において、送信器から受信器に無線で送られる音声信号を「デジタル」の音声信号とすることで、本願発明1の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(4)相違点4について
本願発明1と引用文献2技術とを対比する。
引用文献2技術は、「デジタル音声信号の出力端子及びアナログ音声信号のライン出力端子として兼用されている出力端子に、」「音声コードが接続されている」のか、「出力端子に音声用光ケーブルが接続されている」のかを判断することができる構成を備えており、
この構成は、本願発明1の「前記音声コードがデジタル音声コードであるかアナログ音声コードであるかを判断するように構成された音声出力回路」に相当する。
また、引用文献2技術は、「音声コードが接続されている時は、アナログ化された音声信号がその音声コードにより他の機器に供給され」、また、「出力端子に音声用光ケーブルが接続されている時は、デジタルデータとして他の機器に音声信号が供給される」ものであり、
この構成は、本願発明1の「前記音声コードが前記デジタル音声コードであるとの判断に応答して、前記音声出力回路は、デジタルフォーマットに従って前記音声コンテンツの形式を整え、前記音声コードが前記アナログ音声コードであるとの判断に応答して、前記音声出力回路は、アナログフォーマットに従って前記音声コンテンツの形式を整える」構成に相当する。
したがって、引用文献2技術は、本願発明1の構成Dに相当する。

ここで、引用発明と引用文献2技術は、ともに、音声に関する機器を入出力として接続される電子機器であるから、技術分野が共通している。そして、音声信号を通信するためのケーブルや端子は種々の規格が存在することは周知の事項であり、音声信号を出力する電子機器において、出力する音声信号について、デジタルとアナログの双方に対応させることを含めて、より多くの規格に対応させることで機器の汎用性を高めることは、当業者にとって一般的な課題である。

よって、引用発明に引用文献2技術を適用して、相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(5)まとめ
相違点1〜4については、上記(1)〜(4)で検討したとおりであるから、本願発明1は、引用発明及び引用文献2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。


第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載の事項、及び、引用文献3に記載の周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 清水 正一
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-02-18 
結審通知日 2022-02-22 
審決日 2022-03-07 
出願番号 P2017-557055
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 川崎 優
木方 庸輔
発明の名称 音声メディア・ストリーミング・デバイス  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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