ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06T |
---|---|
管理番号 | 1386609 |
総通号数 | 8 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-11-05 |
確定日 | 2022-07-27 |
事件の表示 | 特願2019− 12246「分散型室内位置決めシステム及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月 8日出願公開、特開2019−133659〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成31年1月28日(パリ条約による優先日 2018年(平成30年)1月29日 米国)に出願されたものであって、令和2年2月27日付け拒絶理由通知に対して同年5月29日に手続補正がなされたが、同年6月30日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年11月5日に拒絶査定不服審判の請求が請求されるとともに手続補正がなされたものである。 第2 令和2年11月5日の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和2年11月5日の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正 本件補正は、特許請求の範囲について補正するものであり、本件補正前の請求項1及び請求項3(令和2年5月29日の手続補正により補正された請求項1及び請求項3)が下記(A)であったところ、下記(B)の請求項1へと補正することを含むものである。なお、(B)において下線は補正箇所を示すものである。 (A)本件補正前の請求項1及び3 「【請求項1】 ユーザの所在位置に基づいて前記ユーザの所在位置の室内マップをロードするマップロードモジュールと、 前記ユーザのユーザ装置のカメラにより前記ユーザの所在位置の室内画像をキャプチャして画像ストリームを生成する画像キャプチャモジュールと、 前記画像ストリームの圧縮を実行し、前記画像ストリームを次元削減することで次元削減画像を生成する画像次元削減モジュールと、 前記次元削減画像により前記マップロードモジュールから対応する室内マップを取得して、前記対応する室内マップに基づいて前記ユーザの所在位置を判断する比較対照モジュールと、 構築モードの実行時に前記ユーザの変位を追跡することで座標データを定義して、前記座標データとそれに対応する前記次元削減画像とを対応付けさせた後に個人位置決めマップを生成するマップ構築モジュールと、 を備え、 前記マップ構築モジュールによって生成された個人位置決めマップは、マップ統合サーバにアップロードされ、前記マップ統合サーバのデータベースに記憶される分散型室内位置決めシステム。」 「【請求項3】 前記マップ統合サーバは、少なくとも一人のユーザによって送信された個人位置決めマップを受信し統合して、前記室内マップを生成する、 請求項1に記載の分散型室内位置決めシステム。」 (B)本件補正後の請求項1 「【請求項1】 ユーザの所在位置に基づいて、前記ユーザの所在位置の次元削減処理された室内マップをマップ統合サーバからロードするマップロードモジュールと、 前記ユーザのユーザ装置のカメラにより前記ユーザの所在位置の室内画像をキャプチャして画像ストリームを生成する画像キャプチャモジュールと、 前記画像ストリームの圧縮を実行し、前記画像ストリームを次元削減することで次元削減画像を生成する画像次元削減モジュールと、 前記次元削減画像により前記マップロードモジュールから対応する室内マップを取得して、前記対応する室内マップに基づいて前記ユーザの所在位置を判断する比較対照モジュールと、 構築モードの実行時に前記ユーザの変位を追跡することで座標データを定義して、前記座標データとそれに対応する前記次元削減画像とを対応付けさせた後に個人位置決めマップを生成するマップ構築モジュールと、 を備え、 前記マップ構築モジュールによって生成された個人位置決めマップは、前記マップ統合サーバにアップロードされ、前記マップ統合サーバのデータベースに記憶され、 前記マップ統合サーバは、少なくとも一人のユーザによって送信された個人位置決めマップを受信し統合して、前記室内マップを生成する 分散型室内位置決めシステム。」 2 本件補正による補正事項 本件補正のうち、本件補正後の請求項1に関する補正は、本件補正前の請求項3について、請求項1を引用する形式で記載されていた請求項を引用しない形式で記載した上で、以下の補正事項1〜2の補正をしたものである。 ・補正事項1:本件補正前の請求項1に記載された「マップロードモジュール」において、ロードされる「室内マップ」を「次元削減処理された」ものに限定する補正。 ・補正事項2:本件補正前の請求項1に記載された「マップロードモジュール」において、「室内マップ」を「マップ統合サーバから」ロードされるものに限定する補正。 3 本件補正の適否 上記2で述べた補正事項に関して、上記補正事項1に係る構成については、当初明細書の段落【0034】に「室内マップは、構築時にはまず次元削減処理を経る」との記載がある。また、上記補正事項2に係る構成については、当初図面の【図2】に「室内マップ100」が「マップ統合サーバ2」から得られる構成についての記載がある。よって、本件補正後の請求項1に関する補正は、当初明細書に記載された事項の範囲内においてするものであって、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。 また、本件補正後の請求項1に関する補正は、特別な技術的特徴を変更(シフト補正)しようとするものではなく、同条4項の規定に適合している。 そして、本件補正後の請求項1に係る上記補正事項1〜2に係る補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「マップロードモジュール」がロードする「室内マップ」について、上記補正事項1〜2の限定を付加するものであって、本件補正前の請求項3に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、同条5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 この場合、本件補正後の請求項1は、同条6項において準用する同法126条7項に規定する要件(独立特許要件)を満たすものでなければならない。 以下、本件補正後の請求項1の独立特許要件について検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明1は、上記第2の1において(B)として記載したとおりのものである。 (2)引用文献 原査定において引用された文献は以下のとおりであり、それぞれ以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。 (2−1)米国特許出願公開第2015/0324646号明細書(引用文献1) ・[0005]「The inventors have developed a navigation system adapted to facilitate navigation for the visually impaired using techniques for identifying a current location of a user of the navigation system, receiving an indication of a desired destination and providing navigation instructions to the user to assist in guiding the user to the desired destination.」 (当審仮訳:「本発明者らは、ナビゲーションシステムのユーザの現在位置を識別し、所望の目的地の指示を受け取り、ユーザが望む目的地へユーザを案内することを支援するためにユーザへのナビゲーション指示を提供するための技術を使用する、視覚障害者のナビゲーションを容易にするように適合されたナビゲーションシステムを開発した。」) ・[0054]「Odometry module 110 may include an inertial odometry component which determines incremental motion of the odometry module based on inertial data. The inertial odometry component may include any one or combination of inertial sensors, such as accelerometers, magnetometers and/or gyroscopes that detect motion of the odometry module. The odometry module may use inertial data to determine how a user of system 100 is moving.」 (当審仮訳:「オドメトリモジュール110は、慣性データに基づいてオドメトリモジュールの増分運動を決定する慣性オドメトリコンポーネントを含み得る。慣性オドメトリコンポーネントは、オドメトリモジュールの動きを検出する加速度計、磁力計、および/またはジャイロスコープなどの慣性センサの任意の1つまたは組み合わせを含み得る。オドメトリモジュールは、慣性データを使用して、システム100のユーザがどのように動いているかを決定することができる。」) ・[0062]「Map module 150 may be configured to create, update and/or obtain maps that are each associated with a particular location. Some locations may include multiple maps, such as if a location has multiple floors.」 (当審仮訳:「マップモジュール150は、それぞれが特定の場所に関連付けられているマップを作成、更新、および/または取得するように構成することができる。場所に複数のフロアがある場合など、一部の場所には複数のマップが含まれることがある。」) ・[0063]「For example, a map may be an undirected graph containing nodes that represent known locations, wherein each node includes any one or combination of: location, references to neighboring or adjacent nodes, annotations (e.g., text annotations, audio annotations, and/or image annotations, etc.), image data associated with the node, a timestamp indicating when the node was created, and/or a list of connecting links.」 (当審仮訳:「例えば、マップは、既知の場所を表すノードを含む無向グラフであり得る。ここで、各ノードは、場所、近隣または隣接ノードへの参照、注釈(例えば、テキスト注釈、音声注釈、および/または、画像注釈など)、ノードに関連付けられた画像データ、ノードがいつ作成されたかを示すタイムスタンプ、および/または、接続リンクのリストの何れか1つ又はこれらの組み合わせを含んでいる。」) ・[0068]「According to some embodiments, the system manager may operate in an explorer mode in which a user is moving around and is creating tracks, but is not using the system for navigation. In the explorer mode, for example, the image acquisition module may acquire image data of a space and the image analysis module may identify and store features of the acquired image data. The acquired image data and/or features extracted therefrom may be uploaded to a remote location so that subsequent visitors to the space may be able to request directions to a destination and utilize the image data to determine location and/or to facilitate navigating the space.」 (当審仮訳:「いくつかの実施形態によれば、システムマネージャは、ユーザが動き回ってトラックを作成しているが、ナビゲーションのためにシステムを使用していないエクスプローラモードで動作することができる。エクスプローラモードでは、例えば、画像取得モジュールは空間の画像データを取得することができ、画像分析モジュールは取得した画像データの特徴を識別して格納することができる。取得された画像データおよび/またはそこから抽出された特徴は、遠隔地にアップロードされ得、その結果、空間への後続の訪問者は、目的地への道順を要求し、画像データを利用して位置を決定し、および/または空間をナビゲートしやすくすることができる。」) ・[0097]「Track 900 includes a series of nodes that are each associated with a location and may each be further associated with image data (e.g., previously acquired images at the location) and/or annotations (audio, text, images). As the track is created, it may be saved to one or more computer readable storage media accessible to the navigation device (e.g., on-board memory, etc.).」 (当審仮訳:「トラック900は、それぞれが場所に関連付けられ、それぞれが画像データ(例えば、その場所で以前に取得された画像)および/または注釈(音声、テキスト、画像)にさらに関連付けられ得る一連のノードを含む。トラックが作成されると、ナビゲーションデバイスにアクセス可能な1つまたは複数のコンピュータで読み取り可能なストレージメディア(例えば、オンボードメモリなど)に保存できる。」) ・[0098]「The locations may be determined in any suitable way, such as by determining each location by performing image matching of one or more images acquired at the location (e.g., as described herein) with one or more previously captured images and/or by using odometry data (e.g., visual and/or inertial odometry data) to determine the location from a previously known location, GPS, or any other suitable technique.」 (当審仮訳:「位置は、任意の適切な方法で決定されうる、例えば、各位置を決定することは、その場所で取得された1つまたは複数の画像(例えば、ここに記載されている。)と1つまたは複数の以前にキャプチャされた画像との画像マッチングを実行することによるか、および/または、以前に知られている位置、GPS、または他の任意の適切な技術から位置を決定するためにオドメトリデータ(例えば、視覚的および/または慣性オドメトリデータ)を使用することによる。」) ・[0100] 「As discussed above, a navigation system may obtain maps from a repository of maps (e.g., a shared repository).」 (当審仮訳:「上で論じたように、ナビゲーションシステムは、マップのリポジトリ(例えば、共有リポジトリ)からマップを取得することができる。」) ・[0101] 「According to some embodiments, a map may be identified byobtaining a position of the navigation device via GPS, which may establish a coarse indication of position that, while not sufficient to navigate a visually impaired user around an interior environment, may be sufficient to identify one or more maps that may be selected from a repository of maps for the user to access for said navigation.」 (当審仮訳:「いくつかの実施形態によれば、マップはGPSを通じたナビゲーションデバイスの位置の取得によって識別することが可能で、大まかな位置を定めて得られるものであり、視覚障害のあるユーザを内部環境の周りでナビゲートするのに十分ではない場合にも、ユーザが前記ナビゲーションのためにアクセスするマップのリポジトリから選択され得る1つまたは複数のマップが識別されるに充分なものである。」) ・[0104]「Tracks may be stored in a navigation device and subsequently uploaded to a repository and merged with a map at the repository.」 (当審仮訳:「トラックは、ナビゲーションデバイスに保存され、その後リポジトリにアップロードされ、リポジトリでマップとマージされます。」) ・[0107]「In the example of FIG. 10, images acquired by user 1 and user 3 in region 1041 may be stored as such previously acquired images (e.g., by uploading the images and/or features extracted from the images to a repository).」 (当審仮訳:「図10の例では、領域1041にてユーザ1およびユーザ3によって取得された画像は、そのような以前に取得された画像として保存され得る(例えば、画像および/または画像から抽出された特徴をリポジトリにアップロードすることによって)。」) (2−2)国際公開第2015/132914号(引用文献2) ・[0002]「画像、音声、およびセンサ等のデータそのもの、またはそのデータから抽出した特徴量を、乱数を要素に持つ行列と掛け算して、圧縮データを生成していた。次元圧縮に係るデータの要素数を次元数と呼ぶ。従来の次元圧縮では、m×nの行列の要素を実数値とし、ランダムに選択した値を要素に用いて行列を構成していた。nは元のデータの次元数で、mが圧縮後のデータの次元数である。また、n≧mである。」 ・[0003]「上記のように画像、音声およびセンサ等のデータそのものまたはその特徴量を圧縮することにより、検索、認識、予知等に係るデータ処理量を削減し、高速化を実現し、一つの作業を短時間で処理可能にしたり、ある一定時間により多くの作業またはより複雑な作業を実行可能にしたりする。」 ・[0022]「実施の形態1. 実施の形態1では、図1に示すように、この発明に係るデータ圧縮装置を組み込んだ情報通信機器(端末装置10,サーバ装置20)を用いて構成した画像マッチングシステムを例にして、データ圧縮方法を説明する。」 ・[0024]「端末装置10において、検索画像取得部11は、カメラ等から受像した画像を、マッチング対象の検索画像として取り込み、特徴量抽出部12へ出力する(ステップST1)。」 ・[0025]「特徴量抽出部12は、検出画像の特徴を抽出して、次元圧縮部13へ出力する(ステップST2)。特徴量抽出方法としてはSIFT等の適用例が多いが、どのような特徴量抽出方法でも構わない。例えばSIFTでは、画像の中の数十から数百の特徴的なポイント(キーポイントと呼ぶ)が選択され、そのキーポイントごとに128バイトの特徴量ベクトルが出力される。ここでは、この128バイトの特徴量ベクトルの次元を128とし、128次元のベクトルと見なすことにする。」 ・[0026]「次元圧縮部13は、特徴量抽出部12が出力した特徴量ベクトルを、誤り訂正符号の検査行列を用いて次元圧縮する(ステップST3)。」 ・[0038]「一方のサーバ装置20においても、画像DB21が保存しているサンプル画像に対して、特徴量抽出部12が上記と同様の方法により特徴量を抽出し、次元圧縮部13が上記と同様の方法により誤り訂正符号の検査行列を用いた次元圧縮を行い、」 ・[0039]「検索部25は、端末装置10から送られてくる検索画像の圧縮された特徴量と、量子化サイズ縮小部14から入力される各サンプル画像の圧縮された特徴量を比較し、検索画像と近いサンプル画像を検索する。」 (3)引用発明1及び引用文献2に記載の技術 引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。また、引用文献2には以下の技術が記載されている。 (3−1)引用発明1 「ナビゲーションシステムのユーザの現在位置を識別し、所望の目的地の指示を受け取り、ユーザが望む目的地へユーザを案内することを支援するためにユーザへのナビゲーション指示を提供するための技術を使用する、ナビゲーションシステムにおいて、 オドメトリモジュールは、慣性データを使用して、ユーザがどのように動いているかを決定することができ、 場所に複数のフロアがある場合など、一部の場所には複数のマップが含まれることがあり、 マップは、既知の場所を表すノードを含む無向グラフであり、各ノードは、場所、近隣または隣接ノードへの参照、注釈、ノードに関連付けられた画像データの何れか1つ又はこれらの組み合わせを含み、 システムマネージャは、ユーザが動き回ってトラックを作成するエクスプローラモードで動作することができ、エクスプローラモードでは、空間の画像データを取得し、画像分析モジュールで画像データの特徴を識別して格納し、取得された画像データおよびそこから抽出された特徴から、後続の訪問者が、画像データを利用して位置を決定することができ、 トラックは、それぞれが場所に関連付けられ、それぞれがその場所で以前に取得された画像および注釈にさらに関連付けられ、ナビゲーションデバイスにアクセス可能なストレージメディアに保存され、 位置は、その場所で取得された1つまたは複数の画像と、1つまたは複数の以前にキャプチャされた画像との画像マッチングを実行することによって決定することができ、 リポジトリからマップを取得することができ、 マップは、GPSを通じたナビゲーションデバイスの位置の取得によって識別され、大まかな位置を定めて得られるものであり、 トラックは、ナビゲーションデバイスに保存され、その後リポジトリにアップロードされ、リポジトリでマップとマージされ 領域にて複数のユーザによって取得された画像は、画像や画像から抽出された特徴をリポジトリにアップロードすることによって、そのような以前に取得された画像として保存される ナビゲーションシステム。」 (3−2)引用文献2に記載の技術 引用文献2には、上記(2−2)で摘記したとおり、段落[0022],[0024]-[0026],[0038]-[0039]に、以下の技術が記載されている。 「画像マッチングシステムを構成する、データ圧縮装置を組み込んだ情報通信機器(端末装置,サーバ装置)において、 端末装置における、 検索画像取得部は、カメラ等から受像した画像を、マッチング対象の検索画像として取り込み、特徴量抽出部へ出力し、 特徴量抽出部は、検出画像の特徴を抽出して、次元圧縮部へ出力し、 特徴量抽出の方法は、画像の中の数十から数百の特徴的なキーポイントが選択され、そのキーポイントごとに128バイトの特徴量ベクトルが出力され、当該128バイトの特徴量ベクトルの次元を128とし、128次元のベクトルと見なし、 次元圧縮部は、特徴量抽出部が出力した特徴量ベクトルを、誤り訂正符号の検査行列を用いて次元圧縮し、 サーバ装置においても、 特徴量抽出部が特徴量を抽出し、 次元圧縮部が次元圧縮を行い、 検索部が検索画像と近いサンプル画像を検索する 画像マッチングシステム。」 (4)対比・判断 本件補正発明1と引用発明1とを対比する。 a.引用発明1の「マップ」は、場所に複数のフロアがある場合など、一部の場所には複数のマップが含まれるものであるから、「室内」に対応したマップである。また、当該「マップ」は、ユーザの現在位置を識別してユーザが望む目的地へユーザを案内する為に用いられるものであるから、「ユーザの所在位置」に係るものである。よって、引用発明1の「マップ」は、本願補正発明1の「室内マップ」を特定する記載のうち、「ユーザの所在位置の」ものであると言える。 そして、下記g.で後述するとおり、引用発明1の「マップ」は本願補正発明1の「室内マップ」を特定する他の記載による要件を満たすものであるから、引用発明1の「マップ」と、本願補正発明1の「室内マップ」とは、「ユーザの所在位置の」「室内マップ」である点で共通する。 また、引用発明1の「ナビゲーションデバイス」は、GPSを通じて大まかな位置を取得し、リポジトリからマップを取得するから、この動作は、本願補正発明の「マップロードモジュール」における「ユーザの所在位置に基づいて、前記ユーザの所在位置の」室内マップを「ロードする」動作に相当する。 したがって、引用発明1の「ナビゲーションデバイス」における上述の機能を実現する構成は、本件補正発明1が、「ユーザの所在位置に基づいて、前記ユーザの所在位置の」「室内マップをマップ統合サーバからロードするマップロードモジュール」を備える点で、本願補正発明1と共通する。 ただし、本願補正発明1の「室内マップ」は、「次元削減処理された」ものであるのに対し、引用発明1では、「室内マップ」が次元削減処理されたものであるか否かについて特定されていない点で相違する。 b.引用発明1の「ナビゲーションデバイス」は、「システムマネージャ」において、「トラックを作成するエクスプローラモードで動作する」際に、「空間の画像データを取得し」、「画像データの特徴を識別して格納し」、「それぞれが場所に関連付けられ、それぞれがその場所で以前に取得された画像および注釈にさらに関連付けられ」た「トラック」を、「リポジトリにアップロードする」ものである。ここで、本願補正発明1の「画像ストリーム」は、静止画であるか動画であるかを特定していないが、動画のみを指し示す場合であっても、カメラで撮影した一連の静止画像を動画とすることは、通常行われていることである。 したがって、引用発明1の「ナビゲーションデバイス」における上述の構成は、本件補正発明1の「前記ユーザのユーザ装置のカメラにより前記ユーザの所在位置の室内画像をキャプチャして画像ストリームを生成する画像キャプチャモジュール」に相当する。 c.画像を扱う電子機器において、なんらかの圧縮処理を施した画像を得ることは、当業者にとって技術常識であるから、引用発明1の「ナビゲーションデバイス」は、本件補正発明1と、「前記画像ストリームの圧縮を実行」することで「画像を生成する」モジュールを備えるものである点で、共通する。 ただし、生成される画像及びモジュールが、本件補正発明1では、「前記画像ストリームを次元削減する」ことで生成される「次元削減画像」及び「画像次元削減モジュール」であるのに対し、引用発明1では、「前記画像ストリームを次元削減することで成される次元削減画像」及び「画像次元削減モジュール」であるか否かについて特定されていない点で相違する。 d.引用発明1の「ナビゲーションデバイス」は、「マップ」が、「大まかな位置を定めて得られるものであり」、「位置」は、「その場所で取得された1つまたは複数の画像と、1つまたは複数の以前にキャプチャされた画像との画像マッチングを実行することによって決定することができ」るものであるから、 引用発明1は、本件補正発明1が、「前記画像により前記マップロードモジュールから対応する室内マップを取得して、前記対応する室内マップに基づいて前記ユーザの所在位置を判断する比較対照モジュール」を備えるものである点で、本件補正発明1と共通する。 ただし、上記c.と同様に、本件補正発明1は、「画像」が、「次元削減画像」であるのに対し、引用発明1では、「次元削減画像」であるか否かについて特定されていない点で相違する。 e.引用発明1の「オドメトリモジュール」は、「慣性データを使用して、ユーザがどのように動いているかを決定することができ」るものであり、 「システムマネージャ」は、「ユーザが動き回ってトラックを作成するエクスプローラモードで動作することができ、エクスプローラモードでは、空間の画像データを取得し、画像分析モジュールで画像データの特徴を識別」し、 「トラック」は、「それぞれが場所に関連付けられ」、「その場所で以前に取得された画像および注釈にさらに関連付けられ、ナビゲーションデバイスにアクセス可能なストレージメディアに保存され」るものである。 よって、引用発明1の「エクスプローラモード」、及び、エクスプローラモードで作成する「トラック」は、本件補正発明1の「構築モード」、及び、「個人位置決めマップ」に相当するから、 引用発明1は、「慣性データを使用して、ユーザがどのように動いているかを決定」し、「それぞれが場所に関連付けられ、その場所で以前に取得された画像および注釈にさらに関連付けられ、ナビゲーションデバイスにアクセス可能なストレージメディアに保存され」る、「トラック」を作成するものである。 よって、引用発明1は、本件補正発明1の「マップ構築モジュール」が、「構築モードの実行時に前記ユーザの変位を追跡することで座標データを定義して、前記座標データとそれに対応する前記画像とを対応付けさせた後に個人位置決めマップを生成」する点で、本件補正発明1と共通する。 ただし、上記c.と同様に、本件補正発明1は、「前記画像」が、「前記次元削減画像」であるのに対し、引用発明1では、「前記次元削減画像」であるか否かについて特定されていない点で相違する。 f.引用発明1の「トラック」は、「複数のユーザによって取得された画像」が、「画像や画像から抽出された特徴をリポジトリにアップロードすることによって」、「以前に取得された画像として保存され」るものであるから、 引用発明1は、本件補正発明1が、「マップ構築モジュール」における「生成された個人位置決めマップは、前記マップ統合サーバにアップロードされ、前記マップ統合サーバのデータベースに記憶され」る構成を備えるものである点で、本件補正発明1と共通する。 g.引用発明1の「リポジトリ」は、「複数のユーザによって取得された画像」が、「以前に取得された画像として保存され」るものであり、 「リポジトリ」において、「トラック」が、「マップとマージされ」るものであるから、 引用発明1の「リポジトリ」におけるこれらの動作は、本件補正発明1の「マップ統合サーバ」が、「少なくとも一人のユーザによって送信された個人位置決めマップを受信し統合して、前記室内マップを生成する」との動作を行う点で、本件補正発明1と共通する。 また、引用発明1の「マップ」は、「リポジトリ」において「トラック」と「マージされ」て保存されるものであるから、本件補正発明1の「室内マップ」が、「少なくとも一人のユーザによって送信された個人位置決めマップを受信し統合して」「生成される」ことに相当するから、 引用発明1の「マップ」は、上記a.で述べた本件補正発明1の「室内マップ」を特定する他の記載による要件についても満たすものである。 h.引用発明1の「ナビゲーションシステム」は、リポジトリからマップを取得して、ユーザの現在位置を識別し、ユーザが望む目的地へユーザを案内するものであるから、「分散型」であるといえる。 また、引用発明1の「ナビゲーションシステム」は、上記a.で検討したとおり、「室内」に適応したものである。 また、引用発明1の「ナビゲーションシステム」は、「位置を決定する」機能を備えることから、「位置決め」を行うことができるシステムである。 よって、引用発明1の「ナビゲーションシステム」は、以下に相違点で述べる点を除いて、本願補正発明1の「分散型室内位置決めシステム」であるといえる。 i.上記a.〜h.における検討によると、本件補正発明1と引用発明1とは、次の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 「ユーザの所在位置に基づいて、前記ユーザの所在位置の室内マップをマップ統合サーバからロードするマップロードモジュールと、 前記ユーザのユーザ装置のカメラにより前記ユーザの所在位置の室内画像をキャプチャして画像ストリームを生成する画像キャプチャモジュールと、 前記画像ストリームの圧縮を実行することで画像を生成するモジュールと、 前記画像により前記マップロードモジュールから対応する室内マップを取得して、前記対応する室内マップに基づいて前記ユーザの所在位置を判断する比較対照モジュールと、 構築モードの実行時に前記ユーザの変位を追跡することで座標データを定義して、前記座標データとそれに対応する前記画像とを対応付けさせた後に個人位置決めマップを生成するマップ構築モジュールと、 を備え、 前記マップ構築モジュールによって生成された個人位置決めマップは、前記マップ統合サーバにアップロードされ、前記マップ統合サーバのデータベースに記憶され、 前記マップ統合サーバは、少なくとも一人のユーザによって送信された個人位置決めマップを受信し統合して、前記室内マップを生成する 分散型室内位置決めシステム。」 <相違点> 本件補正発明1では、 マップ統合サーバからロードされる「室内マップ」は、「次元削減された」ものであり(上記a.で述べた相違点。)、 「前記画像ストリームを次元削減する」ことで生成される「次元削減画像」を生成する「画像次元削減モジュール」を備えるものであり(上記c.で述べた相違点。)、 「比較対照モジュール」及び「マップ構築モジュール」において使用される「画像」が「次元削減画像」である(上記d.及びe.で述べた相違点。)のに対し、 引用発明1では、これらに対応する「画像」及び画像を生成する「モジュール」が、「画像ストリームを次元削減することで生成される次元削減画像」及び「画像次元削減モジュール」であるか否かについて特定されていない点。 上記相違点について検討する。 引用文献2は、画像による検索を行う装置について記載されており、その段落[0003]に、「画像、音声およびセンサ等のデータそのものまたはその特徴量を圧縮することにより、検索、認識、予知等に係るデータ処理量を削減し、高速化を実現」することが記載されている。画像による検索を行う構成を有する引用発明1においても、画像データを何らかの圧縮処理を施して利用していることは、自明の事項である。 ここで、引用文献2に記載された「次元圧縮」は、段落[0002]に「画像、音声、およびセンサ等のデータそのもの、またはそのデータから抽出した特徴量を、乱数を要素に持つ行列と掛け算して、圧縮データを生成していた。次元圧縮に係るデータの要素数を次元数と呼ぶ。」と記載されていること、及び、技術常識を考慮すると、本願補正発明1の「次元削減」と同じ意味である。 そして、画像を比較して検索する構成において、次元を削減して圧縮した画像を用いることは、引用文献2にも記載されているとおり(上記(3−2)参照。)であり、周知の技術と認められる。 そうすると、画像を圧縮して利用する装置においては、その目的に応じた圧縮方法を適宜選択することが広く行われており、引用発明1は、画像の比較を行うものであることから、比較の対象となる画像を圧縮する方法として、次元を削減する圧縮を選択して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することである。 (5)独立特許要件のむすび 以上のとおり、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 4 補正却下のむすび よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものであるから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和2年11月5日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項3に係る発明(以下、「本願発明3」という。)は、同年5月29日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載されたものであり、上記「第2」1において(A)として記載したとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願発明3について上記引用文献1〜2に基づいて、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものを含むものである。 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1〜2に記載された事項は、上記「第2」3(2)で述べたとおりであり、 引用発明1及び引用文献2に記載の技術は、上記「第2」3(3)で述べたとおりである。 4 対比・判断 本願発明3は、本件補正発明1から上記「第2」2(1)において補正事項1〜2で示した限定を省いたものである。また、本願発明3と引用発明1の相違点は、いずれも、上記「第2」3(4)において相違点としたものに含まれるものであり、上記「第2」3(4)において判断したとおり、当該相違点に係る本件補正発明1の構成は、引用発明1及び引用文献2に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本願発明3は、引用発明1に記載の発明及び引用文献2に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明3は、引用発明1に記載の発明及び引用文献2に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 審判長 五十嵐 努 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2022-02-18 |
結審通知日 | 2022-02-22 |
審決日 | 2022-03-08 |
出願番号 | P2019-012246 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G06T)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
五十嵐 努 |
特許庁審判官 |
木方 庸輔 樫本 剛 |
発明の名称 | 分散型室内位置決めシステム及びその方法 |
代理人 | 特許業務法人鷲田国際特許事務所 |