ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M |
---|---|
管理番号 | 1386751 |
総通号数 | 8 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-02-10 |
確定日 | 2022-07-20 |
事件の表示 | 特願2019−511379「リチウムイオン電池用複合正極活物質、その製造方法、及びそれを含む正極を含むリチウムイオン電池」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 1日国際公開、WO2018/038501、令和 1年10月17日国内公表、特表2019−530141〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2017年8月22日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2016年8月26日 韓国(KR))を国際出願日とする出願であって、令和2年2月6日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年5月8日に手続補正がなされたが、同年10月1日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対して、令和3年2月10日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1ないし8に係る発明は、令和3年2月10日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 リチウムイオン電池用複合正極活物質であって、 ニッケル含量が遷移金属総量を基準に、50モル%ないし100モル%であるニッケルリッチリチウムニッケル系化合物と、 前記ニッケルリッチリチウムニッケル系化合物の表面に配置された、希土類金属ヒドロキシドを含むコーティング膜と、を含み、 前記リチウムイオン電池用複合正極活物質の比表面積が、1.2m2/gないし1.8m2/gであり、 前記希土類金属ヒドロキシドは、イットリウムヒドロキシド、セリウムヒドロキシド、ランタンヒドロキシド、ユウロピウムヒドロキシド、ガドリニウムヒドロキシド、スカンジウムヒドロキシド及びテルビウムヒドロキシドからなる群から選択された1以上であり、 前記ニッケルリッチリチウムニッケル系化合物は、下記化学式1で表示される化合物である、リチウムイオン電池用複合正極活物質。 LixNiyM1−yO2 [化学式1] (前記化学式1で、0.9≦x≦1.2、0.5≦y<1.0であり、Mは、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びアルミニウム(Al)のうちから選択された1以上である。)」 なお、上記令和3年2月10日の手続補正による特許請求の範囲の補正は、補正前の請求項5を引用する請求項6を請求項5を引用しない記載に改め、補正前の請求項5を削除したものであり、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる「請求項の削除」を目的とするものに該当する。 3.原査定の拒絶の理由の概要 本願の請求項1に対する原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。 この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記引用文献1に記載された発明及び下記引用文献3に記載された技術事項に基いて、または下記引用文献2に記載された発明及び下記引用文献3に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:国際公開第2015/125444号 引用文献2:特開2011−159619号公報 引用文献3:国際公開第2012/099265号 4.引用文献の記載および引用発明 (1)引用文献2 上記引用文献2(特開2011−159619号公報)には、「リチウム二次電池」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「【請求項1】 リチウム遷移金属複合酸化物の粒子が含有された正極活物質を含む正極と、ケイ素及び/又はケイ素合金の粒子が含有された負極活物質を含む負極と、上記正極と上記負極の間に配置されるセパレータと、非水電解質とを備えたリチウム二次電池において、 上記リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面には、水酸化エルビウム、オキシ水酸化エルビウム、水酸化イッテルビウム、オキシ水酸化イッテルビウム、水酸化テルビウム、オキシ水酸化テルビウム、水酸化ジスプロシウム、オキシ水酸化ジスプロシウム、水酸化ホルミウム、オキシ水酸化ホルミウム、水酸化ツリウム、オキシ水酸化ツリウム、水酸化ルテチウム、オキシ水酸化ルテチウム、水酸化ネオジム、オキシ水酸化ネオジム、水酸化サマリウム、オキシ水酸化サマリウム、水酸化プラセオジム、水酸化ユーロピウム、オキシ水酸化ユーロピウム、水酸化ガドリニウム、オキシ水酸化ガドリニウム、水酸化ランタン、オキシ水酸化ランタン、水酸化イットリウム、オキシ水酸化イットリウム、水酸化スカンジウム、オキシ水酸化スカンジウムから成る希土類化合物群から選ばれた少なくとも1種の粒子が分散した状態で固着されていることを特徴とするリチウム二次電池。 【請求項2】 上記リチウム遷移金属複合酸化物は層状構造を有し、化学式LiaNixCoyMzO2(0≦a≦1.1、x+y+z=1で、且つ、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、Mは、Mn、Al、Zr、Mg、Ti及びMoから成る群から選択される少なくとも1種以上の元素)で表される、請求項1に記載のリチウム二次電池。 【請求項3】 上記化学式LiaNixCoyMzO2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物において、0≦z≦0.4である、請求項2に記載のリチウム二次電池。 ・・・・・(中 略)・・・・・ 【請求項6】 上記化学式LiaNixCoyMzO2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物において、0.70≦x<0.90、0.10≦y≦0.25、0<z≦0.10である、請求項3に記載のリチウム二次電池。」 イ.「【0009】 上記の目的を達成するために本発明は、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子が含有された正極活物質を含む正極と、ケイ素及び/又はケイ素合金の粒子が含有された負極活物質を含む負極と、上記正極と上記負極の間に配置されるセパレータと、非水電解質とを備えたリチウム二次電池において、上記リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面には、水酸化エルビウム、オキシ水酸化エルビウム、水酸化イッテルビウム、オキシ水酸化イッテルビウム、水酸化テルビウム、オキシ水酸化テルビウム、水酸化ジスプロシウム、オキシ水酸化ジスプロシウム、水酸化ホルミウム、オキシ水酸化ホルミウム、水酸化ツリウム、オキシ水酸化ツリウム、水酸化ルテチウム、オキシ水酸化ルテチウム、水酸化ネオジム、オキシ水酸化ネオジム、水酸化サマリウム、オキシ水酸化サマリウム、水酸化プラセオジム、水酸化ユーロピウム、オキシ水酸化ユーロピウム、水酸化ガドリニウム、オキシ水酸化ガドリニウム、水酸化ランタン、オキシ水酸化ランタン、水酸化イットリウム、オキシ水酸化イットリウム、水酸化スカンジウム、オキシ水酸化スカンジウムから成る希土類化合物群から選ばれた少なくとも1種の粒子が分散した状態で固着されていることを特徴とする。 【0010】 上記構成であれば、充放電時にケイ素等が含有された負極活物質粒子表面に高活性の新生面が生じ、この新生面上で生じる非水電解質の還元分解生成物が、正極に拡散,泳動して、リチウム遷移金属複合酸化物と接触した場合であっても、リチウム遷移金属複合酸化物の表面に分散した状態で固着された希土類の水酸化物等の存在によって、正極表面上での酸化分解を抑制することが可能となる。これにより、酸化分解生成物の正極活物質粒子表面上への堆積が抑制されるので、正極活物質粒子表面と電解液との界面との間において、充放電反応による抵抗の増加が緩和される。この結果、充放電特性の低下を抑制できると共に、酸化分解生成物の一種であるガス発生が抑制されるので、電池(特に、扁平型電池)における厚みの増加が抑制される。 ・・・・・(中 略)・・・・・ 【0012】 ここで、上記リチウム遷移金属複合酸化物は層状構造を有し、化学式LiaNixCoyMzO2(0≦a≦1.1、x+y+z=1で、且つ、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、Mは、Mn、Al、Zr、Mg、Ti及びMoから成る群から選択される少なくとも1種以上の元素)で表されるものを用いることが望ましい。 上記構成の如く、リチウム遷移金属複合酸化物にニッケルやコバルトが含まれる場合には、高活性の新生面上で生じる非水電解質の還元分解生成物が、正極に拡散、泳動し、正極活物質と接触して酸化分解されるという問題が大きくなる。しかし、上記構成の如くリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に希土類のオキシ水酸化物等の粒子が分散した状態で固着されていれば、このような問題を大幅に抑制できる。 ・・・・・(中 略)・・・・・ 【0016】 上記化学式LiaNixCoyMzO2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物において、0.70≦x<0.90、0.10≦y≦0.25、0<z≦0.10であることが望ましい。 Ni成分が相対的に多くなると、正極容量がさらに高くなるため、電池容量の増大を図ることができるからである。」 ウ.「【0023】 (2)湿式法による水酸化エルビウムコート 上記コバルト酸リチウム1000gを3リットルの純水に添加し攪拌して、コバルト酸リチウムが分散した懸濁液を調製した後、この懸濁液に硝酸エルビウム5水和物1.85gを溶解した溶液を添加した。尚、硝酸エルビウム5水和物を溶解した液を懸濁液に添加する際には、10質量%の水酸化物ナトリウム水溶液を添加し、コバルト酸リチウムを含む溶液のpHを9に保った。次に、上記懸濁液を吸引濾過し、更に水洗して得られた粉末を120℃で熱処理(乾燥)した。これにより、コバルト酸リチウムの表面に水酸化エルビウムが均一に固着した正極活物質粉末が得られた。 得られた正極活物質粉末について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、図4に示すように、コバルト酸リチウムの表面に均一に分散された状態で、平均粒子径100nm以下のエルビウム化合物(水酸化エルビウム)が均一に固着していることが認められた。尚、エルビウム化合物の固着量をICPにより測定したところ、エルビウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.07質量%であった。」 エ.「【0037】 [第1実施例] (実施例1) 上記発明を実施するための最良の形態で示した電池を用いた。 このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A1と称する。 【0038】 (実施例2) 正極の作製において、懸濁液を吸引濾過し、更に水洗して得られた粉末の熱処理温度を300℃としたこと以外は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。このように300℃で熱処理すると、全部或いは大部分の水酸化エルビウムがオキシ水酸化エルビウムに変化するので、コバルト酸リチウム粒子の表面上にオキシ水酸化エルビウムが分散した状態で固着される。但し、一部は水酸化エルビウムの状態で残存する(オキシ水酸化エルビウムに変化しない)場合があるので、コバルト酸リチウム粒子の表面上には水酸化エルビウムが存在している場合もある。尚、全部或いは大部分はオキシ水酸化エルビウムに変化していることを考慮して、コバルト酸リチウム粒子の表面上に分散した状態で固着される化合物として、オキシ水酸化エルビウムと記載することがある。 このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A2と称する。」 オ.「【0050】 [第2実施例] (実施例) 〔正極の作製〕 先ず、LiOHとニッケルを金属元素の主成分とする複合水酸化物〔Ni0.80Co0.17Al0.03(OH)2〕を、Liと遷移金属全体とのモル比が1.05:1となるようにして石川式らいかい乳鉢にて混合した後、酸素雰囲気中にて720℃で20時間熱処理し、さらに粉砕することによりLi1.05Ni0.80Co0.17Al0.03O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(平均粒子径15μm)を得た。次に、このリチウム遷移金属複合酸化物の表面に、前記第1実施例の実施例2と同様にして、オキシ水酸化エルビウムを固着させた。 【0051】 次いで、上記オキシ水酸化エルビウムが表面に固着された正極活物質粉末を用いて、前記第1実施例の実施例2と同様に正極合剤スラリーを調製した後、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚み15μm、長さ339mm、幅50mm)の両面に正極合剤スラリーを塗布し(塗布部の長さは、表面側で277mm、裏面側で208mm、塗布部の幅は共に50mm)、乾燥した後、圧延することにより正極を作製した。尚、両面に正極活物質層が形成されている部分において、正極集電体上の正極活物質層の量及び正極の厚みは、各々、37mg/cm2、104μmであった。また、正極の端部にある正極活物質層の未塗布部分には、正極集電タブとしてアルミニウム板を接続した。」 カ.「【0063】 (その他の事項) (1)リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に固着させる化合物としては、上記水酸化エルビウムや上記オキシ水酸化エルビウムに限定されるものではなく、イッテルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウム、ネオジム、サマリウム、プラセオジム、ユーロピウム、ガドリニウム、ランタン、及びイットリウム等の希土類の水酸化物やオキシ水酸化物を用いた場合にも同様の効果が得られる。この場合の正極活物質の製造方法は上記実施例1又は実施例2と略同様であり(例えば、イットリウムの水酸化物を得るには、リチウム遷移金属複合酸化物粒子を分散させた溶液に、エルビウム塩に代えてイットリウム塩の溶液を加える他は実施例1と同様の方法で良く)、また、希土類のオキシ水酸化物を得るには、上記と同様、塩を変更する他に、後述の如く熱処理温度を変更すれば良い。」 キ.「【0109】 上述の如く、エルビウムのオキシ水酸化物が固着している参考電池B1のみならず、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面にイッテルビウム、サマリウム、ネオジムのオキシ水酸化物等が固着している参考電池B2〜B4でも、電池特性が向上している。したがって、これらの化合物をリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に形成した正極を用いる一方、ケイ素を負極に用いた場合にも、充放電サイクル特性等の電池特性を向上できるものと考えられる。 【0110】 尚、上記第1参考例では、エルビウム、イッテルビウム、サマリウム、及びネオジムの水酸化物やオキシ水酸化物について実験したが、これ以外の希土類(但し、セリウムとプロメチウムとは除く)の水酸化物やオキシ水酸化物についても同様の効果があることについて、実験により確認している。」 上記ア.ないしキ.から以下のことがいえる。 ・引用文献2に記載の「リチウム二次電池」は、特に上記「ア.」の【請求項1】、「イ.」の段落【0009】の記載によれば、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子が含有された正極活物質を含む正極と、ケイ素及び/又はケイ素合金の粒子が含有された負極活物質を含む負極と、前記正極と前記負極の間に配置されるセパレータと、非水電解質とを備えたリチウム二次電池において、前記リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面には、水酸化エルビウムやオキシ水酸化エルビウム等から成る希土類化合物の粒子が分散した状態で固着されてなるものに関する。 ・上記「ア.」の【請求項2】と【請求項6】の記載、「イ.」の段落【0012】と【0016】の記載によれば、リチウム遷移金属複合酸化物は、化学式LiaNixCoyMzO2(0≦a≦1.1、x+y+z=1で、且つ、0.70≦x≦0.90、0.10≦y≦0.25、0<z≦0.10、Mは、Mn、Al、Zr、Mg、Ti及びMoから成る群から選択される少なくとも1種以上の元素)で表されるものを用いることが好ましいものである。 ・上記「ウ.」ないし「オ.」の記載によれば、第2実施例では、リチウム遷移金属複合酸化物がLi1.05Ni0.80Co0.17Al0.03O2で表されるものであり、当該リチウム遷移金属複合酸化物の表面にオキシ水酸化エルビウムの粒子が均一に分散された状態で固着されてなるものである。 以上のことから、特に第2実施例に係るリチウム二次電池に用いられる正極活物質に着目してこれを発明として捉え、上記記載事項を総合勘案すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「リチウム遷移金属複合酸化物の粒子が含有された正極活物質を含む正極と、ケイ素及び/又はケイ素合金の粒子が含有された負極活物質を含む負極と、前記正極と前記負極の間に配置されるセパレータと、非水電解質とを備えたリチウム二次電池に用いられる前記正極活物質であって、 前記リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面には、希土類化合物の粒子が均一に分散した状態で固着されてなり、 前記希土類化合物はオキシ水酸化エルビウムであり、 前記リチウム遷移金属複合酸化物は、Li1.05Ni0.80Co0.17Al0.03O2で表される化合物である、リチウム二次電池に用いられる正極活物質。」 (2)引用文献3 上記引用文献3(国際公開第2012/099265号)には、「非水電解質二次電池用正極活物質」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「[請求項1] リチウムとニッケルとマンガンとを含有し、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、 上記リチウム遷移金属複合酸化物の表面の一部に固着しており、且つ、原子番号59〜71番の希土類元素から選択された少なくとも一種の元素のオキシ水酸化物、及び/又は、原子番号59〜71番の希土類元素から選択された少なくとも一種の元素の水酸化物と、 を有することを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質。」 イ.「[0009] 本発明の正極活物質は、LiとNiとMnとを含有し、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、このリチウム遷移金属複合酸化物の表面の一部に固着しており、且つ、原子番号59〜71番の希土類元素から選択された少なくとも一種の元素のオキシ水酸化物、及び/又は、原子番号59〜71番の希土類元素から選択された少なくとも一種の元素の水酸化物(以下、単に、希土類元素の化合物と称することがある)と、を有することを特徴とする。 ・・・・・(中略)・・・・・ [0012] ここで、リチウム遷移金属複合酸化物の表面の一部に上記希土類元素の化合物が固着された状態とは、図3に示すように、リチウム遷移金属複合酸化物粒子21の表面に、プラセオジム、ネオジム、エルビウム等の希土類元素の水酸化物粒子及び/又はオキシ水酸化物粒子22が固着された状態をいうものである。即ち、当該状態には、図4に示すように、リチウム遷移金属複合酸化物粒子21と希土類元素の化合物粒子22とを単に混合して、一部の希土類元素の化合物粒子22がリチウム遷移金属複合酸化物粒子21とたまたま接している状態を含むものではない。」 ウ.「[0031] (6)下記実施例では、希土類元素の水酸化物またはオキシ水酸化物として、プラセオジム、ネオジム、エルビウムの3種の希土類元素の水酸化物またはオキシ水酸化物についての実験データを載せたが、これらに限らず、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムでも同様の効果が得られると見なせる。これらの希土類元素の水酸化物やオキシ水酸化物においても、結晶構造の安定性を高め、リチウムの挿入・脱離界面反応抵抗の増加を抑制することができると考えられる。」 エ.「[0056] 〔第2実施例〕 本実施例では、異なる種類のニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用い、且つ、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面の一部に付着させるエルビウム化合物の量を変化させたときの、サイクル特性改善効果について検証した。 [0057](実施例1) 以下のようにして正極活物質を作製した以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。 このようにして作製した電池を、以下、電池B1と称する。 Li2CO3と、Ni0.5Co0.2Mn0.3(OH)2で表される共沈水酸化物を、Liと遷移金属全体のモル比が1.08:1になるように石川式らいかい乳鉢にて混合した後、空気雰囲気中にて950℃で20時間熱処理後に粉砕することにより、平均二次粒子径が約12μmのLi1.04Ni0.48Co0.19Mn0.29O2で表されるニッケルコバルトマンガン酸リチウムを得た。この後、上記第1実施例の実施例1における正極活物質の作製と同様の手順により、上記Li1.04Ni0.48Co0.19Mn0.29O2の表面の一部にエルビウム化合物を固着した。尚、エルビウム化合物の固着量は、エルビウム元素換算で、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムに対して0.20質量%である。また、該正極活物質のBET値を測定すると0.87m2/gであった。 [0058](実施例2) エルビウム化合物の固着量を、エルビウム元素換算で、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムに対して0.50質量%としたこと以外は、上記第2実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、該正極活物質のBET値を測定すると1.09m2/gであった。 このようにして作製した電池を、以下、電池B2と称する。 [0059](実施例3) エルビウム化合物の固着量を、エルビウム元素換算で、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムに対して0.68質量%としたこと以外は、上記第2実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、該正極活物質のBET値を測定すると1.30m2/gであった。 このようにして作製した電池を、以下、電池B3と称する。」 上記ア.ないしエ.から以下のことがいえる。 ・上記「ア.」ないし「ウ.」の記載によれば、引用文献3には、リチウムとニッケルとマンガンとを含有し、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、当該リチウム遷移金属複合酸化物の表面の一部に固着した原子番号59〜71番の希土類元素から選択された少なくとも一種の元素の化合物(オキシ水酸化物、又は、水酸化物)粒子と、を有する非水電解質二次電池用正極活物質について記載されている。 ・上記「エ.」には、実施例1ないし3として、リチウムとニッケルとマンガンとを含有するリチウム遷移金属複合酸化物(ニッケルコバルトマンガン酸リチウム)の表面の一部に付着(固着)させる希土類元素の化合物(エルビウム化合物)の量を変化させたときの正極活物質のBET値の各測定値が記載されている。実施例1では、エルビウム化合物の固着量がエルビウム元素換算でリチウム遷移金属複合酸化物に対して0.20質量%に対して、正極活物質のBET値は0.87m2/gであり、実施例2では、エルビウム化合物の固着量がエルビウム元素換算でリチウム遷移金属複合酸化物に対して0.50質量%に対して、正極活物質のBET値は1.09m2/gであり、実施例3では、エルビウム化合物の固着量がエルビウム元素換算でリチウム遷移金属複合酸化物に対して0.68質量%に対して、正極活物質のBET値は1.30m2/gである。したがって、エルビウム化合物の固着量が増加するほど正極活物質のBET値も増加していることから分かるように、エルビウム化合物の固着量によって正極活物質のBET値を制御することができるものである。このことは、リチウム遷移金属複合酸化物の表面に化合物粒子が分布して固着することから(引用文献3の図3も参照)、固着量が増加するほど当然表面積も増加することによるものと解され、固着する化合物粒子を構成する希土類元素がエルビウム以外の元素であっても同様であるといえる。 以上のことから、上記記載事項を総合勘案すると、引用文献3には、次の技術事項が記載されているということができる。 「リチウムとニッケルとマンガンとを含有し、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、当該リチウム遷移金属複合酸化物の表面の一部に固着した原子番号59〜71番の希土類元素から選択された少なくとも一種の元素の化合物(オキシ水酸化物、又は、水酸化物)粒子と、を有する非水電解質二次電池用正極活物質において、 前記希土類元素の化合物粒子の固着量によって正極活物質のBET値を制御し、例えば1.30m2/gとすること。」 5.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 ア.リチウムイオン電池用複合正極活物質について 引用発明におけるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子が含有された「正極活物質」は、「リチウム遷移金属複合酸化物の粒子が含有された正極活物質を含む正極と、ケイ素及び/又はケイ素合金の粒子が含有された負極活物質を含む負極と、前記正極と前記負極の間に配置されるセパレータと、非水電解質とを備えたリチウム二次電池」に用いられるものであるところ、当該「リチウム二次電池」は、リチウムイオンが正極・負極間を移動することにより充放電を行うものであることは明らかであり、「リチウムイオン電池」といえるものである。 したがって、引用発明における「リチウム二次電池に用いられる正極活物質」は、本願発明でいう「リチウムイオン電池用複合正極活物質」に相当する。 イ.ニッケルリッチリチウムニッケル系化合物について 引用発明における「リチウム遷移金属複合酸化物」は、「Li1.05Ni0.80Co0.17Al0.03O2」で表される化合物である。 よって、引用発明におけるリチウム遷移金属複合酸化物におけるニッケル含量は、遷移金属総量を基準にすると、0.80/(0.80+0.17)×100≒82.5(モル%)であり、本願発明で特定する「50モル%ないし100モル%」の条件(範囲)を満たし、引用発明における「リチウム遷移金属複合酸化物」は、本願発明でいう「ニッケルリッチリチウムニッケル系化合物」に相当するものである。また、本願発明における化学式1中のx、yに相当する値はそれぞれ「1.05」、「0、80」であり、本願発明でそれぞれ特定する「0.9≦x≦1.2」、「0.5≦y<1.0」の条件(範囲)を満たす。さらに、本願発明における化学式1中の「M」に相当する元素は「Co」と「Al」であり、本願発明で特定する「Mは、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びアルミニウム(Al)のうちから選択された1以上である」という条件も満たす。 したがって、本願発明と引用発明とは「ニッケル含量が遷移金属総量を基準に、50モル%ないし100モル%であるニッケルリッチリチウムニッケル系化合物と」を含み、さらに「前記ニッケルリッチリチウムニッケル系化合物は、下記化学式1で表示される化合物である。 LixNiyM1−yO2 [化学式1] (前記化学式1で、0.9≦x≦1.2、0.5≦y<1.0であり、Mは、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びアルミニウム(Al)のうちから選択された1以上である。)」点で一致する。 ウ.コーティング膜について 引用発明においても、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面には、オキシ水酸化エルビウムからなる希土類化合物の粒子が均一に分散した状態で固着されてなり、リチウム遷移金属複合酸化物の表面にオキシ水酸化エルビウムコートがなされている、つまり希土類金属化合物(オキシ水酸化エルビウム)を含むコーティング膜が配置されているといえるものである。 したがって、本願発明と引用発明とは「前記ニッケルリッチリチウムニッケル系化合物の表面に配置された、希土類金属化合物を含むコーティング膜と」を含むものである点で共通する。 ただし、コーティング膜が含む希土類金属化合物について、本願発明では希土類金属「ヒドロキシド」であり、「イットリウムヒドロキシド、セリウムヒドロキシド、ランタンヒドロキシド、ユウロピウムヒドロキシド、ガドリニウムヒドロキシド、スカンジウムヒドロキシド及びテルビウムヒドロキシドからなる群から選択された1以上」であると特定するのに対し、引用発明ではオキシ水酸化エルビウムである点で相違する。 エ.正極活物質の比表面積について リチウムイオン電池用複合正極活物質の比表面積について、本願発明では「1.2m2/gないし1.8m2/g」であると特定するのに対し、引用発明では比表面積の値に関する特定がない点で相違する。 よって上記ア.ないしエ.によれば、本願発明と引用発明とは、 「 リチウムイオン電池用複合正極活物質であって、 ニッケル含量が遷移金属総量を基準に、50モル%ないし100モル%であるニッケルリッチリチウムニッケル系化合物と、 前記ニッケルリッチリチウムニッケル系化合物の表面に配置された、希土類金属化合物を含むコーティング膜と、を含み、 前記ニッケルリッチリチウムニッケル系化合物は、下記化学式1で表示される化合物である、リチウムイオン電池用複合正極活物質。 LixNiyM1−yO2 [化学式1] (前記化学式1で、0.9≦x≦1.2、0.5≦y<1.0であり、Mは、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びアルミニウム(Al)のうちから選択された1以上である。)」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] コーティング膜が含む希土類金属化合物について、本願発明では希土類金属「ヒドロキシド」であり、「イットリウムヒドロキシド、セリウムヒドロキシド、ランタンヒドロキシド、ユウロピウムヒドロキシド、ガドリニウムヒドロキシド、スカンジウムヒドロキシド及びテルビウムヒドロキシドからなる群から選択された1以上」であると特定するのに対し、引用発明ではオキシ水酸化エルビウムである点。 [相違点2] リチウムイオン電池用複合正極活物質の比表面積について、本願発明では「1.2m2/gないし1.8m2/g」であると特定するのに対し、引用発明では比表面積の値に関する特定がない点。 6.判断 上記相違点について検討する。 [相違点1]について 引用文献2の【請求項1】、段落【0009】、段落【0063】、及び段落【0109】(それぞれ上記「4.(1)」の「ア.」、「イ.」、「カ.」、及び「キ.」を参照)には、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面に均一に分散した状態で固着させる希土類化合物としては、希土類金属のオキシ水酸化物だけでなく水酸化物でもよく、これらに用いられる希土類金属についてもエルビウム以外にランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウムなどのランタノイドの他、イットリウムやスカンジウムを選択できることが記載されている。してみると、引用発明において、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面に均一に分散した状態で固着させる希土類化合物としてオキシ水酸化エルビウムに代えてエルビウム以外の希土類金属の水酸化物、例えば水酸化イットリウム(イットリウムヒドロキシド)、水酸化ランタン(ランタンヒドロキシド)、水酸化ユーロピウム(ユーロピウムヒドロキシド)、水酸化ガドリニウム(ガドリニウムヒドロキシド)、水酸化スカンジウム(スカンジウムヒドロキシド)、水酸化テルビウム(テルビウムヒドロキシド)のいずれかを採用し、相違点1に係る構成とすることも当業者であれば適宜なし得たことである。 ここで、審判請求人は審判請求書において、「イットリウムとエルビウムは、互いに原子量差も大きく、それらの原子から構成される化合物の特性は非常に異なるようになる。・・・特に、スカンジウムやイットリウムは、ランタン族元素の他の元素と比較して大きな原子数を有しており、エルビウムとは非常に異なる元素であることは明確である。そのため、当業者は、各引用文献に開示された内容から、本願請求項1に係る発明に到達することは容易ではないと思料する。」(5頁11〜18行)と主張している。 しかしながら、そもそも本願請求項1では、希土類金属ヒドロキシドにおける希土類金属がスカンジウムやイットリウムに限定されているわけではなく、ランタンなどのランタノイドも含んでいるのであるから、上記主張は請求項1の記載に基づかないものである。なお、スカンジウムやイットリウムと、ランタノイドの他の元素とは原子量差が大きいとしても、同じ希土類元素に分類されるものであり、類似した性質を有するものであるといえる。このことは本願発明だけでなく引用文献1でスカンジウムやイットリウムと、ランタノイドの他の元素とは区別されることなく希土類金属の選択肢として記載されていることからも明らかである。 よって、審判請求人の上記主張は採用できない。 [相違点2]について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、リチウムとニッケルとマンガンとを含有し、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、当該リチウム遷移金属複合酸化物の表面の一部に固着した原子番号59〜71番の希土類元素から選択された少なくとも一種の元素の化合物(オキシ水酸化物、又は、水酸化物)粒子と、を有する非水電解質二次電池用正極活物質において、前記希土類元素の化合物粒子の固着量によって正極活物質のBET値を制御し、例えば1.30m2/gとする技術事項が記載されており(上記「4.(2)」を参照)、かかる技術事項に基づき、引用発明において、上記「[相違点1]について」で述べたように、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面に均一に分散した状態で固着させる希土類化合物としてエルビウム以外の希土類金属の水酸化物を採用した場合にあっても、希土類金属の水酸化物粒子の固着量によって正極活物質のBET値(比表面積)を制御し、例えば1.30m2/g程度として本願発明で特定する「1.2m2/gないし1.8m2/g」の範囲を満たすものとすることは当業者であれば容易になし得たことである。 そして、上記各相違点を総合勘案しても、本願発明が奏する効果は、引用発明及び引用文献3に記載された技術事項から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。 7.その他 なお、審判請求人は令和3年7月14日に提出した上申書において、本願の請求項1について、希土類金属ヒドロキシドを「イットリウムヒドロキシド」のみに限定する補正案を提示している。 しかしながら、上記「6.」の[相違点1]についての判断でも述べたように、引用発明において、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面に均一に分散した状態で固着させる希土類化合物として、オキシ水酸化エルビウムに代えてエルビウム以外の希土類金属の水酸化物を採用することも当業者であれば適宜なし得たことであるところ、特に引用文献1の段落【0063】には「・・イットリウム等の希土類の水酸化物やオキシ水酸化物を用いた場合にも同様の効果が得られる。この場合の正極活物質の製造方法は上記実施例1又は実施例2と略同様であり(例えば、イットリウムの水酸化物を得るには、リチウム遷移金属複合酸化物粒子を分散させた溶液に、エルビウム塩に代えてイットリウム塩の溶液を加える他は実施例1と同様の方法で良く)・・」とあり、希土類金属としてエルビウムに代えてイットリウムを採用することの具体的な記載もなされている。 一方で、本願明細書をみても、希土類金属ヒドロキシドの中でも「イットリウムヒドロキシド」を選択したことによって格別の作用効果が得られるものとも認められない。 以上のことを踏まえると、補正案に係る発明であっても、依然として引用発明及び引用文献3に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり、進歩性を有しない。 8.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 審判長 山田 正文 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2022-02-01 |
結審通知日 | 2022-02-07 |
審決日 | 2022-03-01 |
出願番号 | P2019-511379 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01M)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
山田 正文 |
特許庁審判官 |
井上 信一 棚田 一也 |
発明の名称 | リチウムイオン電池用複合正極活物質、その製造方法、及びそれを含む正極を含むリチウムイオン電池 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 阿部 達彦 |