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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 G09B |
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管理番号 | 1386817 |
総通号数 | 8 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-01-12 |
確定日 | 2022-07-19 |
事件の表示 | 特願2018−249003「鍵盤楽器基礎テクニックの指導方法及び指導教材」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 7月16日出願公開、特開2020−109438〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成30年12月30日の出願であって、令和2年6月26日付けで拒絶理由が通知され、同年8月31日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年10月12日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたのに対し、令和3年1月12日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 令和3年1月12日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和3年1月12日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和2年8月31日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び2へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。) (1)本件補正前の特許請求の範囲 「【請求項1】 鍵盤楽器基礎テクニックの指導方法であって、 鍵盤上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態を上面から見る方向を平面視方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、正面に略垂直に配置された鏡面体によって映し出される鏡像を見る方向を正面視鏡像方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、左右方向を側面視方向として、 鍵盤上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態について、正しい一の状態を把握するステップと、当該3方向で確認して当該正しい一の状態に修正するステップを有することを特徴とする鍵盤楽器基礎テクニックの指導方法。 【請求項2】 鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材であって、 鍵盤上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態を上面から見る方向を平面視方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、正面に略垂直に配置された鏡面体によって映し出される鏡像を見る方向を正面視鏡像方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、左右方向を側面視方向として、 鍵盤上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態について、正しい一の状態を当該3方向でそれぞれ見た状態を表示する表示部と、当該正しい一の状態に対して誤った一の状態を当該3方向でそれぞれ見た状態を表示する表示部を有していることを特徴とする鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 「【請求項1】 鍵盤楽器基礎テクニックの指導方法であって、 鍵盤上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態を上面から見る方向を平面視方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、正面に略垂直に配置された鏡面体によって映し出される鏡像を見る方向を正面視鏡像方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、左右方向を側面視方向として、 鍵盤上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態について、 正面視鏡像方向で視認できる印をいずれかの指のいずれかの位置に付して、正面視鏡像方向から当該印の状態と当該印が付された指の状態を把握すると共に、当該3方向で指の正しい一の状態を把握するステップと、 正面視鏡像方向から当該印の変形状態と当該印が付された指の変形状態を確認すると共に、当該3方向で確認して指の正しい一の状態に修正するステップを有することを特徴とする鍵盤楽器基礎テクニックの指導方法。 【請求項2】 鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材であって、 鍵盤上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態を上面から見る方向を平面視方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、正面に略垂直に配置された鏡面体によって映し出される鏡像を見る方向を正面視鏡像方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、左右方向を側面視方向として、 鍵盤上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態について、 正面視鏡像方向で視認できる印がいずれかの指のいずれかの位置に付された状態を表示する表示部を有しており、 正面視鏡像方向から見た当該印の正しい状態と当該印が付された指の正しい状態を表示する表示部を有すると共に正面視鏡像方向から見た当該印の変形状態と当該印が付された指の変形状態を表示する表示部を有しており、 指の正しい一の状態に対して誤った一の状態を当該3方向でそれぞれ見た状態を表示する表示部を有していることを特徴とする鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材。」 2 本件補正について (1)補正目的について 特許法第17条の2第5項の規定によれば、拒絶査定不服審判の請求と同時にする特許請求の範囲についての補正は、請求項の削除(第1号)、特許請求の範囲の減縮(第2号)、誤記の訂正(第3号)、明瞭でない記載の釈明(第4号)のいずれかを目的とするものに限るとされている。 そこで、本件補正について、以下、検討する。 本件補正により、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2の「指導教材」の「正しい一の状態を当該3方向でそれぞれ見た状態を表示する表示部」との特定事項が、「正面視鏡像方向で視認できる印がいずれかの指のいずれかの位置に付された状態を表示する表示部」と補正された(以下「補正事項」という。)。 上記補正事項は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2の「正しい一の」及び「当該3方向でそれぞれ見た状態を」との削除するものであり、また、本件補正前の請求項において特定されている発明特定事項をさらに特定するものには該当しないから、上記補正事項は、同項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。 また、上記補正事項2が、同項第1、3、4の各号に掲げられた、いずれの目的とするものにも該当しないことは明らかである。 (2)小括 よって、上記補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定を満たすものではない。 なお、審判請求人は、審判請求書において、上記補正事項は、‘3方向のうちの一つである正面視鏡像方向から見た表示部について限定的減縮をして’と主張する。 しかし、本件補正前の請求項2は、「3方向でそれぞれ見た状態を表示する表示部」であって「表示部」は3方向それぞれのものがあったところ、本件補正後の請求項2は、「正面視鏡像方向」と1方向のものしか特定されず、その他の2方向の「表示部」を有するのか否か不明なものとなったのであるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものといえる。 よって、上記審判請求人の主張は採用できない。 (3)むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 3 独立特許要件について 上記のとおり、本件補正前の請求項2に係る補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当するものではないが、念のため、本件補正前の請求項2に係る補正が限定的減縮であると仮定して、本件補正後の請求項2に係る発明(令和3年1月11日に提出された手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、上記「1(2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項2】に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 (1)本願補正発明 本件補正後の特許請求の範囲の【請求項2】に記載された発明は、上記「1(2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項2】に記載したものであるところ、「平面視方向」についての「上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態」との記載、並びに「表示部」についての「鍵盤上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態について」、「で視認できる印がいずれかの指のいずれかの位置に付された状態」、「から見た当該印の正しい状態と当該印が付された指の正しい状態」、「から見た当該印の変形状態と当該印が付された指の変形状態」、「『指の正しい一の状態に対して誤った一の状態を』『見た状態』」との記載は、いずれも、「平面視方向」及び「表示部」の形状、構造、構成要素、組成、作用、機能、性質、特性、方法(行為又は動作)、用途等を特定するものではなく、また、「鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材」に特に適した構造等を意味するものとは認められない。 してみると、「平面視方向」とは、「鍵盤を上面から見る方向」との特性が特定されたものとしか認められず、また、「表示部」とは、「正面視鏡像方向を表示する」及び「3方向でそれぞれを表示する」との機能が特定されたものとしか認められない。 よって、本願補正発明は、以下のとおり解して、検討する。 「鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材であって、 鍵盤を上面から見る方向を平面視方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、正面に略垂直に配置された鏡面体によって映し出される鏡像を見る方向を正面視鏡像方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、左右方向を側面視方向として、 正面視鏡像方向を表示する表示部を有しており、当該3方向でそれぞれを表示する表示部を有していることを特徴とする鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材。」(以下「本願補正発明」という。) (2)引用例 ア 引用例1 原査定の拒絶の理由において引用された特開2017−32693号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、楽器演奏の教習において、演奏され記録された演奏情報の再生に関するものである。」 (イ)「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 ところで、演奏の教習では、講師は生徒に演奏させ、演奏途中において指摘したい点がある場合には、生徒に演奏を中断させて都度指摘する指導方法が一般に行われる。この指導方法において、生徒による演奏を記録しておくことができれば有益である。こうした演奏の記録ができれば、生徒は指摘された際に記録された演奏情報を再生することにより自己の演奏を確認することができ、指摘された点を容易に理解することができるためである。 【0005】 ところが、上記特許文献1に記載の演奏練習装置では、演奏操作を示す案内画像を投射表示手段に表示させて演奏の補助はするものの、実際の演奏を記録・再生して確認できるものではない。また、記録装置を用いれば演奏情報を記録・再生することは可能ではあるものの、一般の記録装置では、所望する箇所の演奏情報を再生したい場合には、記録を停止させ、所望の演奏箇所を頭出しすることが必要である。記録カウンタの逆戻し・先送りを繰り返しながら都度再生をして所望の演奏箇所を探し出すための一連の作業を行う必要があり、作業が煩雑であった。 【0006】 本願は、上記の課題に鑑み提案されたものであって、演奏を記録し、記録した演奏情報を簡易に再生することができる演奏記録装置を提供することを目的とする。」 (ウ)「【0019】 図1を用いて、本願に係る記録再生システム1の全体構成について説明する。記録再生システム1は楽器2、携帯端末80、上カメラ61、横カメラ62、後カメラ63(図2)、および低位置横カメラ64(図2)を備えている。 【0020】 楽器2は、鍵盤21、ペダル22、ハンマ(不図示)、および弦(不図示)などの一般的なアコースティックピアノが備える構成の他に、制御部30、センサ4(図2)、駆動部5(図2)などを備えている。携帯端末80は、例えば携帯電話機、スマートフォン、タブレット端末等であり、楽器2を操作するための画面の表示および操作者からの指示を受け付ける機能を有するタッチパネル81(図2)を備える。上カメラ61、横カメラ62、後カメラ63(図2)、および低位置横カメラ64(図2)は、演奏者が演奏している状態を各々の方向から撮影し、音声データおよび動画データを含む撮影データを取得する。」 (エ)「【0024】 次に、第1実施形態に係る記録再生処理について図3および図4を用いて説明する。ここでは、講師が生徒に演奏の教習を行う状況を例に説明する。以下、操作を行う者が、講師および生徒の何れかを問わない場合、操作者と記載する。尚、制御記憶部32には、講習に使用する曲の楽譜データが予め記憶されている。 【0025】 まず、記録再生システム1の動作モードについて説明する。記録再生システム1は、同期モード、確認モードを有する。同期モードとは、タッチパネル81に撮影部60で撮影している動画を即時に表示するモードである。確認モードとは、楽譜データに関連して、または演奏時間に関連して特定される、記憶部7に記憶されている演奏データおよび撮影データを再生するモードである。ここで、演奏時間とは記憶部7による記録が開始されてからの経過時間である。 【0026】 次に、記録再生処理におけるタッチパネル81の表示について図4を用いて説明する。表示は領域R1〜R7に区画されている。領域R1〜R4には撮影部60により撮影された動画データが表示される。領域R1〜R4は、夫々、後カメラ63、横カメラ62、上カメラ61、低位置横カメラ64により撮影された動画データが表示される領域である。これにより、操作者は領域R1、R2の表示から演奏姿勢を、領域R3、R4の表示から運指およびペダル操作を夫々確認することができる。領域R5にはピアノロール形式または五線譜形式の楽譜が表示され、例えば領域R5をタップするなどの操作により、表示が切替えられる。位置マーク88は、同期モードにおいては演奏されている楽譜上の位置を示し、確認モードにおいては再生されている楽譜上の位置を示す。領域R6には操作者の操作を受け付ける各種操作ボタンが表示される。各種操作ボタンとは、記憶データを再生するための再生ボタン83、再生よりも早い速度で戻す、送るための、戻しボタン82、送りボタン84、録音および再生停止のための停止ボタン86、再生を一時停止するための一時停止ボタン85、記録ボタン87などである。ここで、記憶データとは記憶部7に記憶されている演奏データおよび撮影データである。領域R7は、タッチパネル81にテキストおよび図形などの手書き情報の書き込みを行うための各種操作ボタンが表示される領域である。各種操作ボタンが有する機能はそれぞれ、例えば、書込み、書込みの削除、書込みなどの操作を戻す、進める等がある。操作ボタンの書込み機能を使用することにより、操作者は例えば領域R2に表示される演奏中の生徒の肘の位置に印を付ける、領域R5に表示される楽譜に印を付けるなどを行うことができる。 【0027】 例えば、講師は録音・録画を開始させるため、記録ボタン87をタップするなどの操作をして、生徒に演奏の開始を指示する。携帯端末80は演奏の開始に応じて記録ボタン87が操作されたことを検出すると(S1)、制御部30に記録開始信号を送信し、記録再生システム1は同期モードを開始する(S3)。領域R1〜R4には撮影部60で撮影している動画が表示され、領域R5には、演奏している付近のピアノロール形式または五線譜形式の楽譜が位置マーク88とともに表示される。制御部30は演奏データとMIDI形式の楽譜データとのマッチングを行い、演奏データを楽譜データに関連付けるとともに、楽譜上の演奏位置を検出する。さらに、制御部30は演奏データと撮影データとを演奏時間を介して楽譜データに関連付け、楽譜データおよび演奏時間に関連付けられた演奏データおよび撮影データを記憶部7および携帯端末80に送信する。 【0028】 制御部30は記録開始信号を受信すると、記憶部7に録音・録画の開始を指示する(S5)。これにより、記憶部7は制御部30から送信される、楽譜データおよび演奏時間に関連付けられた演奏データおよび撮影データの記憶を開始する。次に、携帯端末80は停止ボタン86が操作されたか否かを判断する(S7)。停止ボタン86が操作されていないと判断した場合(S7:NO)、記録再生システム1は同期モードを継続する。次に、再度記録ボタン87が操作されたことを検出すると(S9)、携帯端末80は制御部30に確認モード移行信号を送信し、記録再生システム1は確認モードに移行する(S11)。また、制御部30は確認モード移行信号を受信すると、信号を受信したタイミングがダイジェスト開始ポイントDSであるとした時間情報を生成して記憶する。ここで、ダイジェスト開始ポイントDSとは後述するダイジェストデータを作成する際に使用する基準点である。 【0029】 確認モードに移行すると、操作者はステップS5において録音・録画が開始されてからステップS11において確認モードに移行されるまでに記憶された記憶データを再生させることができる。確認モードに移行すると、携帯端末80は領域R6、R7に表示される各種操作ボタンにおける操作を入力として受け付ける状態となる。また、操作に従って、領域R5に楽譜を表示する。例えば、操作者は領域R5にてドラッグすることにより、楽譜をスクロールさせることができる。操作者は領域R5にてドラッグすることにより再生したい位置付近の楽譜を表示させ、例えばタップすることにより再生開始位置を指定する。次に再生ボタン83を操作して、記憶データを再生させる。制御部30は操作者の操作に応じて、つまり楽譜上の指定された再生開始位置に対応する記憶データを記憶部7から読み出して携帯端末80に送信する。ここで、記憶データは楽譜データと関連づけられているため、制御部30は楽譜にて指定された再生開始位置に対応する記憶データを特定することができる。これにより、携帯端末80は領域R1〜R4に送信された動画データを表示し、領域R5に対応する楽譜を位置マーク88とともに表示し、内蔵するスピーカから音声データに基づいて放音する。また、制御部30は演奏データに基づいて楽器2に自動演奏させることにより、演奏を再現させる。尚、スピーカから放音される際に使用される音声データは、後カメラ63、横カメラ62、上カメラ61、および低位置横カメラ64により取得された4つの音声データのうち、音質の良い任意の1つである。 【0030】 ここで、ステップS9において記録ボタン87が操作される場合とは、例えば、講師が生徒の演奏に指摘したい箇所を発見し、生徒の演奏を中断させ、指導したい場合である。講師は記録ボタン87を操作することにより確認モードに移行させ、領域R5に表示される楽譜において再生開始位置を指定して、記憶データを再生させる。講師は例えば再生された動画を生徒に見せながら、例えば、演奏中の姿勢について指摘を行うことができる。尚、指導内容は、姿勢に限らず、動画により確認できる運指、ペダル操作など、音声により確認できる演奏なども含む。生徒は再生された記憶データを確認することにより、容易に指摘された点を理解することができる。」 (オ)上記(ウ)及び(エ)より、上カメラ61、横カメラ62、後カメラ63、および低位置横カメラ64は、講師が生徒に演奏の教習を行う状況において、演奏者が演奏している状態を各々の方向から撮影し、音声データおよび動画データを含む撮影データを取得するものと認める。 そうすると、上記(ア)乃至(エ)の記載事項及び上記(オ)の認定事項から、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「鍵盤21備える楽器2、携帯端末80、上カメラ61、横カメラ62、後カメラ63、および低位置横カメラ64を備える記録再生システム1に備えられた携帯端末80のタッチパネル81であって、 上カメラ61、横カメラ62、後カメラ63、および低位置横カメラ64は、講師が生徒に演奏の教習を行う状況において、演奏者が演奏している状態を各々の方向から撮影し、音声データおよび動画データを含む撮影データを取得するものであり、 タッチパネル81の領域R1〜R4には、夫々、後カメラ63、横カメラ62、上カメラ61、低位置横カメラ64により撮影された撮影データが表示される領域であって、領域R1、R2の表示から演奏姿勢を、領域R3、R4の表示から運指およびペダル操作を夫々確認することができる、 タッチパネル81。」 イ 引用例2 原査定の拒絶の理由において引用された登録実用新案第3218363号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項及び図面が記載されている。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 鍵盤楽器の練習用補助具であって、厚さ(T)、高さ(H)、幅(W)がそれぞれ0.5≦T≦3.0mm、5.0≦H≦18.0cm、15.0≦W≦80.0cmの平面視略四角形状の鏡面状の樹脂製板状体で構成されており、当該鏡面状の樹脂製板状体に当該鍵盤楽器の鍵盤が略正面視鏡像として映し出されるように当該鍵盤楽器に着脱自在に取り付けられることを特徴とする鍵盤楽器の練習用補助具。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本考案は、鍵盤楽器の練習用補助具及び練習用補助具セットに関する。」 (イ)「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本考案は、鍵盤上に正しい位置で正しい指の置き方を指導者のみならず生徒自身でも確認でき、美しい音が弾けるようにするための、鍵盤楽器の練習用補助具及び鍵盤楽器の練習用補助具セットを提供するものである。」 (ウ)「【0019】 図2及び図3は、グランドピアノの鍵盤蓋1の内側に上記鍵盤楽器の練習用補助具2を3枚隣接して取り付けた状態を示す正面側から見た写真と右側面側から見た写真である。練習用補助具2の厚さ(t)は1.0mm、高さ(h)は9.3mm、幅(w)は51.9mmとなっている。鍵盤蓋1の内側に着脱自在に取り付ける位置しては、鍵盤3の付け根部分から上方に0≦hb≦3.0cmの距離(hb)を空けることがよい。この位置であれば、生徒のみならず指導者も指の位置や鍵盤3に対する指の深さや角度などが確認し易くなる。」 (エ)「【0033】 鍵盤楽器がアップライトピアノや電子ピアノやオルガンなどの場合には、グランドピアノとは大きさ、形状、構造などが異なる。したがって、鍵盤蓋1の内側に練習用補助具2を上述したような実施形態で取り付けることが困難な場合も生じる。その際に、練習用補助具2が角度調整機構を備えていることが好適である。要するに、練習用補助具2が、鍵盤楽器に取り付けられ、練習時に鍵盤に対する手指の位置を略正面視鏡像として確認できるような構造であればよい。 【0034】 図8に、角度調整機構を備えた練習用補助具2の模式図を示す。平面視略四角形状の鏡面状の樹脂製板状体2aと取付部材2bが角度調整機構2cを介して構成されている。取付部材2bには取付部2dがある。図8(a)は正面から見た模式図、(b)は側面から見た模式図、(c)は側面から見た角度調整機構を示す模式図を示している。このような角度調整機構2cを備えた練習用補助具2の場合でも、平面視略四角形状の鏡面状の樹脂製板状体2aは0.5≦T≦3.0mm、5.0≦H≦18.0cm、15.0≦W≦80.0cmとされており、鍵盤楽器の鍵盤を略正面視鏡像として映し出されるように鍵盤楽器の位置に着脱自在に取り付けられるようになっている。」 (オ)「【図2】 」 (カ)「【図8】 」 (キ)上記(イ)〜(カ)より、略正面視鏡像は、アップライトピアノの鍵盤上の指の置き方を正面側から見た像であると認める。 そうすると、上記(ア)乃至(カ)の記載事項及び上記(キ) の認定事項から、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「鍵盤楽器の練習用補助具であって、鏡面状の樹脂製板状体で構成されており、当該鏡面状の樹脂製板状体にアップライトピアノの鍵盤上の指の置き方を正面側から見た像である略正面視鏡像として映し出されるように当該鍵盤楽器に着脱自在に取り付けられる鍵盤楽器の練習用補助具。」 (3)対比 そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比すると、 ア 後者の「タッチパネル81」は、講師が、生徒に鍵盤21を備える楽器2の演奏の教習を行う状況において用いるものであるところ、演奏の教習のレベルとして、基礎的なテクニックの教習に用いることを排除する要因はないことから、当然、基礎的なテクニックの教習に用い得るものと推認できる。してみると、前者の「指導教材」と後者の「タッチパネル81」とは、「鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材」との概念で一致する。 イ 後者の「上カメラ61」により撮影された撮影データが表示される「領域R3」は、演奏者が演奏している状態を上方向から撮影した撮影データが表示される領域であるところ、運指を確認することができるのであるから、後者の「領域R3」は、前者の「『鍵盤を上面から見る方向を平面視方向とし』た、『方向で』で『表示する表示部』」に相当する。 ウ 後者の「横カメラ62」により撮影された撮影データが表示される「領域R2」は、演奏者が演奏している状態を横方向から撮影した撮影データが表示される領域であるところ、演奏姿勢を確認することができるのであるから、後者の「領域R2」は、前者の「『鍵盤楽器に向かって座ったときに、左右方向を側面視方向として』た、『方向で』で『表示する表示部』」に相当する。 エ 後者の「タッチパネル81」には、「後カメラ63」により撮影された撮影データが表示される「領域R1」を有するのであるから、前者の「指導教材」と、後者の「タッチパネル81」とは、3方向でそれぞれを表示する表示部を有している」との概念で一致する。 したがって、本願補正発明と引用発明1とは、以下の一致点で一致し,以下の相違点で相違する。 [一致点] 「鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材であって、 鍵盤を上面から見る方向を平面視方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、左右方向を側面視方向として、 当該3方向でそれぞれを表示する表示部を有している鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材。」 [相違点] 「3方向でそれぞれを表示する表示部」の「3方向」が「平面視方向」及び「側面視方向」に加え、本願補正発明が、鍵盤楽器に向かって座ったときに、正面に略垂直に配置された鏡面体によって映し出される鏡像を見る方向である正面視鏡像方向であるのに対し、引用発明1は、後カメラ63により撮影する方向である点。 (4)判断 そこで、上記相違点について検討する。 引用発明2の「略正面視鏡像」は、アップライトピアノの鍵盤上の指の置き方を正面側から見た像である本願補正発明の「正面視鏡像」に相当する。 よって、引用発明2には、上記相違点に係る本願補正発明の「鍵盤楽器に向かって座ったときに、正面に略垂直に配置された鏡面体によって映し出される鏡像を見る方向である正面視鏡像方向」を「表示する表示部」が示されているといえる。 そして、引用発明1も引用発明2も、楽器(鍵盤楽器)の教習具という技術分野に属する点で共通し、演奏の指導(運指・正しい指の置き方)を簡易に行う装置を提供するという点で課題が共通するものでる。 そうすると、引用発明1に引用発明2を適用することは、当業者にとって容易想到といえる。 そして、引用発明1は、上・横・後・低位置横の多方向からの撮影データを表示していることからすれば、引用発明2を適用し、正面視鏡像方向から表示をする表示部を設けることは、当業者が容易になし得るものである。 そして,本願補正発明の効果も,引用発明1及び引用発明2から,当業者が予測し得る程度のものといえる。 したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない発明であって、特許出願の際、独立して特許を受けることが出来ないものであるから、本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してされたものである。 (5)むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 また、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとしても、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明は、令和2年8月31日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。 「【請求項2】 鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材であって、 鍵盤上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態を上面から見る方向を平面視方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、正面に略垂直に配置された鏡面体によって映し出される鏡像を見る方向を正面視鏡像方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、左右方向を側面視方向として、 鍵盤上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態について、正しい一の状態を当該3方向でそれぞれ見た状態を表示する表示部と、当該正しい一の状態に対して誤った一の状態を当該3方向でそれぞれ見た状態を表示する表示部を有していることを特徴とする鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材。」 ここで、「平面視方向」についての「上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態」との記載、並びに「表示部」についての「鍵盤上に置いた指の状態又は鍵盤を弾いている指の状態について」、「正しい一の状態」、「当該正しい一の状態に対して誤った一の状態」との記載は、いずれも、「平面視方向」及び「表示部」の形状、構造、構成要素、組成、作用、機能、性質、特性、方法(行為又は動作)、用途等を特定するものではなく、また、「鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材」に特に適した構造等を意味するものとは認められない。 してみると、「平面視方向」とは、「鍵盤を上面から見る方向」との特性が特定されたものとしか認められず、また、「表示部」とは、「3方向でそれぞれ見た状態を表示する」との機能が特定されたものとしか認められない。 よって、本願発明は、以下のとおり解して、検討する。 「【請求項2】 鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材であって、 鍵盤を上面から見る方向を平面視方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、正面に略垂直に配置された鏡面体によって映し出される鏡像を見る方向を正面視鏡像方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、左右方向を側面視方向として、 当該3方向でそれぞれ見た状態を表示する表示部を有していることを特徴とする鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材。」 (以下「本願発明」という。) 2 原査定の拒絶の理由 原査定の理由は、 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 という理由を含むものである。 記 ・請求項 1−4 ・引用文献等 1−2 <引用文献等一覧> 1.特開2017−32693号公報 2.登録実用新案第3218363号公報 3 引用例 令和2年6月26日付けの拒絶理由通知に引用された引用例1及び引用例2、並びにこれらの記載内容は上記「第2 3 (2)」に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、実質的に、本願補正発明の「表示部」の「正面視鏡像方向を表示する表示部を有しており」との記載を削除したものである。 上記の点を踏まえ、本願発明と引用発明1を対比すると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違する。 [一致点] 「鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材であって、 鍵盤を上面から見る方向を平面視方向とし、 鍵盤楽器に向かって座ったときに、左右方向を側面視方向として、 当該3方向でそれぞれを表示する表示部を有している鍵盤楽器基礎テクニックの指導教材。」 [相違点] 「3方向でそれぞれを表示する表示部」の「3方向」が「平面視方向」及び「側面視方向」に加え、本願発明が、鍵盤楽器に向かって座ったときに、正面に略垂直に配置された鏡面体によって映し出される鏡像を見る方向である正面視鏡像方向であるのに対し、引用発明1は、後カメラ63により撮影する方向である点。 そして、[一致点]及び[相違点]は、上記の[第2 3(3)」で検討した[一致点]及び[相違点]と相違するものではないから、本願発明は、引用発明1及び引用発明2により、当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、請求人は、上記意見書において‘「実質的に同一状態を同時に3方向で観測する」という技術的思想がない引用文献1及び2からは、例え当業者であっても、本発明に容易に想到できるものではありません。’旨主張している。 しかし、引用発明1は、後カメラ63、横カメラ62、上カメラ61、低位置横カメラ64により撮影された撮影データが表示されるタッチパネル81であることから、同時に3方向から観測する技術思想があることは明らかである。 よって、請求人の主張は採用できない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2022-05-10 |
結審通知日 | 2022-05-17 |
審決日 | 2022-05-31 |
出願番号 | P2018-249003 |
審決分類 |
P
1
8・
56-
Z
(G09B)
P 1 8・ 121- Z (G09B) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
吉村 尚 |
特許庁審判官 |
藤本 義仁 佐々木 創太郎 |
発明の名称 | 鍵盤楽器基礎テクニックの指導方法及び指導教材 |