• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61M
管理番号 1386828
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-23 
確定日 2022-01-07 
事件の表示 特願2019−528405「麻酔器に用いる酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月10日国際公開、WO2019/008949、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)5月29日(優先権主張 平成29年7月5日)を国際出願日とする出願であって、以降の手続は以下のとおりである。
令和2年 8月26日付け :拒絶理由通知書
令和2年 10月26日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 12月23日付け:拒絶査定
令和3年 3月23日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年 12月23日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1及び2に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開平9−183601号公報
引用文献2:国際公開第2016/098180号

第3 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「 本願発明2」という。)は、令和3年3月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
濃縮酸素の流量の増加に伴い前記濃縮酸素の濃度が低下する特性を有し、麻酔器に用いる酸素濃縮装置であって、
大気中の空気を供給するコンプレッサと、
前記コンプレッサによって供給された空気をゼオライトに通して濃縮酸素を生成する酸素濃縮部と、
前記酸素濃縮部から前記麻酔器に供給され得る前記濃縮酸素の一部を前記麻酔器を介さず大気中にパージするための流量調整部と、
を有し、
前記流量調整部から前記濃縮酸素の一部を前記麻酔器を介さず大気中にパージすることにより、前記麻酔器に供給される前記濃縮酸素の流量及び酸素濃度を同時に低減させる、
麻酔器に用いる酸素濃縮装置。
【請求項2】
濃縮酸素の流量の増加に伴い前記濃縮酸素の濃度が低下する特性を有し、麻酔器に用いる酸素濃縮方法であって、
コンプレッサによって供給された空気を酸素濃縮部でゼオライトに通して濃縮酸素を生成する濃縮酸素生成工程と、
前記酸素濃縮部から前記麻酔器に供給され得る前記濃縮酸素の一部を流量調整部で前記麻酔器を介さず大気中にパージするパージ工程と、
を有し、
前記パージ工程では、前記流量調整部から前記濃縮酸素の一部を前記麻酔器を介さず大気中にパージすることにより、前記麻酔器に供給される前記濃縮酸素の流量及び酸素濃度を同時に低減させる、麻酔器に用いる酸素濃縮方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献1には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審が付与したものである。以下同様。)。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、大気から分離され、空気よりも高い濃度で酸素を含有する酸素富化空気の供給装置に関する。さらに詳しくは、使用に供するために供給手段に流入する酸素富化空気を所望の流量及び酸素濃度に制御することが可能な酸素富化空気供給装置に関する。」
(2)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は、従来の酸素富化空気供給装置における上記不都合を解消するために鋭意研究した結果、従来の流量可変方式ではなく、濃度可変方式を採用すると、上記不都合を解消しうることを見出し、本発明に到達した。
【0006】すなわち本発明は、空気よりも高められた濃度の酸素を含有する酸素富化空気を発生する手段、該発生手段から酸素富化空気を使用者に供給する流路中に設けられた第1流量制御手段、必要に応じ該第1流量制御手段の下流側に設けられた第2流量制御手段、及びその下流側に設けられた酸素富化空気供給手段を有する酸素富化空気供給装置において、該装置は、更に該供給手段から供給される酸素富化空気の酸素濃度を設定できる供給量設定手段を有し、該発生手段の富化空気発生量が該供給量設定手段により設定された酸素濃度に連動して増減し、かつ該第1流量制御手段から供給される流量を略一定になるように調節することを特徴とする酸素富化空気供給装置を提供する。」
(3)「【0009】本発明における空気よりも高められた濃度の酸素を含有する酸素富化空気は空気中の酸素を濃縮して製造され、酸素濃縮のためには吸着型酸素濃縮器が有利に用いられる。以下の説明は、主として吸着型酸素濃縮器を用いた場合について行う。
【0010】本発明の酸素富化空気供給装置は、例えば医師の処方によって定められる患者の使用に供すべき酸素供給量に応じて、酸素富化空気の酸素濃度を設定できる供給量設定手段を有し、該設定手段により設定された酸素濃度と連動して酸素濃縮器等の酸素富化空気発生手段における酸素富化空気の発生量が増減し、その発生量は、設定酸素濃度の低下につれて増大するものである。このようにすることにより、特定の装置において発生酸素濃度の範囲を大きく変化させることができる。
【0011】該供給量設定手段としては、第1流量制御手段2の酸素富化空気排出ライン24に設けられた排出流量制御手段(図示せず)そのものであることができるし、あるいはそれとは離れた位置に設置することができる設定手段とその設定手段による設定値に従って排出流量制御手段を駆動するための電気的制御システムとからなるものであることができる。或いは第1流量制御手段2と供給量設定手段5とが一体化したものであることもできる。
【0012】上記の供給量設定手段において設定される酸素濃度と発生手段における酸素富化空気の発生量及び酸素濃度との関係、第1流量制御手段において排出される酸素富化空気量と発生手段において発生するその量及び酸素濃度との関係は、個々の酸素富化空気供給装置の能力(例えば最高到達酸素濃度、その時の発生流量等)及び予定される処方(酸素濃度及び/又は流量)により定まるものである。一般的に処方はいくつかの非連続的な数値で定められるので、上記関係も連続的変化に対応する必要がない場合が多く、従って予定される非連続的な設定値に対応した排出量を定めれば良いので、装置能力が定まれば実験で容易に求めることができる。
【0013】このように、酸素富化空気発生手段における発生量の増減は、基本的には酸素濃縮器1から出てゆくガス量を増減することにより達成され、それは、本質的に前記酸素富化空気排出ラインからの排出量の増減によるが、かかる増減により酸素濃縮器1の出口の圧力サイクルが変化し、例えば、酸素濃縮器1における窒素吸着の時間の変化、コンプレッサー11の吐出量の変化、酸素濃縮器1内部の吸着剤の吸着効率の変化が生起する。
【0014】この場合、酸素濃度は例えば、40%、60%、70%、80%、90%の各レベルで、さらにはそのレベルの所定の範囲内で可変設定できることが好ましい。また、本発明の酸素富化空気供給装置は、供給手段における酸素富化空気供給量を約1.5〜5.5リットル/分のレベルで供給できることが望ましい。
【0015】本発明の酸素富化空気供給装置においては、第1流量制御手段2は一部の酸素富化空気を排出することができる形式のものであることが好ましい。また、排出される酸素富化空気の量は、供給量設定手段5により設定された酸素濃度の低下につれて増大する。供給量設定手段5によって設定された酸素濃度が低下したことにより、低濃度の、増大した発生量の酸素富化空気が発生手段から流出し、供給手段4への導管に流入すると、第1流量制御手段2において、過剰な流量の酸素富化空気を排出して、その流量が調整され、第1流量制御手段2の下流側の導管及び供給手段4により患者に供給される酸素富化空気の流量を安定した状態とする。
【0016】このように、第1流量制御手段2から排出される酸素富化空気の量により、前記発生手段における酸素富化空気の発生量及び酸素濃度が制御されるが、これによって酸素富化空気の流量を安定化させることができる。」
(4)「【0025】図2中、31が、上流側導管が接続された酸素富化空気の流入部である。33が、開孔部32等の開孔面積の異なる複数の開孔部を備えて、排出量に対応してその開孔部が選択して使用できるようにしたオリフィス型の排出量設定部である。35が、開孔部34等の開孔面積の異なる複数の開孔部を備えて、利用酸素富化空気流量に対応してその開孔部が選択して使用できるようにしたオリフィス型の利用流量設定部である。図2に示されたものは、排出流量設定部33と利用流量設定部35が一体化されているが、これらは必ずしも一体化されている必要はなく、対応関係をもって連動すればよい。36は、排出酸素富化空気を排出する導出部であり、その下流側は大気に開放されている。37は、使用者に供給すべき酸素富化空気の導出部である。38は、一体化されている排出流量設定部33と利用流量設定部34との双方を同一の回転操作によって、所望の利用流量と所望の排出流量に設定するための回転軸であって、回転操作を容易にするためのツマミ(図示せず)がさらにその左端部に取付けられる。」
(5)「【0031】図1は本発明の酸素富化空気供給装置の好ましい実施態様例を模式的に示した概略フローチャートである。図1において、1は酸素よりも窒素を吸着しやすいモレキュラーシーブ5A等の吸着剤が充填された酸素濃縮器であり、コンプレッサー11が流路切換え弁12を介して導管によって酸素濃縮器1に連結されており、酸素富化空気を一時的に貯留するサージタンク9が自動開閉弁13を介して導管によって酸素濃縮器1に連結されている。また流路切換え弁12には吸気マフラー等を備えた吸気用導管と排気マフラー等を備えた排気用導管が設けられている。なお、コンプレッサー11からサージタンク9までが実施例においては酸素富化空気の発生手段を構成している。」
(6)「【0034】図1の酸素富化空気供給装置の運転態様としては、電磁弁13、18を開いた状態で、図1の如く弁12を介してコンプレッサー11により、加圧空気を酸素濃縮器1に導入して窒素を吸着させ、得られた酸素富化空気が導管14を介してサージタンク9に貯留される。サージタンク9に貯留された酸素富化空気は、過剰の酸素富化空気は放出されてオリフィス型流量設定器2(流量制御手段)により所定の流量に調整され、減圧弁23、除菌フィルター25を通過した後、オリフィス型流量設定器3により所定の流量に調整されて、加湿器7により加湿され、導管21に連結された鼻カニューラ4を経て呼吸器疾患の患者等に供給される。」
(7)「【0040】
【発明の効果】本発明によれば、流量をほぼ一定にし、酸素濃度を変化させることが可能となり、患者の使用感を改善することができるとともに、加湿器による加湿度の調整ができ、ドレンの発生を防止することができる。」
(8)引用文献1には以下の図が示されている。
【図1】

【図2】


(9)段落【0001】の「本発明は、大気から分離され、空気よりも高い濃度で酸素を含有する酸素富化空気の供給装置に関する。」との記載、【0009】の「本発明における空気よりも高められた濃度の酸素を含有する酸素富化空気は空気中の酸素を濃縮して製造され」との記載、及び図1の構成からみて、コンプレッサー11は大気中の空気を供給するものであると認められる。
(10)段落【0031】の「図1において、1は酸素よりも窒素を吸着しやすいモレキュラーシーブ5A等の吸着剤が充填された酸素濃縮器であり、コンプレッサー11が流路切換え弁12を介して導管によって酸素濃縮器1に連結されており」との記載、段落【0034】の「図1の如く弁12を介してコンプレッサー11により、加圧空気を酸素濃縮器1に導入して窒素を吸着させ、得られた酸素富化空気が導管14を介してサージタンク9に貯留される。」との記載から、酸素濃縮器1は、コンプレッサー11によって供給された加圧空気をモレキュラーシーブ5Aに通して酸素富化空気を生成しているものと認められる。
(11)段落【0015】の「本発明の酸素富化空気供給装置においては、第1流量制御手段2は一部の酸素富化空気を排出することができる形式のものであることが好ましい。」との記載、段落【0025】の「36は、排出酸素富化空気を排出する導出部であり、その下流側は大気に開放されている。」との記載及び図2の構成からみて、第1流量制御手段2は、酸素濃縮器1から供給され得る酸素富化空気の一部を大気中に排出するものと認められる。
(12)段落【0015】の「排出される酸素富化空気の量は、供給量設定手段5により設定された酸素濃度の低下につれて増大する。供給量設定手段5によって設定された酸素濃度が低下したことにより、低濃度の、増大した発生量の酸素富化空気が発生手段から流出し、供給手段4への導管に流入すると、第1流量制御手段2において、過剰な流量の酸素富化空気を排出して、その流量が調整され、第1流量制御手段2の下流側の導管及び供給手段4により患者に供給される酸素富化空気の流量を安定した状態とする。」との記載からみて、引用文献1の酸素富化空気供給装置は、第1流量制御手段2から酸素富化空気の一部を排出することにより、供給される酸素富化空気の酸素濃度を低減させるものと認められる。
(13)上記(1)〜(8)の摘記事項及び上記(9)〜(12)の認定事項を踏まえると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「酸素富化空気供給装置であって、
大気中の空気を供給するコンプレッサー11と、
前記コンプレッサー11によって供給された加圧空気をモレキュラーシーブ5Aに通して酸素富化空気を生成する酸素濃縮器1と、
酸素濃縮器1から供給され得る前記酸素富化空気の一部を大気中に排出するための第1流量制御手段2と、
を有し、
第1流量制御手段2から前記酸素富化空気の一部を大気中に排出することにより、供給される前記酸素富化空気の酸素濃度を低減させる、
酸素富化空気供給装置。」

2 引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献2には、次の記載がある。

(1)「[0002] 従来では、全身ガス麻酔を施す際、麻酔器を用いて、麻酔効果のある亜酸化窒素(以下、適宜「笑気ガス」という)と酸素とを適量混合し、更に気化性麻酔剤を加えて気道内に送入し実施していた。通常、酸素濃度60%程度の笑気ガス・酸素の混合気体により、麻酔中の患者の呼吸を維持していた。
[0003] しかしながら、近年、笑気ガスの副作用等が指摘され、笑気ガスの使用頻度が低くなってきた。そして、笑気ガスを使わない場合、患者の呼吸は100%の酸素濃度の酸素で維持される。
[0004] ところで、酸素濃度100%の酸素を長時間吸入した場合に、生体に悪影響を及ぼす。また、笑気ガスを用いなければ、肺生理に有効となる笑気ガスに含まれる窒素分がなくなり、適切な麻酔が施せない。
[0005] かかる問題点を補う目的で、近年、笑気ガスに替えて、酸素ボンベ又はエアコンプレッサから圧縮空気を送り、酸素と空気との混合ガスで麻酔を施すようになっている。
[0006] ここで、エアコンプレッサから供給される圧縮空気は、以下の3つの要件を満たさなければならない。 (1)十分に乾燥されている (2)油脂分等が含まれていない (3)無菌である
[0007] ところが、これらの要件を満たすエアコンプレッサは高額になり、普及の妨げになっていた。
[0008] このため、エアコンプレッサの代用として、酸素濃縮装置が考えられる。酸素濃縮装置を用いることにより、酸素ボンベが不要になり、上記3つの要件を満たし、かつ安価である反面、酸素濃縮装置から送入されるガスの酸素濃度が約90%になり、窒素濃度が10%程度しかならない。」
(2)上記の記載事項から、引用文献2には、次の技術が記載されている。
「麻酔器に用いる酸素濃縮装置。」

3 その他の文献について
3−1 公知文献1について
また、前置報告において技術常識を示す文献として示された公知文献1(特開2016−131778号公報)には、次の記載がある。

(1)「【0021】
<麻酔装置>
図1は、本発明を適用した一実施形態である麻酔装置1の構成を示す系統図である。本実施形態の麻酔装置1は、麻酔器と水素濃度制御部とを備えたものである。具体的には、図1に示すように、本実施形態の麻酔装置1は、ガス供給回路2と、麻酔ガス調製回路3と、水素含有ガス供給回路4と、呼吸回路5と、水素濃度測定回路6と、第1ガス供給経路L1(ガス供給経路)と、水素含有ガス供給経路L2と、分析用ガス採取経路L3と、第2ガス供給経路L4と、第3ガス供給経路L5と、を備えて概略構成されている。」
(2)「【0023】
(ガス供給回路)
ガス供給回路2は、麻酔ガス調製回路3に、酸素ガスと空気とを供給するための回路である。ガス供給回路2は、酸素供給手段11と、空気供給手段12と、を有して概略構成されている。
【0024】
酸素供給手段11は、酸素ガスを麻酔ガス調製回路3へ供給するための酸素供給源であり、第2ガス供給経路L4を介して後述するガス混合手段21と接続されて設けられている。
【0025】
酸素供給手段11としては、酸素ガスを供給できるものであれば特に限定されないが、具体的には、例えば、高圧酸素ボンベ、液体酸素、酸素ガス発生装置等があげられる。また、酸素ガス発生装置としては、酸素ガスを発生できるものであれば特に限定されないが、具体的には、例えば、PSA式酸素ガス発生装置、膜式酸素ガス発生装置等があげられる。」
(3)「【0072】
<麻酔器用取付キット>
次に、本発明を適用した他の実施形態である、麻酔器用取付キットについて説明する。
本実施形態の麻酔器用取付キットは、麻酔器に装着することにより、ガス循環経路内に水素含有麻酔ガスを供給するとともに水素含有麻酔ガス中の水素濃度を制御するための付属ユニット(後付けユニット)である。ここで「麻酔器」とは、麻酔ガス調製回路と閉鎖回路式又は半閉鎖回路式の呼吸回路とガス供給経路とを備える一般的な麻酔器のことをいう。」
(4)公知文献1には、次の図が示されている。
【図1】

(5)上記の記載事項から、公知文献1には、麻酔器よりも上流側に酸素供給手段11を配置する構成が記載されている。

3−2 公知文献2について
また、前置報告において技術常識を示す文献として示された公知文献2(国際公開第2016/027097号)には、次の記載がある。
(1)「A schematic diagram of part of an anaesthetic machine including its breathing circuit 2 is described below with reference to Figure 1. The primary function of the anaesthetic machine is to mix oxygen with volatile anaesthetic agent, at a clinician-specified concentration, for delivery to the patient via the breathing circuit 2.

The anaesthetic machine and breathing circuit 2 comprises a network of piped gas for inhalation by a patient (not shown). Air, oxygen (02) and nitrous oxide (N20) are supplied respectively to the back bar 15 from an air pipe 3 or an air cylinder pipe 5, an oxygen pipe 7 or an oxygen cylinder pipe 9 and a nitrous oxide pipe 11 or a nitrous oxide cylinder pipe 13.」(第1ページ第22−32行)
(訳:呼吸回路2を含む麻酔器の概要図を図1により説明する。麻酔器の主な機能は、呼吸回路2を介して、患者に送達するために、麻酔医が指定した濃度で、揮発性の麻酔薬と酸素を混合することである。
麻酔器と呼吸回路2は患者(図示せず)による吸引のための管のネットワークを含む。空気、酸素、亜鉛化窒素は、それぞれ、空気管3又は5、酸素管7又は9、亜鉛化窒素9又は11から、バックバー15に供給される。)
(2)「Each of the air, oxygen and nitrous oxide is delivered separately to a respective variable flow valve 19, which allows an anaesthetist to mix the air, oxygen and nitrous oxide as required.」(第2ページ4−6行)
(訳:空気、酸素および亜酸化窒素の各々は、それぞれの可変流量弁19に供給され、それにより、麻酔医が必要に応じて、空気、酸素および亜酸化窒素の混合することを可能にする。)
(3)「The back bar 15 comprises a vaporiser 10 and a pressure relief valve 16. The vaporiser 10 contains a vaporisation chamber 21 in which the agent 12 is housed. The vaporisation chamber 21 is arranged so that the agent 12 evaporates to form vapour 14 at the saturated vapour pressure of the agent 12.」(第2ページ第14−17行)
(訳:バックバー15は、気化器10と圧力リリーフ弁16を備えている。気化器10は、麻酔薬12が収容される気化室21を含む。気化室21は、麻酔薬12が飽和蒸気圧で蒸気14となるように、配置されている。)
(4)「The patient inhales gases via a face mask 4 which fits over and forms a seal around the patient's nose and mouth. The face mask 4 is connected to an inspiratory tube 6 which supplies gases containing an anaesthetic agent 12, and an expiratory tube 8 through which exhaled and unused gases and agent 12 are transported away from the patient. The inspiratory tube 6 and expiratory tube 8 are typically corrugated hoses.」(第2ページ第23−27行)
(訳:患者が、患者の鼻及び口の周りをシールするように形成されているフェイスマスク4を介してガスを吸入する。フェイスマスク4は、麻酔薬12を含むガスを供給する吸気管6と、患者から吐き出されて使用されなかったガス及び麻酔薬12を離れたところに移送する吸気管8に、接続されている。)
(5)公知文献2には、次の図が示されている。
Fig.1


(6)上記の記載事項から、公知文献2には、麻酔器よりも上流側から酸素を供給する構成が記載されている。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「酸素富化空気供給装置」は、その構造及び機能からみて、本願発明1の「酸素濃縮装置」に相当し、以下同様に、「酸素富化空気」は「濃縮酸素」に、「コンプレッサー11」は「コンプレッサ」に、「加圧空気」は「空気」に、「酸素濃縮器1」は「酸素濃縮部」に、「第1流量制御手段2」は「流量調整部」に、「排出」は「パージ」に、それぞれ相当する。
また、「モレキュラーシーブ」は「アメリカのリンデ社の商品名で、合成ゼオライトの結晶水を除いた均一細孔をもったもので、分離剤、吸着剤として利用される。・・・細孔径は構造、組成によって異なり、3A、4A、5A、13Xなどは、ほぼ3Å、4Å、5Å、10Åの細孔に相当する。」(小学館 日本大百科全書(ニッポニカ))であるから、「モレキュラーシーブ5A」は「ゼオライト」に相当する。

イ そうしてみると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(ア)一致点
「酸素濃縮装置であって、
大気中の空気を供給するコンプレッサと、
前記コンプレッサによって供給された空気をゼオライトに通して濃縮酸素を生成する酸素濃縮部と、
前記酸素濃縮部から供給され得る前記濃縮酸素の一部を大気中にパージするための流量調整部と、
を有し、
前記流量調整部から前記濃縮酸素の一部を大気中にパージすることにより、供給される前記濃縮酸素の酸素濃度を低減させる、
酸素濃縮装置。」

(イ)相違点
(相違点1)酸素濃縮装置について、本願発明1は「濃縮酸素の流量の増加に伴い前記濃縮酸素の濃度が低下する特性を有し」ているのに対して、引用発明はそのような特性を有するのか明らかでない点。
(相違点2)本願発明1の酸素濃縮装置は麻酔器に用いられるのに対し、引用発明はそのような構成を有するのか明らかでない点。
(相違点3)本願発明1は流量調整部により、「濃縮酸素の一部を麻酔器を介さず大気中にパージする」のに対し、引用発明はそのような構成を有するか明らかでない点。
(相違点4)流量調整部から濃縮酸素の一部を大気中にパージすることにより、本願発明1は、「供給される前記濃縮酸素の流量及び酸素濃度を同時に低減させる」のに対して、引用発明は酸素濃度は低減させるものの、同時に流量を低減させるか否か明らかでない点。

(2)判断
ア 上記相違点1について検討する。
引用文献1の段落【0010】の「酸素富化空気の酸素濃度を設定できる供給量設定手段を有し、該設定手段により設定された酸素濃度と連動して酸素濃縮器等の酸素富化空気発生手段における酸素富化空気の発生量が増減し、その発生量は、設定酸素濃度の低下につれて増大するものである。」との記載、段落【0015】の「供給量設定手段5によって設定された酸素濃度が低下したことにより、低濃度の、増大した発生量の酸素富化空気が発生手段から流出し、供給手段4への導管に流入すると」との記載から、引用文献1の酸素富化空気供給装置は、酸素濃縮器1から発生する酸素富化空気の発生量が増加すると酸素濃度が低下するものといえる。
また、段落【0013】の「このように、酸素富化空気発生手段における発生量の増減は、基本的には酸素濃縮器1から出てゆくガス量を増減することにより達成され、それは、本質的に前記酸素富化空気排出ラインからの排出量の増減によるが、かかる増減により酸素濃縮器1の出口の圧力サイクルが変化し、例えば、酸素濃縮器1における窒素吸着の時間の変化、コンプレッサー11の吐出量の変化、酸素濃縮器1内部の吸着剤の吸着効率の変化が生起する。」との記載からみても、引用文献1の酸素富化空気供給装置は、酸素富化空気の発生量(流量)の増加によって、コンプレッサー11から供給される空気が酸素濃縮器1を通過する時間が短くなり、窒素の吸着効率が低下し、発生する酸素富化空気の酸素濃度が低下する特性(原理)を有するものといえる。
そうしてみると、引用発明の酸素富化空気供給装置(酸素濃縮装置)も、上記相違点1に係る本願発明1の構成と同様に、酸素富化空気(濃縮酸素)の流量の増加に伴い酸素濃度が低下する特性を有するものといえる。よって、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

イ 次に上記相違点2及び3についてまとめて検討する。
酸素濃縮装置を麻酔器に用いることは、引用文献2に記載されている(上記第4 2(2))。また、麻酔器においては、酸素の供給は麻酔器よりも上流側で行うことも、公知文献1(上記第4 3(5))及び公知文献2(上記第4 4(6))に示されるように技術常識であるから、引用発明の酸素富化空気供給装置を麻酔器に用いるとともに、麻酔器よりも上流側に配置することで、第1流量制御手段2(流量調整部)による酸素富化空気(濃縮酸素)の排出(パージ)を麻酔器を介さずに行うものとすることは、当業者が容易になし得ることである。

ウ 次に相違点4について検討する。
引用文献1の段落【0015】の「また、排出される酸素富化空気の量は、供給量設定手段5により設定された酸素濃度の低下につれて増大する。供給量設定手段5によって設定された酸素濃度が低下したことにより、低濃度の、増大した発生量の酸素富化空気が発生手段から流出し、供給手段4への導管に流入すると、第1流量制御手段2において、過剰な流量の酸素富化空気を排出して、その流量が調整され、第1流量制御手段2の下流側の導管及び供給手段4により患者に供給される酸素富化空気の流量を安定した状態とする。」との記載からみて、引用文献1に記載のものは、酸素濃縮器1で発生する酸素富化空気について、第1流量制御手段2により酸素濃度を低下させつつ、過剰な流量の酸素富化空気の一部の排出(パージ)は行っているものの、患者に供給される酸素富化空気の流量については安定した状態にするものといえる。
また、引用文献1に記載の発明の課題として、引用文献1の段落【0003】には「かかる従来の酸素富化空気供給装置においては、必要な酸素供給量の変化に流量変更で酸素供給量を変えることにより対応しているため、特に流量の少ない場合には、酸素富化空気が供給されていることを患者も感じとれないこともあった。」と記載され、発明の解決手段として、段落【0005】には「本発明者は、従来の酸素富化空気供給装置における上記不都合を解消するために鋭意研究した結果、従来の流量可変方式ではなく、濃度可変方式を採用すると、上記不都合を解消しうることを見出し、本発明に到達した。」、段落【0006】には「すなわち本発明は、・・・かつ該第1流量制御手段から供給される流量を略一定になるように調節することを特徴とする酸素富化空気供給装置を提供する。」と記載され、発明の効果として、段落【0040】には「本発明によれば、流量をほぼ一定にし、酸素濃度を変化させることが可能となり、患者の使用感を改善することができる」と記載されている。
これらの記載を総合して引用文献1に記載される内容を把握すると、引用文献1に記載のものは、酸素濃縮器1で発生した過剰な流量の酸素富化空気の一部を第1流量制御手段2によって排出することで、第1流量制御手段2の下流側(供給手段4)へ、酸素濃度を低下させた一定の(所望の)流量の酸素富化空気を供給しようとするものであり、すなわち、供給手段4へ供給する酸素富化空気について、酸素濃度を低下させることで、流量を変化させないようにするものであるといえる。そうすると、引用発明は、相違点4に係る本願発明1のように、「供給される前記濃縮酸素の流量及び酸素濃度を同時に低減させる」ものであるとはいえない。
また、引用文献1に記載のものは、上述したように一定の流量の酸素富化空気を供給手段4へ供給することを目的(課題)とするものであるから、引用発明において「供給される前記濃縮酸素の流量及び酸素濃度を同時に低減させる」ように改変する動機付けもない。
よって、本願発明1は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び公知文献1、2に示されるような技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の相違点4に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び公知文献1、2に示されるような技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び公知文献1、2に示されるような技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-12-15 
出願番号 P2019-528405
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61M)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 佐々木 一浩
特許庁審判官 加藤 啓
莊司 英史
発明の名称 麻酔器に用いる酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法  
代理人 西村 知浩  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ