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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F |
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管理番号 | 1386883 |
総通号数 | 8 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-04-26 |
確定日 | 2022-07-14 |
事件の表示 | 特願2018−161008「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 3月 5日出願公開、特開2020− 31867〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成30年8月30日の出願であって、令和2年8月13日付けで拒絶の理由が通知され、同年10月12日に意見書及び手続補正書が提出され、同年同月30日付けで最後の拒絶の理由が通知され、同年12月21日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年1月13日付け(謄本送達日:同年同月26日)で、令和2年12月21日付け手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、当審において、令和4年3月8日付けで拒絶の理由が通知(以下、通知された拒絶の理由を「当審拒絶理由」という。)され、同年4月6日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和4年4月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。なお、符号A等は、分説するため当審で付与した。以下、分説された本願発明の発明特定事項を、符号に基づき「発明特定事項A」等という。 「A 遊技球を貯留可能な貯留部を備えた遊技機において、 B 前記貯留部は、当該貯留部の底面部に、 B1 貯留した遊技球を排出する貫通孔と、 B2 前記貫通孔を開閉する開閉部材と、を備え、 C 前記底面部の下面と前記開閉部材の下面との間の距離が、前記底面部の上面と前記開閉部材の上面との間の距離よりも長く、 D 前記底面部の上面は、前記開閉部材の上面よりも上方に位置するとともに前記開閉部材の上面に接した状態の遊技球の中心よりも下方に位置し、 E 前記貫通孔の直径は、遊技球の直径の3倍以上であり、 F 前記開閉部材の操作部は、遊技機の前面側から見て前記貫通孔よりも左側に位置し、 H 前記貯留部の後面部は、下方部が上方部よりも後側となる様な傾斜または段差を有する G ことを特徴とする遊技機。」 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項1 ・引用文献等 引用例1.実公平4−32146号公報 引用例2.実公平7−31824号公報(周知技術を示す文献) 引用例3.特開2000−245935号公報(周知技術を示す文献) 第4 引用例の記載、引用発明 1 引用例1の記載 当審拒絶理由で引用例1として引用され、本願の出願前に頒布された実公平4−32146号公報には、パチンコ機用球受皿(発明の名称)に関し、次の事項が図とともに記載されている。なお、下線は合議体が付した。以下同じ。 (1)第2頁第4欄第40行〜第42行 「図面に示す球受皿1の実施例は、パチンコ機本体に固定する主構成基台2の右側に球貯留部3を、左側に灰皿4を配設したものである。」 (2)第4頁第7欄第7行〜第25行 「球貯留部3の主底面部28には、左右のほぼ中央であつて球貯留側壁部27側に近い部分にほぼ円形の球抜孔38を開設し、該球抜孔38の下側に球抜機構39を設ける。 第4、5図に示す球抜機構39は、前側縁に作動レバー40を有する板状のシヤツター部材41と、該シヤツター部材41を水平方向に移動可能に支持する支持枠42と、シヤツター部材41を付勢するコイルスプリング43とから構成されている。シヤツター部材41は、上面が平坦な板状体であつて、図中右端に下縁を面取りして尖らせた半円形の球切り部44を形成し、左端に窪み状のスプリグ受部45を形成し、作動レバー40の基端にはガイド溝46を形成してある。このシヤツター部材41を収納する支持枠42は、底部の一側に内径が球抜孔38とほぼ同じ大きさの球通過孔47を開設し、該球通過孔47の開口縁に短尺な筒状球案内部材48を上向きに形成した浅い箱状体であり、」 (3)第4頁第8欄第43行〜第5頁第9欄第11行 「上記した構成から成る球受皿1をパチンコ機本体に取り付けるには、主構成基台2から突出した貫通固定部材9…をパチンコ機前面の装飾板65に開設した通孔内及び前面枠66に開設した通孔内に挿通し、前面枠の裏側に突出した貫通固定部材9…の先端雄ネジ部にナツト(図示せず)を螺合して装飾板65及び前面枠66を締結して固定する。この様にした取り付けると、装飾板65に開口した接続樋67の拡張球出口68が球貯留部に連通する。したがつて、遊技中に拡張球出口68から排出される球、例えば球供給皿69からオーバーフローした球やフアール球を球貯留部3内に貯留しておくことができる。」 (4)第5頁第9欄第16行〜第24行 「球抜孔38を開放すると、該球抜孔38と筒状球案内部材48とが連通して球誘導路が形成される。したがつて、球貯留部3内の球が球誘導路内を筒状球案内部材48により流下方向を規制されながら流下する。このため、球抜孔38から落下した球は、落下途中で散乱することなく、球貯留部3の下方に予め用意しておいた球受箱70内に全て収容される。」 (5)第5頁第9欄第25行〜第40行 「また、本実施例では第4図で示すように、球抜孔38の内周面を下方に僅かに縮径し、また球抜孔38の直径Dを球径dの整数倍よりも小さく(nd<D<(n+1)d;nは自然数)形成して、しかも球抜孔38の深さに相当する厚み段部Hを球径dの半分以下(H<d/2)にしてある。したがつて、球貯留部3内に複数の球が溜まつた場合、球抜孔38の部分においてはシヤツター部材41に載つた球Aと球抜孔38の縁との間に球よりも小さな間隙cが必ず形成され、またこの間隙cの上方に、シヤツター部材41上の球Aと球抜孔38とにより支持されて不安定な状態の球Bとが生じる。即ち、球抜孔38の近傍においては球同士が接触する接点の高さにバラツキを付け、球同士による所謂ブリツジ現象が発生しないようにしている。」 (6)第5頁第10欄第32行〜第37行 「図面の簡単な説明 図面は本考案の一実施例を示すもので、第1図は斜視図、第2図は分解斜視図、第3図は灰皿基部の断面図、第4図は球貯留部の断面図、第5図は球抜機構の分解斜視図、第6図はパチンコ機の断面図である。」 (7)第1図 「 」 (8)第2図 「 」 (9)第4図 「 」 (10)第5図 「 」 (11)引用例1の第4図の記載から、 「支持枠42の下面とシヤツター部材41の下面との間の距離が、球貯留部3の主底面部28の上面とシヤツター部材41の上面との間の最短距離よりも長い」 ことが見て取れる。 また、引用例1の第4図の記載から、 「球貯留部3の主底面部28の上面は、シヤツター部材41の上面よりも上方に位置する」 ことが見て取れる。 また、引用例1の第4図には、その上方に二点鎖線で「ほぼ円形の球抜孔38」が記載され、その下方に実線で示された「ほぼ円形の球抜孔38」の断面内に、二点鎖線で「シヤツター部材41上に載つた」3つの「球A」が記載されているところ、これらの記載から、 「ほぼ円形の球抜孔38の直径Dは、球径dの3倍以上である」 ことが見て取れる。 以上のとおり、引用例1の第4図の記載から、 「支持枠42の下面とシヤツター部材41の下面との間の距離が、球貯留部3の主底面部28の上面とシヤツター部材41の上面との間の最短距離よりも長く、 球貯留部3の主底面部28の上面は、シヤツター部材41の上面よりも上方に位置し、 ほぼ円形の球抜孔38の直径Dは、球径dの3倍以上である」 ことが見て取れる(第4図からの認定事項)。 (12)引用例1の第1図及び第5図の記載から、 「作動レバー40の右端は、パチンコ機の前面側から見てシヤツター部材41の右端に形成した半円状の球切り部44よりも左側に位置する」 ことが見て取れる(第1図及び第5図からの認定事項)。 2 引用発明 上記(1)ないし(11)からみて、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。なお、発明特定事項A等に概ね対応させて符号a1等を付与し、引用箇所を併記した。 「a1 球受皿1は、パチンコ機本体に固定する主構成基台2の右側に球貯留部3を配設したものであり(第2頁第4欄第40行〜第42行)、 b1,d1,f1 球貯留部3の主底面部28には、ほぼ円形の球抜孔38を開設し、該球抜孔38の下側に球抜機構39を設け、 球抜機構39は、前側縁に作動レバー40を有する板状のシヤツター部材41と、該シヤツター部材41を水平方向に移動可能に支持する支持枠42と、シヤツター部材41を付勢するコイルスプリング43とから構成されており、シヤツター部材41は、右端に半円形の球切り部44を形成し、シヤツター部材41を収納する支持枠42は、底部の一側に内径が球抜孔38とほぼ同じ大きさの球通過孔47を開設し、該球通過孔47の開口縁に短尺な筒状球案内部材48を上向きに形成した浅い箱状体であり(第4頁第7欄第7行〜第25行)、 a2 球受皿1をパチンコ機本体に取り付けると、装飾板65に開口した接続樋67の拡張球出口68が球貯留部に連通し、したがつて、遊技中に拡張球出口68から排出される球、例えば球供給皿69からオーバーフローした球やフアール球を球貯留部3内に貯留しておくことができ(第4頁第8欄第43行〜第5頁第9欄第11行)、 b2 球抜孔38を開放すると、該球抜孔38と筒状球案内部材48とが連通して球誘導路が形成され、したがつて、球貯留部3内の球が球誘導路内を筒状球案内部材48により流下方向を規制されながら流下し、このため、球抜孔38から落下した球は、落下途中で散乱することなく、球貯留部3の下方に予め用意しておいた球受箱70内に全て収容され(第5頁第9欄第16行〜第24行)、 d2 球抜孔38の内周面を下方に僅かに縮径し、また球抜孔38の直径Dを球径dの整数倍よりも小さく(nd<D<(n+1)d;nは自然数)形成して、しかも球抜孔38の深さに相当する厚み段部Hを球径dの半分以下(H<d/2)にしてあり、したがつて、球貯留部3内に複数の球が溜まつた場合、球抜孔38の部分においてはシヤツター部材41に載つた球Aと球抜孔38の縁との間に球よりも小さな間隙cが必ず形成され、またこの間隙cの上方に、シヤツター部材41上の球Aと球抜孔38とにより支持されて不安定な状態の球Bとが生じる、即ち、球抜孔38の近傍においては球同士が接触する接点の高さにバラツキを付け、球同士による所謂ブリツジ現象が発生しないようにしており(第5頁第9欄第25行〜第40行)、 c,d3,e 支持枠42の下面とシヤツター部材41の下面との間の距離が、球貯留部3の主底面部28の上面とシヤツター部材41の上面との間の最短距離よりも長く、 球貯留部3の主底面部28の上面は、シヤツター部材41の上面よりも上方に位置し、 ほぼ円形の球抜孔38の直径Dは、球径dの3倍以上であり(第4図からの認定事項)、 f2 作動レバー40の右端は、パチンコ機の前面側から見てシヤツター部材41の右端に形成した半円状の球切り部44よりも左側に位置する(第1図及び第5図からの認定事項) g パチンコ機(第2頁第4欄第40行)。」 第5 対比 本願発明と引用発明を対比する。なお、見出し(a)ないし(g)は、本願発明の発明特定事項AないしGに概ね対応する。 (a)引用発明の発明特定事項a1及びa2の「球貯留部3」、「パチンコ機」及び「球」は、それぞれ、本願発明の発明特定事項Aの「貯留部」、「遊技機」及び「遊技球」に相当する。そして、引用発明の発明特定事項a2によれば、「遊技中に拡張球出口68から排出される球、例えば球供給皿69からオーバーフローした球やフアール球を球貯留部3内に貯留しておくことができ」るから、引用発明の「球貯留部3」は「遊技球を貯留可能」であるといえる。 したがって、引用発明の発明特定事項a1及びa2は、本願発明の発明特定事項Aに相当する構成を含む。 (b、b1)引用発明の発明特定事項b1,d1,f1の「球貯留部3の主底面部28」は、本願発明の発明特定事項Bの「貯留部の底面部」に相当する。 また、引用発明の発明特定事項b1,d1,f1の「球貯留部3の主底面部28に」「開設」した「ほぼ円形の球抜孔38」は、本願発明の発明特定事項B1の「貯留した遊技球を排出する貫通孔」に相当する。 また、引用発明の発明特定事項b2の「球抜孔38を開放すると、該球抜孔38と筒状球案内部材48とが連通して」「形成される」「球誘導路」も、「球抜孔38を開放すると、」「球誘導路が形成され、」「球貯留部3内の球が球誘導路内を筒状球案内部材48により流下方向を規制されながら流下し、このため、球抜孔38から落下した球は、落下途中で散乱することなく、球貯留部3の下方に予め用意しておいた球受箱70内に全て収容され」ることから、本願発明の発明特定事項B1の「貯留した遊技球を排出する貫通孔」に相当するといえる。 以上のとおり、引用発明の発明特定事項b1,d1,f1の「球抜孔38」及び引用発明の発明特定事項b2の「球誘導路」は、いずれも、本願発明の発明特定事項Bの「貫通孔」に相当する。 したがって、引用発明の発明特定事項b1,d1,f1及びb2は、本願発明の発明特定事項B、B1に相当する構成を含む。 (b、b2)上記(b、b1)で述べたように、引用発明の発明特定事項b1,d1,f1の「球貯留部3の主底面部28」は、本願発明の発明特定事項Bの「貯留部の底面部」に相当する。 また、引用発明の発明特定事項b1,d1,f1における「球抜孔38の下側に」「設け」られる「球抜機構39」を「構成」する「前側縁に作動レバー40を有する板状のシヤツター部材41」は、本願発明の発明特定事項B2における「前記貫通孔を開閉する開閉部材」に相当する。 したがって、引用発明の発明特定事項b1,d1,f1は、本願発明の発明特定事項B、B2に相当する構成を含む。 (c)ア 上記(b、b1)で述べたように、引用発明の発明特定事項b1,d1,f1の「球貯留部3の主底面部28」は、本願発明の発明特定事項Bの「貯留部の底面部」に相当する。 また、引用発明の発明特定事項b1,d1,f1によれば「支持枠42」は「筒状球案内部材48を上向きに形成した浅い箱状体」であるところ、引用発明の発明特定事項b2によれば「筒状球案内部材48」は「該球抜孔38と」「連通して球誘導路」を「形成」するものであるから、引用発明の発明特定事項c,d3,eにおける「支持枠42」は「球誘導路」(本願発明の「貫通孔」に相当する。)を備えるものであるといえる。ここで、本願発明の発明特定事項BないしB2によれば「底面部」は「貫通孔」「を備え」るものであるから、「主底面部28」に加えて、引用発明の発明特定事項c,d3,eの「支持枠42」も、本願発明の「底面部」に相当するといえる。 以上のとおり、引用発明の発明特定事項c,d3,eの「球貯留部3の主底面部28」及び「支持枠42」は、いずれも、本願発明の「底面部」に相当する。そして、引用発明の「支持枠42の下面」が本願発明の「底面部の下面」に相当し、引用発明の「球貯留部3の主底面部28の上面」が本願発明の「底面部の上面」に相当することは、明らかである。 イ 上記(b2)で述べたように、引用発明の「シヤツター部材41」は、本願発明の「開閉部材」に相当する。そうすると、引用発明の「シヤツター部材41の下面」は本願発明の「開閉部材の下面」に相当し、引用発明の「シヤツター部材41の上面」は本願発明の「開閉部材の上面」に相当する。 ウ 以上のことから、引用発明の発明特定事項c,d3,eにおける「支持枠42の下面とシヤツター部材41の下面との間の距離」は、本願発明の発明特定事項Cにおける「前記底面部の下面と前記開閉部材の下面との間の距離」に相当する。 また、引用発明の発明特定事項c,d3,eにおける「球貯留部3の主底面部28の上面とシヤツター部材41の上面との間の最短距離」は、本願発明の発明特定事項Cにおける「前記底面部の上面と前記開閉部材の上面との間の距離」に相当する。 よって、引用発明の発明特定事項c,d3,eにおける「支持枠42の下面とシヤツター部材41の下面との間の距離が、球貯留部3の主底面部28の上面とシヤツター部材41の上面との間の最短距離よりも長」いことは、本願発明の発明特定事項Cにおける「前記底面部の下面と前記開閉部材の下面との間の距離が、前記底面部の上面と前記開閉部材の上面との間の距離よりも長」いことに相当する。 したがって、引用発明の発明特定事項c,d3,eは、本願発明の発明特定事項Cに相当する構成を含む。 (d)ア 上記(c)で述べたように、引用発明の「球貯留部3の主底面部28の上面」は本願発明の「底面部の上面」に相当し、引用発明の「シヤツター部材41の上面」は本願発明の「開閉部材の上面」に相当する。そうすると、引用発明の発明特定事項c,d3,eの「球貯留部3の主底面部28の上面は、シヤツター部材41の上面よりも上方に位置」することは、本願発明の発明特定事項Dの「前記底面部の上面は、前記開閉部材の上面よりも上方に位置する」ことに相当する。 イ 引用発明の発明特定事項d2における「厚み段部H」は、「球抜孔38の深さに相当する」ものであるから、「球抜孔38」という空間の上面と下面との鉛直方向の距離であると認められる。また、引用発明の発明特定事項b1,d1,f1によれば、「球抜孔38」は「球貯留部3の主底面部28に」「開設」されるものであるから、「球抜孔38」の上面は、「球貯留部3の主底面部28の上面」(本願発明の「前記底面部の上面」に相当する。)と同じである。そうすると、「厚み段部H」は、「球貯留部3の主底面部28の上面」と「球抜孔38」の下面との鉛直方向の距離であるといえる。 ここで、引用発明の発明特定事項d2によれば、「厚み段部Hを球径dの半分以下(H<d/2)にしてあ」ることから、引用発明の「球貯留部3の主底面部28の上面」と「球抜孔38」の下面との鉛直方向の距離は、「球径dの半分以下(H<d/2)」となるため、引用発明は、「球貯留部3の主底面部28の上面」が「球抜孔38」の下面に接した状態の「球」の中心よりも下方に位置するものである(上記第4の1(9)の第4図も参照。)。 しかしながら、引用発明における「球貯留部3の主底面部28の上面」と「シヤツター部材41の上面」(本願発明の「前記開閉部材の上面」に相当する。)との鉛直方向の距離は、「厚み段部H」に、「球抜孔38」の下面と「シヤツター部材41の上面」との鉛直方向の距離(「球貯留部3の主底面部28」の下面と「シヤツター部材41の上面」との隙間)が加えられたものであることから、引用発明が本願発明の発明特定事項Dの「前記底面部の上面は、」「前記開閉部材の上面に接した状態の遊技球の中心よりも下方に位置」することに相当する構成を有するか否かは、明らかでない。 ウ 以上のことから、引用発明の発明特定事項c,d3,eは、本願発明の発明特定事項Dと、「前記底面部の上面は、前記開閉部材の上面よりも上方に位置する」点で共通する。 (e)上記(b1)で述べたように、引用発明の「ほぼ円形の球抜孔38」は本願発明の「貫通孔」に相当し、上記(a)で述べたように、引用発明の「球」は本願発明の「遊技球」に相当することから、引用発明の発明特定事項eの「ほぼ円形の球抜孔38の直径D」及び「球径d」は、本願発明の発明特定事項Eの「前記貫通孔の直径」及び「遊技球の直径」に相当する。そして、引用発明の発明特定事項eによれば、「ほぼ円形の球抜孔38の直径Dは、球径dの3倍以上であ」る。 したがって、引用発明の発明特定事項eは、「前記貫通孔の直径は、遊技球の直径の3倍以上であり、」という本願発明の発明特定事項Eに相当する構成を含む。 (f)引用発明の発明特定事項b1,d1,f1によれば、「シヤツター部材41」は「作動レバー40を有する」から、引用発明の「作動レバー40」は、本願発明の発明特定事項Fの「開閉部材の操作部」に相当する。また、引用発明において、「球誘導路」の右端が「シヤツター部材41の右端に形成した半円状の球切り部44」付近に位置することは、技術常識から明らかである。そうすると、引用発明の発明特定事項f2における「作動レバー40の右端は、パチンコ機の前面側から見てシヤツター部材41の右端に形成した半円状の球切り部44よりも左側に位置する」ことは、本願発明の発明特定事項Fにおける「前記開閉部材の操作部は、遊技機の前面側から見て前記貫通孔よりも左側に位置する」ことに相当する。 したがって、引用発明の発明特定事項b1,d1,f1及びf2は、本願発明の発明特定事項Fに相当する構成を含む。 (g)引用発明の発明特定事項gの「パチンコ機」は、本願発明の発明特定事項Gの「遊技機」に相当する。 したがって、引用発明の発明特定事項gは、本願発明の発明特定事項Gに相当する構成を含む。 上記(a)ないし(g)からみて、本願発明と引用発明とは、 「A 遊技球を貯留可能な貯留部を備えた遊技機において、 B 前記貯留部は、当該貯留部の底面部に、 B1 貯留した遊技球を排出する貫通孔と、 B2 前記貫通孔を開閉する開閉部材と、を備え、 C 前記底面部の下面と前記開閉部材の下面との間の距離が、前記底面部の上面と前記開閉部材の上面との間の距離よりも長く、 D’ 前記底面部の上面は、前記開閉部材の上面よりも上方に位置し、 E 前記貫通孔の直径は、遊技球の直径の3倍以上であり、 F前記開閉部材の操作部は、遊技機の前面側から見て前記貫通孔よりも左側に位置する G 遊技機。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1(発明特定事項D)> 本願発明では、「前記底面部の上面」が、「前記開閉部材の上面に接した状態の遊技球の中心よりも下方に位置」するのに対し、 引用発明では、そのように構成されているか否かが明らかでない点。 <相違点2(発明特定事項H)> 本願発明では、「前記貯留部の後面部は、下方部が上方部よりも後側となる様な傾斜または段差を有する」のに対し、 引用発明では、そのように構成されていない点。 第6 判断 1 相違点1について 上記相違点1について検討する。 引用発明の発明特定事項d2によれば、「厚み段部Hを球径dの半分以下(H<d/2)にしてあ」るところ、引用発明の「厚み段部H」は、上限が定められている一方で下限は定められていないから、「シヤツター部材41に載つた球Aと球抜孔38の縁との間に」「必ず形成」される「球よりも小さな間隙c」の機能等に問題が生じない限り、値を小さくしても良いものである。また、引用発明の発明特定事項d2によれば、引用発明は、「厚み段部Hを球径dの半分以下(H<d/2)にしてあ」ること等により、「球抜孔38の近傍においては球同士が接触する接点の高さにバラツキを付け、球同士による所謂ブリツジ現象が発生しないように」するものであることからも、引用発明は、「厚み段部H」の値を小さくする課題を有していたといえる。 また、「球貯留部3の主底面部28」の下面と「シヤツター部材41の上面」との摩擦等の課題を解決するために「球貯留部3の主底面部28」の下面と「シヤツター部材41の上面」との隙間が設けられることは技術常識であるが、上記の課題を解決できる限度で当該隙間を小さくすることも技術常識である。 したがって、引用発明において、相違点1に係る本願発明の発明特定事項Dをなすことは、当業者が容易になし得たことである。 2 相違点2について 上記相違点2について検討する。 パチンコ機の技術分野において、貯留部の後面部が、下方部が上方部よりも後側となる様な傾斜または段差を有することは、周知技術(以下、「周知技術1」という。)である。 本願の出願前に頒布された特開2001−353321号公報(以下、「周知例1」という。)には、遊技機(発明の名称)に関し、次の事項が図とともに記載されている。 「【0016】 ……このパチンコ機1では、本体2の前面下部に遊技媒体としての遊技球を受け入れ貯留するための上皿部6及び下皿部7を一体形成した部材としての受皿ユニット5が取り付けられている。」 「【0028】また、下皿部7の形状も、上皿部6と同様、えぐったような形状で形成される。……これにより、遊技者が下皿部7に貯留されている遊技球を手で掴んで取り出す際に、取り出しやすくしている。……」 「【図3】 」 周知例1の図3の記載から、 「下皿部7の後面部は、下方部が上方部よりも後側となる様な傾斜または段差を有する」 ことが見て取れる。 ここで、周知例1の「下皿部7」は、「遊技球を受け入れ貯留するための」ものであるから、本願発明の「貯留部」に相当する。 本願の出願前に頒布された特開平5−49736号公報(以下、「周知例2」という。)には、遊技機の球受皿(発明の名称)に関し、次の事項が図とともに記載されている。 「【0142】……また、前記取付基盤400前面部の下側賞球流出口400の周りに、前記球貯留部511と対応する補助貯留部410を後退させた状態に窪ませて設けたので、その補助貯留部410の分だけ、球貯留部510中への球の貯留能力が増す。」 「【図17】 」 周知例2の図17の記載から、 「補助貯留部410は、下方部が上方部よりも後側となる様な傾斜または段差を有する」 ことが見て取れる。 ここで、周知例2の「補助貯留部410」は、「球貯留部511と対応する」ものであり、「補助貯留部410を後退させた状態に窪ませて設けたので、その補助貯留部410の分だけ、球貯留部510中への球の貯留能力が増す」ものであるから、本願発明の「貯留部」に相当する構成の一部である。 そして、引用発明と周知技術1は、貯留部を有するパチンコ機である点で共通する。したがって、引用発明において、周知技術1を採用して「球貯留部3」の後面部を下方部が上方部よりも後側となる様な傾斜を有するものとし、相違点2に係る本願発明の発明特定事項Hをなすことは、当業者が容易になし得たことである。 3 本願発明の奏する効果について 本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術1の奏する効果から、予測することができた程度のものである。 4 請求人の主張について (1)請求人の主張 請求人は、令和4年4月6日提出の意見書において、以下のとおり主張する。 「4.本願発明と引用文献に記載された発明との対比 引用例1には、遊技球の貯留部を備えた遊技機が記載されています。 引用例2、3には、操作部の右端が貫通孔よりも左側に位置する遊技機が記載されています。 これらの引用例1から3に対して本願発明は、上記(a)の構成(当審注:発明特定事項H)を特徴としています。この本願特有の構成上の特徴は、引用例1から3に記載も示唆もなく、これら引用例1から3を組み合わせたとしても容易に想到できるものではありません。 引用例1から3の遊技機では貯留部の後面部は垂直な面となっており、また、貯留部の後面部に傾斜や段差を設けることについての記載や示唆もありません。 これに対して補正後の本願請求項1の発明では、上記(a)に記載のように貯留部の後面部は下方部が上方部よりも後側となる様な傾斜または段差を有するようにしています。 近年の遊技機では、貯留部の上面開口の周囲に演出ボタンなどの様々な装置を設けることが多く、貯留部の上面開口の大きさを少なくして貯留部の上面開口の周囲に一定の領域を確保することが必要となります。 引用例のように後面部が垂直な面であると上面開口の大きさを少なくした分だけ貯留部の容量が減ってしまうこととなりますが、本願のような構成とすることで貯留部の容量を減らすことなく上面開口の大きさを少なくすることができます。 さらに、後面部に傾斜又は段差を設けることで遊技者が手で貯留部から遊技球を掻き出す際に、その掻き出す動作が行いやすくなります。 また、本願のような構成とすることで、貯留部の上面開口の大きさや形状を自由に設定できるのでデザインの自由度が増し、遊技機の装飾性を高めることができます。 以上のことから、引用例1から3の発明から本願請求項1記載の発明を容易に想到することはできず、本願請求項1記載の発明は進歩性を有するものです。」 (2)請求人の主張に対する当審の判断 ア そもそも、周知技術1と本願発明の発明特定事項Hとは、同じ構成であるから、同じ作用効果を奏する。したがって、本願発明が格別の効果を発揮するとは認められない。 イ 具体的には、周知例2に、 「【0142】……また、前記取付基盤400前面部の下側賞球流出口400の周りに、前記球貯留部511と対応する補助貯留部410を後退させた状態に窪ませて設けたので、その補助貯留部410の分だけ、球貯留部510中への球の貯留能力が増す。」 と記載されているから、周知技術1により、貯留部の容量を減らすことなく上面開口の大きさを少なくすることができると認められる。 また、周知例1に、 「【0028】また、下皿部7の形状も、上皿部6と同様、えぐったような形状で形成される。……これにより、遊技者が下皿部7に貯留されている遊技球を手で掴んで取り出す際に、取り出しやすくしている。……」 と記載されているから、周知技術1により、遊技者が手で貯留部から遊技球を掻き出す際に、その掻き出す動作が行いやすくなると認められる。 また、本願発明の発明特定事項Hのような構成とすると、下方部が上方部よりも後側となる分だけ、上方部は下方部より前側にしなければならないから、本願発明の発明特定事項Hは、必ずしも「貯留部の上面開口の大きさや形状を自由に設定できるのでデザインの自由度が増」す構成であるとは、認められない。したがって、本願発明の発明特定事項Hは、「デザインの自由度が増し、遊技機の装飾性を高める」という作用効果を奏する構成であるとは認められない。 ウ 以上のことから、請求人の主張は採用できない。 5 小括 以上のことから、本願発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 発明特定事項Fについての検討 1 上記第5では、引用発明において、「作動レバー40の右端は、パチンコ機の前面側から見てシヤツター部材41の右端に形成した半円状の球切り部44よりも左側に位置する」ことが、本願発明の発明特定事項Fにおける「前記開閉部材の操作部は、遊技機の前面側から見て前記貫通孔よりも左側に位置する」ことに相当すると認めたが、引用発明では、「作動レバー40」の右端が「球誘導路」の左端よりも左側に位置するか否かは、明らかでない。 そうすると、本願発明の発明特定事項Fにおける「前記開閉部材の操作部は、遊技機の前面側から見て前記貫通孔よりも左側に位置する」ことが、仮に、開閉部材の操作部の右端が、遊技機の前面側から見て貫通孔の左端よりも左側に位置することを意味するならば、本願発明と引用発明とは、 「A 遊技球を貯留可能な貯留部を備えた遊技機において、 B 前記貯留部は、当該貯留部の底面部に、 B1 貯留した遊技球を排出する貫通孔と、 B2 前記貫通孔を開閉する開閉部材と、を備え、 C 前記底面部の下面と前記開閉部材の下面との間の距離が、前記底面部の上面と前記開閉部材の上面との間の距離よりも長く、 D’ 前記底面部の上面は、前記開閉部材の上面よりも上方に位置し、 E 前記貫通孔の直径は、遊技球の直径の3倍以上である G 遊技機。」である点で一致し、上記相違点1及び相違点2に加えて以下の相違点3でも、本願発明と引用発明は相違する。 <相違点3(発明特定事項F)> 本願発明では、「前記開閉部材の操作部」(特に、その右端)が、「遊技機の前面側から見て前記貫通孔よりも」(特に、その左端よりも)「左側に位置する」のに対し、 引用発明では、そのように構成されているか否かが明らかでない点。 2 上記相違点3について検討する。 (1)パチンコ機の技術分野において、開閉部材の操作部の右端が、パチンコ機の前面側から見て貫通孔の左端よりも左側に位置することは、周知技術(以下、「周知技術2」という。)である。 当審拒絶理由で引用例2として引用され、本願の出願前に頒布された実公平7−31824号公報(以下、「周知例3」という。)には、パチンコ機(発明の名称)に関し、次の図が記載されている。 「【第5図】 」 周知例3の第5図の記載から、 「ロックレバー35(本願発明の「前記開閉部材の操作部」に相当する。)の右端が、球抜き孔17(本願発明の「貫通孔」に相当する。)の左端よりも左側に位置する」 ことが見て取れる。 当審拒絶理由で引用例3として引用され、本願の出願前に頒布された特開2000−245935号公報(以下、「周知例4」という。)には、パチンコ機における球受皿の球抜き装置(発明の名称)に関し、次の図が記載されている。 「【図4】 」 周知例4の図4の記載から、 「操作部16(本願発明の「前記開閉部材の操作部」に相当する。)の右端が、球抜き孔11(本願発明の「貫通孔」に相当する。)の左端よりも左側に位置する」 ことが見て取れる。 ここで、引用発明と周知技術2は、開閉部材の操作部を有するパチンコ機である点で共通する。したがって、本願発明と引用発明とが相違点3で相違していたとしても、引用発明において、周知技術2を採用して「作動レバー40」の右端が、「パチンコ機」の前面側から見て「球抜孔38」や「球誘導路」の左端よりも左側に位置するようにすることで、相違点3に係る本願発明の発明特定事項Fをなすことは、当業者が容易になし得たことである。 (2)本願発明によって奏される効果は、引用発明、周知技術1及び周知技術2から、当業者が予測し得る程度のものである。 (3)以上のことから、本願発明は、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第8 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2022-05-10 |
結審通知日 | 2022-05-17 |
審決日 | 2022-05-31 |
出願番号 | P2018-161008 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A63F)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
石井 哲 |
特許庁審判官 |
太田 恒明 北川 創 |
発明の名称 | 遊技機 |
代理人 | 荒船 良男 |
代理人 | 特許業務法人光陽国際特許事務所 |