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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1386920
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-12 
確定日 2022-07-27 
事件の表示 特願2019−104527「電気制御可能な回転加圧装置及びその制御方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年11月28日出願公開、特開2019−202148〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)4月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年4月25日(KR)韓国 2014年2月6日(KR)韓国)を国際出願日とする特願2016−510625号の一部を令和1年6月4日に新たな特許出願としたものであって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 8月 5日付け:拒絶理由通知書
令和2年11月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年12月28日付け:拒絶査定
令和3年 5月12日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出

第2 令和3年5月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年5月12日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「電気制御可能な回転加圧装置であって、
人体構造物の穿孔または前記人体構造物への結合のために、前記人体構造物に挿入される回転加圧手段と、
前記回転加圧手段に対してトルクを提供するモータと、
前記モータに電力を供給する電力制御部と、
前記電力制御部を制御するための中央処理装置と、
前記モータや前記回転加圧手段の回転速度を測定する回転速度センサと、
前記モータに流れ込む電流を測定する電流センサと、
測定された前記電流に基づいて前記中央処理装置から前記電力制御部への制御信号を調整することによって前記トルクを調整するトルク補正部と、を有し、
前記中央処理装置は、前記回転速度センサから前記回転速度を受け取る異常検出部を含み、
前記異常検出部によって前記回転速度の異常が検出された場合、何ら別個のブレーキ手段を必要とすることなく、前記電力制御部は前記モータのトルクが直ちに0になるように前記中央処理装置からの制御信号に従って前記モータに供給される電力を制御することのみにより前記回転加圧手段の前進を直ちに中断させるように制御し、
前記異常検出部によって前記回転速度の異常が検出されない場合、前記中央処理装置は、測定される前記電流が一定値となるように前記トルク補正部を制御する電気制御可能な回転加圧装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和2年11月10日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「電気制御可能な回転加圧装置であって、
人体構造物の穿孔または前記人体構造物への結合のために、前記人体構造物に挿入される回転加圧手段と、
前記回転加圧手段に対してトルクを提供するモータと、
前記モータに電力を供給する電力制御部と、
前記電力制御部を制御するための中央処理装置と、
前記モータや前記回転加圧手段の回転速度を測定する回転速度センサと、
前記モータに流れ込む電流を測定する電流センサと、
測定された前記電流に基づいて前記中央処理装置から前記電力制御部への制御信号を調整することによって前記トルクを調整するトルク補正部と、を有し、
前記中央処理装置は、前記回転速度センサから前記回転速度を受け取る異常検出部を含み、
前記異常検出部によって前記回転速度の異常が検出された場合、前記電力制御部は前記モータのトルクが直ちに0になるように前記中央処理装置からの制御信号に従って前記モータに供給される電力を制御することにより前記回転加圧手段の前進を直ちに中断させるように制御し、
前記異常検出部によって前記回転速度の異常が検出されない場合、前記中央処理装置は、測定される前記電流が一定値となるように前記トルク補正部を制御する電気制御可能な回転加圧装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、異常検出部によって回転速度の異常が検出された場合、電力制御部はモータのトルクが直ちに0になるように中央処理装置からの制御信号に従って前記モータに供給される電力を制御することにより回転加圧手段の前進を直ちに中断させるように制御する事項について、上記のとおり、何ら別個のブレーキ手段を必要とすることなく、モータに供給される電力を制御することのみにより制御する、という限定事項を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)
について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2010/061567号(平成22年6月3日国際公開。以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。(下線は、当審で付した。以下、同様。)
a「技術分野
[0002] この発明は、工具の姿勢を遠隔操作で変更可能で、医療用、機械加工等の用途で用いられる遠隔操作型アクチュエータに関する。
背景技術
[0003] 医療用として骨の加工に用いられたり、機械加工用としてドリル加工や切削加工に用いられたりする遠隔操作型アクチュエータがある。遠隔操作型アクチュエータは、直線形状や湾曲形状をした細長いパイプ部の先端に設けた工具を遠隔操作で制御する。ただし、従来の遠隔操作用アクチュエータは、工具の回転のみを遠隔操作で制御するだけであったため、医療用の場合、複雑な形状の加工や外からは見えにくい箇所の加工が難しかった。また、ドリル加工では、直線だけではなく、湾曲状の加工が可能なことが求められる。さらに、切削加工では、溝内部の奥まった箇所の加工が可能なことが求められる。以下、医療用を例にとって、遠隔操作型アクチュエータの従来技術と課題について説明する。
[0004] 整形外科分野において、骨の老化等によって擦り減って使えなくなった関節を新しく人工のものに取り替える人工関節置換手術がある。この手術では、患者の生体骨を人工関節が挿入できるように加工する必要があるが、その加工には、術後の生体骨と人工関節との接着強度を高めるために、人工関節の形状に合わせて生体骨を精度良く加工することが要求される。
[0005] 例えば、股関節の人工関節置換手術では、大腿骨の骨の中心にある髄腔部に人工関節挿入用の孔を形成する。人工関節と骨との接触強度を保つには両者の接触面積を大きくとる必要があり、人工関節挿入用の孔は、骨の奥まで延びた細長い形状に加工される。このような骨の切削加工に用いられる医療用アクチュエータとして、細長いパイプ部の先端に工具を回転自在に設け、パイプ部の基端側に設けたモータ等の回転駆動源の駆動により、パイプ部の内部に配した回転軸を介して工具を回転させる構成のものがある(例えば特許文献1)。この種の医療用アクチュエータは、外部に露出した回転部分は先端の工具のみであるため、工具を骨の奥まで挿入することができる。」

b「発明が解決しようとする課題
[0008] 生体骨の人工関節挿入用孔に人工関節を嵌め込んだ状態で、生体骨と人工関節との間に広い隙間があると、術後の接着時間が長くなるため、前記隙間はなるべく狭いのが望ましい。また、生体骨と人工関節の接触面が平滑であることも重要であり、人工関節挿入用孔の加工には高い精度が要求される。しかし、パイプ部がどのような形状であろうとも、工具の動作範囲はパイプ部の形状の制約を受けるため、皮膚切開や筋肉の切断をできるだけ小さくしながら、生体骨と人工関節との間の隙間を狭くかつ両者の接触面が平滑になるように人工関節挿入用孔を加工するのは難しい。
[0009] 一般に、人工関節置換手術が行われる患者の骨は、老化等により強度が弱くなっていることが多く、骨そのものが変形している場合もある。したがって、通常考えられる以上に、人工関節挿入用孔の加工は難しい。
[0010] そこで、本出願人は、人工関節挿入用孔の加工を比較的容易にかつ精度良く行えるようにすることを目的として、先端に設けた工具の姿勢を遠隔操作で変更可能とすることを試みた。工具の姿勢が変更可能であれば、パイプ部の形状に関係なく、工具を適正な姿勢に保持することができるからである。しかし、工具は細長いパイプ部の先端に設けられているため、工具の姿勢を変更させる機構を設ける上で制約が多く、それを克服するための工夫が必要である。さらに、工具の姿勢を遠隔操作する場合でも、常に被加工物の状態に合った最適な加工条件で加工できることが求められる。
[0011] なお、細長いパイプ部を有しない医療用アクチュエータでは、手で握る部分に対して工具が設けられた部分が姿勢変更可能なものがある(例えば特許文献4)が、遠隔操作で工具の姿勢を変更させるものは提案されていない。
[0012] この発明の目的は、細長いパイプ部の先端に設けられた工具の姿勢を遠隔操作で変更することができ、しかも常に最適な加工条件で加工することが可能な遠隔操作型アクチュエータ、さらに異常があった場合に工具を回転停止または回転させないようにできる遠隔操作型アクチュエータを提供することである。」

c「[0042] この発明の第1実施形態を図1〜図3(A),(B)と共に説明する。図1において、この遠隔操作型アクチュエータは、回転式の工具1を保持する先端部材2と、この先端部材2が先端に姿勢変更自在に取付けられた細長形状のスピンドルガイド部3と、このスピンドルガイド部3の基端が結合された駆動部ハウジング4aと、この駆動部ハウジング4a内の工具回転用駆動機構4bおよび姿勢変更用駆動機構4cを制御するコントローラ5と、加工時の切削力を推定する切削力推定手段6とを備える。駆動部ハウジング4aは、内蔵の工具回転用駆動機構4bおよび姿勢変更用駆動機構4cと共に駆動部4を構成する。
[0043] 図2(A)〜(C)に示すように、先端部材2は、略円筒状のハウジング11の内部に、一対の軸受12によりスピンドル13が回転自在に支持されている。スピンドル13は、先端側が開口した筒状で、中空部に工具1のシャンク1aが嵌合状態に挿入され、回り止めピン14によりシャンク1aが回転不能に結合される。この先端部材2は、先端部材連結部15を介してスピンドルガイド部3の先端に取付けられる。」

d「[0044] スピンドルガイド部3は、駆動部ハウジング4a内の工具回転用駆動源41(図3(A),(B))の回転力を前記スピンドル13へ伝達する回転軸22を有する。この例では、回転軸22はワイヤとされ、ある程度の弾性変形が可能である。ワイヤの材質としては、例えば金属、樹脂、グラスファイバー等が用いられる。ワイヤは単線であっても、撚り線であってもよい。図2(C)に示すように、スピンドル13と回転軸22とは、自在継手等の継手23を介して回転伝達可能に接続されている。」

e「[0049] 図3(A),(B)は、駆動部ハウジング4a内の工具回転用駆動機構4bおよび姿勢変更用駆動機構4cを示す。
工具回転用駆動機構4bは、コントローラ5により制御される工具回転用駆動源41を備える。工具回転用駆動源41は、例えば電動モータであり、その出力軸41aを前記回転軸22の基端に結合させてある。
[0050] 工具回転用駆動源41の駆動電力および回転数は、駆動電力測定手段60および回転数測定手段61でそれぞれ測定される。駆動電力測定手段60は、工具回転用駆動源41の電源系(図示せず)に設けられた電力計等からなる。回転数測定手段61は、ロータリエンコーダやタコジェネレータ等からなる。これら駆動電力測定手段60および回転数測定手段61の出力信号は、切削力推定手段6に送信される。切削力推定手段6は、上記駆動電力測定手段60および回転数測定手段61の出力信号から、工具1の切削力を推定する。この切削力推定手段6は、マイクロコンピュータ等のコンピュータや電子回路等により構成されて、各入力信号と出力信号となる推定値との関係を演算式またはテーブル等により定めた関係設定手段(図示せず)を有し、入力信号を上記関係設定手段に照らして推定値を推定する。なお、この明細書で以下に述べる各種の切削力推定手段6も、上記と同様に関係設定手段を用いて推定を行うコンピュータや電子回路等により構成される。
[0051] この実施形態の場合、切削力推定手段6により、工具1が被加工物Wに与える切削力Fにおける工具1の接線方向の力である主分力Fc[N]の大きさが推定される(図4(A),(B)参照)。駆動電力をP[W]、工具1の回転数をN[rpm]、工具1に作用するトルクをT[Nm]とした場合、P=(2πNT)/60の関係式であらわされる。工具1の半径をr[m]とすると、T=rFcであるため、Fc=(60P)/(2πNr)となり、これより主分力Fcの大きさを推定できる。主分力Fc、背分力Fr、および送り分力Pfの各大きさの比率が決まっている場合には、主分力Fcの大きさが求められれば、他の分力Fr,Pfの大きさも推定できる。各分力の大きさの比率が変動する場合は、他の分力Fr,Pfの大きさを推定する切削力推定手段を併用するのが良い。切削力推定手段6は、図1のようにコントローラ5の外部に設けても、あるいは内部に設けてもよい。」

f「[0061] また、切削加工時、切削力推定手段6により、切削力Fにおける主分力Fcの大きさを推定する。この推定された主分力Fcの大きさに応じて、工具1の回転数、送り速度等の加工条件を最適に設定することにより、被加工物W(図4(A),(B))の状態に合ったきめ細かい加工を実現できる。例えば、骨の切削加工では、被切削面の温度が50℃以上になると骨組織が壊れると言われている。そこで、医療用として骨の加工に用いる場合、切削力推定手段6により切削力を監視しながら加工条件を変更することで、被切削面の温度が高くなるのを抑えることができる。
[0062] この遠隔操作型アクチュエータは、例えば人工関節置換手術において骨の髄腔部を削るのに使用されるものであり、施術時には、先端部材2の全部または一部が患者の体内に挿入して使用される。このため、上記のように先端部材2の姿勢を遠隔操作で変更できれば、常に工具1を適正な姿勢に保持した状態で骨の加工をすることができ、人工関節挿入用孔を精度良く仕上げることができる。」

g「[0070] 主分力Fc、背分力Fr、および送り分力Pfの各大きさの比率が決まっている場合には、背分力Frの大きさが求められれば、他の分力Fc,Pfの大きさも推定できる。各分力の大きさの比率が変動する場合は、他の分力Fc,Pfの大きさを推定する切削力推定手段6を併用するのが良い。」

h「[0075] 図10(A),(B)は切削力推定手段6のさらに異なる例を示す。この例は、姿勢変更用駆動源42の駆動力を姿勢操作部材31へ伝達するレバー機構43の歪みを検出する歪み検出手段66が設けられており、切削力推定手段6は、前記歪み検出手段66の検出値から、切削力における主に背分力Frの大きさを推定する。図例の歪み検出手段66は、レバー機構43のレバー43bの中間部に肉厚の薄い起歪部43ba(図10(A))を設け、この起歪部43baの両側に起歪部43baに発生する歪みを検出する歪みセンサ66U,66L,66Rを貼り付けてある(図13)。」

i「[0091] この発明の第6実施形態を図17〜図24と共に説明する。以下に示す図面において、前記実施形態と同一または相当する部分には同一の符号を付して詳しい説明は省略する。図17はこの発明の第6実施形態にかかる遠隔操作型アクチュエータの概略構成を示す。この実施形態では、第1実施形態の遠隔操作型アクチュエータで要件とした切削力推定手段6に加えて、後で詳しく説明する異常検出手段16,55,56,57,66および82を備えている。この実施形態の切削力推定手段6は、第1実施形態の図10(A),(B)に示したようなレバー機構43のればー43bに生じる歪みを歪み検出手段(歪みセンサ)66で検出することにより、切削力における背分力Frの大きさを推定するものである(図19)。」

j「[0094] 図19に示すように、工具回転用駆動機構4bは、工具回転用駆動源41を備える。工具回転用駆動源41は、例えば電動モータであり、その出力軸41aが前記回転軸22の基端に結合させてある。回転軸22は、後記レバー43bに形成された開口44を貫通している。工具回転用駆動源41の回転数は、回転センサ55により検出される。この回転センサ55は、スピンドル13の回転数を検出する回転検出手段である。」

k「[0100] 図21に示すように、制御ボックス7のコンピュータ70は、工具回転用駆動源41を制御する工具回転制御手段71、および姿勢変更用駆動源42(42U,42L,42R)を制御する姿勢変更制御手段72を備える。」

l「[0107] 工具回転制御手段71は、工具回転制御部71aと異常停止制御部71bとでなる。
工具回転制御部71aは、前記回転オン・オフ操作具84からの回転指令信号に応じてモータドライバ73に出力し、工具回転用駆動源41をオン・オフする。これにより、スピンドル13が回転および回転停止させられる。例えば、回転オン・オフ操作具84を1回押すとスピンドル13が回転し、再度押すとスピンドル13の回転が停止する。
[0108] 異常停止制御部71bは、下記の異常検出手段によりスピンドル回転時または非回転時の異常が検出された場合に工具回転用駆動源41の回転を停止させる制御を行う。異常検出手段は、固定検出手段および作用力検出手段である歪みセンサ66(66U,66L,66R)、固定検出手段であるエンコーダ57(57U,57L,57R)、回転検出手段である回転センサ55、振動検出手段である振動センサ56、温度検出手段である温度センサ16、および潤滑用流体圧力検出手段である圧力センサ82である。異常停止制御には、以下の各制御がある。」

m「[0113] 第3の異常停止制御は、回転数センサ55の出力からスピンドル13の回転数を検出し、検出された回転数と規定回転数との差が所定の範囲外にある場合に工具回転用駆動源41の回転を停止させる制御である。実際にスピンドル13の回転数を検出しなくても、工具回転用駆動源41の回転数を検出する回転数センサ55の出力からスピンドル13の回転数を求められる。工具回転用駆動源41の出力軸41aや、回転軸22を支持する軸受12,26,29が故障した場合、スピンドル13の回転数が異常に高くなったり低くなったりする。このような状態でスピンドル13を回転させるのは危険である。そこで、スピンドル13の回転数が異常である場合、工具回転用駆動源41の回転を停止させることで、危険を回避するのである。」

n「[図1]



o「[図2]



p「[図3]



q「[図4]



r「[図19]



s「[図21]



(イ)上記摘記事項から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 上記(ア)i〜k、r及びsによれば、引用文献1に記載の第6実施形態の遠隔操作型アクチュエータは、工具回転用駆動源41として電動モータを備え、当該工具回転用駆動源41は、制御ボックス7のコンピュータ70が備える工具回転制御手段71により制御されるから、当該遠隔操作型アクチュエータは、電気制御可能なものと認められる。

b 上記(ア)k、l及びsによれば、モータドライバ73は、コンピュータ70の工具回転制御手段71により制御されるものであり、当該モータドライバ73が工具回転用駆動源41としての電動モータに電力を供給するものと認められる。

c 上記(ア)d及びeの段落[0049]によれば、工具回転用駆動源41の出力軸41aは回転軸22に結合され、回転軸22は継手23を介してスピンドル13に回転伝達可能に接続されている。ここで、工具回転用駆動源41とスピンドル13との間に減速機は設けられていないから、工具回転用駆動源41の回転数とスピンドル13の回転数は等しいものと認められる。そして、上記(ア)j及びmによれば、第6実施形態の回転数センサ55は、工具回転用駆動源41の回転数を検出することによって、スピンドル13の回転数を検出するものである。さらに、上記(ア)cの段落[0043]及びoによれば、スピンドル13には、工具1のシャンク1aが回転不能に結合されるから、スピンドル13の回転数と工具1の回転数は等しく、前記回転数センサ55は、工具1の回転数も検出するものといえる。

d 上記(ア)iによれば、第6実施形態は、切削力推定手段6を備え、当該切削力推定手段6は、切削力における背分力Frの大きさを推定するものである。ここで、上記(ア)gの「各分力の大きさの比率が変動する場合は、他の分力Fc,Pfの大きさを推定する切削力推定手段6を併用するのが良い。」の記載から、第6実施形態の切削力推定手段6として、背分力Frの大きさを推定するだけでなく、主分力Fcの大きさを推定する手段を併用することも引用文献1に記載されているに等しい事項と認められる。そして、上記(ア)eの段落[0050]には、主分力Fcの大きさを推定する手段として、「切削力推定手段6は、上記駆動電力測定手段60および回転数測定手段61の出力信号から、工具1の切削力を推定する。」と記載されており、第6実施形態において工具回転用駆動源41の回転数を検出するのは回転数センサ55であるから、当該切削力の推定は、駆動電力測定手段60および回転数センサ55の出力信号から、工具1の切削力を推定するものと認められる。

e 上記(ア)l、m及びsによれば、コンピュータ70の工具回転制御手段71は、異常停止制御部71bを含み、当該異常停止制御部71bは、前記回転数センサ55から検出された前記回転数を受け取り、前記回転数の異常が検出された場合、工具回転用駆動源41の回転を停止させる第3の異常停止制御を行うものと認められる。ここで、工具回転用駆動源41の回転を停止させる手段について、上記(ア)l、m及びsには、何ら別個のブレーキ手段を必要とすることは記載されていない。しかし、技術常識を考慮すれば、工具回転用駆動源41である電動モータの回転を停止させるとは、その手段について特段の記載がなければ、通常、電動モータへの電力の供給を遮断することによりその回転を停止させるものと当業者は理解するといえる。よって、上記第3の異常停止制御は、前記モータドライバ73が前記工具回転用駆動源41のトルクが0になるように前記コンピュータ70の工具回転制御手段71に含まれる異常停止制御部71bからの制御信号に従って前記工具回転用駆動源41に供給される電力を制御することのみにより前記工具回転用駆動源41の回転を停止させるものと認められる。そして、上記cで検討したように、工具回転用駆動源41の回転数と工具1の回転数とは等しく、前者が0となれば後者も0となる関係にあるから、工具回転用駆動源41の回転が停止されれば工具1の回転も停止するものと認められる。ここで、上記(ア)aの段落[0005]には、「人工関節挿入用の孔は、骨の奥まで延びた細長い形状に加工される。」と記載され、人工関節置換手術においては、通常、骨を固定した状態で孔を加工することから、当該孔の加工は、回転する工具1で骨を切削しながら工具1を骨の奥まで前進させることによって孔を加工するものと認められる。してみれば、工具1の回転が停止すれば、その前進も自ずと中断させられるものと認められる。

f 上記(ア)k、l及びsによれば、第6実施形態は、異常停止制御部71bによって前記回転数の異常が検出されない場合、コンピュータ70の工具回転制御手段71に含まれる工具回転制御部71aによりモータドライバ73を制御するものと認められる。そして、上記(ア)fの段落[0061]から、当該制御は、切削力推定手段6により推定された切削力に応じて加工条件を変更するものと認められる。ここで、モータドライバ73は、コンピュータ70により制御されるものであるから、前記加工条件は、前記コンピュータ70から前記モータドライバ73への制御信号を調整することによって変更されるものと認められ、当該制御信号は、前記工具回転制御部71aによって調整されるものと認められる。

(ウ)上記(ア)の摘記事項、(イ)で認定した技術的事項を踏まえると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「電気制御可能な遠隔操作型アクチュエータであって、
大腿骨の骨の中心にある髄腔部に人工関節挿入用の孔を形成するために、前記髄腔部に挿入される工具1と、
前記工具1に対してトルクを提供する工具回転用駆動源41と、
前記工具回転用駆動源41に電力を供給するモータドライバ73と、
前記モータドライバ73を制御するためのコンピュータ70と、
前記工具回転用駆動源41や前記工具1の回転数を検出する回転数センサ55と、
前記工具回転用駆動源41の駆動電力を測定する駆動電力測定手段60と、
前記駆動電力測定手段60および前記回転数センサ55の出力信号から、工具1の切削力を推定する切削力推定手段6と、
推定された前記切削力に応じて前記コンピュータ70から前記モータドライバ73への制御信号を調整することによって加工条件を変更する工具回転制御部71aと、を有し、
前記コンピュータ70は、前記回転数センサ55から前記回転数を受け取る異常停止制御部71bを含み、
前記異常停止制御部71bによって前記回転数の異常が検出された場合、何ら別個のブレーキ手段を必要とすることなく、前記モータドライバ73は前記工具回転用駆動源41のトルクが0になるように前記コンピュータ70からの制御信号に従って前記工具回転用駆動源41に供給される電力を制御することのみにより前記工具1の前進を中断させるように制御し、
前記異常停止制御部71bによって前記回転数の異常が検出されない場合、前記コンピュータ70は、推定された前記切削力に応じて加工条件を変更するよう前記工具回転制御部71aを制御する電気制御可能な遠隔操作型アクチュエータ。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2002−219136号公報(平成14年8月6日出願公開。以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、骨や歯牙を切削するためのインプラント用ドリルシステムと、そのトルク値の校正方法に関する。
【0002】
【従来の技術】インプラント用ドリルシステムは、骨や歯牙を切削して穴を開けたり、この穴に螺子を切ったり、あるいは、その穴に義歯を埋め入れて固定したりする等の手術に使用するものであって、骨や歯牙を切削するためのバーを先端に備えたハンドピースと、このハンドピース後端に接続してバーを回転させるための電気マイクロモーターを備えた回転駆動部と、この回転駆動部に接続してこれを操作するための制御ユニットとを備えている。この制御ユニットは電源に接続し、電気マイクロモーターの回転速度や回転方向を制御したり、電源のON/OFF操作を手元で行なうか、フットペダルにより足で行なうかを切換える等の操作をする機能を備えている。このような従来のインプラント用ドリルシステムでは、電気マイクロモーターのトルクと該モーターの電流値との関係を予め制御ユニットに設定し、電気マイクロモーターに流す電流値を定めることによりバーのトルク値を制御しようとするものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、回転駆動部の電気マイクロモーターに接続するハンドピースは、器具メーカーごとに抵抗値が異なるため、たとえ、電気マイクロモーターを予め設定した電流値で回転駆動させても、バーのトルクを所望値に制御することは困難であった。また、同じ種類のハンドピースを使用したり、あるいは同一のハンドピースを使用しても、摩耗の度合いによって抵抗値が変化することがあるため、バーのトルクに誤差を生じるという問題がある。
【0004】したがって、本発明の課題は、ハンドピースの機種や摩耗の度合いに拘わらず、ハンドピース先端のバーを所望トルクで回転させることができるインプラント用ドリルシステムを提供することにある。また本発明の別の課題は、ハンドピースの機種や摩耗の度合いに拘わらず、ハンドピース先端のバーを所望のトルク値で駆動させるためのトルク値校正方法を提供することにある。」

b「【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1は本発明に係るインプラント用ドリルシステムの外観を示した概略図であり、図2は図1におけるインプラント用ドリルシステムの機能を説明するための図である。図1において、インプラント用ドリルシステムは、骨や歯牙を切削するためのバー4が先端のヘッド11に設けられたハンドピース1と、バー4に着脱可能に接続されるトルクリミッター5と、ハンドピース1の後端に着脱可能に接続される回転駆動部2と、この回転駆動部2から延びるコード21が着脱可能に接続される制御ユニット3とから構成されている。
【0008】前記トルクリミッター5は、あらかじめトルクの上限値を定めることができるものであって、これに取り付けたバー4のトルクが該上限値に達したら、バー4からのトルクの伝達が断たれ、バー4のトルクを該上限値以下に維持することができるものを使用する。また前記回転駆動部2は内部に電気マイクロモーターを備え、ハンドピース1に回転駆動力を供給してバー4を回転させるものである。
【0009】前記制御ユニット3は、CPU、ROM、RAM及び入出力部から構成されるマイコンを内蔵し、ROMには予めプログラムが入力され、コード31を介して電源に接続されるものであって、これらのハードウェアとソフトウェアの構成により、以下に説明する各手段の機能を実現するものである。すなわち、制御ユニット3は、バー4の回転速度を設定及び制御する速度制御手段32と、バー4のトルクを所望値に設定及び制御するためのトルク制御部33とを備え、これらの手段を図2に示した。また制御ユニット3は、図示した手段以外に、バー4の回転を正逆両方向に切り換えるためのスイッチ(図示せず)や、電源のON/OFF操作を手元で行なうか、フットペダルにより足で行なうかを切換えるための手段(図示せず)なども備えるものである。
【0010】さらに、前記トルク制御部33は、検出手段331と、メモリー332と、電流値制御手段333とを備える。この検出手段331は、所望のトルク値に設定したトルクリミッター5をバー4に取り付けてバー4を回転させ、バー4が所望のトルク値に達してトルクリミッター5がトルクの伝達を断ったときの回転駆動部2の電流値を検出するものであり、この電流値はメモリー332に格納される。また電流値制御手段333は、メモリー332に格納した電流値で回転駆動部2の電気マイクロモーターを駆動するように制御するものである。
【0011】次に、上記インプラント用ドリルシステムにおけるトルク値校正方法と、その作用について説明する。最初に、バー4の回転速度を制御ユニット3であらかじめ設定すると共に、トルクリミッター5をハンドピース先端のバー4に接続する。なお、インプラント用ドリルの場合、回転速度を毎分0〜2000回転程度に設定する。またトルクリミッター5は、その上限値をバー4のトルクとして所望する値にあらかじめ設定したものを使用する。次に、回転駆動部2の電気マイクロモーターを駆動してバー4を回転させる。バー4のトルクが上昇して、トルクリミッター5の上限値に達すると、バー4からのトルクはトルクリミッター5に伝達されず、バー4のトルクは上限値に保たれる。このときの電気マイクロモーターの電流値は一定値を示し、この電流値が検出手段331により検出されてメモリー332に格納される。この電流値のメモリー332への格納が終了し、トルクリミッター5をハンドピース先端のバー4から取り外すと、トルク値の校正が完了する。以上のようにトルク値を校正した後、回転駆動部2の電気マイクロモーターを駆動させると、電流値制御手段333によって電気マイクロモーターの電流はメモリー332に格納された電流値に保たれる。これにより、バー4のトルクは設定された所望値に保たれる。したがって、インプラント用ドリルの使用に際し、あらかじめ上述のトルク値校正を行なえば、たとえ、ハンドピースが異なる器具メーカーのものであったり、あるいはハンドピース毎に摩耗の度合いが異なったとしても、バーを常に所望のトルクで回転駆動させることが可能になる。 」

c「【図1】



d「【図2】



(イ)上記摘記事項から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 上記(ア)bの段落【0010】及び【0011】によれば、引用文献2に記載の「検出手段331」は、「バー4が所望のトルク値に達してトルクリミッター5がトルクの伝達を断ったときの回転駆動部2の電流値を検出するもの」である。そして、この電流値は「一定値」であり、「メモリー332に格納され」、「回転駆動部2の電気マイクロモーターを駆動させると、電流値制御手段333によって電気マイクロモーターの電流はメモリー332に格納された電流値に保たれ」、「バー4のトルクは設定された所望値に保たれる」ことになる。ここで、段落【0011】に記載はされていないものの、骨や歯牙を切削するために回転駆動部2の電気マイクロモーターを駆動させる際、電気マイクロモーターの電流をメモリー332に格納された電流値に保つためには、駆動中の回転駆動部2の電気マイクロモーターの電流値を検出し、前記メモリー332に格納された電流値と比較することが必要であることは、技術常識より明らかである。よって、前記「検出手段331」は、メモリー332に格納する電流値を検出するだけでなく、骨や歯牙を切削するために駆動中の回転駆動部2の電気マイクロモーターの電流値も検出することは、引用文献2に記載されているに等しい事項と認められる。

(ウ)上記(ア)の摘記事項、(イ)で認定した技術的事項を踏まえると、引用文献2には、次の技術が記載されているものと認められる。
「骨や歯牙を切削するためのインプラント用ドリルシステムにおいて、
前記インプラント用ドリルシステムは、骨や歯牙を切削するためのバー4が先端のヘッド11に設けられたハンドピース1と、ハンドピース1の後端に着脱可能に接続される回転駆動部2と、制御ユニット3とを備え、
前記回転駆動部2は内部に電気マイクロモーターを備え、ハンドピース1に回転駆動力を供給してバー4を回転させるものであり、
前記制御ユニット3は、前記バー4のトルクを所望値に設定及び制御するためのトルク制御部33を備え、
前記トルク制御部33は、検出手段331と、メモリー332と、電流値制御手段333とを備え、
前記検出手段331は、前記回転駆動部2の電気マイクロモーターの電流値を検出するものであり、
前記メモリー332には、一定値の電流値が格納され、
前記電流値制御手段333は、前記回転駆動部2の電気マイクロモーターの電流を前記メモリー332に格納された電流値に保つことで、バー4のトルクを設定された所望値に保つように制御する技術。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア) 引用発明の「遠隔操作型アクチュエータ」、「大腿骨の骨の中心にある髄腔部に人工関節挿入用の孔を形成する」、「髄腔部に挿入」、「工具1」、「工具回転用駆動源41」、「モータドライバ73」、「コンピュータ70」、「回転数」、「回転数を検出」、「回転数センサ55」及び「異常停止制御部71b」は、本件補正発明の「回転加圧装置」、「人体構造物の穿孔」、「人体構造物に挿入」、「回転加圧手段」、「モータ」、「電力制御部」、「中央処理装置」、「回転速度」、「回転速度を測定」、「回転速度センサ」及び「異常検出部」にそれぞれ相当する。
(イ) 引用発明の「加工条件を変更する」と本件補正発明の「トルクを調整する」とは、加工条件を調整する点において一致し、前者の「工具回転制御部71a」と後者の「トルク補正部」とは、加工条件を調整する手段である点で一致する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。

[一致点]
「電気制御可能な回転加圧装置であって、
人体構造物の穿孔のために、前記人体構造物に挿入される回転加圧手段と、
前記回転加圧手段に対してトルクを提供するモータと、
前記モータに電力を供給する電力制御部と、
前記電力制御部を制御するための中央処理装置と、
前記モータや前記回転加圧手段の回転速度を測定する回転速度センサと、
前記中央処理装置から前記電力制御部への制御信号を調整することによって加工条件を調整する手段と、を有し、
前記中央処理装置は、前記回転速度センサから前記回転速度を受け取る異常検出部を含み、
前記異常検出部によって前記回転速度の異常が検出された場合、何ら別個のブレーキ手段を必要とすることなく、前記電力制御部は前記モータのトルクが0になるように前記中央処理装置からの制御信号に従って前記モータに供給される電力を制御することのみにより前記回転加圧手段の前進を中断させるように制御し、
前記異常検出部によって前記回転速度の異常が検出されない場合、前記中央処理装置は、加工条件を調整する手段を制御する電気制御可能な回転加圧装置。」

[相違点1]
加工条件の調整について、本件補正発明は、「モータに流れ込む電流を測定する電流センサ」と、「測定された前記電流に基づいて」「トルクを調整するトルク補正部」とを有し、「測定される前記電流が一定値となるように前記トルク補正部を制御する」のに対し、
引用発明は、「工具回転用駆動源41の駆動電力を測定する駆動電力測定手段60と、前記駆動電力測定手段60および前記回転数センサ55の出力信号から、工具1の切削力を推定する切削力推定手段6」と、「推定された前記切削力に応じて」「加工条件を変更する工具回転制御部71a」とを有し、「推定された前記切削力に応じて加工条件を変更するよう前記工具回転制御部71aを制御する」点。

[相違点2]
異常検出部によってモータ及び回転加圧手段の回転速度の異常が検出された場合のモータのトルクを0になるようにする制御及び回転加圧手段の前進を中断させるようにする制御について、本件補正発明は、いずれも「直ちに」制御するのに対して、
引用発明は、当該制御が「直ちに」行われるものか明らかでない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
(ア)引用文献2に記載された技術の「回転駆動部2の電気マイクロモーター」及び「検出手段331」は、上記相違点1に係る本件補正発明の「モータ」及び「電流センサ」にそれぞれ相当し、前者の「回転駆動部2の電気マイクロモーターの電流値を検出する」は、後者の「モータに流れ込む電流を測定する」に相当する。
そして、引用文献2に記載された技術の「メモリー332には、一定値の電流値が格納され、前記電流値制御手段333は、前記回転駆動部2の電気マイクロモーターの電流を前記メモリー332に格納された電流値に保つことで、バー4のトルクを設定された所望値に保つように制御する」は、上記相違点1に係る本件補正発明の「測定された前記電流に基づいて」「トルクを調整するトルク補正部」を有し、「測定される前記電流が一定値となるように前記トルク補正部を制御する」に相当する。
よって、引用文献2に記載された技術は、上記相違点1に係る本件補正発明の構成を開示していると認められる。

(イ)引用発明と引用文献2に記載された技術は、いずれも電動モータで工具を回転させて骨を切削する医療用装置であるから、両者の技術分野は共通する。
そして、引用発明の「推定された前記切削力に応じて加工条件を変更するよう前記工具回転制御部71aを制御する」は、上記(2)ア(ア)bの段落[0012]に記載のように「常に最適な加工条件で加工すること」を課題としており、具体例として、上記(2)ア(ア)fの段落[0061]には、「医療用として骨の加工に用いる場合、切削力推定手段6により切削力を監視しながら加工条件を変更することで、被切削面の温度が高くなるのを抑えることができる」と記載されている。
他方、引用文献2に記載された技術は、上記(2)イ(ア)aの段落【0004】に記載のように「ハンドピースの機種や摩耗の度合いに拘わらず、ハンドピース先端のバーを所望トルクで回転させること」を課題としている。
よって、引用発明と引用文献2に記載された技術は、いずれも骨の切削を安定して行うことを目的とする点で課題の共通性が認められ、その課題を解決する手段として、引用文献2に記載された技術は、引用発明よりも単純で低コストの制御を行うものといえる。
してみれば、コストの低減という周知の一般的課題を解決するために、引用発明において、異常停止制御部71bによって回転数の異常が検出されない場合の制御として、より単純で低コストの制御である引用文献2に記載された技術を採用し、本件補正発明に想到することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本件補正発明の奏する効果は、引用発明の効果及び引用文献2に記載された技術の効果から、当業者が予測し得た範囲内のものである。

イ 相違点2について
(ア)一般的に、「モータのトルク」は、電動モータが電気エネルギーを運動エネルギーに変換することで出力するトルクを意味し、電力の供給が遮断した時点において0になる性質のトルクであると当業者は理解する。当該理解は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0031】の「・・・中央処理装置100は、電力制御部200に電力供給の中断に関する制御信号を送信することができる。したがって、結果的にモータ300の出力トルクは直ちに0になり・・・」の記載とも整合しており、本件補正発明の「モータのトルク」は、当該理解に基づき解釈することが妥当といえる。
ここで、上記(2)ア(イ)eで検討したように、引用発明は、電動モータへの電力の供給を遮断することによりその回転を停止させるものと認められる。してみれば、当該理解を前提とすれば、引用発明も電力の供給を遮断した時点において電動モータのトルクは0になるものと認められ、それは前記トルクを「直ちに」0とするものといえるから、この点において、本件補正発明と引用発明に相違はない。
(イ)次に、本件補正発明の「モータのトルク」が、電力供給の中断後、モータの回転速度が0になるまでの間に生ずるモータの惰性回転によるトルクを含むものと解釈した場合について検討する。
本件補正発明のモータの回転速度が0になるまでの時間は、異常が検出された時点の回転速度、回転加圧手段に作用する負荷、モータの慣性モーメント等、複数の要因により変動し得るが、その時間が0となることは物理的に起こり得ない。すなわち、本件補正発明の「直ちに」とは、0ではない時間を意味するものと認められる。ここで、当該時間は、前記明細書に具体的に記載されていないが、同明細書の段落【0007】に記載された「異常が検出される場合には動作を止めて安全性を確保することができる回転加圧装置を提供する」という発明の課題からみて、当該課題を解決できる程度の時間、すなわち、安全性を確保できる程度の時間と認められる。
(ウ)引用発明は、上記(2)ア(ア)mの段落[0113]の「スピンドル13の回転数が異常である場合、工具回転用駆動源41の回転を停止させることで、危険を回避する」の記載からみて、本件補正発明と同様に安全性を確保することを目的として工具回転用駆動源41の回転を停止させるものと認められるから、工具回転用駆動源41が停止することでそのトルクが0となるまでの時間は、本件補正発明と同様に安全性を確保できる程度の時間と認められ、この点において、本件補正発明と引用発明に相違はない。
(エ)以上のように、引用発明の工具回転用駆動源41が停止することでそのトルクが0となるまでの時間は、本件補正発明のモータが停止することでそのトルクが0となるまでの時間と相違がないことから、引用発明の工具1の回転が停止するまでの時間も、自ずと本件補正発明と相違がないことになる。そして、上記(2)ア(イ)eで検討したように、引用発明は、工具1の回転が停止すれば、その前進も自ずと中断させられるものと認められるから、当該前進が中断させられるまでの時間も、本件補正発明と同等と認められる。
よって、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。

ウ なお、請求人は、審判請求書において「引用文献1では、工具回転用駆動源41の回転を停止することによってスピンドルの回転を消極的に停止しており、スピンドルの惰性回転を直ちに停止しうるものではありません。」と主張し、さらに「当業者がモータへの電力供給後直ちに惰性回転の停止を容易に実現するためには、モータにブレーキを適用することが必須であると思料します。本願発明は、そのようなブレーキを必要とせず、例えばモータに直ちにその回転を止めさせるためモータに逆トルクを加えることで、直ちに惰性回転の停止を実現することができます。」と主張している。
しかしながら、上記(2)ア(イ)eで検討したように、引用文献1には、工具回転用駆動源41の回転を停止させる手段について、何ら別個のブレーキ手段を必要とすることは記載されていない。
そして、「モータに直ちにその回転を止めさせるためモータに逆トルクを加えること」は、本件補正発明の発明特定事項でないばかりか、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面にも記載されていない。
前記明細書の段落【0031】に「本発明によれば、回転速度センサ310によって測定されたモータ300の回転速度が異常検出部120に伝達されるので、異常検出部120は、上記のような好ましくない突然の現象を直ちに検出してから、中央処理装置100に当該制御信号を送信することができ、これにより、中央処理装置100は、電力制御部200に電力供給の中断に関する制御信号を送信することができる。したがって、結果的にモータ300の出力トルクは直ちに0になり、好ましくない状態でのドリルなどの前進が直ちに中断されることができる。」と記載されているように、前記明細書等には、モータの回転を停止させる手段として、「中央処理装置100」が「電力制御部200に電力供給の中断に関する制御信号を送信する」ことのみが記載されており、その点において、本件補正発明と引用発明とに相違はない。
よって、請求人の上記主張は、理由がない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、令和2年11月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜20に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2010/061567号
引用文献2:特開2002−219136号公報

なお、原査定の備考では、請求項1、2、4〜8、10〜12、14〜18及び20に係る発明に対して、引用文献1〜4が提示されている。これは、形式的に複数の請求項をまとめて記載したにすぎず、令和2年8月5日付けの拒絶理由通知書及び原査定の備考に記載された説示の内容からして、請求項1に係る発明に対しては、引用文献1〜4のうち、上記の引用文献1及び2のみが実質的に引用されたものである。

3 引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2並びにその記載事項は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、何ら別個のブレーキ手段を必要とすることなく、モータに供給される電力を制御することのみにより制御する、という限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 村上 聡
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-02-21 
結審通知日 2022-02-22 
審決日 2022-03-08 
出願番号 P2019-104527
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 村上 聡
特許庁審判官 莊司 英史
津田 真吾
発明の名称 電気制御可能な回転加圧装置及びその制御方法  
代理人 八田国際特許業務法人  
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