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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B25J
管理番号 1386947
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-28 
確定日 2022-01-25 
事件の表示 特願2017−536165「産業用遠隔操作ロボットシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 2日国際公開、WO2017/033352、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)5月27日(優先権主張 平成27年8月25日)を国際出願日とする出願であって、令和2年7月8日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年9月24日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、令和3年2月26日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和3年5月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がなされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(令和3年2月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1−2に係る発明は、以下の引用文献1−6に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2007−61924号公報
2.特開平9−272096号公報(周知技術を示す文献)
3.特開昭62−49403号公報(周知技術を示す文献)
4.特開昭59−135507号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2010−137357号公報(周知技術を示す文献)
6.特開平9−85655号公報(周知技術を示す文献)


第3 本願発明
本願請求項1−4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明4」という。)は、令和3年5月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1−4に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
オペレータの操作を受け付けるマスタ装置と、
予め記憶されたタスクプログラムに基づいて動作する自動モードと前記マスタ装置が受け付けたオペレータの操作に基づいて動作する手動モードとを含む複数の制御モードを有するスレーブアームと、
前記複数の制御モードのなかから選択された一つで前記スレーブアームを動作させる制御装置と、
前記スレーブアームの動作領域への侵入者を検出する侵入者検出装置と、
前記侵入者が前記マスタ装置を携帯した前記オペレータであるか否かを識別する侵入者識別情報を取得する侵入者識別情報取得装置と、
前記侵入者検出装置及び前記侵入者識別情報取得装置から取得した情報に基づいて、前記スレーブアームの動作を抑制する動作抑制装置とを備え、
前記動作抑制装置は、
前記スレーブアームが前記自動モードのときに侵入者が検出されると前記スレーブアームの動作を減速又は停止させるように前記制御装置へ指令を出力する第1の処理を行い、
前記スレーブアームが前記手動モードのときに侵入者が検出されると、前記侵入者が前記オペレータ以外であれば前記スレーブアームの動作を減速又は停止させるように前記制御装置へ指令を出力する第2の処理を行い、前記侵入者が前記オペレータであれば前記第2の処理は行わずに前記スレーブアームの動作を前記マスタ装置が受け付けた操作の通りに継続させる、
遠隔操作ロボットシステム。
【請求項2】
前記複数の制御モードは、前記マスタ装置が受け付けたオペレータの操作によって逐次修正されながら前記タスクプログラムに基づいて動作する修正自動モードを更に含み、
前記動作抑制装置は、前記スレーブアームが前記修正自動モードのときに侵入者が検出されると、前記侵入者が前記オペレータ以外であれば前記スレーブアームの動作を減速又は停止させるように前記制御装置へ指令を出力する第3の処理を行い、前記侵入者が前記オペレータであれば前記第3の処理は行わずに前記スレーブアームの動作を修正された前記タスクプログラムの通りに継続させる、
請求項1に記載の遠隔操作ロボットシステム。
【請求項3】
前記侵入者識別情報取得装置は、前記マスタ装置に設けられたRFタグと、前記RFタグの情報を読み出して前記動作抑制装置へ出力するリーダとを含む、
請求項1又は請求項2に記載の遠隔操作ロボットシステム。
【請求項4】
前記侵入者識別情報取得装置は、前記マスタ装置に設けられた識別ボタンと、前記識別ボタンが操作されたときに前記マスタ装置の識別情報を前記動作抑制装置へ出力する識別情報出力装置とを含む、
請求項1又は請求項2に記載の遠隔操作ロボットシステム。」


第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同様。)。

「【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係るロボット制御装置、ロボットシステム及びプログラムの最良の形態について詳細に説明する。なお、本実施形態においては、ロボットとして、アームを備えた溶接ロボットを例に挙げて説明する。
<ロボットシステムの構成>
図1に示すように、ロボットシステム1は、駆動により所定の動作領域が形成されるロボット2と、このロボット2の動作制御を行うロボット制御装置3と、ロボット2に取り付けられ、ロボット2の動作領域内への進入者の識別ID(識別情報)を検出する検出手段としての読取器4と、作業者が携帯可能で入力によりロボット2の操作を行うことができる携帯型操作表示器としてのペンダント5と、を備えている。
【0015】
(ロボット)
図2に示すように、ロボット2は、土台となるベース21と、関節22で連結された複数のアーム23と、各関節22に設けられたロボット2の駆動手段としてのサーボモータ20(図1参照)と、各サーボモータ20の軸角度をそれぞれ検出するエンコーダ(図示略)とを備えている。そして、連結された各アーム23の先端部24にはロボット2の用途に応じたツール25(例えば、溶接ガン等)が装備される。
各関節22は、アーム23の一端部を揺動可能として他端部を軸支する揺動関節と、アーム23自身をその長手方向を中心に回転可能に軸支する回転関節とのいずれかから構成される。つまり、ロボット2はいわゆる多関節型ロボットに相当する。
また、ロボット2は、六つの関節22を備えており、その先端部24を任意の位置に位置決めすることが可能となっている。
【0016】
(ロボット制御装置)
図1に示すように、ロボット制御装置3は、ロボット2の制御に関する演算処理を行う制御装置31と、ロボット2の操作を行う作業者の識別ID(識別情報)を入力する入力手段としての入力装置32と、ロボット2の動作領域内への進入者の識別IDを受信する通信装置33と、を備えている。
制御装置31は、ロボット2の動作制御に関する処理プログラムに従って各処理を実行するCPU34と、各処理を実行するための処理プログラムや処理データ等が記憶されるメモリ35と、を備えている。
メモリ35には、ロボット2を駆動させる処理プログラム等が記憶されるプログラムエリア36と、ロボット2の駆動制御に当たって必要なデータが記憶されたデータエリア37と、種々のワークメモリやカウンタなどが設けられ、各処理が行われる作業エリア38と、が形成されている。
【0017】
プログラムエリア36には、読取器4により検出されたロボット2の動作領域内への進入者の識別IDを、通信装置33を介して取得する機能を実現する取得プログラム36aが記憶されている。
また、プログラムエリア36には、通信装置33を介して取得した進入者の識別IDがデータエリア37に記憶された作業者の識別IDと一致するか否かを判断する機能を実現する判断プログラム36bが記憶されている。
また、プログラムエリア36には、進入者の識別IDを取得した場合にサーボモータ20の駆動を停止又は所定速度以下に減速させる機能を実現する駆動制御プログラム36cが記憶されている。ここで、駆動制御プログラム36cは、判断プログラム36bの実行により、取得した進入者の識別IDがデータエリア37に記憶された作業者の識別ID37aと一致すると判断した場合にサーボモータ20の駆動速度を所定速度以下に減速する機能を実現する減速制御プログラム36fを有している。ここで、所定速度とは、ロボット2の使用により定まる安全速度をいう。
さらに、駆動制御プログラム36cは、判断プログラム36bの実行により、取得した進入者の識別IDがデータエリア37に記憶された作業者の識別ID37aと一致しないと判断した場合にサーボモータ20の駆動を停止させる機能を実現する停止制御プログラム36gを有している。
また、プログラムエリア36には、判断プログラム36bの実行により、取得した進入者の識別IDがデータエリア37に記憶された作業者の識別ID37aと一致しないと判断した場合に、ロボット2の動作領域内に進入者がいる旨を表示部50に表示させる機能を実現する表示制御プログラム36dが記憶されている。」

「【0019】
(読取器)
読取器4は、ロボット2に設けられており、ロボット2の動作領域内に進入した進入者がそれぞれ所持する無線ICタグ6の信号を読み取る読み取り装置である。無線ICタグ6は、ロボット2が設置される工場等の一定の領域内に所在する作業者全てに与えられ、各作業者は手首や腕、衣服のポケット等に無線ICタグ6を所持した状態で作業を行っている。なお、無線ICタグは、作業員毎に異なる識別IDを保有しており、識別IDで作業者を特定することができるようになっている。
【0020】
(ペンダント)
ペンダント5は、作業者がロボット制御装置3から離れた位置でロボット2を操作する場合に用いる遠隔操作用の操作装置であり、ロボット制御装置3にケーブルを介して接続されている。ペンダント5には、各種操作スイッチが設けられ、ロボット制御装置3と同様の操作入力をすることが可能であり、さらに作業者に報知する情報を表示する表示部50が設けられている。
【0021】
図3は、ロボット制御装置3及びロボットシステム1の機能を示すブロック図である。
ロボット制御装置3は、ロボット2の操作を行う作業者の識別ID37aを入力する入力部61を有し、この入力部61が入力手段として機能する。ここで、入力部61は、入力装置32により構成される。
ロボットシステム1は、ロボット2の動作領域内への進入者の識別IDを検出する検出部62を有し、この検出部62が検出手段として機能する。ここで、検出部62は、読取器4により構成される。
ロボット制御装置3は、CPU34が取得プログラム36aを実行することにより、通信装置33を介してロボット2の動作領域内への進入者の識別IDを取得する取得部63を有し、この取得部63が取得手段として機能する。
ロボット制御装置3は、CPU34が判断プログラム36bを実行することにより、通信装置33を介して取得した進入者の識別IDがデータエリア37に記憶された作業者の識別ID37aと一致するか否かを判断する判断部64を有し、この判断部64が判断手段として機能する。
【0022】
ロボット制御装置3は、CPU34が駆動制御プログラム36cを実行することにより、進入者の識別IDを取得した場合にサーボモータ20の駆動を停止又は所定速度以下に減速させる駆動制御部65を有し、この駆動制御部65が駆動制御手段として機能する。ここで、駆動制御部65は、判断部64により進入者の識別IDと作業者の識別ID37aとが一致すると判断された場合に、CPU34が減速制御プログラム36fを実行することにより、サーボモータ20の駆動を所定速度以下に減速させる減速制御部66を有し、この減速制御部66が減速制御手段として機能する。また、駆動制御部65は、判断部64により進入者の識別IDと作業者の識別ID37aとが一致しないと判断された場合に、CPU34が停止制御プログラム36gを実行することにより、サーボモータ20の駆動を停止させる停止制御部67を有し、この停止制御部67が停止制御手段として機能する。
ロボット制御装置3は、CPU34が表示制御プログラム36dを実行することにより、判断部64が、進入者の識別情報が作業者の識別情報37aと一致しないと判断した場合に、ロボット2の動作領域内に作業者以外の進入者がいる旨を表示部50に表示させる表示制御部68を有し、この表示制御部68が表示制御手段として機能する。
【0023】
<ロボット制御装置による処理>
ロボット制御装置3によるロボット2の駆動制御について説明する。
例えば、図4に示すように、ロボット2とロボット7が図のような状態で配置されているとする。図4中、二点鎖線で囲まれた領域は、ロボット2の動作領域aとロボット7の動作領域bであり、互いの動作領域がその一部で重複した状態となっている。ロボット2には読取器4が設けられ、ロボット7には読取器8が設けられている。また、ロボット2の動作領域aの外にはロボット2の駆動を制御するロボット制御装置3が設けられ、このロボット制御装置3には信号ケーブルを介してペンダント5が接続されている。同様に、ロボット7の動作領域bの外にはロボット7の駆動を制御するロボット制御装置11が設けられ、このロボット制御装置11には信号ケーブルを介してペンダント9が接続されている。ここで、ロボット2の動作領域aの中で作業者Aが操作を行い、ロボット7の動作領域bの中で作業者Bが操作を行っているとする。
【0024】
このような状況下において、ロボット2についてみると、図5に示すように、最初に、作業者Aは入力装置32から自己の識別IDを入力する(ステップS1)。識別IDが入力されると、CPU34は入力された作業者の識別ID37aをデータエリア37に記憶する(ステップS2)。
また、読取器4は無線ICタグ6からの電波を受信し、受信した電波に基づき、動作領域a内にいる作業者Aの識別IDを検出する。CPU34は、読取器4が動作領域a内への進入者の識別IDを検出したか否かを判断し(ステップS3)、CPU34が進入者の識別IDを検出したと判断した場合(ステップS3:YES)、CPU34は、取得プログラム36aを作業エリア38に展開して実行することにより、読取器4が検出した進入者の識別IDを取得する(ステップS4)。
【0025】
次いで、CPU34は、判断プログラム36bを作業エリア38に展開して実行することにより、データエリア37に記憶された作業者Aの識別ID37aと取得した進入者の識別IDとが一致するか否かを比較して判断する(ステップS5)。ここで、CPU34が、作業者Aの識別ID37aと進入者の識別IDとが一致すると判断した場合(ステップS5:YES)、CPU34は、減速制御プログラム36fを作業エリア38に展開して実行することにより、ロボット2の駆動源であるサーボモータ20の駆動速度を所定速度以下に減速させ(ステップS6)、本処理を終了させる。
【0026】
一方、ロボット2の動作領域a内にロボット7の作業者Bが進入した場合(図4参照)のように、CPU34が、作業者Aの識別ID37aと進入者の識別IDとが一致しないと判断した場合(ステップS5:NO)、CPU34は、停止制御プログラム36gを作業エリア38に展開して実行することにより、ロボット2の駆動源であるサーボモータ20の駆動を停止させ(ステップS7)、続いて、表示制御プログラム36dを作業エリア38に展開して実行することにより、作業者Aが携帯するペンダント5の表示部50に作業者A以外の進入者(図4においては作業者B)がいる旨を表示させ(ステップS8)、本処理を終了させる。」


(2)技術的事項
上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

段落【0024】の記載から、「読取器4」は、「進入者」の「識別ID」を検出するものであり、上記「識別ID」は、「進入者」が「作業者A」であるか否かを識別するための情報であるといえる。
そして、段落【0023】の記載から、上記「作業者A」は、「ロボット2」の「動作領域a」の中で「ペンダント5」による「操作」を行う者であるといえる。
これらの記載から、「読取器4」は、「ロボット2」の「動作領域a」への「進入者」が「ペンダント5」による「操作」を行っている「作業者A」であるか否かを識別する「識別ID」を検出するものといえる。


(3)上記(1)の記載(特に下線部の記載)及び(2)の技術的事項より、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「作業者Aが携帯可能で入力によりロボット2の操作を行うことができる携帯型操作表示器としてのペンダント5と、
メモリ35に記憶された処理プログラムに従っての駆動と、ペンダント5に入力された作業者Aの操作による駆動とを含む、複数のアーム23を備えるロボット2と、
前記処理プログラム又は作業者Aの操作に基づいて前記ロボット2を動作させるロボット制御装置3と、
前記ロボット2の動作領域aへの進入者が前記ペンダント5による操作を行っている前記作業者Aであるか否かを識別する識別IDを検出する読取器4と、
前記読取器4から取得した識別IDに基づいて、前記ロボット2の動作を停止又は減速させる駆動制御部65とを備え、
前記駆動制御部65は、
前記ロボット2が作業者Aの操作に基づいて動作しているときに進入者の識別IDが検出されると(ステップS3:YES)、前記進入者が前記作業者A以外であれば前記ロボット2の駆動を停止させるようにCPU34に停止制御プログラム36gを実行させる処理を行い(ステップS5:NO、ステップS7)、
前記進入者が前記作業者Aであれば前記ロボット2の駆動を所定速度以下に減速させるようにCPU34に減速制御プログラム36fを実行させる処理を行う(ステップS5:YES、ステップS6)、
ロボットシステム1(遠隔操作ロボットシステム)。」


2 引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0037】
まず、制御装置20は、運転モード切替スイッチ25によってどの運転モードに設定されているのかを判断する(S1)。この運転モードが自動モードであれば、干渉領域侵入検出センサ35からの信号を監視し、作業者が干渉領域内に侵入していることを検出するとすぐに自動機械10の動作を停止する(S2〜S4)。一方、運転モードが協調モードであれば、干渉領域侵入検出センサ35の信号は受け付けない処理、つまり、干渉領域30の解除を行い、作業者が干渉領域内を自由に出入りできるような状態にして、作業者と生産機械10との協調作業を可能とする(S5,S6)。」

(2)上記引用文献2の記載(特に下線部の記載)より、引用文献2には次の技術的事項が記載されていると認められる。

「自動モードのときに、自動機械の干渉領域内に侵入者が検出されると、自動機械の動作を停止すること」


3 引用文献6について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0010】
図2は本発明によるロボット教示操作盤の使用状態の概略図である。この図において、ロボット教示操作盤10は、操作パネルに配置された教示操作などを行うのに必要な操作スイッチ30と、グラフィック表示が可能なグラフィック表示装置40と、このグラフィック表示装置40の表示画面上に装着されたタッチパネル40aとを有している。ロボット教示操作盤10は、安全柵80の外側に設置されたオペレーションボックス50を介してロボット機構部70に隣接して設置されたロボット制御装置60に接続されている。オペレーションボックス50はロボット制御装置60の操作部分、たとえば電源スイッチ、非常停止スイッチなどを切り離して安全柵80の外側で操作できるようにした遠隔操作部分である。操作者は、ロボット教示操作盤10を携帯し、柵越しにロボット機構部70のアームの動きを見ながら、タッチパネル40aおよび操作スイッチ30を操作してロボットの教示操作を行ったり、ロボットを手動操作したりすることができる。」

(2)上記引用文献6の記載(特に下線部の記載)より、引用文献6には次の技術的事項が記載されていると認められる。

「操作者が携帯するロボット教示操作盤により、ロボットの教示操作及びロボットの手動操作のいずれの操作も可能であること」


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1における「作業者A」は、本願発明1における「オペレータ」に相当し、以下同様に、「携帯可能で入力によりロボット2の操作を行うことができる携帯型操作表示器としてのペンダント5」は「操作を受け付けるマスタ装置」に、「ロボット2」は「スレーブアーム」に、「前記ロボット2を動作させるロボット制御装置3」は「前記スレーブアームを動作させる制御装置」に、「ロボット2の動作領域aへの進入者」は「スレーブアームの動作領域への侵入者」に、「前記ペンダント5による操作を行っている前記作業者Aであるか否かを識別する識別ID」は「前記マスタ装置を携帯した前記オペレータであるか否かを識別する侵入者識別情報」に、「識別IDを検出する読取器4」は「侵入者識別情報を取得する侵入者識別情報取得装置」に、「ロボット2の動作を停止又は減速させる駆動制御部65」は「スレーブアームの動作を抑制する動作抑制装置」に、「ロボットの駆動を停止させるようにCPU34に停止制御プログラム36gを実行させる処理」は「スレーブアームの動作を減速又は停止させるように前記制御装置へ指令を出力する第2の処理」に、「ロボットシステム1」は「遠隔操作ロボットシステム」に、それぞれ相当する。

イ 引用発明1において、「ロボット2」が「ペンダント5に入力された作業者の操作」により「駆動」することは、本願発明1における「スレーブアーム」が「マスタ装置が受け付けたオペレータの操作に基づいて動作する手動モード」を有することに相当し、同様に、「前記ロボット2が作業者Aの操作に基づいて動作しているときに進入者の識別IDが検出されると(ステップS3:YES)、前記進入者が前記作業者A以外であれば」という条件は、「前記スレーブアームが前記手動モードのときに侵入者が検出されると、前記侵入者が前記オペレータ以外であれば」という条件に相当する。

ウ したがって、本願発明1と引用発明1は以下の一致点及び相違点1−3を有する。

<一致点>
「オペレータの操作を受け付けるマスタ装置と、
前記マスタ装置が受け付けたオペレータの操作に基づいて動作する手動モードの制御モードを有するスレーブアームと、
前記スレーブアームを動作させる制御装置と、
前記スレーブアームの動作領域への侵入者が前記マスタ装置を携帯した前記オペレータであるか否かを識別する侵入者識別情報を取得する侵入者識別情報取得装置と、
前記侵入者識別情報取得装置から取得した情報に基づいて、前記スレーブアームの動作を抑制する動作抑制装置とを備え、
前記動作抑制装置は、
前記スレーブアームが前記手動モードのときに侵入者が検出されると、前記侵入者が前記オペレータ以外であれば前記スレーブアームの動作を減速又は停止させるように前記制御装置へ指令を出力する第2の処理を行う、
遠隔操作ロボットシステム。」

<相違点1>
本願発明1は、「前記スレーブアームの動作領域への侵入者を検出する侵入者検出装置」を備え、「前記侵入者検出装置及び前記侵入者識別情報取得装置から取得した情報に基づいて、前記スレーブアームの動作を抑制する動作抑制装置」を備えているのに対し、
引用発明1は、上記「侵入者検出装置」を備える点について特定されておらず、また、「動作抑制装置」が、「侵入者検出装置」から取得した情報に基づいてスレーブアームの動作を抑制する点についても特定されていない点。

<相違点2>
本願発明1は、制御装置が「予め記憶されたタスクプログラムに基づいて動作する自動モード」を含む「複数の制御モードのなかから選択された一つ」で「スレーブアームを動作」させ、「前記スレーブアームが前記自動モードのときに侵入者が検出されると前記スレーブアームの動作を減速又は停止させるように前記制御装置へ指令を出力する第1の処理」を行うのに対して、
引用発明1はそのような特定がされていない点。

<相違点3>
本願発明1は、「前記侵入者が前記オペレータであれば前記第2の処理は行わずに前記スレーブアームの動作を前記マスタ装置が受け付けた操作の通りに継続させる」のに対して、
引用発明1は、「前記進入者が前記作業者であれば前記ロボット2の駆動を所定速度以下に減速させるようにCPU34に減速制御プログラム36fを実行させる処理を行う」という点。


(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、相違点3から検討する。

引用文献1には、進入者が作業者である場合(ステップS5:YES)には、進入者が作業者以外である場合(ステップS5:NO)の処理(ロボットの駆動を停止させるようにCPUに停止制御プログラム36gを実行させるステップS7の処理)は行わない点については記載されているといえ、また、上記進入者が作業者である場合について、ロボットの駆動を所定速度以下に減速させるようにCPUに減速制御プログラム36fを実行させる処理(ステップS6)を行う点については記載されているといえる。
しかしながら、進入者が作業者である場合について、ロボットの駆動を、ペンダントに入力された作業者の操作の通りに継続させる点(すなわち、相違点3に係る構成)については記載されていないものである。
そして、審判請求人が、審判請求書の第8ページ下から第3行−第9ページ第10行において主張するように、本願発明の国際出願時(優先日)において、「ロボットアームの動作領域内に侵入者があればロボットアームの動作を抑制する」ことは技術的常識であるとは認められるものの、当該技術的常識に反するように、敢えて「前記侵入者が前記オペレータであれば前記第2の処理は行わずに前記スレーブアームの動作を前記マスタ装置が受け付けた操作の通りに継続させる」という構成に変更するには、何らかの示唆に基づく動機付けが必要であるところ、引用文献1にはそのような示唆又は動機付けについては記載されていないものである。

また、上記引用文献2及び引用文献6においても、上記相違点3に係る構成について記載されておらず、引用発明1を上記相違点3に係る構成に変更するための示唆又は動機付けについても記載されていないものである。
さらにいえば、引用文献3−5においても、上記相違点3に係る構成について記載されておらず、引用発明1を上記相違点3に係る構成に変更するための示唆又は動機付けについても記載されていないものである。

したがって、引用発明1に引用文献2及び引用文献6に記載された技術的事項を適用して、本願発明1の相違点3に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、相違点1及び相違点2について検討を図るまでもなく、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1−2、6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


2 本願発明2について
本願発明1を直接的に引用する本願発明2も、上記相違点3に係る構成を備えるものである。
したがって、本願発明2は、本願発明1と同じ理由により、引用文献1−6に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。


3 本願発明3−4について
本願発明1を直接又は間接的に引用する本願発明3−4も、上記相違点3に係る構成を備えるものである。
したがって、本願発明3−4は、本願発明1と同じ理由により、引用文献1−6に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-01-06 
出願番号 P2017-536165
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B25J)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 田々井 正吾
貞光 大樹
発明の名称 産業用遠隔操作ロボットシステム  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  

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