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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B22D
管理番号 1386961
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-03 
確定日 2022-01-11 
事件の表示 特願2019−512578「金属鋳塊の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月18日国際公開、WO2018/190419、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)4月13日(優先権主張 平成29年4月13日、4件)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。

令和2年11月25日付け:拒絶理由通知
令和3年 1月15日 :意見書及び手続補正書の提出
令和3年 3月 4日付け:拒絶査定
令和3年 6月 3日 :審判請求及びそれと同時に手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定(令和3年3月4日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1−3,7−9に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。同様に、請求項7−9に係る発明は以下の引用文献1−2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、本願請求項4−5に係る発明については、原査定の拒絶の対象とはなっていない。

引用文献等一覧
1.特開2004−276039号公報
2.特開2013−1975号公報


第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正(以下、「請求時補正」という。)は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
請求時補正によって、請求項1に対して、請求時補正前の請求項7の「その両端が前記供給ラインの両端よりも前記供給ラインの延長方向の外側に位置する」という発明特定事項を追加して、「第1の照射ライン」に関する内容を減縮し(これに伴い請求時補正前の請求項7を削除)、請求時補正前の請求項4を他の請求項を引用しない形式として請求項5とするとともに、引用関係を整理する補正をしたことは、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮、及び同1号に掲げる請求項の削除を目的としたものである。
また、上記請求項1に追加した「その両端が前記供給ラインの両端よりも前記供給ラインの延長方向の外側に位置する」という発明特定事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)における発明の詳細な説明の段落【0075】、当初明細書等における特許請求の範囲の請求項5の記載からみて、新規事項の追加には該当しない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1−9に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。


第4 本願発明
本願請求項1−9に係る発明(以下、それぞれ請求項の番号に対応して、「本願発明1」−「本願発明9」という。)は、上記請求時補正で補正された特許請求の範囲の請求項1−9に記載された事項により特定される発明であるところ、このうち、本願発明1及び本願発明5は、以下のとおりである。(下線は、請求時補正による補正箇所である。)

【請求項1】
「電子ビームの照射位置を制御可能である電子銃と、金属原料の溶湯を貯留するハースとを備えた電子ビーム溶解炉を用いて、チタン、タンタル、ニオブ、バナジウム、モリブデン及びジルコニウムからなる群から選択された少なくとも1つ以上の金属元素を合計で50質量%以上含む金属鋳塊を製造する、金属鋳塊の製造方法であって、
前記金属原料の溶湯を貯留するハースの複数の側壁のうち、第1の側壁は、前記ハース内の前記溶湯をモールドへ流出させるためのリップ部が設けられる側壁であり、第2の側壁は、前記第1の側壁以外の少なくとも1つの側壁であり、前記溶湯の表面において前記第2の側壁の内側面に沿って配置された供給ラインの位置に、前記金属原料を供給し、
前記溶湯の表面において前記供給ラインに沿って配置され、かつ、前記供給ラインよりも前記ハースの中央部側に配置され、その両端が前記供給ラインの両端よりも前記供給ラインの延長方向の外側に位置する第1の照射ラインに対して、第1の電子ビームを照射し、
前記第1の照射ラインに対して前記第1の電子ビームを照射することによって、前記第1の照射ラインにおける前記溶湯の表面温度(T2)を、前記ハース内の前記溶湯の表面全体の平均表面温度(T0)よりも高くして、前記溶湯の表層において前記第1の照射ラインから前記供給ラインに向かう第1の溶湯流を形成する、金属鋳塊の製造方法。」

【請求項5】
「電子ビームの照射位置を制御可能である電子銃と、金属原料の溶湯を貯留するハースとを備えた電子ビーム溶解炉を用いて、チタン、タンタル、ニオブ、バナジウム、モリブデン及びジルコニウムからなる群から選択された少なくとも1つ以上の金属元素を合計で50質量%以上含む金属鋳塊を製造する、金属鋳塊の製造方法であって、
前記金属原料の溶湯を貯留するハースの複数の側壁のうち、第1の側壁は、前記ハース内の前記溶湯をモールドへ流出させるためのリップ部が設けられる側壁であり、第2の側壁は、前記第1の側壁以外の少なくとも1つの側壁であり、
前記溶湯の表面において前記第2の側壁の内側面に沿って配置された供給ラインの位置に、前記金属原料を供給し、
前記溶湯の表面において前記供給ラインに沿って配置され、かつ、前記供給ラインよりも前記ハースの中央部側に配置された第1の照射ラインに対して、第1の電子ビームを照射し、
前記第1の照射ラインに対して前記第1の電子ビームを照射することによって、前記第1の照射ラインにおける前記溶湯の表面温度(T2)を、前記ハース内の前記溶湯の表面全体の平均表面温度(T0)よりも高くして、前記溶湯の表層において前記第1の照射ラインから前記供給ラインに向かう第1の溶湯流を形成し、
下記式(A)で表される温度勾配ΔT/Lが、−2.70[K/mm]以上かつ0.00[K/mm]未満であり、
前記供給ラインと前記第1の照射ラインとの間の帯状領域において、前記リップ部へ向かう第2の溶湯流を形成し、
前記第2の溶湯流に対して第2の電子ビームをスポット照射する、金属鋳塊の製造方法。
ΔT/L=(T2−T1)/L ・・・(A)
T1:前記供給ラインにおける前記溶湯の表面温度[K]
T2:前記第1の照射ラインにおける前記溶湯の表面温度[K]
L:前記溶湯の表面における前記第1の照射ラインと前記供給ラインとの距離[mm]」

本願発明2−4は、請求項1を直接的又は間接的に引用する発明であって、本願発明1の発明特定事項の全てを含むものである。
また、本願発明6−9は、請求項1又は請求項5を直接的又は間接的に引用する発明であって、本願発明1又は本願発明5の発明特定事項の全てを含むものである。


第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について

(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに、以下の記載事項がある。(なお、下線は当審にて付与した。)

ア 「【0017】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。ここでは、高融点金属が、金属チタンである場合について詳述する。なお、高融点金属がジルコニウムやニオブ等の場合にも以下の実施形態を適用することができる。図1は、本発明に係る電子ビーム溶解装置の主要部を示す断面図である。この電子ビーム溶解装置は、ハース10とハース10の下側部に位置する鋳型20とから構成されている。ハース10には、同図に示す形状のハーススカル11が予め装着されている。なお、同図に示すところにおいては、ハーススカル11には2つの凹部(第1の凹部11aおよび第2の凹部11b)が形成されている。また、鋳型20内には、ベース21にスターティングブロック22が予め装着されている。このような装置構成の下、電子銃30および電子銃31からハース10および鋳型20内のスターティングブロック22に電子ビームの照射を開始し、ハース10内にはハースプール12が形成され、また、鋳型20内にはモールドプール23が形成される。このような電子ビーム照射においては、上記したハース10は水冷銅で構成されているため、ハース10に照射される電子ビームのエネルギーとハース10から抜熱されるエネルギーとのバランスを調整して、ハーススカル11を所定の厚みとする。」

イ 「【0018】
次に、原料40のハース10への投入から鋳型20への到達する場合の、HDIの捕捉態様について述べる。ハースプール12およびモールドプール23の温度が安定した段階で、ハース10内に原料40の供給を開始する。本実施形態で用いる原料としては、切粉やチップ等のリサイクル材のみならず、スポンジチタン等の純度の高い原料を使用することもできる。・・・」

ウ 「【0020】
このようなHDIの移動挙動等に鑑みれば、第1の凹部11aは、図1に示すように、原料投入部の直下あるいはやや下流の側に設けておくことが好ましい。このように配置することで、原料中に混入したHDIを第1の凹部11aに効果的に捕捉することができる。また、第1の凹部11aで大半のHDIを捕捉することができるが、当該凹部11aで捕捉されなかったHDIはハーススカル11の表面近傍を浮遊しつつ鋳型20の方向に流れて、第2の凹部11bに達して捕捉される。なお、第2の凹部11bは、インゴットの純度を高めるために、できるだけ鋳型排出口近傍に配置することが好ましい。このように配置することでHDIの捕捉をより確実なものとすることができる。」

エ 「【0022】
以上に示した第1の凹部11aおよび第2の凹部11bは、種々の方法で形成・維持することができる。以下に、その一例として、ハースプール12に照射する電子ビームの密度を調整する場合を示す。本溶解に先立って、図1に示すような形状のハーススカル11を準備し、これをハース10の底部に装着する。ハースプール12は、その上方に配置した電子銃30から照射された電子ビームを受けて溶融状態が維持される。電子ビームは、通常、ハースプール12の全域に亘り均一に照射される。」

オ 「【0023】
かかる状況の下、第1の凹部11aと第2の凹部11bとに対応した溶湯の表面領域では、他の表面領域に比して電子ビームの照射密度を高め、これにより、他の領域に比してより深い位置まで溶湯が存在するようにし、結果的にハーススカル11に凹部11a、11bが形成・維持される。図2は、上記凹部11a,11bの維持態様の一例を示す平面図である。電子銃(同図では図示せず)から照射された電子ビームは、ハースプール12の表面上を同図に示す矢印の方向に照射され、これにより第1の凹部11aと第2の凹部11bとに対応した部位のエネルギー密度が高められる。」

カ 「【0028】
・・・尚、電子ビームは、図2に示すように右片上がりに、下流から上流方向にスキャンしているが、その逆の左片上がりに下流から上流方向にスキャンしてもよい。このようにスキャンすることでガードゾーン近傍の密度を高めつつ、ハースプール上に浮遊しているLDIを上流方向に効果的に押し戻すことができる。また、図示してはいないが、右片上がりではなく、ジグザグに電子ビームをスキャンしても良い。これらのビームパターンは、原料等の種類に応じて適宜選択すればよい。さらに、ガードゾーンは、電子ビームの照射密度が高まっていればよいので、ジグザグ、環状、直線状等の種々のパターンを採用することができる。」

キ 「【0029】
なお、上記したように凹部11a,11bの深さは電子ビームのエネルギー密度を調整することによって制御することができるが、現実の操業ではエネルギー密度よりも温度の方が管理し易い。本実施形態では、温度指標としてハースプール12の溶湯平均温度に対する凹部11a,11bに対応する部分の溶湯の過熱温度を基準に考える。ここで過熱温度とは、ハースプール12の平均温度からどれだけ高い温度にあるかを示すものである。よって、過熱度が大きいということは、ハースプール12の温度が高いことを意味する。」

ク 「【0030】
この過熱度を用いると、上記したような凹部11a,11bの深さを維持するには、凹部11a,11bに対応したハースプール12の過熱度を50℃〜150℃の範囲に設定することが好ましい。過熱度が50℃未満では、凹部11a,11bの深さが小さいものとなり、本発明の効果を十分に発揮することができない。一方、加熱度が150℃を超えると、凹部11a,11bに対応したハースプール12からのチタンの蒸発ロスが大きくなり経済的でなく、また過熱度が150℃を超える温度にハースプール12を過熱しても、形成・維持される凹部11a,11bの深さに及ぼす影響は小さくなるためである。」

ケ 「【0031】
また、ハースプール12の表面を下流側から上流側に向けて電子ビームを走査させることで、LDIの大部分は上流側に押し戻すことができるが、LDIの性状によっては鋳型方向に逸流するものもある。そこで、ハーススカル11の表面に凹部11a,11bを形成するにあたり、ハースプール12を上記した好適範囲に過熱した場合には、ハースプール12の上流から逸流してきたLDIを溶解消滅させることができ、LDIのインゴットへの混入防止を一層実効あるものとすることができる。」

コ 図1

サ 図2


(2)上記(1)の記載から、以下の事項が認定できる。

ア 上記(1)ア及びイの記載事項、及び引用文献1記載のものが不純物を除去したインゴットを得ることを課題とすることからみて、電子ビーム溶解装置によりチタンの金属元素を50質量%以上含むインゴットを製造していることは自明である。

イ 上記(1)カの記載事項からみて、電子銃30により電子ビームの照射位置が制御可能であるといえる。

ウ 上記(1)ウ、オ、コ及びサからみて、ハース10は平面視で略矩形状の形状をしており、複数の側壁を有することが理解され、当該複数の側壁のうち、第1の側壁は、ハース10内の溶湯を鋳型20へ流出させるためのリップ部が設けられる側壁であり、前記第1の側壁に対向する第2の側壁は、第1の側壁以外の少なくとも1つの側壁といえるところ、前記溶湯の表面において前記第2の側壁の内側面の近傍に配置された供給箇所の位置に、原料40を供給しているといえる。また、原料40が供給される原料投入部の直下あるいは下流側には、電子ビームの照射密度を高くして凹部11aを形成し、溶湯の表面において第2の側壁の内側面よりも第1の側壁側に原料40を供給していることから、電子ビームの照射ラインが溶湯の表面において供給箇所の近傍に配置され、かつ、供給箇所よりもハース10の中央部側に配置されているといえる。

エ 上記(1)キ及びクの記載事項からみて、電子ビームの照射ラインに対して電子ビームを照射することによって、照射ラインにおける溶湯の表面温度を、ハース10内の溶湯の表面全体の平均表面温度よりも高くしているといえる。

したがって、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「電子ビームの照射位置を制御可能である電子銃30と、スポンジチタン等の純度の高い原料40の溶湯を貯留するハース10とを備えた電子ビーム溶解装置を用いて、チタンの金属元素を50質量%以上含むインゴットを製造する、インゴットの製造方法であって、
前記原料40の溶湯を貯留するハース10の複数の側壁のうち、第1の側壁は、前記ハース10内の前記溶湯を鋳型20へ流出させるためのリップ部が設けられる側壁であり、第2の側壁は、前記第1の側壁以外の少なくとも1つの側壁であり、前記溶湯の表面において前記第2の側壁の内側面の近傍に配置された供給箇所の位置に、前記原料40を供給し、
前記溶湯の表面において前記供給箇所の近傍に配置され、かつ、前記供給箇所よりも前記ハース10の中央部側に配置されている電子ビームの照射ラインに対して、電子ビームを照射し、
前記照射ラインに対して前記第1の電子ビームを照射することによって、前記照射ラインにおける前記溶湯の表面温度を、前記ハース10内の前記溶湯の表面全体の平均表面温度よりも高くしている、インゴットの製造方法。」

2 その他の文献について
引用文献2には、【0072】−【0076】の記載事項からみて、塊状の溶解原料Sの端面が溶解されると、溶融状態の金属がハース内に保持された溶湯12面に落下することが、記載されている。


第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明における「電子銃30」、「スポンジチタン等の純度の高い原料40」、「ハース10」及び「電子ビーム溶解装置」は、それぞれ、本願発明1における「電子銃」、「金属原料」、「ハース」及び「電子ビーム溶解炉」に相当する。

イ 引用発明における「インゴット」は、本願発明1における「金属鋳塊」に相当し、「チタンの金属元素を50質量%以上含む」金属鋳塊は、「チタン、タンタル、ニオブ、バナジウム、モリブデン及びジルコニウムからなる群から選択された少なくとも1つ以上の金属元素を合計で50質量%以上含む」金属鋳塊に含まれることから、引用発明における「チタンの金属元素を50質量%以上含むインゴット」は、本願発明1における「チタン、タンタル、ニオブ、バナジウム、モリブデン及びジルコニウムからなる群から選択された少なくとも1つ以上の金属元素を合計で50質量%以上含む金属鋳塊」に相当する。

ウ 引用発明における「第2の側壁の内側面の近傍に配置された」点と、本願発明1における「第2の側壁の内側面に沿って配置された」点は、「第2の側壁の内側面の近傍に配置された」点という限りにおいて共通している。

エ 引用発明における「供給箇所」と、本願発明1における「供給ライン」は、金属原料が供給される「供給箇所」である点という限りにおいて共通している。

オ 引用発明における「供給箇所の近傍に配置され」ている点と、本願発明1の「供給ラインに沿って配置され」ている点は、「供給箇所の近傍に配置され」ている点という限りにおいて共通している。

カ 引用発明における「照射ライン」及び「電子ビーム」は、それぞれ、本願発明1における「第1の照射ライン」及び「第1の電子ビーム」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「電子ビームの照射位置を制御可能である電子銃と、金属原料の溶湯を貯留するハースとを備えた電子ビーム溶解炉を用いて、チタン、タンタル、ニオブ、バナジウム、モリブデン及びジルコニウムからなる群から選択された少なくとも1つ以上の金属元素を合計で50質量%以上含む金属鋳塊を製造する、金属鋳塊の製造方法であって、
前記金属原料の溶湯を貯留するハースの複数の側壁のうち、第1の側壁は、前記ハース内の前記溶湯をモールドへ流出させるためのリップ部が設けられる側壁であり、第2の側壁は、前記第1の側壁以外の少なくとも1つの側壁であり、前記溶湯の表面において前記第2の側壁の内側面の近傍に配置された供給箇所の位置に、前記金属原料を供給し、
前記溶湯の表面において前記供給箇所の近傍に配置され、かつ、前記供給箇所よりも前記ハースの中央部側に配置された第1の照射ラインに対して、第1の電子ビームを照射し、
前記第1の照射ラインに対して前記第1の電子ビームを照射することによって、前記第1の照射ラインにおける前記溶湯の表面温度を、前記ハース内の前記溶湯の表面全体の平均表面温度よりも高くする、金属鋳塊の製造方法。」

<相違点>
本願発明1は、供給箇所が「溶湯の表面において第2の側壁の内側面に沿って配置された供給ライン」であり、第1の照射ラインが「溶湯の表面において供給ラインに沿って配置され、かつ、供給ラインよりもハースの中央部側に配置され、その両端が供給ラインの両端よりも供給ラインの延長方向の外側に位置する」ものであり、「第1の照射ラインに対して第1の電子ビームを照射することによって、第1の照射ラインにおける溶湯の表面温度を、ハース内の溶湯の表面全体の平均表面温度よりも高くして、溶湯の表層において第1の照射ラインから供給ラインに向かう第1の溶湯流を形成する」のに対し、引用発明は、供給箇所が溶湯の表面において第2の側壁の内側面の近傍に配置された供給箇所であり、第1の照射ラインが溶湯の表面において供給箇所の近傍に配置されたものであり、第1の照射ラインに対して第1の電子ビームを照射することによって、第1の照射ラインにおける溶湯の表面温度を、ハース内の溶湯の表面全体の平均表面温度よりも高くする点。

(2) 相違点についての判断
ア 相違点について検討する。
引用文献1には、金属原料(原料40)を供給する供給箇所である原料投入部についてどのような態様であるか具体的な記載はなく、「溶湯の表面において第2の側壁の内側面に沿って配置された供給ライン」の態様であるかが不明であるし、そのような態様とすることについての示唆はない。
また、引用文献1の上記第5の1(1)カに、「これらのビームパターンは、原料等の種類に応じて適宜選択すればよい。ガードゾーンは、電子ビームの照射密度が高まっていればよいので、ジグザグ、環状、直線状等の種々のパターンを採用することができる。」という技術的事項が記載されているものの、上述したように、「溶湯の表面において第2の側壁の内側面に沿って配置された供給ライン」の構成をとることについて記載も示唆もされておらず、そもそも供給ラインがどのような態様であるかが不明であることに加え、第1の照射ラインが供給ラインに沿ったものであるかについても不明であるから、引用文献1は、「溶湯の表面において供給ラインに沿って配置され、かつ、供給ラインよりもハースの中央部側に配置され、その両端が供給ラインの両端よりも供給ラインの延長方向の外側に位置する第1の照射ライン」とすること、「第1の照射ラインに対して第1の電子ビームを照射することによって、第1の照射ラインにおける溶湯の表面温度を、ハース内の溶湯の表面全体の平均表面温度よりも高くして、溶湯の表層において第1の照射ラインから供給ラインに向かう第1の溶湯流を形成する」ように構成することを開示するものではないし、引用発明をそのような構成に改変する動機も存在しない。
また、他の引用文献についてみても、その記載内容は、上記第5の「2 その他の文献について」のとおりであり、上記相違点に係る構成を示すものではない。

イ 小括
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2−4について
本願発明2−4は、本願発明1の構成全てを引用した発明であって、本願発明1の相違点に係る構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明5について
本願発明5は、請求時補正前の請求項4に対応する請求項であり、拒絶査定の対象ではない。また、他に拒絶すべき理由を発見しない。

4 請求項6−9について、
本願発明6−9は、本願発明1、又は、本願発明5の構成全てを引用した発明であって、本願発明1の相違点に係る構成と同一の構成、又は、本願発明5に係る構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1、又は、本願発明5と同様の理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


第7 原査定について
上記第3の請求時補正により、本願発明1−9は、上記第4の内容のとおり補正されており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献に記載された発明に基いて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-12-21 
出願番号 P2019-512578
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B22D)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 久保田 信也
田々井 正吾
発明の名称 金属鋳塊の製造方法  
代理人 特許業務法人ブライタス  

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